第1の発明は、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含有する冷凍サイクル用作動媒体を圧縮する圧縮機において、前記1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を抑制するために用いられ、150℃以上300℃以下で自身の分解反応による吸熱反応を起こす吸熱材を備え、前記吸熱材は少なくとも1℃以上30℃以下の温度範囲で固形化されている圧縮機である。
これにより、常温で液体または固体の吸熱材が、通常の使用条件では固形化された状態であるが、不均化が開始したときの圧縮機の高温化に伴って、吸熱材が反応する。この吸熱材の反応が不均化により発生する熱を奪うことになる。それゆえ、不均化反応起点近傍の1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化による連鎖反応を有効に抑制または緩和することができる。
第2の発明は、第1の発明において、前記吸熱材を混合または分散した状態で保持する結合材、あるいは、前記吸熱材を内部に収容した状態で保持する被覆材の少なくとも一方をさらに備える構成である。
これにより、結合材または被覆材もしくはこれらの両方を用いることで、吸熱材をより良好に固形化することができる。
第3の発明は、第2の発明において、前記結合材または前記被覆材が、ガラス転移点(Tg)が140℃以上の樹脂、または、分解温度が140℃以上の樹脂であるものである。
これにより、結合材または被覆材のガラス転移点または分解温度が140℃以上であるので、140℃以上の温度で結合材または被覆材が徐々に液化したり分解したりするため、150℃以上の温度で吸熱材が不均化反応起点近傍で反応しやすくなる。
第4の発明は、第2の発明または第3の発明において、前記結合材または前記被覆材が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、テルペンフェノール樹脂、またはポリビニルアルコールから少なくとも構成されるものである。
これにより、結合材または被覆材が前述のいずれかの樹脂材料であるので、吸熱材の保持および150℃以上での吸熱材の不均化反応起点近傍での反応を良好に実現することができる。
第5の発明は、第1~第4の発明において、前記吸熱材が金属塩である構成である。
これにより、金属塩が脱水反応する際に吸熱反応となるので、不均化反応の抑制または進行の緩和を良好に実現することができる。
第6の発明は、第5の発明において、前記金属塩が、水和物である構成である。
これにより、金属塩が水和物であるので、分解時に水の気化熱にそうとする熱量を奪う作用も吸熱反応自体の吸熱と同時に利用できるので、不均化反応の抑制または進行の緩和の効果をより良好に実現できる。
第7の発明は、第5の発明または第6の発明において、前記金属塩が硫酸マグネシウム7水和物または水酸化アルミニウムである構成である。
これにより、より高温域である150℃以上の温度条件下においても、不均化反応の抑制または進行の緩和をより良好に実現することができる。
第8の発明は、第1~第4のいずれかの発明において、前記吸熱材が、メチルシクロヘキサンである構成である。
これにより、より高温域である150℃以上の温度条件下においても、不均化反応の抑制または進行の緩和をより良好に実現することができる。
第9の発明は、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含有し、第1~第8のいずれかの発明に記載の圧縮機を備える冷凍サイクルシステムである。
本発明に係る圧縮機を用いることで、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の連鎖を有効に抑制または緩和することができるので、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを冷媒成分として含有する冷凍サイクルシステムの不均化反応を抑制または緩和する実現できる。その結果、冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
(実施の形態)
以下、本発明に係る圧縮機およびそれを用いた冷凍サイクルについて具体的に説明する。
本発明に係る圧縮機は、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを圧縮する圧縮機であり、150℃以上300℃以下で吸熱反応を起こし、かつ15℃以上25℃以下で液体または固体である吸熱材を備えるものである。吸熱材は、1,1,2-トリフルオロエチレンにおける150℃以上の温度条件下での不均化反応を抑制するために用いられる。この吸熱材は、150℃以上300℃以下で吸熱反応を起こす吸熱材を含むものであって、15℃以上25℃以下の温度範囲で液体または固体である吸熱材を含有し、少なくとも1℃以上30℃以下の温度範囲で固形化されている。
また、本発明に係る圧縮機は、密閉型圧縮機を代表的に示す。前記構成の吸熱材を密閉容器内に収容している構成である。また、本発明に係る冷凍サイクルシステムは、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレンを含有する冷凍サイクル用作動媒体を用いており、当該冷凍サイクル用作動媒体に接触するように、前記構成の吸熱材が設けられている構成である。
[冷媒成分]
まず、本発明において、吸熱材による不均化反応の抑制の対象となる冷凍サイクル用作動媒体について説明する。本発明に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷媒成分として、少なくとも1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO1123)が用いられる。1,1,2-トリフルオロエチレンは、次に示す式(1)の構造を有しており、エチレンの1位の炭素原子(C)に結合する2つの水素原子(H)がフッ素(F)に置換されているとともに、2位の炭素原子に結合する2つの水素原子のうち一方がフッ素に置換されている構造を有している。
