以下、図面を参照しつつ、本開示に係る眼科撮影装置、および、画像処理プログラムの実施形態を説明する。
眼科撮影装置は、被検眼の正面画像(反射画像)を取得する。眼科撮影装置は、例えば、眼底の正面画像を取得する装置であってもよいし、前眼部の正面画像を取得する装置であってもよい。本開示において、眼科撮影装置は、撮影光学系と、画像取得部(画像生成部)と、位置調整部と、画像処理部と、を有していてもよい。
<撮影光学系>
撮影光学系は、眼底画像の正面画像を取得するために利用される主要な光学系である。撮影光学系は、照射光学系と、受光光学系と、を含む。照射光学系は、対物レンズ系を介して,光源からの照明光を被検眼に照射する。受光光学系は、対物レンズ系を介して,被検眼による照明光の反射光を受光する受光素子を有する。
対物レンズ系は、少なくとも1つのレンズを含む。対物レンズ系には、レンズ等の屈折要素のみが含まれていてもよいし、レンズの他にミラー等の反射要素が含まれていてもよい。
<画像取得部>
画像取得部(画像生成部)は、被検眼の正面画像を、受光素子からの信号に基づいて取得(生成)する。例えば、SLOのような走査型の眼科撮影装置においては、光スキャナによって1フレーム分の照明光の走査が行われる度に、受光素子から出力される1フレーム分の受光信号が画像取得部によって処理され、その結果として、1フレームの正面画像が生成される。
画像取得部によって取得される正面画像は、撮影画像であってもよいし、観察画像であってもよい。撮影画像は、例えば、レリーズ時にメモリに記憶される静止画像である。レリーズのタイミングは、例えば、検者による所定の操作のタイミングであってもよいし、撮影プログラムにおいて予め規定されたタイミングであってもよい。観察画像は、受光素子からの信号に基づいて随時取得され,動画像としてモニタに表示される正面画像である。観察画像と撮影画像とは、互いに異なる波長域の光を照明光とする画像であってもよい。
画像取得部によって取得される正面画像には、対物レンズ系による照明光の反射像が、アーチファクトの一種として生じてしまう場合がある。以下、この対物レンズ系による反射像を、「対物反射像」と称す。
<位置調整部>
位置調整部は、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を変更して、正面画像において対物反射像が形成される位置を、正面画像中の被検眼の組織(例えば、前眼部、眼底のいずれか等)に対して調整するために利用される。撮影光学系の光軸と視軸との位置関係が変化すると、被検眼の正面画像における被検眼の組織と撮影光学系の光軸との位置関係が変化する。一方、正面画像における対物反射像の位置は、撮影光学系の光軸と視軸との位置関係に関わらず、撮影光学系の光軸に対して一定である。このため、撮影光学系の光軸と視軸との位置関係に応じて、正面画像における対物反射像の位置が被検眼の組織に対して変化する。
位置調整部は、固視光学系を含んでいてもよいし、撮影光学系駆動機構を含んでいてもよいし、それら両方を含んでいてもよい。眼底撮影装置においては、位置調整部は、撮影光学系の光軸の向きと,被検眼の視軸の向きと,の角度を調整する。
固視光学系は、被検眼に対して固視標を呈示することで、固視を誘導する。固視光学系は、内部固視光学系であってもよいし、外部固視光学系(外部固視灯)であってもよいし、それら両方を含んでいてもよい。内部固視光学系は、装置の筐体内に配置され、被検眼に対して固視標を呈示する。外部固視光学系は、筐体外に配置され、被検眼とは左右反対の眼に対して固視標を呈示する。固視光学系は、撮影光学系の光軸と交差する方向に関し、固視標の呈示位置を複数の位置に切換え可能であってもよい。このような固視光学系における固視標には、固視灯が利用されてもよいし、LCD等のディスプレイの画面が利用されてもよい。また、固視光学系は、照射光学系と兼用されていてもよい。例えば、光源から間欠的に点灯される可視光が、固視光束(換言すれば、固視標)として利用されてもよい。詳細は、後述する。
撮影光学系駆動機構は、被検眼Eの視軸と,撮影光学系の光軸(撮影光軸ともいう)と,の位置関係を変化させる駆動機構である。眼底撮影装置においては、撮影光学系駆動機構は、被検眼を基準に撮影光学系を俯仰または旋回させる駆動機構であってもよい。駆動機構には、制御信号に基づいて撮影光学系を変位させるアクチュエータが含まれていてもよい。撮影光学系駆動機構によって撮影光学系が変位される構成では、撮影光学系が変位したときも、固視標の呈示位置が空間に対し一定位置に配置されることが望ましい。例えば、固視標呈示部がアクチュエータと連動して制御されてもよい。この場合、撮影光学系の変位と逆相に、固視標の呈示位置が変位されてもよい。また、撮影光学系とは独立に設けられており、空間に対し固定的に配置された外部固視灯によって固視が誘導される構成でもよい。
<画像処理部>
画像処理部は、第1正面画像と、第2正面画像と、の少なくとも2枚に基づいて合成正面画像を得る(図1,図2参照)。合成正面画像は、第1正面画像と第2正面画像との少なくとも2枚が合成された画像であってもよい。第1正面画像と、第2正面画像と、は、何れも、画像取得部によって取得される正面画像である。第2正面画像は、被検眼の組織に対する対物反射像の位置が第1正面画像とは異なり,且つ,第1正面画像において対物反射像が位置する領域を含んでいる。なお、対物反射像は、図1および図2において、符号Sで示す。第2正面画像は、第1正面画像において対物反射像が形成された領域における,被検眼の組織の情報を持っている。故に、第1正面画像において対物反射像が含まれる領域を、その領域と被検眼の組織に対する位置関係が同じ画像領域であって,第2正面画像に含まれる画像領域によって、補完することができる。結果として、合成正面画像において対物反射像を抑制できる。第1正面画像と第2正面画像との「合成」は、「第1正面画像において対物反射像を含む領域を、その領域と被検眼の組織に対する位置関係が同じ画像領域であって,第2正面画像に含まれる画像領域によって、補完すること」と換言されてもよい。また、合成正面画像は、第1正面画像と第2正面画像とを少なくとも含む複数枚の正面画像の合成結果であればよい。つまり、第1正面画像と第2正面画像の他に、更に、1枚以上の正面画像を合成することで合成正面画像が形成されてもよい。なお、「第1正面画像において対物反射像が含まれる領域」は、対物反射の影響を受けた主だった画素を含む領域であってもよい。例えば、対物反射像における輝度分布の2σ(σ=標準偏差)程度の大きさを持つ領域であってもよいし、それ以上、又は、それ以下であってもよい。
第1正面画像と第2正面画像とは、撮影範囲が実質的に同一な関係にある画像であってもよい。ここでいう実質的に同一な場合には、第1正面画像と第2正面画像との撮影範囲が完全同一である場合のみならず、両者の撮影範囲にズレがある場合が含まれてもよい。例えば、第1正面画像と第2正面画像との重複部分の面積が、各画像の面積の半分以上である場合が、実質的に同一な場合に含まれてもよい。第1正面画像と第2正面画像とは、被検眼において同じ深度の部位における正面画像であってもよい。また、第1正面画像と第2正面画像とは、被検眼において同じ深度の部位における正面画像であってもよい。例えば、眼底撮影装置の場合は、各正面画像は、網膜表面の画像であってもよい。また、本開示が前眼部カメラに適用される場合は、各正面画像は、前眼部表面の画像であってもよい。
