本発明の電池用包装材料は、少なくとも、基材層、バリア層、及び熱融着性樹脂層をこの順に備える積層体から構成された電池用包装材料であって、下記の条件で熱融着性樹脂層同士を熱融着させた場合に、熱融着部分の下記幅の方向及び厚み方向に平行となる断面を観察すると、一方側の前記熱融着性樹脂層が、他方側の前記熱融着性樹脂層側に互いに突出した形状となる(例えば図8の模式図に示した一例を参照)ことを特徴とする。本発明の電池用包装材料においては、このような構成を備えていることにより、電解液が浸透した熱融着性樹脂層同士の高いヒートシール強度を発揮する。以下、本発明の電池用包装材料について詳述する。
(熱融着の条件)
袋状にした前記電池用包装材料に下記電解液を封入し、85℃環境下に24時間保管することで熱融着性樹脂層に当該電解液を含浸させる。次に、当該電解液を含浸させた前記電池用包装材料の前記熱融着性樹脂層側が互いに向き合い接触するように重ね合わせる。次に、前記電池用包装材料の一方の前記基材層側から他方の前記基材層側に向かって、25℃環境下、幅7mm、温度190℃、圧力2.0MPa、3秒間の条件で熱と圧力を加えて、熱融着性樹脂層同士を熱融着させて、前記熱融着部分を形成する。
(電解液)
6フッ化リン酸リチウムの濃度が1mol/Lであり、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとジメチルカーボネートの容積比が1:1:1の溶液
なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。
1.電池用包装材料の積層構造及び物性
本発明の電池用包装材料10は、例えば図1~図5に示すように、少なくとも、基材層1、バリア層3、及び熱融着性樹脂層4をこの順に備える積層体から構成されている。本発明の電池用包装材料において、基材層1が最外層側になり、熱融着性樹脂層4は最内層になる。即ち、電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置する熱融着性樹脂層4同士が熱融着して電池素子を密封することにより、電池素子が封止される。
本発明の電池用包装材料10は、例えば図2~図5に示すように、基材層1とバリア層3との間に、接着剤層2を備えていてもよい。また、例えば図3及び図4に示すように、バリア層3と熱融着性樹脂層4との間に、接着層5を備えていてもよい。さらに、図4に示すように、基材層1の外側(熱融着性樹脂層4とは反対側)には、必要に応じて表面被覆層6を備えていてもよい。
また、後述の通り、熱融着性樹脂層4は、単層でも複層でもよいが、好ましくは複層である。熱融着性樹脂層4が複層である場合、熱融着性樹脂層4は、3層以上により構成されていることが好ましい。図1~図4には、熱融着性樹脂層4が、最もバリア層3側に位置しているバリア側層41と、中間層42と、最表面に位置している表面層43の3層により構成されている模式図を示している。また、図5には、熱融着性樹脂層4が、最もバリア層3側に位置しているバリア側層41、中間層42、最表面に位置している表面層43、さらにバリア側層41と中間層42との間に層44を備える4層により構成されている模式図を示している。
本発明の電池用包装材料10を構成する積層体の厚さとしては、特に制限されないが、電池用包装材料の厚さを薄くして電池のエネルギー密度を高めつつ、電解液が浸透した熱融着性樹脂層同士の高いヒートシール強度を発揮させる観点からは、例えば約180μm以下、好ましくは約150μm以下、より好ましくは60~180μm程度、さらに好ましくは60~150μm程度が挙げられる。
また、本発明の電池用包装材料は、85℃の環境において、電解液(6フッ化リン酸リチウムの濃度が1mol/Lであり、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとジメチルカーボネートの容積比が1:1:1の溶液である)に24時間接触させた後、前記熱融着性樹脂層の表面に電解液が付着した状態で、熱融着性樹脂層同士を25℃環境下、温度190℃、面圧1.0MPa、時間3秒間の条件で熱融着させ、当該熱融着させた界面を剥離する際のシール強度(N/15mm)が、約90N/15mm以上であることが好ましく、約100N/15mm以上であることがより好ましく、約120N/15mm以上であることがさらに好ましい。なお、当該シール強度(N/15mm)の上限値としては、例えば、約200N/15mmが挙げられる。電解液接触後のシール強度の測定は、具体的には以下の方法により行う。
<電解液接触後のシール強度の測定>
JIS K7127:1999の規定に準拠して、25℃環境における電池用包装材料のシール強度を次のようにして測定する。具体的には、図6に示すように、まず、各電池用包装材料を100mm(TD:Transverse Direction)×200mm(MD:Machine Direction)に裁断する(図6a)。次に、電池用包装材料を中心P(MDの中間)の位置で折り返し、互いに対向する2辺の熱融着性樹脂層同士を熱融着して袋状にする(図6bの斜線部が熱融着部である)。次に、熱融着されていない1辺の開口部から、電解液(LiPF6 の濃度が1mol/Lとなるようにエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートを1:1:1で混合した液体に溶解させている電解液)を封入して、85℃環境下に24時間保管することで熱融着性樹脂層に電解液を含浸させる(図6c)。次に、図6cの二点鎖線の位置で裁断して、短冊片を得ると共に、電解液を排出させる(図6c、d)。得られた短冊片の熱融着性樹脂層同士を合わせ、MDの端部から10mm程度内側において、25℃環境下、シール幅7mm、温度190℃、面圧1.0MPa、3秒間の条件で熱融着性樹脂層同士を熱融着する(図6e)。図6eにおいて、斜線部Sが熱融着されている部分である。次に、TDの幅が15mmとなるようにして、MDに裁断(図6eの二点鎖線の位置で裁断)して試験片を得る(図6f)。次に、試験片13を25℃の温度環境で2分間放置し、25℃の温度環境において、引張り試験機(島津製作所製、AG-Xplus(商品名))で熱融着部の熱融着性樹脂層を300mm/分の速度で15mm剥離させる(図7)。剥離時の最大強度をシール強度(N/15mm)とする。チャック間距離は、50mmである。なお、シール強度の測定においては、図7に示される熱融着界面Aで試験片13が剥離(破壊)される場合と、熱融着界面Aとは異なる部分(例えば、図7のBの位置)で試験片13が破断する場合とがある。試験片13が破断した場合には、破断強度をシール強度とする。ここでのMDとは包装材料製造時の巻取り方向と平行な方向であり、TDとは巻取り方向と包装材料の厚み方向と垂直な方向である。
2.電池用包装材料を形成する各層
[基材層1]
本発明の電池用包装材料において、基材層1は最外層側に位置する層である。基材層1を形成する素材については、絶縁性を備えるものであることを限度として特に制限されるものではない。基材層1を形成する素材としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート及びこれらの混合物や共重合物などの樹脂フィルムが挙げられる。これらの中でも、好ましくはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられ、より好ましくは2軸延伸ポリエステル樹脂、2軸延伸ポリアミド樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステルなどが挙げられる。また、ポリアミド樹脂としては、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6とナイロン66との共重合体、ナイロン6,10、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)などが挙げられる。
