JP7137187B2 - 消臭剤の高濃度安定化並びに処理方法 - Google Patents
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衣料には汗・皮脂や垢が染み付き或いは付着するので、下着・ワイシャツや靴下は洗濯と着替えをもっとも頻繁に行なう衣料であるが、付着した汚れを完璧に落とすことは容易でない。又、作業用防護服のなかには基本的に洗濯できないものも存在する。
実生活における一例では、エステルの分解により生成した脂肪酸が、「生乾き臭」と呼ばれる4-メチル-3-ヘキセン酸の臭気を発し、その産生菌は「モラクセラ菌」、と特定できたとする最近の報文もある。
「過炭酸ナトリウム」と呼ばれるものは、特許文献1にも載る炭酸ナトリウムと過酸化水素との付加化合物であって、分子式「2Na2CO3・3H2O2」で概略提示される組成を有し、活性酸素として約14%及び過酸化水素として約29%含む白色粉末として得られる。
但し、過炭酸ナトリウム水から遊離するのは臭気成分との反応性に劣る過酸化水素である。更に分解後は未反応の酸素気泡となるが、気泡が故に消臭・洗浄効率はそれ程高くない。
又、発明者の永年の研究で、pH=4以下における失活も水和ガスの気相拡散が主因であり、拡散速度はpH律速と判明している。強い刺激をもたらす塩素臭の正体は、「Cl2・8H2O」で概略提示される水和塩素ガスであり、乾燥塩素ガス(分子式Cl2)ではない。
又、次亜塩素酸イオンとモノクロラミンもpH律速の平衡関係にある。不均化反応により、次亜塩素酸イオンが塩素酸イオンに転化すると、緩慢な逆解離平衡によってモノクロラミンから次亜塩素酸イオンが生成、平衡が保たれる。因って、モノクロラミン水も、次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンよりはるかに緩慢であるが失活する。
尚、モノクロラミン水を10mg/Lを超える高濃度で安定化、実用的な「一液性消臭剤」にする方法は遮光だけでは難しく、これまで商品としての流通もなかった。
次に、均一分散している次亜塩素酸イオンとアンモニア又はアンモニウム塩との反応でモノクロラミンを生成させ、100mg/L以上の有効塩素濃度で安定に維持できれば、実用化への道が更に開ける。段落0009で述べた1,000mg/Lより濃いモノクロラミン濃度2,000mg/Lであっても、消臭基剤の臭気を容認できる程度に抑制できよう。
上述の二つの課題は、錯結合する化学物質を添加し、異なる次亜塩素酸イオン分子やモノクロラミンの分子間に挿入、同種分子の近接を阻害すれば解決すると考えた。
此処でいう「錯結合」とは、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオン及びモノクロラミンとの間に生じる「共有結合より弱い水素結合等の物理化学的結合」である。上述のモノクロラミン生成反応の速度はpH=8~9で最大と既に判明している。因って、次亜塩素酸イオン濃度さえ安定していれば、錯体形成の前駆となる物質(不均化反応抑制剤でもある。本発明においてはアルキルアミンオキシドがその役割を担う。)を添加してもモノクロラミン生成に支障は生じないと推され、予備実験で確かめるだけの価値がある。
即ち、次亜塩素酸イオン、次亜塩素酸及びモノクロラミンの高濃度安定化は、不均化反応及び逆平衡反応を抑制することで達成できる筈、と確信した。
例えば、モノクロラミンは酸化力が弱い反面深く浸透し、4-メチル-3-ヘキセン酸が保有している二重結合を酸化し分断し得る。すると、水に可溶なシュウ酸(示性式HOOC-COOH)と2-メチル酪酸[示性式CH3-CH2-CH(CH3)-COOH]とに分解されることになり、臭気は減少、更に酸化分解できれば無臭になる論理が成立する。
分解とは異なるが、水に対する溶解度を高める反応を起こさせても、臭気対策になる。
予備実験は、従来の手法である「温度、圧力、pH及び薬剤濃度其々を一定にしたジャーテスト」など静的手法でなく、複数の化学物質間における解離平衡反応や塩素化及び酸化反応の速度、反応に伴うpH及び液温の変化に配慮した動的手法で行なうのが好ましい。
課題を克服する薬剤が衣料の繊維隙間深くまで浸透したとしても、モノクロラミンによって起きる反応は静かに進行、顕著な発泡を伴わない。そこで、消臭基剤による化学反応を阻害しない消臭副剤を加え、微細な気泡を発生させることができれば、発生する気泡が臭気成分の一部を包含し消臭速度を高めることを期待できる。
