以下、図面を適宜参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法は、原料油を熱分解するとともに、得られた熱分解物を精製してエチレンを得る分解精製工程と、エチレンをエチレン重合触媒の存在下でオリゴマー化してエチレンオリゴマーを含む重合混合物を得る重合工程と、重合混合物を蒸留により潤滑油留分及び潤滑油留分以外の留分にそれぞれ分留する第一の蒸留工程と、潤滑油留分を水素化異性化触媒の存在下で水素化異性化して異性化油を含む反応混合物を得る異性化工程と、反応混合物を蒸留により潤滑油基油及び潤滑油基油以外の留分にそれぞれ分留する蒸留工程と、を備える。また、かかる製造方法では、上記第一の蒸留工程で得られた潤滑油留分以外の留分及び/又は第二の蒸留工程で得られた潤滑油基油以外の留分を、原料油の一部として上記分解精製工程に供給する。
本実施形態に係る製造方法によれば、目的とする潤滑油基油を効率的に製造することが可能となる。このような効果が得られる要因は、未反応のエチレンを再度分解精製工程に戻すことで、再び重合工程の原料として用いることができるのはもちろんであるが、その他の要因として、エチレン重合触媒の触媒効率の低下を抑制することが可能となることが考えられる。その理由を本発明者等は以下のように考えている。
まず、エチレン重合触媒の触媒効率の低下は、未反応のエチレンを再度重合反応系に供給する際に、エチレン以外のオレフィン等の副生成物(不純物)も重合反応系に供給されることによるものと考えられる。これに対し、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法では、第一の蒸留工程で得られた潤滑油留分以外の留分及び/又は第二の蒸留工程で得られた潤滑油基油以外の留分を、原料油の一部として分解精製工程に戻し、分解精製工程により得られた高純度のエチレンを、重合工程においてエチレン重合触媒と接触させることで、エチレン重合触媒の触媒活性を阻害するような不純物の混入が抑えられ、結果としてエチレン重合触媒の触媒効率の低下を抑えることができたものと考えられる。
また、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法では、第一の蒸留工程で得られた潤滑油留分以外の留分及び/又は第二の蒸留工程で得られた潤滑油基油以外の留分を、原料油の一部として分解精製工程に戻し、再度分解精製工程に供することで、エチレンを再生できるほか、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の基礎化学品類を併産することも可能である。
さらに、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法においては、上記留分を原料油の一部として分解精製工程に戻すことにより再生した高純度エチレンを原料として用いるため、従来のスラックワックスや常圧残油水素化分解油等の原料油を水素化分解・水素化異性化工程に供する潤滑油基油製造方法と比較して、全工程での潤滑油基油の収率を向上させることが可能であることに加え、得られる潤滑油基油のトラクション係数を抑えることも可能である。このような効果が得られる理由は、本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法によって得られる潤滑油基油の炭素数分布の特異性にあると本発明者等は推察する。
すなわち、まず、従来のワックス異性化油の場合、FT合成により得られるワックス等の原料ワックスは、通常、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物(炭素数2nの炭化水素化合物;nは1以上の整数を示す。以下同様である。)と奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物(炭素数2n+1の炭化水素化合物)との混合物であり、両者の比率はほぼ同じである。これに対し、本実施形態に係る製造方法で得られたエチレンオリゴマーは、異性化に伴う熱分解(例えば炭素数2nのパラフィンの異性化に伴う炭素数2n-1のパラフィンの生成)が起こり得るものの、その大部分が偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物(炭素数2nの炭化水素化合物)であり、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の割合が大きいという特異な炭素数分布を示す。
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法によって得られるエチレンオリゴマーがこのような特異的な炭素数分布を示すことで、得られる潤滑油基油のトラクション係数を抑えることができたものと本発明者等は考えている。
以下、各工程について詳細に説明する。
(分解精製工程)
分解精製工程では、原料油を熱分解するとともに、得られた熱分解物を精製してエチレンを得る。具体的には、ナフサクラッカー等の熱分解精製装置に原料油を導入する方法が挙げられる。熱分解に供される原料油は、後述する、第一の蒸留工程で得られる潤滑油留分以外の留分及び/又は第二の蒸留工程で得られる潤滑油基油以外の留分を少なくとも含む。これらの留分については、後述の第一の蒸留工程及び第二の蒸留工程において詳細に説明する。
分解精製工程においては、原料油を熱分解した後、得られた熱分解物(分解油)を精製工程に供することで更に高純度のエチレンを得てもよいが、熱分解精製装置として既存のナフサクラッカー等を用いる場合、当該ナフサクラッカーの精製工程をそのまま使用することができる。精製工程を含むことで、更なる高純度のエチレンを得るだけでなく、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の基礎化学品を高純度で得ることが可能である。精製工程を経ることによって得られるエチレンの純度は、例えば、99.0%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.9%以上が更に好ましい。
原料油に含まれる第一の蒸留工程で得られる潤滑油留分以外の留分及び/又は第二の蒸留工程で得られる潤滑油基油以外の留分の含有量には、特に制限はなく、例えば好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。原料油に含まれる留分の含有量の上限についても特に制限はなく、例えば通常100質量%未満、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。なお、熱分解精製装置の安定稼働の観点から、留分の含有量を一定に保った原料油を使用することが好ましい。
上記留分以外に原料油に含まれるものとしては、通常熱分解に供される原料油(ナフサ)を特に制限なく利用することができる。またナフサに加えて、エタン、LPG、灯油、軽油等を使用することも可能である。
原料油を熱分解してエチレンを含む分解油を得る方法は、熱分解に供される原料油の組成及び目的とする潤滑油基油の性能に応じて適宜設定することができる。例えば、熱分解温度は好ましくは700~1000℃であり、滞留時間は好ましくは0.001~10秒である。熱分解後は生成物を急冷して蒸留することで、エチレンのほか、メタン、プロピレンを含むC3成分、ブタジエンを含むC4成分、イソプレンやシクロペンタジエンを含むC5成分、ベンゼン、トルエン、キシレン等の成分に分離することが可能である。
(重合工程)
重合工程では、上記分解精製工程で得られたエチレンを、エチレン重合触媒の存在下でオリゴマー化してエチレンオリゴマーを含む重合混合物を得る。具体的な一態様としては、例えば、エチレン重合触媒が充填された重合反応装置に、エチレンを導入する方法が挙げられる。エチレンの重合反応装置への導入方法は特に限定されない。なお、本発明の効果を著しく損なわない範囲においては、プロピレン、1-ブテン等のα-オレフィンを共重合してもよい。
また、重合反応の際には、通常、溶媒を用いている。溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラリン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらの溶媒にエチレン重合触媒を溶解して、溶液重合、スラリー重合等を行うことができる。エチレンオリゴマーは偶数個の炭素を持つため、それらとの分離を容易にするために、奇数個の炭素を持った溶媒を使うことが好ましい。ペンタン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、トルエンなどがその性質に合致する。
重合反応における反応温度は、特に制限されないが、触媒効率の観点から、例えば、好ましくは-50℃~100℃、より好ましくは-30℃~80℃、更に好ましくは-20℃~70℃、特に好ましくは-10℃~60℃、非常に好ましくは-5℃~50℃、最も好ましくは0~40℃である。反応温度が-50℃以上であれば、触媒活性を維持したまま生成した重合体の析出を抑制することができ、反応温度が100℃以下であれば、触媒の分解を抑制することができる。また、反応圧力についても特に限定されないが、例えば、好ましくは100kPa~5MPaである。反応時間についても特に限定されないが、例えば、好ましくは1分~24時間、より好ましくは5分~60分、更に好ましくは10分~45分、特に好ましくは20分~40分である。触媒の活性がある限り、24時間を超えて重合することももちろん可能である。
