一般に戸体と枠体からなる引戸は、下枠にレールを配置し戸体の下部に戸車を設けてレールに乗せて開閉させるタイプと、上枠にレールと戸車を配置し、戸体を上枠から吊り下げて開閉させるタイプがあり、どちらにおいても引戸面に対して左右方向に戸体を移動させて開閉する操作になる。このような引戸の特徴は、扉を丁番等で保持して回転操作により開閉するドアと比較すると、戸体の移動方向が操作する人の立つ位置と干渉しにくく、ドアのようにデッドスペースも発生せず、車椅子での通行においても優れていることが挙げられ、バリアフリーの観点からも増加の方向にあると予想されている。そして引戸は戸体を左右方向に移動させる動作であり、ドアのように自分の体重をかけた状態で押引きすることはできず、腕の力のみで開閉しなければならないため、軽い力で操作できることが最も重要な点とされる。したがって現在では戸車の走行性能を良くし、小さい力でもスムーズに操作できるように日々工夫改良されてきている。
ところが開閉操作を軽くすればするほど戸体を勢いよく閉じた時に速度が付き過ぎ、戸先面と縦枠内面が強く衝突し、大きな衝撃音が発生すると共に戸体が跳ね返ってしまうという現象が起こる。すると戸体をもう一度閉め直す必要が生じ、急いでいる時などには非常に不便であり、そのまま放置してしまうと気密性や遮光性をも損なう恐れがある。そこで引戸用のクローザーが必要とされるのであるが、ここで理想的な開閉動作を想定すると、まず閉じる動作においては戸体の閉鎖速度の大小にかかわらず完全に閉じる少し手前の閉鎖最終範囲で常に低速度にまで一旦減速され、そのまま停止してしまうことなく緩やかに完全に閉鎖するのが良いとされる。また開放時には減速のための負荷はかからず、軽い力で滑らかに開けることができることも重要である。
これらの条件を満たす構成としては、戸体を引き込むための閉鎖力を有する機構と、閉鎖最終範囲で速度を減速させる機構をともに有していることが挙げられる。そして戸体の開閉動作の中での引き込み力を発生させる範囲において、大きく分けると2タイプのものが提案されており、特開2006-219847号公報や特開2017―14761号公報に表記されているような引き込み機構と制動機構両方を戸体が開閉する際の閉鎖最終範囲のみに限定して作用させる構成と、特開2006-348553号公報や特開2010-133135号公報のように戸体が開閉する全域において引き込み機構を作用させ、なおかつ閉鎖最終範囲のみで制動機構を作用させる構成とがある。
前者においては閉鎖装置と受け装置を有し、両者を戸体と枠体に振り分けて配置し、両者が係合している範囲でのみ引き込み動作と制動動作が実施される構成で、大きく解放した位置では両動作共に作用しておらず、戸体が完全に閉鎖する前の閉鎖最終範囲にまで移動してきた段階で引き込み力と制動力が同時に作用して、減速動作とそのまま引き込む動作により、最後まで閉鎖させることを可能とする構成である。したがって開閉動作においては戸体を大きく解放した後に閉鎖最終範囲にまで手で戻すか、もしくは途中で停止してしまわない程度の力で戸体を閉鎖方向に閉じ放つ操作が必要になる。またこれらの構成は開閉動作全域において引き込み力を作用させないため、戸体の閉鎖最終範囲から通常走行範囲へ移行する際に閉鎖装置と受け装置が分離する機構が必要となり、この位置でどうしても切り替えのための操作感触や、その際の作動音が生じることが多い。さらには引き込みのための駆動力にはばね部材が用いられていることがほとんどで、引き込み動作を実施する際にはばね部材を大きく撓ませる必要がある。するとばね部材により引き込み力を蓄えた状態で両者を分離させることになり、戸体を開放させていくと分離する位置までは徐々に操作力が重くなっていき、分離した瞬間突然操作力が軽くなる動作になってしまい連続した円滑な動きにはなりにくい。
これに対して後者は戸体の開閉動作全域において引き込み力を備えており、開放後に戸体をそのまま放置すると自動的に閉鎖し始め、閉鎖最終範囲で減速動作が実施され、停止してしまうことなく最後まで完全に閉鎖する制動動作を得ることができる。また全域で閉鎖力を有しているため前者のような操作が極端に分断されるような感触もなく、総合的にも後者の方が優れていると想定される。しかしながら全域において引き込み力を備える後者の構成では全体の戸体の移動距離が長くなるため、通常の引きばねや圧縮ばねをそのまま戸体の移動距離分押し引きして用いると、ばね部材自体が非常に長いものになってしまう。さらには戸体を完全に開放した時のばね部材の撓み量は大きく、その付勢力は非常に強くなることに対して、完全閉鎖間際は極小さい撓み量にしかならず、それに対する付勢力は非常に弱くなってしまうことが問題として発生する。この撓み量による付勢力の差が非常に重要であり、大きく開放した後に戸体を放置すると非常に強い閉鎖力で速度が付きすぎることになり、ほんの少し開放した状態では閉鎖力が小さすぎて閉鎖しきれないような現象が起ってしまう。