本願は、上述課題を解決するに際し、習得した数多の知見を非記載の先行技術文献とも整合性を持たせて整理、独自に解明した反応機構を課題解決のための参考として発明したものである。
(1)有効塩素濃度100~2,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液に、有効塩素1モルに対し1/4~1モル相当のアルキルアミンオキシド及び有効塩素1モルに対し1/2~1モル当量のアンモニア性窒素(NH3-N/Cl2=1/2~1[M/M]≒0.1~0.2[wt./wt.])になるアンモニア又はアンモニウム塩を各加えて添加量に見合う有効塩素濃度のモノクロラミンを生成させ、pH=8.0~10.4に調製して薬剤の高濃度安定化を図ったことを特徴とする消臭基剤、及び、該水溶液に被処理物を浸漬又は該水溶液を被処理物に向けて噴霧する消臭処理方法。
(2)上述(1)の消臭剤に、有効塩素含有量と等重量以下になる過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液の等液量を消臭副剤として更に加えたことを特徴とする消臭剤、及び、該水溶液に被処理物を浸漬又は該水溶液を被処理物に向けて噴霧する消臭処理方法。
段落0016で述べた錯体形成の根幹となる感応基は、「≡N→O」で示される「窒素と酸素の並び」である。又、該N-オキシドの錯体形成は、最外殻電子の動向が共通するヨウ素以外の同族ハロゲン元素、即ち塩素及び臭素との物理化学的結合でも想定し得る。
そこで、実用に供し易いアルキルアミンオキシドとして、界面活性剤として市販されているジメチルラウリル(C12)アミンオキシド、ジメチルミリスチル(C13)アミンオキシド及びジメチルステアリル(C18)アミンオキシドが挙げられる。加えて、次亜塩素酸イオンが塩素酸イオンに転化するのを阻止できる他種のアルキルアミンオキシドも使用可能である。実施例では、入手容易なジメチルミリスチル(C13)アミンオキシドを選択した。
又、有効塩素に対し同1/2~1モル相当のアンモニア性窒素のことを、(NH3-N/Cl2=1/2~1[M/M]≒0.1~0.2[wt./wt.])と記載する。
過炭酸ナトリウムを単独で含む水溶液は、風呂釜の追い炊き等の配管清掃に使用されてきたが、該水溶液は約40℃以上の水温にしないと発泡は無論のこと殺菌力も弱いことが既に周知である。上述(2)の手段によって、該弱点は改善されて多量の微細気泡を発生する現象は、本願発明者が初めて発見したものである。
<1>有効塩素濃度100~2,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液に、有効塩素1モルに対し1/4~1モル相当のアルキルアミンオキシド及び有効塩素1モルに対し1/2~1モル相当のアンモニア性窒素を加えてモノクロラミンを生成させ、pH=8.0~10.4に調製した消臭基剤に被処理物を浸漬又は該消臭基剤を被処理物に向けて噴霧する、消臭処理方法。
<2>上述<1>に記載の消臭基剤に対し、有効塩素含有量と等重量以下になる過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液の等液量を消臭副剤として更に加えた水溶液に被処理物を浸漬又は該水溶液を被処理物に向けて噴霧する、消臭処理方法。
<3>有効塩素濃度100~2,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液に、有効塩素1モルに対し1/4~1モル相当のアルキルアミンオキシド及び有効塩素1モルに対し1/2~1モル相当のアンモニア性窒素を加えてモノクロラミンを生成させ、pH=8.0~10.4に調製した、消臭基剤の製造方法。
<4><3>にて製造した消臭基剤に対し、有効塩素含有量と等重量以下になる過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液の等液量を更に消臭副剤として加えた、消臭剤の製造方法。
<5>有効塩素濃度100~2,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液と、
有効塩素1モルに対し1/4~1モル相当のアルキルアミンオキシドと、
有効塩素1モルに対し1/2~1モル相当のアンモニア性窒素と、
を含有し、pH=8.0~10.4である、消臭基剤。
