以降の各実施形態は、テラヘルツ波を照射するための照射装置及びこれを用いた画像取得装置について記載する。まず、テラヘルツ波について説明する。
図13は、マイクロ波からテラヘルツ波帯における地球に飛来する太陽由来の背景雑音(放射束密度)と、テラヘルツ波帯の大気減衰量の周波数スペクトルの例を示したものである。背景雑音のうち、マイクロ波帯からミリ波帯にかけて観測される盛り上がり部分の雑音は、太陽活動の状態によって変化する。図13に示すように、マイクロ波帯からミリ波帯では、背景雑音が増加する場合がある。さらにマイクロ波帯からミリ波帯では、人間の活動に伴う人工的な雑音、及び天候や大気の状態に伴う雑音類が、環境雑音として重畳される。
近年、ミリ波帯を中心とした通信技術や、ミリ波帯の電磁波を使用した電波天文観測が盛んになっていることから、電波法により、0.275GHzより低い周波数帯は利用目的が細かく割り当てが行われている。また、天体観測にも使用される帯域であるため、ミリ波帯は電波法により、出力できる電界強度に強い制限を設けている。
ミリ波を用いた画像取得装置を構築する場合、背景雑音の増加及び利用可能なミリ波の出力制限のため、信号のSN比が小さく、乗算器を用いた周波数変換技術を用いた検出を行うことが多い。また、使用する電磁波の波長が長いため、イメージセンサを含む光学系が大きくなり、電気的にも光学的にも画像取得装置が大型化する恐れがある。用途によっては、十分なSN比が確保できず、イメージセンサの画素サイズを大きくする必要があるため、得られる画像は被写体の全体的な輪郭にとどまり、被写体の詳細な形状を直接的に判別することは難しいことがある。
ミリ波カメラの画像をより高精細にするため、テラヘルツ波を用いた画像取得装置が考えられる。テラヘルツ波を用いた画像取得装置では、ミリ波よりも高い出力の光源を用いることができること、利用可能な周波数の選択性が高いこと、波長が短くなることで装置を小型化できること等が期待できる。
また、図13のテラヘルツ波帯の大気減衰量のスペクトルをみても分かるように、部分的に大気減衰が小さい領域(「大気の窓」と呼ぶ)があるため、大気の窓に相当する電磁波を選択することで大きな信号の減衰を回避できると考えられる。
以降の各実施形態では、このようなテラヘルツ波を用いた画像取得装置と画像取得方法、及び画像取得装置に用いる照射装置について述べる。以降の各実施形態は、上述したように、正反射イメージングとなるテラヘルツ波の画像取得装置であっても、テラヘルツ波を検出できる画素の減少を低減することを目的とする。このような課題は、ミリ波を用いた画像取得装置でも潜在的に発生している。しかし、被写体全体の輪郭のイメージングを行うミリ波を用いた画像取得装置よりも高分解能なテラヘルツ波を用いた画像取得装置を用いて、被写体の形状をより高精度にイメージングする際に、より顕在化する課題である。
(第1の実施形態)
本実施形態の画像取得装置1001について、図1を参照して説明する。図1は、画像取得装置1001の構成を説明する模式図である。
画像取得装置1001は、検出部100、第1の照射装置(第1の照射部)110、第2の照射装置(第2の照射部)120、第1の支持部118、第2の支持部119、モニタ部130、及び処理部170、を有する。
第1の照射部110及び第2の照射部120のそれぞれは、テラヘルツ波を被写体140に照射する。なお、本実施形態では、画像取得装置1001が第1の照射部110と第2の照射部120との2つの照射部(照射装置)を有しているが、照射部の数はこれに限らず、1つでもよいし2つ以上であってもよい。第1の照射部110から発生するテラヘルツ波は第1の照射波153として被写体140に照射される。また、第2の照射部120から発生するテラヘルツ波は、第2の照射波154として被写体140に照射される。
第1の照射波153、第2の照射波154のそれぞれからのテラヘルツ波の周波数は、周波数の割り当てが行われていない0.3THz以上30THz以下の範囲のうち、任意の周波数帯域の成分を有するか、単一の周波数であることが好ましい。被写体140として人体を含む場合、多くの衣服類は1THzまで高い透過性を有するため、秘匿物の検査等に用いる場合には0.3THz以上1THz以下の周波数範囲がより好ましい。
第1の照射部110及び第2の照射部120のそれぞれは、テラヘルツ波を発生する発生部112と照射光学系111とを少なくとも有する。なお、以降の説明では、第1の第1の照射部110について説明するが、第2の照射部120についても同様の構成である。
