JP7231134B1 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

無方向性電磁鋼板およびその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP7231134B1
JP7231134B1 JP2022568991A JP2022568991A JP7231134B1 JP 7231134 B1 JP7231134 B1 JP 7231134B1 JP 2022568991 A JP2022568991 A JP 2022568991A JP 2022568991 A JP2022568991 A JP 2022568991A JP 7231134 B1 JP7231134 B1 JP 7231134B1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
steel sheet
content
oriented electrical
electrical steel
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2022568991A
Other languages
English (en)
Inventor
孝明 田中
智幸 大久保
善彰 財前
幸乃 宮本
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
JFE Steel Corp
Original Assignee
JFE Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by JFE Steel Corp filed Critical JFE Steel Corp
Priority claimed from PCT/JP2022/040034 external-priority patent/WO2024089828A1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7231134B1 publication Critical patent/JP7231134B1/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02TCLIMATE CHANGE MITIGATION TECHNOLOGIES RELATED TO TRANSPORTATION
    • Y02T10/00Road transport of goods or passengers
    • Y02T10/60Other road transportation technologies with climate change mitigation effect
    • Y02T10/64Electric machine technologies in electromobility

Abstract

ロータコアに適した良好な疲労特性を有し、しかもステータコアに適した優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供する。質量%で、C:0.01%以下、Si:2.0%以上4.5%未満、Mn:0.05%以上5.00%以下、P:0.1%以下、S:0.01%以下、Al:3.0%以下およびN:0.005%以下を含み、かつSi+Alが4.5%未満であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、鋼板中の結晶粒について、平均結晶粒径X1が60μm以上200μm以下であり、結晶粒径分布の標準偏差S1が所定式(1)を満たし、かつ結晶粒径分布の尖度K1が2.00以下である、無方向性電磁鋼板である。

