以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。なお、同一の構成については、同じ符号を付して説明する。また、実施形態に記載されている構成要素の相対配置、形状等は、あくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
<<実施形態1>>
図1は、本実施形態で使用するインクジェット記録装置1(以下、記録装置1)の内部構成図である。図において、x方向は水平方向、y方向(紙面垂直方向)は後述する記録ヘッド8において吐出口が配列される方向、z方向は鉛直方向をそれぞれ示す。
記録装置1は、プリント部2とスキャナ部3を備える複合機であり、記録動作と読取動作に関する様々な処理を、プリント部2とスキャナ部3で個別にあるいは連動して実行することができる。スキャナ部3は、ADF(オートドキュメントフィーダ)とFBS(フラットベッドスキャナ)を備えており、ADFで自動給紙される原稿の読み取りと、ユーザによってFBSの原稿台に置かれた原稿の読み取り(スキャン)を行うことができる。なお、本実施形態はプリント部2とスキャナ部3を併せ持った複合機であるが、スキャナ部3を備えない形態であってもよい。図1は、記録装置1が記録動作も読取動作も行っていない待機状態にあるときを示す。
プリント部2において、筐体4の鉛直方向下方の底部には、記録媒体(カットシート)Sを収容するための第1カセット5Aと第2カセット5Bが着脱可能に設置されている。第1カセット5AにはA4サイズまでの比較的小さな記録媒体が、第2カセット5BにはA3サイズまでの比較的大きな記録媒体が、平積みに収容されている。第1カセット5A近傍には、収容されている記録媒体を1枚ずつ分離して給送するための第1給送ユニット6Aが設けられている。同様に、第2カセット5B近傍には、第2給送ユニット6Bが設けられている。記録動作が行われる際にはいずれか一方のカセットから選択的に記録媒体Sが給送される。
搬送ローラ7、排出ローラ12、ピンチローラ7a、拍車7b、ガイド18、インナーガイド19およびフラッパ11は、記録媒体Sを所定の方向に導くための搬送機構である。搬送ローラ7は、記録ヘッド8の上流側および下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。ピンチローラ7aは、搬送ローラ7と共に記録媒体Sをニップして回転する従動ローラである。排出ローラ12は、搬送ローラ7の下流側に配され、不図示の搬送モータによって駆動される駆動ローラである。拍車7bは、記録ヘッド8の下流側に配される搬送ローラ7及び排出ローラ12と共に記録媒体Sを挟持して搬送する。
ガイド18は、記録媒体Sの搬送経路に設けられ、記録媒体Sを所定の方向に案内する。インナーガイド19は、y方向に延在する部材で湾曲した側面を有し、当該側面に沿って記録媒体Sを案内する。フラッパ11は、両面記録動作の際に、記録媒体Sが搬送される方向を切り替えるための部材である。排出トレイ13は、記録動作が完了し排出ローラ12によって排出された記録媒体Sを積載保持するためのトレイである。
本実施形態の記録ヘッド8は、フルラインタイプのカラーインクジェット記録ヘッドであり、記録データに従ってインクを吐出する吐出口が、図1におけるy方向に沿って記録媒体Sの幅に相当する分だけ複数配列されている。記録ヘッド8が待機位置にあるとき、記録ヘッド8の吐出口面8aは、図1のように鉛直下方を向きキャップユニット10によってキャップされている。記録動作を行う際は、後述するプリントコントローラ202によって、吐出口面8aがプラテン9と対向するように記録ヘッド8の向きが変更される。プラテン9は、y方向に延在する平板によって構成され、記録ヘッド8によって記録動作が行われる記録媒体Sを背面から支持する。記録ヘッド8の待機位置から記録位置への移動については、後に詳しく説明する。
インクタンクユニット14は、記録ヘッド8へ供給される4色のインクをそれぞれ貯留する。インク供給ユニット15は、インクタンクユニット14と記録ヘッド8を接続する流路の途中に設けられ、記録ヘッド8内のインクの圧力及び流量を適切な範囲に調整する。本実施形態では循環型のインク供給系を採用しており、インク供給ユニット15は記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力と記録ヘッド8から回収されるインクの流量を適切な範囲に調整する。
メンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17を備え、所定のタイミングにこれらを作動させて、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う。メンテナンス動作については後に詳しく説明する。
図2は、記録装置1における制御構成を示すブロック図である。制御構成は、主にプリント部2を統括するプリントエンジンユニット200と、スキャナ部3を統括するスキャナエンジンユニット300と、記録装置1全体を統括するコントローラユニット100によって構成されている。プリントコントローラ202は、コントローラユニット100のメインコントローラ101の指示に従ってプリントエンジンユニット200の各種機構を制御する。スキャナエンジンユニット300の各種機構は、コントローラユニット100のメインコントローラ101によって制御される。以下に制御構成の詳細について説明する。
コントローラユニット100において、CPUにより構成されるメインコントローラ101は、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら記録装置1全体を制御する。例えば、ホストI/F102またはワイヤレスI/F103を介してホスト装置400から印刷ジョブが入力されると、メインコントローラ101の指示に従って、画像処理部108が受信した画像データに対して所定の画像処理を施す。そして、メインコントローラ101はプリントエンジンI/F105を介して、画像処理を施した画像データをプリントエンジンユニット200へ送信する。
なお、記録装置1は無線通信や有線通信を介してホスト装置400から画像データを取得しても良いし、記録装置1に接続された外部記憶装置(USBメモリ等)から画像データを取得しても良い。無線通信や有線通信に利用される通信方式は限定されない。例えば、無線通信に利用される通信方式として、Wi-Fi(Wireless Fidelity)(登録商標)やBluetooth(登録商標)が適用可能である。また、有線通信に利用される通信方式としては、USB(Universal Serial Bus)等が適用可能である。また、例えばホスト装置400から読取コマンドが入力されると、メインコントローラ101は、スキャナエンジンI/F109を介してこのコマンドをスキャナ部3に送信する。