発生部112は、テラヘルツ波を発生する第1の発生素子113、第2の発生素子114を含む複数の発生素子を有し、複数の発生素子が配置面117に沿って配置されている面光源である。
複数の発生素子のそれぞれは、その大きさが検出部100までの距離に比べて小さく、点とみなせるテラヘルツ波源とみなすことができ、以降、これを点光源と呼ぶ。これを換言すると、検出部100が画像として分解できる大きさと同程度か、この大きさよりも小さいテラヘルツ波源である。この場合、点光源から発生するテラヘルツ波は、1点から放射状に発生するとみなせる。配置面117については、後述する。以降の説明では、第1の発生素子113及び第2の発生素子114を含む複数の発生素子のそれぞれを「点光源」、複数の発生素子を有する発生部を「面光源」と呼ぶ。
複数の点光源のそれぞれは、共鳴トンネルダイオードのような半導体素子型のテラヘルツ波発生素子、又は光スイッチング、差周波光を利用する光励起型のテラヘルツ波発生素子等が適用できる。
また、複数の点光源のそれぞれは、大気とのインピーダンス整合やテラヘルツ波の発生効率改善のため、アンテナ構造を有していることが望ましい。アンテナの大きさは使用する波長と同程度に設計される。
以降の説明では、具体例として、複数の点光源に含まれる第1の点光源113と第2の点光源114について説明する。第1の点光源113は、第1のテラヘルツ波156を発生する点光源であり、第2の点光源114は、第2のテラヘルツ波157を発生する点光源である。第1のテラヘルツ波156と第2のテラヘルツ波157とは、照射光学系111の結像面において一部が重なり合う重複領域を有するように構成されている。
この場合、第1の点光源113と第2の点光源114との間の距離は、第1のテラヘルツ波156及び第2のテラヘルツ波157に含まれる波長のうちの最長波長から求められる距離以上となるように配置されることが好ましい。具体的には、第1の点光源113と第2の点光源114との間の距離は、第1のテラヘルツ波156及び第2のテラヘルツ波157に含まれる波長のうちの最長波長に対応するアンテナの遠方界以上の長さとなるように配置される。なお、第1のテラヘルツ波156の波長と第2のテラヘルツ波157の波長とは、同じであっても異なっていてもよい。
ここで、本明細書における「遠方界」とは、点光源113、114のそれぞれが孤立しているとみなせる距離である。遠方界には様々な表現方法があるが、例えば、アンテナ径をD、テラヘルツ波の波長をλとすると、2D2/λ以上の距離である。より好ましくは、無限遠とみなせる32D2/λ程度に各点光源を離して配置することが望ましい。第2の点光源114を第1の点光源113の遠方界に相当する位置に配置することで、各点光源を独立した光源とみなすことができ、点光源間の相互作用の影響が無視できるため動作が安定化する。
例えば、点光源113、114のアンテナとしてダイポールアンテナやパッチアンテナのような半波長アンテナ(D=λ/2)を使用する場合、遠方界は、0.5λ以上と計算できる。特に、無限遠とみなせる距離は8λ以上と計算できる。第1のテラヘルツ波156及び第2のテラヘルツ波157が0.5THz(λ=0.6mm)のテラヘルツ波である場合、遠方界は0.3mm、無限遠とみなせる距離は4.8mmである。使用するテラヘルツ波が複数の波長を有する場合、λはテラヘルツ波の最長波長とする。
照射光学系111は、結像機能を有する光学系である。詳細には、照射光学系111の物体面116に配置した面光源112から発生した第1の照射波153を、照射光学系111の結像面115に収束させる。物体面116は、照射光学系111の物体側の結像面である。なお、第1の照射波153は、少なくとも第1のテラヘルツ波156と第2のテラヘルツ波157を含むテラヘルツ波の集合波である。集合波に含まれるテラヘルツ波は、面光源112を構成する点光源の数だけ存在する。
照射光学系111としては、レンズのような透過型の光学素子又はミラーのような反射型の光学素子等を1つ又は複数組み合わせて構成することができる。例えば、図1の画像取得装置1001では、直線150を光軸とする照射光学系111を1枚のレンズで構成している。照射光学系111としてレンズを用いる場合、レンズの材料は、使用するテラヘルツ波に対する損失が小さいものを使用することが好ましい。例えば、テフロン(登録商標)や高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene)が挙げられる。照射光学系111の設計は、可視光の手法が適用できる。
