IL-11およびIL-11受容体
脂肪細胞化抑制因子としても知られているインターロイキン11(IL-11)は多形質発現性サイトカインであり、IL-6、IL-11、IL-27、IL-31、オンコスタチン、白血病抑制因子(LIF)、カルジオトロフィン-1(CT-1)、カルジオトロフィン様サイトカイン(CLC)、毛様体神経栄養因子(CNTF)およびneuropoetin(NP-1)を含むIL-6サイトカインファミリーのメンバーである。
IL-11は、自体を細胞から効率的に分泌させる古典的シグナルペプチドが付加された状態で転写される。ヒトIL-11の前駆体は199個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、成熟型のIL-11は178個のアミノ酸残基からなるタンパク質である(Garbers and Scheller. , Biol. Chem. 2013; 394(9):1145-1161)。ヒトIL-11のアミノ酸配列はUniProtアクセッション番号P20809(P20809.1 GI:124294)から入手可能である。組換えヒトIL-11(オプレルベキン)も市販されている。他の生物種由来のIL-11のいくつか、たとえば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、硬骨魚、霊長類などのIL-11もクローニングされており、その配列が決定されている。
本明細書において、IL-11は任意の生物種に由来するIL-11を指し、任意の生物種から得られたIL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを含む。好ましい実施形態において、前記生物種はヒト(ホモ・サピエンス)である。IL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、任意の生物種(たとえばヒト)に由来するIL-11前駆体または成熟型IL-11のアミノ酸配列と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有することを特徴としてもよい。IL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、(好ましくは同じ生物種由来の)IL-11Rαと結合して、IL-11Rαおよびgp130を発現する細胞のシグナル伝達を刺激する能力(たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)またはKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような能力)を持つことを特徴としてもよい。IL-11断片の長さは、どのような長さ(アミノ酸長)であってもよいが、成熟型IL-11の長さの少なくとも25%であってもよく、最長で成熟型IL-11の長さの50%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%であってもよい。IL-11断片の長さは、最短で10アミノ酸長であってもよく、最長で15アミノ酸長、20アミノ酸長、25アミノ酸長、30アミノ酸長、40アミノ酸長、50アミノ酸長、100アミノ酸長、110アミノ酸長、120アミノ酸長、130アミノ酸長、140アミノ酸長、150アミノ酸長、160アミノ酸長、170アミノ酸長、180アミノ酸長、190アミノ酸長または195アミノ酸長であってもよい。
IL-11は、普遍的に発現されるβ受容体である糖タンパク質130(gp130;糖タンパク質130、IL6ST、IL6-βまたはCD130としても知られている)が形成するホモダイマーを介してシグナルを伝達する。gp130は膜貫通タンパク質であり、IL-6受容体ファミリーと会合することによってI型サイトカイン受容体を形成する受容体サブユニットである。特異性は個々のIL-11α受容体(IL-11Rα)によって発揮される。IL-11α受容体はシグナル伝達に直接関与はしないものの、α受容体にサイトカインが結合すると、β受容体と会合して最終的な複合体を形成する。IL-11は下流のシグナル伝達経路を活性化し、このシグナル伝達経路は、主として、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードおよびヤヌスキナーゼ/シグナル伝達兼転写活性化因子(Jak/STAT)経路から構成される(GarbersおよびScheller,上掲)。
ヒトgp130(22個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含む)は、918個のアミノ酸からなるタンパク質であり、その成熟形態は866個のアミノ酸からなり、597個のアミノ酸からなる細胞外ドメイン、22個のアミノ酸からなる膜貫通ドメインおよび277個のアミノ酸からなる細胞内ドメインを含む。ヒトgp130の細胞外ドメインは、gp130のサイトカイン結合モジュール(CBM)を含む。gp130のCBMは、Ig様ドメインD1と、gp130のフィブロネクチンIII型ドメインD2およびD3とを含む。ヒトgp130のアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号NP_002175.2から入手可能である。
ヒトIL-11Rαは422個のアミノ酸からなるポリペプチド(Genbankアクセッション番号:NP_001136256.1、GI:218505839)であり、マウスIL-11Rαと約85%のヌクレオチド配列同一性およびアミノ酸配列同一性を有する(Du and Williams., Blood Vol, 89, No,11, June 1, 1997)。IL-11Rαは、細胞内ドメインが異なる2種のアイソフォームが存在することが報告されている(DuおよびWilliams,上掲)。IL-11受容体α鎖(IL-11Rα)は、IL-6受容体α鎖(IL-6Rα)と構造および機能の面で多くの類似点がある。IL-11RαとIL-6Rαの細胞外ドメインは24%のアミノ酸同一性を有し、特徴的なTrp-Ser-X-Trp-Ser(WSXWS)保存モチーフを含む。IL-11RαとIL-6αの短い細胞内ドメイン(34アミノ酸長)には、JAK/STATシグナル伝達経路の活性化に必要とされるBox1領域およびBox2領域が含まれていない。
IL-11Rαはそのリガンドに低い親和性(Kd=約10nmol/L)で結合し、それ自体単独では、生体シグナルを伝達することはできない。高い親和性(Kd=約400~800pmol/L)で結合してシグナルを伝達できる受容体の形成には、IL-11Rαとgp130の共発現が必要とされる(Curtis et al (Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12; Hilton et al., EMBO J 13:4765, 1994; Nandurkar et al., Oncogene 12:585, 1996)。細胞表面のIL-11RαにIL-11が結合すると、上述したように、ヘテロ二量体化、チロシンのリン酸化、gp130およびMAPKの活性化、ならびに/またはJak/STATのシグナル伝達が誘導される。
マウスIL-11の受容体結合部位はマッピングされており、3つの部位(部位I、部位IIおよび部位III)が特定されている。部位II領域の置換や部位III領域の置換によって、gp130への結合性が低下する。部位IIIの変異体は検出可能なアゴニスト活性を示さず、IL-11Rαに対してアンタゴニスト活性を示す(Cytokine Inhibitors Chapter 8;Gennaro Ciliberto,Rocco Savino共編、Marcel Dekker, Inc. 2001)。
さらに、通常、可溶性IL-11RαはIL-11と結合して生物学的に活性な可溶性複合体を形成することができることから(Pflanz et al., 1999 FEBS Lett, 450, 117-122)、IL-6と同様に、細胞表面のgp130に結合していないIL-11を可溶性IL-11Rαに結合させることができると考えられる(GarbersおよびScheller,上掲)。Curtisら(Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12)は、可溶性マウスIL-11受容体α鎖(sIL-11R)を発現させて、gp130発現細胞におけるシグナル伝達を試験したことを報告している。この研究では、gp130は存在するが、膜貫通型IL-11Rが存在しない条件下において、M1白血病細胞のIL-11依存性分化とBa/F3細胞の増殖とがsIL-11Rによって誘導されたことが示されており、さらにsIL-11Rによって誘導された初期の細胞内シグナル伝達事象(gp130、STAT3およびSHP2のリン酸化を伴う)が、膜貫通型IL-11Rを介したシグナル伝達と類似していることが報告されている。
本明細書において、IL-11受容体(IL-11R)は、IL-11と結合することによってgp130発現細胞のシグナル伝達を誘導できるポリペプチドを指す。IL-11受容体は、任意の生物種に由来するものであってもよく、任意の生物種から得られたIL-11受容体のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを含む。好ましい実施形態において、前記生物種はヒト(ホモ・サピエンス)である。いくつかの実施形態において、IL-11受容体はIL-11Rαであってもよい。IL-11Rαのアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、任意の生物種(たとえばヒト)に由来するIL-11Rαのアミノ酸配列と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有することを特徴としてもよい。IL-11Rαのアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、(好ましくは同じ生物種由来の)IL-11と結合して、IL-11Rαおよびgp130を発現する細胞のシグナル伝達を刺激する能力(たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)またはKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような能力)を持つことを特徴としてもよい。IL-11受容体の断片の長さは、どのような長さ(アミノ酸長)であってもよいが、成熟型IL-11Rαの長さの少なくとも25%であってもよく、最長で成熟型IL-11Rαの長さの50%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%であってもよい。IL-11受容体の断片の長さは、最短で10アミノ酸長であってもよく、最長で15アミノ酸長、20アミノ酸長、25アミノ酸長、30アミノ酸長、40アミノ酸長、50アミノ酸長、100アミノ酸長、110アミノ酸長、120アミノ酸長、130アミノ酸長、140アミノ酸長、150アミノ酸長、160アミノ酸長、170アミノ酸長、180アミノ酸長、190アミノ酸長、200アミノ酸長、250アミノ酸長、300アミノ酸長、400アミノ酸長または415アミノ酸長であってもよい。
IL-11の作用を抑制することができる薬剤
IL-11のシグナル伝達経路には、IL-11のシグナル伝達を抑制することができるルートが複数存在する。たとえば、IL-11の作用の抑制は、IL-11受容体へのIL-11の結合を阻害または低減することによって行ってもよい。したがって、好適な薬剤はIL-11またはその受容体を標的としてもよい。
いくつかの実施形態において、IL-11の作用を抑制することができる薬剤は、IL-11に結合して、(たとえばIL-11受容体を介した)IL-11のシグナル伝達を阻害または低減するものであってもよい。いくつかの実施形態において、IL-11の作用を抑制することができる薬剤は、IL-11受容体に結合して、IL-11刺激によるシグナル伝達を阻害または低減するものであってもよい。
IL-11に結合する薬剤は、IL-11受容体へのIL-11の結合を遮断することによって、かつ/またはIL-11受容体に結合可能なIL-11の量を低減することによって、IL-11のシグナル伝達を抑制するものであってもよい。好適なIL-11結合性薬剤は、IL-11阻害物質であってもよく、IL-11アンタゴニストであってもよい。
本発明に係るIL-11結合性薬剤(たとえば抗IL-11抗体)は、以下の特性の少なくとも1つを示してもよい。
a)1μM以下のKD、好ましくは1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下または100pM以下のKDでヒトIL-11に結合する。
b)たとえばIL-11Rαおよびgp130を共発現した細胞を使用したアッセイなどにおいて、IL-11Rα受容体を介したIL-11のシグナル伝達を抑制する。細胞を使用したアッセイとしては、たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)およびKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような、3H-チミジン取り込みアッセイおよびBa/F3細胞増殖アッセイが好適である。たとえば、IL-11結合性薬剤のIC50値は、IL-11Rαおよびgp130を発現するBa/F3細胞を、ヒトIL-11およびIL-11結合性薬剤の存在下で培養し、DNAへの3H-チミジンの取り込みを測定することによって求めてもよい。このようなアッセイにおける好適なIL-11結合性薬剤のIC50値は、10μg/ml以下であってもよく、好ましくは、5μg/ml以下、4μg/ml以下、3.5μg/ml以下、3μg/ml以下、2μg/ml以下、1μg/ml以下、0.9μg/ml以下、0.8μg/ml以下、0.7μg/ml以下、0.6μg/ml以下または0.5μg/ml以下である。
c)線維芽細胞の増殖(たとえば心臓/心房の線維芽細胞の増殖)を抑制する。この特性は、たとえば、本明細書に記載されているように、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、細胞の増殖を観察するアッセイによって評価することができる。
d)(たとえば心臓/心房の線維芽細胞からの)筋線維芽細胞の形成を抑制する。この特性は、たとえば、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、(たとえばαSMA量の測定などによって)筋線維芽細胞の形成を観察するアッセイによって評価することができる。
e)線維芽細胞(たとえば心臓/心房の線維芽細胞)による細胞外マトリックスの産生を抑制する。この特性は、たとえば、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、細胞外マトリックス成分の産生を測定するアッセイによって評価することができる。
f)線維芽細胞(たとえば心臓/心房の線維芽細胞)におけるコラーゲン遺伝子および/もしくはペリオスチン遺伝子の発現またはコラーゲンタンパク質および/もしくはペリオスチンタンパク質の発現を抑制する。この特性は、たとえば、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、コラーゲン遺伝子および/もしくはペリオスチン遺伝子の発現またはコラーゲンタンパク質および/もしくはペリオスチンタンパク質の発現を測定するアッセイによって評価することができる。
IL-11結合性薬剤はどのような種類のものであってもよいが、いくつかの実施形態においてIL-11結合性薬剤は、抗体、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマー、小分子のいずれであってもよい。
好適な抗IL-11抗体としては、(抗原としての)IL-11に結合するものが好ましく、IL-11はヒトIL-11であることが好ましく、この抗IL-11抗体の解離定数(KD)は、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、100pM以下のいずれであってもよい。標的に対する抗体の結合親和性は、抗体の解離定数(KD)で表されることが多い。結合親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)や、Fabの形態の抗体と抗原分子とを使用して実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)などの、当技術分野で公知の方法によって測定することができる。
抗IL-11抗体は、IL-11の生物学的活性を抑制または低減するアンタゴニスト抗体であってもよい。
抗IL-11抗体は、IL-11の生物学的作用を中和する中和抗体であってもよく、たとえば、様々な作用をもたらすシグナル伝達を、IL-11受容体を介して刺激するIL-11の能力を中和する中和抗体であってもよい。
中和活性は、T11マウス形質細胞腫細胞株においてIL-11誘導性増殖に対する中和能を評価することによって測定してもよい(Nordan, R. P. et al. (1987) J. Immunol. 139:813)。
公知の抗IL-11抗体としては、モノクローナル抗体クローン6D9AおよびクローンKT8(Abbiotec)、クローンM3103F11(BioLegend)、クローン1F1およびクローン3C6(Abnova Corporation)、クローンGF1(LifeSpan Biosciences)、クローン13455(Source BioScience)、ならびにクローン22626(R&Dシステムズ;Bockhorn et al. Nat. Commun. (2013) 4(0):1393において使用された抗体;モノクローナルマウスIgG2A;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)が挙げられる。
抗体は、ヒトIL-6、ヒトCNTF、ヒトLIF、ヒトOSM、ヒトCLCまたはヒトCT-1(たとえば組換えヒトIL-6、組換えヒトCNTF、組換えヒトLIF、組換えヒトOSM、組換えヒトCLCまたは組換えヒトCT-1)の1つ以上との交差反応性を実質的に示さないものを選択してもよい。
ペプチドベースまたはポリペプチドベースのIL-11結合性薬剤は、IL-11受容体を元に作製されたものであってもよく、たとえばIL-11受容体のIL-11結合性断片であってもよい。一実施形態において、好適なIL-11結合性薬剤は、IL-11Rα鎖のIL-11結合性断片を含んでいてもよく、好ましくは可溶性であり、かつ/または1つ以上の膜貫通ドメインを含んでいないか、もしくは膜貫通ドメインを全く含んでいない。このような分子をデコイ受容体と呼んでもよい。
Curtisら(Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12)は、膜貫通型のIL-11Rおよびgp130を発現する細胞で試験した場合、可溶性マウスIL-11受容体α鎖(sIL-11R)がIL-11の活性に対して拮抗作用を発揮することができたことを報告している。この研究では、sIL-11Rの添加によりIL-11に対する拮抗作用が観察されたが、この拮抗作用は、膜貫通型IL-11Rを既に発現している細胞上のgp130分子の数を制限することによって発揮されることが示唆されている。
シグナル伝達の抑制および治療的介入を目的とした可溶性デコイ受容体の使用は、たとえばVEGFおよびVEGF受容体などの他のシグナル伝達分子とその受容体のペアでも報告されている(De-Chao Yu et al., Molecular Therapy (2012); 20 5, 938-947; Konner and Dupont Clin Colorectal Cancer 2004 Oct;4 Suppl 2:S81-5)。
同様に、いくつかの実施形態において、IL-11結合性薬剤はデコイ受容体(たとえば可溶性IL-11受容体)の形態で提供してもよい。デコイ受容体によってIL-11に対する競合が起こり、IL-11に対する拮抗作用が発揮されることが報告されている(Curtisら,上掲)。
デコイIL-11受容体は、IL-11および/またはIL-11含有複合体と結合することによって、gp130受容体、IL-11Rα受容体、および/またはgp130-IL-11Rα受容体へのIL-11および/またはIL-11含有複合体の結合を阻害できることが好ましい。このように、デコイIL-11受容体は、TNFαに対するデコイ受容体として作用するエタネルセプトと非常によく似た方法で、IL-11およびIL-11含有複合体の「デコイ」受容体として作用する。IL-11のシグナル伝達は、デコイ受容体の非存在下でのシグナル伝達量よりも少なくなる。
デコイIL-11受容体は、1つ以上のサイトカイン結合モジュール(CBM)を介してIL-11に結合することが好ましい。CBMは、天然のIL-11受容体分子のCBMであるか、天然のIL-11受容体分子のCBMに由来するものであるか、あるいは、天然のIL-11受容体分子のCBMと相同なものである。たとえば、デコイIL-11受容体は、gp130および/またはIL-11Rαの1つ以上のCBMを含むもの、gp130および/またはIL-11Rαの1つ以上のCBMからなるもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMに由来する1つ以上のCBMを含むもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMに由来する1つ以上のCBMからなるもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMと相同な1つ以上のCBMを含むもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMと相同な1つ以上のCBMからなるもののいずれであってもよい。
いくつかの実施形態において、デコイIL-11受容体は、gp130のサイトカイン結合モジュールに相当するアミノ酸配列を含んでいてもよく、gp130のサイトカイン結合モジュールに相当するアミノ酸配列からなっていてもよい。いくつかの実施形態において、デコイIL-11受容体は、IL-11Rαのサイトカイン結合モジュールに相当するアミノ酸配列を含んでいてもよい。本明細書において、任意のペプチド/ポリペプチドの参照領域または参照配列に「相当する」アミノ酸配列は、参照領域/参照配列のアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有しており、たとえば、参照領域/参照配列のアミノ酸配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有している。gp130、IL-11RαおよびIL-11は任意の生物種に由来するものであってもよく、任意の生物種に由来するアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを含む。
いくつかの実施形態において、デコイ受容体は、たとえば少なくとも100μM以下の結合親和性でIL-11に結合することが可能であってもよく、10μM以下、1μM以下、100nM以下、または約1~100nMの結合親和性でIL-11に結合してもよい。いくつかの実施形態において、デコイ受容体は、IL-11結合ドメインの全体またはその一部を含んでいてもよく、膜貫通ドメインの全体またはその一部を欠損していてもよい。デコイ受容体は、免疫グロブリンの定常領域(たとえばIgG Fc領域)に融合させたものであってもよい。
いくつかの実施形態において、IL-11結合性薬剤はIL-11の小分子阻害物質の形態で提供してもよく、たとえばLay et al., Int. J. Oncol. (2012); 41(2): 759-764に記載のIL-11阻害物質のような形態で提供してもよい。
IL-11受容体(IL-11R)に結合する薬剤は、IL-11のIL-11Rへの結合を遮断することによって、またはgp130共受容体を介したシグナル伝達を阻害することによって、IL-11のシグナル伝達を抑制してもよい。好適なIL-11R結合性薬剤は、IL-11R阻害物質であってもよく、IL-11Rアンタゴニストであってもよい。好ましい実施形態において、IL-11RはIL-11Rαであり、好適な結合性薬剤はIL-11Rαポリペプチドに結合するものであってもよく、IL-11Rαの阻害物質またはアンタゴニストであってもよい。
本発明に係るIL-11R結合性薬剤(たとえば抗IL-11R抗体)は、以下の特性の少なくとも1つを示してもよい。
(a)1μM以下のKD、好ましくは1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下または100pM以下のKDでヒトIL-11Rに結合する。
(b)たとえばIL-11Rαおよびgp130を共発現した細胞を使用したアッセイなどにおいて、IL-11Rのシグナル伝達を抑制する。細胞を使用したアッセイとしては、たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)およびKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような、3H-チミジン取り込みアッセイおよびBa/F3細胞増殖アッセイが好適である。たとえば、IL-11R結合性薬剤のIC50値は、IL-11Rαおよびgp130を発現するBa/F3細胞を、ヒトIL-11およびIL-11R結合性薬剤の存在下で培養し、DNAへの3H-チミジンの取り込みを測定することによって求めてもよい。このようなアッセイにおける好適なIL-11R結合性薬剤のIC50値は、10μg/ml以下であってもよく、好ましくは、5μg/ml以下、4μg/ml以下、3.5μg/ml以下、3μg/ml以下、2μg/ml以下、1μg/ml以下、0.9μg/ml以下、0.8μg/ml以下、0.7μg/ml以下、0.6μg/ml以下または0.5μg/ml以下である。
(c)線維芽細胞の増殖(たとえば心臓/心房の線維芽細胞の増殖)を抑制する。この特性は、たとえば、本明細書に記載されているように、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、細胞の増殖を観察するアッセイによって評価することができる。
(d)(たとえば心臓/心房の線維芽細胞からの)筋線維芽細胞の形成を抑制する。この特性は、たとえば、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、(たとえばαSMA量の測定などによって)筋線維芽細胞の形成を観察するアッセイによって評価することができる。
(e)線維芽細胞(たとえば心臓/心房の線維芽細胞)による細胞外マトリックスの産生を抑制する。この特性は、たとえば、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、細胞外マトリックス成分の産生を測定するアッセイによって評価することができる。
(f)線維芽細胞(たとえば心臓/心房の線維芽細胞)におけるコラーゲン遺伝子および/もしくはペリオスチン遺伝子の発現またはコラーゲンタンパク質および/もしくはペリオスチンタンパク質の発現を抑制する。この特性は、たとえば、線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、コラーゲン遺伝子および/もしくはペリオスチン遺伝子の発現またはコラーゲンタンパク質および/もしくはペリオスチンタンパク質の発現を測定するアッセイによって評価することができる。
IL-11R結合性薬剤はどのような種類のものであってもよいが、いくつかの実施形態においてIL-11R結合性薬剤は、抗体、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマー、小分子のいずれであってもよい。
好適な抗IL-11R抗体としては、(抗原としての)IL-11Rに結合するものが好ましく、IL-11RはヒトIL-11Rであることが好ましく、この抗IL-11R抗体の解離定数(KD)は、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、100pM以下のいずれであってもよい。標的に対する抗体の結合親和性は、抗体の解離定数(KD)で表されることが多い。結合親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)や、Fabの形態の抗体と抗原分子とを使用して実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)などの、当技術分野で公知の方法によって測定することができる。
抗IL-11R抗体は、IL-11Rの生物学的活性を抑制または低減するアンタゴニスト抗体であってもよい。抗IL-11R抗体は、IL-11Rの任意の機能(特にシグナル伝達)を抑制または低減するアンタゴニスト抗体であってもよい。たとえば、IL-11Rアンタゴニスト抗体は、IL-11RへのIL-11の結合を抑制または阻害するものであってもよく、あるいは、(たとえばL-11の結合などに応答して)様々な作用をもたらす機能性受容体複合体がIL-11Rαとgp130の会合によって形成されることを抑制または阻害するものであってもよい。
抗IL-11R抗体は、IL-11Rの生物学的作用を中和する中和抗体であってもよく、たとえば、IL-11との結合に続いて、様々な作用をもたらすシグナル伝達を開始するIL-11Rの能力を中和する中和抗体であってもよい。
中和活性は、T11マウス形質細胞腫細胞株においてIL-11誘導性増殖に対する中和能を評価することによって測定してもよい(Nordan, R. P. et al. (1987) J. Immunol. 139:813)。
公知の抗IL-11R抗体としては、モノクローナル抗体クローン025(Sino Biological)、クローンEPR5446(Abcam)、クローン473143(R&Dシステムズ)、米国特許第2014/0219919(A1)号明細書に記載のクローン8E2および8E4、ならびにBlancら(J. Immunol Methods. 2000 Jul 31;241(1-2);43-59)に記載のモノクローナル抗体が挙げられる。