Description

本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
近年、電気機器に対する省エネルギー化への要求が世界的に高まっている。これに伴い、回転機の鉄心に使用される無方向性電磁鋼板に対しても、より優れた磁気特性が要求されるようになってきている。また、最近では、HEV(ハイブリッド車)やEV(電気自動車)の駆動モータ等において、小型化・高出力化のニーズが強く、かかるニーズに応じるため、モータの回転数を上昇させることが検討されている。
モータコアは、ステータコアとロータコアとに分けられるが、HEV駆動モータのロータコアには、その外径が大きいことから、大きな遠心力が働く。また、ロータコアは、構造上、ロータコアブリッジ部と呼ばれる非常に狭い部分(幅:1~2mm)が存在し、該部分はモータ駆動中には特に高応力状態となる。さらに、モータが回転と停止とを繰り返すことでロータコアには遠心力による大きな繰り返し応力が働くことから、ロータコアに用いられる電磁鋼板は、優れた疲労特性を有する必要がある。特に、モータの駆動によってロータコアの温度は100℃~150℃程度まで上昇することから、ロータコアに用いられる電磁鋼板は100℃近辺で優れた疲労特性を有する必要がある。
一方、ステータコアに用いられる電磁鋼板は、モータの小型化・高出力化を達成するため、高磁束密度かつ低鉄損であることが望ましい。すなわち、モータコアに使用される電磁鋼板に求められる特性として、ロータコア用の電磁鋼板は優れた疲労特性を有すること、また、ステータコア用の電磁鋼板は高磁束密度かつ低鉄損であることが理想的である。
このように、同じモータコアに使用される電磁鋼板であっても、ロータコアとステータコアとでは、要求される特性が大きく異なる。しかし、モータコアの製造においては、材料歩留りおよび生産性を高めるため、同一の素材鋼板からロータコア材とステータコア材を打ち抜き加工により同時に採取し、その後、それぞれの鋼板を積層してロータコアまたはステータコアに組み立てることが望ましい。
モータコア用の高強度で低鉄損の無方向性電磁鋼板を製造する技術として、例えば、特許文献1には、高強度の無方向性電磁鋼板を製造し、該鋼板から打抜加工でロータコア材とステータコア材とを採取して積層し、ロータコアおよびステータコアを組み立てた後、ステータコアのみに歪取り焼鈍を施すといった、高強度のロータコアと低鉄損のステータコアとを同一素材から製造する技術が開示されている。
特開2008-50686号公報
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、本発明者らの検討によると、高強度の無方向性電磁鋼板を使用することにより降伏応力は向上するが、最も重要な特性である温間疲労強度は必ずしも向上するとは限らない点が懸念される。さらに、特許文献1に開示の技術では、粒成長を促進するのに高温での歪取り焼鈍が要求される点、そのための設備の導入にコストがかかることから、すでに焼鈍設備を有する一部のメーカーを除き、経済的観点より技術の普及が進みにくいといった問題がある。
本発明は、上記従来技術が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロータコアに適した良好な疲労特性を有し、しかもステータコアに適した優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供するとともに、該無方向性電磁鋼板を安価に製造する方法について提案することにある。
本発明者らが上記課題の解決に関し鋭意検討したところ、結晶粒径分布を制御することによって、疲労強度、特に温間疲労強度が高く、しかも低鉄損である無方向性電磁鋼板が得られることを知見するに到った。さらに、冷間圧延の最終パスにおける圧延条件の適正化を図ることにより、結晶粒径分布を制御できることも見出した。
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、以下の構成を有する。
[1]無方向性電磁鋼板であって、
質量%で、
C:0.01%以下、
Si:2.0%以上4.5%未満、
Mn:0.05%以上5.00%以下、
P:0.1%以下、
S:0.01%以下、
Al:3.0%以下および
N:0.0050%以下
を含み、かつSi+Alが4.5%未満であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
鋼板中の結晶粒について、平均結晶粒径Xが60μm以上200μm以下であり、結晶粒径分布の標準偏差Sが次式(1):
/X<0.75 …(1)
を満たし、かつ、結晶粒径分布の尖度Kが2.00以下であることを特徴とする、無方向性電磁鋼板。
[2]前記成分組成は、さらに質量%で、
Co:0.0005%以上0.0050%以下
を含む、前記[1]に記載の無方向性電磁鋼板。
[3]前記成分組成は、さらに質量%で、
Cr:0.05%以上5.00%以下
を含む、前記[1]または[2]に記載の無方向性電磁鋼板。
[4]前記成分組成は、さらに質量%で、
Ca:0.001%以上0.100%以下、
Mg:0.001%以上0.100%以下および
REM:0.001%以上0.100%以下
のいずれか1種または2種以上を含む、前記[1]から[3]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
[5]前記成分組成は、さらに質量%で、
Sn:0.001%以上0.200%以下および
Sb:0.001%以上0.200%以下
のいずれか1種または2種を含む、前記[1]から[4]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
[6]前記成分組成は、さらに質量%で、
Cu:0%以上0.5%以下、
Ni:0%以上0.5%以下,
Ti:0%以上0.005%以下、
Nb:0%以上0.005%以下、
V:0%以上0.010%以下、
Ta:0%以上0.002%以下、
B:0%以上0.002%以下、
Ga:0%以上0.005%以下、
Pb:0%以上0.002%以下、
Zn:0%以上0.005%以下、
Mo:0%以上0.05%以下、
W:0%以上0.05%以下、
Ge:0%以上0.05%以下および
As:0%以上0.05%以下
のいずれか1種または2種以上を含む、[1]から[5]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板。
[7]前記[1]から[6]のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
前記[1]から[6]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施して熱延板を得る熱間圧延工程と、
前記熱延板に酸洗を施す酸洗工程と、
前記酸洗が施された前記熱延板に、最終パスのワークロール径Dが150mmφ以上、最終パスの圧下率rが15%以上、および最終パスのひずみ速度ε100s-1以上1300s-1以下の条件にて冷間圧延を施して冷延板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延板を、500℃から700℃の平均昇温速度Vが10℃/s以上の条件にて、875℃以上1050℃以下の焼鈍温度Tまで加熱したのち、冷却して、無方向性電磁鋼板である冷延焼鈍板を得る焼鈍工程と、
を備える無方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、温間疲労強度が高いというロータコアに適した特性と、磁気特性に優れるというステータコアに適した特性とを併せ持つ無方向性電磁鋼板を提供することができる。従って、本発明の無方向性電磁鋼板を用いることにより、高性能なモータコアを材料歩留りよく安価に提供することができる。なお、打抜き時の歪みによる鉄損の上昇を低減することを目的として、本発明の鋼板に歪取り焼鈍を施しても、上記効果は何ら影響を受けない。
以下、本発明の詳細を、その限定理由とともに説明する。
<無方向性電磁鋼板の成分組成>
本発明の無方向性電磁鋼板が有する好適な成分組成について説明する。成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
C:0.01%以下
Cは、モータの使用中に炭化物を形成して磁気時効を起こし、鉄損特性を劣化させる有害元素である。磁気時効を回避するためには、鋼板におけるC含有量は0.01%以下とする。好ましくは、C含有量は0.004%以下である。なお、C含有量の下限は、特に規定しないが、過度にCを低減した鋼板は非常に高価であることから、C含有量は0.0001%以上であることが好ましい。
Si:2.0%以上4.5%未満
Siは、鋼の固有抵抗を高め、鉄損を低減する効果があり、また、固溶強化により鋼の強度を高める効果がある。このような効果を得るためには、Si含有量を2.0%以上とする。一方、Si含有量が4.5%以上になると、飽和磁束密度の低下に伴い磁束密度が顕著に低下するため、Si含有量は4.5%未満とした。従って、Si含有量は2.0%以上4.5%未満の範囲とする。Si含有量は、好ましくは2.5%以上4.5%未満であり、より好ましくは3.0%以上4.5%未満である。
Mn:0.05%以上5.00%以下
Mnは、Siと同様、鋼の固有抵抗および強度を高めるのに有用な元素である。このような効果を得るためには、Mn含有量を0.05%以上とする必要がある。一方、Mn含有量が5.00%を超えると、MnCの析出を促進して磁気特性を劣化させる場合があるため、Mn含有量の上限は5.00%とした。従って、Mn含有量は0.05%以上5.00%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.10%以上であり、また、好ましくは3.00%以下である。
P:0.1%以下
