JP7117713B2 - 木質流動成形用前駆体及びその成形方法 - Google Patents
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Description
この加工法では、木材を構成する微視的な細胞の相対的位置変化(すべり変形)の蓄積によって、巨視的な大変形を比較的早い速度で与えることができる。
そして、これまでに細胞間でのすべり変形と変形後の接合を制御する添加剤として、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いた流動成形を試み、既存技術である圧縮加工に比べて、複雑な形状の製品や高強度な製品を、高い生産性で得られることを示してきた(例えば、特許文献2~3参照。)。
しかし、より大きな変形度が求められる場合では、潤滑剤や離型剤の金型への塗布のみの対応では、十分な効果が得られないことが分かってきた。
ここで、「主に木質系材料の細胞の内腔に充填されてなる」とは、潤滑剤組成物は、木質系材料の細胞の内腔に充填されるほか、その一部は細胞壁表面に付着することを意味する。
ここで、「熱硬化性樹脂の硬化温度と同じか、それよりも低温度」とは、特に限定されるものではないが、具体的には、潤滑剤組成物の融点が、熱硬化性樹脂の硬化温度より、0~60℃程度、好ましくは、1~30℃程度、より好ましくは、1~10℃程度低い温度とすることができる。
ここで、「熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高温」とは、特に限定されるものではないが、具体的には、熱硬化性樹脂の硬化温度より、1~20℃程度、好ましくは、1~10℃程度、より好ましくは、1~5℃程度高い温度とすることができる。
これにより、熱硬化性樹脂が、木質系材料の細胞壁内に充填され、潤滑剤組成物が、主に木質系材料の細胞の内腔に充填されてなるようにすることができる。なお、潤滑剤組成物は、木質系材料の細胞の内腔に充填されるほか、その一部は細胞壁表面に付着することとなる。
ここで、木質系材料に含浸、添加(内添)される熱硬化性樹脂及び潤滑剤組成物の添加量は、特に限定されるものではないが、具体的には、木質系材料(素材)の乾燥重量100重量部に対して、熱硬化性樹脂1~100重量部、潤滑剤組成物1~50重量部、好ましくは、熱硬化性樹脂5~80重量部、潤滑剤組成物5~40重量部、より好ましくは、熱硬化性樹脂10~50重量部、潤滑剤組成物10~30重量部とすることができる。
ここで、これらの熱硬化性樹脂は、その硬化温度が、併用する潤滑剤組成物の融点よりも高い物質、若しくは同程度の物質を用いることが好ましい。
そして、これらの熱硬化性樹脂は、通常、主剤樹脂と助剤とを組み合わせるようにしたものからなり、木質系材料の流動成形加工において、木質系材料に含浸させて用いられるため、水中に溶解ないし分散された形態とすることが望ましい。
また、主剤樹脂と助剤との組み合わせは、主剤樹脂の熱硬化反応が進行するような組み合わせであれば特に制限はないが、木質系材料の主成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンなどとの親和性がある化合物が使用されることが好ましく、特に、OH基との親和性を有する化合物が使用されることが好ましい。
熱硬化性樹脂は、上記のもののうち一種類のみを用いることのみならず、複数を組み合わせて用いることが可能である。
ここで、「熱硬化性樹脂の硬化温度と同じか、それよりも低温度」とは、特に限定されるものではないが、具体的には、潤滑剤組成物の融点が、熱硬化性樹脂の硬化温度より、0~60℃程度、好ましくは、1~30℃程度、より好ましくは、1~10℃程度低い温度とすることができる。
そして、このように、水、ないしは水を主体とする水系分散媒を用いて、ワックスを分散させた分散液の形態とした実施形態においては、流動成形加工時において有機溶媒が雰囲気中に揮発して、作業環境を汚染することもないので望ましい。
ここで、「熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高温」とは、特に限定されるものではないが、具体的には、熱硬化性樹脂の硬化温度より、1~20℃程度、好ましくは、1~10℃程度、より好ましくは、1~5℃程度高い温度とすることができる。
1.1 木質系材料と調製条件
木質系材料(素材)として、厚さ約3.0mmのスギ単板(繊維L方向:160mm×接線T方向:100mm、かさ密度0.35~0.41g/cm3)を使用した。
