JP7083663B2 - ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法及びキット - Google Patents

ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法及びキット Download PDF

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特許法第30条第2項適用 公開1 集会名:かぎん未来創造プランコンテスト 開催日:平成30年1月20日 公開2 刊行物名:南日本新聞 公開者:南日本新聞 公開日:平成30年1月21日 公開3 掲載アドレス: http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/kato/ 公開者:加藤 太一郎 掲載日:平成30年1月22日 公開4 掲載アドレス: https://www.kagoshima-u.ac.jp/topics/2018/02/post-1333.html 公開者:鹿児島大学 掲載日:平成30年2月1日 公開5 放送番組:KKB(鹿児島放送) 番組名「かごとき」 公開者:KKB(鹿児島放送) 公開日:平成30年1月23日 公開6 掲載アドレス: http://www.kkb.co.jp/news_move/jchan_move_detail.php?news_flg=2&param1=20180123&param2=113527&param3=1 公開者:鹿児島放送 掲載日:平成30年1月23日 公開7 放送番組:MBC(南日本放送) 番組名「かごしま4」 公開者:MBC(南日本放送) 公開日:平成30年1月25日
本発明は、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法及びキットに関する。より詳細には、本発明は、合成基質を用いるジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法及びキットに関する。
歯周病は、歯周組織に生じる慢性疾患の総称である。歯周病には主に歯肉炎と歯周炎とが含まれる。歯肉炎は歯肉に限局した炎症であり、歯周炎は他の歯周組織にも炎症が及ぶ場合や、組織破壊が生じている場合を主に言う。歯肉炎は日本の成人の約80%に見られ、歯周炎は約40%に見られる。歯周炎は歯牙喪失を招くが、歯牙喪失は口腔機能の低下のみならず、全身性に神経機能の低下をもたらすことが判明しつつある。したがって早期に歯周炎や歯周病を発見し、処置することが望まれる。
従来の歯周病の検査方法、スクリーニング方法としては、歯肉消息子(periodontal probe)を用いて歯周ポケットの深さを測定する方法が挙げられるが、この方法は技能者を必要とし、時間がかかり、多人数をスクリーニングするには不向きである。また、歯周病のうち初期段階のもの、例えば軽微な歯肉炎の検出には不向きであるか、又は再現性の点で問題があった。
他には、歯周病の診断方法として、唾液等の試料にβ-グルコニダーゼに対する基質を添加し、当該基質から遊離するβ-グルコニダーゼの反応生成物を測定する方法が報告されている(特許文献2)。
歯周病原因菌のうち、最も重要と考えられているのはジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)である。ジンジバリス菌は、強力なプロテアーゼであるジンジパインを産生し、生体タンパク質を分解したり、宿主細胞に傷害を与えたりして、歯周病に関連する種々の病態をもたらすと考えられている。ジンジパインには、アルギニン残基のC末端側を切断するArg-ジンジパイン(EC 3.4.22.37)と、リシン残基のC末端側を切断するLys-ジンジパイン(EC 3.4.22.47)が存在する。これらはヒトコラーゲンやフィブロネクチン、ラミニンといった細胞外マトリクスを分解でき、これにより歯周組織が破壊されると考えられている。また、ジンジパインは、抗体や補体系、サイトカイン、フィブリノーゲン、血液凝固因子X等を分解することも報告されており、ジンジバリス菌とアテローム性動脈硬化症や心血管疾患との関連が示唆されている(非特許文献1)。
ジンジバリス菌の検出キットとしては、Banamet LLC社(米国)の提供するバナペリオというキットが市販されている。これは基質としてN-ベンゾイル-DL-アルギニル-β-ナフチルアミドを利用し、歯周病菌のジンジバリス菌、Treponema denticola及びTannerella forsythiaの3種がもつBANA分解活性を検出することにより、これら3種の菌の存在を定性的に調べる試験ストリップである(非特許文献2)。
また、ジンジバリス菌の検出方法としては、発色基質Z-Phe-Arg-MCA(式中、Zはベンジルオキシカルボニルであり、MCAは4-メチルクマリル-7-アミドである)を用いた方法が報告されている(特許文献1)。当該文献の表1では、ジンジパイン酵素量が「+」や「++」といった記号で段階的に示されている。
歯周病を早期にかつ正確に診断することが望まれる。また、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を迅速かつ簡便に、そして精度良く検出する方法が望まれている。
特許文献3は、合成基質Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンを記載している(当該文献における段落[0123]及び表4)。当該基質は、カテプシンの検出に使用されている。
特許文献4は、カスパーゼ活性の検出にルシフェリン基質を使用している。
国際公開第2004/106541号パンフレット 米国特許第6063588号明細書 特開2011―188857号公報 国際公開第2003/066611号パンフレット
日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)122,37-44(2003) 体外診断用医薬品承認番号21400AMY00214000バナペリオ商品カタログ
ある実施形態において、本発明は、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法及びキットを提供することを目的とする。別の実施形態において、本発明は、ジンジパイン活性を測定する方法及びキットを提供することを目的とする。さらなる実施形態において、本発明は、歯周病診断キットを提供することを目的とする。
本発明者らは、従来法の諸々の問題点に鑑み、ジンジバリス菌の検出について鋭意検討した結果、アミノルシフェリン部分を有する合成基質を用いることにより、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下の実施形態を包含する:
[1] ペプチド部分と、アミノルシフェリン部分とを含む合成基質
Figure 0007083663000001
[式中、アミノルシフェリン部分はペプチド部分のC末端側に連結され、ペプチド部分は少なくとも1つのアミノ酸残基を有し、かつペプチド部分のC末端側第1アミノ酸がアルギニンであり、ペプチド部分は場合によりそのN末端側に保護基を有してもよい]
及びルシフェラーゼを用いる、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法。
[2] 前記合成基質のペプチド部分が、
i) アルギニンからなる、
ii) X1-(アルギニン)からなるジペプチド(式中、X1は任意のアミノ酸である)、又は
iii) X1-X2-(アルギニン)からなるトリペプチド(式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸である)、
である、1に記載の方法。
[3] 前記合成基質がペプチド部分のN末端側に保護基を有し、該保護基がベンジルオキシカルボニル基(Z)、t-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)又はベンゾイル基(Bzo)である、1又は2に記載の方法。
[4] 前記合成基質がZ-Phe-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Phe-Arg-アミノルシフェリン、及びArg-アミノルシフェリンからなる群より選択される、1~3のいずれかに記載の方法。
[5] i) ジンジパイン活性を含みうる試料又は被験体に由来する生物学的試料と、前記合成基質とを接触させる工程、
ii) 前記試料及び合成基質を含む系とルシフェラーゼとを接触させる工程、及び
iii) アミノルシフェリン及びルシフェラーゼによる発光を測定する工程、
を含む、
1~4のいずれかに記載の方法。
[6] i) ルシフェラーゼと前記合成基質とを接触させる工程、
ii) 前記ルシフェラーゼ及び合成基質を含む系とジンジパイン活性を含みうる試料又は被験体に由来する生物学的試料とを接触させる工程、及び
iii) アミノルシフェリン及びルシフェラーゼによる発光を測定する工程、
を含む、
1~4のいずれかに記載の方法。
[7] 被験体に由来する生物学的試料が、唾液、歯垢、歯石又は舌苔の採取物である、5又は6に記載の方法。
[8] 発光の測定により、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を定量的に測定する、1~7のいずれかに記載の方法。
[9] ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌の検出により、歯周病の診断を補助する、1~8のいずれかに記載の方法。
[10] ペプチド部分と、アミノルシフェリン部分とを含む合成基質
Figure 0007083663000002
[式中、アミノルシフェリン部分はペプチド部分のC末端側に連結され、ペプチド部分は少なくとも1つのアミノ酸残基を有し、かつペプチド部分のC末端側第1アミノ酸がアルギニンであり、ペプチド部分は場合によりそのN末端側に保護基を有してもよい]
並びにルシフェラーゼを含む、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出するためのキット。
[11] 前記合成基質のペプチド部分が、
i) アルギニンからなる、
ii) X1-(アルギニン)からなるジペプチド(式中、X1は任意のアミノ酸である)、又は