ペプチドベースまたはポリペプチドベースのIL-11R結合性薬剤は、IL-11を元に作製されたものであってもよく、たとえばIL-11の変異体、バリアントまたは結合性断片であってもよい。好適なペプチドまたはポリペプチドを元に作製された薬剤は、IL-11Rに結合することによってシグナル伝達の開始を阻害したり、不十分なシグナル伝達しか起こさないものであってもよい。このようなタイプのIL-11変異体は、内在性IL-11の競合阻害物質として作用してもよい。
たとえば、W147Aは、147番目のアミノ酸をトリプトファンからアラニンに変異させたことによって、IL-11のいわゆる「部位III」が破壊されたIL-11アンタゴニストである。この変異体はIL-11Rに結合することができるが、gp130ホモダイマーとの会合は起こらず、その結果、IL-11のシグナル伝達が効率的に遮断される(Underhill-Day et al., 2003; Endocrinology 2003 Aug;144(8):3406-14)。また、Leeら(Am J respire Cell Mol Biol. 2008 Dec; 39(6):739-746)は、IL-11RαへのIL-11の結合を特異的に抑制することができるIL-11アンタゴニスト変異体(「突然変異タンパク質」)の作製を報告している。
Menkhorstら(Biology of Reproduction May 1, 2009 vol.80 no.5 920-927)は、雌性マウスにおいてIL-11の作用を効果的に抑制できるペグ化IL-11アンタゴニストPEGIL11A(CSL Limited、オーストラリア、ビクトリア州パークビル)を報告している。
さらに、Pasqualiniら(Cancer (2015) 121(14):2411-2421)は、IL-11Rαに結合することができるリガンド標的ペプチド模倣薬bone metastasis-targeting peptidomimetic-11(BMTP-11)を報告している。
いくつかの実施形態において、IL-11R結合性薬剤は、IL-11Rの小分子阻害物質の形態で提供してもよい。
本発明者らは、IL-11の発現のアップレギュレーションが線維化の分子機構と一致すること、およびIL-11の活性を抑制することによって、分子レベルで線維化を低下させることができることを特定した。したがって、本発明の態様のいくつかにおいて、対象の細胞(たとえば線維芽細胞または筋線維芽細胞)におけるIL-11の発現を阻害または低減することができる薬剤を投与することによって、線維化を治療、予防または緩和してもよい。
好適な薬剤はどのような種類のものであってもよいが、いくつかの実施形態において、IL-11の発現を阻害または低減することができる薬剤は小分子であってもよく、オリゴヌクレオチドであってもよい。
また、Takiら(Clin Exp Immunol. 1998 Apr; 112(1): 133-138)は、インドメタシン、デキサメタゾンまたはインターフェロンγ(IFNγ)で処理したリウマチ滑膜細胞においてIL-11の発現が低下することを報告している。
いくつかの実施形態において、IL-11の発現を阻害または低減することができる薬剤は、IL-11の発現を抑制またはサイレンシングすることができるオリゴヌクレオチドであってもよい。
したがって、本発明は、IL-11の発現をダウンレギュレートすることによって治療を行うための、当技術分野で公知の方法の使用をさらに含む。このような使用は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用およびRNA干渉(RNAi)の使用を包含する。本発明の別の態様で述べているように、これらの方法も線維化の治療において使用してもよい。
したがって、本発明の一態様において、線維化を治療または予防する方法であって、治療を必要とする対象に、IL-11の発現を阻害または低減することができる薬剤の治療有効量を投与することを含み、前記薬剤が、IL-11の発現を抑制またはサイレンシングすることができるオリゴヌクレオチド治療薬を含むベクターを含むことを特徴とする方法が提供される。
本発明の別の一態様において、線維化を治療または予防する方法であって、治療を必要とする対象に、IL-11の発現を阻害または低減することができる薬剤の治療有効量を投与することを含み、前記薬剤が、前記対象の細胞において発現可能なオリゴヌクレオチド治療薬をコードするオリゴヌクレオチドベクター(ウイルスベクターであってもよい)を含むこと、および発現されたオリゴヌクレオチド治療薬が、IL-11の発現を抑制またはサイレンシングすることができることを特徴とする方法が提供される。
IL-11の発現に対する薬剤の阻害能または低減能は、線維芽細胞または筋線維芽細胞(たとえば心臓/心房の線維芽細胞または筋線維芽細胞)におけるIL-11遺伝子またはIL-11タンパク質の発現を抑制する該薬剤の能力を測定することによって評価してもよい。このような能力は、たとえば、線維芽細胞または筋線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、IL-11遺伝子またはIL-11タンパク質の発現を測定するアッセイによって評価することができる。
IL-11の結合と、それに続く様々な作用を制御するシグナル伝達の開始とに利用されるIL-11Rの量を低減することによって、IL-11刺激によるシグナル伝達量を低下させる新たな手段を提供することができる。したがって、本発明の関連する態様のいくつかにおいて、対象の細胞(たとえば線維芽細胞または筋線維芽細胞)におけるIL-11Rの発現を阻害または低減することができる薬剤を投与することによって、線維化を治療、予防または緩和してもよい。
いくつかの実施形態において、IL-11Rの発現を阻害または低減することができる薬剤は、IL-11Rの発現を抑制またはサイレンシングすることができるオリゴヌクレオチドであってもよい。
したがって、本発明は、IL-11Rの発現をダウンレギュレートすることによって治療を行うための、当技術分野で公知の方法の使用をさらに含む。このような使用は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用およびRNA干渉(RNAi)の使用を包含する。本発明の別の態様で述べているように、これらの方法も線維化の治療において使用してもよい。
したがって、本発明の一態様において、線維化を治療または予防する方法であって、治療を必要とする対象に、IL-11Rの発現を阻害または低減することができる薬剤の治療有効量を投与することを含み、前記薬剤が、IL-11Rの発現を抑制またはサイレンシングすることができるオリゴヌクレオチド治療薬を含むベクターを含むことを特徴とする方法が提供される。
本発明の別の一態様において、線維化を治療または予防する方法であって、治療を必要とする対象に、IL-11Rの発現を阻害または低減することができる薬剤の治療有効量を投与することを含み、前記薬剤が、前記対象の細胞において発現可能なオリゴヌクレオチド治療薬をコードするオリゴヌクレオチドベクター(ウイルスベクターであってもよい)を含むこと、および発現されたオリゴヌクレオチド治療薬が、IL-11Rの発現を抑制またはサイレンシングすることができることを特徴とする方法が提供される。
IL-11Rの発現に対する薬剤の阻害能または低減能は、線維芽細胞または筋線維芽細胞(たとえば心臓/心房の線維芽細胞または筋線維芽細胞)におけるIL-11R遺伝子またはIL-11Rタンパク質の発現を抑制する該薬剤の能力を測定することによって評価してもよい。このような能力は、たとえば、線維芽細胞または筋線維芽細胞をIL-11またはTGFβ1で刺激した後、IL-11R遺伝子またはIL-11Rタンパク質の発現を測定するアッセイによって評価することができる。
好ましい実施形態において、IL-11RはIL-11Rαであってもよい。
抗体
本明細書において「抗体」は、抗体の断片または誘導体、および合成抗体または合成抗体断片を含む。
抗体は、単離された形態で提供してもよく、精製された形態で提供してもよい。抗体は、医薬組成物または医薬品として製剤化されてもよい。
近年のモノクローナル抗体技術に関する方法では、大部分の抗原に対して抗体を作製することができる。抗原結合部分は、抗体の一部(たとえばFab断片)であってもよく、合成抗体断片(たとえば一本鎖Fv断片[ScFv])であってもよい。選択された抗原に好適なモノクローナル抗体は、公知の技術によって作製してもよく、このような公知技術としては、たとえば、“Monoclonal Antibodies: A manual of techniques”, H Zola (CRC Press, 1988)に記載されているものや、“Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications ”, J G R Hurrell (CRC Press, 1982)に記載されているものが挙げられる。キメラ抗体は、Neubergerら(1988, 8th International Biotechnology Symposium Part 2, 792-799)によって報告されている。
モノクローナル抗体(mAb)は、本発明の方法に有用であり、抗原上の単一のエピトープを特異的な標的とする均質な抗体集団を指す。
本発明の方法において、ポリクローナル抗体も有用である。単一特異的なポリクローナル抗体が好ましい。好適なポリクローナル抗体は、当技術分野でよく知られている方法を使用して作製することができる。
Fab断片やFab2断片などの、抗体の抗原結合断片を使用/提供してもよく、遺伝子組換え抗体および遺伝子組換え抗体断片を使用/提供してもよい。抗体の重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインは、抗原の認識に関与することがわかっている。このことは、初期のプロテアーゼ消化実験によって最初に見出され、げっ歯類の抗体を「ヒト化」した実験においても確認されている。げっ歯類由来の可変ドメインをヒト由来の定常ドメインに融合させて、げっ歯類由来の親抗体の抗原特異性を保持した抗体を作製することができる(Morrison et al (1984) Proc. Natl. Acad. Sd. USA 81, 6851-6855)。
抗原特異性は可変ドメインによって付与され、定常ドメインとは無関係であることは、いずれも1つ以上の可変ドメインを含む抗体断片を細菌において発現させた実験の結果から知られている。このような抗体断片分子としては、Fab様分子(Better et al (1988) Science 240, 1041);Fv分子(Skerra et al (1988) Science 240, 1038);VHとVLのパートナードメインが柔軟なオリゴペプチドを介して連結された一本鎖Fv(ScFv)分子(Bird et al (1988) Science 242, 423; Huston et al (1988) Proc. Natl. Acad. Sd. USA 85, 5879);および単離されたVドメインを含む単一ドメイン抗体(dAb)(Ward et al (1989) Nature 341, 544)が挙げられる。特異的結合部位を保持する抗体断片の合成において使用される技術の総説は、Winter & Milstein (1991) Nature 349, 293-299に記載されている。
「scFv分子」は、VHとVLのパートナードメインが、たとえば柔軟なオリゴペプチドなどを介して共有結合された分子を意味する。
Fab抗体断片、Fv抗体断片、scFv抗体断片およびdAb抗体断片はいずれも、大腸菌において発現させることによって分泌させることが可能であることから、容易に大量生産することができる。
全長抗体およびF(ab’)2断片は「二価」である。「二価」は、全長抗体およびF(ab’)2断片が、2つの抗原結合部位を有していることを意味する。これに対して、Fab断片、Fv断片、scFv断片およびdAb断片は、1つの抗原結合部位しか持たないため、一価である。IL-11またはIL-11Rに結合する合成抗体も、当技術分野でよく知られているファージディスプレイ技術を使用して作製することができる。
抗体は、非修飾の親抗体と比較して抗原に対する親和性が向上された修飾抗体を作製するための親和性成熟法によって作製してもよい。親和性成熟抗体は、当技術分野で公知の手法によって製造してもよく、親和性成熟抗体を製造するための手法は、たとえば、Marks et al.,Rio/Technology 10:779-783 (1992); Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci. USA 91:3809-3813 (1994); Schier et al. Gene 169:147-155 (1995); Yelton et al. J. Immunol. 155:1994-2004 (1995); Jackson et al., J. Immunol. 154(7):331 0-15 9 (1995);およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226:889-896 (1992)に記載されている。
本発明による抗体は、IL-11またはIL-11Rに結合特異性を示すことが好ましい。標的分子と特異的に結合する抗体は、他の標的に対する結合よりも高い親和性および/または長い持続期間で標的に結合することが好ましい。一実施形態において、たとえばELISAやラジオイムノアッセイ(RIA)で測定した場合、無関係な標的に対する抗体の結合の程度は、標的に対する抗体の結合の程度の約10%未満である。あるいは、結合特異性は、結合親和性で評価してもよく、IL-11またはIL-11Rに対する抗体の結合は、そのKD値が、別の標的分子(たとえばIL-6やIL-6受容体などの、IL-11ファミリーの別のメンバー)に対するKD値の少なくとも0.1のオーダー(すなわち0.1×10n(nは桁数を表す整数))の強い結合を示す。前記オーダーは、少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0のいずれであってもよい。
抗体は検出できるように標識されていてもよく、あるいは少なくとも検出可能であってもよい。このような抗体は、インビボ法(たとえばイメージング法)でも、インビトロ法(たとえばアッセイ法)でも有用である。たとえば、放射性原子、色素分子、蛍光分子、またはその他の任意の方法で容易に検出することができる分子で抗体を標識してもよい。検出可能な分子として好適なものとしては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、酵素基質および放射性標識が挙げられる。結合分子としての抗体は、検出可能な標識で直接標識してもよく、間接的に標識してもよい。たとえば、結合分子は、標識された別の抗体で検出することが可能な、標識されていない抗体であってもよい。あるいは、第2の抗体を介してビオチンを第1の抗体に結合してもよく、標識されたストレプトアビジンをビオチンに結合させて、第1の抗体を間接的に標識することができる。
本発明の態様は、二重特異性抗体を含み、二重特異性抗体は、たとえば、2種の抗体それぞれに由来する2種の断片で構成されており、それによって、2種の抗原に結合することができる。2種の抗原のうちの1つはIL-11またはIL-11Rであり、二重特異性抗体は、本明細書に記載されているような、IL-11またはIL-11Rに結合する断片を含む。二重特異性抗体は、第2の抗原への親和性を有する別の断片を含んでいてもよく、第2の抗原は任意の所望の抗原であってもよい。二重特異性抗体の製造技術は当技術分野でよく知られている。たとえば、Mueller, Dら(2010 Biodrugs 24 (2): 89-98)、Wozniak-Knopp Gら(2010 Protein Eng Des 23 (4): 289-297.)、およびBaeuerle, PAら(2009 Cancer Res 69 (12): 4941-4944)を参照されたい。
いくつかの実施形態において、二重特異性抗体は、2つの一本鎖可変断片の融合タンパク質(scFV)の形態で提供され、このscFVは、IL-11結合抗体もしくはIL-11R結合抗体またはIL-11結合抗体断片もしくはIL-11R結合抗体断片のVHおよびVLと、別の抗体または抗体断片のVHおよびVLとを含む。
二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片は好適な任意の形態で提供されてもよく、たとえば、Kontermann MAbs 2012, 4(2): 182-197(この文献は引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているような形態であってもよい。たとえば、二重特異性抗体または二重特異性抗原結合断片の形態は、二重特異性抗体複合体(たとえばIgG2、F(ab’)2またはCovX-Body)、二重特異性IgGまたはIgG様分子(たとえばIgG、scFv4-Ig、IgG-scFv、scFv-IgG、DVD-Ig、IgG-sVD、sVD-IgG、2 in 1-IgG、mAb2、または軽鎖(LC)が共通化されたTandemab)、非対称性の二重特異性IgGまたはIgG様分子(たとえばkih IgG、軽鎖(LC)が共通化されたkih IgG、CrossMab、kih IgG-scFab、mAb-Fv、電荷対を有するIgG、またはSEED-body)、小さな二重特異性抗体分子(たとえばDiabody(Db)、dsDb、DART、scDb、tandAb、tandem scFv(taFv)、tandem dAb/VHH、triple body、triple head、Fab-scFvまたはF(ab’)2-scFv2)、二重特異性Fc-CH3融合タンパク質(たとえばtaFv-Fc、Di-diabody、scDb-CH3、scFv-Fc-scFv、HCAb-VHH、scFv-kih-FcまたはscFv-kih-CH3)、二重特異性融合タンパク質(たとえばscFv2-アルブミン、scDb-アルブミン、taFv-毒素、DNL-Fab3、DNL-Fab4-IgG、DNL-Fab4-IgG-cytokine2)のいずれであってもよい。具体的には、Kontermann MAbs 2012, 4(2): 182-19の図2を参照されたい。
二重特異性抗体の製造方法としては、たとえばSegal and Bast, 2001. Production of Bispecific Antibodies. Current Protocols in Immunology. 14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16(この文献は引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているように、たとえば還元可能なジスルフィド結合または還元不能なチオエーテル結合を介して、抗体または抗体断片を化学的に架橋する方法が挙げられる。たとえば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオナート(SPDP)を使用して、ヒンジ領域のSH-基を介して、たとえばFab断片を化学的に架橋することによって、ジスルフィド結合で連結された二重特異性F(ab)2ヘテロ二量体を作製することができる。
二重特異性抗体の別の製造方法としては、たとえばD. M. and Bast, B. J. 2001. Production of Bispecific Antibodies. Current Protocols in Immunology. 14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16に記載されているように、抗体を産生するハイブリドーマを、たとえばポリエチレングリコールで融合させて、二重特異性抗体を分泌することができるクアドローマ細胞を作製する方法が挙げられる。
二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片は組換え技術によっても作製することができ、たとえばAntibody Engineering: Methods and Protocols, Second Edition (Humana Press, 2012)のChapter 40: Production of Bispecific Antibodies: Diabodies and Tandem scFv (Hornig and Farber-Schwarz)、またはFrench, How to make bispecific antibodies, Methods Mol. Med. 2000; 40:333-339に記載されているように、たとえば抗原結合分子のポリペプチド配列をコードする核酸コンストラクトから二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片を発現させてもよい。
たとえば、2種の抗原結合ドメインの軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインをコードし(すなわち、IL-11またはIL-11Rに結合することができる抗原結合ドメインの軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインと、別の標的タンパク質に結合することができる抗原結合ドメインの軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインとをコードし)、かつ抗原結合ドメインを連結する適切なリンカーまたは二量体化ドメインをコードする配列を含むDNAコンストラクトは、分子クローニング技術によって作製することができる。次いで、DNAコンストラクトを好適な宿主細胞(たとえば哺乳動物宿主細胞)において(たとえばインビトロで)発現させて、組換え二重特異性抗体を産生させることができ、発現されたこの組換え二重特異性抗体を必要に応じて精製することができる。
アプタマー
核酸リガンドとも呼ばれるアプタマーは、高い特異性および高い親和性で標的分子に結合する能力を有することを特徴とする核酸分子である。現在までに特定されたアプタマーの大部分は非天然分子である。
任意の標的(たとえばIL-11またはIL-11R)に結合するアプタマーは、Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEXTM)法で特定および/または作製してもよい。アプタマーおよびSELEX法は、TuerkおよびGold(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment: RNA ligands to bacteriophage T4 DNA polymerase. Science. 1990 Aug 3;249(4968):505-10)によって報告されており、WO91/19813にも記載されている。
アプタマーはDNA分子であってもよく、RNA分子であってもよく、また、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。また、アプタマーは化学的に修飾された核酸を含んでいてもよく、たとえば、糖、リン酸塩および/または塩基が化学的に修飾された核酸を含んでいてもよい。そのような修飾は、アプタマーの安定性を向上させるものであってもよく、アプタマーに分解抵抗性を付与するものであってもよく、2’位のリボースにおける修飾を含んでいてもよい。
アプタマーは、当業者によく知られている方法によって合成してもよい。たとえば、アプタマーを、たとえば固相支持体上で化学的に合成してもよい。
ホスホロアミダイト法を用いた固相合成法を使用してもよい。具体的には、固相化したヌクレオチドを脱トリチル化した後、適切に活性化されたヌクレオシドホスホロアミダイトとカップリングさせ、亜リン酸トリエステル結合を形成させる。次いでキャッピングを行い、酸化剤(通常ヨウ素)で亜リン酸トリエステルを酸化することができる。このサイクルを繰り返し、アプタマーを構築することができる。
アプタマーは、モノクローナル抗体に相当する核酸と見なすことができ、その多くは、nM領域またはpM領域のKd値を有しており、たとえば500nM未満、100nM未満、50nM未満、10nM未満、1nM未満、500pM未満または100pM未満のKd値を有している。アプタマーは、モノクローナル抗体と同様に、インビトロまたはインビボにおいて標的への結合が必要とされる任意の状況(治療用途や診断用途での使用を含む)のほとんどにおいて有用だと考えられる。体外診断用途は、標的分子の有無の検出における使用を含んでいてもよい。
本発明に係るアプタマーは、精製された形態で提供してもよく、単離された形態で提供してもよい。本発明に係るアプタマーは、医薬組成物または医薬品として製剤化されてもよい。
好適なアプタマーの長さの下限は、10ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長のいずれであってもよい。
好適なアプタマーの長さの上限は、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、41ヌクレオチド長、42ヌクレオチド長、43ヌクレオチド長、44ヌクレオチド長、45ヌクレオチド長、46ヌクレオチド長、47ヌクレオチド長、48ヌクレオチド長、49ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長、51ヌクレオチド長、52ヌクレオチド長、53ヌクレオチド長、54ヌクレオチド長、55ヌクレオチド長、56ヌクレオチド長、57ヌクレオチド長、58ヌクレオチド長、59ヌクレオチド長、60ヌクレオチド長、61ヌクレオチド長、62ヌクレオチド長、63ヌクレオチド長、64ヌクレオチド長、65ヌクレオチド長、66ヌクレオチド長、67ヌクレオチド長、68ヌクレオチド長、69ヌクレオチド長、70ヌクレオチド長、71ヌクレオチド長、72ヌクレオチド長、73ヌクレオチド長、74ヌクレオチド長、75ヌクレオチド長、76ヌクレオチド長、77ヌクレオチド長、78ヌクレオチド長、79ヌクレオチド長、80ヌクレオチド長のいずれであってもよい。
好適なアプタマーの長さは、10ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、41ヌクレオチド長、42ヌクレオチド長、43ヌクレオチド長、44ヌクレオチド長、45ヌクレオチド長、46ヌクレオチド長、47ヌクレオチド長、48ヌクレオチド長、49ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長、51ヌクレオチド長、52ヌクレオチド長、53ヌクレオチド長、54ヌクレオチド長、55ヌクレオチド長、56ヌクレオチド長、57ヌクレオチド長、58ヌクレオチド長、59ヌクレオチド長、60ヌクレオチド長、61ヌクレオチド長、62ヌクレオチド長、63ヌクレオチド長、64ヌクレオチド長、65ヌクレオチド長、66ヌクレオチド長、67ヌクレオチド長、68ヌクレオチド長、69ヌクレオチド長、70ヌクレオチド長、71ヌクレオチド長、72ヌクレオチド長、73ヌクレオチド長、74ヌクレオチド長、75ヌクレオチド長、76ヌクレオチド長、77ヌクレオチド長、78ヌクレオチド長、79ヌクレオチド長、80ヌクレオチド長のいずれであってもよい。
オリゴヌクレオチドを使用した、IL-11またはIL-11Rの発現の抑制
オリゴヌクレオチド分子(特にRNA)を使用して遺伝子の発現を制御してもよい。このようなオリゴヌクレオチド分子としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド;低分子干渉RNA(siRNA)によるmRNAを標的とした分解;転写後遺伝子サイレンシング(PTG);マイクロRNA(miRNA)を使用した、発生過程で調節される配列に特異的なmRNA翻訳の抑制;および標的化された転写遺伝子サイレンシングが挙げられる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的オリゴヌクレオチド(たとえばmRNA)を標的とし、相補配列結合を介してこれに結合するオリゴヌクレオチド(好ましくは一本鎖オリゴヌクレオチド)である。標的オリゴヌクレオチドがmRNAである場合、mRNAにアンチセンスオリゴヌクレオチドが結合することによって、mRNAの翻訳が阻害され、遺伝子産物の発現が阻害される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ゲノム核酸のセンス鎖に結合して標的ヌクレオチド配列の転写を抑制するように設計してもよい。
公知のIL-11の核酸配列(たとえば、アクセッション番号:BC012506.1 GI:15341754(ヒト)、BC134354.1 GI:126632002(マウス)、AF347935.1 GI:13549072(ラット)でGenBank(登録商標)から入手可能な公知のmRNA配列)および公知のIL-11Rの核酸配列(たとえば、アクセッション番号:NM_001142784.2 GI:391353394(ヒト)、NM_001163401.1 GI、254281268(マウス)、NM_139116.1 GI:20806172(ラット)でGenBank(登録商標)から入手可能な公知のmRNA配列)を考慮に入れて、IL-11またはIL-11Rの発現を抑制またはサイレンシングするオリゴヌクレオチドを設計してもよい。このようなオリゴヌクレオチドはどのような長さであってもよいが、短いことが好ましく、たとえば100ヌクレオチド長未満、たとえば10~40ヌクレオチド長、または20~50ヌクレオチド長であってもよく、標的オリゴヌクレオチド(たとえばIL-11 mRNAまたはIL-11R mRNA)中の対応する長さのヌクレオチド配列と、完全な相補性または実質的な相補性(たとえば80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の相補性)を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよい。ヌクレオチド配列の相補領域はどのような長さであってもよいが、少なくとも5ヌクレオチド長であることが好ましく、50ヌクレオチド長以下であってもよく、たとえば、6ヌクレオチド長、7ヌクレオチド長、8ヌクレオチド長、9ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、41ヌクレオチド長、42ヌクレオチド長、43ヌクレオチド長、44ヌクレオチド長、45ヌクレオチド長、46ヌクレオチド長、47ヌクレオチド長、48ヌクレオチド長、49ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長のいずれであってもよい。
