以下、図面を参照しながら本技術の実施の形態について説明する。なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.本技術の概要
2.システムの構成
3.実効PPFD値の算出の手順
(1)実効PPFD値算出処理
(2)センシング装置の測定例
(3)光化学系反応最大ETR算出処理
(4)炭素還元反応最大ETR算出処理
(5)実効PPFD値等の表示例
4.実効PPFD値の活用方法
(1)リアルタイム環境制御
(2)予測環境制御
5.変形例
6.コンピュータの構成
<1.本技術の概要>
図1は、光に関連する単位を説明する図である。
図1のAは、放射束密度の各波長における単位エネルギー当たりの相対値を示す図である。放射束密度は、波長ごとのエネルギー強度を足し合わせたものである。したがって、どの波長でもその特性はフラットとなる。なお、光合成に有効な400nm~700nmの波長範囲だけを通すフィルタを用いて測定した放射束密度のことを、光合成放射束密度という。
図1のBは、光合成有効光量子束密度の各波長における単位エネルギー当たりの相対値を示す図である。ここで、植物の光合成は、光のエネルギーではなく、光の粒子である光量子(光子)の数によって左右される。葉緑素(クロロフィル)の吸収波長である400nm~700nmの波長での光量子が、単位時間で、単位面積当たりに入射する個数で示したのが、光合成有効光量子束密度(PPFD:Photosynthetic Photon Flux Density)である。つまり、光合成有効光量子束密度(PPFD)は、光のエネルギーではなく、光の粒子である光量子(光子)の個数で表現した単位である。
図1のCは、照度の各波長における単位エネルギー当たりの相対値を示す図である。照度は、人間の目の感度に合わせた特性を有している。したがって、図1のAに示すようなエネルギーが一定の光が照射された場合には、図1のCに示すように、400nm以下と、700nm以上の波長では、エネルギーがゼロとなる特性を有している。つまり、照度は、植物の光合成とは何ら関係のない単位であり、この単位を用いて植物の光環境を評価することはできない。
植物では、生育を左右する環境条件として光が大変重要な要素となるが、ここでは、光を粒子として考えることが重要であり、そのために、植物に入射する光が、光合成にどれだけ作用するかを示す指標として、図1のBに示した光合成有効光量子束密度(PPFD)が規定されている。以下、光合成有効光量子束密度(PPFD)を、PPFD値とも記述する。
また、植物が光を有効に活用できる光量子の数は、温度、湿度、二酸化炭素(CO2)、栄養素などの環境条件と、植物の種類や状態によって大きく左右される。
例えば、植物にとって有効な光が、500umol/m2である場合を考えてみる。ある日の正午の前後で、植物に対し、2000umol/m2の光が3時間照射され、その後は、太陽がほとんど出なかった場合を想定する。この場合、トータルの光子量は、6000umol/m2(2000umol/m2×3h)になるが、実際に、植物にとって有効であった光子量は、1500umol/m2(500umol/m2×3h)となる。
一方で、植物に対し、500umol/m2の光が6時間照射された場合を想定すると、トータルの光子量は、3000umol/m2(500umol/m2×6h)となる。この場合には、植物にとって有効であった光子量も、3000umol/m2(500umol/m2×6h)となる。
ここで、前者と後者とを比較すれば、有効な光子量がより多くなる後者の方が、より有効な日照を得ていたということができる。このように、植物に対し照射された光の光合成有効光量子束密度(PPFD)が測定できても、測定された光合成有効光量子束密度(PPFD)が、実際に、植物にとって有効に活用されるとは限らない。
(光合成の光化学系反応と炭素還元反応)
図2は、光合成の光化学系反応と炭素還元反応を説明する図である。
図2に示すように、光合成は、光化学系反応と炭素還元反応との2つの段階に大別される。
前段の光化学系反応(光化学反応)は、光エネルギーを化学エネルギーに変換する系である。あるPPFD値となる太陽光が、植物に照射されると、その植物では、光の反射や透過が起こるため、実際に吸収される光の量は制限される。そして、植物に吸収された光合成有効放射(PAR:Photosynthetically Active Radiation)に対する割合を、光合成有効放射吸収率(fAPAR:Fraction of Absorbed Photosynthetically Active Radiation)という。
さらに吸収された光は、光化学系I(PSI)と光化学系II(PSII)とに分離され、光化学系反応の量子収率(ΦPSII)で、エネルギー伝達物質としてのニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)とアデノシン三リン酸(ATP)が生成され、後段の炭素還元反応のエネルギー源として伝達される。
ただし、光化学系反応の量子収率(ΦPSII)は、光化学系II(PSII)のクロロフィルが吸収した光電子当たりの電子伝達速度を意味している。
また、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH:nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)は、生体内のどこにでも存在し、「還元型」と「酸化型」があり、電子や水素を運ぶ役割を持っている。アデノシン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)は、生体内に広く分布し、リン酸1分子が離れたり、結合したりすることで、エネルギーの放出や貯蔵、あるいは物質の代謝や合成の重要な役割を果たしている。
後段の炭素還元反応には、カルビンサイクル(カルビン回路)と称される回路が存在する。このカルビンサイクルでは、二酸化炭素(CO2)や水(H2O)を取り込み、それらを材料に、前段の光化学系反応で生成されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)とアデノシン三リン酸(ATP)をエネルギーとして、糖やデンプンが生成される。
ここで、光合成は、光化学系反応と炭素還元反応がシリーズに起こる現象であるから、光化学系反応と炭素還元反応のうち、どちらか一方の速度が遅いと、そこがボトルネックになって、光合成全体の速度が決まるという構造となっている。
具体的には、上述したような、植物にとって有効な光が500umol/m2である場合に、植物に対し、2000umol/m2の光を3時間照射したケースは、図3に示した関係で表すことができる。一方で、植物にとって有効な光が500umol/m2である場合に、植物に対し、500umol/m2の光を6時間照射したケースは、図4に示した関係で表すことができる。
すなわち、図3のケースと、図4のケースとを比較すれば、図3のケースでは、矢印A1乃至A4の幅が徐々に狭まっているのに対し、図4のケースでは、矢印B1乃至B4の幅はそれほど変わっていない。この場合、図3のケースよりも、図4のケースのほうが、有効な光子量がより多くなって、より有効な日照を得ていたことになる。
本技術では、光合成の光化学系反応と炭素還元反応のボトルネックがどこにあるかを判断することで、植物にとって有効な光合成有効光量子束密度(PPFD)を算出できるようにする。以下、このようなPPFD値のことを、実効PPFD値と称する。すなわち、実効PPFD値は、植物に対して照射された光量子のうち、実際に、当該植物の成長に寄与したと考えられる光量子の量を表している。なお、実効PPFD値の単位としては、実効PPFD値と同様に、umol/m2/s又はumol/m2/dayなどを用いることができる。
ここで、実効PPFD値の算出の手順は、図5に示した3つの手順で表すことができる。
すなわち、第1の手順として、光化学系反応から出力されるエネルギーに相当する電子伝達速度(ETR)を、光化学系反応最大ETRとして算出する。この光化学系反応最大ETRは、光化学系反応と炭素還元反応とを切り離したとき、植物の光化学系反応能力で決まる最大の電子伝達速度(ETR)を表している。光化学系反応最大ETRの単位は、umol/m2/sとなる。
次に、第2の手順として、環境や植物の種類から決定される炭素還元反応の最大光合成速度に相当する電子伝達速度(ETR)を、炭素還元反応最大ETRとして算出する。この炭素還元反応最大ETRは、光化学系反応と炭素還元反応とを切り離したとき、植物の炭素還元反応能力で決まる最大の電子伝達速度(ETR)を表している。炭素還元反応最大ETRの単位は、umol/m2/sとなる。
そして、第3の手順として、第1の手順で算出された光化学系反応最大ETRと、第2の手順で算出された炭素還元反応最大ETRとからボトルネックを判断(特定)し、当該ボトルネックに相当する伝達ETRから、それに相当するPPFD値を、実効PPFD値として算出する。この伝達ETRは、光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRから算出される植物の光合成速度に依存する電子伝達速度(ETR)を表している。伝達ETRの単位は、umol/m2/sとなる。
なお、電子伝達速度(ETR:Electron TransportRate)は、電子伝達複合体による単位時間当たりの酸化還元量(いわゆる電子伝達活性)を表している。光合成電子伝達系には、反応中心複合体(光化学系I、光化学系II、光合成細菌)、シトクロム複合体などがある。プラストシアニン、シトクロムなどの可動性電子伝達体により複合体間の電子のやりとりが行われる。電子伝達速度(ETR)の単位は、umol/m2/sとなる。
以下、本技術による実効PPFD値の算出方法について説明する。
<2.システムの構成>
(実効指標演算システムの構成)
図6は、本技術を適用した実効指標演算システムの一実施の形態の構成を示す図である。
実効指標演算システム10は、被測定対象物のセンシングを行い、そのセンシングの結果に基づいて、実効PPFD値等の実効指標を算出するためのシステムである。すなわち、実効指標演算システム10においては、被測定対象物として植物(植生)を対象とし、その指標としてPPFD値(光合成有効光量子束密度(PPFD))を求める場合に、実効指標として実効PPFD値が算出される。
図6において、実効指標演算システム10は、センシング装置101、環境センサ102、及び実効指標演算装置103から構成される。センシング装置101、環境センサ102、及び実効指標演算装置103は、ハブ104を介して相互に接続されている。
センシング装置101は、被測定対象物をセンシングして、そのセンシングで得られるデータを出力する。ここで、センシングとは、被測定対象物を測定することを意味する。また、センシングには、被測定対象物を撮像することが含まれる。
センシング装置101は、被測定対象物をセンシングし、その測定結果を、指標測定データとして、ハブ104を介して実効指標演算装置103に出力する。指標測定データは、PPFD値やNDVI値などの指標を求めるためのデータである。ここで、正規化植生指数(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)は、植生の分布状況や活性度を示す指標である。ただし、正規化植生指数(NDVI)は、植生指数の一例である。
なお、センシング装置101の詳細な構成は、図7を参照して後述する。
環境センサ102は、温度や湿度、CO2濃度などの空気環境を計測するためのセンサである。環境センサ102は、被測定対象物の周辺の空気中の温度や湿度、CO2濃度をセンシングし、その測定結果を、環境測定データとして、ハブ104を介して実効指標演算装置103に出力する。
実効指標演算装置103は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の回路による演算機能を有する装置である。例えば、実効指標演算装置103は、パーソナルコンピュータや専用の端末装置などとして構成される。実効指標演算装置103には、センシング装置101からの指標測定データと、環境センサ102からの環境測定データが、ハブ104を介して入力される。
実効指標演算装置103は、指標測定データ及び環境測定データに基づいて、実効PPFD値を算出する。ここでは、図5に示した手順1乃至手順3に相当する処理を実行することで、PPFD値である指標に対する実効指標として、実効PPFD値を算出することができる。
なお、実効指標演算装置103の詳細な構成は、図8を参照して後述する。
実効指標演算システム10は、以上のように構成される。
(センシング装置の構成)
図7は、図6のセンシング装置101の構成例を示す図である。
図7において、センシング装置101は、レンズ141、露光部142、フィルタ143、及びセンサ144を有する測定部121と、信号処理部145及びI/F部146を有する処理部122とから構成される。
センシング装置101において、被測定対象物等の対象物からの光(反射光)は、レンズ141とフィルタ143を介してセンサ144に入射される。
露光部142は、センサ144において、信号電荷が飽和せずにダイナミックレンジ内に入っている状態でセンシングが行われるように、レンズ141等の光学系やアイリス(絞り)による開口量などを調整することで、露光制御を行う。ただし、この露光制御は、実効指標演算装置103からの遠隔制御で行うこともできる。
フィルタ143は、測定対象の指標(実効指標)に応じた光学フィルタである。フィルタ143は、レンズ141を介して入射された光を、センサ144に透過させる。
センサ144は、そのセンサ面に、複数の画素が繰り返しパターンで2次元配列されたセンシング素子から構成されるイメージセンサである。センサ144は、フィルタ143を通過した光を、センシング素子により検出することで、光の光量に応じた測定信号(測定データ)を、信号処理部145に出力する。
ここで、例えば、指標としてPPFD値を算出する場合には、RGB信号が必要になるので、フィルタ143として、RGBフィルタとIRカットフィルタを組み合わせたものが設けられる。この場合、センサ144のセンシング素子では、例えば、図7の配列パターン144Aに示すように、ベイヤー配列により、複数の画素を2次元配列することができる。
ここで、ベイヤー配列とは、緑(G)のG画素が市松状に配され、残った部分に、赤(R)のR画素と、青(B)のB画素とが一列ごとに交互に配される配列パターンである。また、センサ144のセンシング素子に2次元配列される複数の画素の配列パターンとしては、配列パターン144Aとして示したベイヤー配列に限らず、他の配列パターンが採用されるようにしてもよい。なお、赤(R)、緑(G)、及び青(B)などの可視領域のフィルタを備えることで、ユーザに提示するための画像を撮像でき、それらを同時に提示することが可能になる。
また、例えば、指標として、NDVI値を算出する場合には、IR信号が必要になるので、フィルタ143として、IRフィルタが設けられる。この場合、センサ144のセンシング素子では、例えば、図7の配列パターン144Bに示すように、すべての画素が、赤外領域(IR)の成分に対応したIR画素として、2次元状に配列される。
さらに、図7の配列パターン144Aでは、IRカットフィルタを設けた構成を説明したが、IRカットフィルタを設けない構成としてもよい。この場合、センサ144のセンシング素子では、例えば、図7の配列パターン144Cに示すように、赤(R)、緑(G)、及び青(B)の可視光の波長を透過するRGBフィルタに対応したR,G,B画素のほかに、赤外領域(IR)の成分に対応したIR画素が配される。
図7の配列パターン144Cでは、例えば、横方向に4個の画素が配され、縦方向に2個の画素が配された4×2画素(2個のR画素(R1,R2)、2個のG画素(G1,G2)、2個のB画素(B1,B2)、2個のIR画素(IR1,IR2))が、1セットとされる。そして、このような8画素を1セットとして、n(nは1以上の整数)セットを構成する複数の画素が、センシング素子のセンサ面に繰り返し配置されることになる。なお、1セット当たりの画素数は、8画素に限定されることなく、例えば、R,G,B,IR画素を1つずつ含んだ4画素を、1セットとした構成などの他の形態を採用することができる。
なお、指標としてPPFD値を算出する場合には、フィルタ143として、RGBフィルタとIRカットフィルタの代わりに、PPFD値に対応した光学フィルタを設けるようにしてもよい。すなわち、このPPFD値に対応した光学フィルタは、後段のセンサ144がPPFD値に応じた光を検出できるようにするためのフィルタである。したがって、フィルタ143を通過した光は、図1のBに示した光合成有効光量子束密度(PPFD)と同様の特性を有することになる。
信号処理部145は、センサ144から出力される測定データに対し、データを並び替える処理などの所定の信号処理を行い、I/F部146に出力する。
なお、本実施の形態では、PPFD値やNDVI値などの指標は、後段の実効指標演算装置103により算出されるとして説明するが、信号処理部145が、CPUやFPGA等の回路などにより構成されるようにすることで、測定データに基づいて、PPFD値やNDVI値などの指標を算出するようにしてもよい。
I/F部146は、外部出力インターフェース回路などにより構成され、信号処理部145から供給される測定データを、指標測定データとして、ハブ104を介して実効指標演算装置103に出力する。
センシング装置101は、以上のように構成される。
なお、以下の説明では、実効指標演算システム10において、センシング装置101が複数設けられる場合があり、その場合には、符号として、「-1」や「-2」を追加して記述することで、区別するものとする。また、センシング装置101内のフィルタ143やセンサ144などについても同様に区別するものとする。
(実効指標演算装置の構成)
図8は、図6の実効指標演算装置103の構成例を示す図である。
図8において、実効指標演算装置103は、I/F部161、処理部162、記憶部163、及び表示部164から構成される。
I/F部161は、外部入力インターフェース回路などにより構成され、センシング装置101から入力される指標測定データと、環境センサ102から入力される環境測定データを、処理部162に供給する。
処理部162は、例えば、CPUやFPGA等の回路などにより構成される。処理部162は、算出部171及び制御部172を含む。
算出部171は、I/F部161から供給される指標測定データ及び環境測定データに対し、記憶部163に記憶されたルックアップテーブル(LUT:Look Up Table)を参照しながら、所定の信号処理を行うことで、実効PPFD値を算出する。
この信号処理の詳細な内容は後述するが、ここでは、図5に示した手順1乃至手順3に相当する処理として、光化学系反応最大ETR算出処理と、炭素還元反応最大ETR算出処理とが実行され、その結果得られる光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRとを比較して、ボトルネックが決定される。そして、当該ボトルネックに応じたETR(伝達ETR)に相当するPPFD値が、実効PPFD値として算出される。
制御部172は、実効指標演算装置103の各部の動作を制御する。例えば、制御部172は、表示部164に表示される、数値データや画像データ等の各種のデータの表示を制御する。また、制御部172は、センシング装置101や環境センサ102などの外部の装置を制御することができる。
記憶部163は、例えば、半導体メモリなどにより構成される。記憶部163は、制御部172からの制御に従い、数値データや画像データ等の各種のデータを記憶する。また、記憶部163には、実効PPFD値を算出するためのルックアップテーブル(LUT)があらかじめ記憶されている。
詳細は後述するが、このルックアップテーブルとしては、例えば、係数算出用LUT(LUT1)、fAPAR算出用LUT(LUT2)、ΦPSII算出用LUT(LUT3)、CO2律速光合成速度用LUT(LUT4)、温度補正係数用LUT(LUT5)、及び湿度補正係数用LUT(LUT6)が記憶される。なお、これらの各値を算出するための参照情報としては、ルックアップテーブルに限らず、例えば、所定の関数が記憶されていてもよい。この場合、関数を参照して値を得ることができる。
表示部164は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やOLED(Organic Light-Emitting Diode)などのディスプレイにより構成される。表示部164は、制御部172からの制御に従い、算出部171により算出された実効PPFD値に関するデータ(例えば、数値データや画像データ)を表示する。また、表示部164は、制御部172からの制御に従い、記憶部163に記憶された各種のデータを表示することができる。
なお、図8においては、記憶部163と表示部164は、実効指標演算装置103の内部に設けられるとして説明したが、記憶装置や表示装置として、実効指標演算装置103の外部に設けられるようにしてもよい。この場合、算出部171は、ネットワークを介して外部の記憶装置からルックアップテーブルを取得することになる。また、制御部172は、信号処理で得られた数値データや画像データ等の各種のデータを、外部の表示装置に表示させたり、あるいは、外部の記憶装置に記憶させたりすることができる。
実効指標演算装置103は、以上のように構成される。
(実効指標演算システムの他の構成)
ところで、図6に示した実効指標演算システム10では、パーソナルコンピュータ等の実効指標演算装置103が、ハブ104を介したローカル環境で、実効PPFD値を算出していたが、ネットワークを介したクラウド環境で、実効PPFD値が算出されるようにしてもよい。
図9には、実効指標演算システムの他の構成例として、クラウド環境に対応した実効指標演算システム11の構成例を示している。
図9の実効指標演算システム11において、センシング装置101と環境センサ102は、図6のセンシング装置101と環境センサ102と同様に、指標測定データと環境測定データを測定し、ハブ104を介してクライアント装置105に出力する。
クライアント装置105は、パーソナルコンピュータ等から構成され、ハブ104を介して、センシング装置101と環境センサ102から入力される指標測定データと環境測定データを、ルータ106に出力する。すなわち、クライアント装置105は、図6の実効指標演算装置103に対応しているが、実効PPFD値を算出するための信号処理は行わない。
ルータ106は、例えばモバイル用のルータであり、基地局107を介して、インターネット等のネットワーク108に接続することができる。ルータ106は、クライアント装置105から入力される指標測定データと環境測定データを、ネットワーク108を介して、サーバ109に送信する。
サーバ109は、ネットワーク108を介して、クライアント装置105から送信されてくる指標測定データと環境測定データを受信する。ここで、サーバ109は、図8に示した実効指標演算装置103が有する機能のうち、少なくとも、処理部162及び記憶部163と同様の機能を有している。
すなわち、サーバ109において、処理部162の算出部171は、クライアント装置105から受信した指標測定データ及び環境測定データに対し、記憶部163に記憶されたルックアップテーブルを参照しながら、所定の信号処理を行うことで、図5に示した手順1乃至手順3に相当する処理を実行し、実効PPFD値を算出する。