iii) X1-X2-(アルギニン)からなるトリペプチド(式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸である)、
10に記載のキット。
[12] 前記合成基質がペプチド部分のN末端側に保護基を有し、該保護基がベンジルオキシカルボニル基(Z)、t-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)又はベンゾイル基(Bzo)である、10又は11に記載のキット。
[13] 前記合成基質がZ-Phe-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Phe-Arg-アミノルシフェリン、及びArg-アミノルシフェリンからなる群より選択される、10~12のいずれかに記載のキット。
[14] ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を定量的に測定するための、10~13のいずれかに記載のキット。
[15] 歯周病診断用である、10~14のいずれかに記載のキット。
本発明の効果として、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出することができる。
基質Bzo-L-Arg-アミノルシフェリンをArg-EP酵素に用いた場合の発光量を示す。 基質Bzo-D-Arg-アミノルシフェリンをArg-EP酵素に用いた場合の発光量を示す。 基質Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンをArg-EP酵素に用いた場合の発光量を示す。 3種の基質に対する各微生物の反応性を示す。 バナペリオによるジンジバリス菌検出の判定結果を示す。 発光法(蓄積型)におけるジンジバリス菌検出(Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン)を示す。 発光法(蓄積型)におけるジンジバリス菌検出(Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン)を示す。 発光法(蓄積型)におけるジンジバリス菌検出(Z-Phe-Arg-アミノルシフェリン)を示す。 発光法(平衡型)におけるジンジバリス菌検出(Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン)を示す。 発光法(平衡型)におけるジンジバリス菌検出(Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン)を示す。 発光法(平衡型)におけるジンジバリス菌検出(Z-Phe-Arg-アミノルシフェリン)を示す。
ある実施形態において、本発明は、以下の合成基質を提供する。この合成基質は、ペプチド部分と、アミノルシフェリン部分とを含む:
Figure 0007083663000003
[式中、アミノルシフェリン部分はペプチド部分のC末端側に連結され、ペプチド部分は少なくとも1つのアミノ酸残基を有し、かつペプチド部分のC末端側第1アミノ酸がアルギニンである。またペプチド部分は場合によりそのN末端側に保護基を有してもよい]。
ある実施形態において本発明は、この合成基質を用いる、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法を提供する。
ある実施形態において、合成基質中のペプチド部分は、例えば1~3アミノ酸を含み得る。すなわち、ペプチド部分は、単一アミノ酸、ジペプチド、又はトリペプチドであり得る。単一アミノ酸は一般的にはペプチドと呼ばれないが、本明細書では便宜上、「ペプチド部分」というとき、この用語にトリペプチドやジペプチドのみならず、単一アミノ酸も含めるものとする。また、ペプチド部分のアルギニン残基は、厳密には官能基を有することから、アルギニル基と呼びうるものであるが、ペプチドの技術分野では、「-Phe-」や「-Arg-」といった表記が一般的に用いられていることから、本明細書では、便宜上、ペプチド部分がアルギニル基である場合を単にアルギニン残基、或いはアルギニンと表記することがある。他のアミノ酸についても同様である。
ある実施形態において、本発明の合成基質のペプチド部分は、
i) アルギニンからなる、
ii) X1-(アルギニン)からなるジペプチド(式中、X1は任意のアミノ酸である)、又は
iii) X1-X2-(アルギニン)からなるトリペプチド(式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸である)、
であり得る。X1やX2は、典型的には20種の天然アミノ酸であり得る。
合成基質の保護基は、ペプチド部分のN末端側を保護しうるものであればどのようなものでもよく、特に限定されない。保護基は、有機合成の分野において一般的に用いられる保護基であり得る。ある実施形態において、合成基質の保護基はベンジルオキシカルボニル基(Z)、t-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)又はベンゾイル基(Bzo)であり得る。
ある実施形態において、合成基質は、例えば
Figure 0007083663000004
Z-Phe-Arg-アミノルシフェリン、
Figure 0007083663000005
Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、及び
Figure 0007083663000006
Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン
並びにこれらの基質を脱保護した基質Phe-Arg-アミノルシフェリン、Arg-アミノルシフェリンからなる群より選択され得る。
本発明者らは、代表的な合成基質としてZ-Phe-Arg-アミノルシフェリンを用いて歯周病菌を検出し得ることを示した。また、定量的な検出が可能であることを示した。これらは従来の定性的評価にない利点をもたらすものであり、歯周病の早期診断をもたらし得る。本明細書においてZ-Phe-Arg-アミノルシフェリンを用いて歯周病菌を定量的に検出できたことから、本明細書の教示に従い、当業者であれば、ジンジバリス菌の主要プロテアーゼであるジンジパインにより認識される他の類似の合成基質や、本発明の合成基質の均等物であっても、同様に歯周病菌を検出しうる、と理解する。例えば他の合成基質としては、以下のものが例示されるが、これに限らない:
Z-Tyr-Arg-アミノルシフェリン、Tyr-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Trp-Arg-アミノルシフェリン、Trp-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Met-Arg-アミノルシフェリン、Met-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Leu-Arg-アミノルシフェリン、Leu-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Ile-Arg-アミノルシフェリン、Ile-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Val-Arg-アミノルシフェリン、Val-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Ala-Arg-アミノルシフェリン、Ala-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Gly-Arg-アミノルシフェリン、Gly-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Pro-Arg-アミノルシフェリン、Pro-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Cys-Arg-アミノルシフェリン、Cys-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Gln-Arg-アミノルシフェリン、Gln-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Asn-Arg-アミノルシフェリン、Asn-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Thr-Arg-アミノルシフェリン、Thr-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Ser-Arg-アミノルシフェリン、Ser-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Glu-Arg-アミノルシフェリン、Glu-Arg-アミノルシフェリン、
Z-Asp-Arg-アミノルシフェリン、Asp-Arg-アミノルシフェリン、
Z-His-Arg-アミノルシフェリン、His-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Tyr-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Trp-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Met-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Leu-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Ile-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Val-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Ala-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Gly-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Pro-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Cys-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Gln-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Asn-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Thr-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Ser-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Glu-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-Aps-Arg-アミノルシフェリン、
