JP7162844B2 - 光学素子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、光学素子を製造する方法に関する。
大型の望遠鏡には、高精度の非球面鏡が搭載されている。特許文献1には、非球面鏡の素材をリングの内側に収容した状態でリングに力を加えて非球面鏡の素材を変形させることにより非球面形状の鏡を成形する方法が開示されている。当該方法においては、非球面形状に変形させた後にリングに加えた力を解放し、その後、外周の近傍の微小領域を除去することにより所望の形状の非球面鏡が形成される。
また、非特許文献1には、円盤状の素材の縁にストレスを加えて、円盤状のガラスを曲げた状態で素材を研磨するSMP(Stressed Mirror Polishing)法が開示されている。
特開2010-006693号公報
Jacob Lubliner, Jerry E. Nelson, "Stressed mirror polishing. 1:A technique for producing non-axisymmetric mirrors", Applied Optics, Vol. 19, No. 14, pp.2332-2340, 1980
特許文献1に記載された方法においては、除去される素材を少なくするために、形成する非球面鏡の大きさとほぼ等しい大きさのリング内に素材が収容された状態で、リングの内側で研磨パッドを回転させることにより素材を研磨する。ところが、研磨パッドの中心付近の領域と外周付近の領域とでは、素材に加わる力の大きさが異なる。したがって、研磨パッドの中心付近の領域が接触する素材の中央付近の領域と、研磨パッドの中心付近の領域が接触しない素材の外側の領域とでは、素材に加わる力の大きさに差が生じる。その結果、素材の外縁付近に加わる力のばらつきが大きくなり、外縁付近における表面の研磨精度が低下してしまうという問題があった。
また、非特許文献1に記載されたSMP法においては、研磨する対象となる素材にストレスを加えるために複雑な機構が必要になるという問題があった。さらに、研磨後にストレスを解放した際に生じる変形を補修するために、イオンビームを用いて追加工する必要があるという問題もあった。
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、ストレスを加えて素材を曲げることなく高精度に面を形成して光学素子を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明の光学素子の製造方法は、光学素子の素材を支持する複数の支持体に前記素材を載置する載置工程と、研磨パッドを用いて、前記光学素子の輪郭線に対応する切断位置よりも少なくとも前記研磨パッドの半径以上外側の位置まで前記素材を研磨する研磨工程と、前記研磨する工程の後に、前記切断位置で前記素材を切断する切断工程と、を有する。
前記載置工程において、前記素材における前記切断位置の内側の領域に設けられた複数の内側支持体、及び前記切断位置の外側の領域に設けられた複数の外側支持体で前記素材を支持するように前記素材を載置してもよい。
前記研磨工程において、前記切断工程において前記素材を切断する前と後とで、前記複数の内側支持体が前記素材を支持する複数の支持位置それぞれに生じる支持反力の変化が相対的に小さくなる位置において前記複数の外側支持体が前記素材を支持する状態で前記素材を研磨してもよい。
前記研磨工程において、前記複数の内側支持体が前記素材を支持している状態で複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、前記光学素子が望遠鏡に設置された状態で前記複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなるように前記複数の外側支持体が前記素材を支持する状態で前記素材を研磨してもよい。
前記製造方法は、前記載置工程の前に、前記複数の内側支持体が前記素材を支持している状態で前記複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、前記光学素子が望遠鏡に設置された状態で前記複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなるように、有限要素法を用いて前記複数の支持位置と、前記複数の支持位置それぞれにおける支持反力を決定する支持位置決定工程をさらに有してもよい。
前記載置工程において、前記複数の支持体の位置が前記素材の中心線に対して左右対称になるように前記素材を載置してもよい。
前記製造方法は、前記研磨工程と前記切断工程との間に、保護膜で前記素材を覆う工程をさらに有し、前記切断工程において、前記保護膜で覆われた状態の前記素材における前記切断位置に加圧された水を噴射することにより前記素材を切断してもよい。
本発明によれば、ストレスを加えて素材を曲げることなく高精度に面を形成して光学素子を製造することができるという効果を奏する。
