以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る交流電動機の始動及び運転装置の構成を示す。
図1に示すように、始動及び運転装置1は、三相交流電源3と三相交流電動機5との間に設けられ、電動機5の入力電圧を制御することができる。電動機5は、例えば三相かご型誘導電動機である。作業機械9を駆動するために、電動機5の出力回転軸7は作業機械9の入力回転軸に結合される。作業機械9は、例えばコンプレッサ、ポンプ、ブロワ、又はその他の電動機で駆動される機械であってよい。電動機5の回転軸7には、電動機5を冷却するための冷却装置(例えば、送風ファン)(図示省略)も結合されている。
始動及び運転装置1は、始動回路11、メイン開閉器13、バイパス開閉器15、コントローラ17、及び手動始動及び停止スイッチ19などを有する。
始動回路11は、電源3と電動機5の間の三相電源ラインに挿入され、電動機5の始動時と停止時に電動機5の三相入力電圧を制御する。本実施形態では、始動回路11は、逆並列接続された半導体スイッチング素子、例えば逆並列接続されたサイリスタのペア(サイリスタ・スタック)を、各相の要素として有する。
コントローラ17が始動回路11の三相サイリスタ・スタックの点弧位相角を制御して、電動機5の入力電圧を低い値から徐々に上げていくことにより、電動機5の減電圧始動を行なうことができる。このようなサイリスタ位相制御を用いた電動機5の減電圧始動の基本的方法は、前述した、特許文献1又は非特許文献1に開示されている。
電動機5を停止させる時、コントローラ17が始動回路11の三相サイリスタ・スタックの点弧位相角を制御して、電動機5の入力電圧を徐々に小さくしていくことにより、電動機5及び作業機械9をソフトに停止させることができる(これをソフト・ストップという)。さらに、電動機5を停止させる時、始動回路11の三相サイリスタ・スタックの片方向のサイリスタだけを導通させて電動機5に直流電圧を印加することにより、電動機5を発電機として機能させて、電動機5及び作業機械9に制動をかけることもできる(これをダイナミック・ブレーキという)。
電源3と電動機5の間の三相電源ラインには、さらに、始動回路11の一時側に、始動回路11と直列に、メイン開閉器13が挿入される。メイン開閉器13は、三相の電磁開閉器であり、そのターンONとターンOFFがコントローラ17によって制御される。メイン開閉器13がONのときのみ、始動回路11が機能することができる。
さらに、その三相電源ラインには始動回路11と並列に、バイパス開閉器15が設けられる。バイパス開閉器15は、三相の電磁開閉器であり、そのターンONとターンOFFがコントローラ17によって制御される。バイパス開閉器15がONのとき、電動機5は電源3と直接接続され、全電圧が電動機5に入力される。始動回路11による減電圧始動を行っている最中は、バイパス開閉器15はOFF状態にされる。減電圧始動が完了したとき、バイパス開閉器15をターンONすることで、電動機5は始動状態から運転状態へ移行する。なお、始動完了の際、例えば、始動回路11の出力電圧と電源電圧とが一致したとき、バイパス開閉器15をターンONし、その後ある時間(例えば2秒)の間は始動回路11とバイパス開閉器15を並列でON状態とし、その後に始動回路11をターンOFFするようにしてもよい。それにより、電位差や位相差を抑えて、バイパス開閉器15のターンON時のショック及び接点摩耗を低減できる。
コントローラ17は、始動回路11、メイン開閉器13及びバイパス開閉器15を制御することで、電動機5の始動及び運転を制御する。コントローラ17が行う始動及び運転制御には、電動機5の消費電力を削減するためのサブ制御が含まれる。この電力削減のためのサブ制御とは、電動機5の運転中に電動機5が無負荷状態になったとき(つまり、作業機械9の運転を停止すべきとき、又は、停止してよいとき)、所定の条件が成立すれば、電動機5を停止し、その後、電動機5が再び負荷状態になったとき(つまり、作業機械9の運転を再開すべきとき)、電動機5を減電圧始動する、という機能である。ここで、上記の「所定の条件」とは、電動機5の一時的な停止が許される(あるいは、その一時停止の直後の電動機5の再始動)が許される条件である。この条件の一つは、例えば、電動機5の巻線(固定子巻線又は/及び回転子巻線)の温度がある閾値温度より低いことである。さらに、コントローラ17は、上記の電力削減のためのサブ制御によって削減された電力料金を、ユーザに通知する(例えば、表示する)機能も有する。
コントローラ17への入力信号には、例えば、電動機5への三相入力電流を示す入力電流信号21、電動機5への三相入力電圧を示す入力電圧信号23、バイパス開閉器15のON/OFF状態を示すバイパス状態信号25、電動機5の巻線の温度を示す巻線温度信号27、電動機5の回転速度を示す回転速度信号31、作業機械9の運転及び停止指令35などがある。さらに、電動機5の振動及び音をそれぞれ示す信号(図示省略)など、電動機5の何らかの状態を示すその他の信号も、コントローラ17の入力信号になり得る。入力電流信号21は、例えば、電源3からの三相電源ラインに設けられた計器用変流器CTから提供される。入力電圧信号23は、例えば、電動機5への三相電源ラインに設けられた計器用変圧器VTから提供される。バイパス状態信号25は、例えば、バイパス開閉器15の補助接点(図示せず)から提供される。巻線温度信号27は、例えば、電動機5の巻線内(例えば、固定子巻線内又は回転子巻線)(又は、電動機5の筐体のように固定子巻線に近い個所、あるいは、電動機の回転軸のように回転子巻線に近い個所)に設けられた温度センサ29(接触式の温度センサだけでなく、赤外線温度センサのように非接触で機能するものでも、あるいは、無線でセンシング結果を送信できる温度センサを使用してもいいし、あるいは、抵抗値など他のパラメータから演算で温度を推定するものでもいい)から提供される。回転速度信号31は、例えば、電動機5の出力回転軸7に設けられた回転速度計33から提供される。運転及び停止指令35は、作業機械9を運転しろ、又は、停止しろという命令であり、例えば、作業機械9から提供される。
上述した運転及び停止指令35は、電動機5が負荷状態であるか無負荷状態であるかをコントローラ17が知るために用いられる。したがって、作業機械9を運転するか停止するかの判断材料となり得る1種類以上のパラメータ値を、運転及び停止指令35の代わりに、又は運転及び停止指令35と組み合わせて、負荷/無負荷の判断に用いてもよい。そのようなパラメータ値として、作業機械9の種類、役割又は機能に応じて、圧力、温度、電流値、液面高さ、濃度、重量、水質、光電センサ信号、又は深さなどを選択的又は組み合わせて採用し得る。例えば、作業機械9がコンプレッサである場合のコンプレッサの供給圧力、空気槽の圧力、又は配管圧力などが上記パラメータ値として採用できる。例えば、作業機械9が貯水のための揚水ポンプである場合の貯水の水位、作業機械9がブロワである場合のブロワの風量及び/又は風力、作業機械9が集塵機である場合の粉塵や二酸化炭素などの濃度、あるいは、作業機械9が冷凍機である場合の冷却対象の温度などが、上記パラメータ値として採用できる。
上述した巻線温度信号27は、電動機5の一時的な停止(又は、その一時停止直後の電動機5の再始動)が許されるか否かをコントローラ17が判断するために用いられる。したがって、この判断の材料となり得る他の1以上の特性値を示す信号を、巻線温度信号27の代わりに、又は巻線温度信号27と組み合わせて、用いてもよい。そのような特性値として、例えば、電動機5の巻線以外の個所の温度、電動機5の最近過去所定期間の再始動の頻度又は時間的間隔、電動機5の最近過去所定期間の消費電力、電動機5の最近過去所定期間の回転速度と出力トルク、あるいは、電動機5の騒音又は振動の大きさなどが採用し得る。
コントローラ17からの出力信号には、例えば、メイン開閉器13を開閉するためのメイン開閉信号41、バイパス開閉器15を開閉するためのバイパス開閉信号43、及び始動回路11のそれぞれのサイリスタへの点弧信号45などがある。
