JP7149541B2 - 男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物 - Google Patents

男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物 Download PDF

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Description

本発明は、クレアチンを有効成分として含む、男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物に関する。
男性不妊症の90%を占める乏精子症や精子無力症の多くが、原因が特定されない特発性である。特発性の乏精子症や精子無力症に対する治療法は、非特異的な薬物療法が主体である。一般的に使用される薬剤は、精子のエネルギー代謝、DNA合成や抗酸化作用などに着目した薬剤が多く、ビタミン剤やカリクレイン製剤、各種酵素剤や微量元素製剤、漢方薬などを用いた非内分泌療法と、クロミフェンやゴナトロピン製剤などを用いた内分泌療法が行われているが、特発性の症例に対しての大規模な無作為化比較対照試験(RCT)は報告も少なく、現在、特発性男性不妊症に対しての治療的効果の根拠は殆ど知られていない(非特許文献1)。さらに、現在有効性が認められている治療は全て、精子が作られる過程における、酸化ストレスの影響を軽減させ、精子の状態が改善するとされている。精巣内で精子の元となる精祖細胞が精子になり射出されるまでの3ヶ月かかるとされており、従来の薬剤では治療は効果が出るのに3か月以上かかることがわかっている。
このような状況において、近年、マウスの精子にエネルギー代謝と関与するクレアチンを添加することにより精子の運動率が上昇することが報告されている(非特許文献2)。また、ヒト精液の精漿中クレアチンの濃度は、精子運動率と相関性を有することが知られている。従来の知見ではクレアチンはヒトの生体内で、筋肉内でレアチンリン酸として貯蔵され、筋肉が収縮する際のエネルギーが代謝においてADPと結合し、クレアチンとATPに分解されことが知られている。このことから、クレアチンを経口摂取することにより、運動時の瞬発力が向上するため、サプリメントとして一般に市販されている。しかしながら、クレアチンを経口摂取することによる精液及び精子に対する臨床的な効果については、これまでに報告されていない。
Majzoub A et al., Arab J Urol. 2018; 16(1): 113-24 Umehara T et al., Hum Reprod. 2018; 33(6): 1117-29
本発明は、男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、このたび、経口摂取したクレアチンが、1~2週間で精液中に移行し、精子の濃度及び運動率が短期間で改善するという驚くべき知見を得た。さらに、本発明者らは、経口摂取したクレアチンが、精漿内に直接移行していることも確認し、精子濃度、精子運動率及び精子前進率を改善することを確認した。
即ち、本発明の主旨は、以下に存する。
[1] クレアチンを有効成分として含む、男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物。
[2] 前記男性不妊症が、特発性の乏精子症及び/又は精子無力症である、1に記載の経口摂取用組成物。
[3] 前記精子所見が、精液中の精子濃度の低下、精子運動率の低下、及び/又は精子前進率の低下である、1又は2に記載の経口摂取用組成物。
[4] 1日用量として5~20gのクレアチンが摂取されるように配合されることを特徴とする、1~3のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
[5] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の7~21日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、1~4のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
[6] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の10~18日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、5に記載の経口摂取用組成物。
[7] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の13~15日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、6に記載の経口摂取用組成物。
[8] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の14日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、7に記載の経口摂取用組成物。
[9] 前記経口摂取用組成物が食品であることを特徴とする、1~8のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
[10] 前記経口摂取用組成物が医薬品であることを特徴とする、1~8のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
[11] 男性不妊症における精子所見を改善するための方法であって、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象にクレアチンを経口投与する工程を含む、方法。
[12] 前記男性不妊症が、特発性の乏精子症及び/又は精子無力症である、11に記載の方法。
[13] 前記精子所見が、精液中の精子濃度の低下、精子運動率の低下、及び/又は精子前進率の低下である、11又は12に記載の方法。
[14] 1日用量として5~20gのクレアチンが経口投与される、11~13のいずれかに記載の方法。
