JP7061312B2 - 多系統萎縮症モデル動物 - Google Patents

多系統萎縮症モデル動物 Download PDF

Info

Publication number
JP7061312B2
JP7061312B2 JP2018098854A JP2018098854A JP7061312B2 JP 7061312 B2 JP7061312 B2 JP 7061312B2 JP 2018098854 A JP2018098854 A JP 2018098854A JP 2018098854 A JP2018098854 A JP 2018098854A JP 7061312 B2 JP7061312 B2 JP 7061312B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
synuclein
gene
mice
msa
mouse
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2018098854A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2018201495A (ja
Inventor
邦和 丹治
孝一 若林
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Hirosaki University NUC
Original Assignee
Hirosaki University NUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Hirosaki University NUC filed Critical Hirosaki University NUC
Publication of JP2018201495A publication Critical patent/JP2018201495A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7061312B2 publication Critical patent/JP7061312B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Investigating Or Analysing Biological Materials (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Description

本発明は、多系統萎縮症モデル動物に関する。より詳細には、本発明は、高い確率で突然死に至り、多系統萎縮症の病態解明または多系統萎縮症の治療効果の検証に有用な多系統萎縮症モデル動物に関する。
多系統萎縮症(Multiple system atrophy:MSA)は、脊椎、小脳および脳幹などが変性し、自律神経系と運動系の異常(パーキンソニズム、小脳失調、突然死)を呈する神経難病であり、脊髄小脳変性症のうちで最も頻度が高いが、これまでに有効な治療法はない。
国内の患者数は約12,000人であり、男性に多い傾向が認められ、50歳代から発症することが多い。病態は徐々にパーキンソン病様の震戦や歩行障害が進行し、10年程度で突然死もしくは感染症で亡くなることが多い。
MSAの危険因子として「加齢」が知られていたが、大規模な遺伝学的研究(サンプル数 約8,000人)からCOQ2の変異が近年同定された。COQ2は生体内のエネルギー産生に重要なコエンザイムQ10を合成するために必須の酵素であり、実際に、MSA患者血清中ではコエンザイムQ10の低下が認められた。つまりMSA患者ではコエンザイムQ10の低下により抗酸化作用やATP産生作用が低下している可能性が示唆される。
ヒトMSA患者脳では、オリゴデンドロサイト特異的にα-シヌクレインタンパク質が異常に蓄積することが知られている。オリゴデンドロサイトの機能不全は、神経細胞の生理機能を障害し、諸症状を発症する原因となっていると考えられている。
シヌクレイン遺伝子を導入したトランスジェニック動物としては、例えば、特許文献1には、中枢神経系細胞において機能するプロモーターおよび変異型βシヌクレイン遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物であって、変異型βシヌクレイン遺伝子が脳神経細胞および/又は中枢神経系グリア細胞において発現するトランスジェニック非ヒト動物が記載されている。また、特許文献2には、αシヌクレイン遺伝子の二重変異型遺伝子を構築し、同変異型遺伝子をマウスに導入することによって、レビー小体の出現、行動異常および脳内ドーパミンの低下を再現するパーキンソン病モデルトランスジェニックマウスを作製したことが記載されている。
非特許文献1には、オリゴデンドロサイト特異的に発現するミエリン塩基性タンパク質(MBP)のプロモーターの下でシヌクレイン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスが記載されている。また、非特許文献2には、2’,3’-サイクリックヌクレオチド3’-ホスホジエステラーゼのプロモーターの下でシヌクレイン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスが記載されている。さらに非特許文献3には、プロテオリピッドタンパク質のプロモーターの下でシヌクレイン遺伝子を発現するトランスジェニックマウスが記載されている。
特開2008-141970号公報 特開2003-199460号公報
Shults, C.W. et al., J Neurosci 25, 10689-10699 (2005) Yazawa, I et al., Neuron 45, 847-859 (2005) Kahlle, P.J. et al., EMBO rep 3, 583-588 (2002)
従来報告されているようなαシヌクレイン遺伝子を導入したモデル動物は、目的遺伝子であるシヌクレイン遺伝子の発現開始時期を調節することができないことから、胎児期または幼若な時期からシヌクレイン遺伝子を発現および蓄積しており、ヒトの病態とは大きくかけ離れていた。従って、MSA患者(ヒト)の病態により近いモデル動物の開発が望まれている。本発明は、MSA患者の病態により近いMSAモデル動物を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、任意の細胞にαシヌクレイン遺伝子を発現でき、かつ薬剤等の刺激の投与により任意の時期にαシヌクレイン遺伝子を発現できるモデル動物を作出することにより、動物の成熟後からαシヌクレイン遺伝子の発現を開始させ、これによりMSA患者の病態により近いMSAモデル動物を提供できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) αシヌクレイン遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト動物であって、導入したαシヌクレイン遺伝子を、前記動物の中年期以降の時期にオリゴデンドロサイトにおいて発現させた、非ヒト動物。
(2) オリゴデンドロサイトにおいて異常リン酸化αシヌクレインの凝集が認められる、(1)に記載の非ヒト動物。
(3) 不随意運動が認められる、(1)または(2)に記載の非ヒト動物。
(4) 導入したαシヌクレイン遺伝子を、前記動物の中年期以降の時期にオリゴデンドロサイトにおいて発現させた後10日間の死亡率が20%以上である、(1)から(3)の何れか一に記載の非ヒト動物。
(5) 薬物の投与によりαシヌクレインの発現が誘導される、(1)から(4)の何れか一に記載の非ヒト動物。
(6) 薬物が、タモキシフェンである、(5)に記載の非ヒト動物。
(7) loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子と、オリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよび刺激応答性配列に連結したCre遺伝子とを有する、(1)から(6)の何れか一に記載の非ヒト動物。