コントローラ17のハードウェア構成には、さまざまな設計が採用できる。図1では、コントローラ17の制御機能を分かりやすく説明する都合から、コントローラ17は、ある程度に簡素なモデルの形態で図示されており、このモデルは一つのコンピュータのように見える。しかし、これは単なる例示にすぎず、例えば、複数のプログラマブルロジックコントローラ、コンピュータ又はその他の電子回路の組み合わせ用いて、コントローラ17が構成されてもよい。
図1に示された構成例によれば、コントローラ17は、入出力インタフェース51、CPU53、記憶装置55、表示器57、及び操作盤59などを有する。入出力インタフェース51は、上述した入出力信号21、23、25、27、31、35、41、43、45を上述したデバイスCT、VT、9、11、13、15、29、33と送受する。CPU53は、電動機5の始動及び運転の制御ための情報処理、及び削減電力の表示のための情報処理などを行う。記憶装置55は、CPU53の動作のためのプログラムやデータを記憶し、また、CPU53に作業領域を提供する。表示器57は、例えば、複数の表示ランプ、液晶表示パネル、又はそれらの組み合わせであり、電動機5の始動及び運転に関する所定情報をユーザに提供する。操作盤59は、例えば、複数の手動スイッチ又は手動ボタン、タッチパネル、又はそれらの組み合わせであり、ユーザに操作されて電動機5の始動及び運転に関する条件設定やデータ入力を行う。
コントローラ17は、特定の機能を専用に行う1以上の特定機能モジュール61を有してもよい。例えば、始動回路11への点弧信号45の位相角を制御するサイリスタ位相制御回路を、特定機能モジュール61として設けてもよい。
コントローラ17は、また、故障対策モジュール63を有してもよい。故障対策モジュール63は、コントローラ17内で正常の制御が行えなくなる障害が発生したとき、コントローラ17の正常制御から独立して、電動機5の始動及び停止を行なう。すなわち、故障対策モジュール63は、コントローラ17内で発生する障害を監視し、コントローラ17の正常な制御を妨げる所定の障害(例えば、CPU53のエラーあるいは故障、又は表示器57の故障など)の発生を認識したとき、コントローラ17の正常制御に基づき出力されるバイパス開閉信号43とは別のバイパス開閉信号65をバイパス開閉器15に出力して、バイパス開閉器15の開閉を制御する。それにより、コントローラ17が正常な制御を行えないときであっても、電動機5の始動、運転及び停止を行うことができる。
手動始動及び停止スイッチ19は、上述した故障対策モジュール63と同様の機能を、ユーザが手動で行うためのスイッチである。すなわち、コントローラ17が正常な制御を行えない状態にある(例えば、表示器57が消えていて、コントローラ17の状態がユーザに分からない)ことをユーザが知った場合、ユーザは手動始動停止ボタン19を操作して、コントローラ17からのバイパス開閉信号43とは別のバイパス開閉信号47をバイパス開閉器15に印加することができる。それにより、コントローラ17の故障時、ユーザは手動で電動機5を始動、運転及び停止することができる。
図2は、コントローラ17により行われる電動機5の始動及び運転の制御において、無負荷時及び負荷時に電動機5を運転するか停止するかを判断するために用いられる、電動機5の巻線温度に関する条件を示す。
図2に示すように、異なる2つの設定温度T1、T2がある。低い方の第1の設定温度T1には、巻線温度がそれより低ければ、無負荷時に電動機5を停止しても(その後に始動回路11による減電圧始動を行っても)電動機5において巻線の過熱などの問題は起きないという温度が選ばれている。高い方の第2の設定温度T2には、巻線温度がそれ以上であれば、負荷か無負荷かにかかわらず電動機5を停止することが電動機5にとり安全であるという温度が選ばれている。これらの設定温度T1、T2は、操作盤59で設定され記憶装置55に記憶される。
したがって、コントローラ17は、巻線温度が第1の設定温度T1より低い第1の場合には、負荷時には電動機5を運転するが、無負荷時には電動機5を停止する。この無負荷時の電動機5の停止により、電動機5の無駄な消費電力が削減される。
また、巻線温度が第1の設定温度T1と第2の設定温度T2の間にある第2の場合には、コントローラ17は、負荷時にも無負荷時にも電動機5を運転する。また、巻線温度が第2の設定温度T2以上である第3の場合には、負荷時にも無負荷時にも電動機5を停止する。ただし、第3の場合において、電動機5を直ぐに停止させず、電動機5の運転をしばらく続けることで、巻線温度が安全な温度(例えば、第1の設定温度T1以下)になるまで電動機5を冷却し、その後に電動機5を停止させるようにしてもよい。
図3、図4及び図5は、コントローラ17により行われる電動機5の始動及び運転の一制御例の流れを示す。
図3に示すように、制御が開始された後、自動モードと手動モードのいずれが操作盤59で選択されているかがチェックされる(ステップS1)。自動モードは、コントローラ17が自動的に電動機5の始動と運転と停止を制御するモードである。手動モードは、ユーザが手動で電動機5の始動と運転と停止を制御するモードである。
電動機5手動モードが選択されていれば(ステップS2でNO)、「手動」が表示器57に表示され、そして、操作盤59の始動ボタンがターンONされたかがチェックされる(ステップS4)。始動ボタンがターンONされた場合(ステップS5でYES)、メイン開閉器13がターンONされ(ステップS6)、バイパス開閉器15がターンONされ(ステップS7)、そして「運転」が表示器57に表示される(ステップS8)。これにより、電動機5が全電圧で始動され、そして運転に入る。
その後、操作盤59の停止ボタンがターンONされたかがチェックされ(ステップS9)る。停止ボタンがターンONされた場合(ステップS10でYES)、メイン開閉器13がターンOFFされ(ステップS6)、バイパス開閉器15がターンOFFされ(ステップS12)、そして「停止」が表示器57に表示され(ステップS13)、制御が終了する。これにより電動機5が停止される。
前述した選択モードのチェックの結果、自動モードが選択されていた場合(ステップS2でYES)、表示器57にて「自動」が表示され(ステップS20)、そして「停止」の表示が消される(ステップS21)。そして、始動条件が成立しているか否かがチェックされる(ステップS22)。始動条件とは、電動機5を始動してよい条件であり、それは、例えば次の4つのサブ条件がすべて満たされていることである。
1.電動機5の巻線温度が第1の設定温度T1より低い。
2.作業機械9の外部アラームが無い。
3.この始動及び運転装置1に異常が無い。
4.メイン開閉器13とバイバス開閉器15の双方がOFF状態にある。
上記の始動条件が満たされている場合(ステップS22でYES)、作業機械9からの運転指令35がONであるか否か(つまり、作業機械5を運転すべきか否か)がチェックされる(ステップS23)。運転指令がONであれば(ステップS23でYES)、メイン開閉器13がターンONされ(ステップS24)、そして第1タイマが起動される(ステップS25)。第1タイマは、メイン開閉器13のターンON(励磁)を開始してから、メイン開閉器13の接点が確実に閉じるまでの遅れ時間に相当する時間をカウントする。第1タイマがタイムアップしたなら(ステップS26でYES)(つまり、メイン開閉器13が確実にON状態になったら)、制御は図4に示すポイントAからのプロセスに進む。
図4に示すように、始動回路11のサイリスタの点弧を開始し、そして、始動回路11の各相の出力電圧が、所定の始動電圧パターンに沿って上昇するように、各サイリスタの点弧位相角を制御する(ステップS30)。その点弧位相角の制御は、例えば、始動回路11の各相の出力電圧をフィードバックして、その出力電圧と始動電圧パターンとの偏差を無くすように、位相点弧角を調整するというフィードバック制御の方法で行うことができる。これにより、電動機5の減電圧始動が行われる。
上記の始動電圧パターンは、あらかじめ操作盤59で設定されて、記憶装置55に記憶されている。あるいは、後述する図12に示されたサーバコンピュータ又は図13に示された人工知能システムから、コントローラ17の初期設定時又はその後の随時に、適切な始動パターンがコントローラ17に供給されて記憶装置55に記憶されてもよい。あるいは、後述する図12に示されたサーバコンピュータ又は図13に示された人工知能システムにより、コントローラ17の始動電圧パターンがリアルタイムで最適化されてもよい。
