JP7120553B2 - イブルチニブを有効成分として含む退行性脳疾患の予防又は治療用薬学的組成物 - Google Patents
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Description
細胞株及び培養条件
BV2ミクログリア(BV2 microglial cells;Dr.Kyung-Ho Suk博士から入手)を5%ウシ胎児血清(FBS,Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)が含有されたDMEM/高含量グルコース(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)培地を用いて5%CO2培養器で培養した。
全ての実験は韓国脳研究院(IACUC-2016-0013)が承認された動物実験及び指針に則って行った。C57BL6/NマウスはOrientBio Companyから購入して使用し、雄C57BL6/N(8週、25~30g)マウスは病源菌のない施設で22℃の周囲温度で12時間の明暗周期下において飼育した。飼育したマウスへの薬物注入は、イブルチニブ(10mg/kg)又はビヒクル(DMSO)を3日間腹腔内(i.p)投与し、LPS(10mg/kg,i.p)を3時間連続的に注射した。3時間後、4%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液を用いて野生型マウスを灌流及び固定させ、脳組織をフラッシュ凍結させた後、クリオスタット(cryostat)で40mm厚みになるように切片化した。各脳切片は免疫組織化学染色に使われた。脳切片をPBSで洗浄し、室温で0.2%トリトンX-100及び1%BSAを含有するPBSで1時間恒温培養して透過性を有するようにし、1時間後、一次抗体を4℃で一晩反応させ、組織を0.5%BSAで3回洗浄した後、室温で1時間、二次抗体を反応させた(ビオチン-結合された抗ウサギ抗体(1:400、Vector実験室))。その後、脳切片を0.5%BSAで洗浄し、常温でavidin-biotin複合溶液(Vector Laboratories,Burlingame,CA)において1時間培養した。0.1M PB緩衝液で3回洗浄した切片は、0.003%H2O2を含有する0.1M PBで0.5mg/ml 3,3’-ジアミノベンジジン(DAB,Sigma-Aldrich)を用いて反応結果の信号を検出した。切片は0.1M PBですすぎ、ゼラチンコートスライドに載せた後、明視野顕微鏡(Leica)を用いてイメージ分析を行った。
5xFADマウス(ストックナンバー.008730、B6SJL-Tg APPSwFlLon、PSEN1*M146L*L286V6799Vas/Mmjax)F1世代をジャクソン研究所から入手し、形質転換雄マウス(5xFAD)をジャクソン研究所から購買した雌C57BL/6Jと共に置いた。5xFADは、K670N、M671L(Swedish)、I716V(Florida)、及びV717I(London)を有する突然変異ヒトAPP(695)と2個のFAD変異(M146L及びL286V)を有するヒトPS1に伴うヒト家族性アルツハイマー病(Familial Alzheimers Disease,FAD)変異を過剰発現するものとして知られている。上記形質転換は、マウスThy1プローモーターによって調節されて脳で過剰発現されるようにし、5xFAD形質転換に対するジェノタイピングは、ジャクソン研究所のジェノタイピングプロトコルによって提供されるPCR方法で行った。
4週齢マウスから尾を切りはなし、これから誘電体DNAを抽出した。尾を塩基性溶解溶液で95℃、2時間インキュベーションした後、中性化溶液で反応を終了した。Prime Taq Premix(GeNetBio,Korea)を用いてPCR反応を行い、PCR生成物を1.5%アガロースゲルで電気泳動により分離した。本発明で使われたプライマー配列は、次の通りである:
フォワードプライマー:5-AATAGAGAACGGCAGGACCA-3
リバースプライマー:5-GCCATGAGGGCACTAATCAT-3
PCR増幅は、94℃で30秒間変性、60℃で30秒間アニーリング及び72℃で90秒間延長のサイクルを35回繰り返し行い、PCR生成物をEco Dye(1:5000,Korea)と共に1.5%アガロースゲル上で電気泳動により分離した。