サーバ109が表示部164を有しているか、あるいはサーバ109と表示部164とが通信可能な場合には、算出部171による信号処理で得られた、数値データや画像データなどの各種のデータを、表示部164に表示させることができる。また、数値データや画像データなどの各種のデータは、ストレージ110に記憶されるようにしてもよい。サーバ109は、ストレージ110に記憶された各種のデータを読み出し、表示部164に表示させることもできる。
実効指標演算システム11は、以上のように構成される。
<3.実効PPFD値の算出の手順>
(1)実効PPFD値算出処理
(実効PPFD値算出処理の流れ)
まず、図10のフローチャートを参照して、図6の実効指標演算システム10により実行される、実効PPFD値算出処理の流れについて説明する。
ステップS101において、センシング装置101及び環境センサ102は、センシングを行い、そのセンシングにより得られたデータを取得する。
ここでは、センシング装置101によるセンシングで得られた指標測定データと、環境センサ102によるセンシングで得られた環境測定データが、ハブ104を介して実効指標演算装置103に出力される。なお、センシング装置101による被測定対象物の測定例については、図11乃至図14を参照して後述する。
ステップS102において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS101の処理で得られたデータに基づいて、光化学系反応最大ETR算出処理を行う。
この光化学系反応最大ETR算出処理では、上述した図5に示した第1の手順に相当する処理が行われ、光化学系反応から出力されるエネルギーに相当する電子伝達速度(ETR)が、光化学系反応最大ETRとして算出される。なお、光化学系反応最大ETR算出処理の詳細は、図15乃至図19を参照して後述する。
ステップS103において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS101の処理で得られたデータに基づいて、炭素還元反応最大ETR算出処理を行う。
この炭素還元反応最大ETR算出処理では、上述した図5に示した第2の手順に相当する処理が行われ、環境や植物の種類から決定される炭素還元反応の最大光合成速度に相当する電子伝達速度(ETR)が、炭素還元反応最大ETRとして算出される。なお、炭素還元反応最大ETR算出処理の詳細は、図20及び図21を参照して後述する。
ステップS104において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS102の処理で算出された光化学系反応最大ETRと、ステップS103の処理で算出された炭素還元反応最大ETRとを比較し、その比較結果に応じて、ボトルネックを決定する。
ここでは、光化学系反応の最大値である光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応の最大値である炭素還元反応最大ETRとが比較され、より小さいほうが、ボトルネックであると判断される。すなわち、光化学系反応最大ETRのほうが小さければ、現在の光合成速度は、光化学系反応が律速していることになる。逆に、炭素還元反応最大ETRのほうが小さければ、現在の光合成速度は、炭素還元反応が律速していることになる。
ステップS105において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS104の処理で決定されたボトルネックに応じて、より小さいほうのETR(この量が伝達ETRとして植物を流れ、植物の成長に寄与する)に相当するPPFD値を、実効PPFD値として算出する。この実効PPFD値は、下記の式(1)により算出することができる。
実効PPFD値 = 伝達ETR / (fAPAR × m × ΦPSII) ・・・(1)
ただし、式(1)において、mは、植物に照射される光(太陽光)のうち、PSIIへの分配率であって、約0.5である値を示す。
なお、ステップS104とステップS105の処理が、上述した図5に示した第3の手順に相当する処理となる。
ステップS106において、実効指標演算装置103の制御部172は、ステップS105の処理で算出された実効PPFD値に関するデータを、表示部164に表示する。
ここでは、実効PPFD値のほか、例えば、光化学系反応最大ETRや炭素還元反応最大ETR、伝達ETR、PPFE値など、当該実効PPFD値に関連する各種のデータを、各種の表示形態で表示することができる。なお、実効PPFD値等の表示例は、図22乃至図25を参照して後述する。
ステップS107においては、処理を終了するかどうかが判定される。ステップS107において、処理を終了しないと判定された場合、処理は、ステップS101に戻り、上述したステップS101乃至S106の処理が繰り返される。また、ステップS107において、処理を終了すると判定された場合、図10の実効PPFD値算出処理は終了される。
以上、実効PPFD値算出処理の流れについて説明した。
なお、図10の説明では、ステップS101の処理が、センシング装置101及び環境センサ102により実効され、ステップS102乃至S106の処理が、実効指標演算装置103により実行されるとして説明したが、ステップS102乃至S106の処理は、実効指標演算装置103以外の他の装置が実行するようにしてもよい。
例えば、詳細は後述するが、ステップS102の処理では、PPFD値やNDVI値等の指標を求める必要があるが、この指標を求める処理を、センシング装置101が実行するようにしてもよい。また、ローカル環境としての実効指標演算システム10(図6)の構成ではなく、クラウド環境としての実効指標演算システム11(図9)の構成を採用した場合には、例えば、サーバ109が、ステップS102乃至S106の処理を実行することができる。
(2)センシング装置の測定例
次に、図11乃至図14を参照して、センシング装置101により実行される被測定対象物の測定の例について説明する。
(センシング装置の測定時の構成例)
図11には、被測定対象物を測定するための測定装置として、移動観測を行う移動測定装置70と、定点観測を行う定点測定装置80を示している。
移動測定装置70は、例えば無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)であって、プロペラ状の回転翼71が回転することで飛行し、上空から、圃場の植物等の被測定対象物1をセンシング(空撮)する。
移動測定装置70は、PPFD値を測定するためのセンシング装置101-1と、NDVI値を測定するためのセンシング装置101-2を有している。また、センシング装置101-1とセンシング装置101-2の前方には、所定の形状(例えば、矩形の形状)からなる基準反射板20が取り付けられている。
これにより、移動測定装置70においては、センシング装置101-1とセンシング装置101-2によりセンシングされる対象物(被写体)として、圃場の植物等の被測定対象物1と基準反射板20が、同一の画角内に存在することになる。例えば、基準反射板20としては、反射率が一定となるグレー反射板を用いることができる。
なお、移動測定装置70は、無線操縦のほか、例えば、飛行ルートを座標データとしてあらかじめ記憶しておくことで、GPS(Global Positioning System)などの位置情報を用いて自律飛行するようにしてもよい。また、図11では、移動測定装置70が、回転翼71を有する回転翼機であるとして説明したが、移動測定装置70は、固定翼機であってもよい。
定点測定装置80は、固定脚81によって、圃場の植物等の被測定対象物1をセンシングすることが可能な位置に固定される。定点測定装置80は、移動測定装置70と同様に、PPFD値を測定するためのセンシング装置101-1と、NDVI値を測定するためのセンシング装置101-2を有し、その前方には、所定の形状からなる基準反射板20が取り付けられている。
すなわち、センシング装置101-1とセンシング装置101-2は、移動測定装置70又は定点測定装置80の一部として構成され、被測定対象物1のセンシングを行い、その結果得られる指標測定データを出力することができる。
ここで、図12のAには、横軸を波長(nm)とし、縦軸を反射率としたときの、基準反射板20(図11)の特性の例を示している。図12のAに示すように、基準反射板20の反射率は、約0.18で一定であり、分光反射率の特性がフラットになっている。
図12のBには、横軸を波長(nm)とし、縦軸を反射率としたときの、被測定対象物1(図11)の特性の例を示している。図12のBに示すように、圃場の植物等の被測定対象物1の反射率は、700nm付近までは0に近い値となっているが、700nmの近傍で上昇し、700nmを超える範囲では、約0.8(80%)に近い値となっている。
また、センシング装置101-1は、基準反射板20のPPFD値を測定するための指標測定データを出力するが、PPFD値を算出するためには、RGB信号が必要なる。そのため、センシング装置101-1には、フィルタ143-1として、図13のAに示す特性を有するRGBフィルタ(以下、RGBフィルタ143-1と記述する)が設けられる。
図13のAには、横軸を波長(nm)とし、縦軸を透過率としたときの、RGBフィルタ143-1の特性の例を示している。図13のAに示すように、例えば、RGBフィルタ143-1は、450~495nmの青(B)の光の波長を透過するBフィルタと、495~570nmの緑(G)の光の波長を透過するGフィルタと、620~750nmの赤(R)の光の波長を透過するRフィルタから構成される。
一方で、センシング装置101-2は、圃場の植物等の被測定対象物1のNDVI値を測定するための指標測定データを出力するが、NDVI値を算出するためには、R信号のほか、IR信号が必要となる。そのため、センシング装置101-2には、フィルタ143-2として、図13のBに示す特性を有するIRフィルタ(以下、IRフィルタ143-2と記述する)が設けられる。
図13のBには、横軸を波長(nm)とし、縦軸を透過率としたときの、IRフィルタ143-2の特性の例を示している。図13のBに示すように、例えば、IRフィルタ143-2は、800~940nmの赤外領域(IR)の光の波長を透過する。
(センシング装置の測定時の信号処理の流れ)
次に、図14を参照して、基準反射板20と、被測定対象物1と、RGBフィルタ143-1と、IRフィルタ143-2とが、図12及び図13に示した特性を有している場合に、センシング装置101-1とセンシング装置101-2で処理される信号の流れを説明する。
なお、図14においては、基準反射板20又は被測定対象物1からの反射光に対し、図中の上側の系列が、RGBフィルタ143-1が取り付けられたセンシング装置101-1で処理される信号の流れを示し、図中の下側の系列が、IRフィルタ143-2が取り付けられたセンシング装置101-2で処理される信号の流れを示している。
図14においては、太陽光(環境光)が基準反射板20に反射し、その反射光が、センシング装置101-1とセンシング装置101-2に入射される。この太陽光の分光特性を、分光特性S1で表している。また、基準反射板20の反射光の分光特性を、分光特性S2で表している。すなわち、基準反射板20は、図12のAに示したフラットな反射特性を有しているので、基準反射板20の反射光の分光特性は、分光特性S2のようになる。
また、太陽光は、圃場の植物等の被測定対象物1に反射し、その反射光が、センシング装置101-1とセンシング装置101-2に入射される。被測定対象物1の反射光の分光特性を、分光特性S3で表している。すなわち、被測定対象物1は、図12のBに示した形状の反射特性を有しているので、被測定対象物1の反射光の分光特性は、分光特性S3のようになる。
センシング装置101-1においては、基準反射板20と被測定対象物1の反射光が、レンズ141-1に入射され、RGBフィルタ143-1を通過して、センサ144-1のセンサ面に像を結ぶことになる。
センシング装置101-1において、RGBフィルタ143-1の特性を、分光特性S4で表している。この分光特性S4は、図13のAに示したRGBフィルタの透過特性に対応している。そして、基準反射板20の反射光の分光特性S2と、RGBフィルタ143-1の分光特性S4とを重ねた分光特性S6に示すように、センサ144-1は、そのセンサ面で受光された光を、Br,Gr,Rrの成分のレベルとして出力する。すなわち、このBr,Gr,Rrのレベルに応じた信号が、センシング装置101-1により基準反射板20をセンシングして得られたRGBデータ(RGB信号)となる。
また、被測定対象物1の反射光の分光特性S3と、RGBフィルタ143-1の分光特性S4とを重ねた分光特性S7に示すように、センサ144-1は、そのセンサ面で受光された光を、Bp,Gp,Rpの成分のレベルとして出力する。すなわち、このBp,Gp,Rpのレベルに応じた信号が、センシング装置101-1により被測定対象物1(圃場の植物)をセンシングして得られたRGBデータ(RGB信号)となる。
信号処理部145-1は、センサ144-1からのデータを並び替える処理などを行い、その結果得られるデータを、I/F部146-1を介して出力する。
一方で、センシング装置101-2においては、基準反射板20と被測定対象物1の反射光が、レンズ141-2に入射され、IRフィルタ143-2を通過して、センサ144-2のセンサ面に像を結ぶことになる。
センシング装置101-2において、IRフィルタ143-2の特性を、分光特性S5で表している。この分光特性S5は、図13のBに示したIRフィルタの透過特性に対応している。そして、基準反射板20の反射光の分光特性S2と、IRフィルタ143-2の分光特性S5とを重ねた分光特性S8に示すように、センサ144-2は、そのセンサ面で受光された光を、IRrの成分のレベルとして出力する。すなわち、このIRrのレベルに応じた信号が、センシング装置101-2により基準反射板20をセンシングして得られたIRデータ(IR信号)となる。
また、被測定対象物1の反射光の分光特性S3と、IRフィルタ143-2の分光特性S5とを重ねた分光特性S9に示すように、センサ144-2は、そのセンサ面で受光された光を、IRpの成分のレベルとして出力する。すなわち、このIRpのレベルに応じた信号が、センシング装置101-2により被測定対象物1(圃場の植物)をセンシングして得られたIRデータ(IR信号)となる。
信号処理部145-2は、センサ144-2からのデータを並び替える処理などを行い、その結果得られるデータを、I/F部146-2を介して出力する。
以上のように、センシング装置101-1とセンシング装置101-2によりセンシングが行われることで、被測定対象物1と基準反射板20を含むセンシング画像のRGBデータ(RGB信号)とIRデータ(IR信号)とが、指標測定データとして取得される。
なお、図11乃至図14においては、センシング装置101-1とセンシング装置101-2が2台設けられる例を説明したが、センシング装置101の台数は、2台に限定されることはない。例えば、センシング装置101において、センサ144が、配列パターン144C(図7)の画素配列を有することで、RGB信号のほかに、IR信号を取得することができるため、このようなセンサ144を用いる場合には、センシング装置101を1台で構成することができる。ただし、センシング装置101-1のように、フィルタ143として、RGBフィルタとIRカットフィルタの組み合わせを用いることで、通常のカメラと同様の構成とすることができる。
(3)光化学系反応最大ETR算出処理
(光化学系反応最大ETR算出処理の流れ)
次に、図15のフローチャートを参照して、図10のステップS102に対応する光化学系反応最大ETR算出処理の詳細について説明する。
ステップS121において、実効指標演算装置103の処理部162は、指標測定データとして、センシング装置101-1(図11)によるセンシングで得られたRGBデータと、センシング装置101-2(図11)によるセンシングで得られたIRデータを取得する。すなわち、ここでは、RGBデータとIRデータの画像データが、処理部162に取り込まれることになる。
ステップS122において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS121の処理で取得されたRGBデータに基づいて、記憶部163に記憶された係数算出用LUT(LUT1)を参照して、PPFD値の算出に必要となる係数W1,係数W2,係数W3を取得する。
具体的には、まず、RGBデータ(に対応したセンシング画像)における基準反射板20の領域に対応する各画素から得られる、Br信号、Gr信号、及びRr信号をそれぞれ平均化することで、Br-ave信号、Gr-ave信号、及びRr-ave信号が得られる。次に、この平均化の処理で得られる、Br-ave信号、Gr-ave信号、及びRr-ave信号に基づいて、Br-ave信号とRr-ave信号との比又はBr-ave信号とGr-ave信号との比を算出することで、Br-ave/Rr-ave値又はBr-ave/Gr-ave値が得られる。
ここで、図16のAには、係数算出用LUT(LUT1)の例を示している。図16のAに示すように、係数算出用LUT(LUT1)には、Br-ave/Rr-ave値又はBr-ave/Gr-ave値と、係数W1,係数W2,係数W3とが対応付けられている。したがって、係数算出用LUT(LUT1)から、Br-ave/Rr-ave値又はBr-ave/Gr-ave値から予測される分光特性の傾きに応じた係数W1,係数W2,係数W3を取得することができる。
これらの関係は、下記の式(2)のように表すことができる。
W1, W2, W3 = LUT1(Br-ave / Rr-ave, Br-ave / Gr-ave) ・・・(2)
なお、ここでは、係数算出用LUT(LUT1)を参照するに際し、Br-ave信号とRr-ave信号との比、又はBr-ave信号とGr-ave信号との比を用いる場合を説明したが、Gr-ave信号とRr-ave信号との比、すなわち、Gr-ave/Rr-ave値を用いるようにしてもよい。
図15の説明に戻り、ステップS123において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS121の処理で得られるRGBデータ、及び、ステップS122の処理で得られる係数Wに基づいて、基準反射板20のPPFD値を算出する。
ここでは、下記の式(3)に示すように、Br-ave信号、Gr-ave信号、Rr-ave信号に対し、係数W1,係数W2,係数W3をそれぞれ乗ずることで、B信号のPPFD値(PPFD(b))、G信号のPPFD値(PPFD(g))、R信号のPPFD値(PPFD(r))を求めることができる。
PPFD(b) = W1 × Br-ave
PPFD(g) = W2 × Gr-ave
PPFD(r) = W3 × Rr-ave ・・・(3)
このようにして基準反射板20のPPFD値を算出する理由であるが、次の通りである。すなわち、PPFD値は、被測定対象物1の反射率によって変化するものではなく、日向であれば、基準反射板20に照射されるPPFD値も、被測定対象物1に照射されるPPFD値も同じ値となる。そして、ここでは、逆にこれを前提にして、反射率が変化しない基準反射板20の反射光を捉えることで、基準反射板20のPPFD値を求めるようにしている。なお、ステップS122,S123の処理で算出されるPPFD値の算出方法の詳細については、図18及び図19を参照して後述する。
ステップS124において、実効指標演算装置103の処理部162は、指標測定データとして、センシング装置101-1(図11)によるセンシングで得られたRGBデータと、センシング装置101-2(図11)によるセンシングで得られたIRデータを取得する。すなわち、ここでは、RGBデータとIRデータの画像データが、処理部162に取り込まれることになる。
ステップS125において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS124の処理で取得されたRGBデータとIRデータに基づいて、被測定対象物1の反射率とNDVI値を算出する。
ここでは、基準反射板20の反射率が既知、すなわち、B,G,R,IRの各成分で、同一の18%の反射率であることがわかっている。そこで、この反射率の値に対し、被測定対象物1の反射光に相当する、Bp-ave信号、Gp-ave信号、Rp-ave信号、及びIRp-ave信号と、Br-ave信号、Gr-ave信号、Rr-ave信号、及びIRr-ave信号との比をとることで、被測定対象物1の反射率を求めることができる。
なお、Bp-ave信号、Gp-ave信号、Rp-ave信号、及びIRp-ave信号は、RGBデータ(に対応したセンシング画像)における被測定対象物1の領域に対応する各画素から得られるBp信号、Gp信号、Rp信号、及びIRp信号をそれぞれ平均化することで得られる。また、Br-ave信号、Gr-ave信号、Rr-ave信号、及びIRr-ave信号は、RGBデータ(に対応したセンシング画像)における基準反射板20の領域に対応する各画素から得られるBr信号、Gr信号、Rr信号、及びIRr信号をそれぞれ平均化することで得られる。
すなわち、被測定対象物1に対するB,G,R,IRの各成分の反射率は、下記の式(4)により求めることができる。
Dp(b) = Dr(18%) × Bp-ave / Br-ave
Dp(g) = Dr(18%) × Gp-ave / Gr-ave
Dp(r) = Dr(18%) × Rp-ave / Rr-ave
Dp(ir) = Dr(18%) × IRp-ave / IRr-ave ・・・(4)
そして、この式(4)により求められる値を利用することで、NDVI値を、下記の式(5)により求めることができる。
NDVI値 = (Dp(ir) - Dp(r)) / (Dp(ir) + Dp(r)) ・・・(5)
ただし、式(5)において、Dp(ir)は、赤外領域の反射率を表し、Dp(r)は、可視領域の赤(R)の反射率を表している。このNDVI値(正規化植生指数)は、被測定対象物1としての圃場の植物の分布状況や活性度を示す指標となる。
なお、Bp-ave信号などは、センシングで得られるセンシング画像(撮像画像)における、被測定対象となる植物が含まれる領域全体から算出してもよいし、あるいは、当該領域を複数の小領域に分けて、小領域ごとに算出されるようにしてもよい。このように小領域ごとに分けることで、例えば、2次元情報を表示する際に、植物の領域ごとの分布図を生成することができる。
ただし、このような処理を行う前提として、センシングで得られるセンシング画像(撮像画像)に含まれる、植物の領域を認識する処理が必要となる。ここで、植物の領域を認識するための処理としては、公知の画像認識処理を用いることができる。また、画像認識処理の代わりに、ユーザが、センシング画像から、植物の領域を特定するようにしてもよい。
ステップS126において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS125の処理で算出された被測定対象物1の反射率とNDVI値に基づいて、記憶部163に記憶されたfAPAR算出用LUT(LUT2)を参照することで、被測定対象物1の光合成有効放射吸収率(fAPAR)を取得する。