基材層1は、1層の樹脂フィルムから形成されていてもよいが、耐ピンホール性や絶縁性を向上させるために、2層以上の樹脂フィルムで形成されていてもよい。具体的には、ポリエステルフィルムとナイロンフィルムとを積層させた多層構造、ナイロンフィルムを複数層積層させた多層構造、ポリエステルフィルムを複数層積層させた多層構造などが挙げられる。基材層1が多層構造である場合、2軸延伸ナイロンフィルムと2軸延伸ポリエステルフィルムの積層体、2軸延伸ナイロンフィルムを複数積層させた積層体、2軸延伸ポリエステルフィルムを複数積層させた積層体が好ましい。例えば、基材層1を2層の樹脂フィルムから形成する場合、ポリエステル樹脂とポリエステル樹脂を積層する構成、ポリアミド樹脂とポリアミド樹脂を積層する構成、又はポリエステル樹脂とポリアミド樹脂を積層する構成にすることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートを積層する構成、ナイロンとナイロンを積層する構成、又はポリエチレンテレフタレートとナイロンを積層する構成にすることがより好ましい。また、ポリエステル樹脂は、例えば電解液が表面に付着した際に変色し難いことなどから、当該積層構成においては、ポリエステル樹脂が最外層に位置するように基材層1を積層することが好ましい。基材層1を多層構造とする場合、各層の厚さとして、好ましくは2~25μm程度が挙げられる。
基材層1を多層の樹脂フィルムで形成する場合、2以上の樹脂フィルムは、接着剤又は接着性樹脂などの接着成分を介して積層させればよく、使用される接着成分の種類や量などについては、後述する接着剤層2の場合と同様である。なお、2層以上の樹脂フィルムを積層させる方法としては、特に制限されず、公知方法が採用でき、例えばドライラミネート法、サンドイッチラミネート法などが挙げられ、好ましくはドライラミネート法が挙げられる。ドライラミネート法により積層させる場合には、接着層としてウレタン系接着剤を用いることが好ましい。このとき、接着層の厚さとしては、例えば2~5μm程度が挙げられる。
本発明において、電池用包装材料の成形性を高める観点からは、基材層1の表面には、滑剤が付着していることが好ましい。滑剤としては、特に制限されないが、好ましくはアミド系滑剤が挙げられる。アミド系滑剤の具体例としては、後述の熱融着性樹脂層4で例示したものと同じものが挙げられる。
基材層1の表面に滑剤が存在する場合、その存在量としては、特に制限されないが、温度24℃、相対湿度60%の環境において、好ましくは約3mg/m2以上、より好ましくは4~15mg/m2程度、さらに好ましくは5~14mg/m2程度が挙げられる。
基材層1の中には、滑剤が含まれていてもよい。また、基材層1の表面に存在する滑剤は、基材層1を構成する樹脂に含まれる滑剤を滲出させたものであってもよいし、基材層1の表面に滑剤を塗布したものであってもよい。
基材層1の厚さについては、基材としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、3~50μm程度、好ましくは10~35μm程度が挙げられる。
[接着剤層2]
本発明の電池用包装材料10において、接着剤層2は、基材層1とバリア層3を強固に接着させるために、必要に応じて、これらの間に設けられる層である。
接着剤層2は、基材層1とバリア層3とを接着可能である接着剤によって形成される。接着剤層2の形成に使用される接着剤は、2液硬化型接着剤であってもよく、また1液硬化型接着剤であってもよい。さらに、接着剤層2の形成に使用される接着剤の接着機構についても、特に制限されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型などのいずれであってもよい。
接着剤層2の形成に使用できる接着成分としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;ポリエーテル系接着剤;ポリウレタン系接着剤;エポキシ系樹脂;フェノール樹脂系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ポリアミドなどのポリアミド系樹脂;ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、金属変性ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂;セルロース系接着剤;(メタ)アクリル系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリカーボネート;尿素樹脂、メラミン樹脂などのアミノ樹脂;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴムなどのゴム;シリコーン系樹脂などが挙げられる。これらの接着成分は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの接着成分の中でも、好ましくはポリウレタン系接着剤が挙げられる。
接着剤層2の厚さについては、接着機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、1~10μm程度、好ましくは2~5μm程度が挙げられる。
[バリア層3]
電池用包装材料において、バリア層3は、電池用包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光などが侵入することを防止する機能を有する層である。バリア層3は、金属箔、金属蒸着膜、無機酸化物蒸着膜、炭素含有無機酸化物蒸着膜、これらの蒸着層を設けたフィルムなどにより形成することができ、金属で形成されている層であることが好ましい。バリア層3を構成する金属としては、具体的には、アルミニウム合金、ステンレス鋼、チタン鋼などが挙げられ、好ましくはアルミニウム合金及びステンレス鋼が挙げられる。
バリア層3は、金属箔により形成することが好ましく、アルミニウム合金箔又はステンレス鋼箔により形成することがさらに好ましい。
アルミニウム合金箔としては、電池用包装材料の成形時に、バリア層3にしわやピンホールが発生することを防止する観点から、例えば、焼きなまし処理済みのアルミニウム合金などにより構成された軟質アルミニウム合金箔であることがより好ましい。軟質アルミニウム合金箔としては、例えば、JIS H4160:1994 A8021H-O、JIS H4160:1994 A8079H-O、JIS H4000:2014 A8021P-O、又はJIS H4000:2014 A8079P-Oで規定される組成を備えるアルミニウム合金箔が挙げられる。
また、ステンレス鋼箔としては、電池用包装材料の成形時に、バリア層3にしわやピンホールが発生することを防止する観点から、オーステナイト系のステンレス鋼箔、フェライト系のステンレス鋼箔などが挙げられる。ステンレス鋼箔は、オーステナイト系のステンレス鋼により構成されていることが好ましい。
ステンレス鋼箔を構成するオーステナイト系のステンレス鋼の具体例としては、SUS304、SUS301、SUS316Lなどが挙げられ、これらの中でも、SUS304が特に好ましい。
バリア層3の厚みは、水蒸気などのバリア層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、上限については、好ましくは約85μm以下、より好ましくは約50μm以下、さらに好ましくは40μm以下が挙げられ、下限については、好ましくは約10μm以上が挙げられ、当該厚みの範囲としては、10~80μm程度、好ましくは10~50μm程度が挙げられる。なお、特に、バリア層3がステンレス鋼箔により構成されている場合、ステンレス鋼箔の厚みとしては、上限については、好ましくは約85μm以下、より好ましくは約50μm以下、さらに好ましくは約40μm以下、さらに好ましくは約30μm以下、特に好ましくは約25μm以下が挙げられ、下限については、約10μm以上が挙げられ、好ましい厚みの範囲としては、10~85μm程度、10~50μm程度、より好ましくは10~40μm程度、より好ましくは10~30μm程度、さらに好ましくは15~25μm程度が挙げられる。
また、バリア層3は、接着の安定化、溶解や腐食の防止などのために、少なくとも一方の面、好ましくは両面が化成処理されていることが好ましい。ここで、化成処理とは、バリア層の表面に耐酸性皮膜を形成する処理をいう。本発明のバリア層3の表面に耐酸性皮膜が形成されている場合、バリア層3には耐酸性皮膜が含まれる。化成処理としては、例えば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロムなどのクロム酸化合物を用いたクロム酸クロメート処理;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸などのリン酸化合物を用いたリン酸クロメート処理;下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体を用いたクロメート処理などが挙げられる。なお、当該アミノ化フェノール重合体において、下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位は、1種類単独で含まれていてもよいし、2種類以上の任意の組み合わせであってもよい。
