JP7048665B2 - ヒトIgG1 Fc領域変異体およびその使用 - Google Patents

ヒトIgG1 Fc領域変異体およびその使用 Download PDF

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Description

発明の分野
本発明は、補体依存性細胞傷害作用(CDC)が増強されており、かつFcドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸改変に起因する他の改変されたエフェクター機能も有し得る、Fcドメインを含有するポリペプチド(例えば抗体)に関する。
発明の背景
抗体のFc領域によって媒介されるエフェクター機能は、病原体の死滅ならびに抗原の排除および分解といった、外来性実体の破壊を可能にする。抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)および抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)は、Fc受容体(FcR)を保有する細胞にFc領域が結合することによって惹起され、一方、補体依存性細胞傷害作用(CDC)は、補体活性化の古典的経路を惹起するC1qにFc領域が結合することによって惹起される。
各IgG抗体はC1qに対する結合部位を2つ含有し、それは各重鎖定常(Fc)領域に1つずつある。しかし、溶液の状態にあるIgGの単分子は、C1qに対するモノマーIgGの親和性が極めて弱いため(Kd ほぼ10-4M)、補体を活性化しない(Sledge et al., 1973 J. Biol. Chem. 248,2818-13(非特許文献1);Hughes-Jones et al., 1979 Mol. Immunol. 16,697-701(非特許文献2))。抗原が誘因となるIgGの会合は、多価C1q分子のはるかに強固な結合(Kd ほぼ10-8M)および補体活性化を導くことができる(Burton et al., 1990 Mol. Immunol. 22, 161-206(非特許文献3))。対照的に、IgMは自然下では共有結合したペンタマーまたはヘキサマーの状態で存在し、発現または固定化された細胞抗原と結合すると、IgMペンタマーおよびヘキサマーはCDCを効率的に誘発することができる。抗原結合は、C1q結合部位を露出するようにIgMにおけるコンフォメーション変化を誘導するための必要条件である(Feinstein et al., 1986, Immunology Today, 169-174(非特許文献4))。
また、IgGは、Fc領域のCH2/CH3ドメインの相互作用を通じて、ヘキサマー環構造の形成による補体活性化も達成しうることが示唆されている(Burton et al., 1990 Trends in Biochem. Sci. 15, 64-69(非特許文献5))。そのようなヘキサマーIgG構造の存在を裏づける証拠は、二次元結晶(Reidler et al., 1986 I Handbook of Experimental Immunology 4th edit. (Weir, D. M. ed.), pp17.1-17.5. Blackwell, Edinburgh(非特許文献6);Pinteric et al., 1971 Immunochem. 8, 1041-5(非特許文献7))および三次元結晶において、ならびに溶液の状態にあるIgG1、IgG2aおよびIgG4およびヒトFcに関して見いだされている(Kuznetsov et al., 2000 J Struct. Biol. 131, 108-115(非特許文献8))。また、ヘキサマー環形成は、HIV-1 gp120を対象とするb12ヒトIgG1κ抗体の結晶構造(PDB中の1HZH)でも観察された(Saphire et al., Science 2001 Aug 10;293(5532),1155-9(非特許文献9))。b12ヘキサマー環では、6個の到達可能なC1q結合部位が6個の抗体のそれぞれから1つずつヘキサマー表面に提示され、残りの6つの結合部位は下方を向いていた。
C1qは、抗体結合領域を含有する6個の球状頭部が6本のコラーゲン柄につなぎ止められた一束のチューリップに似た形をしている(Perkins et al., 1985 Biochem J. 228, 13-26(非特許文献10);Poon et al., 1983 J Mol Biol. 168, 563-77(非特許文献11);Reid et al., 1983 Biochem Soc Trans 11, 1-12(非特許文献12);Weiss et al., 1986 J. Mol. Biol. 189, 573-81(非特許文献13))。C1qは、1HZH結晶構造のb12ヘキサマー集合体に上から嵌合し、その結果、6個の球状頭部のそれぞれが6つのC1q結合部位の1つと接触することが見いだされている(Parren, FASEB Summer Research Conference, Snowmass, Co., 5-10 July 2010(非特許文献14);"Crystal Structure of an intact human IgG: implications for HIV-1 neutralization and effector Function", Thesis by Erica Ollmann Saphire, for the Scripps Research Institute, La Jolla, California. November 2000(非特許文献15))。結晶構造内で対称関係にある複数のb12抗体の間で観察されるFc境界面における選択されたアミノ酸の変異は、C1qの結合力を低下させることが観察されており、このことは分子間Fc:Fc相互作用に対するこれらのアミノ酸の寄与を指し示している。
WO 2006/104989号(特許文献1)は、改変された抗体Fc領域およびその使用を記載している。
WO 2005/047327号(特許文献2)は、新生児Fc受容体(FcRn)結合ポリペプチド変異体、二量体Fc結合タンパク質、およびそれらに関連する方法を記載している。
WO 2010/106180号(特許文献3)は、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合が増強されたFc変異体を記載している。
WO 2005/070963号(特許文献4)は、ポリペプチドFc領域変異体およびその使用を記載している。
WO 2006/053301号(特許文献5)は、FcRnに対する結合が改変されたFc変異体を記載している。
US 2011/0123440号(特許文献6)は、改変された抗体Fc領域およびその使用を記載している。改変されたFc領域は、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する。
US 2008/0089892号(特許文献7)は、ポリペプチドFc領域変異体、およびこれらのFc領域変異体を含む組成物を記載している。
US 2010/0184959号(特許文献8)は、Fcリガンドの認識および/またはエフェクター機能が改変されたFcポリペプチド変異体を提供する方法を記載している。
US 2010/015133号(特許文献9)は、ポリペプチドの会合を調節することによってポリペプチドを作製する方法を記載している。
US 2010/105873号(特許文献10)は、多ドメインタンパク質治療薬を作製するための統合的アプローチを記載している。
US 6,737,056号(特許文献11)は、改変されたエフェクター機能を有するポリペプチド変異体を記載している。
従来の取り組みは、増強されたエフェクター機能または他の改変された特性を有する抗体Fc変異体を同定するために行われてきた。そのような研究は、例えば、IgGアイソタイプ間でセグメントを交換して、キメラ性IgG分子(Natsume et al., 2008 Cancer Res 68(10), 3863-72(非特許文献16))、またはヒンジ領域内(Dall'Acqua et al., 2006 J Immunol 177, 1129-1138(非特許文献17))もしくは残基D270、K322、P329およびP331を中心とするCH2ドメイン内のC1q結合部位の内部もしくは近傍(Idusogie et al., 2001 J Immunol 166, 2571-2575(非特許文献18);Michaelsen et al., 2009 Scand J Immunol 70, 553-564(非特許文献19)およびWO 99/51642号(特許文献12))にアミノ酸置換を生じさせることを狙いとしていた。例えば、Moore et al.(2010 mAbs 2(2), 181-189)(非特許文献20))は、CDCまたはADCCを介したエフェクター機能の増強に関する、S267E、H268F、S324T、S239D、I332E、G236AおよびI332Eのさまざまな組み合わせの検討について記載している。Fc受容体に対する結合(WO 2006/105062号(特許文献13)、WO 00/42072号(特許文献14)、米国特許第6,737,056号(特許文献11)および米国特許第7,083,784号(特許文献15))または抗体の物理的特性(WO 2007/005612 A1号(特許文献16))に影響を及ぼす他のFc変異も示唆されている。
しかし、当技術分野におけるこれらの利点および他の利点にもかかわらず、新たな改良された抗体ベースの治療薬に対しては依然として需要がある。
WO 2006/104989号 WO 2005/047327号 WO 2010/106180号 WO 2005/070963号 WO 2006/053301号 US 2011/0123440号 US 2008/0089892号 US 2010/0184959号 US 2010/015133号 US 2010/105873号 US 6,737,056号 WO 99/51642号 WO 2006/105062号 WO 00/42072号 米国特許第7,083,784号 WO 2007/005612 A1号
Sledge et al., 1973 J. Biol. Chem. 248,2818-13 Hughes-Jones et al., 1979 Mol. Immunol. 16,697-701 Burton et al., 1990 Mol. Immunol. 22, 161-206 Feinstein et al., 1986, Immunology Today, 169-174 Burton et al., 1990 Trends in Biochem. Sci. 15, 64-69 Reidler et al., 1986 I Handbook of Experimental Immunology 4th edit. (Weir, D. M. ed.), pp17.1-17.5. Blackwell, Edinburgh Pinteric et al., 1971 Immunochem. 8, 1041-5 Kuznetsov et al., 2000 J Struct. Biol. 131, 108-115 Saphire et al., Science 2001 Aug 10;293(5532),1155-9 Perkins et al., 1985 Biochem J. 228, 13-26 Poon et al., 1983 J Mol Biol. 168, 563-77 Reid et al., 1983 Biochem Soc Trans 11, 1-12 Weiss et al., 1986 J. Mol. Biol. 189, 573-81 Parren, FASEB Summer Research Conference, Snowmass, Co., 5-10 July 2010 "Crystal Structure of an intact human IgG: implications for HIV-1 neutralization and effector Function", Thesis by Erica Ollmann Saphire, for the Scripps Research Institute, La Jolla, California. November 2000 Natsume et al., 2008 Cancer Res 68(10), 3863-72 Dall'Acqua et al., 2006 J Immunol 177, 1129-1138 Idusogie et al., 2001 J Immunol 166, 2571-2575 Michaelsen et al., 2009 Scand J Immunol 70, 553-564 Moore et al.(2010 mAbs 2(2), 181-189)
本発明は、それらの親ポリペプチド/抗体と比較して、補体依存性細胞傷害作用(CDC)が増強されており、かつ他のエフェクター機能も増強されていてもよい、ポリペプチドおよび抗体変異体を提供する。理論に限定されることはないが、これらの変異体は、2つのポリペプチド/抗体分子のFc領域間のより安定した結合相互作用を可能にし、それによって、より増強された、またはより特異的なCDC応答といった増強されたエフェクター機能につながる、より結合力の高い表面をもたらすと考えられる。また、特定の変異体は、向上したADCC応答、ADCP応答、および/または他の増強されたエフェクター機能によっても特徴づけられる。ポリペプチド/抗体の操作というこの巧妙な手順を、例えば、本明細書に記載するように、例えば、抗体ベースの治療薬の活性または特異性を高めるために適用することができる。
したがって、1つの局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345XおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む方法に関する。
1つのさらなる局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、ただし、変異体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更する、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まないことを条件とする変異体に関する。
本発明はまた、ポリペプチドまたは抗体によって、例えば、抗原を発現する細胞、細胞膜またはビリオンの表面上のその抗原と結合したときに媒介される補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強するための、1つまたは複数のそのような変異の利用も提供する。
1つの局面において、本明細書で「単一変異体」と称する場合、該変異体は、親ポリペプチドまたは抗体と比較して、CDCが増強されておりかつ他のエフェクター機能も増強されていてもよい。
1つの局面において、本明細書で「二重変異体」と称する場合、該変異体は、前記セグメントに少なくとも2つの変異を含み、かつ、当該少なくとも2つの変異のうち1つのみを含む変異体と比較してCDCが向上しておりかつ他のエフェクター機能も向上していてもよい。
1つの局面において、本明細書で「混合変異体」と称する場合、該変異体は、前記セグメント中の異なるアミノ酸残基に変異を含む同じまたは異なるポリペプチドまたは抗体の第2の変異体と組み合わせて用いた場合に、その変異体、第2の変異体、および親ポリペプチドまたは親抗体単独のうち1つまたは複数と比較して、CDCの増強がもたらされかつ他のエフェクター機能も増強されていてもよい。
典型的には、変異は、親アミノ酸残基を、新たな分子間Fc:Fc結合の形成を促進するか、または既存の対の相互作用の強度を増強する、サイズおよび/または物理化学的特性の異なるものと交換する変異のようなアミノ酸置換である。本発明の変異に関する例示的なアミノ酸残基は、表1ならびに表2Aおよび2Bに、例示的なアミノ酸置換とともに示されている。本発明のさまざまな局面の非限定的な説明図が図1に提示されている。
[本発明1001]
以下の段階を含む、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法:
該親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345XおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階。
[本発明1002]
1つまたは複数のアミノ酸残基における前記変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
1つまたは複数のアミノ酸残基における前記変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される、本発明1001または1002のいずれかの方法。
[本発明1004]
以下の段階を含む、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドのCDCおよび抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を増強する方法:
該親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345XおよびS440Wに対応する1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階。
[本発明1005]
1つまたは複数のアミノ酸残基における前記変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345R、E430TおよびE430Fに対応する、本発明1004の方法。
[本発明1006]
前記親ポリペプチドが、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体である、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記親抗体が、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体である、本発明1006の方法。
[本発明1008]
免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび免疫グロブリンの第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体である親抗体の補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、
該第1および第2の抗原結合領域が、同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、かつ、前記方法が、該第1および/または第2のCH2-CH3領域に対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含み;かつ
該第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;かつ、該第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;かつ、該第1のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異が、該第2のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異とは異なる、前記方法。
[本発明1009]
1つまたは複数のアミノ酸残基における前記変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される、本発明1008の方法。
[本発明1010]
前記二重特異性抗体の前記第1および第2のポリペプチドの両方に変異を導入する段階を含む、本発明1008または1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
前記第1のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にあり、例えばK409Rであり;かつ、前記第2のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にあり、例えばF405Lである、本発明1008~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
1つまたは複数の位置にS440YおよびS440W以外の変異を導入する段階、ならびに
(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異であって、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、変異、
(ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447および448に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異、例えばヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447K/R/Hおよび448E/D、好ましくはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447Kおよび448E、または
(iii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447、448および449に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異、例えばヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447D/E、448K/R/Hおよび449P、好ましくはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447E、448Kおよび449P
をさらに導入する段階
を含む、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
1つまたは複数の位置にS440YおよびS440W以外の変異を導入する段階、ならびにヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439および/またはS440に対応するアミノ酸残基のそれぞれに変異をさらに導入する段階を含み、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、本発明1012の方法。
[本発明1014]
ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における前記変異がK439D/Eであり、かつ/または、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における前記変異がS440K/Rである、本発明1013の方法。
[本発明1015]
少なくとも第1および第2の親ポリペプチドの組み合わせの補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、該少なくとも第1および第2の親ポリペプチドがそれぞれ免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含み、該少なくとも第1および/または第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む、前記方法。
[本発明1016]
前記少なくとも第1および/または第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記第1および第2の親ポリペプチドの両方に対して、同じであっても異なってもよい変異を導入する段階を含む、本発明1016の方法。
[本発明1018]
(i)前記第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階、
(ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を含まない、前記第2の親ポリペプチドを提供する段階、
を含む、本発明1016の方法。
[本発明1019]
1つまたは複数の位置における前記変異がS440YおよびS440Wとは別のものであり、かつ、前記方法が、
(i)前記第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階;および
(ii)前記第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階であって、ただし、該変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、段階
をさらに含み、段階(i)および(ii)が代替的に、
(iii)該第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置S440に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階であって、ただし、該変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、段階;
(iv)該第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階
であってもよい、本発明1015~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における前記変異がK439D/Eであり、かつ/またはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における前記変異がS440K/Rである、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記第1および第2の親ポリペプチドが、それぞれが免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む第1および第2の親抗体である、本発明1015~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
前記第1および第2の親抗体が、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体である、本発明1021の方法。
[本発明1023]
前記第1および/または第2の親抗体が、免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体であり、該第1および第2の抗原結合領域が、同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、かつ、該第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、該第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、該第1のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異が、該第2のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異とは異なる、本発明1022の方法。
[本発明1024]
前記第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にさらなるアミノ酸変異、例えばK409Rを含み、かつ、前記第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にさらなるアミノ酸変異、例えばF405Lを含む、本発明1023の方法。
[本発明1025]
前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を変更しない、本発明1001~1003および1006~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
実施例34に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更しない、本発明1001~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
実施例34に開示された方法によって決定される、OD405nmでの吸光度の変化によって測定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を、30%を上回って、例えば20%、10%または5%を上回って増加させることも減少させることもない、本発明1001~1025のいずれかの方法。
[本発明1028]
実施例34に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドもしくは前記親抗体のマウス新生児Fc受容体(FcRn)に対する見かけの親和性を、0.5倍を上回って増強しない、または前記親ポリペプチドもしくは前記親抗体のマウスFcRnに対する見かけの親和性を、2倍を上回って低下させない、本発明1001~1025のいずれかの方法。
[本発明1029]
実施例37に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の血漿クリアランス速度を変更しない、本発明1001~1028のいずれかの方法。
[本発明1030]
実施例37に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の血漿クリアランス速度を、3.0倍を上回って、例えば2.5倍、2.0倍、1.5倍または1.2倍を上回って増強することも低下させることもない、本発明1001~1028のいずれかの方法。
[本発明1031]
実施例36に開示された方法によって決定される前記変異体の標的非依存的な液相中での補体活性化を変更しない、本発明1001~1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の血漿中半減期を変更しない、本発明1001~1031のいずれかの方法。
[本発明1033]
免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、ただし、該変異体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更するFcドメインにおけるさらなる変異を含まないことを条件とする、前記変異体。
[本発明1034]
免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、ただし、実施例34に開示された方法によって決定される、OD405nmでの吸光度の変化によって測定される該変異体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を、30%を上回って、例えば20%、10%または5%を上回って増加または減少させるFcドメインにおけるさらなる変異を含まないことを条件とする、前記変異体。
[本発明1035]
1つまたは複数の前記変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される、本発明1033または1034のいずれかの変異体。
[本発明1036]
前記変異体の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を変更させるFcドメインにおけるさらなる変異を含まない、本発明1033~1035のいずれかの変異体。
[本発明1037]
実施例37に開示された方法によって決定される前記変異体の血漿クリアランス速度を変更させるFcドメインにおけるさらなる変異を含まない、本発明1033~1036のいずれかの変異体。
[本発明1038]
実施例37に開示された方法によって決定される前記変異体の血漿クリアランス速度を、3.0倍を上回って、例えば2.5倍、2.0倍、1.5倍または1.2倍を上回って増加または減少させるFcドメインにおけるさらなる変異を含まない、本発明1033~1036のいずれかの変異体。
[本発明1039]
前記変異体の血清中半減期を変更させるFcドメインにおけるさらなる変異を含まない、本発明1033~1036のいずれかの変異体。
[本発明1040]
実施例36に開示された方法によって決定される前記変異体の標的非依存的な液相中での補体活性化を変化させるFcドメインにおけるさらなる変異を含まない、本発明1033~1039のいずれかの変異体。
[本発明1041]
Fcドメインにおけるさらなる変異を含まない、本発明1033~1040のいずれかの変異体。
[本発明1042]
1つの変異のみを含む、本発明1033~1041のいずれかの変異体。
[本発明1043]
ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345X/E430X、E345X/S440Y、E345X/S440W、E430X/S440YおよびE430X/S440Wに対応する群から選択されるアミノ酸残基における2つの変異の組み合わせを含む、本発明1033~1042のいずれかの変異体。
[本発明1044]
免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、
ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される第1の変異;ならびに
以下に対応する群から選択される第2の変異を含む、前記変異体:
(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもなく、かつ、該第1の変異がS440YもしくはS440Wであるならば該第2の変異はヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応するアミノ酸残基にある;
(ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域における、K447D/Eに対応するか、もしくはK447K/R/Hおよび448Pに対応するアミノ酸残基;または
(iii)ヒトIgG1重鎖のFc領域における、K447D/Eに対応するか、もしくはK447K/R/Hおよび448K/R/Hおよび449Pに対応するアミノ酸残基。
[本発明1045]
ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応する群から選択される第1の変異、ならびにヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基における第2の変異を含み、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、本発明1044の変異体。
[本発明1046]
K439に対応するアミノ酸残基における変異がK439D/Eであり、かつ、S440に対応するアミノ酸残基がS440K/Rである、本発明1045の変異体。
[本発明1047]
前記親ポリペプチドが、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体である、本発明1033~1046のいずれかの変異体。
[本発明1048]
単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される、本発明1047の変異体。
[本発明1049]
免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび免疫グロブリンの第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体である親抗体の変異体であって、該第1および第2の抗原結合領域が、同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、かつ、該第1および/または第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、かつ
該第1のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択されるアミノ酸残基におけるさらなる変異を含み;かつ
該第2のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択されるアミノ酸残基におけるさらなる変異を含み、かつ、該第1のポリペプチドにおける該さらなる変異が、該第2のポリペプチドにおける該さらなる変異とは異なる、前記変異体。
[本発明1050]
(i)前記第1のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばK409Rを含み;かつ
(ii)前記第2のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばF405Lを含むか;または代替的に
(iii)該第1のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばF405Lを含み;かつ
(iv)該第2のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばK409Rを含む、
本発明1049の変異体。
[本発明1051]
薬物、毒素または放射性標識とコンジュゲートされており、例えばリンカーを介して毒素とコンジュゲートされている、本発明1033~1050のいずれかの変異体。
[本発明1052]
融合タンパク質の一部である、本発明1033~1051のいずれかの変異体。
[本発明1053]
ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体であり、任意でヒト完全長抗体、例えばヒト完全長IgG1抗体である、本発明1033~1052のいずれかの変異体。
[本発明1054]
それぞれが免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの第1および第2の変異体を含む組成物であって、該第1および/または第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含む、前記組成物。
[本発明1055]
前記第1および/または第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含む、本発明1054の組成物。
[本発明1056]
前記第1および第2の変異体の両方が、同じであっても異なってもよい1つまたは複数の変異を含む、本発明1055の組成物。
[本発明1057]
前記第1の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、かつ
前記第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択されるアミノ酸残基における1つまたは複数の変異を含まない、本発明1055の組成物。
[本発明1058]
(i)前記第1の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異をさらに含み、かつ
(ii)前記第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異をさらに含み、ただし、該変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする;または(i)および(ii)が代替的に、
(iii)該第1の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異をさらに含み、ただし、該変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とし;かつ
(iv)該第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異をさらに含む;
であってもよい、本発明1054~1057のいずれかの組成物。
[本発明1059]
ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439における前記変異がK439D/Eであり、かつ/またはヒトIgG1重鎖のFc領域における位置S440における前記変異がS440K/Rである、本発明1058の組成物。
[本発明1060]
(i)前記第1の変異体がプロドラッグをさらに含み、かつ
(ii)前記第2の変異体が、該第1の変異体上の該プロドラッグに対する活性化因子を含む;または(i)および(ii)が代替的に、
(iii)該第2の変異体がプロドラッグを含み、かつ
(iv)該第1の変異体が、該第2の変異体上の該プロドラッグに対する活性化因子を含む
であってもよい、本発明1054~1059のいずれかの組成物。
[本発明1061]
前記第1および第2の親ポリペプチドが、それぞれが免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む第1および第2の親抗体である、本発明1054~1060のいずれかの組成物。
[本発明1062]
前記第1および第2の抗体がそれぞれ、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体であり、任意でそれぞれヒト完全長抗体、例えばそれぞれヒト完全長IgG1抗体である、本発明1061の組成物。
[本発明1063]
前記第1および第2の抗体がそれぞれ、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される、本発明1062の組成物。
[本発明1064]
前記第1および/または第2の親抗体がそれぞれ、免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体であり、該第1および第2の抗原結合領域が同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、かつ、該第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;かつ、該第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応する位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、該第1のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異が、該第2のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異とは異なる、本発明1063の組成物。
[本発明1065]
前記第1のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にあり、例えばK409Rであり;かつ、前記第2のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にあり、例えばF405Lである、本発明1064の組成物。
[本発明1066]
前記組成物の前記第1および第2の変異体が、同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合する、本発明1054~1063のいずれかの組成物。
[本発明1067]
前記第1および第2の変異体の一方または両方が、薬物、毒素または放射性標識とコンジュゲートされており、例えば、リンカーを介して毒素とコンジュゲートされている、本発明1054~1066のいずれかの組成物。
[本発明1068]
前記第1および第2の変異体の一方または両方が融合タンパク質の一部である、本発明1054~1067のいずれかの組成物。
[本発明1069]
前記組成物の前記第1および/または第2の変異体が1つの変異のみを含む、本発明1054~1063および1066~1068のいずれかの組成物。
[本発明1070]
本発明1033~1053のいずれかの変異体または本発明1054~1069のいずれかの組成物と、薬学的に許容される担体とを含む、組成物。
[本発明1071]
治療法において同時に、別々にまたは逐次的に使用するための、本発明1033~1053のいずれかにおいて定められた第1の変異体および第2の変異体を含むキット・オブ・パーツ。
[本発明1072]
癌などの疾患の治療のための、本発明1033~1071のいずれかの変異体、組成物またはキット・オブ・パーツ。
[本発明1073]
本発明1033~1071のいずれかの変異体、組成物またはキット・オブ・パーツを投与する段階を含む、ヒトにおける疾患の治療のための方法。
[本発明1074]
本発明1033~1071のいずれかの変異体、組成物またはキット・オブ・パーツを投与する段階を含む、ヒトにおける癌の治療のための方法。
[本発明1075]
ヒトまたは他の哺乳動物の身体の少なくとも一部の画像化において用いるための、本発明1033~1071のいずれかの変異体、組成物またはキット・オブ・パーツ。
[本発明1076]
本発明1033~1071のいずれかの変異体、組成物またはキット・オブ・パーツを投与する段階を含む、ヒトまたは他の哺乳動物の身体の少なくとも一部を画像化するための方法。
本発明のこれらの局面および他の局面、特にポリペプチド変異体および抗体変異体のさまざまな使用および治療応用について、以下にさらに詳細に説明する。
ヘキサマー形成におけるIgG分子の略図。点線の丸印は、近接する2つのIgG分子の隣接する2つのFc:Fc相互作用対を図示している。囲い枠の中の矢印は、B、CおよびDにおける説明図を見る向きを図示している:近接する2つのFc分子を(図面中の平面で)90°回転させ、FabアームからCH3ドメインの方向を見ている。 CDCに対するオリゴマー形成増強性変異の観測上の効果。本発明の単一変異体および二重変異体の局面によって活性が増強されたFc:Fc相互作用対を図示している略図。 CDCに対するオリゴマー形成阻害性変異の観測上の効果。1つの分子にまとめられるか(二重変異体局面)または2つの分子に分け隔てられるか(混合変異体局面)のいずれかである、互いに代償する少なくとも2つのオリゴマー形成阻害性変異が、本発明の二重変異体および混合変異体の局面によるFc:Fc相互作用をいかにして回復または増強するかを図示している略図。混合変異体は、複数の異なる標的を認識しうる両方の抗体の結合に応じた特異的なエフェクター機能活性化を実現する。 CDCに対するC1q結合阻害性変異の理論上の効果。C1qは抗体に導入された欠陥を代償することができないので、変異がC1q結合を阻害するならば、CDC活性を回復させるためにそれらを組み合わせることも混ぜ合わせることもできないことを図示している、Fc:C1q相互作用の略図。 Clustal 2.1ソフトウエアを用い、Kabatに記載されたEUインデックスによって番号を付した、IgG1重鎖における残基P247~K447に対応する、ヒトIgG1、IgG1f、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgEおよびIgMのFcセグメントの配列アライメント。示されている配列は、ヒトIgG1重鎖定常領域(SEQ ID NO:1;UniProtアクセッション番号P01857)およびアロタイプ変異体IgG1m(f)の残基130~330(SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7);IgG2重鎖定常領域(SEQ ID NO:2;UniProtアクセッション番号P01859)の残基126~326(SEQ ID NO:8);ならびにIgG3重鎖定常領域(SEQ ID NO:3;UniProtアクセッション番号P01860)の残基177~377(SEQ ID NO:9);ならびにIgG4重鎖定常領域(SEQ ID NO:4;UniProtアクセッション番号P01861)の残基127~327(SEQ ID NO:10);ならびにIgE定常領域(Uniprotアクセッション番号P01854)の残基225-428(SEQ ID NO:11);ならびにIgA1定常領域(Uniprotアクセッション番号P01876)の残基133-353(SEQ ID NO:12);ならびにIgA2定常領域(Uniprotアクセッション番号P01877)の残基120-340(SEQ ID NO:13);ならびにIgM定常領域(Uniprotアクセッション番号P01871)の残基230-452(SEQ ID NO:14);ならびにIgD定常領域(Uniprotアクセッション番号P01880)の残基176-384(SEQ ID NO:15)を表している。 図2-1の続きを示す図である。 図3AおよびB:IgG1(SEQ ID NO:16)、IgG4(SEQ ID NO:18)および(部分的)IgG3(SEQ ID NO:17)骨格における抗EGFr抗体2F8の配列アライメント。KabatおよびEUインデックスによるアミノ酸番号付けを示している(いずれも、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991)に記載)。 図3Aの続きを示す図である。 野生型の非改変Fc分子およびFc'分子間の相互作用を図示している、多量体(例えば、ヘキサマー)配置における隣接分子(それぞれFcおよびFc')のFc間のK439/S440相互作用の詳細図。 K439EおよびS440K変異を含む変異型のFc分子およびFc'分子間の相互作用を図示している、多量体(例えば、ヘキサマー)配置における隣接分子(それぞれFcおよびFc')のFc間のK439/S440相互作用の詳細図。 7D8 Fc:Fc変異体を用いたC1q結合ELISA。マイクロタイタープレートのウェルを表記の抗体の濃度系列でコーティングし、固定濃度のC1qとともにインキュベートした。C1qと結合する効率は、I253Dを除き、コーティングした変異体のすべてについて野生型7D8と同等であった。少なくとも3回の実験の代表を示している。 CD20陽性Raji細胞に対する、7D8変異体によって媒介されるCDC。細胞溶解を測定することによってCDC活性を試験するために、Raji細胞を7D8変異体(K439E、S440K、K439E/S440K二重変異体、K439E+S440K混合型)およびC1qの濃度系列とともにインキュベートした。反復実験の代表的なグラフを示している。 CD20陽性Daudi細胞に対する、7D8変異体(7D8-WT、K439E、S440K、K439E/S440K二重変異体、K439E+S440K混合型)によって媒介されるCDC。7D8変異体の濃度系列を、それらがCDCを誘導する活性に関して検討した。 CD38陽性細胞に対する、CD38抗体HuMAb 005の変異体によって媒介されるCDC。005変異体の濃度系列による、Daudi細胞に対するCDC活性。一過性トランスフェクションを行ったものから単離した非精製抗体試料を試験した。陰性対照として、擬似トランスフェクト細胞の上清を用いた。 CD38陽性細胞に対する、CD38抗体HuMAb 005の変異体によって媒介されるCDC。HuMAb 005変異体の濃度系列による、Raji細胞に対するCDC活性。一過性トランスフェクションを行ったものから単離した非精製抗体試料を試験した。陰性対照として、擬似トランスフェクト細胞の上清を用いた。 CD38陽性細胞に対する、CD38抗体HuMAb 005の変異体によって媒介されるCDC。20%または50% NHSのいずれかを伴うHuMAb 005のE345R変異体の、Wien133細胞に対するCDC活性。一過性トランスフェクションを行ったものから単離した非精製抗体試料を試験した。陰性対照として、擬似トランスフェクト細胞の上清を用いた。 CD38陽性細胞に対する、CD38抗体HuMAb 005の変異体によって媒介されるCDC。20%または50% NHSのいずれかを伴うHuMAb 005および7D8のE345R変異体の、Raji細胞に対するCDC活性。一過性トランスフェクションを行ったものから単離した非精製抗体試料を試験した。陰性対照として、擬似トランスフェクト細胞の上清を用いた。 Fc結合ペプチドを用いた競合実験における、CD38抗体HuMAb 005(A)およびCD20抗体HuMAb 7D8(B)の野生型およびE345R変異体によるCDC。Fc結合性DCAWHLGELVWCTペプチド(SEQ ID NO:19)の濃度系列とともにインキュベートした、抗体でオプソニン化したDaudi細胞に対するCDC後の細胞溶解を測定した。一過性トランスフェクションを行ったものから単離した非精製抗体試料を用いた。陰性対照として、擬似トランスフェクトした細胞の上清を用いた。 野生型CD38抗体HuMAb 005および変異型IgG1-005-E345Rによる、CD38を発現するDaudi細胞に対するADCC。ドナー1人のPBMCのADCCを示し、溶解率(%)として示している。 pH 6でのELISAによって決定した、ヒト、カニクイザルおよびマウスのFcRnに対する野生型IgG1-7D8および変異型IgG1-7D8-E345Rの結合。 SCIDマウスにおける静脈内注射後の、野生型IgG1-7D8、ならびにIgG1-7D8-E354R、IgG1-7D8-S440KおよびIgG1-7D8-K322A変異体の血漿中濃度。 図14A:CD20陽性およびCD38陽性のWien133細胞に対するCDC。 図14B:CD20陽性およびCD38陽性のWien133細胞に対するCDC。 図14C:CD20陽性およびCD38陽性のWien133細胞に対するCDC。 図14D:CD20陽性およびCD38陽性のWien133細胞に対するCDC。 図15AおよびB:Raji-luc #2D1細胞を用いた皮下異種移植モデルにおける、IgG1-7D8-E345Rのインビボ活性の評価。 図16AおよびB:Raji-luc #2D1細胞を用いた皮下異種移植モデルにおける、IgG1-005-E345Rのインビボ活性の評価。 CD38陽性でEGFR陰性のWien133細胞に対する、E345R変異を有するCD38/EGFR二重特異性抗体によるCDC。 図18AおよびB:E345R変異を有するおよび有しないCD20/CD38二重特異性抗体による、CD20陽性でCD38陰性のWienl33細胞またはRaji細胞に対するCDC。 E345R変異を有するEGFR抗体2F8による、EGFR陽性A431細胞に対するCDC。 図20AおよびB:E345R変異型抗体によって媒介されるCDC。 リソソームマーカーLAMP1(APC)を用いたTF抗体(FITC)の共局在分析。 図22A:種々のB細胞株に対する検討で、E345Rの導入は、野生型リツキシマブと比較してCDC媒介性致死の増強をもたらした。 図22B:種々のB細胞株に対する検討で、E345Rの導入は、野生型リツキシマブと比較してCDC媒介性致死の増強をもたらした。 図22C:種々のB細胞株に対する検討で、E345Rの導入は、野生型リツキシマブと比較してCDC媒介性致死の増強をもたらした。 図22D:種々のB細胞株に対する検討で、E345Rの導入は、野生型リツキシマブと比較してCDC媒介性致死の増強をもたらした。 CD20発現レベルが同等な種々のB細胞株において、E345Rの導入は、野生型リツキシマブと比較して、補体調節タンパク質CD46(A)、CD55(B)またはCD59(C)の発現レベルとは無関係に、最大CDC媒介性致死の増強をもたらした。 CDCの動態。E345R抗体は、野生型抗体と比較して、CDCによる、より迅速かつより実質的な標的細胞溶解をもたらす。 CDCの動態。E345R抗体は、野生型抗体と比較して、CDCによる、より迅速かつより実質的な標的細胞溶解をもたらす。 CDCの動態。E345R抗体は、野生型抗体と比較して、CDCによる、より迅速かつより実質的な標的細胞溶解をもたらす。 CDCの動態。E345R抗体は、野生型抗体と比較して、CDCによる、より迅速かつより実質的な標的細胞溶解をもたらす。 CDCの動態。二重特異性CD38×CD20抗体へのE345R変異の導入は、より迅速かつより実質的なCDC媒介性標的細胞溶解をもたらす。 図25A~B:CDCの動態。EGFR陰性Raji細胞と一価結合する二重特異性抗体CD38×EGFR(A)およびCD20×EGFR(B)へのE345R変異の導入は、より迅速かつより実質的なCDC媒介性標的細胞溶解をもたらす。 図26A:野生型抗体とE345RおよびQ386Kを含有する変異型抗体との組み合わせによる、Wien133細胞に対するCDC。IgG1-b12変異体はWien133細胞と結合しないことから、陰性対照抗体として用いた。 図26B:野生型抗体とE345RおよびQ386Kを含有する変異型抗体との組み合わせによる、Wien133細胞に対するCDC。IgG1-b12変異体はWien133細胞と結合しないことから、陰性対照抗体として用いた。 図26C:野生型抗体とE345RおよびQ386Kを含有する変異型抗体との組み合わせによる、Wien133細胞に対するCDC。IgG1-b12変異体はWien133細胞と結合しないことから、陰性対照抗体として用いた。 図26D:野生型抗体とE345R、E430GおよびQ386Kを含有する変異型抗体との組み合わせによる、Wien133細胞に対するCDC。IgG1-b12変異体はWien133細胞と結合しないことから、陰性対照抗体として用いた。 図26E:野生型抗体とE345R、E430GおよびQ386Kを含有する変異型抗体との組み合わせによる、Wien133細胞に対するCDC。IgG1-b12変異体はWien133細胞と結合しないことから、陰性対照抗体として用いた。 図26F:野生型抗体とE345R、E430GおよびQ386Kを含有する変異型抗体との組み合わせによる、Wien133細胞に対するCDC。IgG1-b12変異体はWien133細胞と結合しないことから、陰性対照抗体として用いた。 E345R変異を含有するIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4アイソタイプ抗体のCDCの活性。 野生型CD38抗体005へのFc-Fc安定化性E345R変異の導入は、エクスビボCDCアッセイにおいて初代CLL細胞の致死の増強をもたらす(平均±平均の標準誤差)。 ELISAによって決定した、pH 6.0での、野生型IgG1-005およびIgG1-005変異体のヒト、マウスおよびカニクイザルFcRnに対するFcRn結合。 Ramos細胞株およびSU-DHL-4細胞株における、さまざまなリツキシマブ変異体、野生型リツキシマブおよび無関係な陰性対照抗体IgG1-b12の、20%正常ヒト血清中でのCDC活性。 Micro Vue C4d断片ELISAによって決定した、野生型IgG1-005、IgG1-005-E345K、IgG1-005-E345Q、IgG1-005-E345Y、IgG1-005-E430G、IgG1-005-E430SおよびIgG1-005-S440Y、ならびに熱凝集IgG(HAG)(陽性対照)による、正常ヒト血清中でのC4d生成。 総ヒトIgG ELISAによって決定した、SCIDマウスにおける投与した野生型IgG1-005ならびに抗体変異体IgG1-005-E345K、IgG1-005-E345Q、IgG1-005-E345R、IgG1-005-E345Y、IgG1-005-E430F、IgG1-005-E430G、IgG1-005-E430S、IgG1-005-E430TおよびIgG1-005-S440Yの血漿クリアランス速度。 ヒトCD38特異的ELISAによって決定した、SCIDマウスにおける投与した野生型IgG1-005ならびに抗体変異体IgG1-005-E345K、IgG1-005-E345Q、IgG1-005-E345R、IgG1-005-E345Y、IgG1-005-E430F、IgG1-005-E430G、IgG1-005-E430S、IgG1-005-E430TおよびIgG1-005-S440Yの血漿クリアランス速度。