本実施形態に係る光学素子の製造方法の概要を説明するための図である。 光学素子を製造する方法の詳細を説明するための図である。 光学素子を製造する工程を示すフローチャートである。 製造方法を用いて光学素子を製造することによる効果を説明するための図である。
[光学素子1の製造方法の概要]
図1は、本実施形態に係る光学素子1の製造方法Mの概要を説明するための図である。光学素子1は、例えば、表面が非球面状の非球面光学素子であり、大型望遠鏡で使用される鏡である。製造方法Mは、平坦面を有する素材2を研磨することにより、表面が非球面状の光学素子1を製造するための方法である。
図1に示す素材2は直線状の辺と曲線状の辺を有する板であるが、素材2の形状は任意であり、多角形であってもよく円形であってもよい。素材2の大きさは任意であるが、例えば長い方の幅が1000mm以上であり、10mmから100mm程度の厚みを有する。素材2の材質は、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂又は金属である。
図1に示すように、製造方法Mにおいては、製造する光学素子1よりも大きい素材2を研磨した後に、光学素子1の輪郭線に対応する切断位置Cにおいて素材2を切断することにより光学素子1を製造する。切断位置Cから素材2の外縁までの距離は、少なくとも研磨に用いる研磨パッドの半径以上である。切断位置Cから素材2の外縁までの距離が、研磨パッドの直径以上(すなわち半径の2倍以上)であることがさらに好ましい。研磨パッドの直径は、例えば100mmである。
切断位置Cから素材2の外縁までの距離が研磨パッドの半径以上であることにより、切断位置Cの周辺位置においても、切断位置Cの内側と同等の条件で研磨されるので、光学素子1の全ての領域において十分な研磨精度を確保することができる。切断位置Cから素材2の外縁までの距離が研磨パッドの直径以上であることにより、切断位置Cの内側と同じ条件で研磨されるので、さらに研磨精度を高めることができる。
[光学素子1の製造方法の詳細説明]
図2は、光学素子1を製造する方法の詳細を説明するための図である。図3は、光学素子1を製造する工程を示すフローチャートである。図2(a)は、研磨中の素材2を研磨する対象の面の側から見た状態を示す模式図である。図2(b)は、研磨中の素材2を側方から見た状態を示す模式図である。図2(a)に示すように、切断位置Cと外縁との距離の最小値Dは、研磨パッド20の半径R以上である。
以下、図2及び図3を参照しながら、光学素子1の製造方法を詳細に説明する。
素材2を研磨する際には、光学素子1が望遠鏡に設置された状態に近い状態で素材2を支持しておくことが望ましい。具体的には、図2に示すように、複数の支持体で素材2を支持した状態で素材2を研磨する。具体的には、素材2における切断位置Cの内側の領域r1に設けられた複数の内側支持体11(図2(a)においては黒丸で示している)、及び切断位置Cの外側の領域r2に設けられた複数の外側支持体12(図2(a)においては白丸で示している)で素材2を支持した状態で素材2を研磨する。図2に示す例においては、領域r1に10個の内側支持体11が設けられており、領域r2に12個の外側支持体12が設けられている。なお、図2(b)においては、一部の内側支持体11及び外側支持体12のみを模式的に示している。
内側支持体11及び外側支持体12は弾性を有する物体であり、例えば、ばね、油圧シリンダー、空気シリンダー又は弾性樹脂を有する。内側支持体11及び外側支持体12は、支持位置(例えば長さ)と支持反力の大きさとを調整可能な物体であることが好ましい。それぞれの内側支持体11の弾性力は、複数の内側支持体11それぞれの支持位置に生じる支持反力が、光学素子1が望遠鏡に設置された状態でそれぞれの支持位置に生じる反力と等しくなるように設計されている。
図3に示すように、複数の内側支持体11が素材2を支持している状態で複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、光学素子1が望遠鏡に設置された状態で複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなる支持位置及び支持反力を決定するべく、研磨工程を実行する前に支持位置決定工程を実行する(S1)。支持位置は、例えば素材の重心位置に対する相対位置として表される。
支持位置決定工程においては、例えば有限要素法を用いて、複数の支持位置と、複数の支持位置それぞれにおける支持反力(すなわち、内側支持体11及び外側支持体12の弾性力)とを決定する。支持位置は、例えば固定した位置を原点として、固定した2点の位置を結ぶ線の方向を基準方向として、原点からの距離及び方向により表される。支持位置は、素材2の重心点からの距離及び方向により表されてもよい。
一例として、まず、領域r1における内側支持体11の位置を決めた後に、領域r2における外側支持体12の位置を決定する。複数の外側支持体12のうち、少なくとも3つは、支持の高さが固定された固定点(図2に示す例における外側支持体12A、12B、12C)とする。固定点には、例えば金属のロッドが設けられる。固定点は、素材2におけるできるだけ外縁に近い位置に設けることが好ましい。
