振動して音波を放射する振動板を有する動電型のスピーカーにおいては、振動板口径に対して放射する音波の波長が相対的に長い低い周波数帯域では、音圧レベルが外径方向にほぼ一様になる無指向特性になりやすい。その一方で、振動板口径に対して放射する音波の波長が短くなる高い周波数帯域になるほどに、振動板が振動する正面方向に放射する音波の音圧が高くなり、側面方向に放射する音波の音圧が低くなる指向特性を有するようになりやすい。
スピーカーをキャビネットに取り付けた通常のスピーカーシステムは、放射特性が指向特性を有するようになりやすいので、聴取者に対するスピーカーの向きによって再生音質が変化するという問題がある。そこで、スピーカーの振動板に対向するように取り付けるディフューザーを設けて、音波の放射の指向特性を変化させようとするものが従来から在る。例えば、無指向特性に変化させるディフューザーは、振動板から放射される音波を反射させる略円錐状の反射体を備えるものがある(特許文献1)。反射体であるディフューザーは、リフレクターと称する場合もある。
無指向特性を実現しようとするディフューザーを備えるスピーカーは、様々なものがある。フルレンジのスピーカーの場合には、振動板に対向するように配置する1つの略円錐形状の反射体を備えるものが代表的である。また、再生周波数帯域を帯域分割して複数のスピーカーで構成するマルチウェイのスピーカーシステムでは、中高音域を再生するフルレンジスピーカー、スコーカー、または、ツィーターにディフューザーを設けて、全帯域で無指向特性の実現を図る場合がある。なお、無指向特性に近くなる低音域を再生するウーファーでは、キャビネットに取り付けるのみで、ディフューザーを設けないものもある。
スピーカーの振動板の形状と対応するディフューザーの形状、そして、それらの配置関係は、再生する音声の品質並びに音圧周波数特性に影響を与える。特に、スピーカーの振動板とディフューザーとの間の空間において生じやすい共振により音圧周波数特性上に大きなピークが現れ易くなるという問題がある。また、特にフルレンジのスピーカーの場合には、放射する音波の周波数帯域が広いので、波長が長い低い周波数から波長が短い高い周波数まで、1つの反射体で対応させるのは難しいという問題がある。
従来には、ベル形のエンクロージヤの最上部にスピーカーを収納するとともに、前記エンクロージヤの周壁部に水平方向の環状開口を形成し、前記エンクロージヤの内部には、前記スピーカーからの音を前記環状開口に案内するための音響ガイドを形成したことを特徴とするカリヨン形スピーカーシステムがある(特許文献2)。また、従来には、ウ─ハ─の上限よりも高い周波数を有する音響波の源は同一の表面上に配列されていて、音書信号をこの表面に対して直角な方向に、反射・回折系に同って輻射するようにする音響波の全方向輻射装置がある(特許文献3)。
また、従来には、概して円錐形の外面と、上面と、円錐軸と、を含む円錐台形状を有する音響反射体であって、前記円錐軸を中心とする、前記上面における開口部を有する音響反射体と、前記上面における前記開口部に配置された吸音材と、を備えることを特徴とする無指向性音響ディフレクタがある(特許文献4)。また、電子楽器では、例えば、スピーカーボックスの中でスピーカーから下方に楽音を発音させ、その発音させた楽音を拡散器で拡散させて電子楽器の側方に発音させるようにしているものがある(特許文献5)。
実公昭56-41431号公報(図1)
実開昭64-47189号公報
特開昭55-13592号公報
特表2018-504056号公報
特許第4646765号公報(図9)
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、スピーカーの振動板とディフューザーとの間の空間において生じやすい共振により音圧周波数特性上に大きなピークが現れるのを防ぎ、周波数による指向特性の不均一性を軽減し、放射する音波の周波数帯域が広いフルレンジのスピーカーの場合にも対応するディフューザー、および、これを備えるスピーカー、電子楽器を提供することにある。
本発明のディフューザーは、音波を放射するスピーカーの振動板に対向するように配置されるディフューザーであって、その外径寸法が振動板の外径寸法よりも大きく、振動板が振動する方向を規定する中心軸が通過して内径寸法を規定する開口を有し、振動板に対向する環状錐面および環状錐面の反対側に形成される環状凹面を有する略切頭円錐形状の第1反射部材と、第1反射部材と近接して配置されて中心軸がその頂点を通過する錐面を有する略円錐形状の第2反射部材と、を備え、振動板と第1反射部材の環状錐面との間に音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第1音響通路を形成し、第1反射部材の環状凹面と第2反射部材の錐面との間に第1反射部材の開口を通過した音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第2音響通路を形成する。