1,1,2-トリフルオロエチレンは、炭素-炭素二重結合を含む。大気中のオゾンは、光化学反応によってヒドロキシルラジカル(OHラジカル)を生成するが、このヒドロキシルラジカルにより二重結合が分解されやすい。そのため、1,1,2-トリフルオロエチレンは、オゾン層破壊および地球温暖化への影響が少ないものとなっている。
しかしながら、1,1,2-トリフルオロエチレンは、この良好な分解性により急激な不均化反応を引き起こすことも知られている。この不均化反応では、1,1,2-トリフルオロエチレンの分子が分解する自己分解反応が発生するとともに、この自己分解反応に続いて、分解により生じた炭素が重合して煤となる重合反応等が発生する。高温高圧状態において発熱等により活性ラジカルが発生すると、この活性ラジカルと1,1,2-トリフルオロエチレンとが反応して前述した不均化反応が発生する。この不均化反応は発熱を伴うことから、この発熱により活性ラジカルが発生し、さらに、この活性ラジカルにより不均化反応が誘発される。このように、活性ラジカルの発生と不均化反応の発生とが連鎖することで、不均化反応が急激に進行する。
本発明者らが鋭意検討した結果、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応は継続的な熱供給が必要になるため、発生した熱を吸熱反応により奪うことで、急激な不均化反応を抑制または緩和することを試験した。その結果、後述するように、150℃以上300℃以下で吸熱反応を起こすものであって、15℃以上25℃以下の温度範囲内で液体または固体である吸熱材を設けることにより、吸熱材が好適な不均化抑制剤となり得ることを独自に見出した。
ここで、本発明にかかる冷凍サイクル用作動媒体には、冷媒成分として、1,1,2-トリフルオロエチレン以外の化合物(他の冷媒成分)が含まれてもよい。代表的な他の冷媒成分としては、ジフルオロメタン、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等のハイドロフルオロカーボン(HFC);モノフルオロプロペン、トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、ヘキサフルオロブテン等のハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を挙げることができるが、特に限定されない。
これらHFCまたはHFOは、いずれもオゾン層破壊および地球温暖化への影響が少ないものとして知られているため、1,1,2-トリフルオロエチレンとともに冷媒成分として併用することができる。前述した他の冷媒成分は、1種類のみ併用してもよいし2種類以上を適宜組み合わせて併用してもよい。これらの中でも、特に好ましい一例としては、ジフルオロメタン(HFC32,R32)を挙げることができる。
冷凍サイクル用作動媒体における1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量は特に限定されないが、冷凍サイクル用作動媒体を構成する各成分のうち、冷媒成分および後述する不均化抑制剤の全量(説明の便宜上、「冷媒関係成分全量」とする。)を100質量%としたときには、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量は40質量%以上であればよく、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量は、前記の通り40質量%を下限値とすればよいが、45質量%以上であると好ましく、50質量%以上であるとより好ましく、70質量%以上であるとさらに好ましい。
1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が、冷媒関係成分全量の40質量%未満であれば、冷凍サイクル用作動媒体における1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量が低くなりすぎ、他の冷媒成分を多く含有させることになる。そのため、冷凍サイクル用作動媒体において、GWPの小さい1,1,2-トリフルオロエチレンを用いる利点を十分に得られなくなる。
また、1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量の上限値も特に限定されないが、冷媒関係成分全量のうち98.8質量%以下であればよい。後述するように、不均化抑制剤の好ましい下限値が1.2質量%であるので、冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレンのみが用いられ、他の冷媒成分が用いられない(冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレンが100質量%である)とすれば、冷媒関係成分全量における1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量の上限値は必然的に98.8質量%となる。
冷媒成分として1,1,2-トリフルオロエチレン以外の他の冷媒成分を含有する場合、他の冷媒成分の含有量も特に限定されない。例えば、他の冷媒成分の好ましい一例としては、前述したようにジフルオロメタンが挙げられるが、必須の冷媒成分である1,1,2-トリフルオロエチレンの含有量の好ましい上限値が、冷媒関係成分全量の40質量%であるので、ジフルオロメタンの含有量は、冷媒関係成分全量の60質量%未満であればよい。なお、他の冷媒成分を含む場合において、1,1,2-トリフルオロエチレンの特に好ましい含有量の一例としては、70質量%~80質量%の範囲内を挙げることができるが、これに限定されない。
[併用し得る他の成分]