(8) loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子を有する非ヒト動物と、オリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよび刺激応答性配列に連結したCre遺伝子を有する非ヒト動物とを交配することにより得られる、(7)に記載の非ヒト動物。
本発明によれば、MSA患者の病態により近いMSAモデル動物が提供される。具体的には、本発明のMSAモデル動物は、ヒトの病理学的特徴を再現しており、成熟後から異常タンパク質を発現・蓄積する点においてもヒトの病態に近い。本発明のMSAモデル動物は、ヒトの症状と類似した突然死を示すため、行動学的にもヒトの病態に近い。
図1は、遺伝子ターゲッティングベクターの設計図である。 図2は、作製した遺伝子ターゲッティングベクターの確認の図である。 図3はαSyn flox/flox導入ES細胞のスクリーニング結果である。 図4は、図3で導入が確認されたクローンのゲノムDNAのさらなる確認である。 図5は、キメラマウスの誕生結果である。 図6は、誕生したヘテロマウスのPCR解析の結果である。 図7は、MSAモデルマウスの作製手順の概要図とαシヌクレイン発現の確認である。 図8は、MSA患者およびモデル動物の病理学的・臨床学的所見の比較図である。 図9は、αシヌクレインの異常リン酸化を示す図である。 図10は、タモキシフェン投与後のMSAモデルマウス(オス)における生存割合を示すグラフである。 図11は、MSAモデルマウスと対照例マウスを用いたオープンフィールドテストの結果を示す。 図12は、MSAモデルマウスと対照例マウスを用いたロタロッドテストの結果を示す。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
MSAモデル動物は、MSAの治療法や治療薬開発において有用である。MSA患者ではαシヌクレインタンパク質がオリゴデンドロサイト特異的に凝集していることから、αシヌクレインを過剰発現するように設計されたMSAモデルマウスが報告されている(非特許文献1から3)。しかし、従来のMSAモデルマウスでは、αシヌクレインの過剰発現が胎生もしくは幼若期から始まっており、これはヒトのMSA病態と大きく異なる。本発明においては、ヒトのMSA病態により近いモデル動物を作製することを意図して、任意の時期に薬物などの刺激を投与することでαシヌクレインの発現を誘導することができるように設計した。
本発明の実施例においては、実際に加齢を考慮してマウスの中年期以降にαシヌクレインの発現を誘導した結果、αシヌクレインの異常凝集に加え、ヒトMSAでも認められる異常リン酸化αシヌクレインを確認することができた。また、本発明の実施例のマウスではパーキンソン病様の震えが認められた。さらに予期しないことに、本発明の実施例のマウスではオスの約30パーセントにおいて突然死が認められた。本発明の実施例のモデルマウスは、2系統のマウスを交配することで得たマウスである。一方のマウスは通常αシヌクレインを発現しないように上流域で「loxp」と「ストップコドン」を挿入したマウスである。他方のマウスは、オリゴデンドロサイト特異的なタンパク質PLPのプロモーターを利用した「Creタンパク質」を発現するマウスである(Jackson Laborator より購入)。上記した2系統のマウスの交配によって得られたダブル遺伝子変異マウス(MSAモデルマウス)は、タモキシフェン投与によりαシヌクレイン上流域のストップコドンが外れ、オリゴデンドロサイト特異的にαシヌクレインが発現することができる。
上記の通り、本発明の非ヒト動物は、αシヌクレイン遺伝子を導入したトランスジェニック非ヒト動物であって、導入したαシヌクレイン遺伝子を、前記動物の中年期以降の時期にオリゴデンドロサイトにおいて発現させた、非ヒト動物である。
本発明の非ヒト動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ウシ及びウマ等のヒトを除く哺乳類動物が挙げられ、中でも、マウス、ラット及びモルモット等の齧歯類(ネズミ目)動物が好ましく、より好ましくはマウスである。
本発明の非ヒト動物の好ましい態様によれば、刺激(例えば、薬物の投与)によりαシヌクレインの発現が誘導されている。刺激としては、薬物または光などが挙げられる。
薬物の一例としては、タモキシフェン又はそのアナログを使用することができ、その場合には、後記する実施例に記載の通り、Cre-LoxPシステムに変異エストレゲン受容体(ERT)を組み合わせた構成を採用することができる。即ち、Cre-ERTタンパク質は通常、細胞質に存在するが、エストロゲン誘導体であるタモキシフェン又はそのアナログと結合することにより核内に移行し、LoxP配列に対して組み換えを起こす。このシステムを利用することにより、Cre-LoxPシステムが働く時期を、タモキシフェン又はそのアナログに依存的に調節することができる。
その他、薬剤と薬剤特異的プロモーターの組み合わせを利用して、αシヌクレインの発現を誘導してもよい。例えば以下のシステムを利用することができる。
(1)テトラサイクリン(またはその誘導体ドキシサイクリン)調節発現系を利用したT-Rex システムを使用することができる。これは、抗生物質であるテトラサイクリンを利用した発現調節系である。Invitrogen社 の T -REXプラスミドに含まれる。
参考文献:
Gossen, M. and H.Bujard (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:5547-5551
Gossen, M. ら (1995) Science 268:1766-1769
Rossi, F.M.V. and H.M. Blau (1998) Curr. Opin. Biotechnol.9:451-456
(2)RU486/ミフェプリストン(mifepriston)調節発現系においては、グルココルチコイドレセプターアゴニストであるミフェプリストンによりGeneswitchシステムが活性化し、下流の遺伝子が発現する。Invitrogen社 の Geneswitchプラスミドに含まれる。
参考文献:
Wang, Y., B.W. O'Malley, J., Tsai, S. Y., and O'Malley, B. W. (1994). A Regulatory System for Use in Gene Transfer. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 8180-8184.
Rossi, F.M.V. and H.M. Blau (1998) Curr. Opin. Biotechnol.9:451-456
(3)エクジソン発現調節系は、昆虫のホルモンであるエクジソンを利用した発現調節系である。合成エクジソン誘導レセプターと下流の遺伝子の発現を調整する合成レセプター認識エレメントで構成されている。Invitrogen社 のプラスミド PVGRXRおよび PINDに含まれる。
参考文献:
D No, T P Yao, and R M Evans (1996) Ecdysone-inducible gene expression in mammalian cells and transgenic mice.Proc Natl Acad Sci U S A. 93(8): 3346-3351.
薬剤以外の誘導システムとしては、光刺激による誘導(オプトジェネティクス)が挙げられる。ここでは、光受容体チャネルロドプシンを利用することができる。さらに改良型のシアノバクテリウムの光受容体を利用したPixDシステムが開発されている。
Cre-LoxPシステムを利用する場合、好ましくは、本発明の非ヒト動物は、loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子と、オリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよび刺激応答性配列に連結したCre遺伝子とを有する。
上記したCre-LoxPシステムを利用した本発明の非ヒト動物は、好ましくは、loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子を有する非ヒト動物と、オリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよび刺激応答性配列に連結したCre遺伝子を有する非ヒト動物とを交配することにより得ることができる。
loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子を有する非ヒト動物、及びオリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよび刺激応答性配列に連結したCre遺伝子を有する非ヒト動物は、それぞれ当業者に公知のトランスジェニック動物の作出方法により作出することができ、またオリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよび刺激応答性配列に連結したCre遺伝子を有する非ヒト動物としては、Jacksonラボラトリーなどから市販されているものを使用してもよい。
loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物の作出方法の具体例を以下に記載する。ここでは、非ヒト動物としてマウスを用いた場合を例に挙げて説明するが、他の非ヒト動物を用いる場合についても同様の方法を適用することができる。
トランスジェニックマウスは、公知の作出方法、すなわち、胚性幹細胞(ES細胞)にDNAを導入した後にキメラを作製する方法、受精卵前核へのDNAマイクロインジェクションによる方法、又はレトロウイルスベクターを初期発生胚に感染させて導入する方法等を用いることができる。以下に、胚性幹細胞(ES細胞)にDNAを導入した後にキメラを作製する方法について説明する。
(i) αシヌクレイン遺伝子の調製
ヒトのcDNA遺伝子ライブラリーからPCR等の方法によりαシヌクレイン遺伝子断片を得ることができ、これを用いてαシヌクレイン遺伝子をスクリーニングし、全長のαシヌクレイン遺伝子を取得することができる。予めαシヌクレイン遺伝子が挿入された市販のプラスミドベクターを使用してもよい。なお、αシヌクレイン遺伝子の塩基配列情報は、NCBIのウェブサイトにおいてアクセッション番号NP_000336として登録されている。
本発明でいうαシヌクレイン遺伝子としては、野生型のαシヌクレイン遺伝子に対して変異を有しているものを使用してもよい。 変異型のαシヌクレイン遺伝子は、部位特異的変位誘発法(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997) を参照)に準じて調製することができる。
さらに、αシヌクレイン遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、αシヌクレイン凝集促進活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を使用してもよい。「ストリンジェントな条件」としては、例えば、ハイブリダイゼーションにおいて洗浄時の塩濃度が100~900mM、好ましくは100~300mMであり、温度が50~70℃、好ましくは55~65℃の条件が挙げられる。ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、その相補配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは80%、特に好ましくは90%(例えば、95%以上、さらには99%)の配列同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。
(ii) ES細胞に導入するターゲッティングベクターの構築 以下のフラグメント1から10を順に連結したターゲティングベクターを構築する。
フラグメント1: ES細胞のゲノム上の標的領域に相同性を有する配列(マウス第6染色体ROSA26領域に相同性を有する配列など)
フラグメント2:プロモーター(例えば、CAGプロモーターなど)
フラグメント3:2つのloxp配列に挟まれたれ転写を終結させる配列
フラグメント4:発現目的とするヒトαシヌクレインcDNA
フラグメント5:タンパク質の分解を防ぐWPRE(Woodchuck hepatitis Virus posttranscriptional Regulatory Element)配列
フラグメント6:真核生物で遺伝子発現を増強するBGH-pA配列
フラグメント7:0.9kb pgk-neo遺伝子カセット(ポジティブ選択用)
フラグメント8:真核生物で遺伝子発現を増強するBGH-pA配列
フラグメント9:ES細胞のゲノム上の標的領域に相同性を有する配列(マウス第6染色体ROSA26領域に相同性を有する配列など)
フラグメント10:pMC1DT-A pA由来の1.2kbジフテリアトキシンA-フラグメント(ネガティブ選択用)
マウスES細胞に、ターゲッティングベクターをエレクトロポレーションにより導入する。
ES細胞については、ES細胞を適当な培地、例えば胎児ウシ血清を補充したDulbecco’s Modified Eagle’s medium (DMEM)中でフィーダー層に植え付けることができる。ターゲッティングベクターを含む細胞は選択培地を用いて検出することができ、コロニーが成長するまで十分な時間後にコロニーを拾い、相同組換えの発生を分析することができる。ターゲッティングベクターが相同組み換えにより導入されたES細胞をマウス胚盤胞にマイクロインジェクションする。少なくとも1個、通常は約10~15個のES細胞を胚盤胞の胞胚腔にインジェクトすることができる。胚盤胞は4から6週齢の過排卵した雌から排卵3.5日後に子宮を洗い流すことによって得ることができる。マイクロインジェクション後の胚を、仮親となる偽妊娠雌マウスの子宮に移植する。移植後の雌マウスを通常の飼育条件下で飼育し、仔マウスを出産させる。仔マウスの一部(尾の先端や耳介片など)からゲノムDNAを抽出し、PCR法又はサザンブロット法等により、αシヌクレイン遺伝子の導入の成否を確認することができる。
以上のようにして作出されたトランスジェニックマウスは、野生型のマウスと交配させることにより、ヘテロ遺伝子型マウス(+/-)を得ることができる。さらに、このヘテロ遺伝子型のマウス同士を交配させることにより、ホモ遺伝子型マウス(+/+)を得ることができる。
オリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよび刺激応答性配列に連結したCre遺伝子を有する非ヒト動物としては、Jacksonラボラトリーなどから市販されているものを使用してもよいし、本明細書で上記したトランスジェニック動物の作出方法に準じて作出したものを使用してもよい。Cre遺伝子としては、、loxP配列を認識してそれに挟まれる配列を除去しうるタンパク質をコードする遺伝子であれば特に制限されない。
オリゴデンドロサイト特異的プロモーターとしては、特に限定はされないが、プロテオリピドタンパク質(PLP)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)などのプロモーターを挙げることができる。
刺激応答性配列としては、タモキシフェンと結合する変異エストレゲン受容体(ERT)をコードする塩基配列などを挙げることができる。
本発明の非ヒト動物においては、αシヌクレイン遺伝子を、中年期以降の時期にオリゴデンドロサイト特異的に発現されているが、好ましくは、オリゴデンドロサイトにおいて異常リン酸化αシヌクレインの凝集が認められる。オリゴデンドロサイトにおけるαシヌクレインの発現は、マウス脳の所定の部位からRNAを抽出してRT-PCR法及びノーザンブロット法等により確認してもよいし、あるいはマウス脳におけるαシヌクレインの発現をウエスタンブロット法により確認してもよい。あるいは、マウスの脳を摘出し、切片を作製した後、免疫組織化学分析によってオリゴデンドロサイトにおけるαシヌクレインの発現を確認してもよい。
オリゴデンドロサイトにおける異常リン酸化αシヌクレインの凝集については、後記する実施例二記載の通り、脳切片に対して、リン酸化特異的な抗αシヌクレイン抗体である抗リン酸化αシヌクレイン特異ウサギモノクローナル抗体および抗リン酸化αシヌクレイン特異マウスモノクローナル抗体を一次抗体として用いる免疫組織化学分析によって確認することができる。