採用可能な始動電圧パターンの幾つかの例101、103、105を図6に示す。実線で示された始動電圧パターン101は、各相の出力電圧を始動時間Tstの間に初期電圧V0から単調に電源電圧Vsまで上昇させる「ソフト始動」と呼ばれる始動方法である。一点鎖線で示された別の始動電圧パターン103は、回転機械(電動機5及び作業機械9)の回転速度が所定の一次危険速度を通過する電圧領域(一次危険速度域)で電圧を急上昇させてここを速やかに通過することで、一次危険速度域での振動拡大などの有害作用を回避するための始動方法である。破線で示される始動電圧パターン105は、回転機械の初動時(動き始め)の所要トルクが大きい場合、最初に一時的に高い電圧を加えて回転機械を動き始めさせた後、電圧を落としてパターン101のようなソフト始動を行う「キックスタート」と呼ばれる始動方法である。これらの例のように、始動電圧パターンは任意に設定又は制御することができる。始動電圧パターンを定義する諸パラメータ(例えば、初期電圧V0、始動時間Tst、一次危険速度域Vfc1とVfc2、一次危険速度回避時間Tfc、キック電圧Vk、キック時間Tkなど)を、本明細書では「始動用制御パラメータ」という。電動機5及び作業機械9の特性に応じて、始動用制御パラメータを適切に設定又は制御することにより、最適な始動電圧パターンで電動機5を始動できるので、始動時の電動機5の過熱や機械的負荷を、従来の始動方法より効果的に抑制することができる。なお、図6中、並列運転時間Tpd1は、始動パターンの完了直後に始動回路11とバイパス開閉器15を並列的にON状態とする時間であり、これも、始動用制御パラメータに含まれ得る。
再び図4を参照して、ステップS30でサイリスタ位相制御による減電圧始動が行われている間、「始動中」が表示器57に。その後、減電圧始動が完了したか否かがチェックされる(ステップS32)。始動の完了は、例えば次の3つのサブ条件のうちの1つ、又は2つ以上の組み合わせ、又は全部が満たされたか否かで判断することができる。
1.電動機5の回転速度が定格回転速度で安定した。
2.始動回路11の出力電圧(電動機5の入力電圧)が定格電圧で安定した。
3.始動回路11を流れる電流(電動機5の入力電流)が定格電流で安定した。
4.所定の始動時間が経過した。
とりわけ、電動機5の回転速度が定格速度で安定したという最初のサブ条件は、電動機5にかかる負荷の大小にかかわらず有効である。したがって、その最初のサブ条件一つだけで、始動の完了を判断してもよい。
始動が完了すると(ステップS32でYES)、バイパス開閉器15が閉じられて全電圧が電動機5に印加され(ステップS33)、その後に、始動回路11のサイリスタの点弧が停止される(ステップS34)。これにより、電動機5は運転に入る。そして、表示器57では「始動中」の表示が消され(ステップS35)、「運転中」が表示される(ステップS36)。そして、コントローラ17は、電動機5が運転中であることを認識する(ステップS37)。なお、ステップS33からS34の間に、ある時間(例えば2秒)を置いて、その間は始動回路11とバイパス開閉器15を並列でON状態とし、その後に始動回路11をターンOFFするようにしてよい。それにより、電位差や位相差を抑えて、バイパス開閉器15のターンON時のショック及び接点摩耗を低減できる。
その後、作業機械5からの停止指令35がONになったか(つまり、作業機械5を停止すべきか、あるいは、電動機5が無負荷になったか)否かがチェックされる(ステップS38)。停止指令がONになった場合(ステップS38でYES)、電動機5の巻線温度が第1の設定温度T1より低いか否かがチェックされる(ステップS39)。その結果、巻線温度が第1設定値より高ければ(ステップS39でNO)、それは、電動機5を今停止して短時間後に再始動することは電動機5に悪影響を与える可能性があることを意味するので、制御はステップS33へ戻り、電動機5の運転が継続される。
他方、ステップS39で、巻線温度が第1の設定値より低いならば(ステップS39でYES)、それは、電動機5を今停止して短時間後に再始動しても電動機5に悪影響を与えないことを意味する。この場合、制御は図5に示すポイントBからのプロセスへ進む。
上述したステップS38で、作業機械9の停止指令がONでない場合には(ステップS38でNO)、停止条件が成立しているかがチェックされる(ステップS40)。停止条件とは、異常事態のために作業機械5を停止すべき条件であり、例えば、次の3つのサブ条件のいずれかが満たされたことである。
1.電動機5の巻線温度が第2の設定温度T2より高い。
2.作業機械9の外部アラームが発生した。
3.この始動及び運転装置1で異常が発生した。
ステップS40で停止条件が成立してなければ(ステップS40でNO)、制御はステップS33へ戻り、電動機5の運転が継続される。
他方、ステップS40で停止条件が成立していれば(ステップS40でYES)、それは、異常事態が起きたために電動機5を停止すべきであることを意味する。この場合、制御は図5に示すポイントCからのプロセスへ進む。
図5を参照して、ポイントBからのプロセスは、電動機5の運転中に電動機5の停止指令がONになった場合(つまり、電動機5が無負荷状態になった場合)の制御である。この制御では、始動回路11のサイリスタがゼロの位相角で点弧され(ステップS50)、続いて、バイパス開閉器15が開かれる(ステップS51)。これにより、始動回路11のみを通じて、電源3の全電圧が電動機5に印加される。
その後、始動回路11のサイリスタ位相制御が行なわれて、所定の停止電圧パターンに沿って電動機5への印加電圧を0Vまで低下させる(ステップS52)。この位相制御も、始動時と同様、始動回路11の出力電圧と停止電圧パターンとの偏差を無くすフィードバック制御の方法で行うことができる。ここで、停止電圧パターンは、あらかじめ操作盤59で設定されて、記憶装置55に記憶されている。あるいは、後述する図12に示されたサーバコンピュータ又は図13に示された人工知能システムから、適切な停止電圧パターンが初期設定時に、又は初期設定とその後の随時に、コントローラ17に供給されて記憶装置55に記憶されてもよい。あるいは、後述する図12に示されたサーバコンピュータ又は図13に示された人工知能システムにより、コントローラ17の停止電圧パターンがリアルタイムで最適化されてもよい。
採用可能な停止電圧パターンの幾つかの例106、107、108が図6に示される。図6中、実線で示された停止電圧パターン106は、各相の出力電圧を停止時間Tsp1の間に電源電圧Vsからゼロまで単調に下降させる「ソフト停止」と呼ばれる停止方法である。一点鎖線で示された停止電圧パターン107は、作業機械9が送水ポンプの場合に、これを急激に停止させると生じる水撃作用を防止するために、出力電圧を、まず一段電圧降下時間Tfdかけて一段降下電圧Vfdまで下げた後、水撃防止時間Twhの間その一段降下電圧Vfdに保ち、その後に、二段電圧降下時間Tsdをかけてゼロまで降下させる方法である。破線で示された停止電圧パターン108は、交流電動機5の逆相制動を利用するために、まず、出力電圧を逆相切替時間Tchの間ゼロにして、その間に交流電動機5を逆相に切替えた後、ソフト停止電圧Vssに逆相制動時間Tbkの間保ち、その後に、停止時間Tsp2をかけてゼロまで下げる方法である。また、図示してないが、交流電動機5の二線間に直流電圧を印加することで、発電制動を行うこともできる。これらの例のように、停止電圧パターンは任意に設定できる。本明細書では、停止電圧パターンを定義するための、つまり、停止動作を制御するための各種のパラメータ(例えば、図6に示された停止時間Tsp1、一段電圧降下時間Tfd、二段電圧降下時間Tsd、一段降下電圧Vfd、逆相切替時間Tch、逆相制動時間Tbk、停止時間Tsp2、ソフト停止電圧Vssなど)を、「停止用制御パラーメータ」と呼ぶ。電動機5及び作業機械9の特性に応じて、停止用制御パラメータを適切に設定又は制御することで、最適な停止電圧パターンで電動機5を停止できる。なお、図6に示された停止開始直前の並列運転時間Tsp2は、始動回路11とバイパス開閉器15を同時並行でON状態にする時間であり、これも停止用制御パラメータに含まれ得る。
