本発明の前記式(3)で表される置換アリールフルオレン誘導体の製造方法では、前記式(1)で表されるフルオレン化合物と、前記式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとを塩基および2価の亜鉛化合物の存在下で反応させる。
(式(1)で表されるフルオレン化合物)
(式中、R1は非反応性基を示し、R2は炭化水素基を示し、kは0~8の整数を示し、mは0又は1を示す)。
前記式(1)において、R1は、式(1)で表されるフルオレン化合物と、式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとの反応に対して不活性な非反応性基であり、例えば、炭化水素基、具体的には、アルキル基、アリール基など;シアノ基;ハロゲン原子、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基が挙げられる。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基などのC6-10アリール基が挙げられる。
kが1以上である場合、これらの基R1のうち、アルキル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましく、さらに好ましくはアルキル基、なかでも、直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基、特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキル基が好ましい。
基R1の置換数kは、例えば、0~7程度の整数、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~6の整数、0~5の整数、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0又は1、特に0である。kが2以上である場合、2以上の基R1の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、基R1の置換位置は特に制限されず、例えば、kが2以上である場合、基R1はフルオレン環を形成する少なくとも一方のベンゼン環に置換していてもよく、双方のベンゼン環に置換していてもよい。基R1の置換位置は、例えば、フルオレン環の2位ないし7位のいずれかの位置であってもよく、具体的には、2位、3位および/または7位などであってもよい。なお、フルオレン環を形成する2つのベンゼン環における置換数、置換位置および置換基の種類は、それぞれ互いに同一又は異なっていてもよい。
R2で表される炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基である。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などのモノ乃至トリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
置換数mは0又は1のいずれであってもよいが、基R2の立体障害による反応性低下を防止できる点から、0であるのが好ましい。mが1である場合、好ましいR2としては、アルキル基、フェニル基などのアリール基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基であり、アルキル基がさらに好ましい。なかでも、反応性を低下し難い点から、炭素数が少ない炭化水素基が好ましく、例えば直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、より好ましい範囲としては、以下段階的に、直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基、直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキル基、C1-2アルキル基であり、メチル基が特に好ましい。
前記式(1)で表される化合物として、代表的には、9H-フルオレン、9-メチルフルオレン、9-フェニルフルオレンなどが挙げられ、9H-フルオレンが好ましい。
(式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリール)
(式中、Z1は芳香族炭化水素環を示し、R3は非反応性基を示し、Eは電子求引性基を示し、X1はハロゲン原子を示し、nは0以上の整数を示す)。
前記式(2)において、Z1で表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)は、ベンゼン環などの単環式アレーン環や多環式アレーン環(多環式芳香族炭化水素環)などが挙げられる。多環式アレーン環としては、縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環、具体的には、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環など;縮合三環式アレーン環、具体的には、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合多環式C10-16アレーン環が挙げられ、さらに好ましくは縮合多環式C10-14アレーン環が挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
環集合アレーン環としては、例えば、ビアレーン環、具体的には、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビC6-12アレーン環など;テルアレーン環、具体的には、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環などが例示できる。前記フェニルナフタレン環としては、例えば、1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環などが挙げられる。好ましい環集合アレーン環としては、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビC6-10アレーン環が挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、ナフタレン環骨格などの縮合多環式アレーン環骨格を含む環集合アレーン環は、環集合アレーン環に分類する。