操作パネル104は、ユーザが記録装置1に対して入出力を行うための機構である。ユーザは、操作パネル104を介してコピーやスキャン等の動作を指示したり、印刷モードを設定したり、記録装置1の情報を認識したりすることができる。
プリントエンジンユニット200において、CPUにより構成されるプリントコントローラ202は、ROM203に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM204をワークエリアとしながら、プリント部2が備える各種機構を制御する。コントローラI/F201を介して各種コマンドや画像データが受信されると、プリントコントローラ202は、これを一旦RAM204に保存する。記録ヘッド8が記録動作に利用できるように、プリントコントローラ202は画像処理コントローラ205に、保存した画像データを記録データへ変換させる。記録データが生成されると、プリントコントローラ202は、ヘッドI/F206を介して記録ヘッド8に記録データに基づく記録動作を実行させる。この際、プリントコントローラ202は、搬送制御部207を介して図1に示す給送ユニット6A、6B、搬送ローラ7、排出ローラ12、フラッパ11を駆動して、記録媒体Sを搬送する。プリントコントローラ202の指示に従って、記録媒体Sの搬送動作に連動して記録ヘッド8による記録動作が実行され、印刷処理が行われる。
ヘッドキャリッジ制御部208は、記録装置1のメンテナンス状態や記録状態といった動作状態に応じて記録ヘッド8の向きや位置を変更する。インク供給制御部209は、記録ヘッド8へ供給されるインクの圧力が適切な範囲に収まるように、インク供給ユニット15を制御する。メンテナンス制御部210は、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作を行う際に、メンテナンスユニット16におけるキャップユニット10やワイピングユニット17の動作を制御する。
スキャナエンジンユニット300においては、メインコントローラ101が、ROM107に記憶されているプログラムや各種パラメータに従って、RAM106をワークエリアとしながら、スキャナコントローラ302のハードウェアリソースを制御する。これにより、スキャナ部3が備える各種機構は制御される。例えばコントローラI/F301を介してメインコントローラ101がスキャナコントローラ302内のハードウェアリソースを制御することにより、ユーザによってADFに搭載された原稿を、搬送制御部304を介して搬送し、センサ305によって読み取る。そして、スキャナコントローラ302は読み取った画像データをRAM303に保存する。なお、プリントコントローラ202は、上述のように取得された画像データを記録データに変換することで、記録ヘッド8に、スキャナコントローラ302で読み取った画像データに基づく記録動作を実行させることが可能である。
図3は、記録装置1が記録状態にあるときを示す。図1に示した待機状態と比較すると、キャップユニット10が記録ヘッド8の吐出口面8aから離間し、吐出口面8aがプラテン9と対向している。本実施形態において、プラテン9の平面は水平方向に対して約45度傾いており、記録位置における記録ヘッド8の吐出口面8aも、プラテン9との距離が一定に維持されるように水平方向に対して約45度傾いている。
記録ヘッド8を図1に示す待機位置から図3に示す記録位置に移動する際、プリントコントローラ202は、メンテナンス制御部210を用いて、キャップユニット10を図3に示す退避位置まで降下させる。これにより、記録ヘッド8の吐出口面8aは、キャップ部材10aと離間する。その後、プリントコントローラ202は、ヘッドキャリッジ制御部208を用いて記録ヘッド8の鉛直方向の高さを調整しながら45度回転させ、吐出口面8aをプラテン9と対向させる。記録動作が完了し、記録ヘッド8が記録位置から待機位置に移動する際は、プリントコントローラ202によって上記と逆の工程が行われる。
次に、プリント部2における記録媒体Sの搬送経路について説明する。記録コマンドが入力されると、プリントコントローラ202は、まず、メンテナンス制御部210およびヘッドキャリッジ制御部208を用いて、記録ヘッド8を図3に示す記録位置に移動する。その後、プリントコントローラ202は搬送制御部207を用い、記録コマンドに従って第1給送ユニット6Aおよび第2給送ユニット6Bのいずれかを駆動し、記録媒体Sを給送する。
図4(a)~(c)は、第1カセット5Aに収容されているA4サイズの記録媒体Sが給送されるときの搬送経路を示す図である。第1カセット5A内の1番上に積載された記録媒体Sは、第1給送ユニット6Aによって2枚目以降の記録媒体から分離され、搬送ローラ7とピンチローラ7aにニップされながら、プラテン9と記録ヘッド8の間の記録領域Pに向けて搬送される。図4(a)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pに到達する直前の搬送状態を示す。記録媒体Sの進行方向は、第1給送ユニット6Aに給送されて記録領域Pに到達する間に、水平方向(x方向)から、水平方向に対して約45度傾いた方向に変更される。
記録領域Pでは、記録ヘッド8に設けられた複数の吐出口から記録媒体Sに向けてインクが吐出される。インクが付与される領域の記録媒体Sは、プラテン9によってその背面が支持されており、吐出口面8aと記録媒体Sの距離が一定に保たれている。インクが付与された後の記録媒体Sは、搬送ローラ7と拍車7bに案内されながら、先端が右に傾いているフラッパ11の左側を通り、ガイド18に沿って記録装置1の鉛直方向上方へ搬送される。図4(b)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される状態を示す。記録媒体Sの進行方向は、水平方向に対し約45度傾いた記録領域Pの位置から、搬送ローラ7と拍車7bによって鉛直方向上方に変更されている。
記録媒体Sは、鉛直方向上方に搬送された後、排出ローラ12と拍車7bによって排出トレイ13に排出される。図4(c)は、記録媒体Sの先端が排出ローラ12を通過して排出トレイ13に排出される状態を示す。排出された記録媒体Sは、記録ヘッド8によって画像が記録された面を下にした状態で、排出トレイ13上に保持される。
図5(a)~(c)は、第2カセット5Bに収容されているA3サイズの記録媒体Sが給送されるときの搬送経路を示す図である。第2カセット5B内の1番上に積載された記録媒体Sは、第2給送ユニット6Bによって2枚目以降の記録媒体から分離され、搬送ローラ7とピンチローラ7aにニップされながら、プラテン9と記録ヘッド8の間の記録領域Pに向けて搬送される。
