JP7186656B2 - 細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法 - Google Patents
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Description
有効成分を細胞内に取り込む技術としては、例えば、塩基性アミノ酸を多く含む細胞膜透過性ペプチドのアミノ酸配列を融合する方法や、中心から規則的に分枝した構造を有する樹状高分子であるデンドリマーを用いる方法などが知られている。
ここで、天然ペプチドの細胞膜透過性を予測するためには、ペプチドの熱運動(熱ゆらぎ)などを含めた動的な構造変化を考慮する必要があることなどから、従来の技術においては、実際に天然ペプチドを用意して、その天然ペプチドの細胞膜透過性を測定している。このため、従来の技術においては、細胞膜透過性を有する天然ペプチドの探索には、一つ一つのペプチドについて(ウエットな)実験を行う必要があり、天然ペプチドの準備などに伴って、多大な費用(コスト)及び時間が必要となるという問題があった。
しかしながら、分子動力学法などの分子シミュレーションを用いて、天然ペプチドの細胞膜透過性を十分な精度で予測(評価)できる技術は確立されていない。
細胞膜に対する透過性を有する天然ペプチドの探索方法であって、
探索対象としての天然ペプチドが、アミノ酸配列中に塩基性残基を少なくとも2つ有し、
天然ペプチドについての分子動力学計算に基づき、
天然ペプチドの第一の塩基性残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第一のベクトルと、
天然ペプチドの第二の塩基性残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第二のベクトルと、を算出し、
第一のベクトルと第二のベクトルとのなす角度が30°以下であり、かつ第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離が1.0nm以上2.5nm以下であるものの存在確率が5.0%以上であるものを特定する、ことを含む。
本発明の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法は、天然ペプチドの細胞膜に対する透過性が、当該天然ペプチドにおける塩基性残基の分布、より具体的には、アルギニン残基におけるグアニジノ基やリシン残基におけるアミノ基の位置関係と相関を有するという知見に基づくものである。そのため、まず、天然ペプチドの細胞膜に対する透過性と、当該天然ペプチドにおけるグアニジノ基やリシン残基におけるアミノ基の位置関係との相関について説明する。
細胞膜に対する透過性を有する天然ペプチドとしては、例えば、オクタアルギニン(R8)などが知られている。R8は、8つのアルギニン残基で形成されるペプチドである。R8のように、多数のアルギニン残基を有する天然ペプチドが、細胞膜に対する透過性を有し得ることについて、上記の非特許文献1などで報告されている。
・P2:ARALAALARAAAAAAR
・P7:ARALAALARALAAAAR
・P8:LRALAALARAAAAAAR
・R8:RRRRRRRR
ここで、上記のアミノ酸配列は、アミノ酸の一文字表記を用いたものであり、「A」はアラニン残基を示し、「R」はアルギニン残基を示し、「L」はロイシン残基を示す。
このため、天然ペプチドの細胞膜に対する透過現象が、アルギニン残基が有するグアニジノ基やリシン残基が有するアミノ基と、細胞膜表面に位置するリン酸基などとの相互作用に起因して生じているとすると、天然ペプチドにおける塩基性残基(アルギニン残基、リシン残基)の分布が、当該天然ペプチドの細胞膜透過性に影響すると考えられる。より具体的には、天然ペプチドにおけるアルギニン残基が有するグアニジノ基、リシン残基が有するアミノ基の分布が、天然ペプチドの細胞膜透過性を予測する上で重要になると考えられる。
このため、例えば、第一のアミノ酸残基と第二のアミノ酸残基とが7残基離れて位置すると、第一のアミノ酸残基と第二のアミノ酸残基とが、αヘリックスにおける同じ側面に位置しやすくなると考えられる。言い換えると、第一のアミノ酸残基と第二のアミノ酸残基とが約7残基離れて位置すると、第一のアミノ酸残基における側鎖の向きと第二のアミノ酸残基の側鎖の向きが揃いやすくなると考えられる。
αヘリックス構造において、第一の塩基性残基(アルギニン残基、リシン残基)と、第二の塩基性残基とにおけるグアニジノ基、アミノ基の向きが揃っていると、グアニジノ基やアミノ基がクラスターとして存在しやすいと考えられ、細胞膜表面に位置する負電荷を帯びたリン酸基などとの相互作用が強くなり、天然ペプチドの細胞膜透過性に有利に働くと考えられる。
そこで、本発明者らは、天然ペプチドの細胞膜に対する透過性と、アルギニン残基におけるグアニジノ基の位置関係や、リシン残基が有するアミノ基の位置関係との相関を、より詳細に特定するため、上記の非特許文献1において、細胞膜透過性が既知となっている天然ペプチドであるP1、P2、P7、P8、R8について、コンピュータを用いた分子シミュレーションを実行し解析を行った。以下では、本発明者らが実行した分子シミュレーション(分子動力学計算)の詳細について説明する。
