JP7190980B2 - 有機塩素化合物の生分解処理方法 - Google Patents
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Description
そのため、1,1,1-TCA、TCEの汚染サイトは、1,1,1-TCA、TCE、1,1-DCE、VC等の有機塩素化合物、ジオキサンによる深刻な複合汚染が発生している場合がある。
また、本発明者らは、特許文献2において、N23株は、酸性環境下で活性がほとんど低下しないため、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下での有機化合物の生分解処理に用いることを提案している。
1.受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株を、好気環境下で有機塩素化合物と接触させる工程を含むことを特徴とする、有機塩素化合物の生分解処理方法。
2.前記有機塩素化合物が、炭素原子数1~3、塩素原子数1~3であることを特徴とする1.に記載の生分解処理方法。
3.前記有機塩素化合物が、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロペン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレンの1種以上であることを特徴とする1.または2.に記載の生分解処理方法。
4.前記有機塩素化合物と、環状エーテル化合物とを処理することを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の生分解処理方法。
5.前記環状エーテル化合物が、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、2-クロロメチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフランの1種以上であることを特徴とする4.に記載の生分解処理方法。
6.前記有機塩素化合物を含む汚染土壌に、前記N23株を注入する工程、スパージング処理により酸素を供給する工程を含むことを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の生分解処理方法。
7.地中から前記有機塩素化合物を含む汚染水を揚水する工程、該汚染水を前記N23株を用いた標準活性汚泥法により処理する工程を含むことを特徴とする1.~6.のいずれかに記載の生分解処理方法。
N23株は、複数の有機塩素化合物を生分解することができ、また、事前に誘導物質による馴養が不要である。また、N23株は、有機塩素化合物と環状エーテル化合物を同時に生分解することができる。そのため、本発明の生分解処理方法は、1,1,1-TCAの汚染サイト等、有機塩素化合物と環状エーテル化合物との複合汚染が広がっている汚染サイトに好適に用いることができる。
N23株は、受託番号NITE BP-02032として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2015年4月10日付で国際寄託されている。N23株のSEM画像を図1に示す。N23株は、グラム染色性が陽性、カタラーゼ反応が陽性である。
N23株は、ジオキサンを極低濃度まで分解することができる、高濃度のジオキサンを処理することができる、予め馴養する必要がない、ジオキサンだけでなく、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、2-クロロメチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物を効率よく分解することができる等、環状エーテル化合物の生分解処理に好適に利用することができる。
すなわち、本発明は、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株を用いる、有機塩素化合物の生分解処理方法に関する。
本発明においてN23株を用いて生分解する有機塩素化合物としては、N23株が生分解できる化合物であれば特に限定されず、また、2種以上の有機塩素化合物であってもよい。N23株が生分解できる有機塩素化合物としては、例えば、炭素原子数1~3、塩素原子数1~3の有機塩素化合物が挙げられ、炭素原子数1~3、塩素原子数1~2の有機塩素化合物が好ましい。具体的には、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロエチレン(塩化ビニルモノマー)、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロペン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン等が挙げられる。これらの中で、特に、1,2-ジクロロプロパン、1,1,2-トリクロロエタンは、本発明者らが調査したところ、これまでに嫌気性微生物による生分解しか報告されておらず、1,2-ジクロロプロパンの好気性微生物による生分解は、N23株が世界初の事例である。
N23株は、環状エーテル化合物の有無に関わらず、有機塩素化合物を生分解することができる。そのため、N23株は、有機塩素化合物のみの生分解処理、有機塩素化合物と環状エーテル化合物の両方の生分解処理に用いることができる。本発明において有機塩素化合物とともに生分解する環状エーテル化合物としては、N23株が生分解できるものであれば特に限定されない。また、有機塩素化合物と環状エーテル化合物の両方を生分解する場合、有機塩素化合物、環状エーテル化合物のいずれか、または両方が、2種以上であってもよい。N23株が生分解できる環状エーテル化合物としては、例えば、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、2-クロロメチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。なお、複数の有機化合物を生分解する場合、N23株は、炭素源として利用しやすいものから順に生分解するため、存在する有機化合物の種類や量により、各有機化合物の生分解終了までの時間は異なる。
本発明の有機塩素化合物の生分解処理方法は、N23株を、好気環境下で有機塩素化合物と接触させる工程を含むことを特徴とする。本発明により生分解処理を行う処理対象は、有機塩素化合物を含むものであれば特に制限されないが、具体的には、不法廃棄現場等の汚染サイト、工場跡地、産業廃棄物処理場等の汚染土壌や、工場排水、一般下水、汚染サイト近辺の地下水等の汚染水等が挙げられる。また、処理対象は、有機塩素化合物と環状エーテル化合物の両方を含むものでもよい。