好ましくは、本発明のディフューザーは、第2反射部材の外径寸法が、第1反射部材の前記開口の内径寸よりも大きい。
好ましくは、本発明のディフューザーは、第2反射部材の少なくとも一部が、第1反射部材の環状凹面が規定する凹状空間に収まるように、第1反射部材および第2反射部材が配置されている。
また、好ましくは、本発明のディフューザーは、第2反射部材の錐面を規定する断面曲線が、第1反射部材の環状凹面を規定する断面曲線と中心軸に沿う方向において規定される離間距離が等距離にならないように設定されている。
また、好ましくは、本発明のディフューザーは、第1反射部材と第2反射部材とを第2音響通路を形成するように連結する連結部材をさらに備える。
また、好ましくは、本発明のディフューザーは、スピーカーの振動板を第1反射部材の環状錐面に対向させて第1音響通路を形成するように配置して取り付けるスピーカー取付部材と、第1反射部材とスピーカー取付部材とを第1音響通路を形成するように連結する連結部材と、をさらに備える。
また、好ましくは、本発明のディフューザーは、通気性を有する部材で形成され、第1音響通路および/または第2音響通路に設けられるグリル部材をさらに備える。
また、好ましくは、本発明のディフューザーは、第1反射部材の内径寸法および第2反射部材の外径寸法が円形により規定され、第1反射部材の外径寸法が長円形により規定される。
また、本発明のスピーカーは、上記のディフューザーと、ディフューザーと対向するように配置される振動板と、を少なくとも備える。
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、振動板が、第1反射部材の環状錐面に対応する凹面を形成するコーン形状であり、第1反射部材の開口に対向する位置に凸状のダストキャップを有する。
また、本発明の電子楽器は、上記のディフューザーと、ディフューザーと対向するように配置される振動板を少なくとも備えるスピーカーと、ディフューザーおよびスピーカーが取り付けられる筐体と、を少なくとも備える。
また、好ましくは、本発明の電子楽器は、第1反射部材の環状錐面、又は、筐体のスピーカーが取り付けられる取付面の少なくともいずれか一方に、吸音部材がさらに取り付けられている。
以下、本発明の作用について説明する。
本発明のディフューザーは、音波を放射するスピーカーの振動板に対向するように配置されて外径方向に音波を放射して無指向特性を実現する。ディフューザーは、その外径寸法が振動板程度であり、振動板が振動する方向を規定する中心軸が通過して内径寸法を規定する開口を有し、振動板に対向する環状錐面および環状錐面の反対側に形成される環状凹面を有する略切頭円錐形状の第1反射部材と、第1反射部材と近接して配置されて中心軸がその頂点を通過する錐面を有する略円錐形状の第2反射部材と、を備える。
したがって、ディフューザーは、振動板と第1反射部材の環状錐面との間に音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第1音響通路を形成し、第1反射部材の環状凹面と第2反射部材の錐面との間に第1反射部材の開口を通過した音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第2音響通路を形成する。振動板に近接する第1反射部材には開口が設けられているので、振動板との間の空間において生じやすい共振が発生せず、音圧周波数特性上に大きなピークが現れないようにして中低音域の無指向特性を実現できる。一方、第1反射部材の開口を通過する波長の短い高い周波数の音波は、開口を有さない略円錐形状の第2反射部材に反射するので、高音域の無指向特性も実現できる。好ましくは、第2反射部材の外径寸法を、第1反射部材の開口の内径寸よりも大きくすればよい。また、第1反射部材と第2反射部材で反射させて音波を伝搬することで、周波数によって異なる指向特性の不均一性を軽減できる。その結果、フルレンジのスピーカーに対応するディフューザーにすることができる。
ここで、ディフューザーは、略切頭円錐形状の第1反射部材と略円錐形状の第2反射部材とが近接するべく、第2反射部材の少なくとも一部が、第1反射部材の環状凹面が規定する凹状空間に収まるように、第1反射部材および第2反射部材が配置されているのが好ましい。また、ディフューザーは、第2反射部材の錐面を規定する断面曲線が、第1反射部材の環状凹面を規定する断面曲線と中心軸に沿う方向において規定される離間距離が等距離にならないように設定されているのが好ましい。第1音響通路または第2音響通路での共振の発生を抑制して、音圧周波数特性上にピークが現れるのを防ぐことができる。