照射光学系111の構成は、上述の透過型のものに限らず、例えば図2のように、照射光学系111として、ミラーを用いる反射型の照射光学系211を用いてもよい。図2の画像取得装置1002の照射光学系211は、各点光源からのテラヘルツ波を反射するミラーとして、直線250を光軸とする軸外し放物面形状を有するミラーを用いている。ただし、ミラーの構成はこれに限定されない。
なお、画像取得装置1002では、照射光学系211の構成に合わせて、面光源212は、物体面216と交差する配置面217に複数の点光源を配置している。照射光学系211を経た第1の点光源113からの第1のテラヘルツ波256と第2の点光源114からの第2のテラヘルツ波257とを含む第1の照射波253が結像面215で結像され、被写体140に照射される。第2の照射部220も同様の構成であり、第2の照射部220からの第2の照射波254が被写体140に照射される。
照射光学系111として図1のような透過型の光学素子を用いると、面光源112と照射光学系111を同軸上に配置できる。このため、各照射部110、120の構築時に、アライメントの精度確保が容易になる。また、同軸上に配置することで、設置スペースを小さくすることができ、照射部110、120が小型化できる。
照射光学系111として、図2のような反射型の光学素子を用いると、テラヘルツ波が光学素子を透過する際の損失を低減でき、第1の照射波153及び第2の照射波154の出力の減少を低減できる。また、透過型にくらべ、反射型の光学系は大型化が容易であるため、照射光学系111のテラヘルツ波受光面積を大きくすることができ、テラヘルツ波の取り込み効率を向上することができる。
検出部100はテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波用のカメラである。画像取得装置1001では、第1の照射部110と第2の照射部120のそれぞれは、第1の支持部118、第2の支持部119を用いて検出部100に固定され、一体化している。第1の支持部118と第2の支持部119とのそれぞれは、第1の照射部110及び第2の照射部120の姿勢を調整するための姿勢調整用可動部を有していてもよい。
検出部100は、複数の画素に区切られたセンサ102と、センサ102の撮像面にテラヘルツ波である被写体140からの反射波155を結像させる結像光学系101と、を有する。反射波155は、被写体140で反射した第1のテラヘルツ波156と第2のテラヘルツ波157とを含む。
センサ102の各画素はアレイ状又はマトリクス状に区画されており、各画素に対しテラヘルツ波を検出する検出素子が配置される。複数の検出素子は、ボロメータのような熱型の検出素子、又はショットキーバリアダイオードのような半導体型の検出素子等が適用できる。センサ102の出力信号を参照してテラヘルツ波画像が構成される。
大気とのインピーダンス整合やテラヘルツ波の検出効率の向上のため、センサ102の検出素子のそれぞれは、アンテナ構造を有することが望ましい。アンテナの大きさは、画像取得装置1001で使用する波長と同程度に設計される。画像を高速に取得することが求められる場合、検出素子として半導体型の検出素子を用いることが望ましい。
結像光学系101は、結像光学系101の物体面に配置された被写体140の像をセンサ102に結像する光学系であり、レンズ、ミラー等の光学素子を用いることができる。なお、画像取得装置1では結像光学系101として直線151を光軸とする1枚のレンズを用いているが、結像光学系101の構成はこれに限らず、複数の光学素子を用いてもよい。レンズで構成する場合、使用するテラヘルツ波に対する損失が小さい材料を用いることが好ましい。例えば、テフロンや高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene)が使用できる。結像光学系101の設計は、可視光の手法が適用できる。
被写体140からの反射波155は、検出部100で検出され、検出部100の検出結果は処理部170に送られる。処理部170は、検出部100の検出結果を用いて画像を取得する。処理部170としては、CPU(中央演算処理装置)、メモリ、記憶デバイス等を備えたコンピュータ等の処理装置を用いることができる。可視化に係る処理は、処理部170においてソフトウェアで処理してもよいし、処理部170の処理の一部の機能を論理回路などのハードウェアで代替することもできる。なお、処理部170は汎用のコンピュータで構成してもよいし、ボードコンピュータやASICのような専用のハードウェアで構成してもよい。また、処理部170は検出部100内部に搭載されていてもよい。
処理部170で形成された画像情報に基づき、モニタ部130で被写体の画像を表示することができる。なお、モニタ部130は、処理部170としてのコンピュータのモニタであってもよいし、画像を表示するために用意されたものでもよい。