一般式(1)~(4)中、Xは、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基またはベンジル基を示す。また、R1及びR2は、それぞれ同一または異なって、ヒドロキシル基、アルキル基、またはヒドロキシアルキル基を示す。一般式(1)~(4)において、X、R1及びR2で示されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などの炭素数1~4の直鎖または分枝鎖状アルキル基が挙げられる。また、X、R1及びR2で示されるヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基、1-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、1-ヒドロキシブチル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基などのヒドロキシル基が1個置換された炭素数1~4の直鎖または分枝鎖状アルキル基が挙げられる。一般式(1)~(4)において、X、R1及びR2で示されるアルキル基及びヒドロキシアルキル基は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。一般式(1)~(4)において、Xは、水素原子、ヒドロキシル基またはヒドロキシアルキル基であることが好ましい。一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位を有するアミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、例えば、500~100万程度であることが好ましく、1000~2万程度であることがより好ましい。
また、バリア層3に耐食性を付与する化成処理方法として、リン酸中に、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズなどの金属酸化物や硫酸バリウムの微粒子を分散させたものをコーティングし、150℃以上で焼付け処理を行うことにより、バリア層3の表面に耐酸性皮膜を形成する方法が挙げられる。また、耐酸性皮膜の上には、カチオン性ポリマーを架橋剤で架橋させた樹脂層をさらに形成してもよい。ここで、カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミンとカルボン酸を有するポリマーからなるイオン高分子錯体、アクリル主骨格に1級アミンをグラフト重合させた1級アミングラフトアクリル樹脂、ポリアリルアミンまたはその誘導体、アミノフェノールなどが挙げられる。これらのカチオン性ポリマーとしては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、架橋剤としては、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、及びオキサゾリン基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、シランカップリング剤などが挙げられる。これらの架橋剤としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
また、耐酸性皮膜を具体的に設ける方法としては、たとえば、一つの例として、少なくともアルミニウム箔(バリア層)の内層側の面を、まず、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法等の周知の処理方法で脱脂処理を行い、その後脱脂処理面にリン酸Cr(クロム)塩、リン酸Ti(チタン)塩、リン酸Zr(ジルコニウム)塩、リン酸Zn(亜鉛)塩などのリン酸金属塩およびこれらの金属塩の混合体を主成分とする処理液(水溶液)、あるいは、リン酸非金属塩およびこれらの非金属塩の混合体を主成分とする処理液(水溶液)、あるいは、これらとアクリル系樹脂ないしフェノール系樹脂ないしポリウレタン系樹脂等の水系合成樹脂との混合物からなる処理液(水溶液)をロールコート法、グラビア印刷法、浸漬法等の周知の塗工法で塗工することにより、耐酸性皮膜を形成することができる。たとえば、リン酸Cr(クロム)塩系処理液で処理した場合は、CrPO4(リン酸クロム)、AlPO4(リン酸アルミニウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)、Al(OH)x(水酸化アルミニウム)、AlFx(フッ化アルミニウム)などからなる耐酸性皮膜となり、リン酸Zn(亜鉛)塩系処理液で処理した場合は、Zn2PO4・4H2O(リン酸亜鉛水和物)、AlPO4(リン酸アルミニウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)、Al(OH)x(水酸化アルミニウム)、AlFx(フッ化アルミニウム)などからなる耐酸性皮膜となる。
また、耐酸性皮膜を設ける具体的方法の他の例としては、たとえば、少なくともアルミニウム箔の内層側の面を、まず、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法、酸活性化法等の周知の処理方法で脱脂処理を行い、その後脱脂処理面に周知の陽極酸化処理を施すことにより、耐酸性皮膜を形成することができる。
また、耐酸性皮膜の他の一例としては、リン化合物(例えば、リン酸塩系)、クロム化合物(例えば、クロム酸系)の皮膜が挙げられる。リン酸塩系としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸クロムなどが挙げられ、クロム酸系としては、クロム酸クロムなどが挙げられる。
また、耐酸性皮膜の他の一例としては、リン化合物(リン酸塩など)、クロム化合物(クロム酸塩など)、フッ化物、トリアジンチオール化合物等の耐酸性皮膜を形成することによって、エンボス成形時のアルミニウムと基材層との間のデラミネーション防止、電解質と水分とによる反応で生成するフッ化水素により、アルミニウム表面の溶解、腐食、特にアルミニウムの表面に存在する酸化アルミニウムが溶解、腐食することを防止し、かつ、アルミニウム表面の接着性(濡れ性)を向上させ、ヒートシール時の基材層とアルミニウムとのデラミネーション防止、エンボスタイプにおいてはプレス成形時の基材層とアルミニウムとのデラミネーション防止の効果を示す。耐酸性皮膜を形成する物質のなかでも、フェノール系樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸の3成分から構成された水溶液をアルミニウム表面に塗布し、乾燥焼付けの処理が良好である。
また、耐酸性皮膜は、酸化セリウムと、リン酸またはリン酸塩と、アニオン性ポリマーと、該アニオン性ポリマーを架橋させる架橋剤とを有する層を含み、前記リン酸またはリン酸塩が、前記酸化セリウム100質量部に対して、1~100質量部配合されていてもよい。耐酸性皮膜が、カチオン性ポリマーおよび該カチオン性ポリマーを架橋させる架橋剤を有する層をさらに含む多層構造であることが好ましい。
さらに、前記アニオン性ポリマーが、ポリ(メタ)アクリル酸またはその塩、あるいは(メタ)アクリル酸またはその塩を主成分とする共重合体であることが好ましい。また、前記架橋剤が、イソシアネート基、グリシジル基、カルボキシル基、オキサゾリン基のいずれかの官能基を有する化合物とシランカップリング剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また、前記リン酸またはリン酸塩が、縮合リン酸または縮合リン酸塩であることが好ましい。
化成処理は、1種類の化成処理のみを行ってもよいし、2種類以上の化成処理を組み合わせて行ってもよい。さらに、これらの化成処理は、1種の化合物を単独で使用して行ってもよく、また2種以上の化合物を組み合わせて使用して行ってもよい。化成処理の中でも、クロム酸クロメート処理や、クロム酸化合物、リン酸化合物、及びアミノ化フェノール重合体を組み合わせたクロメート処理などが好ましい。
耐酸性皮膜の具体例としては、リン酸塩、クロム酸塩、フッ化物、及びトリアジンチオール化合物のうち少なくとも1種を含むものが挙げられる。また、セリウム化合物を含む耐酸性皮膜も好ましい。セリウム化合物としては、酸化セリウムが好ましい。
また、耐酸性皮膜の具体例としては、リン酸塩系皮膜、クロム酸塩系皮膜、フッ化物系皮膜、トリアジンチオール化合物皮膜なども挙げられる。耐酸性皮膜としては、これらのうち1種類であってもよいし、複数種類の組み合わせであってもよい。さらに、耐酸性皮膜としては、バリア層の化成処理面を脱脂処理した後に、リン酸金属塩と水系合成樹脂との混合物からなる処理液、またはリン酸非金属塩と水系合成樹脂との混合物からなる処理液で形成されたものであってもよい。
