JP7122106B2 - 抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス剤 - Google Patents
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Description
ウイルスは、一般に約0.02~0.3μmの大きさからなる微小な寄生体であって、主にタンパク質の殻(カプシド)と、その殻内部にある核酸(RNA又はDNA)から構成されている。
ウイルスは、その複製については完全に細胞に依存しており、まず宿主細胞に吸着して細胞内に侵入する。そして、細胞内でDNAやRNAを放出(脱殻)して複製されるが、その過程では特異的酵素を必要とする。ウイルスに感染した宿主細胞は、正常に機能できなくなって通常は死滅し、その宿主細胞から新しいウイルスが放出されて他の宿主細胞へさらに感染する。
ウイルスは、ゲノムとしてDNAを有するDNAウイルスと、RNAを有するRNAウイルスとに大別され、RNAウイルスの中には、代表的なウイルスとして呼吸器疾患を引き起こすインフルエンザウイルスや、消化器疾患を引き起こすロタウイルス及びノロウイルスが知られている。
インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属し、核タンパクの抗原性の違いによってA型、B型及びC型に分類されている。その中で、A型とB型のウイルス表面にある糖タンパク質は変異が大きく、インフルエンザの種類が多い要因となっている。特に、A型インフルエンザウイルスは、抗原性が変異しやすいため、毎年インフルエンザウイルス感染を大流行させている。
またインフルエンザの治療剤としては、例えば、ウイルスの脱殻過程において細胞内でRNAを放出する際に必要なM2蛋白を阻害することで、ウイルス増殖を抑制するアマンタジン(商品名:シンメトレル)が用いられている。また、ウイルスの放出過程において感染した宿主細胞からのウイルス放出に必要なノイラミニダーゼを阻害することで、ウイルス増殖を抑制するオセルタミビル(商品名:タミフル)やザナミビル(商品名:リレンザ)が用いられている。
また、インフルエンザ治療剤については、その有効性が認知されている一方で、副作用や耐性株の出現等の問題がある。またアマンタジンでは、A型ウイルスのM2蛋白を阻害する効果があるがB型ウイルスの蛋白には結合できず効果がない等、同じ活性成分でもウイルスの型によって効果が異なる(非特許文献1参照)。
インフルエンザは、現代においてもその強烈な伝播力によって大きな流行を繰り返す伝染病であって、社会に莫大な被害を及ぼしている。インフルエンザウイルスに有効で安全性の高い薬剤は少ないうえに、耐性ウイルスの出現なども問題視されているため、新規メカニズムの抗インフルエンザウイルス剤の開発が強く望まれているところである。
わが国では、ロタウイルス胃腸炎による年間の患者数は約80万人、入院者数は約7~8万人に及ぶと推計されており、毎年数名の死亡者が報告されている。ロタウイルスは感染力が非常に強く、衛生環境の整った先進国であっても、概ね5歳までにほぼ100%のヒトがロタウイルスに一度は感染すると考えられている。アメリカ合衆国では年間約50万人以上が主に下痢症状で受診し、特に小児は重篤な下痢を起こし易く、罹患患者の約10%は入院すると言われている。地域差があると考えられるが、全世界で毎年約70万人程度が亡くなっていると考えられている。
先進国の疫学調査によると、衛生状態の改善ではロタウイルスの有病率を減少させることはできないとされている。また、ロタウイルスに対するワクチンが一応開発されているものの、ワクチンの無効な型や組み替え体が存在するため、それらの対策が求められている。そこで、新規メカニズムのロタウイルス治療剤の開発が期待されている。
ノロウイルス感染症は近年増加傾向にあり、ノロウイルスは変異を繰り返して、ヒトからヒトへ感染するよう変異することがあり、新型のノロウイルスに対する抗体をもたないために大流行することが多い。しかしながら、ノロウイルスに対するワクチンは、一部有効性が認められるものもあるがまだ開発途上にあって、ノロウイルスワクチンの開発や、新規メカニズムのノロウイルス治療剤の開発が期待されている。
野生スイカの代表的なものとして、アフリカ・カラハリ砂漠に自生するボツワナ原産のスイカが知られており、日本国内の比較的温和な環境に適応したスイカとは異なって、厳しい砂漠環境を生き抜くための環境ストレス耐性能力を有している(非特許文献1参照)。