[15] 前記クレアチンが、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の7~21日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日経口投与される、11~14のいずれかに記載の方法。
[16] 前記クレアチンが、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の10~18日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日経口投与される、15に記載の方法。
[17] 前記クレアチンが、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の13~15日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日経口投与される、16に記載の方法。
[18] 前記クレアチンが、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の14日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日経口投与される、17に記載の方法。
[19] 男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物の製造におけるクレアチンの使用。
[20] 前記男性不妊症が、特発性の乏精子症及び/又は精子無力症である、19に記載の使用。
[21] 前記精子所見が、精液中の精子濃度の低下、精子運動率の低下、及び/又は精子前進率の低下である、19又は20に記載の使用。
[22] 前記経口摂取用組成物が1日用量として5~20gのクレアチンが摂取されるように配合されることを特徴とする、19~20のいずれかに記載の使用。
[23] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の7~21日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、19~22のいずれかに記載の使用。
[24] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の10~18日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、23に記載の使用。
[25] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の13~15日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、24に記載の使用。
[26] 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の14日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、25に記載の使用。
[27] 前記経口摂取用組成物が食品であることを特徴とする、19~26のいずれかに記載の使用。
[28] 前記経口摂取用組成物が医薬品であることを特徴とする、19~26のいずれかに記載の使用。
本発明によって、男性不妊症における精子所見を改善し、これに起因する男性不妊症を予防又は治療することができる。
図1は、クレアチン一水和物を、最初の1週間は1日あたり20gの用量で毎日経口投与し、その後の3週間は、1日あたり5gの用量で毎日経口投与した対象から採取した精液における、投与前、投与後2週間目及び投与後4週間目の(A)精子濃度の変化、(B)精子運動率、(C)精子前進率及び(D)精漿中のクレアチン濃度の平均を示す。 図2は、クレアチン一水和物を、1日あたり5gの用量で2週間毎日経口投与した対象から採取した精液における、投与前、投与後1週間目及び投与後2週間目の(A)精子濃度の変化、(B)精子運動率、(C)精子前進率及び(D)精漿中のクレアチン濃度を示す。 図3は、亜鉛30mg相当のグルコン酸亜鉛を毎日経口投与した対象から採取した精液における、投与前、投与後2日目、及び投与後4日目の精漿中の亜鉛濃度の平均を示す。
本発明は、クレアチンを有効成分として含む、男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物に関する。
世界保健機関(WHO)によると、不妊は、外形上健康な若い男女が結婚した後、通常の同居と避妊をしていない性生活を1年間持続したにもかかわらず、妊娠しない場合と定義されている。不妊は、健常者の約15%を占めており、このうち約3分の1で男性に不妊の原因があり、5分の1は、男性と女性の両方に不妊の原因があることが知られている。したがって、不妊は男性による原因が約50%を占めており、近年増加傾向にあるといわれている。
健康な男性の生殖能力は平均値で40歳頃から低下し、30歳の男性と比べた場合、45歳の男性の生殖能力は25%ほど低下するといわれている。結婚年齢の高齢化に伴い、女性だけでなく男性の生殖能力の低下が問題となっている。さらに、40歳未満の若年の男性不妊症の原因は、精子の形成や成熟の過程に問題がある造精機能障害、精子の輸送経路が障害されている精路通過障害、精嚢や前立腺の炎症によって精子が影響を受ける副性器に起因する障害、性交渉や腟内射精ができないなどの性機能障害が知られている。病因別では造精機能障害が約90%、精路通過障害が約5%、性機能障害が約3%、その他の原因が約2%とされており、原因がはっきりしない特発性の造精機能障害が男性不妊症の大多数を占めている。
本発明に係る経口摂取用組成物は、上記の原因のうち、好ましくは、特発性造精機能障害に起因する男性不妊症における精子所見、例えば、精液中の精子濃度の低下(乏精子症:精子数が2×107/ml以下)、精子運動率の低下(精子無力症:精子運動率が40%以下)、精子運動率の低下、異常形態(奇形精子症:正常精子の比率が40%以下)、又はこれらの組み合わせ、特には、特発性乏精子症及び/又は特発性精子無力症における精子所見の改善のために用いることができる。このような精子所見としては、精液中の精子濃度の低下、精子運動率の低下、及び/又は精子前進率の低下などが挙げられる。
