以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(1)本発明の概略について
図1は本発明の経口摂取品開発支援システムの全体構成を示したブロック図である。始めに、図1に示す経口摂取品開発支援システムを用い、本発明における、経口摂取品の開発支援の概略について説明する。
図1に示すように、経口摂取品開発支援システム1は、嚥下シミュレーション装置2と計測装置3と提示装置4とを備えている。本実施形態における嚥下シミュレーション装置2は、特許第6022789号に開示されている構成を備えている。
嚥下シミュレーション装置2は、頭頸部器官からなる動的三次元頭頸部モデル(後述する)を三次元画像により形成し、経口摂取品を三次元画像内で擬似経口摂取品(後述する)としてモデル化する。嚥下シミュレーション装置2は、動的三次元頭頸部モデルにおける各頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動とを、粒子法を用いて三次元画像内で解析することができる。
このような動的三次元頭頸部モデルは、例えば、誤嚥をし易い嚥下障害者の頭頸部等を模倣して形成することで、嚥下障害者の嚥下時における各頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動を解析することができる。
嚥下シミュレーション装置2で得られた解析結果は、提示装置4に出力され、提示装置4の表示画面に表示される。提示装置4は、例えばディスプレイ等であり、嚥下シミュレーション装置2から出力された動的三次元頭頸部モデルの三次元画像や、擬似経口摂取品、解析結果等を表示画面に表示せる。これにより、提示装置4は、動的三次元頭頸部モデルにおける各頭頸部器官の運動や、擬似経口摂取品の嚥下時の挙動、解析結果等を、開発者に対し視認させることができる。
このようにして、嚥下シミュレーション装置2において、疑似経口摂取品の食塊量や粘度、比重等の物性値を変えて、動的三次元頭頸部モデルによる嚥下シミュレーションを行うことで、動的三次元頭頸部モデルによる誤嚥の有無を確認する。これにより、誤嚥し易い疑似経口摂取品の物性値や、誤嚥を抑制し得る疑似経口摂取品の物性値を特定できる。
誤嚥を抑制し得る経口摂取品を開発する際、開発者は、嚥下シミュレーション装置2で特定した、誤嚥を抑制し得る疑似経口摂取品の物性値を目安に、この物性値を有する経口摂取品を試料として作製する。
計測装置3は、作製した試料について力学的な指標を示す状態パラメータを算出する。本実施形態による計測装置3は、例えば、(i)傾斜面を流れる試料の所定位置の通過時間、(ii)傾斜面を流れる速度、(iii)厚さ、(iV)拡散面積、(V)摩擦力、(Vi)仕事量、(Vii)仕事率、(Viii)力積、(iX)せん断応力、(X)エネルギー密度、(Xi)パワー密度及び(Xii)エネルギー消費率を、試料の力学的な指標(状態パラメータ)として測定する。
計測装置3は、試料のこれら測定結果(試料の力学的な指標であり、ここでは状態パラメータである)を提示装置4に出力し、当該測定結果を表示画面に表示させる。これにより、提示装置4は、試料の測定結果を開発者に対し視認させることができる。
開発者は、計測装置3により具体的に得られた、これら力学的な指標を基に、嚥下シミュレーション装置2で動的三次元頭頸部モデルとした嚥下障害者が誤嚥回避可能な経口摂取品を開発することができる。かくして、経口摂取品開発支援システム1では、誤嚥を抑制し得る経口摂取品の開発を支援することができる。次に、嚥下シミュレーション装置2及び計測装置3について順に説明してゆく。
(2)嚥下シミュレーション装置
本実施形態では、特許第6022789号と同様に、液面の変形や飛沫等の表現が可能な解析方法として、解析対象の液体や固体を粒子として扱う粒子法を用い、この粒子法で経口摂取品を三次元画像内に表して嚥下シミュレーションを行なう。粒子法としては、特にMPS(Moving Particle-Semi-implicit)法(Koshizuka et al,Comput.Fluid Dynamics J,4,29-46,1995)を適用することが望ましい。この粒子法では、流体を粒子で置き換え、粒子毎に物理量を計算する。その結果、液面の微妙な変化の解析が可能となり、飛沫や液面が大きく変形する場合の解析が可能になる。
嚥下シミュレーション装置2では、さらに、医学的知見に基づいて口腔、咽頭、喉頭部の正確な構造や挙動を再現する。嚥下シミュレーション装置2は、二次元嚥下シミュレータでは無次元の相対的値として設定していた経口摂取品(食塊)の物性値(密度、粘度、表面張力、動的接触角(単に接触角と称する)、熱容量、熱伝導率、動摩擦係数等)を次元のある数値として設定可能とし、また、嚥下中の食塊の物理量(時間、位置座標、速度、圧力、温度、粘度、力、せん断速度、垂直応力、せん断応力等)についても、次元のある数値として抽出する。
(2-1)嚥下シミュレーション装置の回路構成
図2に示すように、嚥下シミュレーション装置2は、パーソナルコンピュータ2a、入力部81及び記憶部83を備えている。入力部81は、マウス、キーボード等の入力機器であり、開発者からの操作命令をパーソナルコンピュータ2aに出力し、パーソナルコンピュータ2aにおいて操作命令に応じた各種演算処理を実行させる。記憶部83は、パーソナルコンピュータ2aにて形成した動的三次元頭頸部モデル(後述する)や、設定条件、解析結果等を記憶する。
パーソナルコンピュータ2aは、頭頸部モデリング部10、器官運動設定部30、経口摂取品物性設定部40、運動解析部50、物性特定部70及び制御部90を備えている。頭頸部モデリング部10は、図3に示すように、頭頸部器官からなる動的三次元頭頸部モデル10a(後述する)を三次元画像により形成する。
器官運動設定部30は、動的三次元頭頸部モデル10aにおける各頭頸部器官の運動を設定する。これにより、動的三次元頭頸部モデル10aは、器官運動設定部30による設定状態を基に、各頭頸部器官が動いた嚥下シミュレーションを実行し得る。経口摂取品物性設定部40は、解析対象としての飲食品、医薬品又は医薬部外品等の経口摂取品の物性値を設定し、経口摂取品をモデル化した擬似経口摂取品を三次元画像内に形成する。なお、経口摂取品物性設定部40は、解析対象として異なる物性の液体、半固体又は固体の複数の擬似経口摂取品を設定することができる。なお、半固体としは例えばゼリー等を含み、固体としては例えば錠剤等も含む。
本実施形態の場合、経口摂取品物性設定部40は、経口摂取品の物性値として、例えば、経口摂取品となる食塊の密度[g/mL]と、動的三次元頭頸部モデル10aに嚥下させる食塊量[mL]と、表面張力[N/m]と、各頭頸部器官における接触角と、各頭頸部器官におけるスリップ係数と、を設定する。なお、ここでスリップ係数とは、生体表面と食塊(経口摂取品)の表面の濡れ性、撥水性を制御するパラメータであり、接触面における見かけの粘度として考えることができる。スリップ係数が大きい場合は界面での摩擦が大きくなり、結果的に食塊の動きにブレーキをかける効果がる。スリップ係数が小さい場合は界面での摩擦が小さくなり、0の場合は鏡面のような状態となる。スリップ係数1は流体の粘度と同等程度の摩擦効果を界面に与えることを意味する。スリップ係数は、想定する経口摂取品が有する濡れ性や撥水性等を解析して決定する。
この場合、経口摂取品物性設定部40は、各頭頸部器官における接触角として、動的三次元頭頸部モデル10aにおける咽頭、喉頭、舌、軟口蓋での接触角をそれぞれ設定する。また、経口摂取品物性設定部40は、各頭頸部器官におけるスリップ係数として、動的三次元頭頸部モデル10aにおける咽頭、喉頭、舌、軟口蓋でのスリップ係数をそれぞれ設定する。