まず、本計算例で対象とする天然ペプチドは、上述したようにヘリックス様の構造をとることが報告されているため、分子動力学計算の初期構造をαヘリックス構造とした。具体的には、計算対象とする天然ペプチドの初期構造がαヘリックスとなるように、αヘリックスのらせん構造パラメータ(回転ごとの残基数3.6、残基ごとの並進1.5Å、らせん半径2.3Å、間隔幅5.4Å)に基づいて、天然ペプチドの主鎖骨格のCA炭素(Cα炭素)を構築した。なお、1Åは、0.1nmである。
次に、モデリングツールを用いて、主鎖骨格の構造及びペプチドのアミノ酸配列に応じて側鎖構造を構築した後、ペプチドのN末端にアセチル基(いわゆるACE基)を、C末端にN-メチル基(いわゆるNME基)をそれぞれ付加してキャップした。
続いて、ペプチドの表面から8Å離れた領域までを1つのボックス(セル)として、ペプチドの周りに水分子を配置し、Naイオン、Clイオンを生理的条件([NaCl]=100mM)で配置することで計算系の中性化を行い、初期構造を作成した。
次に、作成した初期構造のおけるペプチドを構成する重原子(水素以外の原子)に位置拘束(位置束縛;Position Restraint)をかけて、分子力学(Molecular Mechanics;MM)計算によって、計算系全体のエネルギー極小化を行った。エネルギー極小化計算を行うことにより、初期構造が有する不自然な構造の歪みを取り除き、分子動力学計算の初期における時間積分の発散を避けることができる。
エネルギー極小化計算は、最急降下法を用い、最初のステップでの原子移動距離RMSD=0.1[Å]、最大計算ステップ数50000、収束判定条件RMSF(原子に加わる力の自乗平均)=100.0[kJ/mol/nm]として行った。
なお、本計算例においては、分子力場として、Amber ff99SB-ILDNを用いた。
続いて、分子動力学計算のエンジンとして、GROMACSのパッケージ(GROMACS 2016.1版)を用い、周期境界条件の下、溶媒の平衡化などのために、重原子に対する位置拘束ありで短時間のNVT(計算系の粒子数、体積、及び温度が一定の条件)計算を行った後、重原子に対する位置拘束ありで短時間のNPT(計算系の粒子数、圧力、及び温度が一定の条件)計算を行った。
本計算例で計算対象としている天然ペプチドの中で16のアミノ酸残基を有するP1、P2、P7、P8については、ペプチド1種のシミュレーション時間100nsの分子動力学計算にかかった計算所要時間は、8コア並列計算と1枚のGPUカードを利用した場合では、約6時間で終了した。
図3は、本計算例での分子動力学計算により求められたP1の立体構造の一例のスナップショットを示す図である。図3においては、カートゥーンモデル及びラインモデルの重ね合わせた表示形式でP1の立体構造を示す。
そして、アルギニン残基におけるグアニジノ基同士の位置関係を解析するため、上記の分子動力学計算により取得したトラジェクトリを利用して、天然ペプチドが有するアルギニン残基のグアニジノ基の角度と距離のヒストグラム分布(ヒストグラムの等高線マップ)を算出した。以下では、グアニジノ基の角度と距離のヒストグラム分布の算出方法について説明する。
そして、解析対象とする2つのアルギニン残基が有するグアニジノ基のベクトルペア(以下では、対照ベクトルペアと称することがある)のなす角度を、それぞれのアルギニン残基におけるベクトルの内積から算出した。
さらに、グアニジノ基間の距離(グアニジノ基の先端同士の距離)は、解析対象とする2つのアルギニン残基におけるそれぞれのベクトルのノルムと、その対照ベクトルペアの内積から算出した。より具体的には、対照ベクトルペアにおける一のベクトルを「a」とし、他のベクトルを「b」とすると、余弦定理を用いて下記の式に基づき、グアニジノ基の先端同士の距離を算出した。なお、下記の式における|a|と|b|は、それぞれベクトルaとベクトルbのノルムを意味し、a・bは、ベクトルaとベクトルbの内積を意味する。
図4においては、R8における1番目のアルギニン残基が有するグアニジノ基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCA炭素からグアニジノ基が有するCZ炭素に向かうベクトルv1と、R8における8番目のアルギニン残基が有するグアニジノ基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCA炭素からグアニジノ基が有するCZ炭素に向かうベクトルv8とを示している。
より具体的には、オクタアルギニン(R8)においては、上述した方法により、1番目と8番目、7残基離れたアルギニン残基におけるグアニジノ基のペアに対して角度と距離のヒストグラム分布を算出した。P1、P2、P7、P8においては、7残基ごとにアルギニン残基が3つ存在するので、2番目のアルギニン残基と9番目のアルギニン残基のペア、2番目と16番目のアルギニン残基のペア、9番目と16番目のアルギニン残基のペア、3つすべてのペアを1つにまとめてヒストグラム分布を算出した。
図5から9に示すヒストグラムの等高線マップにおいては、縦軸がグアニジノ基同士の角度を示し、横軸がグアニジノ基同士の距離を示す。なお、図5から9においては、最も外側の等高線の内側が、存在確率が1%以上の領域、それより1つ内側の等高線が2%以上、もう1つ内側の等高線が3%以上の領域を示す。