そこで引き込み機構としては、特開2010-133135号公報に記載されているような比較的撓みに対して閉鎖力が変化しにくいぜんまいばねを用いることが多く、ワイヤー線を巻き込む機構のぜんまい式ワイヤーユニットを用いることで上記問題に対処している。このぜんまい式ワイヤーユニットは特開2001-355374号公報に表記してあるような構成を有しており、ぜんまいばね自体が比較的高価であるとともにワイヤー線を巻き取るリールも備えており、なおかつワイヤーが弛んだり重なって巻き取られるような現象を排除する構成も併せ持つ必要があり、その結果かなり複雑でかつ大掛かりな装置になってしまう。またそれらを組み付けるための部品点数も多く、全体としてはコスト面においても高価になり、サイズ面においてもコンパクト性には欠けると想定される。また類似した機構としては等荷重ばねを用いる場合もあるが、等荷重ばねも同じく高コストであり、サイズ面においてもコンパクトにはなりにくい。
また前者の引戸用クローザーの減速機構においては、ダンパー単体として市販されている比較的安価な油圧式のシリンダータイプの直動ダンパーが用いられることが多い。このタイプの直動ダンパーの特徴としては、ロッド棒を押し込むときに負荷が発生する構成で、その際に分離された2個の部屋を、オイルがオリフィスを介して移動する機構であり、強くロッド棒を押し込んだときは比較的大きな負荷が発生し、緩やかに押し込んだときは比較的小さな負荷が発生するように設計されている。しかしその差においてはそれほど大きくはなく限界があり、僅かではあるがロッド棒を突出させるためのばね力もかかっている。したがって完全閉鎖直前に引き込み力が極端に小さくなってしまうとやはり最後まで閉鎖せずに途中で停止してしまうような誤作動が発生することが懸念として残る。
しかし前者のような戸体の閉鎖最終範囲のみにおいて引き込むだけの構成であれば、引き込み力を必要とする距離が短いため、比較的強いばね部材を用いて完全閉鎖直前でも余力を残している設定にしておき、上記のような市販の直動ダンパーにて閉鎖最終範囲で負荷を与えても、引き込み力とそれに対する減速量を適宜調整することで、停止することなく最後まで戸体を閉鎖させることが可能になると想定される。ところが後者のような開閉動作全域での引き込み機構を必要とする場合は、上記のぜんまい式ワイヤーユニットを用いるとしても、閉鎖力が全域において比較的一定に近くなる利点はあるが、やはり大きく撓んだ状態の方が引き込み力は強く、僅かな撓みでは引き込み力は弱いことには変わりなく、最終閉鎖直前での引き込み力が足らなくなり、途中で停止してしまう危険性を完全に回避できるとは限らない。また戸体を大きく開放した後には閉鎖時の移動距離が長くなり慣性力もかかるため、直動ダンパーによる減速量も比較的大きく設定する必要が生じる。その結果制動機構としては市販の直動ダンパーは用いにくいと想定される。
そこで後者の開閉動作全域での引き込み機構を有する引戸用クローザーでは、制動装置の条件としては戸体の高速度での閉鎖に対しては非常に大きな負荷が発生し、逆に低速度での閉鎖に対しては極小さな負荷しか発生しない機構が必要であり、その差が大きいほど戸体の閉鎖速度の強弱に対応した減速量が得られ、幅広い閉鎖条件においても一旦大きく減速してその後に停止することなく確実に最後まで戸体を閉鎖させることが可能になると考えられる。そこで実際には上記の条件を満たす構成として、特開2010-133135号公報に記載されているようなロータリーダンパーが用いられていることが多く、このロータリーダンパーは歯車の回転動作により負荷が発生する構成で、この負荷が発生する条件が高速度で歯車が回転したときには非常に大きな負荷が発生し、逆に極ゆっくりと歯車が回転する場合には非常に小さい負荷しか発生しない機構を有している。その結果ぜんまい式ワイヤーユニットとの組み合わせで良好な動作が得られることになる。しかしこのロータリーダンパーは引戸用クローザーとして特別に設計されたもので、性能面においては非常に高機能ではあるがその分価格も高価でサイズもかなり大きなものになってしまう。したがって後者の構成は玄関のスライドドアや病院や商業施設の引戸等には比較的頻繁に用いられているが、やはり安価でコンパクト性が求められる一般家庭やマンションの室内引戸には採用されにくいのが現状である。
つまり閉鎖最終範囲での弱くなりがちな引き込み力でもそのまま戸体を閉鎖しなければならないため、そうすると強い減速動作を得ることができないという矛盾が生じてしまうことになり、閉鎖最終範囲で必要とする引き込み力とそれとは逆の要素である減速のための負荷とを同時に発生させて制動するという、両者が相反する点において非常に困難とされるのである。そこで理想とされる閉鎖動作と制動動作を考えると、引き込み力に関しては通常のばね部材とは真逆の性能になるが、減速のための負荷を必要とする最終閉鎖範囲においてはかなり強い引き込み力を有し、ある程度以上戸体を開放している範囲においては比較的弱い引き込み力をなるべく均一に発生させるような条件が一番優れていると想定される。そして戸体の開閉動作全域にわたって引き込み力を伝達する別の構成と組み合わせることで、前述の特別なロータリーダンパーやぜんまい式ワイヤーユニットを用いることなく、開閉動作全域にて引き込み動作が得られる構成における閉鎖最終範囲での制動動作とその後の最後まで戸体を引き込む動作が可能になると考えられる。
また本発明者は引戸用クローザーとは別の使用用途ではあるが、ドアの丁番内に閉鎖力を組み込む構成として特開2012-197584号公報に、さらには開きドア用のクローザーの駆動装置として特開2016-75055号公報に、共に湾曲面を有したセンターカムにスライドビットをばね部材により付勢させた状態で配置し、ばね部材による付勢力と湾曲面の傾斜度合を任意に設定することで、センターカムの回転力を開き角度毎に設定可能とする構成を報告している。そしてこの構成を利用して、なおかつセンターカムの回転動作を直線移動動作に変換させることにより引戸用クローザーに適応させることが可能であると想定される。