ここで、植物(植生)に照射された光は、反射光と、透過光と、吸収光とに分離され、これらの光のうち、光合成に活用されるのは、吸収光のみである。これを、植物の反射率と、透過率と、吸収率との関係で表すと、下記の式(6)のように表すことができる。
1 = (反射率) + (透過率) + (吸収率) ・・・(6)
一般に、植物の葉の反射率と透過率は、同等程度であり、その残りの光が吸収されることになる。しかしながら、葉面積指数(LAI:Leaf Area Index)が、2や3程度になると、葉が重なり合って、透過光の反射と吸収を繰り返し、下記の式(7)に、近づくことになる。なお、葉面積指数(LAI)は、単位地表面積当たりの葉面積の合計値を表している。
1 = (反射率) + (吸収率) ・・・(7)
また、葉面積指数(LAI)の変化は、正規化植生指数(NDVI)と相関があることが知られている。そこで、fAPAR算出用LUT(LUT2)として、1 - Dp(反射率)を横軸にとり、NDVI値の大きさに応じて、光合成有効放射吸収率(fAPAR)が変化するルックアップテーブルをあらかじめ用意する。
図16のBには、fAPAR算出用LUT(LUT2)を例示している。このfAPAR算出用LUT(LUT2)では、NDVI値(葉面積指数(LAI))が大きい場合と、NDVI値(葉面積指数(LAI))が小さい場合のルックアップテーブル(LUT)がそれぞれ用意されている。したがって、fAPAR算出用LUT(LUT2)から、被測定対象物1の反射率とNDVI値に応じて、被測定対象物1の光合成有効放射吸収率(fAPAR)を取得することができる。
これらの関係は、被測定対象物1に対するB,G,Rの各成分の光合成有効放射吸収率(fAPAR)を、fAPAR(b),fAPAR(g),fAPAR(r)とすれば、下記の式(8)のように表すことができる。
fAPAR(b) = LUT2(1 - Dp(b))
fAPAR(g) = LUT2(1 - Dp(g))
fAPAR(r) = LUT2(1 - Dp(r)) ・・・(8)
なお、上述したように、fAPARの値を算出するための参照情報としては、fAPAR算出用LUT(LUT2)に限らず、例えば、fAPARの値を算出するための関数に値を代入することで、NDVI値から、fAPARの値を直接求めるようにすることができる。
図17には、fAPAR算出用関数を例示している。このfAPAR算出用関数では、下記の式(8A)に示すように、NDVI値から直接、fAPARの値を算出することができる。
fAPAR = Gain(NDVI) ・・・(8A)
ただし、式(8A)においては、fAPAR(b) = fAPAR(g) = fAPAR(r)の関係を有することになる。また、式(8A)では、Dpの値を用いておらず、上述のfAPAR算出用LUT(LUT2)のように、Dpの値とNDVI値を用いた場合と比べれば、若干精度が低下する可能性はあるが、fAPARの値を求めるための処理を簡略化することができる。
図15の説明に戻り、ステップS127において、実効指標演算装置103の算出部171は、記憶部163に記憶されたΦPSII算出用LUT(LUT3)を参照して、被測定対象物1における光化学系反応の量子収率(ΦPSII)を取得する。
ここで、光化学系反応の量子収率(ΦPSII)は、クロロフィル蛍光測定を行うことで、その様子を観測することができる。すなわち、光化学系反応の量子収率(効率)は、植物の育った場所や環境、季節などにより異なる。そこで、ターゲットとする植物に対し、定期的なクロロフィル蛍光測定を行い、ΦPSII算出用LUT(LUT3)として、場所、環境、季節に応じてΦPSIIが変化するLUTをあらかじめ用意する。
図16のCには、ΦPSII算出用LUT(LUT3)を例示している。このΦPSII算出用LUT(LUT3)では、C3植物について、例えば場所ごとに、春・秋、夏、冬などの各季節に応じたルックアップテーブルが用意されている。したがって、例えば、被測定対象物1がC3植物である場合に、ΦPSII算出用LUT(LUT3)から、その測定時期や測定場所などに応じて、当該被測定対象物1における光化学系反応の量子収率(ΦPSII)を取得することができる。
これらの関係は、下記の式(9)のように表すことができる。
ΦPSII = LUT3(季節、場所、種類) ・・・(9)
なお、C3植物とは、光合成の際に吸収される二酸化炭素(CO2)が、植物体内で最初にどのような有機物に合成されるかにより分類されたものであって、還元的ペントースリン酸回路だけにより光合成炭素同化を行う植物である。また、このような分類には、C3植物のほかに、C4植物やCAM植物なども存在するが、例えばC4植物の測定を行う場合には、C4植物用のΦPSII算出用LUT(LUT3)をあらかじめ用意しておく必要がある。
また、例えば、植物ごとに、季節と場所に応じたデータを蓄積して、データベース化しておいて、当該データベースに蓄積されたデータを利用してΦPSII算出用LUT(LUT3)を作成することで、より最適なΦPSII算出用LUT(LUT3)を用意することができる。ただし、植物の種類、季節、場所以外のパラメータが含まれるようにしてもよい。また、当該データベースに蓄積されたデータに対する機械学習を行ってもよい。
図15の説明に戻り、ステップS128において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS121乃至S127の処理で得られたデータに基づいて、被測定対象物1における光化学系反応最大ETRを算出する。
ここで、光化学系反応最大ETRの算出方法であるが、まず、植物に照射された光量子量(PPFD値)のうち、当該植物に有効に吸収された光量子量(実際に当該植物の成長に寄与したと考えられる光量子量)を求めるために、ステップS123の処理で得られたPPFD値に対し、ステップS126の処理で得られたfAPARを乗ずる。
次に、PPFD値とfAPARとを乗じて得られた値に対し、植物に照射された光のうち、PSIIへの分配率m(一般的には0.5とみなされる)と、ステップS127の処理で得られた光化学系反応の量子収率(ΦPSII)を乗ずる。これにより、光化学系反応最大ETRが算出される。
すなわち、被測定対象物1に対するB,G,Rの各成分の光化学系反応最大ETRを、ETR1(b),ETR1(g),ETR1(r)とすれば、光化学系反応最大ETRは、ETR1として、下記の式(10)と、式(11)を演算することで求められる。
ETR1(b) = PPFD(b) × fAPAR(b) × m ×ΦPSII
ETR1(g) = PPFD(g) × fAPAR(g) × m ×ΦPSII
ETR1(r) = PPFD(r) × fAPAR(r) × m ×ΦPSII ・・・(10)
ETR1 = ETR1(b) + ETR1(g) + ETR1(r) ・・・(11)
なお、植物生理学の分野では、ΦPSIIは、明状態における光化学系の反応速度と、炭素還元反応速度が釣り合った状態の光化学系反応効率を示す。すなわち、炭素還元反応速度に応じて、光化学系反応効率も変化する。一方で、本技術では、植物に照射されて吸収された光量子量(PPFD値)から、炭素還元反応速度を無限大とした場合の明状態の光化学系の反応効率のことを、ΦPSIIとして定義している。
ステップS128の処理が終了すると、処理は、図10のステップS102に戻り、それ以降の処理が実行される。
以上、光化学系反応最大ETR算出処理の流れについて説明した。この光化学系反応最大ETR算出処理では、光化学系反応から出力されるエネルギーに相当する電子伝達速度(ETR)が、光化学系反応最大ETRとして算出される。
なお、光化学系反応最大ETR算出処理では、センシング(撮像)の結果得られる撮像画像内に、複数種類の植物が存在する場合には、各植物の領域ごとに、実効PPFD値を求めるために用いるルックアップテーブルを切り替えるようにしてもよい。これにより、1つの画面内に、複数の植物が映っている場合でも、同時に適切な実効PPFD値を提示することが可能となる。
(PPFD値の算出方法の詳細)
ここで、図18乃至図19を参照して、図15のステップS122,S123の処理で算出されるPPFD値の算出方法の詳細について説明する。
(実効指標演算装置の処理部の構成)
図18は、図8の実効指標演算装置103の処理部162(の算出部171)の詳細な構成例を示す図である。
図18において、実効指標演算装置103の算出部171は、PPFD値の算出するために、B/R値算出部221-1、B/G値算出部221-2、G/R値算出部221-3、W1決定部222-1、W2決定部222-2、W3決定部222-3、乗算器223-1、乗算器223-2、及び乗算器223-3を含んでいる。
算出部171においては、センシング装置101-1から入力されるRGBデータから得られるBr-ave信号、Gr-ave信号、及びRr-ave信号のうち、Br-ave信号は、B/R値算出部221-1とB/G値算出部221-2と乗算器223-1に入力される。また、Gr-ave信号は、B/G値算出部221-2とG/R値算出部221-3と乗算器223-2に入力され、Rr-ave信号は、B/R値算出部221-1とG/R値算出部221-3と乗算器223-3に入力される。
B/R値算出部221-1は、そこに入力されるBr-ave信号を、Rr-ave信号で除算し、その結果得られるBr-ave/Rr-ave値を、W1決定部222-1乃至W3決定部222-3のそれぞれに出力する。
B/G値算出部221-2は、そこに入力されるBr-ave信号を、Gr-ave信号で除算し、その結果得られるBr-ave/Gr-ave値を、W1決定部222-1乃至W3決定部222-3のそれぞれに出力する。
G/R値算出部221-3は、そこに入力されるGr-ave信号を、Rr-ave信号で除算し、その結果得られるGr-ave/Rr-ave値を、W1決定部222-1乃至W3決定部222-3のそれぞれに出力する。
W1決定部222-1は、そこに入力されるBr-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値に応じた係数W1を決定し、乗算器223-1に出力する。乗算器223-1は、そこに入力されるBr-ave信号に、W1決定部222-1からの係数W1を乗じる。
W2決定部222-2は、そこに入力されるBr-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値に応じた係数W2を決定し、乗算器223-2に出力する。乗算器223-2は、そこに入力されるGr-ave信号に、W2決定部222-2からの係数W2を乗じる。
W3決定部222-3は、そこに入力されるBr-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-aveに応じた係数W3を決定し、乗算器223-3に出力する。乗算器223-3は、そこに入力されるRr-ave信号に、W3決定部222-3からの係数W3を乗じる。
ここで、B信号(Br-ave信号)、G信号(Gr-ave信号)、R信号(Rr-ave信号)の各値のそれぞれに対し、係数W1,係数W2,係数W3をそれぞれ乗じる理由について説明する。図19には、PPFD値と、RGBの色成分の値との関係を示している。図19のAは、屋外における太陽光の分光特性を示している。また、図19のBは、通常のカメラのセンサから出力されるRGB信号を示している。
図19のAにおいては、時間や季節、天候などの条件に応じた太陽光の分光特性として、夏の太陽光、夕方の太陽光、日陰の太陽光、及びくもりの太陽光の分光特性を示している。このとき、PPFD値は、太陽光の各波長のレベルに、各波長を乗じた値の積分値として得ることができる。すなわち、PPFD値は、次の式(12)により算出される。
なお、この式(12)において、Aは、波長のレベルを表し、λ(nm)は、波長を表している。また、λ=400nm~700nmは、光合成有効光量子束密度(PPFD)の葉緑素(クロロフィル)の吸収波長に対応している。さらに、C1は、係数である。
図19のAにおいては、夏の太陽光のPPFD値として1500umol、夕方の太陽光のPPFD値として660umol、日陰の太陽光のPPFD値として500umol、くもりの太陽光のPPFD値として100umolがそれぞれ算出されている。このように、太陽光の分光特性の傾きによって、PPFD値は大きく異なっている。
一方で、図19のBに示すように、通常のカメラでは、入射光が、B,G,Rの帯域に分割され、その領域の信号が積分された値が、センサから出力される。ここで、通常のカメラのセンサから出力されるRGBの信号から、PPFD値を求めるためには、B信号、G信号、R信号の各値に対し、それぞれの係数W1,係数W2,係数W3を乗じて、PPFD値として求められるべき値と同等の結果が得られるように、係数W1,係数W2,係数W3を制御すればよい。
ここで、センシング装置101-1においては、フィルタ143-1が、RGBフィルタ(RGBフィルタ143-1)とIRカットフィルタから構成されるため、通常のカメラと同様に、センサ144-1からの出力がRGBの信号となる。
そのため、センシング装置101-1からのRGBデータを処理する実効指標演算装置103の算出部171においても、B信号(Br-ave信号)、G信号(Gr-ave信号)、R信号(Rr-ave信号)の各値に対し、それぞれの係数W1,係数W2,係数W3を乗じて、PPFD値として求められるべき値と同等の結果が得られるように、係数W1,係数W2,係数W3を制御すればよいことになる。
すなわち、実効指標演算装置103の算出部171においては、次の式(13)の関係を満たすように、係数W1,係数W2,係数W3を制御すればよいと言える。
PPFD = C2 × (W1 × B + W2 × G + W3 × R) ・・・(13)
なお、この式(13)において、B,G,Rは、B信号(Br-ave信号),G信号(Gr-ave信号),R信号(Rr-ave信号)の各値をそれぞれ表し、W1,W2,W3は、係数W1,係数W2,係数W3をそれぞれ表している。また、C2は、係数である。
ここで、図18の算出部171において、W1決定部222-1は、Br-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値に応じた係数W1を決定している。同様に、W2決定部222-2は、Br-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値に応じた係数W2を決定し、W3決定部222-3は、Br-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値に応じた係数W3を決定している。
すなわち、W1決定部222-1乃至W3決定部222-3では、センシング装置101-1からのRGBデータから得られるBr-ave信号、Gr-ave信号、Rr-ave信号の各値から、Br-ave信号とRr-ave信号との比、Br-ave信号とGr-ave信号との比、又はGr-ave信号とRr-ave信号との比を算出することで、その比の値(Br-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値)から、太陽光の分光特性の傾きを予測することができる。
そして、実効指標演算装置103においては、記憶部163に、太陽光の分光特性の傾き(Br-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値から予測される分光特性の傾き)と、係数W1,係数W2,係数W3とを対応付けた係数算出用LUT(LUT1)を記憶しておくようにする。これにより、算出部171のW1決定部222-1乃至W3決定部222-3では、この係数算出用LUT(LUT1)から、Br-ave/Rr-ave値、Br-ave/Gr-ave値、又はGr-ave/Rr-ave値から予測される分光特性の傾きに応じた係数W1乃至係数W3を決定することができる。
すなわち、W1決定部222-1では、係数算出用LUT(LUT1)を参照することで、Br-ave/Rr-ave値等から予測された分光特性の傾きに応じた係数W1が決定される。その結果、乗算器223-1では、Br-ave信号に、W1決定部222-1により決定された係数W1が乗じられ、B信号のPPFD値(W1×Br-ave)が求められる。
また、W2決定部222-2では、係数算出用LUT(LUT1)を参照することで、Br-ave/Rr-ave値等から予測された分光特性の傾きに応じた係数W2が決定される。その結果、乗算器223-2では、Gr-ave信号に、W2決定部222-2により決定された係数W2が乗じられ、G信号のPPFD値(W2×Gr-ave)が求められる。
また、W3決定部222-3では、係数算出用LUT(LUT1)を参照することで、Br-ave/Rr-ave値等から予測された分光特性の傾きに応じた係数W3が決定される。その結果、乗算器223-3では、Rr-ave信号に、W3決定部222-3により決定された係数W3が乗じられ、R信号のPPFD値(W3×Rr-ave)が求められる。
そして、算出部171では、上述の式(13)に従い、乗算器223-1からの出力(W1×Br-ave)と、乗算器223-2からの出力(W2×Gr-ave)と、乗算器223-3からの出力(W3×Rr-ave)が加算されることで、PPFD値(W1×Br-ave + W2×Gr-ave + W3×Rr-ave)が算出される。
以上、PPFD値の算出方法の詳細について説明した。
なお、ここでは、例えば、グレー反射板等の分光反射特性がフラットな基準反射板を用いた場合を例に説明したが、分光反射特性がフラットではない領域(例えば、スタジアムにおけるアンツーカなど)を基準反射板(基準反射領域)として用いる場合には、当該基準反射領域の反射の影響で、センシング装置101-1から出力されるRGBデータは、グレー反射板などを用いた場合とは異なる。しかしながら、この場合でも、アンツーカ等の分光反射特性がフラットではない基準反射領域に応じた係数算出用LUT(LUT1)をあらかじめ用意して、PPFD値の算出の際には、当該係数算出用LUT(LUT1)を用いることで、グレー反射板等の分光反射特性がフラットな基準反射板を用いた場合のPPFD値と同じ結果を得ることができる。
(4)炭素還元反応最大ETR算出処理
炭素還元反応は、カルビンサイクル(カルビン回路)内で、3つの反応過程を経る反応である。第1の反応過程は、二酸化炭素(CO2)を、CO2受容体の炭素骨格に連結させるカルボキシレーション反応である。第2の反応過程は、光化学的に生産されたニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)とアデノシン三リン酸(ATP)のエネルギーと、還元力を使って炭水化物(糖やデンプン)を生成する還元反応である。第3の反応過程は、CO2受容体であるリブロース-1,5-二リン酸を生成する再生産反応である。
これらの反応は、CO2濃度や温度、湿度、植物の種類によって、その反応速度が大きく異なる。なお、植物の特性であるが、例えば、C3植物、C4植物、及びCAM植物の分類だけでなく、植物の種類によって異なる特性を有している。これらの要素を網羅的に把握することは困難であるが、植物の種類を固定し、さらに限られた環境内であれば、その変化の様子を測定することは可能である。
この種の測定方法としては、一般にガス交換測定方法が用いられ、光やCO2濃度、温度、湿度を制御しつつ、CO2濃度の変化をとらえることで、炭素還元反応の光合成速度を測定することができる。そして、この測定方法を利用することで、CO2律速光合成速度用LUT(LUT4)、温度補正係数用LUT(LUT5)、及び湿度補正係数用LUT(LUT6)を作成することができる。なお、ここでは、湿度の代わりに、飽差を用いてもよい。例えば、植物の気孔の開閉は、飽差に強く影響し、乾燥で気孔が閉じると、CO2吸収が阻害され、炭素還元反応の低下を引き起こすことになる。
例えば、植物の種類、季節、場所ごとに、CO2濃度に依存する(光化学系反応に律速しない)炭素還元反応の光合成速度(ETR)を、ある温度と湿度において測定することで、CO2濃度と光合成速度とを対応付けたCO2律速光合成速度用LUT(LUT4)を作成することができる。同様に、植物の種類、季節、場所ごとに、温度と湿度を変化させた場合に、その変化量を、それぞれ、補正係数Tと補正係数Fとすることで、温度と補正係数Tとを対応付けた温度補正係数用LUT(LUT5)、及び、湿度と補正係数Fとを対応付けた湿度補正係数用LUT(LUT6)を作成することができる。
(炭素還元反応最大ETR算出処理の流れ)
ここで、図20のフローチャートを参照して、図10のステップS103に対応する炭素還元反応最大ETR算出処理の詳細について説明する。
ステップS141において、実効指標演算装置103の処理部162は、環境センサ102(図6)によるセンシングで得られた環境測定データとして、CO2濃度と、温度と、湿度のデータを取得する。
ステップS142において、実効指標演算装置103の算出部171は、記憶部163に記憶されたCO2律速光合成速度用LUT(LUT4)を参照して、ステップS141の処理で得られたCO2濃度に律速する光合成速度を取得する。
図21のAには、CO2律速光合成速度用LUT(LUT4)を例示している。このCO2律速光合成速度用LUT(LUT4)では、C3植物のA植物について、例えば、季節と場所ごとに、CO2濃度と光合成速度とを対応付けたルックアップテーブルが複数用意されている。したがって、例えば、被測定対象物1がC3植物のA植物である場合に、CO2律速光合成速度用LUT(LUT4)から、その測定時期や測定場所などに応じて、測定されたCO2濃度に律速する光合成速度(ETR)を取得することができる。
これらの関係は、下記の式(14)のように表すことができる。
ETR@CO2 = LUT4(CO2濃度) ・・・(14)
図20の説明に戻り、ステップS143において、実効指標演算装置103の算出部171は、記憶部163に記憶された温度補正係数用LUT(LUT5)を参照して、ステップS141の処理で得られた温度に応じた補正係数Tを取得する。
図21のBには、温度補正係数用LUT(LUT5)を例示している。この温度補正係数用LUT(LUT5)では、C3植物のA植物について、例えば、季節と場所ごとに、温度と補正係数Tとを対応付けたルックアップテーブルが複数用意されている。したがって、例えば、被測定対象物1がC3植物のA植物である場合に、温度補正係数用LUT(LUT5)から、その測定時期や測定場所に応じて、測定された温度に応じた補正係数Tを取得することができる。
これらの関係は、下記の式(15)のように表すことができる。
T = LUT5(温度) ・・・(15)
図20の説明に戻り、ステップS144において、実効指標演算装置103の算出部171は、記憶部163に記憶された湿度補正係数用LUT(LUT6)を参照して、ステップS141の処理で得られた湿度に応じた補正係数Fを取得する。
図21のCは、湿度補正係数用LUT(LUT6)を例示している。この湿度補正係数用LUT(LUT6)では、C3植物のA植物について、例えば、季節と場所ごとに、湿度と補正係数Fとを対応付けたルックアップテーブルが複数用意されている。したがって、例えば、被測定対象物1がC3植物のA植物である場合に、湿度補正係数用LUT(LUT6)から、その測定時期や測定場所に応じて、測定された湿度に応じた補正係数Fを取得することができる。