さらに、この停止のプロセスにおいて、必要に応じてダイナミック・ブレーキを適用することができる。すなわち、始動回路11の一方向のサイリスタだけを点弧して電動機5に直流を印加することで、電動機5を発電機として動作させて制動をかける。制動力は、サイリスタの点弧位相角、つまり電動機5への印加電圧の高さで調節できる。例えば作業機械9の慣性力が大きく、電動機5の電圧を落としただけでは所望の停止ができない場合、ダイナミック・ブレーキを適用することでより所望通りに電動機5を停止することができる。
上述した停止のプロセスが終わったら、始動回路11のサイリスタの点弧を停止し(ステップS53)、そして、「運転中」の表示を消す(ステップS54)。続いて、第2タイマを起動する(ステップS56)。第2タイマは、始動回路11のサイリスタを停止してから、メイン開閉器13を開くまでの間に安全のために置くべき所定時間をカウントする。
第2タイマがカウントアップしたら(ステップS56でYES)、メイン開閉器13が開かれ(ステップS57)、そして、「停止」が表示器57に表示される(ステップS58)。これで、制御はひとまず終了して、作業機械9の作業指令がONになる(つまり、作業機械9の運転を再開すべき状態になる、すなわち、電動機5が再び負荷状態になる)のを待つ。その後、作業指令がONになると、制御は図3に示されたプロセスから再開する。したがって、依然として自動モードが選択され(ステップS22でYES)、かつ始動条件が成立している(ステップS23でYES)限り、電動機5が再び始動される(ステップS24以降のプロセス)。
再び図5を参照して、ポイントCからのプロセスは、停止条件が成立した場合(図4のステップS40でYES)の制御を示す。この制御では、電動機5の巻線温度が第1の設定温度T1より低いか否かがチェックされる(ステップS60)。巻線温度が第1の設定温度T1より低くない場合(ステップS60でNO)、電動機5を冷却するために、制御は図4に示すステップS33へ戻り、巻線温度が第1の設定温度T1より低くなるまで電動機5の運転が継続される。
図5に示したステップS60で、巻線温度が第1の設定値T1より低い場合(ステップS60でYES))、制御はすでに説明したステップS50からのプロセスへ進み、電動機5が停止される。
以上のように、コントローラ17は、自動モードでは、電動機5が負荷状態で運転しているとき、電動機5が無負荷状態に移行したならば、電動機5の巻線温度が第1の設定温度T1より低い(つまり、その後短時間のうちに電動機5を再始動しても問題がない)限り、電動機5を停止させて無駄な電力消費を防ぐ。その後、電動機5が再び負荷状態に移行すれば、コントローラ17は、電動機5を減電圧始動して運転を再開する。他方、電動機5の巻線温度が第1の設定温度T1より高い(つまり、その後短時間のうちに電動機5を再始動すると電動機5に悪影響が及ぶ可能性がある)場合には、コントローラ17は、電動機5が無負荷状態になっても、電動機5の運転を継続し、それにより、悪影響の原因となる再始動を防止する。
図7は、コントローラ17により行われる、削減された電気料金の表示のための一制御例の流れを示す。
図7に示すように、電動機5の運転データが採取される。運転データとして、例えば、所定の期間(例えば、当月)における次のようなデータが採取される。
w1:今まで電動機5を無負荷状態で運転した時の消費電力(例えば平均値)
w2:今まで電動機5を負荷状態で運転した時の消費電力(例えば平均値)
t1:今まで電動機5を無負荷状態で停止させた時の時間長
t2:今まで電動機5を無負荷状態で運転した時の時間長
t3:今まで電動機5を負荷状態で運転した時の時間長
このデータ採取は、周期的に繰り返される。それにより、運転データは実質的にリアルタイムで最新の値に更新される。
ここで、「電動機5を無負荷状態で運転した時」とは、巻線温度が第1の設定温度T1以上であったために、無負荷状態でも電動機5を停止できなかった場合を意味する。また、「電動機5を無負荷状態で停止した時」とは、巻線温度が第1の設定温度T1より低かったために、無負荷状態で電動機5を停止した場合を意味する。消費電力w1、w2は、図1に示した三相の電流信号21と電圧信号23から計算される。時間長t1、t2、t3は、コントローラ17内のクロック信号をカウントすることで計測される。
採取された運転データに基づき、上記所定期間(例えば、当月)における以下の電力量が計算される(ステップS14)。
X:今までに無負荷状態で電動機5を停止させたことで削減された電力量
(もし電動機5を停止しなかったならば無駄に消費されたであろう電力量)
Y:今までに無負荷状態で電動機5を運転したことで消費した電力量
Z:今までに負荷状態で電動機5を運転したこととで消費した電力量
w1、w2として平均値を用いる場合、削減電力量Xと消費電力量Y、Zは例えば次のように計算できる。
X = w1 × t1
Y = w1 × t2
X = w2 × t3
上記の削減及び消費電力量X、Y、Zと、上記所定期間の電気料金単価cに基づいて、削減電気料金Pと消費電気料金Qが次のように計算される(ステップS76)。
P = X × c
Q = (Y + Z) × c
ここで、電気料金単価cは、あらかじめ操作盤59で設定され(ステップS74)、記憶装置55に記憶されている(ステップS75)。
計算された削減電気料金Pと消費電気料金Qが表示器57に表示される(ステップS77)。とくに削減電気料金Pを知ることで、ユーザは、この始動及び運転装置1により提供される消費電力削減のメリットを実感することができる。
図8は、上述した始動及び運転装置1の保守作業を交流電動機5の運転中に行うことを可能にする無停電保守回路の構成例を示す。
図8において、参照番号1は、上述した始動及び運転装置(図1参照)を指す。ただし、バイパス開閉器15は、後の制御流れの説明を分かりやすくするために、始動及び運転装置1のブロックの外側に示してある。
図8に示されるように、無停電保守回路110は、三相交流電源3から交流電動機5へ給電するためのパスとして、始動及び運転装置1を通る主給電パス111のほかに、主給電パス111に並列に接続された保守用バイパス113を有する。
主給電パス111の始動及び運転装置1の上流側と下流側に、ペアのコネクタ(例えば、差し込みコネクタ)115、117が設けられる。これらのコネクタ115、117は、始動及び運転装置1を主給電パス111に機械的及び電気的に組み込み及び取り外し可能とする。主給電パス111の上流側コネクタ115の上流側と下流側コネクタ117の下流側に、ペアの保守用開閉器(例えば、電磁開閉器)119、121が設けられる。これら保守用開閉器(例えば、電磁開閉器MC-1、MC-2)119、121は、始動及び運転装置1とコネクタ115、177のセットを、主給電パス111に電気的に接続及び分離可能とする。
保守用バイパス113は、始動及び運転装置1の保守中に、交流電動機5に給電するためのパスである。保守用バイパス113には、これを開閉するための保守用バイパス開閉器(例えば、電磁開閉器MC-MS)123が設けられる。保守用バイパス113には、また、始動及び運転装置1の保守中における交流電動機5の過負荷を検知してそれを阻止するための過負防止開閉器(例えば、サーマルリレー)125が設けられる。
主給電パス111と保守用バイパス113の上流側接続点の上流側に、遮断機127が設けられる。遮断機127は、始動及び運転装置1のサイリスタのパンク(短絡)時などに、給電を強制的に止めるためのものである。
さらに、手動で操作可能な切替スイッチ(COS)129が設けられる。切替スイッチ129は、保守モード(M)と通常運転モード(N)の間の切り替えを行うスイッチである。切替スイッチ129により、上述した保守用開閉器119、121、保守用バイパス開閉器123、及び、始動及び運転装置1が、後に説明するように制御されるようになっている。
図9、図10及び図11は、上述した無停電保守回路110の制御の流れの一例を示す。図9は、交流電動機5の始動時の制御の流れを示し、図10は、始動及び運転装置1の保守を行う場合の制御流れを示し、図11は、始動及び運転装置1の復旧時の制御流れを示す。