ディフューザーは、スピーカーの振動板を第1反射部材の環状錐面に対向させて第1音響通路を形成するように配置して取り付けるスピーカー取付部材と、第1反射部材と第2反射部材とを第2音響通路を形成するように連結する連結部材と、をさらに備えていてもよい。また、本発明のスピーカーは、このディフューザーと、ディフューザーと対向するように配置される振動板と、を少なくとも備えていればよい。振動板は、第1反射部材の環状錐面に対応する凹面を形成するコーン形状であり、第1反射部材の開口に対向する位置に凸状のダストキャップを有するのが好ましい。
ディフューザーは、通気性を有する部材で形成され、第1音響通路および/または第2音響通路に設けられるグリル部材をさらに備えるようにしてもよい。スピーカーの振動板を保護することができる。なお、ディフューザーは、長径方向と短径方向を有する長円形(楕円形、トラック形を含む。)のスピーカーに対応するように、第1反射部材の内径寸法および第2反射部材の外径寸法が円形により規定され、第1反射部材の外径寸法が長円形により規定されるようにしてもよい。
また、電子楽器は、上記のディフューザーと、ディフューザーと対向するように配置される振動板を少なくとも備えるスピーカーと、ディフューザーおよびスピーカーが取り付けられる筐体と、を少なくとも備えていればよい。このディフューザーおよびスピーカーを備える電子楽器は、無指向特性により拡がり感のある優れた再生音質を得ることができる。第1反射部材の前記環状錐面、又は、筐体のスピーカーが取り付けられる取付面の少なくともいずれかに、吸音部材がさらに取り付けられていてもよい。
本発明のディフューザーは、スピーカーの振動板とディフューザーとの間の空間において生じやすい共振により音圧周波数特性上に大きなピークが現れるのを防ぎ、周波数による指向特性の不均一性を軽減し、放射する音波の周波数帯域が広いフルレンジのスピーカーの場合にも対応するディフューザー、および、これを備えるスピーカー、電子楽器を提供することができる。
以下、本発明の好ましい実施形態によるディフューザー、および、これを備えるスピーカー、電子楽器について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
図1および図2は、本発明の好ましい実施形態によるディフューザー、および、これを備えるスピーカーを説明する図である。具体的には、図1は、ディフューザー10を備えるスピーカー1の断面図であり、また、図2は、このディフューザー10を前面上側から見た斜視図である。なお、ディフューザー10並びにスピーカー1の形態は、本実施例の場合に限定されない。また、本発明の説明に不要なディフューザー10並びにスピーカー1の構成については、図示及び説明を省略する。
本実施例のスピーカー1は、スピーカーユニット2の振動板3に対向するようにディフューザー10を取り付けて、無指向特性を実現する無指向性スピーカーシステムである。スピーカーユニット2は、コーン型の振動板3を備えて、低い周波数から高い周波数までの全帯域を再生するフルレンジ型の動電型スピーカーである。
直接放射型のスピーカーユニット2のみでは、中高音域において振動板3が振動する方向に放射する音波の音圧が高くなり、側面方向に放射する音波の音圧が低くなる指向特性を有するようになりやすい。そこで、本実施例のスピーカー1では、スピーカーユニット2の振動板3を上側(図示するZ軸方向)に向けて配置し、かつ、振動板3に対向するようにディフューザー10を設けて、Z軸に直交する水平方向に関して無指向特性になるように設計されている。
スピーカーユニット2は、断面が凹状になるコーン型の振動板3を備える動電型スピーカーである。振動板3の内径部にはボイスコイル6のボビンが連結するので、内径部を覆うように断面が凸状になるダストキャップ4が取り付けられている。振動板3の外径部分には柔軟なエッジ5の内径側が取り付けられ、音波を放射する振動板3、および、ダストキャップ4を含む振動板部分をダンパーとともに振動可能に支持している。ボイスコイル6のボビンに巻回されるコイルは、磁気回路7の磁気空隙に配置される。フレーム8は、エッジ5の外径側と磁気回路7とに連結する。
したがって、スピーカーユニット2では、強い直流磁界が発生する磁気回路7の磁気空隙中に配置されるボイスコイル6のコイルに音声信号電流が供給されると、図示するZ軸方向に駆動力が発生し、ボイスコイル6ならびに振動板3およびダストキャップ4から構成されるスピーカー振動系がZ軸方向に振動する。その結果、振動板33およびダストキャップ4の前後に存在する空気に圧力変化を生じ、音声信号電流を音波(音声)に変換する。
スピーカーユニット2のフレーム8は、キャビネット9の上面側に設けられる取付面9aの開口部に取り付けられる。本実施例のキャビネット9は、振動板3の一方面側と他方面側とを音響的に分離するバッフルとして機能する密閉型キャビネットである。ただし、キャビネット9は、その内部に規定する音響容量とダクトでの音響質量が共振する位相反転型(バスレフ型)キャビネットなどであってもよい。