本発明の非ヒト動物においては、好ましくは、不随意運動が認められる。
本発明の非ヒト動物は、好ましくは、導入したαシヌクレイン遺伝子を、当該動物の中年期以降の時期にオリゴデンドロサイト特異的に発現させた後10日間の死亡率が20%以上である。
不随意運動については、カメラにてビデオを撮影することにより評価することができる。
また生存観察は目視により行なうことができる。
本発明の非ヒト動物は、MSAのモデルマウスとして使用することができる。
本発明の非ヒト動物に薬物等を投与することにより、MSAの治療のための薬物のスクリーニングや遺伝子治療の条件検討を行うことが可能である。例えば、本発明の非ヒト動物に候補物質を投与し、化合物の薬効を評価することにより、MSAの治療薬をスクリーニングすることができる。更には、脳室、くも膜下腔からのウイルスベクターなどを用いた遺伝子導入によって、症状の回復を図ることもできると考えられるため、遺伝子治療のモデルとして用いることも可能である。
本発明において、MSAの治療薬をスクリーニングする方法は、以下の(a)及び(b)の工程を含む。
(a) 本発明の非ヒト動物に、候補物質を投与する工程;及び
(b) 上記の候補物質を投与した非ヒト動物について、MSAの病態を評価する工程。
スクリーニングに供される候補物質としては、限定はされないが、天然又は人為的に合成された各種ペプチド、タンパク質(酵素や抗体を含む)、核酸(ポリヌクレオチド(DNA, RNA)、オリゴヌクレオチド(siRNA等)、ペプチド核酸(PNA)など)、低分子又は高分子有機化合物等を挙げることができる。
候補物質の投与は、経口的又は非経口的に行うことができ、特に限定されず、いずれの場合も公知の投与方法及び投与条件等を採用することができる。投与量についても、被験動物の種類及び状態、並びに候補物質の種類等を考慮して、適宜設定可能である。
MSAの治療薬をスクリーニングする場合は、候補物質が投与された被験動物、及び候補物質が投与されていない対照動物について、各種評価項目(例えば、オリゴデンドロサイトにおける異常リン酸化αシヌクレインの凝集、不随意運動、死亡率)を比較評価することが好ましい。
また、上記したスクリーニング方法により得られる治療薬が優れた効能を示すものであっても、副作用を持つ場合は実用性が低くなるため、薬物の副作用を評価することも重要である。同様に、既存の治療薬に関しても、副作用の評価は重要である。本発明の非ヒト動物を用いて、MSA治療薬の副作用を検定することも可能である。
本発明によるMSA治療薬の副作用の検定方法は、以下の(a)及び(b)の工程を含むものである。
(a)本発明の非ヒト動物に、MSAの治療薬を投与する工程;及び
(b)本発明の非ヒト動物と対照動物とを比較評価する工程、又は本発明の非ヒト動物における副作用の有無を検出する工程。
副作用の有無に関しては、本発明の非ヒト動物及び対照動物について、あるいは薬物の投与前後の本発明の非ヒト動物について、例えば、体重変化、造血機能、及び生殖機能からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。対照非ヒト動物と、MSAの治療薬を投与した本発明の非ヒト動物とについて、これら評価項目を比較することにより、MSA治療薬による副作用の有無、及び副作用の種類や症状の程度等について検定することができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
実施例1:MSAモデルマウスの作製
(1)ターゲッティングベクターの構築
ヒトαシヌクレインのcDNAは、Human Brain, whole QUICK-CloneTM cDNAライブライリー(Clontech)から得た。
ターゲティングベクターはCreレポーターコンストラクトAi3 (Madisen et al., Nature neurosci 13, 133-140, 2010)を基に、以下のDNAフラグメントを用いて作製した:
フラグメント1:マウス第6染色体ROSA26領域に相同性を有する1.1kb(5’アームとして)
フラグメント2:CAGプロモーター1.6kb
フラグメント3: loxp配列の下流に転写を終結させる250bp SV40初期mRNAポリアデニル化シグナルの3つのタンデムリピート(Maxwell et al.,Biotechniques 7, 276-280 1989)。さらにloxp配列。(loxp-タンデムリピート-loxp)
フラグメント4:発現目的とするヒトαシヌクレインcDNA 0.4kb
フラグメント5:タンパク質の分解を防ぐWPRE(Woodchuck hepatitis Virus posttranscriptional Regulatory Element)配列0.9kb
フラグメント6:真核生物で遺伝子発現を増強するBGH-pA配列
フラグメント7:0.9kb pgk-neo遺伝子カセット(ポジティブ選択用)
フラグメント8:真核生物で遺伝子発現を増強するBGH-pA配列
フラグメント9:マウス第6染色体ROSA26領域に相同性を有する4.8kb(3’アームとして)
フラグメント10:pMC1DT-A pA由来の1.2kbジフテリアトキシンA-フラグメント(ネガティブ選択用)(Yagi et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 87, 9918-9922, 1990;Gomi et al., Neuron 17, 29-41 1995)。
上記フラグメント1から10を順に連結したターゲティングベクターをマウス第6染色体ROSA26の相同領域XbaI サイトに挿入した(図1)。
上記の通り、本実施例においては、目的タンパク質の発現を高めるために下記の2つの工夫をした。
(1)中程度の発現能が知られているROSA26領域に遺伝子をノックインし、さらに強力な発現誘導を可能にするCAGプロモーターを用いた。
(2)タンパク質の分解を抑制する分解抑制ペプチド(WPRE)を付加した。
図1はヒト型αシヌクレイン産生knock-inマウス(以下αSyn flox/flox)の作製に使用した遺伝子ターゲッティングベクターの設計図である。CAGプロモーターを最上流に配置した(黒塗り)。ストップコドンとなる3×(SV40-pA)配列をloxPで挟み、Cre発現によりこれらが切断されるように設計した。発現させるαシヌクレインのエクソンを導入した(SNCAと記載、両端はFseI認識配列)。タンパク質の分解を抑制するWPRE(Woodchuck hepatitis Virus posttranscriptional Regulatory Element)配列とネオマイシンカセット「Flox Allele」にはそれぞれ遺伝子発現を増強するBGH-pA配列を結合した。pgk-neo遺伝子カセット(ポジティブ選択用)とジフテリアトキシンA-フラグメント(PGK-DTAと記載、ネガティブ選択用)を配置した。線状化はXhoIで行った。
(2)ヒト型αシヌクレインknock-inマウス(αSyn flox/flox)の作製
マウス胚盤胞株129由来のE14細胞をES細胞系として用いた(Hooper et al.,Nature 326, 292-295 1987)。細胞培養とターゲティング実験は、既報に従って行った(Itohara et al.,Cell 72, 337-348 1993)。作成したターゲティングベクターは複数の制限酵素処理により確認した(図2)。図2に示す通り各種の制限酵素処理後に予想される大きさのバンドが認められた。
その後XbaI処理によって作製した線状化ターゲティングベクター30 μgを用い、Gene Pulser(0.4cm電極距離で800Vと3mF、Bio-Rad)によって88個のES細胞にエレクトロポレーションを行った。
150 μg/mlのG418で選択したクローン由来ゲノムDNAをAvrII消化後、5'外部プローブによるサザンハイブリダイゼーション法によってスクリーニングを行った(図3)。図3に示す結果の通り、6個のES細胞で予想される大きさに陽性のシグナルが確認された。
次に、5'外部プローブにより変異の導入が確認されたクローンのゲノムDNAを MfeI-KpnI消化後、3'外部プローブによるサザンハイブリダイゼーション法を行い陽性となるES細胞を同定した(図4)。図4に示す通り、MfeI-KpnI消化後、予想される大きさに陽性のシグナルが確認された。