図5(a)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pに到達する直前の搬送状態を示す。第2給送ユニット6Bに給送されて記録領域Pに到達するまでの搬送経路には、複数の搬送ローラ7とピンチローラ7aおよびインナーガイド19が配されることで、記録媒体SはS字上に湾曲されてプラテン9まで搬送される。
その後の搬送経路は、図4(b)および(c)で示したA4サイズの記録媒体Sの場合と同様である。図5(b)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される状態を示す。図5(c)は、記録媒体Sの先端が排出ローラ12を通過して排出トレイ13に排出される状態を示す。
図6(a)~(d)は、A4サイズの記録媒体Sの裏面(第2面)に対して記録動作(両面記録)を行う場合の搬送経路を示す。両面記録を行う場合、第1面(表面)を記録した後に第2面(裏面)に記録動作を行う。第1面を記録する際の搬送工程は図4(a)~(c)と同様であるので、ここでは説明を省略する。以後、図4(c)以後の搬送工程について説明する。
記録ヘッド8による第1面への記録動作が完了し、記録媒体Sの後端がフラッパ11を通過すると、プリントコントローラ202は、搬送ローラ7を逆回転させて記録媒体Sを記録装置1の内部へ搬送する。この際、フラッパ11は、不図示のアクチュエータによってその先端が左側に傾くように制御されるため、記録媒体Sの先端(第1面の記録動作における後端)はフラッパ11の右側を通過して鉛直方向下方へ搬送される。図6(a)は、記録媒体Sの先端(第1面の記録動作における後端)が、フラッパ11の右側を通過する状態を示す。
その後記録媒体Sは、インナーガイド19の湾曲した外周面に沿って搬送され、再び記録ヘッド8とプラテン9の間の記録領域Pに搬送される。この際、記録ヘッド8の吐出口面8aに、記録媒体Sの第2面が対向する。図6(b)は、第2面の記録動作のために、記録媒体Sの先端が記録領域Pに到達する直前の搬送状態を示す。
その後の搬送経路は、図4(b)および(c)で示した第1面記録の場合と同様である。図6(c)は、記録媒体Sの先端が記録領域Pを通過して鉛直方向上方に搬送される状態を示す。この際、フラッパ11は、不図示のアクチュエータにより先端が右側に傾いた位置に移動するように制御される。図6(d)は、記録媒体Sの先端が排出ローラ12を通過して排出トレイ13に排出される状態を示す。
<メンテナンス動作>
次に、記録ヘッド8に対するメンテナンス動作について説明する。図1でも説明したように、本実施形態のメンテナンスユニット16は、キャップユニット10とワイピングユニット17とを備え、所定のタイミングにこれらを作動させてメンテナンス動作を行う。
図7は、記録装置1がメンテナンス状態のときの図である。記録ヘッド8を図1に示す待機位置から図7に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向において上方に移動させるとともにキャップユニット10を鉛直方向下方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から図7における右方向に移動させる。その後、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
一方、記録ヘッド8を図3に示す記録位置から図7に示すメンテナンス位置に移動する際、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を45度回転させつつ鉛直方向上方に移動させる。そして、プリントコントローラ202は、ワイピングユニット17を退避位置から右方向に移動させる。その後プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向下方に移動させて、メンテナンスユニット16によるメンテナンス動作が可能なメンテナンス位置に移動させる。
図8(a)はメンテナンスユニット16が待機ポジションにある状態を示す斜視図であり、図8(b)はメンテナンスユニット16がメンテナンスポジションにある状態を示す斜視図である。図8(a)は図1に対応し、図8(b)は図7に対応している。記録ヘッド8が待機位置にあるとき、メンテナンスユニット16は図8(a)に示す待機ポジションにあり、キャップユニット10は鉛直方向上方に移動しており、ワイピングユニット17はメンテナンスユニット16の内部に収納されている。キャップユニット10はy方向に延在する箱形のキャップ部材10aを有し、これを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させることにより、吐出口からのインクの蒸発を抑制することができる。また、キャップユニット10は、キャップ部材10aに予備吐出等で吐出されたインクを回収し、回収したインクを不図示の吸引ポンプに吸引させる機能も備えている。
一方、図8(b)に示すメンテナンスポジションにおいて、キャップユニット10は鉛直方向下方に移動しており、ワイピングユニット17がメンテナンスユニット16から引き出されている。ワイピングユニット17は、ブレードワイパユニット171とバキュームワイパユニット172の2つのワイパユニット(ワイピング部材)を備えている。
ブレードワイパユニット171には、吐出口面8aをx方向に沿ってワイピングするためのブレードワイパ171aが吐出口の配列領域に相当する長さだけy方向に配されている。ブレードワイパユニット171を用いてワイピング動作を行う際、ワイピングユニット17は、記録ヘッド8がブレードワイパ171aに当接可能な高さに位置決めされた状態で、ブレードワイパユニット171をx方向に移動する。この移動により、吐出口面8aに付着するインクなどはブレードワイパ171aに拭き取られる。
ブレードワイパ171aが収納される際のメンテナンスユニット16の入り口には、ブレードワイパ171aに付着したインクを除去するとともにブレードワイパ171aにウェット液を付与するためのウェットワイパクリーナ16aが配されている。ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16に収納される度にウェットワイパクリーナ16aによって付着物が除去されウェット液が塗布される。そして、次に吐出口面8aをワイピングしたときにウェット液を吐出口面8aに転写し、吐出口面8aとブレードワイパ171a間の滑り性を向上させている。
