JP7075737B2 - 発電性作動流体 - Google Patents

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本発明は、ダンパーやショックアブソーバーにおける作動油のような流動を伴う用途に使用されて、その流動に伴い電位差を生じる発電性作動流体に関する。なお、本明細書でいう発電性は、後で詳しく述べるが、大きな電気エネルギーを取り出せるわけではないため、狭義の意味では発電性とはいえないが、流動に伴って電位差(すなわち起電力)を生じる性質という意味で発電性と称する。
流動に伴って電位差を生じる発電性流体が存在すれば、例えばダンパーやショックアブソーバーにおける作動流体として使用することにより、その作動状態を無電源で電気信号に変化し、検出可能とするなど、ダンパーやショックアブソーバーの機能性を飛躍的に向上させることが可能となる。そして、そのような発電性流体としては、これまでは単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用いたものが知られている。
すなわち、カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素系のナノ材料で、疎水性のため水中に分散させることが非常に困難であったが、デオキシコール酸ナトリウム(NaDC)を用いることにより、簡便な方法でCNTの凝集を抑制し、水中に微細かつ均一に分散させることが可能となる。この技術によって開発されたSWCNT分散液は、様々な機能を有しており、その機能の一つに発電機能のあることが知られている。
例えば、NaDC水溶液中にSWCNTが分散したSWCNT分散液を、直径1mmの細孔を介して接続された2つのセル内に充填し、圧力下で移動させることにより最大で63.1mVの電位差を生じることが、非特許文献1により報告されている。
しかしながら、SWCNTは非常に高価(1kgあたり数100万円)であるため、ダンパーやショックアブソーバーにおける作動油のような産業用途には本質的に適さない。また、発生する電位差がそれほど大きくないために、小型機器や低速で流動させる用途に対しても不向きである。
なお、SWCNTのようなカーボン材料ではないが、同じナノ材料で植物繊維に由来するCNF、すなわちセルロースナノファイバーは、近年、再生可能な高機能材料として注目されている。例えば、そのCNFは、高強度で軽量であり、しかも熱膨張率が小さいために、成形材料としての用途が期待されている。また、表面積が大きく、金属イオン・金属ナノ粒子を表面に高密度で付着させることが可能なために、金属イオン・金属ナノ粒子の担持材料、具体的には紙おむつ用消臭シート等への適用が考えられている(特許文献1)。また、CNFが分散したゲル状の液体は、増粘性、チクソ性を有することからボールペンインクや化粧品への適用が考えられている(特許文献2)。
Z.Tan et al.,Appl.Phys.Lett.,105,033906(2014)
特開2014-240538号公報 特開2017-105907号公報
本発明の目的は、NaDC水溶液中にSWCNTが分散したSWCNT分散液に比べ、発生電位が高く、なおかつ経済性に優れた発電性作動流体を提供することにある。
先にも触れたが、植物繊維系のナノ材料であるCNF、すなわちセルロースナノファイバーは、近年産業界で大きな注目を集めている。CNFは、植物繊維を機械的、化学的に解繊した最小エレメントであり、通常は木材繊維を機械的又は化学的に解繊して製造される。CNFより小さいエレメントはセルロース分子であり、このセルロース分子が数10本集合することにより、CNFが構成される。CNFの径は3~300nm、長さは1μm以上である。
このCNFは、鉄の1/5の軽さで5倍の強度を有すると言われており、他にも透明で熱膨張係数が小さいという性質を有し、更には、液体への添加により粘性を向上させる増粘性等も有するとされており、その用途開発、実用化に向けての研究が各方面で続けられていることは前述したとおりである。
本発明者らも以前より、このCNFの多機能性に着目し、その用途の開発、実用化に向けての研究を続けている。そして今回、液体中にCNFが分散したCNF分散液の特性を調査する過程で、そのCNF分散液が流動に伴って電位差を発生する発電性を有することを見出し、その発電性や経済性を他の発電性液体の性能と比較することにより、CNF分散液の驚くべき特性が明らかになった。その比較を表1に示す。