キメラマウスの作製は、Bradley らによる既報(Nature 309, 255-256, 1984)に記載された方法に準じて行った。交配後3.5日のC57BL/6J胚盤胞に、ES細胞をマイクロインジェクションした。注入後、胚を、偽妊娠ICRマウスの子宮に移した。得られたキメラマウスを目視により毛色を確認した(図5)。図5では、目視により茶色と黒色の混じったマウスをカウントした。図5において毛色キメラ率が高かったES細胞a5724由来のキメラマウスをC57BL/6Jマウスと更に交雑させ、ヘテロ接合マウスを作製した(図6)。用いたプライマーおよび条件は図中の通りである。予想される大きさのバンドが10匹のマウス(αSyn KIマウス)で認められた。
(C)MSAモデルマウスの作製
マウスの遺伝子型は、尾から調製したゲノムDNAのPCR解析によって決定した。オリゴデンドロサイト特異的にαシヌクレインを発現するために、Plp1-Cre/ERTマウス(Jacksonラボラトリーより購入)と、上記により選別されたマウス(αSyn flox/flox)とを交配した(図7)。PCR法によりCre陽性およびαSyn flox/flox陽性のダブル陽性のマウス(Plp1-Cre/ERT; αSyn flox/flox)をスクリーニングした。用いたプライマーと予想されるPCR産物の大きさは以下である。
プライマーa:5’-GCG GTC TGG CAG TAA AAA CTA TC(配列番号1)
プライマーb:5’-GTG AAA CAG CAT TGC TGT CAC TT(配列番号2)
プライマーc:5’-CTA GGC CAC AGA ATT GAA AGA TCT (配列番号3)
プライマーd:5’-GTA GGT GGA AAT TCT AGC ATC ATC C(配列番号4)
プライマーe:5’-CTGCAACTCCAGTCTTTC(配列番号5)
プライマーf:5’-CTGCTTACATAGTCTAACTCGC(配列番号6)
プライマーg:5’-GTTACTATGGGAACATACGTC(配列番号7)
プライマーa、b、c、dによりPlp1-Cre/ERTの選別を行った(予想されるPCRの産物)。
wt ; wt(control) : 300 bp
Plp1-Cre/ERT ; wt : 150 および300 bp
wt; αSyn flox/flox : 150 および300 bp
Plp1-Cre/ERT; αSyn flox/flox : 150 bp
プライマーe、f、gによりαSyn flox/floxの選別を行った。
wt ; wt(control) : 350 bp
Plp1-Cre/ERT ; wt : 300 および350 bp
wt; αSyn flox/flox : 300 および350 bp
Plp1-Cre/ERT; αSyn flox/flox : 300 bp
これらのマウスにタモキシフェンを5日間連続投与(400 mg/kg/day腹腔内投与)することでLoxPにより挟まれたstopコドンが除去され、オリゴデンドロサイト特異的にαシヌクレインを発現するMSAモデルマウスとした。全てのマウスは、弘前大学実験動物施設によって維持され、全ての動物実験は、弘前大学の動物実験ガイドラインに従って行った。得られたαSyn flox/floxマウス、Plp1-Cre/ERT; αSyn flox/floxマウス、MSAマウスおよび正常マウス(C57BL/6J)を、温度約25℃、12時間/12時間の明暗サイクル、自由飲水、自由摂食の条件下で系統維持した。
図7の右上段図はMSAモデルマウスと正常のC57BL/6Jマウスの写真である。見た目はC57BL/6Jマウスと区別がつかないが、一部のMSAモデルマウスでは不随意運動が認められた(4匹/25匹、16%)。αシヌクレイン抗体を用いた免疫染色法により、MSAモデルマウスの脳内ではヒトαシヌクレインの発現が確認できた(右下図の黒色部分)。特に脳内のオリゴデンドロサイトでαシヌクレインが発現していることを確認した(白矢印)。
実施例2:定量的解析(ウェスタンブロット法):MSAモデルマウスにおけるαシヌクレイン産生
αSyn flox/floxマウス、Plp1-Cre/ERT; αSyn flox/floxマウス、MSAモデルマウスおよび正常マウス(各3-10匹)を、ペントバルビタール麻酔下でマウス右心房からPBS還流を行い脱血後、マウスから脳を摘出した。摘出した脳を、Blue Loading Buffer Pack(Cell Signaling)を用いてローディング用サンプルを調製し、5 分間ボイルした後、SDS-PAGE(12% gel)によりタンパクを展開した。タンパクを PVDF 膜(0.45 μm 孔)に転写し、ブロッキング処理した後、以下に示す一次抗体および二次抗体と反応させた。
結果はImage J 1.44p software(NIH)を用いて、数値化した。
一次抗体:
抗ヒト型αシヌクレイン特異的マウスモノクローナル抗体(LB509, Abcam),
抗αシヌクレインマウスモノクローナル抗体(GTX21903, GeneTex),
抗リン酸化αシヌクレイン特異ウサギモノクローナル抗体(ab51253, Abcam),
抗リン酸化αシヌクレイン特異マウスモノクローナル抗体(014-20281, Wako),
二次抗体:
HRP 結合抗マウス IgG ウシ抗体(sc-2371, santa cruz),
HRP 結合抗ウサギ IgG ウシ抗体(sc-2370, santa cruz)
実施例3:免疫組織化学
上述のようにマウスを還流後、脳を摘出した。大脳半球を 4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液に漬け、4℃で 2 日間、浸漬固定した。パラフィン包埋した後、4 μmの厚さの切片を作製した。100%キシレンに10分間浸漬することを3回繰り返すことにより脱パラフィン処理を行った。その後、更に100%アルコール2分、90%アルコール2分、80%アルコール2分、70%アルコール2分に浸漬し、さらに蒸留水に浸漬することを2回繰り返して水和処理を行った。このような処理に供した各試料を、以下A、B、Cに記載される抗体を用いて免疫染色を行い、MSAの病理学的特徴について評価した。
(A)MSAモデルマウスでのヒト型αシヌクレインの発現確認1
MSAの患者では、脳のオリゴデンドロサイト内にαシヌクレインタンパク質が異常蓄積し、それがグリア封入体を形成することが知られている。そこで、MSAモデルマウスおよびコントロールマウスの脳におけるグリア封入体の形成、αシヌクレインタンパク質の蓄積、およびαシヌクレインの分布について観察した(図8)。
前述のように脱パラフィン、水和処理に供された脳切片に対し、抗体反応の前に、内因性のペルオキシダーゼ活性を抑制するため、0.3% H2O2/メタノールによる処理を30分間おこなった。その後PBSで20%に希釈した仔ウシもしくはヤギ血清で1時間インキュベートすることによりブロッキング処理を行った。一次抗体を用いて、室温(約25℃)で12時間反応させた。用いた一時抗体は以下である。一次抗体反応後、脳切片を100 mM Tris-HCl(pH 7.6)、150 mM NaCl(Tris buffered saline (TBS))を使用して洗浄し、その後、二次抗体を一次抗体の時と同様に反応させ、洗浄した。用いた二次抗体は以下である。その後、アビジンビオチン複合体(PK6100 Vectastain社)を商品取扱説明書に従い脳切片に塗布し、室温で60分間反応させた後、一次抗体の時と同様に洗浄した。その後、顕微鏡下で観察した。
一次抗体:
抗ヒト型αシヌクレイン特異的マウスモノクローナル抗体(LB509, Abcam),
抗αシヌクレインマウスモノクローナル抗体(4D6, GTX21903, GeneTex),
二次抗体:
ビオチン標識抗マウスIgG抗体(BA2000, Vectastain社)
ビオチン標識抗ウサギIgG抗体(BA1000, Vectastain社)
(B)MSAモデルマウスでのヒト型αシヌクレインの発現確認2(オリゴデンドロサイト特異的ヒト型αシヌクレインの発現確認)