一方、バキュームワイパユニット172は、y方向に延在する開口部を有する平板172aと、開口部内をy方向に移動可能なキャリッジ172bと、キャリッジ172bに搭載されたバキュームワイパ172cとを有する。バキュームワイパ172cは、キャリッジ172bの移動に伴って吐出口面8aをy方向にワイピング可能に配されている。バキュームワイパ172cの先端には、不図示の吸引ポンプに接続された吸引口が形成されている。このため、吸引ポンプを作動させながらキャリッジ172bをy方向に移動すると、記録ヘッド8の吐出口面8aに付着したインク等は、バキュームワイパ172cによって拭き寄せられながら吸引口に吸い込まれる。この際、平板172aと開口部の両端に設けられた位置決めピン172dは、バキュームワイパ172cに対する吐出口面8aの位置合わせに利用される。
本実施形態では、ブレードワイパユニット171によるワイピング動作を行いバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を行わない第1のワイピング処理と、両方のワイピング処理を順番に行う第2のワイピング処理を実施することができる。第1のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を図7のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16から引き出す。そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。この移動により、吐出口面8aに付着するインク等はブレードワイパ171aに拭き取られる。すなわち、ブレードワイパ171aは、メンテナンスユニット16から引き出された位置からメンテナンスユニット16内へ移動する際に吐出口面8aをワイピングする。
ブレードワイパユニット171が収納されると、プリントコントローラ202は、次にキャップユニット10を鉛直方向上方に移動させ、キャップ部材10aを記録ヘッド8の吐出口面8aに密着させる。そして、プリントコントローラ202は、その状態で記録ヘッド8を駆動して予備吐出を行わせ、キャップ部材10a内に回収されたインクを吸引ポンプによって吸引する。
一方、第2のワイピング処理を行う際、プリントコントローラ202は、まず、記録ヘッド8を図7のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて引き出す。そして、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8をブレードワイパ171aに当接可能な位置まで鉛直方向下方に移動させた後、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16内へ移動させる。これにより、ブレードワイパ171aによるワイピング動作が吐出口面8aに対して行われる。次に、プリントコントローラ202は、再び記録ヘッド8を図7のメンテナンス位置よりも鉛直方向上方に退避させた状態で、ワイピングユニット17をメンテナンスユニット16からスライドさせて所定位置まで引き出す。続いて、プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を図7に示すワイピング位置に下降させながら、平板172aと位置決めピン172dを用いて吐出口面8aとバキュームワイパユニット172の位置決めを行う。その後、プリントコントローラ202は、上述したバキュームワイパユニット172によるワイピング動作を実行する。プリントコントローラ202は、記録ヘッド8を鉛直方向上方に退避させ、ワイピングユニット17を収納した後、第1のワイピング処理と同様に、キャップユニット10によるキャップ部材内への予備吐出と回収したインクの吸引動作を行う。
<インク供給ユニット(インク循環系)>
図9は、本実施形態のインクジェット記録装置1で採用するインク供給ユニット15を含む図である。図9を用いて本実施形態のインク循環系の流路構成を説明する。インク供給ユニット15は、インクタンクユニット14から記録ヘッド8へインクを供給する構成である。ここでは、1色のインクについての構成を示しているが、実際にはこのような構成が、インク色ごとに用意されている。インク供給ユニット15は、基本的に図2で示したインク供給制御部209によって制御される。以下、ユニットの各構成について説明する。
インクは主にサブタンク151と記録ヘッド8(図9ではヘッドユニット)の間を循環する。ヘッドユニット8では画像データに基づいてインクの吐出動作が行われ、吐出されなかったインクが再びサブタンク151に回収される。
所定量のインクを収容するサブタンク151は、ヘッドユニット8へインクを供給するための供給流路C2とヘッドユニット8からインクを回収するための回収流路C4に接続されている。すなわち、サブタンク151、供給流路C2、ヘッドユニット8、および回収流路C4によってインクが循環する循環経路が構成される。
サブタンク151には複数のピンで構成される液面検知手段151aが設けられ、インク供給制御部209は、これら複数のピン間の導通電流の有無を検知することによって、インク液面の高さ即ちサブタンク151内のインク残量を把握することができる。減圧ポンプP0は、サブタンク151の内部を減圧するための負圧発生源である。大気開放弁V0は、サブタンク151の内部を大気に連通させるか否かを切り替えるための弁である。
メインタンク141は、サブタンク151へ供給されるインクを収容するタンクである。メインタンク141は可撓性部材で構成され、可撓性部材の容積変化によってサブタンク151へインクが充填される。メインタンク141は、記録装置本体に対して着脱可能な構成である。サブタンク151とメインタンク141を接続するタンク接続流路C1の途中には、サブタンク151とメインタンク141の接続を切り替えるためのタンク供給弁V1が配されている。
以上の構成のもと、インク供給制御部209は、液面検知手段151aによってサブタンク151内のインクが所定量より少なくなったことを検知すると、大気開放弁V0、供給弁V2、回収弁V4、およびヘッド交換弁V5を閉じ、タンク供給弁V1を開く。この状態において、インク供給制御部209は減圧ポンプP0を作動させる。すると、サブタンク151の内部が負圧となりメインタンク141からサブタンク151へインクが供給される。液面検知手段151aによってサブタンク151内のインクが所定量を超えたことを検知すると、インク供給制御部209は、タンク供給弁V1を閉じ減圧ポンプP0を停止する。
供給流路C2は、サブタンク151からヘッドユニット8へインクを供給するための流路であり、その途中には供給ポンプP1と供給弁V2が配されている。記録動作中は、供給弁V2を開いた状態で供給ポンプP1を駆動することにより、ヘッドユニット8へインクを供給しつつ循環経路においてインクを循環することができる。ヘッドユニット8によって単位時間あたりに吐出されるインクの量は画像データに応じて変動する。供給ポンプP1の流量は、ヘッドユニット8が単位時間あたりのインク消費量が最大となる吐出動作を行った場合にも対応できるように決定されている。