IL-11またはIL-11Rの発現を抑制することによって、細胞(たとえば線維芽細胞または筋線維芽細胞)におけるIL-11の発現量またはIL-11Rの発現量が低下することが好ましい。たとえば、適切な核酸の投与により任意の細胞のIL-11またはIL-11Rを抑制することによって、該細胞におけるIL-11の発現量またはIL-11Rの発現量が非処理細胞よりも低下する。抑制は部分的であってもよい。抑制率は少なくとも50%であることが好ましく、少なくとも60%、70%、80%、85%、90%のいずれかであることがより好ましい。抑制率が90%~100%である場合、発現または機能が「サイレンシング」されたと考えられる。
ヘテロクロマチン複合体のターゲティングおよび特定の染色体座位のエピジェネティックな遺伝子サイレンシングにおいて、RNAi機構およびsmall RNAが果たす役割が実証されている。RNA干渉(RNAi)としても知られている二本鎖RNA(dsRNA)依存性転写後サイレンシングは、dsRNA複合体が、特定の遺伝子の相同部分を標的として短期間でサイレンシングすることができる現象である。RNAiは、配列同一性を有するmRNAの分解を促進するシグナルとして作用する。20ntのsiRNAであれば、通常、遺伝子特異的なサイレンシングを誘導するのに十分に長く、宿主応答を回避するのに十分に短い。標的遺伝子産物の発現の低下は、何種類かのsiRNA分子を使用することによって、90%にも達するサイレンシングを誘導することができる。RNAiを用いた治療薬は、様々な適応症を対象に第I相、第II相および第III相の臨床試験まで進んでいる(Nature 2009 Jan 22; 457(7228):426-433)。
当技術分野において、上述のようなRNA配列は、その由来に応じて「短鎖干渉RNAもしくは低分子干渉RNA」(siRNA)または「マイクロRNA」(miRNA)と呼ばれる。これらのRNA配列はいずれも、相補的RNAと結合し、これによりmRNAの排除を誘導することによって(RNAi)、あるいはmRNAからタンパク質への翻訳を阻害することによって、遺伝子発現をダウンレギュレートすることができ、この目的で使用してもよい。siRNAは、長い二本鎖RNAがプロセシングされることによって得られ、天然のsiRNAは、通常、外来性である。マイクロ干渉RNA(miRNA)は、内在性にコードされた小さな非コードRNAであり、短いヘアピン構造がプロセシングされることによって得られる。siRNAおよびmiRNAはいずれも、RNAを切断することなく、部分的に相補的な標的配列を有するmRNAの翻訳を抑制することができ、完全な相補配列を有するmRNAを分解することができる。
したがって、本発明は、IL-11またはIL-11Rの発現をダウンレギュレートするための、オリゴヌクレオチド配列の使用を提供する。
siRNAリガンドは、通常、二本鎖であり、このRNAによる標的遺伝子の機能のダウンレギュレーションの有効性を最適化するためには、siRNAによる標的mRNAの認識を仲介するRISC複合体によってsiRNAが正確に認識されるように十分に長く、かつ宿主応答を低く抑えることができるように十分に短くなるように、siRNA分子の長さを選択することが好ましい。
miRNAリガンドは、通常、一本鎖であり、ヘアピン構造を形成することが可能な部分相補領域を有している。miRNAは、DNAから転写されるが、タンパク質には翻訳されないRNA遺伝子である。miRNA遺伝子をコードするDNA配列はmiRNAよりも長く、miRNA配列と、これとほぼ相補的な逆向きの配列とを含む。このDNA配列が一本鎖RNA分子に転写されると、miRNA配列とその逆相補配列からなる塩基対から、部分的に二本鎖のRNAセグメントが形成される。マイクロRNA配列の設計は、John et al, PLoS Biology, 11(2), 1862-1879, 2004において報告されている。
本発明のRNAリガンドは、概して、siRNAまたはmiRNAの効果を模倣した10~40リボヌクレオチド長のRNA分子(またはその合成類似体)であり、その長さは17~30リボヌクレオチド長であることがより好ましく、19~25リボヌクレオチド長であることがより好ましく、21~23リボヌクレオチド長であることが最も好ましい。二本鎖siRNAを使用した本発明の実施形態のいくつかにおいて、二本鎖siRNA分子は対称な3’末端オーバーハングを有していてもよく、この3’末端オーバーハングは、たとえば1つまたは2つの(リボ)ヌクレオチドであってもよく、通常、3’末端UUまたはdTdTオーバーハングである。当業者であれば、本明細書の開示に基づき、たとえばAmbion siRNA finderなどのライブラリを使用して、適切なsiRNA配列および適切なmiRNA配列を容易に設計することができる。siRNA配列およびmiRNA配列は、合成的に作製し、細胞外から加えることによって遺伝子のダウンレギュレーションを誘導することができ、また、発現系(たとえばベクター)を使用して作製することもできる。好ましい一実施形態において、siRNAは合成的に作製される。
長鎖の二本鎖RNAを細胞内でプロセシングしてsiRNAを作製してもよい(たとえばMyers (2003) Nature Biotechnology 21:324-328を参照されたい)。長鎖dsRNA分子は、対称な3’末端または5’末端オーバーハングを有していてもよく、この3’末端または5’末端オーバーハングは、たとえば1つまたは2つの(リボ)ヌクレオチドであってもよく、あるいは長鎖dsRNA分子は平滑末端を有していてもよい。長鎖dsRNA分子は、25ヌクレオチド長以上であってもよい。長鎖dsRNA分子は、25~30ヌクレオチド長であることが好ましい。長鎖dsRNA分子は、25~27ヌクレオチド長であることがより好ましい。長鎖dsRNA分子は、27ヌクレオチド長であることが最も好ましい。30ヌクレオチド長以上のdsRNAは、pDECAPベクターを使用して発現させてもよい(Shinagawa et al., Genes and Dev., 17, 1340-5, 2003)。
別の方法では、ショートヘアピン構造のRNA分子(shRNA)を細胞において発現させる。shRNAは合成siRNAよりも安定である。shRNAは、短いループ配列で連結された短い逆方向反復配列からなる。一方の逆方向反復配列は、標的遺伝子に相補的である。細胞中においてshRNAは、DICERによるプロセシングを受けてsiRNAになり、このsiRNAが標的遺伝子のmRNAを分解して、その発現を抑制する。好ましい一実施形態において、shRNAは、ベクターからの転写によって内因性に(細胞内で)生成される。shRNAは、RNAポリメラーゼIIIプロモーター(ヒトH1プロモーターやヒト7SKプロモーターなど)またはRNAポリメラーゼIIプロモーターの制御下でshRNA配列をコードするベクターで細胞をトランスフェクトすることによって細胞内で生成させてもよい。あるいは、shRNAは、ベクターからの転写によって外因性に(インビトロで)生成させてもよい。次いで得られたshRNAを細胞内に直接導入してもよい。shRNA分子は、IL-11またはIL-11Rの部分配列を含むことが好ましい。shRNA配列の長さは40~100塩基長であることが好ましく、40~70塩基長であることがより好ましい。ヘアピン構造のステム部分の長さは19~30塩基対であることが好ましい。ステム部分は、ヘアピン構造を安定化させるためにG-U対を含んでいてもよい。
siRNA分子、長鎖dsRNA分子またはmiRNA分子は、(好ましくはベクター内に組み込んだ)核酸配列の転写による組換え技術によって作製してもよい。siRNA分子、長鎖dsRNA分子またはmiRNA分子は、IL-11またはIL-11Rの部分配列を含むことが好ましい。
一実施形態において、siRNA、長鎖dsRNAまたはmiRNAは、ベクターからの転写によって内因性に(細胞内で)生成される。ベクターは、当技術分野で公知の任意の方法で細胞に導入してもよい。これらのRNA配列の発現は、必要に応じて、組織に特異的な(たとえば心臓、肝臓、腎臓または眼に特異的な)プロモーターを使用して制御することができる。さらなる一実施形態において、siRNA、長鎖dsRNAまたはmiRNAは、ベクターからの転写によって外因性に(インビトロで)生成させてもよい。
適切なベクターは、IL-11またはIL-11Rを抑制することができるオリゴヌクレオチド薬を発現するように構成されたオリゴヌクレオチドベクターであってもよい。このようなベクターは、ウイルスベクターであってもよく、プラスミドベクターであってもよい。オリゴヌクレオチド治療薬は、ウイルスベクターのゲノム中に組み込まれてもよく、作動可能に調節配列(たとえば発現を誘導するプロモーター)に連結させてもよい。「作動可能に連結する」とは、選択されたヌクレオチド配列の発現が調節ヌクレオチド配列の影響下または制御下に置かれるように、選択されたヌクレオチド配列と該調節配列とが共有結合で連結されている状態を包含してもよい。したがって、調節配列が、選択されたヌクレオチド配列の全体またはその一部を構成するヌクレオチド配列の転写を誘導することができる場合、該調節配列は、選択されたヌクレオチド配列に作動可能に連結されている。
プロモーターによって発現が誘導されるsiRNA配列をコードするウイルスベクターは、当技術分野で公知であり、オリゴヌクレオチド治療薬を長期にわたって発現できるという利点がある。前記ウイルスベクターとしては、レンチウイルス(Nature 2009 Jan 22; 457(7228):426-433)、アデノウイルス(Shen et al., FEBS Lett 2003 Mar 27;539(1-3)111-4)およびレトロウイルス(Barton and Medzhitov PNAS November 12, 2002 vol.99, no.23 14943-14945)が挙げられる。
別の実施形態において、IL-11またはIL-11Rの発現の抑制が必要とされる部位へのオリゴヌクレオチド治療薬の送達を補助するように構成された担体を使用してもよい。このような担体としては、一般的に、前記オリゴヌクレオチドと複合体化された正電荷を持つ担体(たとえば、細胞透過性カチオン性ペプチド、カチオン性ポリマー、カチオン性デンドリマー、およびカチオン性脂質);前記オリゴヌクレオチドに結合された小分子(たとえば、コレステロール、胆汁酸および脂質)、ポリマー、抗体およびRNA;または、ナノ粒子製剤中にカプセル化された前記オリゴヌクレオチド(Wang et al., AAPS J. 2010 Dec; 12(4): 492-503)が挙げられる。
一実施形態において、ベクターは、核酸配列がRNAとして発現された場合に、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分とが会合して二本鎖RNAが形成されるように、センス鎖方向とアンチセンス鎖方向の両方に核酸配列を含んでいてもよい。
あるいは、siRNA分子は、当技術分野で公知の標準的な固相合成法または液相合成法を使用して合成してもよい。ヌクレオチド間の結合は、リン酸ジエステル結合またはその他の結合であってもよく、たとえば、P(O)S(チオエート);P(S)S(ジチオエート);P(O)NR’2;P(O)R’;P(O)OR6;CO;またはCONR’2(式中、RはH(または塩)またはアルキル(C1~12)であり、R6はアルキル(C1~9)である)の式で表される連結基が、-O-または-S-を介して隣接するヌクレオチドに結合したものが挙げられる。
天然の塩基に加えて、修飾ヌクレオチド塩基を使用することができ、修飾ヌクレオチド塩基は、これらを含むsiRNA分子に有利な特性を付与することができる。
たとえば、修飾塩基は、siRNA分子の安定性を向上させ、それによって、サイレンシングに必要とされるsiRNA分子の量を低減することができる。修飾塩基を付加することによって、未修飾のsiRNAよりも安定性が向上または低下したsiRNA分子を作製することができる。
「修飾ヌクレオチド塩基」は、修飾塩基および/または修飾糖が共有結合されたヌクレオチドを包含する。たとえば、修飾ヌクレオチドとしては、3’位のヒドロキシル基および5’位のリン酸基以外の低分子量有機基が共有結合された糖を有するヌクレオチドが挙げられる。したがって、修飾ヌクレオチドは、さらに、2’-O-メチルリボース、2’-O-アルキルリボース、2’-O-アリルリボース、2’-S-アルキルリボース、2’-S-アリルリボース、2’-フルオロリボース、2’-ハロリボース、2’-アジドリボースなどの2’置換糖;炭素環式糖類似体;α-アノマー糖;アラビノース、キシロース、リキソースなどのエピマー糖;ピラノース糖、フラノース糖、およびセドヘプツロースを含んでいてもよい。
修飾ヌクレオチドは当技術分野で公知であり、たとえば、アルキル化プリン、アルキル化ピリミジン、アシル化プリン、アシル化ピリミジン、その他の複素環が挙げられる。このような部類のピリミジンおよびプリンは当技術分野で公知であり、たとえば、プソイドイソシトシン、N4,N4-エタノシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデニン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンチルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、-D-マンノシルケウオシン、5-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、プソイドウラシル、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、ケウオシン、2-チオシトシン、5-プロピルウラシル、5-プロピルシトシン、5-エチルウラシル、5-エチルシトシン、5-ブチルウラシル、5-ペンチルウラシル、5-ペンチルシトシン、2,6-ジアミノプリン、メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニンおよび1-メチルシトシンが挙げられる。
RNAiを使用して、C.elegans、ショウジョウバエ、植物および哺乳動物の遺伝子をサイレンシングする方法は、当技術分野で公知である(Fire A, et al., 1998 Nature 391:806-811; Fire, A. Trends Genet. 15, 358-363 (1999); Sharp, P. A. RNA interference 2001. Genes Dev. 15, 485-490 (2001); Hammond, S. M., et al., Nature Rev. Genet. 2, 110-1119 (2001); Tuschl, T. Chem. Biochem. 2, 239-245 (2001); Hamilton, A. et al., Science 286, 950-952 (1999); Hammond, S. M., et al., Nature 404, 293-296 (2000); Zamore, P. D., et al., Cell 101, 25-33 (2000); Bernstein, E., et al., Nature 409, 363-366 (2001); Elbashir, S. M., et al., Genes Dev. 15, 188-200 (2001); WO0129058; WO9932619, およびElbashir S M, et al., 2001 Nature 411:494-498)。
したがって、本発明は、IL-11またはIL-11Rを発現する哺乳動物細胞(たとえばヒト細胞)に適切に導入または発現された場合に、RNAi法によってIL-11またはIL-11Rの発現を抑制することができる核酸を提供する。
前記核酸は、GenBankアクセッション番号NM_000641.3 GI:391353405(IL-11)もしくはU32324.1 GI:975336(IL-11R)で示されるIL-11 mRNAもしくはIL-11R mRNAの一部またはこれらのmRNAの相補的配列と実質的な配列同一性を有していてもよい。
前記核酸は二本鎖siRNAであってもよい。(当業者であれば十分に理解できるように、siRNA分子は3’末端に短いDNA配列をさらに含んでいてもよく、これについては以下で詳しく説明する。)
あるいは、前記核酸はDNA(通常二本鎖DNA)であってもよく、このDNAが哺乳動物細胞内で転写されると、スペーサーを介して連結された2つの相補的部分が互いにハイブリダイズしてヘアピン構造をとったRNAが生成される。哺乳動物細胞において、このヘアピン構造部分はDICERと呼ばれる酵素によってRNA分子から切断されて、2種の異なるRNA分子がハイブリダイズされた二本鎖RNAを得ることができる。
好ましい実施形態のいくつかにおいて、前記核酸は、通常、配列番号2~5(IL-11;図11)に示す配列のいずれか1つ、または配列番号7~10(IL-11R;図12)に示す配列のいずれか1つを標的とする。
mRNA転写産物の一本鎖領域(すなわち自己ハイブリダイズしていない領域)のみがRNAiの標的として適していると予想される。したがって、IL-11またはIL-11RのmRNA転写産物うち、配列番号2~5および7~10のいずれかによって示される配列に非常に類似しているその他の配列もRNAiの標的として適していると考えられる。このような標的配列の長さは、17~23ヌクレオチド長であることが好ましく、配列番号2~5および7~10のいずれかと(これらの配列のいずれかの末端で)少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個もしくは18個のヌクレオチドまたは19個のヌクレオチドすべてがオーバーラップしていることが好ましい。
したがって、本発明は、IL-11またはIL-11Rを発現する哺乳動物細胞に適切に導入または発現された場合に、RNAi法によってIL-11またはIL-11Rの発現を抑制することができる核酸を提供し、この核酸は、配列番号2~5および7~10のいずれかで示される配列を通常の標的とする。
「通常の標的とする」とは、前記核酸が、配列番号2~5および7~10のいずれかとオーバーラップする配列を標的としてもよいことを指す。具体的には、前記核酸は、配列番号2~5および7~10のいずれかで示される配列よりもわずかに長いか、またはわずかに短いこと以外はこれらの配列と同一のヒトIL-11 mRNA配列またはヒトIL-11R mRNA配列(好ましくは17~23ヌクレオチド長)を標的としてもよい。
本発明の核酸と標的配列の間で完全な同一性/相補性があることが好ましいが、これは必須ではないと予想される。したがって、本発明の核酸は、IL-11 mRNAまたはIL-11R mRNAと比較して単一塩基ミスマッチを含んでいてもよい。しかしながら、単一塩基ミスマッチであっても、その存在によって効率が低下する可能性が予想されるため、ミスマッチが存在しないことが好ましい。3’末端オーバーハングが存在する場合、3’末端オーバーハングはミスマッチの数として考慮に入れなくてもよい。
「相補性」とは、通常見られるような、天然のリボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドからなる核酸の塩基対合に限定されず、非天然ヌクレオチドを含む本発明の核酸とmRNAの間の塩基対合も包含する。
一実施形態において、前記核酸(本明細書において二本鎖siRNAと呼ぶ)には、図13に示す二本鎖RNA配列(IL-11;配列番号11~14)が包含される。
別の一実施形態において、前記核酸(本明細書において二本鎖siRNAと呼ぶ)には、図14に示す二本鎖RNA配列(IL-11R;配列番号15~18)が包含される。
しかしながら、同じIL-11 mRNA領域またはIL-11R mRNA領域を標的とするわずかに短いか、またはわずかに長い配列でも、効果的であると予想される。具体的には、17~23bpの長さの二本鎖配列でも効果的であると予想される。
前記二本鎖RNAを構成する各鎖は2塩基の短い3’末端オーバーハングを有していてもよく、このオーバーハングはDNAであってもよく、RNAであってもよい。3’末端DNAオーバーハングは、3’末端RNAオーバーハングを使用した場合と比べてsiRNA活性に対する効果が見られないが、核酸鎖を化学合成する際のコストが低くなる(Elbashirら,2001c)。この理由から、2塩基のDNAが好ましい場合がある。
両3’末端に2塩基のオーバーハングが存在する場合、これらのオーバーハングは互いに対称であってもよいが、対称であることが必須ではない。実際、センス鎖(上の鎖)の3’末端オーバーハングは、mRNAの認識と分解に関与しないため、RNAi活性には関連しない(Elbashirら,2001a,2001b,2001c)。
ショウジョウバエでのRNAi実験では、アンチセンス鎖の3’末端オーバーハングがmRNAの認識および標的化に関与している可能性が示されているが(Elbashirら,2001c)、哺乳動物細胞では、3’末端オーバーハングはsiRNAのRNAi活性に必要だとは考えられていない。したがって、3’末端オーバーハングが誤ったアニーリングを起こしても、哺乳動物細胞では影響はほとんどないと考えられる(Elbashirら,2001c;Czaudernaら,2003)。
したがって、siRNAのアンチセンス鎖においては、どのような2塩基オーバーハングを使用してもよいが、2塩基のオーバーハングは-UUまたは-UG(オーバーハングがDNAである場合は-TTまたは-TG)であることが好ましく、-UU(または-TT)であることがより好ましい。-UU(または-TT)からなる2塩基オーバーハングが最も効果的であり、RNAポリメラーゼIIIの転写終結シグナル(転写終結シグナルはTTTTTである)と一致する(すなわち転写終結シグナルの一部を構成することができる)。したがって、この2塩基が最も好ましい。AA、CCおよびGGの2塩基を使用することもできるが、それほど効果的ではなく、よってあまり好ましくない。
さらに、siRNAは3’末端オーバーハングを全く含んでいなくてもよい。
さらに本発明は、前述の二本鎖核酸を構成する各一本鎖からなる一本鎖核酸(本明細書において一本鎖siRNAと呼ぶ)を提供し、この一本鎖siRNAは、3’末端オーバーハングを有していることが好ましいが、3’末端オーバーハングを有していなくてもよい。さらに本発明は、このような一本鎖核酸のペアを含むキットを提供し、これらの一本鎖核酸はインビトロで互いにハイブリダイズして前述の二本鎖siRNAを形成することができ、この二本鎖siRNAは次いで細胞に導入されてもよい。
さらに本発明は、2つの相補的部分が自己ハイブリダイズして二本鎖モチーフを形成することができるRNA(本明細書においてshRNAとも呼ぶ)に哺乳動物細胞中で転写されるDNAを提供し、形成される二本鎖モチーフとしては、たとえば、配列番号11~14および15~18からなる群から選択される配列、または前記配列のいずれかにおいて単一の塩基対が置換されている配列が挙げられる。
前記相補的部分は、通常、スペーサーによって連結され、このスペーサーは、これら2つの相補的部分が互いにハイブリダイズすることが可能となるような適切な長さと配列を有する。2つの相補的部分(すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖)は、5’末端と3’末端で連結されていてもよく、どちらが5’末端側であってもよい。前記スペーサーは、通常、約4~12ヌクレオチド長、好ましくは4~9ヌクレオチド長、より好ましくは6~9ヌクレオチド長の短い配列であってもよい。
前記スペーサーの5’末端(上流の相補的部分の3’末端の直後)は、-UU-または-UG-の2塩基からなることが好ましく、ここでも、-UU-がより好ましい(しかし、ここでも、これらの特定の2塩基の使用は必須ではない)。OligoEngine社(米国ワシントン州シアトル)のpSuperシステムでの使用に推奨される好適なスペーサーはUUCAAGAGAである。このスペーサーやその他のスペーサーを用いた場合、スペーサーの両末端は互いにハイブリダイズされるため、たとえば、配列番号11~14または15~18に示される配列そのものよりも、少数の塩基対(たとえば1塩基対または2塩基対)だけ長い二本鎖モチーフが得られる。
同様に、転写されたRNAは、下流の相補的部分に由来する3’末端オーバーハングを含むことが好ましい。ここでも、このオーバーハングとしては-UUまたは-UGが好ましく、-UUがより好ましい。
このようなshRNA分子は哺乳動物細胞中でDICER酵素によって切断され、前述したような、ハイブリダイズされたdsRNAを構成する各一本鎖のいずれかまたはその両方が3’末端オーバーハングを含む二本鎖siRNAを形成してもよい。
本発明の核酸を合成するための技術は当技術分野においてよく知られていることは言うまでもない。
当業者であれば、よく知られている技術および市販の材料を使用して、本発明のDNAに適した転写ベクターを容易に構築することができるであろう。具体的には、本発明のDNAは、プロモーターや転写終結配列などの調節配列を含む。
OligoEngine社製(米国ワシントン州シアトル)の市販品であるpSuperシステムおよびpSuperiorシステムが特に好適である。これらのシステムでは、ポリメラーゼIIIプロモーター(H1)とT5転写終結配列とを使用しており、T5転写終結配列は転写産物の3’末端に2つのU残基を付加する(この転写産物がDICERでプロセシングされることによって、一方のRNA鎖に3’末端UUオーバーハングが付加されたsiRNAが得られる)。
別の好適なシステムは、Shinら(RNA, 2009 May; 15(5): 898-910)に記載されており、このシステムでは、別のポリメラーゼIIIプロモーター(U6)が使用されている。
本発明の二本鎖siRNAは、IL-11またはIL-11Rの発現を抑制することを目的として、後述するように、公知の技術を使用してインビトロまたはインビボにおいて哺乳動物細胞に導入してもよい。
同様に、本発明のDNAを含む転写ベクターは、IL-11またはIL-11Rの発現を抑制することを目的として、後述するように、公知の技術を使用してインビトロまたはインビボにおいて腫瘍細胞に導入し、RNAを一時的または安定に発現させてもよい。
したがって、本発明はさらに、哺乳動物(たとえばヒト)細胞においてIL-11またはIL-11Rの発現を抑制する方法であって、本発明の二本鎖siRNAまたは本発明の転写ベクターを前記細胞に投与することを含む方法を提供する。
同様に、本発明はさらに、線維化の治療方法であって、本発明の二本鎖siRNAまたは本発明の転写ベクターを対象に投与することを含む方法を提供する。
本発明はさらに、治療方法(好ましくは線維化の治療方法)において使用するための、本発明の二本鎖siRNAおよび本発明の転写ベクターを提供する。
本発明はさらに、線維化の治療用医薬品の製造における、本発明の二本鎖siRNAおよび本発明の転写ベクターの使用を提供する。
本発明はさらに、本発明の二本鎖siRNAまたは本発明の転写ベクターと、1つ以上の薬学的に許容される担体との混合物を含む組成物を提供する。好適な担体としては、細胞膜透過性を向上させることができる親油性担体または小胞が挙げられる。
本発明の二本鎖siRNAおよびDNAベクターの投与に適した材料および方法は当技術分野でよく知られており、RNAi技術は様々な可能性を秘めていることから、改良された方法が開発中である。
核酸を哺乳動物細胞に導入するにあたり、通常、様々な技術を利用することができる。使用する技術は、核酸をインビトロで培養細胞に導入するのか、それともインビボで患者の細胞に導入するのかによって選択される。インビトロにおける哺乳動物細胞への核酸の導入に適した技術としては、リポソームの使用、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、細胞融合法、DEAEデキストラン法およびリン酸カルシウム沈殿法が挙げられる。インビボにおける遺伝子導入技術としては、ウイルスベクター(通常、レトロウイルスベクター)を使用したトランスフェクション、ウイルス外被タンパク質-リポソーム複合体を使用したトランスフェクション(Dzau et al. (2003) Trends in Biotechnology 11, 205-210)が挙げられる。
具体的には、インビトロまたはインビボにおいて本発明の核酸を細胞に投与するのに好適な技術は、以下の文献に記載されている。
総説:Borkhardt, A. 2002. Blocking oncogenes in malignant cells by RNA interference--new hope for a highly specific cancer treatment? Cancer Cell. 2:167-8. Hannon, G.J. 2002. RNA interference. Nature. 418:244-51. McManus, M.T., and P.A. Sharp. 2002. Gene silencing in mammals by small interfering RNAs. Nat Rev Genet. 3:737-47. Scherr, M., M.A. Morgan, and M. Eder. 2003b. Gene silencing mediated by small interfering RNAs in mammalian cells. Curr Med Chem. 10:245-56. Shuey, D.J., D.E. McCallus, and T. Giordano. 2002. RNAi: gene-silencing in therapeutic intervention. Drug Discov Today. 7:1040-6.
