JP7100849B2 - 酸素ラジカル活性化水溶液および農作物の生産方法 - Google Patents
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Description
1.酸素ラジカル活性化水溶液
本実施形態の酸素ラジカル活性化水溶液は、酸素ラジカルにより活性化された水溶液である。この酸素ラジカル活性化水溶液は、ベンゼン環とピロール環とピリジン環とのうち少なくとも1つ以上を有する環式化合物を含有する水溶液に酸素ラジカルを照射したものである。この酸素ラジカル活性化水溶液では、pHが5以上8以下である。つまり、中性または弱酸性であるといえる。また、条件次第でpHは6以上8以下とすることもできる。
2-1.装置全体の構成
本実施形態の酸素ラジカル活性化水溶液とその製造方法および農作物の生産方法に用いられるプラズマ発生装置100について説明する。プラズマ発生装置100は、酸素ラジカルを発生させる装置である。図1は、プラズマ発生装置100の概略構成を示す図である。図1に示すように、プラズマ発生装置100は、チャンバー110と、載置台120と、ガス供給部130と、ガス排出部140と、プラスチックカバー150と、ラジカル照射部200と、を有している。
図3は、ラジカル照射部200の内部構造を示す図である。ラジカル照射部200は、照射口210の他に、放電部250と、中間構造部260と、ノズル部270と、を有している。
3-1.面積照射量と体積照射量
ラジカルの照射量には、面積照射量と体積照射量とがある。面積照射量は、平坦面の上に配置されている対象物にラジカルを直接照射する場合に用いる。体積照射量は、液体にラジカルを照射する場合に用いる。
ここで、ラジカルの面積照射量は、次式で表される。
AD = RD × V1 × ET × S1 / S2
AD:ラジカルの面積照射量(cm-2)
RD:ラジカル密度(cm-3)
V1:ラジカルの流速(m/sec)
ET:ラジカルの照射時間(sec)
S1:照射口の面積(cm2 )
S2:照射する領域の面積(cm2 )
面積照射量は、照射する領域に照射される単位面積あたりの三重項酸素原子の数である。ここで、ラジカル密度RDは、三重項酸素原子の密度である。
F1 = RD × V1
F1:フラックス(cm-2/sec)
液体に供給されるラジカルの体積照射量は、次式で表される。
VD = RD × V1 × ET × S1 / C1
VD:ラジカルの体積照射量(cm-3)
RD:ラジカル密度(cm-3)
V1:ラジカルの流速(m/sec)
ET:ラジカルの照射時間(sec)
S1:照射口の面積(cm2 )
C1:液体の容積(cm3 )
体積照射量は、液体の容積に対して供給される三重項酸素原子の数である。ここで、ラジカル密度RDは、三重項酸素原子の密度である。
本実施形態の酸素ラジカル活性化水溶液の製造方法は、水溶液に酸素ラジカルを照射する。ここで用いる水溶液は、ベンゼン環とピロール環とピリジン環とのうち少なくとも1つ以上を有する環式化合物を含有する。また、酸素ラジカルを照射するために、プラズマ発生装置100を用いればよい。酸素ラジカルの照射時間は、例えば、3分以上20分以下である。
5-1.水溶液準備工程
まずは水溶液を準備する。具体的には、ベンゼン環とピロール環とピリジン環とのうち少なくとも1つ以上を有する環式化合物を含有する水溶液を準備する。ベンゼン環とピロール環とピリジン環とのうち少なくとも1つ以上を有する環式化合物は、例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、リボフラビン、葉酸、フェナントロリン、フェロインである。
次に、プラズマ発生装置100を用いて、水溶液に酸素ラジカルを照射する。実際には、三重項酸素原子と一重項酸素分子との両方を水溶液に照射する。これにより、酸素ラジカル活性化水溶液が製造される。