これらの関係は、下記の式(16)のように表すことができる。
F = LUT6(温度) ・・・(16)
図20の説明に戻り、ステップS145において、実効指標演算装置103の算出部171は、ステップS141乃至S144の処理で得られたデータに基づいて、被測定対象物1における炭素還元反応最大ETRを算出する。
ここで、炭素還元反応最大ETRの算出方法であるが、CO2濃度に律速する光合成速度(ETR)に対し、温度の補正係数Tと湿度の補正係数Fを乗じることで求められる。すなわち、炭素還元反応最大ETRを、ETR2とすれば、下記の式(17)を演算することで求められる。
ETR2 = ETR@CO2 × T × F ・・・(17)
ステップS145の処理が終了すると、処理は、図10のステップS103に戻り、それ以降の処理が実行される。
以上、炭素還元反応最大ETR算出処理の流れについて説明した。この炭素還元反応最大ETR算出処理では、環境や植物の種類から決定される炭素還元反応の最大光合成速度に相当する電子伝達速度(ETR)が、炭素還元反応最大ETRとして算出される。
なお、炭素還元反応最大ETR算出処理では、光化学系反応最大ETR算出処理と同様に、センシング(撮像)の結果得られる撮像画像内に、複数種類の植物が存在する場合には、各植物の領域ごとに、実効PPFD値を求めるために用いるルックアップテーブルを切り替えることができる。これにより、1つの画面内に、複数の植物が映っている場合でも、同時に適切な実効PPFD値を提示することが可能となる。
(5)実効PPFD値等の表示例
次に、図22乃至図25を参照して、図10のステップS106の処理で表示される実効PPFD値に関するデータの表示例について説明する。
本技術の発明者は、実際のある日において、環境の違いにより、圃場の植物等の被測定対象物1のPPFD値と、その実効PPFD値がどのように変化するのかを確認するために、以下の(a)乃至(d)の環境下で、シミュレーション(以下、第1のシミュレーションという)を行った。
(a)環境A:日向、1日の平均気温15度
(b)環境B:日陰、1日の平均気温15度
(c)環境C:日向、1日の平均気温3度
(d)環境D:日陰、1日の平均気温3度
以下、環境A乃至Dの環境下でのシミュレーションの結果得られたデータを例示する。ただし、ここでの被測定対象物1は、植物であるものとする。
(5-1)環境A(日向、平均気温15度)の表示例
図22は、環境AにおけるPPFD値と実効PPFD値等の表示例を示す図である。
図22において、横軸は、時間を示し、ある日の朝の6:00から次の日の6:00までの24時間を、30分単位の目盛りで刻んでいる。縦軸は、異なる線種からなる線L1乃至L5で表された、環境Aのシミュレーションの結果得られたデータの値を示し、その単位は、umol/m2/sとされる。なお、これらの軸の関係は、後述する図23乃至図25においても同様とされる。
環境Aは、植物が日向に存在し、その周辺の1日の平均気温が15度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1Aは、植物の日向部分に照射された太陽光のPPFD値(日向・PPFD値)の変化を示している。線L2Aは、植物の日向部分に照射された太陽光が、植物の光化学系反応でエネルギーに変換されたときの光化学系反応最大ETR(日向・光化学系反応最大ETR)の変化を示している。
線L3Aは、平均気温15度等の環境に応じて決定される、植物の炭素還元反応最大ETR(炭素還元反応最大ETR(平均気温15度))の変化を示している。線L4Aは、環境Aでの伝達ETR(日向・伝達ETR(平均気温15度))の変化を示している。すなわち、線L2Aで示される日向・光化学系反応最大ETRと、線L3Aで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)とが比較され、その値が小さいほうが、ボトルネックであると判断され、植物中を伝達する伝達ETRが決定される。
ここでは、日向・光化学系反応最大ETRよりも、炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)のほうが、その値が小さいので、炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)が、ボトルネックであると判断され、日向・伝達ETR(平均気温15度)とされる。その結果、図22において、線L4Aは、線L3Aの一部と重なっている。
そして、線L4Aは、日向・伝達ETR(平均気温15度)であって、実際に植物の成長に寄与した値を示しており、この線L4Aの内側の部分(図22の斜線で示した部分)の面積が、植物の成長量に比例することになる。なお、厳密には、植物の成長は、光補償点、光飽和点など、糖が転流する仕組みによっても左右されることになる。
線L5Aは、環境Aでの実効PPFD値(日向・実効PPFD値(平均気温15度))の変化を示している。線L5Aで示される日向・実効PPFD値(平均気温15度)は、線L4Aで示される日向・伝達ETR(平均気温15度)の値を、植物の日向部分に照射された太陽光の照射量に換算することで得られる。
(5-2)環境B(日陰、平均気温15度)の表示例
図23は、環境BにおけるPPFD値と実効PPFD値等の表示例を示す図である。
環境Bは、植物が日陰に存在し、その周辺の1日の平均気温が15度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1Bは、植物の日陰部分に照射された太陽光のPPFD値(日陰・PPFD値)の変化を示している。線L2Bは、植物の日陰部分に照射された太陽光が、植物の光化学系反応でエネルギーに変換されたときの光化学系反応最大ETR(日陰・光化学系反応最大ETR)の変化を示している。
線L3Bは、平均気温15度等の環境に応じて決定される、植物の炭素還元反応最大ETR(炭素還元反応最大ETR(平均気温15度))の変化を示している。線L4Bは、環境Bでの伝達ETR(日陰・伝達ETR(平均気温15度))の変化を示している。すなわち、ここでは、炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)よりも、日陰・光化学系反応最大ETRのほうが、その値が小さいので、日陰・光化学系反応最大ETRが、ボトルネックであると判断され、日陰・伝達ETR(平均気温15度)とされる。その結果、図23において、線L4Bは、線L2Bの一部と重なっている。
そして、線L4Bは、日陰・伝達ETR(平均気温15度)であって、実際に植物の成長に寄与した値を示しており、この線L4Bの内側の部分(図23の斜線で示した部分)の面積が、植物の成長量に比例することになる。線L5Bは、環境Bでの実効PPFD値(日陰・実効PPFD値(平均気温15度))の変化を示し、線L4Bで示される日陰・伝達ETR(平均気温15度)の値を、植物の日陰部分に照射された太陽光の照射量に換算することで得られる。
なお、このシミュレーションの結果得られたデータの例で、早朝の時間帯に、線L3B等で示した炭素還元反応ETRが急激に低下している理由であるが、炭素還元反応ETRの算出条件において、飽差条件も加味しているためである。すなわち、測定対象のスタジアムにおいては、早朝に散水するために過湿となり、植物(芝)の気孔が閉じていることを反映させるために、飽差条件を加味している。
(5-3)環境C(日向、平均気温3度)の表示例
図24は、環境CにおけるPPFD値と実効PPFD値等の表示例を示す図である。
環境Cは、植物が日向に存在し、その周辺の1日の平均気温が3度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1Cは、植物の日向部分に照射された太陽光のPPFD値(日向・PPFD値)の変化を示している。線L2Cは、植物の日向部分に照射された太陽光が、植物の光化学系反応でエネルギーに変換されたときの光化学系反応最大ETR(日向・光化学系反応最大ETR)の変化を示している。
線L3Cは、平均気温3度等の環境に応じて決定される、植物の炭素還元反応最大ETR(炭素還元反応最大ETR(平均気温3度))の変化を示している。線L4Cは、環境Cでの伝達ETR(日向・伝達ETR(平均気温3度))の変化を示している。すなわち、ここでは、日向・光化学系反応最大ETRよりも、炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)のほうが、その値が小さいので、炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)が、ボトルネックであると判断され、日向・伝達ETR(平均気温3度)とされる。その結果、図24において、線L4Cは、線L3Cの一部と重なっている。
そして、線L4Cは、日向・伝達ETR(平均気温3度)であって、実際に植物の成長に寄与した値を示しており、この線L4Cの内側の部分(図24の斜線で示した部分)の面積が、植物の成長量に比例することになる。線L5Cは、環境Cでの実効PPFD値(日向・実効PPFD値(平均気温3度))の変化を示し、線L4Cで示される日向・伝達ETR(平均気温3度)の値を、植物の日向部分に照射された太陽光の照射量に換算することで得られる。
(5-4)環境D(日陰、平均気温3度)の表示例
図25は、環境DにおけるPPFD値と実効PPFD値等の表示例を示す図である。
環境Dは、植物が日陰に存在し、その周辺の1日の平均気温が3度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1Dは、植物の日陰部分に照射された太陽光のPPFD値(日陰・PPFD値)の変化を示している。線L2Dは、植物の日陰部分に照射された太陽光が、植物の光化学系反応でエネルギーに変換されたときの光化学系反応最大ETR(日陰・光化学系反応最大ETR)の変化を示している。
線L3Dは、平均気温3度等の環境に応じて決定される、植物の炭素還元反応最大ETR(炭素還元反応最大ETR(平均気温3度))の変化を示している。線L4Dは、環境Dでの伝達ETR(日陰・伝達ETR(平均気温3度))の変化を示している。すなわち、ここでは、炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)よりも、日陰・光化学系反応最大ETRのほうが、その値が小さいので、日陰・光化学系反応最大ETRが、ボトルネックであると判断され、日陰・伝達ETR(平均気温3度)とされる。その結果、図25において、線L4Dは、線L2Dの一部と重なっている。
そして、線L4Dは、日陰・伝達ETR(平均気温3度)であって、実際に植物の成長に寄与した値を示しており、この線L4Dの内側の部分(図25の斜線で示した部分)の面積が、植物の成長量に比例することになる。線L5Dは、環境Dでの実効PPFD値(日陰・実効PPFD値(平均気温3度))の変化を示し、線L4Dで示される日陰・伝達ETR(平均気温3度)の値を、植物の日陰部分に照射された太陽光の照射量に換算することで得られる。
(第1のシミュレーション結果の比較)
ここで、図22乃至図25に示した第1のシミュレーション結果を比較すれば、次のようになる。
すなわち、PPFD値と光化学系反応最大ETRは、植物に照射される太陽光に応じて決定されるため、図22の環境Aと図24の環境Cでは、その環境が共に日向となるので、日向・PPFD値(線L1A,線L1C)と、日向・光化学系反応最大ETR(線L2A,線L2C)がそれぞれ一致している。
一方で、炭素還元反応最大ETRは、気温に左右されるため、図22の環境Aと図24の環境Cでは、その平均気温が、15度と3度で異なっているので、線L3Aで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)と、線L3Cで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)は異なっている。
図23の環境Bと図25の環境Dでは、その環境が共に日陰となるので、日陰・PPFD値(線L1B,線L1D)と、日陰・光化学系反応最大ETR(線L2B,線L2D)がそれぞれ一致している。なお、図23の環境B及び図25の環境Dと、図22の環境A及び図24の環境Cとでは、縦軸の目盛りの単位が異なっているが、日陰の環境のほうが、日向の環境よりも、PPFD値と光化学系反応最大ETRが小さくなる。
一方で、図23の環境Bと図25の環境Dでは、その平均気温が、15度と3度で異なっているので、線L3Bで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)と、線L3Dで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)は異なっている。
また、図22の環境Aと図23の環境Bは、その平均気温が共に15度となるので、縦軸の目盛りの単位が異なっているが、線L3Aで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)と、線L3Bで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)は一致している。同様に、図24の環境Cと図25の環境Dは、その平均気温が共に3度となるので、縦軸の目盛りの単位が異なっているが、線L3Cで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)と、線L3Dで示される炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)は一致している。
ここで、図22の環境A乃至図25の環境Dにおける、線L5Aと、線L5Bと、線L5Cと、線L5Dとで示される実効PPFD値を比較すれば、次のようになる。すなわち、図22の環境Aにおける線L5Aで示される日向・実効PPFD値(平均気温15度)の値が最も大きく、500(umol/m2/s)を超える値を示している。逆に、図25の環境Dにおける線L5Dで示される日陰・実効PPFD値(平均気温3度)の値が、最も小さい値となっている。
<4.実効PPFD値の活用方法>
ところで、上述した実効PPFD値は、様々な用途に活用することができる。ここでは、実効PPFD値の活用例として、被測定対象物1としての圃場の植物を測定することで得られる実効PPFD値を用い、植物に照射される光や、植物の周辺の空気中の温度や湿度、二酸化炭素濃度(CO2濃度)などの環境を改善するための制御について説明する。この環境改善制御によって、環境を改善することで、植物の成長量を助長することができる。
以下、実効PPFD値を用いた環境改善制御として、リアルタイムで環境改善を行うリアルタイム環境制御と、あらかじめ用意された予測情報を用いて環境改善を行う予測環境制御について、その順に説明する。
(1)リアルタイム環境制御
まず、リアルタイム環境制御について説明する。
(環境制御システムの構成)
図26は、本技術を適用した環境制御システムの一実施の形態の構成を示す図である。
図26の環境制御システム30は、リアルタイムで環境改善を行うリアルタイム環境制御を行うためのシステムである。すなわち、環境制御システム30においては、被測定対象物1として植物(例えば、圃場の植物や、スタジアムの芝など)を対象とし、その実効指標として実効PPFD値が算出される場合に、当該実効PPFD値を用いた、植物に照射される光などの環境を改善するための制御が、リアルタイムで行われる。
図26において、環境制御システム30は、センシング装置101、環境センサ102、ハブ104、環境制御装置301、ルータ302、及び照明装置303から構成される。
図26の環境制御システム30において、図6の実効指標演算システム10と対応する部分については同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略するものとする。すなわち、図26の環境制御システム30は、図6の実効指標演算システム10と比べて、実効指標演算装置103の代わりに、環境制御装置301が設けられ、さらに、ルータ302及び照明装置303が新たに追加されている。
環境制御装置301は、CPUやFPGA等の回路による演算機能や制御機能を有する装置である。環境制御装置301は、パーソナルコンピュータや専用の端末装置などとして構成される。環境制御装置301は、実効指標演算装置103(図6)と同様に、実効PPFD値の演算機能を有するほか、当該実効PPFD値を用いた環境改善の制御を行うための機能を有している。
すなわち、環境制御装置301には、センシング装置101からの指標測定データと、環境センサ102からの環境測定データが、ハブ104を介して入力される。環境制御装置301は、指標測定データ及び環境測定データに基づいて、実効PPFD値を算出する。ここでは、図5に示した手順1乃至手順3に相当する処理を実行することで、PPFD値である指標に対する実効指標として、実効PPFD値を算出することができる。
また、環境制御装置301は、算出された実効PPFD値を用い、環境改善を行う候補(以下、環境改善候補という)の中から、実際に環境改善を行う対象(以下、環境改善対象という)を決定し、その環境改善対象による環境改善を制御する。環境制御システム30においては、環境改善を行う機能(以下、環境改善機能という)として、被測定対象物1に対し、光を照射可能な照明装置303が設けられている。
環境制御装置301は、環境改善候補と環境改善機能に基づいて、環境改善対象として、光を決定した場合、当該環境改善対象により環境を改善するために用いられる値(以下、環境改善量という)として、最大補光量を算出する。環境制御装置301は、環境改善量としての最大補光量に基づいて、ハブ104を介して、ルータ302に接続された照明装置303を制御して、光による環境改善を制御することができる。
なお、環境制御装置301の詳細な構成は、図27を参照して後述する。
照明装置303は、LED(Light Emitting Diode)等を光源として有し、植物等の被測定対象物1に対し、光を照射する。なお、照明装置303において、光源は、LEDに限らず、例えば、蛍光灯などの人工光を用いることができる。
照明装置303は、無線通信機能を有し、ルータ302を介して、ハブ104に接続された環境制御装置301と通信を行うことができる。照明装置303は、環境制御装置301からの制御に従い、被測定対象物1に照射される光の光量を調整する。
なお、照明装置303の詳細な構成は、図28を参照して後述する。
環境制御システム30は、以上のように構成される。
(環境制御装置の構成)
図27は、図26の環境制御装置301の構成例を示す図である。
図27において、環境制御装置301は、I/F部321、処理部322、記憶部323、及び表示部324から構成される。なお、図27の環境制御装置301において、I/F部321、記憶部323、及び表示部324は、図8のI/F部161、記憶部163、及び表示部164に対応している。
I/F部321は、外部入力インターフェース回路などにより構成される。I/F部321は、センシング装置101から入力される指標測定データと、環境センサ102から入力される環境測定データを、処理部322に供給する。また、I/F部321は、処理部322からの制御に従い、ハブ104を介してルータ302に接続し、照明装置303と通信を行うことができる。
処理部322は、CPUやFPGA等の回路などにより構成される。処理部322は、算出部331及び制御部332を含む。
算出部331は、実効PPFD値や環境改善量などのリアルタイム環境制御を行う際に必要となる演算処理を行う。算出部331は、実効PPFD値算出部341及び環境改善量算出部342から構成される。
実効PPFD値算出部341は、I/F部321から供給される指標測定データ及び環境測定データに対し、記憶部323に記憶されたルックアップテーブル(LUT)を参照しながら、所定の信号処理を行うことで、実効PPFD値を算出する。なお、この信号処理では、図5に示した手順1乃至手順3に相当する処理として、図10に示した実効PPFD値算出処理(のステップS101乃至S105の処理)を行うことで、実効PPFD値が算出される。
環境改善量算出部342は、実効PPFD値算出部341により算出された実効PPFD値に応じた環境改善候補の中から、環境改善対象を決定し、当該環境改善対象により環境を改善するために用いられる環境改善量を算出する。なお、この信号処理の詳細な内容は後述するが、環境制御システム30には、照明装置303が用意されているので、環境改善対象として、光が決定された場合には、環境改善量として、最大補光量が算出される。
制御部332は、環境改善制御や表示制御などのリアルタイム環境制御を行う際に必要となる制御処理を行う。制御部332は、環境改善制御部351及び表示制御部352から構成される。
環境改善制御部351は、環境改善量算出部342により算出された環境改善量に基づいて、環境改善制御を行う。ここで、環境制御システム30には、照明装置303が用意されているので、環境改善制御部351は、環境改善量としての最大補光量に基づいて、照明装置303を制御することで、植物等の被測定対象物1に対し、最大補光量に応じた光を照射することができる。
表示制御部352は、表示部324に表示される、数値データや画像データ等の各種のデータの表示を制御する。
記憶部323は、例えば、半導体メモリなどにより構成される。記憶部323には、実効PPFD値を算出するためのルックアップテーブル(LUT)があらかじめ記憶されている。
表示部324は、例えば、LCDやOLEDなどのディスプレイにより構成される。表示部324は、表示制御部352からの制御に従い、算出部331により算出された実効PPFD値に関するデータ(例えば、数値データや画像データ)などを表示する。
なお、図27においては、記憶部323と表示部324は、環境制御装置301の内部に設けられるとして説明したが、記憶装置や表示装置として、環境制御装置301の外部に設けられるようにしてもよい。
環境制御装置301は、以上のように構成される。
(照明装置の構成)
図28は、図26の照明装置303の構成例を示す図である。
照明装置303は、LED等を光源として、例えば、圃場の植物や、スタジアムの芝などの被測定対象物1に対し、光を照射する。このとき、照明装置303(の光源)は、例えば、被測定対象物1の上部に設置され、環境制御装置301(の環境改善制御部351)からの制御に従い、被測定対象物1に対し、上方から、最大補光量に応じた光を照射する。
図28において、照明装置303は、I/F部361、制御部362、及び照明部363から構成される。
I/F部361は、無線通信用の通信I/F回路などにより構成される。I/F部361は、ルータ302を介して、ハブ104に接続された環境制御装置301と通信を行う。I/F部361は、環境制御装置301から送信されてくる最大補光量を示すデータを、制御部362に供給する。
制御部362は、CPUやマイクロプロセッサ等の回路などにより構成される。制御部362は、照明装置303の各部の動作を制御する。制御部362は、I/F部361から供給される最大補光量を示すデータに基づいて、照明部363から照射される光の光量を制御する。
照明部363は、LED371-1乃至371-N(N:1以上の整数)から構成される。照明部363は、制御部362からの制御に従い、最大補光量に応じた光量の光を照射する。