なお、本実施形態においては、経口摂取品の物性値として上述した物性値のみだけでなく、例えば、経口摂取品が液体のときは、液量・粘度・表面張力・比重・熱伝道率・比熱等の物性値を設定するようにしてもよい。また、経口摂取品が固体のときには、形状・寸法・弾性係数・引っ張り強さ・降伏点・降伏点応力・粘度のずり速度依存性・動的粘弾性・静的粘弾性・圧縮応力・破断応力・破断ひずみ・硬度・付着性・凝集性・熱伝導率・比熱等の物性値を設定するようにしてもよい。さらに、経口摂取品が半固体(可塑性があるが、流動性はない)であるときには、量・粘度・比重・降伏点・降伏点応力・粘度のずり速度依存性・動的粘弾性・静的粘弾性・圧縮応力・付着性・凝集性等の物性値を設定するようにしてもよい。
動的三次元頭頸部モデル10aは、口腔器官の実際の運動に合わせて形成され、時間毎に変形することが精度の高い解析を行なう上で好ましく、このためにはモデル全体を粒子(剛体、粉体、弾性体、塑性体、弾塑性体)として取扱うのが好ましい。ただし、粒子数が増加すると三次元空間での解析を行なうパーソナルコンピュータ2aの負荷が増大するので、解析を簡素・容易にするためには頭頸部器官をポリゴンとして設定して解析するのが効率的である。
運動解析部50では、頭頸部器官の運動に伴う擬似経口摂取品の嚥下時の挙動を解析する。図3に示す舌11の進行波的波動運動、喉頭蓋12aの回転運動、喉頭12の往復運動等により、頭頸部内部に投入された疑似経口摂取品を動かす。疑似経口摂取品の動きは粒子法により解析される。疑似経口摂取品は固体・半固体・液体のいずれでもポリゴン又は粒子として取り扱われる(計算負荷軽減のためポリゴンとして取扱うこともある)。
運動解析部50は、経口摂取品物性設定部40により疑似経口摂取品の物性値が変更されることで、当該物性値の影響により、舌11の進行波的波動運動、喉頭蓋12aの回転運動、喉頭12の往復運動等により、疑似経口摂取品が嚥下される際の経路を変化させる。
制御部90は、嚥下シミュレーション装置2及びその各部を制御して、嚥下シミュレーション装置2の諸機能を実行させる。制御部90は内蔵メモリに嚥下シミュレーター(解析用ソフトウェア)を保有する。
(2-2)動的三次元頭頸部モデル
次に、頭頸部モデリング部10により形成される動的三次元頭頸部モデル10aについて説明する。図3(a)は動的三次元頭頸部モデル10aの斜視図を示し、図3(b)は動的三次元頭頸部モデル10aの正面図を示し、図3(c)は動的三次元頭頸部モデル10aの側面図を示す。また、図3(d)は、図3(b)のA-A断面図を示す。
動的三次元頭頸部モデル10aは、舌11(オトガイ舌筋11f(図4参照)を含む)と、喉頭12と、喉頭蓋12aと、気管13と、咽頭14(咽頭の管壁14a、咽頭の粘膜14bを含む)と、口蓋15(硬口蓋15a及び軟口蓋15bを含む)と、顎16(オトガイ部16aを含む)と、口腔17と、食道18(食道入口18a、食道の管壁18bを含む)を有する。なお、図3(d)には疑似経口摂取品20として球状の食塊を示す。
粒子法では粒子数が増加するとコンピュータの負担が増加し、解析に時間がかかる。本実施形態では、疑似経口摂取品を粒子(流体)により表現し、各口腔器官を、ポリゴン距離関数によって作成した壁境界(流体などから外力を受けても移動しない壁を距離関数として空間に配位した境界)として表現することにより、動的三次元頭頸部モデル10aを簡素化し、コンピュータの負担を軽減している。このような各頭頸部器官の運動(進行波的波動運動、回転運動、往復運動等)は器官運動設定部30で設定される。
ここでは、動的三次元頭頸部モデル10aの作成に際して、解剖により理解されている構造の知見、及び、CT(コンピュータ断層撮影:Computed Tomography)画像より大まかに読み取ることの出来る軟口蓋15bや舌11の形態、及び気管13の形態から、咽頭14と食道入口18aの位置を推定する。舌11、軟口蓋15b、咽頭14と食道入口18a、喉頭蓋12aと喉頭12の構造を、CG(コンピュータグラフィックス:Computer Graphics)用ソフトウェア(Autodesk 3ds Max等)を用いてモデリングする。
次に、得られた動的三次元頭頸部モデル10aに対して、VF(嚥下造影検査:Videofluoroscopic examination of swallowing)による嚥下時の造影画像(正面及び側面図)を重ね合わせて、立体構造を修正する。さらに、空間領域の三次元的な変化の概略を、嚥下のシネMRI(シネ磁気共鳴画像:Cine Magnetic Resonance Imaging)の動画を参照して、動きを付与する。なお、シネMRIは、心拍同期による心臓撮影法の原理(同期サンプリング法)の発展形である。まず、MRI装置へのトリガの一定間隔での入力とトリガに同期した嚥下運動の繰り返しによって、複数の断面のMRI動画を得る。これを立体構築し、さらに時間軸上に配置することで4次元の再構築画像が得られる。
運動解析部50は、このようにして形成した動的三次元頭頸部モデル10aを用いて嚥下運動を再現したシミュレーションを行うことができる。シミュレーションに際しては、動的三次元頭頸部モデル10aを、距離関数を用いて表現する。粒子法では空間点(三次元座標)にある疑似経口摂取品(粒子)に対して、最短距離にある器官が最も強く作用し、距離が遠くなるにつれて作用が弱くなる。
距離関数とは空間点(三次元座標)に対して、動的三次元頭頸部モデル10aまでの最短の距離で定義される関数であり、距離関数を用いると動的三次元頭頸部モデル10aの重ね合わせを容易に行うことができる(全ての頭頸部器官からの距離の最小値が空間点に定義される)。動的三次元頭頸部モデル10aの重ね合わせが容易であるため、分割した各頭頸部器官に対して個別に移動量を設定し、後に重ね合わせることによって、嚥下運動を再現することができる。
(2-3)舌モデル
次に、動的三次元頭頸部モデル10aにおける舌モデルについて説明する。図4に舌モデル10bの構成例を示す。図4(a)は舌11の筋肉(下顎骨のオトガイ部16aから延びるオトガイ舌筋11f)の配置を示し、図4(b)はオトガイ舌筋11fに沿って扇形に分割された舌モデル10bを示す。舌モデル10bは頭頸部モデリング部10で形成し、舌11の運動は器官運動設定部30で設定する。舌モデル10bは、舌11による食塊の輸送を再現する必要がある。
舌モデル10bは、オトガイ舌筋の起始である下顎骨のオトガイ部16aを扇の要とし、起始から延びるオトガイ舌筋11fに沿って舌11を扇形に分割した構造とする。分割は例えば口唇を前、咽喉を後としたときの前後方向にn分割(本実施形態ではn=5)とし、横方向には分割していない。分割された各部を扇形部11a~11eと称する。
舌11の運動による疑似経口摂取品20の輸送については、各扇形部11a~11eを半径方向に振動させ、前方から後方に向かって振動の位相をずらしていくことで達成される。振動は、例えば、オトガイ舌筋11fを中心に振幅5mm、振動数1.1Hzで振動させ、各扇形部11a~11eは手前側から奥側に向かって順次0.1sずつ振動のタイミング(位相)を遅らせるように設定する。
なお、実施形態では計算負荷を低減するために舌11を分割したモデルを使用しているが、分割せずに、形状が変化した舌モデルを、各計算時間毎に読み込み、より滑らかな進行波的波動運動を模擬することも可能である。同様に生体器官を弾性体と定義して、弾性体内に自由に移動できる制御点を設置、制御点を任意の時間に任意の位置まで移動させる設定などで、同様の運動と変形を模擬することが可能である。また、順に舌11の各扇形部11a~11eを振動運動させると、各扇形部11a~11eの間に隙間が形成されて切断面が現れてしまうため、各扇形部11a~11eをオーバーラップさせることで切れ目が出現しないようにすることが望ましい。さらに、舌11は表面の中心に疑似経口摂取品20を集めて流し込むという医学的な知見から、嚥下直前に中央が窪んでいる舌構造11gを加えることで、擬似経口摂取品20の流路を確保するようにすることも望ましい。
