添付の図面で示されるように、および、本明細書でより完全に記載されるように、本発明は生体組織を熱処理するためのシステムと方法を対象としている。これは、治療効果を達成するのに十分なレベルまで組織内の熱の時間経過によって組織温度が短時間で上昇するように選択されたエネルギーおよび適用パラメータを有しつつ、その一方で、永久的な組織損傷を回避するようにあらかじめ定められたレベルよりも下で長期間にわたって平均組織温度を維持する、1つ以上の光線などの放射線によってなされ得る。熱の時間経過が形成されることで、いかなる損傷も引き起こすことなく、熱ショックタンパク質の活性化または生成を刺激し、かつタンパク質修復を促進すると考えられている。
本発明者らは、電磁放射線が、眼疾患に対する有益な効果を達成しつつ、網膜の組織を破壊あるいは破損しないやりかたで網膜組織に適用され得ることを発見した。具体的には、治療的であるが、網膜組織の細胞に対して依然として致死量以下であり、ゆえに目の網膜組織の予防的かつ保護的な処置をもたらす網膜組織中の光凝固を破損しない、レーザー光線が生成され得る。これは、熱ショックタンパク質の刺激と活性化、および網膜組織中のタンパク質修復の促進に、少なくとも部分的によるものであり得ると考えられている。
選択されたパラメータの組み合わせが組織を永久的に破損することなく治療効果を達成するように、光線の各種パラメータを考慮に入れて選択しなければならない。これらのパラメータは、放射線波長、放射線源あるいは網膜上に形成されたスポットサイズの半径、放射パワー、適用持続時間、およびパルス列のデューティサイクルを含む。特に、放射線波長、平均的な放射パワー、放射線源によって網膜上に形成されたスポットサイズ、および、パルス放射線源の列持続時間などの適用持続時間は、組織を破壊することなく、または永久的に損傷することなく、治療効果を達成するために、治療放射線を生成して網膜へ適用する際に、とりわけ重要なパラメータである。
これらのパラメータの選択は、HSP活性化に関するアレニウスが1よりも大きいことを要求することによって決定され得る。同時に、選択されたパラメータは永久的に組織を破損してはならない。したがって、損傷に関するアレニウス積分を用いることもあり、解かれたアレニウス積分は1未満である。あるいは、単位グラムの組織あたりのエネルギー沈着と、数分間にわたって測定されるような温度上昇とに対するFDA/FCCの制約は、永久的な組織損傷を回避するように満たされなければならない。例えば、エネルギー沈着および温度上昇に関するFDA/FCCの要件は広く使用されており、例えば、電磁源について、www.fda.gov/medicaldevices/deviceregulationandguidance/guidancedocuments/ucm073817.htm#attachaで参照され得る。一般的に言えば、6°C~11°Cの間での組織温度上昇は、熱ショックタンパク質を活性化するなどの一方で、長時間、例えば、6分間などの数分間にわたって、1°C以下などのあらかじめ決められた温度未満に、平均組織温度を維持することで、治療効果を生み出すことができる。
上記のように、治療放射線の波長は、決定され選択されなければならないパラメータのうちの1つである。可能な波長帯は、下端における網膜の視覚色素などの組織による増加した吸収で、および上端における増加した水の吸収に関連づけられる減少したメラニン吸収によって、決定される。本発明のプロセスは様々な組織を処置するために使用され得るが、眼の障害と疾患、とりわけ、網膜の障害を処置するために特に適していることがわかっている。したがって、本明細書に記載されたパラメータは、特そのような網膜の病気の処置に特に適している。
図1に関して、図1は、血液、RPEメラニン、黄斑色素、水晶体、水、および、長波長感受性(LWS)ならびに長波長感受性(MWS)視覚色素による波長のスペクトルに沿った放射線の吸収を例証する。図1は、光学密度、あるいは、単位当たりの吸収長に、光スペクトル内などの放射線の400nm~750nmの波長間の波長に応じた吸収長を掛けた積を表す。図1は、650nmよりも上では、吸収は実質的にすべて、RPEのメラニンによるものであることを示している。およそ570nmでは、LWSとMWSの色素の光学密度と血液の合計は、メラニンの光学密度を超える。これは望ましいことではない。なぜなら、患者は450nm未満の視覚色素の吸収により処置中に視覚的な効果を経験するからであり、吸収は主としてRPEメラニン、血液、および水晶体による。しかしながら、水晶体による吸収は望ましくない。なぜなら、それは水晶体の加熱を引き起こし、それが水晶体を含むタンパク質の変性につながることもあるからである。したがって、本発明のプロセスによって現実的に使用可能な低い波長限界は、視覚色素および他の吸収体による望ましくない吸収によって決定される。結果的に、より低い極端な波長限界は、メラニンと視覚色素光学密度の合計が比較できる、およそ570nmになる。しかしながら、好ましい低い波長限界は、吸収が視覚色素吸収のないメラニンによって占められる600nmになり、したがって、患者が処置中に視覚障害を経験するのを防ぐ。
放射線治療の治療効果は、RPE温度のレーザーにより誘導された上昇によるものであるRPE内でのHSPの活性化によると考えられている。波長の所望の動作範囲では、この温度上昇は主として薄層による放射線吸収が原因である(RPEの前方部分でおよそ6ミクロンのメラニン)。図2は、任意の単位(AU)で250nm~700nmの間の波長に応じたRPEメラニンの吸光度を示す。プロットは指数関数によってフィットし得ることが分かっている:exp[-0.0062λ(nm)]。吸収係数は、λ=810nmで104cm-1であり、その結果、αメラニン(λ)=104 exp[-0.0062(λ(nm)-810)]であることがわかっている。したがって、波長が増えるにつれて、吸光度は急激に低下する。1300nmにおいて、例えば、メラニン吸光度はわずか0.048に過ぎず、これは、810nmでの値である。810nmにおいて、メラニンにより吸収される入射放射線の割合は6%である。1300nmにおいて、これはわずか0.3%まで落ちる。このことは、1300nmにおいて、この効果のみによる放射パワーが、同じ温度増加を達成するための810nmにおけるパワーと比較して、20倍増加しなければならなくなるということを意味する。
波長の増加に伴うメラニン吸収度の減少に加えて、硝子体における水による吸収は増加する波長(49nm~1mmの間)に応じた水の吸収係数が図3に示されている。図3で見られるように、放射線に対する水の吸収係数は、810nmで0.03cm-1から1300nmで0.3cm-1まで増加する。このことは、波長が810nmを超えて増えるにつれて、目の水晶体と硝子体の温度が任意の入力レーザーパワーに対してさらに上昇することを意味している。400nmと1500nmの間では、図3から、α水(λ)/α(810)≒(λ/810)5、つまり、α水(λ)≒0.03[λ((nm)/810]5のように思われる。
ここで図4Aと図4Bを参照すると、810nmと1300nmの波長に関する平均放射パワーと照射時間に応じた眼の水晶体における放射線誘発性の温度上昇が示される。プロットは、0~5ワットの範囲のパワーと、0~0.8秒の範囲の照射時間に関するものである。810nmから1300nmまで波長を増加させることで、水晶体の温度上昇が一桁増大することが図4Aと図4Bから分かる。同時に、パワーと照射時間に対して水晶体の結果として生じる温度上昇は、いずれの波長に対してレンズタンパク質の変性を引き起こさず、したがって、810nmが好ましい波長になることになるが、約1300nmへの波長の増加は水晶体に損傷を与えることになる。
しかしながら、網膜の近くのより長い波長での温度増加の規模と効果はより大きくなり得る。この理由は、水晶体の近くでは、放射線の半径が水晶体の半径とほぼ同じで、約3mmであるからである。しかしながら、網膜の近くでは、放射線ははるかに小さな半径に集中する。水晶体の近くでは、照射時間中の熱拡散距離は半径よりもずっと小さいが、網膜の近くでは、温度上昇は熱拡散によって弱まるという事実にも関わらず、半径の差は、網膜の近くではるかに大きな温度上昇を引き起こす。水晶体付近の熱拡散により、水の吸収によって誘導される温度上昇は、スポットサイズとは本質的に無関係である。
図5は、平均放射パワーに応じた網膜付近の水温の上昇を例証しており、上の曲線は1300nmの波長であり、下の曲線は810nmの放射線波長に対するものである。パワーは0~5ワットで変動する。図5は、810nmの波長では、温度上昇が小さく、網膜を破損しないはずであることを示している。1300nmの波長では、平均パワーが増加するにつれて、温度上昇はかなり顕著になり得る。図5で見られるように、温度上昇は2ワットのパワーについて8Kである。それにもかかわらず、以下により十分に示されるように、この規模の平均パワーレベルが必要とされる可能性は少ない。これに応じて、本発明の所望の平均パワーについては、放射線波長を約1300nmに増加させることは、網膜付近の水温を、損傷を受けるポイントまで上昇させるはずである。
別の考察は、RPEに達する前の水中での放射パワー喪失の量である。網膜でのパワーは係数exp[-αL]によって眼に入射するパワーから得られ、このとき、αは水の吸収係数であり、Lは眼を通る距離である:
・α(810nm)=0.03cm-1
・α(1300nm)=0.3cm-1
・L=2.5cm
したがって、810nmでは、入射放射線のexp[-0.03x2.5]=0.93が網膜に到達するが、1300nmでは、入射放射線のexp[-0.3x2.5]=0.47しか網膜に到達しない。
これに応じて、波長がほぼ1300nmまで増加するにつれて、処置の効率はかなり低下する。RPEメラニンの吸収係数が2つの波長で同じであった場合には、RPEでの同じ温度増加を得るために、810nmのときの2倍強力な放射線源が採用されなければならないことになる。しかしながら、メラニン吸収係数は20倍小さい。組み合わされた2つの効果は、同じ温度上昇を達成するためには、放射パワーを約40倍増大させられなければならないということを意味する。
前述のことから、長い波長を用いる2つの主要な結果、すなわち、メラニン吸収の減少と、水の吸収の増加による硝子体における減衰の量の増加があることは明らかである。必要とされた放射パワーに対するメラニン吸収の減少の影響を評価するために、HSPを活性化する温度上昇がPαメラニン(Pは網膜に入射するパワーである)に比例することを認識することで十分である。硝子体中の減衰の増加の影響を評価するために、我々は単に、網膜に入射するパワーがexp[-α水L]だけ眼に入射するパワーに関連付けられると記載する。したがって、我々が810nmで眼に入射する必要とされる放射パワーをp(810)と指定する場合、任意の他の波長で必要とされるパワーは、おおよそp(λ)=p(810)Exp[0.0062(λnm-810)]Exp[0.075{λnm/810}5]と書くことができる。
600nmと1300nmの波長間の比率p(λ)/p(810)は、図6にプロットされる。放射線波長が増加するにつれて、増加した水の吸収と減少したメラニン吸収の両方により、HSP活性化に必要とされるパワーは大幅に増加することが図6から見て取れる。波長が増加するにつれてHSP活性化に必要な放射パワーが非常に大きく増加するため、本発明のプロセスで使用可能な波長の合理的な上限は1300nmであることが前記から分かる。しかしながら、波長のより望ましい上限は1100nmであり、このとき、必要とされるパワーはその短波長よりもまだ大きいが、高波長と同じ程ではない。