クレアチンは、1-メチルグアニジノ酢酸又はメチルグリコシアミンとも称され、主に筋肉中に存在する有機酸の1種である。クレアチンは、腎臓及び肝臓において、アルギニンとグリシンから生合成され、さらに筋肉組織内において、クレアチンキナーゼの作用によりATPと反応して、エネルギーの貯蔵型のクレアチンリン酸に変換される。クレアチンリン酸は、筋肉のように瞬時に多量にエネルギーを消費する器官において、高エネルギーリン酸結合の貯蔵物質として働き、エネルギーの不足時にはリン酸基を供給することによりATPを合成し、エネルギーを供給する。これにより生じたクレアチンはクレアチンキナーゼにより再びリン酸化され、クレアチンリン酸として再利用されるか、非可逆的な非酵素的脱水を経てクレアチニンになる。クレアチニンは最終的には腎臓にて尿中に排泄される。
このようなクレアチンの生合成経路及び機能に基づき、クレアチンは、瞬発力を必要とする運動などに有効であると考えられており、クレアチンパウダーが多数のメーカーからスポーツサプリメントとして販売されているが、本発明者らによってこのたび見出されたように、経口摂取したクレアチンが、精漿内に移行して、精子の濃度及び運動率を短期間で改善することは極めて驚くべきことである。
本発明において用いられるクレアチンの形態は、クレアチンのあらゆる生理的に利用可能な形態を含み、例えば、クレアチンの遊離酸、塩、又はこれらの誘導体であってもよい。クレアチンの形態は特に制限されないが、例えば、遊離酸、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、塩酸塩、クエン酸塩等の塩、エステル、ラクトン、又は水和物等が挙げられる。その中でもクレアチンカルシウム塩、クレアチン一水和物及びリンゴ酸トリクレアチンが好ましい。本発明において用いられるクレアチンとしては、公知の方法により合成したものや、市販品を用いることができる。
本発明に係る経口摂取用組成物においては、1日用量として、例えば、5~20g、5~15g、5~10g、10~20g、10~15g、又は15~20gのクレアチンが摂取されるように配合されることが好ましい。このような用量が配合された本発明に係る経口摂取用組成物は、1日に単回又は複数回に分けて摂取することができる。
上述のとおり、本発明者らは、このたび、経口摂取したクレアチンは、精漿内に移行して精子濃度、精子運動率及び精子前進率を1~2週間という短期間で改善するという驚くべき知見を得た。したがって、本発明に係る経口摂取用組成物は、妊娠を所望する女性パートナーの基礎体温や尿中又は血中のエストロゲンや黄体化ホルモンを測定して、排卵日の予測を行い、その排卵日の前日(前後)に性交渉を行うタイミング法、あるいは人工授精や体外受精と併用して摂取することが好ましい。典型的には、本発明に係る経口摂取用組成物は、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の7~21日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与される。好適には、本発明に係る経口摂取用組成物は、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の10~18日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与される。さらに好適には、本発明に係る経口摂取用組成物は、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の13~15日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与される。最適には、本発明に係る経口摂取用組成物は、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の14日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与される。
本発明に係る経口摂取用組成物は、食品(例えば、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、所定機関より効能の表示が認められた機能性食品、サプリメントなど)、又は医薬品(医薬部外品を含む)、あるいは、一般的な食品又は食品添加剤等として用いることができる。
本発明に係る経口摂取用組成物は、例えば、食品又は医薬に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防菌防黴剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、又は抗菌剤等をさらに含んでもよい。
本発明に係る経口摂取用組成物の形態は、特に制限されないが、例えば、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状、粒状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、ペースト状、クリーム状、カプレット状、ゲル状、チュアブル状、又はスティック状等であってよい。
本発明によって、精子の濃度、運動率及び/又は前進率を有意に改善し、これにより、男性不妊症、特に特発性の乏精子症及び/又は精子無力症を予防又は治療することが可能となる。
以下、実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変更を加えて実施することが可能である。
[実施例1:男性不妊症に対するクレアチン内服臨床試験]
男性不妊症外来を受診し、精子濃度が5×106/ml以上であり、かつ精子運動率が5%~40%である精液所見を有する男性患者のうち、本臨床試験の趣旨を説明して同意の得られた28名(平均年齢34.3歳)を対象として選定した。当該対象に、クレアチン一水和物(株式会社ドーム)を、最初の1週間は1日あたり20gの用量で毎日経口投与し、その後の3週間は、1日あたり5gの用量で毎日経口投与した。
各対象の精液を、投与前、投与後2週間目及び投与後4週間目に採取して、下記のとおり、精子濃度、精子運動率、精子前進率及び精漿中のクレアチン濃度を測定した。
<精子濃度の測定>
精液はクリニック内でマスターベーションにより採取した。採取された精液は30分間37℃で留置され十分に液化を行い、液体の重さを測定することで精液量を測定した。精子運動解析システム CASA/ IVOS○RII(Hamilton Thone製)により精子濃度を測定した。