<6>有効塩素濃度100~2,000mg/Lのモノクロラミンを含有し、且つ、pH=8.0~10.4であり、且つ、モノクロラミンの有効塩素濃度の減少率が初期値の0.2%/日以下である消臭基剤。
<7>消臭基剤に加えられることにより消臭作用を促進する消臭副剤であって、
過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液からなる、消臭副剤。
<8><5>又は<6>に記載の消臭基剤と、
過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液と、
を含有する消臭剤(言い換えると、該消臭基剤と該過炭酸ナトリウム水溶液とが配合された消臭剤)。
<9><5>又は<6>に記載の消臭基剤と、
過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液と、
からなる、消臭剤セット。
併せて、気化した未反応臭気物質を酸化しつつ抱合する、微細な酸素の気泡を発生させられる。
図1は、消臭基剤の総残留塩素(有効塩素)濃度の経日変化を、ヨード法及びデジタル表示・吸光光度計を用いて測定しその結果を示したものである。
実施例1に於いては、上述(1)の消臭基剤を、次亜塩素酸ナトリウム液、ジメチルミリスチルアミンオキシド及び塩化アンモニウムを用いて調製した。本願発明の消臭基剤においてモノクロラミンの有効塩素濃度の低下度合は非常に緩慢である。例えば、有効塩素濃度100~2,000mg/Lのモノクロラミンを含有し、且つ、pH=8.0~10.4の状態にて、モノクロラミンの有効塩素濃度の初期値(消臭基剤の作製日である0日目におけるモノクロラミンの有効塩素濃度)からの減少率は0.4%/日以下が好ましく、0.2%/日以下がより好ましい。
該発光法の弱点は、分厚い衣類の消臭及び殺菌処理をして一般細菌及び真菌類数が減少、衣類表面の拭き取り検査結果の数値が低くなっても、衣類深部に潜って分解を免れたATPが表面に滲出してくることでATP測定値がゼロ点回帰しないで外装直線から外れることである。図5においても、一般細菌数が1[CFU/100cm2]に外装したときのATP値切片は約700[RLU]になった。
消臭基剤の有効塩素濃度、即ち総残留塩素の経日変化は図1のようになり、10mg/Lを裕に超える高濃度であっても、少なくとも4ヶ月は実用濃度のまま維持できた。即ち、アルキルアミンオキシドの感応基とモノクロラミンとの間に錯結合が形成され、次亜塩素酸イオンが塩素酸イオンに転化する不均化反応も阻止できている。
消臭基剤及び消臭副剤のpH及び成分は次の通りである。
<消臭基剤>
≪1≫有効塩素濃度:総残留塩素として270mg/L
≪2≫添加したジメチルミリスチルアミンオキシド濃度:300mg/L
≪3≫添加したアンモニア性窒素(NH3-N)の初期濃度:50mg/L
生成モノクロラミン濃度も、有効塩素濃度として270mg/L
≪4≫pH≒8.9
<消臭副剤>
≪1≫過酸化水素として20%以上を含む過炭酸ナトリウムの白色粉末(有効塩素含有量の等重量)
尚、アンモニア性窒素添加量の上限を、NH3-N/Cl2=1[M/M]≒0.2[wt./wt.]としたのは、競争反応になる「クロラミン生成」を抑え、「未反応次亜塩素酸イオン(OCl-)と臭気物質との反応」を優位に行わせる為である。
ポリ袋に入っていた実施例2に供した靴下及び下着は、ヒトの感覚(嗅覚)試験でも敬遠したい程度に強烈な臭気を発し、日常の洗濯では全く取り切れていなかった。該靴下及び下着を実施例1の薬剤に浸漬し、消臭副剤の粉末を適宜加えて発泡させ放置、20分後に取り出し、洗濯機で遠心脱水、物干竿に吊るして風乾した。市販の携帯型測定器による浸漬・乾燥前後の臭気測定を試みたが、該検体の臭気は段落0004で述べた酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸や4-メチル-3-ヘキセン酸のような単純な成分ではない為か、有意値として測定できなかった。
但し、消臭処理作業後の該靴下及び下着は、発明者を含む複数の関係者の誰もが、残留臭気を感じ取れなかった。それだけ、実施例1の薬剤並びに処理方法による消臭効果は格段に優れていた。
上述の通り、使用済み衣類に残る体臭等の臭気は、ヒト由来の物質を細菌等の微生物が変性して繊維の隙間に残り、徐々に気化することで感じるものである。故に、直接測定による臭気度の数値化が難しいのであれば、微生物量を測定して脱臭効果の比較をするのが適切であろう。但し、食中毒による疾病を予防するための指標菌(例えば大腸菌)数の測定と異なり、微生物種が定かでないからには、一般細菌検査の方がより適切といえる。
