JP7174072B2 - タンパク質抽出方法およびシステム - Google Patents

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Description

本発明は、沈殿物からタンパク質、特に、免疫グロブリンG(IgG)などの免疫グロブリン(Ig)を含む組換えタンパク質および/または血漿由来タンパク質を抽出するための方法およびシステムに関する。
特異的抗体などの精製タンパク質の需要がかなり増加している。そのような精製タンパク質は、治療および/または診断目的のために使用される。
ヒト血漿は、例えばヒトアルブミン(HSA)、免疫グロブリン(IgG)、凝固因子濃縮製剤(凝固因子VIII、凝固因子IX、プロトロンビン複合体等)および阻害剤(アンチトロンビン、C1阻害剤等)などの、広く確立され受け入れられている血漿タンパク質製品の生産に数十年にわたって工業的に利用されてきた。そのような血漿由来薬の開発の過程で、ある特定のタンパク質画分に富み、次いで血漿タンパク質製品の出発組成物として役立つ中間生成物をもたらす血漿分画方法が確立された。典型的なプロセスは、例えば非特許文献1に概説されており、そのようなプロセスの簡略図が示されている。これらの種類の分離技術は、同じ血漿ドナープールからのいくつかの治療的血漿タンパク質製品の生産を可能にする。これは、1つのドナープールから1つの血漿タンパク質製品のみを生産するよりも経済的に有利であり、それ故に血漿分画の工業規格として採用されている。
特に、血漿の低温エタノール分画は、第二次世界大戦中、主にアルブミンを精製するためにE.J Cohnおよび彼のチームによって開発された(非特許文献2)。Cohn分画法は、pHを中性(pH7)から約4.8に低下させながらエタノール濃度を0%から40%に段階的に上昇させ、アルブミンの沈殿物を生じさせることを伴う。Cohn分画は、過去およそ70年間にわたって進化してきたが、ほとんどの商業的血漿分画方法は、最初の方法またはその変形(例えばKistler/Nitschmann)に基づいており、pH、イオン強度、溶媒極性およびアルコール濃度の差を利用して血漿を一連の主な沈殿タンパク質画分(Cohnの画分I~Vなど)に分離する。
Cohn分画の変形は、多価IgG回収率を改善する目的で開発されてきた。例えばOncleyおよび共同研究者は、Cohnによって記載されたものとは異なる組合せの低温エタノール、pH、温度およびタンパク質濃度によりCohn画分II+IIIを出発材料として使用して、活性な免疫グロブリン血清画分を生成した(非特許文献3)。現在、Oncley法は、多価IgGの生成に使用される古典的な方法となっている。それにもかかわらず、ガンマグロブリン(抗体リッチ部分)の約5%が画分Iと共沈殿し、血漿中に存在する全ガンマグロブリンの約15%が、画分II+III工程によって失われることが知られている(非特許文献2、表III参照)。Kistler/Nitschmann法は、いくつかの沈殿工程のエタノール含量を低減することによりIgG回収率を改善することを目指した(沈殿物B vs 画分III)。しかし、収量の増加は純度を犠牲にする(非特許文献4)。
当初、これらの分画方法から得られる免疫グロブリンG(IgG)調製物は、様々な感染症の予防および治療に成功裏に使用された。しかし、エタノール分画は比較的粗い方法であるため、IgG生成物は筋肉内投与しかできないほど不純物および凝集体を含有した。そのとき以来、精製プロセスのさらなる改善は、静脈内(IVIgと呼ばれる)および皮下(SCIgと呼ばれる)投与に適したIgG調製物をもたらした。
2010年には世界中で約3,000万リットルの血漿が処理され、アルブミン約500トンおよびIVIG100トンを含む一連の治療用製品を提供したと推定されている。IVIG市場は、血漿分画市場全体の約40~50%を占める(非特許文献5)。故に、IVIGに対する需要は強いままであり(SCIGに対する需要の高まりと共に)、血漿および関連する画分からの免疫グロブリン回収率を改善する必要性が残っている。好ましくは、これは、他の血漿由来治療用タンパク質の回収率が悪影響を受けないことを確実にする方法で達成されなければならない。
商業的観点から、最初の分画プロセスは、治療用タンパク質、特に血漿由来タンパク質の生産に関連する全生産時間およびコストにとって極めて重要である。その理由は、その後の精製工程が、これらの最初の画分内の目的とするタンパク質の収量および純度に依存することになるためである。より低い運転コストでタンパク質収量を改善するために、低温エタノール分画法のいくつかの変形形態が血漿由来タンパク質に関して開発されているが、より高いタンパク質収量は、典型的にはより低い純度を伴う。本発明は、より大きな収量を達成する、タンパク質含有沈殿物、特に免疫グロブリンGを分画する方法を提供する。特定の実施形態において、不純物のレベルおよび/または他の治療用タンパク質の損失を最小限にしながら、目的とするタンパク質の回収率の改善が達成される。
血漿分画/バイオテクノロジー分野で広く使用されている分離手法の1つが膜濾過である。膜濾過は、サイズおよび/または電荷に基づき成分を分離するための圧力駆動分離プロセスである。2つの主な膜濾過方法、すなわち、i)シングルパスまたはダイレクトフロー濾過;およびii)クロスフローまたは接線流濾過がある。
従来の接線流システムは、固定膜表面から離れ、供給液のバルクに戻る保持溶質の輸送を高めるために、供給流の流体流パターンを制御するように設計されている。このようにして供給流は、膜の平面に対して接線のベクトルで高速で再循環されて物質移動係数を高めて逆拡散を可能にし、膜表面を洗浄して目詰まりを防ぐことができる。そのような濾過プロセスでは、流体および濾過可能な溶質にフィルターを通して流れさせるために膜の長さに沿って差圧が適用される。溶液は、膜を繰り返し通過することができ、一方フィルターを通過する前記流体は、分離ユニットへ連続的に取り除かれる。しかし、主に濃度分極、目詰まり、大抵の膜の孔径が比較的広く分布していることといった現象のために、達成可能なタンパク質濾過の程度には限界がある。したがって、血漿タンパク質のような高分子混合物の大規模な分離に、限外濾過膜の高分子分画能力を有効利用することは、一般的に実用的でないということが知られている。
特許文献1は、従来の接線流濾過および精密濾過の方法を使用して、免疫グロブリンを含む分子を乳汁(典型的には87%水および13%固形物を含有する)などの複合混合物から分離するための方法および器具を開示している。該方法は、3つの濾過ユニット運転を使用する清澄化、濃縮/濾過および無菌濾過工程を含む。清澄化工程は生成物からより大きな微粒子を除去し、濃縮/濾過工程は、得られた生成物組成の純度を高め、体積を低下させるために最も小さな分子を除去する。清澄化および濃縮/濾過工程は、供給液をループで圧送して保持液または透過液のどちらかを濃縮することによって行われる。第1および第2の工程は、一緒に処理されるサイズおよびタイミングで行われ、第2の工程からの透過液は第1の工程に戻され、第1の工程の保持液と混合される。生成物の95%が限外濾過の保持液に蓄積されたら、清澄化が止められ、限外濾過材料の濃縮/透析濾過が開始される。生成物は濃縮され、緩衝液が限外濾過供給液槽に添加されて低分子量タンパク質の大部分を洗い流す。
特許文献2は、1つまたはそれ以上の微細孔膜濾過工程を使用する、分泌免疫グロブリンA(S-IgA)組成物をS-IgA含有乳汁から生産するための方法を開示している。該方法は、いくつかの透析濾過サイクルを通じた脱脂、精密濾過および限外濾過の工程を含み、精密濾過された保持液が透析濾過液体と混ぜ合わされる。精密濾過された保持液と透析濾過液体との組合せは、次いでその後の精密濾過および濃縮工程に供される。使用される方法は連続透析濾過である。開示された方法は、本質的な特徴が、液体供給流に懸濁される粒子がそのサイズに基づいて分離されることである膜濾過法に基づく。
特許文献3は、それを通って1つの液体が別の液体の中に連続的に分散されて連続相を達成する、1つまたはそれ以上の膜を使用する、エマルジョンの生産のための連続システムを開示している。
US 2004/0167320 US 2011/0130545 A1 EP1262225
Molecular Biology of Human Proteins(Schultze H.E.、Heremans J.F.;第I巻:Nature and Metabolism of Extracellular Proteins 1966、Elsevier Publishing Company;236~317頁) Cohn EJら 1946、J. Am. Chem. Soc. 62:459~475頁 Oncley ら、(1949)J. Am. Chem. Soc. 71、541~550頁 KistlerおよびNitschmann、(1962)Vox Sang. 7、414~424頁 P. Robert、Worldwide supply and demand of plasma and plasma derived medicines(2011)J. Blood and Cancer、3、111~120頁
厳格な安全性基準を満たさなければならない、例えば血漿または血清から得られる含免疫グロブリン沈殿物(immunoglobulin-comprising precipitate)材料からの免疫グロブリンなどのタンパク質の工業規模生産のための、改善された方法およびシステムが必要である。現在使用されている下流側技術は比較的高価であり、その収量は最適ではない。さらに、固定膜を用いた従来の濾過システムは、再懸濁されたタンパク質沈殿物を含有する溶液の存在下で急速に目詰まりを起こす傾向があり、これらは、克服されなければならない問題の一部である。したがって、免疫グロブリンなどのタンパク質をタンパク質含有懸濁液から抽出および精製するための、より効率的、経済的および迅速な方法を開発する重要な必要性がある。
本発明の発明者らは、本明細書に請求されている新たな方法および新たなシステム、特に第1のプロセスユニットを導入することによって、上で論じられた問題の有効な解決策を見出した。本発明による方法は、既存の問題に対して費用対効果の高い、高効率で信頼できる解決策を提供する。
本発明の第1の態様によれば、目的とするタンパク質を沈殿物から抽出するための方法であって、
a.第1の槽で沈殿物と液体を混合して第1の希釈係数を有する懸濁液を形成する工程と;
b.第1の保持液および目的とするタンパク質に富む第1の透過液を生成するのに適合されている動的フィルターエレメントを含む第1の濾過ユニットへ懸濁液を送液する工程と;
c.場合により第1の保持液を第1の槽へ流すことによって、液体を添加することにより第2の希釈係数まで第1の槽の懸濁液を希釈する工程と;
d.目的とするタンパク質に富む第1の透過液を第2の槽で回収する工程と、
を含む、前記方法が提供される。
タンパク質沈殿は、タンパク質を濃縮し、様々な夾雑物からこれを精製するために生物学的製剤(biological product)の下流処理で広く使用されている。沈殿の根底にあるメカニズムは、より具体的には、試薬を添加および/または条件(例えばpHまたは導電率のような)をモジュレートして溶質(すなわちタンパク質)の溶解度を低下させることにより溶媒の溶媒和能を変えることである。結果として生じる沈殿物は、目的とするタンパク質を含む不溶性の固体である。しばしばこれは、ペレットまたはペーストの形態である。時として沈殿物は、懸濁液として現れる場合がある。固体部分は、次いで例えば濾過および/または遠心分離によって収集される。あるいは、そのような懸濁液は、第1の槽に直接添加されて第1の希釈係数を形成する。別の選択肢は、懸濁液を第1の槽に添加し、次いで液体を第1の槽に添加して第1の希釈係数を形成することである。故に、特定の実施形態において目的とする含タンパク質沈殿物は、第1の槽に添加されるときに懸濁液の形態である。
この方法は、目的とするタンパク質を得るための工業規模に特に適している。本発明の第1の態様の1つの実施形態によれば、タンパク質を抽出する方法は工業規模のプロセスである。
さらなる実施形態において、目的とする含タンパク質沈殿物は、アルコール分画プロセスの、好ましくは血漿の、より好ましくはヒト血漿の中間生成物である。好ましい実施形態において沈殿物は、ヒト血漿出発材料から得られる。さらにより好ましくは、沈殿物は、ヒト血漿出発材料2500L~6000Lから得られる。
本発明の第1の態様の別の実施形態によれば、沈殿物は、血漿画分(中間体)である。特定の実施形態において画分は、Cohn画分である。好ましい実施形態において血漿画分は、Cohn画分I(Fr I)、Cohn画分II+III(Fr II+III)、Cohn画分I+II+III(Fr I+II+III)、Cohn画分II(Fr II)、Cohn画分III(Fr III)、Cohn画分IV(Fr IV)、Cohn画分V(Fr V)、Kistler/Nitschmann沈殿物A(KN A)、Kistler/Nitschmann沈殿物B(KN B)、Kistler/Nitschmann沈殿物C(KN C)からなる群から選択される。特に好ましい実施形態において血漿画分は、Cohn画分I(Fr I)、Cohn画分II+III(Fr II+III)、Cohn画分I+II+III(Fr I+II+III)、またはKistler/Nitschmann沈殿物A(KN A)からなる群から選択される。血漿画分は、異なる画分の組合せであってもよい。例えば、血漿画分は、KN Aならびに1つまたはそれ以上のFr I、Fr II+IIIおよびFr I+II+IIIの組合せであってもよい。別の実施形態において沈殿物は、オクタン酸沈殿物である。
別の実施形態において、含タンパク質沈殿物(protein-comprising precipitate)は、培養上清または発酵出発材料から得られる。いくつかの実施形態において出発材料は、目的とするタンパク質を含む乳汁である。他の実施形態において出発材料は、乳汁ではない。
さらなる実施形態によれば、目的とするタンパク質は、免疫グロブリン、好ましくは、ヒト血漿由来の免疫グロブリンGのようなヒト免疫グロブリンG(IgG)または組換え生成された免疫グロブリンGである。