エチレン重合触媒としては、特に制限されないが、例えば下記一般式(1)で表される鉄錯体を含む触媒が挙げられる。
式(1)中、Rは炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数6~12の芳香族基を示し、同一分子中の複数のRは同一でも異なっていてもよい。R’は酸素原子及び/又は窒素原子を有する遊離基を示し、同一分子中の複数のR’は同一でも異なっていてもよい。Yは塩素原子又は臭素原子を示す。
炭素数1~6のヒドロカルビル基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基等が挙げられる。ヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。さらに、ヒドロカルビル基は、直鎖状又は分岐鎖状のヒドロカルビル基と環状のヒドロカルビル基とが結合した一価の基であってもよい。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖アルキル基;iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、分岐鎖状ペンチル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖状ヘキシル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数3~6の分岐鎖アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1~6の環状アルキル基などが挙げられる。
炭素数2~6のアルケニル基としては、エテニル基(ビニル基)、n-プロペニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基等の炭素数2~6の直鎖アルケニル基;iso-プロペニル基、iso-ブテニル基、sec-ブテニル基、tert-ブテニル基、分岐鎖ペンテニル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖ヘキセニル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数2~6の分岐鎖アルケニル基;シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基等の炭素数2~6の環状アルケニル基などが挙げられる。
炭素数6~12の芳香族基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
式(1)において、同一分子中の複数のR及びR’は同一又は異なっていてもよいが、化合物の合成を単純化する観点から同一であってもよい。
酸素原子及び/又は窒素原子を有する遊離基は、酸素原子及び/又は窒素原子を有する炭素数0~6の遊離基であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ニトロ基等が挙げられる。
このような鉄錯体として具体的には、下記式(1a)~(1h)で表される化合物が挙げられる。これら鉄錯体は、1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
一般式(1)で表される鉄錯体において、配位子を構成する化合物(以下、ジイミン化合物ということもある)は、例えば、ジベンゾイルピリジン及びアニリン化合物を、酸の存在下、脱水縮合することで合成することができる。
上記ジイミン化合物の製造方法の好ましい態様は、2,6-ジベンゾイルピリジン、アニリン化合物、及び酸を溶媒に溶解し、溶媒加熱還流下で脱水縮合させる第1工程と、第1工程後の反応混合物について分離・精製処理を行い、ジイミン化合物を得る第2工程と、を備える。
第1工程で用いられる酸としては、例えば有機アルミニウム化合物を用いることができる。有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、メチルアルミノキサン等が挙げられる。
第1工程で用いられる酸としては、上記有機アルミニウム化合物の他に、プロトン酸を用いることもできる。プロトン酸は、プロトンを供与する酸触媒として用いられる。用いるプロトン酸は特に制限されないが、好ましくは有機酸である。このようなプロトン酸としては、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。これらのプロトン酸を使用する場合、ディーンスタークウォーターセパレーター等で副生する水を除去することが好ましい。また、モレキュラーシーブス等の吸着剤の存在下で反応を行うことも可能である。プロトン酸の添加量は特に制限されず、触媒量であればよい。
また、第1工程で用いられる溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
第1工程における反応条件は、原料化合物、酸及び溶媒の種類並びに量に応じて、適宜選択することができる。
また、第2工程における分離・精製処理としては、特に制限されず、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、再結晶法等が挙げられる。特に、酸として上述した有機アルミニウム化合物を使用する場合は、反応溶液を塩基性水溶液と混合し、アルミニウムを分解・除去したのち、精製することが好ましい。
上記鉄錯体は、中心金属として鉄を含有する。上記ジイミン化合物と、鉄との混合方法は特に限定されず、例えば、
(i)ジイミン化合物を溶解させた溶液に鉄の塩(以下、単に「塩」ということもある)を添加、混合する方法、
(ii)ジイミン化合物と塩とを、溶媒を用いずに物理的に混合する方法、
などが挙げられる。
また、ジイミン化合物と鉄との混合物から錯体を取り出す方法としては、特に制限されず、例えば、
(a)混合物に溶媒を使用した場合には溶媒を留去し、固形物をろ別する方法、
(b)混合物から生じた沈殿をろ別する方法、
(c)混合物に貧溶媒を加えて沈殿を精製させ、ろ別する方法、
(d)無溶媒混合物をそのまま取り出す方法、
などが挙げられる。この後、未反応のジイミン化合物を溶解可能な溶媒による洗浄処理、未反応の鉄の塩を溶解可能な溶剤による洗浄処理、適当な溶媒を用いた再結晶処理等を施してもよい。ジイミン化合物を溶解可能な溶媒としては、例えば、エーテル、テトラフドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。鉄の塩を溶解可能な溶剤としては、アルコール系の溶媒、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる他、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
鉄の塩としては、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、鉄(II)アセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)等が挙げられる。これらの塩に溶媒、水等の配位子を有するものを用いてもよい。これらの中でも、鉄(II)の塩が好ましく、塩化鉄(II)がより好ましい。
また、ジイミン化合物と鉄とを接触させる溶媒としては、特に制限されず、無極性溶媒及び極性溶媒のいずれも使用できる。無極性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶媒などが挙げられる。極性溶媒としては、アルコール溶媒等の極性プロトン性溶媒、テトラヒドロフラン等の極性非プロトン性溶媒などが挙げられる。アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。特に混合物をそのまま触媒として使用する場合には、オレフィン重合に実質的に影響がない炭化水素系溶媒を使用することが好ましい。
また、ジイミン化合物と鉄とを接触させる際の両者の混合比は、特に制限されない。ジイミン化合物/鉄のモル比は、好ましくは0.2/1~5/1、より好ましくは0.3/1~3/1、更に好ましくは0.5/1~2/1、特に好ましくは1/1である。
ジイミン化合物における二つのイミン部位は、いずれもE体であることが好ましいが、いずれもE体であるジイミン化合物が含まれていれば、Z体を含むジイミン化合物を含んでいてもよい。Z体を含むジイミン化合物は、金属と錯体を形成しにくいことから、系内で錯体を形成させた後、溶媒洗浄等の精製工程で容易に除去することが可能である。
上記一般式(1)で表される鉄錯体を含むエチレン重合触媒は、重合反応をより効率よく進行させるため、有機アルミニウム化合物を更に含有してもよい。有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、メチルアルミノキサン等が挙げられる。トリアルキルアルミニウムは、炭素数10以下のアルキル基を有するトリアルキルアルミニウムであってもよく、炭素数8以下のアルキル基を有するトリアルキルアルミニウムであってもよい。このようなトリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム等が挙げられる。触媒効率をより効果的に向上させる観点から、トリアルキルアルミニウムは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム及びトリイソブチルアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、トリメチルアルミニウムを含むことがより好ましい。