前述のことから、本発明は、570nm~1300nmの広範囲の波長で実施され得る。しかしながら、波長のより好ましい範囲は600nm~1100nmである。波長のさらにより好ましい範囲は700nmから900nmであり、とりわけ、およそ810nmでの動作波長が好ましい。これらの波長では、メラニン吸収は主として望ましいRPEでの加熱により支配的であり、その波長は、顕著な吸収がより短い波長では視覚色素において、あるいはより長い波長では水において生じる波長から安全な距離にある。
波長に加えて、当業者が本発明を実施することができるように指定される必要がある他のパラメータは、1つのスポットでの照射の期間、網膜での放射線の単一のスポット半径、および網膜での平均パワーPである。
あるいは、平均放射パワーPは網膜の平均放射パワー密度P1と取り替え得、このとき、2つの量は単純に、P1=P/(πR2)によって関連づけられ、Rは網膜上の放射線スポットの半径を指定する。
本発明で使用されるタイプの反復的なマイクロパルスシステムについて、網膜の平均放射パワー密度(フルエンス)P1は、マイクロパルス列のデューティサイクルdcを乗算された網膜でのピーク放射パワー密度に関連付けられる。網膜に送達されるピーク放射パワーは、単一スポットのピーク放射「ダイヤルパワー(dial power)」に、光学システムの透過効率ηをかけた値に等しい。効率は典型的には約80%である。レーザーがN個のスポットのグリッドを照射し、Pピークの総ピークダイヤルパワーを有する場合、P1=η(dc Pピーク/N)/(πR2)である。
図7A-図7Cは、スポットサイズと放射線持続時間に対する必要とされる平均放射パワーの依存を示す。各図について、2つのパワー、すなわち、平均的な必要処置パワー(下の曲線)であるPリセットと、超えると顕著な損傷が生じ得る最大の許容可能な平均処置パワー(上の曲線)であるP損傷が示されている。下の曲線は、1のリセットされたアレニウス積分を与えるパワーを示す。上の曲線は、1の損傷閾値アレニウス積分を与える。放射線持続時間は0.03秒~0.8秒まで変動する。810nmの放射線波長が仮定される。図7Aは、放射線持続時間に応じた直径10ミクロンの網膜スポットにおけるワットでの平均パワーを例証する。図7Bは、放射線持続時間に応じた200ミクロンの網膜スポット直径におけるワットでの平均パワーを例証する。図7Cは、放射線持続時間に応じた500ミクロンの網膜スポット直径におけるワットでの平均パワーを例証する。
図8A-図8Cは、スポットサイズとマイクロ列持続時間に対する、網膜において必要とされる放射パワー密度(フルエンス)の依存を例証する。これに応じて、図8Aは10ミクロンの網膜のスポット直径を有し、図8Bは200ミクロンの網膜のスポット直径を有し、および図8Cは500ミクロンの網膜のスポット直径を有する。もう一度、810nmの放射線波長が使用される。図8A-図8Cは、スポットの領域によって図7A-図7Cのパワーを単に分割することにより、図7A-図7Cから直接得ることができるが、それらは参照しやすいように含まれている。
図7と図8は、処置持続時間が減少するにつれて、必要とされる力とパワー密度が劇的に増加することを示す。さらに、処置される網膜のスポットが大きければ大きいほど、必要とされる平均パワーはますます大きくなる。さらに、処置される網膜のスポットが大きければ大きいほど、必要とされる平均パワー密度はますます小さくなる。500ミクロンのスポットでのパワーは10ミクロンのスポットでのパワーよりも約75倍大きいが、平均パワーは過剰なようには見えない。同様に、10ミクロンのスポットについて、必要とされるパワー密度は、500ミクロンのスポットの必要とされるパワー密度の約34倍であるが、より高いパワー密度でも過剰であるようには見えない。しかしながら、これらの処置スポットサイズは、本発明に合わせて使用されるサイズの近似する上端と下端を表す。
しかしながら、処置スポットが小さければ小さいほど、網膜の所定の領域を処置するために、ますます多くのスポットが必要とされるということに着目すべきである。このことはより長い総処置時間を必要とし、それは好ましくない。同様に、スポットの処置時間が長ければ長いほど、網膜の所定の望ましい領域を処置するのに必要な総時間はますます長くなる。
網膜組織を破壊したり、または永久的に損傷したりすることを避けるために、考慮に入れなければならない安全限界もある。パワー密度の関連する増加を伴う放射線持続時間がどれくらい短くなり得るかには制限がある。1010-1012ワット/cm2の近赤外線レーザーのナノ秒またはピコ秒のパルスについて、こうした短パルスは、破壊的な衝撃波を生成する組織内のプラズマを作ることが示されている。組織の爆発を伴う光熱分解は、0.0005秒の持続時間の585nmのパルスレーザーで生じることが示されている。アルゴンレーザー(514nm)を用いた研究は、熱効果および衝撃波/気泡生成効果が原因のRPEに対する損傷がいつ生じるかを確かめるために行われた。5マイクロ秒のパルスについては、RPE細胞損傷はマイクロバブル形成と常に関連していたことが分かった。50マイクロ秒のパルスについては、損傷は主に熱変性効果によるものであったが、複数のマイクロバブルも形成されている。500マイクロ秒よりも長いパルスについては、損傷は熱効果によるものであった。損傷メカニズムは長いパルスの純粋に熱的なメカニズムから、短いパルスの熱力学的メカニズムまで変化し、その変遷はおよそ18マイクロ秒で生じる。 さらに、短時間の赤色、または、長い波長の連続波長レーザー適用(CWを参照)は、熱爆発/バブル形成によってブルッフ膜を破裂させるリスクが高いと知られており、それが脈絡膜血管新生と視覚喪失を引き起こす可能性があることも分かっている。
前述のことから、我々は網膜スポットと治療時間について、およそ810nmの波長放射線に対して、長い総治療時間と大きな放射線パワーとパワー密度を避けるために、0.03秒から0.8秒の広範囲の治療時間が使用され得、0.1秒から0.5秒の治療時間の範囲が好ましいと結論づけることができる。本発明に合わせて使用可能な広範囲の網膜スポットサイズは、直径が10ミクロンから700ミクロンである。しかしながら、網膜スポットサイズのより好ましい範囲は直径100~500ミクロンである。
以下の表1-5は、本発明を実施するために使用可能な波長の範囲内の様々な波長に対して範囲の両極端において必要とされる処置(リセット)パワー、損傷力、処置(リセット)パワー密度、および損傷パワー密度を示す。
表1。網膜の放射線スポット直径での照射治療時間tFに応じた、処置パワーPリセット、損傷パワーP損傷、網膜P1リセットでの処置パワー密度、および網膜P1損傷での閾値損傷パワー密度(λ=570nm)。パワーはワットであり、パワー密度はワット/cm2であり、時間は秒であり、スポット直径はミクロンである。tFの値は示唆された処置範囲の両極端のものである。
表2。網膜の放射線スポット直径での照射治療時間tFに応じた、処置パワーPリセット、損傷パワーP損傷、網膜P1リセットでの処置パワー密度、および網膜P1損傷での閾値損傷パワー密度(λ=600nm)。パワーはワットであり、パワー密度はワット/cm2であり、時間は秒であり、スポット直径はミクロンである。tFの値は示唆された処置範囲の両極端のものである。
表3。網膜の放射線スポット直径での照射治療時間tFに応じた、処置パワーPリセット、損傷パワーP損傷、網膜P1リセットでの処置パワー密度、および網膜P1損傷での閾値損傷パワー密度(λ=810nm)。パワーはワットであり、パワー密度はワット/cm2であり、時間は秒であり、スポット直径はミクロンである。tFの値は示唆された処置範囲の両極端のものである。
表4。網膜の放射線スポット直径での照射治療時間tFに応じた、処置パワーPリセット、損傷パワーP損傷、網膜P1リセットでの処置パワー密度、および網膜P1損傷での閾値損傷パワー密度(λ=1100nm)。パワーはワットであり、パワー密度はワット/cm2であり、時間は秒であり、スポット直径はミクロンである。tFの値は示唆された処置範囲の両極端のものである。
表5。網膜の放射線スポット直径での照射治療時間tFに応じた、処置パワーPリセット、損傷パワーP損傷、網膜P1リセットでの処置パワー密度、および網膜P1損傷での閾値損傷パワー密度(λ=1300nm)。パワーはワットであり、パワー密度はワット/cm2であり、時間は秒であり、スポット直径はミクロンである。tFの値は示唆された処置範囲の両極端のものである。
本発明者らは、対応する適切な持続時間、処置スポットサイズ、および網膜での平均放射パワーあるいは平均放射パワー密度を備えた、上に示される範囲内のコヒーレント(レーザー)ビームあるいは非コヒーレント光線などの1つ以上の放射線ビームを生成することは、目に見える火傷領域あるいは組織破壊のない望ましい網膜の光刺激をもたらすことを発見した。放射線生成とエネルギー適用パラメータの適切な選択は、網膜組織の破壊、熱傷、あるいはそれ以外の方法での破損を回避するために、少なくとも治療用レベルであるが細胞または組織の致死レベル未満以下に網膜の組織を上昇させる。これらのパラメータの適切な組み合わせは、閾値下で致死下のマイクロパルス放射線ビームを生成し、これが網膜または他の生体組織に適切に適用されると、熱は、組織を破壊することなく、治療効果をもたらすほど十分に組織を刺激する。本発明に関して本明細書で使用される「閾値下」という用語は、いかなる目に見える火傷領域あるいは組織破壊が形成されないということだけではなく、処置された部位が火傷、病変、あるいは組織損傷のいかなる兆候も眼底検査あるいは血管造影で示さないことも意味しており、ゆえに、本発明者らによって「正確な閾値下」の網膜の光刺激と命名されている。したがって、本発明は、損傷または視覚喪失のリスクなく、中心窩などの敏感な領域を含む網膜全体を処置するために使用され得る。これは、本明細書では「閾値下のダイオードマイクロパルスレーザー療法(SDM)」と呼ばれる。
SDMはレーザーにより誘発された網膜損傷(光凝固)を生成せず、既知の有害な処置効果がなく、多くの網膜障害(糖尿病性黄斑浮腫(DME)増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)による黄斑浮腫、中心性漿液性網脈絡膜症(CSR)、薬剤耐性の逆転、および乾燥した加齢黄斑変性、シュタルガルト病、錐体ジストロフィー、および網膜色素変性症などの進行性の変性網膜症の予防療法)における効果的な処置であることが報告されている。SDMの安全性は、SDMが、初期の中心窩を含むDMEによる視力喪失のリスクを減らすために、20/20の視力の目の中で中心窩的にわたって(transfoveally)使用され得るようなものである。
SDMが作用し得る際に介する機構は、熱ショックタンパク質(HSP)の生成または活性化である。ほぼ無限の様々な起こりうる細胞異常が考えられるにもかかわらず、すべてのタイプの細胞は、共通する、かつ、高度に保存された修復の機構:熱ショックタンパク質(HSP)を共有する。HSPは、ほとんどあらゆるタイプの細胞のストレスあるいは損傷によって、即座に、数秒から数分で誘発される。致死的な細胞障害のない状態において、HSPは、生細胞を修復し、より正常な機能的状態へ回復させるのに極めて有効である。HSPは、一時的なものであり、一般に数時間でピークに達し、数日間持続するが、その効果は長く永続することもある。HSPは多くの障害の共通因子である炎症を減らす。
レーザー治療法、またはその他放射線治療法は、HSPの生成または活性化を誘発し、サイトカイン発現を変化させることができる。致死的でない細胞ストレス(レーザー照射など)が突発的かつ重度なものであればあるほど、HSP活性化はより急速かつ強固なものとなる。故に、各SDM曝露によりもたらされた非常に急激な変化率(~7℃の上昇、各々が100μsのマイクロパルス、または70,000℃/secを伴う)での爆発的な(a burst of)繰り返しの低温の熱スパイクは、具体的には連続波レーザーによる閾値以下の処置への非致命的な曝露と比較して、HSPの活性化を刺激することに特に有効であり、低い平均組織温度上昇のみを重複させることができる。