環Z1のうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、さらに好ましくはベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環であり、反応性に優れる観点から、ベンゼン環が特に好ましい。
式(2)で表されるハロゲン化アリールは、少なくとも1つの電子求引性基を有していればよい。前記式(2)において、Eで表される電子求引性基としては、例えば、ニトロ基、シアノ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、置換アミド基、スルホ基、アルキルスルホニル基、パーハロアルキル基などが挙げられる。
前記アシル基としては、例えば、アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基、ホルミル基が挙げられる。
前記アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基などのC1-10アルコキシ-カルボニル基が挙げられる。
前記置換アミド基としては、N-モノ置換アミド基、N,N-ジ置換アミド基のいずれであってもよい。N-モノ置換アミド基としては、例えば、N-アルキルアミド基、具体的には、N-メチルアミド基、N-イソプロピルアミド基などのN-C1-6アルキル-アミド基が挙げられる。N,N-ジ置換アミド基としては、例えば、N,N-ジアルキルアミド基、具体的には、N,N-ジメチルアミド基などのN,N-ジC1-6アルキル-アミド基が挙げられる。
前記アルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基などのC1-10アルキルスルホニル基が挙げられる。
前記パーハロアルキル基としては、例えば、パーフルオロアルキル基、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基などのパーフルオロC1-6アルキル基;パークロロアルキル基、具体的には、トリクロロメチル基などのパークロロC1-6アルキル基が挙げられる。
好ましい電子求引性基Eとしては、シアノ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、置換アミド基であり、より好ましくはシアノ基、アシル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基であり、さらに好ましくはシアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基であり、なかでも、反応性の観点から、シアノ基またはアルコキシカルボニル基が好ましく、特にシアノ基が好ましい。なお、Eの置換位置は特に制限されない。
X1で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、通常、臭素原子又はヨウ素原子であることが多い。なかでも、式(3)で表されるフルオレン誘導体を選択的に得やすい点から、臭素原子であるのが好ましい。
X1で表されるハロゲン原子の置換位置は、式(3)で表されるフルオレン誘導体におけるフルオレン環の9位と環Z1との結合位置に対応し、通常、環Z1において、電子求引性基Eにより反応を促進可能な位置であればよい。X1の具体的な置換位置は、例えば、環Z1がベンゼン環である場合、電子求引性基Eの置換位置に対して、o位またはp位であるのが好ましく、p位がさらに好ましい。
R3は、式(1)で表されるフルオレン化合物と、式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとの反応に対して不活性な非反応性基であり、例えば、炭化水素基又は基[-Ra]、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基など;基[-ORa](式中、Raは前記炭化水素基を示す)、具体的には、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基など;基[-SRa](式中、Raは前記炭化水素基を示す)、具体的には、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基など;アシル基、具体的には、アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基など;ニトロ基;シアノ基;モノ又はジ置換アミノ基、具体的には、ジアルキルアミノ基、ビス(アルキルカルボニル)アミノ基などが挙げられる。
前記Raで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル基が挙げられ、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基である。前記Raで表されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。前記Raで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基が挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などのモノ乃至トリC1-4アルキル-フェニル基が挙げられる。前記Raで表されるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基が挙げられる。
前記基[-ORa]として具体的には、前記炭化水素基Raの例示に対応する基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルコキシ基が挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、例えば、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基が挙げられる。