実験に用いたマウス動物を灌流溶液(0.9%NaCl,Sigma)及び4%パラホルムアルデヒド溶液(Millipore)を用いて灌流及び固定し、脳組織を凍結組織切片機(Leica)で切断し(40mm厚み)、免疫蛍光及び免疫組織化学染色を行った。免疫蛍光染色のために、薄片をPBSで洗浄してから、次の一次抗体とインキュベーションした。アミロイドプラークを検出することができるAnti-4G8抗体、アミロイド分解酵素であるAnti-IDE抗体、タウリン酸化検出のための抗体Anti-AT8を用いた。抗体は、0.5%BSAを含有するPBSで希釈し、ゆっくりシェイクしながら4℃で一晩インキュベーションした。翌日、組織を0.5%BSAを含有するPBSで洗浄し、555-コンジュゲーション-Anti-ラビットIgG(1:200,Molecular Probe)と共に室温で1時間インキュベーションした。組織をゼラチンコートされたカバーガラス上に載せ、DAPI含有マウント溶液(Vector Laboratories)を上に加えた。染色された組織を共焦点顕微鏡(TI-RCP,Nikon)で撮影した。免疫組織化学のために、薄片をPBSで洗浄しインキュベーションし、室温で0.2%Triton X-100及び1%BSAと共にPBS内で1時間処理して透過性を有するようにした。次いで、一次抗体をゆっくりシェイクしながら4℃で一晩インキュベーションした。翌日、上記組織を0.5%BSAと共にPBSで3回洗浄し、次の二次抗体と共に1時間室温でビオチン-コンジュゲーションされたAntiラビット抗体(anti-rabbit antibody)(1:400,Vector Laboratories)と反応させた。薄片を0.5%BSAと共にPBSで再び洗浄し、アビジン-ビオチン複合体(avidin-biotin complex)溶液において1時間室温でインキュベーションした。0.1M PB(phosphate buffer)内で3回洗浄した後、0.003%H2O2を含有する0.1M PB内の0.5mg/ml3,3-ジアミノベンジジン(3,3-diaminobenzidine)(DAB,Sigma)で薄片をインキュベーションしてシグナルを検出した。そして、薄片を0.1M PBで洗浄した後、ゼラチンコートされたスライド上に載せ、明視野顕微鏡(Leica)で観察した。
一次抗体としては、rat-anti-mouse CD11b(1:400,abcam),rabbit-anti-COX2(1:1000,abcam),rabbit-anti-IL-1b(1:200,abcam),rabbit-anti-GFAP(1:5000,neuromics),rabbit-anti-Iba1(1:1000,Wako),goat-anti-IbaI(1:500,Wako),rabbit-anti-AKT(1:1000,Santa Cruz),p-AKT(Ser473,Thr308)(1:1000,Cell Signaling),rabbit-anti-ERK(1:1000,Santa Cruz),rabbit-anti-p-ERK(Thr42/44)(1:1000,Cell Signaling),rabbit-anti-STAT3(1:1000,Cell Signaling),rabbit-anti-p-STAT3(Ser727,abcam),mouse-anti-synaptophysin(1:200,Sigma),mouse-anti-PSD95(1:200,Neuromab),rabbit-anti-pFAK(1:500,Cell signaling),mouse-anti-4G8(1:500,Biolegend),rabbit-anti-IDE(1:200,Abcam),rabbit-anti-NEP(1:200, Millippore),mouse-anti-Tau5(1:200,Invitrogen),mouse-anti-AT8(1:200,Invitrogen),mouse-anti-AT100(1:200,Invitrogen),mouse-anti-180(1:200,Invitrogen),rabbit-anti-pCDK5(1:200,Biosource)を用いた。また、抑制剤としては、TLR4 inhibitor(TAK-242,500nM)、AKT inhibitor(MK2206,10mM)を用いた。
細胞生存力は、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)分析法を用いた。細胞を96ウェルプレートに分注し、FBSの存在又は不在下で24時間、多様な濃度のイブルチニブ(100nM~1μM、1 μM -50μM)を処理した。その後、細胞を0.5mg/ml MTTで処理し、37℃で3時間、5%CO2培養器で培養した後、580nmで吸光度を測定した。