550nm未満のレーザー治療法またはその他放射線治療法は、漸増的に細胞毒性の光化学効果をもたらす。810nmでは、SDMは光化学的というよりもむしろ、光熱的な細胞ストレスを生成する。故に、SDMは組織を傷つけることなく組織に影響を及ぼすことができる。SDMの臨床的な利点は故に、主として病的以下の光熱的な細胞HSP活性化により生成される。機能障害の細胞において、SDMによるHSP刺激の結果、標準化されたサイトカイン発現、およびその結果として改善された構造と機能がもたらされる。その後、この「低強度」レーザー/組織の相互作用の治療効果は、「高密度」レーザー適用によって増幅され、病状の領域を全て含む大きな組織領域を密に/集密的に処置することにより標的組織領域の機能障害の細胞全てを動員し、それによって処置効果を最大限にする。これらの原理は、本明細書に記載されるSDMの処置戦略を定義する。
正常に機能する細胞は修復を必要としないため、正常細胞中のHSP刺激は、顕著な臨床効果を有していない傾向がある。SDMなどの近赤外レーザー効果の「病原性-選択性(patho-selectivity)」は、様々な細胞型上の病気の細胞に影響を及ぼすが正常な細胞には影響を及ぼさず、SDMの臨床観察と一致している。SDMは、網膜レーザーモダリティの中で固有の臨床的に広範な治療領域を有することがと報告されており、American National Standards Institute“Maximum Permissible Exposure”の予測と一致している。SDMは、エントロピー(entropic)タンパク質のアンフォールディングおよび脱凝集などの直接的な光熱効果を引き起こし得る一方で、HSP媒介性の修復の臨床的に安全かつ有効な刺激に対して最適化されているように思われる。
上記のように、HSPのSDM刺激が疾患プロセスに関して非特異的である一方で、HSPを媒介とする修復の結果は、機能不全の状態に特異的なそれ自体の性質によるものである。HSPは、間違いが何であっても、間違ったものを修復する傾向がある。故に、網膜の状態におけるSDMの観察された効果は、BRVO、DME、PDR、CSR、年齢関連および遺伝学的な網膜症、並びに薬物耐性のあるNAMDほど広く異なっている。概念的に、この能力は、SDM作用の「デフォルトにリセット(Reset to Default)」モードの一種と考慮され得る。細胞の機能が危機的である広範な障害について、SDMは、HSPを媒介とする細胞の修復によって、(「工場出荷時の設定」への)「リセット」を誘発させることにより細胞の機能を標準化する、
発明者らは、加齢黄斑変性(AMD)に苦しむ患者のSDM処置が、進行を遅らせ、またはAMDの進行を止めることも可能であることを発見した。患者の大半に、SDM処置後に動的な機能的対数MARの薄明視の視力および薄明視の対比視力における有意な改善が見られた。SDMは網膜色素上皮(RPE)の機能を標的化し、保存し、かつ「標準化する」(正常に近づける)ことにより作用すると考えられている。
SDMはまた、全身性糖尿病の持続性にもかかわらず、処置関連の損傷または副作用を生じさせることなく、糖尿病性網膜症の疾患状態の発現を停止または逆転させることが示されている。これに基づき、SDMは、工場出荷時の設定を回復するために電子デバイスの「リセット」ボタンを押すことと同様に、糖尿病に罹患したRPE細胞において通常の細胞機能への回帰およびサイトカイン発現を誘発することによって、作用し得ると仮定されている。上記の情報と研究に基づいて、SDM処置は、標的組織における熱ショックタンパク質(HSP)活性化によってサイトカイン発現に直接影響を及ぼし得る。熱ショックタンパク質が眼組織以外の体組織における多くの異常状態に応答する際にある役割を果たすことから、そのような異常状態、感染症などを処置する際に同様の系および方法を有利に使用できると信じられている。
上記に示されるように、閾値以下のダイオードマイクロパルス光(SDM)の光刺激は、眼組織中のわずかにミスフォールドされたタンパク質の直接修復を刺激するのに有効であった。HSP活性化に加えて、これは別の方法でも生じ得る。なぜなら、熱の時間経過の形態においてマイクロパルスにより引き起こされる温度中のスパイクがタンパク質内部の水の拡散を可能にし、これにより、ペプチド-ペプチド水素の結合がタンパク質をその自然状態に戻すのを防ぐことが可能となる。タンパク質への水の拡散の結果、抑制的な水素結合の数が約1000倍増加する。故に、このプロセスは、他の組織および疾患にも同様に都合良く適用可能であると考えられている。
上記で説明されるように、標的組織に適用されるエネルギー源はエネルギーパラメータおよび動作パラメータを有しており、これらパラメータは、治療効果を達成しつつ組織を永久的に傷つけないように決定および選択されなければならない。レーザー光線などの光線エネルギー源を使用して、例えばレーザー波長、レーザー処置スポットの半径、平均レーザーパワー、および合計パルス列持続時間といったパラメータを考慮に入れなければならない。こうしたパラメータのうち1つの調節または選択は、少なくとも1つの他のパラメータに対する効果を備える場合もある。
図9Aと図9Bは、レーザー源半径(0.1cm~0.4cm)およびパルス列持続時間(0.1~0.6秒)と比較されるような、平均パワーをワットで示すグラフを例証している。図9Aは880nmの波長を示し、図10Bは1000nmの波長を有する。これらの図において、必要とされるパワーは、レーザー源の半径が減少し、合計列持続時間が増大し、および波長が減少するにつれて単調に減少することが確認できる。レーザー源の半径の好ましいパラメータは1mm~4mmである。880nmの波長に対して、パワーの最小値は0.55ワットであり、レーザー源の半径は1mmであり、合計パルス列持続時間は600ミリ秒である。レーザー源の半径が4mmであり、合計パルス列持続時間が100ミリ秒である場合、880nmの波長に対するパワーの最大値は52.6ワットである。しかし、1000nmの波長を有するレーザーを選択する場合、最小限のパワー値は0.77ワットであり、レーザー源の半径は1mmであり、合計パルス列持続時間は600ミリ秒であり、および、レーザー源の半径が4mmであり、合計パルス持続時間が100ミリ秒である場合、最大のパワー値は73.6ワットである。個々のパルスの間の対応するピークパワーは、デューティサイクルによって割ることによって平均パワーから得られる。
加熱される組織部分の量は、波長、関連組織における吸収長、およびビーム幅によって決定される。合計パルス持続時間および平均レーザーパワーは、組織を暖めるために送達される総エネルギー、あるいは組織の領域ごとのパワー密度を決定し、パルス列のデューティサイクルは、関連するスパイク、またはピーク、平均レーザーパワーに関連するパワーをもたらす。好ましくは、およそ20~40ジュールのエネルギーが各立方センチメートルの標的組織により吸収されるように、パルスエネルギー源のエネルギーパラメータが選択される。
吸収長は、網膜の色素上皮中の薄いメラニン層において非常に小さい。身体の他の部分において、吸収長は全体的にさほど小さくない。400nm~2000nmに及ぶ波長において、侵入深さおよび皮膚は0.5mm~3.5mmの範囲内にある。ヒト粘液組織への侵入深さは0.5mm~6.8mmの範囲内にある。従って、加熱された量は、放射線源が置かれる外側表面または内側表面に限定され、深さは侵入深さに等しく、横方向の寸法は放射線源の横方向の寸法に等しい。光線エネルギー源が外側表面の近くまたは内側接触可能表面の近くにある病変組織を処置するために使用されるので、1mm~4mmであり、かつ880nmの波長で作動するソース半径は、およそ2.5mmの侵入深さをもたらし、1000nmの波長で作動するソース半径はおよそ3.5mmの侵入深さをもたらす。
標的組織を最大約11℃にまで、1秒未満といった短期間にわたり加熱することで、本発明の治療効果を生み出しつつ、標的組織の平均温度を6℃未満または1℃未満などの低い温度範囲に、数分などの長時間にわたって維持することが可能であると、判定されている。デューティサイクルおよび合計パルス列持続時間の選択は、熱が消散し得る時間間隔を提供する。10%未満、および好ましくは2.5%~5%のデューティサイクルは、100ミリ秒~600ミリ秒の合計のパルス持続時間にわたり有効であることが分かった。図10Aと図10Bは、0.1cm~0.4cmの半径を有するレーザー源に対する10℃から1℃への減衰までの時間を例示し、波長は図10Aでは880nmであり、図10Bでは1000nmである。減衰までの時間は880nmの波長の使用ときには短いが、何れかの波長は、恒久的な組織損傷を引き起こすことなく本発明の利益を達成するための許容可能な要件および動作パラメータの範囲内にあることが、確認できる。
総照射期間中に所望の標的部分の平均温度が少なくとも6℃~最大11℃、および好ましくは約10℃に上昇した結果、HSP活性化が生じることが分かった。標的組織温度の制御は、ソースおよび標的パラメータを選ぶことによって判定され、その結果、HSP活性化に対するアレニウス積分は1より大きく、一方で同時に、損傷を回避するための保存的FDA/FCC要件への遵守を保証し、あるいは損傷アレニウス積分が1未満となる。
恒久的な組織損傷を回避するべく保存的FDA/FCCの制約を満たすために、光線および他の電磁放射線源に対して、6分の期間にわたる標的組織の平均温度上昇は1℃以下である。上記の図10Aと10Bは、加熱された標的部分における温度が、約10℃の温度上昇からの熱拡散によって1℃に減少するのに必要とされる典型的な減衰時間を例示しており、図10Aに見られるように、波長が880nmでありかつソース直径が1ミリメートルである場合、温度減衰時間は16秒である。ソース直径が4mmである場合、温度減衰時間は107秒である。図10Bに示されるように、波長が1000nmである場合、温度減衰時間は、ソース直径が1mmであるときには18秒であり、ソース直径が4mmであるときには136秒である。これは十分に、6分以下などの数分にわたって維持されている平均温度上昇の時間内にある。標的組織の温度が、例えば約10℃にまで、非常に速く、例えば組織へのエネルギー源の適用中に1秒にも満たない間に上昇する一方で、比較的低いデューティサイクルは、組織に適用されたエネルギーのパルス間の比較的長い期間を提供し、および、比較的短いパルス列持続時間は、永久的な組織損傷が存在しない、6分以下などの数分を含む比較的短期間内での十分な温度の拡散と減衰を確かなものとする。
組織の吸収特性は相違する。組織の含水量は組織のタイプごとに変動し得るが、処置を設計する際に臨床医によって広く使用される組織パラメータの公開を可能にした正常条件または正常に近い条件において組織の特性の均一性が観察される。以下は生物媒体中の電磁波の特性を例示する表であり、表6は、高含水量を有する筋肉、皮膚、および組織に関し、および表7は、低含水量を有する脂肪、骨、および組織に関する。
エネルギー送達のパルス列モードは、治療上のHSPの活性化およびタンパク質修復の促進が関係する限り、エネルギー送達の単一パルスまたは段階的なモードとは異なる利点を有する。この利点を考慮する2つの考察が存在する。第一に、SDMエネルギー送達モードにおけるHSP活性化およびタンパク質修復に対する大きな利点は、およそ10℃のスパイク温度の生成から生じる。この大きな温度上昇には、活性化されるHSPの数、およびタンパク質修復を促進するタンパク質への水拡散の速度を定量的に記述する、アレニウス積分に対する大きな影響がある。これは、温度が大きな増幅効果を伴う指数関数(exponential)考慮するためである。