Boc-His-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Tyr-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Trp-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Met-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Leu-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Ile-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Val-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Ala-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Gly-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Pro-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Cys-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Gln-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Asn-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Thr-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Ser-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Glu-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-Aps-Arg-アミノルシフェリン、
Fmoc-His-Arg-アミノルシフェリン、
Z-X1-X2-Arg-アミノルシフェリン[式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸]、
Boc-X1-X2-Arg-アミノルシフェリン[式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸]、
Bzo-X1-X2-Arg-アミノルシフェリン[式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸] 及び
Fmoc-X1-X2-Arg-アミノルシフェリン[式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸]。合成基質は、一般的な有機合成の手法により合成しうる。本発明の基質の合成に当たり、保護基は必要となることがあるが、このことは必ずしも、ジンジバリス菌の検出に用いる合成基質中に当該保護基が必須であることを意味しない。すなわち、本明細書では、便宜上合成基質の部分として保護基を記載したが、これを脱保護してから、保護基を有しない合成基質をジンジバリス菌の検出に用いてもよい。すなわち、本発明の合成基質には、脱保護され、保護基を有しないものも包含されるものとする。本発明の合成基質の誘導体若しくは均等物についても同様である。また所望の化合物の生成は、薄層クロマトグラフィーやNMRにより確認することができる。
ある実施形態において、本発明に係るジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法は、
i) サンプルと合成基質とを接触させる工程、
ii) サンプル及び合成基質を含む系とルシフェラーゼとを接触させる工程、及び
iii) アミノルシフェリン及びルシフェラーゼによる発光を測定する工程、
を含み得る。測定された発光量は、適当な参照と比較することができる。例えば参照により、バックグラウンドノイズについて補正することができる。サンプルはジンジパイン活性を含み得る試料又は被験体に由来する生物学的試料であり得る。発光の測定は経時的にモニタリングしてもよい。或いは、発光の測定は、一定時間経過後に行ってもよい。この様な態様を本明細書において、蓄積型の測定ということがある。
本明細書において、サンプルと合成基質とを接触させる、とは、サンプル中のジンジパイン活性が合成基質に作用して当該合成基質中のアミノルシフェリン部分を切断しうるような状態で、サンプルと合成基質とを物理的に接触させることをいう。また、本明細書においてサンプル及び合成基質を含む系とルシフェラーゼとを接触させる、とは、サンプルと合成基質とを含む系に存在するアミノルシフェリンとルシフェラーゼとが反応し、発光を生じうる状態で、サンプル及び合成基質を含む系とルシフェラーゼとを物理的に接触させることをいう。本明細書において接触の態様として、例えば第1成分に第2成分を添加してもよく、また、第2成分に第1成分を添加してもよい。成分は接触前は好ましくはいずれか一方又は両方が液体である。第1成分と第2成分とを接触させた後の系は好ましくは液体である。
別の実施形態では、本発明に係るジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法は、
i) 合成基質とルシフェラーゼとを予め接触させる工程、
ii) サンプルと、前記合成基質及びルシフェラーゼを含む系とを接触させる工程、及び
iii) 発光を測定する工程、
を含みうる。この系では、i)の工程において、一定時間ルシフェラーゼと合成基質試薬とを反応させることにより、合成基質の分解などで生じたアミノルシフェリンが消費され、バックグラウンド発光が低減された状態にでき、高感度な測定が可能になる。すなわち、この系では、バックグラウンドの発光が十分に低減されているため、コントロールを差し引くことなく測定された発光量をそのまま、当該サンプルについての発光量とすることができる。ii)の工程において、ジンジパイン活性により生成するアミノルシフェリン量とルシフェラーゼにより消費されるアミノルシフェリン量が平衡状態になり、iii)の工程でジンジパインの活性に応じた発光量が得られる。このような態様を本明細書において、平衡型の測定ということがある。サンプルの発光量が多い場合には、希釈系列を作製して測定を行ってもよい。ジンジパイン活性量が既知のサンプルについての発光量から検量線を作成し、活性量未知のサンプルに含まれるジンジパイン活性を決定し得る。この実施形態では、ルシフェラーゼを通常よりも多めに用いてもよい。
本明細書において、合成基質とルシフェラーゼとを接触させる、とは、合成基質の分解などで生じたアミノルシフェリンとルシフェラーゼとが反応し、発光を生じうる状態で、合成基質とルシフェラーゼとを物理的に接触させることをいう。また、本明細書において、サンプルと、前記合成基質及びルシフェラーゼを含む系とを接触させる、とは、サンプル中に存在するジンジパインが前記合成基質に作用してアミノルシフェリンを生じアミノルシフェリンとルシフェラーゼが反応して発光しうる状態でサンプルと、前記合成基質及びルシフェラーゼを含む系とを物理的に接触させることをいう。
別の実施形態では、本発明に係るジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法は、
i) サンプルとルシフェラーゼを予め接触させる工程、
ii) 前記サンプル及びルシフェラーゼを含む系と合成基質とを接触させる工程、及び
iii) 発光を測定する工程、
を含みうる。この実施形態では、ルシフェラーゼを通常よりも多めに用いてもよい。
被験体に由来する生物学的試料は、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌が存在する可能性のある被験体由来の試料、例えば口腔サンプル、口腔採取物サンプル、唾液、歯垢、歯石又は舌苔の採取物であり得る。口腔サンプルは、キュレット、ハーシュフェルトファイル、ゴールドマンフォックス、モルト、綿棒、糸ようじ等の採取器具により採取しうる。歯肉炎が疑われる場合は、歯肉縁下からサンプルを採取しうる。歯周炎が疑われる場合には、歯周ポケットからサンプルを採取しうる。接触時間(合成基質の反応時間)は、例えば0.1~30分、0.2~10分、0.25~5分、例えば0.5~2分等と設定しうるがこれに限らない。反応温度は、例えば15~40℃、20~37℃、例えば25~30℃等に設定しうるがこれに限らない。発光を測定する時間は例えば0.1秒~30分、0.2秒~10分、0.25秒~5分、例えば0.5秒~2分、1秒~1分等と設定しうるがこれに限らない。
本発明に係るジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法は、定性的な測定であってもよく、定量的な測定であってもよい。ある実施形態において、本発明に係る方法は定量的な測定方法である。
ルシフェリン(アミノルシフェリン)の発光測定には、フォトンカウンティング等の慣用されている手法を用いることができる。例えば適当な発光測定装置、例えば、ルミノメーター(ベルトールド社製、MicroLumat Plus LB9507或いはLB96V、キッコーマンバイオケミファ社製、ルミテスターC-110等)を用いて得られる相対発光強度(RLU)を指標に評価することができる。通常、ルシフェリンからオキシルシフェリンへの変換の際に生じる発光を測定する。ルシフェリンと構造が類似したアミノルシフェリンもルシフェラーゼの基質となり得る。