又、長時間を要する培養試験より、1検体当り数分以内で結果が得られる発光(Luminescence)法の方が、消臭処理作業の管理においては、より実用的である。
そこで実施例3においては、人的な計数による培養法細菌検査と機器によるATP測定とを並行して行い、相関が高いことを確認して消臭効果を比較し判定した。
前者の採取検体は、遅滞なく一般細菌の培養検査機関に渡し測定を依頼した。後者は携帯型測定器(キッコーマンバイオケミファ株式会社製・ルミテスターPD-30型に機器統一)で即時に計測値を読み取り記録した。そして、一般細菌数と相対発光度の相関をみた。
続いて、作業用防護服A及び同Bを上述消臭基剤液に浸漬した後、消臭副剤の粉末を適宜加えて発泡させ放置、1時間後に該防護服を取り出し、圧縮や遠心による脱水を行なうことなく物干竿に吊るして風乾した。10日後、該防護服表面の一般細菌数、並びに、アデノシン三リン酸(略号ATP)残留量測定を上述と同様の方法・要領で行った結果が表1である。
又、真菌の存在は「カビ臭」の原因になるので、実施例3では一般細菌数測定とは別に真菌(カビ)培養試験も併せて行ったが、消臭処理後の真菌残留を検出できなかった。
イヌやブタは臭気を高感度で検知するといわれるが、ヒトでさえも、昨今市場に出回っている臭気測定器よりはるかに高感度である。それ程、臭気を機器測定して数値化するのは難しい。因って、成分が定かでない臭気度比較を精度高く行なおうとすれば、現状では、市販の臭気測定器よりも細菌検査による比較が好ましいといえる。
表1が意味するところは、臭気度の直接測定ではないが、最も迅速に行えるATP測定値の方が確かな臭気度を反映しており、一般細菌数とATP値は消臭処理の前後で測定値に歴然とした差が認められ、本発明の薬剤及び消臭処理方法の消臭著効を立証している。
Claims (8)
- 有効塩素濃度100~2,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液に、有効塩素1モルに対し1/4~1モル相当のアルキルアミンオキシド及び有効塩素1モルに対し1/2~1モル相当のアンモニア性窒素を加えてモノクロラミンを生成させ、pH=8.0~10.4に調製した消臭基剤に被処理物を浸漬又は該消臭基剤を被処理物に向けて噴霧する、消臭処理方法。
- 請求項1に記載の消臭基剤に対し、有効塩素含有量と等重量以下になる過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液の等液量を消臭副剤として更に加えた水溶液に被処理物を浸漬又は該水溶液を被処理物に向けて噴霧する、消臭処理方法。
- 有効塩素濃度100~2,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液に、有効塩素1モルに対し1/4~1モル相当のアルキルアミンオキシド及び有効塩素1モルに対し1/2~1モル相当のアンモニア性窒素を加えてモノクロラミンを生成させ、pH=8.0~10.4に調製した、消臭基剤の製造方法。
- 請求項3にて製造した消臭基剤に対し、有効塩素含有量と等重量以下になる過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液の等液量を更に消臭副剤として加えた、消臭剤の製造方法。
- 有効塩素濃度100~2,000mg/Lの次亜塩素酸水溶液と、
有効塩素1モルに対し1/4~1モル相当のアルキルアミンオキシドと、
有効塩素1モルに対し1/2~1モル相当のアンモニア性窒素と、
を含有し、pH=8.0~10.4である、消臭基剤。 - 有効塩素濃度100~2,000mg/Lのモノクロラミンを含有し、且つ、pH=8.0~10.4であり、且つ、モノクロラミンの有効塩素濃度の減少率が初期値の0.2%/日以下である消臭基剤。
- 請求項5又は請求項6に記載の消臭基剤と、
過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液と、
を含有する消臭剤。 - 請求項5又は請求項6に記載の消臭基剤と、
過炭酸ナトリウムの粉末、又は、活性酸素濃度20~500mg/Lの過炭酸ナトリウム水溶液と、
からなる、消臭剤セット。
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