なお、耐酸性皮膜の組成の分析は、例えば、飛行時間型2次イオン質量分析法を用いて行うことができる。
化成処理においてバリア層3の表面に形成させる耐酸性皮膜の量については、特に制限されないが、例えば、上記のクロメート処理を行う場合であれば、バリア層3の表面1m2当たり、クロム酸化合物がクロム換算で0.5~50mg程度、好ましくは1.0~40mg程度、リン化合物がリン換算で0.5~50mg程度、好ましくは1.0~40mg程度、及びアミノ化フェノール重合体が1.0~200mg程度、好ましくは5.0~150mg程度の割合で含有されていることが望ましい。
耐酸性皮膜の厚みとしては、特に制限されないが、皮膜の凝集力や、バリア層や熱融着性樹脂層との密着力の観点から、好ましくは1nm~20μm程度、より好ましくは1nm~100nm程度、さらに好ましくは1nm~50nm程度が挙げられる。なお、耐酸性皮膜の厚みは、透過電子顕微鏡による観察、または、透過電子顕微鏡による観察と、エネルギー分散型X線分光法もしくは電子線エネルギー損失分光法との組み合わせによって測定することができる。飛行時間型2次イオン質量分析法を用いた耐酸性皮膜の組成の分析により、例えば、CeとPとOからなる2次イオン(例えば、Ce2PO4
+、CePO4
-などの少なくとも1種)や、例えば、CrとPとOからなる2次イオン(例えば、CrPO2
+、CrPO4
-などの少なくとも1種)に由来するピークが検出される。
化成処理は、耐酸性皮膜の形成に使用する化合物を含む溶液を、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、浸漬法などによって、バリア層の表面に塗布した後に、バリア層の温度が70~200℃程度になるように加熱することにより行われる。また、バリア層に化成処理を施す前に、予めバリア層を、アルカリ浸漬法、電解洗浄法、酸洗浄法、電解酸洗浄法などによる脱脂処理に供してもよい。このように脱脂処理を行うことにより、バリア層の表面の化成処理をより効率的に行うことが可能となる。
[熱融着性樹脂層4]
本発明の電池用包装材料において、熱融着性樹脂層4は、最内層に該当し、電池の組み立て時に熱融着性樹脂層同士が熱融着して電池素子を密封する層である。
本発明の電池用包装材料は、下記の条件で熱融着性樹脂層4同士を熱融着させた場合に、熱融着部分の下記幅の方向及び厚み方向に平行となる断面を観察すると、一方側の熱融着性樹脂層4が、他方側の熱融着性樹脂層4側に互いに突出した形状となることを特徴としている。
(熱融着の条件)
袋状にした電池用包装材料に下記電解液を封入し、85℃環境下に24時間保管することで熱融着性樹脂層に当該電解液を含浸させる。次に、当該電解液を含浸させた電池用包装材料の熱融着性樹脂層側が互いに向き合い接触するように重ね合わせる。次に、電池用包装材料の一方の基材層側から他方の基材層側に向かって、25℃環境下で、幅7mm、温度190℃、圧力2.0MPa、3秒間の条件で熱と圧力を加えて、熱融着性樹脂層同士を熱融着させて、熱融着部分を形成する。
(電解液)
6フッ化リン酸リチウムの濃度が1mol/Lであり、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとジメチルカーボネートの容積比が1:1:1の溶液
電池用包装材料の熱融着性樹脂層4の熱融着部分の前記断面において、一方側の熱融着性樹脂層4が、他方側の熱融着性樹脂層4側に互いに突出した形状とは、例えば、図8の模式図に示す一例が挙げられる。図8に示される断面図において、熱融着部分40では、上側に記載された熱融着性樹脂層4は、熱融着時の熱と圧力によって湾曲するように変形して、下側の熱融着性樹脂層4側に突出、蛇行した形状となっている。一方、下側に記載された熱融着性樹脂層4についても、熱融着時の熱と圧力によって湾曲するように変形して、上側の熱融着性樹脂層4側に突出、蛇行した形状となっている。これにより、熱融着性樹脂層4が突出した部分において、一方側の熱融着性樹脂層4と他方側の熱融着性樹脂層4との界面4aが蛇行するように形成されており、界面が蛇行していない場合に比して、熱融着性樹脂層4同士が接着している部分が大きくなっている。本発明の電池用包装材料においては、一方側の熱融着性樹脂層4が、他方側の熱融着性樹脂層4側に互いに突出した形状を形成していることで、一方側の熱融着性樹脂層4と他方側の熱融着性樹脂層4との界面4aの面積が大きくなり、電解液が浸透した熱融着性樹脂層4同士の高いヒートシール強度が発揮されていると考えられる。
電解液が浸透した熱融着性樹脂層4同士のヒートシール強度を効果的に高める観点から、前記断面において、熱融着性樹脂層4が突出した部分の高さhは、熱融着部分ではない熱融着性樹脂層4の厚みdよりも大きいことが好ましく、高さhは厚みdの1.5~10倍程度であることがより好ましく、3~7倍程度であることがさらに好ましい。
熱融着性樹脂層4に使用される樹脂成分については、熱融着可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、酸変性環状ポリオレフィンが挙げられる。すなわち、熱融着性樹脂層4を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいても含んでいなくてもよいが、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。熱融着性樹脂層4を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。ただし、酸変性度が低いとピークが小さくなり検出されない場合がある。その場合は核磁気共鳴分光法にて分析可能である。
前記ポリオレフィンとしては、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン;ポリプロピレンのブロックコポリマー(すなわち、ブロックポリプロピレン。例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー、プロピレンとブテンのブロックコポリマーなど)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(すなわち、ランダムポリプロピレン。例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー、プロピレンとブテンのランダムコポリマーなど)などのポリプロピレン;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマー(ブロックポリプロピレン及びランダムポリプロピレンのいずれでもよい)などが挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、好ましくはポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。
前記環状ポリオレフィンは、オレフィンと環状モノマーとの共重合体であり、前記環状ポリオレフィンの構成モノマーであるオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。また、前記環状ポリオレフィンの構成モノマーである環状モノマーとしては、例えば、ノルボルネンなどの環状アルケン;具体的には、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ノルボルナジエンなどの環状ジエンなどが挙げられる。これらのポリオレフィンの中でも、好ましくは環状アルケン、さらに好ましくはノルボルネンが挙げられる。
前記酸変性ポリオレフィンとは、前記ポリオレフィンをカルボン酸などの酸成分でブロック重合又はグラフト重合することにより変性したポリマーである。変性に使用される酸成分としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのカルボン酸又はその無水物が挙げられる。
前記酸変性環状ポリオレフィンとは、環状ポリオレフィンを構成するモノマーの一部を、α,β-不飽和カルボン酸又はその無水物に代えて共重合することにより、或いは環状ポリオレフィンに対してα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物をブロック重合又はグラフト重合することにより得られるポリマーである。カルボン酸変性される環状ポリオレフィンについては、前記と同様である。また、変性に使用されるカルボン酸としては、前記ポリオレフィンの変性に使用される酸成分と同様である。