合成に際し、第1正面画像と第2正面画像との位置合わせ(イメージレジストレーション)が画像処理部によって行われてもよい。ここでいう位置合わせには、平行移動,回転,拡大縮小,アフィン変換,および,非線形変形,等の少なくとも何れかが含まれていてもよい。位置合わせには、例えば、正面画像における被検眼の特徴部分(例えば、眼底正面画像においては、血管、黄斑、乳頭、の何れか等)の位置情報、正面画像の位相情報の何れか等が利用されてもよい。また、第1正面画像と第2正面画像と間におけるズレ量は、既知の値である場合があり得る。例えば、ズレ量は、第1正面画像の撮影時と,第2正面画像の撮影時と,の間における、撮影光学系の光軸と視軸との位置関係の変位量に応じた値である。この変位量が予め定められた値であってもよい。また、位置関係の変位量は、センサによる検出量であってもよい。画像処理部は、このような値に基づくズレ量を用いて第1正面画像と第2正面画像との位置合わせを行ってもよい。
なお、第1正面画像と第2正面画像とは互いに位置合わせした際に、対物反射像同士が完全に分離する関係であることが好ましいが、必ずしもこれに限られるものではない。上記の位置合わせによって、対物反射像同士が一部重なり合う場合であっても、第1正面画像において対物反射像が形成された領域の少なくとも一部については、第2正面画像によって補完できるので、合成正面画像において、対物反射像が元の画像に比べて軽減される。
正面画像には、光学系に起因する歪みが含まれており、この歪みは、画像の周辺部ほど大きくなっている。画像の各領域における歪の程度を示す情報(歪み情報)は、設計値、または、キャリブレーション等の結果として、予め取得可能である。画像処理部は、歪み情報に基づいて、各正面画像における歪みを補正したうえで、上記の位置合わせ,および,合成処理を実行してもよい。これにより良好な画質の合成正面画像が形成され易くなる。
<「置き換え」による合成>
例えば、第1正面画像において対物反射像を含む領域(置換対象領域)が、第2正面画像の一部の画像領域と置き換えられることで、第1正面画像と第2正面画像とが「合成(または「補完」)」されてもよい(図1参照)。置き換えに利用される第2正面画像の一部は、第1正面画像における置換対象領域と、被検眼の組織に対する位置が同一となる画像領域であってもよい。この場合、対物反射像の一部または全部が被検眼の組織によって置き換えられた第1正面画像が、合成正面画像として得られる。
画像処理部は、第1正面画像から対物反射像を画像処理によって検出し、検出結果に応じて置換対象領域を特定してもよい。また、正面画像において、対物反射像は、主に、撮影光学系の光軸近傍に生じるので、第1正面画像における置換対象領域は、光軸近傍の一定範囲に予め設定されていてもよい。また、第2正面画像において、第1正面画像の置換対象領域と置き換える画像領域は、例えば、次のようにして求めてもよい。即ち、画像処理部は、第1正面画像と第2正面画像との位置合わせにより、第1正面画像と、第2正面画像との位置情報の対応付を行い、第1正面画像の置換対象領域との対応箇所を、第2正面画像上で求めてもよい。但し、必ずしもこの手法に限定されるものではない。
画像処理部は、第1正面画像における置換対象領域の大きさ,および,第2正面画像において置換対象領域と置き換えられる画像領域の大きさ、を対物反射像の大きさに応じて設定してもよい。ここで、対物反射像の大きさは、視度の調整量,照明光(例えば、レーザー光)の波長域,照明光の出力,および,ゲイン等の撮影条件に応じて変化する。これらの撮影条件の何れかが考慮されて、置換対象領域の大きさ,および,第2正面画像において置換対象領域と置き換えられる画像領域の大きさ,が設定されてもよい。例えば、対物反射像の大きさと撮影条件との関係を示す,関数またはルックアップテーブル等が、キャリブレーションの結果に基づいて予め作成され、装置のメモリに記憶されていてもよい。その関数またはルックアップテーブルを、第1正面画像および第2正面画像の取得時における撮影条件に基づいて参照することで、対物反射像の大きさ(或いは、置換対象領域等の大きさでもよい)を取得してもよい。また、対物反射像の大きさは、第1正面画像または第2正面画像への画像処理によって検出されてもよい。
画像処理部は、第1正面画像と第2正面画像との接合部分における輝度変化を滑らかにする処理(例えば、クロスフェード処理)を、第1正面画像と第2正面画像とを「合成」する際に実行してもよい。
<加算(主には、加算平均)による合成>
画像処理部による第1正面画像と第2正面画像とを「合成(または「補完」)」する処理には、例えば、第1正面画像と第2正面画像との加算処理が含まれてもよい(図2参照)。なお、単純に画像同士を加算すると、輝度値が飽和することが考えられるので、加算に用いた画像の枚数に応じて輝度値を減少させる平均化処理が、加算処理に伴い、適宜、実行されてもよい。つまり、第1正面画像と第2正面画像とを少なくとも含む複数枚の正面画像の加算平均処理によって、合成正面画像が生成されてもよい。
ここで、合成正面画像が、第1正面画像と第2正面画像とを単純に加算(または加算平均)しただけの画像である場合、合成正面画像において、第1正面画像および第2正面画像における対物反射像の箇所が、その周囲とは大きく異なる輝度で表現されてしまう可能性がある。そこで、例えば、画像処理手段は、第1正面画像と第2正面画像との一方または両方における対物反射像を含む領域に対し、マスク領域を掛け合わせ、そのうえで、加算処理(又は、加算平均処理)を行ってもよい。
マスク領域を対物反射像が含まれる領域に掛け合わせることで、対物反射像が含まれる領域の輝度分布が、背景の輝度にて平坦化される。背景の輝度は、例えば、黒背景の画像であれば、最も低い輝度値であってもよく、白背景の画像であれば、最も高い輝度値であってもよい。対物反射像に対して重ねられるマスク領域は、平坦部を持った2次元窓関数で形成されていてもよい。平坦部の全長は、例えば、対物反射像の輝度分布の2σ(σ=標準偏差)程度であってもよいし、それ以上、それ以下であってもよい。2次元窓関数は、区間外から平坦部までが連続的に変化した形状であることが好ましい。このような2次元窓関数の種類は、適宜選択されてもよい。例えば、図3に示すように、Butterworth窓
であってもよい。また、台形状の窓であってもよい。詳細は後述するが、区間外から平坦部までが連続的に変化した形状であることによって、合成正面画像において、第1正面画像および第2正面画像における対物反射像の箇所が目立ちにくくなり得る。対物反射像に重ねられるマスクのサイズまたは形状は、固定であってもよいし、対物反射像のサイズまたは形状に応じて調整されてもよい。対物反射像のサイズまたは形状は、正面画像から直接検出されてもよいし、前述の撮影条件に基づいて推定されてもよい。