一次混合されたグリア(glia)細胞は、Sprague Dawleyマウスの大脳皮質から分離して培養し、すなわち、マウス皮質を10%FBS及びペニシリン-ストレプトマイシン溶液(5000単位/mlペニシリン、5mg/mlストレプトマイシン、Corning、USA)を含有する高ブドウ糖DMEM培地に単一細胞として分注し、75-cm2Tフラスコ(0.5半球/フラスコ)に2週間漬けておいた。ミクログリアを収穫するために、プレートを120rpmで2時間一定に振った後、培地を収集し、15分間1500rpmで遠心分離した後、細胞ペレットをプレートに1x105細胞/24ウェルになるように再懸濁した。一旦ミクログリアが収集されたら、フラスコの残りの細胞を0.1%トリプシンを用いて収穫してアストロサイト個体群を得た。アストロサイトとミクログリアをPoly-D-Lysine(Sigma)であらかじめコーティングされた12ウェルプレート(35mm)で培養した後、これを実験に使用した。
全体RNAはTriZol(Invitrogene)を用いて細胞から抽出した。oligoDT(GeNetBio,Korea)が含まれたSuperscript cDNA Premix Kit IIを用いて全RNAをcDNAに逆転写し、Prime Taq Premix(GeNetBio,韓国)を用いて行われたRT-PCR産物は、Eco Dye(1:5000,Korea)を含んだ1.5%アガロースゲルで電気泳動により分離した。電気泳動されたRT-PCRは、Image J(NIH)とFusion(Korea)を用いてイメージ分析した。
BV2ミクログリアを4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、PBSで3回洗浄した後、抗CD11b及び抗IL-1β又は抗CD11b及び抗COX2抗体をGDBバッファ(0.1%ゼラチン、0.3%Triton X-100、16mM リン酸ナトリウム pH7.4及び450mM NaCl)において4℃で一晩反応させた。翌日、細胞をPBSで3回洗浄し、室温で1時間、二次抗体と反応させた。二次抗体は、マウスAlexaFluor 488及びウサギAlexaFluor 555(1:200、Molecular Probes、USA)を用いた。その後、共焦点顕微鏡(ニコン、日本)を用いてイメージを単一平面で撮影し、ImageJソフトウェアを用いて分析した。
イブルチニブがERK/AKT信号伝逹に影響を与えて神経炎症を変化させることができるかを調べるために、BV2ミクログリアをイブルチニブ(1μM)又はビヒクルで1時間処理した後、LPS(1μg/ml)又はPBSで45分間処理した。45分後、プロテアーゼ及びホスファターゼ抑制剤(Roche,USA)を含有するRIPA緩衝液を用いて細胞を溶解した。ウェスタンブロットは、従来一般的なウェスタンブロット方法により行い、イメージはFusionソフトウェア又はImageJソフトウェアを用いて分析した。
BV2ミクログリアを12ウェルプレートに接種し、細胞が80~90%になるように培養した後、細胞スクラッチャー(SPL,Korea)で引っ掻いて傷をつけた。スクラッチ直後にイメージを撮影し、その後、イブルチニブ(500nM)又はビヒクルで1時間細胞に処理してから、LPS又はPBSで24時間処理した。24時間後、イメージを再び撮影して創傷治癒程度を分析した(Nam et al.,2017)。
BV2ミクログリアを細胞質分画用緩衝液(10mM HEPES pH8.0、1.5mM MgCl2、10mM KCl、0.5mM DTT、300mM サッカロース、0.1%NP-40及び0.5mM PMSF)を用いて溶解した。溶液を添加し、5分後、細胞溶解物を10,000rpm、4℃で1分間遠心分離して上澄液を細胞質分画で分離して保管した。ペレットは、氷上で15分間、核分画用緩衝液(10mM HEPES pH8.0、20%グリセロール、100mM KCl、100mM NaCl、0.2mM EDTA、0.5mM DTT及び0.5mM PMSF)で溶解した。その後、4℃で10,000rpm、15分間遠心分離し、ウェスタンブロット分析は、anti-STAT3(s727)、PCNA及びβ-actin抗体を用い、Fusionソフトウェアを用いて分析した。
