以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明の実施形態の概要を示す図である。
図1において、従来の例えば、洋式便器1000の便座1010は、図1(a)に示すように水平に配置されており、このような便座に人が着座すると、図1(b)に示すように、便座1010には矢印Aで示す方向に力が働く。人の臀部には、その反力として矢印Aとは逆方向に圧力が加わり、肛門をすぼめるように力が働く。そのために、痔の疾患を持つような人に対しては、排便時に、肛門の内壁にかかる圧力を高めることになって、様々な肛門疾患を悪化させる可能性が高くなる。具体的な疾患としては、内痔核、外痔核の疾患および、静脈からの出血などが挙げられる。
これに対し、本発明の実施形態では、図2(a)に示すように、便器200の便座(座面)101を、水平方向に対して角度αだけ前方に傾ける。このようにすることにより、図2(b)に示すように、図1に矢印Aで示される力の一部が、図2(b)に矢印Bで示されるように脚の方向に逃げ、結果的に人の臀部にかかる力は、矢印Cのように軽減される。これにより、痔の疾患を持つ人にとって、排便時の苦痛を低減することができる。
なお、図2(a)に示す角度αは、本願出願人の実験によると、角度が大きいほど臀部にかかる力が軽減され、20°以上の角度、より具体的には、20°~50°程度、より好ましくは30°以上、つまり30°~45°程度が、排便時の苦痛を軽減する効果が大きいことが分かった。
(第1の実施形態)
図3は、本発明のインテリジェント・トイレシステムの第1の実施形態の便座装置500の構成を示す図である。
この第1の実施形態の便座装置500は、便座を前方に傾ける機能と便座全体の高さを調節する機能を備える。また、使用者の身長、体重、年齢、性別等から、適切な便座の高さおよび傾き角度を学習し推定する、AI(Artificial Intelligence)部を備え、検出した使用者の身長、体重、年齢、性別等から自動的に使用者に合った便座の高さと傾き角度に調節する機能を有する。
図3に示すように、便器200には、本実施形態の便座の昇降機構510,520を備える便座装置500が装着されて使用される。便座装置500は、便器200に固定されるフレーム503を備える。
フレーム503には、便座501の後端部を押し上げるための押し上げ部材505が上下方向にスライド可能に支持されている。押し上げ部材505の上端部には、回動軸506が配置されており、便座501は、この回動軸506を中心にして開閉することが可能である。
押し上げ部材505の側面には、ラック505aが形成されており、このラック505aには、歯車507が噛み合っている。歯車507は、フレーム503に固定された電動のモーター509の回転軸に固定されている。そのため、モーター509が正転方向または逆転方向に回転することにより、歯車507がラック505aを駆動し、押し上げ部材505が上方向または下方向にスライドされる。
一方、フレーム503は、便器200の前方にも延びており、この部分には、便座501の前端部を押し上げるための押し上げ部材511が上下方向にスライド可能に支持されている。押し上げ部材511の上端部は、便座501の下面に接している。
押し上げ部材511の側面には、ラック511aが形成されており、このラック511aには、歯車513が噛み合っている。歯車513は、フレーム503に固定された電動のモーター515の回転軸に固定されている。そのため、モーター515が正転方向または逆転方向に回転することにより、歯車513がラック511aを駆動し、押し上げ部材511が上方向または下方向にスライドされる。なお、これらの構成からなる便座501の前端部を昇降させる昇降機構520は、使用者が便座501に座ったときに脚の邪魔にならないように、便器200の幅方向の中央部に配置されている。
図3(a)の状態から、モーター509が正転することにより、押し上げ部材505が上方向にスライドし、便座501の後端部が持ち上げられる。これにより、便座501が、図3(b)に示すように、水平面に対して角度αだけ前方に傾いた状態となる。
ここで、便座501が前方に傾くことにより、図2(b)に示したように、人の臀部にかかる力が脚の方向に分散されて、痔の疾患を持つ人にとって、排便時の苦痛を低減することが可能となる。
なお、本実施形態では、押し上げ部材105は、角度αが最大50°程度となるまで便座の後端部を押し上げることが可能である。前述したように、角度αが20°~50°程度である場合に、排便時の苦痛を軽減することが可能であるため、本実施形態では、最大50°程度まで傾けられるように構成されている。