N23株は、培養液からろ別した菌体、凍結保存した菌体、乾燥保存した菌体、凍結乾燥した菌体、N23株を樹脂等に固定化した固定化担体、あるいは培養液やその濃縮液等のN23株を含む懸濁液等の任意の形態で生分解処理に用いることができる。
300mL容量のバッフル付の三角フラスコにMGY培地(Malt Extract:10g/L、グルコース:4g/L、Yeast Extract:4g/L、pH7.3)を100mL添加し、オートクレーブにて滅菌処理(121℃、15分)を行った。その後、N23株を一白金耳で植菌し、回転振盪培養(28℃、120rpm)を7日間行った(前々培養)。
培養後、MGY培地に植え継ぎ、同様の条件にて培養を行った(前培養)。
前培養にて得られた培養液を遠心分離によって集菌・回収し、無機塩培地(組成:1g/L K2HPO4、1g/L (NH4)2SO4、50mg/L NaCl、200mg/L MgSO4・7H2O、10mg/L FeCl3、50mg/L CaCl2、pH:7.3)を加えて、菌体の洗浄を行った。洗浄後の菌体を、無機塩培地で懸濁したものを植菌液とした。
・濃度測定
1,4-ジオキサン及び有機塩素化合物は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー質量分析装置(島津製作所社製、GC/MS QP-2010 plus)を用いてJIS K0125に準じて行った。
N23株の菌体タンパク濃度は、既報(Meyers et al., Novel method for rapid measurement of growth of mycobacteria in detergent-free media, J. Clin. Microbiol.,36 (9) 2752~2754 (1998))に準じて測定した。
N23株の乾燥菌体重量及び微生物濃度は、ガラス繊維濾紙GF/B(粒子保持能 1.0μm、Whatman)を用いて試料をろ過し、105℃にて2時間乾燥した後の重量から、ろ過前のフィルター重量を差し引いて求めた。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:500mg-dry cell/L)、1,4-ジオキサン(1.0mg/L)、1,1-DCE(1.0、5.0、10.0mg/L)、無機塩培地を条件毎に合計で24mLとなるように添加した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った(N=2)。
実験は下記5つの条件を用意して行った。
条件1:N23株及び1,1-DCEを加えない(コントロール)
条件2:1,1-DCEを加えない(ポジティブコントロール)
条件3:1,1-DCE濃度が1.0mg/L
条件4:1,1-DCE濃度が5.0mg/L
条件5:1,1-DCE濃度が10.0mg/L
各条件の1,4-ジオキサン濃度及び1,1-DCE濃度の経時変化を図2、3に示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
N23株は、CB1190株ではジオキサン分解を最も強く阻害する1,1-DCEの存在下でも、1,4-ジオキサンが分解できることが確かめられ、さらに、ジオキサンよりも先に1,1-DCEを分解することが確認できた。1,1-DCE濃度が5.0mg/L以下程度であれば、1,4-ジオキサンを問題なく環境基準値まで分解すると共に1,1-DCEも分解できることが確認できた。
1,1-DCEをジクロロメタン(DCM)とした以外は、実験1と同様にして下記5つの条件を用意して行った。
条件6 :N23株及びDCMを加えない(コントロール)
条件7 :DCMを加えない(ポジティブコントロール)
条件8 :DCM濃度が1.0mg/L
条件9 :DCM濃度が5.0mg/L
条件10:DCM濃度が10.0mg/L
培養開始1日後、4日後、7日後にサンプリングを行い、溶液中のDCM、1,4-ジオキサン濃度を測定した。
各条件の1,4-ジオキサン濃度及びDCM濃度の経時変化を図4、5に示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
また、N23株は、DCMの存在下でも、1,4-ジオキサンが分解できることが確かめられたが、DCMよりもジオキサンを先に分解することが確認できた。DCM濃度が10.0mg/L以下程度であれば、1,4-ジオキサンを問題なく環境基準値まで分解できることが確かめられたが、本条件では、DCM濃度が5.0mg/L以上では、DCMを環境基準値まで分解できなかった。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:150mg-dry cell/L)、シス-1,2-DCE(10mg/L)あるいはクロロエチレン(2mg/L)、無機塩培地を合計で40mLとなるように添加した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った(N=2)。実験は菌を入れた条件と入れていない条件(コントロール)の2通り実施した。
培養開始0日後、1日後、2日後、3日後、4日後、7日後にサンプリングを行い、溶液中のシス-1,2-DCEあるいはクロロエチレン(VCM)濃度を測定した。
1,4-ジオキサン濃度及びDCM濃度の経時変化を図6、7に示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:500mg-dry cell/L)、VOC(1,1-DCE、シス-1,2-DCE、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、DCM、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタンの7物質を各1mg/L)、無機塩培地を合計で24mLとなるように添加した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った(N=2)。
培養開始0日後、1日後、3日後、7日後にサンプリングを行い、溶液中のVOCの各濃度を測定した。
各有機塩素化合物濃度の経時変化を図8、9に示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:1000mg-dry cell/L)、1,4-ジオキサン(添加濃度1mg/L)、VOC(クロロエチレン、1,1-DCE、シス-1,2-DCE、DCM、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロペンの7物質を各1mg/L)、無機塩培地を条件毎に合計で30mLとなるように添加した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った(N=2)。条件は、菌を添加しない系(control)と菌を添加した系(1000ppm)を用意した。