舌11の最奥の扇形部11eでは、擬似経口摂取品20を押し込むようにする。扇形部11eの具体的な押し込みの動きは、例えば次のような動作となる。嚥下のタイミングまではその他の扇形部11a~11dと同様に振幅10mmで振動しながら、同時に回転していく。ただし、他の扇形部11a~11dは0.3秒掛けて15度回転する運動をするのに対して、最奥の扇形部11eは0.1秒で回転を停止し(5度だけ回転)、その後、0.2秒掛けて15度逆回転する。
この逆回転中、扇形の要を中心とした振動運動は、逆回転開始時を最大振幅として、徐々に回転中心側に落ち込んでいく挙動を示す。その後、扇形部11eは0.2秒で10度回転し、ほぼ嚥下前の状態に戻り、次の嚥下運動を待つ。この戻りの時に擬似経口摂取品20が押し込まれる。この舌モデル10bを用いて、重力方向を変えて解析を行い、舌11の運動による擬似経口摂取品(ここでは水物性)20の輸送を達成することができる。
(2-4)喉頭部モデル
食道18の入口は平常時には閉じており、嚥下時に食道18が開放する様子を再現する必要がある。図5(c)に示すように、喉頭蓋12aと喉頭12で構成される喉頭部モデル10cは、喉頭蓋12aと喉頭12の動きにより、食道18と喉頭12の開放と閉塞を実現する。喉頭部モデル10cは頭頸部モデリング部10で形成し、その運動は器官運動設定部30で設定する。
図5(a)は喉頭12の移動前(平常時)で食道入口18aが閉塞された状態を示し、図5(b)は喉頭12の移動後で食道入口18aが開放された状態を示す。図6に、動的三次元頭頸部モデル10aに形成された喉頭部モデル10c(喉頭部は12c)における喉頭12と喉頭蓋12aの連動運動例を示す。図6(a)は0.0sec、(b)は0.2sec、(c)は0.4sec、(d)は0.5sec、(e)は0.6sec、(f)は0.7sec、(g)は0.8sec、(h)は0.9sec、(i)は1.0secにおける状態を示す。
喉頭蓋12aは0.2secで傾き始め、0.6secで横倒しになり、0.7secで最大135度になり、その後逆回転し、1.0secで元に戻る。喉頭12は0.6secで移動を開始し、0.7secで最大になり、0.9secで元に戻る。図中の矢印は舌(扇形部)11の最も上に出ている部分を示す。なお、前述の、喉頭蓋12aの倒れ込みの瞬間に、舌(扇形部)の最奥部である扇形部11eが5mm押し込みを行なう運動を組み込んむことが望ましい。形状が変化した喉頭部モデル10cを、各計算時間毎に読み込み、より滑らかな進行波的波動運動を模擬することも可能である。同様に生体器官を弾性体と定義して、弾性体内に自由に移動できる制御点を設置、制御点を任意の時間に任意の位置まで移動させる設定などで、同様の運動と変形を模擬することが可能である。
(2-5)疑似経口摂取品の食塊量、粘度及びせん断速度の解析
運動解析部50は、動的三次元頭頸部モデル10aを用いた三次元画像内において、物性値が異なる疑似経口摂取品(食塊)20を口腔内に投入して、動的三次元頭頸部モデル10aで嚥下運動を行わせることで、嚥下時の疑似経口摂取品20の挙動を解析することができる。このような三次元画像の動画による嚥下シミュレーションにより、嚥下時の疑似経口摂取品20の挙動を確認できることから、例えば、下記の(a)~(d)に示すような解析結果を得ることができる。
(a)疑似経口摂取品20の物性値の違いによる、嚥下・誤嚥・誤飲・窒息リスクの推測(特定)
(b)疑似経口摂取品20の物性値の違いによる、嚥下時間の推測(特定)
(c)疑似経口摂取品20の物性値の違いによる、咽喉壁(気管や咽頭の管璧)にかかる力及びせん断応力の推測(特定)
(d)上記データと官能評価又は官能診断との相関から、疑似経口摂取品20の飲み易さ・食べ易さ、飲み難さ・食べ難さの評価又は判断
上記(a)~(d)の推測、評価又は判断は、開発者が行なう場合と、予め設定した指標を基に嚥下シミュレーション装置2が自動的に行なう場合とがある。本実施形態では、疑似経口摂取品20の物性値の違いによる誤嚥の有無を判断し、誤嚥の発生を抑制し得る疑似経口摂取品20の物性値(食塊量、粘度及びせん断速度)を特定する。
この場合、物性特定部70は、運動解析部50の解析結果を基に、誤嚥を回避できる擬似経口摂取品20の食塊量、粘度及びせん断速度を特定する。このうち擬似経口摂取品20の食塊量及び粘度は、経口摂取品物性設定部40により設定される物性値である。
一方、擬似経口摂取品20のせん断速度は、運動解析部50の解析結果から物性特定部70により算出する。以下、物性特定部70によるせん断速度の測定手法について説明する。ここで、図7(a)に示すように、動的三次元頭頸部モデル10aを、例えば、舌上近傍の領域1と、軟口蓋近傍の領域2と、舌根近傍の領域3と、喉頭蓋谷近傍の領域4と、梨状陥凹近傍の領域5と、食道入口近傍の領域6と、食道内の領域7とに区分けし、各領域1~7毎にそれぞれ疑似経口摂取品20のせん断速度を算出する。
本実施形態では、図7(a)に示すように、動的三次元頭頸部モデル10aの側断面構成において、食道内から舌上近傍まで垂直方向に延びるY座標を設け、Y座標の基準値0を食道最下部とした。そして、Y座標の0.00以上0.02未満を食道内の領域7、Y座標の0.02以上0.04未満を食道入口近傍の領域6、Y座標の0.04以上0.06未満を梨状陥凹近傍の領域5、Y座標の0.06以上0.08未満を喉頭蓋谷近傍の領域4、Y座標の0.08以上0.10未満を舌根近傍の領域3、Y座標の0.10以上0.12未満を軟口蓋近傍の領域2、Y座標0.12以上0.16未満を舌上近傍の領域1と規定した。
図7は、擬似経口摂取品20のせん断速度を求める解析領域ER3を、動的三次元頭頸部モデル10aにおける舌上の領域1とした例を示し、図8は、擬似経口摂取品20のせん断速度を求める解析領域ER3を、動的三次元頭頸部モデル10aにおける軟口蓋近傍の領域2とした例を示す。
また、図9は、擬似経口摂取品20のせん断速度を求める解析領域ER3を、動的三次元頭頸部モデル10aにおける舌根近傍の領域3とした例を示し、図10は、擬似経口摂取品20のせん断速度を求める解析領域ER3を、動的三次元頭頸部モデル10aにおける喉頭蓋谷近傍の領域4とした例を示す。
さらに、図11は、擬似経口摂取品20のせん断速度を求める解析領域ER3を、動的三次元頭頸部モデル10aにおける梨状陥凹近傍の領域5とした例を示し、図12は、擬似経口摂取品20のせん断速度を求める解析領域ER3を、動的三次元頭頸部モデル10aにおける食道入口近傍の領域6とした例を示す。
図7(b)、図8(b)、図9(b)、図10(b)、図11(b)及び図12(b)は、動的三次元頭頸部モデル10aにおいて擬似経口摂取品20を嚥下させる嚥下シミュレーションを行った際に、動的三次元頭頸部モデル10aで設定した解析領域ER3内での擬似経口摂取品20のせん断速度の時間変化を示したグラフである。図7(b)、図8(b)、図9(b)、図10(b)、図11(b)及び図12(b)では、横軸に時間を示し、縦軸にせん断速度を示している。なお、図内の濃淡は、粒子法により設定した粒子番号に応じて色分けしたものであり、せん断速度の発生頻度を表す。つまり、この図はせん断応力に関する等高線図といえる。
図7(c)、図8(c)、図9(c)、図10(c)、図11(c)及び図12(c)は、矢印で示した時間帯において、動的三次元頭頸部モデル10a内の擬似経口摂取品20の挙動を視覚的に表したグラフである。図7(c)、図8(c)、図9(c)、図10(c)、図11(c)及び図12(c)の横軸及び縦軸は動的三次元頭頸部モデル10aの座標と対応している。なお、図内の濃淡は、粒子法により設定した粒子番号に応じて色分けしたものであり粒子単体にかかるせん断速度を表す。つまり、どの粒子がどのタイミングで、どの程度のせん断速度を有しているか確認することができる。
