JP7090145B1 - 放射線検出器および放射線検出器製造方法 - Google Patents

放射線検出器および放射線検出器製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】読み出される信号のSN比悪化を抑制することができる放射線検出器を提供する。【解決手段】放射線検出器1Aは、TlBr結晶体30に第1電極10Aおよび第2電極20Aが設けられたものである。第1電極10Aは第1層12および第2層16を備える。TlBr結晶体30の第1電極形成面上に形成された第1層12は、タリウム金属またはタリウム合金を含む。第1層12上に形成された第2層16は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2層16は、第1層12より低抵抗である。第2層16中の第1金属と第2金属との合金の層におけるTl金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるTl金属元素の拡散係数より小さい。【選択図】図1

Description

本発明は、放射線検出器および放射線検出器製造方法に関するものである。
放射線検出器は、X線やガンマ線等の放射線を検出するものであって、PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、ガンマカメラ、コンプトンカメラおよびイメージングスペクトロメータ等において用いられ得る。
放射線検出器として、ハロゲン化タリウム結晶(例えば、臭化タリウム、ヨウ化タリウム、塩化タリウム、及びそれらの混晶)を用いたものが知られており、一例として第1電極と第2電極との間に臭化タリウム(TlBr)結晶体が設けられた平行平板状の構成のものが知られている(特許文献1,2を参照)。第1電極および第2電極のうち一方はアノード電極として用いられ、他方はカソード電極として用いられる。TlBr結晶を用いた放射線検出器は、安価かつ容易に製造することができ、感度が高いという利点を有する。尚、第1電極と第2電極との間に、電解を制御するため又は電界を静電遮蔽するために更に一つ以上の電極が設けられる場合もある。
特許文献1に記載された放射線検出器は、電極としてタリウム(Tl)金属のみからなるタリウム金属電極を用いている。タリウム金属電極を用いることで、TlBr結晶の分極化を抑制することができて、放射線検出器の長期安定動作が可能であるとされている。
放射線検出器の電極としてタリウム金属電極を用いると、そのタリウム金属電極が大気中において急速に腐食して劣化し、放射線検出器の特性が劣化してしまう。これは、タリウム金属電極上に例えば金等の金属層を蒸着形成した場合にも生じてしまう。この劣化を抑制するには、放射線検出器を作製した後にタリウム金属電極を樹脂等で封止して、耐湿性を向上させるとともに、酸化や大気雰囲気との反応を防止する必要がある。
しかし、例えば放射線検出器を2次元検出器として読出回路基板上に実装する場合には、樹脂による封止により、放射線検出器の電極と読出回路基板の電極パッドとの間の電気的導通が得られなくなる。このことは、TlBr結晶を用いた放射線検出器の実用化の妨げとなる。
このような問題を解消し得る発明が特許文献2に開示されている。この文献に開示された放射線検出器の電極は、タリウム金属と他の金属(例えば鉛、銀、ビスマスまたはインジウム)との合金層を備え、また、この合金層上に設けられた低抵抗金属層(例えば金)を備える。電極がタリウム合金層を備えることにより、TlBr結晶の分極化による検出器特性の劣化を抑制することができるとともに、大気中における電極の腐食を抑制することができる。
特許第5083964号公報 特許第6242954号公報
本発明者らは、特許文献2に開示された放射線検出器が次のような問題点を有することを見出した。すなわち、特許文献2に開示された放射線検出器の電極と読出回路基板の電極パッドとを導電性接着剤で電気的に接続して、放射線検出器から読出回路基板へ信号を読み出すと、その読み出された信号のSN比が悪い場合があった。電極を構成するタリウム合金層および低抵抗金属層の双方とも抵抗値は十分に低いことから、読み出された信号のSN比悪化の原因は、低抵抗金属層の表面または表面近傍領域にあると考えられた。そこで、本発明者らは、低抵抗金属層の表面または表面近傍領域をX線により分析することにより、読み出された信号のSN比悪化の原因を解明し、その原因を除去すべく鋭意研究を行って本発明を想到するに至った。
本発明は、読み出される信号のSN比悪化を抑制することができる放射線検出器を提供することを目的とする。また、このような放射線検出器を製造することができる方法を提供することを目的とする。
本発明の放射線検出器は、臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器であって、臭化タリウム結晶体において第1電極または第2電極が形成されるべき電極形成面上に形成されタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層と、第1層上に形成され第1金属と第2金属との合金を含む第2層と、を備え、第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さい。
本発明の放射線検出器において、第1層は、タリウム金属またはタリウム合金を含むタリウム層と、このタリウム層の上に第1金属を含む第1金属層と、が積層されているのが好適である。また、第1層は、タリウム合金としてタリウム金属と第1金属との合金を含むのが好適であり、さらに、第1金属を過剰に含むのが好適である。
本発明の放射線検出器において、第1層は、タリウム合金として鉛、銀、ビスマスおよびインジウムのうちの何れか1種以上の金属とタリウム金属との合金を含むのが好適である。第1金属は、ビスマス、鉛、錫およびアンチモンのうちの何れかであるのが好適である。第2金属は、金および白金のうちの何れかであるのが好適である。
本発明の放射線検出器は、第1層と第2層との間に設けられ、第1層と第2層との付着力を高める導電性の中間層を備えるのが好適である。この中間層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含むのが好適である。
本発明の放射線検出器は、臭化タリウム結晶体の電極形成面と第1層との間に設けられ、臭化タリウム結晶体の電極形成面と第1層との付着力を高める導電性の下地層を備えるのが好適である。この下地層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含むのが好適である。
本発明の検出器モジュールは、上記の本発明の放射線検出器と、放射線検出器の第1電極または第2電極と電気的に接続され放射線検出器から放射線の検出に応じて出力される信号を入力して該信号を処理する回路が設けられた読出回路基板と、を備える。
本発明の検出器モジュールは、放射線検出器の第1電極または第2電極と読出回路基板上の電極パッドとが導電性接着剤により互いに電気的に接続されているのが好適であり、放射線検出器と読出回路基板との間の空間が樹脂により充填されているのが好適であり、読出回路基板上の放射線検出器が樹脂により覆われているのが好適である。