キャビネット9の上面側の取付面9aには、音波を放射するスピーカーユニット2の振動板3に対向するように、さらにディフューザー10が設けられる。ディフューザー10は、図1および図2に図示するように、2つの反射部材が組み合わされて構成されている。具体的には、ディフューザー10は、略切頭円錐形状の部分を含む第1反射部材11と、略円錐形状の第2反射部材12と、を備える。
第1反射部材11と第2反射部材12とは、連結部材13により連結される。また、第1反射部材11とキャビネット9とは、連結部材14により連結される。連結部材14は、少なくとも振動して最大に突出するように変位するスピーカーユニット2の振動板3並びにダストキャップ4がディフューザー10に接触することのないように、第1反射部材11とキャビネット9とを離間させて連結する。
第1反射部材11は、振動板3に対向する環状錐面15と、この環状錐面15の反対側に形成される環状凹面16と、を有する基体を有する。第1反射部材11は、さらに、振動板3が振動する方向を規定する中心軸であるZ軸が通過して内径寸法を規定する開口17を有する。また、第1反射部材11は、本実施例では、その外形形状がほぼ正方形であり、外径寸法は振動板3の外径寸法よりも大きく、また、開口17を規定する半径寸法R1は振動板3の外径寸法よりも小さくなっている。なお、第1反射部材11の外形形状は、正方形に限らず、円形でも多角形であってもよい。
第1反射部材11は、所定の厚みを有する部材を加工して形成した基体を有する。したがって、凸面状の環状錐面15の背面側に凹面状の環状凹面16を形成することができる。本実施例では、環状錐面15並びに環状凹面16を規定する断面曲線はほぼ直線である。また、環状錐面15を有する第1反射部材11は、スピーカーユニット2の方から見ると、円錐形の頂部を切り落としたかのような略切頭円錐形状になっており、その切り落とされた頂部のところに、ちょうどその背面側である環状凹面16の方に通気する開口17が設けられている形状になっている。
一方で、第2反射部材12は、中心軸であるZ軸がその頂点を通過する錐面18を有する略円錐形状の基体を有する。第2反射部材12は、円錐形の頂点がスピーカーユニット2の振動板3並びに第1反射部材11の開口17に近い下側に配置され、その外径寸法R2が規定する平面19が振動板3から遠い上側に配置されている。本実施例では、錐面18を規定する断面曲線はほぼ直線であって、環状錐面15並びに環状凹面16の断面を規定する直線とは平行にならない直線である。平面19を規定する外径寸法R2は、少なくとも第1反射部材11の開口17を規定する半径寸法R1よりも大きく設定されている。なお、円錐形の錐面18には、開口は設けられない。
本実施例のディフューザー10では、図1および図2に図示するように、第2反射部材12の一部が、第1反射部材11の環状凹面16が規定する凹状空間に収まるように、第1反射部材11および第2反射部材12が連結部材13により連結されて配置されている。具体的には、第2反射部材12の錐面18の頂点が、第1反射部材11の開口17に臨むように、第1反射部材11と第2反射部材12とが近接している。ただし、第2反射部材12が第1反射部材11の開口17を塞ぐことはない。
ディフューザー10は、スピーカーユニット2が取り付けられるキャビネット9の上面側に、連結部材14により連結される。したがって、ディフューザー10は、スピーカーユニット2の振動板3と第1反射部材11の環状錐面15との間に、音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第1音響通路21を形成する。第1音響通路21は、キャビネット9の上面側と第1反射部材11の環状錐面15によっても形成される。第1音響通路21は、中心軸Zからの半径が大きくなるにつれてその断面積が大きくなるように変化する。
また、ディフューザー10は、近接して配置された第1反射部材11の環状凹面16と第2反射部材12の錐面18との間に第1反射部材11の開口17を通過した音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第2音響通路22を形成する。第2音響通路22は、中心軸Zからの半径が大きくなるにつれてその断面積が大きくなるように変化する。
つまり、図2に図示するように、第1反射部材11の環状凹面16と第2反射部材12の錐面18との中心軸に沿う方向における離間距離をZ0とすると、離間距離Z0は中心軸Zからの半径により変化する。第2反射部材12の錐面18を規定する断面曲線が直線であり、第1反射部材11の環状凹面16を規定する断面曲線が角度の異なる直線であるので、中心軸に沿う方向において規定される離間距離が等距離にならないように設定されている。その結果、第2音響通路22では、離間距離Z0が等距離にならず、中心軸Zからの半径が大きくなるにつれて大きくなるように変化する。