また、後方の昇降機構510のモーター509を駆動させるのと同時に、前方の昇降機構520のモーター515をモーター509と同期させて駆動させることにより、便座501全体の高さを調節することも可能である。なお、前方の昇降機構520は、便座501の傾きを調整するものではなく、高さを調節するだけであるため、後方の昇降機構510ほどの上下動のストロークは必要ない。
なお、上記の説明では、便座の昇降機構520を便器200の前方に配置するように説明したが、使用者の足の邪魔にならないように、便器200の前後方向の中間部の便器200を挟んだ両側部に配置するようにしてもよい。
便座501の傾き角度αは、使用する人によって最適値が異なると考えられるため、本実施形態では、後述する操作部803(図6参照)を使用者が操作する、例えば傾けボタンを操作することなどにより、モーター509を手動で回転させ、自分の好みの角度に調整することが可能である。また、同じく操作部803に配置された昇降ボタンを操作することなどにより、モーター509,515を同期して回転させ、便座501の全体の高さを調整することが可能である。
図4は、図3(a)のD-D断面図である。本実施形態では、便座501を前方に傾けることを主な構成としているが、本実施形態では、さらに便座501の断面形状を図4に示すような形状としている。
より具体的には、便座501の幅方向の高さの頂点501aを、便座501の幅方向の中心501cよりも便器200の中心寄りの位置となるように設定している。これにより、使用者の大腿部分が、便座501の外周側の斜面501bに載ることになり、肛門の周囲が外側に向かって広げられるような力が働く。そのため、排便時の苦痛をさらに軽減する効果が得られる。
次に、図5は、便座装置500とスマートフォン830の通信の概念を示す図である。
スマートフォン830は、WiFiを用いて直接、あるいは、アクセスポイント831を介して便座装置500と通信することが可能である。便座装置500にも、スマートフォン830と通信するための通信部805(図6参照)が配置されている。この構成により、便座装置500はスマートフォン830と通信することができる。トイレの使用者は、後述するように、自身の身長、体重、年齢、性別の情報をスマートフォン830に登録し、スマートフォン830から便座装置500に通知する。便座装置500は、スマートフォン830から通知されたこれらの情報を用いて、後述の便座501の傾き調節と高さ調節の制御を行う。
図6は、本実施形態の便座装置500の電気的な構成を示すブロック図である。
図6において、便座装置500には、便座装置500の全体を制御するCPU801と、使用者が操作することができる操作部803と、スマートフォン830と通信する通信部805と、記憶部811とが配置されている。また、便座装置500には、肛門を洗浄する洗浄水を放出するための放水ノズルが配置されており、CPU801には、放水ノズルの放水角度を、便座501の傾き及び高さに合わせて調整するためのノズル調整部819が接続されている。また、CPU801には、データベースに基づいて、使用者の身長、体重、年齢、性別等から、適切な便座の高さおよび傾き角度を学習し推定する、AI(Artificial Intelligence)部815が接続されている。さらには、CPU801には、図3で説明したモーター509,515の駆動回路であるモーター駆動部817が接続されている。
CPU801は、記憶部811に記憶されている制御プログラムを実行することにより、便座装置500の全体を制御する。操作部803には、便座501を傾けるための傾けボタン、便座501全体を昇降させるための昇降ボタンなどの押しボタンやスイッチなどが配置されている。これらを使用者が操作することにより、後述する便座角度の自動調整の起動や、モーター509,515を手動で駆動させ、便座501の傾きの角度αや高さを自分の好みに応じて調節する操作などを行うことができる。
通信部805は、スマートフォン830と通信し、自身の身長、体重、年齢、性別の情報をスマートフォン830から取得し、CPU801に通知する。
記憶部811は、CPU801が実行するプログラムを記憶しているとともに、事前に登録された使用者個人のIDと、パスワードと、その個人に対する便座501の傾きの角度α及び便座501の高さの情報を関連付けて記憶することができる。これにより、CPU801がIDとパスワードから使用者個人を特定し、便座装置500を使用する場合に、その個人に特有の角度α及び高さを記憶部811から読み出し、便座501の角度及び高さを自動的に使用者に合った値に設定することが可能となる。