発明の詳細な説明
本明細書で説明するように、驚いたことに、Fc:C1q結合に直接的には関与しないアミノ酸における変異は、それにもかかわらず、抗体のCDCを増強することができ、さらに抗体の他のFc媒介性エフェクター機能も向上させることができる。このことは、IgG1抗体などの抗体分子が、後にC1qによる結合を受けるオリゴマー構造を形成しうるという仮説を裏づける。さらに、ある種の変異はCDC誘導を低下させることが見いだされているものの、同一または異なる抗体分子におけるそのような変異のある種の組み合わせはCDC誘導の回復をもたらし、かつ、抗体のオリゴマー形成に対するさらなる特異性を示し、それによって、より特異的なCDC誘導を促進した。CDC応答を増強する具体的な変異についても、実施例に示されているように、ADCC応答の向上、結合力の増強、細胞内移行の増強、およびマウス腫瘍モデル系におけるインビボ活性によって特徴づけた。これらの発見は、増強されたCDC誘導能力、より選択的なCDC誘導性、および/または他の向上したエフェクター機能を有する新規な抗体ベースの治療薬を可能にする。
本発明のポリペプチド変異体(抗体変異体を含む)はすべて、結合領域と、IgG1におけるアミノ酸残基E345~S440に対応するセグメントに1つまたは複数の変異を含む完全長または免疫グロブリンの部分的Fcドメインとを含む。理論に限定されることはないが、同定された変異は、本明細書で「単一変異体」、「二重変異体」および「混合変異体」と称する、図1に模式的に表した3種類の異なる原理に基づいて、より有効な、および/またはより特異的なCDC誘導をもたらすと考えられる。
本発明の変異体の向上したC1q効果および/またはCDC効果は、主として、抗原が固定されずに流動膜に存在する細胞ベースアッセイのような、抗体オリゴマー形成が可能なアッセイでのみ検出可能である。さらに、これらの効果が、より安定した抗体オリゴマーに起因し、C1qの直接結合部位の改変に起因するのではないことを、図1Cに示した原理にしたがって検証することができる。
定義
「単一変異体」という用語は、親ポリペプチドまたは抗体と比較してCDCが増強されておりかつ他のエフェクター機能も増強されていてもよい本発明の変異体と解釈されるものとする。
「二重変異体」という用語は、前記セグメントに少なくとも2つの変異を含み、かつ、当該少なくとも2つの変異のうち1つのみを含む変異体と比較して、CDCが向上しておりかつ他のエフェクター機能も増強されていてもよい変異体と解釈されるものとする。
「混合変異体」という用語は、前記セグメント中の異なるアミノ酸残基に変異を含む、同じまたは異なるポリペプチドまたは抗体の第2の変異体と組み合わせて用いた場合に、その変異体、第2の変異体、および親ポリペプチドまたは抗体単体のうち1つまたは複数と比較して、CDCの向上をもたらしかつ任意で他のエフェクター機能の増強をももたらす変異体と解釈されるものとする。
「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチド」という用語は、本発明の文脈において、免疫グロブリンのFcドメインと、例えば細胞、細菌またはビリオンの表面に存在するポリペプチドなどの任意の分子と結合しうる結合領域とを含むポリペプチドを指す。免疫グロブリンのFcドメインは、免疫グロブリンの2つのCH2-CH3領域と、連結領域(例えばヒンジ領域)とを含み、典型的にはパパイン(当業者には公知である)による抗体の消化後に生じると考えられる、抗体の断片と定義される。抗体重鎖の定常ドメインによって抗体アイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgD、またはIgE)が定義される。Fcドメインは、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体および補体系のタンパク質とともに抗体のエフェクター機能を媒介する。結合領域は、細胞、細菌、またはビリオンと結合しうるタンパク質、タンパク質リガンド、受容体、抗原結合領域またはリガンド結合領域などのポリペプチド配列であってもよい。結合領域が例えば受容体である場合には、「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチド」を、免疫グロブリンのFcドメインと前記結合領域との融合タンパク質として調製することができる。結合領域が抗原結合領域である場合には、「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチド」は、キメラ、ヒト化、もしくはヒト抗体または重鎖のみの抗体、またはScFv-Fc融合物のような抗体であってもよい。免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチドは、典型的には、連結領域(例えばヒンジ領域)と免疫グロブリンの重鎖の2つのCH2-CH3領域とを含み、それ故、「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチド」は、「免疫グロブリンの少なくとも1つのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチド」であってもよい。「免疫グロブリンのFcドメイン」とは、本発明の文脈において、例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA1、IgGA2、IgMまたはIgEといった、抗体のサブタイプに応じた連結領域、例えばヒンジ、ならびに免疫グロブリンのCH2およびCH3領域が存在することを意味する。当該ポリペプチドは、ヒト起源のものに限定されず、任意の起源(例えば、マウスまたはカニクイザル起源)のものであってもよい。
「CH2領域」または「CH2ドメイン」という用語は、本明細書で用いる場合、免疫グロブリンのCH2領域を指すことを意図している。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のCH2領域は、EU付番方式によるアミノ酸228~340に対応する。しかし、CH2領域が、本明細書に記載したような他のサブタイプの任意のものであってもよい。
「CH3領域」または「CH3ドメイン」という用語は、本明細書で用いる場合、免疫グロブリンのCH3領域を指すことを意図している。したがって、例えば、ヒトIgG1抗体のCH3領域は、EU付番方式によるアミノ酸341~447に対応する。しかし、CH3領域が、本明細書に記載したような他のサブタイプの任意のものであってもよい。
「免疫グロブリン」という用語は、1対の軽(L)低分子量鎖および1対の重(H)鎖という2対のポリペプチド鎖からなり、その4つすべてがジスルフィド結合によって相互接続されている可能性のある、構造的に類縁性のある糖タンパク質のクラスを指す。免疫グロブリンの構造は詳細に特徴づけられている。例えば、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989))を参照。手短に述べると、各重鎖は典型的には、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略記)および重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は典型的には、CH1、CH2およびCH3という3つのドメインで構成される。重鎖は、いわゆる「ヒンジ領域」におけるジスルフィド結合を介して相互接続されている。各軽鎖は典型的には、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略記)および軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は典型的には、CLという1つのドメインで構成される。VH領域およびVL領域を、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域の間に散在する、相補性決定領域(CDR)とも称される超可変性の領域(または超可変領域、これらは構造的に画定されたループの配列および/または形態の点で超可変性でありうる)にさらに細分することもできる。各VHおよびVLは典型的には、アミノ末端からカルボキシ末端まで以下の順序で配置された3つのCDRおよび4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196, 901 917 (1987))も参照。別の記述があるか、または文脈と食い違う場合を除き、定常領域配列のアミノ酸は、本明細書において、EUインデックス(Kabat, E.A. et al., Sequences of proteins of immunological interest. 5th Edition - US Department of Health and Human Services, NIH publication No. 91-3242, pp 662,680,689 (1991)に記載)に従って番号付けされている。
「抗体」(Ab)という用語は、本発明の文脈において、典型的な生理的条件下で、意味のある期間、例えば少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、約24時間もしくはそれより長い、約48時間もしくはそれより長い、約3日、4日、5日、6日、7日もしくはそれより長い日数など、または任意の他の妥当な機能的に定められた期間(例えば、抗原に対する抗体結合に伴う生理的応答を誘導、促進、増強および/もしくは調節するのに十分な時間、ならびに/または抗体がエフェクター活性を動因するのに十分な時間)の半減期で抗原と特異的に結合する能力を有する、免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、またはそれらのいずれかの派生物を指す。本発明の抗体は、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む。抗体は一般に、2つのCH2-CH3領域と1つの連結領域(例えばヒンジ領域)とを含み、例えば少なくとも1つのFcドメインを含む。したがって、本発明の抗体は1つのFc領域と1つの抗原結合領域を含みうる。免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域または「Fc」領域は、免疫系のさまざまな細胞(例えばエフェクター細胞)および補体系の成分(例えば補体活性化の古典的経路における第一成分であるC1q)を含む、宿主組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介しうる。また、抗体が、二重特異性抗体または類似の分子などの多重特異性抗体であってもよい。「二重特異性抗体」という用語は、少なくとも2つの異なる、典型的には重なり合わないエピトープに対する特異性を有する抗体を指す。そのようなエピトープは、同一の標的にあってもよく、または異なる標的にあってもよい。エピトープが異なる標的にある場合、そのような標的は同一の細胞にあってもよく、または異なる細胞もしくは細胞種にあってもよい。上述の通り、別の記述があるか、または文脈と明らかに食い違う場合を除き、本明細書における抗体という用語は、Fc領域の少なくとも一部分を含み、かつ抗原と特異的に結合する能力を保っている抗体の断片を含む。そのような断片は、公知の任意の手法、例えば酵素的切断、ペプチド合成および組換え発現の手法などによって得ることができる。抗体の抗原結合機能が完全長抗体の断片によって果たされうることは示されている。「Ab」または「抗体」という用語の範囲に含まれる結合性断片の例には、一価抗体(GenmabによるWO 007059782号に記載);2つの重鎖のみからなり、例えばラクダ科動物などにおいて天然に存在する重鎖抗体(例えば、Hamers-Casterman (1993) Nature 363:446);ThioMab(Roche、WO2011069104号)、非対称性の二重特異性抗体様分子である鎖交換組換えドメイン(strand-exchange engineered domain)(SEEDまたはSeed-body)(Merck、WO2007110205号);Triomab(Fresenius、Lindhofer et al. (1995 J Immunol 155:219);FcΔAdp(Regeneron、WO2010151792号)、Azymetric Scaffold(Zymeworks/Merck、WO2012/058768号)、mAb-Fv(Xencor、WO2011/028952号)、二重可変ドメイン免疫グロブリン(Abbott、DVD-Ig、米国特許第7,612,181号);二重ドメイン双頭抗体(Unilever;Sanofi Aventis、WO20100226923号)、ジ-ダイアボディ(Di-diabody)(ImClone/Eli Lilly)、ノブ・イントゥ・ホール(Knobs-into-holes)抗体フォーマット(Genentech、WO9850431号);デュオボディ(DuoBody)(Genmab、WO 2011/131746号);静電ステアリング(Electrostatic steering)抗体フォーマット(Amgen、EP1870459号およびWO 2009089004号;Chugai、US201000155133号;Oncomed、WO 2010129304A2号);二重特異性IgG1およびIgG2(Rinat neurosciences Corporation、WO11143545号)、CrossMAb(Roche、WO2011117329号)、LUZ-Y(Genentech)、Biclonic(Merus)、二重標的指向性ドメイン抗体(GSK/Domantis)、2つの標的を認識するツー・イン・ワン(Two-in-one)抗体(Genentech、NovImmune)、架橋Mab(Cross-linked Mab)(Karmanos Cancer Center)、CovX-body(CovX/Pfizer)、IgG様二重特異性(ImClone/Eli Lilly、Shen, X, et al. J Immunol Methods, 2007. 318(1-2): p. 65-74)、ならびにDIG-bodyおよびPIG-body(Pharmabcine)、ならびに二重親和性再標的指向性(retargeting)分子(Fc-DARTまたはIg-DART、Macrogenicsによる、WO/2008/157379号、WO/2010/080538号)、Zybody(Zyngenia)、共通の軽鎖(Crucell/Merus、US7262028号)または共通の重鎖(NovImmuneによるκλBody)を用いるアプローチ、さらには、ZymoGenetics/BMSによるBsAbのように、ポリペプチド配列をFcドメインを含有する抗体断片と融合させたものを含む、scFv融合物のような融合タンパク質)、Biogen IdecによるHERCULES(US007951918号)、Emergent BioSolutions/TrubionによるSCORPION、Ts2Ab(MedImmune/AZ(Dimasi, N., et al. J Mol Biol, 2009. 393(3): p. 672-92)、NovartisによるscFv融合物、Changzhou Adam Biotech IncによるscFv融合物(CN 102250246号)、RocheによるTvAb(WO 2012025525号、WO 2012025530号)、f-StarによるmAb2(WO2008/003116号)および二重scFv融合物が非限定的に含まれる。また、抗体という用語が、別に指定する場合を除き、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(ヒトモノクローナル抗体など)、抗体混合物(組換えポリクローナル体)、例えばSymphogenおよびMerusによって開発された技術によって作製されたもの(Oligoclonics)、ならびに抗体様ポリペプチド、例えばキメラ抗体およびヒト化抗体なども含むことが理解されるべきである。作製される抗体は、可能性として任意のアイソタイプを有しうる。
「完全長抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、そのアイソタイプの野生型抗体に通常認められるものに対応する重鎖および軽鎖の定常ドメインおよび可変ドメインのすべてを含む抗体(例えば、親抗体または変異型抗体)を指す。
「ヒト抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図している。本発明のヒト抗体が、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってはコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発、またはインビボでの体細胞変異によって導入される変異、挿入または欠失)を含んでもよい。しかし、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に接ぎ合わされた抗体は含まないものとする。
「モノクローナル抗体」、「モノクローナルAb」、「モノクローナル抗体組成物」、「mAb」などの用語は、本明細書で用いる場合、単分子組成のAb分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を呈する。したがって、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する、単一の結合特異性を呈するAbを指す。ヒトmAbは、機能的ヒト抗体を産生するように再編成されたヒト重鎖導入遺伝子レパートリーおよび軽鎖導入遺伝子レパートリーを含むゲノムを有するトランスジェニック性またはトランスクロモソーム非ヒト動物、例えばトランスジェニックマウスから得られたB細胞を、不死化細胞と融合させたものを含むハイブリドーマによって作製することができる。
本明細書で用いる場合、「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリンのクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA1、IgGA2、IgEもしくはIgM、またはそれらの任意のアロタイプ、例えばIgG1m(za)およびIgG1m(f)など)を指す。さらに、各重鎖アイソタイプは、カッパ(κ)またはラムダ(λ)軽鎖のいずれかと組み合わせることができる。
「一価抗体」という用語は、本発明の文脈において、抗体分子が抗体の結合ドメインのうち1つのみで抗原と結合することができ、例えば、単一の抗原-抗体相互作用を有し、それ故に抗原架橋を行えないことを意味する。
本明細書で用いる場合、「標的」という用語は、本発明の文脈において、Fcドメインと結合領域とを含むポリペプチドの結合領域が、抗体の結合の文脈で用いられる場合に、産生された抗体が向かう任意の抗原を含む分子と理解される必要がある。「抗原」および「標的」という用語は、抗体との関係について互換的に用いることができ、かつ本発明の任意の局面または態様に関して同じ意味および目的を持つ。
本明細書で用いる場合、所定の抗原に対する抗体の結合の文脈における「結合」という用語は、典型的には、例えば、抗原をリガンドとして、抗体を分析物として用いてBIAcore 3000計器で表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定した場合に、KDが約10-6 Mもしくはそれ未満、例えば、10-7 Mもしくはそれ未満、例えば約10-8 Mもしくはそれ未満、例えば約10-9 Mもしくはそれ未満、約10-10 Mもしくはそれ未満、または約10-11 Mもしくはさらにはそれ未満などに対応する親和性での結合であり、所定の抗原または近縁関係にある抗原以外の非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)に対する結合のその親和性よりも、少なくとも10倍低い、例えば少なくとも100倍低い、例えば少なくとも1,000倍低い、例えば少なくとも10,000倍低い、例えば少なくとも100,000倍低いなどのKDに対応する親和性で、所定の抗原と結合する。親和性がより低くなる量は抗体のKDに依存し、そのため、抗体のKDが極めて低い(すなわち、抗体の特異性が高い)場合には、抗原に対する親和性が非特異的抗原に対する親和性よりも低くなる程度は、少なくとも10,000分の1となることがある。「KD」(M)という用語は、本明細書で用いる場合、特定の抗体-抗原相互作用に関する解離平衡定数を指す。
本発明の「変異体」または「抗体変異体」または「親抗体の変異体」とは、「親抗体」と比較して、1つまたは複数の変異を含む抗体分子である。異なる用語が互換的に用いることができ、かつ本発明の任意の局面または態様に関して同じ意味および目的を持つ。例示的な親抗体フォーマットには、野生型抗体、完全長抗体もしくはFcを含有する抗体断片、二重特異性抗体、ヒト抗体、またはそれらの任意の組み合わせが非限定的に含まれる。同様に、本発明の「変異体」または「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチドの変異体」または「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体」とは、「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチド」と比較して1つまたは複数の変異を含む「免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含むポリペプチド」である。これらの異なる用語は、互換的に用いることができ、かつ本発明の任意の局面または態様に関して同じ意味および目的を持つ。例示的な変異には、親アミノ酸配列におけるアミノ酸のアミノ酸欠失、挿入および置換が含まれる。アミノ酸置換は、天然型アミノ酸を、別の天然アミノ酸または非天然アミノ酸誘導体に交換することがある。アミノ酸置換は保存的なこともあれば、非保存的なこともある。本発明の文脈において、保存的置換は、以下の3つの表の1つまたは複数に表されたアミノ酸のクラス内部での置換によって定義しうる:

保存的置換に関するアミノ酸残基のクラス
Figure 0007048665000001

別の保存的アミノ酸残基置換のクラス
Figure 0007048665000002

アミノ酸残基の別の物理的および機能的な分類
Figure 0007048665000003
本発明の文脈において、変異体における置換は以下のように指し示される:
元のアミノ酸‐位置‐置換されたアミノ酸;
三文字コードまたは一文字コードは、コードXaaおよびXを含めて、アミノ酸残基を指し示すために用いられる。したがって、「E345R」または「Glu345Arg」という表記は、変異体が、親抗体での位置345におけるアミノ酸に対応する変異型アミノ酸の位置に、アライメントした場合に、グルタミン酸のアルギニンによる置換を含むことを意味する。
そのような位置が抗体に存在しない場合、変異体はアミノ酸の挿入を含み、例えば:
位置‐置換されたアミノ酸;例えば、「448E」のような表記を用いる。
そのような表記は、一連の相同なポリペプチドまたは抗体における改変に関して特に該当する。
同様に、置換アミノ酸残基の実体が重要でない場合には:
元のアミノ酸‐位置;または「E345」。
元のアミノ酸および/または置換されたアミノ酸が、複数の、ただしすべてではないアミノ酸を含む修飾については、位置345におけるグルタミン酸のアルギニン、リジンまたはトリプトファンへの置換について:
「Glu345Arg,Lys,Trp」または「E345R,K,W」または「E345R/K/W」または「E345をR、KまたはWに(E345 to R, K or W)」を、本発明の文脈において互換的に用いることができる。
その上、「置換」という用語は、他の19種の天然アミノ酸のいずれか1つへの置換、または非天然アミノ酸などの他のアミノ酸への置換も包含する。例えば、位置345におけるアミノ酸Eの置換には、以下の置換のそれぞれが含まれる:345A、345C、345D、345G、345H、345F、345I、345K、345L、345M、345N、345Q、345R、345S、345T、345V、345W、および345Y。ところで、これは345Xとの表記と等価であり、ここでXは任意のアミノ酸を表している。また、これらの置換を、E345A、E345C、その他、またはE345A、C、その他、またはE345A/C/その他と表すこともできる。同じことが、本明細書で言及する各位置およびあらゆる位置についても同様に成り立ち、そのような置換の任意のものが本明細書に具体的に含まれる。
別の配列におけるアミノ酸またはセグメント「に対応する」1つの配列におけるアミノ酸またはセグメントとは、(i)ALIGN、ClustalWまたは類似のものなどの標準的な配列アライメントプログラムを、典型的にはデフォルトの設定で用いて、他のアミノ酸またはセグメントとアライメントされ、かつ(ii)SEQ ID NO:1に対して少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の配列同一性を有するものである。例えば、図2および3に示された配列アライメントを用いて、IgG1 Fc配列における特定のアミノ酸に対応するIgG2、IgG3またはIgG4 Fc配列における任意のアミノ酸を同定することができる。
本発明は、SEQ ID No:1、2、3、4および5のアミノ酸P247~K447に対してある程度の同一性を有する、変異体、すなわち親ポリペプチドおよび親抗体ならびに/または変異型ポリペプチドおよび変異型抗体について言及し、そのような親抗体および/または変異型抗体を、本明細書では以下、「相同な抗体」と称する。
本発明の目的において、2つのアミノ酸配列の間の同一性の程度、ならびに2つのヌクレオチド配列の間の同一性の程度は、Needleman-Wunschアライメント(すなわち、グローバルアライメント)であるプログラム「align」によって決定される。このプログラムは、ポリペプチド配列ならびにヌクレオチド配列のアライメントのために用いられる。ポリペプチドのアライメントのためにはデフォルトのスコアリング行列BLOSUM50が用いられ、ヌクレオチドのアライメントのためにはデフォルトの同一性行列が用いられ、ギャップの第1の残基のペナルティはポリペプチドについては-12とし、ヌクレオチドについては-16とする。ギャップのさらなる残基に対するペナルティはポリペプチドについては-2とし、ヌクレオチドについては-4とする。
「align」は、FASTAパッケージ・バージョンv20u6の一部である(W. R. Pearson and D. J. Lipman (1988), "Improved Tools for Biological Sequence Analysis", PNAS 85:2444-2448、およびW. R. Pearson (1990) "Rapid and Sensitive Sequence Comparaison with FASTP and FASTA", Methods in Enzymology 183:63-98を参照)。FASTAタンパク質アライメントは、Smith-Watermanアルゴリズムをギャップサイズに関して限定せずに用いる("Smith-Waterman algorithm", T. F. Smith and M. S. Waterman (1981) J. Mol. Biolo. 147:195-197を参照)。
本明細書で用いる場合、「エフェクター細胞」という用語は、免疫応答の認識段階および活性化段階ではなく、免疫応答のエフェクター段階に関与する免疫細胞を指す。例示的な免疫細胞には、骨髄系またはリンパ系起源の細胞、例えばリンパ球(B細胞、および細胞溶解性T細胞(CTL)を含むT細胞など)、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、好酸球、多形核細胞、例えば好中球、顆粒球、マスト細胞および好塩基球などが含まれる。ある種のエフェクター細胞は、Fc受容体(FcR)または補体受容体を発現し、特異的な免疫機能を遂行する。いくつかの態様において、例えばナチュラルキラー細胞などのエフェクター細胞は、ADCCを誘導することができる。例えば、FcRを発現する単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞およびクッパー細胞は、標的細胞を特異的に死滅させること、および抗原を免疫系の他の成分に対して提示すること、または抗原を提示する細胞と結合することに関与する。いくつかの態様において、ADCCは、標的細胞表面への活性化C3断片の沈着をもたらす、抗体が誘因となる古典的補体活性化をさらに増強することができる。C3切断産物は、骨髄系細胞上に発現される、CR3などの補体受容体(CR)に対するリガンドである。エフェクター細胞上のCRによる補体断片の認識は、Fc受容体を介したADCCの増強を促進しうる。いくつかの態様において、抗体を誘因とする古典的補体活性化は、標的細胞上のC3断片をもたらす。これらのC3切断産物は、直接的な補体依存性細胞傷害作用(CDCC)を促進しうる。いくつかの態様において、エフェクター細胞は、標的抗原、標的粒子または標的細胞を貪食しうる。エフェクター細胞上での特定のFcRまたは補体受容体の発現は、サイトカインなどの体液性因子によって調節されうる。例えば、FcγRIの発現は、インターフェロンγ(IFNγ)および/またはG-CSFによってアップレギュレートされることが見いだされている。この発現増強は、標的に対するFcγRI保有細胞の細胞傷害活性を増強する。エフェクター細胞は、標的抗原を貪食すること、または標的細胞を貪食もしくは溶解することができる。いくつかの態様において、抗体を誘因とする古典的補体活性化は、標的細胞上のC3断片をもたらす。これらのC3切断産物は、エフェクター細胞による直接的な食作用を促進するか、または抗体媒介性食作用を増強することによって間接的に促進する。
「ベクター」という用語は、本明細書で用いる場合、ベクター中に連結された核酸セグメントの転写を誘導しうる核酸分子を指す。ベクターの1つの型は、環状二本鎖DNAループの形態にある「プラスミド」である。ベクターの別の型はウイルスベクターであり、この場合には核酸セグメントをウイルスゲノム中に連結することができる。ある種のベクターは、それらが導入された宿主細胞内で自律複製を行うことができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター、およびエピソーム性哺乳動物ベクター)。他のベクター(非エピソーム性哺乳動物ベクターなど)は、宿主細胞に導入されると宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それにより、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、それらが機能的に連結している遺伝子の発現を導くことができる。そのようなベクターは、本明細書において「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と称される。一般に、組換えDNA手法において有用な発現ベクターは、プラスミドの形態にあることが多い。本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は互換的に用いうるが、それはプラスミドがベクターの最も一般的に用いられる形態であるためである。しかし、本発明は、同等の機能を果たす、ウイルスベクター(複製能欠損レトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスなど)のような他の形態の発現ベクターも含むことを意図している。
「組換え宿主細胞」(または単に「宿主細胞」)という用語は、本明細書で用いる場合、発現ベクターが導入された細胞を指すことを意図している。そのような用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫も指すことを意図していることが理解されるべきである。変異または環境的影響のいずれかに起因してある種の修飾が後続世代で起こりうるため、そのような子孫は実際には親細胞と同一ではない可能性があるものの、それでもなお、本明細書で用いる「宿主細胞」という用語の範囲に含まれる。組換え宿主細胞には、例えば、トランスフェクトーマ、CHO細胞、HEK-293細胞、PER.C6、NS0細胞およびリンパ球細胞、ならびに原核細胞、例えば大腸菌(E. coli)など、ならびに植物細胞および真菌といった他の真核生物宿主が含まれる。
「トランスフェクトーマ」という用語は、本明細書で用いる場合、Abまたは標的抗原を発現する組換え真核宿主細胞、例えば、CHO細胞、PER.C6、NS0細胞、HEK-293細胞、植物細胞、または酵母細胞を含む真菌などを含む。
「調製物」という用語は、細胞に結合している抗原(例えば、細胞の表面上に発現された抗原)、細胞膜、ビリオンまたは他の構造と相互作用した場合にオリゴマーを形成する能力を増強することができ、それによって、C1q結合、補体活性化、CDC、ADCC、ADCP、他のFc媒介性エフェクター機能、細胞内移行、ダウンモジュレーション、アポトーシス、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)の取り込み、結合力、またはそれらの任意のものの組み合わせを増強することを可能にする、抗体変異体および複数の異なる抗体変異体の混合物の調製物を指す。例示的なアッセイは、例えば、C1q結合力(実施例4)、CDC(実施例5、6および10、16、19、22、23、24、25、および35);ADCC(実施例12)、インビボ活性(実施例20、21)、血漿クリアランス速度(実施例37)、FcRn結合(実施例34)、および標的非依存的な液相中での補体活性化(実施例36)などに関して、実施例に提示されている。「単一変異体」、「二重変異体」および「混合変異体」と称する、本明細書における諸局面の変異体について、例示的なそれらの調製のための工程および使用方法とともに、以下にさらに詳細に説明する。
本明細書で用いる場合、「親和性」という用語は、抗体の個々の抗原結合部位と抗原との一価結合のように単一部位における、ある分子(例えば抗体)と別の分子(例えば標的または抗原)との結合の強度である。
本明細書で用いる場合、「結合力」という用語は、2つの構造物の間、例えば、ある標的と同時に相互作用する抗体の複数の抗原結合部位の間、または抗体とC1qとの間などでの、複数の結合部位についての複合強度を指す。複数の結合相互作用が存在する場合、2つの構造物は結合部位がすべて解離した際にのみ解離すると考えられ、それ故、解離速度は個々の結合部位に関してよりも低く、その結果、個々の結合部位の結合の強度(親和性)と比較して、より大きな有効な総結合強度(結合力)をもたらすと考えられる。
本明細書で用いる場合、「オリゴマー」という用語は、少なくとも原理的には無限の数のモノマーからなるポリマーとは対照的に、複数の、しかし限られた数のモノマー単位(例えば、抗体)からなる分子を指す。例示的なオリゴマーには、ダイマー、トリマー、テトラマー、ペンタマーおよびヘキサマーがある。オリゴマーにおけるモノマー単位の数を表すためにはギリシャ文字の接頭語がしばしば用いられ、例えばテトラマーは4個の単位で、ヘキサマーは6個の単位で構成される。
「オリゴマー形成」という用語は、本明細書で用いる場合、モノマーを有限な程度の重合に変換させる工程を指す。本明細書においては、Fcドメインを含有するポリペプチド、例えば抗体などによる標的結合後に、Fcドメインのオリゴマー形成が、好ましくは、ただし限定はされないが細胞表面で起こることが観察されている。抗体のオリゴマー形成は、例えば、細胞表面C1q結合アッセイ(実施例4および9に記載したように)、C1q活性アッセイ(実施例5に記載したように)、ならびに実施例6、10および19に記載した補体依存性細胞傷害作用を用いて評価することができる。
「C1q結合」という用語は、本明細書で用いる場合、その抗原と結合した抗体に対するC1qの結合という文脈における、C1qの結合を指すことを意図している。その抗原と結合した抗体とは、本明細書に記載した文脈においてインビボおよびインビトロの両方で生じるものと解釈されるものとする。C1q結合は、例えば、人工的表面(例えば、実施例3に記載するように、ELISA用のプレートにおけるプラスチック)上の固定化された抗体を用いることによって、または細胞もしくはビリオンの表面(実施例4および9に記載するように)上の所定の抗原と結合させて用いることによって、評価することができる。抗体オリゴマーに対するC1qの結合は、本明細書において、高結合力での結合をもたらす多価相互作用と解釈されるものとする。
本明細書で用いる場合、「補体活性化」という用語は、その抗原と結合した抗体に対する補体成分C1qの結合が引き金となって起こる、古典的補体経路の活性化を指す。C1qは、古典的補体カスケードの初期イベントにおける第1のタンパク質であり、補体成分C3をC3bとC3aに切断するC3コンベルターゼと呼ばれる酵素活性の形成を結果的にもたらす一連の切断反応に関与する。C3bは膜上のC5と共有結合してC5bを形成し、次にはそれが、終末補体成分C5b、C6、C7、C8およびC9が集合して膜傷害性複合体(MAC)となる補体活性化の後期イベントの引き金となる。補体カスケードは孔の生成を結果的にもたらし、そのことが補体依存性細胞傷害作用(CDC)としても知られる細胞溶解の原因となる。補体活性化は、C1q活性(実施例5に記載するように)、CDC動態(実施例28、29および30に記載するように)、CDCアッセイ(実施例6、10、19、25、27、33および35に記載するように)を用いることによって、またはBeurskens et al April 1, 2012vol. 188 no. 7 3532-3541に記載された、C3bおよびC4bの細胞沈着方法によって評価することができる。
「補体依存性細胞傷害作用」(「CDC」)という用語は、本明細書で用いる場合、MAC集合体によって生み出された膜内の孔の結果として、細胞またはビリオン上のその標的と結合した抗体の溶解を招く抗体媒介性補体活性化の過程を指すことを意図している。CDCは、実施例6、10、19、25、27、33および35に記載するような、正常ヒト血清を補体供給源として用いるCDCアッセイなどのインビトロアッセイによって、または正常ヒト血清がC1qに限定されている、実施例5に記載するようなC1q活性アッセイで、評価することができる。
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用」(「ADCC」)という用語は、本明細書で用いる場合、結合した抗体の定常領域を認識するFc受容体を発現する細胞による、抗体で覆われた標的細胞またはビリオンの死滅の機序を指すことを意図している。ADCCは、例えば、実施例12に記載するADCCアッセイなどの方法を用いて決定することができる。
「抗体依存性細胞食作用」(「ADCP」)という用語は、本明細書で用いる場合、食細胞による細胞内移行による、抗体で覆われた標的細胞またはビリオンの排除の機序を指すことを意図している。細胞内移行した、抗体で覆われた標的細胞またはビリオンは、ファゴソームと呼ばれる小胞内に収容され、それが続いて1つまたは複数のリソソームと融合して、ファゴリソソームを形成する。ADCPは、van Bij et al.によってJournal of Hepatology Volume 53, Issue 4, October 2010, Pages 677-685に記載されたように、エフェクター細胞としてのマクロファージおよびビデオ顕微鏡法を用いるインビトロ細胞傷害作用アッセイを用いることによって評価しうる。または、例えば、PMNによる黄色ブドウ球菌(S. aureus)の食作用について実施例14に記載するように評価しうる。
「補体依存性細胞傷害作用」(「CDCC」)という用語は、本明細書で用いる場合、抗体媒介性補体活性化の結果として標的細胞またはビリオンと共有結合した補体第3成分(C3)切断産物を認識する補体受容体を発現する細胞による、標的細胞またはビリオンの死滅の機序を指すことを意図している。CDCCは、ADCCに関して記載したものと類似の様式で評価することができる。
「血漿中半減期」という用語は、本明細書で用いる場合、血漿中のポリペプチドの濃度が、(分布相の後の)消失中に、その初期濃度の2分の1に低下するまでにかかる時間を指し示している。抗体の場合、分布相は典型的には1~3日であり、この相の間に、血漿と組織との間の再分布が原因となって血漿中濃度は約50%低下する。血漿中半減期は、当技術分野において周知の方法によって測定することができる。
「血漿クリアランス速度」という用語は、本明細書で用いる場合、生体への投与後にポリペプチドが血液から除去される速度の定量的尺度のことである。血漿クリアランス速度は、用量/AUC(mL/日/kg)として算出することができ、ここでAUC値(曲線下面積)は、実施例37の通りに濃度-時間曲線から求められる。
「ダウンモジュレーション」という用語は、本明細書で用いる場合、例えば、受容体に対する抗体の結合によって、細胞表面上の抗原または受容体などの分子の数を減少させる過程を指すことを意図している。
「細胞内移行」という用語は、本明細書で用いる場合、抗体またはFc含有ポリペプチドが、細胞表面および/または周囲の媒質から、例えばエンドサイトーシスを介して、標的を発現する細胞への細胞内移行を受ける任意の機序を指すことを意図している。抗体の細胞内移行は、細胞内移行を受けた抗体の量を測定する直接的アッセイ(例えば、実施例26に記載するリソソーム共局在アッセイなど)を用いて評価することができる。
「抗体-薬物コンジュゲート」という用語は、本明細書で用いる場合、少なくとも1つの型の悪性細胞に対する特異性を有する抗体またはFc含有ポリペプチドと、薬物と、薬物を例えば抗体に連結させるリンカーとを指す。リンカーは悪性細胞の存在下において切断可能または切断不可能であり;抗体-薬物コンジュゲートによって悪性細胞が死滅する。
「抗体-薬物コンジュゲートの取り込み」という用語は、本明細書で用いる場合、抗体-薬物コンジュゲートが細胞上の標的と結合し、その後に細胞膜による取り込み/抱き込みを受けて、その結果、細胞内に引き込まれる過程を指す。抗体-薬物コンジュゲートの取り込みは、WO 2011/157741号に記載されたような「インビトロ致死アッセイにおける抗TF ADCによる抗体媒介性細胞内移行および細胞致死」として評価することができる。
「アポトーシス」という用語は、本明細書で用いる場合、細胞で起こりうるプログラム細胞死(PCD)の過程を指す。生化学的イベントにより、特徴的な細胞変化(形態)および細胞死が招かれる。これらの変化には、小疱形成、細胞縮小、核断片化、クロマチン凝縮および染色体DNA断片化が含まれる。ある種の受容体に対する抗体の結合は、アポトーシスを誘導しうる。
Fc受容体結合を、実施例12に記載するように間接的に測定することもできる。
「FcRn」という用語は、本明細書で用いる場合、Fc受容体である新生児Fc受容体を指すことを意図している。これは、齧歯動物において、母体の乳から、新生齧歯動物の腸管の上皮を通して新生仔の血流内にIgGを輸送することのできる独特な受容体として最初に発見された。さらなる研究により、ヒトにおける類似の受容体が明らかになった。しかし、ヒトでは、胎盤において、成長中の胎児への母体のIgGの輸送を助長する一助になることが見いだされ、さらにIgGの代謝回転をモニターする役割も果たすことが示されている。FcRnは6.0~6.5の酸性pHではIgGと結合するが、中性またはさらに高いpHでは結合しない。そのため、FcRnは、幾分酸性pHにある腸管腔(腸管の内側)からのIgGと結合することができ、pHが中性ないし塩基性(pH 7.0~7.5)である基底外側(身体の内側)への効率的な一方向輸送を確実に行うことができる。この受容体はまた、内皮細胞におけるエンドサイトーシスの経路にそれが存在することを通じて、成人でのIgG再利用にも役割を果たす。酸性エンドソーム内のFcRn受容体は、飲作用により細胞内移行したIgGと結合し、それを細胞表面までリサイクルさせ、それを血液の塩基性pHで放出させ、それによって、それがリソソーム分解を受けるのを防ぐ。この機序は、血液中でのIgGの半減期が他のアイソタイプと比較して長いことの説明になる可能性がある。実施例13および34は、ELISAにおけるpH 6.0でのFcRnに対するIgG結合を示すアッセイについて記載している。
「プロテインA」という用語は、本明細書で用いる場合、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)という細菌の細胞壁で最初に見いだされた56kDaのMSCRAMM表面タンパク質を指すことを意図している。これはspa遺伝子によってコードされ、その調節はDNAトポロジー、細胞浸透圧、およびArIS-ArIRと呼ばれる二成分系によって制御される。免疫グロブリンと結合するその能力が理由で、これは生化学的研究において用途が見いだされている。これは、フォールディングして3ヘリックスバンドルとなる5つの相同なIg結合ドメインで構成される。各ドメインは、哺乳動物種の多くに由来するタンパク質、最も注目されることにIgGと結合することができる。これはほとんどの免疫グロブリンの重鎖Fc領域(FcRn受容体の保存的な結合部位と重なり合う)と結合し、さらにヒトVH3ファミリーのFab領域とも相互作用する。血清中でのこれらの相互作用を通じて、IgG分子は、単にそれらのFab領域のみを介してではなく、それらのFc領域を介しても細菌と結合し、それにより、細菌はオプソニン作用、補体活性化および食作用を破綻させる。
「プロテインG」という用語は、本明細書で用いる場合、特異性が異なる点を除いてプロテインAに非常に類似している、C群およびG群の連鎖球菌で発現される免疫グロブリン結合タンパク質を指すことを意図している。これは、Fc領域に対するその結合を通じて抗体を精製するのに応用されている65kDa(G148プロテインG)および58kDa(C40プロテインG)細胞表面タンパク質である。
ポリペプチドのCDCに影響を及ぼす方法
本明細書において親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して記載されている態様はすべて、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ペプチド、第1の親ペプチドまたは第2の親ポリペプチドに対しても適用しうることが理解されるべきである。
1つの局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345XおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む方法に関する。
1つの態様において、親ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体であってよい。
本発明の方法または使用による親ポリペプチドへの変異の導入は、変異型ポリペプチド(本明細書において「変異体」とも呼ばれ得る)をもたらす。したがって、本発明の方法は、本明細書に記載されたような任意の変異体または変異型ポリペプチドを得るために行うことができる。
本発明の方法または使用によって得られた変異型ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して増強されたCDCを有する。典型的には、エフェクター機能に対するポリペプチドの効果は、最大溶解の半分の値を得るために必要なポリペプチドの濃度であるEC50値によって決定することができる。
最大溶解とは、飽和量のポリペプチドを用いた場合に得られる溶解であり、ここで飽和とは、ポリペプチドに対する標的がすべて、ポリペプチドによる結合を受けているポリペプチドの量を指すことを意図している。