温度上昇が長い間高い値(10℃以上)に留まらないことが重要であり、なぜならば、そのことがFDAおよびFCCの要件に違反するためであり、この要件においては分単位の期間にわたり平均温度上昇が1℃未満でなければならないとされている。
エネルギー送達のSDMモードは、パワー、パルス時間、パルス間隔、および処置される標的領域の容積の賢明な選択によって、これらの先の考察を両方とも一意的に満たす。長期間の平均温度上昇が電磁放射線エネルギー源に対して1℃以下の長期間のFDA/FCC限界を超えないように、温度はかなり急速に約10℃の高い値から減衰しなければならないので、治療領域の容積が関与する(enters)。
ここで図11を参照すると、SDMを統合する、レーザー光などの電磁エネルギー放射線を生成するためのシステムの概略図が示される。参照符号(20)により全体的に言及されるシステムは処置放射線発生装置(22)を備えており、例えば、好ましい実施形態において810nmの近赤外マイクロパルスダイオードレーザーを備えている。処置放射線が570nm~1300nmの波長を有する電磁放射線を含む場合があり、そのため、一貫した光線または非コヒーレント光線を含み得ることが理解されるであろう。しかしながら、一貫したレーザービームが特に好ましく、本明細書中の説明において一例として使用される。
レーザーは、光学レンズおよび/またはマスク、あるいは複数の光学レンズおよび/またはマスク(24)を通過するレーザー光線を必要に応じて生成する。レーザープロジェクター光学素子(24)は、患者の標的組織上にレーザービーム光を投射するために、形成された光線を送達装置(26)に通過させる。(26)と標識されたボックスは、レーザービームプロジェクターまたは送達装置の他、内視鏡などの視認システム/カメラの両方を表わすことができ、あるいは使用時に2つの異なるコンポーネントを含むことが理解される。視認システム/カメラ(26)は、レーザー(22)、光学素子(24)、および/または投射/視認コンポーネント(26)を操作するために、必要なコンピュータ化されたハードウェア、データ入力部、および制御部なども含み得る表示モニター(28)にフィードバックを提供する。
ここで図12を参照すると、一実施形態において、複数の放射光線が生成され、その各々は、標的組織温度が制御可能に上昇されることで標的組織を破壊しまたは恒久的に損傷させることなく治療的に処置することができるように選択されたパラメータを有する。これは例えば、レーザー光線(30)を、選択されたパラメータを有する単一のレーザー光線(30)から複数のレーザー光線を回折しあるいはそうでなければ生成する光学素子に通過させることにより行われ得る。例えば、レーザー光線(30)はコリメータレンズ(32)、次いでマスク(34)を通過し得る。特に好ましい実施形態において、マスク(34)は回折格子を含む。マスク/回折格子(34)は、幾何オブジェクト、またはより典型的には、同時に生成された複数のレーザースポットの幾何パターン、あるいは他の幾何オブジェクトを生成する。このことは、参照符号(36)により標識される複数のレーザー光線により表わされる。代替的に、複数のレーザースポットは、複数のファイバー光導波路により生成され得る。
レーザースポットを生成する方法は何れも、非常に広い処置領域にわたって大多数のレーザースポットを同時に生成することを可能にする。実際に、非常に多数のレーザースポット、おそらくは何十または何百以上もの数が、標的組織の所定の領域、あるいは潜在的に標的組織全体をも覆うべく同時に生成され得る。本発明は、複数の同時に生成かつ適用される治療用光線またはスポット、例えば何十または何百もの数のビームまたはスポットを、パラメータとして使用することができ、本発明の方法は、治療上有効ではあるが、非破壊的でありかつ非恒久的な破壊を行わない処置をもたらす。大きなレーザースポットの適用に関連すると知られる特定の欠点および処置リスクを回避するなど、広い一連の同時に適用される、小さく分離されたレーザースポットの適用が望ましい場合がある。
利用されるレーザーの波長と同等の形状を有する光学的特徴を使用、例えば、回折格子を使用することで、非常に大きな標的領域に対する大多数のレーザースポットの同時適用を可能にする量子力学的効果を活用することが可能である。そのような回折格子により生成された個々のスポットは全て、各スポットに対するパワー変動が最小である、入射ビームと類似した光学的形状である。結果として、十分な放射照度を伴う複数のレーザースポットにより、大きな標的領域にわたって同時に、無害である上に有効な治療適用がもたらされる。本発明はまた、他の回折光学素子により生成される幾何オブジェクトおよびパターンの使用を熟考する。
マスク(34)を通過するレーザー光は回折して、図12において(36)と標識されたレーザー光線により示される、マスク(34)から離れた距離にある周期的パターンをもたらす。単一のレーザービーム(30)は故に、スポットの望ましいパターンあるいは他の幾何オブジェクトを作り出すように、何十または何百もの個々のレーザービーム(36)へと形成されている。これらのレーザービーム(36)は追加のレンズ、コリメータ(38)および(40)などを通過して、レーザー光線を伝送しかつ望ましいパターンを形成し得る。そのような追加のレンズ、コリメータ(38)および(40)などは更に、必要に応じてレーザービーム(36)を変形させかつ再配向させることができる。
光学マスク(34)の形状、間隔、およびパターンを制御することによって、恣意的パターンが構築され得る。パターンおよび露光スポットは、光工学分野の専門家による適用要件に従って望まれるように、恣意的に作成かつ修正され得る。フォトリソグラフィー技術、特に半導体製造の分野において開発された技術は、幾何学的スポットの同時のパターンあるいは他のオブジェクトを作り出すために使用することができる。
何百または何千もの同時のレーザースポットが生成され、作り出され、かつ、眼組織に適用されるべきパターンへと形成され得るが、眼組織を過熱しない要件により、本発明に従って同時に使用可能な処置スポットまたはビームの数には制約がある。個々のレーザービームまたはスポットは各々、有効とされる列持続時間にわたり最小の平均パワーを必要とする。しかし、同時に、眼組織は損傷を受けることなく特定の温度上昇を超過することができない。例えば、810nm波長のレーザーを使用して、生成および使用される同時のスポットの数は、0.04(4%)のデューティサイクルおよび0.3秒(300ミリ秒)の合計列持続時間が使用される場合にわずか1から最大約100までとなり得る。吸水が増大すると波長が増大する。より短い波長、例えば577nmでは、レーザーパワーは更に小さくなり得る。例えば、577nmでは、パワーは有効とされる本発明に対して4倍低下され得る。従って、577nm波長のレーザー光の使用ときにはわずか1つのレーザースポットまたは最大約400のレーザースポットが存在し得るが、それでもなお、組織は害されずあるいは損傷されない。
典型的に、本発明のシステムは、網膜の光刺激による完全かつ全体的な網膜処置を確かなものとするべく、誘導システムを組み込む。固視標、追跡機構から構成され、かつシステム動作に関連付けられる、固定/追跡/登録のシステムが、本発明に導入され得る。特に好ましい実施形態において、同時のレーザースポットの幾何パターンは、表面の集密的かつ完全な処置を達成するように連続してオフセットされる(offset)。
このことは、光走査機構(50)を使用して、制御された様式で行われ得る。図13および14は、MEMSミラーの形態において光学走査機構(50)を例示し、これには電子的に作動される制御装置(54)および(56)を伴うベース(52)が備わっており、制御装置は、これに電気が適用されかつ除去されるとミラー(58)を傾斜させかつパンする(pan)ように機能する。制御装置(54)および(56)に電気を適用することにより、ミラー(58)は移動し、従って、ミラー上に反射されたレーザースポットの同時のパターンあるいは他の幾何オブジェクトが、患者の網膜上を適宜動かされる。これは例えば、網膜の完全な適用範囲、または処置が望まれる網膜の少なくとも一部が、光線療法にさらされるまで、光走査機構(50)を調節するべく電子ソフトウェアプログラムを使用して、自動化の様式で行われ得る。光走査機構はまた、小さなビーム直径の走査検流計ミラーシステム、あるいは同様のシステム、例えばThorlabsにより流通されているシステムなどでもよい。そのようなシステムは、望ましいオフセットパターンにおいてレーザーを走査することができる。
スポットのパターンは各露光においてオフセットされ、それにより、直前の暴露間に空間を作り出して、熱放散を可能にし、かつ熱損傷または組織破壊の可能性を防ぐ。故に、図15に例示されるように、16個のスポットのグリッドとして例示目的のために例示されたパターンは、レーザースポットが前の露光とは異なる空間を占有するように各露光においてオフセットされる。円または空の(empty)ドットの他、充填された(filled)ドットの図表での使用が、本発明に従い、領域へのスポットのパターンの前の露光および後の露光を例示する図式目的だけのためであることが理解される。レーザースポットの間隔により、組織への過熱および損傷が妨げられる。典型的に、処置スポットは、処置スポットの少なくとも半分の直径だけ互いに間隔を空けられており、より好ましくは、少なくとも1つの直径および2つの直径の間に互いから離れて、過熱および損傷を妨げる。これは、処置される標的組織全体が光線療法を受けるまで、あるいは望ましい効果が達成されるまで行われることが、理解される。これは例えば、図13および14に例示されるように、マイクロマシンドミラー(micromachined mirror)に静電トルクを適用することにより行うことができる。露光の無い領域(exposure free area)により区切られた小さなレーザースポット、蓄熱の予防、および面ごとに多数のスポットを伴うグリッドの使用を組み合わせることによって、現在の技術により可能となるものよりも更に急速に短い露光持続時間により大きな標的領域を損傷無しにかつ目に見えないように処置することが可能である。
スポットまたは幾何オブジェクトの同時に適用されたグリッドアレイ全体の再配向またはオフセットを急速にかつ連続して繰り返すことによって、標的の完全な適用範囲が、熱組織損傷を引き起こすことなく急速に達成され得る。このオフセットは、最速の処置時間および熱組織による損傷の最小限のリスクを確かなものとするべく、レーザーパラメータおよび望ましい適用に依存してアルゴリズム的に判定され得る。
以下は、フランホーファー近似(Fraunhoffer Approximation)を使用してモデル化したものである。9×9の正方格子を有するマスク、9μmの開口半径、600μmの開口間隔、890nm波長のレーザー、75mmのマスク-レンズ分離、および2.5mm×2.5mmの二次的なマスクサイズを使用して、以下のパラメータは、6μmのスポットサイズ半径と共に133μmで区切られた面ごとに19個のスポットを有するグリッドをもたらす。所定の望ましい領域の辺長「A」、正方形の面ごとの所定の出力パターンスポット「n」、スポット間の区切り「R」、スポット半径「r」、および領域「A」を処置するための望ましい正方形の辺長を処置する(小さなスポットの適用により集密的に覆う)のに必要とされる露光の数「m」は、以下の数式によって与えられ得る:
前述のセットアップにより、露光の異なる視野領域を処置するために必要とされる動作の数mを計算することができる。例えば、処置に有用な3mm×3mmの領域は、98のオフセット動作を必要とし、約30秒の処置時間を必要とする。別の例は3cm×3cmの領域であり、ヒト網膜の表面全体を表わす。そのような大きな処置領域では、25mm×25mmの更に大きな二次的なマスクサイズが使用され、6μmのスポットサイズ半径と共に133μmで区切られた面ごとに190個のスポットの処置グリッドをもたらし得る。二次的なマスクサイズが、望ましい処置領域と同じ倍数だけ増大されたので、約98のオフセット動作の数、および従って約30秒の処置時間は、一定である。
もちろん、同時のパターンアレイにおいて生成された網膜スポットの数およびサイズは、容易にかつ大きく変動する場合があり、その結果、処置を完了するのに必要とされる連続するオフセット動作の数は、所定の適用の治療要件に応じて容易に調節され得る。
更に、回折格子またはマスクに利用される小さな開口により、レーザー入力エネルギーの恣意的な分布を可能にする量子力学的挙動が観察され得る。これにより、グリッドパターン、線、または他の望ましいパターンにおいて、恣意的な幾何学的形状またはパターン、例えば複数のスポットなどの生成が可能になる。複数のファイバーの光ファイバーまたはマイクロレンズを使用するなど、幾何学的形状またはパターンを生成する他の方法も、本発明に使用され得る。幾何学的形状またはパターンの同時投射の使用による時間節約によって、単一の臨床設定または処置セッションにおいて、1.2cm2の領域などの新規のサイズの処置領域が網膜全体の処置を達成することを可能にする。
ここで図16を参照すると、小さなレーザースポットの幾何パターンの代わりに、本発明は、他の幾何オブジェクトまたは幾何パターンの使用を熟考する。例えば、継続的にまたは一連の密に間隔を置かれたスポットにより形成されるレーザー光の単線(60)を作り出すことができる。オフセット光走査機構を使用して、図16の下方矢印により例示されるように、領域にわたり線を連続して走査することができる。
ここで図17を参照すると、線(60)の同じ幾何オブジェクトは、矢印により例示されるように、光線療法の円形視野を作り出すように回転され得る。しかし、この手法の起こり得る欠点は、中央領域が繰り返し露光され、かつ許容できない温度にまで達しかねないということである。しかし、この欠点は、露光間の時間を増やすことによって、または、中央領域が露光されないように線に間隙を作り出すことによって解消され得る。
光生物学の分野において、異なる生物学的効果が、標的組織を異なる波長のレーザーに露光させることによって達成され得ることが明らかにされている。これと同じことが、分離の様々な期間および/または異なる照射エネルギーにより順に、異なるまたは同じ波長の複数のレーザーを連続的に適用することによっても達成され得る。本発明は、望ましい処置効果を最大限にするまたはカスタマイズするために同時にまたは順に適用される、複数のレーザー、光、または放射波長(またはモード)の使用を予期している。この方法はまた、起こり得る有害効果を最小限にする。上記に例示されかつ記載された光学的な方法およびシステムは、複数の波長の同時または連続の適用を提供する。
図18は、複数の処置の光源を上述のパターン生成光学サブアセンブリへと連結するシステムを図式で例示する。具体的に、このシステム(20’)は上述される図11のシステム(20)と同様である。代替的なシステム(20’)と先述のシステム(20)との主な違いは、複数のレーザーコンソールを包含していることであり、その出力は各々、ファイバーカプラ(42)に供給される。各レーザーコンソールは、異なる波長などの異なるパラメータを有するレーザー光線を提供することができる。ファイバーカプラは、先述のシステムに記載されるようなレーザープロジェクター光学素子(24)へと通過する単一出力を生成する。複数のレーザーコンソール(22)の単一の光ファイバーへの連結は、当該技術分野で公知されているようにファイバーカプラ(42)を用いて達成される。複数の光源を組み合わせるための他の既知の機構も利用可能であり、本明細書に記載されるファイバーカプラと置き換えるために使用されてもよい。
このシステム(20’)において、複数の光源(22)は、先述のシステム(20)に記載されるものと同様の経路に従い、即ち、コリメートされ、回折され、再びコリメートされ、かつ、プロジェクター装置および/または組織へと配向される。しかし、回折素子は、通過する光の波長に依存して、先述のものとは異なって機能し、結果としてパターンの僅かな変化を引き起こす。この変化は、回折されている光源の波長と共に直線状になっている。一般に、回折角の差は、異なる重複パターンが、処置のためにプロジェクター装置(26)を通って組織に向かう同じ光路に沿って配向され得るのに十分に小さな差である。
結果として生じるパターンが各波長に対して僅かに変動するため、完全な適用範囲を達成するための連続的なオフセットは、各波長に対して異なる。連続的なオフセットは2つのモードにおいて達成可能である。第1のモードにおいて、光の波長は全て、適用範囲を同一にすることなく同時に適用される。複数の波長の1つに対して完全な適用範囲を達成するためのオフセットのステアリングパターンが使用される。故に、選択された波長の光は、組織の完全な適用範囲を達成する一方で、他の波長の適用は、組織の不完全な適用範囲あるいは重複する適用範囲の何れかを達成する。第2のモードは、その特定の波長に対する組織の完全な適用範囲を達成するために、適切なステアリングパターンを用いて、変動する波長の各光源を連続して適用する。このモードは、複数の波長を使用する同時処置の可能性を除外するが、光学的手法による各波長に対する同一の適用範囲の達成を可能にする。これは、光学波長の何れか対する不完全な適用範囲および重複する適用範囲も回避する。
これらのモードはまた、組み合わされかつ調和させることもできる。例えば、2つの波長が同時に適用されると1つの波長が完全な適用範囲を達成し、他方の波長が不完全なまたは重複する適用範囲を達成する場合があり、その後、第3の波長が連続して適用され、完全な適用範囲が達成される。
図19は、本発明のシステム(20”)のまた別の代替的な実施形態を図式で例示している。このシステム(20”)は、図11に記載されるシステム(20)と略同じように構成されている。主な違いは、光源の特定の波長へと調整される複数のパターン生成サブアセンブリチャネルを包含することにある。複数のレーザーコンソール(22)が平行に配され、その1つずつが、それ自体のレーザープロジェクター光学素子(24)へと直接繋げられている。各チャネル(44a)、(44b)、(44c)のレーザープロジェクター光学素子は、上述の図12に関連して、コリメータ(32)、マスクまたは回折格子(34)、およびリコリメータ(recollimators)(38)(40)を備えており、光学素子のセット全体は、対応するレーザーコンソール(22)により生成された特定の波長に合わせられる。その後、光学素子(24)の各セットからの出力は、他の波長との組み合わせのためにビームスプリッター(46)に向けられる。ビームスプリッターは逆転して使用されると、複数の光線を単一出力へと組み合わせるために使用可能であることが、当業者に知られている。その後、最終的なビームスプリッター(46c)から組み合わされたチャネル出力は、プロジェクター装置(26)を通って配向される。
このシステム(20”)において、各チャネルに対する光学素子が調整されることで、そのチャネルの波長に対して正確な特定パターンを生成する。結果的に、チャネルが全て組み合わせられ、かつ適切に位置合わせされると、単一のステアリングパターンが使用されることで全ての波長に対する組織の完全な適用範囲が達成され得る。システム(20”)は、処置に使用されている光の波長と同じくらい多くのチャネル(44a)、(44b)、(44b)など、およびビームスプリッター(46a)、(46b)、(46c)などを使用し得る。
システム(20”)の実施において異なる対称性を活用して位置合わせの制約の数を減らすことができる。例えば、提案されたグリッドパターンは、二次元において周期的であり、二次元において操作されることで完全な適用範囲を達成する。結果として、各チャネルに対するパターンが特定パターンと同一である場合、各チャネルの実際のパターンは、全ての波長に対して完全な適用範囲を達成するべく同じステアリングパターンに対して位置合わせされる必要はない。各チャネルは、効率的な組み合わせを達成するべく光学的に位置合わせされる必要しかない。
システム(20”)において、各チャネルは光源(22)から始まり、該光源は、パターン生成サブアセンブリの他の実施形態などにおける光ファイバーからのものであり得る。この光源(22)は、コリメーション、回折、リコリメーションのために光学アセンブリ(24)に配向され、ビームスプリッターへと配向されてチャネルを主出力と組み合わせる。
図11-19に例示されるレーザー光生成システムは典型的なものであることが理解される。他の装置およびシステムを利用して、プロジェクター装置を動作可能に通過可能なDM光の源を生成することができる。
提案された電磁パルスの列による処置には、単一の短パルスまたは持続(長)パルスの何れかを組み込む、先述の処置以上の2つの主な利点がある。第1に、列における短い(好ましくは一秒以内の)個々のパルスは、より長い(分または時間)時間スケールにおいて作動するものよりも大きな反応速度定数を伴うHSP活性化のような細胞リセット機構を起動させる。第2に、処置において繰り返されたパルスは大きな熱スパイク(約10,000)を提供し、これにより細胞の修復系は、機能障害の細胞状態を望ましい機能状態から分離する活性化エネルギー障壁をより急速に乗り越えることが可能になる。最終結果は、より低い適用された平均パワーおよび合計の適用されたエネルギーが望ましい処置目標を達成するために使用され得るという意味で、「治療閾値の低下」である。
現行のマイクロパルスダイオードレーザーにおけるパワー制限は、かなり長い露光持続時間を必要とする。露光が長くなるほど、レーザースポットのマージンにおいて露光されていない組織に対するセンタースポットでの放熱性がより重要となる。故に、810nmダイオードレーザーのマイクロパルスレーザー光線は、500ミリ秒以下、および好ましくはおよそ300ミリ秒の露光エンベロープ持続時間を有していなければならない。もちろん、マイクロパルスダイオードレーザーがより強力になった場合、露光持続期間はそれに応じて短縮されねばならない。
パワー制限とは別に、本発明の別のパラメータは、デューティサイクル、マイクロパルスの列の周波数、あるいは連続するパルス間の熱緩和時間の長さである。同様のMPEレベルにおける同様の放射照度にてマイクロパルスレーザーを伝送するべく調節された10%以上のデューティサイクルの使用が致死的な細胞損傷のリスクを大きく増大させることが見出されている。しかし、10%未満、および好ましくはおよそ5%以下のデューティサイクルは、生物学的反応を刺激するためにMPE細胞のレベルにおいて十分な熱上昇および処置を実証しているが、依然として致死的な細胞損傷をもたらすと予測されるレベルを下回っている。しかし、デューティサイクルが低くなるほど、露光エンベロープ持続時間は増加し、いくつかの例において500ミリ秒を超過し得る。
各マイクロパルスは、僅か1ミリ秒、典型的には50~100マイクロ秒の持続時間にわたり持続する。故に、300-500ミリ秒の露光エンベロープ持続時間、および5%未満のデューティサイクルでは、連続するパルス間の熱緩和時間を可能にするためにマイクロパルス間には相当量の時間の浪費が存在する。典型的に、熱緩和時間の1~3ミリ秒、および好ましくはおよそ2ミリ秒の遅延が、連続するパルス間に必要とされる。適切な処置のために、細胞は典型的に、50-200回、および好ましくは75-150回、各位置において1-3ミリ秒の緩和時間または間隔時間を用いて露光されまたはヒットされ(hit)、合計時間は、レーザースポットに露光されている所定の領域を処置するべく上述の実施形態に従い、通常は1秒未満、平均で100ミリ秒~600ミリ秒である。熱緩和時間は、その位置またはスポット内で細胞を過熱しないために、かつ、細胞が損傷または破壊されるのを防ぐために必要とされる。100-600ミリ秒の時間は長くないように思われるが、レーザースポットの小さなサイズ、および標的組織の比較的広い領域を処置する必要性を考慮すると、標的組織全体の処置には、特に処置を受けている患者に対して、相当量の時間を要する。