30%重量濃度のフェノール樹脂(PF樹脂)(アイカ工業社製「アイカネオレジンPX341」、重量平均分子量約380)水溶液(この水溶液を、「30%PF」あるいは「PF(30%)」とも表記する。)を調製し、所定量(0、0.01、0.05、0.1、0.5、0.9、1.5、3、6、9重量%)のPEOwax(エマルション系)を添加したPF樹脂とPEOwaxの水溶液を調製し、スギ単板に含浸した。
ここで、使用したPEOwaxは、以下のとおりのものである。
<酸化ポリエチレンワックス>
・融点:138℃
・酸価:30mgKOH/g
・数平均分子量:2900
また、水溶液の調製には、単なる混合撹拌方法のほか、PEOwaxの添加量が多い場合は、必要に応じて、例えば、超音波振動(40kHz、10分間)を付加して、分散性を高めるようにする。超音波振動は、BRANSON社製 8500シリーズを使用して付加するようにした。
また、含浸処理は、室温で減圧加圧含浸法により行い、処理の程度は、表1に示すように、乾燥重量に対する重量増加量の比(WPG)、乾燥寸法に対する処理後寸法の変化量の比(BR)で整理した。
また、PEOwax1.5、3、6、9%の添加条件で、PEOwaxの木質系材料への添加量は、木質系材料(素材)の乾燥重量100重量部に対して、6.5重量部、11.1重量部、19.1重量部、29.4重量部になった。
示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry(DSC))及び動的粘弾性測定(Dynamic mechanical analysis(DMA))を行い、木質系材料の熱物性の変化を調べた。
ここで、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry(DSC))は、TA instrument社製 Q200を使用し、動的粘弾性測定(Dynamic mechanical analysis(DMA))は、セイコーインスツルメンツ社製 熱機械的装置 TMA/SS-6000 粘弾性モードを使用した。
PEOwaxがPF樹脂含浸木材の軟化・硬化挙動に及ぼす影響を検討した。
試料は、端部から1mm程度の内部から採取した。
成形性評価で用いた金型の概略を図1に示す。
この金型は、角頭パンチ及びダイスとベースプレート(すべてSKD11製)から構成されている。
ダイスには、材料を投入する26×26mm2のコンテナ部と木質系材料が圧縮後に側方へ押出されて摺動する鏡面部のギャップ(t=1.2mm:押出し比21.7、CrNコーティング)が設けられている。
この側方押出し金型の加熱は、熱盤からの熱伝導により行い、ベースプレートと素材が接する箇所の温度を150℃に設定した。評価の際には、潤滑剤などの塗布は行わずに試験した。
予め所定温度に加熱した金型に、1.1の要領で調製した木質系材料約5g(小片4枚相当:相対湿度65%調湿)を切出・投入し、直ちにパンチを挿入し、パンチ荷重100Nまでの加圧を行い、2分間その状態を保持した(素材予熱)。このときのパンチストロークSを開始点(S=0)とした。流動性の高い木質系材料の接線方向が押出し方向になるように配置した。素材加熱後に、2.0mm/minのポンチ速度で目的荷重50kNまで加圧し、その際の荷重F-パンチストロークS線図を取得した。
木質系材料の調製条件によって、側方押出し挙動が変化するため、押出し開始荷重F(パンチ面圧P=F/262)並びに押出し長さleなどを成形性の評価項目とした。
2.1 PEOwaxとPF樹脂含浸木材の相互作用
図2-1に、30%濃度で調製したフェノール樹脂含浸木材の酸化ポリエチレンワックスの添加量-重量増加率及び接線T方向膨潤率(以下、単に、「膨潤率」という場合がある。)を示す。
図2-1に示すように、熱硬化性樹脂として30%濃度で調製したフェノール樹脂を用い、PEOwaxの添加量を1.5~9.0%と増加させると、重量増加率が増加し、接線T方向膨潤率が減少することを確認した。
木材は直交異方性材料であるため、物性などを議論する場合において、着目している方向(面)を定義する必要がある。一般的には、樹木の伸長方向を繊維方向(L)、L方向を垂線にとる木口面において年輪が形成される方向を半径方向(R)、年輪に対する接線方向(T)が定義される。この主軸(L,R,T)によって形成される面を、板目(LT)面、柾目(LR)、木口(RT)面といい、単板(板目)試料について膨潤率の主軸方向の変化は、L:R:T≒1:5:10の割合で生じる。この変化の割合は、細胞構造に由来するものであり、接線T方向が最も変化の割合が大きく生じるため、細胞壁中への物質の侵入状態を議論するには都合がよい。