このとき、一般式(1)で表される鉄錯体と有機アルミニウム化合物との含有割合は、当該鉄錯体のモル数をG、有機アルミニウム化合物のアルミニウム原子のモル数をHとした場合、モル比で、好ましくはG:H=1:10~1:1000、より好ましくは1:10~1:800、更に好ましくは1:20~1:600、特に好ましくは1:20~1:500であってもよい。上記範囲内であれば、より十分な重合活性を発現しつつ、コストアップを抑制することができる。
有機アルミニウム化合物としてメチルアルミノキサンを用いる場合、メチルアルミノキサンは、溶媒で希釈された市販品を使用することができる他、溶媒中でトリメチルアルミニウムを部分加水分解したものも使用できる。また、トリメチルアルミニウムの部分加水分解の際に、トリイソブチルアルミニウムのようなトリメチルアルミニウム以外のトリアルキルアルミニウムを共存させ、共部分加水分解した修飾メチルアルミノキサンを使用することもできる。さらに、上記部分加水分解の際に、未反応のトリアルキルアルミニウムが残存している場合には、当該未反応のトリアルキルアルミニウムを、減圧下で留去するなどして除去してもよい。また、メチルアルミノキサンをフェノールやその誘導体等の活性プロトン化合物で変性された変性メチルアルミノキサンを用いてもよい。
なお、有機アルミニウム化合物として、トリメチルアルミニウム及びメチルアルミノキサンを併用する場合、エチレン重合触媒におけるトリメチルアルミニウムとメチルアルミノキサンとの含有割合は、トリメチルアルミニウムのモル数をH1、メチルアルミノキサンにおけるアルミニウム原子のモル数をH2とした場合、モル比で、好ましくはH1:H2=100:1~1:100、より好ましくは50:1~1:50、更に好ましくは10:1~1:10である。上記範囲内であれば、より十分な触媒効率を発現しつつ、コストアップの要因を抑制することができる。
また、上記一般式(1)で表される鉄錯体を含むエチレン重合触媒は、更に任意の成分として、ホウ素化合物を含んでいてもよい。
ホウ素化合物は、エチレン重合反応において、上記一般式(1)で表される鉄錯体の触媒活性を更に向上させる助触媒としての機能を有する。
ホウ素化合物としては、例えば、トリスペンタフルオロフェニルボラン等のアリールホウ素化合物が挙げられる。また、ホウ素化合物は、アニオン種を有するホウ素化合物を用いることができる。例えば、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート等のアリールボレートなどが挙げられる。アリールボレートの具体例としては、リチウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、ナトリウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、トリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、リチウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート等が挙げられる。これらの中でも、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、トリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレート又はトリチルテトラキス(3,5-トリフルオロメチルフェニル)ボレートが好ましい。これらホウ素化合物は1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
エチレン重合触媒において、有機アルミニウム化合物及びホウ素化合物を併用する場合、有機アルミニウム化合物とホウ素化合物との含有割合は、有機アルミニウム化合物のモル数をH、ホウ素化合物のモル数をJとした場合、モル比で、好ましくはH:J=1000:1~1:1、より好ましくは800:1~2:1、更に好ましくは600:1~10:1である。上記範囲内であれば、より十分な触媒効率を発現しつつ、コストアップを抑制することができる。
上記一般式(1)で表される鉄錯体を含むエチレン重合触媒は、鉄錯体の失活を抑制することでより十分な触媒効率を確保する観点から、更に下記一般式(2)で表される化合物(以下、リガンドということもある)を含有してもよい。
式(2)中、R’’は炭素数1~6のヒドロカルビル基又は炭素数6~12の芳香族基を示し、同一分子中の複数のR’’は同一でも異なっていてもよく、R’’’は酸素原子及び/又は窒素原子を有する炭素数0~6の遊離基を示し、同一分子中の複数のR’’’は同一でも異なっていてもよい。
炭素数1~6のヒドロカルビル基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基等が挙げられる。ヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。さらに、ヒドロカルビル基は、直鎖状又は分岐鎖状のヒドロカルビル基と環状のヒドロカルビル基とが結合した一価の基であってもよい。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の炭素数1~6の直鎖アルキル基;iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、分岐鎖状ペンチル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖状ヘキシル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数3~6の分岐鎖アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1~6の環状アルキル基などが挙げられる。
炭素数2~6のアルケニル基としては、エテニル基(ビニル基)、n-プロペニル基、n-ブテニル基、n-ペンテニル基、n-ヘキセニル基等の炭素数2~6の直鎖アルケニル基;iso-プロペニル基、iso-ブテニル基、sec-ブテニル基、tert-ブテニル基、分岐鎖ペンテニル基(全ての構造異性体を含む)、分岐鎖ヘキセニル基(全ての構造異性体を含む)等の炭素数2~6の分岐鎖アルケニル基;シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基等の炭素数2~6の環状アルケニル基などが挙げられる。
炭素数6~12の芳香族基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
式(2)において、同一分子中の複数のR’’及びR’’’は同一又は異なっていてもよいが、化合物の合成を単純化する観点から同一であってもよい。
酸素原子及び/又は窒素原子を有する遊離基は、酸素原子及び/又は窒素原子を有する炭素数0~6の遊離基であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ニトロ基等が挙げられる。
このようなリガンドとして具体的には、下記式(2a)~(2d)で表される化合物が挙げられる。これらリガンドは、1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
また、上記一般式(1)で表される鉄錯体及び上記一般式(2)で表される化合物において、一般式(1)のRと一般式(2)のR’’、及び一般式(1)のR’と一般式(2)のR’’’とは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、一般式(1)で表される鉄錯体と同様の性能を維持させる観点から、同一であることが好ましい。
本実施形態に係るエチレン重合触媒に上記リガンドが含まれる場合、鉄錯体とリガンドとの含有割合は、特に制限されない。リガンド/鉄錯体の比は、モル比で、好ましくは1/100~100/1、より好ましくは1/50~50/1、更に好ましくは1/10~10/1、特に好ましくは1/5~5/1、非常に好ましくは1/3~3/1である。リガンド/鉄錯体の比が1/100以上であれば、鉄錯体の失活を抑制することで触媒効率を高めることができ、100/1以下であれば、前記リガンドの添加効果を発揮しつつコストを抑えることができる。
なお、上記のエチレン重合触媒の製造方法は、特に制限されず、例えば、エチレン重合触媒が、上述した一般式(1)で表される鉄錯体及び有機アルミニウム化合物を含む場合、一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液に有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合する方法、及び、有機アルミニウム化合物を含む溶液に一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液を添加、混合する方法等が挙げられる。また、例えば、一般式(1)で表される鉄錯体及び有機アルミニウム化合物の他に、上述したホウ素化合物及びリガンドを更に含む場合には、これらの全ての成分を一括して接触させてもよいし、任意の順序で接触させてもよい。本実施形態に係るエチレン重合触媒の製造方法としては、例えば、
(A)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液とホウ素化合物を含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(B)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を接触させる方法