正常動物(wild type mice)あるいはアルツハイマー誘発動物モデル(5xFAD mice,PS19 mice)にイブルチニブを投与したときの短期記憶力向上能力を検証するために、各アームの長さが42cm、幅が3cm、高さが12cmであり、3つのアームの角度が120度からなるY字型の迷路の一アームの端に動物を位置させ、5分間訪問したアームを記録した。その後、Percent alteration=(alteration回数/triads回数)×100を求めて短期記憶力の尺度として用いた。
alteration:3つの相異なるアームに順に入った場合に1点付与
triads:全体訪問回数-2
正常動物(wild type mice)あるいはアルツハイマー誘発動物モデル(5xFAD mice、PS19 mice)にイブルチニブを投与したときの長期記憶力向上能力を検証するために、42×42×25cmの大きさの箱において模様と大きさが同一の2個の物体を隅に位置させた後、動物を箱の真ん中から出発させ、動物が物体に関心を示す時間を5分間記録した。24時間後、2個の物体のうち1個を新規なものに取り替えてから、既存物体と新規物体に接近した時間をそれぞれ測定し、新たな物体に対する選好度を分析して長期記憶分析指標として使用した。
Graphpad Prism 4 ソフトウェアを用いて両側T検定又はANOVAによりすべてのデータを分析した。post-hoc分析は、TukeyのMultiple Comparisonテストで行い、有意性はp<0.05に設定した。データは平均±S.E.Mで示した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
イブルチニブのBV2ミクログリアに対する細胞毒性有無の確認
イブルチニブがBV2ミクログリアに対する細胞毒性を有するかを確認するために、BV2ミクログリアにビヒクル又はイブルチニブ(100、250、500、750、1000nM)をそれぞれ24時間処理し、MTT分析を行った。また、BV2ミクログリアにビヒクル又はイブルチニブをより高い濃度である1、5、10、25、50μMで24時間それぞれ処理し、MTT分析を行った。
イブルチニブ処理による、LPSで誘導された前炎症性サイトカインの水準減少効果の分析
イブルチニブをBV2ミクログリアに1μMの濃度で30分間前処理した後、LPS(1μg/ml)又はPBSで5時間30分処理した。その後、RNAを分離し、炎症性サイトカイン水準をRT-PCRを用いて測定した。このとき、mRNA水準分析は、炎症性サイトカインIL-1β、COX-2、IL-6、TNF-αの水準を測定した。
分析の結果、図2に示されているように、イブルチニブを前処理した結果、LPSで増加したIL-1β、COX-2、IL-6、TNF-αの発現がイブルチニブ処理により減少したことが示されているのに対して、iNOSは発現減少程度がIL-1β、COX-2、IL-6、TNF-αの減少に比べてあまり減っていないことが示されている(図2A~2F参照)。
また、本発明者等は、上記のようなRT-PCRの結果を免疫細胞化学分析を通して再検証し、上記実験に用いられた細胞を抗CD11b抗体及びCOX-2抗体又は抗CD11b及びIL-1β抗体で免疫染色した後、確認した。また、ここで対照群として、イブルチニブの代わりにビヒクルを処理した群を用いた。
その結果、図2のG~Iに示されているように、ミクログリアでLPSによって増加されたCOX-2と IL-1β の濃度が、イブルチニブ処理時、減少することを確認することができた。
よって、このような結果を通して本発明者等は、本発明のイブルチニブがBV2ミクログリアで発生する炎症反応を抑制できることを知ることができた。
さらに、本発明者等は、上記方法とは異なり、ミクログリアにイブルチニブを後処理した場合にも炎症性サイトカインの発現減少を上記結果のように誘導することができるかを確認するために、ミクログリアにLPS(1mg/ml)又はPBSを30分間前処理した後、イブルチニブ(1mM)を5時間30分処理してから、RT-PCRを行った。
その結果、上記図2の結果とは異なり、イブルチニブを後処理した場合はIL-6の発現水準のみを有意に抑制することが示されている(図3参照)。
初代培養ミクログリア(primary microglial cells)におけるイブルチニブ処理による前炎症性サイトカイン抑制効果の分析
初代培養ミクログリアとアストロサイトでイブルチニブ処理が炎症反応を調節することができるかを確認するために、ミクログリアにビヒクル又はイブルチニブ(1μM)を30分間処理し、LPS(1μg/ml)又はPBSで5時間30分処理した後、炎症性サイトカイン水準をRT-PCRで分析した。