前記基[-SRa]として具体的には、前記炭化水素基Raの例示に対応する基が挙げられる。アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1-10アルキルチオ基が挙げられる。シクロアルキルチオ基としては、例えば、シクロヘキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基が挙げられる。アリールチオ基としては、例えば、チオフェノキシ基(又はフェニルチオ基)などのC6-10アリールチオ基が挙げられる。アラルキルチオ基としては、例えば、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基が挙げられる。
モノ又はジ置換アミノ基において、ジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基が挙げられる。ビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基が挙げられる。
これらの基R3のうち、代表的には、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。nが1以上である場合、好ましい基R3としては、アルキル基、具体的には、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基;アリール基、具体的には、フェニル基などのC6-14アリール基;アルコキシ基、具体的には、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコキシ基が挙げられ、なかでも、アルキル基、アリール基が好ましく、特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基、フェニル基などのC6-10アリール基が好ましい。なお、基R3がアリール基であるとき、基R3は、環Z1とともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換数nが2以上である場合、環Z1に置換する2以上の基R3の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。
基R3の置換数nは、環Z1の種類に応じて適宜選択でき、例えば、0~8程度の整数であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、さらに好ましくは0又は1、特に0である。基R3の置換位置は、特に制限されず、環Z1上において、電子求引性基Eおよびハロゲン原子X1の置換位置以外の位置に置換していればよい。
式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとして代表的には、シアノハロゲン化アリール、アルコキシカルボニルハロゲン化アリールなどが挙げられる。
シアノハロゲン化アリールとしては、例えば、シアノ-ハロゲン化C6-10アリール(またはハロ-シアノC6-10アレーン)、具体的には、p-ブロモベンゾニトリル、p-ヨードベンゾニトリルなどのp-シアノ-ハロゲン化C6-10アリールなどが挙げられる。
アルコキシカルボニルハロゲン化アリールとしては、例えば、C1-6アルコキシ-カルボニル-ハロゲン化C6-10アリール[またはハロ-(C1-6アルコキシ-カルボニル)C6-10アレーン]、具体的には、p-ブロモ安息香酸メチル、p-ブロモ安息香酸t-ブチル、p-ヨード安息香酸t-ブチルなどp-(C1-4アルコキシ-カルボニル)-ハロゲン化C6-10アリールなどが挙げられる。
[式(3)で表される置換アリールフルオレン誘導体の合成]
(式中、X1、E、R1、R2、R3、Z1、k、mおよびnはそれぞれ前記式(1)又は(2)に同じである)。
式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールの使用割合は、式(1)で表されるフルオレン化合物1モルに対して、例えば、1~10モル程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.3~8モル、1.5~6モル、1.8~5モル、2~4.5モル、2.3~4モルであり、さらに好ましくは2.5~3.5モルである。
(塩基)
式(1)で表されるフルオレン化合物と、式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとの反応は、塩基の存在下で行われる。塩基としては、例えば、アミン類、第4級アンモニウム金属アルコキシド、有機リチウム化合物、有機マグネシウム化合物(グリニャール試薬)、有機酸塩などの有機塩基;金属炭酸塩又は炭酸水素塩、金属水酸化物、金属水素化物などの無機塩基などが挙げられる。
前記アミン類としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンなどが挙げられる。脂肪族アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジシクロヘキシルエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなどの脂肪族第3級アミンなどが挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミンなどが挙げられる。複素環式アミンとしては、例えば、ピリジン、ルチジン、コリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、4-ピロリジノピリジン、1-メチルピペリジン、1-エチルピペリジン、1,2,2’,6,6’-ペンタメチルピペリジン、1-メチルピロリジン、イミダゾール、2,6-ジメチルピペラジン、4-メチルモルホリン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンなど)などが挙げられる。
前記第4級アンモニウム水酸化物としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウムなどが挙げられる。