本発明に係る冷凍サイクル用作動媒体は、冷凍サイクルシステムで用いられるため、冷凍サイクルシステムが備える密閉型圧縮機を潤滑する潤滑油(冷凍機油)と併用することができる。本発明に係る冷凍サイクル用作動媒体は、前述したように、1,1,2-トリフルオロエチレンを実質的に「主成分」とする冷媒成分により少なくとも構成されていればよい。さらに、冷凍サイクル用作動媒体を潤滑油と併用する場合には、冷媒成分および潤滑油成分、並びに他の成分により作動媒体含有組成物が構成されているとみなすことができる。
作動媒体含有組成物に含まれる(冷凍サイクル用作動媒体とともに併用される)潤滑油成分は、冷凍サイクルシステムで公知の各種潤滑油を好適に用いることができる。具体的な潤滑油としては、エステル系潤滑油、エーテル系潤滑油、グリコール系潤滑油、アルキルベンゼン系潤滑油、フッ素系潤滑油、鉱物油、炭化水素系合成油等を挙げることができるが、特に限定されない。これら潤滑油は、1種類のみが用いられてもよいし、2種類以上が適宜組み合わせられて用いられてもよい。
また、作動媒体含有組成物には、公知の各種添加剤が添加されてもよい。具体的な添加剤としては、酸化防止剤、水分捕捉剤、金属不活性化剤、摩耗防止剤、消泡剤等が挙げられるが、特に限定されない。酸化防止剤は、冷媒成分もしくは潤滑油の熱安定性、耐酸化性、化学的安定性等を改善するために用いられる。水分捕捉剤は、冷凍サイクルシステム内に水分が浸入した場合に当該水分を除去し、特に潤滑油の性質変化を抑制するために用いられる。金属不活性化剤は、金属成分の触媒作用による化学反応を抑制または防止するために用いられる。摩耗防止剤は、圧縮機内の摺動部分における摩耗、特に圧力の高い運転時の摩耗を軽減するために用いられる。消泡剤は、特に潤滑油に気泡が発生することを抑制するために用いられる。
これら添加剤の具体的な種類は特に限定されず、諸条件に応じて公知の化合物等を好適に用いることができる。また、これら添加剤としては、1種類の化合物等みが用いられてもよいし2種類以上の化合物等が適宜組み合わせられて用いられてもよい。さらに、これら添加剤の添加量も特に限定されず、本発明にかかる冷凍サイクル用作動媒体、もしくは、これを含有する作動媒体含有組成物の性質を損なわない限り、公知の範囲内で添加することができる。
ここで、本発明に係る冷凍サイクル用作動媒体には、常温常圧で気体または液体の不均化抑制剤が予め添加されていてもよい。具体的には、例えば、不均化抑制剤としては、炭素数2~5の飽和炭化水素、および/または、炭素数1または2であってハロゲン原子が全てフッ素の場合を除くハロアルカンと、を挙げることができる。これら不均化抑制剤は、1種類のみを用いられてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
本発明における吸熱材と前述の不均化抑制剤とは、不均化を抑制するという点において似ている。しかし、後述する吸熱材は前述の不均化抑制剤と不均化を抑制する条件において異なる。前述の予め添加される不均化抑制剤は、高温の条件に達しない場合に不均化反応を良好に抑制または緩和することができる。つまり、作動媒体含有不均化抑制剤といえる。一方、後述する吸熱材は、例えば圧縮機において異常な高温が発生した場合等に、吸熱反応するので、不均化反応を良好に抑制または緩和することができる。
具体的な作動媒体含有不均化抑制剤としては、例えば、飽和炭化水素としては、エタン、n-プロパン、シクロプロパン、n-ブタン、シクロブタン、イソブタン(2-メチルプロパン)、メチルシクロプロパン、n-ペンタン、イソペンタン(2-メチルブタン)、ネオペンタン(2,2-ジメチルプロパン)、メチルシクロブタン等を挙げることができるが特に限定されない。これらの中でもn-プロパンが特に好ましい。
また、炭素数1のハロアルカンすなわちハロメタンとしては、例えば、(モノ)ヨードメタン(CH3I)、ジヨードメタン(CH2I2)、ジブロモメタン(CH2Br2)、ブロモメタン(CH3Br)、ジクロロメタン(CH2Cl2)、クロロヨードメタン(CH2ClI)、ジブロモクロロメタン(CHBr2Cl)、四ヨウ化メタン(CI4)、四臭化炭素(CBr4)、ブロモトリクロロメタン(CBrCl3)、ジブロモジクロロメタン(CBr2Cl2)、トリブロモフルオロメタン(CBr3F)、フルオロジヨードメタン(CHFI2)、ジフルオロジヨードメタン(CF2I2)、ジブロモジフルオロメタン(CBr2F2)、トリフルオロヨードメタン(CF3I)等が挙げられるが、特に限定されない。これらの中でも、ジブロモメタン(CH2Br2)、ブロモメタン(CH3Br)、ジブロモジクロロメタン(CBr2Cl2)、またはトリフルオロヨードメタン(CF3I)等が好ましく、トリフルオロヨードメタン(CF3I)がより好ましい。
また、炭素数2のハロアルカンすなわちハロエタンとしては、例えば、1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF3CH2I)、モノヨードエタン(CH3CH2I)、モノブロモエタン(CH3CH2Br)、1,1,1-トリヨードエタン(CH3CI3)等が挙げられる。これらの中でも、入手性、ODPの値、取扱性等を考慮すれば、1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF3CH2I)を特に好ましく用いることができる。
作動媒体含有不均化抑制剤の添加量は特に限定されないが、冷媒関係成分全量(冷媒成分および作動媒体含有不均化抑制剤の全量)を100質量%としたときに、作動媒体含有不均化抑制剤の添加量(含有量)の上限は、冷媒関係成分全量の10質量%以下であればよく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。これは、作動媒体含有不均化抑制剤の含有量が冷媒関係成分全量の10質量%を超えると、冷凍サイクル用作動媒体として見たときに、作動媒体含有不均化抑制剤の含有量が多くなり過ぎて、「冷媒」として良好な物性を発揮できなくなる可能性があるためである。もちろん、冷凍サイクル用作動媒体の組成によっては、冷媒関係成分全量の10質量%以上を添加してもよい。