野生スイカは、シトルリンを高濃度に蓄積し、強い紫外線から身を守る能力と、水分を保持する能力とに優れていることから、各種機能や、機能性発現のメカニズムの解明、ひいては、この物質の利用法等の開発が望まれている。
また特許文献2には、野生種スイカの抽出物を有効成分とするメラニン生成抑制剤が挙げられている。そして、野生種スイカの果肉抽出物よりも葉抽出物の方が、優れた活性酸素消去作用やチロシナーゼ阻害作用があることも明らかとなっている。
上記構成により、例えばヒト、特にウイルス感染患者に8-プレニルナリンゲニンを投与すると、8-プレニルナリンゲニンが生体内においてウイルス増殖を阻害する作用を果たすため、本発明をウイルス感染症の予防剤又は治療剤として用いることができる。
そして、8-プレニルナリンゲニンを投与することで、ウイルス増殖の阻害作用が向上する。
そして、ウイルス感染症のうち、特にその強烈な伝播力によって社会に莫大な被害を及ぼすインフルエンザウイルス感染症の予防剤又は治療剤として好適に用いることができる。
また、8-プレニルナリンゲニンの新規な利用方法となる抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス剤を提供することができる。
本実施形態は、スイカを原料とする8-プレニルナリンゲニンの製造方法に関するものである。
また、本実施形態は、8-プレニルナリンゲニンを有効成分とし、ヒトに投与することでヒト体内のウイルスの増殖を阻害して、ウイルス感染症の予防又は治療に用いられることを特徴とする抗ウイルス用食品組成物及び抗ウイルス剤の発明に関するものである。
8-プレニルナリンゲニン(CAS登録番号:53846-50-7)は、以下の構造式(化1)に示すように、フラボノイド(フラバノン)であるナリンゲニンの8位にプレニル基が結合した構造を有している。ここで、プレニル基は炭素数5のイソプレン単位で構成される構造単位の総称であり、炭素数5(C5)のものはジメチルアリル基と呼ばれる。
本発明の8-プレニルナリンゲニンの製造方法において、8-プレニルナリンゲニンの原料となる「スイカ」とは、ウリ科スイカ属に分類されるつる性一年草であって、主に果実を食用にするために栽培される植物である。
スイカのうち、特に「野生スイカ」とは、アフリカ・カラハリ砂漠に自生するボツワナ原産のカラハリスイカであって栽培物も含むものである。そのほか、乾燥地帯や砂漠地帯を自生地とする他の野生種のスイカも含むものである。
また、スイカの中には、遺伝的方法、例えば組換え、形質導入、形質転換等により得られるものも含まれる。
その中でシトルリンに注目すると、野生スイカには、100gあたり約20~200mgのシトルリン量が含まれている。
野生スイカには、通常のスイカに含まれる成分に加えて、高濃度に蓄積されたシトルリンや未同定の有効成分によってもたらされる、通常のスイカとは全く異なる作用・効果がある。
上記の通り、野生スイカは、糖濃度が低く、甘さが少ないことから、通常のスイカと比較しても利用できる範囲が非常に広くなっている。
本実施形態の8-プレニルナリンゲニンの製造方法は、スイカを用意するスイカ用意工程と、前記スイカからスイカ抽出物を得る抽出工程と、前記抽出工程で得られた前記スイカ抽出物から8-プレニルナリンゲニンを分離する分離工程と、を行うことを特徴とする。
以下、各工程について、図1を参照して詳細に説明する。
スイカ用意工程では、8-プレニルナリンゲニンの原料となるスイカを用意する(ステップS1)。
原料となるスイカとしては、好ましくはシトラスラナタス(Citrullus lanatus)、特にアフリカ・カラハリ砂漠由来の野生スイカであることが好ましい。
抽出工程では、スイカ用意工程で用意したスイカから8-プレニルナリンゲニンを含有するスイカ抽出物を得る(ステップS2)。
親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
なお、抽出溶媒や抽出手段は、8-プレニルナリンゲニンを抽出可能なものであれば特に限定されることなく、いかなる溶媒や手段を用いても良い。
分離工程では、前記抽出工程で得られた前記スイカ抽出物から8-プレニルナリンゲニンを分離する(ステップS3)。
8-プレニルナリンゲニンを分離することができれば、分離(分画)の方法は特に限定されるものではないが、例えば、適当な分離手段(例えば、分配抽出、ゲル濾過法、シリカゲルクロマト法、逆相若しくは順相の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)など)により8-プレニルナリンゲニン含有量の高い画分を分画して得る方法や、スイカ抽出物をろ過し、抽出液と残渣に分離し、抽出液を濃縮して液体クロマトググラフィーにより分画する方法が挙げられる。