(C)ホウ素化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄錯体を接触させる方法
(D)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(E)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを接触させる方法
(F)有機アルミニウム化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄錯体を接触させる方法
(G)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液とホウ素化合物を含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合し、その後リガンドを接触させる方法
(H)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液とホウ素化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを含む溶液を添加、混合し、その後有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(I)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を含む溶液を添加、混合し、その後リガンドを接触させる方法
(J)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを含む溶液を添加、混合し、その後ホウ素化合物を接触させる方法
(K)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合し、その後ホウ素化合物を接触させる方法
(L)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を含む溶液を添加、混合し、その後有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(M)ホウ素化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液を添加、混合し、その後リガンドを接触させる方法
(N)ホウ素化合物を含む溶液と有機アルミニウム化合物を含む溶液とを混合した後、リガンドを含む溶液を添加、混合し、その後一般式(1)で表される鉄錯体を接触させる方法
(O)ホウ素化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液を添加、混合し、その後有機アルミニウム化合物を接触させる方法
(P)ホウ素化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合し、その後一般式(1)で表される鉄錯体を接触させる方法
(Q)有機アルミニウム化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液を添加、混合し、その後ホウ素化合物を接触させる方法
(R)有機アルミニウム化合物を含む溶液とリガンドを含む溶液とを混合した後、ホウ素化合物を含む溶液を添加、混合し、その後一般式(1)で表される鉄錯体を接触させる方法
(S)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液にホウ素化合物を接触させた後、有機アルミニウム化合物を含む溶液を添加、混合する方法
(T)一般式(1)で表される鉄錯体を含む溶液にホウ素化合物を接触させた後、トリメチルアルミニウムを含む溶液を添加、混合し、メチルアルミノキサンを接触させる方法
などが挙げられる。
エチレンオリゴマーとは、数平均分子量(Mn)が10000以下のエチレンの単独重合体又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体を意味する。重合工程において得られるエチレンオリゴマーのMnは、その用途に応じて適宜調整することができるが、エチレンオリゴマーを潤滑油等の原料として用いる場合、Mnは200~5000が好ましく、300~4000がより好ましく、350~3000が更に好ましい。また、分散度は、重量平均分子量(Mw)とMnとの比であり、Mw/Mnとして表されるが、例えば、好ましくは1.0~5.0、より好ましくは1.1~3.0である。エチレンオリゴマーのMn及びMwは、例えば、GPC装置を用い、標準ポリスチレンから作成した検量線に基づき、ポリスチレン換算量として求めることができる。
エチレンオリゴマーには、通常、直鎖の炭化水素化合物が含まれる。エチレンオリゴマーにおける直鎖の炭化水素化合物の含有量は、特に制限はないが、例えば、エチレンオリゴマー全量基準で、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。直鎖の炭化水素化合物の含有量の上限についても特に制限はなく、例えば、通常は100質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
エチレンオリゴマー中の炭化水素化合物の構成において、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量は、エチレンオリゴマー全量基準で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、得られる異性化油の粘度-温度特性及びトラクション係数をより効果的に改善できる観点から、奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物を実質的に含まないことが更に好ましい。
なお、上記直鎖の炭化水素化合物の含有量は、エチレンオリゴマーについて、以下の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、エチレンオリゴマー全量における直鎖の炭化水素化合物の割合を測定・算出した値を意味する。なお、測定の際には、標準試料として炭素数5~50のノルマルパラフィンの混合試料が用いられ、上記各割合は、クロマトグラムの全ピーク面積値に対するノルマルパラフィンに相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。なおここで、同じ炭素数の炭化水素化合物の場合、最も沸点の高い(最も留出時間の長い)炭化水素化合物はノルマルパラフィンであることから、炭素数の算出に際しては、上記標準試料を測定したときのn個の炭素数を有するノルマルパラフィンの留出時間に相当するピークと、n-1個の炭素数を有するノルマルパラフィンの留出時間に相当するピークの間に存在するピークは、n個の炭素数を有する非ノルマルパラフィンに相当するものとし、同じ炭素数におけるノルマルパラフィンと非ノルマルパラフィンとを区別するものとする。
(ガスクロマトグラフィー条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ:25mm、内径:0.3mmφ、液相膜厚:0.1μm)
昇温条件:50~400℃(昇温速度:10℃/分)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/分)
スプリット比:90/l
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
検出器:水素炎イオン化型検出器(FID)
上記偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量は、重合混合物に含まれるエチレンオリゴマーについて、以下の条件で電解脱離質量分析法による分析を行い、得られたクロマトグラムの質量数からエチレンオリゴマー全量における偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の割合を算出した値を意味する。
(電解脱離質量分析条件)
装置:JEOL JMS-T300GC
イオン化法:FD(Field Desorption)
イオン源温度:室温
対向電極電圧:-10kV
エミッタ電流:6.4mA/min
スペクトル記録間隔:0.4sec
測定質量範囲:m/z 35~1600
重合工程において得られるエチレンオリゴマーを含む重合混合物は後述する第一の蒸留工程に供されるが、得られた重合混合物から、エチレンオリゴマーを取り出して第一の蒸留工程に供してもよいし、重合混合物を濃縮し、エチレンオリゴマーの濃度を高めた濃縮物として第一の蒸留工程に供してもよい。潤滑油基油の原料とならない溶媒等を後述する異性化工程に送らないためにも、重合混合物を濃縮することが好ましい。重合混合物を濃縮する方法としては、例えば、重合混合物をフラッシュ槽等の濃縮器で濃縮する方法等が挙げられる。
重合混合物を濃縮器等で濃縮することで得られる揮発性成分は、通常、未反応エチレンや重合溶媒、その他軽質オリゴマーを含む。溶媒は蒸留等で回収して再利用することが好ましく、その他の留分は分解精製工程に送って、エチレンへ分解して再利用することも可能である。上記揮発性成分の大部分がエチレンの場合は、分解精製工程に送ることなくエチレンとして再利用することも可能である。その際には重合反応で生成し得るブテン等の不純物が混入して系内に蓄積するため、エチレンを回収する際に一部を系外に排出して、不純物の量を一定に保つことが、安定的な重合につながる。系外に排出された不純物を含むエチレンは、分解精製工程に戻すことも可能である。