作動媒体含有不均化抑制剤としては、前述の通り、飽和炭化水素およびハロアルカンを併用することができる。このとき、飽和炭化水素とハロアルカンとの混合比については特に限定されない。前記の通り、作動媒体含有不均化抑制剤の全量の好ましい含有量として10質量%以下を挙げることができるので、この範囲内で飽和炭化水素およびハロアルカンが適当な混合比で併用されていればよい。
ここで、飽和炭化水素およびハロアルカンは、それぞれ10質量%以下の添加量であっても不均化反応を抑制したり進行を緩和したりすることができる。さらに、本開示のように、飽和炭化水素およびハロアルカンを併用した場合には、単独種類で添加する場合よりもさらに少量で不均化反応の抑制または進行の緩和を実現することが可能となる。より具体的には、作動媒体含有不均化抑制剤の全量(飽和炭化水素およびハロアルカンの総量)における添加量の上限は10質量%以下であればよく5質量%以下でもよいが、飽和炭化水素およびハロアルカンを組み合わせた場合、3質量%以下をより好ましい上限にすることができる。
このとき、飽和炭化水素およびハロアルカンの混合比は特に限定されないが、添加量が3質量%以下である場合には、飽和炭化水素とハロアルカンとの混合比の代表的な一例としては、質量比で1:0.5~1:2の範囲内を挙げることができる。前述したように、飽和炭化水素とハロアルカンとの組合せとしては3つが挙げられるので、それぞれの組合せについて代表的な混合比を例示すると、[1]飽和炭化水素、ハロエタンおよびハロメタンの3種類併用の組合せでは、質量比で1:0.25:0.25~1:1:1の範囲内を挙げることができ、[2]飽和炭化水素およびハロエタンの2種類併用の組合せでは、1:0.25~1:1の範囲内を挙げることができ、[3]飽和炭化水素およびハロメタンの2種類併用の組合せでは、1:0.25~1:1の範囲内を挙げることができる。
また、飽和炭化水素およびハロアルカンの添加量の下限値についても特に限定されないが、代表的な下限値として、冷媒関係成分全量の1.2質量%以上を挙げることができる。飽和炭化水素およびハロアルカンの全量が1.2質量%未満であっても、不均化反応の抑制等の効果を得ることは可能であるが、1.2質量%以上であれば、不均化反応の抑制等の効果をより好適に実現することができる。したがって、本発明においては、飽和炭化水素およびハロアルカンの含有量のより好ましい範囲としては、冷媒関係成分全量の1.2質量%以上3質量%以下の範囲内を挙げることができる。
[吸熱材]
本発明に係る吸熱材は、150℃以上で吸熱反応を起こすものであって、15℃以上25℃以下の温度範囲(すなわち常温の範囲)で液体または固体である不均化抑制剤を含有し、少なくとも1℃以上30℃以下の温度範囲(すなわち通常の温度の範囲)で固形化されている構成であればよい。これにより、通常の使用条件の温度域だけでなく、より高温域である150℃以上の温度条件下においても、(A)1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を有効に抑制または緩和することができる。
本発明に係る吸熱材の固形化の方法は特に限定されないが、代表的には、以下の3つが考えられる。すなわち、[i]吸熱材そのものが使用条件の温度範囲内(通常、常温)で固体である形態、[ii]液体または固体の吸熱材を結合材に混合または分散させた形態、[iii]液体または固体の吸熱材を被覆材の内部に収容させた形態である。
吸熱材には、吸熱を伴う化学反応をする物質を用いる。一般に反応後にエントロピーが非常に大きくなる場合に吸熱反応が進行する。吸熱反応は無機物質であれば脱水反応、脱炭酸反応、脱水素反応、脱窒素反応、脱酸素反応、脱ハロゲン反応、脱アンモニア反応などがある。有機化合物でもメチルシクロヘキサンの脱水素反応などがある。
このような吸熱材として、15℃以上25℃以下の温度範囲(常温の温度範囲)で液体または固体である吸熱反応物質と150℃以上300℃以下で起こす吸熱反応は次のような物質と反応を挙げることができる。
硫酸マグネシウム7水和物: MgSO4・7H2O → MgSO4+7H2O
水酸化アルミニウム: Al(OH)3 → 0.5Al2O3 + 1.5H2O
メチルシクロヘキサン: C6H11CH3 → C7H8 + 3H2
メチルシクロヘキサンの脱水素反応は、白金触媒を用いると300℃以下で進行する。
トリフルオロエチレンの不均化による反応熱は250kJ/mol=3.0kJ/gである。硫酸マグネシウム7水和物の脱水反応の反応熱は-1.6kJ/gであり、不均化初期の反応熱をある程度奪うことは可能である。水酸化アルミニウム、メチルシクロヘキサンも同様に反応熱が-0.94kJ/g、-0.71kJ/gであり、これらも不均化反応による熱を奪うことは可能である。
吸熱材が、前述した[i]の形態であれば、吸熱材がそのもの自身で固形化されている。したがって、常温で固体の吸熱反応物質を必要に応じて所定形状に成形または加工し、冷凍サイクルシステムを構成するいずれかの構成要素(代表的には、後述するように密閉型圧縮機の内部)に設ければよい。
また、吸熱材が前述した[ii]の形態であれば、吸熱材には、少なくとも、結合材が設けられていることになる。この形態であれば、吸熱材を結合材に対して混合または分散すればよい。吸熱材の吸熱反応物質を結合材に混合または分散する方法は特に限定されず、例えば、液体または固体の吸熱反応物質を固体の結合材に添加して公知の混練装置等によって混練する方法;液体または固体の吸熱反応物質を、結合材の溶媒溶液に添加して攪拌混合し、乾燥等により溶媒を除去する方法;液体または固体の吸熱反応物質を、反応前(例えば硬化前もしくは重合前)の液状の結合材に添加して攪拌混合し、結合材を反応させる方法;等を挙げることができる。
