JP7231574B2 - 新規な多孔性架橋ポリマー、それを用いた固定化触媒および装置 - Google Patents
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Description
連続流通式合成法においては、触媒活性を有すると同時に、反応溶媒が流通可能であることが求められる。粒子型の固定化触媒は、調製しやすく、スケールなども自在に変更可能であるため、しばしば用いられている。一方で、粒子を充填したカラム管は圧力損失が大きく、液体を流通させることが困難である。また、触媒の固定化も粒子状に形成されるデッドエンド構造部分に集中しやすいので、効果的に作用しにくいことが、これまでに報告されている。粒子型に対して、貫通孔を有する多孔材料を固定化触媒とすることで、低い圧力損失で、基質溶液を流通させ、連続式流通型リアクターとできることが報告されている(例えば、非特許文献5)。
[1] ランダムコポリマーが架橋した架橋性ポリマーであって、前記ランダムコポリマーはトリフェニルホスフィン配位子等のホスフィン配位子を含む構成単位(a1)、構成単位(a2)および架橋構成単位(a3)を有し、かつ多孔性である、ポリマー。殊に、構成単位(a2)は、フェニル基やアルキル基などの疎水性の側鎖官能基を含むスチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド誘導体からなる構成単位からなるポリマーに係る。
[2] 前記構成単位が水と有機溶媒の混合条件下で重合されており、空隙率が60%以上である、上記のポリマー。すなわち、上記の構成単位(a1)、構成単位(a2)および架橋構成単位(a3)を有し、水と有機溶媒の混合によるエマルジョン条件下によって重合されており、空隙率が60%以上、かつ多孔性である架橋ポリマーに係る。本発明の架橋ポリマーは水と有機溶媒の混合によるエマルジョン条件下によって重合されている状態であって、空隙率が60%以上、かつ多孔性である特性を有するが、精緻な物性値で記載することよりも重合の条件により記載することが実際的である。
[3] 前記構成単位(a1)に金属を配位した、上記のポリマー。
[4] [3]に記載のホスフィン配位子を含む構成単位(a1)を有するポリマーに金属を配位した、固定化触媒。
[5] [4]に記載の固定化触媒を含む反応器を備える、連続流通式装置。
[6] [4]に記載の固定化触媒を含む反応器を備える、有機合成装置。
本発明のポリマーは高い空隙率を有することから、これを有する固定化触媒は連続流通反応あるいは有機合成反応に有用である。
本発明の固定化触媒を含む反応器を備える装置は各種有機合成反応への適用が可能で、産業上有用である。
「置換基を有してもよい」と記載する場合、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
「芳香族炭化水素基」は、芳香環を少なくとも1つ有する炭化水素基を意味する。芳香環は、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でもよいし、多環式でもよい。芳香環は、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;及び前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子(酸素原子、硫黄原子、窒素原子等)で置換された芳香族複素環を包含する。
「アルキル基」は、特に断りがない限り、直鎖状、分岐鎖状及び環状の1価の飽和炭化水素基を包含する。アルコキシ基中のアルキル基も同様である。
本実施形態の架橋ポリマーは水と有機溶媒を混合した系で、それらが油層と水層に分かれた上で細かく分散したエマルジョンの条件下で重合する(Andrea BarbettaらChemical Communications, 2000, 221-222)。ポリマーの構成単位は有機溶媒層に溶解して重合するため、水が存在した部分が空隙となり、60%以上の空隙率を有するポリマーになる。
(構成単位(a1))