Pは、鋼の強度(硬さ)の調整に用いられる有用な元素である。しかし、P含有量が0.1%を超えると、靱性が低下し、加工時に割れを生じやすいため、P含有量は0.1%以下とする。なお、P含有量の下限は、特に規定しないが、過度にPを低減した鋼板は非常に高価であることから、P含有量は0.001%以上であることが好ましい。P含有量は、好ましくは0.003%以上であり、また、好ましくは0.08%以下である。
S:0.01%以下
Sは、微細析出物を形成して鉄損特性に悪影響を及ぼす元素である。特に、S含有量が0.01%を超えると、その悪影響が顕著になるため、S含有量は0.01%以下とする。なお、S含有量の下限は、特に規定しないが、過度にSを低減した鋼板は非常に高価であることから、S含有量は0.0001%以上であることが好ましい。S含有量は、好ましくは0.0003%以上であり、また、好ましくは0.0080%以下であり、より好ましくは0.0050%以下である。
Al:3.0%以下
Alは、Siと同様、鋼の固有抵抗を高め、鉄損を低減する効果がある有用な元素である。このような効果を得るためには、Al含有量を0.005%以上とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.010%以上であり、さらに好ましくは0.015%以上である。一方、Al含有量が3.0%を超えると、鋼板表面の窒化を助長し、磁気特性を劣化させることがあるため、Al含有量の上限は3.0%とした。Al含有量は、好ましくは2.0%以下である。
N:0.0050%以下
Nは、微細析出物を形成して鉄損特性に悪影響を及ぼす元素である。特に、N含有量が0.0050%を超えると、その悪影響が顕著になるため、N含有量は0.0050%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0030%以下である。なお、N含有量の下限は特に規定しないが、過度にNを低減した鋼板は非常に高価であることから、N含有量は0.0005%以上であることが好ましい。N含有量は、好ましくは0.0008%以上であり、また、好ましくは0.0030%以下である。
Si+Al:4.5%未満
Si+Al(SiおよびAlの合計含有量)を4.5%未満とし、さらに適切な条件で冷間圧延を施すことにより、冷延焼鈍板の結晶粒径分布の尖度を下げる効果がある。これにより、疲労強度が上昇する。従って、Si+Alの値は4.5%未満とする。なお、Si+Alの値を4.5%未満とし、さらに適切な冷間圧延を組み合わせることにより結晶粒径分布の尖度が低下する理由は不明である。ただしこの点に関し、本発明者らは、冷間圧延時に活動する、辷り系のバランスが変化し、冷間圧延中のせん断ひずみ分布が最適化されることによって生じた効果であると推測している。
一実施形態の電磁鋼板の成分組成において、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。ただし、別の実施形態の電磁鋼板の成分組成は、さらに要求特性に応じて、上記成分(元素)に加えて、後述する元素のうちから選ばれる1種または2種以上を所定量含有することができる。
Co:0.0005%以上0.0050%以下
Coには、Si+Alおよび冷間圧延条件の適切な制御により焼鈍板の結晶粒径分布の尖度が低下する作用を補強する効果がある。すなわち、Coの微量添加により、結晶粒径分布の尖度を安定的に低下させることができる。このような効果を得るためには、Co含有量を0.0005%以上とすればよい。一方、Coは、含有量が0.0050%を超えると効果が飽和し、いたずらにコストの上昇を招くため、Coを添加する場合には、Co含有量の上限を0.0050%とした。従って、上記成分組成は、さらに、Co:0.0005%以上0.0050%以下を含むことが好ましい。
Cr:0.05%以上5.00%以下
Crは、鋼の固有抵抗を高め、鉄損を低減する効果がある。このような効果を得るためには、Cr含有量を0.05%以上とすればよい。一方、Crは、含有量が5.00%を超えると、飽和磁束密度の低下に伴い磁束密度が顕著に低下するため、Crを添加する場合には、Cr含有量の上限を5.00%とした。従って、上記成分組成は、さらに、Cr:0.05%以上5.00%以下を含むことが好ましい。
Ca:0.001%以上0.100%以下
Caは、硫化物としてSを固定し、鉄損低減に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Ca含有量を0.001%以上とすればよい。一方、Caは、含有量が0.100%を超えると効果が飽和し、いたずらにコストの上昇を招くため、Caを添加する場合には、Ca含有量の上限を0.100%とした。
Mg:0.001%以上0.100%以下
Mgは、硫化物としてSを固定し、鉄損低減に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Mg含有量を0.001%以上とすればよい。一方、Mgは、含有量が0.100%を超えると効果が飽和し、いたずらにコストの上昇を招くため、Mgを添加する場合には、Mg含有量の上限を0.100%とした。
REM:0.001%以上0.100%以下
REMは、硫化物としてSを固定し、鉄損低減に寄与する元素群である。このような効果を得るためには、REM含有量を0.001%以上とすればよい。一方、REMは、含有量が0.100%を超えると効果が飽和し、いたずらにコストの上昇を招くため、REMを添加する場合には、REM含有量の上限を0.100%とした。
同様の観点で、上記成分組成は、さらに、Ca:0.001%以上0.100%以下、Mg:0.001%以上0.100%以下およびREM:0.001%以上0.100%以下のいずれか1種または2種以上を含むことが好ましい。
Sn:0.001%以上0.200%以下
Snは、集合組織改善により磁束密度向上および鉄損低減に効果的な元素である。このような効果を得るためには、Snの含有量を0.001%以上とすればよい。一方、Snは、含有量が0.200%を超えると効果が飽和し、いたずらにコストの上昇を招くため、Snを添加する場合には、Sn含有量の上限を0.200%とした。
Sb:0.001%以上0.200%以下
Sbは、集合組織改善により磁束密度向上および鉄損低減に効果的な元素である。このような効果を得るためには、Sbの含有量を0.001%以上とすればよい。一方、Sbは、含有量が0.200%を超えると効果が飽和し、いたずらにコストの上昇を招くため、Sbを添加する場合には、Sb含有量の上限を0.200%とした。
同様の観点で、上記成分組成は、さらに、Sn:0.001%以上0.200%以下およびSb:0.001%以上0.200%以下のいずれか1種または2種を含むことが好ましい。
Cu:0%以上0.5%以下
Cuは、鋼の靭性を向上させる元素であり、適宜、添加することができる。しかし、Cuは、含有量が0.5%を超えると効果が飽和するため、Cuを添加する場合には、Cu含有量の上限を0.5%とした。Cuを添加する場合には、Cu含有量は、より好ましくは0.01%以上であり、また、より好ましくは0.1%以下である。なお、Cu含有量は、0%であってもよい。
Ni:0%以上0.5%以下
Niは、鋼の靭性を向上させる元素であり、適宜、添加することができる。しかし、Niは、含有量が0.5%を超えると効果が飽和するため、Niを添加する場合には、Ni含有量の上限を0.5%とした。Niを添加する場合には、Ni含有量は、より好ましくは0.01%以上であり、また、より好ましくは0.1%以下である。なお、Ni含有量は、0%であってもよい。
Ti:0%以上0.005%以下
Tiは、微細な炭窒化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Tiは、含有量が0.005%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Tiを添加する場合には、Ti含有量の上限を0.005%とした。Ti含有量は、より好ましくは0.002%以下である。なお、Ti含有量は、0%であってもよい。
Nb:0%以上0.005%以下
Nbは、微細な炭窒化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Nbは、含有量が0.005%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Nbを添加する場合には、Nb含有量の上限を0.005%とした。Nb含有量は、より好ましくは0.002%以下である。なお、Nb含有量は、0%であってもよい。
V:0%以上0.010%以下
Vは、微細な炭窒化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Vは、含有量が0.010%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Vを添加する場合には、V含有量の上限を0.010%とした。V含有量は、より好ましくは0.005%以下である。なお、V含有量は、0%であってもよい。
Ta:0%以上0.002%以下
Taは、微細な炭窒化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Taは、含有量が0.002%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Taを添加する場合には、Ta含有量の上限を0.002%とした。Ta含有量は、より好ましくは0.001%以下である。なお、Ta含有量は、0%であってもよい。
B:0%以上0.002%以下
Bは、微細な窒化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Bは、含有量が0.002%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Bを添加する場合には、B含有量の上限を0.002%以下とした。B含有量は、より好ましくは0.001%以下である。なお、B含有量は、0%であってもよい。
Ga:0%以上0.005%以下