データベース813には、本実施形態の便座装置500の製造工程などにおいて収集された学習データが格納されている。学習データは、身長、体重、年齢、性別の異なる多数の人に対して、便座を使用する時の傾きと高さを自分に適した値に調整するようにフィールドテストを行って得られた、身長、体重、年齢、性別と便座の傾きと高さを関連付けたデータである。AI部815は、上記のフィールドテストで得られた便座の傾きと高さのデータを教師データとして、身長、体重、年齢、性別に適した便座の傾きと高さを予め学習しておく。便座の実際の使用時には、AI部815は、通信部805を介してスマートフォン830から得られた使用者の身長、体重、年齢、性別の情報を入力として、既に学習された学習モデルに基づいて、その使用者に適した便座の傾きと高さとを推定する。そして、CPU801は、推定された値に基づいて、モーター駆動部817に指令を出し、便座501の傾き及び高さを調節する。AI部815は、例えば、ディープラーニングなどのニューラルネットワークで構成される。なお、実際の便座の使用時には、AI部815は、使用者の身長、体重、年齢、性別に基づいて便座の傾きと高さを推定して便座を調整するが、それに対してさらに使用者が手動で便座の傾きと角度を調節した場合は、その調節データを学習データに加え、再度学習データ全体を用いて学習を行う。次の使用者が便座を使用する時には、新たに学習されたAI部815により推定が行われる。
図7は、本実施形態の便座装置500の動作を示すフローチャートである。
図7のフローチャートの動作が開始されると、まず、ステップS851において、CPU801は、使用者が操作部803を用いて、便座装置500の傾き・高さ調整動作の開始指示を入力したか否かを判定する。使用者の開始指示が入力された場合は、ステップS852に進み、入力されていない場合は、そのまま待機する。
ステップS852では、CPU801は、使用者個人のID及びパスワードが使用者により入力されたか否かを判定する。使用者個人のIDおよびパスワードが入力された場合は、ステップS853に進み、入力されなかったか、あるいは入力されたIDまたはパスワードが間違っていた場合はステップS855に進む。
ステップS853では、CPU801は、ステップS852で入力された使用者個人のIDに対応する便座501の傾き角度αと高さを記憶部811から読み出す。
ステップS854では、CPU801は、便座501の傾き及び高さが、ステップS853で読み出された使用者個人に対応する傾き角度α及び高さとなるようにモーター駆動部817にモーター駆動量を指示する。そして、モーター駆動部817は、その駆動量の分だけモーター509,515を駆動する。さらに、CPU801は、ノズル調整部819により、放水ノズルの放水角度を、便座501の傾きと高さに合わせて調整し、このフローの動作を終了する。
ステップS855では、使用者個人のIDおよびパスワードが入力されなかったので、CPU801は、使用者がスマートフォン830を用いて、自身の身長、体重、年齢、性別を入力することを選択したか否かを判定する。スマートフォン830を用いて情報の入力を選択した場合は、ステップS856に進み、選択しなかった場合は、ステップS859に進む。
ステップS856では、CPU801は、通信部805を用いてスマートフォン830から、使用者の身長、体重、年齢、性別の情報を取得する。
ステップS857では、CPU801は、ステップS856で取得された、使用者の身長、体重、年齢、性別の情報に基づいてAI部815で推定された便座501の傾きと高さの情報を取得する。
ステップS858では、CPU801は、便座501の傾き及び高さが、ステップS857で取得された値となるように、モーター駆動部817にモーター駆動量を指示する。そして、モーター駆動部817は、その駆動量の分だけモーター509,515を駆動する。さらに、CPU801は、ノズル調整部819により、放水ノズルの放水角度を、便座501の傾きと高さに合わせて調整する。
ステップS859では、CPU801は、手動での便座501の傾き、高さの調節が行われたか否かを判定する。ここでは、ステップS858で設定された便座501の傾き及び高さが使用者の好みではなく、操作部803により、手動での便座501の傾き、高さの調節が行われた場合や、使用者がスマートフォン830を用いず、手動で調節する場合が考えられる。手動での調節が行われた場合は、ステップS860に進む。手動での調節が行われなかった場合には、ステップS858で推定された便座501の傾きと高さが正しかった、あるいは使用者が便座を調節する意思がないと判断し、このフローを終了する。
ステップS860では、ステップS859で手動で調節された便座の傾きと高さのデータをデータベース813の学習データに加え、AI部815は、再度学習データ全体を用いて学習を行う。