領域r1における内側支持体11の位置を決める際には、完成状態の光学素子1(すなわち素材2から切断した後の鏡)を望遠鏡に搭載した時の自重による変形が十分に小さくなるように有限要素法を用いて解析する。内側支持体11の位置が決まると、有限要素法を用いた解析により、それぞれの内側支持体11の支持反力が算出される。
領域r2における外側支持体12の位置を決める際には、内側支持体11の支持反力が定められた値になっている状態で領域r1の自重による変形が十分に小さくなるように有限要素法を用いて解析することにより、領域r2に複数の外側支持体12を追加する。外側支持体12の位置が決まると、有限要素法を用いた解析により、それぞれの外側支持体12の支持反力が算出される。
支持位置及び支持反力を決定するために、製造しようとする光学素子1と同じ形状の光学素子が望遠鏡に設置された状態で測定された光学素子の複数の位置(以下、複数の測定位置という)における反力の大きさを示す測定データを取得してもよい。この場合、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を用いて素材2を支持した状態において、複数の測定位置における反力の大きさが、取得した測定データが示す値に等しくなるように、複数の内側支持体11の位置と弾性力、及び複数の外側支持体12の位置と弾性力を探索する。このようにして決定した弾性力を有する複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を準備し、決定した支持位置に複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置する。
なお、複数の内側支持体11を設置する位置は、素材2を切断する前と後とで、複数の内側支持体11が素材2を支持する複数の位置それぞれに生じる支持反力の変化が相対的に小さくなる位置であることが好ましい。このような位置を特定するために、支持位置決定工程においては、図1(a)に示す切断前の状態において複数の内側支持体11と複数の外側支持体12とで素材2を支持している間における複数の支持位置それぞれに生じる支持反力と、図1(c)に示す切断後の状態における複数の支持位置それぞれに生じる支持反力とを比較する。
そして、切断前の支持反力と切断後の支持反力との差が最小になるように、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置する位置を決定する。複数の内側支持体11に対応する複数の支持位置それぞれにおける支持反力の切断前後の差の平均値が最小になるように、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置する位置を決定してもよい。
決定した支持位置に複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12を設置した後に、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12で素材2を支持するように素材2を載置する載置工程を実行する(S2)。この際、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12の位置が素材2の中心線に対して左右対称になるように素材2を載置する。このように載置することで、高い精度で予め決定した位置に素材2を載置しやすくなる。
続いて、複数の内側支持体11及び複数の外側支持体12で素材2を支持した状態で研磨工程を実行する(S3)。研磨工程においては、複数の内側支持体11が素材2を支持している状態で複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、光学素子1が望遠鏡に設置された状態で複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなるように複数の外側支持体12が素材2を支持する状態で素材2を研磨する。また、研磨工程においては、素材2を切断する前と後とで、複数の内側支持体11が素材2を支持する複数の支持位置それぞれに生じる支持反力の変化が相対的に小さくなる位置において複数の外側支持体12が素材2を支持する状態で素材2を研磨してもよい。
研磨工程においては、研磨パッド20を回転させながら素材2の全領域にわたって移動させる。研磨パッド20の半径Rは、切断位置Cと素材2の外縁との距離の最小値(例えば図2(a)に示すD)よりも小さい。したがって、研磨パッド20を素材2の外縁付近にまで移動することで、研磨パッド20の中心位置が切断位置Cの位置に接する状態で研磨することができるので、切断位置Cの付近においても切断位置Cの内側の領域r1と同等の条件で素材2を研磨することができる。
研磨工程が終了すると、切断位置Cで素材2を切断する。必須ではないが、素材2を切断する前に、保護膜で素材2を覆う保護膜形成工程を実行することが好ましい(S4)。保護膜形成工程においては、例えばフッ素を含む保護剤をスプレーで素材2に塗布することにより、保護膜を形成する。素材2の表面を保護膜で覆うことで、切断工程において生じる粉末により素材2の表面に傷が生じることを予防することができる。