本発明の構成要件a1は、アルキルもしくはアリールホスフィン骨格、さらに少なくとも1つ以上の置換基、官能基等が結合可能な部位を有した構造式のことであり、具体的には下記一般式で表される構造式である。
ランダムコポリマーは、上記構成単位(a1)に加えて少なくとも1種の他の構成単位を有し、少なくとも2種の構成単位を有する。他の構成単位としては、スチレン、アルキル化スチレン、炭素数1-10のアルキル側鎖を含むアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド誘導体などが挙げられる。
ランダム コポリマーは(a1)および(a2)に加えて、高分子を架橋する構成単位(以下、架橋構成単位(a3)とする)として、以下に示す(a3-1)、(a3-2)、(a3-3)が挙げられる。これらの内でも有機溶媒に可溶で水への溶解性が低いことが望ましいことから、特に以下に示す(a3-1)が好ましい。
架橋性ポリマーは水と有機溶媒と界面活性剤を混合したエマルジョン状態によって重合する。ランダムコポリマーの各構成単位を誘導する重合性のホスフィン、モノマー、架橋剤を含む、重合性モノマー混合体を、重合開始剤の存在下で、ラジカル重合することにより製造することができる。
ここで、架橋ポリマーの空隙率は、アルキメデス法、ピクノメーター、吸水率測定、通気率測定など公知の任意の方法で測定することができる。また架橋ポリマーの孔径は、ガス吸着法、ガス透過法、ガス拡散法、水銀圧入法、X線小角散乱法など公知の任意の方法で測定することができる。
ホスフィン配位子固定化高分子に対して、金属を加えて錯体を調製する。加える金属としては、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ニッケルなどが挙げられる。特に、パラジウムのPdCl2(PhCN)2を加えて調製した固定化触媒が好ましい。
1実施形態において、本発明は、金属触媒を固定化した多孔性ポリマーによる固定化触媒と連続流通式リアクターを提供する。
図9に示すように、本発明の一実施形態である連続流通式装置もしくは有機合成装置1は、注入用シリンジ2,3より、ホスフィン配位子、反応基質、溶媒等を送液し、T字流路6において合流させる。その後、反応器(カラム)4に入った後、反応器4に備える固定化触媒層(カラム内)5と接触し、反応が進行する。
例えば、注入用シリンジ2,3より送液するのは、一方のシリンジに例えば[PdCl2(PhCN)2]、基質(THFなどに溶解)などを送液する有機層側と、K3PO4(水に溶解)などを送液する水層側とを、T字流路6において合流させ、その後、固定化触媒層5を備えた反応器4に送液され、反応器(カラム)4内において有機反応が進行する。その後、図7では反応器4の下方より反応生成物が送液されて出てくることになる。なお、図7では反応器4の下方より反応生成物が送液されるが、反応器4下方より基質等を送液し、反応器4の上方より反応生成物が送液される形態をとることもできる。
一実施形態において、本発明は、前記実施形態の多孔性固体触媒をクロスカップリングに用いることを含む連続流通式リアクターに適用する触媒を提供する。
一実施形態において、本発明は、多孔性固定化触媒を、ホスフィン配位子を用いた金属触媒を用いる連続式流通リアクターに適用する触媒を提供する。
なお以下の実施例で得られた架橋ポリマーの空隙率及び孔径は、水銀圧入法により測定した。
<Tris(4-vinylphenyl)phosphineの合成>
1H NMR (CDCl3): δ 5.27 (d, J = 11.0 Hz, 3H), 5.77 (d, J = 17.4 Hz, 3H), 6.70 (dd, J = 17.4, 11.0 Hz, 3H), 7.23-7.38 (m, 12H).
13C NMR (CDCl3): δ 114.85 (3C), 126.44 (d, JC-P= 7.1 HZ, 6C), 134.00 (d, JC-P= 19.2 Hz, 6C), 136.45 (3C), 136.72 (d, JC-P= 10.1 Hz, 3C), 138.07 (3C).
31P NMR (CDCl3): δ-6.21.