重量増加率は、細胞壁内外に関わらず導入された物質の質量割合を示す値に対して、膨潤率は、導入された物質にうち細胞壁内にまで浸入した物質の割合を示す値となる。
これにより、PEOwaxが細胞の内腔のみに充填され、細胞壁内への浸入は生じていない(フェノール樹脂によって、PEOwaxが細胞壁内に浸入、充填されることを阻害する。)傾向にあることを確認した。すなわち、質量増加率が大きくなる(物質は導入されている)が、膨潤率が大きくなっていない(むしろ、wax添加量の増加に対して膨潤率は低下している)のは、細胞壁中への浸入物がない(減っている)ことを意味する。waxの添加によって、フェノール樹脂水溶液の粘性が増加したり、フェノール同士が凝集などを生じて見掛けの分子サイズが大きくなったりすると、細胞壁への浸入が阻害されることとなる。
PF樹脂は、すべての調製木材に同程度含まれているが、細胞内腔への完全充填はほとんど確認できず、図中矢印のように細胞壁内腔表面に沈着しているようにみえる。
一方で、PEOwaxは、(a)図中破線で囲む細胞内腔のように、内腔全体に充填されていることが確認できた。また、その存在割合は、PEOwax濃度が増加するにつれて明らかに増えた。
このことから、PF樹脂は細胞壁内及び細胞壁表面に主に存在し、PEOwaxは主に内腔に充填する形態で木質系材料に存在していることが示唆された。
図3のDSC及びDMAは、125℃付近に融点を示すPEOwax単体とPF樹脂及びPEOwaxが含浸された木質系材料の結果を示している。
フェノール樹脂含浸木材のDSCの1st昇温では、ガラス転移温度Tgh、PF樹脂の硬化ピーク温度Tp(▼)が検出される。2nd昇温では、PEOwaxの含有率を把握できる融解熱QpeoがTm付近で定量された。それらDSC結果に応じてDMAの1st昇温でも軟化温度Tge、硬化開始温度Tceを確認することに加えて、硬化前後での30℃における貯蔵弾性率E’の相対比を定量した。
フェノール樹脂含浸木材のDSCの結果から、1st昇温で、ガラス転移温度Tghと硬化ピーク温度Tp、2nd昇温で、wax添加量の換算できるwax融解熱Qが検出された。DMAからは、1st昇温から硬化開始温度Tce、1st昇温と2nd昇温の比較から硬化度ΔEc’が評価される。含浸木材の熱軟化、熱硬化の挙動について、wax添加率の増加による、それらの温度域の大きな変化が認められないので、フェノール樹脂とwaxの相互作用は小さく、流動成形に悪影響を及ぼす可能性は低いことが確認された。
このように、PF樹脂の硬化温度よりも低温側にPEOwaxの融点Tmを設定する(Tm<Tp(142±3℃)、Tce(135±2℃))ことで、木質系材料の軟化状態で潤滑剤を滲出させて成形性の向上を図ることができる。
図4-1及び図4-2に、30%濃度で調製したPF樹脂とPEOwaxの水溶液を含浸させた木材の側方押出し実験におけるパンチ荷重F-パンチストロークS線図を示す。
図4-1において、極太線で示すPEOwaxの添加のない条件(0%)では、Fが約30kN(Sが約7mm)において荷重のピーク(▽)が現れ、この点で側方への材料流動が開始した。ピークを迎えた後、荷重は一旦、低下したが、その後増加に転じ、増加し続けた。これは、押出し材の金型ギャップ内壁との摺動による抵抗であり、押出し長さの増加とともに接触面が増えるために生じた。
このように、PEOwaxの添加量が、特に、1.5%以上において、顕著に押出し開始荷重が低下することが分かったが、図4-2に示すように、3.0%程度までの添加によって、押出し時の滲みだしが生じたため、パンチストロークSの増加によっても荷重の低減効果が認められた。押出し長さleもそれらの効果により増大した。
ここで、「Se」は、押出し開始後のストローク(荷重のピークを越えた後のパンチストローク領域に相当)を、「Sf」は、押出し実験における最終ストローク(荷重50kN(final)の時におけるストローク)を意味する。
このように、PEOwaxは、熱硬化性樹脂含浸木材の流動成形において、樹脂硬化温度よりも低温側で潤滑効果を果たし、且つ、硬化阻害を生じないため、易成形性を付与できることを確認した。
図6に、PEOwax(図6において、「PEw」と表記する。)を、金型に塗布して成形を行った実験結果を示す。
PEOwaxを金型に塗布して成形を行うことによって、成形性の向上に効果がある(汎用の積層板用添加離型剤(アルキルリン酸エステル系化合物(AE))に比べて効果が大きく、PEOwaxの添加との相乗効果が得られる。)ことを確認した。