なお、図5から9に示したヒストグラムの等高線マップは、マイクロソフト社のエクセルの等高線マップ機能により作成した。
グアニジノ基がクラスター状にある程度まとまって存在しているとすると、図5から9に示すヒストグラムの等高線マップにおいては、グアニジノ基同士の角度が小さい領域(例えば、30°以下の領域)に分布しやすい(グアニジノ基同士の向きが揃いやすい)と考えられる。
さらに、グアニジノ基がクラスター状にある程度まとまって存在しているとすると、図5から9に示すヒストグラムの等高線マップにおいては、グアニジノ基同士の距離が所定の範囲にまとまって分布しやすいと考えられる。本計算例に用いたP1、P2、P7、P8、及びR8においては、ヘリックス構造を有し得ることに加え、アルギニン残基同士が7残基離れて位置しているため、αヘリックスの残基ごとの並進距離が1.5Åであることを考慮すると、グアニジノ基がクラスター状にある程度まとまって存在している場合には、例えば、グアニジノ基同士の距離が10Å(1.0nm)以上25Å(2.5nm)以下の領域に分布しやすいと考えられる。
さらに、非特許文献1において細胞膜透過性を有すると報告されているP7及びP8においても、R8と同様に、グアニジノ基同士の角度が30°以下であり、かつグアニジノ基同士の距離が10Å以上25Å以下となる確率が5.0%以上となっていることを見出した。
加えて、非特許文献1において細胞膜透過性を有さないと報告されているP1及びP2においては、グアニジノ基同士の角度が30°以下であり、かつグアニジノ基同士の距離が10Å以上25Å以下となる確率が5.0%以下となっていることを見出した。
また、図10及び表1に示すように、非特許文献1において、細胞膜透過性を有することが報告されているP7、P8、及びR8では、グアニジノ基同士の角度が30°以下であり、かつグアニジノ基同士の距離が10Å以上25Å以下となる確率が5%以上となっている。
細胞膜に対する透過性を有する天然ペプチドの探索方法であって、
探索対象としての天然ペプチドが、アミノ酸配列中に塩基性残基を少なくとも2つ有し、
天然ペプチドについての分子動力学計算に基づき、
天然ペプチドの第一の塩基性残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第一のベクトルと、
天然ペプチドの第二の塩基性残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第二のベクトルと、を算出し、
第一のベクトルと第二のベクトルとのなす角度が30°以下であり、かつ第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離が1.0nm以上2.5nm以下であるものの存在確率が5.0%以上であるものを特定する、こと(工程)を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
探索対象としては、アミノ酸配列中に塩基性残基(アルギニン残基、リシン残基)を少なくとも2つ有する天然ペプチドであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、本発明における天然ペプチドは、厳密な意味で天然由来のものである必要は無く、例えば、立体構造を形成可能又は機能を発揮可能なものであれば、糖鎖やその他のペプチド部分を欠失させたものであってもよい。
これは、グアニジノ基やアミノ基がクラスター状にある程度まとまって存在している(局在している)ことにより、細胞膜表面に位置する負電荷を帯びたリン酸基などとの相互作用が強くなり、天然ペプチドの細胞膜透過性に有利に働くためであると考えられる。
αヘリックスは、3.6残基ごとに一回転するため、例えば、2つの塩基性残基が7残基程度(又は14残基程度)離れて位置すると、これらの塩基性残基におけるグアニジノ基、アミノ基が同方向に配向しやすいと考えられる。言い換えると、αヘリックス構造を有し得る天然ペプチドは、所定の間隔で位置する塩基性残基が有する側鎖末端の官能基同士(グアニジノ基、アミノ基)の角度が小さくなりやすいため、グアニジノ基、アミノ基がクラスター状態で存在しやすく、細胞膜透過性を有しやすいと考えられる。
この場合、当該他の塩基性残基については、第一のベクトルと第二のベクトルとのなす角度が30°以下であり、かつ第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離が10Å(1.0nm)以上25Å(2.5nm)以下であるものの存在確率を算出する際の計算対象から除外することが好ましい。当該他の塩基性残基は、天然ペプチドがαヘリックス構造を有する場合に、塩基性残基におけるグアニジノ基、アミノ基が同方向に配向しにくいと考えられるため、実際には細胞膜透過性を有し得る天然ペプチドにもかかわらず、当該他の塩基性残基の影響により、上記の存在確率が低く算出されることを防止することができる。
探索対象としての天然ペプチドを構成する全アミノ酸残基に対するロイシン残基の割合としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、15%以上であることが好ましい。探索対象としての天然ペプチドが、当該天然ペプチドを構成する全アミノ酸残基に対しロイシン残基を15%以上有することにより、当該天然ペプチドが両親媒性を有しやすくなるためαヘリックス構造をとりやすくなり、細胞膜透過性を有しやすいと考えられる。