(第一の蒸留工程)
第一の蒸留工程では、上記重合混合物を蒸留により潤滑油留分及び潤滑油留分以外の留分にそれぞれ分留する。第一の蒸留工程を経ることにより、上記重合工程で生成された過度の重合物を取り除き、後述する異性化反応を効率化するだけでなく、重合触媒残渣等も取り除くことが可能となる。
第一の蒸留工程により得られる潤滑油留分の沸点範囲としては、例えば、沸点範囲が250~500℃の留分が挙げられる。さらに、後述する各工程で得られる70Pale、SAE10、VG6等に相当する異性化油を効率よく得る場合は、それぞれ第一の蒸留工程により得られる潤滑油留分の沸点範囲を下記のように設定することができる。
70Paleに相当する異性化油:沸点範囲300~460℃の留分
SAE10に相当する異性化油:沸点範囲360~500℃の留分
VG6に相当する異性化油:沸点範囲250~440℃の留分
なお、例えば、沸点範囲が250~500℃とは、初留点及び終点が250~500℃の範囲内にあることを示す。
第一の蒸留工程における蒸留条件は、エチレンオリゴマーを含む重合混合物から目的の潤滑油留分を分留できる条件であれば特に限定されない。例えば、第一の蒸留工程は、減圧蒸留により分留する工程であってもよく、常圧蒸留(又は加圧下での蒸留)及び減圧蒸留を組み合わせて分留する工程であってもよい。また、例えば、単一の留分として分留されてもよく、粘度グレードに応じた複数の留分として分留されてもよい。
潤滑油留分以外の留分としては、例えば、溶媒、未反応のエチレンを含む留分等が挙げられる。潤滑油留分以外の留分は、所望により精製して重合工程に再利用してもよいし、上述した分解精製工程に戻すこともできる。その他、未反応エチレン以外の成分についても、分解精製工程に戻すことができるほか、所望により分別して基礎化学品として利用することもできる。
(異性化工程)
異性化工程では、潤滑油留分を水素化異性化触媒の存在下で水素化異性化して異性化油を含む反応混合物を得る。異性化工程とは、より具体的には、水素(分子状水素)の存在下、エチレンオリゴマーを水素化異性化触媒に接触させることで、エチレンオリゴマーの水素化異性化を行う工程である。ここでの水素化異性化には、ノルマルパラフィンのイソパラフィンへの異性化の他に、水素添加によるオレフィンのパラフィンへの転化等も含まれる。
水素化異性化触媒は、結晶質又は非晶質のいずれの材料を含んでいてもよい。結晶質材料としては、例えば、アルミノシリケート(ゼオライト)又はシリコアルミノホスフェート(SAPO)を主成分とする、10又は12員環通路を有するモレキュラーシーブが挙げられる。ゼオライトの具体例としては、ZSM-22、ZSM-23、ZSM-35、ZSM-48、ZSM-57、フェリエライト、ITQ-13、MCM-68、MCM-71などが挙げられる。また、アルミノホスフェートの例としては、ECR-42が挙げられる。モレキュラーシーブの例としては、ゼオライトベータ、及びMCM-68が挙げられる。これらの中でも、ZSM-48、ZSM-22及びZSM-23から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、ZSM-48が特に好ましい。モレキュラーシーブは好ましくは水素形にある。水素化異性化触媒の還元は、水素化異性化の際にその場で起こり得るが、予め還元処理が施された水素化異性化触媒を水素化異性化に供してもよい。
また、水素化異性化触媒の非晶質材料としては、3族金属でドープされたアルミナ、フッ化物化アルミナ、シリカ-アルミナ、フッ化物化シリカ-アルミナ等が挙げられる。
水素化異性化触媒の好ましい態様としては、二官能性、すなわち、少なくとも1つの6族金属、少なくとも1つの8-10族金属、又はそれらの混合物である金属水素添加成分が装着されたものが挙げられる。好ましい金属は、Pt、Pd又はそれらの混合物等の9-10族貴金属である。これらの金属の装着量は、触媒全量を基準として好ましくは0.1~30質量%である。触媒調製及び金属装着方法としては、例えば分解性金属塩を用いるイオン交換法及び含浸法が挙げられる。
なお、モレキュラーシーブを用いる場合、水素化異性化条件下での耐熱性を有するバインダー材料と複合化してもよく、又はバインダーなし(自己結合)であってもよい。バインダー材料としては、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ-チタニア、マグネシア、トリア、ジルコニア等のような他の金属酸化物との二成分の組合せ、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-マグネシア等のような酸化物の酸成分の組合せなどの無機酸化物が挙げられる。水素化異性化触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒全量を基準として、好ましくは10~100質量%、より好ましくは35~100質量%である。水素化異性化触媒は、噴霧乾燥、押出等の方法によって形成される。水素化異性化触媒は、硫化物又は非硫化物化した態様で使用することができ、硫化物化した態様が好ましい。
水素化異性化条件に関し、温度は好ましくは250℃~400℃、より好ましくは275℃~350℃であり、水素分圧は好ましくは791kPa~20786kPa(100psig~3000psig)、より好ましくは1480kPa~17339kPa(200psig~2500psig)であり、液空間速度は好ましくは0.1hr-1~10hr-1、より好ましくは0.1hr-1~5hr-1であり、水素/油比は好ましくは45m3/m3~1780m3/m3(250scf/B~10000scf/B)、より好ましくは89m3/m3~890m3/m3(500scf/B~5000scf/B)である。なお、上記の条件は一例であり、水素化異性化条件は、原料、触媒、装置等の相違に応じて適宜選定することが好ましい。
異性化工程を経ることにより、エチレンオリゴマーがイソパラフィンに異性化された異性化油を含む反応混合物を得ることができる。
(第二の蒸留工程)
第二の蒸留工程では、上記異性化工程で得られた反応混合物を蒸留により潤滑油基油及び潤滑油基油以外の留分にそれぞれ分留する。潤滑油基油以外の留分とは、通常、潤滑油基油より軽質の軽質留分及び潤滑油基油より重質の重質留分である。このような留分は、例えば、異性化油を含む反応混合物から軽質留分を分留する常圧蒸留(又は加圧下での蒸留)と、該常圧蒸留のボトム油から所望の潤滑油基油留分を分留する減圧蒸留と、により行われる。
第二の蒸留工程における蒸留条件は、反応混合物から目的の潤滑油基油を分留できる条件であれば特に限定されない。例えば、第二の蒸留工程は、減圧蒸留により分留する工程であってもよく、常圧蒸留(又は加圧下での蒸留)及び減圧蒸留を組み合わせて分留する工程であってもよい。また、潤滑油基油は、単一の留分として分留されてもよく、粘度グレードに応じた複数の留分として分留されてもよい。
潤滑油基油の分留においては、複数のカットポイントを設定して減圧蒸留することにより、目的に応じた複数の潤滑油基油留分を得ることができる。例えば、ATFやショックアブソーバーの潤滑油基油として好適な70Paleに相当する潤滑油基油を取得するため、100℃における動粘度2.7mm2/sを目標値として、常圧での沸点範囲が330℃~410℃の留分を回収する方法;APIグループIIIの規格を満たすエンジン油の潤滑油基油として好適なSAE-10に相当する潤滑油基油を取得するため、100℃における動粘度4.0mm2/sを目標値として、常圧での沸点範囲が410℃~460℃の留分を回収する方法;各種ギアオイルや作動油の潤滑油基油として好適なSAE-20に相当する潤滑油基油を取得するため、100℃における動粘度5.6mm2/sを目標値として、常圧での沸点範囲が460℃~500℃の留分を回収する方法;VG6に相当する潤滑油基油を取得するため、100℃における動粘度2.0mm2/sを目標値として、沸点範囲が330℃以下の留分を回収する方法等が挙げられる。なお、SAE粘度とは、Society of Automotive Engineersが定めた規格を意味する。
第二の蒸留工程を経て得られた潤滑油基油の粘度グレードについては、特に制限されないが、その100℃における動粘度が、好ましくは1.5mm2/s以上、より好ましくは1.8mm2/s以上である。一方、100℃における動粘度の上限値も特に制限はないが、好ましくは20mm2/s以下、より好ましくは11mm2/s以下、特に好ましくは5.0mm2/s以下である。
また、上述したように第二の蒸留工程において複数のカットポイントを設定して目的に応じた複数の潤滑油基油留分を得る場合、得られる潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは以下のようなものである。
(I)100℃における動粘度が1.5mm2/s以上2.3mm2/s未満、より好ましくは1.8mm~2.1mm2/sの潤滑油基油
(II)100℃における動粘度が2.3mm2/s以上3.0mm2/s未満、より好ましくは2.4~2.8mm2/sの潤滑油基油
(III)100℃における動粘度が3.0~20mm2/s、より好ましくは3.2~11mm2/s、更に好ましくは3.5~5.0mm2/s、特に好ましくは3.6~4.0mm2/sの潤滑油基油