ステップS861では、CPU801は、使用者に使用者個人のIDとパスワードの入力を促して、使用者個人のIDの登録を行う。
ステップS862では、CPU801は、ステップS861での個人登録に成功したか否かを判定する。成功した場合は、ステップS863に進み、成功しなかった場合は、このフローの動作を終了する。例えば、ステップS862において、使用者個人が自身のIDを登録することをやめた場合なども、個人登録に成功しなかったと判定する。
ステップS863では、CPU801は、ステップS861で登録された使用者個人のIDに、ステップS859で調節された便座の傾き角度α及び高さの値を関連付けて、記憶部811に記憶する。その後このフローの動作を終了する。
なお、上記の説明では、AI部815は、使用者の身長、体重、年齢、性別に基づいて便座の傾きと高さを推定するように説明したが、必ずしもそれらすべての情報を使用する必要はなく、使用者の身長、体重、年齢、性別の少なくとも1つに基づいて便座の傾きと高さを推定するようにしてもよい。
なお、本実施形態で用いられる便器の高さは、例えば60cm以上であり、身長の低い子供には、足場の台を置くようにしてもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、個人を登録し、その個人のIDと関連付けて記憶されている便座の傾き角度αと高さを読み出すことにより、自動的に、その個人に合った角度及び高さに便座501を調整することができる。これにより、痔の疾患を有する人がトイレを使用する場合の苦痛を軽減することが可能となる。また、使用者が便座を使用する場合に、傾き角度をまだ登録していない場合は、手動で角度を調整することができ、同時にその角度を新たに登録することが可能となる。
さらには、使用者の身長、体重、年齢、性別の情報を取得し、AI部によりそれらのパラメータに適した便座の傾きと高さを推定し、自動調節することにより、個人登録をしていない場合でも、適切な便座の傾きと高さに調節することができる。また、自動調節された値が自分に適さない場合は、使用者は手動で便座の傾きと高さを調節することができ、便座装置は、その調節量に基づいて学習を行うことができる。
(第2の実施形態)
上記の第1の実施形態では、使用者の身長、体重、年齢、性別の情報をスマートフォンを用いて便座装置500に入力するように説明したが、この第2の実施形態では、便座装置500が使用者の身長、体重、年齢、性別を検出する手段を備える場合について説明する。
本実施形態の便座装置の機械的な構成は、図3に示した第1の実施形態の構成と同様であるため、説明を省略する。
図8は、本実施形態の便座装置500の電気的な構成を示すブロック図である。
図8において、便座装置500には、便座装置500の全体を制御するCPU601と、使用者が操作することができる操作部603と、使用者の身長を測定する身長センサ605と、使用者の体重を測定する体重センサ607と、使用者の顔を検出する顔検出部609と、記憶部611とが配置されている。また、便座装置500には、肛門を洗浄する洗浄水を放出するための放水ノズルが配置されており、CPU601には、放水ノズルの放水角度を、便座501の傾き及び高さに合わせて調整するためのノズル調整部619が接続されている。また、CPU601には、データベースに基づいて、使用者の身長、体重、年齢、性別等から、適切な便座の高さおよび傾き角度を学習し推定する、AI(Artificial Intelligence)部615が接続されている。さらには、CPU601には、図3で説明したモーター509,515の駆動回路であるモーター駆動部617が接続されている。
CPU601は、記憶部611に記憶されている制御プログラムを実行することにより、便座装置500の全体を制御する。操作部603には、便座501を傾けるための傾けボタン、便座501全体を昇降させるための昇降ボタンなどの押しボタンやスイッチなどが配置されている。これらを使用者が操作することにより、後述する便座角度の自動調整の起動や、モーター509,515を手動で駆動させ、便座501の傾きの角度αや高さを自分の好みに応じて調節する操作などを行うことができる。
身長センサ605は、超音波センサから成り、トイレの壁の上方などに取り付けられて、人がいない床までの距離から、使用者が下にいる場合の頭頂部までの距離を差し引くことにより使用者の身長を計測する。体重センサ607は、便座501の内部に配置された圧力センサにより、使用者の体重を計測することができる。顔検出部609は、テレビカメラを有し、撮影した画像から使用者の顔を検出する。CPU601は、顔検出部609で撮影された使用者の顔の画像から、特徴量を検出し、使用者個人を特定することができる。また、顔の特徴量から、使用者の年齢及び性別を判定することができる。なお、公衆トイレの場合などは、女子トイレと男子トイレで区別できるため、性別の判定機能は必ずしも必要ではない。