運動解析部50は、物性値が異なる擬似経口摂取品20毎に動的三次元頭頸部モデル10aを用いた嚥下シミュレーションを行い、図7(c)、図8(c)、図9(c)、図10(c)、図11(c)及び図12(c)に示すようなデータを生成する。物性特定部70は、運動解析部50による嚥下シミュレーションが行われると、解析領域ER3での擬似経口摂取品20の挙動から、擬似経口摂取品20のせん断速度を算出する。
ここで、せん断速度は次の式により算出することができる。せん断速度γ:[1/s]:γ=du/dr(du:速度[m/s]、dr:距離[m]、を示す)。せん断速度は単位長さあたりの速度変化ともいえるので、ある粒子の所定時間所定移動距離あたりの速度変化から計算できる。図7(b)~図12(b)の各せん断速度は、各粒子毎にそれぞれ所定時間での移動距離を求めて算出したものである。
このように、嚥下シミュレーション装置2では、頭頸部モデリング部10で形成した動的三次元頭頸部モデル10aを用い、経口摂取品物性設定部40により擬似経口摂取品20の物性値(ここでは、擬似経口摂取品20の密度、食塊量、表面張力、動的三次元頭頸部モデル10aにおける咽頭、喉頭、舌、軟口蓋での擬似経口摂取品20の接触角及びスリップ係数)を変えてゆき、その都度、嚥下シミュレ―ションを実行する。
そして、運動解析部50によって、物性値を変えた擬似経口摂取品20毎に、動的三次元頭頸部モデル10a内での擬似経口摂取品20の挙動から誤嚥が生じているか否かをそれぞれ特定する。本実施形態の場合、動的三次元頭頸部モデル10aで誤嚥が生じているか否かの判断は、開発者が行なう場合と、運動解析部50に予め設定された指標を基に運動解析部50が自動的に行なう場合とがある。
物性特定部70は、このときの擬似経口摂取品20の食塊量、粘度及びせん断速度を特定し、例えば、設定した食塊量毎に、粘度及びせん断速度の関係を、図13に示すような表にプロットしてゆく。
これにより、擬似経口摂取品20の物性値を変えた嚥下シミュレーションの結果から、設定した食塊量毎に、誤嚥が生じた粘度及びせん断速度と、誤嚥が生じなかった粘度及びせん断速度と、を示すことができる。かくして、物性特定部70は、各食塊量毎に、誤嚥を回避できる粘度及びせん断速度の大まかな分布領域(以下、誤嚥回避分布領域とも称する)を特定することができる。
なお、誤嚥回避の望ましい食塊量としては、動的三次元頭頸部モデル10aを用いた嚥下シミュレーションにより、4mlから9mlであることが確認できた。また、誤嚥を回避しつつ、より喉どおりが良いとの観点から、食塊量は5ml~8mlであることが、より望ましい。
そして、擬似経口摂取品20の物性値を変えた嚥下シミュレーションを行うことで、例えば、図8に示す軟口蓋近傍の領域2での擬似経口摂取品20の滑落制御が誤嚥回避に効果的であることが確認できた。具体的に誤嚥回避には、図8(b)に示すように、軟口蓋近傍の領域2において、舌背滑落時のピークのせん断速度が25s-1以下であることが望ましく、かつ、このせん断速度25s-1以下での粘度も重要となることが確認できた。
また、図9に示す舌根近傍の領域3での擬似経口摂取品20の滑落制御も誤嚥回避に効果的であることが確認できた。具体的に誤嚥回避には、図9(b)に示すように、舌根近傍の領域3において、滑落時のピークのせん断速度が25s-1以上50s-1以下であることが望ましく、かつ、このせん断速度の範囲内での粘度も重要となることが確認できた。
さらに、図10に示す喉頭蓋谷近傍の領域4での擬似経口摂取品20の滑落制御も誤嚥回避に効果的であることが確認できた。具体的に誤嚥回避には、図10(b)に示すように、喉頭蓋谷近傍の領域4において、滑落時のピークのせん断速度が25s-1以下であることが望ましく、かつ、このせん断速度での粘度も重要となることが確認できた。
さらに加えて、図11に示す梨状陥凹近傍の領域5での擬似経口摂取品20の滑落制御も誤嚥回避に効果的であることが確認できた。具体的に誤嚥回避には、図11(b)に示すように、梨状陥凹近傍の領域5において、滑落時のピークのせん断速度が75s-1以下で、この領域5内に擬似経口摂取品20を残留させないことが望ましいことが確認できた。また、このせん断速度での粘度も重要となることが確認できた。
次に、擬似経口摂取品20の物性値を変えて行った嚥下シミュレーション結果によって、食塊量毎に、誤嚥を抑制する粘度及びせん断速度の大まかな分布領域(誤嚥回避分布領域)を特定すると、物性特定部70は、設定した食塊量毎に、図13に示すように、粘度及びせん断速度の関係を示したフローカーブ(せん断速度-粘度曲線であり、ここでは、直線状のM20、M22、M35及びM38を示す)を生成する。
なお、本実施形態の場合、誤嚥を抑制できる粘度及びせん断速度の大まかな分布領域(誤嚥回避分布領域)は、動的三次元頭頸部モデル10aにおいて区分けした、舌上近傍の領域1と、軟口蓋近傍の領域2と、舌根近傍の領域3と、喉頭蓋谷近傍の領域4と、梨状陥凹近傍の領域5と、食道入口近傍の領域6と、食道内の領域7とからそれぞれ得られたせん断速度を用いて作製される。
フローカーブの形成は、下記の式(1)を仮定式として用いる。この際、μは、擬似経口摂取品20の粘度[Pa・s]を示し、γは、せん断速度[1/s]を示す。式(1)中の係数C1、C2をパラメトリックに変化させながら、誤嚥回避分布領域と重なる範囲をフローカーブにより特定する。
μ=C1・(γC2) … (1)
図13では、係数C1、C2をパラメトリックに変化させながら特定した4つの直線M20、M22、M35及びM38を一例として示している。図13は、これら4つの直線M20、M22、M35及びM38によって、誤嚥回避分布領域(図示せず)と重なる範囲を特定できた例である。
直線M20は、C1=5.636、C2=-1.15であり、直線M22は、C1=5.636、C2=-1.03である。直線M35は、C1=8.454、C2=-1.174781278であり、直線M38は、C1=8.454、C2=-1.12478である。
図14は、図13中の領域ER1を拡大した拡大図である。図14に示すように、C1=5.636とした直線M20及び直線M22と、C1=8.454とした直線M35及び直線M38とを用いて、誤嚥が発生しなかった誤嚥回避分布領域とクロスオーバした粘度・せん断速度範囲ER2を特定している。
その結果、粘度・せん断速度範囲ER2を基に、誤嚥が発生しない可能性が高いせん断速度は、16s-1以上72s-1以下と規定することができ、同じく、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度は、粘度・せん断速度範囲ER2において、このせん断速度に対応する粘度と規定することができる。なお、図11(b)では、滑落時のピークのせん断速度が75s-1以下であることが望ましいと説明したが、これは、図11(b)のせん断速度が25[s-1]刻みで表記しているため、大まかにせん断速度を示したものである。より正確には72s-1以下であることが望ましい。
物性特定部70は、擬似経口摂取品20の物性値を変えて嚥下シミュレーションによりそれぞれ得られた解析結果から、上記のようにして、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度・せん断速度範囲ER2を算出する。物性特定部70は、生成したフローカーブや、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度・せん断速度範囲ER2を、提示装置4(図1)に出力する。これにより、開発者は、提示装置4の表示画面に表示された誤嚥回避分布領域や、フローカーブを確認しながら、粘度・せん断速度範囲ER2を特定することができる。以上のようにして得られた粘度・せん断速度範囲ER2を用いることで、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度及びせん断速度を有する経口摂取品を作製することができる。
(3)試料の作製