本発明の別の実施形態によれば、懸濁液は、含タンパク質沈殿物を緩衝液または水などの液体と混合し、それによって第1の希釈係数を有する出発組成物を得ることにより生成される。含タンパク質沈殿物がほぼ固体(例えば、極めて濃いペースト、ペレット等)である場合、含タンパク質沈殿物に液体を添加することにより、懸濁液を出発組成物として形成できるようになる。
工程a)の第1の希釈係数を有する懸濁液は、時として本明細書では固体と呼ばれる溶質様粒子が溶液中に存在する混合物である。粒子のサイズは異なってもよく、溶液が混合されなければ最終的に沈降することになるより大きな粒子、または沈降しない(すなわち、コロイドの形態の)より小さなサイズの粒子を含む。
第1の希釈係数は、時として固体重量パーセント(%w/v)と呼ばれる場合がある。これは、懸濁液の所与の体積中の乾燥固体の重量を、懸濁液のその体積の総重量で割り、100を乗じたものとして定義される。特定の実施形態において、工程a)の懸濁液の重量あたりの固体パーセントは、少なくとも5%(すなわち、約1:20の第1の希釈係数)、または少なくとも7.5%もしくは少なくとも10%、または少なくとも12.5%、または少なくとも15%、または少なくとも17.5%、または少なくとも20%もしくは少なくとも22.5%もしくは少なくとも25%もしくは少なくとも27.5%、または少なくとも30%、または少なくとも35%、または少なくとも40%、または少なくとも50%である。いくつかの実施形態において、工程a)の懸濁液の重量あたりの固体パーセントは、10%~30%である。いくつかの実施形態において、工程a)の懸濁液の重量あたりの固体パーセントは、15%~25%である。好ましい実施形態において、工程a)の懸濁液の重量あたりの固体パーセントは、17.5%~22.5%である。特定の実施形態において、工程a)の懸濁液の重量あたりの固体パーセントは、20%である。
本発明の別の実施形態によれば、第1の希釈係数は、少なくとも3(1:3;沈殿物部分:全体)、好ましくは1~10の間、好ましくは3~9の間、好ましくは3~5の間、好ましくは約3、5、6、7、9または10である。例えば、含タンパク質沈殿物がペレットまたはペースト、および特に極めて濃いペースト(極めて高い粘度を有する)である場合、ペーストまたはペレットを懸濁させるために液体が必要とされる。
例えば、第1の希釈係数が3(1:3;含タンパク質沈殿物1:全体)である場合、これは1:2の希釈比に等しい(1単位体積の溶質(希釈される材料)と2単位体積の希釈液で、3合計単位の全体積となる)。
別の実施形態において、第1の槽における第1の希釈係数(含タンパク質沈殿物:全体)は、少なくとも40、または少なくとも30、または少なくとも20、または少なくとも17.5、または少なくとも15、または少なくとも12.5、または少なくとも10、または少なくとも9、または少なくとも8、または少なくとも7、または少なくとも6、または少なくとも5.5、または少なくとも5、または少なくとも4.5、または少なくとも4、または少なくとも3.5、または少なくとも3、または少なくとも2.5、または少なくとも2、または少なくとも1.5、または少なくとも1.25である。好ましくは、第1の槽における第1の希釈係数(含タンパク質沈殿物:全体)は、少なくとも4である。
いくつかの実施形態において、第1の槽における第1の希釈係数(含タンパク質沈殿物:全体)は、1:1~1:20の間、または1:2~1:20の間、または1:3~1:20の間、または1:4~1:20の間、または1:5~1:20の間、または1:6~1:20の間、または1:7~1:20の間、または1:8~1:20の間、または1:10~1:20の間、または1:1~1:15の間、または1:2~1:15の間、または1:3~1:15の間、または1:4~1:15の間、または1:5~1:15の間、または1:6~1:15の間、または1:7~1:15の間、または1:8~1:15の間、または1:10~1:15の間、または1:1~1:10の間、または1:2~1:10の間、または1:3~1:10の間、または1:4~1:10の間、または1:5~1:10の間、または1:6~1:10の間、または1:7~1:10の間、または1:8~1:10の間、または1:9~1:10の間、または1:3~1:7の間、または1:3~1:8の間、または1:3~1:9の間、または1:4~1:7の間、または1:4~1:8の間、または1:4~1:9の間、または1:5~1:7、または1:5~1:8の間、または1:5~1:9の間、または1:3.5~1:5の間、または1:4~1:5の間、または1:1~1:3、好ましくは1:9、1:7、1:5またはより好ましくは1:3もしくは1:1である。
適切には、再懸濁後の含タンパク質沈殿物中のタンパク質は、約5~100g/L、好ましくは10~50g/Lまたはより好ましくは25~45g/Lの濃度である。これには、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95および100g/L、およびこれらの量の間の任意の範囲が含まれる。他の実施形態において、タンパク質は、約5~20g/L、例えば約8~12g/Lの濃度であってもよい。
好ましい実施形態によれば、第1の槽の懸濁液は、約3.0~9.0の間、好ましくは約4.0~7.0の間、約4.0~6.0の間、約4.0~5.0の間、約4.3~4.9の間、約4.4~4.8の間、より好ましくは約5.0のpHを有する。一般に、pHは、タンパク質沈殿物を溶液に添加する前;またはタンパク質沈殿物を溶液と混合した直後のどちらかの溶液で測定される。典型的には、溶液のpHは、前駆体成分の混合後すぐに測定される。あるいは、pHは、混合物中の成分の予測される量および濃度に基づき計算によって決定することもできる。
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、懸濁液は第1の濾過ユニットに連続的に送液される。好ましい実施形態において懸濁液は、懸濁液が少なくとも第2の希釈係数に希釈されるまで第1の濾過ユニットに連続的に送液される。本発明の別の実施形態において、連続分離プロセスは、1つもしくはそれ以上の濾過膜または異なるタイプの濾過膜が使用される連続濾過プロセスである。動的クロスフロー濾過などの連続濾過プロセスは、濾過部材が閉塞されるリスクを最小限にすることができる。
本発明の第1の態様の方法は、追加の液体を第1の槽の懸濁液に添加する工程を伴うことから、第2の希釈係数は、第1の希釈係数より大きい。
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、第2の希釈係数(全再循環液の体積に対する含タンパク質沈殿物の体積)は、6~70の間、10~70の間、約10、約20、約30、約40、好ましくは約20~50である。他の実施形態において第2の希釈係数は、約60、または約70(1:70;含タンパク質沈殿物部分:全体)である。特定の実施形態において第2の希釈係数は、少なくとも20、または少なくとも30、または少なくとも40、または少なくとも50、または少なくとも60、または少なくとも70である。本発明の発明者らは、そのような高い希釈係数が抽出効率を高め、故に収量の向上をもたらし得ることを見出した。
さらに別の実施形態において、懸濁液中のタンパク質濃度の所定の値は、0.1g/L未満、好ましくは約0.001~0.1g/Lの間;典型的には約0.05~0.1g/Lの間である。そのような値は、非効率的な抽出および濾過プロセスを回避するために、そのような閾値に達すると分離プロセスが直ちに終了するように提供される。例えば、懸濁液または溶液中の総タンパク質濃度が0.1g/L未満である場合、IgGの総量は、目的とする生成物の連続抽出および濾過を継続することがあまり経済的でなくなる約40~50mg/L未満と推定される。
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、第1の濾過ユニットの動的フィルターエレメントは、動的クロスフローフィルターエレメントである。好ましい実施形態において動的クロスフローフィルターエレメントは、回転式クロスフローフィルターエレメントである。より好ましくは、回転式クロスフローフィルターエレメントはフィルターディスクを含む。フィルターディスクは、通常、軸部材に取り付けられる。一実施形態において回転式クロスフローフィルターエレメントは、少なくとも1つのフィルターディスクと少なくとも1つの軸部材とを含む。
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、フィルターディスク膜はセラミック膜である。より好ましくは、セラミック膜は50nm以上~100nm以下の範囲の孔径を有する。そのようなフィルターディスクは、KerafolおよびFlowserveによって供給される。
好ましい実施形態における第1の濾過ユニットは、圧力容器を含む。第1の槽からの懸濁液は、注入口を通って圧力容器に連続的に送液される。容器中の懸濁液の均一な分布は、分配マニホールドを使用して達成することができる。よって、特定の実施形態において圧力容器は、分配マニホールドを含む。いくつかの実施形態において第1の濾過ユニットは、回転式クロスフローフィルターエレメントを含む。好ましくは、フィルターエレメントは、少なくとも1つの中空の中心収集軸に沿って等間隔に配置された1つを超えるフィルターディスクを含有する。フィルターディスクは、水平または垂直に配置される。水平配向の場合、フィルターディスクは、垂直に配向された中空収集軸に沿って間隔をあけて配置される。収集軸およびディスクは回転可能である。圧力容器中の懸濁液は、次いで、ディスクの中空中心部分の中へ通過するように回転フィルターディスクの外膜を透過することができ、今度は中心収集軸へと注がれる。典型的には濾液(すなわち、目的とするタンパク質に富む第1の透過液)は、次いで、フランジ付きポートを通って第1の濾過ユニットの軸部分から除去される。一方、圧力ハウジングに残っている保持液は、排出口を通って容器から送液される。一般的に、保持液は、懸濁液を希釈するために第1の槽に再循環される。このようにして第1の濾過ユニットからの保持液は、第1の槽の懸濁液を第2の希釈係数まで希釈するのに利用することができる。
回転式濾過などの動的クロスフロー濾過は、最大濾過効率をもたらす。クロスフロー効果(フィルター表面の接線流洗浄(tangential flow cleaning))は、フィルターディスクを回転させることによって発生し、従来の(静的)クロスフロー濾過システムで使用されるような固定膜を通した大容量の圧送によっては発生しない。回転フィルターディスクの表面で発生する極限クロスフロー速度(extreme cross flow velocity)は、従来のクロスフロー法と比べて極めて低量のエネルギーを消費する一方、フィルター表面の高効率洗浄を確実にする。
温度はタンパク質溶液の粘度に影響を与え、また膜を用いた濾過時の流束にも影響を与える。本発明の方法において使用される出発懸濁液は、0℃から当該タンパク質が変性される温度までの範囲内の温度を有するべきである。温度は、適切には約10℃から約50℃までの範囲内である。特定の実施形態において温度は、約18℃から約35℃までの範囲内である。1つの好ましい実施形態によれば、第1のプロセスユニットの温度は、好ましくは2~25℃の間、より好ましくは約2~10℃に制御される。そのような温度は、プロセス全体を通じて目的とするタンパク質の生体反応性を維持しながら、最適な抽出プロセスおよび分離プロセスを確実にする。
濾過は、本明細書で使用される膜の材料に応じて、膜が耐えられるレベルと同じまたはそれ以下の膜透過濾過圧力(transmembrane filtration pressure)、例えば約0.2~約3バールの圧力で行われる。膜透過圧力は、典型的には0.1~2.5バール、好ましくは0.2~2.4バール、より好ましくは0.4~2.0バール、0.5~1.8バール、0.6~1.6バール、0.6~1.5バール、0.7~1.5バール、最も好ましくは0.8~1.5バールである。別の実施形態によれば、最大2バール、好ましくは0.1~2.0バールの間、または約1.5バール、1.0バールもしくは0.5バールの圧力が第1のプロセスユニットに提供される。
別の実施形態によれば、連続抽出プロセスは、第1のプロセスユニットへの懸濁液または溶液の流量および/もしくは滞留時間、ならびに/または第1の保持液/抽残液の流量、および/または第1の透過液/抽出液の流量を調節することによってさらに促進される。例えば、1つの実施形態において、圧力容器(第1のプロセスユニット)への懸濁液または溶液の線速度は約0.27~1.66m/sであってもよい。別の例において、第1の保持液の線速度は0.25~1.33m/sであってもよい。別の例において、第1の透過液/抽出液の線速度は0.03~0.33m/sであってもよい。断面積を乗じた線速度は体積流量を与える。さらに、回転フィルターディスクの速度の結果、乱流が第1のプロセスユニットで作られる場合があり、該速度(時として接線速度(tangential speed)と呼ばれる)は約1~7m/sの間であり得る。本発明の一実施形態によれば、回転ディスクフィルターの速度は1~10m/sの間である。本発明の好ましい実施形態において、回転ディスクフィルターの速度は5~7m/sの間である。より好ましくは、回転ディスクフィルターの速度は60ヘルツ(800rpm)で7m/sである。回転式クロスフィルターエレメントの回転速度は、約600rpm(50Hz)~約1600rpm(100Hz)の間、好ましくは約800rpm(60Hz)~約1200rpm(80Hz)の間、好ましくは約800rpm(60Hz)、約1000rpm(70Hz)または約1200rpm(80Hz)である。本明細書で使用される場合、回転速度Hzは、モーターの速度を指すことが意図される。これは、適当な検量線を使用して速度rpmと相関させることができる。