リポソームを使用した全身送達:Lewis, D.L., J.E. Hagstrom, A.G. Loomis, J.A. Wolff, and H. Herweijer. 2002. Efficient delivery of siRNA for inhibition of gene expression in postnatal mice. Nat Genet. 32:107-8. Paul, C.P., P.D. Good, I. Winer, and D.R. Engelke. 2002. Effective expression of small interfering RNA in human cells. Nat Biotechnol. 20:505-8. Song, E., S.K. Lee, J. Wang, N. Ince, N. Ouyang, J. Min, J. Chen, P. Shankar, and J. Lieberman. 2003. RNA interference targeting Fas protects mice from fulminant hepatitis. Nat Med. 9:347-51. Sorensen, D.R., M. Leirdal, and M. Sioud. 2003. Gene silencing by systemic delivery of synthetic siRNAs in adult mice. J Mol Biol. 327:761-6.
ウイルスを使用した導入:Abbas-Terki, T., W. Blanco-Bose, N. Deglon, W. Pralong, and P. Aebischer. 2002. Lentiviral-mediated RNA interference. Hum Gene Ther. 13:2197-201. Barton, G.M., and R. Medzhitov. 2002. Retroviral delivery of small interfering RNA into primary cells. Proc Natl Acad Sci U S A. 99:14943-5. Devroe, E., and P.A. Silver. 2002. Retrovirus-delivered siRNA. BMC Biotechnol. 2:15. Lori, F., P. Guallini, L. Galluzzi, and J. Lisziewicz. 2002. Gene therapy approaches to HIV infection. Am J Pharmacogenomics. 2:245-52. Matta, H., B. Hozayev, R. Tomar, P. Chugh, and P.M. Chaudhary. 2003. Use of lentiviral vectors for delivery of small interfering RNA. Cancer Biol Ther. 2:206-10. Qin, X.F., D.S. An, I.S. Chen, and D. Baltimore. 2003. Inhibiting HIV-1 infection in human T cells by lentiviral-mediated delivery of small interfering RNA against CCR5. Proc Natl Acad Sci U S A. 100:183-8. Scherr, M., K. Battmer, A. Ganser, and M. Eder. 2003a. Modulation of gene expression by lentiviral-mediated delivery of small interfering RNA. Cell Cycle. 2:251-7. Shen, C., A.K. Buck, X. Liu, M. Winkler, and S.N. Reske. 2003. Gene silencing by adenovirus-delivered siRNA. FEBS Lett. 539:111-4.
ペプチドの送達:Morris, M.C., L. Chaloin, F. Heitz, and G. Divita. 2000. Translocating peptides and proteins and their use for gene delivery. Curr Opin Biotechnol. 11:461-6. Simeoni, F., M.C. Morris, F. Heitz, and G. Divita. 2003. Insight into the mechanism of the peptide-based gene delivery system MPG: implications for delivery of siRNA into mammalian cells. Nucleic Acids Res. 31:2717-24.標的細胞へのsiRNAの送達に適していると見られる他の技術としては、米国特許第6,649,192(B)号明細書および米国特許第5,843,509(B)号明細書に記載されているような、ナノ粒子またはナノカプセルを使用した方法が挙げられる。
製剤
治療用途において、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤は、当業者によく知られている1つ以上の他の薬学的に許容される成分とともに、医薬品または医薬製剤として製剤化することが好ましい。薬学的に許容される成分としては、薬学的に許容される担体、アジュバント、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝剤、保存剤、抗酸化剤、滑沢剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(たとえば湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、香味剤および甘味剤が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において「薬学的に許容される」とは、合理的なベネフィット・リスク比に相応して、過度の毒性、炎症、アレルギー反応または他の問題や合併症を引き起こすことなく、妥当な医学的判断の範囲内において、投与対象(たとえばヒト)の組織と接触させる使用に適した化合物、成分、材料、組成物、剤形などを指す。さらに、担体、アジュバント、賦形剤などはそれぞれ、製剤中の他の成分との適合性の点において「許容される」ものでなければならない。
好適な担体、アジュバント、賦形剤などは、たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1990;およびHandbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd edition, 1994などの、医薬品についての標準的な教科書に記載されている。
前記製剤は、薬学分野でよく知られている方法であれば、どのような方法で調製してもよい。このような方法は、1つ以上の副成分を構成する担体と活性化合物とを混合する工程を含む。一般に、製剤は、担体(たとえば液体担体、微粉砕された固体担体など)と活性化合物とを均一かつ密に混合し、得られた混合物を必要に応じて成形することによって調製される。
前記製剤は、局所投与経路、非経口投与経路、全身投与経路、静脈内投与経路、動脈内投与経路、筋肉内投与経路、髄腔内投与経路、眼内投与経路、結膜内投与経路、皮下投与経路、経口投与経路、経皮投与経路(注射を含んでいてもよい)で投与される製剤として調製してもよい。注射製剤は、滅菌溶媒または等張溶媒中に選択された薬剤を含んでいていもよい。
投与対象がベネフィットを得るのに十分な量である「治療有効量」で投与することが好ましい。実際の投与量、投与速度および投与後の時間推移は、処置を受けている疾患の特性および重症度に左右される。治療の処方(たとえば用量の決定など)は、一般医および他の分野の医師の責任で行われ、通常、治療の対象となる疾患、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および医師によく知られているその他の要因を考慮に入れて行われる。上述した技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsに記載されている。
線維化
本明細書において「線維化」は、細胞外マトリックス成分(たとえばコラーゲン)の過剰沈着によって引き起こされた過剰な線維性結合組織の形成を指す。線維性結合組織は、コラーゲン含量が高い細胞外マトリックス(ECM)を含むことを特徴とする。コラーゲンは、鎖状コラーゲンまたは線維状コラーゲンとして生成されてもよく、不規則に並んでいてもよく、整列していてもよい。線維性結合組織のECMにはグリコサミノグリカンがさらに含まれていてもよい。
本明細書において「過剰な線維性結合組織」とは、任意の部位(たとえば、任意の組織もしくは臓器、または任意の組織もしくは臓器の一部)における結合組織の量が、線維化が見られない状態(たとえば疾患を有さない正常な状態)の同じ部位に存在する結合組織の量よりも多いことを指す。本明細書において「細胞外マトリックス成分の過剰沈着」とは、1種以上の細胞外マトリックス成分の沈着量が、線維化が見られない状態(たとえば疾患を有さない正常な状態)の沈着量よりも多いことを指す。
線維化の細胞機構および分子機構は、Wynn, J. Pathol. (2008) 214(2): 199-210およびWynn and Ramalingam, Nature Medicine (2012) 18:1028-1040(これらの文献は引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)で報告されている。
線維化の要因となる主な細胞は筋線維芽細胞であり、この細胞は、コラーゲンに富んだ細胞外マトリックスを産生する。
組織損傷が発生すると、損傷を受けた細胞および白血球はこれに応答して、TGFβ、IL-13、PDGFなどの線維化促進因子を産生する。これらの線維化促進因子は、線維芽細胞を活性化させてαSMAを発現する筋線維芽細胞へと分化させ、筋線維芽細胞を損傷部位に動員する。筋線維芽細胞は大量の細胞外マトリックスを産生し、創傷の拘縮および閉鎖を補助する重要なメディエーターとして機能する。しかしながら、持続感染が起こった状態あるいは慢性炎症を発症した場合にも、過剰に活性化された筋線維芽細胞が動員されることがあり、これによって、細胞外マトリックス成分が過剰に産生され、この結果、線維性結合組織が過剰に形成されることがある。
いくつかの実施形態において、線維化は病的状態によって引き起こされたものであってもよく、たとえば、TGFβ1などの線維化促進因子が産生される状態、感染症または病態によって引き起こされたものであってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、物理的損傷/刺激、化学的損傷/刺激または環境的損傷/刺激によって引き起こされたものであってもよい。物理的損傷/刺激は、外科手術(たとえば医原的要因)によって引き起こされたものであってもよい。化学的損傷/刺激としては、薬物によって誘導された線維化(たとえば薬物の長期投与によって誘導された線維化)が挙げられ、このような薬物として、ブレオマイシン、シクロホスファミド、アミオダロン、プロカインアミド、ペニシラミン、金、ニトロフラントインが挙げられる(Daba et al., Saudi Med J 2004 Jun; 25(6): 700-6)。環境的損傷/刺激としては、石綿繊維またはシリカへの暴露が挙げられる。
線維化は様々な生体組織で起こりうる。たとえば、肝臓(たとえば肝硬変)、肺、腎臓、心臓、血管、眼、皮膚、膵臓、腸管、脳および骨髄で線維化が起こることがある。さらに、多臓器で同時に線維化が起こることがある。
本発明の実施形態において、線維化は、消化器系臓器(たとえば肝臓、小腸、大腸、膵臓など)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、呼吸器系臓器(たとえば肺)の線維化であってもよい。実施形態において、線維化は、循環器系臓器(たとえば心臓または血管)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は皮膚の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、神経系臓器(たとえば脳)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、泌尿系臓器(たとえば腎臓)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、筋骨格系臓器(たとえば筋組織)の線維化であってもよい。
好ましい実施形態のいくつかにおいて、線維化は、心臓線維症、心筋線維症、肝線維症または腎線維症である。いくつかの実施形態において、心臓線維症および心筋線維症は、心筋組織の機能不全もしくは心臓の電気的特性の異常、または心臓壁もしくは心臓弁の肥厚に伴うものである。いくつかの実施形態において、線維化は、心房線維症および/または心室線維症である。心房線維症または心室線維症を治療または予防することによって、心房細動、心室細動または心筋梗塞を発症するリスクまたはこれらの疾患の発症を低減することができる。
好ましい実施形態のいくつかにおいて、肝線維症は慢性肝疾患または肝硬変に伴うものである。好ましい実施形態のいくつかにおいて、腎線維症は慢性腎疾患に伴うものである。
本発明に係る線維化を特徴とする疾患/病態としては、肺線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、進行性塊状線維症、強皮症、閉塞性細気管支炎、ヘルマンスキー・パドラック症候群、石綿肺、珪肺症、慢性肺高血圧症、AIDS関連肺高血圧症、サルコイドーシス、間質性肺腫瘍、喘息などの呼吸器疾患;慢性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、住血吸虫性肝疾患、肝硬変;肥大型心筋症、拡張型心筋症(DCM)、心房線維症、心房細動、心室線維症、心室細動、心筋線維症、ブルガダ症候群、心筋炎、心内膜心筋線維症、心筋梗塞、血管線維症、高血圧性心疾患、不整脈源性右室心筋症(ARVC)、尿細管間質性・糸球体線維症、アテローム性動脈硬化症、拡張蛇行静脈、脳梗塞などの心血管疾患;グリオーシスやアルツハイマー病などの神経学的疾患;デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)やベッカー型筋ジストロフィー(BMD)などの筋ジストロフィー;クローン病、顕微鏡的大腸炎、原発性硬化性胆管炎(PSC)などの消化管疾患;強皮症、腎性全身性線維症、皮膚ケロイドなどの皮膚疾患;関節線維症;デュピュイトラン拘縮;縦隔線維症;後腹膜線維症;骨髄線維症;ペイロニー病;癒着性関節包炎;腎疾患(たとえば、腎線維症、腎炎症候群、アルポート症候群、HIV関連腎症、多嚢胞腎、ファブリー病、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、ループス腎炎);進行性全身性硬化症(PSS);慢性移植片対宿主病;グレーブス眼症、網膜前線維症、網膜線維症、網膜下線維症(たとえば、黄斑変性関連線維症(たとえば滲出型加齢黄斑変性(AMD))、糖尿病性網膜症、緑内障、角膜線維症、術後線維症(たとえば白内障手術後の後嚢線維化、緑内障治療のための線維柱帯切除術後の濾過胞線維化)、結膜線維症、結膜下線維症などの眼疾患;関節炎;前腫瘍性線維症および腫瘍性線維症;ならびに化学物質または外部からの刺激(たとえば、がん化学療法、農薬、放射線/がん放射線療法)によって誘導された線維化が挙げられるが、これらに限定されない。
上に挙げた疾患/病態の多くは相互に関連していることがわかる。たとえば、心筋梗塞を発症した後に心室線維症が起こることがあり、さらに心室線維症は、DCM、HCMおよび心筋炎とも関連している。
特定の実施形態において、前記疾患/障害は、肺線維症、心房細動、心室細動、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、慢性腎疾患、強皮症、全身性硬化症、ケロイド、嚢胞性線維症、クローン病、術後線維症および網膜線維症のいずれか1種であってもよい。
本発明による線維化の治療、予防または緩和は、IL-11のアップレギュレーションに伴う線維化に対して行ってもよく、たとえば線維化を起こした細胞もしくは組織、または線維化を起こす恐れのある細胞または組織におけるIL-11のアップレギュレーションに伴う線維化、または細胞外のIL-11またはIL-11Rのアップレギュレーションに伴う線維化に対して行ってもよい。
線維化の治療または緩和は、線維化の進行を予防したり(たとえば病態の悪化を予防したり)、線維化の発症率を低下させたりするのに効果的であってもよい。いくつかの実施形態において、治療または緩和によって、線維化が改善されてもよく、たとえばコラーゲン線維の沈着量が低減されてもよい。
線維化の予防とは、病態の悪化の予防または線維化の発症の予防を指してもよく、たとえば線維化が初期段階から進行して慢性線維症へと移行することを予防することを指してもよい。
対象
治療を受ける対象は、動物であってもよく、ヒトであってもよい。対象は哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。対象は非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることがより好ましい。対象は雄性であってもよく、雌性であってもよい。対象は患者であってもよい。
試料
対象から得られる試料はどのような種類のものであってもよい。生体試料は任意の組織または体液から得てもよく、たとえば、血液試料、血液由来試料、血清試料、リンパ液試料、精液試料、唾液試料、滑液試料のいずれであってもよい。血液由来試料は、患者の血液から得られた画分から選択されたものであってもよく、たとえば、選択された細胞含有画分、血漿画分、血清画分のいずれであってもよい。試料は組織試料もしくは生検試料、または対象から単離した細胞を含んでいてもよい。試料は、生検や穿刺吸引などの公知の技術で回収してもよい。試料は、IL-11の発現量を測定するまで保存し、かつ/またはIL-11の発現量を測定する前に処理を行ってもよい。
対象から得られた試料を使用して、該対象におけるIL-11またはIL-11Rのアップレギュレーションを測定してもよい。
好ましい実施形態のいくつかにおいて、試料は、心臓組織、肝臓組織または腎組織から得られた組織試料(たとえば生検試料)であってもよい。いくつかの実施形態において、試料は眼組織から得られた組織試料(たとえば生検試料)であってもよい。
試料は細胞を含んでいてもよく、好ましくは線維芽細胞および/または筋線維芽細胞を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、線維芽細胞または筋線維芽細胞は、心臓組織、肝臓組織、腎組織のいずれから得られたものであってもよく、たとえば、心臓線維芽細胞または心臓筋線維芽細胞(たとえばColby et al., Circulation Research 2009; 105:1164-1176を参照されたい)、肝線維芽細胞または肝筋線維芽細胞(たとえば、Zeisberg et al., The Journal of Biological Chemistry, August 10, 2007, 282, 23337-23347; Brenner., Fibrogenesis & Tissue Repair 2012, 5(Suppl 1):S17を参照されたい)、腎線維芽細胞または腎筋線維芽細胞(たとえば、Strutz and Zeisberg. JASN November 2006 vol. 17 no. 11 2992-2998を参照されたい)のいずれであってもよい。いくつかの実施形態において、線維芽細胞または筋線維芽細胞は、眼組織から得られたものであってもよく、たとえば、角膜線維芽細胞であってもよい。
IL-11またはIL-11Rの発現のアップレギュレーション
本発明の態様および実施形態のいくつかは、たとえば対象から得られた試料などにおける、IL-11またはIL-11Rの発現の検出に関する。
いくつかの態様および実施形態において、本発明は、(IL-11タンパク質もしくはIL-11Rタンパク質としての、またはIL-11もしくはIL-11Rをコードするオリゴヌクレオチとしての)IL-11またはIL-11Rの発現のアップレギュレーション(過剰発現)と、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤による治療に対する適合性の指標としての、IL-11またはIL-11Rの発現のアップレギュレーションの検出とに関する。
IL-11またはIL-11Rの発現のアップレギュレーションは、IL-11またはIL-11Rの発現量が、任意の種類の細胞または組織において通常予想される発現量よりも大きいことを包含する。アップレギュレーションは、細胞または組織におけるIL-11またはIL-11Rの発現量を測定することによって特定してもよい。対象から得られた細胞試料または組織試料におけるIL-11またはIL-11Rの発現量を、IL-11またはIL-11Rの基準量(たとえば、同じ種類の細胞もしくは組織または対応する種類の細胞もしくは組織におけるIL-11またはIL-11Rの正常な発現量を示す数値または数値範囲)と比較してもよい。いくつかの実施形態において、基準量は、コントロール試料(たとえば、健常者から得られた対応する細胞もしくは組織、または同じ対象の健常組織から得られた対応する細胞もしくは組織)におけるIL-11またはIL-11Rの発現を検出することによって決定してもよい。いくつかの実施形態において、基準量は標準曲線またはデータセットから得てもよい。
発現量は、絶対比較で定量してもよく、あるいは相対比較で定量してもよい。
いくつかの実施形態において、測定用試料中の発現量が基準量の少なくとも1.1倍である場合に、IL-11またはIL-11Rがアップレギュレートされていると考えてもよい。より好ましくは、アップレギュレートされている場合の発現量は、基準量の少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2.0倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3.0倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4.0倍、少なくとも5.0倍、少なくとも6.0倍、少なくとも7.0倍、少なくとも8.0倍、少なくとも9.0倍および少なくとも10.0倍から選択されてもよい。
IL-11またはIL-11Rの発現量は、公知の様々なインビトロ分析法のいずれかによって測定してもよく、公知のインビトロ分析法としては、PCRに基づくアッセイ、インサイチューハイブリダイゼーションアッセイ、フローサイトメトリーアッセイ、免疫学的アッセイ、および免疫組織化学的アッセイが挙げられる。
一例として、好適な技術は、IL-11またはIL-11Rに結合することができる薬剤と試料とを接触させ、IL-11またはIL-11Rと該薬剤とからなる複合体の形成を検出することによって、試料中のIL-11量またはIL-11R量を検出する方法を含む。前記薬剤は、たとえば抗体、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマー、小分子などの適切な任意の結合性分子であってもよく、形成された複合体が検出(たとえば可視化)できるように標識されていてもよい。複合体の検出に適した標識および方法は当技術分野でよく知られており、たとえば、蛍光標識(たとえば、フルオレセイン、ローダミン、エオシン、NDB、緑色蛍光タンパク質(GFP);ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)などの希土類元素キレート;テトラメチルローダミン、テキサスレッド、4-メチルウンベリフェロン、7-アミノ-4-メチルクマリン、Cy3、Cy5)、同位体マーカー、放射性同位元素(たとえば、32P、33P、35S)、化学発光標識(たとえば、アクリジニウムエステル、ルミノール、イソルミノール)、酵素(たとえば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ)、抗体、リガンドおよび受容体が挙げられる。検出技術は当業者によく知られており、標識薬剤に応じて選択することができる。適切な技術としては、オリゴヌクレオチドタグのPCR増幅、質量分析、(たとえばレポータータンパク質による基質の酵素変換によって生成される)蛍光または色の検出、または放射能の検出が挙げられる。
アッセイは、試料中のIL-11量またはIL-11R量を定量できるように構成してもよい。測定試料から定量したIL-11量またはIL-11R量を基準量と比較してもよく、このような比較によって、測定試料中に含まれるIL-11量またはIL-11R量が、選択されたレベルの統計的有意差で基準値よりも高いかどうか、あるいは低いかどうかを判断してもよい。