本発明の放射線検出器製造方法は、臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器を製造する方法であって、臭化タリウム結晶体において第1電極または第2電極が形成されるべき電極形成面上にタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層を形成する第1層形成工程と、第1層上に第1金属と第2金属との合金を含む第2層を形成する第2層形成工程と、を備え、第2層形成工程で形成される第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数を、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さくする。
本発明の放射線検出器製造方法において、第1層形成工程で、タリウム金属またはタリウム合金を含むタリウム層と、このタリウム層の上に第1金属を含む第1金属層と、が積層された第1層を形成し、第2層形成工程で、第1層上に第2金属の層を形成した後に加熱することにより、第1層から拡散してきた第1金属と第2金属とを合金化して第2層を形成するのが好適である。また、第1層形成工程で、タリウム合金としてタリウム金属と第1金属との合金を含む第1層を形成し、第2層形成工程で、第1層上に第2金属の層を形成した後に加熱することにより、第1層から拡散してきた第1金属と第2金属とを合金化して第2層を形成するのが好適である。この場合、第1層形成工程で、タリウム合金としてタリウム金属と第1金属との合金を含むとともに第1金属を過剰に含む第1層を形成するのが好適である。
本発明の放射線検出器製造方法において、第1層形成工程で、タリウム合金として鉛、銀、ビスマスおよびインジウムのうちの何れか1種以上の金属とタリウム金属との合金を含む第1層を形成するのが好適である。第1金属は、ビスマス、鉛、錫およびアンチモンのうちの何れかであるのが好適である。第2金属は、金および白金のうちの何れかであるのが好適である。
本発明の放射線検出器製造方法は、第1層形成工程の後であって第2層形成工程の前に、第1層と第2層との付着力を高める導電性の中間層を形成する中間層形成工程を備えるのが好適である。この中間層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含むのが好適である。
本発明の放射線検出器製造方法は、第1層形成工程の前に、臭化タリウム結晶体の電極形成面と第1層との付着力を高める導電性の下地層を形成する下地層形成工程を備えるのが好適である。この下地層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含むのが好適である。
本発明によれば、読み出される信号のSN比悪化を抑制することができる放射線検出器を提供することができる。
図1は、第1実施形態の放射線検出器1Aの断面構成を示す図である。 図2は、第1実施形態の変形例の放射線検出器1Bの断面構成を示す図である。 図3は、放射線検出器製造方法を説明するフローチャートである。 図4は、第2実施形態の放射線検出器1Cの断面構成を示す図である。 図5は、第2実施形態の変形例の放射線検出器1Dの断面構成を示す図である。 図6は、第3実施形態の放射線検出器1Eの断面構成を示す図である。 図7は、第3実施形態の変形例の放射線検出器1Fの断面構成を示す図である。 図8は、検出器モジュール2の概略構成を示す斜視図である。 図9は、検出器モジュール2の構成を示す断面図である。 図10は、検出器モジュール2の要部構成を示す断面図である。 図11は、放射線検出器100の斜視図である。 図12は、読出回路基板200の一部斜視図である。 図13は、サンプルAの積層構造を示す図である。 図14は、サンプルB~Dの積層構造を示す図である。 図15は、Bi層が設けられていないサンプルAについてμXPS分析結果を示すグラフである。 図16は、Bi層が設けられているサンプルBについてAu蒸着後に加熱を行わなかった場合のAu蒸着直後のμXPS分析結果を示すグラフである。 図17は、Bi層が設けられているサンプルCについてAu蒸着後に加熱を行わなかった場合の1週間経過後のμXPS分析結果を示すグラフである。 図18は、Bi層が設けられているサンプルDについてAu蒸着後に加熱を行った場合の1週間経過後のμXPS分析結果を示すグラフである。 図19は、Bi層が設けられているサンプルC,DについてAu蒸着から1週間経過後のXRD分析結果を示すグラフである。
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の放射線検出器1Aの断面構成を示す図である。放射線検出器1Aは、臭化タリウム(TlBr)結晶体30に第1電極10Aおよび第2電極20Aが設けられた平板形状のものである。TlBr結晶体30の互いに平行な2つの面のうち、一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Aが例えば蒸着により形成されており、他方の面(第2電極形成面)上に第2電極20Aが例えば蒸着により形成されている。
第1電極10Aは第1層12および第2層16を備える。TlBr結晶体30の第1電極形成面上に形成された第1層12は、タリウム金属またはタリウム合金を含む。第1層12上に形成された第2層16は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2層16は、第1層12より低抵抗である。
第2電極20Aは第1層22および第2層26を備える。TlBr結晶体30の第2電極形成面上に形成された第1層22は、タリウム金属またはタリウム合金を含む。第1層22上に形成された第2層26は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2層26は、第1層22より低抵抗である。
第1層12,22の厚みは例えば数十nm~数百nmである。第1層12,22がタリウム合金(Tl合金)を含む場合、そのTl合金はタリウム金属(Tl金属)と他の金属との合金である。Tl金属とともにTl合金を構成する他の金属元素は、任意でよいが、好適には鉛(Pb)、銀(Ag)、ビスマス(Bi)およびインジウム(In)のうちから選ばれる1種以上の元素である。
Tl合金は、例えば、Tl-Pb、Tl-Ag、Tl-Bi、Tl-In、Tl-Pb-Bi、Tl-Pb-In等である。Tl合金は、Tlを金属として含むものであって、Tlを化合物(例えば、酸化Tl、フッ化Tl、硝酸Tl等)としてのみ含むものではない。Tl合金におけるTl金属の含有比は、蛍光X線分析(XRF)法による分析によりTl金属が検出されるレベルである。なお、Tl合金層の表面は空気に触れて酸化する場合があるが、Tl合金層の内部は酸化しない。
第1電極10Aおよび第2電極20Aのうち一方はアノード電極として用いられ、他方はカソード電極として用いられる。ハロゲン化タリウム結晶はイオン伝導性を示すので、TlBr結晶体30に電圧が印加されると、Tlイオンがカソード電極下へ蓄積し、Brイオンがアノード電極下へ蓄積する。放射線検出器1Aは、入射放射線によって生成される電子正孔対が印加電圧によって移動することにより両電極の間に流れる電流により放射線入射を検出することができる。