また、吸熱材が前述した[iii]の形態であれば、吸熱材には、少なくとも、被覆材が設けられており、被覆材の内部に吸熱材が収容されていることになる。被覆材の内部に吸熱材を収容する方法は特に限定されず、例えば、予め容器状に被覆材を形成してその内部に液体または固体の吸熱材を収容する方法;固体の吸熱材の表面に被覆材を公知の方法でコート(被覆)する方法;液体または固体の吸熱材を結合材により固形化した(前記[ii]の形態とした)上で、さらに被覆材をコート(被覆)する方法;等を挙げることができる。
[ii]の形態で用いられる結合材および[iii]の形態で用いられる被覆材については、具体的には特に限定されず、固形化状態で保持した吸熱材を、150℃以上の温度で放出可能にできるものであればよい。このような結合材または被覆材としては、例えば、さまざまな樹脂を挙げることができる。
結合材または被覆材として使用可能な樹脂は、好ましくはガラス転移温度(Tg)が140℃以上であるか、または、分解温度が140℃以上であればよい。Tgが140℃以上であれば、結合材または被覆材が140℃以上の温度で徐々に液化(または軟化)する。そのため、結合材または被覆材で保持された吸熱材が冷凍サイクル用作動媒体と接触しやすくなる。同様に、分解温度が140℃以上であれば、結合材または被覆材が140℃以上の温度で徐々に分解されるため、結合材または被覆材で保持された吸熱材が冷凍サイクル用作動媒体と接触しやすくなる。
結合材または被覆材として用いられる具体的な樹脂は特に限定されないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、テルペンフェノール樹脂、またはポリビニルアルコール(PVA)等を挙げることができる。これら樹脂は1種類のみを用いてもよいが、混合可能な複数種類の樹脂を適宜組み合わせてポリマーアロイ等として用いることもできる。なお、これら樹脂の平均分子量または重合度等といった物性は特に限定されない。
より具体的な樹脂の種類としては、例えば、エポキシ樹脂であれば、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社(Huntsman Advanced Materials)製の商品名:アラルダイトラピッド AR-R30、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製の商品名:アラルダイト AV138M-1/硬化剤 HV998、スリーボンド株式会社製の商品名:TB2088E等が挙げられる。また、例えば、アクリル樹脂としては、スリーボンド株式会社製の商品名:TB1372D等が挙げられる。また、例えば、テルペンフェノール樹脂であれば、ヤスハラケミカル株式会社製の商品名:YSポリスターT145等が挙げられる。
前述の通り、吸熱材は、少なくとも吸熱材を構成する吸熱反応物質を含有している。そして、さらに、結合材および被覆材の少なくとも一方を含有または備えていてもよい。なお、他の成分を含有していてもよく、他の部材を備えていてもよい。
例えば、吸熱材を結合材に混合または分散するために公知の分散剤を含有してもよい。あるいは、吸熱材を結合材に混合または分散して得られる組成物(吸熱材)の形状保持性を向上するために公知のフィラーを含有してもよい。あるいは、吸熱材を複数の被覆材で被覆してもよい。このとき、任意の被覆材が膜状であり任意の被覆材が容器状であってもよい。あるいは、被覆材が容器状であって複数の部分容器に分割されている場合には、部分容器同士を公知の接着剤により接着してもよいし、部分容器同士を公知の締結部材により締結してもよい。
[冷凍サイクルシステムの構成例]
次に、本発明にかかる冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムの一例について、図1(A)・(B)を参照しながら説明する。
本発明にかかる冷凍サイクルシステムの具体的な構成は特に限定されず、圧縮機、凝縮器、膨張手段、および蒸発器等の構成要素が配管にて接続された構成であればよい。本発明にかかる冷凍サイクルシステムの具体的な適用例も特に限定されず、例えば、空気調和装置(エアーコンディショナ)、冷蔵庫(家庭用、業務用)、除湿器、ショーケース、製氷機、ヒートポンプ式給湯機、ヒートポンプ式洗濯乾燥機、自動販売機等を挙げることができる。
本発明にかかる冷凍サイクルシステムの代表的な適用例として、空気調和装置を挙げて説明する。具体的には、図1(A)のブロック図に模式的に示すように、本実施の形態にかかる空気調和装置10は、室内機11および室外機12、並びにこれらを接続する配管13を備えており、室内機11は熱交換器14を備え、室外機12は熱交換器15、圧縮機16、および減圧装置17を備えている。
室内機11の熱交換器14と室外機12の熱交換器15とは、配管13で環状に接続され、これにより冷凍サイクルが形成されている。具体的には、室内機11の熱交換器14、圧縮機16、室外機12の熱交換器15、減圧装置17の順で配管13により環状に接続されている。また、熱交換器14、圧縮機16、および熱交換器15を接続する配管13には、冷暖房切換用の四方弁18が設けられている。なお、室内機11は、図示しない送風ファン、温度センサ、操作部等を備えており、室外機12は、図示しない送風機、アキュームレータ等を備えている。さらに、配管13には、図示しない各種弁装置(四方弁18も含む)や、ストレーナ等も設けられている。
室内機11が備える熱交換器14は、送風ファンにより室内機11の内部に吸い込まれた空気と、熱交換器14の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行う。室内機11は、暖房時には熱交換により暖められた空気を室内に送風し、冷房時には熱交換により冷却された空気を室内に送風する。室外機12が備える熱交換器15は、送風機により室外機12の内部に吸い込まれた外気と熱交換器15の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行う。