図9、図10、図11及びそれらの図を参照した以下の説明では、分かりやすくするために、図8に示された主給電パス111の保守用開閉器119、121をそれぞれ「MC-1」、「MC-2」と略記し、保守用バイパス113の開閉器123を「MC-MS」と略記し、始動及び運転装置1のバイパス開閉器15を「MC-BP」と略記し、また、切替スイッチ129を「COS」と略記する。
図9に示すように、交流電動機5を始動するときには、まず、MC-1とMC-2がON状態で、主給電パス111が有効に機能でき、かつ、MC-MSがOFF状態で、保守用バイパス113が無効な(開いた)状態にある(ステップS80)。
この状態の下で、始動及び運転装置1の始動回路11が駆動されて、交流電動機5の減電圧始動を行う(S81)。減圧始動が完了して全電圧が交流電動機5に加わった後、MC-BPがターンONされ(S82)、続いて、始動回路11が停止されて、交流電動機5の通常運転が開始される(S83)。
その後、始動及び運転装置1の保守を行う場合、図10に示すように、交流電動機5の通常運転中(ステップS90)、例えば手動で、COSが今までの通常モードから保守モードへと切り替えられる(S91)。すると、COSからの保守モードを示す信号に応答して、以下のステップS92~S95が順に行われる。
すなわち、MC-MSがターンONして保守用バイパス113を有効にする(S92)。その後、始動及び運転装置1の始動回路11が停止動作に入る(この停止動作中、MC-BPはON状態に保たれる)(S93)。その後、始動回路11が停止すると、MC-1とMC-2がターンOFFして、始動及び運転回路1とコネクタのセットを主給電パス111から電気的に切り離す。その後、MC-BPがターンOFFする(S95)。その結果、始動及び運転装置1は、交流電動機5の給電パスから電気的に分離されるとともに、交流電動機5への給電は保守用バイパス113を通じて行われる。
この状態の下で、例えば手動により、始動及び運転装置1内のントローラ17と他の諸回路とを繋げていたコネクタが取り外されて、コントローラ17が他の諸回路から切り離される(S96)。その後、例えば手動で、始動及び運転装置1のコネクタ115、117が取り外されて、始動及び運転装置1が主給電パス111から分離される(S97)。
以上により、交流電動機5の運転は継続したまま、始動及び運転装置1の保守作業を行うことができるようになる。
その後、始動及び運転装置1の保守が終わりこれを復旧させる場合には、図11に示されるように、例えば手動で、始動及び運転装置1のコネクタ115、117を主給電パス111に接続することで、始動及び運転装置1が主給電パス111に組み込まれる(S100)。また、始動及び運転装置1内のコントローラ17が他の諸回路にコネクタで結合される(S101)。その後、コントローラ17に、保守前に設定されていた制御パラメータが再設定される(S102)。ここで、制御パラメータとは、図6を参照して既に説明したように、始動電圧パターン及び/又は停止電圧パターンを定義するための、つまり、始動動作及び/又は停止動作を制御するための各種パラメータである。
その後、COSが今までの保守モードから通常運転モードへ切り替えられる(S103)。COSからの通常運転モードを示す信号に応答して、以下のステップS104~S106が順番に行われる。
すなわち、始動及び運転装置1のMC-BPがターンONし(S104)、その後にMC-1とMC-2がターンONする(S105)。これにより、始動及び運転装置1のMC-BPつまりバイパス開閉器15を通じて交流電動機5に全電圧の給電がなされるようになる。その後、MC-MSがターンOFFして(S106)、保守用バイパス113を開く。
以上で、始動及び運転装置1の復旧が完了する。図9~図11に示された過程を通じて、交流電動機5の通常運転は中断されることなく維持される。
図8に示された構成の変形例として、保守用バイパス113に追加の始動及び運転装置1あるいは別の種類の始動装置が組み込まれてもよい。これにより、始動及び運転装置1の保守作業中、必要に応じて交流電動機5の停止及び再始動を行うことが可能となる。
図12は、運転及び始動装置1の制御パラメータを自動制御するためのパラメータ制御システムの構成例を示す。
ここで、制御パラメータには、運転及び始動装置1の動作制御に関わる任意の条件、変数、定数又は関数などが含まれ得る。したがって、制御パラメータには、例えば、図6を参照して既に説明したような、始動電圧パターン及び/又は停止電圧パターンそれ自体、又は、それらのパターンを制御するための(つまり、始動動作及び/又は停止動作を制御するための)各種の設定値(例えば、図6に示された初期電圧Vst、始動時間Tst、並列運転時間Tpd1、一次危険速度域Vfc1とVfc2、一次危険速度回避時間Tfc、並列運転時間Tpd2、停止時間Tsp、一段電圧降下時間Tfd、水撃防止時間Twh、二段電圧降時間Tsd、一段降下電圧Vfd、逆相切替時間Tch、逆相制動時間Tbk、停止時間Tsp2など)、又は、電動機5を始動あるいは停止している間における各現時点での始動回路11の出力電圧もしくは点弧制御信号など、が含まれ得る。さらに、制御パラメータには、例えば、図2及び図3~図5を参照して説明したような、電動機5の運転を停止させるか否かの判断及び再始動させるか否かの判断それ自体、又は、それらの判断を制御するための負荷状態及び電動機巻線温度に関する諸条件(例えば、図2に示された温度設定値T1、T2、及び、すでに説明したような無負荷時と負荷時を判別するための作業機械9の諸状態データなど)など、も含まれ得る。始動及び運転装置1のコントローラ17には、交流電動機5及び作業機械9の特性や動作環境に応じた最適な制御パラメータが設定されるべきである。特に、電動機5の始動、及び、電動機の停止と再始動の判断に関する制御パラメータについては、電動機5の無駄な消費電力を削減する目的から、電動機5の始動電流と電圧降下を最小化するように制御パラメータを最適化することが望まれる。
人が手動で(例えば、操作盤59を用いて)制御パラメータを最適に設定又は制御する場合、通常次のような作業が行われ得る。すなわち、例えば、制御パラメータをある程度妥当であろうと思われる初期値に仮設定した上で、実際に交流電動機5の起動と停止が試行される。この試行時の交流電動機5の各種状態データ(例えば、電圧、電流、出力トルク、回転速度、巻き線温度など)、及び、交流電動機5の負荷である作業機械9の各種の状態データ(例えば、作業機械9がコンプレッサである場合のコンプレッサの吐出圧力など)が計測され、データレコーダにそれらの計測データが記録される。その記録に基づいて、手動により、制御パラメータの設定値が修正されて、再び交流電動機5の始動と停止が試行される。このような制御パラメータの修正と交流電動機の始動と停止の試行を数回重ねることで、制御パラメータが最適値に近づけられる。
しかし、このような手動によるパラメータ最適設定には、人の高い熟練が必要である。すべての現場で担当者がこの手動設定を適切に効率よく行うことは、現実には難しい。また、現場ごとに測定器やデータレコーダが必要である。特に、交流電動機5の始動時の始動電流及び電圧降下を最小化して、交流電動機5のより頻繁な停止と再始動を可能にし、それにより、無駄な消費電力を削減するという目的を達成するために、どのような始動用制御パラメータ値が最適であるかを突き止めることは、人にとって非常に難しい。
図12に示されたパラメータ制御システム160は、上記の問題状況を改善することができる。このシステム160は、サーバコンピュータ161を備え、このサーバコンピュータ161は、始動及び運転装置1のコントローラ17に制御パラメータを最適に設定又は制御する機能を有する。サーバコンピュータ161は、例えば、通信ネットワーク(例えば、同じ事業所内のローカルネットワーク、あるいは、インターネットのような広域ネットワークなど)163を介して、異なる場所の複数の始動及び運転装置1のコントローラ17と通信接続され得る。あるいは、サーバコンピュータ161は始動及び運転装置1に1対1の関係で通信接続され得るようになっていてもよい。