Gaは、微細な窒化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Gaは、含有量が0.005%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Gaを添加する場合には、Ga含有量の上限を0.005%とした。Ga含有量は、より好ましくは0.002%以下である。なお、Ga含有量は、0%であってもよい。
Pb:0%以上0.002%以下
Pbは、微細なPb粒子を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Pbは、含有量が0.002%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Pbを添加する場合には、Pb含有量の上限を0.002%とした。Pb含有量は、より好ましくは0.001%以下である。なお、Pb含有量は、0%であってもよい。
Zn:0%以上0.005%以下
Znは、微細介在物を増加させ鉄損を増加させる元素であり、特に、含有量が0.005%を超えると悪影響が顕著になる。よって、Znを添加する場合には、Zn含有量の上限を0.005%とした。Zn含有量は、より好ましくは0.003%以下である。なお、Zn含有量は、0%であってもよい。
Mo:0%以上0.05%以下
Moは、微細炭化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Moは、含有量が0.05%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Moを添加する場合には、Mo含有量の上限を0.05%とした。Mo含有量は、より好ましくは0.02%以下である。なお、Mo含有量は、0%であってもよい。
W:0%以上0.05%以下
Wは、微細炭化物を形成し、析出強化により鋼板強度を高めることを介して温間疲労強度を向上させるため、適宜、添加することができる。一方、Wは、含有量が0.05%を超えると、焼鈍工程における粒成長性を劣化させ、鉄損の増加を招く。よって、Wを添加する場合には、W含有量の上限を0.05%とした。W含有量は、より好ましくは0.02%以下である。なお、W含有量は、0%であってもよい。
Ge:0%以上0.05%以下
Geは、集合組織の改善により磁束密度の向上および鉄損低減に効果的な元素であるため、適宜、添加することができる。一方、Geは、含有量が0.05%を超えると効果が飽和するため、Geを添加する場合には、Ge含有量の上限を0.05%とした。Ge含有量は、より好ましくは0.002%以上であり、また、より好ましくは0.01%以下である。なお、Ge含有量は、0%であってもよい。
As:0%以上0.05%以下
Asは、集合組織の改善により磁束密度の向上および鉄損低減に効果的な元素であるため、適宜、添加することができる。一方、Asは、含有量が0.05%を超えると効果が飽和するため、Asを添加する場合には、As含有量の上限を0.05%とした。As含有量は、より好ましくは0.002%以上であり、また、より好ましくは0.01%以下である。なお、As含有量は、0%であってもよい。
以上の成分組成において、上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
<無方向性電磁鋼板のミクロ組織>
次に、本発明の無方向性電磁鋼板におけるミクロ組織(結晶粒の態様)について説明する。
(平均結晶粒径X:60μm以上200μm以下)
本発明者らの検討によると、鋼板中の結晶粒が微細であることで、疲労強度が向上することが判明した。すなわち、平均結晶粒径Xが200μm以下であれば、温間疲労強度がHEVまたはEVに適用するモータ(以下、HEV/EVモータという)のロータ用材料で必要とされる値を満足し得るため、本発明の無方向性電磁鋼板においては、平均結晶粒径Xを200μm以下とした。ここで、温間疲労強度について、ロータ用材料で必要とされる値とは、300MPa以上である。
一方で、平均結晶粒径Xが過度に微細であると、鉄損が上昇する。そこで、本発明の無方向性電磁鋼板においては、平均結晶粒径Xを60μm以上とした。これにより、目標の鉄損特性(W10/400≦15.0(W/kg))を達成できる。
(結晶粒径分布の標準偏差S:式(1)を満足)
結晶粒径分布の標準偏差の値が平均結晶粒径に対して大きい場合には、鉄損の低減に不利な過度に微細な結晶粒や過度に粗大な結晶粒が多数存在することになるため、鉄損が上昇する。そこで、本発明の無方向性電磁鋼板においては、鉄損がHEV/EVモータのステータ用材料で必要とされる上記目標値を示すために、結晶粒径分布の標準偏差Sが次式(1):
/X<0.75 …(1)
を満たすようにすることとした。また、本発明の無方向性電磁鋼板は、結晶粒径分布の標準偏差Sが次式(1’):
/X<0.70 …(1’)
を満たすことが好ましい。
(結晶粒径分布の尖度K:2.00以下)
本発明者らは、結晶粒径分布の尖度を制御することで、温間疲労強度の高い、かつ低鉄損の無方向性電磁鋼板を実現できることを見出した。結晶粒径分布の尖度を、前述した結晶粒径分布の標準偏差Sと同時に制御することによってこのような効果を得られる。
ここで、尖度とは、JISZ8101-1:2015における(標本)とがりに相当し、分布の裾の重さに関連する。JISZ8101-1:2015はISO3534-1:2006に対応する。尖度が高い場合には、同じ標準偏差を有する分布であっても分布形状が正規分布である場合と比較して、極端に平均から外れた値が高確率で存在する分布であることを意味する。すなわち、本件明細書において尖度は、結晶粒径分布のばらつきに対して極端に粗大な結晶粒および/または極端に微細な結晶粒が存在する頻度についての指標となる。尖度が高い場合には極端に粗大な結晶粒および/または極端に微細な結晶粒の存在頻度が高い。極端に粗大な結晶粒や極端に微細な結晶粒が混在すると繰り返し応力負荷時に過度の応力集中とそれに起因する局所的な繰り返しひずみが生じ易い。100℃程度の温間の条件ではひずみ集中部がひずみ時効により硬質化し、組織中で硬度の不均一が増強されることから、特に100℃程度の温間疲労特性を劣化させる。さらに、極端に粗大な結晶粒は渦電流損の増加を誘発し、極端に微細な結晶粒はヒステリシス損の増加を誘発するため、鋼板全体としての鉄損特性を劣化させる。具体的には、結晶粒径分布の尖度Kが2.00以下であれば、極端に粗大な結晶粒や極端に微細な結晶粒の存在頻度が十分小さく、疲労限がHEV/EVモータのロータ用材料で必要とされる上記値を満足するとともに、鉄損がHEV/EVモータのステータ用材料で必要とされる、上記値を示すこととなる。このため、本発明の無方向性電磁鋼板においては、結晶粒径分布の尖度Kを2.00以下とした。結晶粒径分布の尖度Kは、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.00以下である。なお、上記尖度Kの下限は、特に限定する必要はないが、本発明の手法を駆使して製造した場合においても通常0以上である。
なお、尖度Kは、後述の実施例に記載する手順に従って求めることができ、正規分布の値を0に調整した公式を用いて算出した値である。
<モータコア>
モータコアは、上記の無方向性電磁鋼板の積層体であるロータコアと、上記の無方向性電磁鋼板の積層体であるステータコアとにより形成することができる。該モータコアは、ロータコアは温間疲労強度が高く、かつステータコアは磁気特性に優れていることから、小型化かつ高出力化を容易に実現することができる。
<無方向性電磁鋼板の製造方法>
次に、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
概略的には、上記成分組成を有する鋼素材を出発素材として、熱間圧延工程、任意の熱延板焼鈍工程、酸洗工程、冷間圧延工程、焼鈍工程を順次行う方法であり、これにより、上述した本発明の無方向性電磁鋼板を得ることができる。本発明においては、鋼素材の成分組成、冷間圧延工程、および焼鈍工程の条件が所定の範囲内であれば、それ以外の条件は特に限定されない。なお、モータコアの製造方法に関しては、特に限定されず、通常公知の手法を用いることができる。
(鋼素材〉
鋼素材は、無方向性電磁鋼板について既述した成分組成を有する鋼素材であれば、特に限定されない。
鋼素材の溶製方法としては、特に限定されず、転炉または電気炉等を用いた公知の溶製方法を採用できる。生産性等の問題から、溶製後に、連続鋳造法によりスラブ(鋼素材)とすることが好ましいが、造塊-分塊圧延法または薄スラブ連鋳法等の公知の鋳造方法によりスラブとしてもよい。
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程は、上記成分組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施すことにより、熱延板を得る工程である。熱間圧延工程は、上記成分組成を有する鋼素材を加熱し、熱間圧延を施して、所定寸法の熱延板が得られる工程であれば、特に限定されず、常用の熱間圧延工程を適用できる。
常用の熱間圧延工程としては、例えば、鋼素材を1000℃以上1200℃以下の温度に加熱し、加熱した鋼素材に、800℃以上950℃以下の仕上圧延出側温度で熱間圧延を施し、熱間圧延が終了した後、適正な圧延後冷却(例えば、450℃以上950℃以下の温度域を、20℃/s以上100℃/s以下の平均冷却速度で冷却する)を施して、400℃以上700℃以下の巻取温度で巻き取り、所定寸法形状の熱延板とする、熱間圧延工程が挙げられる。
(熱延板焼鈍工程)
熱延板焼鈍工程は、上記熱延板を加熱し高温保持することにより、熱延板を焼鈍する工程である。熱延板焼鈍工程は、特に限定されず、常用の熱延板焼鈍工程を適用できる。なお、この熱延板焼鈍工程は必須ではなく、省略することもできる。
(酸洗工程)