アノード電極下に蓄積したBrイオンは、そのアノード電極に含まれるTl金属と結合してTlBrとなり、そのときに電子が放出される。カソード電極下に蓄積したTlイオンは、その放出された電子と結合してTl金属となる。これらの反応により生成されるTl金属およびTlBrは、イオンではなく、電荷を持たない。したがって、TlBr結晶体30の分極化を抑制することができる。
第2層16,26の厚みは例えば数十nm~数百nmである。第2層16,26の合金を構成する第1金属は好適にはビスマス(Bi)、鉛(Pb)、錫(Sn)およびアンチモン(Sb)のうちの何れかであり、また、第2金属は好適には金(Au)および白金(Pt)のうちの何れかである。第2層16,26において、第2金属と、第1金属と第2金属との合金とが、混在していてもよい、或いは、第2金属の層と、第1金属と第2金属との合金の層と、が積層されていてもよい。第2層16,26において、第1金属と第2金属との合金の層は、第2金属の層の上に形成されていてもよいし、第2金属の層の下に形成されていてもよいし、第2金属の層に挟まれて形成されていてもよい。
第2層16,26中の第1金属と第2金属との合金の層におけるTl金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるTl金属元素の拡散係数より小さい。これにより、作製直後に第1層12,22に存在していたTl金属元素が時間経過とともに拡散したとしても、第2層16,26中の第1金属と第2金属との合金の層によりTl金属元素の拡散が抑制され、第2層16,26の表面へのTl金属元素の析出が抑制される。
仮に第2層16,26の表面にTl金属元素が析出すると、その析出したTl金属が酸化して酸化タリウム(TlO)が生成され、その酸化タリウムが大気中の水分と反応して腐食性が高い強塩基の水酸化タリウム(TlOH)が生成される。これが、読み出される信号のSN比悪化の要因となる。
しかし、本実施形態の放射線検出器1Aでは、第2層16,26の表面へのTl金属元素の析出が抑制され、第1電極10Aおよび第2電極20Aの腐食が抑制されるので、読み出される信号のSN比悪化が抑制され得る。
図2は、第1実施形態の変形例の放射線検出器1Bの断面構成を示す図である。放射線検出器1Bは、臭化タリウム(TlBr)結晶体30に第1電極10Bおよび第2電極20Bが設けられた平板形状のものである。TlBr結晶体30の互いに平行な2つの面のうち、一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Bが例えば蒸着により形成されており、他方の面(第2電極形成面)上に第2電極20Bが例えば蒸着により形成されている。
第1電極10Bは、下地層11、第1層12、中間層15および第2層16を備える。第2電極20Bは、下地層21、第1層22、中間層25および第2層26を備える。放射線検出器1A(図1)の構成と比較すると、放射線検出器1B(図2)の構成は、第1電極10Bが下地層11および中間層15を更に備えている点で相違し、第2電極20Bが下地層21および中間層25を更に備えている点で相違する。
下地層11は、TlBr結晶体30の第1電極形成面と第1層12との付着力を高めるために挿入される。下地層21は、TlBr結晶体30の第2電極形成面と第1層22との付着力を高めるために挿入される。下地層11,21は導電性を有する。下地層11,21は島状構造の薄膜であり、下地層11,21の厚みは例えば数nm~数十nmである。下地層11,21の材料は、任意でよいが、好適にはクロム(Cr)、ニッケル(Ni)およびチタン(Ti)のうちの何れかの金属からなる。
中間層15は、第1層12と第2層16との付着力を高めるために挿入される。中間層25は、第1層22と第2層26との付着力を高めるために挿入される。中間層15,25は導電性を有する。中間層15,25の厚みは例えば数nm~数百nmである。中間層15,25の材料は、任意でよいが、好適にはクロム(Cr)、ニッケル(Ni)およびチタン(Ti)のうちの何れかの金属からなる。
放射線検出器1B(図2)は、放射線検出器1A(図1)と同様の作用効果を奏する他、下地層11,21および中間層15,25が設けられていることにより、第1電極10Bおよび第2電極20Bそれぞれの膜構造がより安定したものとなる。
次に、放射線検出器1B(図2)を製造する方法の一例について説明する。図3は、放射線検出器製造方法を説明するフローチャートである。この放射線検出器製造方法は、TlBr結晶体作製工程S1、下地層形成工程S2、第1層形成工程S3、中間層形成工程S4および第2層形成工程S5を備え、これらを順に行うことで放射線検出器1B(図2)を製造することができる。
TlBr結晶体作製工程S1では、TlBr結晶のウェハを適当なサイズ(例えば一辺の長さが10mm~20mm程度の長方形)に切断してTlBr結晶体30とし、このTlBr結晶体30の表面を研磨する。ウェハを研磨した後に切断してもよい。また、TlBr結晶体30を脱脂洗浄する。
下地層形成工程S2では、Cr,NiおよびTiのうちの何れかの金属を蒸発源として用いて、TlBr結晶体30の研磨された表面(第1電極形成面)上に蒸着により下地層11を薄く形成する。下地層11を設けることで、TlBr結晶体30の第1電極形成面と第1層12との付着力を高めることができる。
第1層形成工程S3では、下地層11上に蒸着により、Tl金属またはTl合金を含む第1層12を形成する。Tl合金を含む第1層12を形成する場合、予め、原材料としてTl金属および他の金属を適当な重量比でタングステン製ボートまたはアルミナ製坩堝に入れ、10-3Pa以下まで減圧した真空槽内で加熱して、Tl金属および他の金属を合金化させておく。そして、この合金を蒸発源として用いて、下地層11上に蒸着により第1層12を形成する。第1層12を蒸着する前後または蒸着中の段階においてTlBr結晶体30を加熱することで、第1層12の付着力や電気的安定性を向上させることができる。
中間層形成工程S4では、第1層12まで形成されたTlBr結晶体30を冷却した後に、Cr,NiおよびTiのうちの何れかの金属を蒸発源として用いて、第1層12上に蒸着により中間層15を薄く形成する。中間層15を設けることで、第1層12と第2層16との付着力を高めることができる。
第2層形成工程S5では、予め用意しておいた第1金属と第2金属との合金を蒸発源として用いて、中間層15上に蒸着により第2層16を形成する。或いは、中間層15上に蒸着により、第1金属の層と、第1金属と第2金属との合金の層とを積層することで、第2層16を形成してもよい。
以上でTlBr結晶体30の一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Bを形成する。第1電極10Bが形成されたTlBr結晶体30を十分に冷却した後に、第1電極10Bが形成された面に対向するTlBr結晶体30の他の研磨された表面(第2電極形成面)上に、同様にして、下地層21、第1層22、中間層25および第2層26を順次に形成して、第2電極20Bを形成する。以上のようにして放射線検出器1B(図2)を製造することができる。