検出されたIL-11またはIL-11Rを定量することによって、IL-11またはIL-11Rをコードする遺伝子のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションまたは増幅を特定してもよい。測定試料が線維化細胞を含んでいる場合、このようなアップレギュレーション、ダウンレギュレーションまたは増幅を基準量と比較して、統計的有意差の有無を特定してもよい。
対象の選択
IL-11またはIL-11Rの発現量がアップレギュレートされていることが特定された対象を、治療対象として選択してもよい。したがって、IL-11またはIL-11Rは、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤による治療を行うのに適した線維化を示すマーカーとして使用してもよい。
アップレギュレーションは、任意の組織におけるアップレギュレーションであってもよく、任意の組織に由来する選択された細胞におけるアップレギュレーションであってもよい。好ましい組織は、心臓、肝臓、腎臓のいずれであってもよい。好ましい組織は眼であってもよい。好ましい細胞種は、線維芽細胞であってもよく、筋線維芽細胞であってもよい。アップレギュレーションは、循環体液(たとえば血液)において測定してもよく、または血液由来試料において測定してもよい。アップレギュレーションは、細胞外IL-11のアップレギュレーションであってもよく、細胞外IL-11Rのアップレギュレーションであってもよい。
IL-11量またはIL-11R量の測定は、本明細書に記載されているように、対象から得られた試料をアッセイ(好ましくはインビトロアッセイ)で分析することによって行ってもよい。
治療対象を選択した後、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤を前記対象に投与することによって、前記対象の線維化を治療してもよい。
いくつかの実施形態において、前記対象は、線維化を発症していると診断された対象であってもよく、線維化を発症している疑いがある対象であってもよく、線維化発症のリスクが考えられる対象であってもよく、このような対象が、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤を用いた治療のベネフィットを享受できるかどうかが重要視される。このような実施形態において、前記対象に対する前記治療の適合性は、対象においてIL-11またはIL-11Rの発現がアップレギュレートされているかどうかを特定することによって決定してもよい。いくつかの実施形態において、対象におけるIL-11またはIL-11Rの発現は、局所的にアップレギュレートされていてもよく、全身性にアップレギュレートされていてもよい。
診断および予後
IL-11またはIL-11Rの発現のアップレギュレーションの検出は、対象の線維化発症のリスクまたは線維化を診断する方法、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤による治療に対して応答性を示す対象を予測する方法、およびこのような患者の予後を予測する方法において実施してもよい。
いくつかの実施形態において、たとえば、対象の生体における線維化または対象の生体に由来する選択された細胞/組織における線維化を示す他の症状の有無などに基づいて、対象が線維化を発症している疑いがあると判断してもよく、あるいは、たとえば遺伝的素因があること、または環境条件(石綿繊維など)への暴露があることから、線維化発症のリスクがあると考えてもよい。
IL-11またはIL-11Rのアップレギュレーションを特定することによって、線維化の診断または線維化が疑われるという診断を確定してもよく、あるいは、対象の線維化発症のリスクを確定してもよい。また、IL-11またはIL-11Rのアップレギュレーションを特定することによって、特定の状態または素因が、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤による治療に適していると診断してもよい。
したがって、線維化を発症している対象または線維化を発症している疑いのある対象の予後を予測する方法であって、前記対象から得た試料において、IL-11またはIL-11Rがアップレギュレートされているかどうかを特定すること、および特定した結果に基づき、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤を用いた対象の治療の予後を予測することを含む方法を提供してもよい。
いくつかの態様において、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤による治療に対する対象の応答性を診断する方法、このような治療に対する対象の応答性の予後を予測する方法、またはこのような治療に対する対象の応答性を予測する方法は、IL-11量またはIL-11R量の測定を必ずしも必要としないが、IL-11もしくはIL-11Rの発現のアップレギュレーションまたはIL-11もしくはIL-11Rの活性のアップレギュレーションを予測する遺伝因子を前記対象において特定することに基づいていてもよい。そのような遺伝因子としては、IL-11もしくはIL-11Rの発現もしくは活性のアップレギュレーションまたはIL-11のシグナル伝達活性のアップレギュレーションと相関し、かつ/またはこれらを予測可能な、IL-11および/もしくはIL-11Rの遺伝子突然変異、一塩基変異多型(SNP)または遺伝子増幅が挙げられ、これらを特定することを含んでいてもよい。遺伝因子を使用して、病態の素因または治療に対する応答性を予測することは当技術分野で知られており、たとえば、Peter Starkel Gut 2008;57:440-442; Wright et al., Mol. Cell. Biol. March 2010 vol. 30 no. 6 1411-1420に記載されている。
遺伝因子は、PCRに基づくアッセイ、たとえば定量PCRや競合的PCRなどの当業者に公知の方法で分析してもよい。(たとえば対象から得られた試料中において)遺伝因子の有無を特定することによって、線維化の診断を確定してもよく、かつ/または線維化発症のリスクを有する対象として分類してもよく、かつ/またはIL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11Rの発現を阻害もしくは低減することができる薬剤による治療に適した対象として特定してもよい。
いくつかの方法は、IL-11の分泌または線維化発症の感受性に関連した1つ以上のSNPの有無を特定することを含んでいてもよい。SNPは通常、二対立遺伝子であり、したがって、当業者に公知の様々な従来のアッセイのいずれかを使用して容易に特定することができる(たとえば、Anthony J. Brookes. The essence of SNPs. Gene Volume 234, Issue 2, 8 July 1999, 177-186; Fan et al., Highly Parallel SNP Genotyping. Cold Spring Harb Symp Quant Biol 2003. 68: 69-78; Matsuzaki et al., Parallel Genotyping of Over 10,000 SNPs using a one-primer assay on a high-density oligonucleotide array. Genome Res. 2004. 14: 414-425を参照されたい)。
前記方法は、対象から得られた試料中にどのSNPアレルが存在するのかを特定することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、マイナーアレルの有無を特定することによって、IL-11の分泌の増加または線維化発症の感受性を特定してもよい。
したがって、本発明の一態様において、対象のスクリーニング方法であって、前記対象から核酸試料を得ること;ならびに前記試料中において、図33、図34および/もしくは図35に挙げた1つ以上のSNPの多型ヌクレオチドの位置にどのアレルが存在するのかを特定すること、またはこれらの図に挙げたSNPのいずれか1つとr2≧0.8の連鎖不均衡を示すSNPを特定することを含む方法が提供される。
前記方法においてアレルまたはSNPを特定する工程は、試料中において、選択された多型ヌクレオチドの位置のマイナーアレルの有無を特定することを含んでいてもよい。また、前記方法においてアレルまたはSNPを特定する工程は、0個、1個または2個のマイナーアレルの有無を特定することを含んでいてもよい。
前記スクリーニング法は、本明細書に記載の、線維化の発症に対する対象の感受性を特定する方法、または診断方法もしくは予後の予測方法であってもよく、これらの方法の一部を構成してもよい。
前記方法は、たとえば対象が前記多型ヌクレオチド位置にマイナーアレルを有していると特定された場合に、線維化発症の感受性を有しているとして、または線維化発症のリスクが高いものとして対象を特定する工程をさらに含んでいてもよい。前記方法は、インターロイキン11(IL-11)の作用を抑制することができる薬剤による治療を行う対象を選択する工程、および/または対象の線維化を治療するため、もしくは対象の線維化の発症または進行を予防するために、インターロイキン11(IL-11)の作用を抑制することができる薬剤を対象に投与する工程をさらに含んでいてもよい。
特定することができるSNPとしては、図33、図34または図35に挙げた1つ以上のSNPが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記方法は、図33に挙げた1つ以上のSNPを特定することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記方法は、図34に挙げた1つ以上のSNPを特定することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記方法は、図35に挙げた1つ以上のSNPを特定することを含んでいてもよい。SNPは、P値またはFDR(偽発見率)が低いと特定されたことに基づいて選択されてもよい。
いくつかの実施形態において、SNPは、異なる染色体上(trans)に位置するSNPによるVSTstimの制御(図33)に基づいて抗IL-11治療に対する応答性を良好に予測する因子として選択される。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、rs10831850、rs4756936、rs6485827、rs7120273およびrs895468から選択される1つ以上のSNPにおいてどのアレルが存在するのかを特定することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、SNPは、同じ染色体上(cis)に位置するSNPによるVSTstim-VSTunstimの制御(図34)に基づいて抗IL-11治療に対する応答性を良好に予測する因子として選択される。
いくつかの実施形態において、SNPは、異なる染色体上(trans)に位置するSNPによるVSTstim-VSTunstimの制御(図35)に基づいて抗IL-11治療に対する応答性を良好に予測する因子として選択される。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、rs7120273、rs10831850、rs4756936およびrs6485827(図35)から選択される1つ以上のSNPにおいてどのアレルが存在するのかを特定することを含んでいてもよい。
rs7120273 SNP、rs10831850 SNP、rs4756936 SNPおよびrs6485827 SNPは、11番染色体上において互いに強い連鎖不均衡(LD)にあり(いわゆる連鎖不平衡ブロック)、したがって、一緒に遺伝することが大変多い。
遺伝子頻度の相関係数の二乗(r2)は、2つのSNP間の連鎖不均衡(LD)の程度を反映する。近接したSNPが連鎖不均衡(LD)にある場合、これらのゲノム領域は一緒に遺伝することから、タグ/プロキシSNPの遺伝子型を特定することによって、任意のSNPの遺伝子型を推定することができる。タグSNP/プロキシSNPペアを特定するために当技術分野で使用されるLDの閾値は、r2=0.8である(Wang et al. 2005, Nat. Rev. Genet. 6(2): 109-18; Barrett et al. 2006, Nat Genet., 38 (6): 659-662)。したがって、r2≧0.8の連鎖不均衡にあるタグ/プロキシSNPの遺伝子型を特定することによって、任意のSNPの遺伝子型を推定することができる。
SNPのヌクレオチド配列は「rs」番号を使用して示される。SNPの完全長配列は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snpからアクセス可能なNational Center for biotechnology Information(NCBI)の一塩基多型(dbSNP)データベースから入手可能である。
診断方法または予後の予測方法は、対象から得られた試料を用いてインビトロで行ってもよく、あるいは対象から得られた試料を処理した後にインビトロで行ってもよい。試料が採取された患者は、インビトロでの診断方法または予後の予測方法が実施されるまで待機しておく必要はなく、したがって、これらの方法はヒトまたは動物の生体上で実施する必要はない。
本発明の方法は、その他の診断検査または予後検査と併用してもよく、これによって、診断または予後の精度を高めたり、本明細書に記載の試験方法を使用して得られた結果を確定したりすることができる。
本発明の方法は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで行ってもよく、また、本発明の製品は、インビトロ製品、エクスビボ製品またはインビボ製品であってもよい。「インビトロ」は、実験室条件または培養において、材料、生体物質、細胞および/または組織を使用した実験を包含する。これに対して、「インビボ」は、生きたままの多細胞生物を使用した実験および操作を包含する。「エクスビボ」は、たとえばヒトまたは動物の体外などの生体外に存在するもの、または生体外で実施されるものを指し、生物から採取された組織(たとえば臓器全体)または細胞に存在するものや、このような組織または細胞において実施されるものであってもよい。
本発明は、本明細書に記載の複数の態様や複数の好ましい特徴の組み合わせを包含し、そのような組み合わせが明らかに許容できない場合や明らかに回避すべき場合は除かれる。
本明細書において使用された節の見出しは、本発明を系統立てて述べることのみを目的として設けられており、本明細書に記載の主題を制限するものであると解釈すべきではない。
本発明の態様および実施形態を、添付の図面を参照しながら一例として以下に述べる。さらなる態様および実施形態は、当業者であれば容易に理解できるであろう。本明細書において引用された文献はいずれも、本明細書の一部を構成するものとして援用される。
後述の請求項を包含する本明細書を通して、特に記載がない限り、「含む(comprise)」という用語、ならびにこの変化形である「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」という用語は、記載の整数もしくは工程または整数群もしくは工程群を包含すると理解されるが、記載されているもの以外の整数もしくは工程または整数群もしくは工程群を除外するものではない。
本明細書および添付の請求項において使用されているように、単数形の「a」、「an」および「the」は、明確な記載がない限り、複数のものを含むことに留意されたい。本明細書において数値範囲は、「おおよその(about)」特定の値、および/または「おおよその」特定の値から「おおよその」別の特定の値までの範囲として示される。このような範囲が記載されている場合、別の一実施形態は、概数ではない前記特定の値、および/または概数ではない前記特定の値から前記別の特定の値までの範囲を含む。同様に、「約(about)」という先行詞を使用することによって特定の値がおおよその値として記載されている場合、概数ではない前記特定の値によって別の一実施形態を構成することができると理解される。
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の原理を示す実施形態および実験を説明する。
実施例1
線維化反応は、損傷部位で活性化された線維芽細胞内の広範な分子変化を特徴とする。この分子変化における重要なマーカーとしてのIL-11の役割を特定するため、80人のドナーから得た心房線維芽細胞を使用して、トランスフォーミング増殖因子β-1(TGFβ1)による活性化の前および活性化の24時間後に網羅的なRNA発現差解析を実施し、結果を分析した。まず、冠動脈疾患の心臓外科手術を受けた80人のドナーの心房から初代線維芽細胞を得て培養に供した。表現型分析とジェノタイピングを組み合わせたゲノムワイドな発現プロファイリング(RNA-Seq)を実施し、ベースラインにおける線維芽細胞およびTGFβ1(強力な線維化促進刺激)で刺激した後の線維芽細胞をエクスビボで評価した。
IL-11の発現はTGFβ1処理に応答してRNAレベルで有意に誘導され、その発現量は30倍(平均で8倍を超える発現量)に達した。また、IL-11の発現は、他のどの遺伝子の発現よりも高く(図1a,b)、線維芽細胞において発現される約11,500個の遺伝子のうち、IL-11が最も顕著にアップレギュレートされることが示された。このIL-11のアップレギュレーションは、RT-qPCR実験およびELISA実験でも確認され(図1c,d)、活性化された線維芽細胞において、IL-11タンパク質の産生および放出の増加が線維化の主なトリガーとして機能していることが示された。
IL-11が、線維化を引き起こすオートクリンなシグナル伝達因子として作用しているのかどうかを評価するため、刺激していない心房線維芽細胞を組換えIL-11とともにインキュベートし、細胞増殖、筋線維芽細胞の形成、およびコラーゲンとペリオスチンのタンパク質レベルでの発現を測定した。TGFβ1シグナル伝達経路から誘導した場合と同程度のコラーゲン産生の増加、細胞増殖の亢進およびペリオスチン発現の上昇が観察された。したがって、IL-11によって線維芽細胞が活性化され、α-SMA+筋線維芽細胞への分化が誘導された(図2)。
IL-11は、線維化促進作用に加えて、TGFβ1誘導性線維化反応においても極めて重要な役割を果たしていることがわかった。抗ヒトIL-11モノクローナル中和抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)を使用してIL-11を抑制すると、TGFβ1による線維芽細胞の活性化が低下した。このIL-11抗体の存在下において線維芽細胞をTGFβ1とともにインキュベートした場合、細胞外マトリックスタンパク質の産生量は増加しなかった(図3)。
したがって、TGFβ1によって誘導される線維芽細胞の活性化は、IL-11中和抗体によって阻害されることが示された。
実施例2
炎症や組織損傷によって、線維芽細胞の動員、増殖および活性化を引き起こす動的プロセスが刺激されて、細胞外マトリックスが産生され、創傷治癒と瘢痕化が始まる。この線維化反応は、損傷部位で活性化された線維芽細胞内での広範な分子変化を特徴とし、活性化線維芽細胞は、局所細胞および浸潤細胞によって放出される多機能性サイトカインTGFβ1によって誘導されうる。
上述の分子変化において重要な役割を果たしているマーカーを特定するため、80人のドナーから得た心房線維芽細胞を使用して、TGFβ1による処理の前および処理の24時間後にトランスクリプトームシーケンシングを用いた網羅的なRNA発現差解析を実施し、結果を分析した。実施例1で検討したように、IL-11の発現は活性化線維芽細胞において有意にアップレギュレートされ、IL-11の転写反応は、線維化において制御を受ける他のどの遺伝子の転写反応よりも上昇することがこの実験で初めて示された(図4a)。本発明のモデル系におけるIL-11の発現量と、様々なヒト組織におけるIL-11の発現量を比較したところ、IL-11の発現上昇は線維化反応に極めて特異的であることも示され(図4b)、ヒト生体内の線維化の程度を評価するためのマーカーとしてIL-11が理想的であることがわかった。
IL-11が、線維化を引き起こすオートクリン型シグナル伝達因子として作用しているのかどうかをさらに詳しく評価したところ、IL-11 RNAのアップレギュレーションによって(図5a)、心房線維芽細胞からのIL-11の分泌が増加したことが確認された(図5b)。また、線維芽細胞をIL-11とともにインキュベートしてもIL-11 RNAの発現は増加しなかったが(図5c)、線維芽細胞からのIL-11の分泌は増加した(図5d)。これは、IL-11が線維芽細胞に対してオートクリンな作用を発揮し、翻訳レベルでIL-11タンパク質の産生を調節していることを示している。
次に、TGFβ1、組換えIL-11、またはTGFβ1と抗ヒトIL-11モノクローナル中和抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)との組み合わせとともに心房線維芽細胞をインキュベートし、細胞の増殖、筋線維芽細胞の形成、およびタンパク質レベルでのペリオスチンの発現を測定した。TGFβ1またはIL-11で線維芽細胞を刺激した場合と同程度の、活性化線維芽細胞(αSMA陽性細胞)の増加、ペリオスチン産生の亢進および細胞増殖の増加が確認された。IL-11は、線維化促進作用に加えて、TGFβ1誘導性線維化においても極めて重要な役割を果たしていることがわかった。前記中和抗体でIL-11を中和した場合、TGFβ1の線維化促進作用は抑制された(図6a~c)。IL-6、MMP2、TIMP1などの線維化マーカーの分泌を測定したところ、同様のパターンが観察された(図6d~f)。
次に、複数のアッセイを使用して、線維化反応に特徴的に見られるコラーゲンの沈着を、遺伝子発現の様々な制御段階で分析した。予想された通り、TGFβ1によって、細胞内コラーゲン量(図7a)、分泌されたコラーゲン量(図7b)およびコラーゲンRNA量(図7c)が増加することがわかった。IL-11に対する応答はタンパク質レベルでのみ観察され(図7a,b)、RNAレベルでは観察されなかった(図7c)。TGFβ1による刺激とIL-11の抑制とを組み合わせた場合、コラーゲンRNA量は増加したが、TGFβ1によって誘導されたこの効果はタンパク質レベルでは確認されなかった。
様々な線維化促進刺激の下流の線維化におけるIL-11の中心的な役割をさらに詳しく解明するため、4種の組織から得た線維芽細胞集団を使用して、TGFβ1(図8a)、ET-1(図8b)およびPDGF(図8c)に応答したIL-11の発現を評価した。さらに、C57BL/6マウスに組換えIL-11を全身投与し、コラーゲンおよびαSMAの発現を測定した。コラーゲンの産生は腎臓、心臓および肝臓で増加した(図8d)。また、αSMAタンパク質量が増加したことから、活性化された線維芽細胞が心臓および腎臓に多く存在したことが検出された(図8e)。
上述の知見から、線維化におけるIL-11の中心的な役割が新たに実証され、最も重要なことには、IL-11が様々な組織において下流の線維化促進刺激因子として重要な役割を果たしていることが示された。これらの結果から、TGFβ1による転写制御を介してタンパク質に翻訳させるにはIL-11が必要であることが示された。IL-11を抑制すると、トランスクリプトームに対するTGFβ1の線維化促進作用が阻害される(図9)。
実施例3:抗IL-11抗体は線維化促進刺激を抑制する
図3cに結果を示した実験と同様にして、別の線維化促進刺激因子として、アンギオテンシンII(ANG 2)、血小板由来増殖因子(PDGF)およびエンドセリン1(ET-1)に心房線維芽細胞を暴露させ、コラーゲンの産生を測定した。
ANG2、PDGFおよびET-1はいずれも、IL-11 mRNAの発現を誘導しただけでなく、IL-11タンパク質の発現も誘導した。抗ヒトIL-11モノクローナル中和抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)を使用してIL-11を抑制すると、これらの線維化促進刺激因子の線維化促進作用はいずれも遮断されたことから(図10)、IL-11はこれらの主な線維化促進刺激因子(TGFβ1、ANG2、PDGFおよびET-1)の中心的なエフェクターであることが示された。
実施例4:IL-11Rのノックダウン
非標的(NT)siRNAまたはIL11RA1受容体に対する4種のsiRNA(siRNA5~8;図14;配列番号15~18)のいずれかでHEK細胞をトランスフェクトした(24時間)。RNAを抽出し、qPCRでIL11RA1 mRNAの発現を分析した。データをコントロール(NT)に対するmRNAの相対発現量として図15に示す。
実施例5:線維化におけるIL-11の役割
5.1 IL-11は線維化においてアップレギュレートされる
線維芽細胞から活性化筋線維芽細胞への転換を担う分子過程を解明するため、National Heart Centre Singaporeにおいて心臓バイパス手術を受けた200人以上の患者から心房組織を得た。得られた細胞をインビトロで培養し、低継代細胞(継代数:4代未満)を得て、TGFβ1で24時間刺激するか、あるいは刺激を与えなかった。次いで、これらのうち、160人の患者に由来し、この一般的な線維化促進刺激因子TGFβ1で刺激した線維芽細胞あるいは刺激しなかった線維芽細胞を高速RNAシーケンシング(RNA-seq)解析で分析した。平均リード数は1試料あたり約70Mリードであった(ペアエンド:100bp;図16)。