この方法により、出発沈殿物/材料からの目的とするタンパク質の回収率を最大化するための連続抽出および分離プロセスを実現できるようになる。該抽出プロセスのおかげで、ほぼ全ての目的とするタンパク質が含タンパク質沈殿物から抽出され、その後の段階で回収される。また、この方法により、液体または希釈液、例えば緩衝液または水をクローズドシステムで再循環できるようになり、よって、フットプリント(すなわち、大きな槽の体積)は低減することができる一方、液体の量はプロセス全体を通じて維持される。本明細書に開示された方法およびシステムは、含タンパク質沈殿物中に最初に存在する目的とするタンパク質の少なくとも95%、または典型的には少なくとも98%を回収することが推定される。よって、本発明の第1の態様の特定の実施形態において、方法は、沈殿物からの目的とするタンパク質の少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%または少なくとも99%の回収率を提供する。好ましい実施形態において回収率は、沈殿物からの目的とするタンパク質の少なくとも97%である。
第2の槽で第1の透過液は濃縮工程に供される。本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、濃縮プロセスは、第2のプロセスユニットで行われる限外濾過である。
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、方法は、第2の槽の第1の透過液を第2の濾過ユニットで連続濃縮プロセスに供し、それによって目的とするタンパク質に富む第2の保持液、および目的とするタンパク質が枯渇した第2の透過液を生成する工程をさらに含む。
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、第2の濾過ユニットは、動的クロスフローフィルターエレメントを含む。
本発明の好ましい実施形態において、動的クロスフローフィルターエレメントまたは限外濾過フィルター装置は、目的とするタンパク質の分子量未満の分子量カットオフを有する膜を含む。これらの実施形態において膜カットオフは、目的とするタンパク質を第2の保持液に保持するように選択される。一般的な目安として、タンパク質が保持液に保持されることを確実にするために、目的とするタンパク質の分子量より少なくとも3倍低い公称膜カットオフ(nominal membrane cutoff)が選択される。一実施形態において動的クロスフローフィルターエレメントまたは静的限外濾過フィルターエレメントは、目的とするタンパク質の分子量より大きい分子量カットオフを有する膜を含む。そのような実施形態において公称膜カットオフは、目的とするタンパク質が膜を通過し、第2の透過液に収集されることを確実にするように選択される。
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、方法は、目的とするタンパク質が枯渇した第2の透過液または第2の保持液を第1の槽に連続的に流すことによって第1の槽の懸濁液を希釈し、それによって第2の希釈係数まで懸濁液が希釈されるのに寄与する、工程をさらに含む。
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、方法は、第1の濾過ユニットからの保持液、および第2の濾過ユニットからの第2の透過液を第1の槽へ連続的に流すことによって第1の槽の懸濁液を希釈し、それによって第2の希釈係数まで懸濁液を希釈する、工程をさらに含む。
さらなる好ましい実施形態によれば、第2の槽は、第1の透過液および/または第2の保持液を受け取るために提供され、第1の透過液および第2の透過液の流速は、実質的に一定の生成物体積が第2の槽で維持されるように制御される。特定の実施形態において、第1の透過液および/または第2の保持液に加えて新鮮な緩衝液が第1の槽に添加される。
本発明の第1の態様の一実施形態によれば、第1の透過液/抽出液は保持槽(第2の槽)に収集され、第1の槽の懸濁液が完全に濾過/抽出されると、保持槽からの第1の透過液/抽出液は連続濃縮プロセスに供される。そのような方法工程は、生産設備および配管中のデッドボリュームが、目的とするタンパク質の収量に著しく影響を与え得るより小規模の工業プロセスに特に適している。一例は、高力価免疫グロブリン(hyperimmune immunoglobulin)生成物である。
本発明の第1の態様の好ましい実施形態によれば、目的とするタンパク質を沈殿物から高収率で抽出するための工業規模の方法であって、
a.第1の槽で沈殿物と液体を混合して第1の希釈係数を有する懸濁液を形成する工程と;
b.平均孔径が5nm~5000nmの間のセラミック膜を有するフィルターディスクを含む回転式クロスフローフィルターエレメントを含む第1の濾過ユニットへ懸濁液を送液する工程であって、フィルターエレメントは、第1の保持液、および目的とするタンパク質に富む第1の透過液を生成するのに適合されている、工程と;
c.部分的に第1の保持液を第1の槽へ流すことによって、液体を添加することにより第2の希釈係数まで第1の槽の懸濁液を希釈する工程と;
d.目的とするタンパク質に富む第1の透過液を第2の槽で回収する工程と;
e.第2の槽の第1の透過液を、クロスフローフィルターエレメントを含む第2の濾過ユニットで連続濃縮プロセスに供し、それによって目的とするタンパク質に富む第2の保持液、および目的とするタンパク質が枯渇した第2の透過液を生成する工程と;
f.場合により第2の透過液を第1の槽に連続的に流すことによって、第1の槽の懸濁液を希釈し、それによって第2の希釈係数まで懸濁液を希釈する、工程と;
g.目的とするタンパク質に富む第2の保持液を第2の槽に戻す、および/または目的とするタンパク質に富む第2の保持液を収集する工程と、
を含む、前記方法が提供される。
本発明の好ましい実施形態によれば、第1の保持液および第2の透過液は、懸濁液を第2の希釈係数まで希釈するために第1の槽へ連続的に流される。
本発明の一実施形態によれば、第1の濾過ユニットは、セラミックフィルターディスク膜の外面の濾過助剤および/または沈殿物材料の層高を制御するのに適合されている調整可能な掻き取り装置をさらに含む。
本発明の一実施形態によれば、第1の濾過ユニットは、第1の透過液を収集するのに適合されている1つを超える中空軸を含み、各軸は、セラミック膜を含む少なくとも1つのフィルターディスクに連結されている。
本発明の一実施形態によれば、第2の濾過ユニットは、動的クロスフローフィルターエレメントを含む。他の実施形態において第2の濾過ユニットは、静的クロスフローフィルターエレメントを含む。好ましい実施形態において静的クロスフローフィルターエレメントは、目的とするタンパク質を第2の保持液に保持する膜を含む限外濾過装置である。
本発明の一実施形態によれば、第1の槽の懸濁液もしくは溶液の第2の希釈係数またはタンパク質濃度の所定の値のどちらかが達成されるまで、工程b)~c)または工程b)~f)のどちらかが繰り返される。槽1のタンパク質濃度の所定の値を使用して決定することもできるそのような所定の第2の希釈係数(時として最終希釈係数と呼ばれる)は、抽出プロセスを継続することが過度に非経済的となる前に最適収量が回収されることを確実にする。タンパク質濃度は、280nmなどのUV吸光度を含む当技術分野で公知の様々な方法によって槽1でモニタリングされる。
場合により、濾過助剤がプロセスの適当な段階で使用される。濾過助剤は、例えば、沈殿物の調製に関わる1つまたはそれ以上の工程で使用される。したがって、1つの実施形態において、沈殿物は濾過助剤を含む。1つの実施形態において、沈殿物は濾過助剤を含まない。この実施形態において、濾過助剤は、プロセスにおいて(任意の先行する工程を含む)全く使用されなかったか、または存在する場合、沈殿物を含む懸濁液を第1の濾過ユニットへ送液する前、すなわち工程b)の前に除去される。好ましくは、濾過助剤は工程b)の前に除去される。
本発明の第1の態様による方法は、固体を含有する他のタンパク質から目的とするタンパク質を抽出するのに適している。例には、目的とするタンパク質を含む凍結乾燥物および結晶化固体形態が挙げられる。
上記に記載された方法の生成物は、次いで、最終生成物が対象、好ましくはヒト対象への投与に適するように、クロマトグラフィー工程、ウイルス不活性化工程、濃縮および製剤化の1つまたはそれ以上を含むさらなる処理に供される。
本発明の第2の態様によれば、目的とするタンパク質を沈殿物から抽出するためのクローズドシステムであって、
a.第1の希釈係数を有する懸濁液の形態で沈殿物を含有するのに適合されている第1の槽と;
b.目的とするタンパク質に富む第1の透過液および目的とするタンパク質が枯渇した第1の保持液を生成するのに適合されている動的フィルターエレメントを含み、懸濁液を受け取るために第1の槽と接続している、第1の濾過ユニットであって、第1の保持液を第1の槽に戻すのに適合されている、第1の濾過ユニットと;
c.目的とするタンパク質に富む第1の透過液を回収するために、第1の濾過ユニットと接続している第2の槽と;
d.目的とするタンパク質に富む第2の保持液および目的とするタンパク質が枯渇した第2の透過液を生成するのに適合されている、第1の透過液を第2の槽で濃縮するための第2の濾過ユニットであって、第2の保持液を第2の槽におよび/または第2の透過液を第1の槽に戻すのに適合されている、第2の濾過ユニットと、
を含む、前記クローズドシステムが提供される。
本発明のクローズドシステムは、目的とするタンパク質の分離に必要な水、緩衝液および化学薬品などの物品のコストを削減し、高収率回収を達成できるようにする一方で、他の一般的に使用されるシステムと比べて、システム全体のスペースまたはフットプリントも低減する。
本発明の第2の態様の一実施形態によれば、第1の濾過ユニットは、フィルターディスク膜の外面の濾過助剤および/または沈殿物材料の層高を制御するのに適合されているスクレーパー装置をさらに含む。この装置は、濾過流束速度の制御を助け、および/またはフィルター閉塞を防ぐこともできる。いくつかの実施形態において掻き取り装置は、フィルターディスク膜の表面までの距離に関して高さを調整できる。特定の実施形態において掻き取り装置は、フィルターディスク膜から少なくとも20cm、または少なくとも15cm、または少なくとも10cm、または少なくとも9cm、または少なくとも8cm、または少なくとも7cm、または少なくとも6cm、または少なくとも5cm、または少なくとも4cm、または少なくとも3cm、または少なくとも2.5cm、または少なくとも2cm、または少なくとも1.5cm、または少なくとも1cm、または少なくとも0.5cm、または少なくとも0.25cmに配置される。
本発明の第2の態様の別の実施形態によれば、第2のプロセスユニットは限外濾過装置を含む。
さらなる実施形態によれば、第1の濾過プロセスユニットは、回転フィルターディスク(動的フィルターエレメント)、および場合により第1のプロセスユニットの内容物の乱流混合のためのバッフルを備え、好ましくはディスクの接線速度は約1~7m/秒の間である。乱流は、目的とするタンパク質の抽出が増加され、それによって高いタンパク質回収収率が達成されるようにバッフルによって生成される。
さらなる好ましい実施形態によれば、第1の濾過エレメントは、5nm~5000nmの間、好ましくは5nm~2000nmの間、5nm~1000nmの間、5nm~500nmの間、5nm~200nmの間、7nm~1000nmの間、より好ましくは7nm~500nmの間、さらにより好ましくは7nm~100nmの間、最も好ましくは7nm~80nmの平均孔径を有する濾過膜を含む。当然ながら、平均孔径は、上記に与えられた範囲の他の組合せであってもよい。フィルター製造者は、実際の孔の幾何学的径よりむしろ粒子または微生物に関して特定の保持基準を満たすことを示す公称孔径または平均孔径レーティングのような用語を商業的フィルターに当てる場合が多い。
特定の実施形態において、回転式クロスフローフィルターエレメントは、フィルターディスクを含む。いくつかの実施形態においてフィルターディスクは、マイクロフィルターの平均孔径を有する膜を含む。他の実施形態においてフィルターディスクは、限外濾過膜の平均孔径を有する膜を含む。一実施形態においてフィルターディスク膜の平均孔径は、5nm以上~2μm以下の範囲である。特定の実施形態においてフィルターディスク膜の平均孔径は、50nm以上~0.5μm以下の範囲である。いくつかの実施形態においてフィルターディスク膜は、50nm以上~100nm以下の範囲、または60nm以上~90nm以下の範囲、または60nm以上~80nm以下の範囲の平均孔径を有する。いくつかの実施形態においてフィルターディスク膜は、60nmまたは80nmの平均孔径を有する。
好ましい実施形態において、回転式クロスフローフィルターエレメントは、セラミック膜を含むフィルターディスクを含む。
セラミックフィルターは、例えばAl、またはZrO、TiOまたはMgAlから成る。セラミックディスクフィルターは、濾液が収集される中空の内部チャネルへと濾液がセラミック膜を通して外側から輸送されるように典型的には設計される。
セラミックディスクフィルターは、374mm(表面積0.2m)、312mm(表面積0.14m)および152mm(表面積360cm)の外径を含む様々な径で入手可能である。典型的にはセラミックディスクフィルターは、約4.5~6mmの厚さを有する。
本発明の実施形態において、セラミックフィルターディスクは、マイクロフィルターの平均孔径を有する膜を有する。他の実施形態においてセラミックフィルターディスクは、限外濾過膜の平均孔径を有する膜を有する。特定の実施形態においてセラミック膜の平均孔径は、5nm以上~2μm以下の範囲である。特定の実施形態においてセラミック膜は、約0.2μm~2μmの孔径を有する。特定の実施形態においてセラミック膜は、約5nm~約100nmの平均孔径を有する。他の実施形態においてセラミック膜の平均孔径は、50nm以上~0.2μm以下の範囲である。いくつかの実施形態においてセラミックフィルター膜は、50nm以上~100nm以下の範囲、または60nm以上~90nm以下の範囲で平均孔径を有する。好ましい実施形態においてセラミックフィルター膜は、60nm以上~80nm以下の範囲で平均孔径を有する。別の好ましい実施形態においてセラミック膜は、60nmの平均孔径を有する。別の好ましい実施形態においてセラミック膜ディスクは、80nmの平均孔径を有する。