リリーフ流路C3は、供給弁V2の上流側であって、供給ポンプP1の上流側と下流側を接続する流路である。リリーフ流路C3の途中には差圧弁であるリリーフ弁V3が配される。供給ポンプP1からの単位時間あたりのインク供給量がヘッドユニット8の単位時間あたりの吐出量と回収ポンプP2における単位時間あたりの流量(インクを引く量)の合計値よりも多い場合は、リリーフ弁V3は自身に作用する圧力に応じて開放される。これにより、供給流路C2の一部とリリーフ流路C3とで構成される巡回流路が形成される。上記リリーフ流路C3の構成を設けることにより、ヘッドユニット8に対するインク供給量はヘッドユニット8でのインク消費量に応じて調整され、循環経路内の圧力を画像データによらず安定させることができる。
回収流路C4は、ヘッドユニット8からサブタンク151へインクを回収するための流路であり、その途中には回収ポンプP2と回収弁V4が配されている。また、回収流路C4には、バッファ室85とバッファ室遮断弁V6が配されている。バッファ室85およびバッファ室遮断弁V6については、後述する。回収ポンプP2は、循環経路内にインクを循環させる際、負圧発生源となってヘッドユニット8よりインクを吸引する。回収ポンプP2の駆動により、ヘッドユニット8内のIN流路80bとOUT流路80cの間に適切な圧力差が生じ、IN流路80bとOUT流路80cの間でインクを循環させることができる。ヘッドユニット8内の流路構成については後に詳しく説明する。
回収弁V4は、記録動作を行っていないとき、すなわち循環経路内にインクを循環させていないときの逆流を防止するための弁である。本実施形態の循環経路では、サブタンク151はヘッドユニット8よりも鉛直方向において上方に配置されている(図1参照)。このため、供給ポンプP1や回収ポンプP2を駆動していないとき、サブタンク151とヘッドユニット8の水頭差によって、サブタンク151からヘッドユニット8へインクが逆流してしまうおそれがある。このような逆流を防止するため、本実施形態では回収流路C4に回収弁V4を設けている。
同様に供給弁V2も、記録動作を行っていないとき、すなわち循環経路内にインクを循環させていないときに、サブタンク151からヘッドユニット8へのインクの供給を防止するための弁として機能する。
ヘッド交換流路C5は、供給流路C2とサブタンク151の空気層(インクが収容されていない部分)を接続する流路であり、その途中にはヘッド交換弁V5が配されている。ヘッド交換流路C5の一端は供給流路C2におけるヘッドユニット8の上流に接続し、他端はサブタンク151の上方に接続して内部の空気層と連通する。ヘッド交換流路C5は、ヘッドユニット8を交換する際や記録装置1を輸送する際など、使用中のヘッドユニット8からインクを回収するときに利用される。ヘッド交換弁V5は、記録装置1にインクを初期充填するときとヘッドユニット8からインクを回収するとき以外は閉じるように、インク供給制御部209によって制御される。また、上述した供給弁V2は、供給流路C2において、ヘッド交換流路C5との接続部と、リリーフ流路C3との接続部の間に設けられている。
次に、ヘッドユニット8内の流路構成について説明する。供給流路C2よりヘッドユニット8に供給されたインクは、フィルタ83を通過した後、第1の負圧制御ユニット81と、第2の負圧制御ユニット82とに供給される。第1の負圧制御ユニット81は、弱い負圧に制御圧力が設定されている。第2の負圧制御ユニット82は、強い負圧に制御圧力が設定されている。これら第1の負圧制御ユニット81と第2の負圧制御ユニット82における圧力は、回収ポンプP2の駆動により適正な範囲で生成される。
インク吐出部80には、複数の吐出口が配列された記録素子基板80aが複数配置され、長尺の吐出口列が形成されている。第1の負圧制御ユニット81より供給されるインクを導くための共通供給流路80b(IN流路)と、第2の負圧制御ユニット82より供給されるインクを導くための共通回収流路80c(OUT流路)も、記録素子基板80aの配列方向に延在している。さらに個々の記録素子基板80aには、共通供給流路80bと接続する個別供給流路と、共通回収流路80cと接続する個別回収流路が形成されている。このため、個々の記録素子基板80aにおいては、相対的に負圧の弱い共通供給流路80bより流入し、相対的に負圧の強い共通回収流路80cへ流出するような、インクの流れが生成される。個別供給流路と個別回収流路との経路中に、各吐出口に連通し、インクを充填する圧力室が設けられており、記録を行っていない吐出口や圧力室においてもインクの流れが生じる。記録素子基板80aで吐出動作が行われると、共通供給流路80bから共通回収流路80cへ移動するインクの一部は吐出口から吐出されることによって消費されるが、吐出されなかったインクは共通回収流路80cを経て回収流路C4へ移動する。
図17(a)は記録素子基板80aの一部を拡大した平面模式図であり、図17(b)は、図17(a)の断面線XVIIb-XVIIbにおける断面模式図である。記録素子基板80aには、インクが充填される圧力室1005とインクを吐出する吐出口1006が設けられている。圧力室1005において、吐出口1006と対向する位置には記録素子1004が設けられている。また、記録素子基板80aには、共通供給流路80bと接続する個別供給流路1008と、共通回収流路80cと接続する個別回収流路1009とが吐出口1006毎に複数形成されている。
上述した構成により、記録素子基板80aでは、相対的に負圧の弱い(圧力の高い)共通供給流路80bより流入し、相対的に負圧の強い(圧力の低い)共通回収流路80cへ流出するインクの流れが生成される。より詳しくは、共通供給流路80b→個別供給流路1008→圧力室1005→個別回収流路1009→共通回収流路80cの順にインクが流れる。記録素子1004によってインクが吐出されると、共通供給流路80bから共通回収流路80cへ移動するインクの一部は吐出口1006から吐出されることによってヘッドユニット8の外部へ排出される。一方、吐出口1006から吐出されなかったインクは、共通回収流路80cを経て回収流路C4へ回収される。
図18はヘッドユニット8に設けられた第1の負圧制御ユニット81を示す。図18(a)(b)は外観斜視図であり、特に図18(b)は、第1の負圧制御ユニット81の内部を示すために可撓性フィルム232を不図示にした様子を示す。図18(c)は、図18(a)におけるXVIIIc-XVIIIcの断面を示す。第1の負圧制御ユニット81と第2の負圧制御ユニット82は差圧弁であり、制御圧(バネの初期荷重)の差異以外は同一の構成のため、第2の負圧制御ユニット82の説明は省略する。