例えば、照明部363においては、LED371-1乃至371-Nが、直線状又は平面状に配置されており、LED371-1乃至371-Nによって、線単位又は面単位で、被測定対象物1に対し、光が照射される。
なお、照明装置303(のLED371-1乃至371-N)によって、1度に、光を照射可能な領域は限られるため、例えば、圃場の植物や、スタジアムの芝などの広い領域が対象となる場合、その広い領域を、照明装置303単独ではカバーすることができない場合も想定される。
そのような場合には、例えば、複数の照明装置303を同時に用いるか、あるいは、照明装置303に移動機能を設けて、照明装置303が、光を照射すべき領域上を移動することで、圃場の植物や、スタジアムの芝などの広い領域であってもカバーすることができる。このとき、照明装置303の移動は、ユーザが手動で行ってもよいし、あるいは、環境制御装置301からの制御に従い、自動で行われるようにしてもよい。
また、照明装置303において、LED371-1乃至371-Nから照射される光としては、例えば、植物の光合成に最適な赤色(波長660nm)や青色(波長450nm)などの特定の波長の光を照射することができる。その際に、照明装置303においては、光の制御を、光の波長ごとに、変えるようにしてもよい。
照明装置303は、以上のように構成される。
(環境制御システムの他の構成)
ところで、図26に示した環境制御システム30では、ローカル環境で、リアルタイム環境制御を行っていたが、クラウド環境で、リアルタイム環境制御を行うようにしてもよい。
図29には、環境制御システムの他の構成例として、クラウド環境に対応した環境制御システム31の構成例を示している。
図29の環境制御システム31において、図9の実効指標演算システム11と対応する部分については同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略するものとする。すなわち、図29の環境制御システム31は、図9の実効指標演算システム11と比べて、ルータ302、照明装置303、温度制御装置304、湿度制御装置305、及びCO2濃度制御装置306が新たに追加されている。
クライアント装置105は、パーソナルコンピュータ等から構成され、ハブ104を介して、センシング装置101と環境センサ102から入力される指標測定データと環境測定データを、ルータ106に出力する。
サーバ109は、ネットワーク108を介して、クライアント装置105から送信されてくる指標測定データと環境測定データを受信する。ここで、サーバ109は、図27に示した環境制御装置301が有する機能のうち、少なくとも、処理部322及び記憶部323と同様の機能を有している。
すなわち、サーバ109において、処理部322の実効PPFD値算出部341は、クライアント装置105から受信した指標測定データと環境測定データに対し、記憶部323に記憶されたルックアップテーブルを参照しながら、図10に示した実効PPFD値算出処理(のステップS101乃至S105の処理)を行うことで、実効PPFD値を算出する。
また、サーバ109において、処理部322の環境改善量算出部342は、実効PPFD値算出部341により算出された実効PPFD値に応じた環境改善候補の中から、環境改善対象を決定し、当該環境改善対象により環境を改善するために用いられる環境改善量を算出する。
ここで、環境制御システム31には、環境改善機能として、光の環境を改善するための照明装置303のほかに、温度の環境を改善するための温度制御装置304と、湿度の環境を改善するための湿度制御装置305と、二酸化炭素濃度の環境を改善するためのCO2濃度制御装置306が用意されている。
そして、環境改善量算出部342は、環境改善対象として、光が決定された場合には、環境改善量として、照明装置303により照射される光の最大補光量を算出する。また、環境改善制御部351は、環境改善量算出部342により算出された最大補光量に基づいて、ネットワーク108等を介して照明装置303を制御することで、被測定対象物1に対し、最大補光量に応じた光を照射することができる。
また、環境改善量算出部342は、環境改善対象として、温度、湿度、又は二酸化炭素濃度(CO2濃度)が決定された場合、環境改善量として、環境改善温度、環境改善湿度、又は環境改善CO2濃度を算出する。そして、環境改善制御部351は、環境改善量算出部342により算出された環境改善温度、環境改善湿度、又は環境改善CO2濃度に基づいて、ネットワーク108等を介して、温度制御装置304、湿度制御装置305、又はCO2濃度制御装置306を制御する。
ここで、温度制御装置304は、例えば、ヒータなど、被測定対象物1の周辺の空気中の温度を変化させることが可能な装置から構成される。温度制御装置304は、サーバ109(の環境改善制御部351)からの制御に従い、被測定対象物1の周辺の空気中の温度を改善する。
また、湿度制御装置305は、被測定対象物1の周辺の空気中の湿度を変化させることが可能な装置から構成される。湿度制御装置305は、サーバ109(の環境改善制御部351)からの制御に従い、被測定対象物1の周辺の空気中の湿度を改善する。
また、CO2濃度制御装置306は、被測定対象物1の周辺の空気中の二酸化炭素濃度を変化させることが可能な装置から構成される。CO2濃度制御装置306は、サーバ109(の環境改善制御部351)からの制御に従い、被測定対象物1の周辺の空気中の二酸化炭素濃度を改善する。
なお、ここでは、環境改善機能として、光の環境を改善するための照明装置303と、温度の環境を改善するための温度制御装置304と、湿度の環境を改善するための湿度制御装置305と、二酸化炭素濃度の環境を改善するためのCO2濃度制御装置306とを例示したが、実効PPFD値の算出に影響を与える環境の改善を行うことができる機能であれば、他の機能を追加することができる。
例えば、窒素(N)、カリウム(K)、リン酸(P)などの栄養素も、光合成の速度に関係するため、環境改善候補として加えることができる。そして、環境改善候補に、栄養素を追加する場合には、例えば、栄養素の環境を改善するための装置を設けることで、サーバ109(の環境改善制御部351)から制御することが可能となる。
ただし、図29の環境制御システム31では、環境改善を、温度制御装置304や湿度制御装置305などの装置により自動で行う場合の構成を示しているが、環境改善は、ユーザにより手動で行われるようにしてもよい。その場合には、例えば、サーバ109(の表示制御部352)によって、環境改善の内容を表示することで、その内容が、ユーザに通知されるようにしてもよい。
なお、上述した環境制御システム30(図26)では、環境改善機能として、光の環境を改善するための照明装置303のみを設けた構成としているように、図29に示した照明装置303、温度制御装置304、湿度制御装置305、及びCO2濃度制御装置306などの環境改善機能をすべて設ける必要はなく、どのような環境改善機能を用いるかは、運用によって決定される。
また、図29において、サーバ109が表示部324を有しているか、あるいはサーバ109と表示部324とが通信可能な場合には、算出部331による信号処理で得られた、数値データや画像データなどの各種のデータを、表示部324に表示させることができる。また、数値データや画像データなどの各種のデータは、ストレージ110に記憶されるようにしてもよい。サーバ109は、ストレージ110に記憶された各種のデータを読み出し、表示部324に表示させることもできる。
環境制御システム31は、以上のように構成される。
(リアルタイム環境制御処理の流れ)
次に、図30のフローチャートを参照して、図26の環境制御システム30の環境制御装置301により実行される、リアルタイム環境制御処理の流れについて説明する。
ステップS201において、環境改善量算出部342は、実効PPFD値算出部341により算出された実効PPFD値を取得する。
すなわち、実効PPFD値算出部341では、上述した実効PPFD値算出処理(図10)が行われることで、光化学系反応最大ETR算出処理(S102)で得られる光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR算出処理(S103)で得られる炭素還元反応最大ETRに応じた実効PPFD値が得られる。このようにして得られた実効PPFD値が、環境改善量算出部342により取得される。
ステップS202において、環境改善量算出部342は、ステップS201の処理で得られた実効PPFD値に対し、ボトルネックをチェックする。
ここで、ボトルネックは、光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRとの比較結果に応じて決定される。すなわち、炭素還元反応最大ETRよりも、光化学系反応最大ETRのほうが小さい場合、光化学系反応が律速していることになり、ボトルネックは、光化学系反応最大ETRとなる。一方で、光化学系反応最大ETRよりも、炭素還元反応最大ETRのほうが小さい場合には、炭素還元反応が律速していることになり、ボトルネックは、炭素還元反応最大ETRとなる。
ステップS203において、環境改善量算出部342は、ステップS202の処理で得られるボトルネックのチェック結果に基づいて、環境改善量算出処理を行う。
この環境改善量算出処理では、ボトルネックのチェック結果に応じて選択される環境改善候補と、環境制御システム30が用意している環境改善機能から、環境改善対象が決定される。そして、環境改善量算出処理では、決定された環境改善対象についての環境改善量が算出される。
なお、環境改善量算出処理の詳細は、図31のフローチャートを参照して後述する。
また、環境改善量は、ユーザの目的や時間(許容時間)などに応じて決定されるようにしてもよい。例えば、ユーザによっては、3日や1週間などの所定の期間内で、環境改善を行う場合も想定され、そのような期間に応じた環境改善量が設定できるようにしてもよい。
具体的には、被測定対象物1が、スタジアムの芝である場合、そのスタジアムを使用するチームの試合の間隔ごとに、環境改善を行うことが可能な期間が異なることが想定され、そのような期間に合わせて環境改善量を設定できるようにしてもよい。また、被測定対象物1が、植物である場合には、その見た目だけを変えるために、葉の成長を促したい場合や、根をしっかり育てたい場合など、環境改善の内容が異なることも想定され、そのような目的に合わせて環境改善対象や環境改善量を設定できるようにしてもよい。
ここでは、環境制御システム30において、そのような目的や時間などに応じたモードをあらかじめ用意しておくことで、ユーザに対し、設定画面(UI:User Interface)を提示して、所望のモードを選択させることができる。これにより、環境制御システム30においては、ユーザにより手動で設定されたモードに応じた環境改善制御が行われることになる。また、これらのモードは、後述するシミュレーションの結果を見ながら、ユーザが手動で設定できるようにしてもよい。
ステップS204において、環境改善制御部351は、ステップS203の処理で得られる環境改善量に基づいて、環境改善制御を行う。
ここでは、例えば、環境改善候補として、光が選択され、かつ、環境改善機能として、光の環境を改善するための照明装置303が用意されている場合、環境改善対象として、光が決定されるので、環境改善量としては、最大補光量が算出されている(S203)。なお、図26の環境制御システム30では、照明装置303が用意されている。
そして、環境改善制御部351は、ステップS203の処理で得られる最大補光量に基づいて、ハブ104及びルータ302を介して、照明装置303を制御することで、被測定対象物1に対し、最大補光量に応じた光が照射されるようにする。
ステップS205において、表示制御部352は、ステップS201の処理で得られる実効PPFD値に関するデータを、表示部324に表示する。
すなわち、ステップS201乃至S205の処理は、ステップS206の判定処理で、処理を終了すると判定されるまで、繰り返されるので、ステップS201乃至S205の処理が繰り返される場合には、ステップS201の処理で得られる実効PPFD値は、ステップS204の処理で、環境改善制御が行われた後に得られた実効PPFD値となる。
したがって、ここでは、実効PPFD値に関するデータとして、上述した図22乃至図25に示した実効PPFD値などのほか、環境改善制御を適用することで得られる実効PPFD値(以下、環境改善・実効PPFD値ともいう)を、各種の表示形態で表示することができる。なお、リアルタイム環境制御時における、環境改善・実効PPFD値等の表示例は、図33乃至図40を参照して後述する。
ステップS206においては、処理を終了するかどうかが判定される。ステップS206において、処理を終了しないと判定された場合、処理は、ステップS201に戻り、上述したステップS201乃至S205の処理が繰り返される。また、ステップS206において、処理を終了すると判定された場合、図30のリアルタイム環境制御処理は終了される。
以上、リアルタイム環境制御処理の流れについて説明した。
なお、ローカル環境としての環境制御システム30(図26)の構成ではなく、クラウド環境としての環境制御システム31(図29)の構成を採用した場合には、例えば、サーバ109(の処理部322)が、図30のステップS201乃至S206の処理を実行することになる。
(環境改善量算出処理の流れ)
次に、図31のフローチャートを参照して、図30のステップS203に対応する環境改善量算出処理の詳細について説明する。
ステップS221においては、図30のステップS202の処理で得られるボトルネックのチェック結果に基づいて、光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRとの大小関係が判定される。
ステップS221において、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが小さいと判定された場合、処理は、ステップS222に進められる。
ステップS222において、環境改善量算出部342は、光合成速度として、光化学系反応が律速しているので、環境改善候補として、光を選択する。
ステップS223において、環境改善量算出部342は、環境制御システム30が用意している環境改善機能として、光を認識する。ここでは、環境制御システム30は、図26に示した構成からなり、光の環境を改善するための照明装置303を有している。
ステップS224において、環境改善量算出部342は、ステップS222の処理で選択した環境改善候補である光が、ステップS223の処理で認識された環境改善機能(光)に含まれるので、環境改善対象として、光を決定する。
ステップS225において、環境改善量算出部342は、ステップS224の処理で決定された環境改善対象に従い、光である環境改善対象の環境改善量として、最大補光量を算出する。この最大補光量は、下記の式(18)により算出することができる。
最大補光量 = (炭素還元反応最大ETR - 光化学系反応最大ETR) / (fAPAR × m × ΦPSII) ・・・(18)
ただし、式(18)において、mは、植物に照射される光のうち、PSIIへの分配率であって、約0.5である値を示す。
すなわち、この式(18)により算出される最大補光量は、植物に対する補光をする際に、補光による効果が得られる光量の最大値であって、これ以上の光量の光を、植物に照射しても意味がないことを表している。ただし、照明装置303では、最大補光量に応じた光を照射するだけでなく、最大補光量を超える光量の光が照射されるようにしてもよい。
したがって、図30のステップS204の処理で、環境改善制御部351は、最大補光量に基づいて、照明装置303を制御することで、植物に対して、最大補光量に応じた光が照射されるようにするか、あるいは、最大補光量を超える光量の光が照射されるようにすることができる。
このように、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが小さいと判定された場合(炭素還元反応最大ETR-光化学系反応最大ETR > 0)、光化学系反応最大ETRがボトルネックであって、現在の光合成速度は、光化学系反応が律速していることになる。そのため、照明装置303により補光を行うことで、環境改善が可能となるので、環境改善対象として光が決定され、その環境改善量として最大補光量が算出される。
一方で、ステップS221において、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが大きいと判定された場合、処理は、ステップS226に進められる。
ステップS226において、環境改善量算出部342は、光合成速度として、炭素還元反応が律速しているので、環境改善候補として、温度、湿度、及び二酸化炭素濃度(CO2濃度)を選択する。なお、上述したように、環境改善候補としては、例えば、植物に対する栄養素などを加えるようにしてもよい。
ステップS227において、環境改善量算出部342は、環境制御システム30が用意している環境改善機能として、光を認識する。ここでは、環境制御システム30は、図26に示した構成からなり、照明装置303を有している。
ステップS228において、環境改善量算出部342は、ステップS226の処理で選択した環境改善候補である温度、湿度、又は二酸化炭素濃度のいずれもが、ステップS227の処理で認識された環境改善機能(光)に含まれていないので、環境改善対象は、「なし」と決定する。この場合、環境改善対象はなく、環境改善制御は行われないので、環境改善量の算出処理は、不要である(何もされずに処理を抜ける)。
このように、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが大きいと判定された場合(炭素還元反応最大ETR-光化学系反応最大ETR ≦ 0)、炭素還元反応最大ETRがボトルネックであって、現在の光合成速度は、炭素還元反応が律速していることになる。そのため、環境改善候補としての、温度、湿度、又は二酸化炭素濃度を改善すれば、環境改善を行うことが可能となるが、環境制御システム30(図26)ではその環境改善機能を有していないため、温度、湿度、及び二酸化炭素濃度である環境改善候補がキャンセルされる。
なお、図31の処理の例では、環境制御システム30が、図26に示した構成からなり、環境改善の制御の対象として、照明装置303のみを有する構成となっていたため、環境改善対象は、「なし」と決定された。ここで、仮に、図29に示した環境制御システム31の構成が対象となる場合には、環境改善機能として、照明装置303のほかに、温度制御装置304、湿度制御装置305、及びCO2濃度制御装置306を有するため、温度、湿度、又は二酸化炭素濃度が、環境改善対象として決定され、その環境改善量が算出されることになる。
ステップS225又はS228の処理が終了すると、処理は、ステップS229に進められる。
ステップS229においては、炭素還元反応最大ETRと光化学系反応最大ETRとの差が演算され、その演算結果に応じて、光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRとの大小関係が判定される。
ステップS229において、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが小さいと判定された場合、処理は、ステップS221に戻され、上述した処理が繰り返される。すなわち、この場合、光化学系反応最大ETRがボトルネックであって、現在の光合成速度は、光化学系反応が律速し、光の環境を改善する余地があるので、再度、環境改善対象として光が決定され、その環境改善量として最大補光量が算出される。
一方で、ステップS229において、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが大きいと判定された場合、図31の環境改善量算出処理は終了される。図31の環境改善量算出処理が終了すると、処理は、図30のステップS203に戻り、それ以降の処理が実行される。
以上、環境改善量算出処理の流れについて説明した。
なお、図31の環境改善量算出処理では、光の環境改善のみが可能な場合に、現在の光合成速度として、光化学系反応が律速しているとき、環境改善対象を光として、環境改善制御が行われる場合を説明したが、温度や湿度の環境改善が可能な場合に、現在の光合成速度として、炭素還元反応が律速しているときには、環境改善対象を温度や湿度として、環境改善制御が行われるようにすることができる。
すなわち、本技術の環境改善制御としては、光化学系反応に応じた環境改善対象による環境改善制御、及び、炭素還元反応に応じた環境改善対象による環境改善制御のうち、少なくとも一方の環境改善制御を行えばよい。そして、例えば、仮に、一方の環境改善制御を行い、一方の環境が改善されることで、他方の環境の改善が必要になった場合には、さらに、他方の環境改善制御を行えばよい。
例えば、炭素還元反応に応じた環境改善対象(温度)による環境改善制御により、温度が改善されることで、光の改善が必要になる状況も想定されるが、その場合には、光化学系反応に応じた環境改善対象(光)による環境改善制御を行うようにすればよい。つまり、炭素還元反応に応じた環境改善対象(温度)による環境改善制御と、光化学系反応に応じた環境改善対象(光)による環境改善制御との両者を行うことで、環境の調整を行うことができる(バランスをとることができる)。
次に、図32乃至図40を参照して、図30のステップS205の処理で表示されるデータの表示例について説明する。
本技術の発明者は、実際のある日において、圃場の植物等の被測定対象物1に対する光の環境改善を行ったときの実効PPFD値(環境改善・実効PPFD値)がどのように変化するのかを確認するために、所定の環境下で、シミュレーション(以下、第2のシミュレーションという)を行った。
ここで、図32には、第2のシミュレーションの環境データとして、1日の気温の変化の例を示している。図32において、横軸は、時間を示し、ある日の朝の6:00から次の日の6:00までの24時間を、30分単位の目盛りで刻んでいる。縦軸は、温度を示し、一方の線T1は、1日の平均気温が15度となる場合の温度の変化を表している。また、他方の線T2は、1日の平均気温が3度となる場合の温度の変化を表している。
第2のシミュレーションでは、この15度と3度の平均気温で、それぞれ日向と日陰の環境において、PPFD値や実効PPFD値、環境改善・実効PPFD値などがどのように変化するかのシミュレーションを行った。すなわち、上述した図22乃至図25と同様に、以下の(a)乃至(d)の環境下で、シミュレーションを行った。
(a)環境A:日向、1日の平均気温15度
(b)環境B:日陰、1日の平均気温15度
(c)環境C:日向、1日の平均気温3度
(d)環境D:日陰、1日の平均気温3度
以下、環境A乃至Dの環境下でのシミュレーションの結果得られたデータを例示する。ただし、ここでの被測定対象物1は、植物であるものとする。
また、第2のシミュレーションにおいては、環境制御システム30(図26)が、環境改善機能として、照明装置303のみを有する構成からなる場合に、光化学系反応最大ETRがボトルネックとなるとき、照明装置303により補光を行うことで、環境の改善が行われるものとする。
したがって、第2のシミュレーションでは、環境改善・実効PPFD値として、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる実効PPFD値(以下、最大補光・実効PPFD値という)が得られることになる。