さらなる好ましい実施形態によれば、第2の濾過エレメントは、50kD未満、好ましくは30kD未満、より好ましくは10kD未満、または最も好ましくは5kD未満の平均分子量カットオフ値を有する膜を含む限外濾過装置を含む。
本発明の実施形態において、第1のプロセスユニットフィルター能力は、フィルター表面積1mあたりの出発沈殿物少なくとも25kg、または少なくとも50kg、または少なくとも75kg、または少なくとも100kg、または少なくとも200kg、または少なくとも300kg、または少なくとも350kg、または少なくとも400kg、または少なくとも450kg、または少なくとも500kg、または少なくとも550kg、または少なくとも600kg、または少なくとも650kg、または少なくとも700kg、または少なくとも750kg、または少なくとも1000kgである。
以下の図面は、必ずしも縮尺通りに描かれておらず、むしろ様々な実施形態の原理を例示することに概ね重点が置かれている。以下の説明において、以下の図面を参照しながら本発明の様々な実施形態が記載される:
本発明のシステムのフローチャート概略図である。図1は、以下により詳細に記載される。 濾過助剤の存在下(四角)および非存在下(円)の、第1の濾過ユニットを通る経時的流量を示す図である。
本発明は、新規の第1のプロセスユニットを使用することによって、またはさらに第2のプロセスユニットを用いてタンパク質回収率および収量を最大化するためのシステムおよび方法に関する。タンパク質を含む固体沈殿物、すなわち中間体材料(例えば、出発材料から得られるペースト)を処理するために、抽出および分離方法の組合せが本発明で使用され、沈殿物は、液体または希釈液、例えば水または緩衝液に懸濁されて懸濁液を形成する。
典型的なタンパク質含有沈殿物は、エタノールなどの沈殿剤への曝露後、タンパク質の精製中に形成される。固体は、沈殿物またはペーストと呼ばれる場合が多い。沈殿物は、液体と混合されて、固体粒子が液体全体にわたって分布される懸濁液を形成する。特定の抽出条件下で、これらの粒子に含有されるタンパク質は、液相へ徐々に溶解される。
工業規模の製造プロセスにおける溶解比は、必要とされる大量の水または緩衝液のために問題となる。アルブミンおよび免疫グロブリンのようなタンパク質を製造するために使用される血漿分画プロセスに関して、この工程は何千リットルも必要とし得る。大きい溶解比を可能にするそのような大容量を入れることができる槽が利用可能であっても、溶液中に溶解されたタンパク質と沈殿物またはペースト中に残っているタンパク質の間の平衡(シャトリエの原理)のため、より高収量の所望の効果は実現し得ない。沈殿物に閉じ込められたそのようなタンパク質は、最終生成物までのさらなる処理のために回収することができない可能性がある。この現象は、一つには溶解度平衡に関係している。固相の化合物が溶液中に溶解された化合物と化学平衡にあるとき、公知の溶解度平衡が存在する。平衡は、溶解および析出の速度が互いに等しくなるように、一部の個々の分子が固相と液相の間を移動する動的平衡の一例である。
本発明は、溶解度平衡を連続的に移動させることによって沈殿物からのタンパク質回収率の問題を解決することを目指す。これは:1)密接な相接触を反復的方法で可能にする内蔵部品により抽出効率を高めること(中空回転ディスクフィルターエレメントを搭載することができる動的濾過システムを使用して);2)溶解タンパク質をタンパク質含有沈殿物から連続的に除去すること(ル・シャトリエの原理を適用して-平衡状態の任意のシステムが、濃度(例えば体積)、温度、または圧力の変化にさらされるとき、適用された変化の影響を(部分的に)打ち消すようにシステムが再調整し、新たな平衡が確立される)によって達成される。これは、再懸濁部位で体積を連続的に増加させ、動的フィルターを通じて溶解タンパク質を連続的に除去することによって、沈殿物から液相への最大タンパク質移動を確実にするためにル・シャトリエの原理が利用できることを意味する。いくつかの例において体積の増加は、タンパク質の連続濃縮工程中に透過液をリサイクルし、それによって緩衝液の消費を低減することによって実現される。
本発明に関して大規模または工業規模とは、ヒト血漿などの出発材料少なくとも200L、好ましくは少なくとも500L、さらにより好ましくは少なくとも2000Lに基づく生産方法を表す。例えば、工業規模のタンパク質製造で使用される典型的な商業的血漿ドナープールサイズは、1バッチあたり血漿2500L~6000Lにわたる。本発明の特定の実施形態において沈殿物は、血漿2500L~6000Lから得られる。いくつかの商業的製造プロセスは、血漿最大7500L、最大10000L、および/または最大15000Lを含む、より大きな血漿ドナープールサイズでさえ使用することができる。
本発明の方法およびシステムは、大規模工業用途だけでなく、独立型システムとしておよび/またはより小規模生産用途(出発材料が200L未満であり得る)のための方法にも使用することができる。
例えばpH調整および/または冷却工程の組合せによる塩、アルコールおよび/またはポリエチレングリコールの添加によって、溶液からタンパク質を選択的に沈殿させるために多くの異なる方法が使用される。それ故に、本発明は、免疫グロブリンG含有タンパク質沈殿物などのほとんどのタンパク質沈殿物に対して、これらが初めにどう調製されるかにかかわらず、適用可能となることが予想される。本発明はまた、アルブミン、IgA、IgD、IgEまたはIgMなどの免疫グロブリン(Ig)(各タイプの免疫グロブリン単独またはその混合物のどちらか)を含む他のタイプのタンパク質の分離においても実施できることが留意されるべきである。組換えタンパク質もこの点で適していることが予見される。
この目的のために、方法がIgGの生産に適用される場合、含タンパク質沈殿物は、任意のIgG含有材料(例えば、ペースト、沈殿物、または封入体の形態の)であってもよく、またはヒトもしくは動物起源の血漿もしくは血清、発酵ブロス、細胞培養物、タンパク質懸濁液、乳汁、もしくは他の元の供給源からであるかにかかわらず、例えば上記に説明された1つまたはそれ以上の方法によって、IgGがそこから沈殿させられる溶液などの出発材料から得られることが留意される。免疫グロブリン含有材料または溶液は、モノクローナルまたはポリクローナル免疫グロブリンを含有してもよい。いくつかの実施形態において、免疫グロブリン含有出発材料は、ポリクローナル抗体を含む溶液である。他の実施形態において出発材料は、モノクローナル抗体またはその断片を含む。それ故に、用語「免疫グロブリン」は本明細書で使用される場合、天然または組換えのどちらかのモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含む抗体として同定することもできることは、当業者の知識の範囲内である。
例えば、免疫グロブリン(例えばIgG)は、ヒトまたは動物血液から単離され、または組換えDNA技術もしくはハイブリドーマ技術によるなどの他の手段によって生成される。好ましい実施形態において、免疫グロブリンは、血漿から、典型的には多くのドナーから得られた血漿プールから得られる。血漿から免疫グロブリンを得るために、血漿は通常、クロマトグラフィー、吸着または沈殿のような他の精製手法と組み合わされるアルコール分画に供される。しかし、他のプロセスも使用することができる。例えば、含タンパク質沈殿物は、方法6、Cohnら J. Am;Chem. Soc.、68(3)、459~475頁(1946)、方法 9、Oncley ら J. Am;Chem. Soc.、71、541~550頁(1946)などのCohnの方法によるII+III沈殿物、またはI+II+III沈殿物、方法10、Cohnら J. Am;Chem. Soc.、72、465~474頁(1950);ならびにDeutschら J. Biol. Chem. 164、109~118頁(1946)の方法、またはNitschmannおよびKistler Vox Sang. 7、414~424頁(1962);Helv. Chim. Acta 37、866~873頁(1954)の沈殿物Aであってもよい。目的とするタンパク質を含む代替の沈殿物には、他の免疫グロブリンG含有Oncley画分、Cohn画分、米国特許第3,301,842号にSchulzeらによって記載された血漿由来の硫酸アンモニウム沈殿物が含まれるが、これらに限定されない。目的とするタンパク質を含むさらなる代替の沈殿物には、例えば、EP893450に記載されるオクタン酸沈殿物が含まれるが、これらに限定されない。
「正常血漿」、「高力価血漿」(高力価抗D、破傷風またはB型肝炎血漿などの)またはこれらと同等の任意の血漿が、本明細書に記載された低温エタノール分画プロセスにおいて出発材料として使用される。
用語「クリオ上清」(脱クリオ血漿(cryo-poor plasma)、乏クリオプレシピテート血漿(cryoprecipitate depleted plasma)等とも呼ばれる)は、クリオプレシピテートが除去されている血漿(全血採血または血漿交換のどちらかから得られた)を指す。寒冷沈降は、血漿タンパク質治療薬の大量生産に今日使用されているほとんどの血漿タンパク質分画方法における第1の工程である。方法は、一般的に、凍結血漿をプールし、制御された条件下で解凍し(例えば6℃以下で)、沈殿物を次いで濾過または遠心分離のどちらかによって収集することを伴う。「クリオ上清」として当業者に公知の上清画分は、一般的に使用のために保持される。得られた脱クリオ血漿は、第VIII因子(FVIII)、フォンヴィレブランド因子(VWF)、第XIII因子(FXIII)、フィブロネクチンおよびフィブリノーゲンのレベルが低下している。FVIIIのレベルは大幅に低下するが、フィブリノーゲンのレベルは元のレベルの70%であり得る。クリオ上清は、アルファ1-アンチトリプシン(AAT)、アポリポタンパク質A-I(APO)、フィブリノーゲン、アンチトロンビンIII(ATIII)、凝固因子(II、VII、IXおよびX)を含むプロトロンビン複合体、アルブミン(ALB)および免疫グロブリンG(IgG)などの免疫グロブリンを含む、一連の治療用タンパク質を製造するのに使用される一般的な供給原料を提供する。
8%エタノール-沈殿物(Cohnらの方法;Schultzeら(上記参照)、251頁)、沈殿物II+III(Oncleyらの方法;Schultzeら(上記参照)253頁)または沈殿物B(KistlerおよびNitschmannの方法;Schultzeら(上記Schultze参照)、253頁)の上清は、工業規模の血漿分画と適合可能なIgGの供給源の例である。IgGを高収率で得る精製プロセスのための出発材料は、あるいは、発酵および細胞培養物または他のタンパク質懸濁液のような異なる供給源からの任意の他の適切な材料であってもよい。
Cohn分画法において、第1の分画工程は、主にフィブリノーゲンおよびフィブロネクチンを含む画分Iをもたらす。この工程からの上清は、画分II+III、ならびに次いで画分IIIおよびIIを沈殿させるためにさらに処理される。典型的には、画分II+IIIは、フィブリノーゲン、IgM、およびIgAなどの不純物と一緒に約60%IgGを含有する。これらの不純物のほとんどは、次いで、廃棄画分とみなされ、通常は廃棄される画分IIIで除去される。上清は、次いで、90%を超えるIgGを含有し得る主なIgG含有画分、画分IIを沈殿させるために処置される。上記の%値は、IgGの%純度を指す。純度は、ゲル電気泳動または免疫比濁法などの当技術分野で公知の任意の方法によって測定することができる。Kistler & Nitschmann法において、画分Iは、Cohn法の画分Iと同等である。次の沈殿物/画分は、沈殿物A(画分A)と呼ばれる。この沈殿物は、Cohn画分II+IIIと同一ではないが、広義には同等である。沈殿物は、次いで再溶解され、Cohn画分IIIと同等である沈殿物B(分画B)を沈殿させるために条件が調整される。この場合もやはり、これは廃棄画分とみなされ、通常は廃棄される。沈殿物B上清は、次いで、Cohn画分IIに相当する沈殿物IIを生成するためにさらに処理される。
特定の含タンパク質沈殿物は、血漿タンパク質、ペプチドホルモン、成長因子、サイトカインおよびポリクローナル免疫グロブリンタンパク質、血漿タンパク質(フィブリノーゲン、プロトロンビン、トロンビン、プロトロンビン複合体、FX、FXa、FIX、FIXa、FVII、FVIIa、FXI、FXIa、FXII、FXIIa、FXIIIおよびFXIIIa、フォンヴィレブランド因子を含むヒトおよび動物血液凝固因子から選択される)、アルブミン、トランスフェリン、セルロプラスミン、ハプトグロビン、ヘモグロビンおよびヘモペキシンを含む輸送タンパク質、β-アンチトロンビン、α-アンチトロンビン、α2-マクログロブリン、C1阻害剤、組織因子経路阻害剤(TFPI)、ヘパリンコファクターII、プロテインC阻害剤(PAI-3)、プロテインCおよびプロテインS、α1エステラーゼ阻害剤タンパク質、α1アンチトリプシンを含むプロテアーゼ阻害剤、潜在性アンチトロンビンを含む抗血管新生タンパク質、α1-酸性糖タンパク質、アンチキモトリプシン、インターα-トリプシン阻害剤、α2-HS糖タンパク質およびC反応性タンパク質を含む高グリコシル化タンパク質、ならびにヒスチジンリッチ糖タンパク質、マンナン結合レクチン、C4結合タンパク質、フィブロネクチン、GCグロブリン、プラスミノーゲン、エリスロポエチンなどの血液因子、インターフェロン、腫瘍因子、tPA、γCSFを含む他のタンパク質を含み得る。
特定の実施形態において、含タンパク質沈殿物は、免疫グロブリンGなどの免疫グロブリン、アルブミン、フィブリン、トロンビン、プロトロンビン複合体、フィブリノーゲン、プラスミノーゲン、アルファ1-アンチトリプシン、C1阻害剤、アポリポタンパク質A1、アルファ酸性糖タンパク質、ハプトグロビン、ヘモペキシン、トランスフェリン、ならびに第VII因子、第VIII因子および第IX因子などの凝固因子を含む血漿に由来する治療用タンパク質の製造において使用される。