第1の負圧制御ユニット81は、図18(b)に示される受圧板231とその周囲の空間を密閉する可撓性フィルム232によって、第1圧力室233が内部に形成されている。可撓性フィルム232は、図18(b)で示す円形状の縁及び受圧板231に対して溶着されている。第1圧力室233内のインクの増減に応じて、可撓性フィルム232と可撓性フィルム232に溶着された受圧板231とが上下に変位する。
第1圧力室233のインク供給方向における上流側には、供給ポンプP1と接続される第2圧力室238と、受圧板231と連結されたシャフト234と、シャフト234と連結された弁235と、弁235に嵌合するオリフィス236と、が設けられている。本実施形態のオリフィス236は、第1圧力室233と第2圧力室238との境界に設けられている。弁235とシャフト234と受圧板231はさらに、付勢部材(バネ)237によって鉛直上方へ向けて付勢されている。
第1圧力室233内の圧力の絶対値が第1閾値以上であるとき(第1閾値より負圧が弱い場合)は、付勢部材237の付勢力によって弁235がオリフィス236と嵌合し、第1圧力室233と第2圧力室238との接続を遮断している。一方、第1圧力室233内の圧力の絶対値が第1閾値未満となったとき、つまり第1圧力室233に第1閾値より強い負圧がかかったとき、可撓性フィルム232が収縮して下方へ変位する。これにより、受圧板231と弁235が付勢部材237の付勢に抗って下方へ変位して、弁235とオリフィス236が離間して、第1圧力室233と第2圧力室238とが接続される。この接続によって、供給ポンプP1によって供給されたインクが第1圧力室233へ向けて流入する。
第1の負圧制御ユニット81は上述した差圧弁の構成になっており、これにより流入圧力と流出圧力を一定に制御する。第2の負圧制御ユニット82は、第1の負圧制御ユニット82より強い負圧を発生させるために、付勢部材237の付勢力が第1の負圧制御ユニットより大きいものを採用している。すなわち、第2の負圧制御ユニット82は、第1閾値よりも圧力の絶対値が小さい、第2閾値未満となったときに弁が開放される。従って、回収ポンプP2が駆動すると、まず第1の負圧制御ユニット81が開放され、次いで第2の負圧制御ユニット82が開放される。
以上の構成のもと、記録動作を行うとき、インク供給制御部209は、タンク供給弁V1とヘッド交換弁V5を閉じ、大気開放弁V0、供給弁V2、および回収弁V4を開き、供給ポンプP1および回収ポンプP2を駆動する。これにより、サブタンク151→供給流路C2→ヘッドユニット8→回収流路C4→サブタンク151の循環経路が確立する。供給ポンプP1からの単位時間あたりのインク供給量がヘッドユニット8の単位時間あたりの吐出量と回収ポンプP2における単位時間あたりの流量の合計値よりも多い場合は、供給流路C2からリリーフ流路C3にインクが流れ込む。これにより、供給流路C2からヘッドユニット8に流入するインクの流量が調整される。
記録動作を行っていないとき、インク供給制御部209は、供給ポンプP1および回収ポンプP2を停止し、大気開放弁V0、供給弁V2、および回収弁V4を閉じる。これにより、ヘッドユニット8内のインクの流れは止まり、サブタンク151とヘッドユニット8の水頭差による逆流も抑制される。また、大気開放弁V0を閉じることで、サブタンク151からのインク漏れやインクの蒸発が抑制される。
ヘッドユニット8からインクを回収するとき、インク供給制御部209は、タンク供給弁V1、供給弁V2、および回収弁V4を閉じ、大気開放弁V0およびヘッド交換弁V5を開き、減圧ポンプP0を駆動する。これにより、サブタンク151内が負圧状態になり、ヘッドユニット8内のインクは、ヘッド交換流路C5を経由してサブタンク151へ回収される。このように、ヘッド交換弁V5は、通常の記録動作や待機時には閉じられており、ヘッドユニット8からインクを回収する際に開放される弁である。但し、ヘッドユニット8への初期充填においてヘッド交換流路C5にインクを充填する際もヘッド交換弁V5は開放される。
<バッファ室>
次に、図9で説明したインク循環系において、回収流路C4に配置されているバッファ室85(図9では「B」と表記)を説明する。
インク循環系においては、循環経路内のエアーが完全に排出された状態でインクが循環することが理想的である。しかしながら、実際には、ヘッドユニット8や流路内にわずかな気泡(エアー)が滞留する。このような気泡が環境変化(例えば温度変化)などによって膨張したり、収縮したりすることがある。気泡が膨張したり収縮したりすることにより、吐出口にかかる圧が変わってしまい、インク漏れやエアーの引き込みが生じてしまう。例えば、気温が低下すると、気泡が収縮し、吐出口の負圧が高くなり、吐出口のメニスカス破壊を引き起こしてエアーをヘッドユニット内に吸い込んでしまう場合がある。気温が上昇すると、気泡が膨張し、吐出口からインクが漏れ出す場合がある。バッファ室85は、このような気泡の膨張や収縮を吸収する。
図10は、バッファ室85の一例を示す図である。図10(a)は、バッファ室85の斜視図を示しており、図10(b)は、Xb-Xb線の断面を含む斜視図を示している。バッファ室85は、フレーム851と、フィルム852と、受圧板853と、圧縮ばね854とを備えている。フレーム851は、第1の面が開口されており、第1の面を覆うようにフィルム852が張られている。フィルム852は、可撓性部材であり、受圧板853と接着されている。受圧板853は、圧縮ばね854と接続されている。このような構成により、圧縮ばね854の伸縮に応じて受圧板853の位置が可動する。受圧板853の位置に応じてフィルム852が膨らんだり、縮んだりする。以下では、このようにフィルム852が膨らむこと(あるいは縮むこと)を、バッファ室85が膨張する(あるいはバッファ室85が収縮する)と呼ぶ。このようなバッファ室85を設けることで、インクが循環していない状態において温度変化などによって気泡が膨張したり収縮したりする場合、バッファ室85が、流路中の気泡の体積変化に応じて追従して膨張したり収縮したりする。バッファ室85がこのように作用することで、気泡の膨張分や収縮分を吸収できる。したがって、上述したようなインクの漏れやエアーの吸引を防止することができる。
第1の負圧制御ユニット81および第2の負圧制御ユニット82は、圧力調整弁をそれぞれ備えている。インクが循環していない状態、すなわち、負圧が発生していない状態では、第1の負圧制御ユニット81および第2の負圧制御ユニット82の圧力調整弁が閉じた状態になっている。したがって、図9の例では、インクが循環していない場合において気泡の膨張や収縮がヘッドユニット8に影響し得る流路内、具体的には、回収流路C4にバッファ室85が配置されている。