(1-1)環境A(日向、平均気温15度)の表示例
図33は、環境Aにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温15度)の表示例を示す図である。
図33においては、図22と同様に、横軸は、時間を示し、ある日の朝の6:00から次の日の6:00までの24時間を、30分単位の目盛りで刻んでいる。縦軸は、異なる線種からなる線L1乃至L6で表された、環境Aのシミュレーションの結果得られたデータの値を示し、その単位は、umol/m2/sとされる。なお、これらの軸の関係は、後述する図34乃至図36や、図45乃至図48においても同様とされる。
環境Aは、植物が日向に存在し、その周辺の1日の平均気温が15度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1A乃至線L5Aは、図22に示した線L1A乃至線L5Aと同様に、日向・PPFD値と、日向・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)と、日向・伝達ETR(平均気温15度)と、日向・実効PPFD値(平均気温15度)を示している。
すなわち、図33は、縦軸の目盛りの単位が、図22と異なっているが、線L1A乃至線L5Aは、同様の形状となっている。そして、図33には、線L1A乃至線L5Aのほかに、線L6Aが追加されている。
図33において、線L6Aは、環境Aの日向において、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温15度))の変化を示している。
ここで、図33において、線L5Aで示される日向・実効PPFD値と、線L6Aで示される日向・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日向・実効PPFD値は、ゼロになるが、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没後であっても、日向・実効PPFD値と同等となる日向・最大補光・実効PPFD値が得られる。一方で、日の出から日没付近までの間においては、最大補光量に応じた補光を行っても、日向・最大補光・実効PPFD値は、ゼロとなる。
(1-2)環境B(日陰、平均気温15度)の表示例
図34は、環境Bにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温15度)の表示例を示す図である。
環境Bは、植物が日陰に存在し、その周辺の1日の平均気温が15度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1B乃至線L5Bは、図23に示した線L1B乃至線L5Bと同様に、日陰・PPFD値と、日陰・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温15度)と、日陰・伝達ETR(平均気温15度)と、日陰・実効PPFD値(平均気温15度)を示している。
すなわち、図34は、縦軸の目盛りの単位が、図23と異なっているが、線L1B乃至線L5Bは、同様の形状となっている。そして、図34には、線L1B乃至線L5Bのほかに、線L6Bが追加されている。
図34において、線L6Bは、環境Bの日陰において、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温15度))の変化を示している。
ここで、図34において、線L5Bで示される日陰・実効PPFD値と、線L6Bで示される日陰・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日陰・実効PPFD値は、ゼロになる。一方で、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没の前後に関係なく、常に、日陰・実効PPFD値よりも大きな値となる日陰・最大補光・実効PPFD値が得られる。
(1-3)環境C(日向、平均気温3度)の表示例
図35は、環境Cにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温15度)の表示例を示す図である。
環境Cは、植物が日向に存在し、その周辺の1日の平均気温が3度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1C乃至線L5Cは、図24に示した線L1C乃至線L5Cと同様に、日向・PPFD値と、日向・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)と、日向・伝達ETR(平均気温3度)と、日向・実効PPFD値(平均気温3度)を示している。
すなわち、図35は、縦軸の目盛りの単位が、図24と異なっているが、線L1C乃至線L5Cは、同様の形状となっている。そして、図35には、線L1C乃至線L5Cのほかに、線L6Cが追加されている。
図35において、線L6Cは、環境Cの日向において、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温3度))の変化を示している。
ここで、図35において、線L5Cで示される日向・実効PPFD値と、線L6Cで示される日向・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日向・実効PPFD値は、ゼロになるが、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没後であっても、日向・実効PPFD値に近い値となる日向・最大補光・実効PPFD値が得られる。一方で、日の出から日没付近までの間においては、最大補光量に応じた補光を行っても、日向・最大補光・実効PPFD値は、ゼロとなる。
(1-4)環境D(日陰、平均気温3度)の表示例
図36は、環境Dにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温15度)の表示例を示す図である。
環境Dは、植物が日陰に存在し、その周辺の1日の平均気温が3度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1D乃至線L5Dは、図25に示した線L1D乃至線L5Dと同様に、日陰・PPFD値と、日陰・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温3度)と、日陰・伝達ETR(平均気温3度)と、日陰・実効PPFD値(平均気温3度)を示している。
すなわち、図36は、縦軸の目盛りの単位が、図25とは異なっているが、線L1D乃至線L5Dは、同様の形状となっている。そして、図36には、線L1D乃至線L5Dのほかに、線L6Dが追加されている。
図36において、線L6Dは、環境Dの日陰において、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温3度))の変化を示している。
ここで、図36において、線L5Dで示される日陰・実効PPFD値と、線L6Dで示される日陰・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日陰・実効PPFD値は、ゼロになる。一方で、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没の前後に関係なく、日陰・最大補光・実効PPFD値が得られる。
(第2のシミュレーション結果の比較)
ここで、図33乃至図36に示した第2のシミュレーション結果を比較すれば、次のようになる。
すなわち、図33の環境Aと図34の環境Bでは、その平均気温が共に15度であるが、日向に比べて、日陰のほうが、実効PPFD値(平均気温15度)よりも、最大補光・実効PPFD値(平均気温15度)が大きくなっており、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
また、図35の環境Cと図36の環境Dでは、その平均気温が共に3度であるが、日向に比べて、日陰のほうが、実効PPFD値(平均気温3度)よりも、最大補光・実効PPFD値(平均気温3度)が大きくなっており、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
一方で、図33の環境Aと図35の環境Cでは、その環境が共に日向であるが、平均気温3度に比べて、平均気温15度のほうが、日向・最大補光・実効PPFD値が大きくなっており、同じ日向であっても、平均気温が高いほうが、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
また、図34の環境Bと図36の環境Dでは、その環境が共に日陰であるが、平均気温3度に比べて、平均気温15度のほうが、日陰・最大補光・実効PPFD値が大きくなっており、同じ日陰であっても、平均気温が高いほうが、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
次に、図37乃至図40を参照して、上述した環境A乃至Dの環境下でのシミュレーションごとに、PPFD値と、実効PPFD値と、実効PPFD値+最大補光の1日の積算値を比較する。
(1-5)環境A(日向、平均気温15度)の1日の積算値の表示例
図37は、環境Aにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
ここで、実効PPFD値は、PPFD値のうち、植物の成長に寄与したPPFD値であり、最大補光・実効PPFD値は、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる実効PPFD値である。ここでは、これらの2つの値を加えたものを、「実効PPFD値+最大補光」と定義する。
図37においては、環境Aのシミュレーションで得られたPPFD値と、実効PPFD値と、実効PPFD値+最大補光ごとに、各PPFD値の1日の積算値を棒グラフで表している。したがって、図37の縦軸の単位は、mol/m2/dayとされる。なお、これらの関係は、後述する図38乃至図40や、図49乃至図52においても同様とされる。
上述したように、PPFD値は、植物に照射される太陽の光に応じて決定される。そのため、環境Aは、日向となるので、PPFD値の1日の積算値が、約50(mol/m2/day)となり、環境Bや環境D等の日陰の環境よりも、積算値が大きくなる。
一方で、実効PPFD値は、PPFD値のうち、植物の成長に寄与したPPFD値であるから、その積算値は、PPFD値の積算値よりも、小さくなる。また、実効PPFD値+最大補光は、先の実効PPFD値に、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる実効PPFD値を加えたものであるから、その積算値は、実効PPFD値の積算値よりも、大きくなる。
ここで、環境Aのシミュレーションで得られる、実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約13.4(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約40.2(mol/m2/day)となる。したがって、環境Aにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の約3倍の大きさとなる。
すなわち、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量はおよそ3倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
(1-6)環境B(日陰、平均気温15度)の1日の積算値の表示例
図38は、環境Bにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
図38において、環境Bのシミュレーションで得られる、実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約3.7(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約40.7(mol/m2/day)となる。したがって、環境Bにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の積算値の約11倍の大きさとなる。
すなわち、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量はおよそ11倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量がかなり大きく助長されていることが分かる。
また、図38の環境Bの各PPFD値の積算値を、図37の環境Aの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Bと環境Aは、同じ平均気温15度であるが、日陰と日向の環境が異なっていることで、図38の環境B(日陰:光合成生成物の生成量11倍)のほうが、図37の環境A(日向:光合成生成物の生成量3倍)よりも、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
(1-7)環境C(日向、平均気温3度)の1日の積算値の表示例
図39は、環境Cにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
図39において、環境Cのシミュレーションで得られる、実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約6.4(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約10.9(mol/m2/day)となる。したがって、環境Cにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の積算値の約1.7倍の大きさとなる。
すなわち、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量はおよそ1.7倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
また、図39の環境Cの各PPFD値の積算値を、図37の環境Aの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Cは、環境Aと比べて、同じ日向であるが、平均気温が3度と15度とで異なっていることで、図39の環境C(平均気温3度:光合成生成物の生成量1.7倍)よりも、図37の環境A(平均気温15度:光合成生成物の生成量3倍)のほうが、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
これは、例えば、気温が高い時は、日没後に、補光が朝まで有効であるのに対し、気温が低い時には、0時以降に、気温が低いことから、炭素還元反応最大ETRがゼロとなり、補光が有効でなくなるためである。
(1-8)環境D(日陰、平均気温3度)の1日の積算値の表示例
図40は、環境Dにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
図40において、環境Dのシミュレーションで得られる、実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約2.9(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約11.6(mol/m2/day)となる。したがって、環境Dにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の積算値の約4倍の大きさとなる。
すなわち、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量はおよそ4倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量がかなり大きく助長されていることが分かる。
また、図40の環境Dの各PPFD値の積算値を、図39の環境Cの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Dと環境Cは、同じ平均気温3度であるが、日陰と日向の環境が異なっていることで、図40の環境D(日陰:光合成生成物の生成量4倍)のほうが、図39の環境C(日向:光合成生成物の生成量1.7倍)よりも、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
さらに、図40の環境Dの各PPFD値の積算値を、図38の環境Bの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Dは、環境Bと比べて、同じ日陰であるが、平均気温が3度と15度とで異なっていることで、図40の環境D(平均気温3度:光合成生成物の生成量4倍)よりも、図38の環境B(平均気温15度:光合成生成物の生成量11倍)のほうが、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
なお、図33乃至図40に示した表示例は、実効PPFD値+最大補光等のデータの統計値を提示するための表示形態の一例であって、他の表示形態で、実効PPFD値+最大補光等のデータの統計値を表示するようにしてもよい。
また、このようなデータを、図37乃至図40に示したように、1日単位や1週間単位、1ヶ月単位などの所定の時間範囲で集計することで、例えば、植物の成長に重要な日照に関するデータを蓄積することが可能となる。これにより、例えば、被測定対象物1としての植物ごとに、例えば1日単位や1週間単位などの共通の時間の単位で、実効PPFD値+最大補光等のデータを集計することができる。また、実効PPFD値+最大補光等のデータを、領域ごとに、2次元情報として提示するようにしてもよい。
以上のように、実際に植物の成長に寄与したPPFD値を、実効PPFD値として表示するだけでなく、環境改善・実効PPFD値をも表示することができるため、様々な角度から、被測定対象物1としての植物の生育を分析することが可能となる。
すなわち、植物の光合成は、光のエネルギーではなく、光の粒子である光量子の数に影響を受けることが知られている。しかしながら、植物が光を有効に活用できる光量子の数は、二酸化炭素濃度(CO2濃度)、温度、湿度、栄養素などの環境条件と、植物の種類や状態によって、大きく左右される。そこで、本技術では、このような環境条件と、植物の種類や状態から、植物が有効に活用できると想定されるPPFD値を予測することで、実効PPFD値を算出して表示している。そして、ここでは、さらに、この実効PPFD値を活用して、リアルタイムの環境改善を行うことで、植物の成長を助長している。
以上、リアルタイム環境制御について説明した。
なお、現状では、リアルタイム制御により、温度や湿度、二酸化炭素濃度などの環境を制御して、環境改善を行うことは難しいが、事前に、温度などを認識することができれば、温度などの環境制御もやりやすくなる。そこで、次に、より難しい環境制御を行うことが可能となる予測環境制御について説明する。
(2)予測環境制御
(環境制御システムの構成)
図41は、本技術を適用した環境制御システムの一実施の形態の構成を示す図である。
図41の環境制御システム32は、あらかじめ得られる予測情報を用いて環境改善を行う予測環境制御を行うためのシステムである。すなわち、環境制御システム32においては、被測定対象物1として植物(例えば、圃場の植物や、スタジアムの芝など)を対象とし、その実効指標として実効PPFD値が算出される場合に、当該実効PPFD値を用いた、植物に照射される光などの環境を改善するための制御が、予測情報を用いて行われる。
図41において、環境制御システム32は、センシング装置101、環境センサ102、ハブ104、クライアント装置105、ルータ106、基地局107、ネットワーク108、サーバ109、ストレージ110、ルータ302、照明装置303、温度制御装置304、情報サイトサーバ311、及びデータベース312から構成される。
図41の環境制御システム32において、図29の環境制御システム31と対応する部分については同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略するものとする。すなわち、図41の環境制御システム32は、図29の環境制御システム31と比べて、照明装置303乃至CO2濃度制御装置306のうち、照明装置303と温度制御装置304のみが設けられ、ネットワーク108に、情報サイトサーバ311が接続されている。また、情報サイトサーバ311には、データベース312が接続される。
また、図29の環境制御システム31において、サーバ109は、図27の環境制御装置301と同様の機能を有しているとして説明したが、図41の環境制御システム32において、サーバ109は、後述する図42の環境制御装置301と同様の機能を有している。したがって、サーバ109の詳細な構成は、図42を参照して、後述する。
情報サイトサーバ311は、予測実効PPFD値を算出するために用いられる予測情報を提供するサーバである。この予測情報としては、例えば、気温情報などの情報が含まれる。予測情報は、データベース312に順次蓄積される。なお、予測実効PPFD値は、各種の予測情報を用いて算出される実効PPFD値である。
情報サイトサーバ311は、サーバ109から送信されてくる要求を、ネットワーク108を介して受信し、その要求に応じて、データベース312に蓄積されている予測情報を読み出す。情報サイトサーバ311は、読み出した予測情報を、ネットワーク108を介して、サーバ109に送信する。
環境制御システム32は、以上のように構成される。
(環境制御装置の構成)
図42は、図41のサーバ109としての環境制御装置301の構成例を示す図である。
図42において、環境制御装置301は、図27の環境制御装置301と同様に、I/F部321、処理部322、記憶部323、及び表示部324から構成される。また、図42の環境制御装置301において、図27の環境制御装置301と対応する部分については同一の符号を付してあり、その説明は適宜省略するものとする。
すなわち、図42の環境制御装置301において、処理部322の算出部331には、実効PPFD値算出部341と、環境改善量算出部342のほかに、予測実効PPFD値算出部343が新たに追加されている。この予測実効PPFD値算出部343は、情報サイトサーバ311やストレージ110などから取得した予測情報に基づいて、予測実効PPFD値を算出する。
環境制御装置301は、以上のように構成される。
(予測環境制御処理の流れ)
次に、図43のフローチャートを参照して、図41の環境制御システム32のサーバ109により実行される、予測環境制御処理の流れについて説明する。
ステップS241において、予測実効PPFD値算出部343は、ネットワーク108を介して、情報サイトサーバ311から予測情報を取得する。
ここで、例えば、数日後の気温の予測値(予測情報)として、上述の図32に示した気温情報が取得される場合を想定する。この気温情報としては、例えば、天気予報により、数日後の天気と予想気温を入手し、地域気象観測システム(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)で得られる過去の気象情報を用いて、同じ時期の天気と平均気温から、過去の気温変化を予測値とすることができる。