マスク処理後における,第1正面画像および第2正面画像の重複部分を、単純に加算した場合(単純に加算平均した場合)、マスク領域がかけ合わされた箇所が、加算後の画像において目立ってしまう場合がありうる。そこで、画像処理部は、例えば、第1正面画像と第2正面画像との加算を、領域毎に加算比率を異ならせて行うことで(換言すれば、加重平均することで)、合成正面画像を得てもよい。少なくとも第1正面画像と第2正面画像との重複部分においては、マスク領域(マスク領域が掛け合わせられた領域)と、その周囲とにおいて、互いに異なる加算比率が設定される。
例えば、加算比率は、領域毎の平均化の重み付けを示す値であってもよい。一例として、図2の加算比率分布において示される加算比率は、マスク領域がかけ合わされた後の第1正面画像と第2正面画像との単純加算画像の輝度値を、除算する値である。なお、除算後の値が、合成正面画像の輝度値となる。
加算比率分布は、例えば、単純加算画像と同様の位置関係にて、第1正面画像および第2正面画像におけるマスク同士を加算することで得られる。この場合、加算比率の値は、単純加算画像における第1正面画像と第2正面画像との重複部分については、マスク領域の平坦部で「1」であり、マスク領域の区間外では「2」であり、マスク領域の区間外から平坦部までの移行部では「2」から「1」の間の値となる。また、第1正面画像と第2正面画像とが重なり合わない部分についての加算比率は「1」となる。
但し、加算平均の手法は、必ずしも図2の例に限定されるものではない。例えば、第1正面画像における輝度値と、第2正面画像における輝度値と、にそれぞれ重み付けを行ったうえで、加算が行われることで、合成正面画像を生成してもよい。
以上のような第1正面画像と第2正面画像との加算平均(加重平均)の結果として、マスク領域の痕跡が目立ちにくい合成正面画像が得られる。なお、上述した加算比率の値は、2枚の正面画像の加算平均(加重平均)を行う場合についての一例に過ぎず、合成される正面画像の枚数,および,マスク領域における2次元窓関数の特性に応じて、適宜変更されうる。
但し、上記のようにマスク領域を掛け合わせ(マスク処理)、その領域を他の重複部分とは異なる加算比率で平均化する処理は、加算によって合成正面画像を得るうえで、必ずしも必須ではない。
また、例えば、画像中の被検眼の組織に対して対物反射像の位置が互いに異なる正面画像を、より多くの枚数用いて加算することも、対物反射像を抑制するための有用な手法である。また、画像中の被検眼の組織に対して対物反射像の位置が互いに異なる正面画像を3枚以上用いて加算される場合は、対物反射像の形成位置においても、加算によるノイズ低減効果等(例えば、画像毎に発生位置および強度等が変化するランダムノイズの低減効果)が期待される。
加算によって合成正面画像を生成する場合、必ずしも、第1正面画像と第2正面画像との全体同士が加算される必要はない。第1正面画像と第2正面画像との一方の正面画像についての一部部分のみが切り出され、切り出された範囲が他方の正面画像と加算されてもよい。一方の正面画像において切り出される範囲には、少なくとも他方の正面画像において対物反射像が位置する組織が含まれる。
<正面画像同士の輝度の差を軽減>
画像処理部は、第1正面画像と第2正面画像とのうち少なくとも合成に利用される箇所に対し、画像同士の輝度の差を抑制する処理を行ったうえで、両者を合成してもよい。具体的には、少なくとも一方の画像における、コントラスト,ブライトネス,または,その両方が調整されてもよい。これにより、第1正面画像と第2正面画像との接合部分等における輝度の変化が抑制されるので、接合部分が目立ちにくくなる。
<広範囲な正面画像の生成>
画像処理部は、第1正面画像と第2正面画像との重複部分だけでなく、重複しない部分についても利用して、合成正面画像を、第1正面画像および第2正面画像の何れよりも広範囲な画像として形成してもよい(図4参照)。前述したように、正面画像は光学系による歪みが画像の端ほど大きくなっているので、例えば、各正面画像の端部にあたる一定の領域については除去された状態で合成されてもよい。なお、上記の広範囲な合成正面画像を形成する際に、対物反射像を抑制するために正面画像同士を合成する手法は、加算による手法であってもよいし、置き換えによる手法であってもよい。置き換えによる手法である場合、例えば、画像処理部による第1正面画像と第2正面画像との合成処理には、第1正面画像および第2正面画像において重なりあわない画像領域を、対物反射像を含む領域が置き換えられた一方の正面画像に対して接合させる処理が行われてもよい。
<正面画像の取得動作>
正面画像の取得動作を制御する制御部が、眼科撮影装置に設けられていてもよい。制御部は、第1正面画像,および,第2正面画像の少なくとも一方を取得するために、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を位置調整部の制御によって調整してもよい。また、制御部は、ガイド情報を出力してもよい。勿論、これら両方が併用されてもよい。位置関係の調整制御、又は、ガイド情報は、第1正面画像と前記第2正面画像として撮影される画像において、対物反射像の形成される位置が互いに重なり合わないような位置関係に変位させるためのものであってもよい。ガイド情報は、例えば、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を調整するための動作を、検者または被検者に促す情報であってもよい。例えば、検者に対する操作の案内であってもよい。また、被検者に対し、固視位置の変更を案内する情報であってもよい。このようなガイド情報は、例えば、スピーカから出力される音声情報であってもよいし、モニタに表示されるグラフィカルな情報(例えば、文字情報、図形情報等、詳細は後述する)であってもよいし、これら以外の検者,又は,被検者に伝達される情報であってもよい。
撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係の調整制御,または,ガイド情報の出力制御は、例えば、少なくとも第1正面画像と第2正面画像との何れか一方が撮影されてから、他方が撮影されるまでの期間に実行されてもよい。例えば、何れか一方の正面画像の撮影をトリガとして、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係の調整制御,または,ガイド情報の出力制御が開始されてもよい。勿論、何れの正面画像が取得される前から実行されていてもよい。
撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係の調整制御が行われる場合、制御部は、位置調整部の制御によって撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を切換えつつ、第1正面画像または第2正面画像の何れかを少なくとも含む複数枚の正面画像を撮影してもよい。例えば、制御部は、トリガ信号の入力を契機として、位置調整部を予め定められた駆動範囲で駆動させると共に、駆動の間に、合成正面画像に利用される複数枚の正面画像を撮影し(換言すれば、画像取得部に取得させ)てもよい。このとき、制御部は、例えば、固視標の呈示位置,または,撮影光学系を、予め定められた始点と終点との間で変位させてもよい。また、このとき、固視標の呈示位置,または,撮影光学系は、予め定められた一方向に変位されてもよい。