表1中の電位差は同じ実験条件で調査したものである。また、ゲル単価は各ゲルの単位重量あたりの価格を、CNF分散液を1とする比率で示したものであり、材料単価は各材料の単位重量あたりの価格を、CNFを1とする比率で示したものである。なお、CNF分散液は前述した増粘性のためにゲル状となるので、以下の説明ではCNF分散液をCNFゲルと称する。SWCNT分散液等の他の分散液についても同様である。
Figure 0007075737000001
表1中の1段目は、NaDC中にSWCNTが分散したSWCNTゲルであり、非特許文献1により提示されているものである。流動による電位差は比較的高いが、SWCNTの単価が極めて高いために、ゲル単価が極めて高価となり、産業分野への適用は困難である。
表1中の2段目は、SWCNTを、同じ炭素材料でありながら安価なケッチェンブラックに置き換えたものである。ケッチェンブラックの単価はSWCNTの単価に比べて大幅に安いため、ゲル単価はSWCNTゲルに比べて1/3程度に下がる。しかしながら、ケッチェンブラックの増量にもかかわらず、電位差はSWCNTゲルの1/10程度と極端に減少した。
このような状況下でケッチェンブラックと共に少量のCNFを加えた。表1中の3段目である。すると、電位差が4倍近くに増大した。CNFの単価はケッチェンブラックの約100倍であるが、添加量が少量のため、ゲル単価の増加率は1.2倍程度である。
そこで次に、水中に少量のCNFを分散させたCNFゲルを作製した。表1中の4段目である。CNFは水との親和性が高く、水への分散が容易である。そして、その流動による電位差を測定したところ、驚くべきことに、SWCNTゲルの100倍以上の電位差を生じることが判明した。また、ゲル単価は、使用量が僅かで済む上に、溶媒が水でよいため、これまでのゲルに比べて最も安価となる。
本発明の発電性作動流体は、この驚くべき結果に基づき開発されたものであって、絶縁性液体中にCNFが分散したものであり、非常に優れた発電性と、優れた経済性を併せ持つ、極めて商品価値の高い作動流体である。
作動流体とは、静的に使用されるのではなく、圧力を受け、且つその圧力により流動を伴う動的な用途に用いられる流体という意味であり、よく知られた作動油に対応する概念である。
また、発電性は、流動に伴って電位差が生じる、すなわち起電力が生じるという意味で用いており、溶媒が絶縁性で、しかも、大きな電気エネルギーを取り出せるわけではないので、狭義の意味での発電性とは異なる。電位差が生じる理由についても定かではないが、溶媒中で大きな電荷の移動がないと考えられるので、静電気のような分極が関与したものであると推察している。実際、電位差は大きいが、その電位差の大きさに比して、電流は微弱である。
溶媒は絶縁性、すなわち高抵抗であることが必要である。CNF自体も絶縁体であるので、CNFゲルも溶媒と同程度の絶縁性を有することになる。溶媒の電気抵抗が小さいと、流動による電位差が生じ難い。具体的には、溶媒の電気抵抗は0.1MΩ・cm以上が好ましく、1MΩ・cm以上が特に好ましい。このような絶縁性液体としては、イオン交換水、蒸留水等がある。ちなみに、濃度が1%の塩水の電気抵抗は約100Ω・cmであるが、これを溶媒として用いた場合、電位差は殆ど生じなかった。
先にも触れたが、CNFは水との親和性が高く、逆に樹脂類との親和性に劣る。この性質のために、水という安価な溶媒の安易な使用が可能となる。溶媒は絶縁性であれば、水に限らないことは言うまでもない。また、複数種類の液体が混合した溶媒でもよい。同様に、CNFと共に他のナノ材料が補助的に含まれることも可能である。
また、CNFは、当該CNFが分散した溶媒の粘性を高める増粘性を有する。これは本発明の発電性作動流体においては、その粘性を広範囲に簡単に調整できることを意味する。この観点からも、本発明の発電性作動流体はダンパー向けやショックアブソーバー向けの作動流体として適する。
CNFの含有量は、少なすぎると電位差を生じる能力が低下する。反対に多すぎると粘性が増大し、使用性が悪化する。この観点から、CNFの含有量は適宜決定され、一般的には1重量%以上、特に3重量%以上が好ましく、上限については10重量%以下、特に5重量%以下が好ましい。
本発明の発電性作動流体は、絶縁性液体中にCNFが分散したものであり、電位差発生能力に著しく優れるのみならず、経済性にも優れる。このため、各種の産業用作動液体として、非常に高い利用価値を示す。