その結果、ミクログリアでイブルチニブを前処理した場合、COX-2及びIL-6の前炎症性サイトカインの水準を他のサイトカインに比べて有意に減少させることが示されている(図4A~4F参照)。
また、本発明者等は、イブルチニブが初代培養アストロサイトでも前炎症性サイトカインの発現水準に影響を与え得るかを確認するために、初代培養アストロサイトにビヒクル又はイブルチニブ(1μM)を30分間前処理し、LPS(1μg/ml)又はPBSで5時間30分処理した後、炎症性サイトカイン数値をRT-PCRを用いて測定した。
分析の結果、特異なことだが、初代培養アストロサイトではイブルチニブが前炎症性サイトカインの発現水準に影響を与えることができないことが示されている(図5参照)。このような結果は、イブルチニブの前炎症性サイトカインに対する影響が細胞タイプによって反応するということを意味する。
イブルチニブのTLR4受容体抑制活性による、LPSで誘導された前炎症性サイトカインの水準抑制効果の分析
LPSがミクログリアの細胞表面にあるTLR4受容体と相互作用するということが知られている。よって、イブルチニブが細胞表面でLPS/TLR4受容体の相互作用を抑制して脳神経の炎症を調節することができるかを分析した。これを確認するために、BV2ミクログリアにTAK242(TLR4抑制剤、500nM)又はビヒクルで30分間前処理し、イブルチニブ(1μM)又はビヒクルで30分間処理した後、LPS(1μg/ml)又はPBSで5時間処理した。その後、全RNAを分離し、RT-PCRを用いてIL-1β及びCOX-2のmRNA水準を測定した。
分析の結果、イブルチニブは、LPSによって誘導されたBV2ミクログリアでCOX-2及び IL-1β のmRNA水準を有意に減少させることが示されている(図6A~6C参照)。また、TLR4の抑制は、LPSによって誘導されたBV2ミクログリアでイブルチニブの存在下においてIL-1β及びCOX-2mのRNA水準をより減少させることが示されている(図6A~6C参照)。
よって、このような結果を通して本発明者等は、イブルチニブがTRL4とLPSとの相互作用を防止してLPS刺激による前炎症性反応を抑制できることが分かった。
イブルチニブのAKT信号伝逹を通した、LPSで誘導された前炎症性反応変化の分析
最近の研究結果によると、AKT及びERK信号伝達がグリア細胞(REF)で前炎症性サイトカインの調節に重要な役割をすると報告されている。よって、本発明者等は、LPS媒介脳炎症反応調節にイブルチニブが役割をするかを確認するために、ERK/AKT信号伝逹に及ぼすイブルチニブの作用を分析した。このために、BV2ミクログリアをイブルチニブ(1μM)又はビヒクルで1時間前処理し、LPS(1μg/ml)又はPBSで45分間処理した後、ERK/AKT信号伝達抗体を用いて信号伝達に関与する因子の発現変化をウェスタンブロットにより確認した。
その結果、予想外にもイブルチニブはLPSによって誘導されたBV2細胞でp-ERKを変化させないことが示されている(図7A~7C参照)。しかし、イブルチニブがBV2ミクログリアでLPSによって誘導されたp-AKT水準を顕著に減少させることを確認することができた(図8A~8C参照)。
上記のような結果により、イブルチニブがLPSによるAKT信号伝逹を調節することができるかを調査した。このために、BV2ミクログリアをイブルチニブ(1μM)又はビヒクルで5時間前処理し、LPS(1μg/ml)又はPBSで45分間処理した後、抗p-AKTを用いたウェスタンブロットを行った。
その結果、イブルチニブをより長時間処理した場合、LPSによって誘発されたp-AKT水準を有意に減少させることを確認することができた(図8D~8F参照)。
また、本発明者等は、イブルチニブがAKT信号伝達を通して炎症反応を調節するかを確認した。このために、BV2ミクログリアをMK2206(AKT抑制剤、10μM)又はビヒクルで30分間前処理し、イブルチニブ(1μM)又はビヒクルで30分間処理した後、LPS(1μg/ml)又はPBSで5時間処理し、RT-PCRを用いてCOX-2と IL-1β のmRNA水準を測定した。
その結果、上記結果と同様に、イブルチニブで前処理し、LPSで処理した群でCOX-2と IL-1β のmRNA水準が減少することが示されており(図8G~8I参照)、また、MK2206、イブルチニブ及びLPSで処理した群は、LPS及びMK2206で処理した群と比較してCOX-2及びIL-1betaのmRNA水準が減少することが示されている(図8G~8I参照)。このような結果から、イブルチニブの前炎症反応調節はAKT信号伝達に依存的であることが分かった。