酸洗工程は、上記熱間圧延工程または任意の上記熱延板焼鈍工程の後の熱延板に、酸洗を施す工程である。酸洗工程は、酸洗後の鋼板に冷間圧延を施すことができる程度に酸洗できる工程であれば、特に限定されず、例えば塩酸または硫酸等を使用する常用の酸洗工程を適用できる。この酸洗工程は、上記熱延板焼鈍工程を行う場合には、当該熱延板焼鈍工程と同一ライン内で連続して実施してもよいし、別ラインで実施してもよい。
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程は、上記酸洗が施された熱延板(酸洗板)に、冷間圧延を施す工程である。より詳細には、冷間圧延工程では、上記酸洗が施された熱延板に、最終パスのワークロール径Dが150mmφ以上、最終パスの圧下率rが15%以上、および最終パスのひずみ速度εが100s-1以上1300s-1以下の条件で冷間圧延を施して、冷延板を得る。なお、冷間圧延工程では、上記の冷間圧延条件を満たしている限り、必要に応じて中間焼鈍をはさんだ2回以上の冷間圧延により所定寸法の冷延板としてもよい。この場合の中間焼鈍の条件としては、特に限定されず、常用の中間焼鈍工程を適用できる。
[最終パスのワークロール径D:150mmφ以上]
冷間圧延工程において、最終パスのワークロール径Dは150mmφ以上とする。最終パスのワークロール径Dを150mmφ以上とした理由は、得られる無方向性電磁鋼板における結晶粒径分布の尖度Kを2.00以下とし、所望の鋼板組織を形成するためである。
最終パスのワークロール径Dが150mmφより小さい場合には、平面圧縮の状態から遠く隔たることになるため、ワークロール径が大きい場合に比較して結晶粒単位でのせん断ひずみの不均一性が増強される。このせん断ひずみの不均一性に起因して、続く焼鈍工程での再結晶核の核生成頻度が非常に高い領域と非常に低い領域とが一定量生成するため、焼鈍板の結晶粒径分布の尖度が大きくなる。
一方、最終パスのワークロール径Dが150mmφ以上である場合には、後述する焼鈍工程後において結晶粒径分布の尖度Kは2.00以下となる。その結果、所望の鋼板組織が得られる。
最終パスのワークロール径Dは、好ましくは170mmφ以上であり、より好ましくは200mmφ以上である。なお、最終パスのワークロール径Dの上限は、特に限定されないが、過度にロール径が大きい場合には圧延荷重が増大するため、700mmφ以下であることが好ましい。
[最終パスの圧下率r:15%以上]
冷間圧延工程において、最終パスの圧下率rは15%以上とする。最終パスの圧下率rを15%以上とした理由は、一連の冷間圧延制御の効果を得て、所望の鋼板組織を形成するためである。
最終パスの圧下率rが15%未満の場合には、圧下率が低すぎるために、焼鈍後の組織を制御するのが難しくなる。一方、最終パスの圧下率rが15%以上である場合には、一連の冷間圧延制御の効果が発揮される。その結果、所望の鋼板組織が得られる。
最終パスの圧下率rは、好ましくは20%以上である。なお、最終パスの圧下率rの上限は、特に限定されないが、高すぎる圧下率は多大な装置能力を要求し、また冷延板の形状制御も難しくなることから、最終パスの圧下率rは通常50%以下である。
[最終パスのひずみ速度ε:100s-1以上1300s-1以下]
冷間圧延工程において、最終パスのひずみ速度εは100s-1以上1300s-1以下とする。最終パスのひずみ速度εを100s-1以上1300s-1以下とした理由は、圧延中の破断を抑制しつつ、得られる無方向性電磁鋼板における結晶粒径分布の尖度Kを2.00以下とし、所望の鋼板組織を形成するためである。
最終パスのひずみ速度εが100s-1未満である場合には、冷延板の結晶粒単位でのせん断ひずみの不均一性が増強され、続く焼鈍工程における核生成および粒成長の場所依存性が強調されるため、焼鈍板の結晶粒径分布の尖度Kが大きくなる。この理由は必ずしも明確ではないが、発明者らはひずみ速度εが低いことにより流動応力が低下し、変形しやすい結晶方位の結晶粒にひずみが集中し易くなり、ひずみ分布が不均一化されるためと推測している。一方、最終パスのひずみ速度εが1300s-1超である場合には、流動応力が過度に増大し、圧延中の脆性破断が生じ易くなる。
最終パスのひずみ速度εが100s-1以上1300s-1以下である場合には、圧延中の破断を抑制しつつ、後述する焼鈍工程後において結晶粒径分布の尖度Kが2.00以下になる。その結果、所望の鋼板組織が得られる。
最終パスのひずみ速度εは、好ましくは150s-1以上であり、また、好ましくは1000s-1以下である。
なお、冷間圧延時の各パスにおけるひずみ速度εは、下記のEkelundの近似式を用いて導出した。
Figure 0007231134000001
ここで、vRはロール周速度(mm/s)、R’はロール半径(mm)、hはロール入側板厚(mm)、rは圧下率(%)である。
(焼鈍工程)
焼鈍工程は、冷間圧延工程を経た冷延板に、焼鈍を施す工程である。より詳細には、焼鈍工程では、冷間圧延工程を経た冷延板を、500℃から700℃の平均昇温速度Vが10℃/s以上の条件にて、875℃以上1050℃以下の焼鈍温度Tまで加熱したのち、冷却して、冷延焼鈍板(無方向性電磁鋼板)を得る。なお、焼鈍工程の後には、表面に絶縁コーティングを施すことができる。コーティングの方法およびコーティングの種類としては、特に限定されず、常用の絶縁コーティング工程を適用できる。
[500℃から700℃の平均昇温速度V:10℃/s以上]
焼鈍工程において、500℃から700℃の平均昇温速度Vは10℃/s以上とする。平均昇温速度Vを10℃/s以上とした理由は、得られる無方向性電磁鋼板における結晶粒径分布の標準偏差Sが上記の式(1)を満たすようにし、所望の鋼板組織を形成するためである。
平均昇温速度Vが10℃/s未満である場合には、過度の回復により再結晶核の生成頻度が低下し、再結晶核数の場所依存性が大きくなる。その結果、微細な結晶粒と粗大な結晶粒が混在することになり、結晶粒径分布の標準偏差Sが大きくなり、上記式(1)を満たさなくなる。
一方、平均昇温速度Vが10℃/s以上である場合には、再結晶核の生成頻度が高く、再結晶核数の場所依存性が小さくなる。その結果、結晶粒径分布の標準偏差Sが小さくなり、上記式(1)を満たすようになる。
500℃から700℃の平均昇温速度Vは、好ましくは20℃/s以上であり、より好ましくは50℃/s以上である。なお、平均昇温速度Vの上限は、特に限定されないが、過度に昇温速度が高いと温度ムラを生じ易いことから平均昇温速度Vは500℃/s以下であることが好ましい。
[焼鈍温度T:875℃以上1050℃以下]
焼鈍工程において、焼鈍温度Tは875℃以上1050℃以下とする。焼鈍温度Tを875℃以上1050℃以下とした理由は、次の通りである。
焼鈍温度Tが875℃未満である場合には、再結晶粒が十分に粒成長せず、得られる無方向性電磁鋼板における平均結晶粒径Xを60μm以上とすることができない。一方、焼鈍温度Tが875℃以上である場合には、十分な粒成長が生じ平均結晶粒径を60μm以上とすることができ、所望の鋼板組織が得られる。焼鈍温度Tは、好ましくは、900℃以上である。
一方、焼鈍温度Tが1050℃超である場合には、再結晶粒が過度に成長し、平均結晶粒径Xを200μm以下とすることができない。従って、焼鈍温度Tは1050℃以下とする。焼鈍温度Tは、好ましくは1025℃以下である。
焼鈍工程では、上記の焼鈍温度Tまで加熱したのち冷却する。この冷却は、冷却ムラ防止の観点から、50℃/s以下の冷却速度にて行うことが好ましい。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
<冷延焼鈍板(無方向性電磁鋼板)の製造>
表1に示す成分組成を有する溶鋼を、通常公知の手法により溶製し、連続鋳造して厚み230 mmのスラブ(鋼素材)とした。
得られたスラブに、熱間圧延を施すことにより、板厚2.0 mmの熱延板を得た。得られた熱延板に公知の手法により熱延板焼鈍および酸洗を施し、次いで、表2に示す板厚まで冷間圧延を施し、冷延板を得た。
得られた冷延板に、表2に示す条件で焼鈍を施し、次いで公知の手法によりコーティングを施し、冷延焼鈍板(無方向性電磁鋼板)を得た。
<評価>
(ミクロ組織の観察)
得られた冷延焼鈍板から組織観察用の試験片を採取した。次いで、採取した試験片を、圧延面(ND面)で、板厚の1/4に相当する位置が観察面となるように、化学研磨により減厚して鏡面化した。鏡面化した観察面に対し、電子線後方散乱回折(EBSD)測定を実施し、局所方位データを得た。このとき、ステップサイズ:10μm、測定領域:100mm2以上とした。測定領域の広さは、続く解析において結晶粒の数が5000個以上となるように適宜調整した。なお、測定は全域を1回のスキャンで行っても良いし、Combo Scan機能を利用して複数回のスキャン結果を結合しても良い。解析ソフト:OIM Analysis 8を用いて、得られた局所方位データの解析を行なった。
データ解析に先立ち、解析ソフトのPartition PropertiesにてFormula:GCI[&;5.000,2,0.000,0,0,8.0,1,1,1.0,0;]>0.1 の条件で粒平均データ点の選別を行い、解析に不適なデータ点を除外した。このとき、有効なデータ点は98%以上であった。
以上のように調整したデータに対して、結晶粒界の定義として、Grain Tolerance Angle を5°、Minimum Grain Sizeを2、Minimum Anti Grain Sizeを2、Multiple Rows RequirementおよびAnti-Grain Multiple Rows Requirementは共にOFFとして、以下の解析を行った。
前処理を施したデータに対して、Export Grain File 機能を用いて結晶粒の情報を出力した。Grain File Type 2の Grain Size (Diameter in microns)を結晶粒径(x)として用いた。得られたすべての結晶粒の情報に対して、下記式を用いて、平均結晶粒径、標準偏差および尖度をそれぞれ計算した。得られた平均結晶粒径、標準偏差および尖度は、X、SおよびKである。
Figure 0007231134000002