トリガ信号の入力を契機として、位置調整部の駆動と、複数枚の正面画像の撮影とが実行される場合、合成正面画像の更新表示が行われてもよい。例えば、トリガ信号の入力以降、新たに正面画像が取得される都度、それまでに撮影された1又は複数枚の正面画像との合成正面画像が、画像処理部によって生成され、モニタに表示されてもよい。
各々の正面画像は、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,が予め定められた位置関係となった際に、自動的に撮影されてもよい。また、予め定められた位置関係となった場合にのみ、検者によるレリーズ操作を受け付けて、手動での撮影が可能となる制御が行われてもよい。各場合において、各々の正面画像が撮影される位置関係は、検者によって指定されたものであってもよいし、各合成正面画像に関し、一定であってもよい。検者によって指定される場合、例えば、合成に利用される各正面画像における対物反射像の目標位置を、ある正面画像上(例えば、観察画像上)で指定および登録するステップが、撮影前、或いは、一部の正面画像撮影後に実行されてもよい。撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,が予め定められた位置関係となったか否かは、例えば、位置関係調整部の制御量、または、観察画像として得られる正面画像に基づいて検出されてもよい。
但し、第1正面画像または第2正面画像を含む各々の正面画像を取得するうえで、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係が,予め各正面画像と対応付けられている必要はない。例えば、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係の調整しながら、画像中の被検眼の組織に対して対物反射像の位置が互いに異なる複数枚の正面画像を撮影し、撮影された複数枚の正面画像の中から、合成に利用されるもの(第1正面画像および第2正面画像を含む)を、事後的に決定してもよい。事後的に決定する手法については、後述する。
<モニタに表示されるガイド情報>
ガイド情報は、モニタに表示されるグラフィカルな情報であってもよい。例えば、図5に示すように、ガイド情報は、観察画像上に重畳される情報であってもよい。ガイド情報は、例えば、第1正面画像および第2正面画像のうち、既に撮影されたものにおける対物反射像の位置を示す情報(例えば、グラフィックH)であってもよい。グラフィックHは、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係に応じて観察画像上で変位する。一方、観察画像上の一定位置には、実際の対物反射像が表示されるので、観察画像における対物反射像とグラフィックHとが分離された状態となるように位置関係を調整して撮影を行うことで、合成正面画像に適した一組の正面画像を得ることができる。また、このとき、グラフィックHと共に、観察画像における対物反射像を囲む領域に、グラフィックIがガイド情報として表示されてもよい。グラフィックIは、例えば、グラフィックHが配置されるべきでない領域を示す情報であり、これを避けた位置で撮影されることが好ましい。例えば、制御部は、グラフィックHが、観察画像上の対物反射像から、または、グラフィックHから重ならなくなったことをトリガとして、正面画像を自動的に撮影してもよい。
また、グラフィックHと共に、撮影が予定されている正面画像を得るうえでのグラフィックHの目標位置を示す情報(例えば、グラフィックJ)がガイド情報として示されてもよい。グラフィックJは、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係に関わらず、観察画像上の一定位置に表示される。グラフィックHがグラフィックJに重なるように位置関係を調整して撮影を行うことで、合成正面画像に適した一組の正面画像が得られてもよい。その際、制御部は、グラフィックHがグラフィックJに完全に重なったことをトリガとして、正面画像を自動的に撮影してもよい。
なお、ガイド情報は、第1正面画像および第2正面画像のうち、既に撮影されたものにおける対物反射像の位置が観察画像上の対物反射像から分離されているか否かを、色の切換によって示すような表示態様であってもよい。例えば、観察画像と同時に表示されるグラフィックの色を、等の何れかが切換えられてもよい。
<合成に利用される画像の選択>
上記のように、合成正面画像を得るうえで利用される第1正面画像と第2正面画像とは、上記のような撮影動作の制御結果として得られる画像であってもよいが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、制御部は、予め取得された,被検眼に対する対物反射像の位置が互いに異なる複数枚の正面画像の中から、第1正面画像と,第2正面画像とを、事後的に選択してもよい。このとき、制御部は、正面画像同士の重複部分に,各々の正面画像における対物反射像が位置し,且つ,対物反射像が互いに重なり合わない関係にある2枚の正面画像を、それぞれ、第1正面画像,第2正面画像として、選択してもよい。
<照明光の入射角と眼底形状とに起因する反射像の欠けを抑制>
正面画像が眼底正面画像である場合、眼底正面画像には、照明光の入射角と眼底形状とに起因する反射像(以下、「第2反射像」と称す)が、アーチファクトとして映り込む場合がある。第2反射像の例としては、例えば、図6に示す、黄斑部輪状反射等が挙げられる。黄斑部輪状反射は、黄斑付近の網膜の窪みによって生じる,黄斑を囲むような反射像である。
撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係が互いに異なる2枚の画像は、眼底の各位置に対する照明光の入射角が互いに異なる。このため、第1正面画像と第2正面画像のうち、一方の画像に生じている第2反射像が、他方において生じない場合がありうる。また、このとき一方の画像において生じている第2反射像の一部が、対物反射像と重なっている(条件1)、他方の画像によって置き換えられる(又は、他方と置き換える)領域の境界をまたいでいる(条件2)ことが考えられる。この場合、合成正面画像における第2反射像が、元の正面画像での第2反射像に対して一部欠けた像として表現されてしまう場合が考えられる。
一部が欠けた第2反射像があると、第2反射像がアーチファクトではなく眼底の組織の情報であると、検者に誤解させてしまう可能性が考えられる。また、第2反射像は、眼底正面画像を用いた画像診断において、眼底の形状、加齢の進行状況についての指標として活用される場合がある。このため、合成正面画像においては、第2反射像に欠けが無く完全であるか、或いは、第2反射像が映り込んでいないか、の何れかであることがより好ましいと考えられる。