イブルチニブの核内におけるLPSで誘導されたp-STAT3の水準減少効果の分析
転写因子であるSTAT3は、LPSによる炎症誘発サイトカインの水準調節に重要な役割をすることが知られている。よって、イブルチニブが炎症反応を変化させるためにSTAT3を要するかを確認した。このために、BV2ミクログリアをイブルチニブ(1μM)又はビヒクルで30分間前処理し、LPS(1μg/ml)又はPBSで5時間30分処理した後、細胞下分画(subcellular)を行った。
分析の結果、イブルチニブは、LPSによって刺激された核のp-STAT3水準を減少させ(図9A~9B)、サイトゾルのp-STAT3水準も減少傾向を示した(図9C~9D参照)。
上記結果を検証するために、抗p-STAT3(s727)及び抗CD11b抗体を用いて兔疫細胞化学法を実施した。その結果、BV2ミクログリアでイブルチニブがLPSによって誘導された核内のp-STAT3水準を下向き調節することが示されている(図9E~9F参照)。このような結果は、イブルチニブが脳神経炎症反応を変形させるSTAT3信号伝逹に依存的であることを示す。
イブルチニブによるミクログリアの細胞移動抑制効果の分析
イブルチニブがLPS刺激によるミクログリアの移動を調節することができるかを確認する実験を行った。このために、イブルチニブ(500nM)又はビヒクルでミクログリアに23時間30分前処理し、LPS(100ng/ml)又はPBSで30分間処理した後、創傷治癒分析法を行った。すなわち、細胞が培養されたプレートにスクラッチをつけ、細胞がスクラッチされた部分へ移動するが、イブルチニブがその移動を調節できるかを分析した。
その結果、イブルチニブを前処理した群は、LPS単独処理群に比べて、LPS刺激によるミクログリアの移動が有意に減少することが示されている(図10A~10B参照)。
すなわち、このような結果は、イブルチニブがLPSによる神経細胞の移動を抑制することができるため、神経細胞の移動による退行性脳疾患の発病を抑制又は治療できることを示唆する。
マウス動物モデルにおいてLPSで刺激されたミクログリア及びアストロサイトの活性に対するイブルチニブの抑制効果の分析
最近の研究結果によると、活性化されたミクログリア及びアストロサイトは退行性脳疾患の発病に関連があることが知られている。よって、本発明者等は、イブルチニブが退行性脳疾患の治療剤として使用可能であることを確認するために、動物モデルを対象としてLPSによって誘導されたミクログリア及びアストロサイトの活性化に対するイブルチニブの効果を分析した。これを確認するために、野生型マウスにイブルチニブを3日間腹腔内注射し(10mg/kg/日)、抗IBa-1(図11A~11C)及び抗GFAP抗体(図12A~12C)で免疫組織化学染色を行った。
その結果、LPSが注射された野生型マウスはミクログリア及びアストロサイトの活性化が上向き調節されることが示されているのに対して、イブルチニブ投与によりミクログリア及びアストロサイトの活性化は有意に抑制されることが示されている。よって、本発明者等は、このような結果を通してイブルチニブが野生型マウスでLPSにより誘導されたミクログリア及びアストロサイトの活性化を調節できることが分かり、特に、これら細胞の活性化を抑制することにより退行性脳疾患を予防又は治療できることが分かった。
アルツハイマー誘発動物モデルでイブルチニブ処理による記憶力と学習力関連行動変化の分析
イブルチニブが記憶力及び学習力にどのような影響を及ぼすかを確認するために、アルツハイマー誘発動物モデル(5xFAD,PS19 mice)にイブルチニブ(10mg/kg,i.p.)又はビヒクルを14日間処置した後、短期記憶行動評価のためにY迷路試験(Y-maze)を、長期記憶行動評価のために新規物質探索試験(Novel object recognition test,NOR)を行った。
その結果、アルツハイマー疾病誘発動物モデルのうち5xFADマウスにイブルチニブを処置した場合、長期記憶が顕著に増加することを行動学的に確認した(図13A~13B)。また、アルツハイマー疾病誘発モデルのうちPS19マウスにイブルチニブを処置した群は、長期記憶が向上する傾向を示した(図14A~14B参照)。
よって、本発明者等は、このような結果を通してイブルチニブがアルツハイマー動物モデルマウスで学習及び記憶力を向上させることを確認することができた。
初代培養海馬神経細胞(primary hippocampal neurons)においてイブルチニブ処理による樹状突起棘数の増加及び形成関連遺伝子の発現促進効果の分析