ルシフェラーゼは、アミノルシフェリンを基質とするものであれば、特に限定されないが細菌、原生動物、動物、軟体動物、昆虫由来のものを用いることができる。昆虫由来としては甲虫ルシフェラーゼが挙げられ、例えばフォーチヌス(Photinus)属、例えば北米ボタル(Photinus pyralis)、フォーツリス(Photuris)属、例えばPhoturis lucicrescens、Photuris pennsylvanica、ルシオラ(Luciola)属、例えばゲンジボタル(Luciola cruciata)、ヘイケボタル(Luciola lateralis)、ヒメボタル(Luciola parvula)、マドボタル(Pyrocoelia属)、オバボタル(Lucidina biplagiata)のホタルやピロフォールス(Pyrophorus)属のコメツキムシ由来のものが挙げられる。ルシフェラーゼ遺伝子は多数報告されており、GeneBankなどの公知のデータベースよりその塩基配列及びアミノ酸配列を取得することができる。ルシフェラーゼがATPを必要とするものである場合、系にATPを添加するか、ATPの存在する系でルシフェラーゼを用いてもよい。ルシフェラーゼがATPを必要としないものである場合、系にATPを添加してもよく、添加しなくともよい。ATPを必要とするルシフェラーゼとしてはホタルルシフェラーゼが挙げられる。
ルシフェラーゼは、天然のものでもよく、組換え体でもよい。また、ルシフェラーゼは、野生型でもよく、変異型でもよい。また市販品でもよい。例えば特開2011-188787号公報、特開2000-197484号公報、特許第2666561号公報、特表2003-512071号公報、特開平11-239493号公報、国際公開第99/02697号パンフレット、特表平10-512750号公報、特表2001-518799号公報、特許第3048466号公報、特開2000-197487号公報、特表平9-510610号公報、特表2003-518912号公報等を参照のこと。
ある実施形態においてルシフェラーゼの測定系における終濃度は、280nmにおける吸光度をルシフェラーゼ濃度(mg protein/mL)としたときに0.001μg protein/mL以上、0.01μg protein/mL以上、0.02μg protein/mL以上、0.05μg protein/mL以上、0.10μg protein/mL以上、0.20μg protein/mL以上、又は0.25μg protein/mL以上とすることができる。ある実施形態においてルシフェラーゼの測定系における終濃度は、280nmにおける吸光度をルシフェラーゼ濃度(mg protein/mL)としたときに1μg protein/mL以下、0.5μg protein/mL以下、0.3μg protein/mL以下とすることができる。ある実施形態においてルシフェリン又はアミノルシフェリン部分を有する合成基質の測定系における終濃度は0.0001mM~20mM、0.0005mM~20mM、0.001mM~20mM、0.01mM~20mM、0.05mM~20mM、0.1mM~20mM、0.5mM~10mM、例えば0.75mM~5mMとすることができる。
ある実施形態において、本発明はジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌の検出により、歯周病を診断するか、又は歯周病の診断を補助することができる。本明細書において、歯周病の診断を補助する、とは、医師の行為や判断を含まないものとする。ある実施形態において、歯周病はジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌により引き起こされるものである。
ある実施形態において、本発明は、本発明の合成基質及びルシフェラーゼを含む、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出するためのキットを提供する。ルシフェラーゼ成分と、合成基質成分とは、同一の試薬成分に含まれる同一形態でもよく、別個の試薬成分に含まれる分離形態でもよい。分離形態の場合、ある実施形態では、まず合成基質成分が適用され、所定の反応時間経過後、ルシフェラーゼ成分が適用される。別の実施形態では、まず合成基質成分とルシフェラーゼ成分とを接触させ、所定時間経過後、これをサンプルと接触させてもよい。該キットは、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌の定量用キットであり得る。また、該キットは、歯周病診断用であり得る。本明細書において、このキットのことを検出試薬、診断試薬ということがある。本発明のキットは、ルシフェラーゼの発光反応に必要な他の慣用されている成分や試薬を含みうる。例えば本発明のキットは、金属塩又は金属イオン(例えばマグネシウム、マンガン、カルシウムなどの金属イオンを含むもの)、緩衝剤、安定化剤、還元剤、キレート剤、界面活性剤、糖等を適宜含みうる。これらは当技術分野で慣用されているものを使用しうる。例えば金属塩としては酢酸マグネシウムが挙げられるがこれに限らない。緩衝剤としてはpH緩衝剤(グッドバッファー、HEPES、Tricine、Tris、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液等)が挙げられるがこれに限らない。安定化剤としてはウシ血清アルブミンやゼラチンが挙げられるがこれに限らない。還元剤としては例えばシステイン、ジチオスレイトール、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオールが挙げられるがこれに限らない。キレート剤としては、EDTAが挙げられるがこれに限らない。糖としてはグルコース、スクロース、トレハロース等が挙げられるがこれに限らない。ある実施形態では、本発明のキットにATPを含めてもよい。発光強度は発光時間を持続させるため、或いは測定感度を高めるための他の成分を追加してもよい。ルシフェラーゼによりATP、O2及びルシフェリンはAMP、ピロリン酸、CO2及びオキシルシフェリンに変換され、このとき発光がもたらされる。
以下にルシフェラーゼを用いたアッセイ方法を説明する。条件は例示的なものである。
以下を含む合成基質試薬を調製する。
アミノルシフェリン部分を有する合成基質 0.1mM
これをサンプル、例えばジンジパイン活性を有する可能性のあるサンプルと接触させる。
以下を含むルシフェリン測定用試薬を調製する。
アデノシン三リン酸2Na 1mM
トリシン(pH7.8) 50mM
エチレンジアミン四酢酸(EDTA) 1mM
酢酸マグネシウム 12.5mM
スクロース 1(重量)%
ウシ血清アルブミン(BSA) 0.5(重量)%
ルシフェラーゼ 0.5GLU/mL
なお、この測定用試薬は場合により還元剤をさらに含んでもよい。
上記の合成基質とサンプルの混合液0.01mLにルシフェリン測定用試薬0.1mLを添加し(すなわち両試薬を接触させ)、発光を測定する。発光量の測定は、適当な装置、例えばルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ社)を用いて行う。発光は、ある基準を定めて、それに対する相対発光単位(RLU)と記載することができる。例えばジンジパイン活性が既知のサンプル溶液を用いて検量線を作成する。次いで、ジンジパイン活性未知の試料溶液と上記の試薬とを接触させ同じ条件で発光を測定する。
以下にルシフェラーゼを用いた別のアッセイ方法を説明する。条件は例示的なものである。
以下を含む活性測定試薬(平衡型)を調製する。
0.1mL 0.1mM合成基質溶液
1mL ルシフェリン測定用試薬
活性測定試薬(平衡型)は、室温にて60分静置して、ブランク発光量が十分下がったことを確認して、発光測定に使用する。なお、この活性測定試薬は場合により還元剤をさらに含んでもよい。またルシフェリン測定用試薬は上記と同様である。
上記の活性測定試薬(平衡型)0.1mLにサンプル溶液0.01mLを添加し(すなわち両試薬を接触させ)、静置する。静置後、発光量を測定する。発光量の測定は、適当な装置、例えば、ルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ)を用いて行う。発光は、ある基準を定めて、それに対する相対発光単位(RLU)と記載することができる。例えばジンジパイン活性が既知のサンプル溶液を用いて検量線を作成する。次いで、ジンジパイン活性未知の試料溶液と上記の試薬とを接触させ同じ条件で発光を測定する。
本発明の方法又はキットを用いて歯周病を診断するに当たり、ある実施形態では、歯周病と確定診断された被験体から得られた試料について、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌の菌量又は菌数を予め決定してもよい。または、歯周病と確定診断された被験体から得られた試料について、本発明の方法を用いて発光量を予め測定してもよい。予め決定された菌量又は菌数、或いは予め測定された発光量から、検量線を作成することができ、又は、参照を設定することができる(陽性対照)。ジンジバリス菌の代わりに、ジンジバリス菌から抽出したジンジパインや組換え体のジンジパインなども使用できる。すなわち、一部の実施形態において、本発明はジンジパイン活性の測定方法、ジンジパインの検出方法、ジンジパインの定量測定方法及びこれらのためのキットを提供する。本明細書において、特に断らない限り、ジンジパイン活性とはArg-ジンジパイン活性をいう。また、ジンジパインは、ジンジバリス菌が産生するプロテアーゼであることからこの名称が用いられているが、本明細書において、ジンジパインとは、それを産生する微生物がジンジバリス菌であろうと他の微生物であろうと、実質的に同じ活性を有する同じ酵素であれば、ジンジパインとの用語に包含されるものとする。
本発明の方法又はキットを用いて歯周病を診断するに当たり、ある実施形態では、歯周病菌を有しないことが確認された被験体から得られた試料について、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌の菌量又は菌数を予め決定してもよい。または、歯周病菌を有しないことが確認された被験体から得られた試料について、本発明の方法を用いて発光量を予め測定してもよい。予め決定された菌量又は菌数、或いは予め測定された発光量から、参照を設定することができる(陰性対照)。