培養開始0日後、4日後にサンプリングを行い、溶液中の1,4-ジオキサン及びVOCの各濃度を測定した。
図10に0日目に対する4日目の各物質の除去率を示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
controlにおいて、0日目と4日目で大きく濃度が変化した物質が見られるが、これは0日目のサンプリングの際に、一部の物質では気相と液相の平衡移動が完了する前に採取した影響であると考えられる。特に、1,1-DCEは初期の添加濃度が高くなってしまったことも除去率が高い原因であると考えられる。また、1,3-ジクロロプロペンは加水分解される特徴を持っているため、controlでも大きく除去されたと思われる。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:500mg-dry cell/L)、TCE(0.1mg/L、1mg/L、10mg/Lの3条件)、無機塩培地を合計で50mLとなるように添加した。また、それぞれについてN23株を含まないネガティブコントロールを調製した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った(N=2)。
培養開始0日後、1日後、2日後、7日後、14日後、21日後にサンプリングを行い、溶液中のTCE濃度を測定した。
TCE濃度の経時変化を図11に示す。(A)が初期TCE濃度0.1mg/L、(B)が初期TCE濃度1mg/L、(C)が初期TCE濃度10mg/Lである。なお、数値は2連の平均値を用いている。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:500mg-dry cell/L)、1,4-ジオキサン(10mg/L)、TCE(0.1mg/L、1mg/L、10mg/Lの3条件)、無機塩培地を合計で50mLとなるように添加した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った。
実験は下記5つの条件を用意して行った。
条件11:N23株及びジオキサンを加えない(コントロール)
条件12:TCEを加えない(ポジティブコントロール)
条件13:TCE濃度が0.1mg/L、ジオキサン濃度が10mg/L
条件14:TCE濃度が1mg/L、ジオキサン濃度が10mg/L
条件15:TCE濃度が10mg/L、ジオキサン濃度が10mg/L
各条件の1,4-ジオキサン濃度及びTCE濃度の経時変化を、それぞれ図12、13に示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:500mg-dry cell/L)、1,1,2-TCA(0.1mg/L、1mg/L、10mg/Lの3条件)、無機塩培地を合計で50mLとなるように添加した。また、それぞれについてN23株を含まないネガティブコントロールを調製した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った(N=2)。
培養開始5日後にサンプリングを行い、溶液中の1,1,2-TCA濃度を測定した。
TCE濃度の経時変化を図14に示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
120ml容のバイアル瓶にN23株(菌体濃度:500mg-dry cell/L)、1,4-ジオキサン(10mg/L)、1,1,2-TCE(0.1mg/L、1mg/L、10mg/Lの3条件)、無機塩培地を合計で50mLとなるように添加した。その後、ブチルゴム栓で密栓し30℃、120rpmの条件で振盪しながら試験を行った。条件は、1)N23株無し(ネガティブコントロール)、2)N23株ありの2条件を作成した。各条件、2連で試験を行い、1,4-ジオキサン、1,1,2-TCA濃度を測定した。
各条件の1,4-ジオキサン濃度及び1,1,2-TCA濃度の経時変化を、それぞれ図15、16に示す。なお、数値は2連の平均値を用いている。
N23株を添加した系は、1,1,2-TCAの初期濃度0.1mg/L、1mg/Lの条件では、1,4-ジオキサン、1,1,2-TCAともに3日目までに検出下限値まで減少した。1,1,2-TCAの初期濃度10mg/Lの条件では、1,4-ジオキサンは7日目までに検出下限値まで減少した。一方、1,1,2-TCAは7日目時点においても高い濃度で残存したが、ネガティブコントロールと比較して減少傾向が確認できた(図15B、図16B)。
Claims (6)
- 受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株を、好気環境下で有機塩素化合物と接触させる工程を含み、
前記有機塩素化合物が、炭素原子数1~3、塩素原子数1~3であることを特徴とする有機塩素化合物の生分解処理方法。 - 前記有機塩素化合物が、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロペン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレンの1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の生分解処理方法。
- 前記有機塩素化合物と、環状エーテル化合物とを同時に処理することを特徴とする請求項1または2に記載の生分解処理方法。
- 前記環状エーテル化合物が、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、2-クロロメチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフランの1種以上であることを特徴とする請求項3に記載の生分解処理方法。
- 前記有機塩素化合物を含む汚染土壌に、前記N23株を注入する工程、スパージング処理により酸素を供給する工程を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の生分解処理方法。
- 地中から前記有機塩素化合物を含む汚染水を揚水する工程、該汚染水を前記N23株を用いた標準活性汚泥法により処理する工程を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の生分解処理方法。
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