木質系材料の樹種による影響度の差はあるが、いずれも添加量の増加に応じて、成形性は向上することを確認した。ブナはスギに比べて密度が高く(空隙が少ない。)、樹脂含浸率も低くなるため、押出し長さはスギに比べて短い。さらに、タケでは、より密度が高い上に繊維率が多く、フェノール樹脂の含浸量もより少ないため、50kNでは ほとんど押出しが進まないが、PEOwax(図7及び図8において、「PEW」と表記する。)の添加による効果が認められた。
フェノール樹脂に比べて、メラミン樹脂を含浸した場合のPEOwax(図9において、「PEW」と表記。)の添加の効果は小さい(メラミン樹脂+PEOwax1.5%は、フェノール樹脂+PEOwax0.01%とほぼ同等の効果を示す。)。
そこで、熱硬化性樹脂としてメラミン樹脂(以下、「MF」という場合がある。)を用い、PEOwaxの添加量を増加させて成形を行うとともに、併せて、潤滑剤組成物として酸変性ポリプロピレンワックス(以下、「PPwax」、「PPW」という場合がある。)を用いて行った実験結果を、図10~図13に示す。
ここで、使用した酸変性ポリプロピレンワックスは、以下のとおりのものである。
<酸変性ポリプロピレンワックス>
・融点:167℃
・酸価:41mgKOH/g
・数平均分子量:36000
また、木質系材料(素材)として、厚さ約3.0mmのスギ単板(繊維L方向:160mm×接線T方向:100mm、かさ密度0.35~0.41g/cm3)を使用した。
また、メラミン樹脂と酸化ポリエチレンワックス(PEOwax)の場合で、PEOwax1.5%、3.0%、6.0%の添加条件で、PEOwaxの木質系材料への添加量は、木質系材料(素材)の乾燥重量100重量部に対して、4.8重量部、7.6重量部、12.0重量部になった。
また、メラミン樹脂と酸変性ポリプロピレンワックス(PPwax)の場合で、PPwax1.5%、3.0%、6.0%の添加条件で、PPwaxの木質系材料への添加量は、木質系材料(素材)の乾燥重量100重量部に対して、12.9重量部、14.8重量部、23.0重量部になった。
図10-1に、調製した含浸木材の断面拡大写真を示す。
これにより、PEOwaxやPPwaxが細胞の内腔のみに充填され、細胞壁内への浸入は生じていない(メラミン樹脂によって、PEOwaxが細胞壁内に浸入、充填されることを阻害する。)傾向にあることを確認した。すなわち、質量増加率が大きくなる(物質は導入されている)が、膨潤率が大きくなっていない(むしろ、wax添加量の増加に対して膨潤率は低下している)のは、細胞壁中への浸入物がない(減っている)ことを意味する。waxの添加によって、メラミン樹脂水溶液の粘性が増加したり、メラミン同士が凝集などを生じて見掛けの分子サイズが大きくなったりすると、細胞壁への浸入が阻害されることとなる。
図11-1及び図11-2のDSC及びDMAは、125℃付近に融点を示すPEOwax単体とMF樹脂及びPEOwaxが含浸された木質系材料の結果、並びに、156℃付近に融点を示すPPwax単体とMF樹脂及びPPwaxが含浸された木質系材料の結果を示している。
メラミン樹脂含浸木材のDSC結果からは、軟化・硬化挙動を検出することができず、wax添加量の換算できるwax融解熱Qのみが検出された。DMA結果からは、1st昇温から軟化温度Tge、硬化開始温度Tce1、硬化終了温度Tce2、1st昇温と2nd昇温の比較から硬化度ΔEc’を評価した。
メラミン樹脂は、フェノール樹脂に比べて硬化反応の進行が遅く、広範囲に亘って貯蔵弾性率が増加した。含浸木材の熱軟化、熱硬化の挙動について、wax添加率の増加に対して硬化温度の高温側シフトが若干みられるものの、硬化度は確実に1以上に上昇しており、流動成形に悪影響を及ぼす可能性は低いことが確認された。
PEOwaxの添加量についてみると、図12-1に示すように、PEOwaxの添加量の増加による押出し荷重の低減や押出し長さの増加は、PF樹脂の場合に比べて効果が小さい。これは、MF樹脂含浸木材の軟化及び硬化挙動がPF樹脂と大きく異なるためであり、PEOwaxの融点がMF硬化温度に比べて低すぎることが要因と考えられる。なお、離型剤としてPEOwaxの使用は、成形性改善に効果が認められる。
一方、PPwaxの添加量についてみると、図12-2に示すように、離型剤の使用がない場合においても、PPwaxの添加量の増加による押出し荷重の低減や押出し長さの増加が認められた。これは、PPwaxの融点とメラミン樹脂含浸木材の硬化温度のバランスがちょうど良い温度域にあったためと推察される。