ある実施形態では各種の歯周病患者の症例(各種の段階の歯肉炎患者、歯周炎患者を含む)についての陽性対照を算出し得る。またある実施形態では、各種の健常者や歯周病菌陰性の被験体についての陰性対照を算出しうる。これらの値は、統計的に処理しうる。そして、当業者であればこれらから、ある被験体が歯周病を有するか否か、歯周病に罹患しているか否かについての適当な閾値を設定しうる。また、閾値は、感度や特異度を考慮して設定しうる。
さらに、ある実施形態では、歯周病患者群について、歯肉炎や歯周炎など、歯周病の進行段階に応じた陽性対照を算出し得る。これらの値は、統計的に処理しうる。そして、当業者であればこれらから、ある歯周病患者について、歯周病の進行の程度を評価するか、そのような評価を補助し得る。また、各種の進行段階に応じた閾値を適宜設定しうる。これにより、初期段階の歯周病患者も効果的にジンジバリス菌を検出し、歯周病を早期診断し、治療や処置に役立てることができる。
別の実施形態では、本発明の方法又はキットを用いて、歯肉炎を有する被験体について、当該歯肉炎が、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を原因とする歯肉炎であるか否かを判別することができる。歯肉炎がジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を原因とする歯肉炎である場合には、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を標的とする指導、処置又は治療を開始し得る。
ある実施形態では、in situにて用いるための、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出試薬キットが提供される。このキット試薬は、i)本発明の合成基質成分と、ii)ルシフェラーゼ成分とを含む。両成分は、分離形態として、逐次処置されてもよく、単一形態として、同時に処置されるものでもよい。本発明の合成基質が被験体の口腔に処置されると、被験体の口腔と接触する。このとき、口腔にジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌が存在すると、当該微生物のジンジパイン活性によりアミノルシフェリンが生成する。ついでこれがルシフェラーゼと反応すると、発光が観察され、ジンジバリス菌の存在を同定できる。
スクリーニング
ある実施形態では、本発明の方法又はキットを用いて、ジンジバリス菌用或いは歯周病用の薬剤候補化合物のスクリーニングを行うことができる。例えば、ある実施形態では、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を含むサンプルに、薬剤候補化合物、或いは化合物ライブラリーを適用する。次いで、一定期間培養するなどして薬剤候補化合物を作用させる。次いで、サンプル又は培養物を採取し、残存するジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌の量を測定する。これを適当なネガティブコントロールやポジティブコントロールと比較することにより、当該候補化合物が、ジンジバリス菌に作用するか否かを決定しうる。すなわち、本発明の試験サンプルは、被験体由来のものに限定されず、ジンジバリス菌培養物なども含みうる。このスクリーニングは慣用の技術を用いてハイスループット化してもよい。
本発明を、下記の実施例によりさらに例示する。これらはあくまで例証のためであり、本発明の範囲をいかなる意味においても限定するものではない。本明細書の教示に鑑み、本発明の精神から逸脱することなく、さまざまな変法や他の実施形態が可能である。
[実施例1]
材料及び方法
特に断らない限り、化合物は市販品を用いた。6-アミノ-2-シアノベンゾチアゾール(CAS No. 7724-12-1)、及びH-L-Arg(Pbf)-OH(CAS No. 200115-86-2)は市販品を用いることができる(シグマ社)。別法として、6-アミノ-2-シアノベンゾチアゾールは、2-クロロベンゾチアゾールから出発して、HNO3及びH2SO4を用いて6位をニトロ化し、次いでニトロ基をFe存在下で還元し(アミノ基とし)、クロロ基をKCNを用いてシアノ基に置換することにより合成し得る。Bzo-Arg(Pbf)-OHは、H-Arg(Pbf)-OHをベンゾイル化して取得し得る(Hidaka, Y. et al., FEBS Lett. 2005, 579, 4088参照)。
Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン(化合物1)及びBzo-D-Arg-アミノルシフェリン(化合物2)は、以下のスキーム1により合成した。
Figure 0007083663000007
スキーム1
Figure 0007083663000008
Scheme 1. Reagents and conditions: (a) Bzo-Arg(Pbf)-OH (compound 8 or compound 9), isobutyl chloroformate, N-methylmorpholine, rt; (b) TFA/H2O, rt; (c) D-cysteine, K2CO3, H2O/MeOH/CH2Cl2, rt.
化合物4の合成
Figure 0007083663000009
H-L-Arg(Pbf)-OH (140 mg, 0.33mmol) 及び炭酸カリウム (70 mg, 0.51 mmol)をDMF(5 mL)中で氷冷された水浴に10分にわたり撹拌した。この溶液に塩化ベンゾイル(40 μL, 0.33 mmol)を摘果し、室温で1時間静置した。メタノール(3mL)の添加後、反応溶液をEt2Oで洗浄した。溶液を飽和クエン酸で酸性化し、EtOAcで抽出し、ブライン(塩水)で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ濃縮した。得られたクルード(粗)ガム(化合物8)をさらに精製することなく次の反応に供した。
Bzo-L-Arg(Pbf)-OH(化合物8)と2-シアノ-6-アミノベンゾチアゾール(化合物3) (25 mg, 0.14 mmol)のアセトン(3 mL)中混合物に、MDT-MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)(88 mL, 0.32 mmol)を添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。反応を水でクエンチし(反応停止し)、EtOAcで抽出し、ブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥し、濃縮した。得られたクルードの固体をクロマトグラフィー(ヘキサン/ EtOAc = 1:1~CHCl3/MeOH = 95/5)により精製して、黄色油状物(化合物4)(70mg、70%)を得た。Rf 0.46(CHCl3/MeOH=9/1)でのTLC単一スポット;1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 10.05 (s, 1H), 8.51 (s, 1H), 7.85-7.32 (m, 8H), 6.44 (brs), 5.08 (brs), 4.10 (q, J=7.2 Hz, 1H), 3.44 (s, 1H), 3.32 (s, 1H), 2.89 (s, 2H), 2.55 (s, 3H), 2.45 (s, 3H), 2.04 (m, 5H), 1.44 (s, 6H), 1.25 (t, J=7.2, 2H)。
化合物5の合成
Figure 0007083663000010
上記化合物4と同じ手法を用いたが、ただし出発物質として、H-D-Arg(Pbf)-OH(145 mg, 0.33mmol)を使用した。生成物は黄色油状物(化合物5)(58 mg, 60%)として得られた。Rf 0.46 (CHCl3/MeOH = 9/1)でのTLC単一スポット;1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 10.00 (s, 1H), 8.50 (s, 1H), 7.83-7.25 (m, 8H), 6.43 (brs), 5.06 (brs), 3.70 (q, J=7.2 Hz, 1H), 3.32 (m, 1H), 2.88 (s, 2H), 2.53 (s, 3H), 2.44 (s, 3H), 2.03 (m, 5H), 1.43 (s, 6H), 1.22 (t, J=7.2, 2H)。
化合物6の合成
Figure 0007083663000011
Bzo-L-Arg(Pbf)-NH-ベンゾチアゾール(化合物4)(70mg、0.102mmol)を室温でTFA/H2O(80/20, 3mL)で処理した。6時間後、反応を水でクエンチし、EtOAcで抽出し、ブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。Rf 0.45(CHCl3/MeOH/AcOH/H2O =34/4/9/2)のTLC単一スポット。得られたクルードの黄色油状物(化合物6)をさらに生成することなく次の反応に供した。
1.5mLのCH2Cl2/メタノール(1:1.5)中のクルード化合物6の溶液に、1.2mLのH2O/メタノール(1:1)に溶解した、D-システイン塩酸塩(50mg、0.26mmol)及び炭酸カリウム(62mg、0.45mmol)の混合物を窒素雰囲気下にて、添加した。反応物を室温で暗所で60分間激しく撹拌した。CH2Cl2及びメタノールを減圧下で除去した後、1M HCl水溶液をpHが6となるまで添加した。沈殿物が直ちに形成された。沈殿物を遠心分離(15,000rpm、10分、室温)により回収し、0.01M塩酸水溶液で2回洗浄した。沈殿物を減圧乾燥して白色固体(44mg、60%)を得た(化合物1)。Rf 0.31 (CHCl3/MeOH/AcOH/H2O = 34/4/9/2)でのTLC単一スポット;1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 10.70 (d, 1H), 8.85 (d, 1H), 8.44-7.18 (m, 8H), 5.22 (m, 2H), 4.63 (m, 1H), 3.66 (m), 1.92 (m, 2H), 0.82 m).