分離工程において、8-プレニルナリンゲニンを精製してもよい。精製の方法は特に限定されるものではないが、例えば、適切な分離カラムや再結晶によって8-プレニルナリンゲニンを精製する方法が挙げられる。
ウイルスは、ゲノムがDNAであるかRNAであるかによって、DNAウイルスとRNAウイルスに大別される。
またDNAウイルスは、DNAが一本鎖であるか二本鎖であるかによって、主に2つに分類することができる。
具体的には、一本鎖のDNAウイルスとして、パルボウイルス科などが存在し、また、二本鎖のDNAウイルスのうち、エンベロープを有するものとしてヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科及びヘパドナウイルス科などが存在し、エンベロープを有しないものとしてアデノウイルス科及びパピローマウイルス科などのウイルスが存在する。
一本鎖のDNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、ヒトパルボB19(伝染性紅班)などが挙げられ、また、二本鎖のDNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、単純ヘルペス(歯肉口内炎、唇ヘルペス、性器ヘルペスウイルス感染症)、水痘・帯状疱疹、痘瘡、B型肝炎、アデノ(咽頭結膜熱、急性出血性結膜炎、流行性角結膜炎)、ヒトパピローマなどが挙げられる。
具体的には、まず一本鎖の-鎖RNAウイルス(エンベロープを有するもの)として、オルトミクソウイルス科、ラブドウイルス科、パラミクソウイルス科、フィロウイルス科、ブニヤウイルス科及びアレナウイルス科などのウイルスが存在する。なお、インフルエンザウイルスは、オルトミクソウイルス科に属している。
これら一本鎖の-鎖RNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、インフルエンザ、鳥インフルエンザ、狂犬病、麻疹、ムンプス(流行性耳下腺炎)、RS(呼吸器感染症)、エボラ(出血熱)、マールブルグ(出血熱)、クリミア・コンゴ出血熱、SFTS、ラッサ(出血熱)、フニン/サビア/ガナリト/マチュポ(出血熱)などが挙げられる。
これら一本鎖の+鎖RNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、デング、ウエストナイル、日本脳炎、C型肝炎、黄熱、SARSコロナ、MERSコロナ、風疹、ヒト免疫不全(AIDS)、ヒトTリンパ好性(成人T細胞白血病)、E型肝炎、ノロ(感染性胃腸炎)、ポリオ(急性灰白髄炎)、A型肝炎、コクサッキー(手足口病、ヘルパンギーナ)、ライノ(感冒)などが挙げられる。
なお、ロタウイルスは、レオウイルス科に属している。
二本鎖RNAウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患としては、ロタ(感性性胃腸炎)などが挙げられる。
インフルエンザウイルスは、ウイルス表面に存在する抗原性糖タンパク質であるヘマグルチニン(Hemagglutinin:HA)とノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA)の活性によって宿主細胞へ吸着し、また、ノイラミニダーゼの活性によって宿主細胞内に侵入することができる。
インフルエンザウイルスは、これら抗原性糖タンパク質の違いによってA型、B型及びC型に分類されている。特に、A型インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン16種と、ノイラミニダーゼ9種との型によって144種類の亜型に分けられる。そして、これらの組み合わせが頻繁に変化し、これに起因して抗原性の異なる新たな亜型のウイルスが出現することが知られている。
健常人では、通常約24~48時間の潜伏期間をおいて発症し、1~2週間程度で治癒するが、乳幼児、高齢者や呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患や免疫機能が低下している患者などでは、細菌などによる二次感染や肺炎を併発して死に至る場合も少なくない。また、呼吸器の局所感染にとどまらず、インフルエンザ脳炎・脳症などに代表される重症神経系合併症といった極めて重篤な症例も報告されている。このほか、腹痛、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状がみられることもあり、特に小児では注意を要する。