サーバコンピュータ161は、例えば、コントローラ17とデータを送受する入出インタフェース165、計算処理を行うCPU166、CPU166により実行されるコンピュータプログラム及び処理対象のデータなどを記憶保持する記憶装置167、人がサーバコンピュータ161に命令や指示を入力するための操作盤168、及び、処理結果や記憶内容などの様々な情報を人に対して提示する表示器169などを有する。サーバコンピュータ161のパラメータ最適制御機能は、典型的には記憶装置167に格納されたコンピュータプログラムとして実装されることができるが、必ずしもそうでなければならないわけではなく、ハードウェアロジック回路(図示省略)、あるいは、ハードウェアロジック回路とコンピュータプログラムの組み合わせとして実装されることもできる。
始動及び運転装置1のコントローラ17は、交流電動機5及び作業機械9から所定の状態データを収集することができる。交流電動機5に関する状態データとしては、例えば、交流電動機5に設けられた電流・電圧・音・振動センサセット141からの電圧データ・電流データ・音データ・振動データ143、及び、巻線温度センサ145からの巻線温度データ147、交流電動機5の出力軸に設けられた回転速度・トルクセンサ151からの回転速度データ・トルクデータ153などがあり得る。また、作業機械9に関する状態データには、例えば、作業機械9がコンプレッサであるならば、コンプレッサ9の吐出口に設けられた圧力センサ155からの吐出圧データ157などがあり得る。作業機械に関する状態データの種類は、作業機械9により異なり得る。すなわち、作業機械9の種類、役割又は機能に応じて、圧力、温度、電流値、液面高さ、濃度、重量、水質、光電センサ信号、又は深さなどのうちの1以上のものを選択して又はそれらを組み合わせて、それらを状態データとして採用し得る。例えば、作業機械9がコンプレッサである場合のコンプレッサの供給圧力、空気槽の圧力、又は配管圧力などが状態データとして採用できる。例えば、作業機械9が貯水のための揚水ポンプである場合の貯水の水位、作業機械9がブロワである場合のブロワの風量及び/又は風力、作業機械9が集塵機である場合の粉塵や二酸化炭素などの濃度、あるいは、作業機械9が冷凍機である場合の冷却対象の温度などが、状態データとして採用できる。
コントローラ17は、その記憶装置55上に制御データベース159を有し、この制御データベース159に、交流電動機5及び作業機械9から収集した状態データのセットを格納することができる。コントローラ17は、制御データベース159に格納された状態データのセットを、サーバコンピュータ161に送信することができる。状態データベース159は、また、サーバコンピュータ161から提供される制御パラメータの設定値も格納することができる。
サーバコンピュータ161は、それぞれの現場のコントローラ17からそれぞれの現場の状態データを受信することができる。サーバコンピュータ161は、また、それぞれの現場の交流電動機5及び作業機械9の特性を示す特性データも、所定のデータ提供源(例えば、ネットワーク上の情報提供サーバ、あるいは、外部記憶デバイスなど)から受信することができる。受信されたそれぞれの現場の状態データ及び/又は特性データ(以下、現場に関する状態データと特性データを「現場データ」と総称する)を使って、それぞれの現場の交流電動機5の始動用と停止用の制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセットを計算することができる。サーバコンピュータ161は、計算された制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセットをコントローラ17に送信することができる。
コントローラ17は、サーバコンピュータ161から制御パラメータの最適値のセットを受信し、受信した最適値(又は最適近似値)セットをコントローラ17に設定し、以後、その設定された最適値(又は最適近似値)セットを用いて、交流電動機5の始動及び停止を行うことができる。
サーバコンピュータ161がコントローラ17内の制御パラメータを最適化する時期は、交流電動機5の運転中及び停止中の何時でもよい。例えば、始動及び運転装置1の設置時や復旧時だけでなく、環境変化やその他の何らかの原因で制御パラメータの設定を変更すべき事態が生じれば、その都度に、制御パラメータの最適化を行ってよい。あるいは、電動機5の始動、運転、又は停止を行っている間、リアルタイムで制御パラメータの最適化を行ってもよい。
このように構成されたパラメータ制御システム160は、人の熟練に頼らずに、それぞれの現場の始動及び運転装置1の制御パラメータ制御を容易化及び適正化することができる。
また、パラメータ制御システム160を利用することで、交流電動機5の始動時の始動電流及び電圧降下を最小化する目的、及び、それにより交流電動機5のより頻繁な停止と再始動を可能にして無駄な消費電力を削減する目的を達成するための最適なパラメータ値を自動的に特定して制御することが可能になる。さらに、最適パラメータ値の算出に、以下に説明するような人工知能システムを利用することで、上記目的がよりいっそう容易に達成できるようになる。
図13は、上述したパラメータ制御システム160において、サーバコンピュータ161で制御パラメータを最適に制御するために採用可能な人工知能システムの一構成例を示す。
サーバコンピュータ161は、制御パラメータの最適値を計算するためのアルゴリズムを実行するためのコンピュータプログラム又はハードウェア回路を備える。しかし、交流電動機5と作業機械9の特性及び動作環境は現場ごとに異なるため、それらの異なる現場に適合した計算アルゴリズムを、人が完全にプログラミング又は設計することは至難の業である。この問題状況を改善するために、図13に示された人工知能システム171は、ニューラルネットワークを利用して、最適な計算アルゴリズムを機械学習により自動的に構築できるように構成される。この人工知能システム171は、典型的にはコンピュータプログラムとして実装されて、サーバコンピュータ161の記憶装置55に格納されるが、必ずしもそうでなければならないわけではなく、ハードウェアロジック回路(図示省略)、あるいは、ハードウェアロジック回路とコンピュータプログラムの組み合わせとして実装されることもできる。
図13に示されるように、人工知能システム171は、現場データベース173、訓練データ準備部175、訓練データベース176、ニューラルネットワーク学習部177、ニューラルネットワークデプロイ部179、及び、ニューラルネットワーク推論部181を有する。
現場データベース173は、1又は2以上の現場について、各現場用の制御パラメータの算出に必要な各種の現場データを記憶し保持する。各現場の現場データには、例えば、交流電動機5の各種特性を示す特性データ(例えば、起動時のトルクと回転速度の関係を示した起動トルクカーブ、及び、慣性モーメントデータなど)、作業機械9の各種特性を示す特性データ(例えば、起動時のトルクと回転速度の関係を示した起動トルクカーブ、及び、慣性モーメントデータなど)、以前に実際に使用されたことのある制御パラメータの各セット、その制御パラメータの各セットで交流電動機5を起動したときに測定された交流電動機5と作業機械9に関する状態データのセット、などがあり得る。
現場データの提供源には、例えば、各現場のコントローラ17及び他のデバイス(例えば、サーバコンピュータ161に接続された外部記憶装置、あるいは、サーバコンピュータ161とネットワーク163を通じて通信可能な他の情報提供サーバなど)などがある。例えば、上述した交流電動機5及び作業機械9の各種特性データは、典型的には、それらの機械のメーカが用意した特性データを提供するネットワーク上の情報提供サーバ、あるいは、それらのデータを格納した外部記憶装置から、現場データベース173に取り込むことができる。また、各現場で実際に使用された制御パラメータのセットは、各現場のコントローラ17から、あるいは、その制御データセットを生成したニューラルネットワーク推論部181から、現場データベース173に取り込むことができる。また、現場で測定された各種状態データのセットは、各現場のコントローラ17から現場データベース173に取り込むことができる。ここで、実用用途で電動機5を利用している現場、研究・開発用途で電動機5を利用している現場、及び/又は、ニューラルネットワークの機械学習のための訓練データを作成する目的で電動機5を利用している現場など、いかなる目的の現場であっても、現場データの提供源として採用され得る。