記憶部611は、CPU601が実行するプログラムを記憶しているとともに、CPU601で認証された個人のIDと、その個人に対する便座501の傾きの角度α及び便座501の高さの情報を関連付けて記憶することができる。これにより、CPU601で認証された個人が便座装置500を使用する場合に、その個人に特有の角度α及び高さを記憶部611から読み出し、便座501の角度及び高さを自動的に使用者に合った値に設定することが可能となる。
データベース613及びAI部615の構成及び機能は、第1の実施形態のデータベース813及びAI部815と同様であるため、説明を省略する。
図9は、本実施形態の便座装置500の動作を示すフローチャートである。
図9のフローチャートの動作が開始されると、まず、ステップS701において、CPU601は、使用者が操作部603を用いて、便座装置500の傾き・高さ調整動作の開始指示を入力したか否かを判定する。使用者の開始指示が入力された場合は、ステップS702に進み、入力されていない場合は、そのまま待機する。
ステップS702では、CPU601は、身長センサ605を用いて、使用者の身長を測定する。
ステップS703では、CPU601は、顔検出部609を用いて、使用者の顔を撮影し、顔の特徴量を検出する。
ステップS704では、CPU601は、ステップS703で得られた顔の特徴量に基づいて、使用者個人の認証を行い、記憶部611にIDが既に記憶されている人物と一致するか否かを判断する。また、同時に、顔の特徴量に基づいて、使用者の年齢と性別を判定する。
ステップS705では、CPU601は、ステップS704において、使用者個人が記憶部611にIDが記憶されているどの人物と一致するかの判定が成功したか否かを判定する。使用者個人のIDが特定できた場合は、ステップS706に進み、特定できなかった場合は、ステップS708に進む。
ステップS706では、CPU601は、ステップS704で特定された使用者個人のIDに対応する便座501の傾き角度αと高さを記憶部611から読み出す。
ステップS707では、CPU601は、便座501の傾き及び高さが、ステップS706で読み出された使用者個人に対応する傾き角度α及び高さとなるようにモーター駆動部617にモーター駆動量を指示する。そして、モーター駆動部617は、その駆動量の分だけモーター509,515を駆動する。さらに、CPU601は、ノズル調整部619により、放水ノズルの放水角度を、便座501の傾きと高さに合わせて調整し、このフローの動作を終了する。
ステップS708では、CPU601は、便座501に着座した人の体重を、体重センサ607により測定する。
ステップS709では、CPU601は、ステップS702で検出された使用者の身長、ステップS704で判定された使用者の年齢、性別、ステップS708で検出された使用者の体重に基づいてAI部615で推定された便座501の傾きと高さの情報を取得する。
ステップS710では、CPU601は、便座501の傾き及び高さが、ステップS709で取得された値となるように、モーター駆動部617にモーター駆動量を指示する。そして、モーター駆動部617は、その駆動量の分だけモーター509,515を駆動する。さらに、CPU601は、ノズル調整部619により、放水ノズルの放水角度を、便座501の傾きと高さに合わせて調整する。
ステップS711では、CPU601は、ステップS710で設定された便座501の傾き及び高さが使用者の好みではなく、操作部603により、手動での便座501の傾き、高さの調節が行われたか否かを判定する。手動での便座501の傾き、高さの調節が行われた場合は、ステップS712に進む。手動での調節が行われなかった場合には、ステップS709で推定された便座501の傾きと高さが正しかったと判断し、このフローを終了する。
ステップS712では、ステップS711で手動で調節された便座の傾きと高さのデータをデータベース613の学習データに加え、AI部615は、再度学習データ全体を用いて学習を行う。
ステップS713では、CPU601は、ステップS704で得られた顔の特徴量に基づいて、使用者個人のIDの登録を行う。
ステップS714では、CPU601は、ステップS713での個人登録に成功したか否かを判定する。成功した場合は、ステップS715に進み、成功しなかった場合は、このフローの動作を終了する。例えば、ステップS713において、使用者個人が自身のIDを登録することをやめた場合なども、個人登録に成功しなかったと判定する。