図1(b)は、照射光学系111の結像面115の一部の様子を示す模式図である。結像面115では、結像面115に収束される第1のテラヘルツ波156の第1のビーム分布158の一部と第2のテラヘルツ波157の第2のビーム分布159の一部とが重複する重複領域を有する。面光源112は、第1のビーム分布158の一部と第2のビーム分布159の一部とが重複するよう、第1の点光源113と第2の点光源114の間隔や配置が調整されていることが好ましい。
このような構成にすることにより、被写体140の領域に対し、第1のテラヘルツ波156と第2のテラヘルツ波157とが異なる方向から照射される。その結果、第1のテラヘルツ波156と第2のテラヘルツ波157とのそれぞれは、被写体140で入射角度に等しい反射角度で反射し、それぞれ被写体140に対して異なる方向に伝搬する。このことにより、被写体40の領域から反射する第1のテラヘルツ波156及び第2のテラヘルツ波157を疑似的に散乱波とみなすことができるようになる。
このとき、結像面115では、第1のビーム分布158と第2のビーム分布159との重複領域と、センサ102の複数の画素のうちの少なくとも1つの画素に対応する結像面115での観察領域160と、が重なっていることが望ましい。
これにより、検出部100のセンサ102の各画素は、観察領域160について複数の方向からの正反射光を取り込むことができるためテラヘルツ波を検出できない画素の割合を下げることが可能となる。その結果、検出部100の検出結果を用いて、従来よりも正確な画像を得ることができる。また、得られた画像から被写体140の形状を推定することが従来よりも容易となる。
複数の点光源は、配置面117に沿って配置される。配置面117は平面でもよいし曲面を有していてもよい。また、配置面117は、照射光学系111の物体面116と同じ面でもよいし、交差していてもよい。第1の照射部110は、配置面117の形状や物体面116に対する配置面117の姿勢を調整することにより、各点光源と照射光学系111との距離を調整し、被写体140に照射するテラヘルツ波の収差を調整する。テラヘルツ波の収差の調整により、点光源からのテラヘルツ波のビーム分布の重複領域を調整し、観察領域160との重なり具合を調整することを可能とする。
ここで、照射光学系111は有限の大きさであるため、配置面117の形状や物体面116に対する配置面117の姿勢によっては、照射光学系111の光学素子によってテラヘルツ波の一部がけられる、いわゆるケラレが発生する可能性がある。このケラレにより、例えば、被写体140に到達するテラヘルツ波の出力が低下する可能性がある。このようなケラレを低減するために、図3のように、点光源313、314を含む複数の点光源のそれぞれから放射されるテラヘルツ波のビームパターン(放射パターン)の指向軸と、照射光学系311の光軸とが一点で交わるように構成することが好ましい。
なお、本明細書における点光源の指向軸とは、点光源からのテラヘルツ波の指向特性の中心軸であり、具体的には、点光源から最も強度が大きいテラヘルツ波が射出される方向を示す直線である。例えば、点光源の重心を中心として、半径が異なる複数の同心円上においてテラヘルツ波の強度が最も強い位置を結んだ直線等である。
例えば、図3に示したように、面光源312に含まれる点光源313の放射パターン360の指向軸361と、点光源314の第2の放射パターン362の第2の指向軸363と、照射光学系311の光軸と、は同じ位置で交わるように配置されている。このような配置により、各点光源から発生するテラヘルツ波を照射光学系311の光学的に有効な領域内部に収めることができる。そのため、照射光学系311によるケラレを低減し、被写体140に到達するテラヘルツ波の出力低減を抑制することができる。
なお、本実施形態では、指向軸361と照射光学系311の光軸とが交わる位置と、指向軸363と照射光学系311の光軸とが交わる位置と、が同じ位置になっているが、この構成に限らない。すなわち、指向軸361、363のそれぞれは、互いに異なる位置で照射光学系311の光軸と交わっていてもよい。
また、複数の点光源のそれぞれからのテラヘルツ波は、被写体140に対し同時に照射することが望ましい。また、第1の点光源113と第2の点光源114の出力を変調する場合、両点光源は同期して被写体140に照射される出力が切替えられることが望ましい。