上記式中、nは結晶粒の数、xは各結晶粒径データ(i:1、2、・・・、n)である。
(温間疲労強度の評価)
得られた冷延焼鈍板から、圧延方向を長手方向とした引張疲労試験片(JIS Z2275:1978に準拠した1号試験片、b:15mm、R:100mmと同じ形状)を採取し、疲労試験に供した。ここで、試験片の端面は機械加工により平滑に仕上げた。上記疲労試験は、試験温度:100℃、引張り-引張り(片振り)、応力比(=最小応力/最大応力):0.1および周波数:20Hzの条件で行い、繰り返し数10回において疲労破断を起こさない最大応力を温間疲労限とした。温間疲労限が300MPa以上の場合に温間疲労強度に優れると評価した。
(磁気特性の評価)
得られた焼鈍板から、長さ方向を圧延方向および圧延直角方向とする、幅30mm、長さ280mmの磁気測定用試験片を採取し、JIS C2550-1:2011に準拠し、エプスタイン法で熱処理板の鉄損W10/400を測定した。W10/400≦15.0(W/kg)の場合に鉄損特性が良いと評価した。
上記の結果を、表3に示す。
Figure 0007231134000003
Figure 0007231134000004
Figure 0007231134000005
Figure 0007231134000006
Figure 0007231134000007
Figure 0007231134000008
表3の結果から、本発明に従う無方向性電磁鋼板は、いずれも、優れた疲労強度と優れた鉄損特性とを両立していることがわかる。なお、本発明に従う冷延焼鈍板を積層してなるロータコアと、同熱処理板を積層してなるステータコアとを組み合わせて得た、モータコアは、優れた疲労特性を有していた。
さらに、打抜き時のひずみによる鉄損低減を回復する目的で鋼板に歪取り焼鈍を施したところ、本発明の効果に何ら影響はなく、優れた疲労強度と優れた鉄損特性が両立されていた。