試料中(例えば、上清またはその後に精製されたその調製物中)のタンパク質の濃度は、当業者に公知の任意の手段によって測定することができる。適切なアッセイの例には、高圧力液体クロマトグラフィー(HPLC;例えば、サイズ排除HPLC)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および 免疫比濁法が含まれる。そのような手法は、試料の純度を評価するのに使用することができる。さらに、染色およびデンシトメトリーによるSDS-PAGEのようなゲル電気泳動が、試料の純度を評価し、混入タンパク質の存在を検出するのに使用される。ジチオスレイトールなどの還元剤は、任意のジスルフィド結合ポリマーを切断するのにSDS-PAGEで使用される。
免疫グロブリンG含有出発材料は、好ましくは約0.5~6.5%w/v、より好ましくは約1.0~4.0%w/v、さらにより好ましくは約1.5~3.0%w/v、最も好ましくは約1.8~2.5%w/v、例えば約2.0%w/vの総タンパク質濃度を有する。
1つの実施形態において、液体は、酢酸ナトリウム、リン酸塩、およびクエン酸の1つまたはそれ以上を含む緩衝液を含む。1つの実施形態においてリン酸塩は、リン酸二水素ナトリウムなどのリン酸ナトリウムである。好ましくは、導電率が5mS/cmより下、好ましくは4mS/cmより下、より好ましくは0.01mS/cm~4mS/cmの間の緩衝液などの導電率が低い緩衝液が使用される。
本発明による方法は、含タンパク質沈殿物(例えばペースト)から目的とするタンパク質を高収率で回収できるようにする。出発材料中の免疫グロブリンGの総量と比較した最終濾過溶液中の免疫グロブリンGの総量として定義される濃縮段階後の回収収率(限外濾過生成物)は、典型的には少なくとも95%(w/w)、好ましくは少なくとも96%(w/w)、より好ましくは少なくとも97%(w/w)、最も好ましくは最大98%(w/w)である。
以下は、免疫グロブリンG含量の回収率の計算が、本発明によりどのように得られるかを示す例である。第1段階は、含タンパク質沈殿物(全溶解)中のIgG含量の決定を含み、それに続く第2段階は、本発明の連続抽出方法またはシステムを使用したIgG回収率の決定を含む。
第1段階として、含タンパク質沈殿物(各実験に対して約50g)を緩衝液(例えば、0.12M~0.25Mリン酸緩衝液、pH7.6~8.0)に溶解して最終希釈係数20(1:20;または最終希釈比1:19重量)を得る。インペラーミキサーを使用した2時間の再懸濁期間の後、懸濁液を4500Gで遠心分離する。これは、第1の上清および第1の沈殿物をもたらす。上清の体積は、標準的な方法によって決定することができ、上清のIgG含量は、例えば比濁法によって決定することができる。得られた沈殿物を再懸濁し、上記に記載されたのと同じ緩衝液を使用して再び処置して最終希釈係数20を得る(得られた上清1部:新たな緩衝液19部)。得られた上清の体積およびIgG含量を再び決定する。このプロセスを、例えば5回、または最後の上清中のIgG含量が10mg/Lより下(定量限界は約3.6mg/L)となるように必要なだけ繰り返す。この手順は、含タンパク質沈殿物中のIgG含量が、緩衝液によって完全にまたは最適に溶解または抽出されることを確実にする。この実験を数回繰り返す(この場合、12の個別の実験を繰り返した)。このプロセスを、供給源血漿の分画から生じた異なる出発沈殿物で繰り返し、同様の信頼できる結果を得た。以下の表1は、総タンパク質、および含タンパク質沈殿物から回収されたIgGの含量を示す。
Figure 0007174072000001
第2段階では、同じ含タンパク質沈殿物を、本発明による連続抽出および分離方法またはシステムを用いた実験に使用する。含タンパク質沈殿物(沈殿物A)1kgの総量を、緩衝液(例えば、10mMリン酸塩、10mM酢酸塩および2mMクエン酸)に30分間溶解して、第1の希釈比5(1:6重量;または第1の希釈係数6(1:6)に等しい)を有する出発懸濁液を得る。懸濁液のpHは4.6である。連続抽出および分離プロセスのために、懸濁液を第1の槽から第1の濾過プロセスユニットへ移す。濾液(第1の透過液)を第2の槽に収集する。濾過した懸濁液の体積が第1の槽で一定のままであるように、100~200ml収集濾液ごとに、新鮮な緩衝液(または、UF工程後の再循環緩衝液(すなわち第2の透過液))100~200mlを第1の槽に添加する。4時間後、濾過を終了する。これにより、懸濁液中の総タンパク質濃度は0.1g/Lより下と予想され、および/またはIgG濃度は50mg/Lより下である。以下の表2は、IgGの回収率を示す。
Figure 0007174072000002
この例では、連続抽出濾過ユニットを使用した総タンパク質およびIgGの収量の増加を示すために、実験をオフラインで行う。「オフライン」は、添加した緩衝液を第2の濾過ユニットから得ないことを意味する。第2の濾過ユニットにおける限外濾過は別に実行する。また、最終(第2の)希釈係数(1:31=78.9g/kg)の最後でのIgG量と比較して、第1の希釈係数(1:6=61.7g/kg)でのIgG量は低いことも表2に示されている。これは、全てのIgGが一度に緩衝液中に抽出または溶解されるわけではなく、むしろ一定期間または反復溶解手順にわたって抽出または溶解されるという事実によるものである。よって、IgG収量は、本発明による連続抽出および濾過プロセスを通じて増加される。
上記の表1および2によって示されているように、少なくとも95%の回収率により本発明による免疫グロブリンGの収量が達成される。回収率(本発明による連続抽出および濾過の)は、(連続濾液中のIgGの総量:表1からの全溶解によるIgGの平均量の)比に100を乗じて計算される。
総IgG量(最終希釈係数達成後)=78.9g/kg
平均全IgG抽出(表1)=(76.5+85.3)/2=80.9g/kg
IgGの収率(回収率)=78.9/80.9×100%=97.53%
よって、少なくとも95%または約98%の本発明によるIgG回収率が達成されることがこれにより示される。
この初期のプロセス工程(さらに下流の処理工程の前の)における高い回収率が、最終バルク段階でより高収量を達成する前提条件となる。本発明は、含タンパク質沈殿物(例えばペースト)が高い希釈係数(例えば、40~70;1:40~1:70の間)で実際に懸濁される抽出プロセスを利用する。例として、含タンパク質沈殿物(例えばペースト)1kgが液体(例えば緩衝液)3kgに再懸濁され、結果として第1の希釈係数が4(1:4)の出発懸濁液になる。緩衝液の供給流66kgの再循環は、結果として最終希釈係数70(1:70)になる。本発明で使用される抽出プロセスは、より高量の免疫グロブリンGを懸濁液/溶液中に放出できるようにし、故に平衡を移動させ(以下に論じられるように)、懸濁液からの免疫グロブリンGのより効率的な分離を可能にする。
好ましい実施形態において、粗免疫グロブリンG含有タンパク質沈殿物(すなわち、含タンパク質沈殿物)が緩衝液に懸濁されて出発懸濁液を得る。緩衝液はいくつかの実施形態において、酢酸塩またはリン酸塩、またはさらにクエン酸を含有してもよい。
最も好ましい実施形態において、免疫グロブリンG富化懸濁液または溶液の抽出および濾過生成物は、ヒト免疫グロブリンを含み、少なくとも95%または最大98%免疫グロブリンG含量が出発沈殿物から回収され、または0.1mg/ml未満、好ましくは0.05mg/ml未満の免疫グロブリンGタンパク質濃度が、第2の希釈係数に達成した後に最終懸濁液で検出される。免疫グロブリンGサブクラスのおよその分布は、典型的にはヒト血漿における平均的なサブクラス分布に似るであろう。
さらに、典型的には、沈殿物A(含タンパク質沈殿物)1kgは、総タンパク質170g(範囲:150~190gタンパク質/kg沈殿物)を含有する。総タンパク質は、約50%~60%のIgGで占められている(故に75~95g/kg沈殿物)。本発明の1つの方法によれば、IgGの約98%の回収率が達成される場合、それはIgG73.5~93.1g/kgの総量が含タンパク質沈殿物(沈殿物A)から得られることを意味する。
以下、例で詳細に例示されるように、改善された方法が、緩衝液のpHにかかわらず、ペースト(すなわち、含タンパク質沈殿物/材料)をより大量の緩衝液で処置する工程からなる、本方法において開示された免疫グロブリンGを抽出するための改善された抽出プロセスにより、驚くべきことに免疫グロブリンGの約98%という高い回収率が得られる。より低い最終希釈係数(例えば、5~および最大14~15の間)を使用することが、現在当技術分野では一般的である。例えば、WO2016012803では溶媒に対する廃棄画分の重量は、一般的に約1:2~約1:10となるであろう。好ましくは、溶媒の重量は、廃棄画分の重量の約4倍、すなわち、廃棄画分対溶媒の重量比約1:4であり得る。よって、本発明は、含免疫グロブリン沈殿物をより大容量(20、30、40またはそれ以上の高い最終希釈係数)へ曝露するための手段を提供することによって回収率の改善を可能にする。同様に寄与する追加の要因には、懸濁液への乱流の導入が含まれ、第1および/または第2のプロセスユニットならびに本発明によるクローズド濾過システムにおける最大2バールの圧力は、抽出効率を高め、出発沈殿物から抽出される免疫グロブリンGの高い回収率をもたらした。さらに、予想外に高い回収収率とは別に、本発明は他の利点、特にスケーラビリティも提供し、これにより、より小さいフットプリント、およびより低い総容量を処理することに伴うより低いコストのために、本発明の方法を既存の施設で使用できるようになる;さらに、スケーラビリティにより、免疫グロブリンGの品質および安定性に影響を及ぼし得るパラメータの操作性が依然として可能になる。最後に、動的濾過の使用により、高固形分懸濁液を効率的に濾過できるようになる。
例えばタンパク質分離の化学において、ル・シャトリエの原理または「化学平衡の法則」は、化学平衡に与える条件の変化の影響を予測するのに使用される。平衡状態にある任意のシステムが、濃度、温度、体積、または圧力の変化にさらされるとき、次いで、システムは、適用された変化の影響を打ち消す(部分的に)ように自らを再調整し、新たな平衡が確立される。言い換えれば、平衡にあるシステムが乱されるときは常に、変化の影響が無効にされるようにシステムは自らを調整する。例えば、平衡状態では、どちらの側の懸濁液中の免疫グロブリンの濃度も一定である。平衡状態では、少量の免疫グロブリンが反応から取り出される場合、免疫グロブリン濃度の変化のために、これが、濃度のその変化を低減する側に平衡を移動させる。ル・シャトリエの原理によればシステムは、元の平衡状態まで、影響を受けた変化に部分的に反対しようとするであろう。今度は、生成物の反応速度、程度および収率が、システムに対する影響に対応して変化することになる。
システムが平衡状態にあり、反応に関与する種の1つの濃度が上昇する場合、システムはその種の濃度を減少させるように再調整するであろう。故に、反応は、増加した濃度の一部を消費するような方法で進行するであろう。同様に、一部の物質の濃度が減少する場合、反応は、濃度の損失の埋め合わせをするように進行するであろう。
言い換えれば、システムからの免疫グロブリン(例えばIgG)の一定の除去の下、および同時に、懸濁液の溶媒中の免疫グロブリンの濃度を希釈により低下させると、これは、懸濁液の1つの相からの免疫グロブリンの除去の増加、すなわち液相への沈殿物の増加につながる。この手順の繰り返しにより、懸濁液の沈殿物に含まれる本質的に全ての免疫グロブリンが含タンパク質沈殿物から抽出される。特に本発明は、少なくとも30、好ましくは例えば40(1:40)またはそれ以上の高い最終希釈係数を開示し、含タンパク質沈殿物からの免疫グロブリンG回収率を最大化するために、例えば提案された緩衝液組成を使用してさらに促進され、またはより高いpHを使用してさらに促進される。従来技術と比べて、本発明の方法およびシステムにより、ほぼ全ての免疫グロブリンGを含タンパク質沈殿物(例えば、ペーストまたは沈殿物)から回収できるようになる。
限外濾過生成物は、最終生成物が例えば人体に投与されるように、クロマトグラフィー工程、ウイルス不活性化工程、濃縮および製剤化などのさらなる処理に後で供することができる。最終生成物は、免疫状態、特定の自己免疫疾患およびある特定の神経疾患の治療において使用することができる。これらの状態には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質症候群、免疫性血小板減少症(ITP)、川崎病、ギランバレー症候群(GBS)、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、重症筋無力症(MG)、皮膚水疱形成疾患(skin blistering diseases)、強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ダウン症候群に関連するアルツハイマー病、脳アミロイド血管症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症または血管性認知症が含まれる。さらに、最終IVIGおよびSCIG生成物は、細胞移植および臓器移植などの他の医療処置において使用することができる。
この目的のために、本発明による第1のプロセスユニットは、その独自の設計のおかげで連続抽出および分離プロセス、特に濾過プロセスを提供することが繰り返される。第1のプロセスユニットは、例えばセラミックベースの膜ディスクを含む動的回転濾過エレメントが備えられている。回転濾過は、極限クロスフロー速度を可能にし(フィルター表面のその高効率洗浄による)、従来のクロスフロー法と比べてエネルギー消費量が極めて低い。クロスフロー効果(フィルター表面の接線流洗浄)は、フィルターディスクの回転によって発生し、大容量の圧送によっては発生しない。セラミックフィルターディスクは、化学的ストレスおよび熱ストレスに対するより良好な耐性、高い濾過流束、および極めて長い耐用年数を有し、逆流洗浄または熱蒸気滅菌によって再生することができる。