「CDCを増強すること」、「CDCを向上させること」、「エフェクター機能を増強すること」または「エフェクター機能を向上させること」という用語は、本発明の文脈において、親ポリペプチドと比較して変異型ポリペプチドのEC50値の低下がみられることを指す。EC50値の低下は、例えば、少なくとももしくは約2分の1、例えば少なくとももしくは約3分の1、または少なくとももしくは約5分の1、または少なくとももしくは約10分の1であってもよい。または、「CDCを増強すること」、「CDCを向上させること」、「エフェクター機能を増強すること」または「エフェクター機能を向上させること」は、親ポリペプチドが全細胞の100%未満を溶解させる条件下で、溶解される細胞の最大量(細胞の総量を100%に設定した場合)の、例えば、全細胞の10%から100%までの、例えば約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%および約100%の増加がみられることも意味する。
変異体は、Daudi(実施例6)およびWien(実施例10)に関して記載するように、該変異体にIgG1-005またはIgG1-7D8重鎖の可変ドメインをクローニングして、その活性をCDCアッセイにおいて試験することによって、増強または向上したエフェクター機能に関して試験することができる。IgG1-7D8 HC可変ドメインおよびDaudi細胞を用いる場合、増強は、試験条件下でのIgG1-7D8のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1、または10分の1を下回る低いEC50値(50%溶解が観察される濃度)によって定義される。IgG1-005 HC可変ドメインおよびDaudi細胞を用いる場合、増強は、試験条件下でのIgG1-005のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1、または10分の1を下回る低いEC50値(50%溶解が観察される濃度)によって定義される。IgG1-7D8 HC可変ドメインおよびWien133細胞を用いる場合、増強は、試験条件下でのIgG1-7D8のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1、または10分の1を下回る低いEC50値(50%溶解が観察される濃度)によって定義される。IgG1-005 HC可変ドメインおよびWien133細胞を用いる場合、増強は、最大溶解の、全細胞の10%から100%までの範囲にわたる、例えば約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%および約100%の増加によって定義される。また、CDCの活性の増強を、試験条件下でのIgG1-005のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1または10分の1を下回る低いEC50値(Wien133細胞の溶解が検出可能である条件下で50%溶解が観察される濃度)によって定義することも可能である。
本発明の発明者らは、驚いたことに、これらの特定の位置での変異が、本発明の方法(例えば、実施例19に示すような)に従って親抗体に1つまたは複数の変異を導入することによって得られる変異型抗体のCDCについて向上した効果を及ぼすことを見いだした。理論に拘束されるわけではないが、上述した位置の群からの1つまたは複数のアミノ酸を置換することによってオリゴマー形成が刺激されると考えられる。抗体は、より高い結合力で結合し(実施例2によって例示されている;IgG-7D8-E345Rの直接標識は、IgG-7D8-WTと比較して、Daudi細胞に対する結合の増強をもたらした)、そのことは抗体をより長い時間にわたって細胞と結合させ、それにより、例えば、C1q結合、C1q活性 CDC、ADCC、細胞内移行、ADCPおよび/またはインビボ活性の増強といったさまざまなエフェクター機能が可能になる。これらの効果は、実施例4(細胞におけるC1q結合)、実施例5(CDCアッセイにおけるC1q活性)、実施例6、7、27、28、29および35(CDCアッセイ)、実施例12(ADCC)、実施例26(細胞内移行)ならびに実施例21および22(インビボ活性)、血漿クリアランス速度(実施例37)、FcRn結合(実施例34)、および標的非依存性の液相中での補体活性化(実施例36)によって例示されている。
したがって、ヒトIgG1重鎖のFc領域における、E430X(例えばE430G、E430S、E430FまたはE430Tなど)、E345X(例えばE345K、E345Q、E345RまたはE345Yなど)、S440YおよびS440Wに対応するものから選択されるアミノ酸残基の変異を、本発明の文脈において「単一変異体」局面または「CDC増強性変異」と称することもできる。
したがって、1つの態様においては、CDCを増強する方法において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される。
1つの好ましい態様においては、CDCを増強する方法において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される。
1つの態様において、親ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体である。
別の局面において、本発明はまた、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドのCDCおよび抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を増強する方法であって、親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345XおよびS440Wに対応する1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含み、ここでXが任意のアミノ酸、例えば天然型アミノ酸などである方法にも関する。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される。
1つの好ましい態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置E345R、E430TおよびE430Fに対応する群から選択される。
1つの態様においては、抗体の少なくとも1つの他のエフェクター機能、例えばC1q結合、補体活性化、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)、Fc-γ受容体結合、プロテインA結合、プロテインG結合、ADCP、補体依存性細胞傷害作用(CDCC)、補体増強性細胞傷害作用、抗体によって媒介されるオプソニン化抗体の補体受容体に対する結合、抗体媒介性食作用(ADCP)、細胞内移行、アポトーシス、および/またはオプソニン化抗体の補体受容体に対する結合など、例えばADCCなども増強される。
1つの態様において、親ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体である。
1つの態様において、親抗体のCDCは、親抗体が抗原発現細胞上、細胞膜上またはビリオン上のその抗原と結合したときに増強される。
1つの態様において、親抗体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体である。
1つのさらなる局面において、本発明は、免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび免疫グロブリンの第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体である親抗体の補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、第1および第2の抗原結合領域が同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、第1および/または第2のCH2-CH3領域に対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含み;かつ
第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、第1のCH2-CH3領域におけるさらなるアミノ酸変異が、第2のCH2-CH3領域におけるさらなるアミノ酸変異とは異なる、方法に関する。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される。
1つの好ましい態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される。
1つの態様において、本方法は、二重特異性抗体の第1または第2のポリペプチドの一方のみに変異を導入する段階を含む。
1つの態様において、本方法は、二重特異性抗体の第1および第2のポリペプチドの両方に変異を導入する段階を含む。
1つの好ましい態様において、第1のCH2-CH3領域のさらなるアミノ酸変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にあり、例えばK409Rであり;かつ、第2のCH2-CH3領域のさらなるアミノ酸変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にあり、例えばF405Lである。
本発明の発明者らはまた、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439またはS440のいずれかに対応するアミノ酸残基における親抗体に対する変異の導入が、親抗体のエフェクター機能を低下させることも示している(実施例5、6および10)。
実施例6に示しているように、「単一変異体」としての位置K439EまたはS440Kのアミノ酸置換は、本発明の方法による第1の変異のうちの任意のものと比較して、CDCを低下させた。
エフェクター機能を低下させる前記方法によって得られた変異型抗体は、親抗体と比較して低下したエフェクター機能を有する。典型的には、エフェクター機能に対する抗体の効果は、最大溶解の半値を得るために必要な抗体の濃度であるEC50値によって測定しうる。
最大溶解とは、飽和量の抗体を用いた場合に得られる溶解であり、ここで飽和とは、抗体に対する抗原がすべて、抗体による結合を受けている抗体の量を指すことを意図している。
「エフェクター機能を低下させること」という用語は、本発明の文脈において、親抗体と比較して変異型抗体のEC50値の増大がみられることを指す。EC50値の増大は、例えば、少なくとももしくは約2倍、例えば少なくとももしくは約3倍、または少なくとももしくは約5倍、または少なくとももしくは約10倍であってもよい。または、「エフェクター機能を低下させること」は、親抗体が全細胞の100%未満を溶解させる条件下で、溶解される細胞の最大量の、例えば、全細胞の10%から100%までの、例えば約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%および約100%の低下がみられることも意味する。
変異体は、Daudi細胞(実施例6)およびWien133細胞(実施例10)に関して記載するように、該変異体にIgG1-005またはIgG1-7D8重鎖の可変ドメインをクローニングして、その活性をCDCアッセイにおいて試験することによって、低下したエフェクター機能に関して試験することができる。IgG1-7D8 HC可変ドメインおよびDaudi細胞を用いる場合、低下は、試験条件下でのIgG1-7D8のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1、または10分の1を下回る低いEC50値(50%溶解が観察される濃度)によって定義される。IgG1-005 HC可変ドメインおよびDaudi細胞を用いる場合、低下は、試験条件下でのIgG1-005のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1、または10分の1を下回る低いEC50値(50%溶解が観察される濃度)によって定義される。IgG1-7D8 HC可変ドメインおよびWien133細胞を用いる場合、低下は、試験条件下でのIgG1-7D8のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1、または10分の1を下回る低いEC50値(50%溶解が観察される濃度)によって定義される。IgG1-005 HC可変ドメインおよびWien133細胞を用いる場合、低下は、最大溶解の、全細胞の10%から100%までの範囲にわたる、例えば約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%および約100%の増加によって定義される。また、CDCの活性の低下を、試験条件下でのIgG1-005のEC50よりも2分の1を下回る低いEC50、例えば約2分の1、約3分の1、約5分の1、約10分の1または10分の1を下回る低いEC50値(Wien133細胞の溶解が検出可能である条件下で50%溶解が観察される濃度)によって定義することも可能である。
1つのさらなる局面において、本発明は、本発明による、本明細書に開示された態様のような方法であって、S440YおよびS440W以外の1つまたは複数の位置に変異を導入する段階、ならびに
(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異であって、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、変異、
(ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447および448に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異、例えばヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447K/R/Hおよび448E/D、好ましくはK447Kおよび448E、または
(iii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447、448および449に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異、例えばヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447D/E、448K/R/Hおよび449P、好ましくはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447E、448Kおよび449P
をさらに導入する段階を含む方法に関する。
上記の段階(ii)または(iii)に記載されたようにさらなる変異が導入される態様に関して、通常の状況下では細胞における抗体産生の際に位置K447のリジンが切断されることに留意される必要がある。これは、1つまたは複数のさらなるアミノ酸残基(448または448/449など)を追加することにより、位置K447を保護することによって防ぐことができる。このことは、WO 2013/004841号(Genmab A/S)にさらに記載されている。
1つの態様において、本方法は、1つまたは複数の位置にS440YおよびS440W以外の変異を導入する段階、ならびにヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439および/またはS440に対応するアミノ酸残基のそれぞれに変異をさらに導入する段階であって、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、段階を含む。
1つの好ましい態様において、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異はK439D/Eであり、かつ/またはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異はS440K/Rである。
1つの態様において、親ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体である。
1つの態様において、親抗体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体である。二重特異性抗体は、本明細書に記載された態様のいずれか1つであってよい。
さらに、表1に列記された変異の任意のものが、二重特異性抗体に導入されうる。実施例24は、二重特異性CD20×EGFR抗体に対するE345R変異の導入がCDCの活性を増強することを示している。実施例23、29および30も、本発明の変異を含む種々の二重特異性抗体のいくつかを記載している。
S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、親抗体におけるヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応する両方のアミノ酸残基への変異の導入を、本明細書では「二重変異体」局面とも称する。S440YおよびS440W変異は、他所で説明しているように、親ポリペプチドに導入された場合にCDCを増強することが見いだされた。
同じく他所で説明しているように、本発明の発明者らは、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439またはS440のいずれかに対応するアミノ酸残基への同定された変異の導入が、エフェクター機能の低下をもたらすことを見いだした(実施例5、6、10)。しかし、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基の両方に阻害性変異を導入すると、エフェクター機能の低下が元に戻り、その結果、K439およびS440変異の箇所に変異を有しない親抗体のエフェクター機能に類似したものになる。しかし、K439およびS440変異の存在は、いかなる理論にも拘束されないものの、K439およびS440変異の両方を含む抗体のみに対応するオリゴマー複合体に対するエフェクター機能の誘導を制限すると考えられる。したがって、K439およびS440変異を治療用抗体に含める場合には、いかなる理論にも拘束されないものの、そのような治療用抗体を患者に投与する場合には、エフェクター機能の誘導は、K439/S440変異を含む治療用抗体を含有するが、K439およびS440変異を含まない患者自身の抗体は含有しないオリゴマー抗体複合体に限定され、それにより、治療用抗体と患者自身の抗体との相互作用によって引き起こされる恐れのある副作用が制限されると考えられる。
位置K439および/またはS440の変異を第1の変異と組み合わせると、CDCの増強が得られ、かつCDCの特異性が増強される。同様に、CDCの増強および特異性の増強を、上記の態様(ii)および(iii)に開示された変異を導入することによって得ることもできる。
別の局面において、本発明は、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドの組み合わせの補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドがそれぞれ免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含み、少なくとも第1および/または第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む方法に関する。
1つの態様において、本方法は、少なくとも第1および/または第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む。
1つの好ましい態様において、本方法は、少なくとも第1および/または第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む。
1つの態様において、本方法は、第1および第2の親ポリペプチドの両方に対して、同じであっても異なってもよい変異を導入する段階を含む。
1つのさらなる態様において、本方法は、
(i)第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階、
(ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を含まない、第2の親ポリペプチドを提供する段階、を含む。
1つの態様において、本方法は、第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KまたはE345Qに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を導入する段階を含む。
1つのさらなる態様において、1つまたは複数の位置における変異はS440YおよびS440Wとは別のものであり、かつ本方法は、
(i)第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階;および
(ii)第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階であって、ただし、当該変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする段階;をさらに含むか、または代替的に(i)および(ii)が、
(iii)第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置S440に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階であって、ただし、変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする段階;
(iv)第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階、をさらに含む。
第2の親ポリペプチドは、それ単独では標的細胞に対する結合後に十分なCDC応答をもたらさない任意の親ポリペプチドであってよい。
このため、理論に拘束されるわけではないが、上記のリストによる1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を含み、それ故にCDC応答の増強を有する第1の変異型ポリペプチドを提供し、かつそのような変異を含まない第2の変異型ポリペプチドを提供する前記方法により、第2の親ポリペプチドのCDC応答が得られると考えられる。
CDCを増強することのできる前記変異の1つを含む第1の抗体を、本発明による改変を受けていない第2の抗体と組み合わせる方法は、実施例31に示されているように、組み合わせたものによるCDCの増強をもたらす。したがって、この方法は、1つの態様において、安全ではあるが十分に効率的ではないことが立証されている(または効率の増大が望ましい)第2の抗体としての治療用抗体を、変異を含み、その結果、有効である組み合わせをもたらす第1の抗体と組み合わせるために用いることができる。
ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応するものから選択されるアミノ酸残基における変異を含まない、適した第2の抗体の例には、以下の任意のものが非限定的に含まれる;(90Y)クリバツズマブテトラキセタン;(90Y)タカツズマブテトラキセタン;(99mTc)ファノレソマブ;(99mTc)ノフェツモマブメルペンタン;(99mTc)ピンツモマブ;3F8;8H9;アバゴボマブ;アバタセプト;アブシキシマブ;アクトクスマブ;アダリムマブ;アデカツムマブ;アフェリモマブ;アフリベルセプト;アフツズマブ;アラシズマブペゴール;アルビグルチド;ALD518;アレファセプト;アレムツズマブ;アリロクマブ;アルツモマブ;アルツモマブペンテテート;アルビルセプトスドトクス;アマツキシマブ;AMG714/HuMax-IL15;アナツモマブマフェナトクス;アンルキンズマブ(=IMA-638);アポリズマブ;アルシツモマブ;アセリズマブ;アタシセプト;アチヌマブ;アトリズマブ(=トシリズマブ);アトロリムマブ;バミネルセプト;バピネオズマブ;バシリキシマブ;バビツキシマブ;ベクツモマブ;ベラタセプト;ベリムマブ;ベンラリズマブ;ベルチリムマブ;ベシレソマブ;ベカシズマブ;ベズロトクスマブ;ビシロマブ;ビファルセプト;ビバツズマブ;ビバツズマブメルタンシン;ブリナツモマブ;ブロソズマブ;ブレンツキシマブベドチン;ブリアキヌマブ;ブリオバセプト;ブロダルマブ;カナキヌマブ;カンツズマブメルタンシン;カンツズマブラブタンシン;カプラシズマブズマブ;カプロマブ;カプロマブペンデチド;カルルマブ;カツマクソマブ;CC49;セデリズマブ;セルトリズマブペゴール;セツキシマブ;Ch.14.18;シタツズマブボガトクス;シクスツムマブ;クラザキズマブ;クレノリキシマブ;クリバツズマブテトラキセタン;コナツムマブ;コンベルセプト;CR6261;クレネズマブ;ダセツズマブ;ダクリズマブ;ダランテルセプト;ダロツズマブ;ダラツムマブ;デムシズマブ;デノスマブ;デツモマブ;ドルリモマブアリトクス;ドロジツマブ;デュラグルチド;エクロメキシマブ;エクリズマブ;エドバコマブ;エドレコロマブ;エファリズマブ;エフングマブ;エロツズマブ;エルシリモマブ;エナバツズマブ;エンリモマブ;エンリモマブペゴール;エノキズマブ;エンシツキシマブ;エピツモマブ;エピツモマブシツキセタン;エラプズマブ;エルリズマブ;エルツマクソマブ;エタネルセプト;エタラシズマブ;エトロリズマブ;エキシビビルマブ;ファノレソマブ;ファラリモマブ;ファレツズマブ;ファシヌマブ;FBTA05;フェルビズマブ;フェザキヌマブ;フィクラツズマブ;フィジツムマブ;フランボルマブ;フォントリズマブ;フォラルマブ;フォラビルマブ;フレソリムマブ;フルラヌマブ;ガリキシマブ;ガニツマブ;ガンテネルマブ;ガビリモマブ;ゲムツズマブ;ゲムツズマブオゾガミシン;ゲボキズマブ;ギレンツキシマブ;グレムバツムマブ;グレムバツムマブベドチン;ゴリムマブ;ゴミリキシマブ;GS6624;抗CD74抗体;WO 2011/110642号に開示されているような抗cMet抗体;WO 2011/147986号またはWO 2011/147982号に開示されているような抗Her2抗体;WO 2004/058797号に開示されているような抗IL8抗体;WO 2004/045512号に開示されているような抗TAC抗体;WO 2010/066803号またはWO 2011/157741号に開示されているような抗組織因子(TF)抗体;イバリズマブ;イブリツモマブチウキセタン;イクルクマブ;イゴボマブ;イムシロマブ;インクラクマブ;インダツキシマブラブタンシン;インフリキシマブ;イノリモマブ;イノツズマブオゾガミシン;インテツムマブ;ヨード(124I)ギレンツキシマブ;イピリムマブ;イラツムマブ;イトリズマブ;イクセキズマブ;ケリキシマブ;ラベツズマブ;レブリキズマブ;レマレソマブ;レネルセプト;レルデリムマブ;レキサツムマブ;リビビルマブ;リンツズマブ;ロルボツズマブメルタンシン;ルカツムマブ;ルミリキシマブ;マパツムマブ;マスリモマブ;マツズマブ;マブリリムマブ;メポリズマブ;メテリムマブ;ミラツズマブ;ミンレツモマブ;ミロコセプト;ミツモマブ;モガムリズマブ;モロリムマブ;モタビズマブ;モキセツモマブ;パスドトクス;ムロモナブ-CD3;ナコロマブタフェナトクス;ナミルマブ;ナプツモマブエスタフェナトクス;ナルナツマブ;ナタリズマブ;ネバクマブ;ネシツムマブ;ネレリモマブ;ニモツズマブ;ニボルマブ;ノフェツモマブ;メルペンタン;オビニツズマブ;オカラツズマブ;オクレリズマブ;オヅリモマブ;オファツムマブ;オララツマブ;オロキズマブ;オマリズマブ;オナルツズマブ;オネルセプト;オポルツズマブモナトクス;オレゴボマブ;オテリキシズマブ;オキセルマブ;オゾラリズマブ;パギバキシマブ;パリビズマブ;パニツムマブ;パノバクマブ;パスコリズマブ;パテクリズマブ;パトリツマブ;ペグスネルセプト;ペムツモマブ;ペルツズマブ;ペキセリズマブ;ピンツモマブ;プラクルマブ;ポネズマブ;プリリキシマブ;プリツムマブ;PRO 140;キリズマブ;ラコツモマブ;ラドレツマブ;ラフィビルマブ;ラムシルマブ;ラニビズマブ;ラキシバクマブ;レガビルマブ;レスリズマブ;RG1507/HuMax-IGF1R;RG1512/HuMax-pセレクチン;リロナセプト;リロツムマブ;リツキシマブ;ロバツムマブ;ロレヅマブ;ロモソズマブ;ロンタリズマブ;ロベリズマブ;ルプリズマブ;サマリズマブ;サリルマブ;サツモマブ;サツモマブペンデチド;セクキヌマブ;セビルマブ;シブロツズマブ;シファリムマブ;シルツキシマブ;シプリズマブ;シルクマブ;ソラネズマブ;ソリトマブ;ソネプシズマブ;ソンツズマブ;ソタテルセプト;スタムルマブ;スレソマブ;スビズマブ;タバルマブ;タカツズマブテトラキセタン;タドシズマブ;タリズマブ;タネズマブ;タプリツモマブパプトクス;テフィバズマブ;テリモマブアリトクス;テナツモマブ;テネリキシマブ;テプリズマブ;テプロツムマブ;TGN1412;チシリムマブ(=トレメリムマブ);チガツズマブ;TNX-650;トシリズマブ(=アトリズマブ);トラリズマブ;トラプセル;トシツモマブ;トラロキヌマブ;トラスツズマブ;トラスツズマブエムタンシン;TRBS07;トレバナニブ;トレガリズマブ;トレメリムマブ;ツコツズマブセルモロイキン;ツビルマブ;ウブリツキシマブ;ウレルマブ;ウルトキサズマブ;ウステキニマブ;バパリキシマブ;バテリズマブ;ベドリズマブ;ベルツズマブ;ベパリモマブ;ベセンクマブ;ビシリズマブ;ボロシキシマブ;ボルセツズマブマフォドチン;ボツムマブ;ザルツムマブ;ザノリムマブ;ジラリムマブ;およびゾリモマブアリトクス。
第1および第2の変異型抗体は、実施例10に示したように、あらゆる野生型または天然型の抗体と比較して、相互でのオリゴマー形成への選好性を有すると考えられる。
1つの態様において、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異はK439D/Eであり、かつ/またはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異はS440K/Rである。
そのため、特異性の増強は、「CDCの誘導」に関するものである。したがって、前記方法は、1つの態様において、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドの組み合わせによってエフェクター機能の誘導の特異性を高める方法である。
エフェクター機能の特異性またはエフェクター機能の誘導の特異性を高める方法を行うことによって、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドの組み合わせにより、第1の変異体および第2の変異型ポリペプチドの組み合わせが得られる。
親ポリペプチドのK439またはS440のいずれかに変異を導入することによって、それによって得られた変異型ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して低下したエフェクター機能を有する。しかし、同じく本明細書中の他所で説明しているように、K439およびS440における変異は互いに補完すること、または両方の変異を含むポリペプチドのエフェクター機能を回復させることができる。K439およびS440における変異が互いに補完するというこの能力は、2つのポリペプチドにおいても同様に利用することができる。したがって、K439における変異を第1の親ポリペプチドに導入して、かつS440における変異を第2の親ポリペプチドに導入すると、またはその反対を行うと、第1および第2の変異型ポリペプチドを組み合わせて用いる場合にはエフェクター機能の低下ははもはや認められない。「特異性を高めること」または「特異性を向上させること」という用語は、この文脈において、K439における変異を含む第1の変異型ポリペプチドとS440における変異を含む第2の変異型ポリペプチドとの組み合わせによって誘導されるエフェクター応答が、K439における第1の変異を含む変異型ポリペプチドまたはS440における変異を含む第2の変異型ポリペプチドのいずれかによって誘導されるエフェクター応答よりも高度であることを指す。
K439およびS440における両方のアミノ酸置換の導入によって、オリゴマー形成の特異性が高くなる。
位置K439および/またはS440の変異を第1の変異と組み合わせると、CDCの増強が得られ、かつCDCの特異性が増強される。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドは同じ結合部位と結合し、または、抗体に関しては同一のエピトープと結合する。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドは同一の標的上の異なる結合部位と結合し、または、抗体に関しては同一の抗原上の異なるエピトープと結合する。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドは異なる標的上の異なるエピトープと結合する。
1つの態様において、第1および第2の親ポリペプチドは第1および第2の親抗体であり、同じまたは異なるVL配列およびVH配列を有する。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親ポリペプチドの組み合わせは、1つの第1の親ポリペプチドおよび1つの第2のポリペプチドを含む。
1つの態様において、特異性は、第1および第2の親ポリペプチドの組み合わせが抗原発現細胞上、細胞膜上またはビリオン上のその結合部位または抗原と結合したときに高くなる。
それ故に、別の局面において、本発明はまた、1つのポリペプチドの2つ以上のアミノ酸残基における変異の使用であって、抗原発現細胞上、細胞膜上またはビリオン上のその抗原と結合したときの該ポリペプチドの特異性(例えば該ポリペプチドによって誘導されるCDCの特異性)を高めるための使用にも関し、ここで
第1の変異はヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応するアミノ酸残基にあり;
第2の変異はヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応するアミノ酸残基にある。
1つの態様において、第1および第2の親ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とをそれぞれが含む、第1および第2の親抗体である。
1つの態様において、第1および第2の親抗体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体である。
1つの態様において、第1および/または第2の親抗体は、免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体であり、第1および第2の抗原結合領域は同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、前記第1のCH2-CH3領域は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;第2のCH2-CH3領域は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、第1のCH2-CH3領域におけるさらなるアミノ酸変異は、第2のCH2-CH3領域におけるさらなるアミノ酸変異とは異なる。
1つの好ましい態様において、第1のCH2-CH3領域は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にさらなるアミノ酸変異(例えばK409R)を含み;かつ、第2のCH2-CH3領域は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にさらなるアミノ酸変異、例えばF405Lを含む。
この方法を実施することによって、少なくとも第1および第2の変異型抗体の組み合わせが得られる。この方法によって得られる少なくとも第1および第2の変異型抗体は、組み合わされた場合に、第1および第2の親抗体の組み合わせと比較して増強されたCDCを有する。
「増強されたCDC」という用語は、以下に記載するように解釈されるものとする。
第1および/または第2の親抗体は、本明細書に記載されるような任意の親抗体であってもよい。
第1および第2の抗体の組み合わせのCDCを増強する方法は、特に、本明細書に記載されるような変異型抗体の特徴のいずれかを有する第1および/または第2の変異型抗体を得るために行うことができる。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親抗体は同一のエピトープと結合する。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親抗体は同一の抗原上の異なるエピトープと結合する。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親抗体は異なる標的上の異なるエピトープと結合する。
1つの態様において、第1および第2の親抗体は同じまたは異なるVL配列およびVH配列を有する。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親抗体の組み合わせは、1つの第1の親抗体および1つの第2の抗体を含む。
1つの態様において、少なくとも第1および第2の親抗体の組み合わせは、第3、第4または第5の親抗体などのさらなる親抗体を含む。
1つの態様において、第1および第2の二重特異性または多重特異性の親抗体は、同じ抗体であるかまたは異なる抗体である。1つの態様において、第1および第2の二重特異性または多重特異性の親抗体は、同じまたは異なる抗原上の異なるエピトープと結合する。したがって、1つの態様において、前記少なくとも第1および第2の親抗体は、同一の抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合する二重特異性または多重特異性抗体である。
本発明の方法および/または使用の1つの態様において、親抗体は、それが親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体のいずれであるかにかかわらず、エフェクター機能に影響を及ぼすことが見いだされた本発明の変異以外の他の変異を含有してもよい。そのような他の変異は、エフェクター機能に影響を及ぼす本発明の変異と同時に導入されてもよく、またはそれらが逐次的に導入されてもよく、本発明の方法または使用は、変異の同時導入または逐次導入のいずれかに限定されない。さまざまな方式を用いうることが予見されることから、二重特異性抗体は任意の二重特異性抗体であってもよく、本発明の方法および使用はいかなる特定の二重特異性フォーマットにも限定されない。
1つの態様において、本方法は、親ポリペプチドまたは親抗体の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を変更しない。
1つの態様において、本方法は、実施例34に開示された方法によって決定される親ポリペプチドまたは親抗体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更しない。
1つの態様において、本方法は、実施例34に開示された方法によって決定される、OD405nmでの吸光度の変化によって測定される親ポリペプチドまたは親抗体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を、30%を上回って、例えば20%、10%または5%を上回って増加させることも減少させることもない。
1つの態様において、本方法は、実施例34に開示された方法によって決定される親ポリペプチドもしくは親抗体のマウス新生児Fc受容体(FcRn)に対する見かけの親和性を0.5倍を上回って増強しない、または親ポリペプチドもしくは親抗体のマウスFcRnに対する見かけの親和性を2倍を上回って低下させない。
1つの態様において、本方法は、実施例37に開示された方法によって決定される親ポリペプチドまたは親抗体の血漿クリアランス速度を変更しない。
1つの態様において、本方法は、実施例37に開示された方法によって決定される親ポリペプチドまたは親抗体の血漿クリアランス速度を、3.0倍を上回って、例えば2.5倍、2.0倍、1.5倍または1.2倍を上回って増強することも低下させることもない。
1つの態様において、本方法は、実施例36に開示された方法によって決定される変異体の標的非依存的な液相中での補体活性化を変更しない。
1つの態様において、本方法は、親ポリペプチドまたは親抗体の血漿中半減期を変更しない。
本明細書に記載された変異またはそれらの組み合わせの任意のものを、本発明の方法に従って導入することができる。
例示的な、または好ましいアミノ酸置換から選択された変異を、実施例に記載されたもののような、抗原が結合した抗体のオリゴマー形成、ならびにC1q結合、補体活性化、CDC、ADCCおよび/または細胞内移行の増強を検出することを可能にする、適したアッセイにおいて試験することができる。例えば、C1q結合力は、抗体変異体に対する抗原を発現する細胞を用いて、実施例4に記載されたものに類似したアッセイに従って決定することができる。例示的なCDCアッセイは、実施例5、6、10、16、19、22、23、24、25および35に提示されている。例示的なADCCアッセイは実施例12に提示されている。例示的な細胞内移行アッセイは実施例26に提示されている。さらに、C1q結合に直接関与するアミノ酸残基における変異を、オリゴマー形成に影響を及ぼす変異と区別するためには、例えば、実施例3に従ったELISAアッセイにおけるC1q結合を、例えば、実施例4に従った細胞ベースアッセイにおけるC1q結合と比較するとよく、実施例37に記載されたアッセイに従って血漿クリアランス速度と比較するとよく、実施例34に従ってFcRn結合と比較するとよく、標的非依存性の液相中での補体活性化を実施例36におけるアッセイに従って評価してもよい。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、アミノ酸置換、アミノ酸欠失またはアミノ酸挿入であってもよい。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異はアミノ酸欠失である。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異はアミノ酸挿入である。
1つの特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異はアミノ酸置換である。
1つの態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、表1に列記されたアミノ酸置換、アミノ酸欠失の任意のものから選択されうる。
したがって、1つの態様において、E345Xは、E345R、Q、N、K、Y、A、C、D、F、G、H、I、L、M、P、S、T、V、WもしくはY;特にE345A、D、G、H、K、N、Q、R、S、T、YもしくはW;またはより詳細にはE345D、K、N、Q、RもしくはW;またはさらにより詳細にはE345R、Q、N、KもしくはYでありうる。さらに好ましい態様において、E345XはE345KまたはE345Qである。
別のさらなる態様において、E430Xは、E430T、S、G、F、H、A、C、D、I、K、L、M、N、P、Q、R、V、WまたはY;特にE430T、S、G、FまたはHでありうる。さらに好ましい態様において、E430XはE430GまたはE430Sである。別の態様において、変異は、任意で、実施例3に従ったELISAアッセイにおけるC1q結合を、実施例4に従った細胞ベースアッセイにおけるC1q結合と比較することによって決定されるような、C1q結合に直接関与するアミノ酸残基にはない。
1つの態様において、1つまたは複数の変異は1つの変異であり、すなわち、複数の変異が親抗体に導入されることはない。
別の態様において、本発明の方法または使用は、表1におけるアミノ酸残基のうち少なくとも2つ、例えば2つ、3つ、4つ、5つまたはそれより多いアミノ酸残基に変異を導入する段階を含む。
本明細書に記載された変異の組み合わせのうち任意のものを、本発明の方法に従って導入することができる。
1つの態様において、本方法は、親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345X、E430X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択されるアミノ酸残基における複数の変異、例えば2つ、3つ、4つまたは5つ、特に2つまたは3つの変異を導入する段階を含む。例えば、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345X、E430X、S440YおよびS440Wに対応するアミノ酸残基のうち少なくとも2つ以上、例えば、E345X、E430X、S440YおよびS440Wのうち2つまたはすべてを、任意で、表1に列記された1つまたは複数の他のアミノ酸における変異と組み合わせて、変異させることができる。少なくとも2つの変異は、位置E345の任意のアミノ酸残基置換を位置E430もしくはS440YもしくはS440Wの任意のアミノ酸残基置換と組み合わせたものであってよく、または位置E430の任意のアミノ酸置換を位置S440YもしくはS440Wの任意のアミノ酸残基と組み合わせたものであってもよい。1つのさらなる態様においては、2つまたは3つの変異が、親抗体に対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択されるアミノ酸残基に導入される。
アミノ酸残基における2つの変異のそのような組み合わせは、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345X/E430X、E345X/S440Y、E345X/S440W、E430X/S440YおよびE430X/S440Wに対応する群から選択される。
本発明による方法または用途において、CDCは、抗体がその抗原と結合したときに増強される。
いかなる理論にも拘束されないものの、CDCは、抗体がその抗原と結合したときに増強されると考えられ、ここで抗原は抗原発現細胞上、細胞膜上またはビリオン上にある。1つの態様において、IgG1重鎖のFc領域は、SEQ ID NO:1の残基130~330の配列を含む。
親ポリペプチドまたは親抗体は、本明細書に記載されたような任意の親ポリペプチドまたは任意の親抗体であってよい。この文脈における親ポリペプチドおよび親抗体は、第1の親ペプチドおよび第2の親ポリペプチドならびに第1の親抗体および第2の親抗体であることも意図している。
1つの態様において、親抗体は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体である。
1つの態様において、親抗体はヒト完全長抗体、例えばヒト完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、親抗体、第1の親抗体および第2の親抗体は、ヒトIgG1抗体、例えばIgG1m(za)またはIgG1m(f)アロタイプであって、任意でSEQ ID NO:1または5を含むFc領域を含む。
1つの態様において、親抗体はヒトIgG2抗体であって、任意でSEQ ID NO:2を含むFc領域を含む。
1つの態様において、親抗体はヒトIgG3抗体であって、任意でSEQ ID NO:3を含むFc領域を含む。
1つの態様において、親抗体はヒトIgG4抗体であって、任意でSEQ ID NO:4を含むFc領域を含む。
1つの態様において、親抗体は二重特異性抗体である。
1つの態様において、親抗体は本明細書に記載されたような任意の抗体であり、これには例えば、Fc領域の少なくとも一部を含む抗体断片、一価抗体(GenmabによるWO007059782号に記載);2つの重鎖のみからなり、例えばラクダ科動物などにおいて天然に存在する重鎖抗体(例えば、Hamers-Casterman (1993) Nature 363:446);ThioMab(Roche、WO2011069104号)、非対称性の二重特異性抗体様分子である鎖交換組換えドメイン(SEEDまたはSeed-body)(Merck、WO2007110205号);Triomab(Fresenius、Lindhofer et al. (1995 J Immunol 155:219);FcΔAdp(Regeneron、WO2010151792号)、Azymetric Scaffold(Zymeworks/Merck、WO2012/058768号)、mAb-Fv(Xencor、WO2011/028952号)、二重可変ドメイン免疫グロブリン(Abbott、DVD-Ig、米国特許第7,612,181号);二重ドメイン双頭抗体(Unilever;Sanofi Aventis、WO20100226923号)、ジ-ダイアボディ(ImClone/Eli Lilly)、ノブ・イントゥ・ホール抗体フォーマット(Genentech、WO9850431号);デュオボディ(Genmab、WO 2011/131746号);静電ステアリング抗体フォーマット(Amgen、EP1870459号およびWO 2009089004号;Chugai、US201000155133号;Oncomed、WO 2010129304A2号);二重特異性IgG1およびIgG2(Rinat neurosciences Corporation、WO11143545号)、CrossMAb(Roche、WO2011117329号)、LUZ-Y(Genentech)、Biclonic(Merus)、二重標的指向性ドメイン抗体(GSK/Domantis)、2つの標的を認識するツー・イン・ワン抗体(Genentech、NovImmune)、架橋Mab(Karmanos Cancer Center)、CovX-body(CovX/Pfizer)、IgG様二重特異性(ImClone/Eli Lilly、Shen, X, et al. J Immunol Methods, 2007. 318(1-2): p. 65-74)、ならびにDIG-bodyおよびPIG-body(Pharmabcine)、ならびに二重親和性再標的指向性分子(Fc-DARTまたはIg-DART、Macrogenicsによる、WO/2008/157379号、WO/2010/080538号)、Zybody(Zyngenia)、共通の軽鎖(Crucell/Merus、US7262028号)または共通の重鎖(NovImmuneによるκλbody)を用いるアプローチ、さらには、ZymoGenetics/BMSによるBsAbのように、ポリペプチド配列をFcドメインを含有する抗体断片と融合させたものを含む、scFv融合物のような融合タンパク質)、Biogen IdecによるHERCULES(US007951918号)、Emergent BioSolutions/TrubionによるSCORPION、Ts2Ab(MedImmune/AZ(Dimasi, N., et al. J Mol Biol, 2009. 393(3): p. 672-92)、NovartisによるscFv融合物、Changzhou Adam Biotech IncによるscFv融合物(CN 102250246号)、RocheによるTvAb(WO 2012025525号、WO 2012025530号)、f-StarによるmAb2(WO2008/003116号)および二重scFv融合物がある。また、抗体という用語が、別に指定する場合を除き、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(ヒトモノクローナル抗体など)、抗体混合物(組換えポリクローナル体)、例えばSymphogenおよびMerusによって開発された技術(Oligoclonics)によって作製されたもの、ならびに抗体様ポリペプチド、例えばキメラ抗体およびヒト化抗体なども含むことが理解されるべきである。作製される抗体は、可能性として任意のアイソタイプを有しうる。
別の態様において、抗原は細胞の表面上で発現される。
別の態様において、細胞はヒト腫瘍細胞である。
1つのさらなる態様において、抗原は、erbB1(EGFR)、erbB2(HER2)、erbB3、erbB4、MUC-1、CD4、CD19、CD20、CD38、CD138、CXCR5、c-Met、HERV-エンベロープタンパク質、ペリオスチン、Bigh3、SPARC、BCR、CD79、CD37、EGFrvIII、IGFr、L1-CAM、AXL、組織因子(TF)、CD74、EpCAMおよびMRP3からなる群より選択される。
別の態様において、抗原は細胞膜に結合している。
別の態様において、抗原はビリオンに結合しており、任意で、抗原はビリオンのタンパク質外被または脂質エンベロープの中に含まれる。
別の態様において、抗体はヒト抗体であり、任意で、CD20およびCD38から選択される少なくとも1つの抗原と結合する。
別の態様において、抗体は7D8および005のうち少なくとも1つと同じエピトープと結合し、任意で、7D8および005のうち少なくとも1つの可変重鎖および/または可変軽鎖領域を含む。
開示された本発明の任意の使用において、本発明のいかなる変異も有しない抗体が任意の親抗体であってもよい。したがって、本明細書における使用は、そのような親抗体の任意の変異体をもたらす。
1つの態様において、エフェクター機能は、例えばFc-γ受容体結合を含む、Fc受容体結合である。
1つの態様において、エフェクター機能はFc含有ポリペプチドの細胞内移行である。
1つの態様において、エフェクター機能は、補体依存性細胞傷害作用(CDC)および抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)の組み合わせである。
本明細書で用いる場合、「C1q結合」という用語は、親抗体の変異体または抗体の文脈で用いられる場合、免疫系のさまざまな細胞(エフェクター細胞など)を含む、宿主組織または因子に対する変異体または抗体の結合によって媒介される補体活性化の古典的経路に対する第一成分のあらゆる機序を含む。抗体のC1q結合は、ELISA(例えば、実施例3および4で用いているC1q結合ELISAなど)を用いて評価することができ、またはC1q活性をCDCアッセイ(例えば、実施例5で用いているCDCアッセイなど)によって評価することもできる。1つのさらなる態様において、抗体のC1q結合力は、実施例4に記載されたアッセイに従って決定される。