なお、バッファ室85には、長手方向の一端にインクが流入する流入口が備えられており、他端にインクが流出する流出口が備えられている。バッファ室85の鉛直方向の上方の天井部分の高さは、流入口から流出口に向かうに連れて、大きくなるように構成されている。
<FPOTが長くなる原因>
上記のようなバッファ室85を設けたインク循環系を採用した場合にFPOTが長くなる原因を説明する。図9に示したように、バッファ室85は、回収流路C4において、回収ポンプP2より上流側(ヘッドユニット8側)に配置されている。インクの循環を開始すると、前述したように、回収ポンプP2が負圧発生源となり、ヘッドユニット8よりインクが吸引される。より詳細には、ヘッドユニット8内の負圧が安定すると、第1の負圧制御ユニット81および第2の負圧制御ユニット82の圧力調整弁が開き、ヘッドユニット8内の所定の差圧によってIN流路からOUT流路への流れが生じ、インクの循環が開始される。ここで、バッファ室85は、上述したようなバネ袋の構成となっており、回収ポンプP2によって負圧が生じると、収縮を開始する(フィルム部分が潰れてくる)。負圧発生時の初期段階では、圧力変化は、負圧発生源に近いバッファ室85に作用するので、ヘッドユニット8の負圧が安定するには、バッファ室85が収縮しきって(潰れきって)からさらに、所定圧に達する必要がある。この結果、記録指示が出力されてから実際に記録が行われるまでのFPOTが長くなってしまう。
図11は、図10のバッファ室85のXb-Xb線の断面を示す図である。図11(a)は、インクが循環している状態のバッファ室85の第1の状態を示している。インクが循環している場合、回収ポンプP2によって生じた負圧によってバッファ室85は収縮しきった状態になっている。
図11(b)から図11(d)は、インクの循環を停止した場合のバッファ室85の様子を示している。回収ポンプP2が停止されることによって生じていた負圧がなくなるので、図11(b)から図11(d)のいずれも、図11(a)の循環時の第1の状態よりもバッファ室85は膨らんだ状態になっている。図11(b)は、循環停止中の環境変化によって気泡が収縮した状態のバッファ室85の第2の状態を示している。気泡の収縮によってバッファ室85が収縮した場合であっても、循環時の第1の状態よりは、バッファ室85は膨らんだ状態になっている。図11(c)は、循環停止中において、環境変化などが生じていない(気泡の収縮や膨張がない)待機時の第3の状態を示している。第3の状態が、循環停止中の基準の状態であり、この状態で気泡が収縮すると、図11(b)の第2の状態にバッファ室85が変化することになる。図11(d)は、循環停止中の環境変化によって気泡が膨張した状態のバッファ室85の第4の状態を示している。第4の状態は、第3の状態よりもバッファ室85がさらに膨らんだ状態になっている。図11に示すように、インクを循環中のバッファ室85の第1の状態は、インクの循環を停止している第2~第4の状態のいずれの状態よりも、バッファ室85が収縮している状態である。つまり、インクの循環が停止している状態からインクの循環が開始する場合には、図11(b)~図11(d)に示す状態から、図11(a)の第1の状態になるまでのバッファ室85が収縮するまでの時間が、FPOTに影響を及ぼすことになる。以下では、FPOTを短縮する構成を説明する。
<バッファ室遮断弁>
図9に戻り、FPOTを短縮する構成を説明する。図9に示すように、本実施形態では、バッファ室85よりも上流側の回収流路C4に、バッファ室遮断弁V6を配置している。バッファ室遮断弁V6は、インク供給制御部209の制御によって開閉が駆動可能な駆動バルブである。本実施形態においてインク供給制御部209は、インクの循環を停止するとき、バッファ室遮断弁V6を閉じる。これにより、バッファ室85は、循環時の圧力(負圧)がかかった状態で維持される。したがって、バッファ室85は、収縮しきった第1の状態で維持される。このため、次回の記録動作を開始する際においても、バッファ室85が第1の状態で維持されているので、バッファ室85が収縮に要する時間を短縮できる。このため、FPOTを短縮することができる。バッファ室遮断弁V6がない場合、あるいは、バッファ室遮断弁V6が開いたままの状態の場合には、循環が停止すると、バッファ室85が第1の状態よりも膨張した状態になる。これは、回収ポンプP2が動作を停止するとインクの流れが停止し、圧損によって収縮していた部分が膨らんだり、インクがバッファ室85の上流側から流入したりするからである。
図12は、図9に示す循環系において、インク循環を行っている場合の循環流路内の弁の開閉状態およびポンプの駆動状態を示す図である。記録動作が行われている場合には、図12に示すようなインク循環が行われる。インクが循環中の場合、タンク供給弁V1およびヘッド交換弁V5が閉じた状態である。減圧ポンプP0は停止した状態である。一方、大気開放弁V0、供給弁V2、回収弁V4およびバッファ室遮断弁V6は開いた状態である。供給ポンプP1および回収ポンプP2は、動作した状態である。このようにしてインク循環が行われている場合、バッファ室85は、図11(a)で示す第1の状態である。すなわち、バッファ室85は、負圧によって収縮しきった状態になっている。
図13は、図9に示す循環系において、インク循環を停止した場合の循環流路内の弁の開閉状態およびポンプの駆動状態を示す図である。記録動作が終了した場合、図13に示すようなインク循環が停止した状態になる。図12と比べて、大気開放弁V0、供給弁V2、回収弁V4、およびバッファ室遮断弁V6が閉じた状態に変わっている。また、供給ポンプP1および回収ポンプP2は、停止した状態になっている。本実施形態では、インク循環を停止する際に、バッファ室遮断弁V6を閉じる制御が行われる。このため、インク循環が停止した場合のバッファ室85もまた、図11(a)で示す第1の状態に近い状態となっている。バッファ室遮断弁V6を閉じるタイミングによっては、第1の状態よりも若干膨張する場合もあるが、図11(c)で示す第3の状態よりも容積が小さい状態となっている。このように、バッファ室85は、循環時の負圧がかかった状態で維持され、収縮しきった状態(あるいは収縮に近い状態)になっている。このため、記録指示が出力されて図12に示すように再度のインク循環が行われる場合に、バッファ室85が収縮に要する時間を短縮できるので、FPOTを短縮することができる。
図14は、インク循環を行っている状態からインク循環を停止する場合のフローチャートの一例を示す図である。インク供給制御部209は、例えば記録動作が終了したことをプリントコントローラ202から通知された場合、図14に示すインク循環を停止する処理を実行する。