回転セラミックフィルターディスクは、典型的には加圧ハウジングで組み立てられる。ディスクの設計は、内部に排液チャネルを示す。濾液は、ディスクの外側から内側に輸送される。ディスクの回転は、膜表面で剪断力を発生させる。この手法により、濾過ケーキの増加が回避され、高い濾過流束をもたらす。回転濾過の主なパラメータのいくつかは、セラミックフィルターディスクを回転させるための回転速度および固形分(濾液の除去による液体の濃縮)である。
用語「含タンパク質沈殿物」は、目的とするタンパク質を含有する任意の材料を指すことが意図される。目的とするタンパク質としての免疫グロブリンの文脈において、この用語は、血漿、血清、血漿もしくは血清から生成される沈殿物、発酵ブロス、封入体、細胞培養上清、またはそのような材料から生成される沈殿物を指し得る。典型的には、本発明の文脈において、該用語は、CohnもしくはOncleyエタノール沈殿物、またはKistler-Nitschmann沈殿物などの血漿由来の沈殿物を指す。
用語「出発組成物」は、典型的には(第1の)希釈係数に従って水または緩衝液を用いた希釈により、含タンパク質沈殿物から生成される懸濁液または溶液を指す。いくつかの例において、含タンパク質沈殿物の希釈が必要とされない場合、含タンパク質沈殿物が出発懸濁液であってもよい。
「高収率」とは、免疫グロブリンG(ならびに他のタンパク質および免疫グロブリン)などの目的とするタンパク質の収率が、含タンパク質沈殿物中の目的とするタンパク質の量の少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは98%超であることを意味する。
試料中(例えば、沈殿物中またはその医薬品グレードの精製調製物中)の免疫グロブリンの濃度は、当業者に公知の任意の手段によって測定することができる。免疫グロブリンを測定するのに使用される方法は、試料の性質に依存し得ることが理解されよう。例えば、試料が免疫グロブリン含有沈殿物である場合、測定の前に沈殿物(またはその試料)を適切な緩衝液に溶解させることが必要となり得ることが理解されよう。目的とするタンパク質を測定するための適切なアッセイの例には、高圧力液体クロマトグラフィー(HPLC;例えば、サイズ排除HPLC)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および定量的免疫比濁法が含まれる。
パーセンテージ、pH、量もしくは期間、または他の基準に対する所与の数値に関連した「約(about)」または「約(approximately)」により、指定された値の10%内の数値を含むことが意味される。
本明細書全体にわたって、文脈が特に要求しない限り、語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形形態は、記載された要素もしくは整数または要素もしくは整数群の包含を意味するが、任意の他の要素もしくは整数または要素もしくは整数群の除外を意味するものではないことが理解されよう。
任意の先行刊行物(またはそれから得られた情報)、または公知である任意の事項への本明細書における言及は、その先行刊行物(またはそこから得られた情報)または公知の事項が、本明細書が関わる努力傾注分野における共通の一般的知識の一部を形成するという承諾もしくは承認または任意の形態の示唆ではなく、そう受け取られるべきではない。
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が特に明確に指示しない限り複数の態様を含むことが留意されなければならない。故に、例えば、「タンパク質(a protein)」への言及は、単一のタンパク質、および2つ以上のタンパク質を含む。
本発明のいくつかの好ましい実施形態が、添付図面を参照しながらこれより詳細に記載される。本明細書に組み入れられた図面のあまり本質的でない、または本質的でないいくつかの特徴は、簡潔さのために省略されている。
図1は、システム100および本発明の1つの好ましい実施形態による方法のフローチャート概略図を図示する。例えば懸濁液の形態、またはペーストもしくは沈殿物の形態の含タンパク質沈殿物が液体、例えば緩衝液で懸濁される。緩衝液の組成および濃度は、第1の希釈係数、例えば3~10の間(1:3~1:10)を有する懸濁液などの出発組成物を作り出すために、上記に記載された方法に従う。懸濁液は第1の槽1に入れられる。懸濁液は、ポンプ2を通じて第1の濾過ユニット5に送液され、いくつかのタイプのポンプ(例えば、ピストンポンプ;回転ポンプ;遠心分離ポンプおよび膜ポンプ)、およびパイプ12のフロー調節バルブ3が使用される。第1の濾過ユニット5は、フィルターディスクが取り付けられた回転中空軸が装備されている(濾液は中空軸の外側から内側に流れる)。第1の濾過ユニット5は、濾過ケーキ厚さを一定に保ち、故に一定の濾液フローを達成するための高さ調整可能なスクレーパーをさらに備えている。所望の濾過圧力は、オーバーフローバルブ(未濾過懸濁液出口)によって制御および調節される。使用されるフィルターディスクは、セラミック膜、デプスフィルター層、および焼結多孔質金属フィルターディスクであってもよい。第1の濾過ユニット5の容器が懸濁液でいっぱいになると、連続圧力抽出および分離が開始される。圧力ユニット/容器を含む第1の濾過ユニット5は、抽出効率および濾過プロセスを同時に高めるための適切な内部設定および条件が提供される。抽出効率は、ミキサーを必要とすることなくユニット5で乱流混合により高められる。それにもかかわらず、乱流を作ることによって抽出プロセスを促進するための追加のミキサーが提供されることが予見される。さらに、本発明において開示されたより高い最終希釈係数、例えば40または70も抽出効率を高め、高いタンパク質(例えばIgG)収量をもたらす。当然ながら、任意の他のより高い最終希釈係数(70より高い)も想定される。
濾液は、パイプ(またはチャンネル)14に設置された流量計6を通って流れ、第2の槽7に収集される。未濾過懸濁液は、槽1のパイプ13に設置された調節出口3を通じて還流する。第2の槽7の規定体積に達すると、UF 8濃縮プロセスが第2の濾過ユニットで開始される。第2の槽7の濾液は、パイプ15を通って限外濾過(UF)システム8へ流れる。膜透過圧力は、透過液流量17が、パイプ14の第1の濾液流量によるものと同一またはほぼ同一となるように設定される。UFシステム8の透過液は、パイプ(またはラインもしくはチャンネル)17を通って第1の槽1に還流するのに対し、UFシステムの保持液(=濃縮タンパク質)は、パイプ16を通って第2の槽7に還流する。
本発明によれば、第1のプロセスユニット5は、第1の保持液および第1の透過液を生成するための第1のプロセスユニット5の内容物を乱流混合するための1つまたはそれ以上の第1のフィルターエレメントを含む1つまたはそれ以上の回転フィルターディスクを備えている。第1の保持液は、制御バルブ3を経由しチャンネル13を通って第1の槽1にフィードバックされるのに対し、第1の透過液は、別のチャンネル14を経由して第2の槽7へ送液される。第1のフィルターエレメントは、く、約5nm~5000nmの間、好ましくは20nm~100nmの間、またはより好ましくは30nm~80nmの間の孔径を有する、セラミック材料に基づく濾過膜であってもよい。無機膜または任意の他の適切な膜も、セラミックベースの膜と同様の効果を提供し得ることも予見される。第1の濾過ユニット5は、内部の圧力を調節するためにマノメーターなどの圧力制御装置4を供給される。同様に、流量計6は、懸濁液または溶液の流量を測定するために本発明のシステムに設置される。
第2の槽7からの供給流は、次いで、実行されるべき第2の分離プロセスのためにチャンネル15を通って第2の濾過ユニット8に送液される。第2の分離プロセスは、連続濃縮プロセス(例えばUF)であってもよい。第2の濾過ユニット8は、1つまたはそれ以上の第2のクロスフローフィルターエレメントを備えており、第2のクロスフローフィルターエレメントは、50kD未満の平均分子量カットオフ値を有する限外濾過膜を含んでもよい。しかし、膜は、10kD未満またはより好ましくは5kD未満でもあってもよい。限外濾過膜は、それ故にチャンネル16を通って第2の槽7に逆流される第2の保持液を生成するのに対し、第2の透過液はチャンネル17を経由して第1の槽1に送液される。この目的のために、第2の濾過ユニット10の圧力は、チャンネル14および17の流速が実質的に等しくなるように濃縮工程(限外濾過)中に調節されることが留意される。
以下の説明では、本発明による方法の詳細な説明がいくつかの実験例において概説される。
実施例1
本発明により、免疫グロブリンGを第1のプロセスユニットで連続抽出および分離プロセスにより抽出した。
1kg含タンパク質沈殿物(沈殿物A)の量を、10mM酢酸ナトリウム、10mMリン酸塩および2mMクエン酸緩衝液に30分間溶解して第1の希釈係数10(すなわち、緩衝液9kgに溶解した沈殿物1kg)を得た。懸濁液のpHは約pH4.6であった。懸濁液を第1の槽で調製し、連続抽出および分離プロセスのために第1のプロセスユニットに送液した。第1のプロセスユニットは、平均孔径が80nmの濾過膜を有するセラミックベースの膜ディスクを含む回転濾過エレメントを備えていた。使用したセラミックフィルターは、直径Φo152mm/Φi25.5mm;厚さd=4.5mm;および膜表面積360cmを有するセラミックフィルターディスク152であった。ディスクの接線速度は、60Hz(800rpm)で約7m/sであった。平均濾過率は、約200ml/分であった。連続抽出および分離プロセス中、第2の槽に収集した各200ml濾液(第1の透過液)につき緩衝液200mlを、第2の濾過ユニット(限外濾過)から得られた第2の透過液から第1の槽に戻した。4時間後、濾過を止めた。第1の槽の所定のタンパク質濃度は、0.1g/L未満(最終希釈係数31に等しい)であった。濾液3kgの総量を、第2の濾過ユニットで20g/Lまでさらに濃縮した(10kD限外濾過膜)。
比較実験を、深層フロー濾過を使用して従来技術方法に従って行った。同じロットの沈殿物Aをこの実験で使用し、沈殿物は0.22M酢酸ナトリウム緩衝液に懸濁した。最終希釈係数6(すなわち、緩衝液5kgに溶解した沈殿物1kg)をこの実験に使用した。懸濁液を深層濾過の前に4時間混合した。最後に、10kDの平均分子量カットオフを有する限外濾過膜を使用して、濾液を20g/Lまで濃縮した。
免疫グロブリンG収量の結果を表3に示す。連続抽出方法を使用して得られるIgG収量は、従来技術方法より高かった。上で説明したように、該抽出方法は、沈殿物が液体の体積増加(または最終希釈係数)に曝露されることを確実にする。これは、次いで第1の濾過ユニットの第1の透過液中で回収される沈殿物材料からの免疫グロブリンGの抽出の増加に有利に溶解平衡を移動させると考えられる。表3に示すように、本発明の動的濾過システムは、従来技術方法に比べて約0.68g/L血漿相当量(PEQ)のIgG収量の増加を可能にした。これは、プール血漿毎リットル中、約10%のIgGに等しい。
Figure 0007174072000003
実施例2
この例では、実施例1に記載されたのと同様の方法および設備を使用して、異なる緩衝液組成および異なる最終希釈係数の使用から生じるIgG収量を比較した。
表4に示されているように、最終希釈係数6を対照(試料A)に適用した。この最終希釈係数は、当技術分野で広く実践されている一般的な最終希釈係数を表す。例えば、WO2016012803(15頁、30行)は、約1:2~約1:10の係数による希釈を示唆している。これに対して、本発明は、より高い希釈比を使用できるようにする実用的手段を提供する。本例では、最終希釈係数40を試料BおよびCに使用した。
試料Aの緩衝液は、0.22M酢酸ナトリウムを含む。試料Bの緩衝液は、5mM酢酸塩および5mMリン酸塩を含むのに対し、試料Cの緩衝液は、10mM酢酸塩および10mMリン酸塩を含む。試料BおよびCは両方とも、含タンパク質沈殿物の再懸濁後一定のpHを維持するために、2mMクエン酸をさらに含有した。全試料の懸濁液の形態での出発組成物のpHは、約4.8であった。
試料Aの最終希釈係数6は、Cohn法10に従って最初に沈殿物I+II+III約1kgを上記に記載された緩衝液(0.22M酢酸塩;沈殿物1部:および緩衝液5部;1:6wt/wt;沈殿物:全体)に溶解して得た。懸濁液を周囲室温で4時間混合した。その後、懸濁液をデプスフィルター(0.2~0.45μm、ポリプロピレン)を通して濾過し、最後に10kD膜(Pellicon(登録商標)3)を通して20gタンパク質/Lまで限外濃縮した。
1kg含タンパク質沈殿物の総量を、試料Bおよび試料Cに関して、上記に記載された緩衝液に30分間溶解して第1の希釈係数6を得、懸濁液のpHは約4.6に調整した。懸濁液を第1の槽で調製し、連続抽出プロセスのために第1のプロセスユニットに送液した。連続抽出プロセス中、第2の槽に収集した各100~200ml濾液につき緩衝液100~200mlを、第2のプロセスユニット(限外濾過)の第2の透過液から第1の槽に戻した。全希釈係数が約40となったとき、濾過プロセスを止めた。10kDの平均分子量カットオフ値を有する限外濾過膜を使用して、濾液を第2の濾過ユニットで20g/Lまでさらに濃縮した。
6つの異なるロットを実験(それぞれ、同じロットを各試験緩衝液と比較する)に使用した。タンパク質および免疫グロブリンG収量を次いで比較した。収量結果は、試料Aと比較して試料BおよびCいずれも、1L PEQ(平均)あたり0.56g免疫グロブリンGの増加を示した(表4参照)。
Figure 0007174072000004
実施例3
本発明の連続抽出システムを使用した免疫グロブリンG、MおよびAならびに他の不純物の収量に与える種々のpHの影響を、この例で実証する。クエン酸緩衝液およびリン酸緩衝液を使用してIgG回収率を比較する2つの実験を行った。この例で使用した含タンパク質沈殿物は、Cohn法10またはKistlerおよびNitschmann法(1962、Vox Sang. 7、414頁)に従ってエタノールで処置した血漿から得られた1kg沈殿物I+II+IIIであった。
3.5~3.9のpHの第1の希釈係数5(1:5)を得るために、上記沈殿物をクエン酸緩衝液(クエン酸ナトリウム-クエン酸)に再懸濁してより低いpH試料を得た。懸濁液を20℃で30分間撹拌した。