これらの樹脂成分の中でも、好ましくはポリプロピレンなどのポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン;さらに好ましくはポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンが挙げられる。
熱融着性樹脂層4は、1種の樹脂成分単独で形成してもよく、また2種以上の樹脂成分を組み合わせたブレンドポリマーにより形成してもよい。さらに、熱融着性樹脂層4は、1層のみで成されていてもよいが、同一又は異なる樹脂成分によって2層以上で形成されていてもよい。
電池用包装材料の熱融着性樹脂層4の熱融着部分の前記断面において、一方側の熱融着性樹脂層4が、他方側の熱融着性樹脂層4側に互いに突出した形状が好適に形成されるようにして、電解液が浸透した熱融着性樹脂層同士のヒートシール強度が特に高い電池用包装材料とする観点から、熱融着性樹脂層4が、3層以上により構成されており、かつ、当該3層以上の熱融着性樹脂層4は、2種類以上の樹脂により構成されていることが好ましい。3層以上の熱融着性樹脂層4が流動性の異なる2種類以上の樹脂により形成されていることにより、熱融着性樹脂層4同士を熱融着させた際に熱融着性樹脂層4の形状が変化しやすくなり、結果として、一方側の熱融着性樹脂層4が、他方側の熱融着性樹脂層4側に互いに突出した形状が好適に形成されやすくなる。
同様の観点から、図1~図5に示される積層構成のように、前記3層以上の熱融着性樹脂層4は、ブロックポリプロピレンにより構成された中間層42を備えており、かつ、前記ブロックポリプロピレンにより構成された中間層42は、前記3層以上の熱融着性樹脂層4のうち、最もバリア層3側に位置しているバリア側層41と、最表面に位置している表面層43との間に位置していることが好ましい。さらに、バリア層3とブロックポリプロピレンにより構成された中間層42との間に位置しているバリア側層41の軟化点は、前記ブロックポリプロピレンにより構成された中間層42の軟化点よりも低いことがより好ましい。
最もバリア層3側に位置しているバリア側層41の軟化点としては、好ましくは60~100℃程度、より好ましくは80~95℃程度が挙げられる。ブロックポリプロピレンにより構成された中間層42の軟化点としては、好ましくは100~120℃程度、より好ましくは105~115℃程度が挙げられる。最表面に位置している表面層43の軟化点としては、好ましくは60~100℃程度、より好ましくは80~98℃程度が挙げられる。
なお、本発明において、熱融着性樹脂層4の軟化点は、以下の測定方法により測定された値である。
(軟化点の測定方法)
走査型熱顕微鏡(Anasys社製のNanoTA)を用い、サーマルプローブのカンチレバーのモデルはEX-AN2-200、昇温速度5℃/sの条件で測定された値である。また、軟化点は、ピークトップ温度とする。
また、最もバリア層3側に位置しているバリア側層41の融点としては、好ましくは80~170℃程度、より好ましくは120~160℃程度が挙げられる。ブロックポリプロピレンにより構成された中間層42の融点としては、好ましくは120~180℃程度、より好ましくは140~170℃程度が挙げられる。最表面に位置している表面層43の融点としては、好ましくは80~170℃程度、より好ましくは120~160℃程度が挙げられる。融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定された値である。
また、最もバリア層3側に位置しているバリア側層41の230℃でのメルトマスフローレート(MFR)としては、好ましくは5~17g/10分程度、より好ましくは6~13g/10分程度が挙げられる。ブロックポリプロピレンにより構成された中間層42の230℃でのMFRとしては、好ましくは1~10g/10分程度、より好ましくは2~6g/10分程度が挙げられる。最表面に位置している表面層43の230℃でのMFRとしては、好ましくは5~17g/10分程度、より好ましくは6~13g/10分程度が挙げられる。MFRは、JIS K 7210-1:2014の規定に準拠した方法によって測定された値である。
さらに、同様の観点から、バリア層3とブロックポリプロピレンにより構成された中間層42との厚み方向の距離Wは、好ましくは14μm以上、より好ましくは20μm以上が挙げられる。当該距離の上限としては、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下が挙げられる。当該距離の好ましい範囲としては、14~30μm程度、20~30μm程度、14~25μm程度、20~25μm程度が挙げられる。当該距離が14μm以上であることにより、一方側の熱融着性樹脂層4を好適に他方側に突出させることができる。
最もバリア層3側に位置しているバリア側層41の厚さとしては、好ましくは10~25μm程度、より好ましくは12~20μm程度が挙げられる。また、ブロックポリプロピレンにより構成された中間層42の厚さとしては、好ましくは15~75μm程度、より好ましくは20~60μm程度が挙げられる。最表面に位置している表面層43の厚さとしては、好ましくは10~25μm程度、より好ましくは12~20μm程度が挙げられる。
熱融着性樹脂層4の具体的な層構成としては、例えば、図1~図4に示される積層構成において、バリア層3側から順に、最もバリア層3側に位置しているバリア側層41としてのランダムポリプロピレン/中間層42としてのブロックポリプロピレン/最表面に位置している表面層43としてのランダムポリプロピレンが積層された3層構成;例えば図5に示される積層構成において、最もバリア層3側に位置しているバリア側層41としての酸変性ポリプロピレン/バリア側層41と中間層42との間に位置する層44としてのランダムポリプロピレン/中間層42としてのブロックポリプロピレン/最表面に位置している表面層43としてのランダムポリプロピレンが積層された4層構成層構成などが挙げられる。後述の接着層5を有していない場合、バリア側層41は、バリア層3との密着性を高める観点から、前述の酸変性ポリオレフィンにより構成されていることが好ましい。バリア側層41と中間層42との間に位置する層44の厚さとしては、好ましくは2~20μm程度、より好ましくは4~12μm程度が挙げられる。また、バリア側層41と中間層42との間に位置する層44の軟化点としては、好ましくは80~120℃程度、より好ましくは90~110℃程度が挙げられる。
中間層42を構成するブロックポリプロピレンにおいて、プロピレン単位の割合は、好ましくは50mol%~99mol%程度、より好ましくは80mol%~99mol%程度が挙げられる。また、表面層43またはバリア側層41のランダムポリプロピレンにおいて、プロピレン単位の割合は、好ましくは50mol%~99mol%程度、より好ましくは80mol%~99mol%程度が挙げられる。
本発明において、電池用包装材料の成形性を高める観点からは、熱融着性樹脂層の表面には、滑剤が付着していることが好ましい。滑剤としては、特に制限されないが、好ましくはアミド系滑剤が挙げられる。アミド系滑剤の具体例としては、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドの具体例としては、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。置換アミドの具体例としては、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミドなどが挙げられる。また、メチロールアミドの具体例としては、メチロールステアリン酸アミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸ビスアミドの具体例としては、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。脂肪酸エステルアミドの具体例としては、ステアロアミドエチルステアレートなどが挙げられる。また、芳香族系ビスアミドの具体例としては、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミドなどが挙げられる。滑剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
熱融着性樹脂層4の表面に滑剤が存在する場合、その存在量としては、特に制限されないが、温度24℃、相対湿度60%の環境において、好ましくは約3mg/m2以上、より好ましくは4~15mg/m2程度、さらに好ましくは5~14mg/m2程度が挙げられる。