図10(b)と(c)は、図2の画像取得装置1002における結像面215に結像される面光源212からの複数のテラヘルツ波のビームパターンを幾何光学的に計算した例である。具体的には、面光源212を構成する複数の点光源を開始点として、結像面215までの光線を追跡した。
図10(a)は、計算に使用した面光源212を構成する点光源の配置を説明する図である。面光源212は、面光源212の中心部に間隔dで配置されている点光源[1]~[9]と、面光源212の外周に沿って配置されている点光源[10]~[17]とを有するものと仮定し、計算に使用した。中心部の点光源[1]~[9]は、テラヘルツ波のビーム分布の重なりを確認するために使用し、外周部の点光源[10]~[17]は、収差によるビーム分布の最大広がりを確認するために使用する。
計算の簡略化のため、ここでは、面光源212が、中心部に配置されている9つの点光源[1]~[9]と外周部に配置されている8つの点光源[10]~[17]とを有しているが、点光源の個数や配置する位置はこれに限定されない。例えば、間隔dで点光源をマトリクス状に配置する場合、面光源212の外周の一辺の長さをLとする時、面光源212は、(L/d+1)×(L/d+1)の点光源を有してもよい。
計算に用いた条件を示す。図10(a)は、面光源212の一辺の長さLを100mmとした。テラヘルツ波として、0.5THzの周波数を対象とする場合、波長λは0.6mmである。点光源のアンテナとして半波長アンテナを用い、アンテナ径Dを0.3mmとした。この時の、アンテナの遠方界は0.3mm(λ/2)以上であり、無限遠とみなせる遠方界は4.8mm(8λ)以上である。
照射光学系211としては、一般的な衛星放送用のパラボラアンテナを用いるものとする。パラボラアンテナの開口部分の長手方向の長さを520mm、短手方向の長さを460mm、開口部から底部までの深さを50mmとした。パラボラアンテナの軸上焦点距離は234mm、軸はずし角度は55.6度、軸外焦点距離は299mmとした。
照射光学系211としてのパラボラアンテナの軸外焦点は、面光源212から照射光学系211に至るテラヘルツ波の入射軸250上に存在する。また、照射光学系211の開口部の傾きは、入射軸250に対し、62.2度である。入射軸250は、幾何光学的には光軸に相当する。物体面216は、入射軸250に対し垂直な面である。物体面216は、入射軸250に沿う方向に配置される。詳細には、物体面216は、軸外焦点位置に対し照射光学系211から離れる方向に約85mmの位置に配置する。面光源212は、物体面216と配置面217とが交差するように、物体面216付近に配置される。なお、配置面217と物体面216とを同じにしてもよい。
このような第1の照射部210を用いると、第1の照射波253は、照射光学系211より約1340mmの位置に結像され、テラヘルツ波が被写体140に照射される。上述したように、面光源212の外周の一辺の長さLを100mmとする時、被写体140に照射される第1の照射波253は、約350mm×350mmとなる。計算では、パラボラアンテナの開口部の有効径は80%とした。なお、第2の照射部220は、第1の照射部210と同じ構成である。
図10(b)は、点光源の間隔dをアンテナに対し無限遠とみなせる距離4.8mm(8λ)としたときの、面光源212の中心部分の点光源[1]~[9]のそれぞれからのテラヘルツ波の結像面215におけるビーム分布を計算したものである。ここで、横軸(Horizontal/mm)は図2におけるX方向に相当し、縦軸(Vertical/mm)は図2におけるY方向に相当する。
図10に示したように、各テラヘルツ波のビーム分布は、パラボラアンテナの収差の影響で上に凸の形状に拡がっている。また、中心に配置されている点光源[5]からのテラヘルツ波のビームに対し、点光源[5]の周囲の点光源[1]~[4]、[6]~[9]からのテラヘルツ波のビームが重複していることが確認できる。これにより、反射波155を疑似的に散乱光として扱うことが可能となる。この重複部分に検出部100のセンサ102の画素の観察領域160を重ねることで、重複部分で反射した疑似的な散乱波である反射波155を検出することができる。
ここで、結像光学系101として外径120mm、曲率半径約100mmのレンズを用い、センサ102と結像光学系101との距離を224mmと仮定する。この時、結像光学系101と被写体140との距離は約1200mmであり、第1の照射部210と被写体140との距離とほぼ等しくすることができる。センサ102の画素サイズを、面光源212の波長程度の0.5mmとすると、観察領域160のサイズは、約2.6mmとなる。図10(b)をみても、各ビーム分布の重複領域(図10中に円で示した領域は、観察領域160のサイズよりも大きい。そのため、重複領域は観察領域160を含むことができることがわかる。なお、結像光学系101の形状は非球面を有していてもよい。