懸濁液を次いで第1の槽に移し、その後、実施例1に記載されている連続抽出および分離プロセスのために第1の濾過プロセスユニットに送液した。該システムが懸濁液でいっぱいになるとすぐに第1のプロセスユニットを開始した。第1の透過液/抽出液を第1のプロセスユニットから生成し、第1の透過液/第1の抽出液は、限外濃縮工程(第2の濾過ユニット)を経る前に第2の槽に収集した。限外濃縮工程から得られた目的とするタンパク質が枯渇した第2の透過液を、第1の槽にフィードバックした。第1の槽のタンパク質濃度が0.05g/L未満となり、および/または最終希釈係数が40(1:40)となったとき、連続抽出および濾過プロセスを止めた。
第1の希釈係数5(1:5)、およびpH8.0を得るために、上記沈殿物をリン酸緩衝液(リン酸水素二ナトリウムNaHPOおよびリン酸二水素ナトリウムNaHPO)に再懸濁してより高いpH試料を得た。懸濁液を20℃で30分間撹拌した。pH値とは別に、より高いpH試料で使用した全ての他の条件および工程は、低pH懸濁液(上記に記載されている)と同一であった。
表5および6は、懸濁液が第2の濾過ユニットで限外濃縮工程を経た後の結果を示している。
Figure 0007174072000005
結果は、pH抽出条件がIgG、IgAまたはIgM収量に影響を与えなかったことを示している。しかし、例えば低pH緩衝液条件による他のパラメータに関しては効果が観察され、PKAおよびタンパク質分解活性のレベルが低下した調製物をもたらした。そのようなパラメータは、免疫グロブリン調製物の安定性/品質に悪影響を与える可能性がある。パラメータα1-アンチトリプシン、α2-マクログロブリン、トランスフェリン、アルブミン、アポ-AI、セルロプラスミン、ハプトグロビン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ヘモペキシンおよびIgGサブクラス分布を、免疫比濁アッセイによって決定した。リン脂質、トリグリセリドおよびコレステロールレベルを、酵素試験アッセイによって決定した。タンパク質組成をアガロースゲル電気泳動によって行った。分子サイズ分布(凝集体、二量体、単量体および断片)をサイズ排除クロマトグラフィーによって決定した。PKAおよびタンパク質分解活性の決定を、発色基質アッセイによって行った。
Figure 0007174072000006
実施例4
この例では、i)沈殿物を固定体積の220mM酢酸ナトリウム(pH4.8±0.2)にし最終希釈係数6をもたらし、深層濾過を使用して溶解タンパク質を回収すること;ii)沈殿物を220mM酢酸ナトリウム(pH4.8±0.2)に溶解し、本発明の連続抽出プロセスを使用して溶解タンパク質を回収して、最終希釈係数31を達成すること;およびiii)第1の槽の懸濁液が新鮮な緩衝液で連続的に補充される本発明の連続抽出プロセスを使用して、第2の希釈係数31を達成することによって、沈殿物からのIgG回収率を比較した。
パートi:同じロットの沈殿物1kgを、同じインペラーミキサー(ID10cm)を使用して220mM酢酸ナトリウム(pH4.8±0.2)5kgに懸濁して、最終希釈係数6(すなわち、緩衝液5kgに溶解した沈殿物1kg)を得た。懸濁液を8時間混合した。深層濾過の前に、濾過助剤(FA=Celpure C100 10g/kg、Advanced World Mineral)を添加し、30分間混合した。深層濾過を、フィルタープレス(20×20cmフレーム; Filtrox製)で複合フィルターシート(Dolder CH製ポリプロピレン、Filtrox製セルロース、CH9)を使用して2.5バールの最大圧力で行った。使用したフィルター面積は3200cmであった。濾過を終えた後、後洗浄を再懸濁緩衝液2.5Lを使用して開始した。これは、全濾液6.9Lおよびタンパク質濃度18g/Lをもたらした。タンパク質濃度を、Kjeldahl、BiuretおよびA280アッセイによって決定した。最後に、上記に記載されている10kDの平均分子量カットオフ値を有する限外濾過膜を使用して、濾液を20g/Lまでさらに濃縮した。最終限外濾液体積5.9 Lおよびタンパク質濃度20.7g/Lの収量(表7)。
パートii:Kistler-Nitschmanプロセス(KN)からの、およそ100g濾過助剤を含有する沈殿物の形態の1kgの量の凍結含タンパク質沈殿物を、インペラーミキサー(ID10mm)を使用して220mM酢酸ナトリウム(pH4.8±0.2)緩衝液に30分間再懸濁して、第1の希釈係数10(すなわち、緩衝液18kgに溶解した沈殿物2kg)を得た。第1の槽の懸濁液(20Lワーキングボリューム)を、ダイヤフラムポンプを使用して流量1000mL/分で第1の動的濾過プロセスユニットへポンピングした。プロセスユニットは、二層型セラミックベースの膜ディスク(上方膜層80nmおよび下方層100nm)を含有した。セラミックフィルターディスク152(KERAFOL Keramische Folien GmbH、92676 Eschenbach)は、直径152mm;厚さ4.5mm;および膜表面積360cmを有した。ディスクの接線速度は、60Hz(800rpmに等しい)で約7m/sであった。平均濾過率は約200ml/分に設定した。
第1のプロセスユニットがいっぱいになったら、オーバーフローバルブ(第1のプロセスユニットから第1の槽への第1の保持液の還流をモジュレートする)を使用して1バール(範囲:0~2バール)の一定圧力下で懸濁液を10~15分間循環させた。この時点で、膜透過圧力(TMP)を0.5~1.5バールの間に維持しながら連続抽出プロセスを開始した。第1の透過液を、流量100~200mL/分で第2の槽に収集した(20Lワーキングボリューム)。未濾過保持液懸濁液を、調節出口バルブを通じて800~900mL/分の流量で第1の槽に逆流させた。規定体積(2000~4800mL)が第2の槽(=濾液槽)に収集されたら、0.2m、カットオフ10kD、Ultracel(登録商標)/またはBiomax(登録商標)フィルター(Milipore)を使用して、限外濾過(第2の濾過ユニット)を開始した。UFシステムの透過液流量が透過液濾液流量(100~200mL/分)と類似するように膜透過圧力(TMP:0.8~1.5バール)を設定して、連続抽出プロセスを確実にした。UF-第2の濾過ユニットの透過液を、100~200mL/分の流量で第1の槽に戻した。4時間後、濾過を止めた。第1の槽(懸濁液槽=供給液槽)のタンパク質濃度の所定の値は、0.1g/L未満であった。これは最終希釈比1:31に等しい。タンパク質濃度が20g/Lに達するまで限外濾過プロセスを継続した。この最終濃縮中、第2の透過液を排水に送った。最終限外濾液体積は、21.4g/Lのタンパク質濃度で7.3Lであった(表7)。タンパク質濃度を、Kjeldahlアッセイによって決定した。
パートiii:この実験の第3部では、第1の濾過ユニットを、独立システム(すなわち、第2のUFシステムから切り離された)として使用した。1kgの量の同じ沈殿物を5kgに再懸濁して希釈係数6(すなわち、緩衝液5kgに溶解した沈殿物1kg)を得た。懸濁液のpHは約4.6~5.0であった。この実験の全ての他のパラメータは、UFシステムからの透過液の代わりに新鮮な緩衝液を第1の槽に添加したことを除いて、パートii)に記載されているのと同じであった。第1の濾過ユニットがいっぱいになったら、連続抽出プロセスを開始する前に、オーバーフロー戻しバルブを使用して1バール(範囲:0~2バール)の一定圧力下で懸濁液を10~15分間再循環した。濾液を、流量100~200mL/分で第2の槽に収集した(50Lワーキングボリューム)。未濾過懸濁液を、調節戻しバルブを通じて800~900mL/分の流量で第1の槽に逆流させた。規定体積(2000~4800mL)が第2の槽(=濾液槽)に収集されたら、新鮮な緩衝液を、第1の透過液濾液流量(すなわち、100~200mL/分)のものと類似した流量で懸濁液槽に添加した。約4時間後、濾過を止めた。第1の槽(懸濁液槽=供給液槽)のタンパク質濃度の所定の値は0.1g/L未満であった。収集した濾液の体積は、4.8g/Lのタンパク質濃度でおよそ31Lであった。この体積は最終希釈比1:31に等しい。濾液を20.6g/Lのタンパク質濃度までさらに濃縮して、最終体積7.2Lを得た(表7)。
IgG収量の結果を表7に示す。本発明方法によるIgG収量(連続抽出および濾過プロセスを伴う)は、従来技術方法より高い収量をもたらした。上で説明したように、本発明に開示される抽出および濾過方法を使用することによって、体積の増加(または最終希釈係数)による濃度の変化が達成され、これにより免疫グロブリンGの抽出の増加に有利に溶解平衡を移動させてより高い全収量を達成する。
Figure 0007174072000007
実施例5、6および7
これらの例では、第2の槽におけるタンパク質収量に対する第1のプロセスユニットの回転フィルターディスクの回転速度および全再循環体積(最終希釈係数)の影響を調査した。表8は、使用した条件の概要を示す。
結果は、ディスクの回転速度が高ければ高いほどおよび再循環体積が高ければ高いほど、IgA、IgM、脂質および高分子量タンパク質などの望ましくない不純物の同時抽出を増加させることなく、第2の槽に回収される抽出標的タンパク質は高くなることを示している。
実施例5A
実験のためにCohn I+II+IIIペースト(Celpure C100120グラムを含有する1kg)を、第1の槽の10mM酢酸ナトリウムおよび10mMリン酸二水素ナトリウム二水和物、pH4.3~4.4緩衝液に4℃、第1の希釈比1:6で懸濁した。第1の槽の懸濁液を、パドルスターラーを用いて4℃で約15~20時間撹拌した。実験を開始する前、第1の濾過ユニット(0.2μm膜;フィルター面積=0.1mを有する3つのセラミックフィルターを含有するNovoflow動的濾過装置)を冷水(1℃)で一晩保管した。実験の開始時にユニットから水を抜き、懸濁液を該ユニットへ送液した。濾過プロセスを始める前に、懸濁液を次いで第1の槽と第1のプロセスユニットの間で数分間再循環させた。濾過プロセス中、残りの懸濁液を第1のプロセスユニットに徐々に添加した。第1のプロセスユニットのセラミックフィルターを、1200rpmの回転速度および1.2バールのTMPで作動させた。第1のプロセスユニットからの透過液を第2の槽に収集し、次いでUF/DFユニットと呼ばれる第2のユニットに送液した。UF/DFユニットは、7.0nm膜;フィルター面積0.2mを有する、6つのセラミックディスクを含有するNovoflow動的濾過装置であった。UF/DFシステムの透過液流量は、50~70mL/分であった。第1の濾液が第2の槽に収集されたら、UF/DFシステムを開始した。UF/DFシステムの保持液を第2の槽へ逆流させ、一方、透過液は第1の槽へ逆流させた。第1の槽へフィードバックされた透過液の体積は、ペーストと混合される全液体体積(すなわち最終希釈係数)に寄与した。この実験では、全再循環体積はペースト1kgあたり107Lであった(すなわち1:107最終希釈係数)。
実施例5B
この実施例では、全再循環体積が16L/kgペーストであったことを除いて、実施例5Aに記載されているのと同じ手順を使用した。
実施例6A
この実施例では、第1のプロセスユニットのセラミックフィルターの回転速度を1000rpmで作動させ、全再循環体積が102L/kgペーストであったことを除いて、実施例5Aに記載されているのと同じ手順を使用した。
実施例6B
この実施例では、全再循環体積が16L/kgペーストであったことを除いて、実施例6Aに記載されているのと同じ手順を使用した。
実施例7A
この実施例では、第1のプロセスユニットのセラミックフィルターの回転速度を800rpmで作動させ、全再循環体積が93L/kgペーストであったことを除いて、実施例6Aに記載されているのと同じ手順を使用した。
実施例7B
この実施例では、全再循環体積が16L/kgペーストであったことを除いて、実施例7Aに記載されているのと同じ手順を使用した。
表8は、実験パラメータおよび濾過プロセス後の第2の槽における標的タンパク質収率を示す。
Figure 0007174072000008
不純物を、比濁法、ELISA(IgA、IgM)、または酵素試験法(脂質)によって決定した。結果は、有意な不純物の増加は観察されなかったが、表8に明確に示されているように、タンパク質収率およびIgG収率はより高い回転速度で著しく増加し、タンパク質およびIgGいずれの収率も、高い最終希釈係数を使用した場合(実施例5A、6A、7A)、低い最終希釈係数(実施例5B、6B、7B)と比較して著しく高いことを示した。
実施例8Aおよび8B
この例では、濾過助剤の存在下(実施例8A)および非存在下(実施例8B)で動的クロスフロー濾過プロセスを比較した。使用した濾過助剤は(Celpure C300;Advanced Minerals)であった。
実験のために、Cohn I+II+IIIペースト(実施例8Aには1.2kgおよび実施例8Bには1.5kg)を使用した。ペースト各1キログラムは、濾過助剤120グラムを含有する。ペーストを、10mM酢酸ナトリウムおよび10mMリン酸二水素ナトリウム二水和物、pH4.3~4.4緩衝液に4℃、最初の比1:6で再懸濁した。懸濁液を、パドルスターラーを用いて4℃で約15~20時間撹拌した。実験を開始する前、第1の濾過ユニット(3つのセラミックフィルター0.2μm膜;フィルター面積=0.1mを含有するNovoflow動的濾過装置)を冷水(1℃)で一晩保管した。実験の開始時に水を抜き、懸濁液を動的フィルター装置へ送液した。濾過プロセスを始める前に、懸濁液を次いで第1の槽と該装置の間で数分間再循環させた。濾過プロセス中、残りの懸濁液を徐々に添加した(セラミックフィルターを、1.2~1.6バールのTMPにより1200rpmで作動させた)。各実験で、緩衝液約600mlを16~18回交換した。これは約9.6~10.8Lの緩衝液量に相当し、オンライン処理中の限外濾過/透析濾過ユニットの緩衝液回収率をシミュレートするのに役立つ。濾液を撹拌下(パドルスターラー)で氷冷容器に収集し、濾過を完了させた後、濾液をさらに1時間撹拌した。その後、Akta Crossflow装置を使用して20g/L(±5g/L)まで濾液を濃縮した。