また、日照については、例えば、サーバ109が、ストレージ110に蓄積した情報から、図22乃至図25に示した情報(PPFD値)を、予測値とすることができる。なお、これらの予測値(予測情報)の取得方法は、一例であって、他の方法によって、予測値(予測情報)が取得されるようにしてもよい。
ステップS242において、予測実効PPFD値算出部343は、ステップS241の処理で得られる予測情報に基づいて、予測実効PPFD値を算出する。
ステップS243において、環境改善量算出部342は、ステップS242の処理で得られた予測実効PPFD値に対し、ボトルネックをチェックする。なお、このボトルネックは、ステップS242の処理で、予測実効PPFD値を算出する際にチェックしておくことも可能である。
ステップS244において、環境改善量算出部342は、ステップS243の処理で得られるボトルネックのチェック結果に基づいて、環境改善量算出処理を行う。
この環境改善量算出処理では、ボトルネックのチェック結果に応じて選択される環境改善候補と、環境制御システム32が用意している環境改善機能から、環境改善対象が決定される。そして、環境改善量算出処理では、決定された環境改善対象についての環境改善量が算出される。
なお、環境改善量算出処理の詳細は、図44のフローチャートを参照して後述する。
また、上述したように、環境改善量は、ユーザの目的や時間(許容時間)などに応じて決定されるようにしてもよい。すなわち、環境制御システム32において、そのような目的や時間などに応じたモードをあらかじめ用意しておくことで、ユーザに対し、設定画面(UI)を提示して、所望のモードを選択させることができる。これにより、環境制御システム32においては、ユーザにより手動で設定されたモードに応じた環境改善制御が行われることになる。また、これらのモードは、後述するシミュレーションの結果を見ながら、ユーザが手動で設定できるようにしてもよい。
ステップS245においては、環境改善制御の準備が行われる。
ここでは、例えば、環境改善候補として、温度が選択され、かつ、環境改善機能として、温度の環境を改善するための温度制御装置304が用意されている場合、環境改善対象として、温度が決定されるので、環境改善量として、環境改善温度が算出されている(S244)。なお、図41の環境制御システム32では、温度制御装置304が用意されている。
この場合において、例えば、環境改善温度として、+5度(1日中、常に+5度)が算出されたとき、環境改善制御部351が、ヒータなどからなる温度制御装置304を制御することで、環境改善温度に応じた温度だけ、温度を上昇させることができる。より具体的には、被測定対象物1が、スタジアムの芝である場合には、芝用のアンダーヒーティングが設置されている場合があるので、それを、温度制御装置304として利用するようにしてもよい。
また、例えば、環境改善温度として、+5度が算出されたときに、ターゲットとなる場所に、ビニールシート等を被せるなどをすることでも、環境改善温度に応じた温度を上昇させることができる。つまり、気温が低い場合には、特に、環境改善の効果が多く見込める日陰の部分に対して、温度上昇をさせることを決めるなどして、そのターゲットとなる場所に、ビニールシートを被せるなどの環境改善制御の準備を行うことができる。
このビニールシートを被せる方法としては、温度制御装置304等の装置によって、自動で行われるようにしてもよいし、ユーザにより手動で行われるようにしてもよい。ユーザが手動で行う場合には、環境改善の内容(例えば、環境改善温度(+5度)や、ターゲットの場所などの情報)を表示することで、その対応すべき内容が、ユーザに通知されるようにしてもよい。
また、温度制御としては、例えば、環境改善温度として、+5度が算出されたときに、1度ずつ上昇させることもできるし、あるいは、上述した図21のBの温度補正係数用LUT(LUT5)を参照して得られる値に応じて、適切な温度上昇を行うこともできる。
このように、現状では、リアルタイム制御により、温度や湿度、二酸化炭素濃度などの環境を制御して、環境改善を行うことは難しいが、事前に、温度などを認識することができれば、温度などの環境制御もやりやすくなる。そのため、予測環境制御では、リアルタイム制御よりも、容易に、環境改善候補を増やすことができる。
ステップS245の処理が終了すると、処理は、ステップS246に進められる。ステップS246乃至S250においては、図30のステップS201乃至S205と同様に、リアルタイムでの環境制御処理が行われる。
すなわち、例えば、ステップS241乃至S245の処理で、環境改善温度として、+5度が算出され(S244)、さらに、ターゲットの場所に、ビニールシートを被せて、環境改善温度(+5度)に応じた温度上昇を制御する環境改善制御の準備(S245)が行われた場合には、その状態で、ステップS246乃至S250の処理が行われる。
これにより、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが小さい(炭素還元反応最大ETR-光化学系反応最大ETR > 0)時間帯が、温度の環境改善制御を行わなかった場合に比べて多くなることが、本技術の発明者によるシミュレーションで確認されている。そして、この時間帯については、環境改善対象として、光が決定されるので、最大補光量に応じた光が、植物に照射されることになる。
なお、図43においては、説明の都合上、ステップS241乃至S245の処理が繰り返し実行されるとして説明しているが、ステップS241乃至S245の予測環境制御は、最初に1回だけ行い、繰り返し行わなくてもよい。すなわち、この場合には、ステップS246乃至S250の処理のみが繰り返し実行されることになる。
以上、予測環境制御処理の流れについて説明した。
なお、クラウド環境としての環境制御システム32(図41)の構成ではなく、ローカル環境としての環境制御システム(不図示)の構成を採用した場合には、例えば、環境制御装置301(図42)の機能を有するクライアント装置105が、図43のステップS241乃至S251の処理を実行することになる。
(環境改善量算出処理の流れ)
次に、図44のフローチャートを参照して、図43のステップS244に対応する環境改善量算出処理の詳細について説明する。
ステップS261においては、図43のステップS243の処理で得られるボトルネックのチェック結果に基づいて、光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRとの大小関係を判定する。
ステップS261において、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが小さいと判定された場合、処理は、ステップS262に進められる。
ステップS262において、環境改善量算出部342は、光合成速度として、光化学系反応が律速しているので、環境改善候補として、光を選択する。
ステップS263において、環境改善量算出部342は、環境制御システム32が用意している環境改善機能として、光と温度を認識する。ここでは、環境制御システム32は、図41に示した構成からなり、光の環境を改善するための照明装置303と、温度の環境を改善するための温度制御装置304を有している。
ステップS264において、環境改善量算出部342は、ステップS262の処理で選択した環境改善候補である光が、ステップS263の処理で認識された環境改善機能(光、温度)に含まれているので、環境改善対象として、光を決定する。
ステップS265において、環境改善量算出部342は、ステップS264の処理で決定された環境改善対象に従い、光である環境改善対象の環境改善量として、最大補光量を算出する。この最大補光量は、上述した式(18)により算出することができる。
このように、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが小さいと判定された場合(炭素還元反応最大ETR-光化学系反応最大ETR > 0)、光化学系反応最大ETRがボトルネックであって、現在の光合成速度は、光化学系反応が律速していることになる。そのため、照明装置303により補光を行うことで、環境改善が可能となるので、環境改善対象として光が決定され、その環境改善量として最大補光量が算出される。
一方で、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが大きいと判定された場合、処理、ステップS266に進められる。
ステップS266において、環境改善量算出部342は、光合成速度として、炭素還元反応が律速しているので、環境改善候補として、温度、湿度、二酸化炭素濃度を選択する。なお、上述したように、環境改善候補としては、例えば、植物に対する栄養素などを加えるようにしてもよい。
ステップS267において、環境改善量算出部342は、環境制御システム32が用意している環境改善候補として、光と温度を認識する。ここでは、環境制御システム32は、図41に示した構成からなるため、照明装置303と温度制御装置304を有している。
ステップS268において、環境改善量算出部342は、ステップS266の処理で選択した環境改善候補である温度が、ステップS267の処理で認識された環境改善機能(光、温度)に含まれているので、環境改善対象として、温度を決定する。
ステップS269において、環境改善量算出部342は、ステップS268の処理で決定された環境改善対象に従い、温度である環境改善対象の環境改善量として、環境改善温度を算出する。ここでは、環境改善温度として、例えば、「+5度」が算出される。
このように、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが大きいと判定された場合(炭素還元反応最大ETR-光化学系反応最大ETR ≦ 0)、炭素還元反応最大ETRがボトルネックであって、現在の光合成速度は、炭素還元反応が律速していることになる。そのため、温度制御装置304により温度を変化させることで、環境改善が可能となるので、環境改善対象として温度が決定され、その環境改善量として環境改善温度が算出される。
ステップS265又はS269の処理が終了すると、処理は、ステップS270に進められる。
ステップS270においては、光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRとの差が演算され、その演算結果に応じて、光化学系反応最大ETRと炭素還元反応最大ETRとの大小関係が判定される。
ステップS270において、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが小さいと判定された場合、処理は、ステップS261に戻され、上述した処理が繰り返される。一方で、ステップS270において、炭素還元反応最大ETRよりも光化学系反応最大ETRのほうが大きいと判定された場合、図44の環境改善量算出処理は終了される。図44の環境改善量算出処理が終了すると、処理は、図43のステップS244に戻り、それ以降の処理が実行される。
以上、環境改善量算出処理の流れについて説明した。
なお、図44の環境改善量算出処理では、光と温度の環境改善が可能な場合に、現在の光合成速度として、光化学系反応が律速しているときには、環境改善対象を光として、環境改善制御を行う一方で、現在の光合成速度として、炭素還元反応が律速しているときには、環境改善対象を温度として、環境改善制御を行うことができる。
すなわち、本技術の環境改善制御としては、光化学系反応に応じた環境改善対象による環境改善制御、及び、炭素還元反応に応じた環境改善対象による環境改善制御のうち、少なくとも一方の環境改善制御を行えばよい。そして、例えば、仮に、一方の環境改善制御を行い、一方の環境が改善されることで、他方の環境の改善が必要になった場合には、さらに、他方の環境改善制御を行えばよい。
例えば、炭素還元反応に応じた環境改善対象(温度)による環境改善制御により、温度が改善されることで、光の改善が必要になる状況も想定されるが、その場合には、光化学系反応に応じた環境改善対象(光)による環境改善制御を行うようにすればよい。つまり、炭素還元反応に応じた環境改善対象(温度)による環境改善制御と、光化学系反応に応じた環境改善対象(光)による環境改善制御との両者を行うことで、環境の調整を行うことができる(バランスをとることができる)。
次に、図45乃至図52を参照して、図43のステップS250の処理で表示されるデータの表示例について説明する。
本技術の発明者は、実際のある日において、圃場の植物等の被測定対象物1に対する光と温度の環境改善を行ったときの実効PPFD値(環境改善・実効PPFD値)が、どのように変化するのかを確認するために、以下の(e)乃至(h)の環境下で、シミュレーション(以下、第3のシミュレーションという)を行った。
(e)環境E:日向、1日の平均気温20度
(f)環境F:日陰、1日の平均気温20度
(g)環境G:日向、1日の平均気温8度
(h)環境H:日陰、1日の平均気温8度
すなわち、第3のシミュレーションにおいては、環境制御システム32(図41)が、環境改善機能として、照明装置303と温度制御装置304を有する構成からなる場合に、照明装置303による補光と、温度制御装置304による温度制御を行うことで、環境の改善が行われるものとする。
したがって、第3のシミュレーションでは、環境改善・実効PPFD値として、照明装置303によって、最大補光量に応じた補光を行うことで得られる最大補光・実効PPFD値が得られるが、その平均温度が、第2のシミュレーションと異なっている。
すなわち、第3のシミュレーションにおいては、環境改善対象として、温度が決定されたとき、環境改善温度として、+5度が算出されている。そのため、第3のシミュレーションでは、環境改善対象が光のみであった、第2のシミュレーション(図33乃至図36)と比較して、平均気温が、15度と3度から、20度と8度となって、5度上昇している。
以下、第3のシミュレーションの結果得られたデータを例示する。ただし、ここでの被測定対象物1は、植物であるものとする。
(2-1)環境E(日向、平均気温20度)の表示例
図45は、環境Eにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温20度)の表示例を示す図である。
環境Eは、植物が日向に存在し、その周辺の1日の平均気温が20度とされている。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1E乃至線L5Eは、日向・PPFD値と、日向・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温20度)と、日向・伝達ETR(平均気温20度)と、日向・実効PPFD値(平均気温20度)を示している。
図45において、線L6Eは、環境Eの日向において、温度制御装置304による環境改善温度(+5度)に応じた温度制御と、照明装置303による最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温20度))の変化を示している。
ここで、図45において、線L5Eで示される日向・実効PPFD値と、線L6Eで示される日向・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日向・実効PPFD値は、ゼロになるが、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没後であっても、日向・実効PPFD値と同等となる日向・最大補光・実効PPFD値が得られる。一方で、日の出から日没付近までの間においては、日向・最大補光・実効PPFD値は、ゼロとなる。
また、図45の環境Eの日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温20度)を、図33の環境Aの日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温15度)と比較すれば、図45の線L6Eと、図33の線L6Aの形状から明らかなように、最大補光量に応じた補光だけでなく、環境改善温度に応じたよる温度制御をも行っている線L6Eのほうが、線L6Aよりも、より大きな実効PPFD値を示している。
(2-2)環境F(日陰、平均気温20度)の表示例
図46は、環境Fにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温20度)の表示例を示す図である。
環境Fは、植物が日陰に存在し、その周辺の1日の平均気温が20度とされている。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1F乃至線L5Fは、日陰・PPFD値と、日陰・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温20度)と、日陰・伝達ETR(平均気温20度)と、日陰・実効PPFD値(平均気温20度)を示している。
図46において、線L6Fは、環境Fの日陰において、温度制御装置304による環境改善温度(+5度)に応じた温度制御と、照明装置303による最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温20度))の変化を示している。
ここで、図46において、線L5Fで示される日陰・実効PPFD値と、線L6Fで示される日陰・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日陰・実効PPFD値は、ゼロになる。一方で、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没の前後に関係なく、常に、日陰・実効PPFD値よりも大きな値となる日陰・最大補光・実効PPFD値が得られる。
また、図46の環境Fの日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温20度)を、図34の環境Bの日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温15度)と比較すれば、図46の線L6Fと、図34の線L6Bの形状から明らかなように、最大補光量に応じた補光だけでなく、環境改善温度に応じたよる温度制御をも行っている線L6Fのほうが、線L6Bよりも、より大きな実効PPFD値を示している。
(2-3)環境G(日向、平均気温8度)の表示例
図47は、環境Gにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温8度)の表示例を示す図である。
環境Gは、植物が日向に存在し、その周辺の1日の平均気温が8度とされている。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1G乃至線L5Gは、日向・PPFD値と、日向・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温8度)と、日向・伝達ETR(平均気温8度)と、日向・実効PPFD値(平均気温8度)を示している。
図47において、線L6Gは、環境Gの日向において、温度制御装置304による環境改善温度(+5度)に応じた温度制御と、照明装置303による最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温8度))の変化を示している。
ここで、図47において、線L5Gで示される日向・実効PPFD値と、線L6Gで示される日向・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日向・実効PPFD値は、ゼロになるが、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没後であっても、日向・実効PPFD値に近い値となる日向・最大補光・実効PPFD値が得られる。
また、図47の環境Gの日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温8度)を、図35の環境Cの日向・最大補光・実効PPFD値(平均気温3度)と比較すれば、図47の線L6Gと、図35の線L6Cの形状から明らかなように、最大補光量に応じた補光だけでなく、環境改善温度に応じたよる温度制御をも行っている線L6Gのほうが、線L6Cよりも、より大きな実効PPFD値を示している。
(2-4)環境H(日陰、平均気温8度)の表示例
図48は、環境Hにおける最大補光・実効PPFD値(平均気温8度)の表示例を示す図である。
環境Hは、植物が日陰に存在し、その周辺の1日の平均気温が8度となる。このような環境下におけるシミュレーションの結果として、線L1H乃至線L5Hは、日陰・PPFD値と、日陰・光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応最大ETR(平均気温8度)と、日陰・伝達ETR(平均気温8度)と、日陰・実効PPFD値(平均気温8度)を示している。
図48において、線L6Hは、環境Hの日陰において、温度制御装置304による環境改善温度(+5度)に応じた温度制御と、照明装置303による最大補光量に応じた補光を行うことで得られる環境改善・実効PPFD値(日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温8度))の変化を示している。
ここで、図48において、線L5Hで示される日陰・実効PPFD値と、線L6Hで示される日陰・最大補光・実効PPFD値に注目すれば、16時過ぎの日没後に、日陰・実効PPFD値は、ゼロになる。一方で、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことで、日没の前後に関係なく、日陰・最大補光・実効PPFD値が得られる。
また、図48の環境Hの日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温8度)を、図36の環境Dの日陰・最大補光・実効PPFD値(平均気温3度)と比較すれば、図48の線L6Hと、図36の線L6Dの形状から明らかなように、最大補光量に応じた補光だけでなく、環境改善温度に応じたよる温度制御をも行っている線L6Hのほうが、線L6Dよりも、より大きな実効PPFD値が得られることを示している。
(第3のシミュレーション結果の比較)
ここで、図45乃至図48に示した第3のシミュレーション結果を比較すれば、次のようになる。
すなわち、図45の環境Eと図46の環境Fでは、その平均気温が共に20度であるが、日向に比べて、日陰のほうが、実効PPFD値(平均気温20度)よりも、最大補光・実効PPFD値(平均気温20度)が大きくなっており、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
また、図47の環境Gと図48の環境Hでは、その平均気温が共に8度であるが、日向に比べて、日陰のほうが、実効PPFD値(平均気温8度)よりも、最大補光・実効PPFD値(平均気温8度)が大きくなっており、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