本発明においては、探索対象としての天然ペプチドについての分子動力学計算に基づいて、後述する存在確率を算出する。本発明においては、例えば、水中、300Kの条件下で、シミュレーション時間を100nsとして実行した分子動力学計算に基づいて、存在確率を算出することが好ましい。
分子動力学計算の手法については、上記の<分子動力学計算の計算例>で説明した手法を、適宜目的に応じて用いることができるが、これに限られるものではない。
以下では、分子動力学計算の詳細について説明する
続いて、分子動力学法では、変化後の原子の位置を新たな起点として、同様の計算を再び行う。非常に短い時間の刻みでこれを繰り返すと、原子が徐々に動く様子が再現できる。このように、分子動力学法においては、(i)原子の位置の決定、(ii)原子に働く力の計算、(iii)原子の動きの計算、という(i)~(iii)を計算機で繰り返し、時間の経過に伴って変化する物理量や立体構造を任意に抽出し、抽出したデータに基づいて統計処理や、立体構造の画像を表示するなどして、生体分子や化合物の構造、物性を解析する。
その後、平衡化の計算で得られた最終構造のセルサイズを用いてNPT計算を実施することにより、安定な分子シミュレーションを継続して行うことができる。
また、上記の短い刻みの時間は、0.1fs(フェムト秒)以上10fs以下であることが好ましく、0.5fs以上2.0fs以下であることがより好ましい。なお、短い刻みの時間を「ステップ時間」又は「時間刻み幅」と称することがある。本発明では、特段の断りが無い限り、ステップ時間は2.0fsとする。
ここで、ステップ時間での原子の位置の変化を繰り返し計算する際における繰り返し回数を「ループ回数」とすると、シミュレーション時間は、ステップ時間とループ回数の積で表される。本発明においては、例えば、シミュレーション時間を100ns以上とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
本発明に用いることができる分子力場としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Amber系の分子力場、CHARMm系の分子力場、OPLS系の分子力場などが挙げられる。Amber系の分子力場としては、例えば、Amber ff99SB-ILDN、Amber 12SBなどが挙げられる。CHARMm系の分子力場としては、例えば、CHARMm36などが挙げられる。
本発明においては、上記の分子動力学計算の結果に基づいて、探索対象の天然ペプチドが、細胞膜透過性を有するか否かを特定する。
より具体的には、本発明においては、天然ペプチドの第一の塩基性残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第一のベクトルと、天然ペプチドの第二の塩基性残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第二のベクトルと、を算出する。さらに、本発明においては、第一のベクトルと第二のベクトルとのなす角度が30°以下であり、かつ第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離が1.0nm以上2.5nm以下であるものの存在確率が5.0%以上であるものを特定する。
第一のベクトルは、天然ペプチドの第一の塩基性残基(アルギニン残基、リシン残基)における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かうベクトルである。
第二のベクトルは、天然ペプチドの第二の塩基性残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かうベクトルである。
そのため、塩基性残基がアルギニン残基である場合、第一のベクトルは、天然ペプチドの第一のアルギニン残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素からグアニジノ基が有するCZ炭素に向かうベクトルとすることができる。
同様に、塩基性残基がアルギニン残基である場合、第二のベクトルは、天然ペプチドの第二のアルギニン残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素からグアニジノ基が有するCZ炭素に向かうベクトルとすることができる。
そのため、塩基性残基がリシン残基である場合、第一のベクトルは、天然ペプチドの第一のアルギニン残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素からアミノ基と結合するCE炭素に向かうベクトルとすることができる。
同様に、塩基性残基がリシン残基である場合、第二のベクトルは、天然ペプチドの第二のリシン残基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素からアミノ基と結合するCE炭素に向かうベクトルとすることができる。