図10(c)は、点光源の間隔dを19.2mm(32λ)としたときの、点光源[1]~[17]のそれぞれからのテラヘルツ波のビーム分布の計算結果を示す図である。図中の番号は、計算に使用した図10(a)の点光源の番号に対応する。図10(c)によると、中心に配置されている点光源[5]からのテラヘルツ波のビームと、点光源[5]の周囲の点光源[1]~[4]、[6]~[9]からのテラヘルツ波のビームとが、2か所で重複していることが確認できる。詳細には、点光源[5]からのテラヘルツ波のビームと、点光源[4]、[6]のそれぞれからのテラヘルツ波のビームとが重複している。
面光源212の外側部分の点光源[10]~[17]からのテラヘルツ波のビーム分布は、照射光学系211の収差の影響により中心部の点光源[1]~[9]のビーム分布と比較して大きく分布していることがわかる。このため、より多くの点光源のビーム分布を観察領域160に重複させることが可能となる。
ここで、隣接する点光源からのテラヘルツ波の重複率について説明する。本明細書における「重複率」とは、中心に配置されている点光源と隣接する点光源からのテラヘルツ波のビームの数Aに対する、中心部のビームと重複する領域の数Bの比B/Aであり、隣接ビーム分布が重なる割合である。点光源の間隔dが距離4.8mm(8λ)である図10(b)の態様では、重複率は1である。点光源の間隔dが距離19.2mm(32λ)である図10(c)の態様では、重複率が0.25である。
図11は、面光源212の中心部分について、隣接する点光源の間隔dに対する隣接ビームの重複率をプロットしたものである。図11に示したように、無限遠とみなせる遠方界8λまでは、隣接する点光源からのテラヘルツ波のビームはすべて重なり、8λを超えるとビームが重なる割合が減少することが分かる。そして、32λを超えるとほとんどのビームが重ならなくなり、36λで各ビーム分布が孤立する。
以上のことから、テラヘルツ波帯において疑似散乱光を形成するために望ましい第1の点光源113と第2の点光源114との間隔は、波長λで規定する遠方界の値で定義できることが分かる。具体的には、図10(c)より、テラヘルツ波の波長領域においては、疑似散乱光を形成するためには、第1の点光源113と第2の点光源114の間隔dは、0.5λ以上36λ以下であることが望ましい。より望ましくは、第1の点光源113と第2の点光源114の間隔dは、0.5λ以上8λ以下である。なお、照射部210、220及び検出部100の構成は、上述の構成に限定されるものではなく、画像取得装置に使用する部品、及び観察する被写体140の形状に合わせて適宜設計される。
このような構成により、被写体に対し、複数の方向からテラヘルツ波を照射することで、カメラのセンサを構成する各画素は、複数の方向からの正反射光を取り込むことができる。このことにより、観察領域から反射するテラヘルツ波を疑似的に散乱光とみなすことができる。このため、テラヘルツ波を検出できない画素の割合を下げることができる。そのため、テラヘルツ波を用いた取得した画像の分解能が向上し、被写体の形状の推定が容易となることが期待できる。
(第2の実施形態)
本実施形態の画像取得装置1003について、図4を参照して説明する。図4は、画像取得装置1003の構成を説明する模式図である。画像取得装置1003は、第1の実施形態の画像取得装置1002と照射部410、420の配置が異なる。なお、上述の実施形態と共通する構成については、図4において同じ付番を付し、詳細な説明は省略する。
第1の実施形態の画像取得装置1001、1002では、照射部110、120、210、220と検出部100とは、第1の支持部118及び第2の支持部119により一体化されていた。それに対し、本実施形態の画像取得装置1003では、第1の照射部410は第1の保持部418で保持されており、検出部100とは独立に配置されている。また、第2の照射部420は第2の保持部419で保持されており、検出部100とは独立に配置されている。第1の保持部418と第2の照射部420は、第1の照射部410と第2の照射部420の姿勢を保持することに加え、姿勢を調整する姿勢調整機構を有していてもよい。
本実施形態の画像取得装置によれば、テラヘルツ波を用いた画像取得装置において、テラヘルツ波を検出できる画素の減少を低減することができる。
また、本実施形態のような構成によれば、画像取得装置1003は、第1の照射部410及び第2の照射部420の配置の自由度が向上するため、画像取得装置の適用範囲を広げることができる。