一方で、図45の環境Eと図47の環境Gでは、その環境が共に日向であるが、平均気温8度に比べて、平均気温20度のほうが、日向・最大補光・実効PPFD値が大きくなっており、同じ日向であっても、平均気温が高いほうが、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
また、図46の環境Fと図48の環境Hでは、その環境が共に日陰であるが、平均気温8度に比べて、平均気温20度のほうが、日陰・最大補光・実効PPFD値が大きくなっており、同じ日陰であっても、平均気温が高いほうが、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行うことの効果が大きい。
次に、図49乃至図52を参照して、上述した環境E乃至Hの環境下でのシミュレーションごとに、PPFD値と、実効PPFD値と、実効PPFD値+最大補光の1日の積算値を比較する。
(2-5)環境E(日向、平均気温20度)の1日の積算値の表示例
図49は、環境Eにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
図49において、環境Eのシミュレーションで得られる、実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約14.8(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約45.9(mol/m2/day)となる。したがって、環境Eにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の積算値の約3.1倍の大きさとなる。
すなわち、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量はおよそ3.1倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
また、図49の環境Eの各PPFD値の積算値を、図37の環境Aの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Eは、環境Aと比べて、温度制御によって、平均気温が、15度から20度に5度上昇している分だけ、植物の光合成生成物の生成量を、3倍から3.1倍に、若干大きくすることができる。
(2-6)環境F(日陰、平均気温20度)の1日の積算値の表示例
図50は、環境Fにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
図50において、環境Fのシミュレーションで得られる、実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約3.7(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約44.4(mol/m2/day)となる。したがって、環境Fにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の積算値の約12倍の大きさとなる。
すなわち、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量はおよそ12倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量がかなり大きく助長されていることが分かる。
また、図50の環境Fの各PPFD値の積算値を、図38の環境Bの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Fは、環境Bと比べて、温度制御によって、平均気温が、15度から20度に5度上昇している分だけ、植物の光合成生成物の生成量を、11倍から12倍に、若干大きくすることができる。
(2-7)環境G(日向、平均気温8度)の1日の積算値の表示例
図51は、環境Gにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
図51において、環境Gのシミュレーションで得られる、実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約11.4(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約27.4(mol/m2/day)となる。したがって、環境Gにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の積算値の約2.4倍の大きさとなる。
すなわち、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量はおよそ2.4倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量が大きく助長されていることが分かる。
また、図51の環境Gの各PPFD値の積算値を、図39の環境Cの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Gは、環境Cと比べて、温度制御によって、平均気温が、3度から8度に5度上昇している分だけ、植物の光合成生成物の生成量を、1.7倍から2.4倍に、大きくすることができる。
すなわち、日向の環境に注目すれば、温度制御による同じ5度の気温上昇であっても、図37の環境A(平均気温15度:光合成生成物の生成量3倍)と、図49の環境E(平均気温20度:光合成生成物の生成量3.1倍)との平均気温が高い環境の関係よりも、図39の環境C(平均気温3度:光合成生成物の生成量1.7倍)と、図51の環境G(平均気温8度:光合成生成物の生成量2.4倍)との平均気温が低い環境の関係のほうが、環境改善制御によって、植物の成長量が大きく助長されることが分かる。
(2-8)環境H(日陰、平均気温8度)の1日の積算値の表示例
図52は、環境Hにおける各PPFD値の1日の積算値の表示例を示す図である。
図52において、環境Hのシミュレーションで得られる実効PPFD値と実効PPFD値+最大補光との1日の積算値を比較すれば、実効PPFD値の積算値が約4.3(mol/m2/day)であるのに対し、実効PPFD値+最大補光の積算値が約25.8(mol/m2/day)となる。したがって、環境Hにおいて、実効PPFD値+最大補光の積算値は、実効PPFD値の積算値の約6倍の大きさとなる。
すなわち、環境改善温度に応じた温度制御と、最大補光量に応じた補光を行った場合には、実効PPFD値の積算値と、実効PPFD値+最大補光の積算値との差に応じて、植物の糖などの光合成生成物の生成量は6倍となり、環境改善制御を行うことで、植物の成長量がかなり大きく助長されていることが分かる。
また、図52の環境Hの各PPFD値の積算値を、図40の環境Dの各PPFD値の積算値と比較すれば、環境Hは、環境Dと比べて、温度制御によって、平均気温が、3度から8度に5度上昇している分だけ、植物の光合成生成物の生成量を、4倍から6倍に、大きくすることができる。
すなわち、日陰の環境に注目すれば、温度制御による同じ5度の気温上昇であっても、図38の環境B(平均気温15度:光合成生成物の生成量11倍)と、図50の環境F(平均気温20度:光合成生成物の生成量12倍)との平均気温が高い環境の関係よりも、図40の環境D(平均気温3度:光合成生成物の生成量4倍)と、図52の環境H(平均気温8度:光合成生成物の生成量6倍)との平均気温が低い環境の関係のほうが、環境改善制御によって、植物の成長量が大きく助長されることが分かる。
なお、図45乃至図52に示した表示例は、実効PPFD値+最大補光等のデータの統計値を提示するための表示形態の一例であって、他の表示形態で、実効PPFD値+最大補光等のデータの統計値を表示するようにしてもよい。
また、このようなデータを、図49乃至図52に示したように、1日単位や1週間単位、1ヶ月単位などの所定の時間範囲で集計することで、例えば、植物の成長に重要な日照に関するデータを蓄積することが可能となる。これにより、例えば、被測定対象物1としての植物ごとに、例えば1日単位や1週間単位などの共通の時間の単位で、実効PPFD値+最大補光等のデータを集計することができる。また、実効PPFD値+最大補光等のデータを、領域ごとに、2次元情報として提示するようにしてもよい。
以上のように、実際に植物の成長に寄与したPPFD値を、実効PPFD値として表示するだけでなく、環境改善・実効PPFD値をも表示することができるため、様々な角度から、被測定対象物1としての植物の生育を分析することが可能となる。
すなわち、植物の光合成は、光のエネルギーではなく、光の粒子である光量子の数に影響を受けることが知られている。しかしながら、植物が光を有効に活用できる光量子の数は、二酸化炭素濃度(CO2濃度)、温度、湿度、栄養素などの環境条件と、植物の種類や状態によって、大きく左右される。そこで、本技術では、このような環境条件と、植物の種類や状態から、植物が有効に活用できると想定されるPPFD値を予測することで、実効PPFD値を算出して表示している。そして、ここでは、さらに、この実効PPFD値を活用して、予測情報を用いた環境改善を行うことで、植物の成長を助長している。
なお、上述した説明では、被測定対象物1として、例えば、圃場の植物やスタジアムの芝などの屋外の植物を中心に説明したが、例えば、植物工場やビニールハウスなどの屋内の施設の植物に対しても、本技術の環境改善制御を適用することができる。
<5.変形例>
(基準反射板の他の例)
上述した説明では、基準反射板20は、グレー反射板等の分光反射特性がフラットな基準反射板を用いるとして説明したが、反射率が既知であれば、移動可能な板状の形状に限らず、固定された所定の領域あってもよい。例えば、スタジアムの芝を測定する場合に、アンツーカを基準反射領域として、利用することができる。そして、例えば、アンツーカなどの分光反射特性がフラットではない領域を基準反射領域として利用する場合には、当該基準反射領域に応じた係数算出用LUT(LUT1)をあらかじめ用意する必要があるのは、先に述べた通りである。
なお、基準反射板20としては、所定の反射率を有する基準反射板を作成し、それを利用するようにしてもよい。この場合においても、基準反射板は、任意の位置に設置することが可能であるが、例えば、図11に示したように、所定の反射率を有する基準反射板を、被測定対象物1と同時にセンシング可能な位置に設置することができる。また、基準反射板20(基準反射領域)は、被測定対象物1とは時間的に別のタイミングでセンシングしてもよい。
(他の植生指標)
また、上述した説明では、植物を被測定対象物1としたときの指標(植生指数)として、正規化植生指数(NDVI値)を一例に説明したが、正規化植生指数(NDVI値)以外の他の植生指数が測定されるようにしてもよい。例えば、他の植生指数としては、比植生指数(RVI:Ratio Vegetation Index)や差植生指数(DVI:Difference Vegetation Index)などを用いることができる。
ここで、比植生指数(RVI値)は、下記の式(19)を演算することで算出される。
RVI = IR / R ・・・(19)
また、差植生指数(DVI値)は、下記の式(20)を演算することで算出される。
DVI = IR - R ・・・(20)
ただし、式(19)と、式(20)において、IRは、赤外領域の反射率を表し、Rは、可視領域の赤の反射率を表している。なお、ここでは、IRとRをパラメータとする植生指数のみを例示しているが、赤以外の他の可視領域の光の反射率などをパラメータとして用いて他の植生指数を測定することは、勿論可能である。また、スペクトルの比率は、RとIRとの組み合わせには限られるものではない。センサ144からは、RGBIRの出力として、RとIR以外のGやB等、他の波長帯域の成分が出力される場合に、それらの値を用いるようにしてもよい。
(センシング装置の測定時の他の構成例)
上述した説明では、センシング装置101が、移動観測を行う移動測定装置70(図11)、又は定点観測を行う定点測定装置80(図11)に搭載される場合を説明したが、センシング装置101によって、被測定対象物1と基準反射板20をセンシングすることができれば、あらゆる構成を採用することができる。
例えば、センシング装置101は、人工衛星に搭載されるようにしてもよい。この人工衛星において、センシング装置101によるセンシング(人工衛星からの撮像)で得られる指標測定データ(例えば衛星画像に応じた測定値)は、所定の通信経路を介して実効指標演算装置103に送信される。そして、実効指標演算装置103において、算出部171は、人工衛星に搭載されたセンシング装置101から送信されてくる指標測定データに基づいて、人工衛星から測定された被測定対象物1(例えば圃場の植物)の指標(PPFD値)を求めることができる。
(環境改善量の具体例)
上述した説明では、図30のステップS203の処理や、図43のステップS244の処理、図43のステップS248の処理で、環境改善量算出処理が行われ、環境改善量が得られることを述べたが、この環境改善量は、実効PPFD値の算出に影響を与える環境改善に関する情報であって、例えば、次の情報が含まれる。
すなわち、例えば、LED等を光源として有する照明装置303などのハードウェアに対する制御量のほか、ハードウェアによる制御を行うことができない場合には、肥料の量などを含めることができる。また、これらの環境改善に関する情報は、制御部332(の環境改善制御部351)による環境改善制御に用いられることは勿論、例えば、制御部332(の表示制御部352)によって、数値やテキスト、画像の情報等として、表示部324に表示されるようにしてもよい。
<6.コンピュータの構成>
上述した一連の処理(図10の実効PPFD値算出処理のステップS102乃至S106の処理、図30のリアルタイム環境制御処理、又は図43の予測環境制御処理)は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータにインストールされる。図53は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するコンピュータのハードウェアの構成例を示す図である。
コンピュータ1000において、CPU(Central Processing Unit)1001、ROM(Read Only Memory)1002、RAM(Random Access Memory)1003は、バス1004により相互に接続されている。バス1004には、さらに、入出力インターフェース1005が接続されている。入出力インターフェース1005には、入力部1006、出力部1007、記録部1008、通信部1009、及び、ドライブ1010が接続されている。
入力部1006は、キーボード、マウス、マイクロフォンなどよりなる。出力部1007は、ディスプレイ、スピーカなどよりなる。記録部1008は、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる。通信部1009は、ネットワークインターフェースなどよりなる。ドライブ1010は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリなどのリムーバブル記憶媒体1011を駆動する。
以上のように構成されるコンピュータ1000では、CPU1001が、ROM1002や記録部1008に記録されているプログラムを、入出力インターフェース1005及びバス1004を介して、RAM1003にロードして実行することにより、上述した一連の処理が行われる。
コンピュータ1000(CPU1001)が実行するプログラムは、例えば、パッケージメディア等としてのリムーバブル記憶媒体1011に記録して提供することができる。また、プログラムは、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線又は無線の伝送媒体を介して提供することができる。
コンピュータ1000では、プログラムは、リムーバブル記憶媒体1011をドライブ1010に装着することにより、入出力インターフェース1005を介して、記録部1008にインストールすることができる。また、プログラムは、有線又は無線の伝送媒体を介して、通信部1009で受信し、記録部1008にインストールすることができる。その他、プログラムは、ROM1002や記録部1008に、あらかじめインストールしておくことができる。
ここで、本明細書において、コンピュータがプログラムに従って行う処理は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に行われる必要はない。すなわち、コンピュータがプログラムに従って行う処理は、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含む。また、プログラムは、1のコンピュータ(プロセッサ)により処理されるものであってもよいし、複数のコンピュータによって分散処理されるものであってもよい。
なお、本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上述した複数の実施の形態の全て又は一部を組み合わせた形態を採用することができる。
なお、本技術は、以下のような構成をとることができる。
(1)
被測定対象物に入射する光に関する指標であって、前記被測定対象物に有効に活用された指標を表した実効指標に基づいて、前記実効指標の算出に影響を与える環境の改善に関する情報を取得する制御部を備える
制御装置。
(2)
前記被測定対象物は、植物であり、
前記実効指標は、前記植物の伝達ETR(Electron Transfer Rate)を、前記植物に入射した光の照射量に換算することで得られる
(1)に記載の制御装置。
(3)
前記伝達ETRは、前記植物における光化学系反応の最大値である光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応の最大値である炭素還元反応最大ETRのうち、小さい方のETRである
(2)に記載の制御装置。
(4)
前記制御部は、前記光化学系反応に応じた環境改善対象、及び、前記炭素還元反応に応じた環境改善対象のうち、少なくとも一方の環境改善対象による環境の改善に関する情報を取得する
(3)に記載の制御装置。
(5)
前記制御部は、光合成速度として、前記光化学系反応が律速している場合、環境改善対象を、光であると決定し、前記環境の改善に関する情報として、前記植物に対する光の照射に関する情報を取得する
(4)に記載の制御装置。
(6)
前記制御部は、前記炭素還元反応最大ETRと前記光化学系反応最大ETRとの差に応じた値を、最大補光量として、前記植物に対する光の照射に関する情報を取得する
(5)に記載の制御装置。
(7)
前記制御部は、光合成速度として、前記炭素還元反応が律速している場合、環境改善対象を、前記植物の周辺の温度、湿度、及び二酸化炭素濃度、並びに前記植物に対する栄養素のうちの少なくとも1つであると決定し、その環境の改善に関する情報を取得する
(4)乃至(6)のいずれかに記載の制御装置。
(8)
前記制御部は、前記環境の改善に関する情報に基づいて、前記被測定対象物に対する環境を改善する環境改善装置を制御して、前記実効指標の算出に影響を与える環境を改善する
(1)乃至(7)のいずれかに記載の制御装置。
(9)
前記制御部は、前記環境の改善に関する情報の表示を制御する
(1)乃至(8)のいずれかに記載の制御装置。
(10)
前記制御部は、リアルタイムで取得される前記実効指標に基づいて、前記環境の改善に関する情報を取得する
(1)乃至(9)のいずれかに記載の制御装置。
(11)
前記制御部は、あらかじめ用意された予測情報から予測された前記実効指標に基づいて、前記環境の改善に関する情報を取得する
(1)乃至(9)のいずれかに記載の制御装置。
(12)
前記制御部は、予測された前記実効指標に応じた環境の改善の準備が終了した後に、前記環境の改善に関する情報に基づいて、前記環境の改善を制御する
(11)に記載の制御装置。
(13)
前記植物に入射する光に関する指標は、イメージセンサによるセンシングで得られる前記植物に対する測定値から得られる
(2)乃至(7)のいずれかに記載の制御装置。
(14)
前記指標は、光合成有効光量子束密度(PPFD:Photosynthetic Photon Flux Density)であり、
前記実効指標は、前記PPFD値のうち、植物の成長に寄与したPPFD値を表した実効PPFD値である
(2)乃至(7)又は(13)に記載の制御装置。
(15)
制御装置の制御方法において、
前記制御装置が、
被測定対象物に入射する光に関する指標であって、前記被測定対象物に有効に活用された指標を表した実効指標に基づいて、前記実効指標の算出に影響を与える環境の改善に関する情報を取得するステップを含む
制御方法。
(16)
被測定対象物をセンシングするセンシング装置と、前記被測定対象物の周辺の環境をセンシングする環境センサと、前記被測定対象物に対する環境を改善する環境改善装置と、前記環境改善装置を制御する制御装置とを備える制御システムにおいて、
前記制御装置は、
前記センシング装置と前記環境センサによるセンシング結果に基づいて、前記被測定対象物に入射する光に関する指標として、前記被測定対象物に有効に活用された指標を表した実効指標を算出する算出部と、
前記実効指標に基づいて、前記環境改善装置を制御して、前記実効指標の算出に影響を与える環境を改善する制御部と
を有する
制御システム。
(17)
被測定対象物に入射する光に関する指標であって、前記被測定対象物に有効に活用された指標を表した実効指標に基づいた、前記実効指標の算出に影響を与える環境の改善の制御を行うことで得られる情報の表示を制御する制御部を備える
制御装置。
(18)
前記被測定対象物は、植物であり、
前記実効指標は、前記植物の伝達ETRを、前記植物に入射した光の照射量に換算することで得られ、
前記伝達ETRは、前記植物における光化学系反応の最大値である光化学系反応最大ETRと、炭素還元反応の最大値である炭素還元反応最大ETRのうち、小さい方のETRであり、
前記光化学系反応に応じた環境改善対象、及び、前記炭素還元反応に応じた環境改善対象のうち、少なくとも一方の環境改善対象による環境の改善が行われており、
前記制御部は、環境の改善前の前記実効指標の値とともに、環境の改善後の前記実効指標の値を表示させる
(17)に記載の制御装置。
(19)
前記制御部は、光合成速度として、前記光化学系反応が律速している場合に、環境改善対象として、前記植物に対する光を改善することで得られる、環境の改善後の前記実効指標の値を表示させる
(18)に記載の制御装置。
(20)
前記制御部は、光合成速度として、前記炭素還元反応が律速している場合に、環境改善対象として、前記植物の周辺の温度、湿度、及び二酸化炭素濃度、並びに前記植物に対する栄養素のうちの少なくとも1つを改善することで得られる、環境の改善後の前記実効指標の値を表示させる
(18)又は(19)に記載の制御装置。
(21)
前記指標は、光合成有効光量子束密度(PPFD)であり、
前記実効指標は、前記PPFD値のうち、植物の成長に寄与したPPFD値を表した実効PPFD値である
(18)乃至(20)のいずれかに記載の制御装置。
(22)
制御装置の制御方法において、
前記制御装置が、
被測定対象物に入射する光に関する指標であって、前記被測定対象物に有効に活用された指標を表した実効指標に基づいた、前記実効指標の算出に影響を与える環境の改善の制御を行うことで得られる情報の表示を制御するステップを含む
制御方法。