前述のように脱パラフィン、水和処理に供された脳切片に対し、抗体反応の前に、内因性のペルオキシダーゼ活性を抑制するため、0.3% H2O2/メタノールによる処理を30分間おこなった。その後PBSで20%に希釈した仔ウシもしくはヤギ血清で1時間インキュベートすることによりブロッキング処理を行った。一次抗体を用いて、室温(約25℃)で12時間反応させた。用いた一時抗体は以下である。一次抗体反応後、脳切片を100 mM Tris-HCl(pH 7.6)、150 mM NaCl(Tris buffered saline (TBS))を使用して洗浄し、その後、二次抗体を一次抗体の時と同様に反応させ、洗浄した。用いた二次抗体は以下である。C2siデジタルカメラ(ニコン)を搭載したECLIPSE Ti共焦点レーザー顕微鏡(ニコン)を用いて染色像を撮影した。Image J 1.44p software(NIH)を用いて、数値化した。
一次抗体:
抗リン酸化特異的αシヌクレインウサギモノクローナル抗体(ab51253, Abcam),
抗CNPaseマウスモノクローナル抗体(ab44289, Abcam)
抗GFAPマウスモノクローナル抗体(IBL11051, 免疫生物研究所)
二次抗体:
Alexa-Fluor 488 結合抗マウス IgG ヤギ抗体(A11011, Invitrogen),
Alexa-Fluor 594 結合抗ウサギ IgG ヤギ抗体(A11012, Invitrogen)
(C)αシヌクレインタンパク質の異常リン酸化
MSA患者における病変の1つに、αシヌクレインタンパク質が異常なリン酸化を受けて細胞質中で凝集する現象が知られている。αシヌクレインタンパク質は、中枢神経細胞に多量に存在し、脳の神経ネットワークを構成する前シナプス末端の機能に重要なタンパク質であるが、異常リン酸化により蓄積して神経ネットワークの障害を生じ、脳機能の低下を招くとされている。
異常リン酸化されたαシヌクレインタンパク質の検出においては、抗体反応の前に、内因性のペルオキシダーゼ活性を抑制するため、脱パラフィン処理および水和処理後の脳切片に対して0.3% H2O2/メタノールによる処理を30分間行い、その後PBSで20%に希釈した仔ウシ血清で1時間インキュベートすることによりブロッキング処理を行った。
次に、リン酸化特異的な抗αシヌクレイン抗体である抗リン酸化αシヌクレイン特異ウサギモノクローナル抗体(ab51253, Abcam、1,000倍希釈)および抗リン酸化αシヌクレイン特異マウスモノクローナル抗体(014-20281, Wako、5,000倍希釈)を一次抗体として用い、室温(約25℃)で12時間反応させた。一次抗体反応後、脳切片をPBSにて洗浄した後、ビオチン化抗マウスIgG抗体を二次抗体として用い、一次抗体の時と同様に反応させ、洗浄した。その後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識されたアビジン-ビオチン複合体を二次抗体に結合させ、DAB(3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド:(株)同仁堂化学研究所)を用いて基質を活性化して発色を行い、顕微鏡下で観察した(図9)。
図9の左上段の模式図は複数の酵素によりαシヌクレインがリン酸化されることが示されている。図9の左中段は抗αシヌクレイン抗体を用いたウエスタンブロットである。上段矢頭はヒト型αシヌクレインの発現を示した。下段はリン酸化特異的αシヌクレイン抗体による陽性シグナルである。タモキシフェン投与後、4週、8週、12週でリン酸化αシヌクレインが確認でき、加齢とともにリン酸化の程度は増加した。24週では8週と比較して約3.5倍にまでリン酸化程度は増加した。ヒト特異的αシヌクレイン抗体を用いた免疫染色法により、MSA患者脳内で認められる凝集と同じ病理像が本モデルマウスでも認められた(図9の右上段)。リン酸化特異的αシヌクレイン抗体を用いた免疫染色によりMSA患者脳内で認められる異常リン酸化と同じ病理像が本モデルマウスでも認められた(図9の右下段)。
実施例4:行動観察(不随意運動の確認)
カメラ(COOLPIX P80、ニコン)にてビデオを撮影した。生存観察は目視によりおこなった(図10)。
図10はタモキシフェン投与後のMSAモデルマウス(オス)における生存割合を示すグラフである。カプラン・マイヤー曲線では、MSAモデルマウス(破線25例)もしくはコントロールマウス(実線11例)に対してタモキシフェン投与後の日数(横軸)ごとの生存率(縦軸)を示している。MSAモデルマウスでは投与開始時(100%)から3日後に1匹が死亡した。以降、4日後に1匹、5日後に1匹、6日後に2匹、8日後に1匹、10日後に1匹が死亡した。一方、残りのMSAモデルマウスはタモキシフェン投与後140日の時点まで生存している。コントロールマウスで死亡したマウスはおらず、タモキシフェン投与後140日の時点で全例が生存している。
統計解析:
データは平均±標準偏差で表し、SAS software(SAS Institute)を用いて統計解析した。2群間の解析には Student t 検定、3群間以上の解析には ANOVA検定を用い、有意水準は p< 0.05 とした。
図8はMSA患者およびモデル動物の病理学的・臨床学的所見の比較図である。
MSA患者に認められるαシヌクレインの異常凝集は従来のモデルA、B、Cに加え、本モデルでも認められる。
MSA患者に認められるαシヌクレインの異常リン酸化がモデルAおよびCで報告されており、本モデルで認められた。
MSA患者では運動失調(不随意運動を含む)が臨床症状として認められる。モデルマウスBおよびCで運動失調の記載が認められた。本モデルマウスでは25匹中4匹に不随意運動が認められた(ビデオあり)。
MSA患者の臨床的特徴の1つに突然死が挙げられる。従来のモデルでは突然死の報告は無い。一方、本モデルではαシヌクレインの発現を誘導した直後から約30%に突然死が認められた。
MSA患者では主に中高年期以降に症状が発症する。従来のモデルでは出生直後からαシヌクレインの過剰産生がおこっている。一方、本モデルマウスではタモキシフェン投与の時期を任意に選べるために、マウスの中高年期(成熟年齢を元にマウスでは50週以降)にαシヌクレインの発現を誘導した。
各モデルマウスに用いたプロモーターは、モデルAではPLP、モデルBではCNP、モデルCではMBPである。一方、本モデルではCAGを用いており、PLP-Creの発現した細胞(オリゴデンドロサイト)でのみCAGによりαシヌクレインが発現する。
実施例5:マウス行動実験
<オープンフィールドテスト>
マウス行動実験には、MSA マウスおよび対照例マウスを少なくとも6匹用いた。ビデオ追跡システム(CaptureStar、CleverSys Inc.、アメリカバージニア州)を用いて、オープンフィールド試験を行なった。マウスをオープンフィールドアリーナ(30cm×30cm×30cm、明るさ30ルクス)の中央に配置し、10分間自由行動を撮影した。 全移動距離(mm)は、TopScan行動分析ソフトウェア(CleverSys Inc.)によって分析した。各マウスの平均移動速度は、平均速度(mm / s)=移動距離(mm)/ 600秒で算出した。結果を図11に示す。対照例マウスと比べてMSA マウスでは、移動距離及び平均速度とも低下していた。
<ロタロッドテスト>
回転ロッド装置(Accelerating Model、Ugo Basile、Biological Research Apparatus、Varese、イタリア)を使用した。マウスの前肢及び後肢の運動協調、バランスを測定した。訓練期間として、各マウスをロタロッド上に一定速度で5rpmで5分間置いた後、マウスを1日5回を3日間行った。訓練期間にMSAマウス、対照例マウスともにロタロッドの操作を学習した。その後、3週間連続して5分/日/週で4~40rpmの速度レベルで4回テストを行った。ロタロッドから落下する平均時間を記録し、その後の分析に使用した。結果を図12に示す。対照例マウスと比べてMSA マウスでは、ロタロッドから落下する平均時間が短かった。
<統計分析>
すべてのデータは平均+標準偏差(SD)として表した。 2群を分析するためにスチューデントのt検定を用いて一元配置分散分析を用いて統計的有意性を評価した。 0.05未満の確率値(p <0.05)を有意とした。0.01以下を顕著に有意とした。