Claims (3)

  1. 無方向性電磁鋼板であって、
    質量%で、
    C:0.01%以下、
    Si:2.0%以上4.5%未満、
    Mn:0.05%以上5.00%以下、
    P:0.1%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:3.0%以下および
    N:0.0050%以下
    を含み、かつSi+Alが4.5%未満であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
    鋼板中の結晶粒について、平均結晶粒径Xが60μm以上200μm以下であり、結晶粒径分布の標準偏差Sが次式(1):
    /X<0.75 …(1)
    を満たし、かつ、結晶粒径分布の尖度Kが2.00以下であることを特徴とする、無方向性電磁鋼板。
  2. 前記成分組成は、下記A群、B群、C群、D群およびE群のうちの少なくとも一群をさらに含有する請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
    A群:質量%で、
    Co:0.0005%以上0.0050%以下
    B群:質量%で、
    Cr:0.05%以上5.00%以下
    C群:質量%で、
    Ca:0.001%以上0.100%以下、
    Mg:0.001%以上0.100%以下および
    REM:0.001%以上0.100%以下
    のいずれか1種または2種以上
    D群:質量%で、
    Sn:0.001%以上0.200%以下および
    Sb:0.001%以上0.200%以下
    のいずれか1種または2種
    E群:質量%で、
    Cu:0%以上0.5%以下、
    Ni:0%以上0.5%以下、
    Ti:0%以上0.005%以下、
    Nb:0%以上0.005%以下、
    V:0%以上0.010%以下、
    Ta:0%以上0.002%以下、
    B:0%以上0.002%以下、
    Ga:0%以上0.005%以下、
    Pb:0%以上0.002%以下、
    Zn:0%以上0.005%以下、
    Mo:0%以上0.05%以下、
    W:0%以上0.05%以下、
    Ge:0%以上0.05%以下および
    As:0%以上0.05%以下
    のいずれか1種または2種以上
  3. 請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
    請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼素材に、熱間圧延を施して熱延板を得る熱間圧延工程と、
    前記熱延板に酸洗を施す酸洗工程と、
    前記酸洗が施された前記熱延板に、最終パスのワークロール径Dが150mmφ以上、最終パスの圧下率rが15%以上、および最終パスのひずみ速度εが100s-1以上1300s-1以下の条件にて冷間圧延を施して冷延板を得る冷間圧延工程と、
    前記冷延板を、500℃から700℃の平均昇温速度Vが10℃/s以上の条件にて、875℃以上1050℃以下の焼鈍温度Tまで加熱したのち、冷却して、無方向性電磁鋼板である冷延焼鈍板を得る焼鈍工程と、
    を備える無方向性電磁鋼板の製造方法。
JP2022568991A 2022-10-26 2022-10-26 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 Active JP7231134B1 (ja)