従って、本発明は、第1の処置領域から間隔を空けた標的組織の第2の処置領域、即ち追加領域へのエネルギー適用のために同じ位置への連続適用間の間隔を利用し得る。パルスエネルギーは、第1の処置位置、即ち先の処置位置へと予め決められた時間間隔内で戻されることで連続パルス間の十分な熱緩和時間をもたらすが、更に、エネルギーをその位置に繰り返し適用することによりそれらの細胞の温度を経時的に十分に上昇させることによって前記位置または領域において細胞を十分に処置して、本発明の望ましい治療効果を達成する。
以前に処置した位置へと所定の時間内に戻すことでその時間中に領域を十分に冷却させることの他、前記領域を必要な時間窓内で処置することも重要である。光パルスエネルギーの適用の場合、光は、以前に処置した領域へと数ミリ秒以内、例えば1~3ミリ秒以内、および好ましくはおよそ2ミリ秒以内に戻される。処置が有効とならない、またはおそらく全く有効にならないと、1秒または2秒にわたり待機することができず、その後、必要とされる完全な処置をまだ受けていない以前に処置された領域へと戻る。しかし、その時間間隔の間、典型的におよそ2ミリ秒の間、少なくとも1つの他の領域、および典型的に複数の領域は、レーザー光パルスが典型的に50~100マイクロ秒の持続時間である場合、レーザー光の適用により処置可能となる。これは本明細書においてマイクロシフティング(microshifting)と称される。処置され得る追加領域の数は、マイクロパルスの持続時間、および光線を1つの領域から別の領域へと制御可能に移動させる能力によってのみ制限される。
現在、およそ4つの追加領域が、互いに十分に間隔を空けられており、第1の処置領域から開始する熱緩和間隔の間に処置され得る。故に、複数の領域を、少なくとも部分的に、第1の領域に対して200-500ミリ秒の露光エンベロープ中に処置することができる。それ故、単一の時間間隔において、100の同時の光スポットのみを処置領域に適用する代わりに、およそ500の光スポットを異なる処置領域においてその時間間隔中に適用することができる。これは、例えば810nmの波長を有するレーザー光線に当てはまる。より短い波長、例えば572nmでは、更に多くの数の個々の位置をレーザービームに露光させて光スポットを作り出すことができる。故に、最大でおよそ400の同時のスポットの代わりに、およそ2,000のスポットを、所定の領域または位置へのマイクロパルス処置の間隔中に覆うことができる。典型的に、各位置には、望ましい処置を達成するために、露光エンベロープ持続時間(典型的に200-500ミリ秒)の経過中に、50-200、および更に典型的には75-150の光の適用が伴う。本発明の一実施形態に従って、光は、以前に処置した領域へと順に、領域または位置の各々に対する緩和時間間隔中に再び適用される。このことは、処置される各領域への所定数のレーザー光の適用が達成されるまで繰り返し行われる。
パルスエネルギーは、各処置領域への所望の数の適用が達成されるまで、各領域または位置の緩和時間間隔中に以前に処置された部位に順次再適用され得る。処置領域は、熱緩和および熱放散を可能にし、熱的な組織損傷を回避するために、少なくとも予め定められた最小距離で離されなければならない。標的組織へのパルスエネルギー源の適用中に、標的組織の温度を最大11°C、例えば、およそ6°C-11°Cの間にまで上昇させて、例えば、細胞内のHSPの生成を刺激することによって治療効果を達成するように、パルスエネルギーおよび適用パラメータが選択される。しかし、標的組織の細胞は、標的組織を永続的に損傷しないように、数分にわたる組織の平均気温上昇が予め決められたレベル(1°C、またはそれ以下)で、あるいはそのレベル以下で数分間にわたって維持されるように、熱を放散するための時間を与えられなければならない。
これは、図20A-図20Dに図で例示される。図20Aは、第1の適用として適用されるレーザー光線などのエネルギービームを有する第1の領域を実線の丸で例示している。ビームは、第1の露光領域における位置が、ビームを再び熱緩和時間間隔内に適用させることによって再処置される必要があるまで、図20Bに例示されるように、第2の露光領域に制御可能にオフセットされるかまたはマイクロシフトされ(microshifted)、その後、第3の露光領域および第4の露光領域へと続く。その後、図20Cに例示されるように、第1の露光領域内の位置に、エネルギービームが再適用されるだろう。図20Dにおいて露光領域1の黒塗りされた丸によって図で例示された、所望の数の露光またはヒットあるいは標的組織領域へのエネルギーの適用が、これらの領域を治療処置するために達成されるまで、斜線のドットまたは丸によって図20Dに例示されるように、二次的なまたは続く露光が各露光領域に生じるだろう。第1または以前の露光領域の処置が完了すると、システムは追加の露光領域を加えることができ、そのプロセスは、処置される全領域が完全に処置されるまで繰り返される。実際に、本発明に従うエネルギーまたはレーザー光の露光が、ヒトの眼ならびに既知の検出装置および技術では目に見えず、かつ検出できないため、実線の丸、破線の丸、部分的に斜線の丸、および完全に斜線の丸は、説明および例示目的のみのために使用されることが理解されるべきである。
隣接した露光領域は、熱による組織損傷を回避するために、少なくとも予め決められた最小距離で離されなければならない。そのような距離は、直前に処置された位置または領域から少なくとも0.5直径、およびより好ましくは1-2直径離れている。そのような間隔は、前の露光領域で実際に処置された位置に関連している。比較的大きな領域は、複数の露光領域を実際に含み得ることが本発明によって熟考され、複数の露光領域は図20に例示される方法とは異なる方法でオフセットされる。例えば、露光領域は、図16および図17に例示される細線を含むことができ、必要領域すべてが完全に露光され、処置されるまで、順に繰り返し露光されるだろう。本発明によると、処置されるその領域を処置するために必要とされる時間は、単一の処置セッションが医療提供者にとって非常に短い時間で済み、かつ長期間にわたって患者が不快になる必要がないように、4倍または5倍有意に短縮される。
本発明のこの実施形態によると、1つ以上の処置ビームを一度に適用し、処置ビームを一連の新しい位置に移動させ、その後、ビームを戻して同じ位置または領域を繰り返し再処置することは、全露光エンベロープ持続時間中にビームを同じ位置または領域に維持する方法論と比較して、それほどパワーを必要としないことも分かった。図21-23を参照すると、パルス長と必要なパワーとの間には直線関係があるが、生成される熱間には対数関係がある。
図21を参照すると、X軸が平均パワーの対数(Log)をレーザーのワットで表し、Y軸が処置時間を秒で表すグラフが提供される。下の曲線は汎黄斑の処置に関し、上の曲線は汎網膜に関する。これは、50マイクロ秒のマイクロパルス時間、パルス間の2ミリ秒の期間、および300ミリ秒のスポット上の列の持続時間を有するレーザー光線に関する。各網膜スポットの領域は100ミクロンであり、これらの100ミクロンの網膜スポットのレーザーパワーは0.74ワットである。汎黄斑領域は0.552であり、合計で7,000の汎黄斑スポットを必要とし、汎網膜領域は3.302であり、完全にカバーするためには42,000のレーザースポットを必要とする。各RPEスポットは、本発明に従って、そのリセット機構を十分に作動するために最小エネルギー、すなわち、汎黄斑で38.85ジュールおよび汎網膜で233.1ジュールを必要とする。予想されるように、処置時間が短ければ短いほど、必要な平均パワーが大きくなる。しかし、許容可能な平均パワーには上限があり、これは処置時間をどれだけ短くできるかを制限する。
上に述べられるように、利用可能なおよび使用されるレーザー光に関してパワー制約があるだけでなく、眼組織を損傷させることなく眼に適用することができるパワーの量にも制約がある。例えば、眼の水晶体における温度上昇は、白内障を引き起こすなど、水晶体を過熱して損傷させないように4℃に限定される。したがって、7.52ワットの平均パワーは、水晶体温度をおよそ4℃に上昇させ得る。パワーにおけるこの制限は最小の処置時間を増大させる。
しかし、図22を参照すると、レーザースポットを繰り返しかつ連続して移動させて、前に処置された位置に戻すというマイクロシフトの場合には、必要なパルス当たりの合計のパワーはより少なく、その結果、処置時間の間に伝送される総エネルギーと合計平均パワーは同じである。図22および図23は、合計のパワーが処置時間にどれほど左右されるかを示す。これは、汎黄斑処置については図22に、汎網膜処置については図23に示される。上の実線または曲線は、図15などに記載および例示されるような熱緩和の時間間隔を活用するマイクロシフトがない実施形態を表し、下の破線は、図20などに記載または例示されるような、そのようなマイクロシフトについての状況を表す。図21および図22は、所与の処置時間中、ピークの合計パワーは、マイクロシフトがない場合よりもマイクロシフトがある場合の方がより少ないことを示している。これは、本発明のマイクロシフトの実施形態を使用する所与の処置時間には、より少ないパワーが必要とされることを意味している。代替的に、許容可能なピークパワーは好都合に使用され、全処置時間を短縮する。
したがって、図21-図32よると、1.0の対数パワー(10ワット)は、本明細書に記載されるように、本発明のマイクロシフトの実施形態を使用して20秒の合計処置時間を必要する。マイクロシフトなしでは2分を超える時間がかかり、代わりに、全処置エンベロープ持続時間中に同じ位置または領域にマイクロパルス光ビームを残す。ワット数に従った最小の処置時間がある。しかし、マイクロシフトを有するこの処置時間は、マイクロシフトなしの場合よりもはるかに短い。マイクロシフトでは必要なレーザーパワーがはるかに小さいため、所与の所望の網膜の処置領域に対する処置時間を短縮するために、いくつかの事例においてパワーを増大させることが可能である。処置時間と平均パワーの積は、本発明に従って治療処置を達成するために、所与の処置領域に対して固定される。これは、例えば、低減されたパワーで同時により多くの治療用レーザー光ビームまたはスポットを適用することによって実施され得る。もちろん、レーザー光のパラメータは、治療上有効ではあるが、細胞に対して破壊的ではないか、あるいは永久的に損傷を与えないように選択されるので、誘導または追跡ビームが必要とされず、本発明に従ってすべての領域を処置することができる処置ビームのみが必要とされる。
本発明は、マイクロパルスレーザーに関連した使用について記載されているが、理論上、連続波レーザーがマイクロパルスレーザーの代わりに使用される可能性がある。しかし、連続波レーザーでは、レーザーが停止せず、ならびに処置領域間で熱放散および過熱が生じ得るという点で、レーザーが位置間を移動する際の過熱が懸念される。したがって、連続波レーザーを使用することは理論上可能ではあるが、実際には理想的ではなく、マイクロパルスレーザーが好まれる。
グラフ21-23に関して提供される情報は、網膜の眼組織に適用されるエネルギー源としての光線の観察および計算から導き出される。しかし、処置ビームを一連の新たな位置に移動させ、その後、ビームを戻して同じ位置または領域を繰り返し再処置することは、全露光エンベロープ持続時間中にビームを同じ位置または領域に維持する方法論と比較して、時間を節約するだけでなく、それほどパワーを必要としないという同様の結果が、そのようなパルス光を他の組織に適用することにより得られると考えられる。