Claims (6)

  1. αシヌクレイン遺伝子を導入したトランスジェニックマウスであって、
    導入したαシヌクレイン遺伝子を、中年期より前は発現させずに、前記動物の中年期以降の時期にオリゴデンドロサイトにおいて発現させ、
    導入したαシヌクレイン遺伝子を、前記動物の中年期以降の時期にオリゴデンドロサイトにおいて発現させた後10日間の死亡率が20%以上である
    トランスジェニックマウス
  2. オリゴデンドロサイトにおいて異常リン酸化αシヌクレインの凝集が認められる、請求項1に記載のトランスジェニックマウス
  3. 不随意運動が認められる、請求項1または2に記載のトランスジェニックマウス
  4. タモキシフェンの投与によりαシヌクレインの発現が誘導される、請求項1から3の何れか一項に記載のトランスジェニックマウス
  5. loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子と、オリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよびタモキシフェン応答性配列に連結したCre遺伝子とを有する、請求項1から4の何れか一項に記載のトランスジェニックマウス
  6. loxp配列に挟まれたストップコドン配列を上流域に有するαシヌクレイン遺伝子を有するマウスと、オリゴデンドロサイト特異的プロモーターおよびタモキシフェン応答性配列に連結したCre遺伝子を有するマウスとを交配することにより得られる、請求項5に記載のトランスジェニックマウス
JP2018098854A 2017-06-02 2018-05-23 多系統萎縮症モデル動物 Active JP7061312B2 (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2017110020 2017-06-02
JP2017110020 2017-06-02