前記金属アルコキシドとしては、例えば、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属C1-6アルコキシドなどが挙げられる。
前記有機リチウム化合物としては、例えば、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウムなどのアルキルリチウム;フェニルリチウムなどのアリールリチウム;リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウム2,2,6,6-テトラメチルピペラジド(LiTMP)、リチウムヘキサメチルジシラジド(LHMDS)などのリチウムアミドなどが挙げられる。
前記有機マグネシウム化合物(グリニャール試薬)としては、例えば、メチルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムヨージド、エチルマグネシウムブロミド、イソプロピルマグネシウムブロミド、n-ブチルマグネシウムブロミド、t-ブチルマグネシウムブロミドなどのアルキルマグネシウムハライド;シクロプロピルマグネシウムブロミド、シクロペンチルマグネシウムブロミドなどのシクロアルキルマグネシウムハライド;フェニルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムヨージドなどのアリールマグネシウムハライド;ベンジルマグネシウムブロミドなどのアラルキルマグネシウムハライドなどが挙げられる。
前記有機酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウムなどの有機酸金属塩などが挙げられる。
前記金属炭酸塩又は炭酸水素塩としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩又は炭酸水素塩などが挙げられる。
前記金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物などが挙げられる。
前記金属水素化物としては、例えば、水素化ナトリウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物などが挙げられる。
これらの塩基は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの塩基のうち、金属アルコキシド、なかでも、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが好ましい。
塩基の使用割合(含有割合)は、式(1)で表されるフルオレン化合物1モルに対して、例えば、0.1~20モル程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.5~15モル、1~10モル、1.5~8モル、2~8モル、3~7モル、4~6モルであり、さらに好ましくは4.5~5.5モルである。また、塩基の使用割合は、式(1)で表されるフルオレン化合物100質量部に対して、例えば、10~1000質量部、50~800質量部、100~600質量部、150~530質量部、200~480質量部、250~430質量部、300~380質量部であり、さらに好ましくは330~350質量部である。塩基の割合が少なすぎると、反応が十分に進行しないおそれがあり、塩基の割合が多すぎると、副反応が起き易くなるおそれがあり、特に、mが0である場合、式(1)で表されるフルオレン化合物1つに対して式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールが複数反応した2置換体などの副生成物の割合が増加して、目的物の1置換体(式(3)で表されるフルオレン誘導体)の収率が低下するおそれがある。
(2価の亜鉛化合物)
また、式(1)で表されるフルオレン化合物と、式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとの反応は、2価の亜鉛化合物の存在下で行われる。反応系に前記塩基と2価の亜鉛化合物とを組み合わせて添加すると、式(3)で表される1置換体の収率を選択的に向上し易いようである。この理由は定かではないが、前記亜鉛化合物における2価の亜鉛が、式(1)で表されるフルオレン化合物と式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとの間に介在し触媒として作用するためと推測される。
このような2価の亜鉛化合物としては、例えば、ハロゲン化亜鉛、ジアルキル亜鉛などが挙げられ、通常、これらから選択される少なくとも1種の2価の亜鉛化合物の存在下で反応させることが多い。
ハロゲン化亜鉛としては、例えば、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛などが挙げられる。ジアルキル亜鉛としては、例えば、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛などのジC1-6アルキル亜鉛などが挙げられる。これらの触媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
これらの2価の亜鉛化合物のうち、ハロゲン化亜鉛が好ましく、なかでも、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛が好ましく、特に、塩化亜鉛が好ましい。
2価の亜鉛化合物の使用割合(含有割合)は、式(1)で表されるフルオレン化合物1モルに対して、例えば、0.5~10モル程度、より具体的には0.55~9モル程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0.6~8モル、0.65~7モル、0.7~6モル、0.75~5.5モル、0.8~5モル、0.85~4.5モル、0.9~4モル、0.95~3.5モル、1~3モル、1.1~2.5モル、1.2~2モル、1.3~1.8モルであり、さらに好ましくは1.4~1.6モルである。触媒の割合が少なすぎると、目的物の1置換体の収率が低下するおそれがある。2価の亜鉛化合物がハロゲン化亜鉛である場合、その使用割合が式(1)で表される化合物1モルに対して1モル以上であると、目的物の1置換体をより選択的に(効率よく)得易いようである。