ロタウイルス粒子は、コア、内殻及び外殻の3層で構成される二重殻粒子からなり、ウイルス粒子内にRNAポリメラーゼやキャップ合成関連酵素を有する。コアは、タンパク質VP1、VP2、VP3からなり、内殻タンパク質VP6によって覆われて一重殻粒子を形成し、さらに外殻タンパク質VP4、VP7で覆われて二重殻粒子つまり感染性ウイルス粒子を形成する。
ロタウイルスは、内殻タンパク質VP6の抗原性によってA~H群の8種類に分類される。ヒトへの感染が報告されているロタウイルスは主にA群~C群である。
ロタウイルスは、ヒトの小腸の腸管上皮細胞に感染し、微絨毛の配列の乱れや欠落などの組織病変の変化を引き起こす。これによって腸からの水の吸収が阻害され下痢症を発症する。通常約48時間の潜伏期間をおいて発症し、主に乳幼児に急性胃腸炎を引き起こす。
主症状は下痢(血便、粘血便は伴わない)、嘔気、嘔吐、発熱、腹痛であり、通常約1~2週間で自然に治癒するが、脱水がひどくなるとショック、電解質異常、時には死に至ることもある。
ウイルスは、核酸やタンパク質の合成に必要な素材を有しておらず、必ず生体細胞を必要とする。生体細胞内に寄生して、細胞の代謝を利用して増殖し、材料、宿主細胞の代謝酵素、タンパク質合成のための宿主細胞リボソームを利用して自己成分を合成する。
例えば細菌は基本的に2分裂によって増殖していくのに対し、ウイルスは1つの粒子が感染した宿主細胞内で一気に数を増やしていく。
インフルエンザウイルスの場合、ウイルス表面にあるヘマグルチニンが細胞側にあるシアル酸受容体に結合する。
ロタウイルスの場合、ウイルス表面にある結合タンパク質(外殻タンパク質VP4、VP7)が細胞側にある受容体に結合する。
インフルエンザウイルスの融合には、宿主細胞由来のエンドプロテアーゼによるヘマグルチニンの特異的配列部位でのペプチド結合の開裂が必須である。この開裂によってヘマグルチニンの膜融合ドメインが露出し、エンドソーム膜との融合が起こる。
ロタウイルスの場合、宿主細胞由来のプロテアーゼ(トリプシン)によって、外殻タンパク質VP4が、タンパク質VP5とタンパク質VP8に開裂している必要がある。この開裂の後、まずタンパク質VP8がシアル酸を含む分子(第1レセプター)と接触し、次にタンパク質VP5及び外殻タンパク質VP7がインテグリン(第2レセプター)と結合することによって、直接侵入あるいはエンドサイトーシスで細胞内へ侵入すると考えられている。
A型インフルエンザウイルスの表面には、M2蛋白と呼ばれる膜タンパク質が存在しており、M2蛋白はH+を通過させるイオンチャネルを形成している。エンドソーム内がさらに酸性化(pHの低下)していくと、このイオンチャネルのゲートが開き、H+がウイルス内へ取り込まれる。これを契機として、ウイルスの脱殻が生じ、RNAが細胞内に放出される。
ロタウイルスの場合、細胞侵入の際に外殻タンパク質VP4、VP7が除去される。外殻タンパク質VP4、VP7が外れることで、細胞内に放出された内殻タンパク質VP6の再配置が起こり、RNA転写が開始される。
インフルエンザウイルスの場合、細胞内で増殖した後、感染した宿主細胞から放出される際には、ウイルス由来のノイラミニダーゼによるヘマグルチニンとシアル酸受容体との切断が必須である。
また、オセルタミビルやザナミビルは、インフルエンザウイルスのエンベロープに存在するスパイクタンパク質の1つであるノイラミニダーゼの作用を阻害し、複製されたインフルエンザウイルスが宿主細胞から出芽して他の宿主細胞へ感染を広げることを抑制することができるものの、近年、若年者に対する副作用が問題となっている。
ノロウイルスは、ヒトに対して嘔吐、下痢等の急性胃腸炎症状を引き起こし、症状が消失した後も約3~7日間ほど患者の便中に排出されるため、2次感染に注意が必要である。
ノロウイルスはヒトの空腸の上皮細胞に感染して繊毛の委縮と扁平化、さらに剥離と脱落を引き起こして下痢を生じると考えられている。
潜伏期間は約24~48時間であると考えられ、嘔気、嘔吐、下痢が主症状であるが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感などを伴うこともある。特別な治療を必要とせずに軽快するが、乳幼児や高齢者およびその他、体力の弱っている者での嘔吐、下痢による脱水や窒息には注意をする必要がある。