開示された本発明のすべての方法において、本発明のいかなる変異も有しない抗体が任意の親抗体であってもよい。したがって、本明細書における方法は、そのような親抗体の任意の変異体をもたらす。
本発明の方法および/または使用によって得られる親抗体、第1の親抗体、第2の親抗体またはそれらの変異体は、本明細書に記載されたような任意の標的と結合しうる。
本発明が対象としうる抗原または標的の例には、以下のものがある;5T4;ADAM-10;ADAM-12;ADAM17;AFP;AXL;ANGPT2炭疽抗原;BSG;CAIX;CAXII;CA 72-4;癌関連抗原CTAA16.88;CCL11;CCL2;CCR4;CCR5;CCR6;CD2;CD3E;CD4;CD5;CD6;CD15;CD18;CD19;CD20;CD22;CD24;CD25;CD29;CD30;CD32B;CD33;CD37;CD38;CD40;CD40LG;CD44;CD47;CD52;CD56;CD66E;CD72;CD74;CD79a;CD79b;CD80;CD86;CD98;CD137;CD147;CD138;CD168;CD200;CD248;CD254;CD257;CDH3;CEA;CEACAM5;CEACAM6;CEACAM8;クローディン4;CS-1;CSF2RA;CSPG-4;CTLA4;Cripto;DLL4;ED-B;EFNA2;EGFR;エンドセリンB受容体;ENPP3;EPCAM;ERBB2;ERBB3;FAPα;FcγRI;FCER2;FGFR3;フィブリンIIβ鎖;FLT1;FOLH1;FOLR1;FRP-1;GD3ガングリオシド;GDF2;GLP1R;グリピカン-3;GPNMB;HBV(B型肝炎ウイルス);HCMV(ヒトサイトメガロウイルス);熱ショックタンパク質90ホモログ[カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)];単純ヘルペスウイルスgD糖タンパク質;HGF;HIV-1;HIV-1 IIIB gp120 V3ループ;HLA-DRB(HLA-DRβ);ヒト呼吸器合胞体ウイルス、糖タンパク質F;ICAM1;IFNA1;IFNA1;IFNB1 bispecific;IgE Fc;IGF1R;IGHE連結領域;IL12B;IL13;IL15;IL17A;IL1A;IL1B;IL2RA;IL4;IL5;IL5RA;IL6;IL6R;IL9;インターロイキン-2受容体βサブユニット;ITGA2;ITGA2B ITGB3;ITGA4 ITGB7;ITGA5;ITGAL;ITGAV_ITGB3;ITGB2;KDR;L1CAM;Lewis-y;リピドA、リポ多糖LPSのドメイン;LTA;MET;MMP14;MMp15;MST1R;MSTN;MUC1;MUC4;MUC16;MUC5AC;NCA-90顆粒球細胞抗原;ネクチン4;NGF;NRP;NY-ESO-1;OX40L;PLAC-1;PLGF;PDGFRA;PD1;PDL1;PSCA;ホスファチジルセリン;PTK-7;緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)血清型IATS O11;RSV(ヒト呼吸器合胞体ウイルス、糖タンパク質F);ROR1;RTN4;SELL;SELP;STEAP1;志賀毒素様毒素II Bサブユニット[大腸菌(Escherichia coli)];SLAM7;SLC44A4;SOST;表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)リポテイコ酸;T細胞受容体α_β;TF;TGFB1;TGFB2;TMEFF2;TNC;TNF;TNFRSF10A;TNFRSF10B;TNFRSF12A;TNFSF13;TNFSF14;TNFSF2;TNFSF7;TRAILR2;TROP2;TYRP1;VAP-1;およびビメンチン。
主要な局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドが結合する対象となる標的を発現する細胞、細胞膜またはビリオンに対するCDCを誘導する方法であって、
(i)本明細書に開示している態様のいずれか1つに従って変異させた1つの親ポリペプチドまたは少なくとも第1の親ポリペプチドと第2の親ポリペプチドの組み合わせを用意する段階;および
(ii)段階(i)の変異させた親ポリペプチドまたは段階(i)の変異させた少なくとも第1の親ポリペプチドと第2の親ポリペプチドの組み合わせの調製物を、ヒト補体またはエフェクター細胞の存在下で、抗原を発現する細胞、細胞膜またはビリオンと接触させる段階
を含む方法に関する。
1つの態様において、親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドおよび第2の親ポリペプチドのいずれかまたはすべては、抗体であってもよい。
別の態様において、本方法は、ADCC、Fc-γ受容体結合、プロテインA結合、プロテインG結合、ADCP、補体依存性細胞傷害作用(CDCC)、補体増強性細胞傷害作用、抗体によって媒介されるオプソニン化抗体の補体受容体に対する結合、およびそれらの任意の組み合わせから選択される、1つのさらなるエフェクター機能を増強する。
さらなる態様において、本発明はまた、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を誘導する。
なおさらなる態様において、本発明はまた、Fc含有ポリペプチドの細胞内移行を誘導する。
1つの態様において、細胞はヒト腫瘍細胞または細菌細胞である。
別の態様において、IgG1親抗体はヒトIgG1抗体である。
別の態様において、第1および第2の抗原は、erbB1(EGFR)、erbB2(HER2)、erbB3、erbB4、MUC-1、CD4、CD19、CD20、CD25、CD32、CD37、CD38、CD74、CD138、CXCR5、c-Met、HERV-エンベロープタンパク質、ペリオスチン、Bigh3、SPARC、BCR、CD79、EGFrvIII、IGFr、L1-CAM、AXL、組織因子(TF)、EpCAMおよびMRP3からなる群より別個に選択される。
別の態様において、第1および第2の親抗体は完全ヒト抗体であり、任意で、第1および第2の親抗体は、CD20およびCD38から別個に選択される抗原と結合する。
1つのさらなる態様において、第1および第2の親抗体は、7D8および005から別個に選択される。
1つのさらに別の態様において、細胞は細菌細胞である。
別の態様において、細菌細胞は、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. Epidermidis)、肺炎連鎖球菌(S. pneumonia)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、クラミジア(Chlamydia)、大腸菌(E. coli)、サルモネラ菌(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、エルシニア(Yersinia)、ネズミチフス菌(S. typhimurium)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)および結核菌(Mycobacterium tuberculosis)からなる群より選択される。
別の態様において、第1および/または第2の抗原はリポテイコ酸(LTA)であり、任意で、第1および第2の親抗体のうち少なくとも1つはパギバキシマブである。
別の態様において、抗原はビリオン上で発現される。
別の態様において、第1および第2の抗体は同一の抗原と結合する。
別の態様において、第1および第2の抗体は、同じVH配列、VL配列、またはVH配列とVL配列の両方を含む。
本発明の目的に関して、抗原を発現するかまたは別の様式で伴う標的細胞は、任意の原核細胞または真核細胞でありうる。例示的な抗原発現細胞には、哺乳動物細胞、特にヒト細胞、例えばヒト癌細胞など;ならびに単細胞生物、例えば細菌、原生動物および単細胞真菌、例えば酵母細胞などが非限定的に含まれる。抗原を含むかまたは別の様式で伴う細胞膜には、抗原発現細胞に由来する部分的なおよび/または破壊された細胞膜が含まれる。ビリオン粒子またはウイルス粒子に結合する抗原は、ビリオンのタンパク質外被および/または脂質エンベロープの中に含まれるか、または別の様式で結合しうる。
標的細胞は、例えば、ヒト腫瘍細胞でありうる。適した腫瘍抗原には、本明細書に記載された任意の標的または抗原が含まれるが、erbB1(EGFR)、erbB2(HER2)、erbB3、erbB4、MUC-1、CD4、CD19、CD20、CD25、CD32、CD37、CD38、CD74、CD138、CXCR5、c-Met、HERV-エンベロープタンパク質、ペリオスチン、Bigh3、SPARC、BCR、CD79、EGFrvIII、IGFR、L1-CAM、AXL、組織因子(TF)、EpCAMおよびMRP3には限定されない。好ましい抗原には、CD20、CD38、HER2、EGFR、IGFR、CD25、CD74およびCD32が含まれる。例示的な抗体には、WO 2004/035607号に開示されているような抗CD20抗体7D8、WO 06/099875号に開示されているような抗CD38抗体005、WO 2004/035607号に開示されているような抗CD20抗体11B8、WO 06/099875号に開示されているような抗CD38抗体003、WO 02/100348号に開示されているような抗EGFr抗体2F8が含まれる。他の詳細な抗体の例は、本明細書に提示されている。
または、標的細胞は細菌細胞、例えば、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、肺炎連鎖球菌、炭疽菌、緑膿菌、クラミジア、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌、エルシニア、ネズミチフス菌、髄膜炎菌および結核菌などであってもよい。例示的な抗原にはリポテイコ酸(LTA)が含まれ、例示的な抗体にはパギバキシマブが含まれる。
または、標的が、西ナイルウイルス、デングウイルス、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、トリインフルエンザウイルス、RVS、アスペルギルス(Aspergillus)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、クリプトコッカス(Cryptococcus)およびヒストプラスマ(Histoplasma)などのウイルス、真菌細胞または他の粒子の表面上に存在してもよい。
1つの態様において、接触させる段階(ii)はインビトロで行われる。
1つの態様において、接触させる段階(ii)はインビボで行われる。
別の態様において、段階(ii)は、対象に変異体を投与する段階を含む。
1つのさらなる態様において、対象は、癌、細菌感染症またはウイルス感染症に罹患している。上述した態様の接触させる段階(ii)は、インビトロまたはインビボで行われうる。後者のケースでは、段階(ii)は、1つまたは複数の調製物を、対象に、任意で癌または細菌感染症に罹患している対象に投与する段階をさらに含みうる。治療応用に関するそれ以上の詳細は以下に提示している。
第1および第2の抗体は、同一のエピトープと結合しうるか、または異なるエピトープと結合しうる抗原結合領域を含む。そのようなエピトープは同一の標的上にあってもよく、または異なる標的上にあってもよい。
1つの態様において、第1および第2の抗体は異なる標的上の異なるエピトープと結合する。そのような標的は同一の細胞もしくは細胞種上で発現されてもよく、または異なる細胞もしくは細胞種上で発現されてもよい。そのような1つの態様において、エフェクター機能の増強は両方の標的を発現する細胞または細胞種のみを対象とし、その結果、治療しようとする疾患の原因でない細胞または細胞種の付帯的損害のリスクを低下させる。
いかなる理論にも拘束されないものの、第1および第2の抗体が同一の細胞上に見いだされるエピトープと結合し、それにより、増強されるCDC誘導の選択性を向上させるために標的の複合発現を利用しうるのであれば、CDCの増強を、2つの特異的な標的/抗原を同時に発現する標的細胞に限定することができると考えられる。
標的が異なる細胞上または細胞種上で発現される場合には、理論に拘束されるわけではないが、第1および第2の抗体の任意の順序での投与が、CDC増強を向上させ、かつ、第2の標的を発現する第2の細胞または細胞種の「動員」によって、おそらく他のエフェクター機能も向上させると考えられる。
第1および第2の抗体の組み合わせを用いる1つの態様において、段階(ii)は、ヒト補体および/またはエフェクター細胞の存在下で、細胞を、変異させた第1および第2の親抗体に同時に、別々にまたは逐次的に接触させることによって行ってもよい。
本発明はまた、IgG1またはIgG3抗体が結合する抗原が結合する標的細胞、細胞膜、ビリオンまたは他の粒子に対するCDCまたは他のエフェクター応答(例えばADCC)を誘導する方法であって、(i)抗体のFc領域におけるK439EであるK439における変異、およびS440KまたはS440RであるS440における変異を含む抗体の変異体を用意する段階;ならびに(ii)変異体の調製物を、ヒト補体および/またはエフェクター細胞の存在下で細胞と接触させる段階、を含む方法も提供する。
本発明はまた、第1のIgG1抗体が結合する第1の抗原および第2の抗体が結合する第2の抗原を発現する標的細胞、細胞膜またはビリオンに対するCDCまたは他のエフェクター応答(例えばADCC)を誘導する方法であって、(i)K439E変異を含む第1の抗体である第1の変異体およびS440KまたはS440R変異を含む第2の抗体である第2の変異体を用意する段階;ならびに(ii)細胞を、ヒト補体またはエフェクター細胞の存在下で、第1および第2の変異体の調製物に同時に、別々にまたは逐次的に接触させる段階、を含む方法も提供する。
別個および具体的な態様において、第1および第2の抗体は、(i)異なる抗原;(ii)同じ抗原上の異なるエピトープ、(iii)1つの抗原上の同一のエピトープ、および(iv)1つの抗原上の同一のエピトープと結合し、かつ同じVH配列および/またはVL配列を含む。
その他の方法
別の主要な局面において、本発明は、C1qと結合する抗体のエフェクター機能を増強する、抗体における変異を同定する方法であって、
(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸における変異を含む少なくとも1つの抗体を調製する段階;
(ii)抗原発現細胞の表面と結合したときの抗体のC1q活性を、親抗体と比較して評価する段階;ならびに
(iii)C1q結合力が増強された任意の変異体の変異を選択する段階、
を含む方法に関する。
1つの態様において、少なくとも1つの抗体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸置換、例えばE430G、E430S、E345KおよびE345Qなどを含む。
なお別の主要な局面において、本発明は、CDC応答を誘導する抗体の能力を増強する、親抗体における変異を同定する方法であって、
(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YまたはS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸における変異を含む、親抗体の少なくとも1つの変異体を調製する段階;
(ii)エフェクター細胞または補体の存在下で抗原発現細胞の表面と結合したときに変異体によって誘導されるCDC応答を、親抗体と比較して評価する段階;ならびに
(iii)CDC応答が増強された任意の変異体の変異を選択する段階、
を含む方法に関する。
1つの態様において、少なくとも1つの抗体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸置換、例えばヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qなどを含む。
本発明のポリペプチド
親ポリペプチド
本明細書で記載しているように、本発明はとりわけ、免疫グロブリンのCH3領域、例えば抗体の重鎖に1つまたは複数の変異を含む、親ポリペプチドの変異体に関する。「親ポリペプチド」は、「親抗体」であってもよい。改変の前に本発明の出発材料として用いることになる、野生型抗体であってもよい「親」抗体は、例えば、Kohler et al., Nature 256, 495 (1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製されてもよく、または組換えDNA法によって作製されてもよい。また、モノクローナル抗体を、例えば、Clackson et al., Nature 352, 624 628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol. 222, 581 597 (1991)に記載された手法を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。モノクローナル抗体は任意の適した供給源から得ることができる。したがって、例えば、モノクローナル抗体を、関心対象の抗原による免疫処置を受けたマウスから得られたマウス脾臓B細胞から調製されたハイブリドーマから、例えば、表面上に抗原を発現する細胞の形、または関心対象の抗原をコードする核酸の形で得ることができる。また、モノクローナル抗体を、免疫処置を受けたヒトまたは非ヒト哺乳動物(例えばウサギ、ラット、イヌ、霊長動物など)の抗体発現細胞に由来するハイブリドーマから得ることもできる。
親抗体は、例えば、キメラ抗体またはヒト化抗体であってもよい。別の態様において、抗体はヒト抗体である。ヒトモノクローナル抗体は、マウスの系ではなくヒト免疫系の一部を保有するトランスジェニックマウスまたはトランスクロモソームマウス、例えば、HuMAbマウスを用いて作製することができる。HuMAbマウスは、再編成されていないヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ座位を、内因性μおよびκ鎖座位を不活性化する標的化変異とともに含む(Lonberg, N. et al., Nature 368, 856 859 (1994))。そのため、このマウスはマウスIgMまたはκの発現の低下を示し、導入されたヒト重鎖および軽鎖導入遺伝子が免疫処置に応答してクラススイッチおよび体細胞変異を受け、高親和性ヒトIgG,κモノクローナル抗体を生じる(Lonberg, N. et al. (1994)、前記;Lonberg, N. Handbook of Experimental Pharmacology 113, 49 101 (1994) , Lonberg, N. and Huszar, D., Intern. Rev. Immunol. Vol. 13 65 93 (1995) およびHarding, F. and Lonberg, N. Ann. N.Y. Acad. Sci 764 536 546 (1995)に総説)。HuMAbマウスの調製は、Taylor, L. et al., Nucleic Acids Research 20, 6287 6295 (1992), Chen, J. et al., International Immunology 5, 647 656 (1993), Tuaillon et al., J. Immunol. 152, 2912 2920 (1994), Taylor, L. et al., International Immunology 6, 579 591 (1994), Fishwild, D. et al., Nature Biotechnology 14, 845 851 (1996)に詳細に記載されている。また、US 5,545,806, US 5,569,825, US 5,625,126, US 5,633,425, US 5,789,650, US 5,877,397, US 5,661,016, US 5,814,318, US 5,874,299, US 5,770,429, US 5,545,807, WO 98/24884, WO 94/25585, WO 93/1227, WO 92/22645, WO 92/03918およびWO 01/09187も参照されたい。これらのトランスジェニックマウスからの脾細胞を用いて、ヒトモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを周知の手法に従って作製することができる。
さらに、本発明のヒト抗体、または他の種由来の本発明の抗体を、ファージディスプレイ、レトロウイルスディスプレイ、リボソームディスプレイ、哺乳動物ディスプレイ、酵母ディスプレイおよび当技術分野において公知の他の手法を非限定的に含むディスプレイ型の技術によって同定して、その結果得られた分子を、当技術分野において周知である手法のような、さらなる成熟、例えば親和性成熟などに供することもできる。実施例17に記載されている具体的な戦略を任意の抗体に適用して、ファージ-ディスプレイを用いて本発明の変異体を調製および取得することができる。
親抗体は、天然型の、例えばヒトFcドメインを有する抗体には限定されず、それが本発明のもの以外の他の変異、例えば、グリコシル化に影響を及ぼすか、または抗体が二重特異性抗体であることを可能にする変異などを有する抗体であってもよい。「天然型の抗体」という用語は、遺伝的に導入されたいかなる変異も含まない、あらゆる抗体を意味する。天然に存在する修飾を含む抗体、例えば種々のアロタイプは、それ故、本発明の趣旨においては「天然型の抗体」と解釈されるべきであり、その結果、親抗体と解釈することができる。そのような抗体は、本発明の1つまたは複数の変異のためのテンプレートとして役立てることができ、それにより、本発明の変異型抗体を得ることができる。本発明のもの以外の他の変異を含む親抗体の一例は、IgG4様CH3領域を含む2つの抗体の半分子交換を促進するために還元条件を利用し、それにより、凝集物の随伴形成を伴うことなく二重特異性抗体を形成させる、WO 2011/131746号(Genmab)に記載されたような二重特異性抗体である。親抗体の他の例には、ヘテロダイマー二重特異性物:Triomab(Fresenius);;二重特異性IgG1およびIgG2(Rinat neurosciences Corporation);FcΔAdp(Regeneron);ノブ・イントゥ・ホール(Genentech);静電ステアリング(Amgen、Chugai、Oncomed);SEEDbody(Merck);Azymetric scaffold(Zymeworks);mAb-Fv(Xencor);およびLUZ-Y(Genentech)などの二重特異性抗体が非限定的に含まれる。他の例示的な親抗体フォーマットには、野生型抗体、完全長抗体もしくはFcを含有する抗体断片、ヒト抗体、またはそれらの任意の組み合わせが非限定的に含まれる。
親抗体は任意の標的と結合することができ、本発明のそのような標的または抗原の例は、限定はされないものの、以下のものに対するものであってもよい;5T4;ADAM-10;ADAM-12;ADAM17;AFP;AXL;ANGPT2炭疽抗原;BSG;CAIX;CAXII;CA 72-4;癌関連抗原CTAA16.88;CCL11;CCL2;CCR4;CCR5;CCR6;CD2;CD3E;CD4;CD5;CD6;CD15;CD18;CD19;CD20;CD22;CD24;CD25;CD29;CD30;CD32B;CD33;CD37;CD38;CD40;CD40LG;CD44;CD47;CD52;CD56;CD66E;CD72;CD74;CD79a;CD79b;CD80;CD86;CD98;CD137;CD147;CD138;CD168;CD200;CD248;CD254;CD257;CDH3;CEA;CEACAM5;CEACAM6;CEACAM8;クローディン4;CS-1;CSF2RA;CSPG-4;CTLA4;Cripto;DLL4;ED-B;EFNA2;EGFR;エンドセリンB受容体;ENPP3;EPCAM;ERBB2;ERBB3;FAPα;FcγRI;FCER2;FGFR3;フィブリンIIβ鎖;FLT1;FOLH1;FOLR1;FRP-1;GD3ガングリオシド;GDF2;GLP1R;グリピカン-3;GPNM B;HBV(B型肝炎ウイルス);HCMV(ヒトサイトメガロウイルス);熱ショックタンパク質90ホモログ[カンジダ・アルビカンス];単純ヘルペスウイルスgD糖タンパク質;HGF;HIV-1;HIV-1IIIB gp120 V3ループ;HLA-DRB(HLA-DRβ);ヒト呼吸器合胞体ウイルス、糖タンパク質F;ICAM1;IFNA1;IFNA1;IFNB1 bispecific;IgE Fc;IGF1R;IGHE連結領域;IL12B;IL13;IL15;IL17A;IL1A;IL1B;IL2RA;IL4;IL5;IL5RA;IL6;IL6R;IL9;インターロイキン-2受容体βサブユニット;ITGA2;ITGA2B ITGB3;ITGA4 ITGB7;ITGA5;ITGAL;ITGAV_ITGB3;ITGB2;KDR;L1CAM;Lewis-y;リピドA、リポ多糖LPSのドメイン;LTA;MET;MMP14;MMp15;MST1R;MSTN;MUC1;MUC4;MUC16;MUC5AC;NCA-90顆粒球細胞抗原;ネクチン4;NGF;NRP;NY-ESO-1;OX40L;PLAC-1;PLGF;PDGFRA;PD1;PDL1;PSCA;ホスファチジルセリン;PTK-7;緑膿菌血清型IATS O11;RSV(ヒト呼吸器合胞体ウイルス、糖タンパク質F);ROR1;RTN4;SELL;SELP;STEAP1;志賀毒素様毒素IIBサブユニット[大腸菌];SLAM7;SLC44A4;SOST;表皮ブドウ球菌リポテイコ酸;T細胞受容体α_β;TF;TGFB1;TGFB2;TMEFF2;TNC;TNF;TNFRSF10A;TNFRSF10B;TNFRSF12A;TNFSF13;TNFSF14;TNFSF2;TNFSF7;TRAILR2;TROP2;TYRP1;VAP-1;およびビメンチン。
親抗体は、任意のアイソタイプ、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgE、IgMおよびIgDなどの任意のヒト抗体であってもよく、任意で、ヒト完全長IgG1抗体などのヒト完全長抗体であってもよい。親抗体は、SEQ ID NO:1、2、3、4および5のいずれかによる配列を含みうる。
本発明に用いるためのモノクローナル抗体、例えば親抗体および/または変異体は、例えば、Kohler et al., Nature 256, 495 (1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製されてもよく、または組換えDNA法によって作製されてもよい。また、モノクローナル抗体を、例えば、Clackson et al., Nature 352, 624-628 (1991)およびMarks et al., J. Mol. Biol. 222, 581-597 (1991)に記載された手法を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。モノクローナル抗体は任意の適した供給源から得ることができる。したがって、例えば、モノクローナル抗体を、関心対象の抗原による免疫処置を受けたマウスから得られたマウス脾臓B細胞から調製されたハイブリドーマから、例えば、表面上に抗原を発現する細胞の形、または関心対象の抗原をコードする核酸の形で得ることができる。また、モノクローナル抗体を、免疫処置を受けたヒトまたは非ヒト哺乳動物(例えばラット、イヌ、霊長動物など)の抗体発現細胞に由来するハイブリドーマから得ることもできる。
1つの態様において、抗体はヒト抗体である。任意の抗原を対象とするヒトモノクローナル抗体は、マウスの系ではなくヒト免疫系の一部を保有するトランスジェニックマウスまたはトランスクロモソームマウスを用いて作製することができる。そのようなトランスジェニックマウスまたはトランスクロモソームマウスには、それぞれ、本明細書においてHuMAb(登録商標)マウスおよびKMマウスと称されるマウスが含まれ、それらは本明細書において「トランスジェニックマウス」と総称される。
HuMAb(登録商標)マウスは、再編成されていないヒト重鎖(μおよびγ)およびκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子ミニ座位を、内因性μおよびκ鎖座位を不活性化する標的化変異とともに含む(Lonberg, N. et al., Nature 368, 856-859 (1994))。そのため、このマウスはマウスIgMまたはκの発現の低下を示し、導入されたヒト重鎖および軽鎖導入遺伝子は免疫処置に応答してクラススイッチおよび体細胞変異を受け、高親和性ヒトIgG,κモノクローナル抗体を生じる(Lonberg, N. et al. (1994)、前記;Lonberg, N. Handbook of Experimental Pharmacology 113, 49 101 (1994) , Lonberg, N. and Huszar, D., Intern. Rev. Immunol. Vol. 13 65 93 (1995)およびHarding, F. and Lonberg, N. Ann. N.Y. Acad. Sci 764 536 546 (1995)に総説)。HuMAb(登録商標)マウスの調製は、Taylor, L. et al., Nucleic Acids Research 20, 6287 6295 (1992), Chen, J. et al., International Immunology 5, 647 656 (1993), Tuaillon et al., J. Immunol. 152, 2912 2920 (1994), Taylor, L. et al., International Immunology 6, 579 591 (1994), Fishwild, D. et al., Nature Biotechnology 14, 845 851 (1996)に詳細に記載されている。また、US 5,545,806, US 5,569,825, US 5,625,126, US 5,633,425, US 5,789,650, US 5,877,397, US 5,661,016, US 5,814,318, US 5,874,299, US 5,770,429, US 5,545,807, WO 98/24884, WO 94/25585, WO 93/1227, WO 92/22645, WO 92/03918およびWO 01/09187も参照されたい。
HCo7、HCo12、HCo17およびHCo20マウスは、それらの内因性軽鎖(κ)遺伝子におけるJKD破壊(Chen et al., EMBO J. 12, 821-830 (1993)に記載されたように)、それらの内因性重鎖遺伝子におけるCMD破壊(WO 01/14424号の実施例1に記載されたように)、およびKCo5ヒトκ軽鎖導入遺伝子(Fishwild et al., Nature Biotechnology 14, 845-851 (1996)に記載されたように)を有する。さらに、Hco7マウスはHCo7ヒト重鎖導入遺伝子を有し(US 5,770,429号に記載されたように)、HCo12マウスはHCo12ヒト重鎖導入遺伝子を有し(WO 01/14424号の実施例2に記載されたように)、HCo17マウスはHCo17ヒト重鎖導入遺伝子を有し(WO 01/09187号の実施例2に記載されたように)、HCo20マウスはHCo20ヒト重鎖導入遺伝子を有する。その結果生じたマウスは、内因性マウス重鎖およびκ軽鎖座位がホモ接合性に破壊されたバックグラウンドにおいて、ヒト免疫グロブリン重鎖およびκ軽鎖導入遺伝子を発現する。
KMマウス系統では、Chen et al., EMBO J. 12, 811-820 (1993)に記載されたように内因性マウスκ軽鎖遺伝子がホモ接合性に破壊されており、WO 01/09187号の実施例1に記載されたように内因性マウス重鎖遺伝子がホモ接合性に破壊されている。このマウス系統は、Fishwild et al., Nature Biotechnology 14, 845-851 (1996)に記載されたように、ヒトκ軽鎖導入遺伝子KCo5を有する。このマウス系統はまた、WO 02/43478号に記載されたように、染色体14断片hCF(SC20)で構成されるヒト重鎖トランスクロモソームも有する。HCo12-Balb/Cマウスは、WO/2009/097006号に記載されたように、HCo12をKCo5[J/K](Balb)と交雑させることによって作製することができる。これらのトランスジェニックマウスからの脾細胞を用いて、ヒトモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを周知の手法に従って作製することができる。
さらに、任意の抗原結合領域を、当技術分野において周知の手法を用いる、ファージディスプレイ、レトロウイルスディスプレイ、リボソームディスプレイおよび他の手法を非限定的に含むディスプレイ型の技術によって同定されたヒト抗体または他の種由来の抗体から得ることもでき、その結果得られた分子を、当技術分野において周知である手法のような、さらなる成熟、例えば親和性成熟などに供することもできる(例えば、Hoogenboom et al., J. Mol. Biol. 227, 381 (1991)(ファージディスプレイ)、Vaughan et al., Nature Biotech 14, 309 (1996)(ファージディスプレイ)、Hanes and Plucthau, PNAS USA 94, 4937-4942 (1997)(リボソームディスプレイ)、Parmley and Smith, Gene 73, 305-318 (1988)(ファージディスプレイ)、Scott TIBS 17, 241-245 (1992), Cwirla et al., PNAS USA 87, 6378-6382 (1990), Russel et al., Nucl. Acids Research 21, 1081-1085 (1993), Hogenboom et al., Immunol. Reviews 130, 43-68 (1992), Chiswell and McCafferty TIBTECH 10, 80-84 (1992)、およびUS 5,733,743号を参照)。ディスプレイ技術を用いてヒト性でない抗体を作製する場合には、そのような抗体をヒト化することもできる。
本発明の変異は、1つまたは複数のアミノ酸の欠失、挿入または置換であってもよいが、それらには限定されない。アミノ酸のそのような置換は、任意の天然型アミノ酸または非天然アミノ酸によるものであってもよい。
「単一変異体」
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドに適用することもできることが理解されるべきである。
本発明の「単一変異体」局面の抗体またはポリペプチド変異体は、ヒトIgG1抗体におけるEUインデックスに従って番号が付された各アミノ酸残基を、IgG2、IgG3およびIgG4親抗体における対応する位置におけるアミノ酸、ならびに「例示的」および「好ましい」アミノ酸置換とともに列記している、表1に示された1つまたは複数のアミノ酸残基における変異、典型的にはアミノ酸置換を含む。IgG1の残基126~326に対応するIgG2のセグメント、IgG1の残基177~377に対応するIgG3のセグメント、およびIgG1の残基127~327に対応するIgG4のセグメントが、図2に示されている。
(表1)「単一変異体」局面に関する例示的な変異部位およびアミノ酸置換
Figure 0007048665000004
表1に見られるように、実施例19においてWien133細胞の細胞溶解の増強をもたらしたアミノ酸置換が「好ましい置換」として含められている。
1つの局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、ただし、変異体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更する、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まないことを条件とする変異体に関する。(FcRn)は、実施例34に開示された方法によって決定することができる。
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、ただし、実施例34に開示された方法によって決定されたOD405nmでの吸光度の変化によって測定される変異体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を、30%を上回って、例えば20%、10%または5%を上回って増加または減少させる、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まないことを条件とする変異体に関する。
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、ただし、変異体が、実施例34に開示された方法によって決定される親ポリペプチドもしくは親抗体のマウス新生児Fc受容体(FcRn)に対する見かけの親和性を0.5倍を上回って増強するFcドメインにおけるさらなる変異を含まないか、または親ポリペプチドもしくは親抗体のマウスFcRnに対する見かけの親和性を2倍を上回って低下させないことを条件とする変異体に関する。
1つの態様において、1つまたは複数の変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される。
1つの態様において、変異体は、変異体の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を変更させる、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まない。
1つの態様において、変異体は、実施例37に開示された方法によって決定される変異体の血漿クリアランス速度を変更させる、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まない。
別の態様において、変異体は、実施例37に開示された方法によって決定される変異体の血漿クリアランス速度を、3.0倍を上回って、例えば2.5倍、2.0倍、1.5倍または1.2倍を上回って増大または低下させる、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まない。
1つの態様において、変異体は、変異体の血清中半減期を変更させる、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まない。
1つの態様において、変異体は、実施例36に開示された方法によって決定される変異体の標的非依存的な液相中での補体活性化を変化させる、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まない。
1つの態様において、変異体は、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まない。
1つの態様において、変異体は、1つの変異のみを含む。
1つの態様において、変異型ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む変異型抗体であってよい。
1つの具体的な態様において、アミノ酸置換はE345Rである。
実施例に示されているように、これらのアミノ酸置換の1つを含む、CD38抗体HuMab-005および-003(WO WO 2006/099875号に記載されているような)ならびに/またはCD20抗体HuMab-7D8および-11B8(WO 2004/035607号に記載されているような)ならびにリツキシマブおよび/またはEGFR抗体HuMab-2F8(WO 2002/100348号に記載されているような)の変異体はそれぞれ、野生型HuMab 005および7D8よりも高度のC1q結合、補体活性化および/またはCDCを有していた。
変異体が、表1に列記された「例示的な置換」の変異のうち1つのみを含んでもよいことが理解されるべきである。また、変異体が、表1に列記された任意の変異のうち複数の変異、例えば2つ、3つ、4つ、5つまたは6つを含んでもよい。
指定の変異に加えて、変異体が、親抗体に関して記載された特徴の任意のものを有してもよい。特に、それはヒト抗体であってもよい。変異体は、変異に加えて、任意のIgGサブタイプのものであってよい。
抗原発現細胞の表面上、細胞膜上、ビリオン上もしくは別の粒子上のその抗原と結合したときに、または抗原がビリオンと結合しており、任意で抗原がビリオンのタンパク質外被もしくは脂質エンベロープの中に含まれるときに、そのような抗体変異体は、親抗体と比較して、(i)抗体によって媒介されるCDC、(ii)抗体によって媒介される補体活性化、(iii)C1q結合、(iv)オリゴマー形成、(v)オリゴマー安定性、または(i)~(v)のいずれかの組み合わせ、の増強のうち少なくとも1つを有しうる。(iv)または(v)の1つの態様において、オリゴマーはヘキサマーである。1つの態様において、変異体はまた、親ポリペプチドまたは親抗体と比較して、ADCCの増強も有する。1つのさらなる態様において、変異体は、親ポリペプチドまたは親抗体と比較して、同じまたは同程度の血漿クリアランス速度を保っている。1つのさらなる態様において、変異体は、親ポリペプチドまたは親抗体と比較した場合に、実施例37に開示された方法によって決定される血漿クリアランス速度が、3.0倍を上回って、例えば2.5倍、2.0倍、1.5倍または1.2倍を上回って増大または低下しない。
いかなる特定の理論にも限定されることはないが、指定の位置にあるアミノ酸を本発明のアミノ酸残基によって置換することによって引き起こされる効果は、例えば、効果それ自体を引き起こしうること、別の分子のFcドメインとの接触に直接的に関与しうること、または分子間Fc:Fc相互作用に直接的もしくは間接的に影響を及ぼす別のFcドメインと相互作用するように変異させうることであってよい。したがって、置換は、理論に拘束されるわけではないが、オリゴマー形態にある抗体分子間の結合強度を直接的または間接的に増強して、ヘキサマー、ペンタマー、テトラマー、トリマーまたはダイマー構造といったオリゴマー構造の安定性を増強すると考えられる。例えば、アミノ酸置換は、新たな分子間Fc:Fc結合の形成を促進するかまたは強化するもの、例えば、これらには限定されないが、ファンデルワールス相互作用、水素結合、電荷-電荷間相互作用、もしくは芳香族スタッキング相互作用など、またはFc:Fc相互作用の際に水分子の遊離によってエントロピー増大を促進するものなどでありうる。さらに、表1を参照すると、分子間Fc:Fc相互作用または分子内相互作用に係わるかまたは促進するサイズおよび物理化学的特性に基づいて、「例示的な置換」を選択することができる。「好ましい置換」は、分子間Fc:Fc相互作用または分子内相互作用に係わるかまたはそれを刺激するために最適なサイズおよび物理化学的特性に基づいて選択することができる。
1つの態様において、変異体は、表1から選択されるさらなる変異を含みうる。
1つの態様において、変異体は、E345X/E430X、E345X/S440Y、E345X/S440W、E430X/S440YおよびE430X/S440Wに対応する群から選択されるアミノ酸残基における2つの変異の組み合わせを含む。
少なくとも2つのアミノ酸におけるそのような変異が変異体に含まれる任意の態様において、それは変異体の重鎖のそれぞれに存在してもよく、またはそれぞれ、2つのうち一方が重鎖の1つに含まれ、もう一方が他方の重鎖に含まれてもよく、またはその反対であってもよい。
1つの態様において、2つのアミノ酸残基における変異は、欠失、挿入または置換である。アミノ酸のそのような置換は、任意の天然アミノ酸または人工アミノ酸によるものであってよい。
本発明による変異は、それぞれ、1つまたは複数のアミノ酸残基の欠失、挿入または置換であってよいが、これらには限定されない。アミノ酸のそのような置換は、任意の天然アミノ酸または人工アミノ酸によるものであってよい。
したがって、1つの態様において、少なくとも1つのアミノ酸残基における変異は欠失である。
別の態様において、少なくとも1つのアミノ酸残基における変異は挿入である。
別の態様において、少なくとも1つのアミノ酸残基における変異は置換である。
2つのアミノ酸残基における変異の例示的な具体的な組み合わせには、E345R/E430T、E345R/S440Y、E345R/S440W、E345R/E430G、E345Q/E430T、E345Q/S440Y、E345Q/S440W、E430T/S440Y、およびE430T/S440Wがある。
本発明の態様に従う1つまたは複数のアミノ酸における変異のほかに、IgG重鎖が、当技術分野において公知の追加の変異、例えば、エフェクター機能をさらに向上させる変異などを含んでもよい。そのような追加の変異には、CDC、Fc-γ受容体結合もしくはFcRn結合を増強するか、かつ/またはFc-γ受容体媒介性エフェクター機能を向上させる、公知の変異が含まれる。
1つの態様において、本発明の変異体は、公知のCDC増強性修飾、例えば、キメラ性IgG分子を作製するためのIgGアイソタイプ間でのセグメントの交換(Natsume et al., 2008 Cancer Res 68(10), 3863-72);ヒンジ領域における1つまたは複数のアミノ酸置換(Dall'Acqua et al., 2006 J Immunol 177, 1129-1138)、ならびに/または残基D270、K322、P329およびP331を中心とするCH2ドメイン内のC1q結合部位の内部もしくは近傍における1つもしくは複数のアミノ酸置換(Idusogie et al., 2001 J Immunol 166, 2571-2575;Michaelsen et al., 2009 Scand J Immunol 70, 553-564およびWO 99/51642号)などをさらに含む。例えば、1つの態様において、本発明の変異体は、CDCまたはADCCを介したエフェクター機能の増強をもたらす、アミノ酸置換S267E、H268F、S324T、S239D、G236AおよびI332Eのいずれかの組み合わせをさらに含む(Moore et al., 2010 mAbs 2(2), 181-189))。また、Fc受容体に対する結合(WO 2006/105062号、WO 00/42072号、米国特許第6,737,056号および米国特許第7,083,784号に記載)または抗体の物理的特性(WO 2007/005612 A1号に記載)に影響を及ぼす他のFc変異を、本発明の変異体に用いることもできる。
1つの態様において、本発明の変異体は、Fc-γ受容体結合および/またはFc-γ受容体媒介性エフェクター機能を増強する改変をさらに含む。そのような改変には、(i)CH2結合型グリコシル化におけるフコースの量を減少させること(糖鎖工学)(Umana P, et al., Nat Biotechnol 1999; 17: 176-80;Niwa R, et al., Clin Cancer Res 2004; 10: 6248-55.))、および(ii)抗体のヒンジ領域またはCH2領域におけるアミノ酸の部位指定変異誘発(タンパク質工学)(Lazar GA, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006; 103: 4005-10)が含まれる。
1つの態様において、本発明の変異体は、例えば、IgG抗体の半減期(t1/2)を延長させるために、FcRn結合部位においてさらに操作される。そのような改変には、(i)N434AおよびT307A/E380A/N434A変異(Petcova et al. Int Immunol. 2006 Dec; 18(12): 1759);(ii)Pro238、Thr256、Thr307、Gln311、Asp312、Glu380、Glu382およびAsn434のうち1つまたは複数の、FcRn結合を向上させるアラニン残基への置換(Shields RL, et al. J. Biol. Chem. 2001; 276: 6591);ならびに(iii)FcRnに対する親和性を増強する、IgG1におけるM252Y/S254T/T256E、M252W、M252Y、M252Y/T256Q、M252F/T256D、V308T/L309P/Q311S、G385D/Q386P/N389S、G385R/Q386T/P387R/N389P、H433K/N434F/Y436H、N434F/Y436H、H433R/N434Y/Y436H、M252Y/S254T/T256E-H433K/N434F/Y436HまたはM252Y/S254T/T256E-G385R/Q386T/P387R/N389Pから選択されるアミノ酸置換またはアミノ酸置換の組み合わせ(Dall'Acqua et al.、前記)が含まれる。
「二重変異体」
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドにも適用可能であり得ることが理解されるべきである。
上述し、以下にさらに説明するように、本発明はまた、2つの変異がそれぞれ個々にはエフェクター機能を低下させるが、一緒になるとエフェクター機能を親抗体のレベルに回復させる、「二重変異体」局面にも関する。一緒に用いた場合には、変異体の特異性が増強される。「二重変異体」局面の抗体変異体は、特異的なアミノ酸残基相互作用対であるK439およびS440、K447および448、またはK447、448および449に2つの変異(典型的にはアミノ酸置換)を含む。
したがって、1つの局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される第1の変異(例えばE430G、E430S、E345KまたはE345Qなど)と、以下に対応する群から選択される第2の変異とを含む変異体に関する:
(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもなく、かつ、第1の変異がS440YもしくはS440Wであるならば第2の変異はヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応するアミノ酸残基にある、
(ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447D/Eに対応するか、もしくはK447K/R/Hおよび448Pに対応するアミノ酸残基;または
(iii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447D/Eに対応するか、もしくはK447K/R/Hおよび448K/R/Hおよび449Pに対応するアミノ酸残基。表2AおよびBは、「二重変異体」局面(表A)および「混合変異体」局面(表2B)に関する「例示的」および「好ましい置換」を示している。
(表2A)「二重変異体」局面に関する例示的な変異部位およびアミノ酸置換
Figure 0007048665000005
(表2B)「混合変異体」局面(Ab1+Ab2)に関する例示的な変異部位およびアミノ酸置換
Figure 0007048665000006
1つの態様において、変異体は、E430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、およびE345Yに対応する群から選択される第1の変異、ならびにヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基における第2の変異(ただし、S440における変異がS440WでもS440Yでもないことを条件とする)を含む。
変異体がアミノ酸残基置換の1つのみ、例えばK439EまたはS440Kのいずれかを含んでもよいことは、本発明に企図されており、例えば、変異体はK439における1つの変異を含み、任意でS440における変異を有しない。
1つの態様において、本発明は、K439における変異がEおよびDから選択されるアミノ酸へのアミノ酸置換(例えばK439E)である変異体に関する。
別の態様において、変異体はS440における変異を含み、任意でK439における変異を有しない。
1つの態様において、本発明は、S440における変異がKおよびRから選択されるアミノ酸へのアミノ酸置換(例えばS440K)である変異体に関する。
1つの態様において、変異体はK439およびS440の両方に変異を含む。
別の態様において、K439における変異はK439からD、EまたはRへの変異(例えば、K439D/E)から選択され、S440における変異はS440からD、E、KおよびR(例えば、S440K/R)への変異から選択される。
別の態様において、K439における変異はK439DおよびK439Eから選択され、S440における変異はS440KおよびS440Rから選択される。
別の態様において、変異体はK439EおよびS440K変異を含む。
1つの態様において、親ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体である。
実施例4~6に記載されているように、K439EおよびS440K変異のうち1つのみを含む抗体変異体は、C1qに対するKDの劇的な増大を有し、これは補体活性化および/またはCDC能力の低下を反映している。驚いたことに、両方の変異を含むHuMAb 7D8または005の抗体変異体は、C1q結合またはCDCの回復または増強がみられることが見いだされた。いかなる特定の理論にも拘束されることはないが、その基礎にある機序はおそらく、図4および5に図示されているように、各々の変異が互いに立体的に代償することによって説明しうると考えられる。