上記のマイクロシフト技術に従って、光線のパターンを変えるまたは導くことは、図13および14に関して例示および記載されるような光学走査機構の使用によって行われ得る。
エネルギー源を導くことは、「アレイ」を提供する複数のソースを使用することによって行うことができる。アレイの照明放射パターンを導くための根本概念は、ソースのアレイの個々のメンバーからの放射間の建設的な(かつ破壊的な)干渉である。
上に述べられるように、標的組織にエネルギーを適用するという制御された様式は、標的組織の温度を上昇させて、標的組織を破壊あるいは永続的に損傷させることなく、標的組織を治療処置するように意図される。そのような加熱はHSPを活性化し、熱的に活性化されたHSPは、損傷タンパク質を修復するおよび/または取り除くことなどによって、病変組織を健全な状態にリセットするように機能すると考えられる。そのようなHSP活性化の最大化が、標的組織への治療効果を改善すると本発明者らによって考えられている。それゆえ、HSPおよびHSP系種の挙動と活性化、それらの生成と活性化、HSPを活性化するための温度範囲ならびにHSPの活性化または生成および不活性化の時間枠についての理解は、生物学的な標的組織の熱処置を最適化するために利用することができる。
上に述べられるように、標的組織は、10秒以下などの短期間、典型的には1秒未満、例えば、100ミリ秒~600ミリ秒の間、パルスエネルギーによって加熱される。標的組織が過熱されて損傷あるいは破壊されないように熱緩和のための時間間隔を提供するために、エネルギーが標的組織に実際に適用される時間は典型的にはこれよりはるかに短い。例えば、上に述べられるように、レーザー光パルスは、数ミリ秒の緩和の時間間隔でおおよそマイクロ秒続くこともある。
したがって、HSPの1秒以内の挙動についての理解は本発明にとって重要であり得る。SDMのHSPの熱活性化は、関連するアレニウス積分によって典型的に記載され、
ここで、積分は治療時間にわたり、
AはHSP活性化のアレニウスの速度定数であり、
Eは活性化エネルギーであり、
T(t)は、薄いRPE層の温度であり、レーザーで誘導された温度上昇を含む。
レーザーで誘導された温度上昇-したがって、活性化アレニウス積分--は、処置パラメータ(例えば、レーザーパワー、デューティサイクル、総列持続時間)およびRPE特性(例えば、吸収係数、HSPの密度)の両方に依存する。アレニウス積分がおおよそ1である場合、効果的なSDM処置が得られることが臨床的に分かっている。
アレニウス積分の形式は、正反応、すなわち、HSP活性化反応のみを考慮し:活性化されたHSPが不活性化された状態に戻される任意の逆反応は考慮に入れない。SDM処置の典型的な一秒以内の持続期間の場合、これは全く適切に思われる。しかし、より長い期間(例えば、1分以上)の場合、この形式は適切な近似値ではない:これらのより長い時間で、全一連の反応が起こり、有効なHSPの活性化率の大幅な減少を結果としてもたらす。これは、本発明開示におけるSDM適用の提案された1分程度の間隔の場合である。
公開文献において、より長い持続期間にわたる細胞内の熱ショックタンパク質(HSP)の生成および破壊は、HSP分子のライフサイクルに関与する様々な分子種の挙動を記載する9-13の連立質量平衡微分方程式の集まりによって通常記載される。これらの連立方程式は通常、コンピュータによって解かれ、温度が急上昇した後のHSPおよび他の種の時間内の挙動を示す。
これらの方程式は全て、HSPの活性に関与する様々な分子種の反応に基づく保存等式である。1分程度のSDMの繰り返される適用間の間隔におけるHSPの行動を記載するために、我々は、M. Rybinski, Z.Szymanska, S. Lasota, A. Gambin (2013) Modeling the efficacy of hyperthermia treatment. Journal of the Royal Society Interface 10, No. 88, 20130527 (Rybinski et al (2013))に記載される方程式を使用する。Rybinskiら(2013)で検討される種が表8に示される。
これらの10種の結合された連立質量保存等式は、方程式[2]-[11]として以下に要約される:
これらの式では、[]は、括弧内の量の細胞内濃度を意味する。Rybinskiら(2013)の場合の、310Kの平衡温度の初期濃度が表9に表される。
任意単位での典型的な細胞の310Kの種の初期値[Rybinskiら(2013)]。任意単位は、計算上の便宜のために、つまり、対象の量を0.01-10の範囲にするために、Rybinskiらによって選択される。
Rybinskiら(2013)の速度定数が表10に示される。
Rybinskiら(2013)の速度定数は前の表の任意の濃度単位に対する毎分の速度を示す。
表9の初期の濃度値および表10の速度定数は、Rybinskiら(2013)によって決定され、温度が数分(例えば、350分)間でおおよそ5°C上昇した場合の全体的なHSP系の挙動についての実験データに対応する。
HSPの初期の濃度は、100×0.308649/(8.76023+0.113457+1.12631)}=細胞内に存在するタンパク質の総数の3.09%であることに留意されたい。
表10の速度定数は、T=310+5+315KについてRybinskiらによって使用されるが、非常に類似する速度定数が他の温度に存在する可能性がある。これに関連して、シミュレーションの定性的挙動が広範囲のパラメータで同様である。便宜上、我々は、表10の速度定数の値がT=310Kの平衡温度の値に対して適切な近似値であると考える。
温度が周囲の310Kからt=0で5Kに急上昇する状況について、350分間のRybinskiらの細胞における異なる構成成分の挙動が図24A-24Bに示される。
図24A-24Bを続いて参照すると、温度が37°Cから42°Cに急上昇した後の350分間のHSP細胞系の構成成分の挙動が示される。
ここで、構成成分の濃度は計算上便利な任意単位で示される。Sは、HSPによる影響をまだ受けていない変性タンパク質または損傷タンパク質を示し;HSPは遊離した(活性化された)熱ショックタンパク質を示し;HSP:Sは、損傷タンパク質に結合され、修復を実行する活性化されたHSPを示し;HSP:HSFは、熱ショック因子の単量体に結合される(不活性)HSPを示し;HSFは、熱ショック因子の単量体を示し;HSF3は、核膜を貫通して、DNA分子上の熱ショックエレメントと相互に作用することができる熱ショック因子の三量体を示し;HSE:HSF3は、新たなmRNA分子の転写を開始するDNA分子上の熱ショックエレメントに結合された、熱ショック因子の三量体を示し;mRNAは、HSE:HSF3に起因し、細胞の細胞質において新たな(活性化された)HSP分子の生成につながるメッセンジャーRNA分子を示す。
図24は、最初に、活性化されたHSPの濃度は、細胞質中の分子HSPHSFにおいて隔離されたHSPの放出の結果であり、mRNAを介した細胞核からの新たなHSPの作成は、温度上昇が生じてから60分後まで起こらないことを示す。さらに、図24は、活性化されたHSPが損傷タンパク質に非常に急速に結合して、それらの修復作業を開始することを示す。表されている細胞の場合、急な温度上昇は、損傷タンパク質の濃度の一時的な上昇も結果としてもたらし、損傷タンパク質の濃度のピークが温度上昇の約30分後に起こる。
図24は、350分間にわたる10の異なる種の変化について、Rybinskiらの方程式が予測するものを示す。しかし、本発明は、任意の単一の網膜位置におけるSDMの2回の適用間のはるかに短いO(分)間隔にわたる種の変化に基づく、SDMの適用に関連する。レーザー光処置の形態でのSDMの好ましい実施形態が分析および記載されるが、それは他のエネルギー源にも同様に適用可能であることが理解されるだろう。
次に図25A-25Hを参照すると、表9および表10の初期値ならびに速度定数を用いたRybinskiら(2013)の方程式を使用して、温度が37°Cから42°Cに急上昇した後の最初の1分間のHSP細胞系の構成成分の挙動が示される。横軸は時間を分で表し、縦軸は図25と同じ任意単位での濃度を示す。
図25は、HSPの核原料が1分の間に実質的に役割を果たさず、細胞質における新たなHSPの主なソースは、HSPHSF分子のリザーバーからの、隔離されたHSPの放出から生じることを示す。新しく活性化されたHSPのかなり割合が損傷タンパク質に結合して、修復プロセスを開始することも示される。
表9の初期濃度は種の均衡値ではない、すなわち、図24および25の曲線によって明らかなように、d[…]/dt=0が得られない。表10の速度定数に対応するd[…]/dt=0が得られる均衡値(equilibrium values)は、表11にリストされるものであることが分かる。
表10の速度定数に対応する任意単位[Rybinskiら(2013)]での種の均衡値。任意単位は計算上の便宜のために、つまり、対象の量を0.01-10の範囲内にするために、Rybinskiらによって選択される。
HSPの平衡濃度は、100x{0.315343/(4.39986+5.05777+0.542375)}=細胞内に存在するタンパク質の総数の3.15%であることに注意されたい。これは同等であるが、他の研究者によって発見されたタンパク質の予測された5%-10%の総数より少ない。しかし、我々は、他の研究者によって示されるようにパーセンテージを上方に調整することは、認識できるほどに一般行動を変化させないだろうと予想して、試みていない。
本発明者は、標的組織の温度を制御可能に上昇させて、標的組織を破壊あるいは永続的に損傷させることなく、標的組織を治療処置するために、ある期間にわたってパルスエネルギー(例えば、SDM)を標的組織に繰り返し適用することによって、標的組織に対する第1の処置が実行され得ることを発見した。「処置」は、所与の時間にわたる標的組織へのパルスエネルギーの適用総数は、例えば、短い期間、例えば、10秒未満の期間、および、より典型的には、1秒未満、例えば、100ミリ秒~600ミリ秒などの短期間にわたる、数十あるいは数百の光または他のエネルギーの標的組織への適用を含む。この「処置」は、熱ショックタンパク質および関連する構成成分を活性化するために、標的組織の温度を制御可能に上昇させる。
しかし、標的組織へのパルスエネルギーの適用は、「第1処置」を含む第1の期間を超える時間間隔などの、数秒~数分を含み得る時間間隔、例えば、3秒~3分以上、好ましくは、10秒~90秒にわたって停止し、その後、第2の処置が1回の処置セッションまたは来院中の時間間隔後に標的組織上で実行されるということが分かっており、ここで、第2の処置は、制御可能に標的組織の温度を上昇させて、標的組織を破壊あるいは永続的に損傷させることなく、標的組織を治療処置するために、標的組織にパルスエネルギーを繰り返し再適用することを必要とし、これにより標的組織の細胞内の活性化されたHSPおよび関連する構成成分の量が増加し、生物学的な組織のより効果的な全処置を結果としてもたらす。言い換えれば、第1の処置は、標的組織の熱ショックタンパク質活性化のレベルを作成し、第2の処置は、標的組織の熱ショックタンパク質活性化のレベルを第1処置によるレベル以上に増大する。したがって、1回の処置セッションまたは来院の時間内に患者の標的組織に対する複数の処置を実行することは、第2または追加の処置が、数分を超えないが、標的組織を損傷あるいは破壊しないための温度緩和を可能にするのに十分な長さの時間間隔後に実行される限り、生物学的な組織の全処置を強化する。