訓練データ準備部175は、現場データベース173に格納された現場データを用いて訓練データを準備する。訓練データ準備部175は、自ら訓練データを作成してよい。あるいは、訓練データ準備部175は、外部の人又は外部のコンピュータに現場データを提供して、それらの人又はコンピュータに訓練データを作成させ、そして、それらの人又はコンピュータから作成された訓練データを受け取ってもよい。
訓練データは、ニューラルネットワークに制御パラメータの計算アルゴリズムを学習させるために使用される。訓練データは、機械学習を行うニューラルネットワークに入力されることになる問題データと、そのニューラルネットワークから出力されることが期待される正解データと、の組み合わせを含む。ニューラルネットワークに、例えば、電動機5と作業機械9の特性に応じて最適な制御パラメータを決定させたい場合、問題データには、例えば、それぞれの現場の交流電動機5と作業機械9の特性データが含まれ得る。それらの特性データは、現場データベース173から得ることができる。正解データには、コントローラ17に設定されるべき制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセットが含まれてよい。特に始動用制御パラメータについての正解データは、交流電動機5の始動時の始動電流を最小化し電圧降下を最小化することができるように最適化された値(又は最適近似値)のセットであることが望ましい。この最適値(又は最適近似値)セットも、現場データベース173から得ることができる。例えば、条件的に同様な他の現場で過去に設定された(手動で設定された場合も自動で設定された場合も含み得る)(実用目的で設定された場合も、最適値を探し出すというような研究・開発目的で設定された場合も含み得る)制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセットが、正解データとして使用できる。
ニューラルネットワークに、例えば、現場に既に設定された制御パラメータをより最適なものへ修正させる機能を持たせたい場合、訓練データの問題データには、それぞれの現場で既に設定された制御パラメータの値のセットと、その既設定の下で交流電動機5と作業機械9の始動と停止を実行した時に測定された交流電動機5と作業機械9の状態データとが含まれてもよい。その場合、正解データには、その既設定の制御パラメータの値に対して行うべき修正を示すデータ(例えば、修正後の最適値のセット)が含まれてよい。この修正データも、特に始動用制御パラメータの場合には、交流電動機5の始動時の始動電流をいっそう小さくして電圧降下を小さくすることができるものであることが望ましい。これらの問題データと正解データも、現場データベース173に格納された、例えば、条件的に同様な他の現場で過去に設定された制御パラメータの値、及び、過去に測定された状態データから得ることができる。
ニューラルネットワークに、例えば、電動機5を停止させるか否か及び再始動させるか否かを最適に判断するための制御パラメータを決定させたい場合、問題データには、例えば、それぞれの現場の交流電動機5と作業機械9の特性データ及び状態データが含まれ得る。それらの特性データは、現場データベース173から得ることができる。正解データには、コントローラ17がもつべきべき上記最適な判断のための制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセットが含まれてよい。この最適値(又は最適近似値)セットも、現場データベース173から得ることができる。例えば、条件的に同様な他の現場で過去に設定された(手動で設定された場合も自動で設定された場合も含み得る)(実用目的で設定された場合も、最適値を探し出すというような研究・開発目的で設定された場合も含み得る)制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセットが、正解データとして使用できる。ニューラルネットワークは、学習によって、電動機を停止させるか否か及び再始動させるか否かの判断を、電動機5の現在の状態(例えば、現在の巻線温度など)に基づいて行えるだけでなく、電動機5の将来の状態(例えば、将来の巻線温度など)を予測して、その予測に基づいて上記判断を行えるようにコントローラ17を設定可能になり得る。この予測的な制御により、電動機5の始動と運転はより適切化され得る。
訓練データベース176は、訓練データ準備部175により準備された上記のような訓練データを格納する。
ニューラルネットワーク学習部177は、あらかじめ用意された学習前ニューラルネットワーク185を有する。ニューラルネットワーク学習部177は、その学習前ニューラルネットワーク185に訓練データの問題データを入力し、その学習前ニューラルネットワーク185からの出力データと訓練データの正解データとの間の誤差を求め、その誤差に基づいて学習前ニューラルネットワーク185の計算アルゴリズムを構成する各種パラメータを修正する、という学習セッションを多数回繰り返す。これにより、学習前ニューラルネットワーク185が、最適な制御パラメータを計算するアルゴリズムを学習していく。
所定の学習条件が満たされると学習前ニューラルネットワーク185の学習プロセスが終了する。所定の学習条件として、例えば、学習前ニューラルネットワーク185の出力誤差が十分に小さく、かつ、学習セッションを繰り返すことによる出力誤差の減少分が十分に小さくなったこと、あるいは、所定の回数だけ学習セッションを繰り返したこと、などが採用できる。
ニューラルネットワークデプロイ部179は、ニューラルネットワーク学習部177での学習プロセスを終了したニューラルネットワーク(学習済ニューラルネットワーク)187を、ニューラルネットワーク推論部187にデプロイして、制御パラメータ算出の実用途に学習済ニューラルネットワーク187を利用可能にする。
ニューラルネットワーク推論部181は、現場データベース173から各現場の特性データや、始動と停止の試行時に測定された状態データを読み出して、それらのデータを学習済ニューラルネットワーク187に入力することで、学習済ニューラルネットワーク187から各現場用の制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセット183を出力する。出力された各現場用の制御パラメータの最適値(又は最適近似値)セット183は、現場データベース173に格納され、そして、各現場のコントローラ17に送信される。コントローラ17では、受信された最適値(又は最適近似値)セット183が、制御データベース15に格納され(設定され)、以後、その制御パラメータ設定が始動と停止の制御に利用される。あるいは、ニューラルネットワーク推論部181は、各現場からリアルタイムで現場データ(特に、各現時点での状態データ)を受け取って、リアルタイムで制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセット183を生成して各現場のコントローラ17へ提供することにより、コントローラ17による交流電動機5の始動、運転及び停止動作をリアルタイムで最適制御するように構成されてもよい。
以上のように構成された人工知能システム171を用いることにより、各現場の始動及び運転装置1のコントローラ17に、自動的に制御パラメータの最適値(又は最適近似値)のセットが設定される。
このようにして現場での制御パラメータの自動設定が一旦行われた後、その設定された値を一層に最適化するように修正するようにしてもよい。すなわち、制御パラメータを一旦設定した後に現場で交流電動機5の始動と停止を試行し、その試行時の状態データを測定して人工知能システム171にフィードバックし、そのフィードバックデータを用いて人工知能システム171の学習済ニューラルネットワーク187が、先に設定された制御パラメータを修正した値のセットを再出力し、そして、その修正値のセットを現場のコントローラ17に再設定する、というプロセスを行えるようにしてよい。このプロセスを1回以上行うことで、各現場の制御パラメータをより最適なものに改善することができる。