潤滑油基油の粘度指数は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記潤滑油基油(I)の粘度指数は、好ましくは105~150、より好ましくは110~140、更に好ましくは115~135である。上記潤滑油基油(II)の粘度指数は、好ましくは120~160、より好ましくは125~150、更に好ましくは130~150である。上記潤滑油基油(III)の粘度指数は、好ましくは140~180、より好ましくは145~170、更に好ましくは150~165である。粘度指数を上記範囲内とすることにより、優れた粘度-温度特性を確保することができるため、省エネルギー性に優れた潤滑油基油を得ることができる。
潤滑油基油の15℃における密度(ρ15、単位:g/cm3)は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記潤滑油基油(I)のρ15は、好ましくは0.82g/cm3以下、より好ましくは0.81g/cm3以下、更に好ましくは0.80g/cm3以下、特に好ましくは0.79g/cm3以下である。上記潤滑油基油(II)及び(III)のρ15は、好ましくは0.84g/cm3以下、より好ましくは0.83g/cm3以下、更に好ましくは0.82g/cm3以下である。15℃における密度を上記範囲内とすることにより、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性に優れる潤滑油基油を得ることができるほか、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の効き目を十分に確保することができる。
潤滑油基油の流動点は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記潤滑油基油(I)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下、更に好ましくは-30℃以下である。上記潤滑油基油(II)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下、更に好ましくは-20℃以下である。上記潤滑油基油(III)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下である。潤滑油基油の流動点を上記数値範囲内とすることで、低温流動性を十分に確保でき、省エネルギー性に優れる潤滑油基油を得ることができる。
潤滑油基油の曇り点は、その粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)の曇り点は、好ましくは-15℃以下、より好ましくは-17.5℃以下である。上記潤滑油基油(II)の曇り点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下である。上記潤滑油基油(III)の曇り点は、好ましくは-10℃以下である。潤滑油基油の曇り点を上記数値範囲内とすることにより、当該潤滑油基油の低温流動性を十分に確保することができるため、省エネルギー性の観点から好ましい。
さらに、潤滑油基油についてガスクロマトグラフィー分析を行った場合、当該潤滑油基油に含まれる炭化水素化合物の炭素数分布は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記潤滑油基油(I)における炭素数分布は、好ましくは10~35、より好ましくは15~30である。上記潤滑油基油(II)における炭素数分布は、好ましくは12~40、より好ましくは15~35である。上記潤滑油基油(III)における炭素数分布は、好ましくは15~50、より好ましくは18~45である。
また、潤滑油基油についてガスクロマトグラフィー分析を行った場合、当該潤滑油基油に含まれる炭化水素化合物の平均炭素数は、その粘度グレードに応じて適宜選択することができる。例えば、上記潤滑油基油(I)における平均炭素数は、好ましくは15~25、より好ましくは18~22である。上記潤滑油基油(II)における平均炭素数は、好ましくは15~30、より好ましくは20~25である。上記潤滑油基油(III)における平均炭素数は、好ましくは20~40、より好ましくは25~30である。炭素数分布及び/又は平均炭素数を上記数値範囲内とすることにより、省エネルギー性に優れる潤滑油基油を得ることができる。
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法により得られる潤滑油基油は、上述したエチレンオリゴマーから得られるものであるため、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物と奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有バランスが均等ではない。当該潤滑油基油に含まれる炭化水素化合物の構成において、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の具体的な含有量は特に制限されるものではないが、潤滑油基油全量基準で、例えば、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは85質量%以上である。
上述した炭素数分布及び平均炭素数は、異性化油について、質量分析を行うことにより求められる値である。図1は実施例1で得られた異性化油のFD-MSクロマトグラムであるが、例えばMS338(C24H50)付近のピークをC24とし、MS310(C22H46)付近のピークをC22とする。MS324(C23H48)付近のピークがC23となる。これらの近隣するイオン強度を足し合わせて各炭素数の含有量とし、それらを全体量で割り返すことで平均炭素数を求める。またクロマトグラムの出始めと出終わりから、炭素数分布を求める。
上記偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量は、異性化油について、質量分析法による分析を行い、異性化油全量における偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の割合を測定・算出した値を意味する。分析手法としては以下の条件に基づく電解脱離質量分析法を好ましく採用できる。
(電解脱離質量分析条件)
装置:JEOL JMS-T300GC
イオン化法:FD(Field Desorption)
イオン源温度:室温
対向電極電圧:-10kV
エミッタ電流:6.4mA/min
スペクトル記録間隔:0.4sec
測定質量範囲:m/z 35~1600
上記で得られた潤滑油基油は、種々の用途の潤滑油基油として好ましく用いることができる。潤滑油基油の用途としては、具体的には、乗用車用ガソリンエンジン、二輪車用ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスヒートポンプ用エンジン、船舶用エンジン、発電エンジン等の内燃機関に用いられる潤滑油(内燃機関用潤滑油)、自動変速機、手動変速機、無段変速機、終減速機等の駆動伝達装置に用いられる潤滑油(駆動伝達装置用油)、緩衝器、建設機械等の油圧装置に用いられる油圧作動油、圧縮機油、タービン油、工業用ギヤ油、冷凍機油、さび止め油、熱媒体油、ガスホルダーシール油、軸受油、抄紙機用油、工作機械油、すべり案内面油、電気絶縁油、切削油、プレス油、圧延油、熱処理油などが挙げられる。
上記の用途においては、潤滑油基油として、上記本実施形態に係る製造方法で得られた潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、当該潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、他の基油を併用する場合、それらの混合基油中に占める本実施形態に係る製造方法で得られた潤滑油基油の割合は、30質量%であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
本実施形態に係る製造方法で得られた潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば、API分類のグループI~グループIIIに分類される鉱油等が挙げられる。なお、API分類の各グループは、米国石油協会(API(American Pertoleum Institute))の潤滑油グレードの分類によるものを意味する。
また、合成系基油としては、ポリα-オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα-オレフィンが好ましい。ポリα-オレフィンとしては、典型的には、炭素数2~32、好ましくは6~16のα-オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1-オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
ポリα-オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸又はエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α-オレフィンを重合する方法が挙げられる。
また、必要に応じて、本実施形態に係る製造方法で得られた潤滑油基油又は当該潤滑油基油と他の基油との混合基油に、各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、特に制限されず、潤滑油の分野で従来使用される任意の添加剤を配合することができる。かかる潤滑油添加剤としては、具体的には、酸化防止剤、無灰分散剤、金属系清浄剤、極圧剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、摩擦調整剤、油性剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、シール膨潤剤、消泡剤、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