本実施形態では、嚥下シミュレーション装置2により誤嚥が発生しない可能性が高い経口摂取品の食塊量、粘度及びせん断速度を特定すると、これら食塊量、粘度及びせん断速度を目安に、誤嚥が発生しない可能性が高い仮想経口摂取品を探索する(探索ステップ)。ここで、図15は、様々な経口摂取品の粘度及びせん断速度の既知の測定結果を示すグラフである。
図15では、粘度及びせん断速度が異なる8種類のサンプル1~8を用意した例を示す。サンプル1は、ドリンクヨーグルト(株式会社明治社製、商品名:明治ブルガリア飲むヨーグルトLB81プレーン)であり(図中「飲むYO」と表記)、サンプル2は、ハウス食品株式会社製「商品名:フルーチェ」を牛乳(株式会社明治社製、商品名:明治おいしい牛乳)に20%含有させたものであり(図中「20%フルーチェ」と表記)、サンプル3は、ハウス食品株式会社製「商品名:フルーチェ」を牛乳に50%含有させたものであり(図中「50%フルーチェ」と表記)である。
サンプル4は、山芋を水に3%含有させたものであり(図中「ヤマイモ3%」と表記)、サンプル5は、ドリンクヨーグルトに15%山芋水溶液を、最終山芋濃度が1.5%になるよう含有させたものであり(図中「飲むYO+山芋1.5%」と表記)、サンプル6は、ドリンクヨーグルトに15%山芋水溶液を、最終山芋濃度が0.75%になるよう含有させたものであり(図中「飲むYO+山芋0.75%」と表記)、サンプル7は、ドリンクヨーグルトに加熱した3%山芋水溶液を、最終山芋濃度が0.9%になるよう含有させたものである(図中「飲むYO+加熱山芋0.9%」と表記)。サンプル8は、水に、株式会社明治製「商品名:トロメイク」を1%含有させたものである(図中「トロメイク1%」と表記)。
サンプル1~8の粘度及びせん断速度は予め測定したものであり、これらサンプル1~8の粘度及びせん断速度の関係を示したグラフ内に、図14において求めた、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度・せん断速度範囲ER2(図中、「SV算出粘度範囲」と表記)を当てはめ、誤嚥が発生しない可能性が高い仮想経口摂取品を探索する。
図15に示すように、例えばサンプル1~8の中では、サンプル7の「飲むYO+加熱山芋0.9%」が、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度・せん断速度範囲ER2内に収まる経口摂取品となり得ることが特定できる。このようにして、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度・せん断速度範囲ER2内に収まる経口摂取品を探索してゆく。
そして、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度・せん断速度範囲ER2を目安に、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度及びせん断速度を有する複数の試料を作製する。
(4)計測装置
(4-1)計測装置の構成
次に、計測装置3について説明する。上述したように、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度及びせん断速度を有する複数の試料を作製すると、これら試料について、計測装置3を用いて複数の状態パラメータを測定し、作製した試料について力学的な指標を規定する。
図16に示す計測装置3は、上述した「(3)試料の作製」にて作製した試料41を食塊として使用し、試料41の嚥下状態を模擬的に再現し、試料41の運動とそのときの形状とを測定するものである。計測装置3は、傾斜面32aを有した傾斜部材32と、供給部31とを備えており、供給部31によって傾斜面32a上に試料41を供給する。
傾斜部材32は、傾斜面32aの角度を適宜変更することによって、傾斜面32aにより嚥下時の口腔、咽頭、喉頭を模擬している。傾斜面32aは、例えば、水平に設置される設置面に対して30~80度、より好ましくは30~70度、さらに好ましくは40~65度、最も好ましくは45~60度に傾ける。
傾斜部材32の形状は、試料(食塊)41の形状や量によって適宜選択できる。傾斜部材32の形状は、例えば、円柱、楕円柱、直方体等であってもよいが、後述する各種センサを傾斜面に対して平行に設置しやすい観点から、直方体が好ましい。
傾斜部材32の大きさは、試料(食塊)41の形状や量によって適宜選択できる。たとえば、直径5~30cm、高さが0.2~2cm、あるいは縦(長さ)5~30cm、横(幅)2~10cm、厚さ0.2~2cmの直方体等を例示できる。
傾斜部材32の傾斜面32aは、嚥下時の口腔、咽頭、喉頭等の生体表面の物性を模擬できれば、種々の材料により形成してもよい。例えば、傾斜面32aは、合成樹脂(シリコン、ウレタン、エポキシレジン、ヨウ素化ポリマー)や天然物(天然ゴム)等の一種類以上を選択してもよい。傾斜面32aは、合成樹脂や天然ゴム等を所定量の比率で配合して、加熱、UV処理、冷却、プラズマガス処理、コーティング処理等の加工や3Dプリンター等を利用して作製してもよい。また、傾斜面32aは、安定した計測、素材・形状の変更や設置が容易になるように、2層以上の異なる素材で構成してもよい。
また、傾斜部材32の傾斜面32aは、ポリビニルアルコール(PVA)を利用した疑似生体材料(親水性PVA)で形成してもよい。親水性PVAとしては、例えば、特開2007-31634号公報に記載の水性ゲル組成物を利用することができる。この水性ゲル組成物は、鹸化度が97モル%以上でかつ重合度が500~3000の第一のPVAと、鹸化度が70~90モル%でかつ重合度が500~3000である第二のPVAとを含み、含水率が70~95重量%であると規定されている。また、親水性PVAとしては、水、PVA、及びジメチルスルホスキドを混合したものを用いて形成してもよい。
供給部31は、傾斜面32aの上方に配置されたノズル31aと、ノズル31aに所定量の試料41を供給するピストンポンプ31bとから構成されている。ノズル31aの先端は、傾斜面32aの上部に配置され、当該傾斜面32aから所定距離(例えば25mm)離れた上方の高さ位置に配置されている。また、ノズル31aには、ノズル31a内の圧力を検出してノズル31aからの試料41の排出を検出する圧力センサ33が取り付けられている。圧力センサ33は、ノズル31aからの試料41の排出を検出することで、試料41がノズル31aから排出された時間を検出する。
ここで、本実施形態では、試料41を供給する供給部31は、上述した「(2)嚥下シミュレーション装置」にて特定した、誤嚥が発生しない可能性が高い食塊量の試料41を、傾斜面32a上に供給する。この場合、供給部31は、食塊量を計測可能なピストンポンプ31bを備えており、ピストンポンプ31bの吸引排出量を調整することにより、容器に貯留された試料41を所定量吸い上げ、ノズル31aを介して所定の食塊量の試料41を傾斜面32a上に排出する。
ノズル31aの先端と傾斜面32aとの間には、供給部31のノズル31aから傾斜面32a上へ供給される試料41を検出する供給センサ34aが配置されている。供給センサ34aは、例えば、レーザ光を発射するレーザ光源を備えており、試料41に当たることで変化するレーザ光に基づいて試料41の供給の有無を経時的に測定する。
また、傾斜面32aの上方には、傾斜面32aを流下又は滑落する試料41を検出する上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cが、到達センサとして設けられている。上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cは、例えば、レーザ光を発射するレーザ光源を備えており、試料41に当たることで変化するレーザ光に基づいて、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41を検出する。