第一のベクトルは、例えば、第一の塩基性残基おいて、側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素の座標値から、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素の座標値を引く(差をとる)ことにより算出することができる。第二のベクトルについても同様に、例えば、第二の塩基性残基おいて、側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素の座標値から、天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素の座標値を引くことにより算出することができる。
本発明においては、第一のベクトルと第二のベクトルとのなす角度を算出し、当該なす角が30°以下であるものを特定する。
第一のベクトルと第二のベクトルとのなす角度を算出する手法については、上記の<分子動力学計算の計算例>で説明した手法を、適宜目的に応じて用いることができるが、これに限られるものではない。
本発明においては、第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離を算出し、当該距離が1.0nm以上2.5nm以下であるものを特定する。
第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離を算出する手法については、上記の<分子動力学計算の計算例>で説明した手法を、適宜目的に応じて用いることができるが、これに限られるものではない。
第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離は、例えば、第一のベクトルと第二のベクトルのノルム及び内積から求めることができる。
また、第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離は、第一の塩基性残基の側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素の座標と、第二の塩基性残基の側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素の座標を用いて、いわゆる「2点間の距離の公式」から求めることもできる。
本発明においては、第一のベクトルと第二のベクトルとのなす角度が30°以下であり、かつ第一のベクトルの先端と第二のベクトルの先端との距離が1.0nm以上2.5nm以下であるものの存在確率(以下では、この存在確率を単に「存在確率」と称することがある)を算出し、当該存在確率が5.0%以上であるものを、細胞膜透過性を有する天然ペプチドとして特定する
存在確率を算出する手法については、上記の<分子動力学計算の計算例>で説明した手法を、適宜目的に応じて用いることができるが、これに限られるものではない。
存在確率の算出は、例えば、分子動力学計算により得られた全スナップショットに対する、そのビンの範囲に入るスナップショットの数の割合を算出することなどにより行うことができる。
本発明の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法では、天然ペプチドの細胞膜透過性をウエットな実験で評価する(ペプチドを合成して膜透過実験を実施する)必要がなく、時間的コストを大幅に削減できることができ、細胞膜透過性を有する天然ペプチドを探索する際において、実用面で非常に有益である。
これにより、本発明の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法は、コンピュータを用いた分子シミュレーションにより、細胞膜に対する透過性を有する天然ペプチドを探索できる。
<1> 細胞膜に対する透過性を有する天然ペプチドの探索方法であって、
探索対象としての前記天然ペプチドが、アミノ酸配列中に塩基性残基を少なくとも2つ有し、
前記天然ペプチドについての分子動力学計算に基づき、
前記天然ペプチドの第一の塩基性残基における、前記天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第一のベクトルと、
前記天然ペプチドの第二の塩基性残基における、前記天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第二のベクトルと、を算出し、
前記第一のベクトルと前記第二のベクトルとのなす角度が30°以下であり、かつ前記第一のベクトルの先端と前記第二のベクトルの先端との距離が1.0nm以上2.5nm以下であるものの存在確率が5.0%以上であるものを特定する、
ことを含むことを特徴とする細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法である。
<2> 前記探索対象としての前記天然ペプチドが、前記天然ペプチドを構成する全アミノ酸残基に対しロイシン残基を15%以上有する、前記<1>に記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法である。
<3> 前記探索対象としての前記天然ペプチドが両親媒性である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法である。
<4> 前記探索対象としての前記天然ペプチドが5以上50以下のアミノ酸残基を有する、前記<1>から<3>のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法である。