酸素ラジカル活性化水溶液を農作物の土壌に供給する。また、農作物に直接供給してもよい。例えば、酸素ラジカル活性化水溶液を農作物に直接かけてもよいし、水耕栽培をしてもよい。酸素ラジカル活性化水溶液を供給することを除いて、従来のように農作物を栽培する。
本実施形態の酸素ラジカル活性化水溶液は、中性条件下であっても殺菌効果を奏する。また、製造時に、亜硝酸イオン、硝酸イオンが水溶液に供給されるわけではない。したがって、製造時における酸素ラジカル活性化水溶液は中性である。そして、原材料の環式化合物がアミノ酸であれば、農作物を成長させる効果を有する。そのため、本実施形態の酸素ラジカル活性化水溶液は、農作物に悪影響を与えうる菌類を殺菌するとともに、農作物の成長を促進することができる。
7-1.酸素ラジカル
本実施形態では、三重項酸素原子と一重項酸素分子との両方を水溶液に照射する。しかし、三重項酸素原子と一重項酸素分子との少なくとも一方を水溶液に照射してもよい。また、さらにオゾンを照射することとしてもよい。
ラジカル密度は、三重項酸素原子で定義した。三重項酸素原子の代わりに、一重項酸素分子を用いてもよい。または、三重項酸素原子と一重項酸素分子との和を用いてもよい。
プラズマを発生させるガスはアルゴンに限らない。その他の希ガスであってもよい。
また、プラズマ照射装置におけるプラズマ条件を、真空紫外吸収分光法を用いることによりフィードバックをかけることとするとよい。これにより、電子密度やガス温度、そしてラジカル密度を調整することができる。
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
A-1.測定装置
酸素ラジカル活性化水溶液の殺菌効果を説明する前に、プラズマ発生装置100とそのプラズマ発生装置100から照射されるラジカルとの関係について説明する。ラジカルの測定のために、プラズマ発生装置300を用いた。
ここで、実験で用いた条件について説明する。表1に示すように、放電部250のプラズマ発生領域で発生したプラズマの密度は、2×1016cm-3であった。そして、照射距離、すなわち、照射口211から対象物までの距離を10mmとした。そして、その照射距離における三重項酸素原子の密度は、2.25×1014cm-3であった。また、その照射距離におけるラジカルの流速は、10.4m/sであった。
プラズマ密度(発生領域) 2×1016cm-3
照射距離 10mm
三重項酸素原子の密度(照射領域) 2.25×1014cm-3
流速(照射領域) 10.4m/s
プラズマガス Ar+O2
総流量 5.0/min
O2 の含有率 0.6%
雰囲気ガス Arガス
図5は、スリット211から対象物までの照射距離と、三重項酸素原子の密度との関係を示すグラフである。図5に示すように、三重項酸素原子の密度は、照射距離が離れるにつれて、指数関数的に減少する。そして、スリット211から対象物までの照射距離が10mmのとき、三重項酸素原子の密度は、2.25×1014cm-3である。
B-1.測定方法
プラズマ発生装置100を用い、実験Aと同様のプラズマ条件で実験した。酸素ラジカルを照射する対象物として、超純水とリン酸緩衝液(PB)を用いた。
図8は、超純水に酸素ラジカルを照射した場合のpHの変化量を示すグラフである。図8の横軸は酸素ラジカルの照射時間である。図8の縦軸はpHである。図8に示すように、酸素ラジカルの照射時間が長いほど超純水のpHは小さくなる。およそ30秒以上の酸素ラジカルの照射により、pHは6以下になる。
C-1.実験方法
プラズマ発生装置100を用いて、大腸菌の懸濁液に酸素ラジカルを直接照射または間接照射した。プラズマの条件は、実験Aと同様である。また、酸素ラジカルを照射する原材料を表2にまとめた。
原材料の化合物 種類 有機構造