(第3の実施形態)
本実施形態の画像取得装置1004の構成について、図5を参照して説明する。図5は、画像取得装置1004の構成を説明する模式図である。画像取得装置1004は、照射部510と検出部100との位置関係が上述の実施形態と異なる。なお、上述の実施形態と共通する構成については、図5において同じ付番を付し、詳細な説明は省略する。
具体的には、画像取得装置1004の照射部510は、検出部100の背部に配置されている。これを換言すると、結像光学系101と照射光学系511とは、面光源512を挟んで対向して配置されており、照射部510は、検出部100の光軸と略同軸上に配置されている。
この時、照射部510の照射光学系511は反射型であることが望ましく、照射光学系511の有効な光学領域は、検出部100の断面サイズよりも十分大きいことが望ましい。また、照射部510と検出部100は一体化してもよく、分離して配置してもよい。このような構成によれば、画像取得装置1004を小型化することができる。
本実施形態においても、照射部510の点光源からの第1のテラヘルツ波556と第2のテラヘルツ波557とが、照射光学系511の結像面において重複領域を有するように構成する。これにより、本実施形態の画像取得装置によれば、テラヘルツ波を用いた画像取得装置において、テラヘルツ波を検出できる画素の減少を低減することができる。
(第4の実施形態)
本実施形態の画像取得装置1005について、図6を参照して説明する。図6は、画像取得装置1005の構成を説明する模式図である。画像取得装置1005は、上述の実施形態の画像取得装置に、テラヘルツ波を走査する構成を加えたものである。ここでは、第1の実施形態の画像取得装置1002に、テラヘルツ波を走査する機構を加えたものを一例として述べる。なお、上述の実施形態と共通する構成については、図5において同じ付番を付し、詳細な説明は省略する。
第1の実施形態の画像取得装置1002は、テラヘルツ波を走査する機構を含まず、被写体140に照射するテラヘルツ波の方向はほぼ固定されている、又は不図示の姿勢制御部により照射部210、220の姿勢を制御して照射波の方向を変更する。それに対し、本実施形態では、第1の照射部210、第2の照射部220及び検出部100の姿勢を一体に変更することにより、照射波を走査する走査部690を加える。そのため、被写体140に対するテラヘルツ波の入射角度及び照射範囲を変更することができる。センサ102の各画素の観察領域160に入射するテラヘルツ波の入射角度を変更できるため、観察領域160からのテラヘルツ波の反射角度も変更される。
走査部690としては、仰角や方位角(回転角)を調整する角度調整ステージ、又は、画像取得装置1002の位置を調整する直動ステージ等が適用できる。本実施形態では、走査部690として、仰角を調整する回転ステージを用いる。図6(a)、図6(b)に示したように、走査部690により第1の照射部210、第2の照射部220及び検出部100の姿勢を一体で調整することで、被写体140に対する第1の照射波253と第2の照射波254の照射位置及び照射角度をできる。
ここで、図6(a)の状態を第1の状態、図6(b)の状態を第2の状態とする。画像取得装置1005では、第1の状態における検出部100の検出結果と、第2の状態における検出部100の検出結果と、を取得して、それぞれの検出結果から画像を得る。それらの画像を合成することで、結果として各観察領域160から反射する各点光源からのテラヘルツ波の反射角度成分を増やすことができ、より散乱光に近い状態を得ることができる。
なお、走査部690の構成はこれに限るものではない。例えば、図7に示したように、走査部690として、第1の支持部118及び第2の支持部119のそれぞれに設けられた姿勢変更部790を用いることもできる。姿勢調整部790は、第1の照射部210、第2の照射部220の姿勢を変更する機構である。姿勢変更部790により、第1の照射部210及び第2の照射部220のそれぞれの仰角を変更・調整することで、第1の照射波253及び第2の照射波254を、走査方向791に走査する。このような姿勢変更部790は、第2の実施形態の画像取得装置1003の、第1の保持部418、第2の保持部419の少なくとも一方に組み込む態様も可能である。
本実施形態の画像取得装置1005を用いて画像を取得する方法を、図12を参照して説明する。ここで、照射波の被写体140への入射角度は走査部690により調整され、少なくとも第1の入射角度と第2の入射角度とを含む。この入射角度の数は、測定者が必要に応じて設定するこが可能で、また、測定モードに応じて予め決定されていてもよい。以降の説明では、第1の照射波253に着目して説明するが、その他の照射波でも同様の処理を行えばよい。