1つの態様において、親ポリペプチドは(およびそれに関してその変異体も)免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む抗体であってもよい。
別の態様において、本明細書に記載されたような位置K439およびS440の両方に変異を含む変異体は、親抗体、またはK439およびS440のうち1つのみに変異を含む抗体変異体と比較して、補体依存性細胞傷害作用(CDC)、C1q結合、補体活性化、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)、Fc-γ受容体結合を含むFc受容体結合、プロテインA結合、プロテインG結合、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、補体依存性細胞傷害作用(CDCC)、補体増強性細胞傷害作用、オプソニン作用、Fc含有ポリペプチドの細胞内移行、標的ダウンモジュレーション、ADC取り込み、アポトーシスの誘導、細胞死、細胞周期停止およびそれらの任意の組み合わせから選択されるFc媒介性エフェクター機能の増強を有する。
本発明はまた、例えば野生型抗体でありうる親抗体、またはK439EもしくはS440K変異のうち1つのみを含む抗体変異体と比較して、(i)抗体によって媒介されるCDC、(ii)抗体によって媒介される補体活性化、(iii)C1q結合力、(iv)オリゴマー形成、(v)オリゴマー安定性、または(i)~(v)のいずれかの組み合わせのうち1つまたは複数を回復させるための、抗体におけるK439EおよびS440K変異の使用を提供する。(iv)または(v)の1つの態様において、オリゴマーはヘキサマーである。
1つの態様において、変異体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される。
混合変異体
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドにも適用可能であり得ることが理解されるべきである。
上述したように、本発明の発明者らは、例えば、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439およびS440における変異のように、単独ではエフェクター機能を低下させるが、一緒に用いた場合にはエフェクター機能が回復する変異が存在することも見いだした。すなわち、この考え方は、一方の抗体にK439を、もう一方にS440を導入することによって、2種の異なる抗体を確実に対合させるために用いることができる。このように、「混合変異体」局面の抗体変異体は1つの変異を含むが、それは典型的には同一のFc分子間のFc:Fc相互作用の低下または大幅な低下を招くものである。しかし、本発明の「混合変異体」抗体変異体は互いに対合することができるため;それにより、例えば、各変異体のみ、または1つもしくは複数の親抗体の混合物と比較して、特異的な抗体変異体の対について、CDC、C1q結合、補体活性化、オリゴマー形成、および/またはオリゴマー安定性の回復またはさらには増強さえももたらすことができる。本発明の1つの態様において、オリゴマーはヘキサマーである。1つの態様において、抗体変異体の対はさらに、または代替的に、保たれているかまたは向上した他のエフェクター機能、例えばC1q結合、補体活性化、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)、FcRn結合、Fc-γ受容体結合を含むFc受容体結合、プロテインA結合、プロテインG結合、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、補体依存性細胞傷害作用(CDCC)、補体増強性細胞傷害作用、オプソニン作用、Fc含有ポリペプチドの細胞内移行、標的ダウンモジュレーション、ADC取り込み、アポトーシスの誘導、細胞死、細胞周期停止およびそれらの任意の組み合わせなどを有する。本発明のこの局面は、C1q結合、補体活性化、CDCまたは他のエフェクター機能の強さだけでなく選択性をも調節することのできる、数多くの用途をもたらす。
「混合変異体」対における各抗体変異体に関する例示的な変異部位は、表2Bに示されている。具体的には、本発明は、抗原結合領域と免疫グロブリンのFcドメインとを含む抗体の変異体であって、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440のうち1つに対応する残基に変異を含む変異体を提供する。
1つの態様において、変異はK439にあり、これはEまたはDから選択されるアミノ酸へのアミノ酸置換、例えばK439Eである。1つの態様において、変異はS440にあり、これはKまたはRから選択されるアミノ酸へのアミノ酸置換、例えばS440Kである。
1つの態様において、変異体は、IgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置のみにアミノ酸変異を含み、位置S440に対応する位置には含まない。
1つの態様において、変異体は、S440に対応する位置のみにアミノ酸変異を含み、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とし、IgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置にはアミノ酸変異を含まない。
したがって、1つの態様において、本発明はまた、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される第1の変異;ならびにヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応するアミノ酸残基における第2の変異を含む変異体にも関する。
別の態様において、本発明はまた、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応する群から選択される第1の変異;ならびにヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応するアミノ酸残基における第2の変異を含み、ただし、第2の変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする変異体にも関する。
1つの態様において、上記の2つの態様を、本発明による「混合変異体」対の局面において組み合わせることもできる。
「混合変異体」対における各変異体が、表1に列記されたアミノ酸における変異をさらに含んでもよい。
本発明の1つの態様において、「混合変異体」対は、親抗体の第1の変異体および親抗体の第2の変異体を含み、ここで第1の変異体は免疫グロブリンの第1のFcドメインと抗原結合領域とを含み、前記第1の変異体は(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される、K439における変異以外の、1つまたは複数のアミノ酸残基における第1の変異、例えばE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wなど、ならびにヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における第2の変異;を含み、かつ
第2の変異体は免疫グロブリンの第2のFcドメインと抗原結合領域とを含み、前記第2の変異体は(i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430XおよびE345Xに対応する群から選択される、S440における変異以外の、1つまたは複数のアミノ酸残基における第1の変異、例えばE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345RおよびE345Yなど、ならびに
(ii)IgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における第2の変異、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、を含む。
その他の例示的な「混合変異体」対は、これらには限定されないが、以下の対の任意のものをさらに含んでもよい;変異K447Eを含む第1の変異体および変異K447/P448を含む第2の変異体;変異K447Eを含む第1の変異体および変異K447/K448/P449を含む第2の変異体。
1つの態様において、変異は欠失、挿入または置換である。アミノ酸のそのような置換は、任意の天然型または非天然アミノ酸によるものであってよい。
1つの態様において、変異は欠失である。
別の態様において、変異は挿入である。
別の態様において、変異はアミノ酸の置換である。
1つの特定の態様において、第1の変異体および/または第2の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異を含む。
例えば、1つの態様において、「混合変異体」対における一方の変異体はE430G、E430S、E345KまたはE345Qのうち1つをK439E変異と併せて含み、他方で別の変異体はE430G、E430S、E345KまたはE345Qのうち1つをS440K変異と併せて含み、それにより、より増強され、かつより特異的な、C1q結合力、補体活性化、CDC、オリゴマー形成、オリゴマー安定性、ならびに/または他のエフェクター関連機能、例えばADCC、Fc-γ受容体結合、プロテインA結合、プロテインG結合、ADCP、CDCC、補体増強性細胞傷害作用、抗体媒介性食作用、細胞内移行、アポトーシス、オプソニン化抗体の補体受容体に対する結合、および/またはそれらの組み合わせなどをもたらす。
「混合変異体」局面はまた、例えば変異S440K/K447Eを含む第1の変異体および変異K439E/K447/P448を含む第2の変異体など;例えば変異K439E/K447Eを含む第1の変異体および変異S440K/K447/P448を含む第2の変異体などというように、それぞれがヒトIgG1重鎖のFc領域において表2Aに列記された複数の変異を含む、2つの変異体を含んでもよい。
本明細書に記載されたような「混合変異体」対における変異体は、同じ親抗体に由来してもよく、または異なる親抗体に由来してもよい。さらに、「混合変異体」局面を、二重特異性抗体または非対称性抗体に使用することもできる。さらに、第1、第2および第3の抗体が、同じまたは異なる標的上の異なるエピトープと結合してもよい。
さらに、「混合変異体」局面は、K439E変異を有する、第1の抗原に対する第1の抗体と、S440KまたはS440R変異を有する、第2の抗原に対する第2の抗体とを利用することによって、2つの特異的腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞をより特異的に対象とするCDCまたは他のエフェクター応答をもたらすことができる。任意で二重特異性抗体である、3つの変異体を含む「混合変異体」局面を利用することにより、少なくとも2つ、例えば2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの特異的腫瘍抗原を発現する腫瘍細胞をより特異的に対象とするCDCまたは他のエフェクター応答がもたらされる可能性がある。
「単一変異体」局面、「二重変異体」局面および「混合変異体」局面の任意のものの1つの態様において、変異体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される。
「混合変異体」局面の任意の態様において、第1、第2および/または第3の変異体は、表1に列記されたアミノ酸置換のうちいずれかの同じまたは異なる変異を含んでもよい。
多重特異性抗体
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドに対しても適用しうることが理解されるべきである。
本明細書に記載された「単一変異体」局面、「二重変異体」局面および「混合変異体」局面の任意の態様を、以下に説明する多重特異性抗体局面に用いてもよいことが理解されるべきである。
したがって、1つの態様において、変異体は、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される抗体である。
1つの特定の態様において、二重特異性抗体は、WO 2011/131746号に記載された形式を有する。
1つの主要な局面において、本発明は、免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチド、および、免疫グロブリンの第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体である親抗体の変異体であって、第1および第2の抗原結合領域が同一の抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、第1および/または第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、かつ
第1のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択されるアミノ酸残基におけるさらなる変異を含み;かつ
第2のポリペプチドが、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択されるアミノ酸残基におけるさらなる変異を含み、かつ、第1のポリペプチドにおけるさらなる変異が、第2のポリペプチドにおけるさらなる変異とは異なる、変異体に関する。
1つの態様において、変異は欠失、挿入または置換である。アミノ酸のそのような置換は、任意の天然型または非天然の酸による置換であってよい。
本発明の二重特異性抗体は特定の形式には限定されず、それは上記のものおよび本明細書に記載された任意のものであってよい。
本発明の1つの特定の態様において、(i)第1のポリペプチドは、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばK409Rを含み;かつ
(ii)第2のポリペプチドは、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばF405Lを含む;または代替的には
(iii)第1のポリペプチドは、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばF405Lを含み;かつ
(iv)第2のポリペプチドは、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異、例えばK409Rを含む。
1つの特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸残基における変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される。
本発明のそのような二重特異性抗体は、実施例22に記載されたように作製することができる。その上、作製されたヘテロダイマータンパク質によるCDC致死に対する効果を、実施例23で用いたようなアッセイによって試験することもできる。
二重特異性抗体は、例えば、CD20抗体の抗原結合領域およびCD38抗体の抗原結合領域、ならびに表1および/または2A/Bに列記された1つまたは複数のアミノ酸におけるアミノ酸置換を含みうる。例示的なCD20結合領域には、その全体が参照により本明細書に組み入れられるWO 2004/035607号に記載されたオファツムマブ(2F2)、7D8および11B8、ならびにリツキシマブ(WO 2005/103081号)のものが含まれる。例示的なCD38結合領域には、その全体が参照により本明細書に組み入れられるWO 2006/099875号に記載された003およびダラツムマブ(005)のものが含まれる。
1つの態様において、二重特異性抗体は、同一または異なる標的上の異なるエピトープと結合する。
別の態様において、第1および第2のポリペプチドにおける第1の変異は同じであっても異なってもよい。
「単一変異体」、「二重変異体」、「混合変異体」および多重特異性抗体の局面の1つの態様において、変異体はヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体であり、任意でヒト完全長IgG1抗体などのヒト完全長抗体である。
任意の「単一変異体」、「二重変異体」、「混合変異体」局面および多重特異性抗体の局面において、抗体のC1q結合は実施例4に記載されたアッセイに従って決定され、CDCは実施例5、6または10に記載されたアッセイに従って決定され、変異はC1q結合に直接関与するアミノ酸残基にはなく、それは任意で実施例3に従ったELISAアッセイにおけるC1q結合を実施例4に従った細胞ベースアッセイにおけるC1q結合と比較することによって決定され、かつADCCは実施例12に記載されたアッセイに従って決定される。
さらに、本発明は、上記の任意の「単一変異体」、「二重変異体」、「混合変異体」および多重特異性抗体の局面または態様の変異体の調製物を提供する。本発明はまた、上記の任意の「二重変異体」局面および態様の変異体を含む組成物、例えば、薬学的組成物も提供する。本発明はまた、任意のそのような変異体、調製物または組成物の医薬品としての使用も提供する。
本発明の上記の「単一変異体」、「二重変異体」、「混合変異体」および多重特異性抗体の局面は、ヒトIgG1重鎖定常領域(UniProtアクセッション番号P01857;SEQ ID NO:1)の下線を付した残基130~330に対応する該当セグメントP247~K447を含むIgG1重鎖を有するヒト抗体分子に対して特に適用可能である。
Figure 0007048665000007
本発明はまた、ヒトIgG2重鎖部分を有する抗体分子に対しても適用することができる。IgG1重鎖のアミノ酸残基P247~K447 は、IgG2重鎖定常領域(アクセッション番号P01859;SEQ ID NO:2)の下線を付した残基126~326に対応する。
Figure 0007048665000008
本発明はまた、ヒトIgG3重鎖部分を有する抗体分子に対しても適用することができる。IgG1重鎖のアミノ酸残基P247~K447は、以下に下線を付した、IgG3重鎖定常領域(UniProtアクセッション番号P01860、SEQ ID NO:3)の残基177~377に対応する。
Figure 0007048665000009
本発明はまた、ヒトIgG4重鎖部分を有する抗体分子に対しても適用することができる。IgG1重鎖のアミノ酸残基P247~K447 は、IgG4重鎖定常領域(アクセッション番号P01859、SEQ ID NO:4)の下線を付した残基127~327に対応する。
Figure 0007048665000010
本発明はまた、ヒトIgG1m(f)アロタイプ重鎖部分を有する抗体に対しても適用することができる。IgG1m(f)アロタイプのアミノ酸配列(CH3配列に下線を付している)‐SEQ ID NO:5
Figure 0007048665000011
IgG1、IgG2、IgG3、IgG4およびIgG1m(f)定常領域の各々のセグメントのアライメントを、図2に示している。したがって、表1または表2AおよびBに記載されたアミノ酸における任意の変異を、アライメントによって定められるIgG2、IgG3、IgG4および/またはIgG1m(f)におけるその等価な位置に導入して、本発明の変異体を得ることができる。
1つの態様において、本発明は、上記の任意の局面の1つまたは複数のアミノ酸置換を含む、完全長IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4抗体の変異体を提供する。
任意の「単一変異体」、「二重変異体」、「混合変異体」局面、および多重特異性抗体において、IgG1重鎖のFc領域は、SEQ ID NO:1の残基130~330、SEQ ID NO:2の残基126~326、SEQ ID NO:3の残基177~377、またはSEQ ID NO:4の残基127~327の配列を含みうる。
1つの態様において、親抗体は、SEQ ID No.:1~5から選択される配列、例えばSEQ ID No.:1、SEQ ID No.:2、SEQ ID No.:3、SEQ ID No.:4またはSEQ ID No.:5を含む。
1つの態様において、IgG1重鎖のFc領域は、SEQ ID NO:1の残基130~330の配列を含む。
親抗体は、本明細書に記載されたような任意の親抗体であってもよい。この文脈における親抗体は、第1の親抗体および第2の親抗体でもあることを意図している。
1つの態様において、親抗体は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体である。
1つの態様において、親抗体はヒト完全長抗体、例えばヒト完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、親抗体、第1の親抗体および第2の親抗体は、ヒトIgG1抗体、例えばIgG1m(za)またはIgG1m(f)アロタイプであって、任意でSEQ ID NO:1または5を含むFc領域を含む。
1つの態様において、親抗体はヒトIgG2抗体であって、任意でSEQ ID NO:2を含むFc領域を含む。
1つの態様において、親抗体はヒトIgG3抗体であって、任意でSEQ ID NO:3を含むFc領域を含む。
1つの態様において、親抗体はヒトIgG4抗体であって、任意でSEQ ID NO:4を含むFc領域を含む。
「単一変異体」、「二重変異体」、「混合変異体」および多重特異性抗体の局面の任意のものの特定の態様において、変異体は、本発明に従って導入された変異を除き、SEQ ID No:1、2、3、4および5のアミノ酸P247~K447に対して少なくとも70%、72%、74%、76%、78%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または少なくとも約99%という同一性の程度を有するアミノ酸配列を含む。
したがって、変異体は、本明細書で定義されたあらゆる変異を除き、SEQ ID No:1、SEQ ID No:2、SEQ ID No:3、SEQ ID No:4またはSEQ ID No:5による配列を含みうる。
本発明の上記の「単一変異体」、「二重変異体」、「混合変異体」および多重特異性の局面の任意のものにおいて、以下の態様を含むものと解釈されうる。
1つの態様において、第1および/または第2の親抗体は抗体断片であり、これは任意で、一価抗体、重鎖抗体、鎖交換組換えドメイン(SEED)、triomab、二重可変ドメイン免疫グロブリン(DVD-Ig)、ノブ・イントゥ・ホール抗体、ミニ抗体、二重親和性再標的指向性分子(Fc-DARTまたはIg-DART);LUZ-Y抗体、Biclonic抗体、二重標的指向性(DT)-Ig抗体、ツー・イン・ワン抗体、架橋Mab、mAb2、CovX-body、IgG様二重特異性抗体、Ts2Ab、BsAb、HERCULES抗体、TvAb、ScFv/Fc Fusion抗体、SCORPION、Fcドメインと融合させたscFv断片、およびFcドメインと融合させた二重scFv断片から選択される。
1つのさらなる態様において、第1および第2の親抗体は両方とも、ヒト腫瘍細胞の表面上で発現される抗原と結合する。
1つのさらなる態様において、第1および第2の親抗体に対する抗原は、erbB1(EGFR)、erbB2(HER2)、erbB3、erbB4、MUC-1、CD4、CD19、CD20、CD38、CD138、CXCR5、c-Met、HERV-エンベロープタンパク質、ペリオスチン、Bigh3、SPARC、BCR、CD79、CD37、EGFrvIII、L1-CAM、AXL、組織因子(TF)、CD74、EpCAMおよびMRP3からなる群より別々に選択される。
1つのさらなる態様において、第1および第2の親抗体は完全ヒト抗体である。
1つのさらなる態様において、第1および第2の親抗体に対する抗原は、順序を問わず、CD20およびCD38から選択され、任意で第1および第2の親抗体は、順序を問わず、7D8および005から選択される。
1つのさらなる態様において、第1の抗体および第2の抗体は両方とも、細菌細胞またはビリオンの表面上で発現される抗原と結合する。
別の態様において、細菌細胞は、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、肺炎連鎖球菌、炭疽菌、緑膿菌、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌、エルシニア、ネズミチフス菌、髄膜炎菌および結核菌からなる群より選択される。
1つのさらなる態様において、第1および第2の親抗体は同じ抗原と結合する。
別の態様において、第1および第2の親抗体は同じ抗体である。
別の態様において、親抗体は7D8および005から選択される。
組成物
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドに対しても適用しうることが理解されるべきである。
本発明はまた、本明細書に記載されたような任意の変異体および親抗体であってよい変異体および親抗体を含む組成物にも関する。具体的な局面および態様について以下に説明する。その上、そのような変異体を、本明細書に記載された任意の方法によって得ることもできる。
1つの局面において、本発明は、それぞれが免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの第1および第2の変異体を含む組成物であって、第1および/または第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含む、組成物に関する。
1つの態様において、第1および/または第2の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含む。
1つの好ましい態様において、第1および/または第2の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430G、E430S、E345KおよびE345Qに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含む。
1つの態様において、第1および第2の変異体は両方とも、同じであっても異なってもよい1つまたは複数の変異を含む。
別の態様において、第1の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440W、例えば、E430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異を含み、かつ
第2の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択されるアミノ酸残基における1つまたは複数の変異、例えばE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wなどを含まない。
1つの態様において、組成物は、免疫グロブリンの少なくともCH2-CH3ドメインを含む少なくとも1つの分子と本発明による変異体とを含み、ここで当該分子は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基における変異、例えばE430G、E430S、E345KおよびE345Qなどを含む。
本態様に記載の分子は「Fcのみの分子」と称することができ、例えばヒンジ領域などをさらに含んでもよい。しかし、そのようなヒンジ領域が含まれなくてもよい。
Fcのみの分子と本発明による任意の変異体とを含む組成物は、画像診断法に用いるために、または細胞表面とひとたび結合した際の変異体の結合力をモジュレートするために適用することができる。
Fcのみの分子は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439および/またはS440に対応するアミノ酸残基におけるさらなる変異をさらに含んでもよく、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもなく、第1の変異がS440YまたはS440Wであるならばさらなる変異はヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応するアミノ酸残基にあることを条件とする。
別の態様において、(i)第1の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異をさらに含み、かつ(ii)第2の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異をさらに含み、ただし、変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする;または代替的に(i)および(ii)が、
(iii)第1の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異をさらに含み、ただし、変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする;かつ
(iv)第2の変異体は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異をさらに含む、であってもよい。
1つの態様において、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439における変異はK439D/Eであり、かつ/またはヒトIgG1重鎖のFc領域における位置S440における変異はS440K/Rである。
1つのさらなる態様において、本発明は、本明細書において定義されたような組成物であって、
(i)第1の変異体がプロドラッグをさらに含み、かつ
(ii)第2の変異体が第1の変異体上のプロドラッグに対する活性化因子を含む;または代替的に(i)および(ii)が
(iii)第2の変異体がプロドラッグを含み、かつ
(iv)第1の変異体が第2の変異体上のプロドラッグに対する活性化因子を含む、
であってもよい、組成物に関する。
「プロドラッグ」という用語は、活性のある薬理作用(抗癌)物質になるために、例えば代謝過程による化学変換を受けなければならない、相対的に非細胞傷害性である薬物前駆体として、本発明に従って理解される必要がある。プロドラッグの例およびこれらを調製する方法は、当技術分野において周知である。その一例は、同じ細胞上に存在する抗原標的に対する、プロドラッグとコンジュゲートされた抗体の結合、および前記プロドラッグに対する活性化因子とコンジュゲートされた抗体の結合によって薬物送達がもたらされる、酵素-プロドラッグを含む抗体化合物である。これにより、プロドラッグおよびその活性化因子が互いに近接し、これによって薬物が局所的に放出されて、例えば、周囲の細胞に浸透してこれらの細胞を死滅させることができる(Senter and Springer, 2001 Adv Drug Deliv Rev. 2001 Dec 31;53(3):247-64, Senter, 1994 FASEB J. 1990 Feb 1;4(2):188-93)。
「プロドラッグの活性化因子」という用語は、プロドラッグを活性薬物に変換することができる分子として、本発明に従って理解される必要がある。プロドラッグの活性化因子の例およびこれらを調製する方法は当技術分野において周知である。活性化因子の一例は、プロドラッグの活性薬物への変換のための触媒として振る舞う酵素でありうる(Senter and Springer, 2001 Adv Drug Deliv Rev. 2001 Dec 31;53(3):247-64, Senter, 1994 FASEB J. 1990 Feb 1;4(2):188-93)。
1つの態様において、第1および/または第2の親ポリペプチドは、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とをそれぞれが含む第1および第2の親抗体である。
1つの態様において、第1および第2の抗体は、それぞれヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体であり、任意でそれぞれヒト完全長抗体、例えばそれぞれヒト完全長IgG1抗体である。
1つの態様において、第1および第2の抗体はそれぞれ、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される。
1つのさらなる態様において、第1および/または第2の親抗体はそれぞれ、免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体であり、第1および第2の抗原結合領域は同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、かつ、前記第1のCH2-CH3領域は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;かつ第2のCH2-CH3領域は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、第1のCH2-CH3領域におけるさらなるアミノ酸変異は、第2のCH2-CH3領域におけるさらなるアミノ酸変異とは異なる。
1つの好ましい態様において、第1のCH2-CH3領域のさらなるアミノ酸変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にあり、例えばK409Rであり;かつ、第2のCH2-CH3領域のさらなるアミノ酸変異は、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にあり、例えばF405Lである。
1つの態様において、組成物の第1および第2の変異体は、同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合する。
1つの態様において、第1および第2の変異体の一方または両方は、第1および第2の変異体の一方または両方がリンカーを介して毒素とコンジュゲートされているというように、薬物、毒素または放射性標識とコンジュゲートされている。
1つの態様において、第1および第2の変異体の一方または両方は融合タンパク質の一部である。
1つの特定の態様において、組成物の第1および/または第2の変異体は1つの変異のみを含む。
第2の変異体が本明細書に記載された列記された変異のいずれも含まない諸態様において、そのような第2の変異体は、CDCを増強する方法に関連して上記に列記した、適した第2の抗体の例のいずれかを含みうる。
1つの態様において、第1および第2の変異体における少なくとも1つの第1の変異は異なる。
1つの態様において、第1の変異体および第2の変異体はそれぞれヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体であり、任意でそれぞれヒト完全長IgG1抗体、例えばそれぞれヒト完全長抗体である。
1つの態様において、第1の変異体および第2の変異体はそれぞれ、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される。
1つのさらなる態様において、第1および第2の変異体は同一の抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合する。したがって、第1および第2の抗体が二重特異性である態様において、抗体がそれぞれ2つの異なるエピトープと結合してもよい。少なくとも2つの二重特異性抗体は同じでも異なってもよい。そのため、二重特異性抗体が異なる場合には、組成物は同一または異なる標的上に最大で4つの異なるエピトープの標的化を含む。
別の局面において、本発明は、本明細書に記載された任意の変異体、任意の二重特異性抗体または任意の組成物と、薬学的に許容される担体とを含む組成物に関する。
また、「混合変異体」局面の態様の任意のものが、組成物態様の任意のものの中に含まれうることも企図している。
1つの態様において、第1および第2の親抗体の変異体は、同一の細胞上に発現された抗原と結合する。
別の態様において、第1の親抗体の変異体は、EおよびDから選択されるアミノ酸へのK439のアミノ酸置換を含む。
別の態様において、第1の親抗体の変異体におけるアミノ酸置換はK439Eである。
別の態様において、第2の親抗体の変異体は、KおよびRから選択されるアミノ酸へのS440のアミノ酸置換を含む。
別の態様において、第2の親抗体の変異体におけるアミノ酸置換はS440Kである。
別の局面において、本発明は、上記に列記した態様の任意のものの第1の親ポリペプチドまたは親抗体の変異体および第2の親ポリペプチドまたは親抗体の変異体を含む薬学的組成物に関する。
薬学的組成物は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 19th Edition, Gennaro, Ed., Mack Publishing Co., Easton, PA, 1995に開示されたものなどの従来の手法に従って製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、例えば、希釈剤、増量剤、塩、緩衝剤、界面活性剤(例えば、Tween-20またはTween-80などの非イオン性界面活性剤)、安定化剤(例えば、糖またはタンパク質非含有アミノ酸)、保存料、等張化剤、酸化防止剤、組織固定剤、溶解補助剤、および/または、薬学的組成物に含めるのに適した他の材料を含みうる。本発明の薬学的組成物中に使用しうる適した水性および非水性担体の例には、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、エタノール、デキストロース、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)が含まれる。
薬学的組成物は、任意の適した経路および様式によって投与することができる。1つの態様において、本発明の薬学的組成物は非経口的に投与される。本明細書で用いる「非経口的に投与される」という用語は、通常は注射による、経腸投与および局所投与以外の投与様式を意味し、これには表皮、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外および胸骨内への注射および注入が含まれる。
キット・オブ・パーツ
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドに対しても適用しうることが理解されるべきである。
本発明はまた、親ポリペプチドおよび親抗体の変異体を含む治療法において同時に、別々にまたは逐次的に用いるためのキット・オブ・パーツにも関し、ここで親ポリペプチドおよび親抗体の任意の変異体は本明細書に記載された通りであってよい。具体的な局面および態様については以下に説明する。その上、そのような変異体を、本明細書に記載された任意の方法に従って得ることもできる。
1つの局面において、本発明は、親ポリペプチドの第1の変異体および親ポリペプチドの第2の変異体を含む治療法において同時に、別々にまたは逐次的に用いるためのキット・オブ・パーツであって、第1の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異、例えばE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wなどを含み、ただし、変異体が、変異体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更する、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まないことを条件とし、かつ
(i)前記第1の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異を含み、かつ前記第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異を含み、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、
(ii)前記第1の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447D/Eに対応する位置における変異を含み;かつ前記第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447K/R/Hおよび448Pに対応する位置における変異を含む、または
(iii)前記第1の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447D/Eに対応する位置における変異を含み;かつ前記第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447K/R/H、448K/R/Hおよび449Pに対応する位置における変異を含む、
キット・オブ・パーツに関する。
1つの態様において、親ポリペプチドの変異体の第1のもの、または、親ポリペプチドの変異体の第1のものと親ポリペプチドの第2の変異体との両方は、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む抗体であってよい。
1つの態様において、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における変異はK439D/Eであり、かつ/またはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における変異はS440K/Rである。
別の局面において、本発明は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの第1の変異体および免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの第2の変異体を含む、治療法において同時に、別々にまたは逐次的に用いるためのキット・オブ・パーツであって、変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択される1つまたは複数の変異、例えばE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wなどを含み、ただし、変異体が、変異体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更する、Fcドメインにおけるさらなる変異を含まないことを条件とし、かつ
第2の変異体が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE430X、E345X、S440YおよびS440Wに対応する群から選択されるアミノ酸残基における変異、例えばE430G、E430S、E430F、E430T、E345K、E345Q、E345R、E345Y、S440YおよびS440Wなどを含まない、
キット・オブ・パーツに関する。
第2の変異体が本明細書に記載された列記された変異のいずれも含まない諸態様において、そのような第2の変異体は、エフェクター機能の方法に関連して上記に列記した、適した第2の抗体の例のいずれかを含みうる。
1つの態様において、第1および第2の変異体における少なくとも1つの第1の変異は異なる。
1つの態様において、第1の変異体および第2の変異体はそれぞれヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgMまたはIgE抗体であり、任意でそれぞれヒト完全長IgG1抗体、例えばそれぞれヒト完全長抗体である。
1つの態様において、第1の変異体および第2の変異体はそれぞれ、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される。
1つのさらなる態様において、第1および第2の変異体は同一の抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合する。したがって、第1および第2の抗体が二重特異性である態様において、抗体がそれぞれ2つの異なるエピトープと結合してもよい。少なくとも2つの二重特異性抗体は同じでも異なってもよい。そのため、二重特異性抗体が異なる場合には、治療法における同時、別個または逐次的な使用のためのキット・オブ・パーツは、同一または異なる標的上に最大で4つの異なるエピトープの標的化を含む。
1つのさらなる態様において、第1の変異体および第2の変異体の一方または両方は、薬物、毒素、放射性標識とコンジュゲートされており、例えば、第1の変異体および第2の変異体の一方または両方は、リンカーを介して毒素とコンジュゲートされている。
1つのさらなる態様において、第1の変異体および第2の変異体の一方または両方は、融合タンパク質の一部である。
また、「混合変異体」局面の態様の任意のものが、治療法における同時、別個または逐次的な使用のためのキット・オブ・パーツの態様の任意のものの中に含まれうることも企図している。
1つの態様において、第1および第2の親抗体の変異体は、同一の細胞上に発現された抗原と結合する。
別の態様において、第1の親抗体の変異体は、EおよびDから選択されるアミノ酸へのK439のアミノ酸置換を含む。
別の態様において、第1の親抗体の変異体におけるアミノ酸置換はK439Eである。
別の態様において、第2の親抗体の変異体は、KおよびRから選択されるアミノ酸へのS440のアミノ酸置換を含む。
別の態様において、第2の親抗体の変異体におけるアミノ酸置換はS440Kである。
別の局面において、本発明は、上記に列記した態様の任意の1つの第1の親ポリペプチドまたは親抗体の変異体および第2の親ポリペプチドまたは親抗体の変異体を含む、治療法における同時、別個または逐次的な使用のための薬学的キット・オブ・パーツに関する。
治療法における同時、別個または逐次的な使用のための薬学的キット・オブ・パーツは、任意の適した経路および様式によって投与しうる。1つの態様において、本発明の、治療法における同時、別個または逐次的な使用のための薬学的キット・オブ・パーツは、非経口的に投与される。本明細書で用いる「非経口的に投与される」という用語は、通常は注射による、経腸投与および局所投与以外の投与様式を意味し、これには表皮、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、腱内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、頭蓋内、胸腔内、硬膜外および胸骨内への注射および注入が含まれる。
組み合わせ
さらに、本発明は、上記の任意の「単一変異体」局面または態様の変異体の調製物、すなわち、変異体の複数のコピーを含む調製物も提供する。本発明はまた、上記の任意の「単一変異体」局面および態様の変異体を含む組成物、例えば、薬学的組成物も提供する。本発明はまた、任意のそのような「単一変異体」変異体、調製物または組成物の、医薬品としての使用も提供する。
本発明はまた、1つの変異体が本発明に従う少なくとも1つの変異を含み、かつ1つの変異体が本発明に従う少なくとも1つの他の変異を含む、変異体の組み合わせ、ならびにそのような変異体の組み合わせの調製物および薬学的組成物、ならびに医薬品としてのそれらの使用も提供する。好ましくは、2つの変異体は、同じ抗原と結合するか、または典型的には同じ細胞、細胞膜、ビリオンおよび/もしくは他の粒子の表面上に発現される異なる抗原と結合する。
コンジュゲート
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドにも適用可能であり得ることが理解されるべきである。
1つの局面において、本発明は、薬物、毒素または放射性標識とコンジュゲートされている変異体に関し、例えば、リンカーを介して毒素とコンジュゲートされている変異体に関する。
1つの態様において、前記変異体は融合タンパク質の一部である。
別の局面において、本発明の変異体は、C末端では毒素または標識などの別の分子とコンジュゲートされていない。1つの態様において、変異体は別の部位、典型的にはオリゴマー形成を妨げない部位で別の分子とコンジュゲートされている。例えば、抗体変異体は、その他方の部位で、毒素(放射性同位体を含む)、プロドラッグまたは薬物からなる群より選択される化合物と連結されている。そのような化合物は、例えば癌治療において、標的細胞の致死をより有効にすることができる。したがって、結果として得られる変異体は免疫コンジュゲートである。
したがって、1つのさらなる局面において、本発明は、1つまたは複数の治療用部分、例えば細胞毒素、化学療法薬、サイトカイン、免疫抑制剤および/または放射性同位体などと連結またはコンジュゲートされた抗体を提供する。そのようなコンジュゲートは、本明細書において「免疫コンジュゲート」または「薬物コンジュゲート」と称される。1つまたは複数の細胞毒素を含む免疫コンジュゲートは「イムノトキシン」と称される。
細胞毒素または細胞傷害剤には、細胞にとって有害な(例えば、細胞を死滅させる)任意の薬剤が含まれる。本発明の免疫コンジュゲートを形成させるのに適した治療薬には、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テニポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、マイタンシンまたはその類似体もしくは誘導体、ネオカルジノスタチン、カリケアミシン類、エスペラミシン類、ダイネミシン類、リダマイシン、ケダルシジンまたはその類似体もしくは誘導体を含むエンジイン系抗腫瘍抗生物質、アントラサイクリン類、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロ-テストステロン、グルココルチコイド類、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、およびピューロマイシン、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、ダカルバジン、ヒドロキシウレア、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、クラドリビンなど)、アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオテパ、クロランブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC、シスプラチンおよび他の白金誘導体、例えばカルボプラチンなど;ならびにデュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA、CC-1065(別名ラケルマイシン)またはCC-1065の類似体もしくは誘導体)、ドラスタチン、ピロロ[2,1-c][1,4]ベンゾジアセピン類(PDB)またはそれらの類似体、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(以前はアクチノマイシン)、ブレオマイシン、ダウノルビシン(以前はダウノマイシン)、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC)など)、有糸分裂阻害剤(例えば、チューブリン阻害薬)、例えばモノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF、またはドラスタチン10の他の類似体もしくは誘導体など;ヒストンデアセチラーゼ阻害薬、例えばヒドロキサム酸トリコスタチンA、ボリノスタット(SAHA)、ベリノスタット、LAQ824、およびパノビノスタットならびにベンズアミド類、エンチノスタット、CI994、モセチノスタット、ならびに脂肪酸化合物、例えばフェニルブチレートおよびバルプロ酸など、プロテアソーム阻害薬、例えばダノプレビル、ボルテゾミブなど、アマトキシン類、例えばα-アマンチンなど、ジフテリア毒素および関連分子(例えば、ジフテリアA鎖およびその活性断片、ならびにハイブリッド分子);リシン毒素(例えば、リシンAまたは脱グリコシル化リシンA鎖毒素など)、コレラ毒素、志賀毒素様毒素(SLT-I、SLT-II、SLT-IIV)、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、ダイズBowman-Birkプロテアーゼインヒビター、緑膿菌外毒素、アロリン、サポリン、モデシン、ゲラニン(gelanin)、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、アメリカヤマゴボウ(Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)インヒビター、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)インヒビター、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、およびエノマイシン毒素が含まれる。他の適したコンジュゲート分子には、抗菌性/溶解性ペプチド、例えばCLIP、マガイニン2、メリチン、セクロピンおよびP18など;リボヌクレアーゼ(RNアーゼ)、DNアーゼI、ブドウ球菌エンテロトキシン-A、ヨウシュヤマゴボウ(pokeweed)抗ウイルスタンパク質、ジフテリン毒素、ならびに緑膿菌内毒素が含まれる。例えば、Pastan et al., Cell 47, 641 (1986)およびGoldenberg, Calif. A Cancer Journal for Clinicians 44, 43 (1994)を参照されたい。本明細書の他所に記載されたように本発明の抗体と組み合わせて投与しうる治療薬、例えば、抗癌サイトカインまたはケモカインなども、本発明の抗体とのコンジュゲートのために有用な治療用部分の候補である。