特開2006-219847号公報
特開2017―14761号公報
特開2006-348553号公報
特開2010-133135号公報
特開2001-355374号公報
特開2012-197584号公報
特開2016-75055号公報
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、円滑な軽い操作で戸体を開放することができ、開放後戸体を放置した段階で低速度での自動閉鎖動作を開始し、閉鎖最終範囲にて戸体の速度を減速させた後に停止することなくそのまま最後まで確実に閉鎖可能な、開閉動作全域での引き込み動作と閉鎖最終範囲での制動動作を有する引戸用クローザーを提供することを目的とする。また大掛かりなぜんまい式ワイヤーユニットや特別なロータリーダンパー等を用いず、比較的単純な機構でかつコンパクトに構成できることを次の目的とする。
本発明では上記問題点を解決するために次の技術手段を設けた。まず駆動ケースと略8の字形状で湾曲面を有したセンターカムとスライドビットとばね部材を設け、駆動ケース内部の中央位置にセンターカムを配置し、その両側からスライドビット先端の突起部分がセンターカムの湾曲面に当接された状態でばね部材により付勢する。そして駆動ケースの上部にカム連結歯車を配置し、センターカムとカム連結歯車を連結固定して駆動ユニットとして形成する。このときカム連結歯車は駆動ケースに設けられたストッパー部分により所定の角度のみ回転可能な状態に規制しておく。するとカム連結歯車の回転動作によりセンターカムの湾曲面に押されてスライドビットがばね部材を撓ませながら移動し、放置するとカム連結歯車が元の方向に戻る力が得られることになる。
次に上下に基準ピッチ円の異なる歯車を一体化した形状の段付歯車と平歯車形状の連動歯車を複数個設け、駆動ケースの上部に配置されたカム連結歯車の左右方向に歯車用軸を用いて互いに係合した状態で配置し、最後にラック係合歯車を装着して連動歯車ユニットを構成する。このとき段付歯車の基準ピッチ円が大きい方の歯車に次の段付歯車の基準ピッチ円が小さい方の歯車を係合させることにより歯車の回転数を増幅させるように複数の段付歯車を順次配置する。そして最後の位置に配置されるラック係合歯車のみを2個前後方向に並べて装着しておく。
そしてラック部材と当接部材を有したラック受け装置を設け、ラック受け装置と、駆動ユニットと連動歯車ユニットと制動ダンパーからなる閉鎖制動装置とを戸体と上枠に振り分けて配置する。このときどちらか片方のラック係合歯車のみがラック受け装置のラック部材と係合するように構成しておく。すると戸体の開放動作によりラック係合歯車が回転し、連動歯車ユニットとして係合している個々の歯車に次々と動作が伝わり、最終的にカム連結歯車の回転動作と共にセンターカムを回す動作につながる。つまり戸体の開放操作で連動歯車ユニットを介してセンターカムの回転動作が得られ、その結果駆動ユニットに閉鎖力が蓄えられることになり、開放後戸体を放置した際に戸体を閉鎖する引き込み力が得られることになる。またカム連結歯車の所定の回転角度にて得られるラック係合歯車の回転数と基準ピッチ円との積であるラック部材に対する移動距離が、引戸の開閉に必要な戸体の移動距離にまで増幅されていれば、上記の構成により開閉動作全域での戸体の引き込み動作が得られることになる。そして閉鎖最終範囲で制動ダンパーによる減速機構を設定しておくと、自動閉鎖動作と制動動作を有する引戸用クローザーとして構成することができる。
またばね部材の力は撓みに対して略比例するため、ここで重要なのがセンターカムの湾曲面の形状になる。つまり引戸の閉鎖状態から開放する方向において、センターカムの回転角度範囲を単位角度毎に分割した時の、センターカムの中心から分割された外周位置までの距離が閉鎖状態から順に増加するように湾曲面を形成しておくとよい。また閉鎖最終範囲においては、センターカムの中心から分割された外周位置までの距離の隣接する単位角度ごとの差が極端に大きくなるように設定しておくとよく、すると閉鎖最終範囲においてはより大きな閉鎖力が得られるようになる。そしてその後の範囲では、その距離の隣接する単位角度ごとの差が徐々に緩やかに増加するように設定しておくとよい。その結果その後の範囲においては比較的一定の閉鎖力を得ることができる。つまりセンターカムに押し付けられているスライドビットの移動距離であるばね部材の撓みの変化に対して、湾曲面の傾斜度合いを大きくしたり小さくすることによりある程度任意に閉鎖力を設定することが可能になる。
また、駆動ケース内のセンターカムを挟んだスライドビットを付勢させるばね部材のさらに端部位置にばね力調整部材とばね力調整ねじを配置し、駆動ケースに対してばね力調整ねじを回し、ばね力調整部材を押し込むことでばね部材の付勢力が調整可能となるように構成しておくとさらによい。するとセンターカムが元に戻ろうとする力、すなわち戸体の閉鎖力を適宜調整できることになる。