現在のところ、ノロウイルスに効果のある一般的な抗ウイルス剤はなく、通常、対症療法が行われており、脱水症状を防止するための水分補給や、体力消耗を防ぐために栄養補給をすることが治療の中心となっている。また臨床症状からだけではノロウイルス感染症を特定することは難しいとされている。
本実施形態の抗ウイルス剤は、8-プレニルナリンゲニンが有するウイルス増殖の阻害作用、特にRNAウイルス増殖の阻害作用を通じて、抗ウイルス作用を発揮するものである。
具体的な作用メカニズムは、以下の通りである。
(1)8-プレニルナリンゲニンは、RNAウイルスの増殖過程のうち「吸着時期」において当該ウイルス表面にある結合タンパク質(リガンド)が宿主細胞表面にある受容体(レセプター)に結合する際に、当該ウイルスの宿主細胞への吸着を阻害する作用を果たす。
詳しく言うと、RNAウイルスがインフルエンザウイルスの場合、8-プレニルナリンゲニンが、当該ウイルスの吸着時期に必要となる糖タンパク質(ヘマグルチニン等)の活性を阻害する作用を果たす。
また、RNAウイルスがロタウイルスの場合、8-プレニルナリンゲニンが、当該ウイルスの吸着時期に関与する結合タンパク質(外殻タンパク質VP4、VP7)や特異的酵素の活性を阻害する作用を果たす。
詳しく言うと、RNAウイルスがインフルエンザウイルスの場合、8-プレニルナリンゲニンが、当該ウイルスの複製時期に必要となる特異的酵素の活性を阻害する作用を果たす。
また、RNAウイルスがロタウイルス又はノロウイルスの場合、8-プレニルナリンゲニンが、これらウイルスの複製時期に関与する結合タンパク質や特異的酵素の活性を阻害する作用を果たす。
そのため、ウイルスの増殖過程のうち特定の一時期においてのみ抗ウイルス活性を発揮する従来の抗ウイルス剤と比較して、本抗ウイルス剤であれば、ウイルス増殖過程の前半の吸着時期であったとしても、また後半の複製時期であったとしても抗ウイルス活性を発揮することが可能となる。
また、本抗ウイルス剤は、例えばA型インフルエンザウイルスには効果を発揮するもののB型、C型には効果を有さないアマンタジンのような抗ウイルス剤と比較して、A型、B型、C型を問わず、全てのインフルエンザウイルスに対して抗ウイルス活性を発揮する。
従って、従来の抗ウイルス剤として使用認可されているアマンタジンやオセルタミビル、ザナミビルに次ぐ新たな抗ウイルス剤として、臨床応用の可能性がある。
本実施形態の8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含有する抗ウイルス剤は、ウイルス感染症患者、ウイルス感染症に罹患したヒト以外の動物に投与されることで、ウイルス感染症の治療剤として、またウイルス性疾患の治療剤として用いることができる。
また、ウイルス感染症を罹患する前のヒト、ウイルス感染症予備軍のヒト、これらヒト以外の動物を対象としたウイルス感染症の予防剤として、またウイルス性疾患の予防剤として用いることもできる。
また、本実施形態の抗ウイルス剤は、ウイルスを病原体とする感染性胃腸炎の予防剤又は治療剤として用いることもできる。
インフルエンザウイルスの場合、A型インフルエンザウイルスに感染した患者に対して投与されることが望ましく、さらに当該ウイルスの亜型がH1N1であることが望ましい。
ロタウイルスの場合、A群ロタウイルスに感染した患者に対して投与されることが望ましく、さらに当該ウイルスがA群ロタウイルスWa株(G1P[8])であることが望ましい。
医薬の分野では、ウイルス増殖を阻害する作用、すなわち、ウイルスの宿主細胞への吸着阻害作用、または、ウイルスの宿主細胞からの放出阻害作用を有効に発揮できる量の8-プレニルナリンゲニンと共に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、当該作用を有する医薬組成物が提供される。当該医薬組成物は、医薬品であっても医薬部外品であってもよい。
当該医薬組成物は、内用的に適用されても、また外用的に適用されても良い。従って、当該医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/又は腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用することができる。
当該医薬組成物の剤型としては、適用の形態により、適当に設定できるが、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤などの液状製剤、軟膏剤、またはゲル剤等の半固形剤が挙げられる。