ステップS715では、CPU601は、ステップS713で登録された使用者個人のIDに、ステップS711で調節された便座の傾き角度α及び高さの値を関連付けて、記憶部611に記憶する。その後このフローの動作を終了する。
なお、上記の説明では、AI部615は、使用者の身長、体重、年齢、性別に基づいて便座の傾きと高さを推定するように説明したが、必ずしもそれらすべての情報を使用する必要はなく、使用者の身長、体重、年齢、性別の少なくとも1つに基づいて便座の傾きと高さを推定するようにしてもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、個人を認証し、その個人のIDと関連付けて記憶されている便座の傾き角度αと高さを読み出すことにより、自動的に、その個人に合った角度及び高さに便座501を調整することができる。これにより、痔の疾患を有する人がトイレを使用する場合の苦痛を軽減することが可能となる。また、使用者が便座を使用する場合に、傾き角度をまだ登録していない場合は、手動で角度を調整することができ、同時にその角度を新たに登録することが可能となる。
さらには、使用者の身長、体重、年齢、性別を検出し、AI部によりそれらのパラメータに適した便座の傾きと高さを推定し、自動調節することにより、個人登録をしていない場合でも、適切な便座の傾きと高さに調節することができる。また、自動調節された値が自分に適さない場合は、使用者は手動で便座の傾きと高さを調節することができ、便座装置は、その調節量に基づいて学習を行うことができる。
(第3の実施形態)
図10は、本発明の第3の実施形態の便座装置100の構成を示す図である。
図10に示すように、便器200には、本実施形態の便座の昇降機構110を備える便座装置100が装着されて使用される。便座装置100は、便器200に固定されるフレーム103を備える。
フレーム103には、便座101の後端部を押し上げるための押し上げ部材105が上下方向にスライド可能に支持されている。押し上げ部材105の上端部には、回動軸106が配置されており、便座101は、この回動軸106を中心にして開閉することが可能である。
押し上げ部材105の側面には、ラック105aが形成されており、このラック105aには、歯車107が噛み合っている。歯車107は、フレーム103に固定された電動のモーター109の回転軸に固定されている。そのため、モーター109が正転方向または逆転方向に回転することにより、歯車107がラック105aを駆動し、押し上げ部材105が上方向または下方向にスライドされる。図10(a)の状態から、モーター109が正転することにより、押し上げ部材105が上方向にスライドし、便座101の後端部が持ち上げられる。これにより、便座101が、図10(b)に示すように、水平面に対して角度αだけ前方に傾いた状態となる。
ここで、便座101が前方に傾くことにより、図2(b)に示したように、人の臀部にかかる力が脚の方向に分散されて、痔の疾患を持つ人にとって、排便時の苦痛を低減することが可能となる。
なお、本実施形態では、押し上げ部材105は、角度αが最大50°程度となるまで便座の後端部を押し上げることが可能である。前述したように、角度αが20°~50°程度である場合に、排便時の苦痛を軽減することが可能であるため、本実施形態では、最大50°程度まで傾けられるように構成されている。
便座101の傾き角度αは、使用する人によって最適値が異なると考えられるため、本実施形態では、後述する操作部303(図11参照)を使用者が操作する、例えば昇降用の押しボタンを操作することなどにより、モーター109を手動で回転させ、自分の好みの角度に調整することが可能である。
図11は、本実施形態の便座装置100の電気的な構成を示すブロック図である。
図11において、便座装置100には、便座装置100の全体を制御するCPU301と、使用者が操作することができる操作部303と、使用者の個人認証を行う個人認証部305と、記憶部307とが配置されている。また、CPU301には、さらに、既に図10で説明したモーター109の駆動回路であるモーター駆動部309が接続されている。
CPU301は、記憶部307に記憶されている制御プログラムを実行することにより、便座装置100の全体を制御する。操作部303には、押しボタンやスイッチなどが配置されており、使用者が操作することにより、後述する便座角度の自動調整の起動や、モーター109を手動で駆動させ、便座101の傾きの角度αを自分の好みに応じて調節する操作などを行うことができる。個人認証部305は、指紋認証などにより、使用者個人を特定することができる。なお、認証方法としては、指紋認証に限るものではなく、顔認証、静脈認証など、公知の個人認証技術のいずれを用いてもよい。記憶部307は、CPU301が実行するプログラムを記憶しているとともに、認証された個人のIDと、その個人に対する便座101の傾きの角度αの情報を関連付けて記憶することができる。これにより、個人認証部305で認証された個人が便座装置100を使用する場合に、その個人に特有の角度αを記憶部307から読み出し、便座101の角度を自動的にその角度に設定することが可能となる。