次に制動ダンパーとしてはロッド棒が没することで負荷が発生する構成の直動ダンパーを用い、駆動ケース上部の連動歯車ユニットとは逆側に直動ダンパーを配置して閉鎖制動装置として構成し、戸体の上部に装着しておく。そして上枠に当接部材を有したラック受け装置を装着しておく。すると戸体の開放後そのまま放置した際には、駆動ユニットによる力を連動歯車ユニットに伝達することで戸体の閉鎖動作が得られる。そして閉鎖最終範囲に差し掛かった段階で直動ダンパーの先端が当接部材に当接するように設定しておくと、直動ダンパーによる減速動作が実施されることになる。ここで戸体の開閉動作における閉鎖最終範囲での直動ダンパーによる制動動作においては、直動ダンパーが当接部材に当接する位置が、駆動ユニットにおけるより大きな閉鎖力が得られる閉鎖最終範囲に差し掛かった位置になるように設定しておくことが重要である。
つまりこの閉鎖最終範囲ではセンターカムの湾曲面の傾斜度合が大きく、より強い引き込み力が得られるため、比較的大きな減速動作を与えても戸体が停止してしまうことはなく、減速後にそのまま低速度で閉鎖させることが可能になる。また戸体を大きく開放した傾斜度合が最も小さい状態から閉鎖最終範囲までは、センターカムの湾曲面の傾斜度合が徐々に大きくなるように設定されているため、ばね部材の付勢力が最も強い状態から徐々に弱くなっていく状態と相まって引き込み力はほぼ一定に保つことができる。その結果全体の開閉動作としては、戸体を大きく開放した状態から放置すると、比較的低速度での閉鎖動作を開始し、慣性力等により若干の速度増加等もあり得るがそのままほぼ一定速度で閉鎖動作を継続し、閉鎖最終範囲にて直動ダンパーにより減速動作が実施され、さらに低速度にまで制動されたまま最後まで閉鎖する動作が得られることになる。
また引戸においては向かって右方向に開放する納まりと、向かって左方向に開放する納まりによる左右勝手があり、どちらにも兼用で対応できる構成が望まれる。しかしながら前記センターカムやカム連結歯車の回転方向は片方向に限定されるためそのまま反転させると上枠のラック受け装置に対する位置が左右勝手により変わってしまうことになり好ましくない。そこで連動歯車ユニットとしては、カム連結歯車と段付歯車と連動歯車を駆動ケースの上部に左右に一列に並んだ状態で配置し、最後の位置に装着されるラック係合歯車のみを2個互いに係合させた状態で前後に並べて配置しておくとよい。そしてラック受け装置の形状を長尺の略直方体形状にて形成し、略直方体形状のどちらか片方の垂直面にラック部材を配置しておくとよい。すると施工時に閉鎖制動装置とラック受け装置を組み付ける際に、引戸の左右勝手にかかわらず、前後方向に配置されたどちらかのラック係合歯車とラック部分が噛み合わされるようになり、左右兼用にすることができる。また閉鎖制動装置とラック受け装置の戸体と上枠への配置は上記の逆の、閉鎖制動装置を上枠に配置し、ラック受け装置を戸体に配置する構成であってもよく、どちらであっても閉鎖制動条件は同じである。
駆動ケースの上部にカム連結歯車を配置してセンターカムとカム連結歯車を連結固定しておき、カム連結歯車の左右方向に段付歯車と連動歯車を複数個配置し、最後にラック係合歯車を配置することで、カム連結歯車の所定の回転角度によるラック係合歯車の回転数と基準ピッチ円との積であるラック部材に対する移動距離を、引戸の開閉に必要な戸体の移動距離にまで増幅できることになり、開閉動作全域にわたる戸体の閉鎖動作を得ることが可能になる。
連動歯車ユニットにおける複数の歯車による回転数の増幅手段において、第一段付歯車と第二段付歯車と連動歯車の組み合わせを用いることにより、連動歯車ユニット自体の高さを低減することができ、戸体と上枠との間に配置する際に効果的である。
連動歯車ユニットの最後の位置にラック係合歯車を2個前後方向に並べて配置しておくことにより、施工時に閉鎖制動装置とラック受け装置を組み付ける際に、引戸の左右勝手にかかわらず、前後方向に配置されたどちらか片方のラック係合歯車とラック部材が噛み合わされるようにでき、引戸の左右兼用に対応させることが可能になる。
駆動ケース内部の中央位置にセンターカムを配置し、その両側からスライドビットの先端をセンターカムの湾曲面に当接させた状態でばね部材により付勢する構成で、ばね部材の力は撓みに対して略比例するにもかかわらず、センターカムの湾曲面の傾斜度合を変更することで閉鎖力を任意に設定することができ、閉鎖最終範囲における大きな閉鎖力を得ることが可能になる。
駆動ケース内の両ばね部材の端部位置にばね力調整部材とばね力調整ねじを配置し、ばね力調整ねじを回してばね力調整部材を押し込むことでばね部材の付勢力が調整可能となり、その結果戸体の引き込み力を増減させることが可能になる。
閉鎖装置上部カバーに直動ダンパーを装着し、閉鎖最終範囲に差し掛かる位置で直動ダンパーが上枠に配置されたラック受け装置の当接部材に当接するように設定しておくと、自動閉鎖動作と制動動作を有する引戸用クローザーとして構成することができ、閉鎖動作としては閉鎖最終範囲で一旦減速し、停止することなくそのまま低速度で最後まで閉鎖させる動作が実施可能となる。
閉鎖制動装置の駆動ユニット部分を戸体の上部に埋め込んで配置し、ラック受け装置を上枠の内面に配置する外部には露出しないコンシールドタイプや、閉鎖制動装置を戸体上部正面に外付けにて配置し、ラック受け装置を上枠の側面に外付けにて配置する面付けタイプのどちらにも対応可能である。さらには下レールを有する引戸や上吊りタイプの引戸のどちらにも使用可能である。