<エマルジョン条件下の重合>
Tris(p-vinylphenyl)phosphine(1 当量)(上記および、Iwaiら、Angewante Chem Int. Ed. 2013, 52, 12322-12326)、ジビニルベンゼン(純度80%以上、シグマアルドリッチ社製20 当量.)、および4-tertブチルスチレン(純度90%以上、東京化成社製、41当量)の重合によるコポリマーで、多孔性高分子を調製した。撹拌子(20 mm × 4 mm、ロッド状)を入れたガラスバイアル(およそ20 mm i.d.)内にて、モノマー(Tris(4-vinylphenyl)phosphine、ジビニルベンゼン、および4-tertブチルスチレン)(全量で1.0 mmol)、クロロベンゼン(純度99%以上、和光純薬社製、0.19 mL)、およびSpan 80(東京化成社製、0.06 mL)を混合し、均一な有機相を得た。その有機相を3回の凍結融解サイクルにより脱気した。別に、塩化カルシウム(純度95%以上、和光純薬社製)水溶液(0.10 mol Lー1)にペルオキソ二硫酸カリウム(純度99%以上、和光純薬社製、1.9 mol%)を溶解し水相を得た。窒素を溶液に供給して、水相を脱気した。ここで有機溶媒と水溶媒の体積比率を 1:9 v/vとした。シリンジを用いて、撹拌下(500 rpm)で水相を有機相へと滴下した。すべて添加した後、さらに5分間撹拌することで溶液が白く懸濁したエマルジョンを得た。得られたエマルジョンを70°Cで6時間インキュベートした。得られた多孔性高分子をテトラヒドロフラン(THF)(純度99.5%安定剤入り 和光純薬社製)と水(水はMilliQ水)の1:1混合溶媒(1:1 v/v)とTHFにそれぞれ一浸漬して洗浄した。洗浄後、室温で終夜、真空乾燥して白色固体を得た(収量142mg、収率92%)。
<多孔性高分子の評価>
多孔性高分子は、走査型電子顕微鏡(SU8000、日立ハイテクノロジー社製)と水銀圧入法(オートポア、島津製作所社製)によって分析した。図1、図2に示すように、1-100μmの孔径を有する多孔性高分子であることが明らかになった。
図3に示すように31P-NMRによる分析で目的化合物が得られていることを確認した。
図4に示すようにTHFの透過試験を行い、THFが透過可能な多孔構造を有しており、高い透過率を有していることを確認した。
<パラジウム配位触媒の調製>
乾燥した前記の多孔性高分子(200 mg, 0.02 mmol)をガラスバイアルに入れ、[PdCl2(PhCN)2]( Bis(benzonitrile)palladium(II) Dichloride、東京化成社製)(3.8 mg, 0.01 mmol, P/Pd 2:1)の THF溶液(10 mL)を添加した。密栓し、室温で2 h浸漬した。脱脂綿の栓を用いてろ過し、THFで洗浄後、真空下で残留溶媒を除去し黄色固体を得た。
また、203MHzの共鳴周波数の下、Bruker AVANCE III 500分光器(ブルカー社製)を用いて31P 交差分極/マジック角回転核磁気共鳴分光(CP/MAS NMR)によって分析し、パラジウムの配位によるPのピークの変化を観測した(図6)。
パラジウム固定化触媒を用いた、クロスカップリングの連続流通合成を行うにあたり、参考例として、液液二相系において、バッチ式反応系により下記のクロスカップリング反応を行なった。
ステンレスカラム中での前記多孔性高分子の重合および続くパラジウムの担持を行い、THFで洗浄した(2.5 時間, 滞留時間 = 0.5 時間)。4-クロロトルエン(純度98%以上、東京化成工業、0.5 mol/L, 1eq.)、フェニルボロン酸(純度97%以上、東京化成工業、0.75 mol/L, 1.5eq.)、およびテトラブチルアンモニウムブロマイド(純度98%以上、東京化成工業、TBAB, 0.05 mol%)のTHF(純度99.5%以上、和光純薬社製)溶液を調製しガスタイトシリンジに充填した。別に、K3PO4(純度97%以上、和光純薬社製、3 mol/L, 3eq.)