<5> 前記第一の塩基性残基と前記第二の塩基性残基とが、6残基以上8残基以下の間隔を開けて位置する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法である。
<6> 前記第一の塩基性残基と前記第二の塩基性残基とが、13残基以上15残基以下の間隔を開けて位置する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法である。
<7> 前記探索対象としての前記天然ペプチドが、第三の塩基性残基を更に有し、
前記第一の塩基性残基と前記第二の塩基性残基とが、6残基以上8残基以下の間隔を開けて位置し、
前記第一の塩基性残基と、第三の塩基性残基とが、13残基以上15残基以下の間隔を開けて位置する、
前記<1>から<5>のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法である。
v2 R8における8番目のアルギニン残基が有するグアニジノ基における、天然ペプチドの主鎖を形成するCA炭素からグアニジノ基が有するCZ炭素に向かうベクトル(第二のベクトルの一例)
Claims (7)
- 細胞膜に対する透過性を有する天然ペプチドの探索方法であって、
探索対象としての前記天然ペプチドが、アミノ酸配列中に塩基性残基を少なくとも2つ有し、
前記天然ペプチドについての分子動力学計算に基づき、
前記天然ペプチドの第一の塩基性残基における、前記天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第一のベクトルと、
前記天然ペプチドの第二の塩基性残基における、前記天然ペプチドの主鎖を形成するCα炭素から側鎖末端の官能基が有する又は結合する炭素に向かう第二のベクトルと、を算出し、
前記第一のベクトルと前記第二のベクトルとのなす角度が30°以下であり、かつ前記第一のベクトルの先端と前記第二のベクトルの先端との距離が1.0nm以上2.5nm以下であるものの存在確率が5.0%以上であるものを特定する、
ことを含むことを特徴とする細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法。 - 前記探索対象としての前記天然ペプチドが、前記天然ペプチドを構成する全アミノ酸残基に対しロイシン残基を15%以上有する、請求項1に記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法。
- 前記探索対象としての前記天然ペプチドが両親媒性である、請求項1から2のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法。
- 前記探索対象としての前記天然ペプチドが5以上50以下のアミノ酸残基を有する、請求項1から3のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法。
- 前記第一の塩基性残基と前記第二の塩基性残基とが、6残基以上8残基以下の間隔を開けて位置する、請求項1から4のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法。
- 前記第一の塩基性残基と前記第二の塩基性残基とが、13残基以上15残基以下の間隔を開けて位置する、請求項1から4のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法。
- 前記探索対象としての前記天然ペプチドが、第三の塩基性残基を更に有し、
前記第一の塩基性残基と前記第二の塩基性残基とが、6残基以上8残基以下の間隔を開けて位置し、
前記第一の塩基性残基と、第三の塩基性残基とが、13残基以上15残基以下の間隔を開けて位置する、請求項1から5のいずれかに記載の細胞膜透過性天然ペプチドの探索方法。
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Cardenas, Alfredo E et al.,Membrane permeation of a peptide: it is better to be positive.,The journal of physical chemistry. B,2015年05月28日,Vol.119, No.21,Pages 1-21,[検索日:2022年10月25日], <URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4503241> |
Richard M. Venable, et al.,Molecular Dynamics Simulations of Membrane Permeability,Chemical Reviews,2019年02月12日,Vol.119, No.9,Pages 5954-5997,[検索日:2022年10月25日], <URL:htttps:pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.chemrev.8b00486> |
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