食品の分野では、ウイルス増殖を阻害する作用を生体内で発揮できる有効な量の8-プレニルナリンゲニンを、各種食品に配合することにより、当該作用を有する食品組成物を提供することができる。
すなわち、本発明は、食品の分野において、抗ウイルス用、ウイルス増殖阻害用等と表示された食品組成物を提供することができる。当該食品組成物としては、一般の食品のほか、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等が挙げられる。また、食品添加物として用いることもできる。
当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル等が挙げられる。また、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の場合、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であっても良い。
また栄養機能食品とは、栄養成分(ビタミン、ミネラル)の補給のために利用される食品であって、栄養成分の機能を表示するものである。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が定められた上限値、下限値の範囲内にある必要があり、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等もする必要がある。
また機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品である。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものである。
また本発明は、8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含み、生体、例えばウイルス感染症を罹患する前のヒト、ウイルス感染症予備軍のヒト、これらヒト以外の動物を対象とした抗ウイルス剤用特定保健用食品や、抗ウイルス剤用栄養機能食品、抗ウイルス剤用機能性表示食品として用いることができる。
本実施形態の抗ウイルス剤の用法としては、例えばインフルエンザウイルスの場合、ヒトの上気道(鼻腔や咽頭)で感染し易いため、例えば、スプレーによって鼻腔内又は口腔内へ直接噴霧することや、吸入器によって鼻腔内又は口腔内へ導入すると良い。また、うがい薬によって口腔内へ導入すると良い。そのほか、点鼻等で経鼻投与しても良いし、のど飴やトローチ、ガム等で経口投与しても良いし、マスクや消毒お手拭きに利用しても良い。
また例えばロタウイルスやノロウイルスの場合、ヒトの腸内で感染し易いため、腸内で抗ウイルス剤が溶解するように(胃では溶解しないように)処方すると良い。例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒又はシロップ等によって経口投与すると良い。
野生スイカの抽出物を、以下の手順により調製した。
アフリカ・カラハリ砂漠由来の野生スイカ(シトラスラナタス:Citrullus lanatus)の果実を果皮、種子も含めた状態で、公知な搾汁機を用いて搾汁(圧搾)することで果汁を得た。当該果汁を沈殿物の形成を防ぐ等の目的で限外濾過し、分子量3000以上の成分を取り除くことで野生スイカの抽出物エキスを得た。
当該エキスをスイカ抽出物として、8-プレニルナリンゲニンの原料として用いた。
(試験1の試験方法)
(1)ODSC18 20gをメタノール200mlに溶かし、脱気を行いカラムに充填した。
(2)アセトニトリル50mlで置換し、一晩放置した。
(3)超純水を50ml×2回流した後、試料4ml(濃縮無し)をゲルに浸透させた。
(4)下記表1に示す溶媒を流し、分画を行った。分画試料は各フラクション(Fr)50mlを25ml×2本で採取した。
(5)得られた画分(Fr2以降)は、エバポレータで溶媒を飛ばし、凍結乾燥した後、超純水1mlで溶解した。
(6)添加実験のため、0.45μmフィルターで滅菌した。
(7)24wellプレートにてインフルエンザウイルス株(P/R/8/34)を感染させたMDCK細胞に培地500μl/wellに対して10%になるように各フラクションの溶解液を添加し、24時間後に上清を回収し、フォーカス法にてウイルスの定量を行った。