の水溶液を調製しガスタイトシリンジに充填した。T字流路を介して、二つのシリンジポンプを用いて二相反応溶液を同時に供給した(THF 相/水相、2:1 v/v)。カラムから流出するTHF相および水相を連続的に採取した。DG-980-50デガッサ、PU-980ポンプ(日本分光社製)、Mightysil RP-18 GP 250-4.6カラム(関東化学社製)、UV-2077Plus UV検出器(日本分光社製)、およびCO-2065Plusカラムオーブン(日本分光社製)を搭載した、LC-2000Plusシステム(日本分光社製)を用いた高速液体クロマトグラフィーにより、THF相中の収率を算出した。そのときの生成物(4-methyl-1,1'-biphenyl)の収率を次の図7に示す。
反応後、THF/water(2:1 v/v)、次いでTHFを供給することでカラムを洗浄した(2.5 時間, 滞留時間 = 0.5 時間)。真空下、カラム中の多孔性高分子を乾燥した。
図7より、上部図に示す線速度uが小さいほど収率が高くなり、図7ではτ=1.5hで収率が極大となる。τが増加することで、触媒-基質の接触が増加し、また線速度uの減少(撹拌の緩和)が生じることになる。従って、カラム長さを長くすることでより大きくuを保持でき、反応の効率化が図れることが推測できる。
<パラジウムの漏出の調査>
誘導結合プラズマ-原子吸光分析を用いて、パラジウムの担持、触媒反応、および反応後の洗浄において流出したパラジウムを定量した。カラムからの流出液(THFあるいは水相)をHCl(1 mol/L)で10倍希釈し、Seiko Instruments SPS-1700 HVR分光器(セイコーインスツル社製)を用いてパラジウム濃度を測定した。また、使用後のカラムのパラジウムの様子を透過型電子顕微鏡によって観測した(図8)。
誘導結合プラズマ-原子吸光分析では、パラジウムは検出限界以下で、漏出はないことがわかった。透過型電子顕微鏡では図8のようになり、パラジウムの粒子が観測された。
2,3 注入用シリンジ
4 反応器(カラム)
5 固定化触媒層(カラム内)
6 T字流路
Claims (4)
- トリフェニルホスフィン配位子、架橋性モノマー、モノマーおよび界面活性剤を混合した有機相に重合開始剤を水に溶解した水相を添加し撹拌してエマルジョンを得た後、重合する、架橋性ランダムコポリマーの製造方法であって、
前記ポリマーは、空隙率が60%以上であり、かつ1μm~100μmの孔径を有し、
前記ポリマーは、下記一般式で表される構造式である構成単位(a1)
以下に示す(a2-1)、(a2-2)または(a2-3)で表される構成単位(a2)
以下に示す(a3-1)、(a3-2)または(a3-3)で表される架橋構成単位(a3)を有し、
- 請求項1に記載の方法によって製造された架橋性ランダムコポリマーに対し、金属溶液を浸漬した後、ろ過して金属を固定化したポリマーを得る、金属を固定化したポリマーの製造方法であって、
前記金属がパラジウム、ロジウム、イリジウム及びニッケルからなる群より選ばれる1または複数の金属である、金属を固定化したポリマーの製造方法。 - トリフェニルホスフィン配位子、架橋性モノマー、モノマーおよび界面活性剤を混合した有機相に重合開始剤を水に溶解した水相を添加し撹拌してエマルジョンを得た後、重合することにより、架橋性ランダムコポリマーを得て、次いで、当該ポリマーに対し金属溶液を浸漬した後、ろ過することにより得られる、金属を固定化したポリマーであって、
前記架橋性ランダムコポリマーは、空隙率が60%以上であり、かつ1μm~100μmの孔径を有する、金属を固定化したポリマー。 - フェニルハロゲン化物とフェニルホウ素化合物が有機溶媒に溶解した有機相と、塩基性塩を含む水相とを、T字流路を介して、請求項3に記載の金属を固定化したポリマーを充填したカラムに供給して反応させ、前記フェニルハロゲン化物と前記フェニルホウ素化合物とがカップリングした生成物を得る、方法。
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