これに対し、眼科撮影装置は、第2反射像が含まれない合成正面画像,または,元の正面画像に対して欠けの無い第2反射像を含む合成正面画像,を形成するための構成を、有していてもよい。
例えば、眼科撮影装置は、正面画像から第2反射像を検出する検出部を有していてもよい。また、制御部が、検出部による第2反射像の検出結果に基づいて、第1正面画像,および,第2正面画像の少なくとも一方を取得する際の位置関係を調整してもよく、また、ガイド情報を出力してもよい。より詳細には、検出部によって検出される第2反射像の一部が合成正面画像において「欠ける条件」を満たす場合に、位置関係の調整,または,前記ガイド情報の出力が行われてもよい。例えば、「欠ける条件」は、例えば、前述の(条件1)または(条件2)として定義されてもよい。
例えば、制御手段は、対物反射像、或いは、対物反射像を含む領域と置き換えられる画像領域の境界に、第2反射像が含まれていない眼底正面画像を、第1正面画像および第2正面画像として、設定し、取得する構成を有していてもよい。例えば、観察画像に対する検出部による検出の結果、「欠ける条件」を満たすと判定される場合に、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を更に変位させるための制御、或いは、ガイド情報の出力を行うことで、観察画像が「欠ける条件」を満たさない位置関係で、第1正面画像,または,第2正面画像が撮影されてもよい。また、一旦撮影された第1正面画像および第2正面画像において、検出部による検出を行い、「欠ける条件」を満たすと判定される場合は、当該正面画像の再撮影を前回撮影時とは位置関係を変更したうえで、実行するようにしてもよい。第2反射像が正面画像に対して映り込むか否かは、照明光の波長、光源の出力、ゲイン等の影響を受けるので、第2反射像が観察画像において生じなくても、撮影画像に生じてしまう場合がある。このような場合において、再撮影が行われることは有用である。
<画像処理プログラムへの適用>
本開示は、画像処理プログラムへ適用されてよい。この場合、画像処理プログラムは、例えば、上記の撮影光学系を持つ眼科撮影装置、眼科撮影装置とネットワークで接続されたコンピュータ(例えば、サーバコンピュータ)、PC,タブレット,スマートフォンのような汎用コンピュータ等のうち、何れかのコンピュータのプロセッサによって実行される。画像処理プログラムは、上記何れかのコンピュータのメモリに記憶される。何れの場合においても、上記の撮影光学系を持つ眼科撮影装置によって撮影された正面画像が、処理される。
画像処理プログラムがプロセッサによって実行されることによって、画像処理ステップが少なくとも実行される。画像処理ステップでは、メモリに記憶される正面画像の中から、第1正面画像と、第2正面画像と、の少なくとも2枚を合成することで合成正面画像を得る。メモリには、眼科撮影装置によって撮影された正面画像が、予め,または,撮影によって、記憶される。合成する処理については、眼科撮影装置における実施形態と、同様の内容であってもよいため、詳細な説明は省略する。
<実施例>
次に、一つの実施例として、本開示における眼科撮影装置を、走査型レーザー検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope:SLO)に適用した装置を示す。走査型レーザー検眼鏡(以下、「SLO」と記す)1は、照明光(レーザー光)を眼底上で走査し、眼底からの照明光の戻り光を受光することによって眼底の正面画像を取得する装置である。SLO1は、光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)、視野計などの他の眼科装置と一体化された装置であってもよい。
SLO1は、照明光(レーザー光)を眼底上で走査し、眼底反射光を受光することによって眼底の正面画像を取得する装置である。SLO1は、観察面上でスポット状に集光されるレーザー光を、走査部の動作に基づき,2次元的に走査する装置であるものとする。但し、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、本開示は、いわゆるラインスキャンSLOに適用されてもよい。この場合、走査部の動作に基づいて、ライン状のレーザー光束が観察面上で一次元的に走査される。
<装置の外観>
はじめに、図7から図9を参照して、SLO1の概略構成を説明する。図7に示すように、SLO1は、撮影ユニット4を、主に備える。撮影ユニット4には、SLO1における主要な光学系(図8参照)が、少なくとも含まれる。
SLO1は、アライメント機構と、撮影光学系駆動機構と、の少なくとも何れかを備えていてもよい。SLO1におけるアライメント機構は、例えば、レーザー光の旋回点が形成される位置を、被検眼Eに対して適正な位置に配置するために利用される。アライメント機構は、被検眼と撮影ユニット4(撮影光学系)との相対位置を調節する駆動機構である。アライメント機構は、X(左右),Y(上下),Z(前後)の各方向に関し、被検眼と撮影ユニット4(撮影光学系)との位置関係を調整してもよい。図7に示す具体例では、基台5,移動台6,および,Z駆動機構7が、水平方向(XZ方向)および上下方向(Y方向)に関するアライメント機構として利用される。即ち、移動台6は、撮影ユニット4を載せた状態で、基台5上をXZ方向に移動可能である。また、Z駆動機構7は、移動台6に載置されており、撮影ユニット4をZ方向に変位させる。これにより、被検眼と撮影ユニット4(撮影光学系)とのXYZ方向の位置関係が調整される。
撮影光学系駆動機構は、撮影ユニット4で取得される正面画像の撮影位置(被検眼上での撮影位置)を、調整するためのメカニカルな駆動機構である。撮影光学系駆動機構は、撮影ユニット4を直接的に、または、間接的に支持(例えば、保持)してもよい。眼科撮影装置一般において、撮影光学系駆動機構は、被検眼Eの視軸と,撮影ユニット4(撮影光学系)の光軸(撮影光軸ともいう)と,の位置関係を変化させる。SLO1のような眼底撮影装置に適用される場合、撮影光学系駆動機構は、被検眼Eの視軸の向きと、撮影ユニット4の光軸の向きと、の角度を調節する。これにより、眼底上の撮影位置が変更される。具体例として、図7に示す具体例では、スイング・チルトユニット8が、撮影光学系駆動機構として利用される。スイング・チルトユニット8は、被検眼Eに対して撮影ユニット4を左右に旋回させる。また、スイング・チルトユニット8は、被検眼Eに対して撮影ユニット4を俯仰させる。
アライメント機構,および,撮影光学系駆動機構の一方または両方は、制御信号に基づいて所定の動作を行うアクチュエータを持ち、アクチュエータの駆動制御によって、上記の動作を実現してもよい。
<撮影光学系>