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態の放射線検出器1Cの断面構成を示す図である。放射線検出器1Cは、臭化タリウム(TlBr)結晶体30に第1電極10Cおよび第2電極20Cが設けられた平板形状のものである。TlBr結晶体30の互いに平行な2つの面のうち、一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Cが例えば蒸着により形成されており、他方の面(第2電極形成面)上に第2電極20Cが例えば蒸着により形成されている。
第1電極10Cは第1層13および第2層16を備える。TlBr結晶体30の第1電極形成面上に形成された第1層13は、タリウム金属またはタリウム合金を含むタリウム層18と、このタリウム層18の上に第1金属を含む第1金属層19と、が積層されている。第1層13上に形成された第2層16は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2層16は、第1層13より低抵抗である。
第2電極20Cは第1層23および第2層26を備える。TlBr結晶体30の第2電極形成面上に形成された第1層23は、タリウム金属またはタリウム合金を含むタリウム層28と、このタリウム層28の上に第1金属を含む第1金属層29と、が積層されている。第1層23上に形成された第2層26は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2層26は、第1層23より低抵抗である。
放射線検出器1A(図1)の構成と比較すると、放射線検出器1C(図4)の構成は、第1電極10Cの第1層13においてタリウム層18と第1金属層19とが積層されている点で相違し、第2電極20Cの第1層23においてタリウム層28と第1金属層29とが積層されている点で相違する。
タリウム層18,28および第1金属層19,29の厚みは例えば数十nm~数百nmである。タリウム層18,28は、放射線検出器1A(図1)の構成における第1層12,22と同様のものである。第1金属層19,29に含まれる第1金属は、第1実施形態で説明した第1金属と同様のものである。放射線検出器1C(図4)の構成における第2層16,26は、放射線検出器1A(図1)の構成における第2層16,26と同様のものである。
放射線検出器1Cにおいても、第2層16,26中の第1金属と第2金属との合金の層におけるTl金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるTl金属元素の拡散係数より小さい。これにより、作製直後に第1層13,23に存在していたTl金属元素が時間経過とともに拡散したとしても、第2層16,26中の第1金属と第2金属との合金の層によりTl金属元素の拡散が抑制され、第2層16,26の表面へのTl金属元素の析出が抑制される。そして、第1電極10Cおよび第2電極20Cの腐食が抑制されるので、読み出される信号のSN比悪化が抑制され得る。
図5は、第2実施形態の変形例の放射線検出器1Dの断面構成を示す図である。放射線検出器1Dは、臭化タリウム(TlBr)結晶体30に第1電極10Dおよび第2電極20Dが設けられた平板形状のものである。TlBr結晶体30の互いに平行な2つの面のうち、一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Dが例えば蒸着により形成されており、他方の面(第2電極形成面)上に第2電極20Dが例えば蒸着により形成されている。
第1電極10Dは、下地層11、第1層13、中間層15および第2層16を備える。第2電極20Dは、下地層21、第1層23、中間層25および第2層26を備える。放射線検出器1C(図4)の構成と比較すると、放射線検出器1D(図5)の構成は、第1電極10Dが下地層11および中間層15を更に備えている点で相違し、第2電極20Dが下地層21および中間層25を更に備えている点で相違する。
放射線検出器1D(図5)の構成における下地層11,21は、放射線検出器1B(図2)の構成における下地層11,21と同様のものである。放射線検出器1D(図5)の構成における中間層15,25は、放射線検出器1B(図2)の構成における中間層15,25と同様のものである。
放射線検出器1D(図5)は、放射線検出器1C(図4)と同様の作用効果を奏する他、下地層11,21および中間層15,25が設けられていることにより、第1電極10Dおよび第2電極20Dそれぞれの膜構造がより安定したものとなる。
次に、放射線検出器1D(図5)を製造する方法の一例について説明する。放射線検出器1D(図5)も、図3のフローチャートに示された各工程を順に行うことで製造することができる。ただし、放射線検出器1B(図2)の製造方法と比較すると、放射線検出器1D(図5)の製造方法では、TlBr結晶体作製工程S1、下地層形成工程S2および中間層形成工程S4それぞれの内容は同様であるが、第1層形成工程S3および第2層形成工程S5それぞれの内容は相違する。
第1層形成工程S3では、下地層11上に蒸着により、Tl金属またはTl合金を含むタリウム層18を形成し、続いて第1金属層19を形成することで、タリウム層18と第1金属層19とが積層された第1層13を形成する。Tl合金を含むタリウム層18を形成する場合、予め、原材料としてTl金属および他の金属を適当な重量比でタングステン製ボートまたはアルミナ製坩堝に入れ、10-3Pa以下まで減圧した真空槽内で加熱して、Tl金属および他の金属を合金化させておく。そして、この合金を蒸発源として用いて、下地層11上に蒸着によりタリウム層18を形成する。また、タリウム層18を蒸着する前後または蒸着中の段階においてTlBr結晶体30を加熱することで、タリウム層18の付着力や電気的安定性を向上させることができる。
第2層形成工程S5では、中間層15上に蒸着により第2金属の層を形成した後に加熱をする。例えば、温度140℃で3時間に亘って加熱を行う。この加熱により、第1層13の第1金属層19から拡散してきた第1金属と、蒸着した第2金属とを合金化して、第1金属と第2金属との合金を含む第2層16を形成する。
以上でTlBr結晶体30の一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Dを形成する。第1電極10Dが形成されたTlBr結晶体30を十分に冷却した後に、第1電極10Dが形成された面に対向するTlBr結晶体30の他の研磨された表面(第2電極形成面)上に、同様にして、下地層21、第1層23、中間層25および第2層26を順次に形成して、第2電極20Dを形成する。以上のようにして放射線検出器1D(図5)を製造することができる。
なお、第2層形成工程S5では、中間層15,25の双方の上に蒸着により第2金属の層を形成した後に加熱をしてもよい。この加熱により、第2層16,26の双方において同時に第1金属と第2金属との合金を形成することができる。
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態の放射線検出器1Eの断面構成を示す図である。放射線検出器1Eは、臭化タリウム(TlBr)結晶体30に第1電極10Eおよび第2電極20Eが設けられた平板形状のものである。TlBr結晶体30の互いに平行な2つの面のうち、一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Eが例えば蒸着により形成されており、他方の面(第2電極形成面)上に第2電極20Eが例えば蒸着により形成されている。