第二の蒸留工程により得られる潤滑油基油以外の留分は、例えば、潤滑油基油よりも軽質な留分と潤滑油基油よりも重質な留分が挙げられる。これらの留分は、分解精製工程に戻して原料油として利用することもできる。
本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法においては、上述した第一の蒸留工程で得られた潤滑油留分以外の留分及び/又は第二の蒸留工程で得られた潤滑油基油以外の留分を、原料油の一部として分解精製工程に戻すことを特徴とする。中でも、分解精製工程に戻す留分は、第二の蒸留工程で得られた潤滑油基油以外の留分であることが好ましく、当該留分が、潤滑油基油よりも軽質の軽質留分であることがより好ましい。
第一の蒸留工程で得られた潤滑油留分以外の留分及び第二の蒸留工程で得られた潤滑油基油以外の留分は、それぞれ、エチレンオリゴマーを含む重合混合物及び反応混合物を分留して得られるものである。そして、エチレンオリゴマーは、その構成炭化水素化合物の大部分が偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物である。したがって、当該留分は、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物と奇数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有バランスが均等ではない。当該留分に含まれる炭化水素化合物の構成において、偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の具体的な含有量は特に制限されるものではないが、留分全量基準で、例えば、好ましくは50質量%未満、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
ここまで、本発明に係る潤滑油基油の製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、潤滑油基油の製造において一般に採用される種々の工程を適宜備えていてもよい。
次いで、上記本実施形態に係る潤滑油基油の製造方法を実施するための、潤滑油基油製造装置について説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る潤滑油基油の製造方法を実施するための、潤滑油基油製造装置の一例を示すフロー図である。
図2に示される潤滑油基油製造装置100は、流路L1から導入された原料油を熱分解するとともに、得られた熱分解物を精製してエチレンを得る熱分解精製装置10と、熱分解精製装置10から流路L2を通じて供給されるエチレン(エチレンを含む分解油)をオリゴマー化する第1の反応器20と、第1の反応器20から流路L3を通じて供給される、エチレンオリゴマーを含む重合混合物を潤滑油留分及び潤滑油留分以外の留分にそれぞれ分留する第1の蒸留塔30と、第1の蒸留塔30から流路L4を通じて供給される潤滑油留分を水素化異性化する第2の反応器40と、第2の反応器40から流路L5を通じて供給される異性化油(異性化油を含む反応混合物)を潤滑油基油及び潤滑油基油以外の留分にそれぞれ分留する第2の蒸留塔50と、第1の蒸留塔30で得られる潤滑油留分以外の留分を流路L1に合流させる流路L4’及び/又は第2の蒸留塔50で得られる潤滑油基油以外の留分を流路L1に合流させる流路L6’と、第2の蒸留塔50で得られる潤滑油基油を取り出す流路L6と、を備えて構成されている。
熱分解精製装置10、第1の反応器20及び第2の反応器40の形式は特に限定されない。例えば、熱分解精製装置10にはナフサクラッカーが好適に用いられ、第1の反応器20には、エチレン重合触媒と溶媒とを含んだ反応器が好適に用いられ、第2の反応器40には、水素化異性化触媒が充填された固定床流通式反応器が好適に用いられる。なお、潤滑油基油製造装置100において、熱分解精製装置10、第1の反応器20及び第2の反応器40はそれぞれ単数のみ配置されているが、熱分解のための複数の熱分解精製装置、オリゴマー化反応のための複数の第1の反応器及び水素化異性化のための複数の第2の反応器がそれぞれ直列又は並列に配置されたものであってもよい。また、第2の反応器40内の触媒床は単一であっても複数であってもよい。
第1の蒸留塔30においては、例えば、塔頂より軽質留分を、塔の中ほどから溶媒を、塔下方から潤滑油留分を、塔底より重質留分を、第2の蒸留塔50の塔頂より軽質留分を、塔の中ほどから潤滑油基油を、塔底より重質留分を、それぞれ分留することができる。なお蒸留塔30で得られる溶媒は、一部又は全部を熱分解装置10に供することもできるが、精製を施して、重合溶媒として再利用することが好ましい。また、潤滑油基油製造装置100においては、第1の蒸留塔30及び第2の蒸留塔50はそれぞれ単数のみ配置されているが、分留の条件に応じて、複数の第1の蒸留塔及び複数の第2の蒸留塔が、それぞれ直列又は並列に配置されたものであってもよい。
さらに、潤滑油基油製造装置100は、第1の反応器20の後段で且つ第1の蒸留塔30の前段に、第1の反応器20から供給される重合混合物に含まれる未反応エチレンを回収するためのフラッシュ槽を備えていてもよく、重合混合物に含まれる触媒及び触媒活性化剤等の金属成分などを除去するための脱灰槽を備えていてもよい。フラッシュ槽で回収した未反応エチレンは、場合により一部を熱分解精製装置10又は第1の反応器20に供給され、エチレンとして再利用されてもよい。なお、回収する未反応エチレンの重合反応性を一定に保つ観点から、回収エチレン中のエチレン純度を一定とするため、不純物を系外に排出するブリード工程を備えていてもよい。また、第一の蒸留塔の前に、溶媒回収精製装置を備えていてもよく、回収された溶媒は重合反応溶媒として再利用できる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[製造例1:式(2a)で表される化合物の合成]
2-メチル-4-メトキシアニリン(2.0893g、15.3mmol、東京化成製)と2,6-ジアセチルピリジン(1.2429g、7.6mmol、東京化成製)、モレキュラーシーブ4A(5.0g)、触媒量のパラトルエンスルホン酸を乾燥トルエン(60ml)に分散し、ディーンスタークウォーターセパレーターを利用して、水を除去しながら24時間加熱還流しながら撹拌した。
反応液からモレキュラーシーブをろ過で除き、トルエンで洗浄した。洗浄液とろ過した反応液を混合して濃縮乾固し、粗固体(2.8241g)を得た。ここで得られた粗固体(2g)を秤り取り、無水エタノール(30ml)で洗浄した。エタノール不溶固体をろ別して、その不溶固体を更にエタノールで洗浄した。残存固体を十分に乾燥して下記式(2a)で表される化合物を収率50%で得た。
1H-NMR(600MHz,CDCl3):2.1(s,6H),2.4(s,6H),3.8(s,6H),6.6(m,2H),6.7(m,2H),6.8(m,2H),7.9(m,1H),8.4(m,2H)
13C-NMR(600MHz,CDCl3):16、18,56,116,119,122,125,129,137,138,143,156,167
[製造例2:式(1a)で表される化合物の合成]
FeCl2・4H2O(0.2401g、1.2mmol、関東化学製)を脱水テトラヒドロフラン(30ml、アルドリッチ製)に溶解し、先に合成したジイミン化合物(I)(0.4843g、1.2mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10ml)を加えた。黄色のジイミン化合物を加えることで、瞬時に暗緑色のテトラヒドロフラン溶液となった。さらに、室温にて2時間撹拌した。反応液から溶媒を蒸発乾固させ、析出した固体を脱水エタノールでろ液に色がなくなるまで洗浄を続けた。さらに洗浄した固体を脱水ジエチルエーテルで洗浄し、溶媒を除去して鉄化合物を得た。得られた鉄化合物は、FD-MSにて527.0820(計算値:527.0831)が得られたことから、下記鉄化合物(1a)の構造を示唆している。
[製造例3:エチレン重合触媒の調製]
500mlナスフラスコ中で窒素気流下、製造例2で得られた式(1a)で表される化合物(42.2mg)と鉄に対して1当量のトリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレート(73.8mg)を乾燥トルエン200mlに溶解し、溶液(A)とした。溶液(A)に、式(1a)で表される化合物に対して100当量分のトリメチルアルミニウム(TMA)溶液を加え、5分間撹拌して触媒を含む溶液(B)を得た。溶液(B)に更にリガンドとして、製造例1で得られた式(1a)で表される化合物を上記式(2a)で表される化合物に対して0.33当量分加えて、エチレン重合触媒を含む溶液(C)を得た。
<潤滑油基油の製造>
[実施例1]
(原料油の熱分解)
熱分解装置であるパイロライザー(EGA/PY 3030D、フロンティアラボ製)とガスクロマトグラフ装置、及び質量分析装置が付随した熱分解挙動評価装置を用い、炭化水素を熱分解した。熱分解で発生したガスを、液体窒素で冷却しながらマイクロジェットクライオトラップで捕集し、ガスクロマトグラフィーで分離し、質量分析により定性・定量分析を行った。熱分解挙動評価装置の条件は以下のとおりである。