熱融着性樹脂層4の中には、滑剤が含まれていてもよい。また、熱融着性樹脂層4の表面に存在する滑剤は、熱融着性樹脂層4を構成する樹脂に含まれる滑剤を滲出させたものであってもよいし、熱融着性樹脂層4の表面に滑剤を塗布したものであってもよい。
また、熱融着性樹脂層4の全体としての厚さとしては、熱融着性樹脂層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、電解液が浸透した熱融着性樹脂層同士のヒートシール強度が特に高い電池用包装材料とする観点から、下限は、好ましくは約10μm以上、約15μm以上、約20μm以上、約30μm以上が挙げられ、上限は、好ましくは約90μm以下、より好ましくは約80μm以下が挙げられる。熱融着性樹脂層の厚さの好ましい範囲としては、10~90μm程度、10~80μm程度、15~90μm程度、15~80μm程度、20~90μm程度、20~80μm程度、30~90μm程度、30~80μm程度が挙げられる。
[接着層5]
本発明の電池用包装材料において、接着層5は、バリア層3と熱融着性樹脂層4を強固に接着させるために、これらの間に必要に応じて設けられる層である。
接着層5は、バリア層3と熱融着性樹脂層4とを接着可能である樹脂によって形成される。接着層5の形成に使用される樹脂としては、その接着機構、接着剤成分の種類などは、接着剤層2で例示した接着剤と同様のものが使用できる。また、接着層5の形成に使用される樹脂としては、前述の熱融着性樹脂層4で例示したポリオレフィン、環状ポリオレフィン、カルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂も使用できる。バリア層3と熱融着性樹脂層4との密着性に優れる観点から、ポリオレフィンとしては、カルボン酸変性ポリオレフィンが好ましく、カルボン酸変性ポリプロピレンが特に好ましい。すなわち、接着層5を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいても含んでいなくてもよいが、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。接着層5を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。ただし、酸変性度が低いとピークが小さくなり検出されない場合がある。その場合は核磁気共鳴分光法にて分析可能である。
さらに、電池用包装材料の厚さを薄くしつつ、成形後の形状安定性に優れた電池用包装材料とする観点からは、接着層5は、酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物であってもよい。酸変性ポリオレフィンとしては、好ましくは、熱融着性樹脂層4で例示したカルボン酸変性ポリオレフィン、カルボン酸変性環状ポリオレフィンと同じものが例示できる。
また、硬化剤としては、酸変性ポリオレフィンを硬化させるものであれば、特に限定されない。硬化剤としては、例えば、エポキシ系硬化剤、多官能イソシアネート系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤などが挙げられる。
エポキシ系硬化剤は、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されない。エポキシ系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ樹脂が挙げられる。
多官能イソシアネート系硬化剤は、2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば、特に限定されない。多官能イソシアネート系硬化剤の具体例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、これらをポリマー化やヌレート化したもの、これらの混合物や他ポリマーとの共重合物などが挙げられる。
カルボジイミド系硬化剤は、カルボジイミド基(-N=C=N-)を少なくとも1つ有する化合物であれば、特に限定されない。カルボジイミド系硬化剤としては、カルボジイミド基を少なくとも2つ以上有するポリカルボジイミド化合物が好ましい。
オキサゾリン系硬化剤は、オキサゾリン骨格を有する化合物であれば、特に限定されない。オキサゾリン系硬化剤としては、具体的には、日本触媒社製のエポクロスシリーズなどが挙げられる。
接着層5によるバリア層3と熱融着性樹脂層4との密着性を高めるなどの観点から、硬化剤は、2種類以上の化合物により構成されていてもよい。
接着層5を形成する樹脂組成物における硬化剤の含有量は、0.1~50質量%程度の範囲にあることが好ましく、0.1~30質量%程度の範囲にあることがより好ましく、0.1~10質量%程度の範囲にあることがさらに好ましい。
接着層5の厚さについては、接着層としての機能を発揮すれば特に制限されないが、接着剤層2で例示した接着剤を用いる場合であれば、好ましくは1~10μm程度、より好ましくは1~5μm程度が挙げられる。また、熱融着性樹脂層4で例示した樹脂を用いる場合であれば、好ましくは2~50μm程度、より好ましくは10~45μm、さらに好ましくは20~45μm程度が挙げられる。また、酸変性ポリオレフィンと硬化剤との硬化物である場合であれば、好ましくは約30μm以下、より好ましくは0.1~20μm程度、さらに好ましくは0.5~5μm程度が挙げられる。なお、接着層5が酸変性ポリオレフィンと硬化剤を含む樹脂組成物の硬化物である場合、当該樹脂組成物を塗布し、加熱などにより硬化させることにより、接着層5を形成することができる。
[表面被覆層6]
本発明の電池用包装材料においては、意匠性、耐電解液性、耐擦過性、成形性の向上などを目的として、必要に応じて、基材層1の上(基材層1のバリア層3とは反対側)に、必要に応じて、表面被覆層6を設けてもよい。表面被覆層6は、電池を組み立てた時に、最外層に位置する層である。
表面被覆層6は、例えば、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などにより形成することができる。表面被覆層6は、これらの中でも、2液硬化型樹脂により形成することが好ましい。表面被覆層6を形成する2液硬化型樹脂としては、例えば、2液硬化型ウレタン樹脂、2液硬化型ポリエステル樹脂、2液硬化型エポキシ樹脂などが挙げられる。また、表面被覆層6には、添加剤を配合してもよい。
添加剤としては、例えば、粒径が0.5nm~5μm程度の微粒子が挙げられる。添加剤の材質については、特に制限されないが、例えば、金属、金属酸化物、無機物、有機物などが挙げられる。また、添加剤の形状についても、特に制限されないが、例えば、球状、繊維状、板状、不定形、バルーン状などが挙げられる。添加剤として、具体的には、タルク、シリカ、グラファイト、カオリン、モンモリロイド、モンモリロナイト、合成マイカ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、ゼオライト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化セリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸リチウム、安息香酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、アルミナ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ類、高融点ナイロン、架橋アクリル、架橋スチレン、架橋ポリエチレン、ベンゾグアナミン、金、アルミニウム、銅、ニッケルなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の中でも、分散安定性やコストなどの観点から、好ましくはシリカ、硫酸バリウム、酸化チタンが挙げられる。また、添加剤には、表面に絶縁処理、高分散性処理などの各種表面処理を施しておいてもよい。
表面被覆層中の添加剤の含有量としては、特に制限されないが、好ましくは0.05~1.0質量%程度、より好ましくは0.1~0.5質量%程度が挙げられる。
表面被覆層6を形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、表面被覆層6を形成する2液硬化型樹脂を基材層1の一方の表面に塗布する方法が挙げられる。添加剤を配合する場合には、2液硬化型樹脂に添加剤を添加して混合した後、塗布すればよい。
表面被覆層6の厚さとしては、表面被覆層6としての上記の機能を発揮すれば特に制限されないが、例えば、0.5~10μm程度、好ましくは1~5μm程度が挙げられる。