1つの態様において、本発明の薬物コンジュゲートは、アウリスタチン類またはアウリスタチンペプチド類似体および誘導体(US5635483号;US5780588号)とコンジュゲートされた、本明細書に開示された抗体を含む。アウリスタチンは、微小管動態、GTP加水分解ならびに核分裂および細胞分裂を妨げること(Woyke et al (2001) Antimicrob. Agents and Chemother. 45(12): 3580-3584)、ならびに抗癌活性(US5663149号)および抗真菌活性(Pettit et al., (1998) Antimicrob. Agents and Chemother. 42: 2961-2965)を有することが示されている。アウリスタチン薬物部分を、リンカーによって、ペプチド薬物部分のN(アミノ)末端またはC(末端)を介して抗体と結びつけることもできる。
例示的なアウリスタチン態様には、2004年3月28日に掲載されたSenter et al., Proceedings of the American Association for Cancer Research. Volume 45, abstract number 623に開示され、US 2005/0238649号に記載されている、N末端結合型モノメチルアウリスタチン薬物部分DEおよびDFが含まれる。
1つの例示的なアウリスタチン態様はMMAE(モノメチルアウリスタチンE)である。別の例示的なアウリスタチン態様はMMAF(モノメチルアウリスタチンF)である。
1つの態様において、本発明の抗体は、コンジュゲートされた核酸または核酸結合分子を含む。1つのそのような態様において、コンジュゲートされる核酸は細胞傷害性リボヌクレアーゼ、アンチセンス核酸、抑制性RNA分子(例えば、siRNA分子)または免疫賦活性核酸(例えば、免疫賦活性CpGモチーフを含有するDNA分子)である。別の態様において、本発明の抗体は、アプタマーまたはリボザイムとコンジュゲートされている。
1つの態様において、1つまたは複数の放射標識アミノ酸を含む抗体が提供される。放射標識された変異体は、診断目的および治療目的の両方に用いることができる(放射標識分子とのコンジュゲートは、別の考えられる特徴である)。ポリペプチドに対する標識の非限定的な例には、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tcおよび125I、131Iおよび186Reが含まれる。放射標識アミノ酸および関連したペプチド誘導体を調製するための方法は当技術分野において公知である(例えば、Junghans et al., in Cancer Chemotherapy and Biotherapy 655-686 (2nd Ed., Chafner and Longo, eds., Lippincott Raven (1996))ならびにU.S. 4,681,581号、U.S. 4,735,210号、U.S. 5,101,827号、U.S. 5,102,990号(US RE35,500号)、U.S. 5,648,471号およびU.S. 5,697,902号を参照)。例えば、放射性同位体をクロラミン-T法によってコンジュゲートさせることができる。
1つの態様において、本発明の変異体は、放射性同位体または放射性同位体を含有するキレートにコンジュゲートされる。例えば、変異体を、抗体を放射性同位体と錯体化することを可能にするキレート剤リンカー、例えば、DOTA、DTPAまたはチウキセタンとコンジュゲートさせてもよい。変異体はさらに、または代替的に、1つまたは複数の放射標識アミノ酸または他の放射標識分子を含むか、またはそれらとコンジュゲートされてもよい。放射標識された変異体は、診断目的および治療目的の両方に用いることができる。1つの態様において、本発明の変異体は、α放射体とコンジュゲートされる。放射性同位体の非限定的な例には、3H、14C、15N、35S、90Y、99Tc、125I、111In、131I、186Re、213Bs、225Acおよび227Thが含まれる。
1つの態様において、本発明の変異体は、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-23、IL-24、IL-27、IL-28a、IL-28b、IL-29、KGF、IFNα、IFNβ、IFNγ、GM-CSF、CD40L、Flt3リガンド、幹細胞因子、アンセスチムおよびTNFαからなる群より選択されるサイトカインとコンジュゲートさせることができる。
また、本発明の変異体を、例えばそれらの血中半減期を延ばすために、ポリマーとの共有コンジュゲートによって化学的に修飾することもできる。例示的なポリマーおよびそれらをペプチドに結びつけるための方法は、例えば、US 4,766,106号、US 4,179,337号、US 4,495,285号およびUS 4,609,546号に説明されている。そのほかのポリマーには、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリエチレングリコール(PEG)(例えば、約1,000~約40,000、例えば約2,000~約20,000などの分子量を有するPEG)が含まれる。
Hunter et al., Nature 144, 945 (1962), David et al., Biochemistry 13, 1014 (1974), Pain et al., J. Immunol. Meth. 40, 219 (1981)およびNygren, J. Histochem. and Cytochem. 30, 407 (1982)によって記載された方法を含む当技術分野において公知の任意の方法を使用して、本発明の変異体を上記のものなどのコンジュゲートされる分子とコンジュゲートさせることができる。そのような変異体は、もう一方の部分を、変異体またはその断片(例えば、抗体H鎖またはL鎖)のN末端側またはC末端側に対して化学的にコンジュゲートさせることによって作製することができる(例えば、Antibody Engineering Handbook, edited by Osamu Kanemitsu, published by Chijin Shokan (1994)を参照)。また、そのようなコンジュゲートされた変異体誘導体を、適宜、内部の残基または糖でのコンジュゲートによって作製することもできる。
これらの薬剤は、本発明の変異体と直接的または間接的にカップリングさせることができる。第2の薬剤の間接的カップリングの一例は、二重特異性抗体におけるシステイン残基またはリジン残基に対する、スペーサー部分またはリンカー部分を介したカップリングである。1つの態様において、変異体は、インビボで活性化されて治療用薬物になることができるプロドラッグ分子と、スペーサーまたはリンカーを介してコンジュゲートされる。いくつかの態様において、リンカーは細胞内条件下で切断可能になり、その結果、リンカーの切断によって細胞内環境で抗体から薬物単位が放出される。いくつかの態様において、リンカーは、細胞内環境(例えば、リソソームまたはエンドソームまたはカベオラの内部)に存在する切断性物質によって切断可能である。例えば、スペーサーまたはリンカーは、腫瘍細胞に付随する酵素または他の腫瘍特異的条件によって切断可能になることができ、それにより、活性薬物が形成される。そのようなプロドラッグ技術およびリンカーの例は、Syntarga BV, et al.によるWO02083180号、WO 2004043493号、WO2007018431号、WO2007089149号、WO2009017394号およびWO201062171号に記載されている。また、適した抗体-プロドラッグ技術およびデュオカルマイシン類似体については、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,989,452(Medarex)号にも記載がある。リンカーはさらに、または代替的に、例えば、リソソーム性またはエンドソーム性プロテアーゼを非限定的に含む細胞内ペプチダーゼまたはプロテアーゼ酵素によって切断されるペプチジルリンカーであってもよい。いくつかの態様において、ペプチジルリンカーは、少なくとも2アミノ酸長または少なくとも3アミノ酸長である。切断性物質にはカテプシンBおよびDならびにプラスミンが含まれ、これらはすべて、ジペプチド薬物誘導体を加水分解して、標的細胞内での活性薬物の放出をもたらすことが知られている(例えば、Dubowchik and Walker, 1999, Pharm. Therapeutics 83: 67-123を参照)。1つの具体的な態様において、細胞内プロテアーゼによって切断可能なペプチジルリンカーは、Val-Cit(バリン-シトルリン)リンカーまたはPhe-Lys(フェニルアラニン-リジン)リンカーである(例えば、Val-Citリンカーによるドキソルビシンの合成、およびPhe-Lysリンカーの種々の例を記載しているUS6214345号を参照)。Val-CitリンカーおよびPhe-Lysリンカーの構造の例には、下記のMC-vc-PAB、MC-vc-GABA、MC-Phe-Lys-PABまたはMC-Phe-Lys-GABAが非限定的に含まれ、ここでMCはマレイミドカプロイルの略号であり、vcはVal-Citの略号であり、PABはp-アミノベンジルカルバメートの略号であり、GABAはγ-アミノ酪酸の略号である。治療薬の細胞内タンパク質分解放出を用いることの1つの利点は、薬剤はコンジュゲートされると典型的には弱毒化されること、およびコンジュゲートの血清中安定性が典型的には高いことである。
さらに別の態様において、リンカー単位は切断不能であり、薬物は抗体分解によって放出される(US 2005/0238649号を参照)。典型的には、そのようなリンカーは細胞外環境に対して実質的に感受性ではない。本明細書で用いる場合、リンカーの文脈における「細胞外環境に対して実質的に感受性ではない」とは、変異型抗体薬物コンジュゲート合物が細胞外環境内(例えば、血漿中)に存在する場合に、変異型抗体薬物コンジュゲート合物の試料中のリンカーの20%以下、典型的には約15%以下、より典型的には約10%以下、さらにより典型的には約5%以下、約3%以下または約1%以下しか切断されないことを意味する。リンカーが細胞外環境に対して実質的に感受性でないか否かは、例えば、変異型抗体薬物コンジュゲート合物を血漿とともに所定の期間(例えば、2、4、8、16または24時間)にわたってインキュベートし、続いて血漿中に存在する遊離薬物の量を定量することによって決定することができる。MMAEまたはMMAFとさまざまなリンカー成分とを含む例示的な態様は、以下の構造を有する(ここでAbは抗体を意味し、薬物負荷(または抗体分子1つ当たりの細胞分裂阻害薬または細胞傷害性薬物の平均数)を表すpは1~約8であり、例えば、pは4~6、例えば3~5などであってもよく、またはpは1、2、3、4、5、6、7もしくは8であってもよい)。
切断可能なリンカーをアウリスタチンと組み合わせる例には、MC-vc-PAB-MMAF(vcMMAFとも表記)およびMC-vc-PAB-MMAF(vcMMAEとも表記)が含まれ、ここでMCはマレイミドカプロイルの略号であり、vcはVal-Cit(バリン-シトルリン)を基にしたリンカーの略号であり、PABはp-アミノベンジルカルバメートの略号である。
他の例にはアウリスタチンと非切断性リンカーとの組み合わせ、例えばmcMMAFなどが含まれる(mc(この文脈ではMCはmcと同じである)はマレイミドカプロイルの略号である)。
1つの態様において、薬物リンカー部分はvcMMAEである。vcMMAE薬物リンカー部分およびコンジュゲートの方法は、WO2004010957号、US7659241号、US7829531号、US7851437号およびUS 11/833,028号(Seattle Genetics, Inc.)(それらは参照により本明細書に組み入れられる)に開示されており、vcMMAE薬物リンカー部分は、それらの中に開示されているものと類似の方法を用いて、システインの箇所で抗体と結合される。
1つの態様において、薬物リンカー部分はmcMMAFである。mcMMAF薬物リンカー部分およびコンジュゲートの方法は、US7498298号、US 11/833,954号およびWO2005081711号(Seattle Genetics, Inc.)(それらは参照により本明細書に組み入れられる)に開示されており、mcMMAF薬物リンカー部分は、それらの中に開示されているものと類似の方法を用いて、システインの箇所で変異体と結合される。
1つの態様において、本発明の変異体は、二重特異性抗体を放射性同位体に対してコンジュゲートさせることを可能にするキレート剤リンカー、例えばチウキセタンと結びつけられる。
1つの態様において、変異体の各アーム(またはFabアーム)は、同じ1つまたは複数の治療用部分に対して直接的または間接的にカップリングされる。
1つの態様においては、変異体の1つのアームのみが、1つまたは複数の治療用部分に対して直接的または間接的にカップリングされる。
1つの態様において、変異体の各アームは、複数の異なる治療用部分に対して直接的または間接的にカップリングされる。例えば、本明細書に記載されたように、変異体が二重特異性抗体であって、2つの異なる単一特異性抗体、例えば第1および第2の抗体の制御されたFabアーム交換によって調製される態様において、そのような二重特異性抗体は、異なる治療用部分とコンジュゲートまたは会合している単一特異性抗体を用いることによって得ることができる。
さらなる使用
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドに関する態様としても解釈されるべきであることが理解されるべきである。
1つのさらなる局面において、本発明は、医薬品として用いるため、特に、標的細胞(例えば、腫瘍細胞、細菌細胞もしくは真菌細胞)もしくは標的生物(例えば、ウイルス)または細菌もしくはウイルスに感染した細胞のCDC媒介性致死が望まれる疾患または障害の治療用の医薬品として用いるための、本明細書に記載されたような本発明の変異体に関する。そのような疾患および障害の例には、癌および細菌感染症、ウイルス感染症または真菌感染症が非限定的に含まれる。
別の局面において、本発明は、癌などの疾患の治療のための、本明細書に記載された変異体、二重特異性抗体、組成物およびキット・オブ・パーツに関する。
別の局面において、本発明は、本明細書に記載された変異体、組成物またはキット・オブ・パーツの投与を含む、ヒトの治療のための方法に関する。
別の局面において、本発明は、変異体、組成物またはキット・オブ・パーツの投与を含む、ヒトにおける癌の治療のための方法に関する。
「治療」とは、症状または疾患状態を緩和する、改善する、抑止する、または根絶する(治癒させる)目的で、本発明の治療活性のある化合物の有効量を投与することを指す。
「有効量」または「治療的有効量」とは、必要な投与量および期間で、所望の治療結果を達成するのに有効な量を指す。抗体の治療的有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに抗体が個体において所望の応答を誘発する能力などの要因に応じて異なりうる。治療的有効量はまた、抗体または抗体部分の毒性作用または有害作用よりも治療的に有益な効果が上回る量でもある。
別の局面において、本発明は、診断方法に用いるための、本明細書に記載された態様の任意のものによる変異体、組成物またはキット・オブ・パーツの使用に関する。
別の局面において、本発明は、本明細書に記載された態様の任意のものによる変異体、組成物またはキット・オブ・パーツを、ヒトまたは他の哺乳動物の身体の少なくとも一部に対して投与する段階を含む、診断方法に関する。
別の局面において、本発明は、ヒトまたは他の哺乳動物の身体の少なくとも一部の画像化における、本明細書に記載された態様の任意のものによる変異体、組成物またはキット・オブ・パーツの使用に関する。
別の局面において、本発明は、本明細書に記載された態様の任意のものによる変異体、組成物またはキット・オブ・パーツを投与する段階を含む、ヒトまたは他の哺乳動物の身体の少なくとも一部を画像化するための方法に関する。
理論に拘束されるわけではないが、治療活性のある化合物の有効量は、本発明の任意の「単一変異体」局面または態様をそのような治療活性のある化合物に導入した場合に、減少する可能性がある。
癌抗体に対する適した抗原は、本明細書に記載されたものと同じであってもよい。実施例15~18は、腫瘍細胞の増強されかつ/またはより特異的な補体活性化またはCDCをもたらすための具体的な適用を記載している。例えば、E345R変異などを含む「単一変異体」局面の抗腫瘍抗体は、腫瘍細胞の増強されたCDCまたはADCC、ADCP応答をもたらすことができる。さらに、この方法の変異体において、「単一変異体」局面の変異、例えば、E345R、E430、もしくはS440S/Wまたは表1に列記されたような任意の他の変異を、各抗体に追加して、それにより、少なくとも2つの抗原を発現する腫瘍細胞を特異的に対象とする増強されたCDCおよび/またはADCC応答を与えることもできる。
細菌感染症に対する適した抗体には、黄色ブドウ球菌を標的とするもの、例えば、ブドウ球菌の細胞壁に埋め込まれているリポテイコ酸(LTA)を標的とし、かつ、いずれもその全体が参照により組み入れられるBaker(Nat Biotechnol. 2006 Dec; 24(12): 1491-3)およびWeisman et al. (Int Immunopharmacol. 2009 May;9(5): 639-44)に記載されている、キメラ性モノクローナルIgG1パギバキシマブ(BSYX-A110;Biosynexus)などが非限定的に含まれる。実施例14は、E345R変異を含む黄色ブドウ球菌抗体変異体を用いる具体的な態様を開示している。しかし、E430GおよびS440Wを非限定的に含む、表1における他の変異を、細菌抗原に対する抗体のCDC媒介能力を増強するために、類似の様式で適用することもできる。
ウイルス感染症または真菌感染症に対する適した抗原は、本明細書に記載された任意のものであってもよい。
1つの態様において、変異体が結合する抗原はヒトEphA2ではない。別の態様において、変異体はヒトEphA2 mAb 12G3H11(Dall'Acqua et al., 前記に記載、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)に由来しない。別の態様において、変異体が結合する抗原はIL-9ではない。別の態様において、変異体は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるWO2007005612号に記載されたFa-hG1抗体にもFa-hG4抗体にも、またはそれらのいかなる変異体にも由来しない。1つの態様において、変異体が結合する抗原はHIV-1 gp120ではない。別の態様において、変異体は、gp120を対象とするb12ヒトIgG1κ抗体に由来しない。
1つの特定の態様において、変異体は二重特異性親抗体に由来する。二重特異性抗体は、例えばIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4といった任意のアイソタイプのものであってもよく、完全長抗体であってもそのFc含有断片であってもよい。二重特異性抗体を調製するための例示的な方法は、WO 2008/119353号(Genmab)に記載されている。
投与量
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドにも適用可能であり得ることが理解されるべきである。抗体の有効投与量および投与レジメンは、治療しようとする疾患または病状に依存し、それは当業者によって決定されうる。本発明の抗体の治療的有効量の例示的で非限定的な範囲は、約0.1~100mg/kg、例えば約0.1~50mg/kg、例えば約0.1~20mg/kg、例えば約0.1~10mg/kg、例えば約0.5mg/kg、例えば約0.3、約1、約3、約5または約8mg/kgである。
また、本発明の抗体変異体を、変異体の治療活性を増強するため、および/または補体消費を補うために、1つまたは複数の補体因子または関連成分と組み合わせて投与することもできる。そのような補体因子および関連成分には、C1q、C4、C2、C3、C5、C6、C7、C8、C9、MBLおよびB因子が非限定的に含まれる。併用投与は、同時、別個または逐次的であってもよい。1つの特定の態様において、本発明は、本発明の変異体を含む薬学的組成物、および同じまたは異なる薬学的組成物中にある少なくとも1つの補体因子または関連成分を使用説明書とともに含むキットを提供する。
また、本発明の抗体変異体を、併用療法において、すなわち、治療しようとする疾患または病状に対して妥当な他の治療薬と組み合わせて投与することもできる。したがって、1つの態様において、抗体含有医薬品は、細胞傷害剤、化学療法薬または血管新生阻害剤といった1つまたは複数のさらなる治療薬と併用するためのものである。そのような併用投与は同時、別個または逐次的であってもよい。
1つのさらなる態様において、本発明は、癌などの疾患を治療または予防するための方法であって、それを必要とする対象に対して、放射線療法および/または外科手術と組み合わせて、本発明の変異体または薬学的組成物の治療的有効量を投与することを含む方法を提供する。
調製方法
親抗体、第1の親抗体または第2の親抗体に言及して本明細書において記載されたすべての態様は、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む他の親ポリペプチド、第1の親ポリペプチドまたは第2の親ポリペプチドにも適用可能であり得ることが理解されるべきである。
本発明はまた、上記の諸局面のいずれか1つによる変異体をコードする単離された核酸およびベクター、ならびに変異体をコードするベクターおよび発現系も提供する。抗体およびその変異体に対する適した核酸構築物、ベクターおよび発現系は当技術分野において公知であり、実施例に記載されている。変異体が重鎖(またはそのFc含有断片)だけでなく軽鎖も含む態様において、重鎖部分および軽鎖部分をコードするヌクレオチド配列は、同じまたは異なる核酸上またはベクター上に存在しうる。
本発明はまた、宿主細胞において、上記の諸局面のいずれか1つによる抗体変異体を産生させるための方法であって、該変異体が重鎖の少なくともFc領域を含み、該方法が以下の段階を含む方法を提供する:
a)該変異体の該Fc領域をコードするヌクレオチド構築物を用意する段階、
b)該ヌクレオチド構築物を宿主細胞において発現させる段階、および
c)該宿主細胞の細胞培養物から該抗体変異体を回収する段階。
いくつかの態様において、抗体は重鎖抗体である。しかし、ほとんどの態様において、抗体は軽鎖も含有すると考えられ、それ故に、前記宿主細胞は、同一のベクター上または異なるベクター上のいずれかに、軽鎖をコードする構築物もさらに発現する。
抗体の組換え発現のために適した宿主細胞は当技術分野において周知であり、これにはCHO細胞、HEK-293細胞、PER-C6細胞、NS/0細胞およびSp2/0細胞が含まれる。1つの態様において、前記宿主細胞は、タンパク質のAsn結合型グリコシル化を行いうる細胞、例えば真核細胞、例えばヒト細胞などの哺乳動物細胞である。1つのさらなる態様において、前記宿主細胞は、ヒト様またはヒト性のグリコシル化を有する糖タンパク質を産生するように遺伝的に操作された非ヒト細胞である。そのような細胞の例には、遺伝的に改変されたピキア・パストリス(Pichia pastoris)(Hamilton et al., Science 301 (2003) 1244-1246;Potgieter et al., J. Biotechnology 139 (2009) 318-325)および遺伝的に改変されたコウキクサ(Lemna minor)(Cox et al., Nature Biotechnology 12 (2006) 1591-1597)がある。
1つの態様において、前記宿主細胞は、抗体重鎖からC末端リジンK447残基を効率的に除去することができない宿主細胞である。例えば、Liu et al. (2008) J Pharm Sci 97: 2426(参照により本明細書に組み入れられる)における表2は、C末端リジンの部分的除去しか得られない、いくつかのそのような抗体産生系、例えば、Sp2/0、NS/0またはトランスジェニック乳腺(ヤギ)を列記している。1つの態様において、宿主細胞は、グリコシル化機構が改変された宿主細胞である。そのような細胞は当技術分野において記載されており、本発明の変異体を発現させて、それにより、グリコシル化が改変された抗体を産生させるための宿主細胞として用いることができる。例えば、Shields, R. L. et al. (2002) J. Biol. Chem. 277: 26733-26740;Umana et al. (1999) Nat. Biotech. 17: 176-1、ならびにEP1176195号;WO03/035835号;およびWO99/54342号を参照されたい。操作されたグリコフォームを作製するためのそのほかの方法も当技術分野において公知であり、Davies et al., 2001, Biotechnol Bioeng 74: 288-294;Shields et al, 2002, J Biol Chem 277: 26733-26740;Shinkawa et al., 2003, J Biol Chem 278: 3466-3473)、US6602684号、WO00/61739A1号;WO01/292246A1号;WO02/311140A1号;WO 02/30954A1号;Potelligent(商標)技術(Biowa, Inc. Princeton, N.J.);GlycoMAb(商標)グリコシル化操作技術(GLYCART biotechnology AG, Zurich, Switzerland);US 20030115614号;Okazaki et al., 2004, JMB, 336: 1239-49に記載されたものが非限定的に含まれる。
本発明はまた、上記の本発明の方法によって得られた、または得ることのできる抗体にも関する。
1つのさらなる局面において、本発明は、本発明の抗体変異体を産生しうる宿主細胞に関する。1つの態様において、宿主細胞は、本発明のヌクレオチド構築物による形質転換またはトランスフェクションを受けている。
本発明を以下の実施例によってさらに例示するが、それらはさらに限定するものとは解釈されるべきではない。
実施例1
7D8変異体の設計および作製
ヒトモノクローナル抗体HuMab-7D8(WO 2004/035607号に記載)をモデル抗体として用いた。これは、オファツムマブ(HuMax-CD20、2F2)を含むヒト抗CD20 IgG1抗体の一群に属する。これらの抗体はCD20分子上の独特な膜近位エピトープを標的とし、強いCDCを示す。
補体活性化およびCDCにおけるオリゴマーFc-Fc相互作用の機能的関連性について検討するために、7D8のFc-Fcサイドオン型(side-on)相互作用およびCDC活性を損なわせることを目指して、Fc:Fc境界面にある疎水性パッチ内のアミノ酸を変異させた。第1のセットの変異体(表3)では、1HZH結晶構造に基づいて選ばれた、CH2-CH3ドメインで疎水性パッチ内に露出していることが記載されている位置で電荷を変化させるために、変異を導入した(Burton Mol Immunol 1985 Mar;22(3): 161-206))。
第1のセットの変異から、I253DおよびH433Aが、7D8によるCDCの喪失に対して最も強い効果を誘導することが見いだされた(例えば、実施例5)。1HZH結晶構造により、I253およびH433は、パートナー抗体の対向するFc位置における2つの異なるポケットと結合することが示されている。これらのデータに基づき、Fc:Fcサイドオン境界面にある残基のCDCに対する重要性をさらに調べるために、結晶構造におけるI253およびH433位置の周辺に第2のセットの変異を合成した。Fc:Fc境界面を不安定化し、その結果としてCDCを不安定化する見込みのあるI253およびH433位置の周辺にある第2のセットの変異を、表4に列記している。
C1qに対する直接結合部位の破壊が、CDCに対して観測された効果の原因であるという可能性を否定するために、CDCの喪失を示した2つの単一変異体を基にして二重変異体を作製し、それが単一変異体によるCDCの喪失を復旧させる能力について検討した。この原理を図1Dに模式的に表している。二重変異体は表5に列記されており、構造的表示は図4および図5に示されている。
変異体は、Quikchange部位指定変異誘発キット(Stratagene, US)を用いて調製した。手短に述べると、所望の変異をコードする順方向および逆方向プライマーを用いて、IgG1m(f)アロタイプを有する7D8重鎖をコードする完全長プラスミドDNAテンプレートを複製した。その結果得られたDNA混合物を、ソースプラスミドDNAを取り除くためにDpnIで消化した上で、大腸菌の形質転換のために用いた。その結果得られたコロニーから単離した変異体のプラスミドDNAを、DNAシークエンシング(Agowa, Germany)によって検査した。抗体の重鎖および軽鎖の両方をコードするプラスミドDNA混合物を、293fectin(Invitrogen, US)を本質的には製造元による記載の通りに用いて、Freestyle HEK293F細胞(Invitrogen, US)に一過性にトランスフェクトした。
(表3)7D8のCH2-CH3ドメインに導入したセット1変異
Figure 0007048665000012
(=)荷電なし
(-)負荷電
(+)正荷電
(δ+)部分的正荷電
(表4)7D8のCH2-CH3ドメインに導入したセット2変異
Figure 0007048665000013
(=)荷電なし
(-)負荷電
(+)正荷電
(δ+)部分的正荷電
(表5)それぞれがCDCの喪失を示す2つの単一変異を組み合わせるために7D8のCH2-CH3ドメインに導入した二重変異
Figure 0007048665000014
(=)荷電なし
(-)負荷電
(+)正荷電
実施例2
7D8変異体による細胞上でのCD20結合
精製した抗体試料のCD20陽性細胞に対する結合をFACS分析によって分析した。第1のセットの変異(表3)をDaudi細胞において試験し、第2のセットの変異(表4)はRaji細胞において試験した。ポリスチレン製96ウェル丸底プレート(Greiner bio-one 650101)中にて、105個の細胞を50μL中で、RPMI1640/0.1% BSA中にある抗体調製物の系列希釈物(Daudiに対する第1のセットについては3倍希釈で0.04~10μg/mLの範囲、Rajiに対する第2のセットについては3倍希釈で0.003~10μg/mLの範囲)とともに4℃で30分間インキュベートした。RPMI1640/0.1% BSAにて2回洗浄した後に、細胞を100μL中で、二次抗体とともに4℃で30分間インキュベートした。二次抗体としては、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)結合ウサギ-抗ヒトIgG(F0056, Dako, Glostrup, Denmark;1/100)を、Daudi細胞に対するすべての実験、およびRaji細胞に対する7D8抗体による実験に用いた。Raji細胞に対する精製7D8抗体による実験については、R-フィコエリトリン(R-PE)結合ヤギF(ab')2抗ヒトκ軽鎖(2062-09、SouthernBiotech;1/500)を二次抗体として用いた。次に、細胞をPBS/0.1% BSA/0.02%アジドにて2回洗浄し、100μLのPBS/0.1% BSA/0.02%アジド中に再懸濁させた上で、FACS Cantoll(BD Biosciences)にて分析した。結合曲線を、GraphPad Prism V5.01ソフトウエア(GraphPad Software, San Diego, CA, USA)を用いる非線形回帰(可変勾配によるシグモイド用量反応)を用いて解析した。
Daudi細胞に対する7D8抗体の結合は、CH2-CH3ドメインにおける点変異の導入による影響を受けず、試験した変異体および野生型7D8のすべてについて同一であった。さらに、Raji細胞に対する7D8抗体の結合は、E345Rを除き、野生型7D8と比較して、CH2-CH3ドメインにおける点変異の導入による有意な影響を受けなかった。0.3μg/mLを上回る試験濃度では、CD20陽性Raji細胞に対するIgG1-7D8-E345Rの結合低下が検出された。同じくH433DおよびH433Rについても、試験した最も高い抗体濃度(10μg/mL)において結合低下が検出された。E345RおよびH433Rの直接標識がDaudi細胞において同程度の結合、またはさらには結合増強さえも生じさせたことから、IgG1-7D8-E345R、H433DおよびH433Rによる結合低下は二次抗体のエピトープの遮蔽によって説明しうると考えられる。この結合力の増強は、野生型IgG1-7D8と比較した、E345RおよびH433RによるFc-Fcサイドオン型結合の増強によって説明することができる。
K439E変異とS440K変異を組み合わせることは、Raji細胞に対する7D8抗体の結合に影響を及ぼさず、単一変異体および野生型7D8のものと同一であった。
実施例3
7D8変異体によるC1q結合ELISA
精製抗体をプラスチック表面上にコーティングしてランダムな抗体多量体化を生じさせるELISAにおいて、7D8変異体によるC1q結合について試験した。プールヒト血清をC1qの供給源として用いた。
96ウェルのMicrolon ELISAプレート(Greiner, Germany)を、PBS中にある抗体の系列希釈物(1.5倍希釈で0.58~10.0μg/mLの範囲)により、4℃で一晩かけてコーティングした。プレートを洗浄し、0.025% Tween 20および0.1%ゼラチンを加えた200μL/ウェルの0.5倍PBSによってブロックした。インキュベーション間に洗浄を行いながら、3%プールヒト血清(Sanquin、製品番号M0008)とともに37℃で1時間、100μL/ウェルのウサギ抗ヒトC1q(DAKO、製品番号A0136、1/4,000)とともに室温で1時間、および検出用抗体としての100μL/ウェルのブタ抗ウサギIgG-HRP(DAKO、P0399、1:10,000)とともに室温で1時間、順番にインキュベートした。現像は、1mg/mLの2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-硫酸)(ABTS;Roche, Mannheim, Germany)を用いて約30分間行った。反応を100μLの2%シュウ酸の添加によって停止させた。吸光度を、マイクロプレートリーダー(Biotek, Winooski, VT)にて405nmで測定した。対数変換データを、GraphPad Prismソフトウエアを用いて可変勾配によるシグモイド用量反応曲線に適合させることによって解析した。変異体のEC50値をプレート毎に野生型IgG1-7D8に対して標準化し、すべての野生型IgG1-7D8データの平均に対して乗算した。
図6および表6に示されているように、試験した点変異は、ELISAによる測定ではC1q結合に対してほとんど効果を及ぼさなかった。IgG1-7D8-I253D変異体については、幾分効率の低いC1q結合がELISAで測定された(EC50値がより高い)。コーティングの活性をすべての抗体について試験したところ、すべての抗体で同程度であることが見いだされた。
(表6)ELISAにおけるC1q結合に関するEC50
Figure 0007048665000015
1 平均およびSDは、少なくとも3回の実験から算出した。
2 統計:Dunnett多重比較検定(GraphPad Prism 5.01)を用いた対数変換データに対する一元配置ANOVA。有意性は野生型IgG1-7D8との比較で算出した:(na)該当なし (ns)非有意 (*)p=0.01~0.05 (**)p=0.001~0.01 (***)p<0.001。
実施例4
7D8変異体による細胞上でのC1q結合
プラスチック表面上に抗体をコーティングすることにより、抗体結合およびFc尾部提示に関する人工的な静止系が得られる。そのため、細胞ベースアッセイにより補体結合についても試験した。ここでは、抗体によりオプソニン化されたCD20陽性B細胞におけるC1q結合をFACS分析によって測定した。セット1の変異体を用いる実験では、Daudi細胞またはRaji細胞を氷上で、10% FBSを含む90μLのRPMI1640培地中に懸濁させた(2×106個/mL)。10μLのC1q濃度系列(Complement Technologies, Tyler, TX)を添加した(最大結合に応じて、最終濃度範囲は0~60μg/mLおよび0~140μg/mLの間でさまざまである)。続いて、10μLの精製抗体(最終濃度10μg/mL、すなわち飽和濃度)を添加し、反応混合物を直ちに37℃水浴に移して、1時間インキュベートした。セット2の変異体を用いる実験では、試験mAbを大量にDaudi細胞に添加し、続いてさまざまな濃度のC1qをアリコートに添加した上で、混合物を上記の通りにインキュベートした。細胞をPBS/1% BSAで3回洗浄し、ウサギFITC-標識抗C1q抗体(DakoCytomation、10ug/mL)ととともに室温で30分間インキュベートした。細胞をPBS/1% BSAで洗浄して、PBS中に再懸濁させるか、または2%ホルムアミドを含むPBS中で固定した。フローサイトメトリーをFACSCalibur flow cytometer(BD Biosciences)で行い、較正されたビーズ(Spherotech)を用いて、平均蛍光強度を可溶性蛍光色素分子等量(MESF)に変換した。指定の7D8抗体でオプソニン化したCD20陽性細胞に対するC1qの結合の解離定数(KD値)を、SigmaPlot(登録商標)ソフトウエア(Systat Software Inc., Washington)を用いて算出した。平均KD値を反復結合実験(Daudi細胞においては4回、Raji細胞においては3回)によって算出し、野生型7D8でオプソニン化した細胞上のC1q結合に関するKD値と比較した(表7および表8)。
セット1の変異体をDaudi細胞およびRaji細胞の両方に対して試験したところ、同じ結果が得られた。C1q ELISAの結果とは対照的に、試験したほとんどの変異体は、抗体でオプソニン化したDaudi細胞(表7A)およびRaji細胞(表8)の両方で、C1q結合力の低下(KD増大)を示した。野生型7D8と比較して、IgG1-7D8-Q311AおよびH435Aは、オプソニン化したDaudi細胞またはRaji細胞におけるC1q結合力の低下をほとんどまたは全く示さず、I253A、I253YおよびN434Aはより顕著な低下を示し、I253DおよびH433Aは極めて劇的な低下を示した。IgG1-7D8-H435Rは、C1q結合に関して両方の細胞種の表面で野生型7D8よりも幾分より高い結合力(より低いKD)を示したが、それは有意ではなかった。
セット2の変異体をDaudi細胞において試験した。野生型7D8と比較して、IgG1-7D8-E345R、E382RおよびH433Rは、オプソニン化Daudi細胞に対する結合力の増強を示し、これはより低いKD値に反映されている(表7B)。セット2の他の変異体はすべて、野生型7D8と比較して結合力の低下を示し、G385D、Y436D、Q438D、K439EおよびS440Kは劇的に増大したKD値を示したが(表7B)、そのように劇的に低下した結合を示すH433DおよびY436Cでは信頼性のあるKD値を測定することができなかった。
二重変異体IgG1-7D8-K439E/S440Kは、抗体でオプソニン化したDaudi細胞に対するC1q結合の回復を示したが、一方、単一変異体は両方とも、野生型7D8と比較してC1q結合の低下を示した。K439E/S440K二重変異体の結合力は、野生型7D8と比較して幾分増強さえしていた(表7C)。単一変異体IgG1-7D8-K439EとIgG1-7D8-K440Eの混合物はC1q結合を完全に回復させることができ、それは野生型7D8のC1q結合と同等であった(表7C)。
IgG1-7D8変異体によってELISAではC1q結合が変化せず(実施例3)、細胞ベースアッセイではC1q結合が影響を受けたという矛盾は、抗体分子間のFc:Fc相互作用に関与する試験CH3位置が、C1q結合には直接影響しないが、細胞上に結合した場合には抗体Fc尾部の動的配置に影響を及ぼして、その結果、C1q結合の強さにも影響を及ぼす重要な決定要因であることを示している。
(表7A)抗体でオプソニン化したDaudi細胞に対するC1q結合に関するKD値(変異体セット1)
Figure 0007048665000016
* 野生型7D8との比較(t-検定)
**(na)該当なし
(表7B)抗体でオプソニン化したDaudi細胞に対するC1q結合に関するKD値(変異体セット2)
Figure 0007048665000017
* 野生型7D8との比較(t-検定)
**(na)該当なし
*** 7D8の平均KDは実験1、2、3、4、10および11から算出した。
**** これらの変異体の結合が弱すぎるため、信頼性のある適合曲線およびKD値を測定することができなかった。
(表7C)抗体でオプソニン化したDaudi細胞に対するC1q結合に関するKD値(二重変異体)
Figure 0007048665000018
* 野生型7D8との比較(t-検定)
**(na)該当なし
*** 7D8の平均KDは実験1、2、3、4、10および11から算出した。
(表8)抗体でオプソニン化したRaji細胞に対するC1q結合に関するKD値(変異体セット1)
Figure 0007048665000019
* 野生型7D8との比較(t-検定)
**(na)該当なし
実施例5
CD20陽性Raji細胞でのCDCアッセイにおける7D8変異体によるC1q活性
観察されたC1q結合力の変化がCDC活性に及ぼす影響について調べるために、IgG1-7D8変異体でオプソニン化した細胞を用いたC1q活性を、CDCアッセイにおいて試験した。すなわち、所定の濃度系列のC1qを加えたC1q枯渇正常ヒト血清を用いて、CDCアッセイを行った。0.1×106個のRaji細胞を、丸底96ウェルプレート(Nunc, Rochester, NY)中にて、0.1% BSAを加えた総容積100μLのRPMI1640培地中で、10μg/mLの精製抗体およびヒトC1qの濃度系列(0.005、0.025、0.1、0.3、1.0、5.0、30.0μg/mL)とともに室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLのC1q枯渇血清(Quidel, San Diego, CA)を添加して、37℃にて水浴中で30分間インキュベートするか、またはインキュベーター内で45分間インキュベートした。インキュベーション後に、試料を氷上に置くことによって反応を停止させた。細胞溶解については、ヨウ化プロピジウム(PI, Sigma Aldrich, Zwijndrecht, Netherlands)生細胞排除アッセイを用いることによってFACSで決定した。溶解率(% lysis)は以下の通りに求めた:溶解率=(PI陽性細胞の数/細胞の総数)×100%。
30μg/mLのC1qの存在下での野生型7D8による溶解から、C1qを全く添加していない場合の溶解を差し引いたものを、100%に設定した。CH50値(50%の溶解をもたらすC1q濃度)を、GraphPad Prismソフトウエアを用いて対数変換データに対するシグモイド用量反応曲線の適合化を行うことによって算出した。変異体のCH50値を野生型7D8に対して標準化した(表9)。
表9におけるデータは、C1q結合力の測定値と一致して、IgG1-7D8-Q311A、E382RおよびH435Aが、C1q活性の低下を示さなかったことを示している;I253A、I253Y、G385D、N434AおよびY436CではC1q活性の有意な低下がみられ;I253D、H310K、K322A、H433A、H433D、Y436D、Q438D、K439EおよびS440Kでは、試験したすべてのC1q濃度でCDCを誘導する能力がほぼ完全に失われていた。
IgG1-7D8-H435RおよびH433Rは、野生型7D8よりも幾分効率的にC1qを利用し、その結果、より効率的なCDCを示した。IgG1-7D8-E345RはC1q活性の劇的な増強を示し、それは野生型7D8と比較して有意に高いCDC溶解をもたらした(表9)。
図7は、いずれも単一変異体としてはCDCの喪失をもたらすK439E変異とS440K変異を組み合わせることにより、両方の変異を1つの分子中に組み合わせた場合(K439E/S440K二重変異体)に、または両方の単一変異体を組み合わせた場合(K439E+S440K混合物)に、C1q活性アッセイにおけるCDCが回復したことを示している。
(表9)Raji細胞でのCDCアッセイにおけるC1q活性に関するCH50
Figure 0007048665000020
(1)(n)実験の数
(2)平均およびSDは、実施したすべての実験から算出した。
(3)統計:Dunnett多重比較検定(GraphPad Prism 5.01)を用いた対数変換データに対する一元配置ANOVA。有意性は野生型IgG1-7D8との比較で算出した:(na)該当なし (nd)未決定 (ns)非有意 (*)p=0.01~0.05 (**)p=0.001~0.01 (***)p<0.001。
(4)溶解が50%に達しない場合には、CH50を>30μg/mLに設定した
(5)溶解度50%に達しなかった変異体についてはP値を決定することができなかった。しかし、これらはIgG1-7D8-WTとは有意に異なるものと推測される。
実施例6
CD20陽性細胞でのCDCアッセイにおける、7D8変異体によるCDC
0.1×106個の細胞を、丸底96ウェルプレート(Nunc, Rochester, NY)中にて、総容積80μL中で、抗体の濃度系列(0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0、30.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、20μLの正常ヒト血清をC1qの供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。0.1% BSAを加えた30μLの氷冷RPMI培地を添加することによって反応を停止させた。細胞溶解は、ヨウ化プロピジウムを用いることによってFACSで決定した。
Daudi細胞でのCDCアッセイについては、EC50値(50%の溶解率をもたらす抗体濃度)を、GraphPad Prismソフトウエアを用いて対数変換データに対するシグモイド用量反応曲線の適合化を行うことによって算出した。変異体のEC50値を野生型7D8に対して標準化した(表10および表11)。
表10は、Daudi細胞において、IgG1-7D8-I253A、Q311A、E382R、H433RおよびH435Aが、CDC野生型7D8と比較して差を示さなかったことを示している;
IgG1-7D8-I253D、I253Y、H310K、G385D、H433A、H433D、N434A、Y436C、Y436D、Q438D、K439E、S440KおよびI253D/H433Aについては野生型7D8よりも有意に不良なCDC(より高いEC50)が見いだされ、これらは高い抗体濃度でしかCDCを誘導しなかった;対照として含めたC1q結合能欠損性変異体IgG1-7D8-K322Aは、CDCを誘導する能力をほぼ完全に喪失しており、試験した濃度ではEC50に達しなかった;IgG1-7D8-H435Rは、Daudi細胞において、野生型7D8よりも効率的なCDCを示した。重要なこととして、C1q活性CDCアッセイと一致して、E345RはDaudi細胞において野生型7D8よりも劇的に良好なCDCを示し、EC50値が10分の1の低さであった(表10)。図8は、いずれも単一変異体としてはCDCの喪失をもたらすK439E変異とS440K変異を組み合わせることにより、両方の変異を1つの分子中に組み合わせた場合(K439E/S440K二重変異体)に、または両方の単一変異体を組み合わせた場合(K439E+S440K混合物)に、CDCが回復したことを示している。
表11は、Raji細胞におけるIgG1-7D8変異体についても類似のデータが見いだされたことを示している。
(表10)Daudi細胞でのCDCアッセイから算出されたEC50
Figure 0007048665000021
(1)(n)実験の数
(2)平均およびSDは、実施したすべての実験から算出した。
(3)統計:Dunnett多重比較検定(GraphPad Prism 5.01)を用いた対数変換データに対する一元配置ANOVA。有意性は野生型7D8との比較で算出した:(na)該当なし (nd)未決定 (ns)非有意 (*)p=0.01~0.05 (**)p=0.001~0.01 (***)p<0.001。
(4)溶解が50%に達しない場合には、EC50を>30μg/mLに設定した
(5)EC50に達しなかった変異体についてはP値を決定することができなかった。しかし、これらは野生型7D8-WTとは有意に異なるものと推測される。
(表11)Raji細胞でのCDCアッセイから算出されたEC50
Figure 0007048665000022
(1)(n)実験の数
(2)平均およびSDは、実施したすべての実験から算出した。
(3)統計:Dunnett多重比較検定(GraphPad Prism 5.01)を用いた対数変換データに対する一元配置ANOVA。有意性は野生型7D8との比較で算出した:(na)該当なし (nd)未決定 (ns)非有意 (*)p=0.01~0.05 (**)p=0.001~0.01 (***)p<0.001。
(4)CH50に達しない場合には、CH50を>30μg/mLに設定した
(5)EC50に達しなかった変異体についてはP値を決定することができなかった。しかし、これらは野生型7D8-WTとは有意に異なるものと推測される。
実施例7
CDC誘導能による7D8変異体のランク付け
試験した7D8変異体について、Daudi細胞におけるC1q結合アッセイ(実施例4に記載)とRaji細胞におけるC1q活性アッセイ(実施例5に記載)との間、ならびにDaudi細胞におけるC1q結合アッセイとDaudi細胞およびRaji細胞おけるCDCアッセイとの間(実施例6に記載)に相関が見いだされた(相関データ表13)。そのため、Daudi細胞におけるC1q結合アッセイのKD値を用いて、試験したすべての7D8変異体を、表12に示すように、それらがCDCを誘導する能力に従ってランク付けした。
(表12)試験したすべての7D8変異体の、それらがCDCを誘導する能力を表すものとして役立つ、Daudi細胞表面におけるC1q結合に関する、KD値が高いものから順のランク付け
Figure 0007048665000023
* 信頼性のある適合曲線がない。イタリック体のKD値は、これらの変異体の結合が弱すぎるため、測定することができなかった。
(表13)Daudi細胞におけるC1q結合アッセイ(実施例4)とRaji細胞におけるC1q活性アッセイ(実施例5)との間での相関、ならびにDaudi細胞におけるC1q結合アッセイとDaudi細胞およびRaji細胞におけるCDCアッセイとの間(実施例06)での相関。相関について解析する前に、データを対数変換した。
Figure 0007048665000024
実施例8
CD38抗体005変異体の設計および作製
ヒトモノクローナル抗体HuMab 005は、WO/2006/099875号に記載されている完全ヒトIgG1,κ抗体である。本明細書ではそれを、同定されたFc変異がCDC活性を増強することを検証するためのモデル抗体として用いた。試験した変異は表14に列記されている。
種々の変異体についてDNA構築物を調製し、IgG1m(f)アロタイプを有するHuMab 005の重鎖を変異誘発反応のためのテンプレートとして用いて、実施例1に記載した通りに一過性にトランスフェクトした。
(表14)005(HuMax-CD38)のCH2-CH3ドメインに導入した変異のセット
Figure 0007048665000025
(=)荷電なし
(-)負荷電
(+)正荷電
(δ+)部分的正荷電
実施例9
HuMab-005変異体による細胞上でのCD38結合
CD38陽性Daudi細胞およびRaji細胞に対する非精製抗体試料の結合を、FACS分析によって分析した。105個の細胞を、ポリスチレン製96ウェル丸底プレート中にて、100μL中で、RPMI1640/0.1% BSA中にある抗体調製物の系列希釈物(0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0、30.0μg/mL)とともに、4℃で30分間インキュベートした。RPMI1640/0.1% BSAにて2回洗浄した後に、細胞を、FITC結合ウサギF(ab')2抗ヒトIgG(カタログ番号F0056;DAKO;1:150)とともに、50μL中で、4℃で30分間インキュベートした。次に、細胞をPBS/0.1% BSA/0.02%アジドにて2回洗浄し、100μL PBS/0.1% BSA/0.02%アジド中に再懸濁させた上で、FACS Cantoll(BD Biosciences)で分析した。結合曲線はGraphPad Prism V5.01ソフトウエアを用いて解析した。陰性対照として、擬似トランスフェクトした細胞の上清を用いた。
Daudi細胞に対するHuMab 005の結合は、CH2-CH3ドメインにおける点変異の導入により、それほど大きな影響は受けなかった。試験した抗体はすべて、Daudi細胞と用量依存的な様式で結合した。幾分低下した結合を示した005-E345Rを除き、試験した変異体のすべてで、結合は野生型HuMab-005と同程度であった。しかし、いかなる理論にも拘束されないものの、結合がより低下していることは、実施例2におけるIgG1-7D8-E345と同様に、二次抗体による結合低下の結果である可能性がある。005-E345Rによる実際の結合力は005-WTと比較して同程度であるかまたはさらに増強されている可能性もあるが、直接標識された抗体がないため、本発明者らはこのことを確かめることができなかった。