ステップS1401においてインク供給制御部209は、回収ポンプP2を停止する。ステップS1402においてインク供給制御部209は、供給ポンプP1を停止する。ステップS1403においてインク供給制御部209は、バッファ室遮断弁V6を閉じる。なお、ここでは順次処理を行う形態を示したが、ステップS1401からステップS1403は、一部の処理、あるいは、全部の処理が並行して行われてもよい。また、図14では示していないが、供給弁V2などを閉じる動作も併せて行われる。なお、図14の例では、記録動作が終了したことをプリントコントローラ202から通知された場合、図14に示すインク循環を停止する処理を行う形態を説明したが、これに限られない。インク循環が停止する契機となる指示がプリントコントローラ202から通知された場合に、図14に示す処理が行われてよい。
以上説明したように、本実施形態では、インクの循環が停止している場合に吐出口と通じている流路上にバッファ室85を配置し、そのバッファ室85の上流側にバッファ室遮断弁V6を配置している。そして、インク循環を停止する場合、インク供給制御部209は、バッファ室遮断弁V6を閉じる制御を行う。これにより、インク循環を停止した場合に、バッファ室85は、循環時の負圧がかかった状態で維持され、収縮しきった状態が維持されることになる。このため、記録指示が入力された場合に再度のインク循環が行われるとき、バッファ室85が収縮に要する時間を短縮できるので、FPOTを短縮することができる。
<<実施形態2>>
実施形態1では、インク循環が停止する場合、バッファ室遮断弁V6を閉じる制御を行う形態を説明した。このような制御は、記録動作が停止した後に、比較的短時間で記録動作が開始されるような場面においてFPOTを短縮できる点で有用である。しかしながら、バッファ室85の役割は、前述したように環境変化による気泡の収縮や膨張を吸収することで、吐出口からインクが漏れたり吐出口からエアーを吸ってしまったりすることを防止するものである。バッファ室遮断弁V6が閉じたままの状態では、このようなバッファ室85の本来の機能を発揮できない。
そこで、本実施形態では、インクの循環が停止してから所定時間が経過して待機モードに移行する際には、バッファ室遮断弁V6を開ける制御を行う。これにより、バッファ室85の本来の機能を発揮させる。所定時間とは、長時間使用しないことが推定される時間であり、任意に設定することができる。本実施形態では、例えば1~2時間とする。
図15は、図9に示す循環系において、インク循環が停止した後に所定時間が経過した場合の待機モードに移行する際の循環流路内の弁の開閉状態およびポンプの駆動状態を示す図である。図15では、図13に示すインク循環が停止した場合と比べて、バッファ室遮断弁V6が開いた状態に変わっている。バッファ室遮断弁V6を開けることにより、吐出口からインクが漏れたり吐出口からエアーを吸ってしまったりすることを防止することができる。
さらに、図15では、図13に示すインク循環が停止した場合と比べて、供給弁V2が開いた状態に変わっており、供給ポンプP1が動作している状態に変わっている。これは、次の理由による。すなわち、バッファ室遮断弁V6を開けることで、実施形態1で説明したように、インクがバッファ室85に流入し、収縮しきっていたバッファ室85が膨らむ。バッファ室85は膨らむものの、その後、気泡に収縮が生じた場合にその収縮分を吸収するだけの容積(バッファ)が確保できない場合があるからである。そこで、本実施形態では、供給弁V2を開けて、供給ポンプP1を一時的に駆動し、バッファ室85にインクを流入する。その後、供給弁V2を閉めて供給ポンプP1を停止する。図11(c)は、待機モードにおける第3の状態のバッファ室85の様子を示している。インクが流入され、図11(a)の循環時よりもバッファ室85が膨らんでいる。
図16は、インク循環を停止した状態から待機モードに移行する場合のフローチャートの一例を示す図である。図16の処理は、図14で示すフローチャートのステップS1403の後に続いて行われる。ステップS1601においてインク供給制御部209は、不図示のタイマーの値を参照して、所定期間が経過した場合には、ステップS1602に進む。ステップS1602においてインク供給制御部209は、バッファ室遮断弁V6を開く。ステップS1603においてインク供給制御部209は、供給弁V2を開き、供給ポンプP1を動作させる。ステップS1604においてインク供給制御部209は、一定時間(例えば1分間)待機する。この待機時間は、バッファ室85にインクが流入して、バッファ室85が膨らむまでに要する時間とすることができる。ステップS1605においてインク供給制御部209は、供給ポンプP1の動作を停止する。また、供給弁V2を閉じる。
以上説明したように、本実施形態によれば、長時間使用がされていないことが推定される場合には、バッファ室遮断弁V6を開け、バッファ室85の本来の機能を発揮させる。これにより、吐出口からインクが漏れたり吐出口からエアーを吸ってしまったりすることを防止できる。
なお、本実施形態では、所定時間は、任意に設定される固定値の例を説明したが、これに限られるものではない。インクジェット記録装置1が、環境変化(例えば温度変化)を測定するセンサを備えており、測定結果に応じて気泡の収縮や膨張が生じ得ると想定される場合には、所定時間を変えてもよい。すなわち、ステップS1601の所定時間を、予め設定されている第1の時間と異なる第2の時間に変えてもよい。
<<実施形態3>>
実施形態1および2では、バッファ室85が一つ設けられている形態を例に挙げて説明したが、これに限られない。例えばサイズの制約等により、気泡の収縮および膨張の両方を吸収できる分のサイズを有するバッファ室85が配置できない場合がある。このような場合には、気泡の収縮分を吸収する第1のバッファ室と、気泡の膨張分を吸収する第2のバッファ室とを配置することができる。このように、機能ごとにバッファ室を備えることで、バッファ室のサイズを小さくすることができる。第1のバッファ室と第2のバッファ室は、基本的な構成は、前述したバッファ室85と同じであり、圧縮ばねのバネ圧が、異なっている。
<<その他の実施形態>>
上記の実施形態では、バッファ室85は、回収流路C4に設けられている形態を例に挙げて説明したが、これに限られない。インクの循環が停止している場合に生じる気泡の膨張や収縮を吸収できる流路内の位置であれば、いずれの位置でもよい。例えば回収流路C4ではなく、ヘッドユニット8の内部の圧力制御ユニットよりも下流側に設けられてもよい。すなわち、ヘッドユニット8の第1の負圧制御ユニット81および第2の負圧制御ユニット82よりも下流側の任意の位置にバッファ室85を設けてもよい。そして、バッファ室85よりも上流側(吐出口側)にバッファ室遮断弁V6を設ければ、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。