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
PCT/JP2022/040034 WO2024089828A1 (ja) 2022-10-26 無方向性電磁鋼板およびその製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP7231134B1 true JP7231134B1 (ja) 2023-03-01

Family

ID=85380657

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2022568991A Active JP7231134B1 (ja) 2022-10-26 2022-10-26 無方向性電磁鋼板およびその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7231134B1 (ja)

Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002180213A (ja) * 2000-12-14 2002-06-26 Nkk Corp 無方向性電磁鋼板
US20140373340A1 (en) * 2011-09-16 2014-12-25 Voestalpine Stahl Gmbh Non-grain-oriented higher-strength electrical strip with high polarisation and method for the production thereof
JP2018178198A (ja) * 2017-04-14 2018-11-15 新日鐵住金株式会社 無方向性電磁鋼板及びその製造方法
JP2019019355A (ja) * 2017-07-13 2019-02-07 新日鐵住金株式会社 電磁鋼板及びその製造方法、ロータ用モータコア及びその製造方法、ステータ用モータコア及びその製造方法、並びに、モータコアの製造方法

Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002180213A (ja) * 2000-12-14 2002-06-26 Nkk Corp 無方向性電磁鋼板
US20140373340A1 (en) * 2011-09-16 2014-12-25 Voestalpine Stahl Gmbh Non-grain-oriented higher-strength electrical strip with high polarisation and method for the production thereof
JP2018178198A (ja) * 2017-04-14 2018-11-15 新日鐵住金株式会社 無方向性電磁鋼板及びその製造方法
JP2019019355A (ja) * 2017-07-13 2019-02-07 新日鐵住金株式会社 電磁鋼板及びその製造方法、ロータ用モータコア及びその製造方法、ステータ用モータコア及びその製造方法、並びに、モータコアの製造方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
EP3859032B1 (en) Non-oriented electrical steel sheet and method for producing same, and motor core and method for producing same
JP6825758B1 (ja) 無方向性電磁鋼板とその製造方法およびモータコア
JP7231134B1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP7231133B1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法、ならびにモータコア
JP7235188B1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP7235187B1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法、ならびにモータコア
WO2023282195A1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
WO2023282197A1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法、ならびにモータコア
JP7439993B2 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
TWI837908B (zh) 無方向性電磁鋼板及其製造方法、以及馬達鐵芯
TWI836685B (zh) 無方向性電磁鋼板及其製造方法
JP7371815B1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法
JP7268803B1 (ja) 無方向性電磁鋼板とその製造方法
WO2024089827A1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法、ならびにモータコア
WO2024089828A1 (ja) 無方向性電磁鋼板およびその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20221111

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20221111

A871 Explanation of circumstances concerning accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A871

Effective date: 20221111

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20230117

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20230130

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7231134

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150