イブルチニブの認知行動向上メカニズムを分析するために、初代培養海馬神経細胞(primary hippocampal neurons)にGFPをトランスフェクション(transfection)した後、イブルチニブ1又は5μMを24時間処理した。その後、樹状突起棘数の変化を観察し、プレシナプス(pre synaptic)指標であるシナプトフィジン抗体とポストシナプス(post-synaptic)マーカー因子であるPSD-95抗体を用いて染色した後、パンクタ数及びそれによる発現程度を確認した。
その結果、初代培養海馬神経細胞においてイブルチニブ1μM又は5μM処置群全てでビヒクル処置群に比べて樹状突起棘数が有意に増加し(図15A~15B、図16A~16B)、イブルチニブ5μM処置群でビヒクル処置群に比べてシナプトフィジン及びPSD-95のパンクタ数が顕著に増加したことを確認した(図17A~17D)。よって、イブルチニブは海馬で機能的シナプスの増加を通して認知行動向上効果を現わすことを確認することができた。
初代培養海馬神経細胞(primary hippocampal neurons)でイブルチニブの樹状突起棘数増加による分子メカニズム研究
イブルチニブの記憶行動向上メカニズムを分析するために、初代培養海馬神経細胞にGFPをトランスフェクション(transfection)した後、イブルチニブ5μM又はビヒクルを24時間処理した。その後、樹状突起棘数の調節に関与するp-FAK抗体を用いて染色した後、発現程度を確認した。
その結果、イブルチニブ5μM処置群でビヒクル処置群に比べてp-FAK発現が顕著に減少したことを確認した(図18A~18B)。よって、イブルチニブは海馬でFAKシグナル伝達(signaling)を阻害するため、樹状突起棘数を調節することを確認した。
正常マウス及びアルツハイマー誘発動物モデルでイブルチニブ処理による樹状突起棘数増加効果の分析
イブルチニブの認知行動向上メカニズムを分析するために、正常マウス及びアルツハイマー誘発動物モデルであるPS19 mice(3ヶ月齢)にイブルチニブを(10mg/kg,i.p)を14日間注射し、マウスの脳を摘出してゴルジ染色を行った後、cortex及びhippocampus部位神経細胞(AO部位、BS位置)の突起棘数を分析した。
その結果、正常マウスでイブルチニブ処置群のhippocampus CA1神経細胞の突起棘数がビヒクル処置群に比べて増加したことを確認した(図19A~19D)。また、アルツハイマー動物モデル(PS19 mice)でイブルチニブ処置群のhippocampus神経細胞の突起棘数がビヒクル処置群に比べて顕著に増加したことを確認し(図20A~20D)、その反面、アルツハイマー動物モデルでイブルチニブ処置群のcortical layer V神経細胞の突起棘数はビヒクル処置群に比べて特別な変化がないことを確認した(図20E~20H)。よって、イブルチニブが樹状突起棘の密度増加を通して認知機能を向上させることをインビボでも確認した。
アルツハイマー動物マウスでイブルチニブによるアミロイドプラーク抑制効果の分析
本発明者等は、イブルチニブが退行性脳疾患の治療剤として使用可能であることを確認するために、アルツハイマーが誘発されたマウス動物モデルを対象としてイブルチニブを処理した時の、アミロイドプラークの数、アミロイド分解酵素であるIDE、NEPの発現量を分析した。
これを確認するために、アルツハイマー動物マウス(5xFAD mice)にイブルチニブ(10mg/kg,i.p)又はビヒクルを14日間注射し、抗4G8抗体、抗IDE抗体を用いて免疫組織化学染色及び顕微鏡観察を行った。
その結果、図21に示されているように、アミロイドを検出することができる抗4G8抗体を用いた免疫組織化学染色によると、cortex及びhippocampusの両方でイブルチニブを処理した群が処理していない群に比べてアミロイドプラークが顕著に減少したことを確認することができた(図21A~21E)。さらに、イブルチニブがどのようにアミロイドプラークを減少させるかに対する分子メカニズム実験として、先ずアミロイド分解酵素であるIDEの発現水準を確認した結果、図21に示されているように、cortex及びhippocampusの両方でイブルチニブを処理した群が処理していない群に比べてアミロイド分解酵素であるIDEの発現が増加したことを確認することができた(図22A~22E)。すなわち、イブルチニブは、IDEの発現増加を通してアルツハイマーの誘発原因となるアミロイドプラークを抑制できることを示唆している。