Raji細胞に対するHuMab-005の結合も、CH2-CH3ドメインにおける点変異の導入によってそれほど大きな影響を受けなかった。試験した抗体はすべて、Raji細胞と用量依存的な様式で結合した。最大結合は、005-I253DおよびH433A変異体については野生型005のものと同程度であり、005-E435R、K439E、S440K変異体および005-K439E+005-S440Kの組み合わせについてはより低下していた。しかし、いかなる理論にも拘束されないものの、結合がより低下していることは、実施例2におけるIgG1-7D8-E345R(エピトープの遮蔽)と同様に、二次抗体による結合低下の結果である可能性がある。
実施例10
CD38抗体005の変異体による、CD38陽性細胞でのCDCアッセイ
0.1×106個のDaudi細胞またはRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μLで、非精製抗体の濃度系列(0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0、30.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清をC1qの供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加し、細胞溶解をFACSによって決定した。
Daudi細胞およびRaji細胞において7D8抗体および005抗体の両方のCDC活性を増強することが示されたE435R変異のCDC増強能力について、Wien133細胞において種々の濃度の正常ヒト血清(NHS)を用いてさらに分析した。0.1×106個のWien133細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積50μLで、非精製抗体の濃度系列(0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0、30.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、C1qの供給源としてNHSを、総容積100μLで、20%または50% NHSのいずれかの最終濃度に達するまで添加した。反応混合物を37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウム添加し、細胞溶解をFACSによって決定した。
CD20抗体7D8に関してCDC活性の喪失または増強をもたらした、CH2-CH3領域において同定された変異は、CD38を認識する005抗体に対しても同じ効果を及ぼすことが見いだされた。図9は、005-I253D、H443A、K439EおよびS440KがDaudi細胞(図9A)およびRaji細胞(図9B)の両方においてCDC活性の完全な喪失を示し、一方、005-E345R変異体がいずれの細胞株においても強く増強されたCDC活性を示したことを示している。7D8のデータと同等に、いずれも単一変異体としてはCDCの喪失をもたらす005-K439E+005-S440Kの組み合わせは、CDCの回復をもたらした。驚いたことに、005-E435Rは、野生型005がCDCによる致死を誘導することができないWien133細胞においてもCDCを強く誘導した(図9C)。Wien133細胞における005-E345RによるCDC致死は、20%および50%のいずれの血清濃度でも観察された(図9C)。同じくRaji細胞においても、7D8-E345Rおよび005-E345Rは両方とも、50%血清中でインビトロでのCDCの増強を示し、20%血清中でも同程度の活性であった(図9D)。
CH2-CH3領域におけるE345R変異が、試験したCD20抗体7D8およびCD38抗体005の両方においてCDC活性の増強をもたらしたことから、E345R変異はCDCを誘導または増強するために適用しうる一般的な抗体改変であると考えられる。
実施例11
CDC増強性変異E345Rを含むIgG1抗体は、野生型抗体よりも、Fc結合ペプチドDCAWHLGELVWCT(SEQ ID NO:19)によるCDCの阻害に対する感受性が低い
IgGのFc:Fc境界面にある疎水性パッチ中のアミノ酸位置を変異させることによって、CDCの活性が損なわれること、または増強されることが見いだされた。b12結晶構造において観察されているような、Fc-Fc境界面での相互作用、およびそれ故に可能性としてオリゴマー(例えば、ヘキサマー環)構造の形成がCDCの活性に及ぼす関与についてさらに調べた。すなわち、野生型IgG Fcの表面上の疎水性パッチ領域におけるコンセンサス結合部位を標的とする、13残基のペプチド(DCAWHLGELVWCT(SEQ ID NO:19))を用いた(Delano et al., Science 2000 Feb 18; 287(5456): 1279-83)。実際に、種々の異なる分子との相互作用に向けて備わっている適応領域としてのIgG Fcの表面上のコンセンサス結合部位の実体(Delano et al., Science 2000 Feb 18;287(5456): 1279-83)は、IgG1 b12結晶構造においてFc-Fc相互作用に関与する疎水性パッチにおけるコアアミノ酸の実体と一致する(Saphire et al., Science 2001 Aug 10; 293(5532): 1155-9)。結合境界面のすべてに存在する相互作用は、共通する6つのアミノ酸のセット(Met-252、Ile-253、Ser-254、Asn-434、His-435およびTyr-436)、ならびに共通の骨格接触によって媒介される(Delano et al., Science 2000 Feb 18;287(5456): 1279-83)。そのため、Fc結合ペプチドはFc-Fc相互作用に影響を及ぼし、その結果としてCDCの活性にも影響を及ぼすと予想される。
0.1×106個のDaudi細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、75μL中で、1.0μg/mLの非精製抗体とともに振盪機上にて室温で10分間プレインキュベートした。Fc結合ペプチドDCAWHLGELVWCT(SEQ ID NO:19)の濃度系列(最終濃度は0.06~60μg/mLの範囲)の25μLをオプソニン化細胞に添加して、室温で振盪機上で10分間インキュベートした。次に、25μLのNHSを補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。0.1% BSAを加えた25μLの氷冷RPMI培地を添加することによって反応を停止させた。15μLのヨウ化プロピジウムを添加し、細胞溶解をFACS分析によって決定した。
野生型005(図10A)または7D8(図10B)によって媒介されるCDCは、Fc結合ペプチドDCAWHLGELVWCT(SEQ ID NO:19)によって用量依存的な様式で阻害されることが見いだされた。これらの競合データも同じく、IgGの疎水性パッチでのFc-Fc相互作用がCDCの活性に関与することを示唆している。CDCが増強されたIgG1-005-E345RおよびIgG1-7D8-E345R変異体は両方とも、それらの対応する野生型抗体と比較して、Fc結合ペプチドによる競合に関する感受性が低く、このことはE345R変異がFc-Fc相互作用の安定性の増強をもたらし、その結果としてCDCの増強をもたらすことを示唆する。
実施例12
CD38抗体HuMAb 005の変異体によるCD38発現細胞の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)
Daudi細胞を採取し(5×106個/ml)、洗浄(PBSにて2回、1200rpm、5分間)した上で、10%コスミック仔ウシ血清(cosmic calf serum)(CCS)(HyClone, Logan, UT, USA)を加えた1mLのRPMI1640培地中に収集し、それに対して200μCiの51Cr(クロム-51;Amersham Biosciences Europe GmbH, Roosendaal, Netherlands)を添加した。混合物を振盪水浴中にて37℃で1時間インキュベートした。細胞の洗浄(PBSにて2回、1200rpm、5分間)の後に、細胞を、10% CCSを加えたRPMI1640培地中に再懸濁させ、トリパンブルー排除によって算定して、1×105個/mLの濃度に希釈した。
その間に、新鮮なバフィーコート(Sanquin, Amsterdam, Netherlands)から、標準的なFicoll密度勾配遠心分離を製造元の指示に従って用いて(リンパ球分離培地;Lonza, Verviers, France)、末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。10% CCSを加えたRPMI1640培地中への細胞の再懸濁の後に、細胞をトリパンブルー排除によって算定し、1×107個/mLに濃縮した。
ADCC実験については、50μLの51Cr標識Daudi細胞(5,000個)を、96ウェルマイクロタイタープレート中にて、総容積100μLで、10% CCSを加えたRPMI培地中にある15μg/mLのCD38抗体IgG1-005または変異体IgG1-005-E345Rとともにプレインキュベートした。室温で10分後に、50μLのPBMC(500,000個)を添加して、エフェクター-標的比が100:1となるようにした。50μLの51Cr標識Daudi細胞(5,000個)を100μLの5% Triton-X100とともにインキュベートすることによって、細胞溶解の最大量を決定した。抗体もエフェクター細胞も伴わずに、5,000個の51Cr標識Daudi細胞を150μLの培地中でインキュベートすることにより、自然発生的な溶解の量を決定した。抗体と無関係な細胞溶解のレベルは、5,000個のDaudi細胞を500,000個のPBMCとともに、抗体を伴わずにインキュベートすることによって決定した。その後に、細胞を37℃、5% CO2にて4時間インキュベートした。細胞溶解の量を決定するためには、細胞を遠心分離して(1200rpm、3分間)、上清の75μLをmicronicチューブに移し、その後に、放出された51Crをガンマカウンターを用いて算定した。測定された1分間当たりのカウント数(cpm)を用いて、抗体媒介性溶解のパーセンテージを以下の通りに算出した:
(試料cpm - Abと無関係な溶解のcpm)/(最大溶解のcpm - 自然発生的な溶解のcpm)×100%
表15は、実施したADCCアッセイにおけるIgG1-005-wtおよびIgG1-005-E345Rの算出されたEC50値を示している。4種の試料を試験した。IgG1-005-E345Rは、試験した4種の試料のすべてで、IgG1-005-wtよりも有意に低いEC50値を示している。
(表15)実施した4つの実験の算出EC50値
Figure 0007048665000026
図11は、野生型抗体HuMab-005と比較して、変異体IgG1-005-E345RがADCC能力の活性の増強を明らかに示し、より低い濃度でADCCを誘導できたことを示している。
実施例13
野生型7D8と比較した7D8変異体のFcRn結合および薬物動態分析
新生児Fc受容体(FcRn)は、IgGを分解から防御することにより、IgGの長い血漿中半減期の原因となる。抗体の細胞内移行後に、FcRnはエンドソーム内で抗体Fc領域と結合するが、そこは相互作用が安定な穏やかな酸性環境(pH 6.0)にある。環境が中性(pH7.4)である原形質膜までリサイクルされると、相互作用がなくなり、抗体は再び血流中に放出される。これがIgGの血漿中半減期に影響する。
7D8変異体IgG1-7D8-E354Rがマウス、カニクイザルおよびヒト由来のFcRnと相互作用する能力を、ELISAにおいて試験した。インキュベーションはすべて室温で行った。0.2% BSAを加えたPBST中に希釈した、5μg/mL(100μL/ウェル)の、組換え法で作製したFcRn(マウス、ヒトまたはカニクイザル)のビオチン化細胞外ドメイン(FcRnECDHis-B2M-BIO)により、96ウェルプレートを1時間コーティングした。プレートをPBSTで3回洗浄し、3倍系列で希釈した(PBST/0.2% BSA、pH 6.0中)野生型IgG1-7D8またはIgG1-7D8-E354Rを添加して、プレートを1時間インキュベートした。プレートをPBST/0.2% BSA、pH 6.0で洗浄した。PBST/0.2% BSA、pH 6.0中に希釈したヤギ-抗ヒトIgG(Fab'2)-HRP(JacksonImmuno Research、カタログ番号:109-035-097)を添加して、プレートを1時間インキュベートした。洗浄後に、ABTSを基質として添加し、プレートを暗所下で30分間インキュベートした。EL808 ELISAリーダーを用いて、吸光度を405で読み取った。
本研究におけるマウスは、Central Laboratory Animal Facility(Utrecht, The Netherlands)のバリアユニットに収容し、フィルタートップケージに入れた上で、水および飼料を自由に摂取させた。実験はすべて、ユトレヒト大学の動物倫理委員会によって承認された。
7D8変異体のインビボでの薬物動態を分析するために、100μg(5mg/kg)の野生型7D8、IgG1-7D8-E354R、-S440KまたはK322AをSCIDマウス(C.B-17/IcrCrl-scid-BR, Charles-River)に静脈内注射した;1群当たりマウス3匹。
抗体投与から10分後、4時間後、24時間後、2日後、7日後、14日後および21日後に、伏在静脈から血液試料50μLを収集した。血液をヘパリン含有バイアル中に収集し、10,000gで5分間遠心分離した。mAb濃度の決定まで血漿を-20℃で貯蔵した。
ヒトIgG濃度はサンドイッチELISAを用いて決定した。96ウェルMicrolon ELISAプレート(Greiner, Germany)に2μg/mLの濃度でコーティングしたマウスmAb抗ヒトIgG-κクローンMH16(#M1268、CLB Sanquin, Netherlands)を捕捉用抗体として用いた。2%ニワトリ血清を加えたPBSでプレートをブロックした後に、ELISA緩衝液(0.05% Tween 20および2%ニワトリ血清を加えたPBS)中に系列希釈した試料を添加し、室温(RT)にて振盪機で1時間インキュベートした。その後、プレートをヤギ抗ヒトIgG免疫グロブリン(#109-035-098, Jackson, West Grace, PA)とともにインキュベートし、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-硫酸)(ABTS;Roche, Mannheim, Germany)で現像した。吸光度はマイクロプレートリーダー(Biotek, Winooski, VT)で405nmで測定した。
SCIDマウスを選んだ理由は、それらの血漿IgG濃度が低く、そのためIgGのクリアランスが比較的緩徐だからである。このことにより、Fcγ部分と新生児Fc受容体(FcRn)との結合の低下に起因するクリアランスの変化を検出する感度が非常に高いPKモデルが得られる。
統計学的検定は、GraphPad PRISMバージョン4(Graphpad Software)を用いて行った。
図12は、野生型HuMab-7D8およびIgG1-7D8-E345Rがいずれも、マウス、ヒトおよびカニクイザルのFcRnと良好に結合したことを示している。IgG1-7D8-E345Rの結合は、野生型7D8のそれよりも幾分良好であった。
図13は、経時的な血漿中濃度を示している。野生型HuMab-7D8とIgG1-7D8-E345R、-S440KまたはK322Aのいずれの間にも、経時的な血漿中濃度の変化(クリアランス)に関して差はみられなかった。
実施例14
Fc結合性表面タンパク質を発現する細菌に対するIgG抗体の殺菌活性を高めるためのFc-Fc安定化変異E345Rの使用
補体カスケード系は病原体に対する重要な宿主防御機構であり、病原体を認識する上で3種の異なる活性化経路に分けることができる:i)病原体に結合した抗体へのC1q結合によって活性化される抗体媒介性古典的経路、ii)レクチン、およびiii)補体系が病原体を直接認識し、抗体がなくても病原体によって誘発される、代替経路。この3つの経路は、C3切断およびC3b沈着の段階で集束する。微生物は、補体回避の複数の機序を生み出しており、その1つはプロテインAによって媒介される(Joiner Ann. Rev. Microbiol. (1988) 42: 201-30;Foster Nat Rev Microbiol (2005) Dec;3(12) :948-58)。プロテインAは黄色ブドウ球菌の細胞壁で最初に同定され、IgGのFc領域に結合することがよく知られている(Deisenhofer et al., Biochem (1981) 20, 2361-70;Uhlen et al., J. Biol. Chem (1984) 259,1695-1702)。これまでのところ、プロテインAの抗食作用効果および黄色ブドウ球菌の病的作用におけるその役割は、プロテインAとIgGとの相互作用によって説明されており、当該相互作用は、好中球のFc受容体により認識される抗体の指向を誤ったものにする(Foster Nat Rev Microbiol (2005) Dec;3(12): 948-58)。
実施例11は、B細胞特異的IgG1抗体によって媒介されるCDCが競合性Fc結合ペプチドDCAWHLGELVWCT(SEQ ID NO:19)によって阻害されたことを示している。このペプチドはIgG Fc上のコンセンサス結合部位を標的とし、これはプロテインA、プロテインGおよびリウマチ因子の結合部位と一致する(Delano et al., Science 2000 Feb 18;287(5456): 1279-83)。これらのデータに基づき、プロテインAが媒介する細菌の補体回避機構は、Fcへの結合をめぐって競合することによって働いて、微生物特異的な抗体のFc-Fc相互作用の不安定化をもたらし、その結果として抗体媒介性補体活性化の阻害をもたらすと考えられている。さらに、実施例11は、CDCを増強するE345R変異を含有するB細胞特異的IgG1抗体が、野生型の親抗体よりも、競合性Fc結合ペプチドDCAWHLGELVWCT(SEQ ID NO:19)によるCDCの阻害に対する感受性が低いことも示している。これらの結果から微生物の表面で発現されるFc結合タンパク質について推定すると、E345R変異によるIgG1 Fc-Fc相互作用の安定化の増強が、プロテインAなどの微生物表面タンパク質によるFcへの結合の競合を介する病原体の回避戦略による補体阻害を受けにくい微生物特異的抗体につながると考えられる。その結果として、細菌を対象とするIgG抗体へのE345R変異の導入は、野生型の親抗体と比較して、細菌上でのC3b沈着の増大および殺菌活性の増強をもたらすと考えられる。
補体媒介性の細菌死滅に関するインビトロでの尺度として、好中球による食作用と、細菌表面におけるC3b沈着に一致する血漿中でのC3aの生成との両方を、以下に記載するようにして決定することができる。実際に、黄色ブドウ球菌表面におけるC3b沈着は食作用の増強をもたらし、細菌死滅と相関することが記載されている(Rooijakkers et. al., Nature Immunology 2005: 6,920-927)。
指数的に増殖している細菌培養物を、0.1M炭酸塩緩衝液(pH 9.6)中で100μg/mLのFITCとともに37℃で1時間インキュベートすることにより、黄色ブドウ球菌をFITCで標識する。Ficoll勾配を用いてヒト多形核細胞(PMN)を単離する。FITC標識した細菌を、変異E345Rを伴うかまたは伴わない特異的抗体の濃度系列によってオプソニン化する。1×108個のオプソニン化FITC標識細菌を、補体の供給源としての25% IgG枯渇血清の存在下で、総容積200μL中で、ヒトPMNとともに37℃で25分間、激しく震盪しながらインキュベートすることによって、インビトロで食作用を行わせる。細胞を固定して、BD FACS溶解溶液との室温での15分間のインキュベーションにより、赤血球を溶解させる。洗浄後に、食作用をFACSによって測定する。好中球集団を前方散乱および側方散乱ゲーティングによって選別し、食作用を好中球集団における平均蛍光として表す。または、補体活性化およびC3b沈着の尺度として、ELISAによって試料におけるC3a生成を測定する。
E345R変異を含有する黄色ブドウ球菌特異的抗体は、野生型の親抗体よりも高度に、補体活性化および好中球による食作用を誘導すると考えられる。そのような実験に用いうると考えられる抗体の一例は、ブドウ球菌の細胞壁に組み込まれているリポテイコ酸(LTA)を標的とするキメラ性モノクローナルIgG1パギバキシマブ(BSYX-A110;Biosynexus)である(Baker, Nat Biotechnol. 2006 Dec;24(12): 1491-3;Weisman et al., Int Immunopharmacol. 2009 May;9(5): 639-44)。
実施例15
2つの異なる治療モノクローナル抗体の混合物による結合を同時に受けた標的細胞にCDC活性化を限定するCDC阻害性変異の使用
実施例6に記載したように、CD20抗体7D8の変異K439EおよびS440Kは、モノクローナル抗体としてのCDCの活性を低下させた。これらの変異を含有する7D8抗体を混合することにより、CDCが回復した。すなわち、効率的なCDCは、両方の変異型抗体による結合を同時に受けた細胞に限定された。実施例10に記載したように、CD38抗体005の変異K439EおよびS440K は、モノクローナル抗体としてのCDCの活性を低下させた。これらの変異を含有する005抗体を混合することにより、CDCが回復した。すなわち、効率的なCDCは、両方の変異型抗体による結合を同時に受けた細胞に限定された。
効率的なCDCの誘導を、2つの特異的抗原を同時に発現する標的細胞に限定して、それらの複合発現をCDC誘導の選択性を向上させるために利用することは、有利である可能性がある。CDC誘導を、CD20およびCD38抗体による結合を同時に受けた細胞に限定するために、以下のようなCDC実験において、7D8-K439Eおよび005-S440Kの対、または7D8-S440Kおよび005-K439Eの対を別々に添加するか、または1:1で混合することが考えられる。0.1×106個のDaudi細胞またはRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、非精製抗体または抗体混合物の濃度系列(0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0、30.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートする。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートする。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させる。10μLのヨウ化プロピジウムを添加し、細胞溶解をFACSによって決定する。7D8-K439E、005-S440K、7D8-S440Kおよび005-K439Eは、限定されたCDC活性を呈することが予想される。7D8-K439Eおよび005-S440Kの同時添加は、CD20およびCD38の両方を発現する細胞に対する効率的なCDCを特異的に回復させることが予想される。同様に、7D8-S440Kおよび005-K439Eの混合物も、CD20およびCD38の両方を発現する細胞に対する効率的なCDCを特異的に回復させることが予想される。
実施例16
2つの異なるモノクローナル抗体の混合物において、E345Rを補完性の阻害性変異K439EおよびS440Kと組み合わせることによる、増強されたCDCの特異性の増強
実施例6に記載したように、CD20抗体7D8の変異K439EおよびS440Kは、モノクローナル抗体としてのCDCの活性を低下させた。これらの変異を含有する7D8抗体を混合することにより、CDCが回復した。すなわち、効率的なCDCは、両方の変異型抗体による結合を同時に受けた細胞に限定された。実施例10に記載したように、CD38抗体005の変異K439EおよびS440K は、モノクローナル抗体としてのCDCの活性を低下させた。これらの変異を含有する005抗体を混合することにより、CDCが回復した。すなわち、効率的なCDCは、両方の変異型抗体による結合を同時に受けた細胞に限定された。
CDC誘導の増強を、2つの特異的抗原を同時に発現する標的細胞に限定して、それらの複合発現をCDC誘導の増強を選択的に向上させるために利用することは、有利である可能性がある。また、CDC誘導の増強を、同一の細胞表面抗原と2つの異なるエピトープで同時に結合するか、または2つの交差競合する類似もしくは同一のエピトープで結合する抗体である、少なくとも2つの異なる抗体の混合物による結合を同時に受けた標的細胞に限定することも、有利である可能性がある。
このように、CDC誘導の増強を、CD20およびCD38抗体による結合を同時に受けた細胞に限定するために、抗体7D8-E345R/K439E、7D8-E345R/S440K、005-E345R/S440Kおよび005-E345R/K439Eにおいて、CDC増強性変異E345RをCDC阻害性変異と組み合わせた。これらの抗体を、以下のようなCDC実験において、別々に添加するか、または1:1で混合した。0.1×106個のWien133細胞(Daudi細胞またはRaji細胞などの他の細胞種を用いてもよい)を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、非精製抗体の濃度系列(7D8-E345R/K439E、7D8-E345R/S440K、005-E345R/S440Kまたは005-E345R/K439Eについては3倍希釈で最終濃度0.056~10,000ng/mLに)または抗体混合物(最終濃度0.01μg/mLのCD20抗体を0~333ng/mLのCD38抗体の3倍希釈物と混合;または3.3μg/mLのCD38抗体を0.0056~1,000ng/mLのCD20抗体の3倍希釈物と混合)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
005-E345R/K439E抗体または005-E345R/S440K抗体の濃度系列を、0.01μg/mLという固定濃度の7D8二重変異型抗体(図14Aから決定されるような、単一の薬剤としてWien133細胞に対するCDCが最小限である最大濃度)と混合して、005-E345R/K439E+7D8-E345R/S440Kまたは005-E345R/S440K+7D8-E345R/K439Eという補完的な組み合わせを作り出した。図14Cは、固定濃度の補完的な7D8-E345R/K439Eまたは7D8-E345R/S440K CD20抗体のそれぞれの存在下で、005二重変異体CD38抗体がCDCを用量依存的に誘導したことを示している。これらの補完的な組み合わせによるCDCの活性(図14C)は、単一の薬剤としての005-E345R単一変異体(エンハンサー)抗体と同等であった(図14B)。対照的に、無関係な抗体b12の存在下では、005-E345R/K439Eおよび005-E345R/S440Kはいずれも、試験した濃度系列においてほとんどCDCを示さなかった(図14Bに示されている単一の薬剤としての005-E345R/K439Eまたは005-E345R/S440Kと同等)。
7D8-E345R/K439Eまたは7D8-E345R/S440K抗体の濃度系列を、3.3μg/mLという固定濃度の005二重変異型抗体(図14Bから決定されるように、単一の薬剤としてWien133細胞においてわずかな、ただし限定的なCDCを示す)と混合して、7D8-E345R/K439E+005-E345R/S440Kまたは7D8-E345R/S440K+005-E345R/K439Eという補完的な組み合わせを作り出した。図14Dは、補完的な005-E345R/K439Eまたは005-E345R/S440K CD38抗体のそれぞれの存在下で、細胞1個当たり数個にとどまる7D8二重変異型抗体分子に相当するような最も低い試験濃度であっても、7D8二重変異体CD20抗体がCDCを極めて効率的に誘導したことを示している。7D8および005抗体と補完的なK439EおよびS440K変異の混合物によって観察されたCDC増強への、細胞膜上でのFc尾部の密度の増大の寄与を否定するために、非補完的な変異との抗体の組み合わせについても試験した。図14Dは、非補完的な組み合わせが、補完的な組み合わせよりも効率的でないFc-Fc相互作用の結果として、補完的な組み合わせよりもはるかに弱いCDCの活性を示したことを示している。
これらのデータは、治療用抗体による(増強された)CDCの誘導を、2つの補完的な抗体の、この場合には異なる抗原特異性を有するものの混合物と同時に結合する細胞に限定することができ、それにより、両方の抗原の同時発現を要求することによって標的細胞特異性を高めうることを示唆している。
図14Aおよび14Bに見てとれるように、7D8-E345R/K439E、005-E345R/S440K、7D8-E345R/S440Kおよび005-E345R/K439Eは、7D8-E345R単独と比較して、限定的なCDC効率を呈した。さらに、7D8-E345R/K439Eおよび7D8-E345R/S440Kの混合物が、単一の薬剤としての野生型7D8抗体と比較して、効率の増強されたCDCを可能にしたことも見てとれる。同様に、005-E345R/K439Eおよび005-E345R/S440Kの混合物も、単一の薬剤としての野生型005抗体と比較して、効率の増強されたCDCを可能にしたことも観察された(データは提示せず)。
実施例17
効率的なCDC活性化を、治療用に投与される抗体のみからなる抗体複合体に限定するためのCDC阻害性変異の使用
実施例6に記載したように、CD20抗体7D8の二重変異体K439E/S440Kは、K439EまたはS440K単一点変異体によって減じたCDC効率を回復させた。実施例10に記載したように、CD38抗体005の二重変異体K439E/S440Kは、K439EまたはS440K単一点変異体によって阻害されたCDC効率を回復させた。観察されたように、これらの単一点変異は、Fc:Fc境界面の対向面における変異していないアミノ酸とのFc:Fc相互作用を損なわせた。Fc:Fc境界面の対向面への代償変異の導入により、CDC効率が回復した。このように、効率的なCDCは、見たところ、両方の変異を含有する抗体からなる抗体複合体に限定された。
別の例では、CDCの誘導を、治療用に投与された抗体のみからなる抗体複合体に限定させる。CDC誘導を、治療用にCD20抗体またはCD38抗体が結合した細胞のみに限定するためには、CDC阻害性変異K439EおよびS440Kを、抗体7D8-K439E/S440Kまたは005-K439E/S440Kの形で組み合わせることが考えられる。これらの抗体を、以下のように、非標的特異的なIgGの存在下または非存在下で、CDC実験において別々に投与することが考えられる。0.1×106個のDaudi細胞またはRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、非精製抗体または抗体混合物の濃度系列(0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0、30.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートする。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートする。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させる。10μlのヨウ化プロピジウムを添加し、細胞溶解をFACSによって決定する。
7D8-K439E/S440Kは野生型7D8抗体と同程度の効率でCDCを誘導することが予想される。7D8-K439E/S440Kへの非特異的IgGの添加は、この抗体についてのCDC誘導の効率には影響を及ぼさないと予想される。同様に、005-K439E/S440Kは野生型HuMAb 005と同程度の効率でCDCも可能にすると予想される。005-K439E/S440Kへの非特異的IgGの添加は、この抗体に関するCDC誘導の効率には影響を及ぼさないと予想される。
実施例18
CDC活性化の増強を、治療用に投与された抗体のみからなる抗体複合体に限定する、CDC阻害性変異の使用
実施例6に記載したように、CD20抗体7D8の二重変異体K439E/S440Kは、K439EまたはS440K単一点変異体によって減じたCDC効率を回復させた。実施例10に記載したように、CD38抗体HuMAb 005の二重変異体K439E/S440Kは、K439EまたはS440K単一点変異体によって阻害されたCDC効率を回復させた。観察されたように、これらの単一点変異は、Fc:Fc境界面の対向面における変異していないアミノ酸とのFc:Fc相互作用を損なわせた。Fc:Fc境界面の対向面への代償変異の導入により、CDC効率が回復した。このように、効率的なCDCは、見たところ、両方の変異を含有する抗体のみからなる抗体複合体に限定された。
別の例では、CDC誘導の増強を、治療用に投与された抗体のみからなる抗体複合体に限定させる。CDC刺激に利用されるFc:Fc相互作用を刺激する変異のスクリーニングおよび選択によって、関心対象の抗原標的に対して特異的でない血清中抗体とCDC誘導性抗体複合体を形成しうる変異を同定しうると考えられる。CDC誘導の増強を、治療用にCD20抗体またはCD38抗体が結合した細胞のみに限定するためには、CDC増強性変異E345Rを、抗体7D8-E345R/K439E/S440Kまたは005-E345R/K439E/S440Kの形でCDC阻害性変異と組み合わせることが考えられる。これらの抗体を、以下のように、非標的特異的なIgGの存在下または非存在下で、CDC実験において別々に投与することが考えられる。0.1×106個のDaudi細胞またはRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、非精製抗体または抗体混合物の濃度系列(0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0、30.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートする。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートする。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させる。10μLのヨウ化プロピジウムを添加し、細胞溶解をFACSによって決定する。
7D8-E345R/K439E/S440Kは、野生型HuMAb 7D8と比較して、効率の増強されたCDCを誘導することが予想される。7D8-E345R/K439E/S440Kに対する非特異的IgGの添加は、野生型7D8抗体との比較で、CDC誘導の効率に影響を及ぼさないと予想される。同様に、005-E345R/K439E/S440Kは、野生型005抗体と比較して、効率の増強されたCDCも可能にすると予想される。005-E345R/K439E/S440Kに対する非特異的IgGの添加は、野生型005抗体に比して、CDCの効率に影響を及ぼさないと予想される。
実施例19
CDCアッセイによって検出されたFc:Fc相互作用を介する抗体オリゴマー形成を刺激する変異を同定するための、変異体スクリーニングアプローチの使用
実施例6および10に記載したように、CD20およびCD38という2つの異なる標的抗原を認識する抗体についてのCDCを、前記抗原をさまざまなレベルで発現する複数の細胞株に対して増強する、アミノ酸変異が同定された。驚いたことに、単一点変異E345Rは、抗CD38抗体005に対するWien133細胞のCDC依存性細胞溶解をもたらすには十分であるが、これらの細胞を野生型IgG1フォーマットでのCDCによって溶解させることはできないことが実証された。
Fc:Fc境界面上またはその周辺にある他の変異が、類似の様式でオリゴマー形成およびCDCを刺激しうる可能性もある。または、変異が、例えばFc:Fc相互作用をアロステリック性に誘導することによって、オリゴマー形成を間接的に刺激しうる可能性もある。
他のアミノ酸変異がFc媒介性抗体オリゴマー形成を刺激しうるか否かを決定するために、抗CD38IgG1-005変異体ライブラリーを、個別的に、さらには例えばFc:Fc境界面にまたがって相互作用するアミノ酸の対を選択するためのペアワイズ様式で混合するかの両方として、CDCアッセイを用いてスクリーニングした。しかしながら、同じ戦略を、他の抗体、例えば別のIgG1抗体またはIgG3抗体などに対して適用することもできる。
表16に表記した位置での変異のフォーカスド・ライブラリーを作製した。変異は、Quikchange部位指定変異誘発キット(Stratagene, US)を用いて、IgG1-005 Fc領域に導入した。手短に述べると、所望のそれぞれの変異位置について、所望の場所で縮重コドンをコードする順方向および逆方向プライマーを用いて、IgG1m(f)アロタイプを有する005重鎖の完全長プラスミドDNAテンプレートを複製した。その結果得られたDNA混合物を、ソースプラスミドDNAを取り除くためにDpnIで消化した上で、大腸菌の形質転換のために用いた。その結果得られたコロニーをプールして培養し、これらのプールからプラスミドDNAを単離した上で、大腸菌に形質転換導入してクローン性コロニーを得た。その結果得られたコロニーから単離された変異型プラスミドDNAを、DNAシークエンシング(LGC genomics、Berlin, Germany)によって確かめた。プラスミドDNAからPCRによって発現カセットを増幅し、IgG1-005抗体の変異型重鎖および野生型軽鎖の両方を含有するDNA混合物を、293fectin(Invitrogen, US)を本質的には製造元による記載の通りに用いて、Freestyle HEK293F細胞(Invitrogen, US)に一過性にトランスフェクトした。抗体変異体を含有するトランスフェクト細胞の上清を収集した。変異型抗体上清を、以下のように、個別的におよびペアワイズ混合物の両方として、CDCアッセイでスクリーニングした。
0.1×106個のDaudi細胞またはWien-133細胞(Raji細胞などの他の細胞種を用いてもよい)を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、1.0ug/mlの非精製抗体とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、30μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度30%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μlのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
表16、表17および表18に記載された変異を、単一変異体として、または例えばFc:Fc境界面にまたがる変異に面する他の変異体と混合した上で、CDC効率によって検出されるオリゴマー形成をそれらが増強する能力に関して選別した。変異を、任意で、FcRn、プロテインAもしくはプロテインGの結合、ADCC、ADCP、またはFcドメインによって媒介される他のエフェクター機能をそれらが損なわない能力に関してさらにスクリーニングすることもできる。そのような点変異を1つのFcドメイン中に組み合わせることにより、オリゴマー形成およびCDC効率をさらに刺激することができる。
CD38抗体005に組み入れたCH2-CH3領域における変異を、Daudi細胞に対するCDCによって決定されるようなオリゴマー形成をそれらが阻害する能力について試験した。変異型抗体の溶解を野生型005と比較し、後者の溶解を100%に設定した。阻害に関するカットオフは溶解率66%以下に設定した。このようにして測定したところ、試験した変異のほとんどがCDCを阻害した(表16参照)。
CD38抗体005に組み入れたCH2-CH3領域における変異を、Wien133細胞に対するCDCによって決定されるようなオリゴマー形成をそれらが増強する能力について試験した(表17)。野生型CD38抗体005は、Wien133細胞に対するCDCを誘導することができない。39%以上の細胞溶解を呈する変異体を増強性として評価した。全く予想外のことに、アミノ酸E345およびE430から得られた置換の事実上すべてが、CDCによる細胞溶解を刺激した。この結果を検証するために、アミノ酸E345、E430およびS440を部位指定変異誘発によってそれぞれの可能な変異に置換した上で、新たなヒト血清バッチを用いて、それらがWien133細胞のCDCによって決定されるようなオリゴマー形成を増強する能力に関して試験したところ、幾分より効率的な溶解が生じた(表18)。この場合にも、E345およびE430のすべての置換物が、Wien133細胞の効率的なCDCを誘導した。
以下の好ましい変異が、Wien133細胞の39%以上の細胞溶解を引き起こした:P247G、I253V、S254L、Q311L、Q311W、E345A、E345C、E345D、E345F、E345G、E345H、E345I、E345K、E345L、E345M、E345N、E345P、E345Q、E345R、E345S、E345T、E345V、E345W、E345Y、D/E356G、D/E356R、T359R、E382L、E382V、Q386K、E430A、E430C、E430D、E430F、E430G、E430H、E430I、E430L、E430M、E430N、E430P、E430Q、E430R、E430S、E430T、E430V、E430W、E430Y、Y436I、S440YおよびS440W。
(表16)1.0μg/mlのIgG1-005抗体点変異体の存在下におけるdaudi細胞の溶解率。IgG1-005野生型は、これらの条件下で細胞の66%を溶解させた。別のアミノ酸に置換した個々の位置のそれぞれを左外欄に記している。個々の位置の横列に、それぞれの特定の位置で置換されたアミノ酸を記し、それに続いて、測定された溶解率を括弧内に示している。
Figure 0007048665000027
*「del」は、表記の位置にアミノ酸残基の欠失があったことを意味する。
(表17)1.0μg/mlのIgG1-005抗体点変異体の存在下におけるWien-133細胞の溶解率。IgG1-005野生型は、これらの条件下で細胞の3%を溶解させた。別のアミノ酸に置換した個々の位置のそれぞれを左外欄に記している。個々の位置の横列に、それぞれの特定の位置で置換されたアミノ酸を記し、それに続いて、測定された溶解率を括弧内に示している。
Figure 0007048665000028
(表18)1.0μg/mlのIgG1-005抗体点変異体の存在下におけるWien-133細胞の溶解率。IgG1-005野生型は、これらの条件下で細胞の12%を溶解させた。別のアミノ酸に置換した個々の位置のそれぞれを左外欄に記している。個々の位置の横列に、それぞれの特定の位置で置換されたアミノ酸を記し、それに続いて、測定された溶解率を括弧内に示している。
Figure 0007048665000029
実施例20
B細胞リンパ腫皮下異種移植モデルにおけるIgG1-7D8-E345Rのインビボ活性
IgG1-7D8-E345R抗体のインビボ抗腫瘍活性を、Raji-luc #2D1細胞による皮下モデルにおいて評価した。これらの細胞は細胞1個当たりほぼ300,000個のCD20分子(QIFIKIT分析による決定、データは提示せず)および高度の補体防御受容体発現を示す。10%コスミック仔ウシ血清(HyClone, Logan, UT)、ペニシリンおよびストレプトマイシン、1%(v/v)ピルビン酸ナトリウムならびに1μg/mLピューロマイシン(P-8833, Sigma, Zwijndrecht)を加えたRPMI中で細胞を培養した。細胞を対数増殖期(集密度およそ70%)に採取した。6~11週齡の雌性SCIDマウス(C.B-17/IcrPrkdc-scid/CRL)を用いた(Charles-River)。第0日に、200μL PBS中にある5×106個のRaji-luc #2D1細胞を各マウスの右側腹部に皮下注射した。腫瘍の発育をキャリパー測定によってモニターした。平均腫瘍体積が100mm3となった時点(第7日前後)で、マウスを複数群(n=9)に分けて、マウス1匹当たり抗体50μg(2.5mg/kg)の単回用量の腹腔内(i.p.)注射を行った。すべての抗体試料に無関係な抗体b12を加えて、総抗体濃度が0.5mg/mLになるようにした。処置群を表18に示している。処置から7日後に、抗体投与の適正さを確かめる目的でヒトIgG血清レベルを決定するために、血液試料を入手した。腫瘍の測定は、1500mm3というエンドポイント腫瘍体積に達するまで、腫瘍が潰瘍化を示すまで、または重篤な臨床徴候が観察されるまで、キャリパー(PLEXX)を用いて毎週少なくとも2回行った。
(表18)処置群および投与
Figure 0007048665000030
図15Aは、全群がまだ揃っていた第22日での平均腫瘍増殖を示している。野生型抗体IgG1-7D8は、陰性対照抗体IgG1-b12と比較して腫瘍増殖を幾分阻害したが、これは統計学的に有意ではなかった。陰性対照抗体IgG1-b12と比較して腫瘍増殖を有意に阻害したのは、IgG1-7D8-E345Rのみであった(一元配置ANOVA分析でp<0.01)。
図15Bは、腫瘍サイズが700mm3よりも小さいマウスのパーセンテージに関するKaplan-Meierプロットを示している。陰性対照抗体IgG1-b12を投与したマウスと比較して、IgG1-7D8-E345R抗体を投与したマウスでは腫瘍形成が有意に遅延した(Mantel-Cox分析でp<0.01)が、野生型IgG1-7D8を投与したマウスではそうではなかった。
これらのデータは、E345R変異がCD20抗体7D8のインビボ抗腫瘍活性を増強したことを示している。
実施例21
B細胞リンパ腫皮下異種移植モデルにおけるIgG1-005-E345Rのインビボ活性
IgG1-005-E345R抗体のインビボ抗腫瘍活性を、Raji-luc #2D1細胞による皮下モデルにおいて評価した。これらの細胞は細胞1個当たりほぼ150,000個のCD38分子(QIFIKIT分析による決定、データは提示せず)および高度の補体防御受容体発現を示す。腫瘍接種および測定に関するプロトコールは、実施例20に記載したものと基本的には同じである。第0日に、200μL PBS中にある5×106個のRaji-luc #2D1細胞をSCIDマウスの右側腹部に皮下注射した。平均腫瘍体積が100mm3となった時点(第7日前後)で、マウスを複数群(n=7)に分けて、マウス1匹当たり抗体500μg(25mg/kg)の単回用量の腹腔内(i.p.)注射を行った。処置群を表19に示している。大きな苦痛を避けるために、腫瘍の測定は、1500mm3というエンドポイント腫瘍体積に達するまで、腫瘍が潰瘍化を示すまで、または重篤な臨床徴候が観察されるまで行った。
図16Aは、全群がまだ揃っていた第21日での平均腫瘍増殖を示している。野生型抗体IgG1-005は腫瘍増殖を幾分阻害したが、これは統計学的に有意ではなかった。第21日において無関係な抗体対照と比較して腫瘍増殖を有意に阻害したのは、IgG1-005-E345Rのみであった(一元配置ANOVA分析でp<0.05)。
図16Bは、腫瘍サイズが500mm3よりも小さいマウスのパーセンテージに関するKaplan-Meierプロットを示している。IgG1-005-E345R抗体を投与したマウスでは、陰性対照抗体IgG1-b12(Mantel-Cox分析でp<0.001)または野生型IgG1-005を投与したマウス(p<0.05)と比較して、腫瘍形成が有意に遅延した。
これらのデータは、CD38抗体005におけるE345R変異がインビボ抗腫瘍活性の増強をもたらしたことを示している。
(表19)処置群および投与
Figure 0007048665000031
実施例22
一価標的結合はE345R抗体のCDC活性をさらに増強する
b12結晶構造において観察されるIgG1ヘキサマー環の分子表面は、ヘキサマー環内の各IgGについて、2つのC1q結合部位のうち一方は環構造に対して上向きであって、もう一方の部位は下向きであり、さらに各抗体の1つのFabアームは上方に配向し、1つは下方に配向していて、その結果、抗原結合にかかわるのは抗体1つ当たり1つのFabアームのみであることを明らかに示しており、このことはヘキサマー抗体環における抗体分子1つ当たりの結合が一価であることを示唆する。一価であることにより、抗体が抗原結合に際してヘキサマー化に適合した配向をとっている可能性がある。この仮説を検証するために、E345R変異を有する二重特異性CD38/EGFR抗体のCDC活性を、この二重特異性抗体がCD38を介して一価でしか結合することができないCD38陽性でEGFR陰性のWien133細胞において試験して、同じくE345R変異を有する二価結合CD38抗体のCDC活性と比較した。ヒトモノクローナル抗体HuMax-EGFr(2F8、WO 2004/056847号に記載)を、この実施例に記載したEGFR抗体の基礎になるものとして用いた。
二重特異性抗体は、DuoBody(商標)プラットフォームにより、すなわち、WO 2011/147986号に記載されたような2-MEA誘導性Fabアーム交換により、インビトロで作製した。この方法の基礎となっているのは、特定のアッセイ条件下でヘテロダイマーの形成を促進する補完的なCH3ドメインの使用である。この方法による二重特異性抗体の生成が可能になるように、CH3ドメインにある種の変異を保有するIgG1分子を作製した:親IgG1抗体の一方にはF405L変異があり、もう一方の親IgG1抗体にはK409R変異がある。二重特異性抗体を作製するために、これらの2つの親抗体を、各抗体が最終濃度0.5mg/mLとなるように、総容積100μLのTE中にて、25mM 2-メルカプトエチルアミン-HCl(2-MEA)とともに、37℃で90分間インキュベートした。この還元反応は、スピンカラム(Microcon遠心濾過器, 30k, Millipore)を製造元のプロトコールを用いることによって還元剤2-MEAが除去されると停止する。
CDCアッセイのために、0.1×106個のWien133細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、抗体の濃度系列(0.01~10.0μg/mL)とともに振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図17は、予想された通り、E345R変異を有しないCD38抗体(野生型IgG1-005およびIgG-b12-K409R × IgG1-005-F405L)が、Wien133細胞の致死を誘導しなかったことを示している。同じく、EGFR陰性Wien133細胞と結合しなかったEGFR抗体IgG1-2F8-E345R/F405L(データは提示せず)も、予想された通り、CDCを誘導しなかった。K409R変異の導入は、IgG1-005-E345R抗体がWien133細胞においてほぼ60%の致死を誘導する能力(実施例10に記載)に影響を及ぼさなかった。興味深いことに、CD38陽性でEGFR陰性のWien133細胞において一価でしか結合することができない二重特異性CD38/EGFR抗体であるIgG1-005-E345R/K409R × IgG1-2F8-E345R/F405Lは、最大CDC致死の増強を示した(ほぼ60%の致死からほぼ100%に)。
これらのデータは、一価標的化により、CDC増強性E345R変異を含有する抗体の最大致死能力をさらに増強しうることを示している。その上、これらのデータは、増強性CDC活性によって測定されるようなE345Rオリゴマー形成増強性変異を、DuoBodyなどの他の抗体フォーマットにも適用しうることを示している。
実施例23
オリゴマー形成増強性E345R変異は、DuoBody(商標)などの他の抗体フォーマットに適用しうる
E345R変異の効果を、DuoBodyフォーマットの二重特異性抗体において試験した。CDCアッセイを、CD20陽性でCD38陽性のWien133細胞およびRaji細胞においてCD20/CD38二重特異性抗体を用いて行った。
二重特異性抗体を、実施例22に記載した通りに作製した。CDCアッセイのために、0.1×106個のWien133細胞またはRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、抗体の濃度系列(0.01~30.0μg/mL)とともに振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図18は、E345R変異の導入により、Wien 133細胞(図18A)およびRaji細胞(図18B)に対する二重特異性IgG1-005-F405L × IgG1-7D8-K409R抗体のCDCが増強されたことを示している。これらのデータは、E345Rオリゴマー形成増強性変異を、CDC活性を増強するために他の抗体フォーマットに適用しうることを示している。
実施例24
E345RはEGFR抗体2F8によるCDCを復旧させ、一価標的結合によってそれをさらに増強することができる
実施例6、10および26に記載したように、E345Rは種々の血液腫瘍標的を認識する抗体(CD20およびCD38)についてのCDCを増強するか、または復旧させた。この分析を固形腫瘍抗原にも拡張するために、EGFR抗体2F8のCDC能力に対するE345Rの効果を、A431類表皮癌細胞において試験した。さらに、E345R媒介性CDC誘導に対する一価EGFR標的化の効果についても、EGFR陽性でCD20陰性のA431細胞において二重特異性EGFR×CD20抗体(IgG1-2F8-E345R/F405L × IgG1-7D8-E345R/K409R)を用いて試験した。