第1電極10Eは第1層14および第2層16を備える。TlBr結晶体30の第1電極形成面上に形成された第1層14は、タリウム金属と第1金属との合金を含む。第1層14は、タリウム金属と第1金属との合金の化学量論組成より過剰に第1金属を含むのが好適である。第1層14上に形成された第2層16は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2層16は、第1層14より低抵抗である。
第2電極20Eは第1層24および第2層26を備える。TlBr結晶体30の第2電極形成面上に形成された第1層24は、タリウム金属と第1金属との合金を含む。第1層24は、タリウム金属と第1金属との合金の化学量論組成より過剰に第1金属を含むのが好適である。第1層24上に形成された第2層26は、第1金属と第2金属との合金を含む。第2層26は、第1層24より低抵抗である。
放射線検出器1A(図1)の構成と比較すると、放射線検出器1E(図6)の構成は、第1層14,24がタリウム金属と第1金属との合金を含むとともに第1金属を過剰に含む点で相違する。
第1層14,24の厚みは例えば数十nm~数百nmである。第1層14,24は、タリウム金属と第1金属との合金を含むとともに、この合金の化学量論組成より過剰に第1金属を含む。第1層14,24に含まれる第1金属は、第1実施形態で説明した第1金属と同様のものである。放射線検出器1E(図6)の構成における第2層16,26は、放射線検出器1A(図1)の構成における第2層16,26と同様のものである。
放射線検出器1Eにおいても、第2層16,26中の第1金属と第2金属との合金の層におけるTl金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるTl金属元素の拡散係数より小さい。これにより、作製直後に第1層14,24に存在していたTl金属元素が時間経過とともに拡散したとしても、第2層16,26中の第1金属と第2金属との合金の層によりTl金属元素の拡散が抑制され、第2層16,26の表面へのTl金属元素の析出が抑制される。そして、第1電極10Eおよび第2電極20Eの腐食が抑制されるので、読み出される信号のSN比悪化が抑制され得る。
図7は、第3実施形態の変形例の放射線検出器1Fの断面構成を示す図である。放射線検出器1Fは、臭化タリウム(TlBr)結晶体30に第1電極10Fおよび第2電極20Fが設けられた平板形状のものである。TlBr結晶体30の互いに平行な2つの面のうち、一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Fが例えば蒸着により形成されており、他方の面(第2電極形成面)上に第2電極20Fが例えば蒸着により形成されている。
第1電極10Fは、下地層11、第1層14、中間層15および第2層16を備える。第2電極20Fは、下地層21、第1層24、中間層25および第2層26を備える。放射線検出器1E(図6)の構成と比較すると、放射線検出器1F(図7)の構成は、第1電極10Fが下地層11および中間層15を更に備えている点で相違し、第2電極20Fが下地層21および中間層25を更に備えている点で相違する。
放射線検出器1F(図7)の構成における下地層11,21は、放射線検出器1B(図2)の構成における下地層11,21と同様のものである。放射線検出器1F(図7)の構成における中間層15,25は、放射線検出器1B(図2)の構成における中間層15,25と同様のものである。
放射線検出器1F(図7)は、放射線検出器1E(図6)と同様の作用効果を奏する他、下地層11,21および中間層15,25が設けられていることにより、第1電極10Fおよび第2電極20Fそれぞれの膜構造がより安定したものとなる。
次に、放射線検出器1F(図7)を製造する方法の一例について説明する。放射線検出器1F(図7)も、図3のフローチャートに示された各工程を順に行うことで製造することができる。ただし、放射線検出器1B(図2)の製造方法と比較すると、放射線検出器1F(図7)の製造方法では、TlBr結晶体作製工程S1、下地層形成工程S2および中間層形成工程S4それぞれの内容は同様であるが、第1層形成工程S3および第2層形成工程S5それぞれの内容は相違する。
第1層形成工程S3では、下地層11上に蒸着により、タリウム金属と第1金属との合金を含むとともに第1金属を過剰に含む第1層14を形成する。この蒸着に際して、予め、原材料としてTl金属および第1金属を適当な重量比(タリウム金属と第1金属との合金を形成する上で必要な合金比率より第1金属が過剰な量となるような重量比)でタングステン製ボートまたはアルミナ製坩堝に入れ、10-3Pa以下まで減圧した真空槽内で加熱して、Tl金属と第1金属との合金および過剰な第1金属を用意する。そして、この合金および過剰な第1金属を蒸発源として用いて、下地層11上に蒸着により第1層14を形成する。また、第1層14を蒸着する前後または蒸着中の段階においてTlBr結晶体30を加熱することで、第1層14の付着力や電気的安定性を向上させることができる。
第2層形成工程S5では、中間層15上に蒸着により第2金属の層を形成した後に加熱をする。例えば、温度140℃で3時間に亘って加熱を行う。この加熱により、第1層14から拡散してきた第1金属と、蒸着した第2金属とを合金化して、第1金属と第2金属との合金を含む第2層16を形成する。
以上でTlBr結晶体30の一方の面(第1電極形成面)上に第1電極10Fを形成する。第1電極10Fが形成されたTlBr結晶体30を十分に冷却した後に、第1電極10Fが形成された面に対向するTlBr結晶体30の他の研磨された表面(第2電極形成面)上に、同様にして、下地層21、第1層24、中間層25および第2層26を順次に形成して、第2電極20Fを形成する。以上のようにして放射線検出器1F(図7)を製造することができる。
なお、第2層形成工程S5では、中間層15,25の双方の上に蒸着により第2金属の層を形成した後に加熱をしてもよい。この加熱により、第2層16,26の双方において同時に第1金属と第2金属との合金を形成することができる。
(検出器モジュールの実施形態)
図8は、検出器モジュール2の概略構成を示す斜視図である。検出器モジュール2は、1または複数の放射線検出器100と読出回路基板200とを備える。放射線検出器100は、上述した放射線検出器1A~1Fの何れかと同様の構成を有する。読出回路基板200は、放射線検出器100の電極と電気的に接続され、放射線検出器100による放射線(例えばガンマ線)の検出に応じて放射線検出器100から出力される信号を入力して該信号を処理する回路が設けられている。