心房線維芽細胞培養が純粋な培養物であったかどうかを確認するため、RNA-seqのデータセットを利用して、心房から得た細胞の内皮細胞マーカー遺伝子、心筋細胞マーカー遺伝子および線維芽細胞マーカー遺伝子の発現を分析した(Hsu et al., 2012 Circulation Cardiovasc Genetics 5, 327-335)。
図17A~17Eに示した結果から、心房線維芽細胞培養が純粋培養であったことが確認できた。
元の組織(ヒト心房組織試料、n=8)および刺激していない初代線維芽細胞培養をRNA-seq解析することによって遺伝子発現を評価した。内皮細胞マーカーであるPECAM1(図17A)と、心筋細胞マーカーであるMYH6(図17B)およびTNNT2(図17C)は、線維芽細胞培養試料において全く検出されないか、非常に低い発現しか検出されなかった。線維芽細胞マーカーであるCOL1A2(図17D)およびACTA2(図17E)は、元の心房組織よりも発現が高かった。
次に、RNA-seqデータを分析して、TGFβ1刺激によって発現が上昇または低下した遺伝子を特定し、GTExプロジェクトから得た35人以上の組織に由来する大きなRNA-seqデータセットに特定した情報を組み込んだ(The GTEx Consortium, 2015 Science 348, 648-660)。これによって、線維芽細胞から筋線維芽細胞への転換に特異的な遺伝子発現シグネチャーの特定が可能となった。
結果を図18A~18Eに示す。線維芽細胞において発現された10000個以上の遺伝子のうち、TGFβ1刺激に応答してIL-11遺伝子が最も強くアップレギュレートされ、160人の患者由来の細胞において平均で10倍を超えるIL-11のアップレギュレーションが確認された(図18A)。
TGFβ1で刺激した線維芽細胞の細胞培養上清をELISAで分析することによって、IL-11発現のアップレギュレーションが確認された(図18C)。健常者の他の組織におけるIL-11の発現量と比較したところ、IL-11発現のアップレギュレーションは活性化線維芽細胞に高い特異性を示すことが認められた(図18D)。また、qPCR分析を行ったところ、IL-11 RNAの発現のfold change値に差があることも確認された(図18E)。
次に、線維芽細胞をインビトロで培養し、様々な公知の線維化促進因子(ET-1、ANGII、PDGF、OSMおよびIL-13)およびヒト組換えIL-11で刺激した。IL-11による刺激に応答して産生されるIL-11のアップレギュレーションの分析に際して、ELISAは細胞から分泌された天然のIL-11のみを検出することができ、刺激に使用した組換えIL-11は検出できないことが確認された(図19B)。
結果を図19Aに示す。いずれの刺激因子も、線維芽細胞からのIL-11の分泌を有意に誘導することがわかった。IL-11は線維芽細胞においてオートクリンループを形成して作用し、この結果、IL-11タンパク質の発現は、72時間後には100倍にもアップレギュレートされることが示された(図19D)。
興味深いことに、IL-11のこのオートクリンループは、オートクリン的なIL-6の産生とよく似ている。IL-6は、IL-11と同じサイトカインファミリーに属し、いずれもgp130受容体を介してシグナルを伝達する(Garbers and Scheller, 2013 Biol Chem 394, 1145-1161)。IL-6は、このような機構で作用することから、肺癌細胞および乳癌細胞の生存持続および増殖に寄与していることが示唆されている(Grivennikov and Karin, 2008 Cancer Cell 13, 7-9)。
IL-11による刺激に応答したIL-11 RNA量の増加は検出されなかった(図19D)。したがって、RNAレベルでもタンパク質レベルでもIL-11の発現を増加させるTGFβ1とは異なり、IL-11は、転写後レベルにおいてのみIL-11の発現をアップレギュレートすると見られる。
5.2 IL-11は心臓組織の線維化において線維化促進作用を発揮する
オートクリン作用によるIL-11の産生が線維化促進性であるのか、それとも線維化抑制性であるのかを調査するため、組換えIL-11とともに線維芽細胞をインビトロ培養し、筋線維芽細胞(αSMA陽性細胞)画分と細胞外マトリックスの産生とを分析した。
Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用した高速かつ自動化された方法で、αSMA、コラーゲンおよびペリオスチンの発現を測定した。これと同時に、MMP2、TIMP1、IL-6などの線維化マーカータンパク質の分泌をELISAアッセイで分析し、シリウスレッドを使用した細胞培養上清の比色定量分析によってコラーゲンの量を確認した。
具体的には、3人のドナーから得た心房線維芽細胞にTGFβ1(5ng/ml)またはIL-11(5ng/ml)で刺激を与えるか、あるいは刺激を与えずに、それぞれ2連のウェルで24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、細胞を染色し、α-SMA含量を分析して筋線維芽細胞の数を推定し、コラーゲン量およびペリオスチン量からECMの産生量を推定した。蛍光は1ウェルあたり7視野で測定した。また、1人のドナーあたり2連のウェルでインキュベートした上清をシリウスレッドで染色してコラーゲン含量を評価した。測定シグナルは、刺激しなかったコントロール群に対して正規化した。線維化マーカーであるIL-6、TIMP1およびMMP2の分泌はELISAで分析した。
結果を図20A~20Fに示す。TGFβ1は線維芽細胞を活性化し、ECMの産生を増加させた(図20A)。予想外にも、科学論文で過去に報告されているような心臓組織におけるIL-11の抗線維化作用とは異なり、組換えIL-11は線維芽細胞培養において筋線維芽細胞画分の増加を誘導し、さらに、TGFβ1と同程度に細胞外マトリックスタンパク質であるコラーゲンとペリオスチンの産生を促進した(図20A)。また、IL-11サイトカインおよびTGFβ1サイトカインはいずれも、線維化促進マーカーであるIL-6、TIMP1およびMMP2の分泌を有意に増加させ(図20B~20E)、これらのサイトカインによる効果は同程度であった。
本発明者らは、心臓組織においてIL-11が線維化促進作用を発揮するという本発明の知見と、抗線維化作用を発揮するという過去の報告との間の不一致は、過去の研究ではげっ歯類に対してヒトIL-11が使用されていたことに関連すると仮定した(Obana et al., 2010, 2012; Stangou et al., 2011; Trepicchio and Dorner, 1998)。
この仮説を評価するため、ヒトIL-11およびマウスIL-11をそれぞれ段階希釈し、これを使用したヒト心房線維芽細胞の活性化を測定した(図20F)。マウス細胞に対してヒトIL-11を使用したところ、低濃度では線維芽細胞の活性化は観察されなかったことから、IL-11の機能に関する過去の報告における知見は、IL-11の非特異的反応を観察したことに一部起因することが示唆された。
5.3 IL-11は様々な組織の線維化において線維化促進作用を発揮する
IL-11の線維化促進作用が心房線維芽細胞に特異的なものであったのかどうかを試験するため、前記と同様にして、様々な組織(心臓、肺、皮膚、腎臓および肝臓)から得たヒト線維芽細胞をインビトロで培養し、ヒトIL-11で刺激し、線維芽細胞の活性化およびECMの産生を分析した。分析した各組織から得た線維芽細胞のいずれにおいても、刺激していない培養と比べて、線維芽細胞の活性化の亢進およびECMの産生の増加が観察された。
5.3.1 肝臓の線維化
IL-11のシグナル伝達が肝臓の線維化において重要な役割を果たしているのかどうかを試験するため、96ウェルプレートのウェル中でヒト初代肝線維芽細胞(Cell Biologics、カタログNo.:H-6019)を培養して低継代細胞を得て、刺激を与えずにインキュベートするか、TGFβ1(5ng/ml、24時間)もしくはIL-11(5ng/ml、24時間)で刺激を与えてインキュベートするか、TGFβ1(5ng/ml)とIL-11中和抗体(2μg/ml)とともにインキュベートするか、またはTGFβ1(5ng/ml)とアイソタイプコントロール抗体とともにインキュベートした。Operettaプラットフォームを使用して、線維芽細胞の活性化(αSMA陽性細胞)、細胞増殖(EdU陽性細胞)およびECMの産生(ペリオスチンおよびコラーゲン)を分析した。
初代ヒト肝線維芽細胞を使用したこれらの実験の結果を図38A~38Dに示す。IL-11は肝線維芽細胞を活性化することが判明し、肝線維芽細胞においてTGFβ1が線維化促進作用を発揮するためには、IL-11のシグナル伝達が必要であることがわかった。線維芽細胞の活性化および増殖はいずれも抗IL-11中和抗体によって抑制された。
5.3.2 皮膚の線維化
IL-11のシグナル伝達が皮膚の線維化において重要な役割を果たしているのかどうかを試験するため、96ウェルプレートのウェル中で初代マウス皮膚線維芽細胞を培養して低継代細胞を得て、刺激を与えずにインキュベートするか、TGFβ1(5ng/ml、24時間)で刺激を与えてインキュベートするか、またはTGFβ1(5ng/ml)とIL-11中和抗体(2μg/ml)とともに24時間インキュベートした。その後、Operettaプラットフォームを使用して線維芽細胞の活性化(αSMA陽性細胞)を分析した。
結果を図39に示す。TGFβ1による皮膚線維芽細胞の活性化は、抗IL-11中和抗体によって抑制された。
5.3.3 様々な臓器の線維化
次に、IL-11がインビボにおいて組織全般の線維化を誘導しうるかどうかを試験するため、マウス組換えIL-11(100μg/kg、週3日、28日間)をマウスに注射した。
結果を図21に示す。AngII(血圧上昇および心肥大を引き起こすサイトカイン)の注射と比較して、IL-11は、体重を基準とした心臓の相対重量だけでなく、腎臓、肺および肝臓の相対重量を増加させた(図21B)。これらの組織中のコラーゲン含量をヒドロキシプロリン定量アッセイで評価したところ、コラーゲンの産生のアップレギュレーションが確認され、臓器の重量の増加は線維化が原因である可能性が高いことが示された(図6C)。実験に供したマウスの心臓、腎臓、肺および肝臓の各組織から単離したRNAをqPCRで分析したところ、線維化マーカー遺伝子であるACTA2(=αSMA)、Col1a1、Col3a1、Fn1、Mmp2およびTimp1の発現も検出された。
実施例6:IL-11/IL-11R拮抗作用の治療有効性
6.1 IL-11/IL-11Rを中和するアンタゴニストを使用した線維化反応の抑制
次に、TGFβ1が線維芽細胞に対して線維化促進作用を発揮した際に、IL-11分泌のオートクリンループが必要とされたのかどうかを調査した。
市販の中和抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)を使用してIL-11を抑制した。この中和抗体の存在下または非存在下において線維芽細胞をTGFβ1で処理し、線維芽細胞の活性化、増殖細胞の割合、ECMの産生および線維化反応マーカーを測定した。
具体的には、3人のドナーから得た心房線維芽細胞を、TGFβ1(5ng/ml)とともに24時間インキュベートするか、または抗IL-11中和抗体もしくはアイソタイプコントロール抗体の存在下においてTGFβ1とともに24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、αSMAの細胞染色により筋線維芽細胞画分を測定し、細胞によるEdUの取り込みの分析により増殖細胞の割合を測定し、ペリオスチンの測定によりECMの産生を測定した。Operettaプラットフォームを使用し、ドナー1人あたり2つのウェルを用いて14視野の蛍光を測定した。さらに、線維化マーカーであるIL-6、TIMP1およびMMP2の分泌をELISAで分析した。蛍光強度は、刺激しなかったコントロール群に対して正規化した。
結果を図22A~22Fに示す。IL-11を抑制することによって、TGFβ1誘導性の線維化が緩和されることが判明し、TGFβ1の線維化促進作用にIL-11が必須であることが示された。また、IL-11を抑制することによって、TGFβ1の表現型がタンパク質レベルで「回復する」ことがわかった。
コラーゲンの産生も分析した。3人のドナーから得た心臓線維芽細胞を、TGFβ1(5ng/ml)のみ、またはTGFβ1とIL-11中和抗体の組み合わせとともに24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、Operettaアッセイを使用して細胞中のコラーゲンを染色し、前記と同様にして蛍光を定量した。また、細胞培養上清中のコラーゲンの分泌量をシリウスレッド染色で評価した。
結果を図23Aおよび図23Bに示す。図に示した結果から、中和抗体を使用してIL-11を抑制したことによる抗線維化作用が確認された。
次に、心房線維芽細胞を使用し、前述のTGFβ1誘導性筋線維芽細胞転換アッセイを使用して、様々なIL-11/IL-11Rアンタゴニストの線維化抑制能についてインビトロで分析した。
具体的には、ヒト心房線維芽細胞に刺激を与えずにインビトロ培養するか、または(i)抗IL-11中和抗体、(ii)IL-11RA-gp130融合タンパク質、(iii)抗IL-11RA中和抗体、(iv)IL-11を標的とするsiRNAによる処理または(v)IL-11RAを標的とするsiRNAによる処理の存在下/非存在下において、TGFβ1(5ng/ml)で24時間刺激してインビトロ培養した。前記と同様にしてαSMAの含量を評価することによって、活性化線維芽細胞(筋線維芽細胞)の割合を分析した。
結果を図24に示す。IL-11とIL-11Rの間のシグナル伝達を標的とするこれらのアンタゴニストはいずれも、TGFβ1によって誘導される線維化促進反応を阻害できることがわかった。
実施例7:IL-11/IL-11Rのシグナル伝達による線維化促進作用のインビボでの確認
7.1 IL-11RA遺伝子ノックアウトマウスから得た細胞を使用したインビトロ研究
マウスをすべて同じケージに収容して飼育し、食餌および水を自由に摂取させた。C57Bl/6を遺伝的背景とし、IL-11Rαの機能性アレルを欠損したマウス(IL-11RA1 KOマウス)を作製した。マウスは9~11週齢であり、体重に有意差はなかった。
IL-11/IL-11Rのシグナル伝達の抑制による抗線維化作用をさらに確認するため、IL-11RA遺伝子ノックアウトマウスから初代線維芽細胞を単離した。IL-11RA+/+(すなわち野生型)マウス、IL-11RA+/-(すなわちヘテロノックアウト)マウスまたはIL-11RA-/-(すなわちホモノックアウト)マウスから採取した初代線維芽細胞を、TGFβ1、IL-11またはAngIIの存在下でインキュベートした。線維芽細胞の活性化と増殖、およびECMの産生を分析した。
IL-11RA+/+マウス、IL-11RA+/-マウスおよびIL-11RA-/-マウスから得た線維芽細胞を、TGFβ1、IL-11またはAngII(5ng/ml)の存在下で24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、αSMA含量を測定するために細胞を染色して筋線維芽細胞画分の割合を推定し、細胞中のEdUを染色して増殖細胞画分を特定し、細胞中のコラーゲンおよびペリオスチンを染色してECMの産生を測定した。蛍光強度はOperettaプラットフォームを使用して測定した。
結果を図25A~25Dに示す。IL-11RA-/-マウスは線維化促進刺激に応答性がないことがわかった。これらの結果から、AngII誘導性線維化においてもIL-11のシグナル伝達が必要であることが示唆された。
次に、他の線維化促進性サイトカインでも同様の結果が得られるかどうかをさらに調査した。具体的には、様々な線維化促進因子(ANG2、ET-1またはPDGF)の存在下/非存在下、および抗IL-11中和抗体またはpan抗TGFβ抗体の存在下/非存在下において、線維芽細胞をインビトロ培養した。24時間後、前記と同様にOperettaシステムを使用して分析することによって細胞のコラーゲン産生を測定し、また、前記と同様にしてαSMAの発現を分析することによって筋線維芽細胞の形成を測定した。
結果を図26Aおよび図26Bに示す。様々な線維化促進刺激の下流の線維化にIL-11が必要であることが判明し、IL-11が、様々な線維化促進因子によって誘導される線維化の中心的なメディエーターであることが特定された。
さらなる実験では、肺線維芽細胞の遊走を観察したインビトロスクラッチアッセイを使用して、肺線維化におけるIL-11のシグナル伝達の役割を調査した。線維芽細胞は、線維化促進刺激に応答して活性化され、生体中の線維化組織のニッチに遊走する。細胞遊走速度は、細胞間相互作用および細胞-マトリックス相互作用の尺度となり、また、インビボ創傷治癒モデルとしても使用できる(Liang et al., 2007; Nat Protoc. 2(2):329-33)。
野生型(WT)およびIL-11RA(-/-)ホモノックアウトマウスの肺組織から線維芽細胞を得て、均一な単一層を形成するまでプラスチック表面で培養し、低継代細胞を得た。細胞層にスクラッチを形成し、刺激の非存在下、またはTGFβ1もしくはIL-11による刺激の存在下において、スクラッチ周囲の細胞遊走を観察した。スクラッチを形成した直後およびその24時間後の2つの時間点で撮影した写真を使用して、遊走細胞で覆われた面積を測定し、WT由来線維芽細胞とKO由来線維芽細胞との間で遊走速度を比較した。細胞の遊走(24時間後に遊走細胞によって覆われたスクラッチの面積)を、刺激を与えなかったWT細胞の遊走速度に対して正規化した。
結果を図40に示す。WTマウスから得た肺線維芽細胞はTGFβ1またはIL-11の存在下において遊走速度が速く、これらのサイトカインがいずれも、肺線維芽細胞において線維化促進作用を発揮することが示された。KOマウスから得たIL-11シグナル伝達欠損細胞は、WT細胞よりも遊走速度が遅かった。また、IL-11シグナル伝達欠損細胞は、TGFβ1の存在下でも遊走速度が遅かった。このスクラッチアッセイの結果から、IL-11シグナル伝達欠損肺線維芽細胞は、ベースライン、TGFβ1の存在下、IL-11の存在下のいずれにおいても、細胞遊走速度が遅いことがわかった。したがって、IL-11のシグナル伝達の抑制は、肺において抗線維化作用を発揮する。
7.2 心臓の線維化
線維症に対するIL-11抑制の治療有効性をインビボで調査した。AngIIで処置することによって線維化を誘導した心線維化マウスモデルを使用して、IL-11RA-/-マウスが心線維化から保護されるかどうかを調査した。
具体的には、野生型(WT)IL-11RA(+/+)マウスおよびノックアウト(KO)IL-11RA(-/-)マウスにポンプを埋植し、AngII(2mg/kg/日)で28日間処置した。実験終了時に、ヒドロキシプロリンを用いた比色定量アッセイキットを使用して、マウス心房中のコラーゲン含量を評価し、線維化マーカーであるCol1A2、α-SMA(ACTA2)およびフィブロネクチン(Fn1)のRNA発現量をqPCRで分析した。
結果を図27A~27Dに示す。IL-11RA-/-マウスはAngIIの線維化促進作用から保護されることがわかった。
7.3 腎臓の線維化
溶媒(0.3M NaHCO3)に溶解した葉酸(180mg/kg)を野生型(WT)IL-11RA(+/+)マウスおよびノックアウト(KO)IL-11RA(-/-)マウスに腹腔内注射することによって、腎線維化マウスモデルを樹立した。コントロールマウスには溶媒のみを投与した。注射の28日後に腎臓を摘出し、重量を測定した後、一部は10%中性緩衝ホルマリンで固定してマッソン・トリクローム染色およびシリウス染色を行い、残りは急速凍結して、コラーゲンアッセイとRNAおよびタンパク質の測定に使用した。
急速凍結した腎臓をTrizol試薬(インビトロジェン)およびキアゲン社のTissueLyzer法で処理した後、RNeasyカラム(キアゲン)精製を行うことによってトータルRNAを抽出した。メーカーの説明書に従ってiScriptTM cDNA synthesis kitを使用し、各反応につきトータルRNAを1μg用いてcDNAを調製した。StepOnePlusTM(アプライドバイオシステムズ)を使用したTaqMan(アプライドバイオシステムズ)法またはfast SYBR green(キアゲン)法によって、三連の試料に対して定量RT-PCR遺伝子発現解析を40サイクルで実施した。発現データはGAPDH mRNAの発現量に対して標準化し、2-ΔΔCt法を使用してfold changeを算出した。さらに、急速凍結した腎臓を、50mg/mlの濃度で6M HCl中で熱することによって酸加水分解した(95℃、20時間)。メーカーの説明書に従って、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、加水分解産物中の総コラーゲン量を定量した。
分析結果を図28に示す。葉酸塩によって誘導される腎線維化は、IL-11のシグナル伝達に依存していることが示された。また、IL-11RA+/+マウスにおいて、腎組織中のコラーゲン含量の有意な増加が観察されたことから、腎線維化を発症していることが示された。IL-11RA-/-マウスでは、コラーゲン含量の有意な増加は認められなかった。毒性傷害誘導後のIL-11シグナル伝達欠損マウスは、野生型マウスと比較して、腎臓中のコラーゲン沈着が有意に少なかった。
7.4 肺の線維化
IL-11RA-/-ノックアウトマウスを使用した別のインビボモデルにおいて、肺、皮膚および眼の線維化の重要なメディエーターとしてのIL-11の役割を確認する。実験の概要を図29A~29Cに示す。
肺の線維化を分析するため、0日目に、IL-11RA-/-マウスおよびIL-11RA+/+マウスにブレオマイシンを気管内投与して肺の線維化反応(肺線維症)を誘導する。21日後までには肺の線維化を発症する。肺の線維化が発症した後、マウスを屠殺し、IL-11シグナル伝達を有するマウスとIL-11シグナル伝達を欠損したマウスの間で線維化マーカーの差異を分析する。IL-11RA-/-マウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、IL-11RA+/+マウスと比較して、肺組織での線維化反応が低下していることがわかる。
7.5 皮膚の線維化
皮膚の線維化を分析するため、0日目に、IL-11RA-/-マウスおよびIL-11RA+/+マウスにブレオマイシンを皮下投与して皮膚の線維化反応を誘導する。28日後までには皮膚の線維化を発症する。皮膚の線維化が発症した後、マウスを屠殺し、IL-11シグナル伝達を有するマウスとIL-11シグナル伝達を欠損したマウスの間で線維化マーカーの差異を分析する。IL-11RA-/-マウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、IL-11RA+/+マウスと比較して、皮膚組織での線維化反応が低下していることがわかる。
7.6 眼の線維化
眼の線維化を分析するため、0日目に、IL-11RA-/-マウスおよびIL-11RA+/+マウスに線維柱帯切除術を行い、眼の創傷治癒反応を誘導する。7日以内に眼の線維化が発症する。線維化反応を測定し、IL-11RA-/-マウスとIL-11RA+/+マウスの間で結果を比較する。IL-11RA-/-マウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、IL-11RA+/+マウスと比較して、眼組織での線維化反応が低下していることがわかる。
7.7 その他の組織
線維化に対するIL-11RAノックアウトの効果を肝臓や腸管などの他の組織の線維化マウスモデルにおいても分析し、さらに、多臓器線維症(すなわち全身性線維症)に関連するモデルでも分析する。線維化反応を測定し、IL-11RA-/-マウスとIL-11RA+/+マウスの間で結果を比較する。IL-11RA-/-マウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、IL-11RA+/+マウスと比較して、線維化反応が低下していることがわかる。
実施例8:IL-11による線維化誘導の分子メカニズムの分析
IL-11の古典的作用機序は、STAT3を介した転写(Zhu et al., 2015 PLoS ONE 10, e0126296)とERKの活性化とによってRNAの発現が制御されることによると考えられている。
IL-11で刺激を与えるとSTAT3の活性化が観察される。しかしながら、TGFβ1とともに線維芽細胞をインキュベートすると、TGFβ1に応答してIL-11が分泌されるにもかかわらず、古典的SMAD経路とERK経路の活性化のみが観察され、STAT3の活性化は観察されない。TGFβ1のシグナル伝達とIL-11のシグナル伝達の唯一の共通点は、ERKの活性化である。
TGFβ1シグナル伝達とIL-6シグナル伝達の間のクロストークは過去に報告されており、IL-6によるSTAT3の活性化をTGFβ1が遮断することが報告されている(Walia et al., 2003 FASEB J. 17, 2130-2132)。IL-6とIL-11は密接に関連していることから、IL-11のシグナル伝達でも、よく似たクロストークが観察されると考えられる。