フェニルアラニン アミノ酸 ベンゼン環
トリプトファン アミノ酸 ベンゼン環、ピロール環
フェナントロリン - ベンゼン環、ピリジン環
フェロイン - ベンゼン環、ピリジン環
ベンゼン - ベンゼン環
チロシン アミノ酸 ベンゼン環
リボフラビン ビタミン ベンゼン環、プテリジン環
葉酸 ビタミン ベンゼン環、プテリジン環
アラニン アミノ酸 -
図10は、酸素ラジカルの直接照射法を説明するための図である。まず、シャーレに大腸菌の懸濁液0.3mLと表2の原材料を含む溶液2.7mLとを混合して混合溶液を作製する。次に、シャーレの混合溶液に向かって酸素ラジカルを照射する。
図11は、酸素ラジカルの間接照射法を説明するための図である。まず、シャーレに表2の原材料を含む溶液3mLを入れる。次に、この溶液に酸素ラジカルを照射する。次に、酸素ラジカルを照射した溶液に大腸菌の懸濁液を混入する。そして、この混合溶液を数時間振とうさせる。この方法では、大腸菌の懸濁液に酸素ラジカルを直接照射するわけではない。
図12は、生菌数の測定方法を説明するための図である。まず、酸素ラジカルを処理した混合溶液に対して10倍希釈を4回繰り返す。そして、その希釈液を0.1mLの普通寒天培地(NA培地)に滴下する。コンラージ棒を用いて培地全体に大腸菌を広げる。その後、インキュベーターを用いて37℃で大腸菌を24時間培養する。その後、コロニーカウント法を用いて生菌数を測定する。この方法における検出限界は10個である。そのため、各グラフにおいて、生菌数が10個である場合には、大腸菌は死滅していると考えて差支えない。
酸素ラジカル等を照射する溶液として、表2の原材料とリン酸緩衝液(PB)との混合溶液を用いた。そのため、pHは6.3であった。
図13は、フェニルアラニン溶液に対して酸素ラジカルを間接照射した場合の大腸菌の生菌数を示すグラフである。図13の横軸は、酸素ラジカルを照射した溶液を大腸菌の懸濁液に混合してからの経過時間である。図13の縦軸は大腸菌の生菌数である。フェニルアラニンの濃度は80mMであった。フェニルアラニン溶液の体積は3mLであった。このときの気温は23.9℃であった。湿度は42.2%であった。
図16は、トリプトファン溶液に対して酸素ラジカルを直接照射した場合の大腸菌の生菌数を示すグラフである。図16の横軸は、トリプトファン溶液と大腸菌の懸濁液との混合溶液への酸素ラジカルの照射時間である。図16の縦軸は大腸菌の生菌数である。トリプトファン溶液の濃度は1mMであった。混合溶液の体積は3mLであった。このときの温度は24.3℃であった。湿度は40.7%であった。
図21は、フェナントロリン溶液に対して酸素ラジカルを間接照射した場合の大腸菌の生菌数を示すグラフである。図21の横軸は、フェナントロリン溶液に酸素ラジカルを照射してから大腸菌の懸濁液と混合し、振とうを開始してからの経過時間である。図21の縦軸は大腸菌の生菌数である。1,10フェナントロリン溶液の濃度は1.5mMであった。1,10フェナントロリン溶液の体積は3mLであった。
図22は、フェロイン溶液に対して酸素ラジカルを間接照射した場合の大腸菌の生菌数を示すグラフである。図22の横軸は、フェロイン溶液に酸素ラジカルを照射してから大腸菌の懸濁液と混合し、振とうを開始してからの経過時間である。図22の縦軸は大腸菌の生菌数である。フェロイン溶液の濃度は0.5mMであった。フェロイン溶液の体積は3mLであった。
図23は、ベンゼン溶液に対して酸素ラジカルを間接照射した場合の大腸菌の生菌数を示すグラフである。図23の横軸は、酸素ラジカルを照射した溶液を大腸菌の懸濁液に混合してからの経過時間である。図23の縦軸は大腸菌の生菌数である。ベンゼン溶液の濃度は80mMであった。ベンゼン溶液の体積は3mLであった。