なお、室内機11および室外機12の具体的な構成、あるいは、熱交換器14または熱交換器15、圧縮機16、減圧装置17、四方弁18、送風ファン、温度センサ、操作部、送風機、アキュームレータ、その他の弁装置、ストレーナ等の具体的な構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。
図1(A)に示す空気調和装置10の動作の一例について具体的に説明する。まず、冷房運転または除湿運転では、室外機12の圧縮機16はガス冷媒を圧縮して吐出し、これによりガス冷媒は四方弁18を介して室外機12の熱交換器15に送出される。熱交換器15は外気とガス冷媒とを熱交換するので、ガス冷媒は凝縮して液化する。液化した液冷媒は減圧装置17により減圧され、室内機11の熱交換器14に送出される。熱交換器14では、室内空気との熱交換により液冷媒が蒸発してガス冷媒となる。このガス冷媒は、四方弁18を介して室外機12の圧縮機16に戻る。圧縮機16はガス冷媒を圧縮して四方弁18を介して再び熱交換器15に吐出する。
また、暖房運転では、室外機12の圧縮機16はガス冷媒を圧縮して吐出し、これによりガス冷媒は四方弁18を介して室内機11の熱交換器14に送出される。熱交換器14では、室内空気との熱交換によりガス冷媒が凝縮して液化する。液化した液冷媒は、減圧装置17により減圧されて気液二相冷媒となり、室外機12の熱交換器15に送出される。熱交換器15は外気と気液二相冷媒とを熱交換するので、気液二相冷媒は蒸発してガス冷媒となり、圧縮機16に戻る。圧縮機16はガス冷媒を圧縮して四方弁18を介して再び室内機11の熱交換器14に吐出する。
また、本開示にかかる冷凍サイクルシステムの他の代表的な適用例として、冷蔵庫を例に挙げて説明する。具体的には、図1(B)のブロック図に模式的に示すように、本実施の形態にかかる冷蔵庫20は、図1に示す圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、蒸発器24、および配管25を備えている。また、冷蔵庫20は、図示しないが、本体となる筐体、送風機、操作部、制御部等も備えている。
圧縮機21は、冷媒ガスを圧縮して、高温高圧のガス冷媒にする。凝縮器22は、冷媒を冷却して液化させる。減圧装置23は、例えばキャピラリーチューブで構成され、液化された冷媒(液冷媒)を減圧する。蒸発器24は、冷媒を蒸発させて低温低圧のガス冷媒にする。圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、および蒸発器24は、冷媒ガスを流通させる配管25により、この順で環状に接続され、これにより冷凍サイクルが構成されている。
なお、圧縮機21、凝縮器22、減圧装置23、蒸発器24、配管25、本体筐体、送風機、操作部、制御部等の構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。また、冷蔵庫20は、これら以外の公知の構成を備えていてもよい。
図1(B)に示す冷蔵庫20の動作の一例について具体的に説明する。圧縮機21はガス冷媒を圧縮して凝縮器22に吐出する。凝縮器22はガス冷媒を冷却して液冷媒とする。液冷媒は減圧装置23を通過することにより減圧され、蒸発器24に送られる。蒸発器24では、液冷媒が周囲から熱を奪うことにより気化し、ガス冷媒となって圧縮機21に戻る。圧縮機21はガス冷媒を圧縮して再び凝縮器22に吐出する。
[圧縮機の構成例]
本発明に係る圧縮機について、図2を用いて以下で説明する。なお、本発明に係る圧縮機として密閉型圧縮機を代表例として示すが、これに限定するものではない。
本発明に係る密閉型圧縮機は、前述した吸熱材を密閉容器内に収容している構成を有している。それゆえ、前述した空気調和装置10が備える圧縮機16、もしくは、冷蔵庫20が備える圧縮機21として好適に用いることができるものである。本発明に係る密閉型圧縮機の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、図2に示すような、ロータリ式の圧縮機30を挙げることができる。このロータリ式の圧縮機30は、図1(A)に示す家庭用の空気調和装置10に用いられる圧縮機16の代表的な一例である。圧縮機30は、密閉容器31内に収容される電動要素41および圧縮要素42を備えており、さらに吸熱材50も密閉容器31内に収容されている。
密閉容器31は縦長の円筒状であり、例えば図2に示す構成では、上シェル32、胴シェル33、および下シェル34により構成されている。上シェル32は、密閉容器31の上部を構成し、下シェル34は密閉容器31の下部を構成し、胴シェル33は、密閉容器31の大部分(密閉容器31の本体)を構成する。上シェル32および下シェル34は胴シェル33にはめ込まれている。また、上シェル32には吐出管35が設けられ、胴シェル33の下側側部には吸入管36が構成されている。
電動要素41は、回転子43および固定子44を備えているモータであり、回転子43にはシャフト45が設けられている。シャフト45は圧縮要素42が備えるピストン46に回転自在に連結されており、ピストン46は圧縮要素42が備えるシリンダ47内を回転運動する。したがって、圧縮要素42は電動要素41によって駆動される。
図2に示す例では、電動要素41が密閉容器31内の上側に位置し、圧縮要素42が電動要素41の下側に位置する。したがって、密閉容器31の内部空間の上部には電動要素41が位置し、内部空間の下部には圧縮要素42が位置する。密閉容器31内には、密閉容器31内には潤滑油48も封入されている。図2に示す例では、潤滑油48は、密閉容器31内において圧縮要素42の下方(密閉容器31内の底部)に貯留されている。