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2018201495A JP2018201495A (ja) 2018-12-27
JP7061312B2 true JP7061312B2 (ja) 2022-04-28

Family

ID=64954343

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2018098854A Active JP7061312B2 (ja) 2017-06-02 2018-05-23 多系統萎縮症モデル動物

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7061312B2 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP4155733A1 (en) * 2021-09-22 2023-03-29 Katholieke Universiteit Leuven, KU Leuven R&D Mouse models for multiple system atrophy

Non-Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
Acta Neuropathol,2012年,Vol.124, p.51-65
Conditional tissue-specific expression of synucleins in transgenic mice.,Society for Neuroscience,2001年,Vol. 27, p.2343, 880.9
Molecular and Cellular Neuroscience,2003年,Vol.22, p.430-440
Neurochem Res,2015年,Vol.40, p.2188-2199

Also Published As

Publication number Publication date
JP2018201495A (ja) 2018-12-27

Similar Documents

Publication Publication Date Title
CN105518132B (zh) 缺乏lincRNA的非人类动物
JP6282591B2 (ja) 遺伝子ノックイン非ヒト動物
JP4942081B2 (ja) アルツハイマー病モデル動物およびその用途
US9429567B2 (en) Method for screening substances having weight-regulating action
JP3765574B2 (ja) 逆向き反復配列を含む組み換え遺伝子及びその利用
JP7061312B2 (ja) 多系統萎縮症モデル動物
JP4613824B2 (ja) トランスジェニック非ヒト哺乳動物
JP5075641B2 (ja) 遺伝子改変動物およびその用途
JP2001211782A (ja) tob遺伝子欠損ノックアウト非ヒト哺乳動物
WO2005093051A1 (ja) 不活性型Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIαノックイン動物および同ノックイン細胞
JP2003204796A (ja) 非ヒト遺伝子改変動物およびその利用
JP5605718B2 (ja) アルツハイマー病モデル動物およびその用途
JP6267986B2 (ja) ヒトの特定分子と結合する分子標的物質のinvivo評価法
WO2015068411A1 (ja) 遺伝子組み換え非ヒト動物
JP4374438B2 (ja) rab8a遺伝子欠損マウス
JP4171256B2 (ja) パピローマウイルスベクターを用いたRNAi表現型を有する非ヒト哺乳動物の作製方法
JP4940477B2 (ja) Oasis遺伝子欠損マウス
JP6323876B2 (ja) ノックインマウス
WO2004092371A1 (ja) グルタミン酸トランスポーターglast機能欠損マウス
JP2004154093A (ja) 新しい病態モデルとしてのhsf1遺伝子欠損動物
JP6151502B2 (ja) 神経芽腫モデルマウス
US8697939B2 (en) Mouse model for depression, schizophrenia and alzheimer&#39;s disease and the use thereof
WO2002102143A1 (fr) Animal transgenique transforme au moyen d&#39;un gene de proteine vert fluorescent
US20020157118A1 (en) Genetically engineered animals containing null mutations in the neurofilament genes
WO2005090561A1 (ja) マクロファージ系細胞の活性化制御物質のスクリーニング方法

Legal Events

Date Code Title Description
AA64 Notification of invalidation of claim of internal priority (with term)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A241764

Effective date: 20180619

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20180620

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20210201

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20211020

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20211102

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20211216

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20220329

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20220404

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7061312

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150