図9は、検出器モジュール2の構成を示す断面図である。読出回路基板200は、基板201の第1面に1または複数の放射線検出器100を搭載し、基板201の第2面に1または複数の信号処理回路202を搭載している。また、読出回路基板200は、基板201の第1面に1または複数のコネクタ204を搭載している。基板201は、例えばフレキシブルなプリント回路基板である。基板201の第1面に電極パッドが設けられており、この電極パッドは放射線検出器100の電極と電気的に接続されている。基板201は、この電極パッドと信号処理回路202とを電気的に接続する貫通電極を有する。信号処理回路202は、放射線検出器100から出力され貫通電極を経て到達した信号を入力して該信号を処理する。コネクタ204は、基板201上に形成された配線を介して信号処理回路202と電気的に接続されている。コネクタ204は、信号処理回路202の動作を制御するための制御信号を外部から入力するとともに、信号処理回路202の処理により得られた信号を外部へ出力する。
図10は、検出器モジュール2の要部構成を示す断面図である。図11は、放射線検出器100の斜視図である。図12は、読出回路基板200の一部斜視図である。以下では、図10~図12を用いて検出器モジュール2の構成について説明する。
放射線検出器100は、第1層112および第2層116を含む第1電極110と、第1層122および第2層126を含む第2電極120と、TlBr結晶体130と、を備える。図に示される構成では、1個の放射線検出器100において、TlBr結晶体130の下面(読出回路基板200に対向する面)に4×4個の第1電極110が2次元アレイ状に設けられ、TlBr結晶体130の上面に共通の1個の第2電極120が設けられている。第2電極120は、TlBr結晶体130の上面の殆ど全体を覆うように設けられているのが好ましい。1個の放射線検出器100の画素数は、第1電極110の個数と同じ16である。TlBr結晶体130の上面に設けられた第2電極120には、バイアス線320が導電性接着剤312により電気的に接続されている。このバイアス線320は、ワイヤ状のものであってもよいし、フィルム状のものであってもよい。
読出回路基板200は、基板201の上面(放射線検出器100に対向する面)に4×4個の電極パッド203が2次元アレイ状に設けられ、基板201の下面に信号処理回路202が設けられている。放射線検出器100の第1電極110と読出回路基板200の電極パッド203とは、導電性接着剤311により1対1で互いに電気的に接続されている。
導電性接着剤311,312は、TlBr結晶の融点が低く熱膨張率が大きいことから、温度160℃以下の低温加熱硬化型のものであるのが好適である。導電性接着剤311,312として、例えば、Niフィラー型導電性接着剤、Agフィラー型導電性接着剤、Cフィラー型導電性接着剤または低温ハンダペーストSn-Bi型などを用いることができる。導電性接着剤311,312の塗布は、ディスペンサまたは印刷法により行うことができる。
放射線検出器100と読出回路基板200との間の空間は絶縁性のアンダーフィル材331により充填されている。アンダーフィル材331は、放射線検出器100の第1電極110、読出回路基板200の電極パッド203および導電性接着剤311を覆う。このアンダーフィル材331は、検出器モジュール2の強度および耐温度特性の向上の為に設けられる。アンダーフィル材331は、低熱膨張のものであるのが好適である。アンダーフィル材331は、シリカを含むものであってもよいし、シリカを含まずエポキシのみを含むものであってもよい。
読出回路基板200上の放射線検出器100は絶縁性の保護膜332により覆われている。保護膜332は、読出回路基板200の上面の全体を覆うのが好ましい。この保護膜332は、防湿の為に設けられる。保護膜332は、例えば厚さ10μm~200μmの薄膜状に塗布することができるものであるのが好ましく、また、常温または100℃以下の温度で硬化するものであるのが好ましい。保護膜332として、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタン系樹脂またはシリコーン製樹脂などを用いることができる。
放射線検出器100は、アンダーフィル材331および保護膜332により覆われており、大気との接触が防止される。これにより、検出器モジュール2は、強度および耐温度特性が向上するだけでなく、長期信頼性が確保される。
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、第1層にTl-Bi合金層を形成する際に、予め作製したTlとBiとの合金を蒸着源として用いて蒸着することによりTl-Bi合金層を形成することに替えて、TlおよびBiのうちの一方を先に蒸着し続いて他方を蒸着した後に加熱することによりTl-Bi合金層を形成してもよい。また、第2層にAu-Bi合金層を形成する際に、予め作製したAuとBiとの合金を蒸着源として用いて蒸着することによりAu-Bi合金層を形成することに替えて、AuおよびBiのうちの一方を先に蒸着し続いて他方を蒸着した後に加熱することによりAu-Bi合金層を形成してもよい。
第1電極および第2電極の何れか一方は、例えば金または白金などの低抵抗金属のみの層により構成されていてもよい。図8~図12に示される検出器モジュール2において、使用方法によっては、共通電極である第2電極120は、例えばAuまたはPtなどの低抵抗金属のみの層により構成されていてもよい。
(第1実施例)
次のようなサンプルA~Dを作製して組成分析を行った。図13は、サンプルAの積層構造を示す図である。サンプルAは、TlBr結晶体を模擬するガラス基板上にTlBi合金層および金(Au)層が順に形成されたものである。サンプルAでは、TlBi合金層とAu層との間にビスマス(Bi)層が設けられていない。図14は、サンプルB~Dの積層構造を示す図である。サンプルB~Dは、TlBr結晶体を模擬するガラス基板上にTlBi合金層,ビスマス(Bi)層および金(Au)層が順に形成されたものである。
各サンプルの組成分析に際しては、微小部X線光電子分光(microprobeX-ray photoelectron spectroscopy、μXPS)装置およびX線回折(X-ray diffraction、XRD)装置を用いた。μXPS装置は、X線をサンプルに入射させたときにサンプル表面から放出される光電子のエネルギを測定することにより、サンプルの組成および化学結合状態に関する情報を得ることができる。また、μXPS装置は、例えばArスパッタ装置とともに用いることにより、サンプルの深さ方向の各位置において組成および化学結合状態に関する情報を得ることができる。XRD装置は、既知の波長のX線をサンプルに入射させたときに発生する回折光について回折角と回折強度との関係を求め、これからサンプルの組成を分析することができる。
図15は、Bi層が設けられていないサンプルAについてμXPS分析結果を示すグラフである。このグラフの横軸はArスパッタ時間(すなわち、サンプルの深さ方向位置)を表し、縦軸は組成比(atom%)を表す。このサンプルAでは、Au層表面に、Tl金属元素が多く析出しており、また、酸素(O)元素が多く存在している。Au層表面に析出したTl金属が酸化して酸化タリウム(TlO)が生成され、その酸化タリウムが大気中の水分と反応して腐食性が高い強塩基の水酸化タリウム(TlOH)が生成される。これが、読み出される信号のSN比悪化の要因となる。
図16は、Bi層が設けられているサンプルBについてAu蒸着後に加熱を行わなかった場合のAu蒸着直後のμXPS分析結果を示すグラフである。このサンプルBでは、Au蒸着直後においてAu層表面へのTl金属元素析出量は多くない。