また、2価の亜鉛化合物と塩基との割合は、例えば、2価の亜鉛化合物/塩基(モル比)=1/0.5~1/20程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1/1~1/10、1/1.5~1/8、1/2~1/7、1/2.3~1/6.5、1/2.5~1/6、1/2.6~1/5.8、1/2.8~1/5.5であり、さらに好ましくは1/3~1/5.3である。塩基の割合が2価の亜鉛化合物に対して少なすぎると、反応が十分に進行しないおそれがある。塩基の割合が2価の亜鉛化合物に対して多すぎると、副反応が起き易くなるおそれがあり、特にmが0である場合、2置換体などの副生成物が増加するおそれがある。
(溶媒)
式(1)で表されるフルオレン化合物と、式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとの反応は、溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、溶媒中で行うことが多い。溶媒としては、非プロトン性極性溶媒、例えば、エーテル類、ケトン類、エステル類、カーボネート類、アミド類、尿素類、ニトリル類、ニトロ化炭化水素類、ホスホルアミド類、スルホン類、スルホキシド類などが挙げられる。
前記エーテル類としては、例えば、鎖状エーテル類、環状エーテル類などが挙げられる。鎖状エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのジC1-6アルキルエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどの(モノ乃至ヘキサ)C2-4アルキレングリコールジC1-6アルキルエーテルなどが挙げられる。環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキソランなどが挙げられる。
前記ケトン類としては、例えば、鎖状ケトン類、環状ケトン類などが挙げられる。鎖状ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのジC1-6アルキル-ケトンなどが挙げられる。環状ケトン類としては、例えば、シクロヘキサノンなどのC5-10シクロアルカノンなどが挙げられる。
前記エステル類としては、例えば、鎖状エステル類、環状エステル類(又はラクトン類)などが挙げられる。鎖状エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのC2-6アルカン酸C1-6アルキルエステルなどが挙げられる。ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン(又はγ-ヘキサノラクトン)などの5~7員環ラクトンなどが挙げられる。
前記カーボネート類としては、例えば、鎖状カーボネート類、環状カーボネート類などが挙げられる。鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(又は炭酸ジメチル)、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(又は炭酸ジエチル)などのジC1-6アルキル-カーボネートなどが挙げられる。環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(又は炭酸エチレン)、プロピレンカーボネート(又は炭酸プロピレン)などのジ乃至テトラメチレンカーボネートなどが挙げられる。
前記アミド類としては、例えば、鎖状アミド類、環状アミド類(又はラクタム類)などが挙げられる。鎖状アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのN,N-ジC1-6アルキル-C1-6アルカン酸アミドなどが挙げられる。環状アミド類としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドンなどの5~7員環ラクタムなどが挙げられる。
前記尿素類(又はウレア類)としては、例えば、鎖状尿素類、環状尿素類などが挙げられる。鎖状尿素類としては、例えば、テトラメチル尿素、テトラエチル尿素、テトライソプロピル尿素などのテトラC1-6アルキル-尿素などが挙げられる。環状尿素類としては、例えば、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI又はN,N’-ジメチルエチレン尿素)、N,N’-ジメチル-N,N’-トリメチレン尿素(又はN,N’-プロピレン尿素)などのN,N’-ジC1-6アルキル-N,N’-ジ乃至テトラメチレン尿素などが挙げられる。
前記ニトリル類としては、例えば、シアン化炭化水素、具体的には、アセトニトリル、プロピオノニトリルなどのシアン化C1-6アルカン、ベンゾニトリルなどのシアン化アレーンなどが挙げられる。
前記ニトロ化炭化水素類としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパンなどのニトロC1-6アルカン、ニトロベンゼンなどのニトロアレーンなどが挙げられる。
前記ホスホルアミド類としては、例えば、ヘキサメチルホスホルアミドなどのヘキサC1-6アルキルホスホルアミドなどが挙げられる。
前記スルホン類としては、例えば、鎖状スルホン類、環状スルホン類などが挙げられる。鎖状スルホン類としては、例えば、エチルメチルスルホン、イソプロピルエチルスルホンなどのジC1-6アルキルスルホンなどが挙げられる。環状スルホン類としては、例えば、スルホラン(又はテトラメチレンスルホン若しくはテトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド)などのトリ乃至ヘキサメチレンスルホン類などが挙げられる。
前記スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのジC1-6アルキルスルホキシドなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの溶媒のうち、DMFなどのアミド類、DMSOなどのスルホキシド類、なかでも、DMFなどのアミド類がよく利用される。溶媒の使用量は、特に制限されず、反応系を均一に分散させて効率よく反応できる程度であればよく、例えば、式(1)で表されるフルオレン化合物100質量部に対して、100~10000質量部程度、好ましくは1000~5000質量部、さらに好ましくは2000~4000質量部である。