<精子運動率及び精子前進率の測定>
精液はクリニック内でマスターベーションにより採取した。採取された精液は30分間37℃で留置され十分に液化を行い、液体の重さを測定することで精液量を測定した。精子運動解析システム CASA/ IVOS○RII(Hamilton Thone製)により精子パラメーターとして精子の運動率及び前進率を測定した。
<精漿中のクレアチン濃度の測定>
精液を12,000rpmで30分間遠心分離を行い上清を精漿として取得した。この精漿につき、以下の方法でクレアチン濃度を測定した。測定にはCreatine Colorimetric/Fluorometric Assay Kit(BioVision製)を用い、上記精漿を16倍希釈した精漿検体及び段階希釈したスタンダード溶液をマイクロプレート(IWAKI製)の各ウェルに50μL分注し、上記ウェルにキットの発色液を50μLずつ分注し、37℃で60分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(INFINITE M1000 Pro,Tecan製)を用いて波長を570nmに設定し吸光度を測定した。スタンダードの検出値から検量線を作成し、精漿検体のクレアチン濃度を算出した。
精子濃度、精子運動率、精子前進率及び精漿中のクレアチン濃度の各測定結果の平均を表1及び図1に示す。
Figure 0007149541000001
経口摂取後の経過日数にしたがって、精漿中のクレアチン濃度が上昇した。このことから、経口摂取したクレアチンは精漿内に移行することがわかった。また、精漿中のクレアチン濃度の上昇にしたがい、経口投与後2週間目の精子濃度、精子運動率、及び精子前進率は有意に上昇し、4週間目はクレアチン濃度が高値のままで、精子濃度、精子運動率、及び精子前進率は2週間目と比較して軽度低下した。
このことから、経口摂取したクレアチンは、精漿内に移行して精精子濃度、精子運動率、及び精子前進率を約2週間という短期間で改善することが判明した。
[実施例2:男性不妊症に対するクレアチン内服臨床試験]
男性不妊症外来を受診した39歳の男性を対象として、クレアチン一水和物(株式会社ドーム)を、1日あたり5gの用量で2週間毎日経口投与した。
前記対象の精液を、投与前、投与後1週間目及び投与後2週間目に採取して、実施例1と同様にして、精子濃度、精子運動率、精子前進率及び精漿中のクレアチン濃度を測定した。
精子濃度、精子運動率、精子前進率及び精漿中のクレアチン濃度の各測定結果を表2及び図2に示す。
Figure 0007149541000002
1日あたり5gの用量でクレアチンを経口摂取した場合であっても、クレアチンは、精漿内に移行して精子濃度、精子運動率、及び精子前進率を有意に改善することがわかった。
[比較例1:亜鉛の経口摂取による精漿中の亜鉛濃度変化]
試験食品として、グルコン酸亜鉛(大塚食品)を1日に3粒(亜鉛30mg相当)を4名の男性の対象(平均年齢36.5歳)に4日間毎日経口投与した。
各対象の精液を、投与前、投与後2日目、及び投与後4日目に採取して、精漿中の亜鉛濃度を測定した。
<精漿中の亜鉛濃度の測定>
精液を、800gで7分間遠心し、上清を精漿として取得した。精漿中亜鉛を、5-Br-PAPS(2-(5-ブロモ-2-ピリジルアゾ)-5-(N-プロピル-N-スルホプロピルアミノ)フェノールナトリウム)を用いてキレート錯体を形成させ、当該錯体の可視部の呈色を計測して定量した。測定には、メタロアッセイ亜鉛測定LSキット(メタロジェニックス株式会社製)を用い、当該キットのプロトコールに従った。
精漿中の亜鉛濃度の測定結果の平均を図3に示す。投与前、投与後2日目、及び投与後4日目の精漿中の亜鉛濃度は、それぞれ、16.6mg/dL、16.9mg/dL、及び13.6mg/dLであり、経口摂取後の経過日数にしたがって、精漿中の亜鉛濃度の上昇は見られなかった。このことから、経口摂取した亜鉛は精漿内に移行しないことが判明した。

Claims (9)

  1. クレアチンを有効成分として含む、男性不妊症における精子所見を改善するための経口摂取用組成物であって、前記精子所見が、精液中の精子濃度の低下、精子運動率の低下、及び/又は精子前進率の低下である、経口摂取用組成物
  2. 前記男性不妊症が、特発性の乏精子症及び/又は精子無力症である、請求項1に記載の経口摂取用組成物。
  3. 1日用量として5~20gのクレアチンが摂取されるように配合されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の経口摂取用組成物。
  4. 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の7~21日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経口摂取用組成物。
  5. 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の10~18日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、請求項に記載の経口摂取用組成物。
  6. 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の13~15日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、請求項に記載の経口摂取用組成物。
  7. 前記経口摂取用組成物が、妊娠を所望する女性パートナーの排卵日、あるいは人工授精又は体外受精に用いる精液の採取日の14日前から、男性不妊症における精子所見の改善が必要な対象に毎日投与されることを特徴とする、請求項に記載の経口摂取用組成物。
  8. 前記経口摂取用組成物が食品であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経口摂取用組成物。
  9. 前記経口摂取用組成物が医薬品であることを特徴とする、請求項1~のいずれか1項に記載の経口摂取用組成物。
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