化合物2の合成
Figure 0007083663000012
化合物6と同じ手法を用いたが、ただしH-D-Arg(Pbf)-NH-ベンゾチアゾール(化合物5)(58 mg, 0.084 mmol)を(化合物4の代わりに)出発物質として使用した。これにより化合物6の代わりにその光学異性体である化合物7を得た。次いで得られた生成物は白色固体であった(33 mg, 72%)(化合物2)。Rf 0.31 (CHCl3/MeOH/AcOH/H2O = 34/4/9/2)でのTLC単一スポット;1H NMR (300 MHz, DMSO-d6) δ 10.76 (d, 1H), 8.96 (d, 1H), 8.56-7.37 (m, 8H), 5.20 (m, 2H), 4.61 (m, 1H), 3.62 (m), 1.95 (m, 2H), 0.80 (m).
Z-Phe-Arg-アミノルシフェリン(化合物13)は、以下のスキーム2により合成した。
Figure 0007083663000013
Scheme 2. Reagents and conditions: (g) Fmoc-L-Arg(Pbf)-OH (12), DMT-MM, acetone, rt; (h) NaN3, DMF, 50℃; (i) Z-L-Phe-OH, DMT-MM, DMF, rt; (j) TFA/H2O/TIPS, rt; (k) D-cysteine, K2CO3, H2O/MeOH/CH2Cl2, rt
化合物10の合成
Figure 0007083663000014
アセトン(10mL)中のFmoc-L-Arg(Pbf)-OH(化合物12)(450mg、0.69mmol)及び2-シアノ-6-アミノベンゾチアゾール(化合物3)(100mg、0.57mmol)の混合物にDMT- MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)(180mg、0.65mmol)を添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。反応を水でクエンチし、CHCl3で抽出し、飽和NaHCO3水溶液、ブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。得られたクルードの固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ EtOAc = 1:1~CHCl3/MeOH = 95/5)で精製して黄色固体の化合物10(187mg、41%)を得た。Rf 0.46 (CHCl3/MeOH = 9/1)にTLC単一スポット;1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 10.05 (s, 1H), 8.51 (s, 1H), 7.92-7.18 (m, 10H), 6.85 (brs), 5.04 (brs), 4.80-4.65 (m, 2H), 4.10 (q, J=7.2 Hz, 1H), 3.41 (s, 1H), 3.35 (s, 1H), 2.86 (s, 2H), 2.52 (s, 3H), 2.45 (s, 3H), 2.04 (m, 5H), 1.62 (s, 6H), 1.25 (t, J=7.2, 2H).
化合物11の合成
Figure 0007083663000015
DMF(3mL)中のFmoc-L-Arg(Pbf)-アミノベンゾチアゾール(化合物10)(100mg、0.12mmol)の混合物にNaN3(20mg、0.31mmol)を加えた。混合物を50℃で撹拌した。4時間後に反応物を10%NaHCO3水溶液でクエンチし、CHCl3で抽出し、飽和NaHCO3水溶液、ブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。Rf 0.14(CHCl3/MeOH = 9/1)のTLCスポットが得られた。得られたクルードの黄色油状物を、さらに精製することなく次の反応に供した。
上記のクルード生成物及びZ-Phe-OH(45mg、0.15mmol)のDMF(3mL)溶液に、DMT-MM(42mg、0.15mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応を水でクエンチし、CHCl3で抽出し、飽和NaHCO3水溶液、ブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。得られたクルード固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/EtOAc = 1:1~CHCl3/MeOH = 95/5)で精製して黄色固体の化合物11(21mg、19%)を得た。Rf 0.43 (CHCl3/MeOH = 9/1)にTLC単一スポット;1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 10.12 (s, 1H), 8.50 (s, 1H), 7.80-7.10 (m, 13H), 6.84 (brs), 5.10 (m, 2H), 4.85-4.70 (m, 3H), 3.40-3.40 (m, 4H), 2.90 (s, 3H), 2.65 (s, 3H), 2.38 (s, 3H), 2.10 (s, 3H), 1.80 (m, 7H), 1.40 (m, 5H).
化合物13の合成
Figure 0007083663000016
Z-L-Phe-L-Arg(Pbf)-アミノベンゾチアゾール(化合物11)(21mg、0.024mmol)を室温でTFA/H2O/TIPS(38/1/1、2mL)で処理した。12時間後、反応混合物を減圧濃縮し、分取TLC(CHCl3/MeOH = 9/1)で精製した。Rf 0.37(CHCl3/MeOH/AcOH/H2O= 34/4/9/2)のTLC単一スポット。
0.3mLのCH2Cl2/メタノール(1:1)中の上記で得られた黄色固体の溶液に、0.3mLのH2O/メタノール(1:1)に溶解したD-システイン塩酸塩(7mg、0.040mmol)及び炭酸カリウム(9mg、0.065mmol)を窒素雰囲気下で加えた。反応物を室温で暗所で60分間激しく撹拌した。次いで、CH2Cl2及びメタノールを減圧下で除去した後、1M HCl水溶液をpHが6になるまで添加した。沈殿物が直ちに形成された。沈殿物を遠心分離(15,000rpm、10分、10℃)により回収し、水で5回洗浄した。沈殿物を減圧下で乾燥して、黄色の固形物(化合物13)(15mg、91%)を得た;Rf 0.2 (CHCl3/MeOH/AcOH/H2O = 34/4/9/2)でのTLC単一スポット; 1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 10.60 (d, 1H), 8.65 (d, 1H), 8.54-7.12 (m, 13H), 6.53 (m, 2H), 5.12 (s, 2H), 4.66 (m, 2H), 3.70-3.02 (m, 7H), 1.91 (m, 2H), 0.98 (m, 2H).