以上の結果より、カラハリスイカろ過果汁中の有効成分の一部はODSC18に吸着することがわかった。添加実験及びフォーカス法の結果より、Fr1,1’(非吸着画分)とFr3(吸着画分)が抗ウイルス活性を示し、特にFr3に強い活性が見られた。
試験1にて得られた活性画分中に含まれる抗インフルエンザウイルス成分の検索を行う。
(試験2の試験方法)
試験1にて得られた活性画分と非活性画分をそれぞれ複数回、同条件にて採取し、MS測定に必要な凍結乾燥重量となるまで採取した。採取後、LC-MS,LC-MS/MSで測定を行い、有効成分の解析を行った。LC-MSで分子量を測定し、LC-MS/MSで分子量と分子式を測定した。両測定器での分子量と活性画分と非活性画分間のピークを比較しながら解析を行った。
・LC-MS
LC装置:Agilent1260
カラム:synergi Hydro-RP-100A(100mm×3mm,Φ2.5μm)
温度:40℃
移動相:A液-2%酢酸溶液、B液-(0.5%酢酸溶液:アセトニトリル1:1(v/v))、移動相グラジエントを以下の表3に示す。
流速:0.4ml/min
注入量:5.0μl
乾燥窒素ガス:350℃(12L/分)
ネブライザー圧:60psi
キャピラリー電圧:2500V
フラグメンター電圧:100V
イオン化法はESIのPositive/Negative同時に測定し、Qualitative Abalysis Ver.B 06.00 Buird6.0.33.10SPで解析した。
LC装置:島津製作所LC20A
カラム:synergi Hydro-RP-100A(100mm×3mm,Φ2.5μm)
温度:40℃
移動相:A液-2%酢酸溶液、B液-(0.5%酢酸溶液:アセトニトリル1:1(v/v))
流速:0.4ml/min
注入量:5.0μl
凍結乾燥重量は、Fr1で0.334g、Fr1’で0.04g、Fr2で0.011g、Fr3で0.073g、Fr4で0.011gであった。
試験3では、実施例1のスイカ抽出物(スイカ果汁)に含まれる8-プレニルナリンゲニンの定量を行った。
(1.概要)
スイカ抽出物1mLを分取して、水及びメタノール(1/1)混液で10mL定容として試験液を調製した。試験液を液体クロマトグラフ-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)に供して試料中の8-プレニルナリンゲニンを定量した。8-プレニルナリンゲニンの標準品は依頼者提供品(純度98%)を用いた。
・LC-MS/MSの測定条件
装置:[LC]Nexera XR(島津製作所製)
[MS/MS]QTRAP 5500(エービーサイエックス製)
カラム:L-column2 ODS 150mm×2.0mm,3μm((一財)化学物質評価研究機構製)
カラム温度:40℃
移動相:移動相(A)0.1%ぎ酸水溶液
移動相(B)0.1%ぎ酸メタノール溶液
B30%(0min)→10min→B90%(5min)
流量:0.2mL/min
注入量:5μL
イオン化法:ESI(Negative)
測定モード:選択反応検出法(SRM)
測定イオン:定量イオンm/z339.8>219.9
確認イオンm/z339.8>176.0
8-プレニルナリンゲニン標準溶液(0.1ng/mL)及び試験液のクロマトグラムを図3A及び図3Bに示す。
試料中の8-プレニルナリンゲニン定量分析結果を表4に示す。
8-プレニルナリンゲニンを用いて、インフルエンザウイルス増殖を阻害する作用を確認する試験を行った。宿主細胞としてMDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞を使用し、またウイルスとしてインフルエンザウイルスA型/PR/8/34(H1N1)株を使用し、また培地として10%FBS(Fetal Bovine Serum)含有のDMEM(Dulbecco‘s Modified Eagle Medium)培地を使用した。
そして、培養したMDCK細胞にインフルエンザウイルスを0.001moi(感染多重度)で感染させて37℃で1時間放置した(吸着させた)。
その後、液体培地に対して、8-プレニルナリンゲニンを所定濃度含むように添加し、CO2インキュベータにて24時間培養した。
その後、感染細胞から放出されたウイルスを含む上清を回収し、フォーカス法を用いて細胞のウイルス力価(FFU/ml)を測定し、ウイルス増殖阻害率(%)を算出した。また、細胞のウイルス感染を50%阻害する8-プレニルナリンゲニンの濃度(IC50)を算出した。
上記試験結果を解析して、8-プレニルナリンゲニンによる各濃度のウイルス増殖阻害率を比較したグラフを図4に示す。