図24は、アラニン溶液に対して酸素ラジカルを間接照射した場合の大腸菌の生菌数を示すグラフである。図24の横軸は、酸素ラジカルを照射した溶液を大腸菌の懸濁液に混合してからの経過時間である。図24の縦軸は大腸菌の生菌数である。アラニン溶液の濃度は80mMであった。アラニン溶液の体積は3mLであった。
図25は、その他の有機化合物溶液に対して酸素ラジカルを間接照射した場合の大腸菌の生菌数を示すグラフである。図25の横軸は、酸素ラジカルを照射した溶液を大腸菌の懸濁液に混合してからの経過時間である。図25の縦軸は大腸菌の生菌数である。各溶液の体積は3mLであった。
D-1.実験方法
図26は、カイワレに対する酸素ラジカル活性化水溶液の成長促進効果についての実験方法を説明するための図である。図26に示すように、まず、シャーレに不織布と脱イオン再蒸留水30mLとを入れ、その上にカイワレの種子を20個置く。次に、温度23℃、湿度60%の条件で2日間栽培する。これにより、カイワレは発芽する。次に、発芽したカイワレの種子を栽培用キットにセットする。そして、活性化水溶液等をカイワレの種子に供給する。次に、温度23℃、湿度60%の条件で2日間栽培する。このようにして得られたカイワレの長さを測定する。
図27は、リン酸緩衝液のリン酸の濃度とカイワレの長さとの関係を示すグラフである。図27の縦軸はカイワレの長さである。ここで、リン酸は肥料の一種である。しかし、高濃度のリン酸緩衝液はカイワレ大根に肥料焼けを引き起こすおそれがある。ここで、93mMのリン酸緩衝液は原液である。原液を用いると、カイワレ大根は成長しなかった。図27に示すように、0.93mMのリン酸緩衝液を用いると、カイワレ大根が最も育った。
表3は、殺菌効果をまとめた表である。
原材料の化合物 種類 有機構造 殺菌効果
フェニルアラニン アミノ酸 ベンゼン環 有り
トリプトファン アミノ酸 ベンゼン環、ピロール環 有り
フェナントロリン - ベンゼン環、ピリジン環 有り
フェロイン - ベンゼン環、ピリジン環 有り
ベンゼン - ベンゼン環 有り
チロシン アミノ酸 ベンゼン環 有り(弱い)
リボフラビン ビタミン ベンゼン環、プテリジン環 有り(弱い)
葉酸 ビタミン ベンゼン環、プテリジン環 有り(弱い)
アラニン アミノ酸 - 無し
第1の態様における酸素ラジカル活性化水溶液は、ベンゼン環とピロール環とピリジン環とのうち少なくとも1つ以上を有する環式化合物を含有する水溶液に酸素ラジカルを照射したものである。
110…チャンバー
120…載置部
130…ガス供給部
140…ガス排出部
200…ラジカル照射部
210…照射口
211…スリット
250…放電部
260…中間構造部
270…ノズル部
Claims (5)
- 20mM以上80mM以下のフェニルアラニン を含有する水溶液に酸素ラジカルを照射したものであること
を特徴とする酸素ラジカル活性化水溶液。 - 1mM以上50mM以下のトリプトファン を含有する水溶液に酸素ラジカルを照射したものであり、
殺菌作用を有すること
を特徴とする酸素ラジカル活性化水溶液。 - 20mM以上80mM以下のフェニルアラニン を含有する水溶液を準備し、
前記水溶液に酸素ラジカルを照射して酸素ラジカル活性化水溶液を製造し、
前記酸素ラジカル活性化水溶液を用いて農作物を栽培すること
を特徴とする農作物の生産方法。 - 1mM以上50mM以下のトリプトファン を含有する水溶液を準備し、
前記水溶液に酸素ラジカルを照射して酸素ラジカル活性化水溶液を製造し、
前記酸素ラジカル活性化水溶液を用いて農作物を栽培すること
を特徴とする農作物の生産方法。 - 請求項3または請求項4に記載の農作物の生産方法において、
前記酸素ラジカル活性化水溶液のpHが5以上8以下であること
を特徴とする農作物の生産方法。
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