次に、SLO1の光学系を説明する。図8に示すように、SLO1は、照射光学系10と、受光光学系20と、を有する(まとめて、「撮影光学系」と称す)。本実施形態において、これらの光学系10,20は、撮影ユニット4に設けられている。SLO1は、これらの光学系10,20を用いて眼底の正面画像を撮影する。前述のとおり、SLO1の撮影光学系は、ポイントスキャン方式の光学系であってもよいし、ラインスキャン方式の光学系であってもよい。
照射光学系10は、少なくとも走査部(光スキャナともいう)16と、対物レンズ系17と、を含む。また、図8に示すように、照射光学系10は、更に、レーザー光出射部11、コリメーティングレンズ12、穴開きミラー13、レンズ14(本実施形態において、視度調節部40の一部)、および、レンズ15を有してもよい。ポイントスキャン方式の場合、光スキャナは、2次元光スキャナであってもよい。2次元光スキャナは、照明光を眼底上で2次元スキャンさせる(詳細構成は後述する)。また、ラインスキャン方式の場合、光スキャナは、1次元光スキャナであってもよい。
レーザー光出射部11は、照射光学系10の光源である。レーザー光出射部11は、例えば、レーザーダイオード(LD)、および、スーパールミネッセントダイオード(SLD)
等の少なくとも何れかを含んでいてもよい。具体的な構造についての説明は省略するが、レーザー光出射部11は、少なくとも1種類の波長域の光を出射する。本実施形態では、複数色の光が、同時に、又は選択的に、レーザー光出射部11から出射されるものとする。例えば、本実施形態では、レーザー光出射部11から、青,緑,赤の可視域の3色と、赤外域の1色と、の計4色の光が出射される。青,緑,赤の可視域の3色は、例えば、カラー撮影に利用される。例えば、光源11から青,緑,赤の3色が実質的に同時に出射されることによって、カラー撮影が行われる。また、可視域の3色のうち、何れか1色が、可視蛍光撮影に利用されてもよい。例えば、青色の光が、可視蛍光撮影の一種であるFAG撮影(フルオレセイン蛍光造影撮影)に利用されてもよい。また、例えば、赤外域の光は、赤外域の眼底反射光を用いる赤外撮影の他、赤外蛍光撮影に利用されてもよい。例えば、赤外蛍光撮影には、ICG撮影(インドシアニングリーン蛍光造影撮影)が知られている。この場合、レーザー光源11から出射される赤外光は、ICG撮影で使用されるインドシアニングリーンの蛍光波長とは異なる波長域に設定されていることが好ましい。
レーザー光は、図8に示した光線の経路にて眼底Erに導かれる。つまり、レーザー光出射部11からのレーザー光は、コリメーティングレンズ12を経て穴開きミラー13に形成された開口部を通り、レンズ14およびレンズ15を介した後、走査部16に向かう。走査部16によって反射されたレーザー光は、対物レンズ系17を通過した後、被検眼Eの眼底Erに照射される。その結果、レーザー光は、眼底Erで反射・散乱される。或いは、眼底に存在する蛍光物質を励起させ、眼底からの蛍光を生じさせる。これらの光(つまり、反射・散乱光および蛍光等)が、戻り光として、瞳孔から出射される。
本実施形態において、図8に示すレンズ14は、視度調節部40の一部である。視度調節部40は、被検眼Eの視度の誤差を矯正(軽減)するために利用される。例えば、レンズ14は、駆動機構14aによって、照射光学系10の光軸方向へ移動可能である。レンズ14の位置に応じて、照射光学系10および受光光学系20の視度が変わる。このため、レンズ14の位置が調節されることで、被検眼Eの視度の誤差が軽減され、その結果として、レーザー光の集光位置が、眼底Erの観察部位(例えば、網膜表面)に設定可能となる。なお、視度調節部40は、例えば、バダール光学系など、図8とは異なる光学系が適用されてもよい。
走査部16は、光源(レーザー光出射部11)から発せられたレーザー光を、眼底上で走査するためのユニットである。以下の説明では、特に断りが無い限り、走査部16は、レーザー光の走査方向が互いに異なる2つの光スキャナを含むものとする。それらの2つの光スキャナは、互いに異なる位置に配置される。即ち、主走査用(例えば、X方向への走査用)の光スキャナ16aと、副走査用(例えば、Y方向への走査用)の光スキャナ16bと、を含む。主走査用の光スキャナ16aと、副走査用の光スキャナ16bとは、それぞれ、レゾナントスキャナと、ガルバノミラーとであってもよい。但し必ずしもこれに限られるものではなく、各光スキャナ16a,16bに対し、他の反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ、および、MEMS等)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が適用されてもよい。なお、走査部16は、必ずしも複数の光スキャナである必要はなく、1つの光スキャナであってもよい。2次元的にレーザー光を走査する単一の光スキャナとしては、例えば、MEMSデバイス、及び、音響光学素子(AOM)等の何れかを利用したものが提案されている。
対物レンズ系17は、SLO1の対物光学系である。対物レンズ系17は、少なくとも1つのレンズを含む。図8に示すように、複数のレンズを組み合わせて対物レンズ系17が構成されてもよい。また、対物レンズ系17は、必ずしもレンズ(換言すれば、屈折要素)のみからなる光学系である必要はなく、ミラー(換言すれば、反射要素)が含まれていてもよい。対物レンズ系17は、走査部16によって走査されるレーザー光を、眼底Erに導くために利用される。そのために、対物レンズ系17は、走査部16を経たレーザー光が旋回される旋回点Pを形成する。旋回点Pは、照射光学系10の光軸L1上であって、対物レンズ系17に関して走査部16と光学的に共役な位置に形成される。なお、本開示において「共役」とは、必ずしも完全な共役関係に限定されるものではなく、「略共役」を含むものとする。即ち、眼底画像の利用目的(例えば、観察、解析等)との関係で許容される範囲で、完全な共役位置からズレて配置される場合も、本開示における「共役」に含まれる。
走査部16を経たレーザー光は、対物レンズ系17を通過することによって、旋回点Pを経て、眼底Erに照射される。このため、対物レンズ系17を通過したレーザー光は、走査部16の動作に伴って旋回点Pを中心に旋回される。その結果として、本実施形態では、眼底Er上でレーザー光が2次元的に走査される。眼底Erに照射されたレーザー光は、集光位置(例えば、網膜表面)にて反射される。また、レーザー光は、集光位置の前後の組織にて散乱される。反射光および散乱光は、平行光としてそれぞれ瞳孔から出射する。
次に、受光光学系20について説明する。受光光学系20は、対物レンズ系17を照射光学系10と共用する。受光光学系20は、対物レンズ系17を介して,被検眼Eによる照明光の反射光を、受光素子によって受光する。本実施例のように、ポイントスキャン方式のSLOでは、受光素子は、例えば、ポイントセンサであってもよい。また、ラインスキャン方式である場合、受光素子は、例えば、ラインセンサであってもよい。受光光学系20は、1つ,または,2つ以上の受光素子を有する。例えば、図8に示すように、3つの受光素子25,27,29を有してもよい。