実施例8Bでは、濾過助剤を、Mecaplex圧力濾過スリーブおよび第1の槽と第1の濾過ユニットの間に置かれたポリプロピレンフィルター層を使用して除去した。全ての他の条件は、実施例8Aに記載されているのと同じであった。
実験は、濾過助剤の除去が、第1の濾過ユニットを通じたより高い濾過率をもたらすことを示した(図2)。さらに、濾液中の総タンパク質およびIgG回収率は、濾過助剤の存在または非存在に関係なく類似していた。さらに、第1の濾過ユニットの前の濾過助剤の除去は、懸濁液中に存在する脂質および他の疎水性分子の濾液からの除去も促進した(データ未掲載)。故に、濾過助剤の非存在下で作動させた場合、第1の濾過ユニットから得られる濾液はより安定なままであった(すなわち、濾過助剤の存在下で作動させた第1の濾過ユニットで得られる濾液と比較して、濾液濁度は比較的低く、保管時に安定なままであった)。これらの結果は、第1の濾過ユニットの前の濾過助剤の除去が、システムのスループット能力を改善することをさらに示唆している。

Claims (62)

  1. 目的とする免疫グロブリン(Ig)タンパク質を沈殿物から抽出するための方法であって、
    a.第1の槽(1)で沈殿物と液体を混合して第1の希釈係数を有する懸濁液を形成する工程と;
    b.第1の保持液および目的とするIgタンパク質に富む第1の透過液を生成するのに適合されている動的フィルターエレメントを含む第1の濾過ユニット(5)へ懸濁液を送液する工程と;
    c.第1の保持液(13)を第1の槽へ流すことによって、液体を添加することにより第2の希釈係数まで第1の槽(1)の懸濁液を希釈する工程と;
    d.目的とするIgタンパク質に富む第1の透過液を第2の槽(7)で回収する工程と、を含み、
    ここで、工程bおよび工程cは、(i)第1の槽において最終的な希釈係数が達成されるまで、および/または(ii)第1の槽において懸濁液の0.001g/L~0.1g/Lのタンパク質濃度が達成されるまで、繰り返される、前記方法。
  2. e.第2の槽(7)の第1の透過液を、クロスフローフィルターエレメントを含む第2の濾過ユニットで連続濃縮プロセスに供し、それによって目的とするIgタンパク質に富む第2の保持液、および目的とするIgタンパク質が枯渇した第2の透過液を生成する工程と;
    f.第2の透過液を第1の槽(1)に流すことによって、第1の槽(1)の懸濁液を希釈し、それによって第2の希釈係数まで懸濁液を希釈する、工程と;
    g.目的とするIgタンパク質に富む第2の保持液を第2の槽(7)に戻す、および/または目的とするIgタンパク質に富む第2の保持液を収集する工程と、
    をさらに含み、
    ここで、工程bおよび工程c、または、工程b~工程fは、(i)第1の槽において最終的な希釈係数が達成されるまで、および/または(ii)第1の槽において懸濁液の0.001g/L~0.1g/Lのタンパク質濃度が達成されるまで、繰り返される、請求項1に記載の方法。
  3. 目的とするIgタンパク質を沈殿物から高収率で抽出するための工業規模の方法であって、
    a.第1の槽で沈殿物と液体を混合して第1の希釈係数を有する懸濁液を形成する工程と;
    b.平均孔径が5nm~5000nmの間のセラミック膜を有するフィルターディスクを含む回転式クロスフローフィルターエレメントを含む第1の濾過ユニットへ懸濁液を連続的に送液する工程であって、フィルターエレメントは、第1の保持液、および目的とするIgタンパク質に富む第1の透過液を生成するのに適合されている、工程と;
    c.部分的に第1の保持液を第1の槽へ流すことによって、液体を添加することにより第2の希釈係数まで第1の槽の懸濁液を希釈する工程と;
    d.目的とするIgタンパク質に富む第1の透過液を第2の槽で回収する工程と;
    e.第2の槽の第1の透過液を、クロスフローフィルターエレメントを含む第2の濾過ユニットで連続濃縮プロセスに供し、それによって目的とするIgタンパク質に富む第2の保持液、および目的とするIgタンパク質が枯渇した第2の透過液を生成する工程と;
    f.第2の透過液を第1の槽に連続的に流すことによって、第1の槽の懸濁液を希釈し、それによって第2の希釈係数まで懸濁液を希釈する、工程と;
    g.目的とするIgタンパク質に富む第2の保持液を第2の槽に戻す、および/または目的とするIgタンパク質に富む第2の保持液を収集する工程と、
    を含み、
    ここで、工程bおよび工程c、または、工程b~工程fは、(i)第1の槽において最終的な希釈係数が達成されるまで、および/または(ii)第1の槽において懸濁液の0.001g/L~0.1g/Lのタンパク質濃度が達成されるまで、繰り返される、前記方法。
  4. 第1の透過液は濃縮プロセスへ連続的に送液される、請求項2または請求項3に記載の方法。
  5. 濃縮プロセスは、第2の濾過ユニットで行われる限外濾過である、請求項2または請求項3に記載の方法。
  6. 第1の透過液は第2の槽に収集され、第1の槽の懸濁液が完全に濾過されると、第2の槽からの第1の透過液は連続濃縮プロセスに供される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 第1の希釈係数は、少なくとも3(1:3;タンパク質を含む組成物の部分:全体)である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
  8. 第1の希釈係数は、1~10の間である、請求項に記載の方法。
  9. 第1の希釈係数は、3~9の間である、請求項またはに記載の方法。
  10. 第1の希釈係数は、3~5の間である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
  11. 達成される最終的な 希釈係数(全希釈液の重量に対する含タンパク質沈殿物の重量)は、6~70の間、10~70の間、または20~50の間である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 達成される最終的な 希釈係数(全希釈液の重量に対する含タンパク質沈殿物の重量)は、30~40の間、または70である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 達成される タンパク質濃度は、0.1g/L未満である、請求項12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 達成される タンパク質濃度は、0.001~0.1g/Lの間である、請求項12のいずれか1項に記載の方法。
  15. 沈殿物は、アルコール分画プロセスの中間生成物である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
  16. アルコール分画プロセスは、血漿のアルコール分画プロセスである、請求項15に記載の方法。
  17. 血漿は、ヒト血漿である、請求項16に記載の方法。
  18. 中間生成物は、Cohn画分I(Fr I)、Cohn画分II+III(Fr II+III)、Cohn画分I+II+III(Fr I+II+III)、またはKistler/Nitschmann沈殿物A(KN A)、またはKN Aならびに1つもしくはそれ以上のFr I、Fr II+IIIおよびFr I+II+IIIの組合せからなる群から選択される、請求項1517のいずれか1項に記載の方法。
  19. 沈殿物は培養上清または発酵生成物である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
  20. 目的とする免疫グロブリンタンパク質は、ヒト血漿由来のような免疫グロブリンG(IgG)タンパク質、または組換え生成された免疫グロブリンGである、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
  21. 第1の濾過ユニットは圧力容器を含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
  22. 動的フィルターエレメントは、動的クロスフローフィルターエレメントである、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
  23. 動的クロスフローフィルターエレメントは、回転式クロスフローフィルターエレメントである、請求項22に記載の方法。
  24. 回転式クロスフィルターエレメントの回転速度は、600rpm~1200rpmの間である、請求項23に記載の方法。
  25. 回転式クロスフィルターエレメントの回転速度は、800rpm~1200rpmの間である、請求項24に記載の方法。
  26. 回転式クロスフィルターエレメントの回転速度は、800rpm、1000rpmまたは1200rpmである、請求項25に記載の方法。
  27. 第1の濾過ユニットは、セラミック膜を含む回転フィルターディスクを備える、請求項2126のいずれか1項に記載の方法。
  28. 第1の濾過ユニットは、第1の濾過ユニットの内容物の乱流混合のためのバッフルをさらに備える、請求項27に記載の方法。
  29. ディスクの接線速度は1~7m/秒の間である、請求項27または28に記載の方法。
  30. 第1の濾過ユニットの温度は、制御される、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
  31. 第1の濾過ユニットの温度は、2℃~25℃の間に制御される、請求項30に記載の方法。
  32. 第1の濾過ユニットの温度は、2℃~10℃に制御される、請求項31に記載の方法。
  33. 動的フィルターエレメントまたはクロスフローフィルターエレメントは、5nm~5000nmの間の平均孔径を有する濾過膜を含む、請求項1~32のいずれか1項に記載の方法。
  34. 濾過膜は、5nm~2000nmの間の平均孔径を有する、請求項33に記載の方法。
  35. 濾過膜は、5nm~500nmの間の平均孔径を有する、請求項33または34に記載の方法。
  36. 濾過膜は、5nm~200nmの間の平均孔径を有する、請求項3335のいずれか1項に記載の方法。
  37. 濾過膜は、7nm~100nmの間の平均孔径を有する、請求項3336のいずれか1項に記載の方法。
  38. 濾過膜は、7nm~80nmの間の平均孔径を有する、請求項3337のいずれか1項に記載の方法。
  39. 沈殿物は濾過助剤を含む、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
  40. 濾過助剤は第1の濾過の前に除去される、請求項39に記載の方法。
  41. 第2の槽(7)は、第1の透過液(14)および/または第2の保持液(16)を受け取るために提供され、第1の透過液および第2の透過液の流速は、実質的に一定の生成物体積が第2の槽(7)で維持されるように制御される、請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
  42. 膜透過圧力は、0.1バール~2.5バールである、請求項1~41のいずれか1項に記載の方法。
  43. 膜透過圧力は、0.2バール~2.4バールである、請求項42に記載の方法。
  44. 膜透過圧力は、0.4バール~2.0バールである、請求項42または43に記載の方法。
  45. 膜透過圧力は、0.4バール~1.5バールである、請求項4244のいずれか1項に記載の方法。
  46. 抽出プロセスは、第1の濾過ユニットの懸濁液の流量および/もしくは滞留時間、なら
    びに/または第1の保持液の流量、および/もしくは第1の透過液の流量を調節することによってさらに促進される、請求項1~45のいずれか1項に記載の方法。
  47. 懸濁液は、3.0~9.0の間のpHを有する、請求項1~46のいずれか1項に記載の方法。
  48. 懸濁液は、4.0~7.0の間のpHを有する、請求項47に記載の方法。
  49. 懸濁液は、4.0~6.0の間のpHを有する、請求項47または48に記載の方法。
  50. 懸濁液は、4.0~5.0の間のpHを有する、請求項4749のいずれか1項に記載の方法。
  51. 懸濁液は、4.3~4.9の間のpHを有する、請求項4750のいずれか1項に記載の方法。
  52. 懸濁液は、4.4~4.8の間のpHを有する、請求項4751のいずれか1項に記載の方法。
  53. 懸濁液は、5.0のpHを有する、請求項4752のいずれか1項に記載の方法。
  54. 沈殿物は、0.5~6.5%w/vの総タンパク質濃度を有する、請求項1~53のいずれか1項に記載の方法。
  55. 沈殿物は、1.0~4.0%w/vの総タンパク質濃度を有する、請求項54に記載の方法。
  56. 沈殿物は、1.5~3.0%w/vの総タンパク質濃度を有する、請求項54または55に記載の方法。
  57. 沈殿物は、1.8~2.5%w/vの総タンパク質濃度を有する、請求項5456のいずれか1項に記載の方法。
  58. 沈殿物は、2.0%w/vの総タンパク質濃度を有する、請求項57に記載の方法。
  59. 液体は、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびクエン酸の1つまたはそれ以上を含む緩衝液を含む、請求項1~58のいずれか1項に記載の方法。
  60. 沈殿物は、懸濁液、ペレットまたはペーストの形態で第1の槽に添加される、請求項1~59のいずれか1項に記載の方法。
  61. 沈殿物は、ペーストの形態で第1の槽に添加される、請求項60に記載の方法。
  62. 方法の生成物は、最終生成物が対象への投与に適するように、クロマトグラフィー工程、ウイルス不活性化工程、濃縮および製剤化の1つまたはそれ以上を含むさらなる処理に供される、請求項1~61のいずれか1項に記載の方法。
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