3.電池用包装材料の製造方法
本発明の電池用包装材料の製造方法については、所定の組成の各層を積層させた積層体が得られる限り、特に制限されない。すなわち、本発明の電池用包装材料の製造方法においては、少なくとも、基材層と、バリア層と、熱融着性樹脂層とがこの順となるように積層して積層体を得る工程を備えており、熱融着性樹脂層として、電池用包装材料の熱融着性樹脂層側が互いに接触するように重ね合わせ、前記の条件で熱融着性樹脂層同士を熱融着させた場合に、熱融着部分の下記幅の方向及び厚み方向に平行となる断面を観察すると、一方側の前記熱融着性樹脂層が、他方側の前記熱融着性樹脂層側に互いに突出した形状となるものを用いる。積層体の各層の構成については、前述の通りである。
本発明の電池用包装材料の製造方法の一例としては、以下の通りである。まず、基材層1、接着剤層2、バリア層3が順に積層された積層体(以下、「積層体A」と表記することもある)を形成する。積層体Aの形成は、具体的には、基材層1又は必要に応じて表面が化成処理されたバリア層3に接着剤層2の形成に使用される接着剤を、グラビアコート法、ロールコート法などの塗布方法で塗布・乾燥した後に、当該バリア層3又は基材層1を積層させて接着剤層2を硬化させるドライラミネート法によって行うことができる。
次いで、積層体Aのバリア層3上に、接着層5及び熱融着性樹脂層4をこの順になるように積層させる。例えば、(1)積層体Aのバリア層3上に、接着層5及び熱融着性樹脂層4を共押出しすることにより積層する方法(共押出しラミネート法)、(2)別途、接着層5と熱融着性樹脂層4が積層した積層体を形成し、これを積層体Aのバリア層3上にサーマルラミネート法により積層する方法、(3)積層体Aのバリア層3上に、接着層5を形成させるための接着剤を押出し法や溶液コーティングし、高温で乾燥さらには焼き付ける方法などにより積層させ、この接着層5上に予めシート状に製膜した熱融着性樹脂層4をサーマルラミネート法により積層する方法、(4)積層体Aのバリア層3と、予めシート状に製膜した熱融着性樹脂層4との間に、溶融させた接着層5を流し込みながら、接着層5を介して積層体Aと熱融着性樹脂層4を貼り合せる方法(サンドイッチラミネート法)などが挙げられる。
表面被覆層6を設ける場合には、基材層1のバリア層3とは反対側の表面に、表面被覆層6を積層する。表面被覆層6は、例えば表面被覆層6を形成する上記の樹脂を基材層1の表面に塗布することにより形成することができる。なお、基材層1の表面にバリア層3を積層する工程と、基材層1の表面に表面被覆層6を積層する工程の順番は、特に制限されない。例えば、基材層1の表面に表面被覆層6を形成した後、基材層1の表面被覆層6とは反対側の表面にバリア層3を形成してもよい。
上記のようにして、必要に応じて設けられる表面被覆層6/基材層1/必要に応じて設けられる接着剤層2/必要に応じて表面が化成処理されたバリア層3/接着層5/熱融着性樹脂層4からなる積層体が形成されるが、接着剤層2又は接着層5の接着性を強固にするために、さらに、熱ロール接触式、熱風式、近又は遠赤外線式などの加熱処理に供してもよい。このような加熱処理の条件としては、例えば150~250℃で1分間~5分間が挙げられる。
本発明の電池用包装材料において、積層体を構成する各層は、必要に応じて、製膜性、積層化加工、最終製品2次加工(パウチ化、エンボス成形)適性などを向上又は安定化するために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理などの表面活性化処理を施していてもよい。
4.電池用包装材料の用途
本発明の電池用包装材料は、正極、負極、電解質などの電池素子を密封して収容するための包装体に使用される。すなわち、本発明の電池用包装材料によって形成された包装体中に、少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を収容して、電池とすることができる。
具体的には、少なくとも正極、負極、及び電解質を備えた電池素子を、本発明の電池用包装材料で、前記正極及び負極の各々に接続された金属端子が外側に突出させた状態で、電池素子の周縁にフランジ部(熱融着性樹脂層同士が接触する領域)が形成できるようにして被覆し、前記フランジ部の熱融着性樹脂層同士を熱融着して密封させることによって、電池用包装材料を使用した電池が提供される。なお、本発明の電池用包装材料により形成された包装体中に電池素子を収容する場合、本発明の電池用包装材料の熱融着性樹脂部分が内側(電池素子と接する面)になるようにして、包装体を形成する。
本発明の電池用包装材料は、一次電池、二次電池のいずれに使用してもよいが、好ましくは二次電池である。本発明の電池用包装材料が適用される二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシターなどが挙げられる。これらの二次電池の中でも、本発明の電池用包装材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池が挙げられる。
本発明の電池用包装材料は、高温環境で熱融着性樹脂層に電解液が接触し、熱融着性樹脂層に電解液が付着した状態で熱融着性樹脂層同士が熱融着された場合にも、熱融着によって高いシール強度を発揮する。このため、本発明の電池用包装材料は、高温環境でエージング工程が行われる、車両用電池やモバイル機器用電池に用いられる電池用包装材料として、特に好適に用いることができる。
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
基材層としての二軸延伸ナイロンフィルム(厚み15μm)の表面に、両面に化成処理を施したアルミニウム箔(厚み35μm)からなるバリア層をドライラミネート法により積層させた。具体的には、アルミニウム箔の一方面に、2液型ウレタン接着剤(ポリオール化合物と芳香族イソシアネート系化合物)を塗布し、バリア層上に接着剤層(厚さ3μm)を形成した。次いで、バリア層上の接着剤層と基材層を積層した後、エージング処理を実施することにより、基材層/接着剤層/バリア層の積層体を作製した。なお、アルミニウム箔の化成処理は、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、及びリン酸からなる処理液をクロムの塗布量が10mg/m2(乾燥重量)となるように、ロールコート法によりアルミニウム箔の両面に塗布し、焼付けすることにより行った。
次いで、前記積層体のバリア層上に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa層、融点160℃、軟化点95℃、230℃でのメルトマスフローレート6g/10分、厚さ15μm)を溶融状態で押し出しすることにより、バリア層上に熱融着性樹脂層4のバリア側層を形成した。この上から、ランダムポリプロピレン(R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、4.5μm)、ブロックポリプロピレン(中間層、B-PP層、融点162℃、軟化点110℃、230℃でのメルトマスフローレート2g/10分、21μm)、ランダムポリプロピレン(表面層、R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、4.5μm)が順に積層された3層構成の積層フィルムからなる熱融着性樹脂層をサンドイッチラミネート法により積層して、表1に記載の4層の熱融着性樹脂層を備える電池用包装材料を得た。
(実施例2)
実施例1と同様にして、基材層/接着剤層/バリア層の積層体を作製した。なお、アルミニウム箔の化成処理についても、実施例1と同様にして行った。次に、前記積層体のバリア層側と、ランダムポリプロピレン(バリア側層、R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、12μm)、ブロックポリプロピレン(中間層、B-PP層、融点162℃、軟化点110℃、230℃でのメルトマスフローレート2g/10分、56μm)、ランダムポリプロピレン(表面層、R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、12μm)が順に積層された3層構成の積層フィルムとをドライラミネート法により積層させた。具体的には、アルミニウム箔の一方面に、2液硬化型のポリオレフィン系接着剤(酸変性ポリオレフィン化合物とエポキシ系化合物)を塗布し、バリア層上に接着層(厚さ3μm)を形成した。次いで、バリア層上の接着層と前記3層構成の積層フィルムを積層した後、エージング処理を実施することにより、表1に記載の積層構成を備える電池用包装材料を得た。