図12は、本実施形態の便座装置100の動作を示すフローチャートである。
図12のフローチャートの動作が開始されると、まず、ステップS401において、CPU301は、使用者が操作部303を用いて、便座装置100の傾き調整動作の開始指示を入力したか否かを判定する。使用者の開始指示が入力された場合は、ステップS402に進み、入力されていない場合は、そのまま待機する。
ステップS402では、個人認証部305により、使用者個人の認証を行い、記憶部307にIDが既に記憶されている人物と一致するか否かを判断する。
ステップS403では、CPU301は、ステップS402において個人認証部305により、使用者個人が記憶部307にIDが記憶されているどの人物と一致するかの判定が成功したか否かを判定する。使用者個人のIDが特定できた場合は、ステップS404に進み、特定できなかった場合は、ステップS406に進む。
ステップS404では、CPU301は、ステップS403で特定された使用者個人のIDに対応する便座101の傾き角度αを記憶部307から読み出す。
ステップS405では、CPU301は、便座101の傾きが、ステップS404で読み出された使用者個人に対応する傾き角度αとなるようにモーター駆動部309にモーター駆動量を指示する。そして、モーター駆動部309は、その駆動量の分だけモーター109を駆動し、CPU301は、このフローの動作を終了する。
ステップS406では、CPU301は、ステップS403で個人認証に成功しなかったので、使用者により、便座101の傾きの手動調整が選択されたか否かを判定する。手動による調整が選択された場合は、ステップS407に進み、選択されなかった場合は、便座101を傾ける必要が無いと判断して、このフローの動作を終了する。
ステップS407では、使用者が操作部303に配置された昇降ボタンなどを使用して、モーター109を手動で駆動し、便座101の傾き角度αを調節する。
ステップS408では、個人認証部305を用いて、使用者個人のIDの登録を行う。
ステップS409では、CPU301は、ステップS408での個人登録に成功したか否かを判定する。成功した場合は、ステップS410に進み、成功しなかった場合は、このフローの動作を終了する。例えば、ステップS408において、使用者個人が自身のIDを登録することをやめた場合なども、個人登録に成功しなかったと判定する。
ステップS410では、CPU301は、ステップS408で登録された使用者個人のIDに、ステップS407で調節された便座の傾き角度αの値を関連付けて、記憶部307に記憶する。その後このフローの動作を終了する。
以上説明したように、本実施形態によれば、個人を認証し、その個人のIDと関連付けて記憶されている便座の傾き角度αを読み出すことにより、自動的に、その個人に合った角度に便座101の傾きを調整することができる。これにより、痔の疾患を有する人がトイレを使用する場合の苦痛を軽減することが可能となる。また、使用者が便座を使用する場合に、傾き角度をまだ登録していない場合は、手動で角度を調整することができ、同時にその角度を新たに登録することが可能となる。
(第4の実施形態)
図13は、本発明の第4の実施形態を示す図である。
この第4の実施形態では、従来の便器または便座の上に、図13に示したような、水平面からの傾き角αを有するスペーサー801を乗せるようにしている。このようにすれば、便器200または便座の上にスペーサー801を載置するという簡便な処置により、便座を傾けたのと同様な効果を得ることができる。また、便器から取り外して簡単に洗浄することができるため、常に清潔な状態を保つことも可能となる。なお、スペーサーは、便器または便座のカバーの形態であってもよい。
また、この場合、スペーサー801は、第1および第2の実施形態に示した便座501に相当する便座と、図3に示した便座の昇降機構510,520を備えてもよい。また、第3の実施形態に示した便座101に相当する便座と、図10に示した便座の昇降機構110を備えるようにしてもよい。
以上のように、第4の実施形態によっても、痔の疾患を有する人がトイレを使用する場合の苦痛を軽減することが可能となる。
(第5の実施形態)
第1乃至第4の実施形態では、便座の傾きと高さを調整できる便座について示したが、これらの便座に、その横や前などに手すりを設けるようにしてもよい。このようにすれば、高齢者などにも使いやすい便座となる。