電動要素41および圧縮要素42のシリンダ47は、円筒状の密閉容器31の内径とほぼ同様の外径を有しており、電動要素41の回転によりシャフト45が回転し、この回転駆動力が圧縮要素42のピストン46に伝達される。ピストン46は、電動要素41の回転駆動力によりシリンダ47内を回転する。シリンダ47には、吸入管36から低圧のガス冷媒が導入され、シリンダ47の回転により圧縮され、高圧の冷媒ガスとして密閉容器31の内部に吐出され、さらに、密閉容器31の上端の吐出管35から圧縮機30の外部に吐出される。
このような構成の圧縮機30において、密閉容器31の内部に吸熱材50を設ける位置は特に限定されないが、図2に示す例では、電動要素41の上部に吸熱材50を載置している。ロータリ式の圧縮機30では、電動要素41の上部に空間が生じるため、この位置であれば吸熱材50を設置するだけの十分な空間が確保できる。
また、電動要素41の上部の空間には、電動要素41のモータ巻線に接続されるターミナルからの導線を配置することができる。導線とモータ巻線のターミナルとがハンダ付けされている場合、もし万が一ハンダ付け不良が存在すると、不良部分の電気抵抗が上昇する可能性がある。電気抵抗の上昇によりジュール熱が発生するとハンダが溶解して導電とモータ巻線との接続が分断されるおそれがある。接続の分断時には、状況によっては放電が生じる可能性があり、この放電に起因して電動要素41の上部の空間で冷媒(冷凍サイクル用作動媒体)の不均化反応が発生するおそれがある。これに対して、上部の空間に吸熱材50が存在すると、放電により不均化反応が発生しても速やかに不均化反応を抑制することができる。
なお、吸熱材50を設ける位置は、電動要素41の上部の空間に限定されず、さまざまな位置に設けることができる。例えば、不均化反応の発生原因として前記のような内部の放電の可能性を想定すれば、何らかの不良により放電の発生の可能性がある位置もしくはその位置の近傍に吸熱材50を設ければよい。
放電の可能性のある位置としては、例えば、前述した導線とターミナルとのハンダ付け部分の不良以外にも、モータ巻線部分におけるレイヤーショート(またはレアショート)が考えられる。レイヤーショートは、モータ巻線同士の接触等によりモータ巻線の被覆層が剥離し、隣接するモータ巻線同士が導通することを指す。このように放電の可能性のある位置が想定されれば、前記のように電動要素41の上部の空間に吸熱材50を設けてもよいが、当該位置もしくはその近傍に吸熱材50を設けてもよい。
また、一般に、圧縮機30の内部では、電動要素41に電流が流れることによって通常の温度時でも温度が上昇する。そこで、圧縮機30は所定温度まで内部温度の上昇を抑えるように設計される。代表的な所定温度としては例えば150℃が挙げられる。これは、通常、電動要素41が備えるコイル全体の耐熱温度が150℃であることによる。冷凍サイクルシステムにおいて何らかの異常が発生したときには、圧縮機30の内部でジュール熱が逃げ場を失うため、前記所定温度を超えて内部温度が上昇する可能性がある。何らかの異常としては、例えば、圧縮機30の内部で冷媒(冷凍サイクル用作動媒体)が少なくなったとき、あるいは、空気調和装置10の四方弁18(あるいは三方弁)を閉じたまま運転したときが考えられる。
このように内部温度が上昇したときには、圧縮機30において最も温度が高くなる部位(部材または構成要素)は、電動要素41のモータ巻線または固定子44である。そこで、吸熱材50は、モータ巻線または固定子44(あるいはその両方)に接触させる位置に設けることができる。これにより、万が一内部温度の上昇が発生したときであっても、過剰な温度上昇が生じたときに吸熱材50から良好に吸熱反応物質を冷凍サイクル用作動媒体に接触させることができる。
また、例えば、図2に示す構成のロータリ式の圧縮機30であれば、圧縮要素42の下側には、潤滑油48が貯留されているが、この位置に吸熱材50を設けてもよい。ただし、吸熱材を構成する吸熱反応物質の種類、あるいは、吸熱材50を構成する結合材または被覆材等の種類によっては、これらが潤滑油48に溶解する可能性、あるいは、潤滑油48の熱容量により吸熱材50から良好に吸熱反応物質が冷凍サイクル用作動媒体に接触できない可能性があり得る。この観点では、吸熱材50の収容位置は、密閉容器31の内部の上側であることが好ましい。
このような空気調和装置10または冷蔵庫20は、前述した冷凍サイクル用作動媒体を用いて構成される冷凍サイクルシステムとなっている。冷凍サイクル用作動媒体に用いられる1,1,2-トリフルオロエチレンは、冷媒成分として良好な性質を有しているとともに、ODPおよびGWPが小さい。そのため、環境に与える影響を小さくしつつ効率的な冷凍サイクルシステムを実現することができる。
しかも、本発明においては、1,1,2-トリフルオロエチレンにおける150℃以上の温度条件下での不均化反応を抑制するために、150℃以上300℃以下で吸熱反応を起こすものであって、15℃以上25℃以下の温度範囲内で液体または固体である吸熱反応物質(吸熱材)を含有し、少なくとも1℃以上30℃以下の温度範囲で固形化されている吸熱材を用いている。
このような吸熱材は、常温で液体または固体の吸熱反応物質を主成分とし、室温の範囲で固形化されたものである。それゆえ、通常の使用条件では、吸熱材は固形化された状態であるが、通常の使用条件よりも高温域に達したときには、吸熱反応物質が冷凍サイクル用作動媒体と接触することになる。その結果、より高温の条件下であっても、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応によって生じる熱を吸熱反応剤が吸熱するため連鎖反応が停止し、不均化反応を有効に抑制または緩和することができる。
これにより、冷凍サイクルが稼働中に、例えば圧縮機16または圧縮機21等に発熱が生じ、150℃以上の温度に達しても、1,1,2-トリフルオロエチレンの連鎖的な不均化反応の発生を回避、抑制または緩和することができる。その結果、連鎖的な不均化反応による煤の発生等を有効に回避することができるので、冷凍サイクル用作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクルシステムの信頼性を向上させることができる。