上部到達センサ34bは、傾斜面32a上の第1地点を流下又は滑落する試料41を検出する。第1地点は、例えば、傾斜面32aの上縁から所定距離(例えば50mm)下がった位置である。下部到達センサ34dは、傾斜面32a上の第2地点を流下又は滑落する試料41を検出する。第2地点は、上部到達センサ34bから傾斜面32aに沿って所定距離(例えば40mm)離間した位置に配置される。
中間部到達センサ34cは、第1地点(最上部位置)と第2地点(下部位置)との間の第3地点(上部位置)を流下又は落下する試料41を検出する。本実施形態の場合、第3地点は、傾斜面32aに沿って第1地点から所定距離(例えば20mm)下がった位置とし、第1地点と第2地点との中間に位置している。
上述した圧力センサ33、供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cは、タイミング記録部37に接続されている。タイミング記録部37は、例えばデータロガー等であり、圧力センサ33、供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cによってそれぞれ試料41の動的な挙動を捉えたときの出力信号を経時的に記録する。これにより、タイミング記録部37は、圧力センサ33、供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cでの試料41の検出タイミングを記録し得る。
タイミング記録部37は、演算部38に接続されており、圧力センサ33、供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cから取得して記録した各検出結果を演算部38に出力する。
かかる構成に加えて、傾斜面32aの上方には、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41を傾斜面32aの上方から撮像して上面画像を取得する上面カメラ35aが設けられている。例えば、上面カメラ35aは、傾斜面32aを常時撮像してもよく、また、上部到達センサ34bの出力をトリガとして試料41を撮像するようにしてもよい。
上面カメラ35aは、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41を、傾斜面32aの正面から撮像するように配置されている。これにより、上面カメラ35aは、傾斜面32a上を試料41が流下又は滑落する際に、試料41が傾斜面32a上で拡散してゆく様子をも撮像し得、傾斜面32a上を拡散してゆく試料41の拡散面積を画像内から測定可能な上面画像を取得する。上面カメラ35aは演算部38に接続されており、取得した上面画像を演算部38に出力する。
また、傾斜面32aの側方には、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41を傾斜面32aの側方から撮像して側方画像を取得する側面カメラ35bが設けられている。例えば、側面カメラ35bは、傾斜面32aを側方から常時撮像してもよく、また、中間部到達センサ34cの出力をトリガとして試料41を撮像するようにしてもよい。
側面カメラ35bは、傾斜面32a上を試料41が流下又は滑落する際に、試料41を側面側から撮像することで、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41の厚さを画像内から測定可能な側面画像を取得する。側面カメラ35bは演算部38に接続されており、取得した側面画像を演算部38に出力する。
なお、これら上面カメラ35a及び側面カメラ35bは、動画及び静止画のいずれか一方又は両方を撮影してもよい。また、上面カメラ35a及び側面カメラ35bは、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41の移動に合わせて移動可能に構成するようにしてもよい。
(4-2)演算部について
演算部38は、タイミング記録部37を介して受け取った、圧力センサ33、供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cの各検出結果と、上面カメラ35aから受け取った上面画像と、側面カメラ35bから受け取った側面画像と、から、下記の状態パラメータを算出する。
本実施形態の場合、演算部38は、(i)傾斜面を流れる試料の所定位置の通過時間、(ii)傾斜面を流れる速度、(iii)厚さ、(iV)拡散面積、(V)摩擦力、(Vi)仕事量、(Vii)仕事率、(Viii)力積、(iX)せん断応力、(X)エネルギー密度、(Xi)パワー密度及び(Xii)エネルギー消費率を、試料の力学的な指標(状態パラメータ)として算出する。
本実施形態の場合、演算部38は、図17に示すように、通過時間算出部42a、速度算出部42b、厚さ算出部42c、拡散面積算出部42d、摩擦力算出部42e、仕事量算出部42f、仕事率算出部42g、力積算出部42h、せん断応力算出部42i、エネルギー密度算出部42j、パワー密度算出部42k及びエネルギー消費率算出部42lを備えており、各回路部によって、上述した(i)~(Xii)の状態パラメータを算出する。
ここで演算部38が算出する状態パラメータについて以下説明する。図18は、傾斜部材32を側面方向から見たときの概略図である。図18において、t0は、ノズル31aから傾斜面32aに試料41が供給される供給位置での通過時間を示し、供給センサ34aによる試料41の検出タイミングにより取得できる。
t1は、上部到達センサ34bが設置された第1地点を試料41が通過するときの通過時間を示し、上部到達センサ34bによる試料41の検出タイミングにより取得できる。t2は、中間部到達センサ34cが設置された第3地点を試料41が通過するときの通過時間を示し、中間部到達センサ34cによる試料41の検出タイミングにより取得できる。t3は、下部到達センサ34dが設置された第2地点を試料41が通過するときの通過時間を示し、下部到達センサ34dによる試料41の検出タイミングにより取得できる。通過時間算出部42aは、このようにして上記の(i)通過時間をそれぞれ求めることができる。
u0は、ノズル31aから傾斜面32aに試料41が供給される供給位置と、上部到達センサ34bが設置された第1地点との間での速度[m/s]であり、供給位置及び第1地点の間の距離と、上部到達センサ34bが設置された第1地点までの試料41の通過時間t1とから求めることができる。
u1は、上部到達センサ34bが設置された第1地点と、中間部到達センサ34cが設置された第3地点との間での速度[m/s]であり、第1地点及び第3地点の間の距離と、第1地点及び第3地点の通過時間(t2-t1)とから求めることができる。
u2は、中間部到達センサ34cが設置された第3地点と、下部到達センサ34dが設置された第2地点との間での速度[m/s]であり、第3地点及び第2地点の間の距離と、第3地点及び第2地点の通過時間(t3-t2)とから求めることができる。速度算出部42bは、このようにして上記の(ii)速度をそれぞれ求めることができる。また、これら速度u0,u1,u2から加速度を求めるようにしもてよい。
δは試料41の厚さを示し、側面カメラ35bで取得した側面画像に写る試料41の厚みを解析することで求めることができる。側面画像に写る試料41の厚みは、画像解析ソフトを用いることで特定することができる。厚さ算出部42cは、このようにして上記の(iii)厚さを求めることができる。