図17は、Bi層が設けられているサンプルCについてAu蒸着後に加熱を行わなかった場合の1週間経過後のμXPS分析結果を示すグラフである。サンプルB(Au蒸着直後)のμXPS分析結果(図16)と、サンプルC(1週間経過後)のμXPS分析結果(図17)とを対比すると、サンプルCでは、Au蒸着から1週間経過する間に、Au層表面にTl金属元素が多く析出している。したがって、このサンプルCでも、サンプルAと同様に、水酸化タリウム(TlOH)が生成されて、これが、読み出される信号のSN比悪化の要因となる。
図18は、Bi層が設けられているサンプルDについてAu蒸着後に加熱を行った場合の1週間経過後のμXPS分析結果を示すグラフである。サンプルDは、温度140℃で3時間に亘って加熱されることで、Bi層から拡散したBiとAuとの合金が形成された。サンプルC(加熱なし、1週間経過後)のμXPS分析結果(図17)と、サンプルD(加熱あり、1週間経過後)のμXPS分析結果(図18)とを対比すると、サンプルDでは、Au蒸着から1週間経過しても、Au層表面へのTl金属元素析出量は多くない。したがって、このサンプルDでは、水酸化タリウム(TlOH)の生成が抑制されて、読み出される信号のSN比悪化が抑制される。
なお、サンプルC,DのμXPS分析は、Au蒸着後に減圧雰囲気中で1週間に亘って保管された後に行われた。この1週間の保管の間にAu層表面へのTl金属元素析出が安定し、以降のAu層表面におけるTl金属元素析出量の変化が小さいからである。また、サンプルDは、TlBr結晶体上に第1層(TlBi合金層およびBi層)ならびに第2層(Au層)が形成された加熱後の放射線検出器1C(図4)を模擬したものである。
図19は、Bi層が設けられているサンプルC,DについてAu蒸着から1週間経過後のXRD分析結果を示すグラフである。このグラフの横軸は回折角を表し、縦軸は回折強度(光電子の計数値)を表す。サンプルC(加熱なし)およびサンプルD(加熱あり)の何れについても、Bi金属およびTl金属を加熱溶融して作製した合金を蒸発源として用いてガラス基板上に蒸着したことから、BiとTlとの合金(BiTl)の存在が同程度に認められる。しかし、サンプルC(加熱なし)と比べると、サンプルD(加熱あり)では、単一元素としてのBi元素およびAu元素の量が少なくなっている一方で、加熱によりBiとAuとの合金(AuBi)が生成されていることが分かる。
サンプルA~DそれぞれのμXPS分析結果(図15~図18)およびサンプルC,DのXRD分析結果(図19)から、TlBr結晶体上に第1層(TlBi合金層およびBi層)ならびに第2層(Au層)が形成された加熱後の放射線検出器1C(図4)において、第2層に合金(AuBi)が生成されていることにより、第2層表面へのTl金属元素の析出が抑制されて、電極の腐食が抑制されるので、読み出される信号のSN比悪化が抑制され得ることが分かる。このことは、放射線検出器1C(図4)だけでなく他の構成の放射線検出器1A(図1)、放射線検出器1B(図2)、放射線検出器1D(図5)、放射線検出器1E(図6)および放射線検出器1F(図7)においても同様である。
(第2実施例)
次のような検出器モジュールを作製して不良率を求めた。作製した検出器モジュールは、読出回路基板に4個の放射線検出器が搭載されたものであって、個々の放射線検出器において64個(=8×8)の第1電極が形成されたものであり、合計画素数が256であった。個々の放射線検出器において、TlBr結晶体は20mm×20mmの平板形状であり、第1電極は2.5mmピッチであった。個々の放射線検出器の構成は放射線検出器1C(図4)と同様のものであった。第2層形成工程でAu蒸着後に加熱を行ってBiとAuとの合金を形成した場合の検出器モジュールの不良率は、Au蒸着後に加熱を行わなかった場合の検出器モジュールの不良率と比較して、約1/4に低減した。
1A~1F…放射線検出器、2…検出器モジュール、10A~10F…第1電極、11…下地層、12~14…第1層、15…中間層、16…第2層、18…タリウム層、19…第1金属層、20A~20F…第2電極、21…下地層、22~24…第1層、25…中間層、26…第2層、28…タリウム層、29…第1金属層、30…臭化タリウム(TlBr)結晶体、100…放射線検出器、110…第1電極、112…第1層、116…第2層、120…第2電極、122…第1層、126…第2層、130…臭化タリウム(TlBr)結晶体、200…読出回路基板、201…基板、202…信号処理回路、203…電極パッド、204…コネクタ、311,312…導電性接着剤、320…バイアス線、331…アンダーフィル材、332…保護膜。

Claims (26)

  1. 臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器であって、
    前記臭化タリウム結晶体において前記第1電極または前記第2電極が形成されるべき電極形成面上に形成されタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層と、
    前記第1層上に形成され第1金属と第2金属との合金を含む第2層と、
    を備え、
    前記第1層は、タリウム金属またはタリウム合金を含むタリウム層と、このタリウム層の上に第1金属を含む第1金属層と、が積層されており、
    前記第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さい、
    放射線検出器。
  2. 臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器であって、
    前記臭化タリウム結晶体において前記第1電極または前記第2電極が形成されるべき電極形成面上に形成されタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層と、
    前記第1層上に形成され第1金属と第2金属との合金を含む第2層と、
    を備え、
    前記第1層は、前記タリウム合金としてタリウム金属と第1金属との合金を含み、
    前記第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さい、
    放射線検出器。
  3. 前記第1層は、前記タリウム合金としてタリウム金属と第1金属との合金を含むとともに第1金属を過剰に含む、
    請求項に記載の放射線検出器。
  4. 前記第1金属は、ビスマス、鉛、錫およびアンチモンのうちの何れかである、
    請求項1~の何れか1項に記載の放射線検出器。
  5. 臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器であって、
    前記臭化タリウム結晶体において前記第1電極または前記第2電極が形成されるべき電極形成面上に形成されタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層と、
    前記第1層上に形成され第1金属と第2金属との合金を含む第2層と、
    を備え、
    前記第1金属は、ビスマス、鉛、錫およびアンチモンのうちの何れかであり、
    前記第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数は、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さい、