本発明の発電性作動流体の発電特性試験に使用されたCNFのSEM写真である。 本発明の発電性作動流体の発電特性試験に使用した試験装置の構成図である。 同試験装置による試験結果を示すグラフで、電位差の経時変化を示す。 同試験装置による別の試験結果を示すグラフで、電位差の経時変化を示す。 同試験装置による更に別の試験結果を示すグラフで、電位差の経時変化を示す。
以下に本発明の実施形態を説明する。
セルロース粉末(旭化成ケミカルズ社製セオラスTG-101)1重量部をイオン交換水99重量部と混合し、高圧噴射装置(スギノマシン社製スターバースト)により機械的に解繊する。この操作を10回以上繰り返すことにより、最終的に繊維径が300nm以下に解繊されたCNFが水中に分散したCNFゲルが作製される。当該ゲル中のCNF濃度は1重量%である。また、そのCNFをSEM写真により図1に示す。
作製されたCNFゲルに対して、図2に示す試験装置を適用して、当該ゲルに生じる電位差を測定した。試験装置は、2つのピストンシリンダー10,10を絶縁性の隔離板20を介して突き合わせた構成であり、隔離板20には、当該ゲルを通過させるために板面に直角な細孔21が形成されている。これにより、ピストンシリンダー10,10のそれぞれの内部は細孔21を介して連通することになる。そして、ピストンシリンダー10,10の各ピストン11,11を両方向へ周期的に同期移動させることにより、CNFゲルが当該細孔21を所定周期で両方向に通過する。このときに発生する電位差を、ピストンシリンダー10,10のそれぞれに取り付けた電極端子12,12により測定する。隔離板20を交換することにより、細孔21のサイズ、数が調整される。
実験1では、ピストン11,11を5秒毎に約40mm/秒の移動速度で両方向へ繰り返し同期移動させた。ピストンシリンダー10,10の内径は20mmである。細孔21は、1mm径×1mm長×1孔、1mm径×10mm長×1孔の2仕様とした。結果を図3(a)及び(b)に示す。
細孔21が1mm径×1mm長×1孔のときは最大で約400mVの電位差が生じた。細孔21が1mm径×10mm長×1孔のときは最大で600mVを超える電位差が生じた。CNFゲルの流動方向に対応した極性の電位差が発生しており、その極性からCNFゲルの流動方向、ピストン11,11の移動方向を検知できることが分かる。また、細孔21のアスペクト比(直径に対する長さの比)が大きい方が、電位差が大きくなることも分かる。
実験2では、実験1で使用したCNFゲル(CNF濃度=1重量%)において、ロータリーエバポレータを用いて水分を蒸発させることにより、CNF濃度が3.2重量%、5.0重量%のCNFゲルを得た。
前記試験装置において、3種類のCNFゲルを用い、かつピストン11,11の移動速度を変えて電位差を測定した。細孔21は、1mm径×10mm長×29孔の1仕様とした。ピストン11,11の移動速度は低速(約40mm/秒)、中速(約64mm/秒)、高速(約160mm/秒)の3種類とした。
結果を図4に示す。CNF濃度が高くなるほど電位差が大きくなる。また、ピストン11,11の移動速度、すなわちCNFゲルの流動速度が速くなるほど電位差が大きくなる。CNFゲルの流動速度に対応した電位差が発生しており、その大きさからCNFゲルの流動速度4ピストン11,11の移動速度を検知することもできる。
実験3として、解繊処理前の材料、すなわちセルロース粉末(旭化成ケミカルズ社製セオラスTG-101)5重量部をイオン交換水95重量部と混合した未解繊材料分散液に対して同様の実験を行った。解繊処理を受けたCNFゲルの結果と合わせて図5に示す。未解繊材料分散液に比して、CNFゲルでは電位差が格段に大きくなっていることが分かる。
上記実施形態では、セルロース粉末は溶媒中でCNFへ機械的に解繊されたが、化学的に解繊した場合でも、そのCNFゲルが絶縁性を維持している限り同様の結果を得ることができる。
10 ピストンシリンダー
11 ピストン
12 電極端子
20 隔離板
21 細孔

Claims (4)

  1. 絶縁性液体中にセルロースナノファイバー(CNF)が分散し、且つその分散液が流動を伴う用途に使用されると共に、その流動により電位差を生じる作動流体
  2. 請求項1に記載の作動流体において、前記絶縁性液体は電気抵抗が0.1MΩ・cm以上である作動流体
  3. 請求項1に記載の作動流体において、前記セルロースナノファイバー(CNF)は含有量が重量比で1~10%である作動流体
  4. 請求項1に記載の作動流体において、前記セルロースナノファイバー(CNF)は径が3~300nm、長さは1μm以上である作動流体
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