これらの結果を図13にまとめると、PEOwaxは、メラミン樹脂含浸木材に対して、成形(押出開始面圧の低減と押出し長さの増大)を改善する効果は小さいが、PPwaxは、メラミン樹脂含浸木材の成形改善に対して非常に効果的に作用することが分かる。
以下、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を、潤滑剤組成物として酸変性ポリアルキレンワックスを、それぞれ用いて行った実験結果を、図14~図17に示す。
ここで、木質系材料(素材)として、厚さ約3.0mmのスギ単板(繊維L方向:160mm×接線T方向:100mm、かさ密度0.35~0.41g/cm3)を使用した。
また、PEOwax1.5%、3.0%、6.0%の添加条件で、PEOwaxの木質系材料への添加量は、木質系材料(素材)の乾燥重量100重量部に対して、4.0重量部、6.0重量部、4.5重量部になった(ここで、6.0%添加条件で添加量が上昇していないのは、木質系材料(素材)の密度のバラつきが原因と考えられる。)。
これにより、PPWが細胞の内腔のみに充填され、細胞壁内への浸入は生じていない(フェノール樹脂によって、PPWが細胞壁内に浸入、充填されることを阻害する。)傾向にあることを確認した。
図15に、上記「1.3 側方押出し金型及び成形性評価」と同様の方法で行った、30%濃度で調製したフェノール樹脂とPPWの水溶液を含浸させた木材の側方押出し実験におけるパンチ荷重F-パンチストロークS線図を示す。
PPWの内部添加による押出し荷重の低減や押出し長さの増加は、PEOwaxほどには効果がないことが分かる。ただし、添加しない場合と比べては、多少の流動性向上効果はある。なお、6.0%PEWでは、押し込み量が増加したことで、図16に示すとともに、図15中の写真のとおり、押出し長さleは増大した。
図17及び表3に、調製した木質系材料の熱分析の概略と結果を示す。
図17のDSC及びDMAは、156℃付近に融点を示すPPwax単体とPF樹脂及びPPwaxが含浸された木質系材料の結果を示している。
このように、PPWは、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を含浸させた木材の流動成形において、潤滑効果を果たし、且つ、硬化阻害を生じないため、易成形性を付与できることを確認した。
ここで、酸化ポリエチレンワックスと酸変性ポリプロピレンワックスの実験結果を対比すると、酸化ポリエチレンワックスの方が成形性向上に効果が高いことが分かった。
この一要因としては、融点(PPWのTm=156℃>フェノール樹脂の硬化温度>PEWのTm=125℃)の違いによるものと考えられ、潤滑剤組成物の融点は、潤滑剤組成物が潤滑剤として十分機能するために、熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低温度の融点の物質を用いることが好ましいといえる。ただし、潤滑剤組成物の融点が熱硬化性樹脂の硬化温度と同程度(熱硬化性樹脂の硬化温度+10℃程度)で、成形時に潤滑剤組成物の融点程度まで昇温させて成形を行う場合は、潤滑剤組成物が潤滑剤として十分機能することを確認した。
Claims (5)
- 木質系材料に熱硬化性樹脂を含浸させた木質流動成形用前駆体において、前記熱硬化性樹脂とともに、該熱硬化性樹脂の硬化温度と同じか、それよりも低温度の融点の物質からなる潤滑剤組成物である酸化ポリアルキレンワックス及び酸変性ポリアルキレンワックスの少なくとも一方を、木質系材料に含浸させてなることを特徴とする木質流動成形用前駆体。
- 前記潤滑剤組成物が、主に木質系材料の細胞の内腔に充填されてなることを特徴とする請求項1に記載の木質流動成形用前駆体。
- 前記酸化ポリアルキレンワックスが、酸化ポリエチレンワックスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の木質流動成形用前駆体。
- 前記酸変性ポリアルキレンワックスが、酸変性ポリプロピレンワックスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の木質流動成形用前駆体。
- 請求項1~4のいずれか1項に記載の木質系材料に熱硬化性樹脂を含浸させた木質流動成形用前駆体の成形方法であって、前記木質流動成形用前駆体を、成形型を用いて熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高温下で成形することを特徴とする木質流動成形用前駆体の成形方法。
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