本発明者らは、RNA-seq解析を利用して、IL-11に応答した線維化マーカータンパク質の発現上昇がRNA量の制御によるかどうかを調査した。RNA量の制御が、IL-11に応答した線維化マーカータンパク質の発現上昇に寄与するメカニズムであるのであれば、IL-11を介した線維化促進プロセスを担うシグナル伝達経路はSTAT3であることが示唆される。刺激の非存在下、またはTGFβ1刺激、IL-11刺激もしくはTGFβ1とIL-11とによる刺激の存在下において線維芽細胞を24時間インキュベートした。
結果を図30Aに示す。TGFβ1は、RNAレベルでコラーゲン、ACTA2(αSMA)および他の線維化マーカーの発現を誘導した。しかしながら、IL-11は、これらの遺伝子の発現を調節せず、別の複数の遺伝子を調節した。
遺伝子オントロジー解析では、線維芽細胞で見られる線維化促進作用は、IL-11によってRNAの発現が制御されることにより誘導されることが示唆されている。TGFβ1とIL-11のそれぞれがRNAレベルで制御する遺伝子は、ほぼ完全に異なっている。
TGFβ1はIL-11の分泌を増加させるが、TGFβ1とIL-11の両方が存在する場合、IL-11の標的遺伝子は制御を受けない。このことから、TGFβ1はIL-11をアップレギュレートすると同時に、STAT3を介してIL-11誘導性の古典的RNA発現制御を遮断することが示唆され、この相互作用は、TGFβ1経路とIL-6経路の相互作用として知られているものとよく似ている(Walia et al., 2003 FASEB J. 17, 2130-2132)。
さらに、IL-11RA-/-マウスから得た線維芽細胞におけるRNA発現の変化をIL-11RA+/+マウスと比較することによって、TGFβ1によって誘導されたRNA発現量の差が、IL-11のシグナル伝達に依存しているかどうかを分析した。IL-11RAノックアウト細胞をTGFβ1で刺激した場合であっても、TGFβ1の調節によるRNA発現が観察され、IL-11のシグナル伝達が存在しなくても(IL-11RA-/-線維芽細胞においても)、αSMA RNA量やコラーゲンRNA量などがアップレギュレートされた。IL-11の線維化促進作用と、IL-11の抑制による抗線維化効果とをインビトロで調査すると、線維化マーカーの発現低下はタンパク質レベルでのみ観察され、qPCRで測定される転写レベルでは見られなかった。
非古典的経路(たとえばERKシグナル伝達)の活性化は、TGFβ1が線維化促進作用を発揮する際に極めて重要な役割を果たしていることが知られている(Guo and Wang, 2008 Cell Res 19, 71-88)。非古典的経路は、公知のあらゆる線維化促進性サイトカインのシグナル伝達にとって重要であると見られ、IL-11は線維化に必須の転写後調節因子であると考えられる。
実施例9:ヒト抗ヒトIL-11抗体
ファージディスプレイ法によって完全ヒト抗ヒトIL-11抗体を構築した。
組換えヒトIL-11(カタログNo. Z03108-1)および組換えマウスIL-11(カタログNo. Z03052-1)をGenScript社(米国ニュージャージー州)から入手した。Fcタグを付加した組換えヒトIL-11およびFcタグを付加していない組換えヒトIL-11をCHO細胞において発現させた。タグを付加していないマウスIL-11はHEK293細胞において発現させた。
組換えヒトIL-11および組換えマウスIL-11のIL-11生体内活性は、初代線維芽細胞培養を使用したインビトロ分析によって確認した。
標準的な方法で組換えヒトIL-11分子および組換えマウスIL-11分子をビオチン化することによって、ビオチン標識組換えヒトIL-11およびビオチン標識組換えマウスIL-11も作製した。
ヒトナイーブライブラリを使用したファージディスプレイ法において、16種のパニング法に基づき、ビオチン標識または非ビオチン標識組換えヒトおよびマウスIL-11を使用してパニングすることによって、ヒトIL-11とマウスIL-11の両方に結合することができる抗体(すなわち交差反応する抗体)を特定した。
ファージディスプレイ法による「第1の検索」では、175種のscFv結合分子が特定された。さらに、CDR配列の配列分析によって、これらの175種のscFvから86種のユニークなscFvが特定された。
大腸菌における組換え発現によって可溶性scFvを作製し、ヒトIL-11およびマウスIL-11への結合力をELISAで分析した。具体的には、各抗原をELISAプレートのウェルにコーティングし、各scFvを含む細胞培養上清を1:2に希釈して加え、結合を検出した。
ELISA分析の結果、以下のscFVが得られた。
・ヒトIL-11のみに結合することができる8種のscFV。
・マウスIL-11のみに結合することができる6種のscFv。
・ヒト/マウスIL-11に弱い結合性しか示さないが、シグナル対ノイズ比が高い32種のscFv。
・ヒトIL-11とマウスIL-11の両方に交差反応性を有する40種のscFv。
これらの86種のscFVから、さらなる機能分析によって56種のscFVが抗体候補として選択された。さらに詳しく分析を行うため、これらのscFVをscFV-Fcの形態で大腸菌にクローニングした。
具体的には、これらの抗体のVH配列およびVL配列を発現ベクターにクローニングして、scFv-Fc(ヒトIgG1)抗体を作製した。無血清培地中で培養した哺乳動物細胞において発現ベクターを一時的に発現させ、プロテインA精製によって単離した。
実施例10:ヒト抗ヒトIL-11抗体の機能分析
実施例9で作製した抗体の(i)ヒトIL-11のシグナル伝達に対する抑制能、および(ii)マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能を評価するため、インビトロアッセイで分析した。さらに、ヒトIL-11に対する前記抗体の親和性をELISAで分析した。
10.1 ヒトIL-11のシグナル伝達に対する抑制能
ヒトIL-11のシグナル伝達に対する中和能について調べるため、前記抗IL-11抗体の存在下または非存在下において、TGFβ1(5ng/ml)を加えた96ウェルプレートの各ウェル中でヒト心房線維芽細胞を24時間培養した。TGFβ1はIL-11の発現を促進することによって、休止期の線維芽細胞を活性化させてαSMA陽性線維芽細胞を誘導することができる。また、IL-11を中和することによって、TGFβ1の誘導によるαSMA陽性線維芽細胞への活性化を阻害できることが過去に報告されている。
αSMAの発現は、Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用した高速かつ自動化された方法で分析した。
刺激を与えなかった培養では、24時間培養後に線維芽細胞の約29.7%(=1)がαSMA陽性の活性化線維芽細胞へと誘導され、これに対して、抗IL-11抗体の非存在下においてTGFβ1で刺激した培養では、線維芽細胞の約52%(=1.81)がαSMA陽性線維芽細胞へと誘導された。
TGFβ1で刺激した線維芽細胞培養に抗IL-11抗体(2μg/ml)を加え、24時間培養後、αSMA陽性線維芽細胞の割合(%)を測定した。αSMA陽性線維芽細胞の割合(%)は、TGFβ1による刺激を与えなかった線維芽細胞培養において観察されたαSMA陽性線維芽細胞の割合(%)に対して標準化した。
28種の抗体が、ヒトIL-11のシグナル伝達に対する中和能を有することが示された。
さらに、市販のマウスモノクローナル抗IL-11抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)についても、ヒトIL-11のシグナル伝達に対する抑制能を実験により分析した。この抗体は、活性化線維芽細胞の割合(%)を28.3%(=0.99)に低下させることができることがわかった。
いくつかのクローンは、(当該分野で標準的な)市販のマウス抗IL-11抗体よりも強力にヒトIL-11のシグナル伝達を中和した。
10.2 マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能
さらに、ヒト心房線維芽細胞の代わりにマウス皮膚線維芽細胞を使用したこと以外は第10.1節に記載した操作と同様にして、マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能について前記ヒト抗体を評価した。
24時間培養後、刺激を与えずに培養した細胞の約31.8%(=1)が活性化線維芽細胞へと誘導された。TGFβ1で刺激すると、活性化線維芽細胞の割合(%)が、刺激を与えなかった培養の約2倍(68.8%=2.16)となった。
前記ヒト抗体は、マウスIL-11のシグナル伝達に対する中和能を有することが示された。また、マウスモノクローナルIgG2Aクローン#22626(カタログNo. MAB218)抗IL-11抗体についても、マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能を分析した。この抗体は、活性化線維芽細胞の割合(%)を39.4%(=1.24)に低下させることができることがわかった。
いくつかのクローンは、(当該分野で標準的な)市販のマウス抗IL-11抗体よりも強力にマウスIL-11のシグナル伝達を中和した。
10.3 ヒトIL-11に対する抗体親和性の分析
前記ヒト抗ヒトIL-11抗体の、ヒトIL-11に対する結合親和性をELISAアッセイで分析した。
組換えヒトIL-11はGenscript社から入手し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ヒトIgG(Fc特異的)抗体はシグマ社から入手した。コーニング社製の96ウェルELISAプレートはシグマ社から入手した。Pierce社製の3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)ELISA基質キットはライフテクノロジーズ社から入手した(0.4g/mL TMB溶液、0.02%過酸化水素のクエン酸バッファー溶液)。ウシ血清アルブミンおよび硫酸はシグマ社から入手した。洗浄バッファーとして、0.05%Tween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS-T)を使用した。前記と同様にしてscFv-Fc抗体を作製した。精製マウスIgGコントロールおよび精製ヒトIgGコントロールは、ライフテクノロジーズ社から購入した。テカン社のInfinite 200 PRO NanoQuantを使用して吸光度を測定した。
Hornbeck et al., (2015) Curr Protoc Immunol 110, 2.1.1-23に記載されている「criss-cross」段階希釈分析法によって、コーティング用抗原、一次抗体および二次抗体の最適濃度を決定した。
過去の報告(Unverdorben et al., (2016) MAbs 8, 120-128.)に従って間接ELISAを実施することによって、50%有効濃度(EC50)におけるscFv-Fc一次抗体の結合親和性を評価した。具体的には、1μg/mLの組換えヒトIL-11をELISAプレートに4℃で一晩かけてコーティングし、未結合部位を2%BSAのPBS溶液でブロッキングした。scFv-Fc抗体を1%BSAのPBS溶液で希釈して滴定し、800ng/mL、200ng/mL、50ng/mL、12.5ng/mL、3.125ng/mL、0.78ng/mL、0.195ng/mLおよび0.049ng/mLの作用濃度として、二連で室温にて2時間インキュベートした。抗原と抗体の結合は、15.625ng/mLのHRP標識抗ヒトIgG(Fc特異的)抗体で検出した。この検出抗体とともに2時間インキュベーションした後、TMB基質100μlを加えて15分間反応させ、2M H2SO4 100μlで発色反応を停止させた。補正のための参照波長を570nmとして、450nmで吸光度を測定した。データのカーブフィッティングは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して実施し、抗体濃度を対数変換した後、非線形回帰分析を行って非対称型(5パラメータ)ロジスティック用量反応曲線を得て各EC50値を決定した。
HRP標識抗ヒトIgGの代わりにHRP標識抗マウスIgG(H&L)を使用したこと以外は同じ材料を使用し、前記の操作と同様にして、前記マウスモノクローナル抗IL-11抗体の結合親和性を測定した。
前記と同じ材料を使用し、前記の操作と同様にして、Genscript社から入手した組換えマウスIL-11に対する前記ヒトモノクローナル抗IL-11抗体および前記マウスモノクローナル抗IL-11抗体の結合親和性を測定した。
ELISAアッセイの結果を使用して、各抗体のEC50値を決定した。
10.4 様々な組織におけるヒトIL-11のシグナル伝達に対する抑制能
ヒト心房線維芽細胞の代わりに、肝臓、肺、腎臓、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管、脳および骨髄から得たヒト線維芽細胞を実験に使用すること以外は第10.1節と実質的に同様にして、様々な組織から得られた線維芽細胞におけるIL-11のシグナル伝達に対する中和能について前記抗体を評価する。
抗IL-11抗体の存在下で24時間培養後のαSMA陽性線維芽細胞の割合が、該抗体の非存在下での培養と比較して相対的に低下していることが観察された場合に、該抗IL-11抗体が、様々な組織から得られた線維芽細胞においてシグナル伝達を中和できることが実証される。
実施例11:抗IL-11抗体を使用したインビボにおける線維化の抑制
インビボ線維化マウスモデルにおいて、前記抗ヒトIL-11抗体の様々な組織に対する治療的有用性が示される。
11.1 心臓の線維化
マウスにポンプを埋植し、AngII(2mg/kg/日)で28日間処置を行う。
抗IL-11中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。実験終了時に、ヒドロキシプロリンを用いた比色定量アッセイキットを使用して、マウス心房中のコラーゲン含量を評価し、線維化マーカーであるCol1A2、α-SMA(ACTA2)およびフィブロネクチン(Fn1)のRNA発現量をqPCRで分析する。
抗IL-11中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、心臓組織での線維化反応が低下していることがわかる。
11.2 腎臓の線維化
溶媒(0.3M NaHCO3)に溶解した葉酸(180mg/kg)を腹腔内注射することによって線維化を誘導した腎線維化マウスモデルを樹立する。コントロールマウスには溶媒のみを投与した。
抗IL-11中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。28日目に腎臓を摘出し、重量を測定した後、一部は10%中性緩衝ホルマリンで固定してマッソン・トリクローム染色およびシリウス染色を行い、残りは急速凍結して、コラーゲンアッセイとRNAおよびタンパク質の測定に使用する。
急速凍結した腎臓をTrizol試薬(インビトロジェン)およびキアゲン社のTissueLyzer法で処理した後、RNeasyカラム(キアゲン)精製を行うことによってトータルRNAを抽出する。メーカーの説明書に従ってiScriptTM cDNA synthesis kitを使用し、各反応につきトータルRNAを1μg用いてcDNAを調製する。StepOnePlusTM(アプライドバイオシステムズ)を使用したTaqMan(アプライドバイオシステムズ)法またはfast SYBR green(キアゲン)法によって、三連の試料に対して定量RT-PCR遺伝子発現解析を40サイクルで実施する。発現データはGAPDH mRNAの発現量に対して標準化し、2-ΔΔCt法を使用してfold changeを算出する。さらに、急速凍結した腎臓を、50mg/mlの濃度で、6M HCl中で熱することによって酸加水分解する(95℃、20時間)。メーカーの説明書に従って、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、加水分解産物中の総コラーゲン量を定量する。
抗IL-11中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、腎組織での線維化反応が低下していることがわかる。
11.3 肺の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを気管内投与して処置し、肺の線維化反応(肺線維症)を誘導する。
抗IL-11中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
抗IL-11中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、肺組織での線維化反応が低下していることがわかる。
11.4 皮膚の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを皮下投与して処置し、皮膚の線維化反応を誘導する。
抗IL-11中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
抗IL-11中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、皮膚組織での線維化反応が低下していることがわかる。
11.5 眼の線維化
0日目に、マウスに線維柱帯切除術を行い、眼の創傷治癒反応を誘導する。
抗IL-11中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与し、眼組織の線維化を観察する。
抗IL-11中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、眼組織での線維化反応が低下していることがわかる。
11.6 その他の組織
線維化に対する抗IL-11中和抗体の治療効果を、肝臓、腎臓、腸管などの他の組織の線維化マウスモデルにおいても分析し、さらに、多臓器線維症(すなわち全身性線維症)に関連するモデルでも分析する。
抗IL-11中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化反応が低下していることがわかる。
実施例12:抗ヒトIL-11Rα抗体
ヒトIL-11Rαタンパク質を標的とするマウスモノクローナル抗体を以下のようにして作製した。
ヒトIL-11Rαのアミノ酸配列をコードするcDNAを発現プラスミド(Aldevron GmbH、ドイツ、フライブルク)にクローニングした。
ハンドヘルドタイプの装置を使用したパーティクルガン法(「遺伝子銃法」)によって、DNAをコーティングした金粒子を皮内投与することによりマウスの免疫化を行った。複数回の免疫処置を行った後、マウスから血清試料を採取し、ヒトIL-11Rα発現プラスミドを一時的にトランスフェクトしたHEK細胞に対するフローサイトメトリーで試験した(一時的にトランスフェクトしたHEK細胞によるヒトIL-11Rαの細胞表面発現は、該IL-11Rαタンパク質のN末端に付加したタグを認識する抗タグ抗体で確認した)。
マウスから抗体産生細胞を単離し、標準的な手順に従ってマウスミエローマ細胞(Ag8)と融合させた。
フローサイトメトリーを使用して、IL-11Rα発現HEK細胞に対する結合能をスクリーニングすることによって、IL-11Rαに特異的な抗体を産生するハイブリドーマを特定した。
RNA保護剤(RNAlater、カタログNo. AM7020、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、陽性ハイブリドーマ細胞の細胞ペレットを調製し、さらに処理して、抗体の可変ドメインの配列分析を行った。
配列分析は、メーカーの説明書に従って、BigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit(ライフテクノロジーズ(登録商標))を使用して行った。データはすべて、3730xl DNAアナライザシステムおよびUnified Data Collectionソフトウェア(ライフテクノロジーズ)を使用して収集した。配列アセンブリングは、CodonCode Aligner(CodonCode Corporation)を使用して行った。ミックスベースコールは、最も存在比の高いベースコールを自動的にアサインすることによって割り当てた。存在比は、ベースコールの頻度および各ベースコールのクオリティ値から求めた。
合計で17種のマウスモノクローナル抗ヒトIL-11Rα抗体クローンが作製された。
実施例13:抗ヒトIL-11Rα抗体の機能分析
13.1 ヒトIL-11/IL-11Rのシグナル伝達に対する抑制能
ヒトIL-11/IL-11Rのシグナル伝達に対する中和能について各抗IL-11Rα抗体を評価するため、各抗IL-11Rα抗体の存在下または非存在下において、TGFβ1(5ng/ml)を加えた96ウェルプレートの各ウェル中でヒト心房線維芽細胞を24時間培養した。この線維化促進刺激因子(TGFβ1)はIL-11の発現を促進することによって、休止期の線維芽細胞を活性化させてαSMA陽性線維芽細胞を誘導することができる。また、IL-11を中和することによって、TGFβ1によって誘導されるαSMA陽性線維芽細胞への活性化を阻害できることが過去に報告されている。
TGFβ1で刺激した線維芽細胞培養に抗IL-11Rα抗体(2μg/ml)を加え、24時間培養後、αSMA陽性線維芽細胞の割合(%)を測定した。αSMA陽性線維芽細胞の割合(%)は、TGFβ1による刺激を与えなかった線維芽細胞培養において観察されたαSMA陽性線維芽細胞の割合(%)に対して標準化した。
αSMAの発現は、Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用した高速かつ自動化された方法で分析した。
抗IL-11Rα抗体の非存在下においてTGFβ1で刺激して24時間培養した細胞では、αSMA陽性の活性化線維芽細胞の数が1.58倍となった。
また、市販のマウスモノクローナル抗IL-11抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)をコントロールとして使用した。この抗体は、活性化線維芽細胞の割合(%)を、非刺激下(すなわちTGFβ1刺激の非存在下)で培養した場合の0.89倍に低下させることができることがわかった。
前記抗IL-11Rα抗体はいずれも、ヒト線維芽細胞におけるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制できることが判明し、そのうちのいくつかは、市販のモノクローナルマウス抗IL-11抗体よりも強力にIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することができた。
13.2 マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能
ヒト心房線維芽細胞の代わりにマウス心房線維芽細胞を使用したこと以外は第13.1節に記載した操作と同様にして、マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能について前記抗IL-11Rα抗体を評価した。
抗IL-11Rα抗体の非存在下においてTGFβ1で刺激して24時間培養した細胞では、αSMA陽性の活性化線維芽細胞の数が2.24倍となった。
また、前記と同じ市販のマウスモノクローナル抗IL-11抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo. MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)をコントロールとして使用した。この抗体は、活性化線維芽細胞の割合(%)を、非刺激下(すなわちTGFβ1刺激の非存在下)で培養した場合の1.44倍に低下させることができることがわかった。
前記抗IL-11Rα抗体はいずれも、マウス線維芽細胞におけるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制できることが判明し、そのうちのいくつかは、市販のモノクローナルマウス抗IL-11抗体よりも強力にIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することができた。
13.3 IL-11Rαへの結合能のスクリーニング
抗ヒトIL-11Rα抗体を産生する複数の前記マウスハイブリドーマをサブクローニングし、サブクローニングしたハイブリドーマから得た細胞培養上清を“mix-and-measure” iQueアッセイで分析し、(i)ヒトIL-11Rαへの結合能、および(ii)IL-11Rα以外の抗原に対する交差反応を調べた。
具体的には、(細胞表面にIL-11Rαを発現していない)標識コントロール細胞または(FLAGタグ付加ヒトIL-11Rαをコードするプラスミドを一時的にトランスフェクトした)細胞表面にヒトIL-11Rαを発現する非標識標的細胞を、細胞培養上清(マウス抗IL-11Rα抗体を含む)および検出用二次抗体(蛍光標識抗マウスIgG抗体)と混合した。
次に、前記HTFCスクリーニングシステム(iQue)を使用して2種の標識(すなわち前記細胞標識および二次抗体上の標識)を検出することによって細胞を分析した。非標識IL-11Rα発現細胞に結合した二次抗体を検出することによって、マウス抗IL-11Rα抗体のIL-11Rαへの結合能が示された。標識コントロール細胞に結合した二次抗体を検出することによって、IL-11Rα以外の標的に対するマウス抗IL-11Rα抗体の交差反応性が示された。