続いて、切断位置Cにおいて素材2を切断する切断工程を実行する(S5)。素材2を切断する方法は任意であるが、素材2に加わるストレスを小さくするために、保護膜で覆われた状態の素材2における切断位置Cに加圧された水を噴射することにより素材2を切断するウォータージェット法を用いることが好ましい。
[試作結果]
図4は、製造方法Mを用いて光学素子1を製造することによる効果を説明するための図である。図4(a)は、製造方法Mを用いて製造した光学素子1の外縁付近の平坦度を示す図であり、濃淡が光学素子1の厚みに対応している。濃淡の差が小さいほど平坦度が大きい。
図4(b)は、製造する光学素子の最終形状と同じ形状の素材を研磨することにより製造した光学素子の外縁付近の平坦度を示す図である。図4(a)と図4(b)とを比較すると、図4(a)における濃淡の変化は、図4(b)における濃淡の変化よりもはるかに小さく、製造方法Mを用いて光学素子1を製造することにより、光学素子1の平坦度が向上していることがわかる。
[製造方法Mによる効果]
以上説明したように、製造方法Mにおいては、研磨工程において、研磨パッド20を用いて、光学素子1の輪郭線に対応する切断位置Cよりも少なくとも研磨パッド20の半径以上外側の位置まで素材2を研磨する。その後、切断位置Cで素材2を切断することにより光学素子1を製造する。このようにすることで、切断位置Cの付近にも研磨パッド20の中心付近が接触するので、切断位置Cの付近においても切断位置Cの内側の領域r1と同等の条件で素材2を研磨することができる。
したがって、製造方法Mを用いて光学素子1を製造することにより、素材2にストレスを加えて素材2を曲げることなく、光学素子1の外縁付近における加工精度を向上させることができる。その結果、製造方法Mによれば、質が高い光学素子1を低コストで製造することが可能になる。なお、以上の説明においては、非球面を有する光学素子1を製造する場合を例示したが、球面を有する光学素子の製造に製造方法Mを適用してもよい。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
1 光学素子
2 素材
10 土台
11 内側支持体
12 外側支持体
20 研磨パッド

Claims (5)

  1. 光学素子の素材を支持する複数の支持体に前記素材を載置する載置工程と、
    研磨パッドを用いて、前記光学素子の輪郭線に対応する切断位置よりも少なくとも前記研磨パッドの半径以上外側の位置まで前記素材を研磨する研磨工程と、
    前記研磨する工程の後に、前記切断位置で前記素材を切断する切断工程と、
    を有し、
    前記載置工程において、前記素材における前記切断位置の内側の領域に設けられた複数の内側支持体、及び前記切断位置の外側の領域に設けられた複数の外側支持体で前記素材を支持するように前記素材を載置し、
    前記研磨工程において、前記複数の内側支持体が前記素材を支持している状態で複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、前記光学素子が望遠鏡に設置された状態で前記複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなるように前記複数の外側支持体が前記素材を支持する状態で前記素材を研磨する、
    光学素子の製造方法。
  2. 前記研磨工程において、前記切断工程において前記素材を切断する前と後とで、前記複数の内側支持体が前記素材を支持する複数の支持位置それぞれに生じる支持反力の変化が相対的に小さくなる位置において前記複数の外側支持体が前記素材を支持する状態で前記素材を研磨する、
    請求項に記載の光学素子の製造方法。
  3. 前記載置工程の前に、前記複数の内側支持体が前記素材を支持している状態で前記複数の支持位置それぞれに生じる支持反力が、前記光学素子が望遠鏡に設置された状態で前記複数の支持位置それぞれに生じる反力と等しくなるように、有限要素法を用いて前記複数の支持位置と、前記複数の支持位置それぞれにおける支持反力を決定する支持位置決定工程をさらに有する、
    請求項に記載の光学素子の製造方法。
  4. 前記載置工程において、前記複数の支持体の位置が前記素材の中心線に対して左右対称になるように前記素材を載置する、
    請求項1からのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
  5. 前記研磨工程と前記切断工程との間に、保護膜で前記素材を覆う工程をさらに有し、
    前記切断工程において、前記保護膜で覆われた状態の前記素材における前記切断位置に加圧された水を噴射することにより前記素材を切断する、
    請求項1からのいずれか一項に記載の光学素子の製造方法。
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