駆動ケースとセンターカムとスライドビットとばね部材による駆動ユニットと、複数の各種歯車による連動歯車ユニットと、直動ダンパーのみで構成され、その他にはラック受け装置のみの構成であり、高価なゼンマイ式ワイヤーユニットや引戸専用のロータリーダンパーは必要とせず、非常に少ない部品点数による安価でコンパクトな形態にすることができる。また動作が単純な為誤作動の危険性も少ない。
以下図面に基づいて本発明に関する引戸用クローザーの実施の形態を説明する。図1は本発明の引戸用クローザーの全体構成を示す、引戸の上部のみを表記した斜視図であり、戸体27の上部に駆動ユニットと連動歯車ユニットと制動ダンパーとしての直動ダンパー23とからなる閉鎖制動装置aを配置し、上枠28に当接部材22とラック部材21を有するラック受け装置bを配置した構成からなる。そして図2は閉鎖制動装置aの斜視図であり、次に駆動ユニットの構成と連動歯車ユニットの構成と両者の動作を説明する。
図3は閉鎖制動装置aの駆動ユニットの斜視図であり、細長い箱形の駆動ケース1内の中央位置に図4に示すような横断面が同一の上下方向に長い柱状で側面に湾曲面4と凹み部分5を有した略8の字形状のセンターカム3を回動自在に配置し、図5に示すような先端に突起部分7を有し、逆側にばね部材挿入部8を設けたスライドビット6をセンターカム3の両側から突起部分7が湾曲面4に当接するように配置する。このときスライドビット6は駆動ケース1内にて規制されて直線方向にのみ移動可能な状態になっており、さらにスライドビット6のばね部材挿入部8にばね部材9を差し込み、スライドビット6の突起部分7をセンターカム3の湾曲面4に押し付けて配置する。そしてばね部材9のセンターカム3とは逆側の端部位置にばね力調整部材10を配置し、駆動ケース1の両端に雌ねじ部分を設けておく。
すると雌ねじ部分にばね力調整ねじ11を螺合させ、ばね力調整ねじ11の先端にてばね力調整部材10を移動させることでばね部材9の撓みを変化させることができ、その結果ばね部材9による付勢力を調整することが可能になる。ここで図3はばね力調整ねじ11を螺合する前の状態を示しているのであるが、図3に示すように比較的長い寸法のばね力調整ねじ11を用い、ばね部材9としては比較的長い圧縮ばねを用い、ばね力調整ねじ11にてばね力調整部材10を押し込む度合いを幅広く設定できるようにしておくとより効果的である。そしてばね部材9を大きく押し込んだ状態から、さらにセンターカム3の回転動作により撓ませて閉鎖力を得る構成にしておくと、付勢力において初期時と最終時との差を小さくすることも可能になる。
図6は上記の構成からセンターカム3を回転させたときの動作を模式的に示した平面軌跡図である。図6(a)は戸体27が閉鎖しているときのセンターカム3の位置を示しており、スライドビット6先端の突起部分7がセンターカム3の凹み部分5に入り込んだ状態になっている。ここでセンターカム3の湾曲面4の形状が重要であり、図7に示すようにセンターカム3の回転角度範囲を単位角度毎に分割した時の、センターカム3の中心から分割された湾曲面4の外周位置までの距離が閉鎖状態から順に増加するように湾曲面4の形状を設定しておくとよい。そして図6(a)の状態からセンターカム3を回転させると、図6(b)や図6(c)を経て図6(d)に至る範囲でセンターカム3の湾曲面4がスライドビット6の突起部分7を徐々に押して移動させ、その結果ばね部材9を撓ませる動作になり、この動作はセンターカム3を元の位置に戻そうとする力を蓄えることにつながる。すると図6(b)~図6(d)のどの状態からでも、そのまま放置すると湾曲面4の傾斜度合によりセンターカム3を図6(a)の状態に戻そうとする動作を得ることができる。
そしてこの湾曲面4の傾斜度合をさらに細分化して設定することで、より最適なセンターカム3を元の位置に戻そうとする回転動作が得られることになる。つまり湾曲面4を含むセンターカム3の外周形状としては、図7に示すように横方向の基準線Sに対して180度回転させると完全に重なり合うような略8の字形状であり、凹み部分5は基準線S付近に設けておく。そして図7に示すように基準線Sを0度位置とし、湾曲面4をセンターカム3の中心から15度毎に0度から165度まで分割し、その各々の外周位置とセンターカム3の中心までの距離をA~Lとすると、その長さが必ずL>K>J>I>H>G>F>E>D>C>B>Aとなるように設定しておく。すると全域においてセンターカム3を元に戻そうとする力が得られることになる。
また図7におけるAからBとCを経てDに至る角度範囲においては湾曲面4の傾斜度合を大きくする、つまりセンターカム3の外周位置から中心までの距離の差がD-C<C-B<B-Aになるように設定しておくと、図6(b)から図6(a)に戻すときの力を極端に大きく設定することが可能になる。そしてD以降の傾斜度合に関しては、センターカム3の中心から分割された外周位置までの距離の隣接する単位角度ごとの差が徐々に緩やかに増加するように設定しておくとよい。理想的には図7での単位角度あたりの中心からの距離の差である変化寸法が、L-K<K-J<J-I<I-H<H-G<G-F<F-E<E-D<D-Cの順になれば、力が撓みに対して略比例して増減するばね部材9の力と相まって比較的均一な力が得られることになる。その結果図6(d)から図6(b)までの範囲においては比較的一定のセンターカム3を元の位置に戻そうとする回転力を得ることができる。つまりセンターカム3の湾曲面4に押し付けられているスライドビット6の移動距離であるばね部材の撓みの変化に対して、湾曲面4の傾斜度合を大きくしたり小さくすることによりある程度任意にセンターカム3の戻ろうとする力を設定することが可能になる。