S0は、供給位置と第1地点との間において傾斜面32a上に拡散する試料41の拡散面積[m2]を示し、上面カメラ35aで取得した上面画像に写る試料41の形状を解析することで求めることができる。上面画像に写る試料41の形状は、画像解析ソフトを用いることで特定することができる。S1は、第1地点と第3地点との間において傾斜面32a上に拡散する試料41の拡散面積[m2]を示し、上面カメラ35aで取得した上面画像に写る試料41の形状を解析することで求めることができる。S2は、第3地点と第2地点との間において傾斜面32a上に拡散する試料41の拡散面積[m2]を示し、上面カメラ35aで取得した上面画像に写る試料41の形状を解析することで求めることができる。拡散面積算出部42dは、このようにして上記の(iV)拡散面積をそれぞれ求めることができる。
次に、(V)摩擦力について説明する。ここで、傾斜面32a上に供給される試料41の質量をm[kg]とし、試料41にかかる力をFx[N]とし、摩擦力をf[N]とし、重力加速度をg[m/s2]とし、傾斜面32aの水平線からの傾斜角度をθ[度]とすると、次の式(2)及び式(3)で表すことができる。
式(3)より摩擦力fは、下記の式(4)で表すことができる。なお、ρは密度[g/mL]を示す。
摩擦力算出部42eは、このようにして上記の(V)摩擦力を求めることができる。
また、仕事量算出部42fは、下記の式(5)より上記の(Vi)仕事量を求めることができる。なお、wは仕事量[J]を示し、Lは、第1地点(最上部位置)と第2地点(下部位置)との距離を示す。
w[J]=f・L … (5)
仕事率算出部42gは、下記の式(6)より上記の(Vii)仕事率を求めることができる。なお、Pは仕事率[W]を示す。
P[W]=w/(t3-t1) … (6)
力積算出部42hは、下記の式(7)より上記の(Viii)力積を求めることができる。なお、Iは力積[N・s]を示す。
I[N・s]=f・(t3-t1) … (7)
せん断応力算出部42iは、下記の式(8)より上記の(iX)せん断応力を求めることができる。なお、τはせん断応力[N/m3]を示す。
τ[N/m3]=f/(S2-S1) … (8)
エネルギー密度算出部42jは、下記の式(9)より上記の(X)エネルギー密度を求めることができる。なお、jはエネルギー密度[J/m2]を示す。
j[J/m2]=w/(S2-S1) … (9)
パワー密度算出部42kは、下記の式(10)より上記の(Xi)パワー密度を求めることができる。なお、pはパワー密度[W/m2]を示す。
p[W/m2]=P/(S2-S1) … (10)
エネルギー消費率算出部42lは、下記の式(11)より上記の(Xii)エネルギー消費率を求めることができる。なお、εはエネルギー消費率[W/m3]を示す。
例えば、図14に示すように、誤嚥が発生しない可能性が高い粘度・せん断速度範囲ER2を目安に、粘度・せん断速度範囲ER2内に含まれる試料1と、粘度・せん断速度範囲ER2内に含まれず誤嚥が発生する試料2とを作製し、計測装置3により状態パラメータをそれぞれ求めた。ここでは、試料1として、市販のドリンクヨーグルト(株式会社明治社製、商品名:明治ブルガリア飲むヨーグルトLB81プレーン)に、加熱した5%山芋水溶液を、最終山芋濃度0.5%になるよう含有させた経口摂取品を作製した。一方、試料2としては、市販のドリンクヨーグルト(株式会社明治社製、商品名:明治ブルガリア飲むヨーグルトLB81プレーン)を用いた。
このうち、図19は、試料1と試料2とについて、上部到達センサ34bが設置された第1地点での速度u0と、中間部到達センサ34cが設置された第3地点での速度u1と、下部到達センサ34dが設置された第2地点での速度u2とを、計測装置3により求めた結果を示す。図19に示すように、試料1及び試料2では、速度u0,u1,u2については大きな差は確認することができなかった。
次に、試料1と試料2とについて、第1地点、第3地点、第2地点での各拡散面積S0,S1,S2について、計測装置3によりそれぞれ測定したところ、図20に示すような結果が得られた。統計的検定手法の1つである平均の差のt検定の手法を使用して判定を行ったところ、図20(a)(b)(c)に示すように、有意確率がp<0.05となり、第1地点、第3地点及び第2地点で試料1と試料2とで拡散面積S0,S1,S2に大きな差が表れることが確認できた。以上より、誤嚥を抑制する経口摂取品を開発する際には、拡散面積S0,S1,S2に着目して作製することが望ましいことが確認できた。なお、図20において、異なるアルファベット記号どうしは、有意な差があることを示している(t検定、有意水準p<0.05)。
(5)経口摂取品開発支援処理手順の概略について
次に、上述した経口摂取品開発支援システム1を用いた経口摂取品開発支援処理手順の概略に関し、図21に示すフローチャートを用いて以下簡単にまとめる。図21に示すように、経口摂取品開発支援方法は、開始ステップからステップS1に移り、頭頸部モデリング部10により動的三次元頭頸部モデル10aを形成し(頭頸部モデリングステップ)、次のステップS2に移る。
ステップS2では、器官運動設定部30により、動的三次元頭頸部モデル10aにおける各頭頸部器官の運動を設定し(器官運動設定ステップ)、次のステップS3に移る。ステップS3では、解析対象としての経口摂取品及びその物性値を設定し(経口摂取品物性設定ステップ)し、次のステップS4に移る。
ステップS4では、動的三次元頭頸部モデル10aの口腔に擬似経口摂取品20を投入し、嚥下シミュレーションを開始して次のステップS5に移る。ステップS5では、運動解析部50によって、動的三次元頭頸部モデル10aにおける各頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品20の嚥下に係る挙動とを、粒子法を用いて三次元画像内で解析し(運動解析ステップ)、次のステップS6に移る。
ステップS6では、動的三次元頭頸部モデル10aでの嚥下時の擬似経口摂取品20の挙動の解析結果から、誤嚥が発生するか否かの判断を行いつつ、食塊量、粘度及びせん断速度のデータを取集する。動的三次元頭頸部モデル10aで誤嚥が発生しているか否かの判断は、例えば、開発者が提示装置4の表示画面に表示された動画面を見て行なう。
この際、例えば、物性特定部70は、設定された食塊量毎に粘度及びせん断速度の関係を示したグラフ内に、得られたデータをプロットする。ステップS6において、擬似経口摂取品20の物性値が新たに設定されると、ステップS3に戻り、上述した処理を繰り返す。これにより、物性特定部70は、設定された食塊量毎に粘度及びせん断速度の関係を示したグラフ内に、得られたデータを、その都度、プロットしてゆくことで、誤嚥が発生し難い誤嚥回避分布領域を特定することができる。
その後、ステップS7に移り、物性特定部70によって、誤嚥が発生し難い食塊量、粘度及びせん断速度を特定した粘度・せん断速度範囲ER2を特定する(物性特定ステップ)。ここで、粘度・せん断速度範囲ER2は、上述した式(1)中の係数C1、C2をパラメトリックに変化させながら、誤嚥回避分布領域と重なる範囲をフローカーブにより特定することで求める。
ステップS8では、ステップS7で特定した粘度・せん断速度範囲ER2内にある粘度及びせん断速度を有する試料41を作製し(試料準備ステップ)、次のステップS9に移る。ステップS9では、計測装置3を使用して、ステップS8で用意した試料41を傾斜面32aに供給し(供給ステップ)、次のステップS10、ステップS13及びステップS14に移る。ステップS9において、傾斜面32aへの試料41の供給量は、ステップS7で粘度・せん断速度範囲ER2を求めたときの食塊量である。
ステップS10では、供給センサ34aによって、試料41の傾斜面32aへの供給タイミングを検出し(供給検出ステップ)、次のステップS11に移る。ステップS11では、到達センサとして設けられた、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cにより、傾斜面32aを流下又は滑落する試料41をそれぞれ検出し(到達検出ステップ)、次のステップS12に移る。