ポジティブコントロール条件として、標識細胞および非標識細胞を、一次抗体としてのマウス抗FLAGタグ抗体とインキュベートした。
サブクローニングしたハイブリドーマの大部分は、ヒトIL-11Rαへの結合能を示す抗体を発現し、これらの抗体は高い特異性でヒトIL-11Rαを認識した。
13.4 ヒトIL-11Rαに対する抗体親和性の分析
前記抗ヒトIL-11Rα抗体の、ヒトIL-11Rαに対する結合親和性をELISAアッセイで分析する。
組換えヒトIL-11RαはGenscript社から入手し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ヒトIgG(Fc特異的)抗体はシグマ社から入手する。コーニング社製の96ウェルELISAプレートはシグマ社から入手する。Pierce社製の3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)ELISA基質キットはライフテクノロジーズ社から入手する(0.4g/mL TMB溶液、0.02%過酸化水素のクエン酸バッファー溶液)。ウシ血清アルブミンおよび硫酸はシグマ社から入手する。洗浄バッファーとして、0.05%Tween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS-T)を使用する。精製IgGコントロールは、ライフテクノロジーズ社から購入する。テカン社のInfinite 200 PRO NanoQuantを使用して吸光度を測定する。
Hornbeck et al., (2015) Curr Protoc Immunol 110, 2.1.1-23に記載されている「criss-cross」段階希釈分析法によって、コーティング用抗原、一次抗体および二次抗体の最適濃度を決定した。
過去の報告(Unverdorben et al., (2016) MAbs 8, 120-128.)に従って間接ELISAを実施することによって、50%有効濃度(EC50)における前記マウス抗IL-11Rα抗体の結合親和性を評価する。具体的には、1μg/mLの組換えヒトIL-11RαをELISAプレートに4℃で一晩かけてコーティングし、未結合部位を2%BSAのPBS溶液でブロッキングする。前記マウス抗IL-11Rα抗体を1%BSAのPBS溶液で希釈して滴定し、800ng/mL、200ng/mL、50ng/mL、12.5ng/mL、3.125ng/mL、0.78ng/mL、0.195ng/mLおよび0.049ng/mLの作用濃度として、二連で室温にて2時間インキュベートする。抗原と抗体の結合は、15.625ng/mLのHRP標識抗マウスIgG抗体で検出する。この検出抗体とともに2時間インキュベーションした後、TMB基質100μlを加えて15分間反応させ、2M H2SO4 100μlで発色反応を停止する。補正のための参照波長を570nmとし、450nmで吸光度を測定する。データのカーブフィッティングは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して実施し、抗体濃度を対数変換した後、非線形回帰分析を行って非対称型(5パラメータ)ロジスティック用量反応曲線を得て各EC50値を決定する。
13.5 様々な組織におけるヒトIL-11/IL-11Rのシグナル伝達に対する抑制能
ヒト心房線維芽細胞の代わりに、肝臓、肺、腎臓、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管、脳および骨髄から得たヒト線維芽細胞を実験に使用すること以外は第13.1節と実質的に同様にして、様々な組織から得られた線維芽細胞におけるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達に対する中和能について前記抗体を評価する。
抗IL-11Rα抗体の存在下で24時間培養後のαSMA陽性線維芽細胞の割合が、該抗体の非存在下での培養と比較して相対的に低下していることが観察された場合に、該抗IL-11Rα抗体が、様々な組織から得られた線維芽細胞においてIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を中和できることが実証される。
実施例14:抗IL-11Rα抗体を使用したインビボにおける線維化の抑制
インビボ線維化マウスモデルにおいて、前記抗ヒトIL-11Rα抗体の様々な組織に対する治療的有用性が示される。
14.1 心臓の線維化
マウスにポンプを埋植し、AngII(2mg/kg/日)で28日間処置を行う。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。実験終了時に、ヒドロキシプロリンを用いた比色定量アッセイキットを使用して、マウス心房中のコラーゲン含量を評価し、線維化マーカーであるCol1A2、α-SMA(ACTA2)およびフィブロネクチン(Fn1)のRNA発現量をqPCRで分析する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、心臓組織での線維化反応が低下していることがわかる。
14.2 腎臓の線維化
溶媒(0.3M NaHCO3)に溶解した葉酸(180mg/kg)を腹腔内注射することによって線維化を誘導した腎線維化マウスモデルを樹立する。コントロールマウスには溶媒のみを投与した。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。28日目に腎臓を摘出し、重量を測定した後、一部は10%中性緩衝ホルマリンで固定してマッソン・トリクローム染色およびシリウス染色を行い、残りは急速凍結して、コラーゲンアッセイとRNAおよびタンパク質の測定に使用する。
急速凍結した腎臓をTrizol試薬(インビトロジェン)およびキアゲン社のTissueLyzer法で処理した後、RNeasyカラム(キアゲン)精製を行うことによってトータルRNAを抽出する。メーカーの説明書に従ってiScriptTM cDNA synthesis kitを使用し、各反応につきトータルRNAを1μg用いてcDNAを調製する。StepOnePlusTM(アプライドバイオシステムズ)を使用したTaqMan(アプライドバイオシステムズ)法またはfast SYBR green(キアゲン)法によって、三連の試料に対して定量RT-PCR遺伝子発現解析を40サイクルで実施する。発現データはGAPDH mRNAの発現量に対して標準化し、2-ΔΔCt法を使用してfold changeを算出する。さらに、急速凍結した腎臓を、50mg/mlの濃度で6M HCl中で熱することによって酸加水分解する(95℃、20時間)。メーカーの説明書に従って、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、加水分解産物中の総コラーゲン量を定量する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、腎組織での線維化反応が低下していることがわかる。
14.3 肺の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを気管内投与して処置し、肺の線維化反応(肺線維症)を誘導する。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、肺組織での線維化反応が低下していることがわかる。
14.4 皮膚の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを皮下投与して処置し、皮膚の線維化反応を誘導する。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、皮膚組織での線維化反応が低下していることがわかる。
14.5 眼の線維化
0日目に、マウスに線維柱帯切除術を行い、眼の創傷治癒反応を誘導する。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与し、眼組織の線維化を観察する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、眼組織での線維化反応が低下していることがわかる。
14.6 その他の組織
線維化に対する抗IL-11Rα中和抗体の治療効果を、肝臓、腎臓、腸管などの他の組織の線維化マウスモデルにおいても分析し、さらに、多臓器線維症(すなわち全身性線維症)に関連するモデルでも分析する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化反応が低下していることがわかる。
実施例15:デコイIL-11受容体
15.1 デコイIL-11受容体コンストラクト
デコイIL-11受容体分子を設計し、pTT5ベクターにクローニングして293-6E細胞において組換え発現させた。
具体的には、前記プラスミドに挿入したインサートは、gp130のリガンド結合ドメインD1、D2およびD3をコードするcDNAと、50アミノ酸長または33アミノ酸長のリンカー領域をコードするcDNAとをインフレームで含み、この下流にヒトIL-11Rαのリガンド結合ドメインD2およびD3をコードするcDNAを含み、さらにこの下流にFLAGタグをコードするcDNAを含んでいた。このcDNAインサートの5’末端には、リーダー配列としてコザック配列が組み込まれており、pTT5ベクターに挿入するために、5’末端にEcoRI制限部位を含み、3’末端にHindIII制限部位を(終止コドンの下流に)含んでいた。
50アミノ酸長の配列を含むデコイIL-11受容体分子および33アミノ酸長の配列を含むデコイIL-11受容体分子をそれぞれコードする2種のコンストラクトを、それぞれデコイIL-11受容体1(D11R1)およびデコイIL-11受容体2(D11R2)と名付けた。
15.2 デコイIL-11受容体の発現および精製
前記コンストラクトをそれぞれ293-6E細胞にトランスフェクトして組換え発現させ、精製を行った。
無血清FreeStyleTM 293 Expression Medium(ライフテクノロジーズ、米国カリフォルニア州カールスバッド)中で293-6E細胞を増殖させた。オービタルシェーカー(VWR Scientific、ペンシルベニア州チェスター)を使用し、三角フラスコ(コーニング社、マサチューセッツ州アクトン)中において5%CO2、37℃で細胞を維持培養した。
トランスフェクションの前日に、コーニング社製の三角フラスコに適切な密度で細胞を播種した。トランスフェクションの当日に、DNAとトランスフェクション試薬を最適な比率で混合し、フラスコ中のトランスフェクションの準備が整った細胞に加えた。D11R1およびD11R2をそれぞれコードする組換えプラスミドを、2日に分けて懸濁培養液中の293-6E細胞に一時的にトランスフェクトした。
6日目に細胞培養上清を回収し、精製に使用した。具体的には、細胞培養液を遠心分離し、濾過した。次いで、樹脂0.5mlを細胞培養上清に加え、3~4時間インキュベートして、IL-11受容体分子を標的タンパク質として捕捉させた。
適切なバッファーで洗浄および溶出後、溶出画分を、SDS-PAGEと、ウサギ抗FLAGポリクローナル抗体(GenScript、カタログNo. A00170)を使用したウエスタンブロットとで分析し、各FLAGタグ付加デコイIL-11受容体分子の発現を確認した。
精製した受容体分子をそれぞれ定量し、-80℃で保存した。
実施例16:デコイIL-11受容体の機能分析
16.1 ヒトIL-11のシグナル伝達に対する抑制能
ヒトIL-11のシグナル伝達に対する中和能を調べるため、様々な濃度のD11R1またはD11R2の存在下または非存在下において、TGFβ1(5ng/ml)を加えた96ウェルプレートの各ウェル中でヒト心房線維芽細胞を24時間培養した。
TGFβ1はIL-11の発現を促進することによって、休止期の線維芽細胞を活性化させてαSMA陽性線維芽細胞を誘導することができる。また、IL-11を中和することによって、TGFβ1によって誘導されるαSMA陽性線維芽細胞への活性化を阻害できることが過去に報告されている。
αSMAの発現は、Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用した高速かつ自動化された方法で分析した。
TGFβ1で刺激した線維芽細胞培養に、5ng/ml、50ng/mlおよび500ng/mlの最終濃度のD11R1またはD11R2を加え、24時間培養後、培養液中のαSMA陽性線維芽細胞の割合(%)を測定した。
D11R1およびD11R2はいずれも、ヒトIL-11のシグナル伝達に対する中和能を用量依存的に発揮することが示された。
実験結果を図32Aおよび図32Bに示す。D11R1およびD11R2はいずれも、ヒトIL-11のシグナル伝達に対する中和能を用量依存的に発揮することが示された。
D11R1分子およびD11R2分子のIC50値は約1nMであった。
16.2 マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能
ヒト心房線維芽細胞の代わりにマウス皮膚線維芽細胞を使用すること以外は第16.1節に記載した操作と同様にして、マウスIL-11のシグナル伝達に対する抑制能についてD11R1およびD11R2を評価する。
D11R1またはD11R2の存在下で24時間培養後のαSMA陽性線維芽細胞の割合が、これらのデコイIL-11受容体の非存在下での培養と比較して相対的に低下していることが観察された場合に、D11R1およびD11R2が、マウス皮膚線維芽細胞においてIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を中和できることが実証される。
16.3 IL-11に対するデコイIL-11受容体の親和性の分析
D11R1およびD11R2の、ヒトIL-11に対する結合親和性をELISAアッセイで分析する。
組換えヒトIL-11はGenscript社から入手した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗FLAG抗体を入手する。コーニング社製の96ウェルELISAプレートはシグマ社から入手した。Pierce社製の3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)ELISA基質キットはライフテクノロジーズ社から入手した(0.4g/mL TMB溶液、0.02%過酸化水素のクエン酸バッファー溶液)。ウシ血清アルブミンおよび硫酸はシグマ社から入手した。洗浄バッファーとして、0.05%Tween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS-T)を使用した。テカン社のInfinite 200 PRO NanoQuantを使用して吸光度を測定する。
過去の報告(Unverdorben et al., (2016) MAbs 8, 120-128.)に従って間接ELISAを実施することによって、50%有効濃度(EC50)におけるD11R1およびD11R2の結合親和性を評価する。具体的には、1μg/mLの組換えヒトIL-11をELISAプレートに4℃で一晩かけてコーティングし、未結合部位を2%BSAのPBS溶液でブロッキングする。D11R1およびD11R1をそれぞれ1%BSAのPBS溶液で希釈して滴定し、800ng/mL、200ng/mL、50ng/mL、12.5ng/mL、3.125ng/mL、0.78ng/mL、0.195ng/mLおよび0.049ng/mLの作用濃度として、二連で室温にて2時間インキュベートする。抗原とデコイIL-11受容体の結合は、HRP標識抗FLAG抗体を使用して検出する。この検出抗体とともに2時間インキュベーションした後、TMB基質100μlを加えて15分間反応させ、2M H2SO4 100μlで発色反応を停止する。補正のための参照波長を570nmとして、450nmで吸光度を測定する。データのカーブフィッティングは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して実施し、デコイIL-11受容体の濃度を対数変換した後、非線形回帰分析を行って非対称型(5パラメータ)ロジスティック用量反応曲線を得てEC50値を決定する。
前記と同じ材料を使用し、前記の操作と同様にして、Genscript社から入手した組換えマウスIL-11に対する結合親和性を測定した。
16.4 様々な組織におけるヒトIL-11のシグナル伝達に対する抑制能
ヒト心房線維芽細胞の代わりに、肝臓、肺、腎臓、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管、脳および骨髄から得たヒト線維芽細胞を実験に使用すること以外は第18.1節と実質的に同様にして、様々な組織から得られた線維芽細胞におけるIL-11のシグナル伝達に対する中和能についてデコイIL-11受容体D11R1およびD11R2を評価する。
デコイIL-11受容体D11R1およびD11R2の存在下で24時間培養後のαSMA陽性線維芽細胞の割合が、これらのデコイIL-11受容体の非存在下での培養と比較して相対的に低下していることが観察された場合に、D11R1およびD11R2が、様々な組織から得られた線維芽細胞においてシグナル伝達を中和できることが実証される。
実施例17:デコイIL-11受容体を使用したインビボにおける線維化の抑制
インビボ線維化マウスモデルにおいて、前記デコイIL-11受容体の様々な組織に対する治療的有用性が示される。
17.1 心臓の線維化
マウスにポンプを埋植し、AngII(2mg/kg/日)で28日間処置を行う。
デコイIL-11受容体D11R1またはD11R2を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。実験終了時に、ヒドロキシプロリンを用いた比色定量アッセイキットを使用して、マウス心房中のコラーゲン含量を評価し、線維化マーカーであるCol1A2、α-SMA(ACTA2)およびフィブロネクチン(Fn1)のRNA発現量をqPCRで分析する。
デコイIL-11受容体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、非処置/溶媒処置コントロールと比較して、心臓組織での線維化反応が低下していることがわかる。
17.2 腎臓の線維化
溶媒(0.3M NaHCO3)に溶解した葉酸(180mg/kg)を腹腔内注射することによって線維化を誘導した腎線維化マウスモデルを樹立する。コントロールマウスには溶媒のみを投与した。
デコイIL-11受容体D11R1またはD11R2を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。28日目に腎臓を摘出し、重量を測定した後、一部は10%中性緩衝ホルマリンで固定してマッソン・トリクローム染色およびシリウス染色を行い、残りは急速凍結して、コラーゲンアッセイとRNAおよびタンパク質の測定に使用する。
急速凍結した腎臓をTrizol試薬(インビトロジェン)およびキアゲン社のTissueLyzer法で処理した後、RNeasyカラム(キアゲン)精製を行うことによってトータルRNAを抽出する。メーカーの説明書に従ってiScriptTM cDNA synthesis kitを使用し、各反応につきトータルRNAを1μg用いてcDNAを調製する。StepOnePlusTM(アプライドバイオシステムズ)を使用したTaqMan(アプライドバイオシステムズ)法またはfast SYBR green(キアゲン)法によって、三連の試料に対して定量RT-PCR遺伝子発現解析を40サイクルで実施する。発現データはGAPDH mRNAの発現量に対して標準化し、2-ΔΔCt法を使用してfold changeを算出する。さらに、急速凍結した腎臓を、50mg/mlの濃度で6M HCl中で熱することによって酸加水分解する(95℃、20時間)。メーカーの説明書に従って、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、加水分解産物中の総コラーゲン量を定量する。
デコイIL-11受容体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、非処置/溶媒処置コントロールと比較して、腎組織での線維化反応が低下していることがわかる。
17.3 肺の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを気管内投与して処置し、肺の線維化反応(肺線維症)を誘導する。
デコイIL-11受容体D11R1またはD11R2を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
デコイIL-11受容体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、非処置/溶媒処置コントロールと比較して、肺組織での線維化反応が低下していることがわかる。
17.4 皮膚の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを皮下投与して処置し、皮膚の線維化反応を誘導する。
デコイIL-11受容体D11R1またはD11R2を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
デコイIL-11受容体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、非処置/溶媒処置コントロールと比較して、皮膚組織での線維化反応が低下していることがわかる。
17.5 眼の線維化
実施例7.6に記載の操作と同様にしてマウスに線維柱帯切除術を行い、眼の創傷治癒反応を誘導する。
デコイIL-11受容体D11R1またはD11R2を静脈内注射によって様々なマウス群に投与し、眼組織の線維化を観察する。
デコイIL-11受容体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、非処置/溶媒処置コントロールと比較して、眼組織での線維化反応が低下していることがわかる。
17.6 その他の組織
線維化に対するデコイIL-11受容体D11R1またはD11R2の治療効果を、肝臓、腎臓、腸管などの他の組織の線維化マウスモデルにおいても分析し、さらに、多臓器線維症(すなわち全身性線維症)に関連するモデルでも分析する。
デコイIL-11受容体で処置したマウスと、非処置マウスまたは溶媒処置コントロールとにおいて線維化反応を測定し、結果を比較する。デコイIL-11受容体で処置したマウスは、線維化マーカーの発現が低下していることから、非処置/溶媒処置コントロールと比較して、線維化反応が低下していることがわかる。
実施例18:IL-11の応答性を示す遺伝バイオマーカー
線維化のバイオマーカー候補としてIL-11タンパク質を測定できるだけでなく、ヒトにおけるIL-11の分泌状態を予測することも可能なアッセイを開発した。このアッセイは、IL-11に関連する臨床試験においてコンパニオン診断として使用できると考えられる。
まず、RNA-seqデータを作製し(図16)、蛍光プローブハイブリダイゼーションを利用したイルミナ社製のSNPアレイ(Human OmniExpress 24)を使用して、人種を一致させた(中国系の)69人のドナー群の遺伝子型を決定した。次に、ゲノムワイド連鎖解析(eQTL解析)を実施し、刺激していない線維芽細胞およびTGFβ1(5ng/ml、24時間)で刺激した線維芽細胞において、一塩基多型(SNP)がIL-11またはIL-11RAのRNA転写量に対して影響を与えているかどうかを評価した。さらに、TGFβ1刺激後のIL-11の増加(=応答)が遺伝子型に依存しているかどうかを試験した。
まず、すべてのドナーにおけるIL-11のリードカウントおよびIL-11RAのリードカウントを定量し、DESeq2法の分散安定化(VST)法を使用してこれらのカウントを変換した(Love et al., Genome Biology 2014 15:550)。次に、非刺激(VSTunstim)細胞および刺激(VSTstim)細胞におけるIL-11およびIL-11RAの発現を考慮に入れた。さらに、IL-11の増加を評価するため、VSTstim-VSTunstimで求められる発現差を算出した。さらに、解析を行う前に、RNAシーケンシングライブラリのバッチ、RNA RIN(品質値)、ライブラリ濃度、ライブラリに含まれる断片のサイズ、年齢、性別などの共変量を使用して発現値を補正した。SNPおよび転写産物の発現または発現差、SNP-転写産物ペアは、行列演算を利用したeQTL法を使用して分析した(Andrey A. Shabalin., Bioinformatics 2012 May 15; 28(10): 1353-1358)。
刺激を与えなかった細胞のIL-11の発現では、同じ染色体上(cis)に位置するSNPや異なる染色体上(trans)に位置するSNPのバリエーションによる有意な影響は観察されなかった。しかし、刺激した(=線維化した)線維芽細胞では、IL-11の発現を制御する遠位のSNPが検出された。これらのバリアントに基づいて、特定の集団を、線維化においてIL-11の発現量が少ない群と、線維化においてIL-11の発現量が多い群とに分類することができる。さらに、TGFβ1に応答したIL-11の発現の増加を予測可能な近位バリアントおよび遠位バリアントが検出された。これらのバリアントを使用して、線維化において高い応答性を示す群と、線維化において低い応答性を示す群とに分類することができる。
特定されたSNPを図33~35に示し、これらのSNPに関する実験データを図36および図37に示す。