本実施例のスピーカー1は、ディフューザー10の第1音響通路21を通過して放射される音波と、第2音響通路22を通過して放射される音波と、を合成して音声を再生する。
全帯域を再生するフルレンジ型の動電型のスピーカーユニット2では、波長の長い低い周波数の音波も、波長の短い高い周波数の音波も、振動する振動板3およびダストキャップ4から放射される。ただし、実際の動電型のスピーカーユニット2では、中低音域において振動板3およびダストキャップ4が略ピストン振動させることができるものの、中高音域では振動板3が分割振動してしまうので、振動板3の中心部部分とダストキャップ4とが主に中高音域の音波の放射に寄与することになる。
したがって、本実施例のディフューザー10では、外径寸法が振動板3の外径寸法よりも大きい第1反射部材11が、相対的に波長の長い低い周波数の音波を反射させて無指向特性を実現する。一方で、振動板3に近接する第1反射部材11には振動板3の外径寸法よりも小さい半径寸法R1の開口17が設けられているので、振動板3の中心部部分とダストキャップ4とから放射される相対的に中高音域の音波は、第1反射部材11の開口17を通過して第2反射部材12に反射して無指向特性を実現する。
無指向特性を実現しようとする単一のディフューザー(図示しない)を備える従来の(図示しない)スピーカーでは、スピーカーの振動板とディフューザーとの間の空間において生じやすい共振により音圧周波数特性上に大きなピークが現れ易い。
しかし、本実施例のディフューザー10を備えるスピーカー1では、スピーカーユニット2の振動板3とディフューザー10との間の空間20に第1反射部材11の開口17が臨んでいるので、共振を発生しにくくすることができる。その結果、音圧周波数特性上に大きなピークが現れないようにして中低音域の無指向特性を実現でき、さらに中高音域の無指向特性をも実現できる。
また、本実施例のディフューザー10では、第2音響通路22を通過して放射される音波が水平方向よりも上向きに放射される。したがって、水平方向だけで無く、垂直方向の指向特性も広くすることができる。
好ましくは、ディフューザー10は、第1反射部材11の開口17の半径寸法R1が振動板3の外径寸法よりも小さく、かつ、第2反射部材12の平面19を規定する外径寸法R2が半径寸法R1よりも大きければよい。また、ディフューザー10は、第2反射部材12の少なくとも一部が、第1反射部材11の環状凹面16が規定する凹状空間に収まるように配置されていればよい。
本実施例のディフューザー10では、第1反射部材11の環状錐面15並びに環状凹面16と、第2反射部材12の錐面18と、を規定する断面曲線がそれぞれほぼ直線である。ただし、これらの反射面の断面は、複数の連続する直線、または、非線形に変化する曲線で規定されるように構成してもよい。中心軸に沿う方向において規定される離間距離Z0が等距離にならないように設定されて、中心軸Zからの半径が大きくなるにつれて第1音響通路21並びに第2音響通路22の断面積が大きくなるように変化するようにすれば、他の断面曲線であってもよい。
また第1音響通路21は、キャビネット9の上面側の取付面9aと第1反射部材11の環状錐面15によっても形成されるので、第1音響通路21での音波の反射を適切に制御するのに、例えば図1の右側の第1音響通路21において図示するように、第1反射部材11の環状錐面15、または、キャビネット9の上面側の取付面9aに吸音部材23を取り付けてもよい。吸音部材23は、少なくとも第1反射部材11の環状錐面15、または、キャビネット9の上面側の取付面9aのいずれか一方に取り付けられていればよい。
また、本実施例のスピーカー1では、ディフューザー10がキャビネット9を介してスピーカーユニット2と連結している。ただし、ディフューザー10と振動板3を備えるスピーカーユニット2とを直接に対向するように連結してもよい。また、動電型のスピーカーユニット2が備える振動板3が凹面を形成するコーン形状であれば、ダストキャップ4の形状は本実施例のような凸状が適するが、例えば凹面を備えるような他の形状、または、ダブルコーンと称されるような他の形状であってももちろんよい。
また、本実施例のスピーカー1では、フルレンジ型のスピーカーユニット2にディフューザー10を設けている。ただし、特定の周波数帯域の再生に適したウーファー、スコーカー、ツィーター等のスピーカーユニット2にディフューザー10を設けてもよい。もちろん、スピーカー1を複数のスピーカーユニットを組み合わせるマルチウェイスピーカーシステムとして構成し、その何れかのスピーカーユニットの振動板に対向するようにディフューザー10を取り付けるものであってもよい。
図3は、本発明の好ましい実施形態による電子楽器を説明する図である。具体的には、図3は、上記の実施例のディフューザー10を備えるスピーカー1を、左右のスピーカー1Lおよび1Rとして備える電子ピアノ100の正面図(一部断面図)である。なお、電子ピアノ100の形態は、本実施例の場合に限定されない。また、本発明の説明に不要な電子ピアノ100の構成については、図示及び説明を省略する。