測定が開始されると、走査部690は、被写体140に対する照射波253の入射角度が第1の入射角度になるように、姿勢を調整する(S1201)。そして、この状態で、被写体140に照射波253を照射し、被写体140からの反射波155を検出部100で検出した検出結果を用いて第1の画像を取得する(S1202)。第1の画像のデータD1201は、処理部の記憶手段に記憶される。次に、走査部690は、被写体140に対する照射波253の入射角度が第2の入射角度になるように姿勢を調整する(S1203)。
この状態で、被写体140に照射波253を照射し、被写体140からの反射波155を検出部100で検出した検出結果を用いて第2の画像を取得する(S1204)。この第2の画像のデータD1202は、処理部の記憶手段に記憶される。この処理を、設定した入射角度の数だけ行い、複数の画像を取得する。
その後、処理部は、不図示の記憶部に記憶された第1の画像のデータD1201と第2の画像のデータD1202を呼び出し、画像の合成処理を行う(S1205)。このような方法により、各観察領域160から反射するテラヘルツ波の反射角度成分を増やすことができるため、より散乱光に近い状態を得ることができる。この結果、テラヘルツ波を検出できない画素の割合を低下することができる。その結果、従来よりも分解能が高い画像を得ることができ、得られた画像から被写体の形状を容易に推定できることが期待できる。なお、合成した画像は、モニタ部130に表示することができる。
なお、本実施形態で説明した画像取得方法はその一例であり、各ステップの順は変更可能である。また、複数のステップを同時に行ってよい。さらに、ステップS1202のような画像を取得する工程を省略して、異なる複数の姿勢のそれぞれで取得した検出部100の検出結果から、ステップS1204で得られる画像の情報を取得してもよい。
また、これまで説明した画像取得装置では、第1のテラヘルツ波(156、256)と第2のテラヘルツ波(157、257)とを含む第1の照射波(153、253)は、図1(b)のように円形の平面状に被写体140に結像している。しかし、これに限らず、第1の照射波153、253を、線状に収束することも可能である。例えば、図8に示したように、照射光学系211と被写体140との間に、照射光学系211の光軸(入射軸250)上に整形部854を配置し、第1の照射波253を線状のビーム分布を有する照射波853とすることができる。
整形部854は、照射光学系211又は結像光学系101の一方の軸と、この軸に垂直な他方の光学系の軸の曲率が異なる光学素子が適用でき、例えば、シリンドリカルレンズやシリンドリカルミラーが適用できる。図8は、整形部853として、テラヘルツ波を透過するシリンドリカルレンズを用いている。なお、整形部853によって整形される照射波の形状は線状に限るものではなく、円状や四角形状等でもよい。
このように、テラヘルツ波である第1の照射波253のビーム形状を集束させ被写体140に照射することで、観察領域160に照射されるテラヘルツ波の出力を上げることができる。そのため、画像取得装置1006が取得するテラヘルツ波のSN比が向上し、テラヘルツ波を用いて取得した被写体の画像の諧調が改善する。
画像取得装置が上述の整形部854を有する場合、図9のように、整形部854の姿勢を制御する走査部990を有していてもよい。例えば、図9では、走査部990は、整形部854の仰角を調整することで、照射波853を走査方向991に走査することができる。
このような構成により、被写体140の観察領域160から反射する各点光源から照射されるテラヘルツ波の反射角度成分を増やすことができ、より散乱光に近い状態を得ることができる。これにより、本実施形態の画像取得装置によれば、テラヘルツ波を用いた画像取得装置において、テラヘルツ波を検出できる画素の減少を低減することができる。この結果、テラヘルツ波を検出できない画素の割合が下がるため、得られたテラヘルツ波画像から被写体の形状を推定することが容易となることが期待できる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。また、上述の各実施形態の画像取得装置の各構成はお互いに組み合わせて使用できる。したがって、上述の各実施形態における様々な技術を適宜組み合わせて新たな画像取得装置を構成してもよく、そのような様々な組み合わせによる画像取得装置も本発明の範疇に属する。