[実施例2]
Arg-EP酵素溶液を用いた反応性の確認
ジンジバリス菌に含まれるアルギニン特異的システインプロテアーゼ(Arg-ジンジパイン)と同様にアルギニンのC末端側を切断するプロテアーゼの活性を示す、アルギニルエンドペプチダーゼ(Arg-EP)を用いて、本発明の発光法の反応性を確認した。
Arg-EP酵素溶液の調製
Arginylendopeptidase(Arg-EP)は、(タカラバイオ、製品コード7308)は、酵素希釈バッファーを用いて、各濃度に希釈した。酵素希釈バッファーは、添付のAg-EP 5×バッファー(250mM リン酸ナトリウム(pH8.0))を、滅菌超純水にて5倍希釈し調製した。希釈前のArg-EP(Lot.C401AB)の原液は、0.8U/mg protein、1.13mg/mLであり、0.9U/mLと算出した。
発光基質溶液の調製
Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンを50mMになるようにジメチルスルホキシド(和光純薬工業)にて溶解し、0.1mMになるように、基質希釈液(50mM Tricine(同仁化学)、5mM L-システイン(シグマ・アルドリッチ)、pH7.5)にて500倍希釈し、これを発光基質溶液とした。
ルシフェリン測定用試薬の調製
1mM アデノシン三リン酸2Na(オリエンタル酵母)、50mM トリシン(pH7.8)1mM EDTA・2Na(同仁化学)、12.5mM 酢酸マグネシウム四水和物(和光純薬工業)、1% スクロース(和光純薬工業)、0.5% ウシ血清アルブミン(シグマ・アルドリッチ)、0.5GLU/mL LUC-H(ルシフェラーゼ)(キッコーマンバイオケミファ、Code:61314)になるように調製し、これをルシフェリン測定用試薬とした。
Arg-EPを用いた発光測定
10μL 各発光基質溶液(0.1mM)に、10μL 各濃度のArg-EP酵素溶液を添加し、これを反応液とし、25℃にて静置した。2分後、反応液を2μL採取し、100μLのルシフェリン測定用試薬に添加し、混合後、発光量をルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ)にて測定した。
基質としては、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンを使用した。
結果
各基質溶液におけるArg-EPを用いた発光測定における発光量を図1から図3に示した。Arg-EPの濃度に応じた発光量が得られたことから、本法は、アルギニンのC末端側を切断する酵素活性を有する酵素を定量性よく検出することが可能な方法であると言える。
[実施例3]
ジンジバリス菌ライセートの調製
歯周病の主な原因として知られているPorphyromonas gingivalis JCM8525、Porphyromonas gingivalis JCM12257を培養して、ライセートを調製した。
5mg/mLヘミン保存液は、0.05mgのヘミン(東京化成、H0008)を1mLの1Nアンモニア水を加えて溶解し、9mLの蒸留水を添加したものをオートクレーブにて加熱滅菌した。保存は冷蔵にて保存した。
1mg/mLビタミンK保存液は、0.1gの2-メチル-1,4-ナフトキノン(東京化成、M0373)を100mLのエタノール(和光純薬)にて溶解して作製した。保存は冷蔵にて保存した。
BHI寒天培地は、パールコア ブレインハートインフュジョン(BHI)寒天培地「栄研」(栄研化学、E-MC61)5.2gを蒸留水にて溶解し、ヘミン保存液を0.1mL(終濃度5μg/mL)、ビタミンK保存液(終濃度1μg/mL)を加え、100mLにメスアップし、オートクレーブにて滅菌を行った。滅菌後、熱いうちに、約20mLずつ滅菌済みのシャーレにまき、冷却し固化させ、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器に保存して、脱気した。
BHI液体培地は、パールコア ブレインハートインフュジョンブイヨン培地「栄研」(栄研化学、E-MC62)3.7gにヘミン保存液を0.1mL(終濃度5μg/mL)、ビタミンK保存液(終濃度1μg/mL)を加え、100mLにメスアップし、5mLずつシリコン栓をした試験管に分注し、オートクレーブにて滅菌を行った。冷却後、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器に保存して、脱気した。
各菌株のグリセロールストックより、白金耳でBHI寒天培地に植え継いだ。培養は、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器内で脱気しながら行い、37℃にて1週間程度、静置培養した。コロニーが確認できたところで、BHI液体培地に植え継ぎ、アネロパック(三菱ガス化学)を入れた密閉容器内で脱気しながら行い、37℃にて1週間程度、静置培養した。十分濁りが確認できた時点で、培養終了とした。培養液を10,000rpmにて5分間、遠心を行い、菌体を除去した上清を回収し、これをジンジバリス菌ライセートとした。ジンジバリス菌ライセートはPBS(Phosphate Buffered Salts)(タカラバイオ、Code:T900)にて適宜希釈した。ジンジバリス菌ライセートは冷凍にて保存した。
比較対象として、Escherichia coli K-12株、JM109を培養して、ライセートを調製した。
グリセロールストックより、白金耳で標準寒天培地(パールコア標準寒天培地「栄研」(栄研化学))に植え継ぎ、コロニーが確認できたところで、トリプトソイブイヨン液体培地(パールコアトリプトソイブイヨン「栄研」(栄研化学)に植え継ぎ、37℃にて一晩静置培養し、十分濁りが確認できた時点で、培養を終了とした。培養液を10,000rpmにて5分間、遠心を行い、菌体を除去した上清を回収し、大腸菌ライセートとした。大腸菌ライセートはPBS(Phosphate Buffered Salts)(タカラバイオ、Code:T900)にて適宜希釈した。大腸菌ライセートは冷凍にて保存した。
発光測定法(蓄積型)による各微生物ライセートに対する反応性の確認
10μL 0.1mM 各発光基質溶液に、各希釈の微生物ライセートを10μL添加し、25℃にて2分間静置した。この反応液を2μL採取し、100μLのルシフェリン測定用試薬に添加し、混合後、発光量をルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ)にて測定した。
発光基質には、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンを使用した。微生物ライセートには、Porphyromonas gingivalis JCM8525、Porphyromonas gingivalis JCM12257、Escherichia coliを使用した。
結果
発光測定法(蓄積型)による各微生物ライセートに対する反応性
ジンジパインを有するPorphyromonas gingivalis JCM8525、及びJCM12257では、高い発光量を示したのに対して、ジンジパインを持たないEscherichia coliでは低い発光量であり、ジンジバリス菌特異的に検出可能な方法であることが確認された(図4参照)。
[比較例]
発色基質を用いた歯周病原菌検出用試薬であるバナペリオ(BANAMet LLC社、Code:13200100)を用いて、本キットはN-ベンゾイル-DL-アルギニル-βナフチルアミド・塩酸塩を基質とし、2,5-ジメトキシ-4-([4-ニトロフェニル]アゾ)ベンゼンジアゾニウムクロライド・1/2塩化亜鉛を発色剤とするキットである。
取扱説明書に従い、バナカードの判定膜を滅菌超純水にて湿潤させ、検体塗布膜に10μLの各希釈率のライセートを添加した。二つ折りにしたバナカードをバナプロセッサー(BANAMet LLC社、Code:13200200)に挿入し、昇温1分間、55℃で5分間加温後に、バナカードを取り出し、バナペリオ判定早見表と照合して、判定膜の色を判定した。
本来、バナペリオでは、歯肉縁下の検体をキュレットやハーシュフェルドファイルで採取したものや舌を綿棒などでこすって採取した検体として使用するが、本比較例では測定条件を同一にするため、実施例3と同じライセートを検体として用い、マイクロピペットにて10μL添加する方法にて実施した。
結果
バナペリオによるジンジバリス菌検出の判定結果を表1に示した。またそのときのバナカードの写真を図5に示した。
2倍希釈では陽性(はっきりとした青い反応が見られる)であり、10倍希釈では弱陽性(少し青い反応が見られる)であったが、20倍希釈では、2測定のうち、1枚が弱陽性、1枚が陰性と判定結果が分かれた。すなわち、この濃度域では判定結果に十分な再現性は確認されなかった。50倍、100倍では陰性を示した。
この結果から、陽性、又は弱陽性として検出できた希釈倍率は、10又は20倍希釈であった。
Figure 0007083663000017
[実施例4]
発光測定法(蓄積型)による各微生物ライセートの測定
10μL 0.1mM各発光基質溶液に、各希釈の微生物ライセートを10μL添加し、25℃にて5分間静置した。この反応液を2μL採取し、100μLのルシフェリン測定用試薬に添加し、混合後、発光量をルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ)にて測定した。
発光基質には、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンを使用した。微生物ライセートには、Porphyromonas gingivalis JCM8525を用い、実施例2と同様に調製した。従来法である比較例1と感度、及び定量性を比較するため、比較例1と同じライセートを用い、実施した。