この技術は、活性化されたHSP生成のレベルが同じ来院処置セッション時間内の後続の処置とともに増加する点において、本明細書において「段々が生じる(stair-stepping)」と呼ばれる場合がある。この「段々が生じる」技術は、一秒以内の現象に対するアレニウス積分のアプローチと、SDMまたは他のパルスエネルギーの繰り返される一秒以内の適用間隔のRybinskiら(2013)の処置との組み合わせによって記載され得る。
本発明の開示において提言された段々が生じるSDM(反復性のSDM適用)に関しては、図24に表される状況とのいくつかの重要な差異がある:
●SDMは、正常細胞に予防的に適用することができるが、しばしば、異常細胞に適用されるだろう。その場合、損傷タンパク質の初期濃度[S(0)]は、表11で表されるものよりも大きくなり得る。我々は、定性的挙動が変更されないだろうと仮定して、これを考慮することを試みていない。
●単一のSDMの適用期間は、図24において示される分ではなく、わずか一秒以内である。Rybinskiらの速度定数はアレニウスの定数よりもはるかに小さい:アレニウスの定数は一秒以内の持続期間にわたっておよそ1のアレニウス積分を与えるが、Rybinskiらの速度定数は小さすぎるためそれを行うことができない。これは、対象の時間スケールが異なる場合に存在する、異なる有効速度定数の実施例である:Rybinskiらの速度定数は数分間現われる現象に適用されるが、アレニウスの速度定数は一秒以内の現象に適用される。
したがって、SDMの効果を改善するための提言された段々が生じるSDM技術において何が生じるかを分析するために、我々は、繰り返されるSDM適用間のおおよそ一分の間隔にわたって現われる現象に適切なRybinskiら(2013)の処置と、一秒以内の現象に適切なアレニウス積分の処置を組み合わせる:
●アレニウス積分の形式によって記載されるSDMの一秒以内の適用
●Rybinskiら(2013)の方程式によって記載されるSDMの適用間のO(分)の間隔
具体的には、我々は、SDMの2回の連続する適用(各SDMのマイクロパルス列は、一秒以内の持続時間を有する)を検討する。
●短い一秒以内の時間スケールの場合、我々は、活性化された(遊離した)HSPのソースである活性化されていないHSPの全てが、細胞質内のHSPHSF分子に含まれると仮定する。したがって、第1のSDM適用は、初期のHSPHSF分子集団中の活性化されていないHSPの細胞質のリザーバーを[HSPHSF(equil)]から[HSPHSF(equil)]exp[-Ω]へと減少するために、
●および、最初のHSFの分子の集団を[HSP(equil)]から[HSP(equil)]+[HSPHSF(equil)](1-exp[-Ω])へと増加するために、
●ならびに、最初のHSFの分子の集団を[HSF(equil)]から[HSF(equil)]+[HSPHSF(equil)](1-exp[-Ω])へと増加させるために、行われる。
●他の種のすべての平衡濃度は、第1のSDM適用後も同じままであると仮定される。
●その後、Rybinskiらの方程式は、第1のSDM適用と第2のSDM適用との間の間隔λt=O(分)中の[HSP]および[HSPHSF]に起こることを算出するために使用され、第1のSDM適用後のHSP、HSFおよびHSPHSFの初期値は、
[HSP(SDM1)]=[HSP(equil)]+[HSPHSF(equil)](1-exp[-Ω])
[HSF(SDM1)]=[HSF(equil)]+[HSPHSF(equil)](1-exp[-Ω])
および
[HSPHSF(SDM1)]=[HSPHSF(equil)]exp[-Ω]
であるとみなされる。
●間隔λtの後のSDMの第2の適用の場合、SDM後の[HSP]、[HSF]および{HSPHSF]の値は、
[HSP(SDM2)]=[HSP(λt)]+[HSPHSF(λt)](1-exp[-Ω])
[HSF(SDM2)]=[HSF(λt)]+[HSPHSF(λt)](1-exp[-Ω])
および
[HSPHSF(SDM2)]=[HSPHSF(λt)]exp[-Ω]であるとみなされ、
ここで、[HSP(λt)]、[HSF(λt)]、および[HSPHSF(λt)]は、時間λtでRybinskiら(2013)の方程式から決定される値である。
●我々の現在の関心は、[HSP[SDM2]を[HSP[SDM1]と比較して、SDMの第1の適用に続く間隔λtでのSDMの繰り返される適用が、細胞質においてより活性化された(遊離した)HSPを結果としてもたらすか否かを確認することである。比率β(λt、Ω)=[HSP(SDM2)]/[HSP(SDM1)]={[{[HSP(λt)]+[HSPHSF(λt)](1-exp[-Ω])}/{[HSP(0)]+[HSPHSF(0)](1-exp[-Ω])}
は、第1のSDM適用から間隔t後に、SDMの繰り返される適用の場合のHSP活性化の程度の改善を直接測定する方法を提供する。
HSPおよびHSPHSFの濃度は、SDM適用間の間隔λtにおいてかなり異なる可能性がある。
図26Aおよび26Bは、SDMアレニウス積分Ω=1および平衡濃度が表11に表されるものである場合の、SDM適用間の間隔λt=1分中の細胞質のリザーバ[HSPHSF]における活性化された濃度[HSP]および活性化されていないHSPの変化を例示する。
1回のみの繰り返し(ワンステップ)がここで扱われるが、その手順は、SDMの効果を改善する手段としての複数の段々が生じる事象、または組織HSPの活性化を含む他の治療方法を提供するために、繰り返されることが明らかである。
アレニウス積分Ωの大きさおよび時間間隔で離された2つの別個の処置間の間隔λtを変更させる影響が以下の例および結果によって示される。
上に記載される手順で生成される9つの例が以下に示される。例のすべては2つのSDM処置から成る処置であり、第2の処置は第1の処置後に時間λtで起こり、それらの例は以下を検討する:
●SDM処置における異なる大きさのアレニウス積分Ωの影響[3つの異なるΩ’が考慮される:Ω=0.2、0.5および1.0]
●2つのSDM処置間の間隔λtの変化の影響[3つの異なるλt’が考慮される:λt=15秒、30秒、および60秒。]
上に示されるように、活性化アレニウス積分Ωは、処置パラメータ(例えば、レーザーパワー、デューティサイクル、総列持続時間)およびRPE特性(例えば、吸収係数、HSPの密度)の両方に依存する。
以下の表12は、2つのSDM処置の間隔がλt=1分である場合、細胞のHSP含有量に対する異なるΩ(Ω=0.2、0.5、1)の効果を示す。ここで、細胞は、表11に示される、関与する10種のRybinskiら(2013)の平衡濃度を有するとみなされる。
表12は、4つの異なる時間にそれぞれ対応する4つのHSP濃度(Rybinskiらの任意単位で)を示し:
●第1のSDM処置前に:[HSP(equil)]
●第1のSDM適用直後に:[HSP(SDM1)]
●第1のSDM処置後の間隔λtの終わりに:[HSP(λt)]
●λtの第2のSDM処置直後に:[HSP(SDM2)]
●さらに、単一の処置に対する改善が示される:β=[HSP(SDM2)]/[HSP(SDM1])
本文中に記載される4回のHSP濃度:処置がλt=0.25分=15秒離される場合の、細胞に対する2つのSDM適用のSDMΩを変化させる影響。
表13は、λt=0.5分=30秒のSDM処置の間隔についてものであることを除いて、表12と同じである。
本文中に記載される4回のHSP濃度:処置がλt=0.5分=30秒離間される場合の、細胞に対する2つのSDM処置のSDMΩを変化させる影響。
表14は、処置が1分、すなわち60秒離されていることを除いて、表12および13と同じである。
本文中に記載される4回のHSP濃度:処置がλt=1分=60秒離される場合の、正常(健康)細胞に対する2つのSDM処置のSDMΩを変化させる影響。
表12-14は以下を示す:
●SDMの第1の処置は、[HSP]を3つ全てのΩ’の大きい因子だけ増大するが、その増大は、より大きなΩよりも大きい。表に明確に表されないが、[HSP]の増大は、隔離された(活性化されていない)HSP’の細胞質のリザーバーを犠牲にして成り立つ:[HSPHSF(SDM1)]は[HSPHSF(equil)]よりはるかに小さい
●[HSP]は、2つのSDM処置間の間隔λtを著しく減少させ、λtが大きければ大きいほど、その減少は大きくなる。([HSP]の減少は、間隔λt中の、図26に示されるように[HSPHSF]および[HSPS]の両方における増加を伴い、このことは、活性化されていないHSPの細胞質のリザーバーの急速な補充ならびにHSP’の損傷タンパク質への急速な結合を示す。)
●60秒未満のλtに関しては、単一の処置ではなく2つのSDM処置の細胞質において、活性化された(遊離した)HSP’の数が改善される。
●λtが小さくなるにつれて、その改善は増大する。
●しかし、60秒と同じくらい大きくなるλtについては、比率β=[HSP(SDM2)]/[HSP(SDM1)]は1より小さくなり、このことは、エネルギー源パラメータおよび処置される組織型に応じて変わる場合があるが、単一のSDM処置と比較して2つのSDM処置における改善を示さなかった。
●SDMアレニウス積分Ωが小さければ小さいほど、λt<60秒の改善はより大きくなる。
改善率β=[HSP(SDM2)]/[HSP(SDM1)]の結果が図27に要約され、そこでは、SDMアレニウス積分Ωの3つの値と、間隔t=15秒、30秒、および60秒の3つの値についての改善率β=[HSP(SDM2)]/[HSP(SDM1)]対SDM処置λt(秒)の間隔が示される。一番上の曲線はΩ=0.2の場合であり;中央の曲線はΩ=0.5の場合であり;および、一番下の曲線はΩ=1.0の場合である。これらの結果は、表10のRybinskiら(2013)の速度定数および表11の平衡種の濃度に関する。
表12-14および図27の結果は、表10のRybinskiら(2013)の速度定数および表11の平衡濃度に関するものであることを理解されたい。細胞における実際の濃度および速度定数は、これらの値と異なる場合もあり、したがって、表12-14および図27の数値結果は、絶対的なものではなく代表的なものとしてみなされるべきである。しかし、それらの値が大幅に異なることは予想されていない。したがって、第2およびその後の処置が、3秒~3分、好ましくは10秒~90秒の間隔後に第1の処置に続く、単一の網膜位置などの単一の標的組織の位置あるいは領域上で複数のセッション間の処置を行うことは、HSPおよび関連する構成成分の活性化を増大させ、したがって、標的組織の全処置の効果を増大させる。結果としてもたらされる「段々が生じる」効果は、活性化される熱ショックタンパク質の数の漸増を達成し、処置の治療効果を増強する。しかし、第1の処置とその後の処置との間の時間間隔が大きすぎる場合、「段々が生じる」効果が減少するか、あるいは達成されない。
活性化のための関連するアレニウス積分などの処置パラメータあるいは組織特性が低いものである場合、および、繰り返される適用間の間隔が小さい、例えば、90秒未満、好ましくは1分未満の場合に、本発明の技術は特に有益である。従って、そのような複数の処置は、単一の来院などの同じ処置セッション内に実行されなければならず、本発明の技術の利益を達成するために、別個の処置がそれらの時間間隔の窓を有することができる。
いくつかの実施形態が例示目的のために詳細に記載されているが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更を行ってもよい。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲による場合を除いて限定されない。