ウイルス増殖阻害率は、エキス濃度が高くなるにつれてさらに増加した。
なお、「濃度1μg/ml」とは、液体培地1mlに対して1μgの8-プレニルナリンゲニンが含まれる濃度であることを示す。
試験4の結果から、8-プレニルナリンゲニンは、全ての濃度においてインフルエンザウイルス増殖を阻害する作用が確認された。また、濃度依存的にウイルス増殖を阻害する作用が高くなった。
このことから、スイカに含まれる成分のうち、8-プレニルナリンゲニンが、インフルエンザウイルス増殖を阻害する作用をよりもたらすことが分かった。
また、インフルエンザウイルス増殖を阻害する作用における8-プレニルナリンゲニンの好適な濃度(IC50)は0.087μg/mlであることが分かった。
アグリコンであるナリンゲニンのIC50値が70μg/mlであり、8-プレニルナリンゲニンは非常に高いインフルエンザウイルスの阻害活性を示した。モル数に換算すると、ナリンゲニン(分子量:272)で0.26×10-3M、8-プレニルナリンゲニン(分子量:340)で0.26×10-6Mであり、8-プレニルナリンゲニンはナリンゲニンと比較して103倍高い活性を示した。
8-プレニルナリンゲニンを用いて、8-プレニルナリンゲニンの細胞毒性の有無を検討する試験を行った。マイクロプレートに単層培養したMDCK細胞に8-プレニルナリンゲニンと終濃度4μg/mlアセチルトリプシン含有無血清DMEM培地の混合液を添加し、37℃で1日間培養した。MTT標識試薬を加えて37℃で4時間更に培養し、可溶化溶液を加えて37℃で一晩培養した。マイクロプレートリーダーを用いて、リファレンス波長を650nmとし、575nmで吸光度を測定した。
上記試験結果を解析して、8-プレニルナリンゲニンによる各濃度の吸光度をプロットしたグラフを図5に示す。
コントロールと比較して、吸光度の減少は観測されなかった。
試験5の結果から、0~25μg/mlの範囲で8-プレニルナリンゲニンに細胞毒性はないことが示唆された。
8-プレニルナリンゲニンを用いて、インフルエンザウイルスが増殖するために必要な過程のうち、どの増殖過程を阻害しているかを確認する試験を行った。宿主細胞としてMDCK細胞を使用し、またウイルスとしてインフルエンザウイルスA型/PR/8/34株を使用し、また培地として10%FBS含有のDMEM培地を使用した。
まず、試験1と同様に単層培養したMDCK細胞にインフルエンザウイルスを0.01moi(感染多重度)で感染させて(添加して)37℃で1時間放置した(吸着させた)。
対照として、DMSO(ジメチルスルホキシド)を添加した。
ウイルス吸着から8時間経過後に、-80℃から37℃の凍結融解を2回繰り返し、細胞内のウイルス力価を、フォーカス法を用いて測定し、ウイルス増殖阻害率を算出した。
上記試験結果を解析して、8-プレニルナリンゲニンによる前処理時のみ、ウイルスの吸着時、培養時、吸着・培養時における増殖阻害活性を比較したグラフを図6に示す。
前処理時のみ、ウイルスの吸着時、培養時、吸着時及び培養時の双方における増殖阻害率は、順に57%、96%、51%、96%であった。
抽出物の添加期間が培養0時間から4時間、培養4時間から8時間、培養0時間から2時間、培養2時間から4時間、培養4時間から6時間、培養6時間から8時間、における増殖阻害率は、順に9%、59%、-4%、-13%、13%、29%であった。
試験6の結果から、8-プレニルナリンゲニンを添加することで、ウイルスの細胞への吸着時、ウイルスの細胞内での増殖時の双方でウイルスの増殖を阻害していることが判明した。また、「細胞への吸着時」のほうが「細胞内での増殖時」よりもウイルス増殖を阻害する作用が高くなった。
Claims (2)
- 8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含有し、
前記8-プレニルナリンゲニンの含有量が0.087μg/ml以上であり、
ウイルス感染症の予防又は改善に用いられ、
前記ウイルス感染症は、インフルエンザウイルスの感染症であることを特徴とする抗ウイルス用食品組成物。 - 8-プレニルナリンゲニンを有効成分として含有し、
前記8-プレニルナリンゲニンの含有量が0.087μg/ml以上であり、
ウイルス感染症の予防又は治療に用いられ、
前記ウイルス感染症は、インフルエンザウイルスの感染症であることを特徴とする抗ウイルス剤。
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