またセンターカム3は駆動ケース1内に配置された状態で回転する方向は決まっており、図6に表示する向きでは常に時計と反対回りに回転するようになっている。そしてセンターカム3の回転角度を165度にて設定したため、それ以上回転してはいけないことになり、図6(d)の位置で回転動作を停止させる構成が必要になる。そこで図8に示すように平歯車の外周の一部の歯を取り除き、その両端に停止辺13を形成したカム連結歯車12を設け、図3に示すようにセンターカム3と共に回動可能な状態で駆動ケース1の上面に装着しておくとよい。そして図9に示すように駆動ケース1の上部にストッパー部分2を設け、規制された角度のみを回転運動するように構成しておくとよい。図9(a)は図6(a)と同じ戸体27の閉鎖状態を示しており、図9(b)と図6(d)もセンターカム3とカム連結歯車12が共に反時計回りに165度回転した同じ状態を示しており、この位置でストッパー部分2に停止辺13が当接してそれ以上回転できないようになっている。また駆動ユニットの特徴としては、センターカム3の左右両側から2個のスライドビット6をばね部材9にて押し付ける構成にあり、摩擦による力の損失が少ないバランスの良いセンターカム3の回転動作を得ることが可能となる。
次に上記にて説明した駆動ユニットの駆動力に連動させ、戸体27を適切な距離だけ移動させるための構成が必要になる。その手段としてはセンターカム3と連動させたカム連結歯車12に係合させた状態で、複数の歯車を次の歯車の回転数が増幅されるように順次噛み合わせた連動歯車ユニットを設け、駆動ユニットと共に戸体27の上部に装着しておくとよい。そして図1に示すようにラック部材21と当接部材22を有したラック受け装置bを設けて上枠28に装着し、連動歯車ユニットの回転数が増幅された最後の歯車とラック部材21を係合させることで戸体27の移動動作が実施可能になる。このとき最も重要な条件としては、カム連結歯車12の所定の回転角度から増幅された最後の歯車の回転数とその基準ピッチ円の積からなるラック部材21に対する移動距離が、戸体27が必要とされる開閉距離にまで達していることであり、そうすることにより開閉動作全域での戸体27の閉鎖機構が得られることになる。したがって上記の構成においては全ての歯車とラック部材21のモジュールは同じにしておく必要がある。
ここで実際の引戸においては、カム連結歯車12の165度の回転動作を通常の引戸の開閉距離とされる約80から90センチメートル程度にまで増幅させる必要があると想定される。そこで複数の歯車を係合させていく一般的な手段としては、上下に基準ピッチ円が違う歯車を一体化した形状の段付歯車を複数個設け、基準ピッチ円が大きいほうの歯車に次の段付歯車の基準ピッチ円が小さいほうの歯車を係合させていくとよく、順次回転数を増幅させていくことができることになる。しかし単純に同じ形状の段付歯車を同じ向きで順次係合させていくと、どんどん高さ方向に伸ばしていかなくてはならない構造になってしまう。ところが図1に示すように連動歯車ユニットは戸体27の上部と上枠28の間に配置されるため、連動歯車ユニットが占める全体の高さは当然低いほうが優れていると想定される。
そこで実施形態では連動歯車ユニットが占める高さを極力低く抑えることができる具体的な構成を示す。まず図10に示す上段歯車16の方が下段歯車17より基準ピッチ円が大きく、その両者の基準ピッチ円の差も大きい第一段付歯車14と、図11に示す上段歯車16の方が下段歯車17より基準ピッチ円が小さく、その両者の基準ピッチ円の差も小さい第二段付歯車15の2種類を設ける。そして図13に示すように駆動ケース1の上面のカム連結歯車12に係合させた状態で駆動ユニットの上面左右方向に直線状に歯車用軸18を用いて組み付けていくとよい。図14はその上面図であり、図15はその側面図である。そしてまず図14に示すように、カム連結歯車12の次に第一段付歯車14を配置し、その次に第二段付歯車15を配置するのであるが、まずカム連結歯車12に係合させるのは図10に示す第一段付歯車14の下段歯車17であり、その次は第一段付歯車14の上段歯車16と図11に示す第二段付歯車15の上段歯車16を係合させることになる。このとき図15に示すように第一段付歯車14の下段歯車17と第二段付歯車15の下段歯車17が同じ高さ位置になるため、両者が当接することがないように互いの下段歯車17の基準ピッチ円を設定しておくとよい。
そして次は第二段付歯車15の下段歯車17に第一段付歯車14の下段歯車17を係合出来れば良いのであるが、そのままだと上段歯車16同士が接触してしまうため、その間に隙間を持たせるために図12に示すような平歯車形状の連動歯車19を配置し、連動歯車19に次の第一段付歯車14の下段歯車17を係合させるとよい。つまり第一段付歯車14と第二段付歯車15と連動歯車19の組み合わせを複数個用いることにより、高さ方向に歯車を伸ばしていくことなく、増幅度合いを任意に調整することが可能になる。その結果、連動歯車ユニット全体の高さを第一段付歯車14や第二段付歯車15自体の高さと同等に設定することが可能になる。実施形態では図14や図15に示すように上記の組み合わせを2セット用い、さらに第一段付歯車14と最後の位置にラック係合歯車20を前後方向に2個並べて配置することで全体を構成しており、上記の連動歯車ユニットによりセンターカム3の回転によるカム連結歯車12の回転動作を、戸体27の必要開閉距離にまで増幅させることが可能となる。