結果
各基質を用いた場合の発光量を、図6から8に示した。尚、図はライセートの代わりにライセート希釈用のPBSを検体としてときのブランク発光量を差し引いたものをプロットした。
Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリンを発光基質として用いた場合、500倍した検体まで、Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンを発光基質として用いた場合では、1000倍希釈した検体まで直線性よく検出できている。また定量的評価が可能である。
このことから、比較例1では10又は20倍の検出限界であることから、本発明の発光基質を用いた方法では、従来法と比較して、大幅に高感度に測定できると言える。
[実施例5]
発光測定法(平衡型)による各微生物ライセートの測定
活性測定試薬(平衡型)の調製
0.1mLの0.1mM各発光基質溶液(終濃度8.3μM)に0.1mLの50mM L-システインを加え、1mLのルシフェリン測定用試薬を添加したものを活性測定試薬(平衡型)とした。活性測定試薬(平衡型)は、室温にて60分静置して、ブランク発光量が十分下がったことを確認して、発光測定に使用した。
活性測定
100μLの活性測定試薬(平衡型)に10μLの各希釈率のライセートを添加し、室温にて10分間静置した。10分静置後の発光量をルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ)にて測定した。
発光基質には、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンを使用した。微生物ライセートには、Porphyromonas gingivalis JCM8525を用い、実施例2と同様に調製した。従来法である比較例1と感度、及び定量性を比較するため、比較例1、実施例3と同じライセートを用い、実施した。
結果
活性測定試薬(平衡型)を用いた場合の発光量を図9から11に示した。直線性に優れた検量線が得られ、いずれも1000倍希釈の微生物ライセートでも測定可能であった。1000倍希釈のライセートを測定したときのシグナルノイズ比(S/N比)が、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリンでは2.1、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリンでは、1.7、Z-Phe-Arg-アミノルシフェリンでは、18であり、このことから、比較例1では10又は20倍の検出限界であることから、本発明の発光基質を用いた方法では、従来法と比較して、大幅に高感度に測定できると言える。
本発明の検出方法によりジンジバリス菌を検出することができる。これは歯周病菌の早期発見や歯周病の早期診断をもたらし得る。
[参考文献]
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2) Takakura, H. et al., Chem. Asian J. 2011, 6, 1800.
3) Reddy, G. R. et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 13586.
4) WO2004/37251 A1, 2004.
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6) US2011/0213124 A1, 2011.
7) Bergmann, M. et al., J. Biol. Chem. 1939, 127, 643.
8) Hidaka, Y. et al., FEBS Lett. 2005, 579, 4088.
9) Carpino, L. A. et al., Tetrahedron Lett. 1993, 34, 7829.
10) Kunishima, M. et al., Tetrahedron, 2001, 57, 1551-1558.
本明細書において言及された文献はいずれも、参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。

Claims (11)

  1. ペプチド部分と、アミノルシフェリン部分とを含む合成基質
    Figure 0007083663000018
    [式中、アミノルシフェリン部分はペプチド部分のC末端側に連結され、ペプチド部分は少なくとも1つのアミノ酸残基を有し、かつペプチド部分のC末端側第1アミノ酸がアルギニンであり、ペプチド部分は場合によりそのN末端側に保護基を有してもよい]
    及びルシフェラーゼを用いる、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出する方法であって、
    前記合成基質のペプチド部分が、
    i) アルギニンからなる、
    ii) X1-(アルギニン)からなるジペプチド(式中、X1は任意のアミノ酸である)、又は
    iii) X1-X2-(アルギニン)からなるトリペプチド(式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸である)、
    ものであり、
    前記合成基質がペプチド部分のN末端側に保護基を有している場合には、当該保護基がベンジルオキシカルボニル基(Z)、t-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)又はベンゾイル基(Bzo)である、
    前記方法
  2. 前記合成基質がZ-Phe-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Phe-Arg-アミノルシフェリン、及びArg-アミノルシフェリンからなる群より選択される、請求項に記載の方法。
  3. i) ジンジパイン活性を含みうる試料又は被験体に由来する生物学的試料と、前記合成基質とを接触させる工程、
    ii) 前記試料及び合成基質を含む系とルシフェラーゼとを接触させる工程、及び
    iii) アミノルシフェリン及びルシフェラーゼによる発光を測定する工程、
    を含む、
    請求項1又は2に記載の方法。
  4. i) ルシフェラーゼと前記合成基質とを接触させる工程、
    ii) 前記ルシフェラーゼ及び合成基質を含む系とジンジパイン活性を含みうる試料又は被験体に由来する生物学的試料とを接触させる工程、及び
    iii) アミノルシフェリン及びルシフェラーゼによる発光を測定する工程、
    を含む、
    請求項1又は2に記載の方法。
  5. 被験体に由来する生物学的試料が、唾液、歯垢、歯石又は舌苔の採取物である、請求項3又は4に記載の方法。
  6. 発光の測定により、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を定量的に測定する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
  7. ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌の検出により、歯周病の診断を補助する、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
  8. ペプチド部分と、アミノルシフェリン部分とを含む合成基質
    Figure 0007083663000019
    [式中、アミノルシフェリン部分はペプチド部分のC末端側に連結され、ペプチド部分は少なくとも1つのアミノ酸残基を有し、かつペプチド部分のC末端側第1アミノ酸がアルギニンであり、ペプチド部分は場合によりそのN末端側に保護基を有してもよい]
    並びにルシフェラーゼを含む、ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を検出するためのキットであって、
    前記合成基質のペプチド部分が、
    i) アルギニンからなる、
    ii) X1-(アルギニン)からなるジペプチド(式中、X1は任意のアミノ酸である)、又は
    iii) X1-X2-(アルギニン)からなるトリペプチド(式中、X1及びX2は、それぞれ独立に任意のアミノ酸である)、
    であり、
    前記合成基質がペプチド部分のN末端側に保護基を有している場合には、当該保護基がベンジルオキシカルボニル基(Z)、t-ブチルオキシカルボニル基(Boc)、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)又はベンゾイル基(Bzo)である、前記キット
  9. 前記合成基質がZ-Phe-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-L-Arg-アミノルシフェリン、Bzo-D-Arg-アミノルシフェリン、Phe-Arg-アミノルシフェリン、及びArg-アミノルシフェリンからなる群より選択される、請求項に記載のキット。
  10. ジンジパインを産生する微生物又はジンジバリス菌を定量的に測定するための、請求項8又は9に記載のキット。
  11. 歯周病診断用である、請求項8~10のいずれか1項に記載のキット。
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