さらに、現場の動作環境や機械特性の変化(例えば、季節の温度変化による機械油の粘度の変化)に起因する始動時や停止時の状態データの変化を、現場で適宜に測定して人工知能システム171にフィードバックすることで、人工知能システム171が変化後の状況に適した新たな制御パラメータの最適値のセットを再計算し、その新たなセットで現場のコントローラ17のパラメータ設定を更新するようにしてもよい。
特に始動用制御パラメータについては、各現場の電動機5の始動電流を最小化するように、機械学習機能を用いて制御パラメータを適時に最適化することにより、電動機5の無負荷時により頻繁に電動機5を停止することができるようになる。それにより、無駄な消費電をより効果的に削減できるようになる。
ところで、図13では、人工知能システム171内に、1つの学習前ニューラルネットワーク185と1つの学習済ニューラルネットワーク187が示されている。しかし、人工知能システム171が、複数の学習前ニューラルネットワーク185及び/又は複数の学習済ニューラルネットワーク187を備えてもよく、それらを例えば、異なる現場に割り当てる、あるいは、異なる用途に割り当ててもよい(例えば、交流電動機5と作業機械9の特性データの基づいて制御パラメータの最適近似値のセットを算出する用途と、その最適近似値のセットで始動と停止を試行した結果の状態データに基づいて、その最適近似値のセットをより最適に修正する用途、電動機5及び作業機械9の現在状態に応じて電動機5を停止するか否か及び再始動するか否かを判断する用途、など)。
図13では、人工知能システム171内に、機械学習を行うための構成、つまり、訓練データ準備部175、訓練データ176及びニューラルネットワーク学習部177が存在する。しかし、変形例として、人工知能システム171が機械学習を行うための構成をもたず、機械学習を行うための構成は人工知能システム171の外部に設けられてもよい。
図12及び図13では、サーバコンピュータ161及び人工知能システム171が、各現場の始動及び運転装置1の外部に設けられている。しかし、変形例として、サーバコンピュータ161の機能要素の少なくとも一部、又は、人工知能システム171の機能要素の少なくとも一部が、各現場の始動及び運転装置1内(例えば、コントローラ17内)に設けられてもよい。例えば、図13に示された人工知能システム171のうちの少なくともニューラルネットワーク推論部181が、各現場のコントローラ17内に、例えば、記憶装置55に格納されたコンピュータプログラム、特定機能モジュール61、あるいはそれらの組み合わせとして、設けられてもよい。その場合、各現場のニューラルネットワーク推論部181は、その各現場に特化して最適化された関数として訓練された(学習を済ませた)ものであってもよいし、あるいは、他の現場にも適用できるような汎用性をもった関数として訓練されたものであってもよい。また、その場合、各現場のニューラルネットワーク推論部181は、その現場でリアルタイムにセンスされた各種状態データを入力して、リアルタイムにその現場の電動機5の始動及び/又は停止動作を制御するように構成されてよい。あるいは、各現場のニューラルネットワーク推論部181は、他の現場のコントローラ17と通信ネットワークを通じて通信接続可能であって、自現場だけでなく他の現場でセンスされた各種状態データを入力して、それぞれの現場の電動機5の始動及び/又は停止動作を制御するように構成されてもよい。各現場のニューラルネットワーク推論部181内の学習済ニューラルネットワーク187は随時に更新されてよい。
図14は、採用可能な始動電圧パターンの一例として、多段始動電圧パターンの例を示す。
図14に示された多段始動電圧パターン191によると、始動回路11の各相の出力電圧が、初期電圧V0から電源電圧Vsまで、3段以上の多段に分けて段階的に上昇させられる。段数は図14の例では7段であるが、これは一例にすぎず、より多くても少なくてもいい。各段n(n=1, 2, 3, ....)では、出力電圧を昇圧時間Trnをかけて前段電圧Vn-1から現段電圧Vnまで上昇させた後、電流安定時間Tsnの間その現段電圧Vnに保つ。交流電動機5の電流193は、各段において、電圧上昇時に一時的に増大するが、電流安定時間の間に定格電流Ir以下の値に低下して安定し、その後に次段の電圧上昇が行われる。そのため、始動時に電流が過大になって交流電動機5が損傷することが有効に防止される。この多段始動電圧パターン191は、特に、作業機械9のイナーシャ(GDスクエア)が大きい場合に有用である。また、電動機5の始動時の始動電流と電圧降下を最小化することで、無負荷時により頻繁に電動機5を停止できるようにして省電力効果を高める目的からも、多段始動電圧パターン191は有用である。
多段始動電圧パターン191を定義する諸値、例えば、初期電圧Vo、段数n、各段電圧Vn、各段電流安定時間Tsnなどは、始動及び運転装置1のコントローラ17に制御パラメータとして設定されることができる。また、それらのパラメータ値を一旦設定した後、始動と停止を試行して、その時に測定された状態データに応じて、それらの値を修正することもできる。前述したパラメータ設定システム160によりそれらのパラメータ値を自動計算することもできる。特に、前述した人工知能システム171を用いて、電動機5の始動電流を最小化するよう多段始動電圧パターン191を随時に又はリアルタイムに最適化することにより、減電圧始動を用いた電動機5の省電力化の効果をいっそう高めることができる。
以上説明した本発明の一実施形態は従来技術が抱えるさまざまな問題状況の改善に有益である。既に説明したように、ポンプ・ファン・コンプレッサなどの回転機器の場合、低負荷での運転は効率が非常に悪くなる。それゆえ、低負荷時には運転台数を減らして高効率を維持するため、台数制御システムとインバータ制御の組み合わせが多く採用されて来ている。しかし、一例として、コンプレッサの場合、コンプレッサのタイプ(レシプロ、スクリュー、ターボなど)、負荷の変動、並びに、容量制御の種類及び仕方により、負荷特性が変わってくる。最高効率を目指すためには頻繁な起動・停止の繰り返しが理想であるが、それは現状では、圧縮機の寿命を縮める恐れがある。それゆえ、コンプレッサの起動・停止の条件をある程度の幅を持って設定し、インバータ制御を併用している。この状況に対して、本発明の一実施形態は次のような改善を提供できる可能性がある。
・圧力センサにより空気圧力を検知及び予測し、コンプレッサの起動・停止の繰り返しを最適化する。
・複数台のコンプレッサの運転台数を効率的に制御し、最適な空気圧を自動制御する。
・それぞれのコンプレッサの制御を人工知能システムで最適化する。
以上説明した本発明の実施形態は、説明のための単なる例示であり、本発明の範囲をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、上記の実施形態とは違うさまざまな形態で、実施することができる。
例えば、電動機5が無負荷状態にあるとき、電動機5を停止させるか否かを判断するための情報として、電動機5の巻線温度に代えて、又はそれと組み合わせて、電動機5の温度状態に関係する他の情報(例えば、電動機5の他の部分の温度、電動機5の騒音又は振動の大きさ、電動機5の過去の始動を繰り返した頻度、電動機5の過去の始動からの経過時間、電動機5の消費電力、電動機5の回転速度と出力トルク、など)を使用してもよい。
また、電動機5が負荷状態か無負荷状態かを判断するための情報として、作業機械9の運転及び停止指令に代えて、又はそれと組み合わせて、作業機械9の運転又は停止に関係する他の情報(例えば、作業機械9の所定の状態、動作、出力、入力又は機能、電動機5の出力又は入力、又は、外部システムから提供される作業機械9の運転及び/又は停止に関わる命令、要求又は状態、など)を使用することもできる。
本発明は、三相かご型誘導電動機だけでなく、他の種類の交流電動機、例えば三相同期電動機にも適用することができる。