アルツハイマー動物マウスでイブルチニブによるタウリン酸化調節効果の分析
本発明者等は、イブルチニブが退行性脳疾患の治療剤として使用可能であることを確認するために、イブルチニブがタウリン酸化も調節することができるかを確認する。そのために、アルツハイマー動物モデルである5xFAD(3ヶ月齢)マウスを対象としてイブルチニブを処理した時の、タウ発現変化及びタウリン酸化変化有無を分析した。これを確認するために、アルツハイマー誘発マウスにイブルチニブ(10mg/kg,i.p)又はビヒクルを14日間注射し、抗Tau5抗体、抗CDK抗体、抗AT8抗体、抗AT100抗体及び抗AT180抗体を用いて免疫組織化学染色及び顕微鏡観察を行った。
その結果、図23に示されているように、総タウ(Total Tau)を検出できる抗Tau5抗体を用いた免疫組織化学染色によると、5xFADマウスのcortex及びhippocampusでイブルチニブを処理した群が処理していない群に比べてTau5の発現には有意な差異を示さなかった(図23A~23E)。しかし、図24乃至26に示されているように、タウリン酸化の有無を検出できる抗AT8抗体、抗AT100抗体及び抗AT180抗体、タウリン酸化に関与するタンパク質を検出できる抗pCDK5抗体を用いた免疫組織化学染色結果によると、抗AT8抗体を用いて免疫組織化学染色をした結果、5xFADマウスのcortexでのみイブルチニブ処理時にタウリン酸化が有意に減少したことを確認することができた(図24A~24E)。そして、抗AT100抗体を用いて免疫組織化学染色をした結果、5xFADマウスのcortexとhippocampusの両方でイブルチニブ処理時にタウ酸化が有意に減少したことを確認することができた(図25A~25E)。抗AT180抗体を用いて免疫組織化学染色をした結果、5xFADマウスのcortexではイブルチニブ処理時にタウリン酸化が有意に減少したことを確認することができ、hippocampusではイブルチニブ処理時にタウリン酸化が減少する傾向を確認した(図26A~26E)。さらに、タウリン酸化を誘導する遺伝子である、抗CDK抗体を用いて免疫組織化学染色をした結果、5xFADマウスのcortexとhippocampusの両方でイブルチニブ処理時にCDKリン酸化が有意に減少したことを確認することができた(図27A~27B)。
Claims (7)
- イブルチニブ(ibrutinib)又はこれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、アルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
- 上記組成物は、ミクログリア(microglia)又はアストロサイト(astrocyte)の活性を抑制して、活性化されたミクログリア又は活性化されたアストロサイトが神経細胞に及ぼす損傷を抑制する効果を有することを特徴とする、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
- 上記組成物は、ミクログリアの細胞移動を抑制する活性を有することを特徴とする、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
- ミクログリア又はアストロサイトの活性;又はミクログリアの細胞移動は、LPS(Lipopolysaccharides)によって誘導されることを特徴とする、請求項2又は3に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
- 上記組成物は、アミロイドプラーク抑制又はタウタンパク質のリン酸化抑制活性を有することを特徴とする、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
- 上記組成物は、神経細胞で樹状突起棘(dendritic spine)の数、シナプトフィジン(synaptophysin)の数及びPSD-95のパンクタ(puncta)数を増加させることを特徴とする、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
- 上記組成物は、アルツハイマー疾病動物モデルで長期記憶を向上させることを特徴とする、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は治療用薬学的組成物。
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