・パイロライザー
温度:750℃、又は700℃
滞留時間:1分
・ガスクロマトグラフ装置
注入口温度:250℃
昇温:40℃(3分保持)から250℃(20℃/分、30分保持)
カラム:微極性カラム(5%ジフェニル、95%ジメチルポリシロキサン;長さ:30m、内径:0.25mmφ、液相膜厚:1μm)
キャリアガス:ヘリウム(1ml/分)
スプリット比:100/1
・質量分析装置
スキャン範囲:m/z 10~550
スキャン速度:2.7スキャン/秒
イオン源温度:230℃
原料油として用いるナフサの代表品としてノルマルオクタン(東京化成製、1.3mg)を750℃で熱分解した。ガスクロマトグラフィーによる分離、質量分析により、メタン、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ブタジエン、3-メチル-1-ブテン、2-ペンテン、ピペリレン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロペンテン、ヘキサジエン、1-ヘキセン、シクロヘキサジエン、メチルシクロペンタジエン、ベンゼン等が熱分解成分として検出された。得られたエチレンは7.5%(ガスクロマトグラフィーの面積。以下同じ。)、プロピレンは11.9%、ブタジエンは13.9%であった。
(エチレンのオリゴマー化反応)
電磁誘導撹拌機付きの20Lのオートクレーブをあらかじめ減圧下、110℃で充分に乾燥した。次に、窒素気流下で、乾燥トルエン(7.6L)をオートクレーブに導入し、温度を0℃に調整した。
製造例3で調製したエチレン重合触媒を含む溶液(C)を乾燥トルエンが導入された上記オートクレーブに加え、上記で得られた熱分解成分から精製された高純度エチレンに相当する市販のエチレン(大陽日酸製、工業用(>99.5%))を、0℃、0.2MPaの条件で連続的に導入した。970分後にエチレンの導入を止め、未反応のエチレンを除去し、窒素でオートクレーブ内のエチレンをパージし、ごく少量のエタノールを加えた。オートクレーブを開放し、内容物を順次20Lのエバポレーターに移して、溶媒を減圧留去することで半固形物のオリゴマーを得た。このような重合を4回繰り返した。代表的な触媒効率(C.E.)は68875 Poly kg/Fe molであった。また、4バッチ分を混合して得られたオリゴマー(WAX1)のMnは510であり、Mw/Mnは1.7であった。WAX1のノルマルパラフィン含有量及び偶数個の炭素数を有する炭化水素化合物の含有量(偶数炭素数含有量)について、ガスクロマトグラフィー分析及び電解脱離質量分析によって得られた結果を表1に示す。
(オリゴマーの蒸留)
20Lの三ツ口フラスコに上記WAX1を9293g導入し、ボトム温度を常温から380℃、圧力を常圧から29kPaとして、常圧換算で250~500℃の沸点留分を採取すべく、単蒸留を行った。7470gの留分(潤滑油留分)が採取でき、残渣(潤滑油留分以外の留分)は1791gであった。潤滑油留分のMnは470であり、Mw/Mnは1.5であった。また、残渣のMnは2000であり、Mw/Mnは1.6であった。
上記で得られた残渣(0.8mg)を700℃で熱分解した。ガスクロマトグラフィーによる分離、質量分析により、メタン、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ブタジエン、2-ペンテン、ピペリレン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロペンテン、ヘキサジエン、1-ヘキセン、シクロヘキサジエン、メチルシクロペンタジエン、ベンゼン等が熱分解成分として検出された。得られたエチレンは6.4%、プロピレンは9.3%、ブタジエンは13.9%であった。オリゴマーの蒸留で得られた潤滑油留分以外の留分は、熱分解に戻すことにより、充分なエチレンを再度回収することが可能であることが示された。
(水素化異性化反応)
上記で得られた潤滑油留分を、貴金属含有量0.1~5質量%に調整されたゼオライト系水素化異性化触媒を用いて、反応温度330℃、水素分圧5MPa、空間速度1.0LHSVの条件で水素化異性化し、異性化油1を得た。
(異性化油の蒸留)
上記で得られた異性化油1を減圧蒸留することにより、70Pale相当の潤滑油基油1及び当該潤滑油基油1以外の留分を得た。得られた潤滑油基油1の性状を表2に示す。なお、表2中、「炭素数分布」、「平均炭素数」及び「偶数炭素数含有量」は、得られた潤滑油基油1についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものであり、「トラクション係数」は、試験片として鋼球とスチールディスクを用い、荷重20N、試験油温度25℃、周速0.52m/s、すべり率3%の条件下で測定した値である(以下同様である)。
[実施例2]
エチレンのオリゴマー化反応までの操作を上記実施例1と同様に実施して、オリゴマー(WAX1)を得た。
(オリゴマーの蒸留)
20Lの三ツ口フラスコに上記WAX1を5000g導入し、ボトム温度を常温から380℃、圧力を常圧から29kPaとして、常圧換算で300~440℃の沸点留分を採取すべく、単蒸留を行った。
(水素化異性化反応)
上記で得られた潤滑油留分を、貴金属含有量0.1~5質量%に調整されたゼオライト系水素化異性化触媒を用いて、反応温度330℃、水素分圧5MPa、空間速度1.0LHSVの条件で水素化異性化し、異性化油2を得た。
(異性化油の蒸留)
上記で得られた異性化油2を減圧蒸留することにより、VG6相当の潤滑油基油2及び当該潤滑油基油2以外の留分(潤滑油基油2よりも軽質の軽質留分及び潤滑油基油2よりも重質の重質留分)を得た。得られた潤滑油基油2の性状を表2に示す。
上記で得られた軽質留分(0.8mg)を750℃で熱分解した。ガスクロマトグラフィーによる分離、質量分析により、メタン、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ブタジエン、2-ペンテン、ピペリレン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロペンテン、ヘキサジエン、1-ヘキセン、シクロヘキサジエン、メチルシクロペンタジエン、ベンゼン等が熱分解成分として検出された。得られたエチレンは10.4%、プロピレンは14.5%、ブタジエンは14.9%であった。異性化油の蒸留により得られた潤滑油基油よりも軽質な軽質留分は、熱分解に戻すことにより、充分なエチレンを再度回収することが可能であることが示された。
上記で得られた重質留分(1.2mg)を750℃で熱分解した。ガスクロマトグラフィーによる分離、質量分析により、メタン、エチレン、プロピレン、1-ブテン、ブタジエン、2-ペンテン、ピペリレン、イソプレン、シクロペンタジエン、シクロペンテン、ヘキサジエン、1-ヘキセン、シクロヘキサジエン、メチルシクロペンタジエン、ベンゼン等が熱分解成分として検出された。得られたエチレンは7.6%、プロピレンは11.5%、ブタジエンは15.9%であった。異性化油の蒸留により得られた潤滑油基油よりも重質な重質留分は、熱分解に戻すことにより、充分なエチレンを再度回収することが可能であることが示された。
(エチレンのオリゴマー化反応におけるオレフィンの影響)
エチレンのオリゴマー化反応において、オレフィンの存在がエチレン重合触媒の触媒効率に与える影響を調べるため、以下の試験を行った。
[参考例]
窒素気流下で、50mLナスフラスコに、式(1a)で表される化合物(1μmol)と、鉄に対して1当量のトリチルテトラキスペンタフルオロフェニルボレートを乾燥トルエン20mlに溶解し、溶液(D)とした。溶液(D)に、式(1a)で表される化合物に対して100当量分のトリメチルアルミニウム(TMA)溶液を加え、5分間撹拌して触媒を含む溶液(E)を得た。あらかじめ減圧下、110℃で充分に乾燥した電磁誘導撹拌機付きの600mLオートクレーブに、窒素気流下で、乾燥トルエン(80mL)を導入し、温度を25℃に調整した。溶液(E)を乾燥トルエンが導入された上記オートクレーブに加え、25℃で0.2MPaのエチレンを連続的に導入した。30分後にエチレンの供給を停止し,未反応のエチレンを除去し、窒素でオートクレーブ内のエチレンをパージし、ごく少量のエタノールを加えた。オートクレーブを開放し、内容物を200mlナスフラスコに移して、溶媒を減圧留去することで、半固形物のオリゴマーを得た。触媒効率は7946kg Olig/Fe molであった。また、得られたオリゴマーのMnは410、Mwは740であり、Mw/Mnは1.9であった。
[比較参考例]
溶液(E)に更に1-デセン(5ml)を加えた以外は、参考例と同様の操作を行って、半固形物のオリゴマーを得た。触媒効率は5186kg Olig/Fe molであった。また、得られたオリゴマーのMnは260、Mwは550であり、Mw/Mnは2.1であった。さらに、得られたオリゴマーを13C NMRを用いて分析したところ、1-デセンは共重合されておらず、生成物はエチレンホモオリゴマーであることが判明した。
この結果から、オリゴマー化反応系に1-デセン等のオレフィンが存在することで、エチレン重合触媒の触媒効率が低下することが分かる。第一の蒸留工程で得られた潤滑油留分以外の留分や、第二の蒸留工程で得られた潤滑油基油以外の留分を、未反応のエチレンを再び重合工程の原料として用いることを目的として、原料油の一部として用いる場合には、エチレン重合触媒の触媒効率を維持する観点から、分解精製工程に戻すことが肝要であることが示された。