本実施例の電子ピアノ100は、その筐体101に設けられた操作子である鍵盤102を演奏者が操作した場合に、鍵盤に対応する音声信号を(図示しない)音源回路から出力し、(図示しない)増幅器で増幅してスピーカーに出力し、演奏音を再生する電子楽器である。この電子ピアノ100は、スピーカーとして、筐体101の鍵盤102の上面側の左右にそれぞれ取り付けられるスピーカー1Lおよび1Rと、筐体101の鍵盤102の下面側に取り付けられるスピーカー30と、を備えている。
スピーカー1Lおよび1Rは、上記の実施例のディフューザー10を備え、ディフューザー10は、上記の通りに第1反射部材11および第2反射部材12を含んでいる。したがって、スピーカー1Lおよび1Rに含まれるスピーカーユニット2は、振動板3が上下方向に振動する。スピーカー1Lは、ステレオ再生の左音声信号に対応して、水平方向に関して無指向特性になるように演奏音を放射する。また、スピーカー1Rは、ステレオ再生の右音声信号に対応して、水平方向に関して無指向特性になるように演奏音を放射する。
また、スピーカー30は、横長のキャビネットを有し、その左側にステレオ再生の左音声信号に対応するスピーカー31Lと、その右側にステレオ再生の右音声信号に対応するスピーカー31Rと、を含む。スピーカー31Lおよび31Rは、振動板が振動する方向が前後方向になるように配置される複数のスピーカーユニットを備え、特にディフューザー等を備えないので、前面方向に音圧が高くなる指向特性を有する。したがって、スピーカー31Lおよび31Rは、ステレオ再生の左右の音声信号にそれぞれ対応して、前面方向に指向性を有して演奏音を放射する。なお、スピーカー30は、スピーカー31Lおよび31Rの複数のスピーカーユニットが再生する音声周波数帯域を分ける場合には、マルチウェイスピーカーシステムを構成していてもよい。
スピーカー30は、電子ピアノ100の演奏者の膝元に配置されることになり、電子ピアノ100の演奏音の直接音成分を再生するのに適する。一方で、スピーカー1Lおよび1Rは、演奏音の間接音成分を再生するのに適する。スピーカー30と、スピーカー1Lおよび1Rと、から再生する演奏音の音量のバランスは、電子ピアノ100の設定で制御可能である。電子ピアノ100のスピーカーにこのような構成を採用することで、電子ピアノ100の演奏音が、演奏者および聴取者にとって本来のアコースティックのピアノの演奏音に近いものとして知覚できるようになると期待できる。
もちろん、電子ピアノ100は、スピーカー1Lおよび1Rのみを備え、スピーカー30を備えなくてもよい。その場合には、スピーカー1Lおよび1Rは、演奏音の直接音成分および間接音成分をともに再生するようにすればよい。
本実施例の電子ピアノ100は、鍵盤を備える電子楽器であるが、他の電子楽器であってもよい。
図4および図5は、本発明の好ましい実施形態によるディフューザー、および、これを備えるスピーカーを説明する図である。具体的には、図4は、ディフューザー10aを備えるスピーカー1aの平面図であり、図5は、取付面9aに取り付けられたスピーカー1aの図4におけるA-A断面に相当する断面図である。
本実施例のディフューザー10a並びにスピーカー1aは、先の実施例のディフューザー10並びにスピーカー1と、一部の構成が相違する他は共通する構成を備える。したがって、以下では共通する構成には共通の符号を付して説明を省略し、相違する構成について説明する。なお、本発明の説明に不要なディフューザー10a並びにスピーカー1aの構成については、図示及び説明を省略する。
本実施例のディフューザー10aは、長円形の振動板3を備えるスピーカーユニット2aに対応して外形が長径方向と短径方向とを有する長方形に構成され、スピーカーユニット2aに対して取り付けられている。また、スピーカー1aは、外径寸法が長円形の振動板3を備える動電型スピーカーであるスピーカーユニット2aと、ディフューザー10aとを含み、これらが連結されて一体に構成されている。スピーカー1aは、(図示しない)電子楽器のキャビネット9の取付面9aに内部側(図面では下側)から取り付けられている。
このディフューザー10aの第1反射部材11では、その基体の内径寸法を規定する開口17が円形であるものの、長径方向および短径方向を有する長円形のスピーカーユニット2aの振動板3に対応して、その基体の外径寸法が長円形により規定されている点で、先の実施例のディフューザー10と相違する。一方で、第2反射部材12は、中心軸であるZ軸がその頂点を通過する錐面18を有する略円錐形状の基体を有する点で共通する。ただし、このディフューザー10aでは、第2反射部材12の錐面18の頂点が、第1反射部材11の開口17に侵入している。また、この第2反射部材12では、略円錐形状の基体は錐面18の裏側が凹状であり、先の実施例のディフューザー1のような外径寸法R2が規定する平面19が形成されていない。