次に当接部材22と長尺のラック部材21を有した略直方体形状のラック受け装置bを設ける。図16はラック受け装置bを下から見上げた状態での平面図であり、片端部に当接部材22を設け、内側の片方の垂直面に長尺のラック部材21を形成しておく。そして図1に示すように上枠28にラック受け装置bを装着する。また図2に示すように駆動ケース1の上部に配置された連動歯車ユニットとは逆側に、制動ダンパーとしての直動ダンパー23を装着し、全体として閉鎖制動装置aを構成する。この直動ダンパー23は一般的に市販されているタイプのもので、単体としては図示しないが、円筒形状のアウターチューブ内にオイルが封入されており、ロッド棒が没する際に負荷が発生する構成で、急激に没する際には大きな負荷が発生し、極ゆっくりと没する際には小さな負荷しか発生しない機構のものが適している。
この直動ダンパー23の配置に関しては上記の位置に限定されるわけではないが、図17に示すような閉鎖装置上部カバー24を設け、ダンパー装着孔25に直動ダンパー23をロッド棒側から差し込んで抜けないように保持しておくと簡単である。このロッド棒側から差し込むのは、アウターチューブの外径とダンパー装着孔25の内径にてガイドの役割を持たせ、必ず真っ直ぐにロッド棒が出没するように規制するためである。また連動歯車ユニットも図13に示すように露出したままではよくないため、閉鎖装置上部カバー24を連動歯車ユニットにも被さるように一体化して形成しておくとよい。すると図17に示すように、ラック係合歯車20の歯とラック部材21が係合するための係合窓26を閉鎖装置上部カバー24の端部に設けておく必要が生じる。図2は閉鎖装置上部カバー24を被せた状態の閉鎖制動装置aを示した斜視図であり、係合窓26からラック係合歯車20の歯が突出した状態になっている。そして図1に示すように戸体27の上部を彫り込み、閉鎖制動装置aの駆動ユニット部分のみを内蔵させた状態で装着する。
図18は閉鎖制動装置aを戸体27の上部に装着した状態の正面図であり、図19は上枠28にラック受け装置bを装着した状態の正面図である。そして閉鎖制動装置aのラック係合歯車20がラック受け装置bのラック部材21と噛み合った状態になるように戸体27を上枠28に嵌め込む。図20はその状態を側面方向から見たラック係合歯車20側の平面図であり、連動歯車ユニットの最後の位置の前後方向に配置された片方のラック係合歯車20がラック部材21と噛み合った状態になっている。このラック係合歯車20を前後に2個用いているのは、戸体27の開閉方向が左右どちらであっても対応できるようにしたものである。つまり戸体27の開閉方向が逆の場合には、図20でのラック部材21と噛み合っていない側のラック係合歯車20がラック部材21と噛み合うことになり、すなわち左右兼用にすることができる。またラック受け装置bの内寸に対して閉鎖制動装置aの閉鎖装置上部カバー24の外寸を戸体27が開閉する際にスムーズに移動できかつがたつかない程度に両者を設定し、振れ止めの役割を備えるようにしておくとよい。
次に上記の状態からの戸体27の開閉時の、ラック受け装置bに対する閉鎖制動装置aの動作について説明する。まず閉鎖状態から戸体27を開放する段階では、上枠28に固定されているラック受け装置bのラック部材21に対して、戸体27に装着されている閉鎖制動装置aのラック係合歯車20が回転し、連動歯車ユニットとして係合している個々の歯車に次々と動作が伝わり、最終的にカム連結歯車12の回転動作と共にセンターカム3を回す動作につながる。したがってセンターカム3とスライドビット6とばね部材9による構成の駆動ユニットに閉鎖力が蓄えられ、その結果戸体27を放置した際に閉鎖力が得られることになる。そしてカム連結歯車12の所定の回転角度から増幅されたラック係合歯車20の回転数とその基準ピッチ円との積からなるラック部材21に対する移動距離が、引戸の開閉に必要な戸体27の移動距離にまで増幅されていれば、閉鎖動作全域での戸体27の閉鎖機構が得られることになる。さらに閉鎖最終範囲で制動ダンパーとしての直動ダンパー23と当接部材22による制動機構を設定しておくと、自動閉鎖動作と制動動作を有する引戸用クローザーとして構成することができる。
図21は上記の構成での戸体27の開閉動作を示した正面軌跡図であり、図21(a)は戸体27の閉鎖状態を、図21(b)は少しだけ開放している閉鎖最終範囲に差し掛かった段階を、図21(c)は半分強開放した段階を、図21(d)は戸体27を完全に開放させた状態を示している。そして図21(a)の閉鎖状態から戸体27を開放すると、上枠28に装着されたラック受け装置bのラック部材21に戸体27に装着された閉鎖制動装置aのラック係合歯車20が噛み合っているためセンターカム3が徐々に回転し、その結果閉鎖力を蓄える動作になる。ここで図21(a)から図21(b)に至る閉鎖最終範囲においては、センターカム3の回転度合は図6における図6(a)から図6(b)に相当し、この範囲は図7でのセンターカム3の単位角度当たりでの湾曲面4から中心までの距離の差が比較的極端に変化するA~Dになる。したがってこの図21(a)から図21(b)の範囲においては、比較的強い力でセンターカム3を元に戻そうとする動作、つまり戸体27を強く閉鎖させようとする力が保持されていることになる。