続いて、本発明について、実施例、比較例および参考例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではなく、当業者は本発明の範囲を逸脱することのない種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
(不均化反応の実験系)
密閉型の耐圧容器(耐圧硝子工業株式会社製テフロン(登録商標)内筒密閉容器TAF-SR[商品名]、内部容積50mL)に対して、当該耐圧容器内の内部圧力を測定する圧力センサ(株式会社バルコム製VESVM10-2m[商品名])、当該耐圧容器内の内部温度を測定する熱電対(Conax Technologies製PL熱電対グランドPL-18-K-A 4-T[商品名])、並びに、当該耐圧容器内で放電を発生させるための放電装置(アズワン株式会社製UH-1seriesミニミニウェルダー[商品名])を取り付けるとともに、冷媒成分である1,1,2-トリフルオロエチレン(SynQuest Laboratories製、ヒドラス化学(株)販売、安定剤としてリモネン5%(液相)で含有)のガスボンベを圧力調整可能となるように接続した。さらに、圧力センサおよび温度計は、データロガー(グラフテック株式会社製GL220型[商品名]、サンプリング間隔最少10ミリ秒)に接続した。これにより、不均化反応の実験系を構築した。なお、実験系に用いた前記熱電対の測定上限は1000℃程度であるので、下記比較例または実施における耐圧容器の内部温度は、特に1000℃を超える場合には参考値として取り扱われる。
(比較例)
前記実験系において、ガスボンベから耐圧容器内に1,1,2-トリフルオロエチレンを導入した。1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を誘引するために、内部温度約24℃(297.65K)で放電装置により放電を発生させ、データロガーにより内部圧力および内部温度を測定した。その結果、1回の放電を発生させてから1~2秒で内部圧力7.867MPaおよび内部温度約884℃(1157.45K)が測定された。その後、内部圧力および内部温度が十分に低下してから耐圧容器の内部を確認したところ、相当量の煤の発生が確認された。
(参考例)
前記実験系において、ガスボンベから耐圧容器内に1,1,2-トリフルオロエチレンを導入するとともに、不均化抑制剤として1,1,1-トリフルオロ-2-ヨードエタン(CF3CH2I)を25質量%の添加量となるように添加した。そして、比較例と同様にして1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の発生について確認した。その結果、放電を40回以上繰り返しても有意な昇圧および昇温は見られなかった。その後、内部圧力および内部温度が十分に低下してから耐圧容器の内部を確認したが、煤の発生は見られなかった。
(実施例1)
吸熱材として、硫酸マグネシウム7水和物を用い、結合材としてポリビニルアルコール(PVA,重合度:1500)を用いる。このPVA水溶液に対して重量比で1:1となるように硫酸マグネシウムを添加して攪拌し水溶液を乾燥することにより、実施例1に係る吸熱材及び結合材を得る。この吸熱材は、200℃で加熱することにより、硫酸マグネシウムの水和物が脱離し吸熱反応を起こす。
前記実験系において、吸熱材を耐圧容器内に収容して密閉し、ガスボンベから耐圧容器内に1,1,2-トリフルオロエチレンを導入する。その後、耐圧容器の内部を140℃で1時間加熱することにより、冷凍サイクルシステム(圧縮機内)において異常な高温が発生した状況を再現できる。そして、内部温度が約27℃(約300K)になるまで放置してから、比較例と同様にして1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応の発生について確認できる。このようにすることで放電を繰り返しても不均化反応の連鎖による有意な昇圧および昇温は見られない。
(実施例2)
吸熱材として、メチルシクロヘキサンを白金アルミナ粉末と共に用い、結合材として第一のエポキシ樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、商品名:アラルダイトラピッド(AR-R30))を用いる。第一のエポキシ樹脂とメチルシクロヘキサンとを重量比で1:1となるように混合して硬化させることにより硬化物を得る。この硬化物の表面に対して、さらに第二のエポキシ樹脂(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製、商品名:アラルダイト(AV138M-1)および硬化剤(HV99))で被覆することにより、実施例2に係る吸熱材を得ることができる。この吸熱材は、230℃で加熱することにより、メチルシクロヘキサンの水素脱離反応が起こり吸熱反応を起こす。
(比較例、参考例、および実施例の対比)
比較例の結果から、前記実験系において耐圧容器内で放電を発生させることにより、1,1,2-トリフルオロエチレンに不均化反応が発生し、この不均化反応が連鎖して急激に進行することがわかる。また、参考例の結果から、常温で液体のハロアルカンであるCF3CH2I(沸点54℃)を1,1,2-トリフルオロエチレンに添加することにより、不均化反応を抑制できることがわかる。
さらに、実施例1および2より、吸熱物質を結合材により固形化した吸熱材では、200℃前後の温度域で吸熱反応を起こすことが可能であり、1,1,2-トリフルオロエチレンの不均化反応を良好に抑制できる。
なお、本発明は前述の実施の形態の記載に限定されるものではなく、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる。すなわち、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に示したもので種々の変更が可能である。