本実施例のディフューザー10aは、第1反射部材11と、第2反射部材12と、第1反射部材11と第2反射部材12とを連結する連結部材13と、スピーカーユニット2aと連結するスピーカー取付部材24と、第1反射部材11とスピーカー取付部材24とを連結する連結部材14と、を樹脂で一体に成形した部品である。したがって、このディフューザー10aでは、樹脂を成形する(図示しない)金型を図示する上下方向で2つに分割して抜けるように、第2反射部材12の外径寸法R2が第1反射部材11の開口17の半径R1よりも若干小さくされている。
また、ディフューザー10aは、スピーカー取付部材24を備えるように構成されて、先の実施例でのディフューザー10に比較して、全高が低くなり、キャビネット9からあまり上側に突出しないように設計されている。具体的には、スピーカー取付部材24は、第1反射部材11の環状錐面15と対向して第1音響通路21を形成する環状凹面25を備え、その内径部にスピーカーユニット2aと連結する(図示しない)連結部を備えている。また、スピーカー取付部材24は、環状凹面25の外径部から図示する下側に延設する短い略長円筒形状のリブ状部26を備える。また、スピーカー取付部材24は、リブ状部26の下端側から4カ所に外周側に延設して形成したフランジ部27を備える。
フランジ部27は、キャビネット9の上面側の取付面9aに設けられた開口部の縁部に下側から係合して、ディフューザー10a並びにスピーカーユニット2aを含むスピーカー1aをキャビネット9に取り付ける。環状凹面25並びにリブ状部26の高さがほぼスピーカー取付部材24の全高寸法を規定するので、比較的に全高が低くなって取付面9aからディフューザー10aが突出しない。ディフューザー10aを含むスピーカー1aが目立たなくなり、取り付けられる電子楽器の製品デザイン上の制約が少なくなるという利点がある。
ディフューザー10aは、スピーカーユニット2aの振動板3並びにスピーカー取付部材24の環状凹面25と、第1反射部材11の環状錐面15との間に、音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第1音響通路21を形成する。さらに、近接して配置された第1反射部材11の環状凹面16と、第2反射部材12の錐面18との間に、第1反射部材11の開口17を通過した音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第2音響通路22を形成する。したがって、音圧周波数特性上に大きなピークが現れないようにして中低音域の無指向特性を実現でき、さらに中高音域の無指向特性をも実現できる。
図6は、本実施例のディフューザー10aを備えるスピーカー1aの指向特性を説明するグラフである。また、図7は、比較例の(図示しない)ディフューザー100aを備える(図示しない)スピーカー100の指向特性を説明するグラフである。
具体的には、比較例のスピーカー100のディフューザー100aは、実質的に第1反射部材11を除去した点のみでディフューザー10aと相違し、同一のスピーカーユニット2aを備える。したがって、図6並びに図7のグラフは、本実施例のディフューザー10aと、比較例のディフューザー100aとの違いを示している。
図6並びに図7の指向特性のグラフでは、図5におけるZ軸方向が指向角度:0度の方向であり、このZ軸方向での音圧レベルで基準化したそれぞれの指向角度(―90度~90度)の音圧レベルを極座標表示して、指向特性を示している。なお、4kHz、5kHz、6.3kHz、8kHz、10kHzのそれぞれの周波数におけるグラフを重ね書きしている。その結果、図6並びに図7のグラフは、取付面9aの上面方向およびZ軸に直交する水平方向に関して無指向特性で放射する様子を図示している
図6並びに図7のグラフを比較して分かるように、図6の本実施例のディフューザー10aを備えるスピーカー1aの場合の方が、それぞれの周波数による指向特性の不均一性が、図7の比較例のディフューザー100aを備えるスピーカー100の場合よりも少ない。ディフューザー10aの場合には、指向角度による音圧レベルの増減がディフューザー100aの場合よりも小さくできている。
なお、ディフューザー10aでは、通気性を有するパンチング部材、あるいは、通気性を有するネットを張る枠部を備える(図示しない)グリル部材、などを取り付ける取付部28を、連結部材14およびスピーカー取付部材24に備えている。グリル部材は、第1音響通路21および第2音響通路22を覆うように取り付けられるので、異物やユーザーの手などが第1音響通路21または第2音響通路22に入らないようにして、スピーカーユニット2aの振動板3を保護することができる。