図8に示すように、本実施形態における受光光学系20は、対物レンズ系17から穴開きミラー13までに配置された各部材を、照射光学系10と共用してもよい。この場合、眼底からの光は、照射光学系10の光路を遡って、穴開きミラー(本実施形態における光路分岐部材)13まで導かれる。また、穴開きミラー13は、照射光学系10と受光光学系20とを分岐させる。本実施形態では、眼底Erからの光は、穴開きミラー13の反射面によって反射されることで、受光光学系20の独立光路(受光素子25,27,29側の光路)へ導かれる。照射光学系10と受光光学系20との共通光路から,穴開きミラーへ向かう光には、レーザー光の主光線における光軸L2の近傍の領域に、ノイズ光が含まれやすい。なお、ここでいうノイズ光は、主に、眼底Erの集光位置(例えば、網膜表面)等、撮影および観察の目標以外からの光を指す。具体的には、角膜による反射光、および、装置内部の光学系からの反射光等が挙げられる。穴開きミラー13は、このようなノイズ光の少なくとも一部を取り除きつつ、眼底Erからの光を、受光光学系20の独立光路へ導く。本実施形態において、穴開きミラー13は、前眼部との共役位置に配置されている。このため、角膜による反射光、および、装置内部の光学系からの反射光等が、穴開きミラー13の開口によって取り除かれる。一方、眼底Erからの光のうち、瞳孔周辺を通過する光が、穴開きミラー13の反射面で反射されて、独立光路へ導かれる。
なお、照射光学系10と受光光学系20とを分岐させる光路分岐部材は、穴開きミラー13に限られるものではない。例えば、穴開きミラー13に代えて、穴開きミラー13における開口と反射面とを互いに置き換えた部材を光路分岐部として利用できる。但し、例えば、図8に適用する場合、更に、照射光学系10の独立光路(光源11から穴開きミラー13からまで)と、受光光学系20の独立光路(穴開きミラー13から受光素子25,27,29まで)とを、互いに置き換えて配置することが必要となる。なお、光路分岐部材は、その他のビームスプリッターであってもよい。
受光光学系20は、穴開きミラー13の反射光路に、レンズ21、遮光部22、ピンホール板23、および、光分離部(光分離ユニット)30を有する。また、光分離部30と各受光素子25,27,29との間に、レンズ24,26,28が設けられている。
詳細は後述するが、遮光部22は、受光光学系20の光軸L2の近傍において遮光する。眼底共役面からの光は、遮光部22を通過し、ノイズ光の少なくとも一部が遮光部22によって遮光される。
また、ピンホール板23は、眼底共役面に配置されており、SLO1における共焦点絞りとして機能する。すなわち、視度調節部40によって視度が適正に補正される場合において、レンズ21を通過した眼底Erからの光は、ピンホール板23の開口において焦点を結ぶ。ピンホール板23によって、眼底Erの集光点(あるいは、焦点面)以外の位置からの光が取り除かれ、残り(集光点からの光)が主に受光素子25,27,29へ導かれる。
光分離部30は、眼底Erからの光を分離させる。本実施形態では、光分離部30によって、眼底Erからの光が波長選択的に光分離される。また、光分離部30は、受光光学系20の光路を分岐させる光分岐部を兼用していてもよい。例えば、図8に示すように、光分離部30は、光分離特性(波長分離特性)が互いに異なる2つのダイクロイックミラー(ダイクロイックフィルター)31,32を含んでいてもよい。受光光学系20の光路は、2つのダイクロイックミラー31,32によって、3つに分岐される。また、それぞれの分岐光路の先には、受光素子25,27,29の1つがそれぞれ配置される。
例えば、光分離部30は、眼底Erからの光の波長を分離させ、3つの受光素子25,27,29に、互いに異なる波長域の光を受光させる。例えば、青,緑,赤の3色の光を、受光素子25,27,29に1色ずつ受光させてもよい。この場合、各受光素子25,27,29の受光結果から、カラー画像を容易に得ることができる。
また、光分離部30は、赤外撮影で使用される赤外域の光を、受光素子25,27,29の少なくとも1つに受光させてもよい。この場合において、例えば、蛍光撮影で使用される蛍光と、赤外撮影で使用される赤外域の光とが、互いに異なる受光素子に受光されてもよい。
各受光素子25,27,29が感度を持つ波長帯は、互いに異なっていてもよい。また、受光素子25,27,29のうち、少なくとも2つが、共通の波長域に感度を持っていてもよい。それぞれの受光素子25,27,29は、受光した光の強度に応じた信号(以下、受光信号と称す)をそれぞれ出力する。本実施形態において、受光信号は、受光素子毎に別々に処理されて画像が生成される。つまり、本実施形態では、最大で3種類の眼底画像が、並行して生成される。
<固視光学系>
また、SLO1は、固視光学系を有してもよい。図8の例において、固視光学系は、照射光学系10と兼用されている。レーザー光出射部11から間欠的に点灯される可視光が、固視光束(換言すれば、固視標)として利用される。詳細は、後述する。
<制御系の構成>
次に、図9を参照して、SLO1の制御系を説明する。SLO1は、制御部70によっての各部の制御が行われる。制御部70は、SLO1の各部の制御処理と、演算処理とを行う電子回路を有する処理装置(プロセッサ)である。制御部70は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ等で実現される。制御部70は、記憶部71と、バス等を介して電気的に接続されている。また、制御部70は、レーザー光出射部11、受光素子25,27,29、駆動機構14a、走査部16、入力インターフェイス75、およびモニタ80等の各部とも電気的に接続されている。
記憶部71には、各種の制御プログラムおよび固定データ等が格納される。また、記憶部71には、一時データ等が記憶されてもよい。SLO1による撮影画像は、記憶部71に記憶されていてもよい。但し、必ずしもこれに限られるものではなく、外部の記憶装置(例えば、LANおよびWANで制御部70に接続される記憶装置)へ撮影画像が記憶されてもよい。
便宜上、本実施形態では、制御部70が画像取得部、および、画像処理部を兼用するものとする。例えば、制御部70は、何れかの受光素子25,27,29からの受光信号を基に、眼底画像を形成する。また、眼底画像に対する画像処理(画像の加工、解析等)についても、制御部70によって行われる。なお、図9に示すように、制御部70は、各受光素子25,27,29からの信号に基づいて、それぞれの受光素子25,27,29からの信号に基づく最大3種類の画像を、略同時に生成する。勿論、本実施例に限定されるものではなく、画像処理部、または、画像取得部は、制御部70とは別体の装置であってもよい。
また、制御部70は、観察画像として、赤外域の眼底反射光に基づく眼底正面画像を取得し、モニタ80に表示させる。観察画像は、ほぼリアルタイムに取得される動画像である。
また、制御部70は、入力インターフェイス75(操作入力部)から出力される操作信号に基づいて、上記の各部材を制御する。入力インターフェイス75は、検者の操作を受け付ける操作入力部である。例えば、マウスおよびキーボード等であってもよい。
<動作説明>