(比較例1)
実施例1と同様にして、基材層/接着剤層/バリア層の積層体を作製した。なお、アルミニウム箔の化成処理についても、実施例1と同様にして行った。次に、前記積層体のバリア層上に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa層、融点160℃、軟化点95℃、230℃でのメルトマスフローレート6g/10分、厚さ40μm)とランダムポリプロピレン(R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、40μm)がこの順となるように溶融状態で共押し出しすることにより、2層からなる熱融着性樹脂層を形成して、表1に記載の積層構成を備える電池用包装材料を得た。
(比較例2)
実施例1と同様にして、基材層/接着剤層/バリア層の積層体を作製した。なお、アルミニウム箔の化成処理についても、実施例1と同様にして行った。次に、前記積層体のバリア層上に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa層、融点160℃、軟化点95℃、230℃でのメルトマスフローレート6g/10分、厚さ20μm)とランダムポリプロピレン(R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、30μm)と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PPa層、融点160℃、軟化点95℃、230℃でのメルトマスフローレート6g/10分、厚さ20μm)がこの順となるように溶融状態で共押し出しすることにより、3層からなる熱融着性樹脂層を形成して、表1に記載の積層構成を備える電池用包装材料を得た。
(比較例3)
実施例1と同様にして、基材層/接着剤層/バリア層の積層体を作製した。なお、アルミニウム箔の化成処理についても、実施例1と同様にして行った。次に、前記積層体のバリア層側と、ランダムポリプロピレン(R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、4.5μm)、ブロックポリプロピレン(B-PP層、融点162℃、軟化点110℃、230℃でのメルトマスフローレート2g/10分、21μm)、ランダムポリプロピレン(R-PP層、融点140℃、軟化点98℃、230℃でのメルトマスフローレート7g/10分、4.5μm)が順に積層された3層構成の積層フィルムとをドライラミネート法により積層させた。具体的には、アルミニウム箔の一方面に、2液硬化型のポリオレフィン系接着剤(酸変性ポリオレフィン化合物とエポキシ系化合物)を塗布し、バリア層上に接着剤層(軟化点70℃、厚さ3μm)を形成した。次いで、バリア層上の接着層と前記3層構成の積層フィルムを積層した後、エージング処理を実施することにより、表1に記載の積層構成を備える電池用包装材料を得た。
<熱融着部分の断面構造の観察>
各電池用包装材料を、熱融着性樹脂層が内側となるようにして、中心部で折り返して、端部の2辺を熱融着させることで袋状に成形した。次に、袋状にした各電池用包装材料のヒートシールされていない残りの端部1辺(開口部)から電解液(LiPF6の濃度が1mol/Lとなるようにエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートを1:1:1で混合した液体に溶解させている電解液)を注ぎ、当該1辺をヒートシールして電解液を密封した。次に85℃環境下に24時間保管することで熱融着性樹脂層に電解液を含浸させた。次に、袋状となっている電池用包装材料の端部の1辺を切り落とし、切り落とした側を下向きにして10秒間静置することで電解液を排出した後に、残り2辺のシール部を切り落とした。次に、熱融着性樹脂層側が互いに向き合い接触するように重ね合わせた。次に、電池用包装材料の周縁部において、一方の前記基材層側から他方の前記基材層側に向かって、25℃環境下、幅7mm、温度190℃、圧力2.0MPa、3秒間の条件で熱と圧力を加えて、熱融着性樹脂層同士を熱融着させて、前記熱融着部分を形成した。次に、ミクロトームを用いて、熱融着部分を厚み方向に切断し、得られた断面を顕微鏡で観察した。実施例2及び比較例1の断面の顕微鏡写真をそれぞれ図9(実施例2)及び図10(比較例1)に示す。また、熱融着部分の断面構造の評価を表1示す。顕微鏡はキーエンス社製VK-9710を使用した。
<シール強度の測定>
JIS K7127:1999の規定に準拠して、25℃環境における電池用包装材料のシール強度を次のようにして測定した。具体的には、図6に示すように、まず、各電池用包装材料を100mm(TD:Transverse Direction)×200mm(MD:Machine Direction)に裁断した(図6a)。次に、各電池用包装材料を中心P(MDの中間)の位置で折り返し、互いに対向する2辺の熱融着性樹脂層同士を熱融着して袋状にした(図6bの斜線部が熱融着部である)。次に、熱融着されていない1辺の開口部から、電解液(LiPF6 の濃度が1mol/Lとなるようにエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートを1:1:1で混合した液体に溶解させている電解液)を封入して、85℃環境下に24時間保管することで熱融着性樹脂層に電解液を含浸させた(図6c)。次に、図6cの二点鎖線の位置で裁断して、短冊片を得ると共に、電解液を排出させた(図6c、d)。得られた短冊片の熱融着性樹脂層同士を合わせ、MDの端部から10mm程度内側において、シール幅7mm、温度190℃、面圧1.0MPa、3秒間の条件で熱融着性樹脂層同士を熱融着した(図6e)。図6eにおいて、斜線部Sが熱融着されている部分である。次に、TDの幅が15mmとなるようにして、MDに裁断(図6eの二点鎖線の位置で裁断)して試験片を得た(図6f)。次に、試験片13を25℃の温度環境で2分間放置し、25℃の温度環境において、引張り試験機(島津製作所製、AG-Xplus(商品名))で熱融着部の熱融着性樹脂層を300mm/分の速度で15mm剥離させた(図7)。剥離時の最大強度をシール強度(N/15mm)とした。チャック間距離は、50mmである。結果を表1に示す。なお、シール強度の測定においては、図7に示される熱融着界面Aで試験片13が剥離(破壊)される場合と、熱融着界面Aとは異なる部分(例えば、図7のBの位置)で試験片13が破断する場合とがある。試験片13が破断した場合には、破断強度をシール強度として表1に記載した。ここでのMDとは包装材料製造時の巻取り方向と平行な方向であり、TDとは巻取り方向と包装材料の厚み方向と垂直な方向である。
表1において、ONyは2軸延伸ナイロンフィルム、DLはドライラミネート法により形成された接着剤層、ALMはアルミニウム箔、PPaは無水マレイン酸変性ポリプロピレン、R-PPはランダムポリプロピレン、B-PPはブロックポリプロピレンを意味している。また、各層の後ろの数値は、厚み(μm)を意味しており、例えば「ONy15」との表記は、「厚さ15μmの2軸延伸ナイロンフィルム」を意味している。
実施例1,2の電池用包装材料は、熱融着性樹脂層側が互いに接触するように重ね合わせ、熱融着性樹脂層同士を熱融着させた場合に、熱融着部分の幅の方向及び厚み方向に平行となる断面を観察すると、一方側の前記熱融着性樹脂層が、他方側の前記熱融着性樹脂層側に互いに突出した形状となっており、電解液が浸透した熱融着性樹脂層同士のヒートシール強度が高かった。これは、3層以上により構成された熱融着性樹脂層のうち、ブロックポリプロピレンにより構成された層が、熱融着性樹脂層のうち、最もバリア層側に位置している層と、バリア層と反対側の最表面に位置している層との間に位置しており、バリア層とブロックポリプロピレンにより構成された層との間に位置している層の軟化点が、ブロックポリプロピレンにより構成された層の軟化点よりも低く、さらに、バリア層と前記ブロックポリプロピレンにより構成された層との厚み方向の距離が14μm以上であることに起因して、このような形状になっていると考えられる。
一方、比較例1~3の電池用包装材料は、熱融着性樹脂層がこのような特定の構成を備えていない。比較例1~3では、熱融着性樹脂層側が互いに接触するように重ね合わせ、熱融着性樹脂層同士を熱融着させた場合に、熱融着部分の幅の方向及び厚み方向に平行となる断面を観察すると、熱融着性樹脂層同士を熱融着させた場合界面が平坦であり、実施例1,2に比して、電解液が浸透した熱融着性樹脂層同士のヒートシール強度が低かった。