また、ディフューザー10aは、円形の振動板3を備える他のスピーカーユニット2に対応するように、外形を円形又は方形にしてもよい。また、ディフューザー10aは、スピーカー取付部材24は、必ずしもリブ状部26は設ける必要が無く、環状凹面25の外径部からフランジ部27を外周側に延設してもよい。その場合には、フランジ部27は、キャビネット9の取付面9aに設けられた開口部の縁部に上側から係合して、ディフューザー10a並びにスピーカーユニット2aを含むスピーカー1aをキャビネット9に取り付けるようにしてもよい。
図8は、本実施例の(図示しない)ディフューザー10bを備える(図示しない)スピーカー1bの指向特性を説明するグラフである。また、図9は、本実施例の(図示しない)ディフューザー10cを備える(図示しない)スピーカー1cの指向特性を説明するグラフである。
本実施例のディフューザー10b並びにスピーカー1b、ディフューザー10c並びにスピーカー1c、は、先の実施例のディフューザー10並びにスピーカー1と、第1反射部材11の外径寸法が相違する他は共通する構成を備える。したがって、以下では共通する構成には共通の符号を付して説明を省略し、相違する構成について説明し、図示及び説明を省略する。
本実施例において、(図示しない)スピーカーユニット2bは共通であり、その(図示しない)振動板3bの外径寸法は108.8mmである。振動板3bの外径寸法は、(図示しない)エッジ5bを含まない外形寸法であるが、場合によってはエッジ5bを含むものであってもよい。
図8のグラフの本実施例のディフューザー10bは、第1反射部材11の外径寸法が114.0mmであって、振動板3bの外径寸法108.8mmよりも大きい。一方で、図9のグラフの本実施例のディフューザー10cは、第1反射部材11の外径寸法が104.0mmであって、振動板3bの外径寸法108.8mmよりも小さい。ただし、図8および図9を比べると、顕著な差は見られない。つまり、本実施例のディフューザー10b並びに10cは、ほぼ同等の指向特性を有する。
したがって、本実施例のディフューザー10bまたは10cでは、外径寸法が振動板3bの外径寸法よりも大きくない第1反射部材11であっても、相対的に波長の長い低い周波数の音波を反射させて無指向特性を実現することができる。ディフューザー10bまたは10cの第1反射部材11の外形寸法は、スピーカーユニット2bの振動板3bの外径寸法と同等程度の大きさがあればよく、必ずしも振動板3bの外径寸法よりも大きくなくてもよい。
本実施例のディフューザー10bまたは10cを備えるスピーカー1bまたは1cでは、スピーカーユニット2bの振動板3bとの間の空間20に第1反射部材11の開口17が臨んでいるので、共振を発生しにくくすることができる。その結果、音圧周波数特性上に大きなピークが現れないようにして中低音域の無指向特性を実現でき、さらに中高音域の無指向特性をも実現できる。
図10は、本発明の他の好ましい実施形態によるディフューザー、および、これを備えるスピーカーを説明する図である。具体的には、図10は、ディフューザー10dを備えて、キャビネット9の内面側の取付面9aに取り付けられたスピーカー1dの断面図である。
本実施例のディフューザー10d並びにスピーカー1dは、先の実施例のディフューザー10a並びにスピーカー1aと、一部の構成が相違する他は共通する構成を備える。したがって、以下では共通する構成には共通の符号を付して説明を省略し、相違する構成について説明する。なお、本発明の説明に不要なディフューザー10d並びにスピーカー1dの構成については、図示及び説明を省略する。
また、本実施例のディフューザー10dは、先の実施例のディフューザー10aと同様に、スピーカー取付部材24を備えるように構成されている。しかし、先の実施例でのディフューザー10aに比較して、スピーカー取付部材24が環状凹面25の外径部から図示する下側に延設する短い略長円筒形状のリブ状部26を備えない点で相違する。
つまり、スピーカー取付部材24は、径方向の4カ所に外周側に延設して形成したフランジ部27を備えるので、キャビネット9の内側の取付面9aに設けられた開口部の縁部に下側から係合して、ディフューザー10d並びにスピーカーユニット2dを含むスピーカー1dをキャビネット9に取り付けることができる。
ディフューザー10dは、スピーカーユニット2dの振動板3並びにスピーカー取付部材24の環状凹面25並びに取付面9aの開口部と、第1反射部材11の環状錐面15との間に、音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第1音響通路21を形成する。さらに、近接して配置された第1反射部材11の環状凹面16と、第2反射部材12の錐面18との間に、第1反射部材11の開口17を通過した音波が伝搬して外径方向に音波を放射する第2音響通路22を形成する。したがって、音圧周波数特性上に大きなピークが現れないようにして中低音域の無指向特性を実現でき、さらに中高音域の無指向特性をも実現できる。