次に図21(b)から図21(c)を経て図21(d)に到る開放範囲においては、センターカム3の回転度合は図6における図6(b)から図6(d)に相当し、この範囲は図7でのセンターカム3の単位角度当たりでの湾曲面4から中心までの距離の差が比較的緩やかに変化するD~Lになる。またこの範囲においては湾曲面4の傾斜度合が徐々に緩やかになるのに対して、ばね部材9の付勢力は緩やかに増加し続けるため、両者の力に相まって図21(b)から図21(d)の範囲においては、比較的均一な力でセンターカム3を戻そうとする動作、つまり戸体27を一定の強さで閉じようとする力が得られることになる。したがってこの範囲での閉鎖力を、戸体27の走行に必要な力を少しだけ上回った程度に設定しておくことで、どの位置からでも戸体27を一定の低速度で閉鎖させることが可能になる。
また図示はしないが図7での湾曲面4におけるK~Lの位置を、センターカム3の中心に対して完全な円弧にて形成すると、図21(d)の完全に戸体27を開放した状態に相当する図6(d)付近においてはセンターカム3を戻そうとする力は発生しないことになり、戸体27をこの完全に解放した位置にて停止させることも簡単に実施可能である。そしてセンターカム3の湾曲面4として、図21(b)付近や図21(d)の手前位置付近での閉鎖力を強弱させる境い目部分を滑らかに連続させておくことで、全体として違和感のないスムーズな戸体27の開閉動作が実施可能となる。
つまり上記の駆動ユニットと連動歯車ユニットのみの構成での閉鎖制動装置aとラック受け装置bの組み合わせにおいても、滑らかで連続した戸体27の開放動作と、開閉動作全域からの閉鎖動作が可能であり、開放途中での任意の位置にて戸体27を離すと、低速度での閉鎖動作を開始し、停止することなく閉鎖最終範囲での強めの閉鎖力につながり、最後まで確実に閉鎖させる動作が実施できる。そしてこの閉鎖最終範囲での強めの閉鎖力により、戸体27を確実に閉じ切ることが可能になる。またこのことは戸体27を閉めたつもりでもわずかに開いていて気密性や遮光性が損なわれることを改善する点において重要であり、さらには縦枠29に当たって戸体27が跳ね返ってしまうことを阻止する点においても効果的である。
しかし近年の戸車の走行性能は格段に向上しており、非常に軽い力で走行可能になってきている。そこで大きく開放してからの戸体27の閉鎖時の速度に関しては、閉鎖力自体は均一であっても慣性力が付いて閉鎖速度が大きくなることも想定される。また閉鎖最終範囲では強めの閉鎖力になるため、縦枠29に戸体27が軽く衝突するような動作になることも可能性としては残ってしまう。さらには大きく開けた状態から手で戸体27を閉じ放ったような場合においては、当然急激な閉鎖動作になり、激しく縦枠29に衝突して一旦は跳ね返ってしまい、その後に再度閉鎖するような現象が起こる。そこでやはり制動機構が必要となると想定され、そのための制動ダンパーとしては図2に示すような直動ダンパー23を用いた構成が最適であると考えられる。
この制動機構に関しては、戸体27を大きく開放した段階から閉鎖させたときに、図21(b)付近の閉鎖最終範囲に差し掛かる位置にて直動ダンパー23が当接部材22に当接して戸体27を減速させ始める設定が優れており、この範囲からはセンターカム3の湾曲面4の形状による特性でより大きな閉鎖力を有しているため、直動ダンパー23による比較的大きな減速動作を与えても戸体27が停止してしまうことはなく、減速後にそのまま低速度で閉鎖させることが可能になる。したがって戸体27を開放後そのまま放置した場合においては戸体27の閉鎖速度は小さいため直動ダンパー23により発生する負荷も小さくそのままゆっくりと閉鎖する動作になる。また戸体27を開放後に手で閉じ放つような閉鎖操作をした場合には、高速度で直動ダンパー23が当接部材22に衝突し、大きな負荷が発生して急激に減速させるのであるが、その後は速度が小さくなっており、閉鎖力の強い閉鎖最終範囲であるためやはり停止することなく、そのまま最後まで戸体27をゆっくりと閉鎖する動作が得られることになる。
また図2では直動ダンパー23を並列に2本配置した状態で表記しているが、この本数には特に理由はなく、使用する直動ダンパー23のロッド棒が没するストローク等も閉鎖最終範囲との兼ね合わせを考慮して適宜設定しておくとよい。さらには実施形態では閉鎖制動装置aに直動ダンパー23を、ラック受け装置bに当接部材22を配置したが、これとは逆に直動ダンパー23をラック受け装置bもしくは上枠28に配置し、当接部材22を閉鎖制動装置aもしくは戸体27上部に配置するような構成も可能である。また閉鎖制動装置aを上枠28に配置し、ラック受け装置bを戸体27上部に配置する実施形態とは逆の構成も可能であり、どちらであっても閉鎖制動条件は同じである。また実施形態では閉鎖制動装置aを戸体27上部に一部彫り込んだ状態で配置し、ラック受け装置bを上枠28内に配置した内蔵型にて表記してきたが、両者のどちらか片方を戸体27の上部正面に面付にて配置し、他方を上枠28正面に面付に配置する外付けタイプも当然可能であり、その他にも様々な配置に対応させることができる。