式(1)で表されるフルオレン化合物と、式(2)で表される電子求引性基含有ハロゲン化アリールとの反応は、通常、窒素ガスや希ガスなど不活性雰囲気中で行ってもよく、常圧又は加圧下で行ってもよい。また、反応は、攪拌しながら行ってもよい。反応温度は、例えば、0~200℃程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、20~150℃、50~120℃、60~100℃、70~90℃、75~85℃である。反応温度が高すぎると副反応が起き易くなるおそれがあり、特にmが0である場合、2置換体などの副生成物の割合が増加するおそれがある。なお、本発明では、反応温度が比較的低くても、効率よく反応が進行するようである。また、反応時間は、特に制限されず、例えば、30分~48時間程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~24時間、2~12時間、2.5~6時間である。
反応終了後の反応混合物(反応液又は反応混合液)は、慣用の精製又は分離手段、例えば、濾過、濃縮、抽出、中和、洗浄、乾燥、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなど手段や、これらを組み合わせた手段により精製してもよい。
このようにして得られる式(3)で表されるフルオレン誘導体は、樹脂原料又はその中間体や樹脂添加剤などとして好適に利用できる。
なお、式(3)において、mが0である化合物は、樹脂原料や樹脂添加剤として利用する際に、着色や分解(または副反応)を起こすおそれがある。そのため、前記炭化水素基R2に対応するハロゲン化炭化水素と、式(3)において、mが0である化合物とを慣用の方法で反応させて、炭化水素基R2を導入し、着色や分解を抑制してもよい。
また、式(3)において、Eがカルボキシル基である化合物は、本発明の方法により調製してもよく;式(3)において、Eがシアノ基またはアルコキシカルボニル基である化合物を調製した後、これらの基を慣用の方法で加水分解してカルボキシル基に変換することにより調製してもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価項目及び原料の詳細について示す。
[評価方法]
(HPLC)
HPLC(高性能又は高速液体クロマトグラフ)装置として(株)島津製作所製「LCMS―2020」を用い、カラムとして(株)島津製作所製「KINTEX XB-C18」を用いて、移動相:アセトニトリル/水(体積比)=50/50から95/5まで10分間かけて変化させ、その後95/5で5分保持の条件で測定し、HPLC純度[面積%]を算出した。
[実施例1]
9H-フルオレン(FL)7.61g(45.8mmol)と、4-ブロモベンゾニトリル(p-Br-ベンゾニトリル)25.0g(137mmol)と、カリウムt-ブトキシド(t-BuOK)25.7g(229mmol)と、塩化亜鉛(ZnCl2)9.36g(68.7mmol)とを反応器に入れ、窒素雰囲気下でN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)230mLを添加し、30分撹拌して分散させた。次いで80℃で3時間撹拌した後、室温まで冷却した。薄層クロマトグラフィー(TLC)分析により、反応終了を確認した。塩化アンモニウム水溶液で中和した後、酢酸エチルを使用して抽出操作を行い、得られた有機層を乾燥することで茶色の固形物を得た。その固形物をHPLCにより分析して、後述する表1記載の1置換体(式(3)で表されるフルオレン誘導体)、9,9-2置換体(式(1)で表される化合物の9位に対して、式(2)で表される化合物が2つ置換した化合物)及び他の2置換体(前記9,9-2置換体とは異なる2置換体)の割合(面積%)を確認した。
減圧下、反応混合物を75℃に加熱してDMFを留去した後、精製水1200mL及び酢酸エチル800mLを添加して、30分間撹拌してから分液した。水層を酢酸エチルで抽出した後、有機層を集めて精製水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。得られたろ液(有機層)にシリカゲル(関東化学(株)製「シリカゲル60N 球状中性」;45g)を添加して室温で5分間撹拌後、減圧下(油回転ポンプ)、50℃で濃縮乾固して粗体吸着済シリカゲル(52.2g)を得た。カラムにシリカゲル(関東化学(株)製「シリカゲル60N 球状中性」;244g)、得られた粗体吸着済シリカゲル(52.2g)および硫酸ナトリウム(10g)をこの順序で仕込み、ヘキサン/酢酸エチル(85/15(体積比))を移動相とするクロマトグラフィーにより、1置換体5.14g(収率42.0%)が得られた。
[実施例2~5、参考例1~4]
式(2)で表される化合物の種類、t-BuOK及びZnCl2の添加量、溶媒種、反応温度、反応時間を表1に記載の条件に変更する以外は、実施例1と同様にして反応及び精製を行った。
反応条件及び得られたHPLC分析結果を表1に示す。
なお、表1において、t-BuOK及びZnCl2の欄には、各添加量を9H-フルオレン(FL)1モルに対するモル比で示し、FL転化率は、反応混合物のHPLC分析による原料のFLの残存量(面積割合)から算出した割合を示した。1置換体、9,9-2置換体及び他の2置換体の欄には、HPLC分析による各面積割合を示す。また、式(2)で表される化合物の「p-I-ベンゾニトリル」は4-ヨードベンゾニトリルを示し、「p-Br-t-BuOCOベンゼン」は4-ブロモ-1-t-ブトキシカルボニルベンゼンを示す。
表1から明らかなように、実施例では、1置換体を簡便に合成できた。反応系に塩化亜鉛を添加すると、1置換体を選択的に得やすくなる傾向が見られ、なかでも、実施例1~4、特に、実施例1および4では高い選択率で1置換体が得られた。
一方、9,9-2置換体は、塩化亜鉛を添加せず、式(2)で表される化合物としてp-Br-ベンゾニトリルを用いた参考例1および2、特に、参考例2において、高い選択率で得られた。