二重特異性抗体を、実施例22に記載した通りに作製した。CDCアッセイのために、5×106個/mLのA431細胞を、100μCiの51Crによって37℃で1時間標識した。細胞をPBSで3回洗浄し、培地中に1×105個/mLの濃度で再懸濁させた。25,000個の標識細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、非精製抗体の濃度系列(3倍希釈で0~30μg/mL)とともに室温で15分間インキュベートした。次に、50μLの正常ヒト血清希釈物を補体の供給源として添加し(最終濃度25%)、37℃のインキュベーター内で1時間インキュベートした。細胞を遠心沈降させ(300×gで3分間)、25μLの上清を、白色96ウェルoptiplate(PerkinElmer)中の100μLマイクロシンチ(microscint)に添加して、振盪機(750rpm)上での15分間のインキュベーションを行った。51Cr放出を、シンチレーションカウンターにて1分間当たりのカウント数(cpm)として決定した。最大溶解(100%)は、Triton X-100で処理した細胞の上清中で測定された51Crレベルによって決定した。自然発生的な溶解は、抗体を伴わずにインキュベートした細胞の上清中で測定された51Crレベルによって決定した。特異的細胞溶解は、式:特異的溶解=100×(試料cpm - 自然発生的cpm)/(最大cpm - 自然発生的cpm)。
図19は、IgG1-2F8-E345R/F405LはA431細胞をCDCによって溶解させうるが、一方、野生型2F8はA431細胞を死滅させることができないことを示している。これらのデータは、E345R変異の導入によってEGFR抗体2F8においてCDC活性を復旧させうることを示している。このことは、CDC増強性E345R変異の適用可能範囲を、固形腫瘍抗原を標的とする抗体にも拡張しうる可能性を示すものである。
二重特異性EGFR×CD20抗体であるIgG-2F8-E345R/F405L × IgG1-7D8-E345R/K409Rは、EGFR陽性でCD20陰性のA431細胞において、CDCのさらなる増強を示した。
これらのデータは、実施例22に記載されたCD38結合抗体に関して仮定したように、一価であることにより、Fc-Fc相互作用の形成およびその後のCDC誘導が助長されるという仮説をさらに裏づけるものである。
実施例25
E345Rは、CD38抗体003ならびにCD20抗体11B8およびリツキシマブによるCDCを増強するか、または復旧させる
実施例6、10および24に記載したように、E345Rは、前記抗原をさまざまなレベルで発現する複数の細胞株に対して試験されたように、いくつかの抗体のCDC活性を、異なる標的特異性(CD20、CD38およびEGFR)で増強するか、または誘導する。このことから、E345R変異の導入は、既存の抗体についてのCDCを増強するかまたは復旧させるための一般的な機序であると判断された。このことをさらに裏づけるために、CDCに対するE345R変異の効果を、Daudi細胞およびWien133細胞に対する固有のCDC活性がさまざまであるさらなる抗体:WO 2006/099875号に記載されたCD38抗体003、ならびにWO 2005/103081号に記載されたCD20抗体リツキシマブ(I型)および11B8(II型)に関しても試験した。CD20抗体は2つのサブグループに分けることができる(Beers et al. Seminars in Hematology 47, (2) 2010, 107-114)。I型CD20抗体は、原形質膜中のCD20分子を脂質ラフト中に再分布させ、そのことで抗体Fc領域をクラスター化してC1q結合を向上させることによって、補体を活性化してCDCを誘発する顕著な能力を呈する。II型CD20抗体はCD20分布を明らかには変化させず、それに付随するクラスター化も伴わず、それらはCDCへの効果が比較的低い。
0.1×106個のDaudi細胞またはRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積70μL中で、非精製抗体の濃度系列(0.001、0.003、0.01、0.03、0.1、0.3、1.0、3.0、10.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、30μLの正常ヒト血清をC1qの供給源として添加し(最終濃度30%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図20は、E345R変異により、試験した抗体のすべてについて、(A)Daudi細胞および(B)Wien133細胞の両方に対するCDCが増強されたことを示している。興味深いことに、用いた濃度ではすべての抗体が野生型フォーマットではCDCを誘導しなかったが、E345R変異の導入後にはCDCを効率的に誘導した:Daudi細胞に対するCD38 mAb 003およびCD20 II型mAb 11B8、ならびにWien133細胞に対するCD38 mAb 005および003ならびにCD20 II型mAb 11B8。これらのデータは、抗体オリゴマー形成の増強、より具体的にはE345R変異の導入によるそれが、既存の抗体によるCDCを増強させるため、または復旧させるための一般的な機序であることを示唆する。
実施例26
E345Rは組織因子抗体の細胞内移行を増強する
増強されたオリゴマー形成によって抗体細胞内移行の増強が誘導されるか否かについて検討するために、野生型およびE345R変異型の組織因子(TF)抗体の共局在試験を、リソソームマーカーLAMP1を用いて、共焦点顕微鏡検査によって行った。
SK-OV-3細胞を、標準的な組織培養培地中にて、カバーグラス(厚さ1.5ミクロン、Thermo Fisher Scientific, Braunschweig, Germany)上で37℃で1日間増殖させた。リソソーム活性をブロックするために、細胞を50μg/mLロイペプチン(Sigma)とともに細胞を1時間プレインキュベートし、その後に10μg/mLの組織因子(TF)抗体(WO 2010/066803号)を添加した。細胞を37℃でさらに1時間、3時間または16時間インキュベートした。その後に、細胞をPBSで洗浄し、4% ホルムアミド(Klinipath)とともに室温(RT)で30分間インキュベートした。スライドをブロッキング緩衝液(0.1%サポニン[Roche]および2% BSA[Roche]を加えたPBS)で洗浄して、ホルムアミドを失活させるために20mM NH4Clを含むブロッキング緩衝液とともに20分間インキュベートした。スライドをブロッキング緩衝液で再び洗浄して、リソソームLAMP1を同定するためのマウス-抗ヒトCD107a-APC(BD Pharmingen)とTF抗体を同定するためのヤギ-抗ヒトIgG-FITC(Jackson)との混合液とともに、室温で45分間インキュベートした。スライドをブロッキング緩衝液で再び洗浄した上で、20μLのマウント用培地(6gのグリセロール[Sigma]および2.4gのMowiol 4-88[Omnilabo]を6mLの蒸留水に添加して、それに12mLの0.2M Tris[Sigma] pH8.5を添加し、その後に50~60℃で10分間のインキュベーションを行ったもの;マウント用培地は定量分取して-20℃で貯蔵した)を用いて顕微鏡スライドに一晩かけてマウントした。63倍の1.32-0.6油浸対物レンズおよびLAS-AFソフトウエアを装備したLeica SPE-II共焦点顕微鏡(Leica Microsystems)を用いて、スライドを撮像した。
12ビットのグレイスケールTIFF画像を、MetaMorph(登録商標)ソフトウエア(Meta Seriesバージョン6.1、Molecular Devices Inc, Sunnyvale California, USA)を用いて、共局在に関して解析した。画像はスタックとして取り込み、バックグラウンドを差し引いた。すべてのFITC画像およびすべてのAPC画像に対して同一の閾値設定を用いた(手動で設定)。共局在は、関心対象領域(ROI)におけるFITCのピクセル強度として示され、ここでROIはAPC陽性領域のすべてで構成される。異なるTF抗体で染色された異なるスライドを比較するために、APCのピクセル強度を用いて画像を標準化した。マウス-抗ヒトCD107a-APCを、リソソームマーカーLAMP1(CD107a)を染色するために用いた。LAMP1のピクセル強度は、撮像したさまざまなTF抗体間で異なっているべきではない。
FITCとAPCとの共局在に関する標準化された値は、式[(FITCのTPI×共局在率)/100]×[1/APCのTPI]に従い、任意単位として表される。
共局在率=APCピクセルと共局在するFITCのTPI/APCのTPI
TPI、総ピクセル強度
図21は、APC標識したリソソームマーカーと重なり合う、野生型およびE345R変異型のTF抗体のFITCピクセル強度の量を示している。試験した各抗体または条件について、ほぼ1個、3個または5個を上回る細胞を含む1枚のスライドからの3つの異なる画像を解析した。各スライド内の異なる画像間には差異が観察された。しかし依然として、抗体011および098に対するE345R変異が、野生型011および098と比較した場合に、1時間インキュベーション後のリソソーム共局在の増強をもたらしたことは明白であった。これらの結果は、変異E345Rがより迅速な細胞内移行およびリソソーム共局在を誘導し、それによって抗体薬物コンジュゲートを増強しうることを指し示している。
実施例27
CD20発現は同程度であるが膜結合型補体調節タンパク質のレベルが異なる種々のB細胞株における、リツキシマブ中のE345R変異によるCDCの増強
実施例25および28は、Daudi細胞およびWien133細胞に対する野生型リツキシマブのCDC活性が、E345R変異を導入することによって増強されたことを示している。この増強されたCDC活性は、Fc-Fc相互作用のE345R媒介性安定化に起因する。続いて、それに伴って形成された標的細胞膜上のヘキサマー抗体環構造が、細胞膜の近傍にある活性化補体成分の捕捉および濃縮を助長することによって、膜傷害性複合体の効率的な生成を促進させることができる。この効率的な補体活性化の結果として、膜結合型補体調節タンパク質(mCRP)による阻害効果が部分的に克服されうると考えられる。CD55、CD46およびCD59などのmCRPの過剰発現は、モノクローナル抗腫瘍抗体を用いる免疫療法の奏効のための障害になると考えられている(Jurianz et al., Mol Immunol 1999 36 :929-39;Fishelson et al. Mol Immunol 2003 40: 109-23, Gorter et al., Immunol Today 1999 20: 576-82, Zell et al., Clin Exp Immunol. 2007 Dec 150(3): 576-84)。このことから、mCRPであるCD46、CD55およびCD59のレベルは異なるがCD20標的発現のレベルは同等である一連のB細胞株に対するリツキシマブ-E345Rの活性を、野生型リツキシマブのそれと比較した。
B細胞株であるDaudi、WIL2-S、WSU-NHL、MEC-2およびARH-77は、QIFIKIT分析による決定で、同等量のCD20分子を発現する(特異的抗体結合能力‐sABCがほぼ250,000)(データは提示せず)。これらの細胞株の間での補体調節タンパク質の発現レベルを比較するために、CD46(マウス抗ヒトCD46、CBL488、クローンJ4.48 Chemicon)、CD55(マウス抗ヒトCD55、CBL511、クローンBRIC216、Chemicon)およびCD59(マウス抗ヒトCD59、MCA1054x、クローンMEM-43、Serotec)のレベルを決定するためのQIFIKIT分析を行った。
CDCアッセイのために、0.1×106個の細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、飽和性の抗体濃度系列(4倍希釈で0.002~40.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。最大CDC媒介性致死を、GraphPad PRISM 5における非線形適合の最良適合値の最上位のものを用いて、独立した2回の実験から算出した。
図22A~Dは、野生型リツキシマブへのE345Rの導入により、試験したすべてのB細胞株についての最大溶解の増強およびEC50の低下によって観察されたように、CDC活性の増強がもたらされたことを示している。
図22Eは、リツキシマブ-E345R変異体によって誘導される最大CDC媒介性致死が、膜結合型補体調節タンパク質の発現レベルとは無関係に、野生型リツキシマブよりも常に高度であったことを示している。これらのデータは、腫瘍細胞がE345Rを含有する抗体による抗体媒介性補体攻撃を回避する効果はより低いことから、E345Rの導入により、モノクローナル抗体の治療能力が増強されることを指し示している。
実施例28
野生型抗体およびE345R抗体に関するCDC動態の比較
実施例6(DaudiおよびRajiに対するCD20抗体7D8)、実施例10(Daudi、RajiおよびWien133に対するCD38抗体005)ならびに実施例25(DaudiおよびWien133に対するCD38抗体003ならびにCD20抗体リツキシマブおよび11B8)に記載された種々の細胞株に対する種々の抗体に関するEC50値の低下および最大溶解の増強によって観察されたように、Fc:Fc相互作用を安定化するE345R変異の導入は、CDCを増強させるか、または復旧させることが示された。次に、野生型抗体とE345R抗体との間でのCDC活性の差をさらに解明するために、CDC反応の動態を分析した。
0.1×106個のRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、飽和濃度(10.0μg/mL)の抗体とともに振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で、0~60分間の範囲にわたる種々の期間にわたってインキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図23Aは、野生型CD20抗体IgG1-7D8がRaji細胞の80%という最大CDC媒介性致死を示し、試験条件下で5分後には既にそれに達したことを示している。しかし、IgG-7D8-E345Rについては、Raji細胞の80%致死がより迅速に、3分後には観察された。また、IgG-7D8-E345Rによる最大溶解(95%)にも5分後には到達した。
図23Bは、用いたRaji細胞においてCDCを誘導する効力が7D8よりも弱い野生型CD20抗体リツキシマブについても、E345R変異の導入により、標的細胞のより迅速な致死がもたらされたことを示している。野生型リツキシマブは32%という最大CDC媒介性致死を示し、それには20分後に到達した。リツキシマブ-E345Rはおよそ3分後に32%の致死に既に到達しており、注目すべきことに、リツキシマブ-E345Rによる最大溶解(85%)にも20分後に到達した。
図23C+Dは、野生型CD38抗体IgG1-003およびIgG1-005によるCDC媒介性致死に対して抵抗性である、用いたRaji細胞を、E345R変異を導入することによって迅速に死滅させることができたことを示している。IgG1-003-E345RおよびIgG1-005-E345Rは、最大CDC(それぞれ50%および60%)を既に5分間後に示した。
以上をまとめると、E345R抗体は、それらの野生型対応物よりも効力が強く、そのことは、より高い活性(より低いEC50)、最大溶解の増強、およびCDC反応のより迅速な動態の組み合わせに起因する。
実施例29
E345R変異を伴うか、または伴わない二重特異性抗体に関するCDC動態の比較
実施例23には、DuoBodyプラットフォームによって作製されたCD38×CD20二重特異性抗体であるIgG1-005-F405L × IgG1-7D8-K409Rに対してE345R変異を適用して、Raji細胞およびWien133細胞でのCDCアッセイにおけるEC50の低下によって観察されたように、致死能力の増強をもたらしうることが記載されている。次に、E345Rを伴うCD38×CD20二重特異性抗体とそれを伴わないものとの間でのCDC活性の差をさらに解明するために、CDC反応の動態を分析した。
0.1×106個のRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、飽和濃度(10.0μg/mL)の抗体とともに振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で、0~60分間の範囲にわたる種々の期間にわたってインキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図24は、二重特異性抗体IgG1-005-F405L × IgG1-7D8-K409Rが83%という最大CDC媒介性致死を誘導し、10分後にはそれに達していたことを示している。E345Rの導入は、IgG1-005-E345R-F405L × IgG1-7D8-E345R-K409Rによる最大致死の増強をもたらし(98%)、2分後には既にそれに達していた。これらのデータは、Fc-Fcを安定化するE345R変異を二重特異性抗体に導入することにより、標的細胞のCDC媒介性致死の迅速化がもたらされることを指し示している。
実施例30
E345Rを伴うおよび伴わない一価結合抗体に関するCDC動態の比較
実施例22は、一価標的結合により、CD38陽性でEGFR陰性のWien133細胞に対するCD38×EGFR二重特異性抗体による最大溶解の増強によって観察されたように、E345R抗体のCDC活性がさらに増強されたことを示している。次に、E345Rを伴う一価性結合抗体とそれを伴わないものとの間でのCDC媒介性致死能力の差をさらに解明するために、CDC反応の動態を分析した。
E345R変異を伴うかまたは伴わない二重特異性CD38×EGFR抗体およびCD20×EGFR抗体を、実施例22に記載したようにDuoBodyプラットフォームによってインビトロで作製した。CD38×EGFR二重特異性抗体のCDC活性を、二重特異性抗体がCD38を介して一価でしか結合することができない、CD38陽性でEGFR陰性のRaji細胞において試験した。0.1×106個のRaji細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、飽和濃度(10.0μg/mL)の抗体とともに振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で、0~60分間の範囲にわたる種々の期間にわたってインキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図25は、二重特異性抗体CD38×EGFR(IgG1-005-K409R × IgG1-2F8-F405L)が、55%という最大CDC媒介性致死を誘導し、およそ10分後にはそれに到達したことを示している。E345Rの導入は最大致死の増強をもたらし(96%)、それには5分以内に既に到達した。
図25は、二重特異性抗体CD20×EGFR(IgG1-7D8-K409R × IgG1-2F8-F405L)が、85%という最大CDC媒介性致死を誘導し、およそ5分後にはそれに到達したことを示している。しかし、E345Rが導入されたCD20×EGFR抗体を用いた場合には、85%の溶解がより迅速に、2分後には観察された。また、E345R CD20×EGFR抗体による最大溶解(97%)にも5分後には到達した。
以上をまとめると、これらの一価結合抗体へのE345R変異の導入によって、より効力の強い抗体がもたらされ、そのことは、最大溶解の増強と、CDC反応のより迅速な動態との組み合わせに起因する。
実施例31
治療用抗体とE345R/Q386K抗体との組み合わせによるCDC
実施例19に記載したように、IgG1-005に由来する変異型CD38抗体は、野生型抗体のE345位置をグルタミン酸(E)以外の任意のアミノ酸に置換することによって、Wien133細胞において効率的なCDCを誘導することができた。このことは、CDCの前提条件としてのオリゴマー形成が、抗体の位置345でのグルタミン酸側鎖の存在によって妨げられることを示唆する。1つのFc上のE345は、ヘキサマー抗体環構造において対向する第2のFc部分上のQ386に近接しているため、第1の抗体におけるオリゴマー形成のE345媒介性妨害は、第2の抗体のQ386位置での置換によっておそらく取り除かれうると考えられる。これにより、続いて、第1の抗体におけるE345が、第2の抗体における変異させた386位置と、この両方の抗体を組み合わせた場合に、より良好に相互作用することが可能になると考えられる。この仮説を検証するために、Wien133に対して、一例として野生型抗体(IgG1-003、IgG1-005またはIgG1-11B8)をIgG1-005-E345R/Q386KまたはIgG1-005-E345R/Q386K/E430Gと混合するCDCアッセイを行った。
0.1×106個のWien133細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、非精製IgG1-005-E345R/Q386K、IgG1-005-E345R/Q386K/E430Gまたは対照抗体の濃度系列(3.33倍希釈で0.0001~20.0μg/mL)とともに、1.0または10.0μg/mLの野生型IgG1-003、IgG1-005またはIgG1-11B8抗体の存在下または非存在下で、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図26A/B/Cは、CD38抗体IgG1-005-E345R/Q386Kが、Wien133細胞のCDC媒介性溶解を用量依存的な様式で誘導したことを示している(破線)。IgG1-005-E345R/Q386Kと、1μg/mLまたは10μg/mLの野生型CD38抗体IgG1-003(図26A)または野生型CD20抗体IgG1-11B8(図26B)とを組み合わせることにより、最大細胞溶解の増強がもたらされた。IgG1-005-E345R/Q386Kと野生型IgG1-005とを組み合わせることにより、CDCが用量依存的な様式で阻害されたが、これはおそらく結合部位をめぐる競合によると考えられる(図26C)。
図26D/E/Fは、CD38抗体IgG1-005-E345R/Q386K/E430Gに関する同様のデータを示している。
これらのデータは、野生型抗体IgG1-003およびIgG1-11B8が、IgG1-005-E345R/Q386KまたはIgG1-005-E345R/Q386K/E430Gと組み合わされた場合に、抗体オリゴマー形成およびCDC活性化にかかわったことを指し示している。そのような組み合わせでは、野生型抗体に存在するE345位置によるオリゴマー形成の妨害が、変異型抗体におけるQ386K置換によって、少なくとも部分的には取り除かれうると考えられる。本出願は特に、リツキシマブ、オファツムマブ、ダラツムマブまたはトラスツズマブといった、E345位置において野生型である抗体を用いる治療法を改良する上で興味深い。また、そのようなオリゴマー形成誘導性の抗体は、腫瘍細胞または細菌のような標的細胞を対象とする患者自身の抗体との細胞結合型複合体の形成も促進しうる可能性がある。
実施例19は、それらの特定の変異が、CD38抗体IgG1-005に組み入れられた場合にWien133細胞に対する効率的なCDCを誘導した、変異を受けるとCDCを増強する、E345のほかの複数のアミノ酸、例えばE430およびS440を記載している。I253およびY436変異体を除き、同定されたオリゴマー形成増強性変異は、ヘキサマー環構造において、対向性の第2のFc部分上の変異していないアミノ酸と接触している。したがって、同定されたオリゴマー形成増強性変異は、単独または組み合わせのいずれでも、変異していない抗体とのオリゴマー形成をも促進すると予想することができ、実施例19で適用したものと類似の選別戦略によって、そのような変異体のさらなる最適化を達成しうると考えられる。
実施例32
E345RはIgG2、IgG3およびIgG4抗体アイソタイプにおけるCDCを誘導した
オリゴマー形成促進性変異の導入によって、非IgG1抗体アイソタイプのCDC活性が刺激されうるか否かを検討するために、当技術分野において公知の方法によって、CD38抗体IgG1-005のアイソタイプ変異体をヒトIgG2、IgG3またはIgG4の定常ドメインを用いて作製し、IgG2-005、IgG3-005およびIgG4-005を得た。さらに、オリゴマー形成増強性E345R変異をこれらの抗体すべてに導入して、IgG2-005-E345R、IgG3-005-E345RおよびIgG4-005-E345Rを得た。同様の様式で、CD38抗体IgG1-003からIgG2-003およびIgG2-003-E345Rも作製した。種々のアイソタイプのCDC活性を、インビトロCDCアッセイにおいて比較した。
0.1×106個のWien133細胞を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中で、10μg/mLの非精製抗体とともに振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。IgG1-005-E345Rを3.0μg/mLで添加した。次に、25μLの正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加して、細胞溶解をFACSによって決定した。
図27は、IgG2-005、IgG2-003、IgG3-005およびIgG4-005が、試験した条件下では、(A)Daudi細胞も(B)Wien133細胞も効率的に溶解させることができなかったことを示している(観察されたほぼ20%の溶解はバックグラウンドと考えられた)。E345R変異の導入により、試験したすべてのIgGアイソタイプに関して、Daudi細胞に対する強力なCDCが可能となった。これらの結果はWien133細胞に対するCDCを用いても確認されたものの、IgG3-005-E345Rは他のアイソタイプ変異体と比較して限定されたCDC活性を呈した。これらのデータは、E345Rなどのオリゴマー形成増強性変異を、IgG1に加えて、IgG2、IgG3およびIgG4抗体のCDC活性を促進するためにも適応しうることを指し示している。
実施例33
患者由来のCD38陽性B細胞慢性リンパ球白血病(CLL)細胞についてのエクスビボCDCアッセイにおけるIgG1-005およびIgG1-005-E345RによるCDC
CLL患者試料由来の凍結保存された初代細胞を、CDB-IDIBAPS-Hospital Clinic(Dr. Elias Campo, Hematopathology Unit, Department of Pathology, Hospital Clinic, Institut d'Investigacions Biomediques August Pi i Sunyer(IDIBAPS), University of Barcelona, Barcelona, Spain)からの血液学バイオバンク(hematopathology biobank)から、または米国国立心肺血液研究所(National Heart, Lung and Blood Institute(NHLBI))(Dr. Adrian Wiestner, NHLBI, Hematology Branch of the NationalInstitutes of Health(NIH), Bethesda)による臨床研究例から得た。Hospital Clinic(Barcelona, Spain)の国際倫理委員会(Institutional Ethics Committee)またはNIHの施設内審査委員会(Institutional Review Board)およびヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki)に準拠して、すべての患者からインフォームドコンセントを得た。すべての試料を、遺伝学的および免疫表現型的に特性決定した。
CLL試料を、FACSによって決定したそのCD38発現に従って、2群にカテゴリー分けした:5件の試料は高CD38群(Daudi細胞上のCD38発現が50%~98%)に含められ、4件の試料は低CD38群(Daudi細胞上のCD38発現が0.5%~3%)に含められた。
蛍光標識したCLL細胞(5μMカルセインAMによる標識)を、抗体の濃度系列(10倍希釈で0.01~10μg/mL)とともにインキュベートした。次に、抗体でオプソニン化した細胞(100,000個/ウェル)に対して、正常ヒト血清を補体の供給源として添加し(最終濃度10%)、37℃で45分間インキュベートした。上清を回収し、細胞溶解の尺度として、蛍光をSynergy(商標)HT蛍光光度計で読み取った。細胞致死は以下の通りに算出した:特異的溶解=100×(試料 - 自然発生的溶解)/(最大溶解 - 自然発生的溶解)、式中、最大溶解は1% Tritonで処理した細胞の試料によって決定され、自然発生的溶解は、抗体を伴わずに10% NHSの存在下で細胞をインキュベートした試料から決定される。
図28は、IgG1-005-E345Rが、CD38発現が高度であるCLL初代細胞およびCD38発現が軽度であるCLL初代細胞のいずれに対しても、野生型IgG1-005と比較してCDC活性を強く増強したことを示している。
実施例34
野生型IgG1-005と比較した、IgG1-005変異体のFcRn結合
新生児Fc受容体(FcRn)は、IgGを分解から防御することによって、IgGの長い血漿中半減期の原因となる。抗体の細胞内移行後に、FcRnはエンドソーム内で抗体Fc領域と結合するが、そこは相互作用が安定な穏やかな酸性環境(pH 6.0)にある。環境が中性(pH 7.4)である原形質膜で再利用されると、相互作用がなくなり、抗体は再び流血中に放出される。これがIgGの血漿中半減期に影響する。
IgG1-005変異体E345K、E345Q、E345R、E345Y、E430F、E430G、E430S、E430T、S440Y、K439EおよびS440Kがマウス、カニクイザルおよびヒト由来のFcRnと相互作用する能力を、ELISAにおいて試験した。マウスFcRn ELISAでは、変異体P247GおよびI253Dも試験した。I253Dは、FcRnに対する結合に関する陰性対照として用いた。インキュベーションはすべて室温で行った。96ウェルプレートを、0.2% BSAを加えたPBST中に希釈した、組換え法で作製したFcRn(マウス、ヒトまたはカニクイザル)のビオチン化細胞外ドメイン(FcRnECDHis-B2M-BIO)5μg/mL(100μL/ウェル)により1時間インキュベートして、コーティングした。プレートをPBSTで3回洗浄し、3倍系列で希釈した(PBST/0.2% BSA、pH 6.0中)野生型IgG1-005または005変異体を添加して、プレートを1時間インキュベートした。プレートをPBST/0.2% BSA、pH 6.0で洗浄した。PBST/0.2% BSA、pH 6.0中に希釈したヤギ-抗ヒトIgG(Fab'2)-HRP(JacksonImmuno Research、カタログ番号:109-035-097)を添加して、プレートを1時間インキュベートした。洗浄後に、ABTSを基質として添加し、プレートを暗所下で30分間インキュベートした。EL808 ELISAリーダーを用いて、吸光度を405nmで読み取った。マウスFcRn ELISAで得られたデータを、GraphPad PRISM 5において対数変換濃度を用いる非線形アゴニスト用量反応適合の最良適合値を用いて解析して、見かけの親和性(EC50)を算出した(表20)。この実験により、FcRn結合は、野生型IgG1-005と比較して、IgG1-005変異体のいずれによっても改変されなかったことが示された。
(表20)IgG1-005および変異体のマウスFcRnに対する見かけの親和性(EC50)(μg/ml単位)
Figure 0007048665000032
図29は、野生型IgG1-005、およびIgG1-005の試験したすべての変異体が、pH 6.0でマウス、ヒトおよびカニクイザルのFcRnと良好に結合したことを示している。pH 7.4では、FcRnに対する有意な結合は検出されなかった(データは提示せず)。
実施例35
B細胞株RamosおよびSU-DHL-4における、リツキシマブにおける種々の変異によるCDCの増強
実施例19に記載したように、抗CD38抗体IgG1-005のオリゴマー化およびCDC活性は、Fc:Fc境界面上またはその周辺にある特定の残基での単一の変異によって刺激される可能性がある。また、Fc:Fc相互作用をアロステリック性に強化する、Fc:Fc境界面から隔たった残基での別の種類の変異によって間接的にオリゴマー化が刺激される可能性もある。このことを、2種類のB細胞株(RamosおよびSU-DHL-4)に対して、IgG1抗CD20抗体リツキシマブに関しても試験した。(本質的には実施例19に記載した通りに)以下の変異について試験した:E345K、E345Q、E345R、E345Y、E430G、E430S、E430TおよびS440Y。
CDCアッセイのために、0.1×106個の細胞(RamosまたはSU-DHL-4)を、丸底96ウェルプレート中にて、総容積100μL中、飽和性の抗体濃度系列(3倍希釈で0.0001~10.0μg/mL)とともに、振盪機上にて室温で15分間プレインキュベートした。次に、補体の供給源として25μLの正常ヒト血清を添加し(最終濃度20%)、37℃のインキュベーター内で45分間インキュベートした。プレートを氷上に載せることによって反応を停止させた。10μLのヨウ化プロピジウムを添加し、FACSによって細胞溶解を決定した。データは、GraphPad PRISM 5において対数変換濃度を用いる非線形アゴニスト用量反応の最良適合値を用いて解析した。図30は、試験したすべてのリツキシマブ変異体が、両方のB細胞株においてCDC活性を増強することができたことを示している。
実施例36
標的非依存的な液相中での補体活性化:IgG1-005変異体と野生型IgG1-005との比較
標的非依存的な補体活性化は、抗体が、例えば血流または臓器組織などにおいて補体を活性化する際に、安全上の問題となる可能性がある。これは、望まれない補体活性化産物または望まれない補体沈着をもたらす可能性がある。標的非依存的な液相中での補体活性化について検討するために、100μg/mlのIgG1-005変異体E345K、E345Q、E345R、E345Y、E430F、E430G、E430S、E430T、S440Y、野生型IgG1-005または熱凝集IgG(HAG、陽性対照)を、90%正常ヒト血清中にて37℃で1時間インキュベートした。続いて試料を、C4d生成を測定するためのELISAキットに移した(Micro Vue C4d-fragment, Quidel, San Diego, CA, USA)。C4dは、古典的補体経路の活性化のマーカーであるC4の活性化断片である。
図31は、野生型IgG1-005、IgG1-005-E345K、IgG1-005-E345Q、IgG1-005-E345Y、IgG1-005-E430G、IgG1-005-E430SおよびIgG1-005-S440YはわずかなC4活性化を呈したが、一方、IgG1-005-E345R、IgG1-005-E430FおよびIgG1-005-E430Tは野生型IgG1-005と比較してC4d生成(C4活性化)の増大を呈したことを示している。
実施例37
野生型IgG1-005と比較した、IgG1-005変異体の血漿クリアランス速度
本研究におけるマウスは、Central Laboratory Animal Facility(Utrecht, The Netherlands)のバリアユニットに収容し、フィルタートップケージに入れた上で、水および飼料を自由に摂取させた。実験はすべて、Utrecht Universityの動物倫理委員会によって承認された。1群当たりマウス3匹を用いて、SCIDマウス(C.B-17/Icr-Prkdc<Scid>/IcrIcoCrl, Charles-River)に対して、500μgの抗体を注射した。
抗体投与から10分後、4時間後、1日後、2日後、7日後、14日後および21日後に、伏在静脈から50μLの血液試料を収集した。血液をヘパリン含有バイアル中に収集し、10,000gで5分間遠心分離した。抗体濃度の決定まで血漿を-20℃で貯蔵した。
特定のヒトIgGの濃度は、総hIgG ELISAおよびCD38特異的サンドイッチELISAを用いて決定した。
総hIgG ELISAのためには、96ウェルMicrolon ELISAプレート(Greiner, Germany)に2μg/mLの濃度でコーティングしたマウスmAb抗ヒトIgG-κクローンMH16(#M1268、CLB Sanquin, Netherlands)を捕捉用抗体として用いた。0.2%ウシ血清アルブミンを加えたPBSでプレートをブロックした後に、試料を添加し、ELISA緩衝液(0.05% Tween 20および0.2%ウシ血清アルブミンを加えたPBS)中にて系列希釈した上で、室温(RT)にてプレート振盪機上で1時間インキュベートした。その後、プレートをヤギ抗ヒトIgG免疫グロブリン(#109-035-098, Jackson, West Grace, PA)とともにインキュベートし、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-硫酸)(ABTS;Roche, Mannheim, Germany)で現像した。吸光度はマイクロプレートリーダー(Biotek, Winooski, VT)にて405nmで測定した。
特異的CD38 ELISAのためには、96ウェルMicrolon ELISAプレート(Greiner, Germany)を、Hisタグで標識したCD38細胞外ドメイン(濃度2μg/mL)でコーティングした。プレートをELISA緩衝液でブロックした後に、ELISA緩衝液で系列希釈した試料を添加した上で、室温(RT)にてプレート振盪機上で1時間インキュベートした。その後、プレートを30ng/mlのマウス抗ヒトIgG1-HRP(Sanquin M 1328、クローンMH161-1)とともにインキュベートして、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-硫酸)(ABTS;Roche, Mannheim, Germany)で現像した。吸光度はマイクロプレートリーダー(Biotek, Winooski, VT)にて405nmで測定した。
図32Aは、野生型参照抗体IgG1-005および抗体変異体IgG1-005-E345K、IgG1-005-E345Q、IgG1-005-E345R、IgG1-005-E345Y、IgG1-005-E430F、IgG1-005-E430G、IgG1-005-E430S、IgG1-005-E430T、IgG1-005-S440YのIgGクリアランス速度を示している。変異体IgG1-005-E430S、IgG1-005-E430GおよびIgG1-005-S440Y、IgG1-005-E430T、IgG1-005-E345K、IgG1-005-E345QおよびIgG1-005-E345Yは、野生型IgG1-005の場合とほぼ同等のクリアランス速度を示した。変異体IgG1-005-E430FおよびIgG1-005-E345Rは、より速いクリアランス速度を呈した。血漿クリアランス速度は、用量/AUC(mL/日/kg)として算出した。AUC値(曲線下面積)は濃度-時間曲線から求めた。
図32Bは、8.0mgの無関係なIgG1-B12対照抗体の腹腔内投与から1日後に静脈内注射した場合の、野生型参照抗体IgG1-005および抗体変異体IgG1-005-E345K、IgG1-005-E345R、IgG1-005-E430G、IgG1-005-E430SおよびIgG1-005-S440YのCD38特異的ELISAによって決定したIgGクリアランス速度を示している。無関係なb12対照の非存在下における野生型参照抗体IgG1を対照として含めた。変異体IgG1-005-E430S、IgG1-005-E430G、IgG1-005-S440YおよびIgG1-005-E345Kは、野生型の場合とほぼ同等のクリアランス速度を示した。変異体IgG1-005-E345Rは、より速いクリアランスを呈した。
均等物
当業者は、通例の実験を用いて、本明細書に記載された本発明の具体的な態様の多くの同等物を認識し、または確認することができるであろう。そのような同等物は、以下の特許請求の範囲に含まれるものとする。従属請求項において開示された態様の任意のおよび全ての組み合わせも、本発明の範囲内にあると企図している。

Claims (22)

  1. 以下の段階を含む、免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含む親ポリペプチドの補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法:
    該親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応する群から選択される1つのアミノ酸残基における変異を導入する段階;
    ここで、該方法は、変異を有さない親ポリペプチドと比べて、新生児Fc受容体(FcRn)に対する該変異を導入したポリペプチドの結合を変更しない。
  2. 前記親ポリペプチドが、免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む親抗体である、請求項1に記載の方法。
  3. 免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび免疫グロブリンの第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体である親抗体の補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、
    該第1および第2の抗原結合領域が、同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、かつ、前記方法が、該第1および/または第2のCH2-CH3領域に対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応する群から選択される1つのアミノ酸残基における変異を導入する段階を含み;かつ
    該第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;かつ、該第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み;かつ、該第1のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異が、該第2のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異とは異なる、前記方法。
  4. 前記二重特異性抗体の前記第1および第2のポリペプチドの両方に変異を導入する段階を含む、請求項3に記載の方法。
  5. 前記第1のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にあり、かつ、前記第2のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にある、請求項3または4に記載の方法。
  6. 前記第1のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異がK409Rであり、前記第2のCH2-CH3領域の前記さらなるアミノ酸変異がF405Lである、請求項5に記載の方法。
  7. (i)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439およびS440に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異であって、ただし、S440における変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、変異、
    (ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447および448に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異、または
    (iii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK447、448および449に対応するアミノ酸残基のそれぞれにおける変異、
    をさらに導入する段階
    を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記(i)において、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置の変異がK439D/Eであり、および/または、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置の変異がS440K/Rであり、
    前記(ii)において、変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域における、それぞれ、K447K/R/Hおよび448E/Dから選択される変異であり、
    前記(iii)において、変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域における、それぞれ、K447D/E、448K/R/Hおよび449Pから選択される変異である、
    請求項7に記載の方法。
  9. 前記(ii)における変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域における、それぞれK447Kおよび448Eであり、前記(iii)における変異が、ヒトIgG1重鎖のFc領域における、それぞれ、K447E、448Kおよび449Pである、請求項8に記載の方法。
  10. 少なくとも第1および第2の親ポリペプチドの組み合わせの補体依存性細胞傷害作用(CDC)を増強する方法であって、該少なくとも第1および第2の親ポリペプチドがそれぞれ免疫グロブリンのFcドメインと結合領域とを含み、該方法が、該少なくとも第1および/または第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応する群から選択される1つ変異を導入する段階を含み、ここで、該方法は、変異を有さない親ポリペプチドと比べて、新生児Fc受容体(FcRn)に対する該変異を導入したポリペプチドの結合を変更しない、前記方法。
  11. 前記第1および第2の親ポリペプチドの両方に対して、同じであっても異なってもよい変異を導入する段階を含む、請求項10に記載の方法。
  12. (i)前記第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応する群から選択される1つ変異を導入する段階、
    (ii)ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるE345K、E345Q、E345RおよびE345Yに対応する群から選択される1つ変異を含まない、前記第2の親ポリペプチドを提供する段階、
    を含む、請求項10に記載の方法。
  13. 前記方法が、
    (i)前記第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階;および
    (ii)前記第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階であって、ただし、該変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、段階
    をさらに含み、
    (iii)該第1の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置S440に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階であって、ただし、該変異がS440YでもS440Wでもないことを条件とする、段階;
    (iv)該第2の親ポリペプチドに対して、ヒトIgG1重鎖のFc領域における位置K439に対応するアミノ酸残基に第2の変異を導入する段階
    を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
  14. ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における前記変異がK439D/Eであり、かつ/またはヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における前記変異がS440K/Rである、請求項13に記載の方法。
  15. ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK439に対応する位置における前記変異がK439Eであり、かつ、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるS440に対応する位置における前記変異がS440Kである、請求項14に記載の方法。
  16. 前記第1および第2の親ポリペプチドが、それぞれが免疫グロブリンのFcドメインと抗原結合領域とを含む第1および第2の親抗体である、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
  17. 前記第1および/または第2の親抗体が、免疫グロブリンの第1のCH2-CH3領域と第1の抗原結合領域とを含む第1のポリペプチドおよび第2のCH2-CH3領域と第2の抗原結合領域とを含む第2のポリペプチドを含む二重特異性抗体であり、該第1および第2の抗原結合領域が、同じ抗原上または異なる抗原上の異なるエピトープと結合し、かつ、該第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409、T366、L368、K370、D399、F405およびY407に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、該第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405、T366、L368、K370、D399、Y407およびK409に対応するものから選択される位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、該第1のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異が、該第2のCH2-CH3領域における該さらなるアミノ酸変異とは異なる、請求項16に記載の方法。
  18. 前記第1のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるK409に対応する位置にさらなるアミノ酸変異を含み、かつ、前記第2のCH2-CH3領域が、ヒトIgG1重鎖のFc領域におけるF405に対応する位置にさらなるアミノ酸変異を含む、請求項17に記載の方法。
  19. K409に対応する位置の変異がK409Rであり、および/または、F405に対応する位置の変異がF405Lである、請求項18に記載の方法。
  20. 前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害作用(ADCC)を変更しない、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
  21. a)実施例34に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を変更しない、および/または
    b)実施例34に開示された方法によって決定される、OD405nmでの吸光度の変化によって測定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合を、30%を上回って増加させることも減少させることもない、および/または
    c)実施例34に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドもしくは前記親抗体のマウス新生児Fc受容体(FcRn)に対する見かけの親和性を、0.5倍を上回って増強しない、または前記親ポリペプチドもしくは前記親抗体のマウスFcRnに対する見かけの親和性を、2倍を上回って低下させない、および/または
    d)実施例37に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の血漿クリアランス速度を変更しない、および/または
    e)実施例37に開示された方法によって決定される前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の血漿クリアランス速度を、3.0倍を上回って増強することも低下させることもない、および/または
    f)実施例36に開示された方法によって決定される前記変異体の標的非依存的な液相中での補体活性化を変更しない、および/または
    g)前記親ポリペプチドまたは前記親抗体の血漿中半減期を変更しない、
    請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
  22. 前記親抗体もしくは親ポリペプチドが、単一特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体から選択される、請求項2~21のいずれか一項に記載の方法。
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