一般に、対物レンズ系に関する眼底共役面(中間像面ともいう)の近くに、レーザー光を大きく折り曲げるレンズの光源側レンズ面が配置されていると、共焦点絞り,および,穴開きミラー等では取り除ききれないノイズ光が生じやすくなる。また、レーザー光を眼底に適正に集光させるために、視度補正が行われる場合がある。このとき、対物レンズ系を介して形成される眼底共役面は、視度の補正量に応じて移動する。例えば、被検眼の近視が強い場合ほど、視度補正の結果として、対物レンズ系に関する眼底共役面は被検眼E(および、レンズ面)に接近してしまう。このように、視度補正の影響によって、ノイズ光が発生しやすくなる場合も考えられる。
光学系に設けられた有害光除去部(例えば、共焦点絞り,黒点板等)によって、対物レンズ系による照明光の反射像が眼底画像に映り込むことは軽減される。但し、映り込みの抑制効果と、受光素子へ導かれる眼底反射の光量とは、トレードオフの関係になる場合が考えられるので、対物レンズ系17による反射像(以下、便宜上、「対物反射像」と称す)の映り込みを許容するような設計解および撮影条件も考えられる。
本実施例のSLO1は、画像処理を活用して、対物反射像の映り込みを軽減する。SLO1における具体的な動作を、図10に示すフローチャートを参照して説明する。
初めに、制御部70は、固視標の呈示を開始させる(S1)と共に、観察画像の取得を開始させる(S2)。次に、アライメント機構が観察画像に基づいて自動または手動で駆動されることによって、被検眼と装置とのアライメントが行われる(S3)。
アライメント完了後、撮影シーケンス(S4~S7)が実行される。本撮影シーケンスでは、第1正面画像と、第2正面画像と、の2枚の正面画像が撮影される。本実施例では、少なくとも第2反射像として黄斑部輪状反射が含まれない合成正面画像を生成するものとする。
本実施例の撮影シーケンスでは、各々の正面画像が撮影される際に、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係が、観察画像に基づいて調整される。まず、制御部70は、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を、第1の位置関係に調整する(S4)。次いで、第1正面画像を撮影する(S5)。
本実施例では、第1正面画像および第2正面画像として、カラー眼底画像が得られる場合を示す。但し、カラー眼底画像に限定されるものではなく、赤外眼底画像、可視光による反射画像等、眼底反射光により形成される他の正面画像に対し、本実施例の処理が適用されてもよい。例えば、制御部70は、レーザー光出射部11からの赤外光の照射を中断し、赤、緑、青の3色の可視光を、撮影用の照明光として、同時に(略同時に)出射する。3つの受光素子25,27,29から出力される信号に基づいて、赤、緑、青の各成分についての眼底正面画像が形成され、これらが合成されることによって、カラー眼底画像が形成される。
次いで、制御部70は、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を、第2の位置関係に調整する(S6)。次いで、第2正面画像を撮影する(S7)。
本実施例において、第1の位置関係と、第2の位置関係との調整は、何れも、固視灯の呈示位置を切換えることで行われる。本実施例では、レーザー光出射部11からの可視光が、固視標として利用される。具体的には、制御部70は、レーザー光出射部11からの可視光を、呈示位置に応じたタイミングで間欠的に出射させる。走査部16によって眼底画像1フレーム分の走査がされる間に可視光が出射されるタイミングを変更することで、固視標の呈示位置が変更される。
また、本実施例において、第1の位置関係と、第2の位置関係とに調整する際、観察画像において黄斑部輪状反射の検出が、制御部70によって行われてもよい。本実施例において、制御部70は、観察画像において黄斑部輪状反射が検出されない位置関係にて、第1正面画像または第2正面画像の撮影を実行する。黄斑部輪状反射が観察画像中に検出される場合、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を更に調節する。
第1正面画像と第2正面画像の撮影後、制御部70は、それら2枚の正面画像を合成し、合成正面画像を得る(S8)。本実施例では、合成正面画像において、欠けのある黄斑部輪状反射が含まれているか否かが検出される。欠けのある黄斑部輪状反射が含まれている場合(S9:Yes)、制御部70は、撮影光学系の光軸と,被検眼の視軸と,の位置関係を、これまでとは変更して、第1正面画像および第2正面画像の再撮影を実行し、新たな合成正面画像を形成してもよい。本実施例では、S4~S9の処理によって、トライアンドエラーで、欠けのある黄斑部輪状反射が含まれない合成正面画像が形成される。一方、S8の処理において、合成正面画像に黄斑部輪状反射が含まれていないと判定される場合は(S9:No)、処理を終了してもよい。
以上、実施形態に基づいて説明を行ったが、本開示を実施するうえで、実施形態の内容を適宜変更することができる。
例えば、眼科撮影装置における対物レンズ系を、交換レンズ,または,ズームレンズとすることによって、撮影画角が可変する構成であってもよい。この場合、撮影画角が第1の画角に設定された場合には、明確な対物反射像が正面画像上に生じ、第1の画角とは異なる第2の画角では、目立った対物反射像が生じない場合が考えられる。そこで、例えば、レリーズ操作に基づいて、合成正面画像を生成するための撮影シーケンス,および,合成正面画像の生成処理を実行する第1モードと、レリーズ操作に基づいてレリーズ操作を受けたときの撮影光学系の光軸と、被検眼の視軸との位置関係にて眼底画像を撮影する第2モードとに、切換可能な構成であってもよい。第1モードと第2モードとの切換制御は、検者によるモード切換操作に基づいて実行されてもよい。また、対物レンズ系のレンズ交換、または、ズームの状態に応じて、自動的に切換えられてもよい。なお、交換レンズは、対物レンズ系を、他の対物レンズ系とそっくりそのまま置き換える構成に限定されるものではなく、対物レンズ系に対し、レンズアタッチメントを着脱することで画角を切換える構成であってもよい。
また、例えば、上記説明した合成正面画像を生成するための処理は、SLOへの適用に限定されるものではなく、それ以外の、『少なくとも1つのレンズを含む対物レンズ系と、光源から発せられた照明光を前記対物レンズ系を介して被検眼に照射する照射光学系と、照明光の被検眼による反射光を対物レンズ系を介して受光する受光素子を備える受光光学系と、を含む撮影光学系と、を備え、受光素子からの信号に基づいて撮影画像を生成する眼科撮影装置』に対しても適用されてもよい。このような眼科撮影装置は、眼底撮影装置であってもよい。この場合、照射光学系によって、照明光が被検眼の眼底に照射され、且つ、受光光学系によって、照明光の眼底反射光が受光素子に受光される。SLO以外の眼底撮影装置としては、例えば、眼底カメラ等が考えられる。また、眼科撮影装置は、前眼部撮影装置であってもよい。