ステップS12では、ステップS10で供給センサ34aにより得られた検出結果と、ステップS11で上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cにより得られた検出結果と、をタイミング記録部37に記録し(タイミング記録ステップ)、次のステップS15に移る。
このとき、ステップS13では、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41を、傾斜面32aの正面から上面カメラ35aで撮像することで上面画像を取得し(上面画像取得ステップ)、次のステップS15に移る。また、ステップS14では、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41を、試料41の側面側から側面カメラ35bで撮像することで側面画像を取得し(側面画像取得ステップ)、次のステップS15に移る。
ステップS15では、演算部38により、ステップS12、ステップS13及びステップS14で得られたデータを基に演算処理を行い、試料41の物理的な指標を示す状態パラメータ(ここでは、(i)傾斜面を流れる試料の所定位置の通過時間、(ii)傾斜面を流れる速度、(iii)厚さ、(iV)拡散面積、(V)摩擦力、(Vi)仕事量、(Vii)仕事率、(Viii)力積、(iX)せん断応力、(X)エネルギー密度、(Xi)パワー密度及び(Xii)エネルギー消費率)を算出して(演算ステップ)、次のステップS16に移る。ステップS16では、ステップS15で得られた状態パラメータを提示装置4の表示画面に表示等して開発者に状態パラメータを提示し(提示ステップ)、上述した処理を終了する。
(6)作用及び効果
以上の構成において、経口摂取品開発支援システム1では、嚥下シミュレーション装置2によって、動的三次元頭頸部モデル10aを三次元画像により形成するとともに、解析対象とする経口摂取品の物性値を設定する。また、嚥下シミュレーション装置2では、経口摂取品を三次元画像内でモデル化した擬似経口摂取品20を動的三次元頭頸部モデル10aで嚥下させたときの各頭頸部器官の運動と、擬似経口摂取品20の嚥下時の挙動と、を粒子法に基づいて三次元画像でシミュレーション解析する。
嚥下シミュレーション装置2では、嚥下シミュレーションの解析結果を基に、誤嚥の抑制を実現する擬似経口摂取品20の食塊量、粘度及びせん断速度を特定することができる。これにより、経口摂取品の開発者は、嚥下シミュレーション装置2により特定された擬似経口摂取品20の粘度及びせん断速度を実現した試料41を用意することができる。
計測装置3では、試料41を傾斜面32aに供給し、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41の状態を、供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cで検出するとともに、上面カメラ35a及び側面カメラ35bにより撮像する。
これにより、計測装置3では、これら供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cにより得られた検出結果と、上面カメラ35a及び側面カメラ35bにより得られた上面画像及び側面画像を基に、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41の状態を表す状態パラメータを演算により算出することができる。
従って、経口摂取品開発支援システム1では、誤嚥の抑制を実現し得る具体的な状態パラメータを特定できるため、開発者に対して状態パラメータを基に誤嚥の抑制を実現し易い新しい経口摂取品を容易に開発させることができる。よって、経口摂取品開発支援システム1は、誤嚥の抑制を実現し易い経口摂取品の開発を支援できる。
(7)他の実施形態
上述した実施形態においては、所定の嚥下を実現し得る経口摂取品の開発を支援する経口摂取品開発支援システムとして、誤嚥の抑制を実現し易い経口摂取品の開発を支援する経口摂取品開発支援システムについて述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、所定の喉ごしや飲み込みを実現し易い経口摂取品の開発を支援する経口摂取品開発支援システムとしてもよい。また、上記の「(2-5)疑似経口摂取品の食塊量、粘度及びせん断速度の解析」にも記載しているように、誤飲・窒息の抑制を実現し易い経口摂取品を開発する経口摂取品開発支援システムとしてもよい。
この場合、所定の喉ごしや飲み込み、誤飲・窒息の抑制を実現している食塊量、粘度及びせん断速度を、嚥下シミュレーション装置2による嚥下シミュレーションの解析結果を基に特定する。これにより、経口摂取品の開発者は、嚥下シミュレーション装置2により特定された擬似経口摂取品20の粘度及びせん断速度を実現した試料41を用意することができる。
そして、計測装置3では、上述した実施形態と同様にして、供給センサ34a、上部到達センサ34b、下部到達センサ34d及び中間部到達センサ34cにより得られた試料の検出結果と、上面カメラ35a及び側面カメラ35bにより得られた上面画像及び側面画像を基に、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41の状態を表す状態パラメータを算出する。
これにより、経口摂取品開発支援システム1では、所定の喉ごしや飲み込み、誤飲・窒息の抑制を実現し得る状態パラメータを特定できるため、開発者に対して状態パラメータを基に、所定の喉ごしや飲み込み、誤飲・窒息の抑制を実現し易い新しい経口摂取品を容易に開発させることができる。よって、経口摂取品開発支援システム1は、所定の嚥下を実現し得る経口摂取品の開発を支援できる。
また、上述した実施形態においては、タイミング記録部37の出力、側面画像及び上面画像の全てを使用して、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41の状態を表す全ての状態パラメータ((i)傾斜面を流れる試料の所定位置の通過時間、(ii)傾斜面を流れる速度、(iii)厚さ、(iV)拡散面積、(V)摩擦力、(Vi)仕事量、(Vii)仕事率、(Viii)力積、(iX)せん断応力、(X)エネルギー密度、(Xi)パワー密度及び(Xii)エネルギー消費率)を演算する場合について述べたが、本発明はこれに限らない。
例えば、タイミング記録部37の出力、側面画像及び上面画像の少なくとも1つを使用して、傾斜面32a上を流下又は滑落する試料41の状態を表す状態パラメータのうちいずれかを演算により算出するようにしてもよい。また、上面カメラ35aから取得した上面画像から、状態パラメータとして、試料41の軌跡を求めるようにしてもよい。また、傾斜面32aに圧力検査センサを設け、状態パラメータとして、試料41の圧力を求めるようにしてもよい。さらに、上述の計測値により、状態パラメータとして、試料41のせん断速度を求めても良い。
また、上述した実施形態においては、嚥下障害者の頭頸部器官を再現した動的三次元頭頸部モデル10aを三次元画像により形成した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、健常者、乳幼児又は高齢者等の頭頸部器官を再現した動的三次元頭頸部モデルを三次元画像により形成してもよい。
また、上述した実施形態においては、数値流体解析技術として、粒子法を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、その他の数値流体解析技術としては、解析領域全体を仮想的に格子状に区切り、この格子点もしくは格子の中心の物理量を求める格子法(有限体積法、有限要素法)を適用してもよい。また、粒子法についても本実施形態で採用したMPS法以外に、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法などを適用しても同様の解析ができる。