    放射線検出器。
  6. 前記第1層は、前記タリウム合金として鉛、銀、ビスマスおよびインジウムのうちの何れか1種以上の金属とタリウム金属との合金を含む、
    請求項1~の何れか1項に記載の放射線検出器。
  7. 前記第2金属は、金および白金のうちの何れかである、
    請求項1~6の何れか1項に記載の放射線検出器。
  8. 前記第1層と前記第2層との間に設けられ、前記第1層と前記第2層との付着力を高める導電性の中間層を備える、
    請求項1~7の何れか1項に記載の放射線検出器。
  9. 前記中間層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含む、
    請求項8に記載の放射線検出器。
  10. 前記臭化タリウム結晶体の前記電極形成面と前記第1層との間に設けられ、前記臭化タリウム結晶体の前記電極形成面と前記第1層との付着力を高める導電性の下地層を備える、
    請求項1~9の何れか1項に記載の放射線検出器。
  11. 前記下地層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含む、
    請求項10に記載の放射線検出器。
  12. 請求項1~11の何れか1項に記載の放射線検出器と、
    前記放射線検出器の前記第1電極または前記第2電極と電気的に接続され、前記放射線検出器から放射線の検出に応じて出力される信号を入力して該信号を処理する回路が設けられた読出回路基板と、
    を備える検出器モジュール。
  13. 前記放射線検出器の前記第1電極または前記第2電極と前記読出回路基板上の電極パッドとが導電性接着剤により互いに電気的に接続されている、
    請求項12に記載の検出器モジュール。
  14. 前記放射線検出器と前記読出回路基板との間の空間が樹脂により充填されている、
    請求項12または13に記載の検出器モジュール。
  15. 前記読出回路基板上の前記放射線検出器が樹脂により覆われている、
    請求項12~14の何れか1項に記載の検出器モジュール。
  16. 臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器を製造する方法であって、
    前記臭化タリウム結晶体において前記第1電極または前記第2電極が形成されるべき電極形成面上にタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層を形成する第1層形成工程と、
    前記第1層上に第1金属と第2金属との合金を含む第2層を形成する第2層形成工程と、
    を備え、
    前記第1層形成工程で、タリウム金属またはタリウム合金を含むタリウム層と、このタリウム層の上に第1金属を含む第1金属層と、が積層された第1層を形成し、
    前記第2層形成工程で、前記第1層上に第2金属の層を形成した後に加熱することにより、前記第1層から拡散してきた第1金属と第2金属とを合金化して第2層を形成し、
    前記第2層形成工程で形成される第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数を、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さくする、
    放射線検出器製造方法。
  17. 臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器を製造する方法であって、
    前記臭化タリウム結晶体において前記第1電極または前記第2電極が形成されるべき電極形成面上にタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層を形成する第1層形成工程と、
    前記第1層上に第1金属と第2金属との合金を含む第2層を形成する第2層形成工程と、
    を備え、
    前記第1層形成工程で、前記タリウム合金としてタリウム金属と第1金属との合金を含む第1層を形成し、
    前記第2層形成工程で、前記第1層上に第2金属の層を形成した後に加熱することにより、前記第1層から拡散してきた第1金属と第2金属とを合金化して第2層を形成し、
    前記第2層形成工程で形成される第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数を、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さくする、
    放射線検出器製造方法。
  18. 前記第1層形成工程で、前記タリウム合金としてタリウム金属と第1金属との合金を含むとともに第1金属を過剰に含む第1層を形成する、
    請求項17に記載の放射線検出器製造方法。
  19. 前記第1金属は、ビスマス、鉛、錫およびアンチモンのうちの何れかである、
    請求項16~18の何れか1項に記載の放射線検出器製造方法。
  20. 臭化タリウム結晶体に第1電極および第2電極が設けられてなる放射線検出器を製造する方法であって、
    前記臭化タリウム結晶体において前記第1電極または前記第2電極が形成されるべき電極形成面上にタリウム金属またはタリウム合金を含む第1層を形成する第1層形成工程と、
    前記第1層上に第1金属と第2金属との合金を含む第2層を形成する第2層形成工程と、
    を備え、
    前記第1金属は、ビスマス、鉛、錫およびアンチモンのうちの何れかであり、
    前記第2層形成工程で形成される第2層中の第1金属と第2金属との合金の層におけるタリウム金属元素の拡散係数を、第2金属の層におけるタリウム金属元素の拡散係数より小さくする、
    放射線検出器製造方法。
  21. 前記第1層形成工程で、前記タリウム合金として鉛、銀、ビスマスおよびインジウムのうちの何れか1種以上の金属とタリウム金属との合金を含む第1層を形成する、
    請求項16~20の何れか1項に記載の放射線検出器製造方法。
  22. 前記第2金属は、金および白金のうちの何れかである、
    請求項16~21の何れか1項に記載の放射線検出器製造方法。
  23. 前記第1層形成工程の後であって前記第2層形成工程の前に、前記第1層と前記第2層との付着力を高める導電性の中間層を形成する中間層形成工程を備える、
    請求項16~22の何れか1項に記載の放射線検出器製造方法。
  24. 前記中間層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含む、
    請求項23に記載の放射線検出器製造方法。
  25. 前記第1層形成工程の前に、前記臭化タリウム結晶体の前記電極形成面と前記第1層との付着力を高める導電性の下地層を形成する下地層形成工程を備える、
    請求項16~24の何れか1項に記載の放射線検出器製造方法。
  26. 前記下地層は、クロム、ニッケルおよびチタンのうちの何れかの金属を含む、
    請求項25に記載の放射線検出器製造方法。
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