JP7041084B2 - 炭素繊維回収方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維回収方法に関する。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP、Carbon Fiber Reinforced Plastic)材の母材を分解し、CFRP材から炭素繊維を回収する方法として、高温高圧の有機溶剤を用いる超臨界流体法、常圧の有機溶剤を用いる常圧溶解法、及び熱を用いる熱分解法等が知られている。
その他の方法として、例えば、特許文献1には、リン酸及び/又はリン酸塩を0.001質量%~80質量%含む溶解液を用いて、100℃以下で不飽和ポリエステル樹脂未硬化物を溶解し、充填材を回収する方法が開示されている。
特許第4066877号公報
発明者らは、炭素繊維回収方法に関し、以下の課題を見出した。
CFRP材の母材は、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、及びナイロン樹脂等の種々の樹脂から構成される。CFRP材を加熱することによって母材を分解する熱分解法は、種々の樹脂から構成された母材を有するCFRP材を分別することなく、CFRP材が有する炭素繊維を回収することができる。しかしながら、熱分解法によって回収された炭素繊維は、熱に起因する酸化によって劣化している虞がある。
一方、特許文献1に開示されている方法をCFRP材の炭素繊維回収に適用すると、炭素繊維の劣化を抑制しつつ炭素繊維を回収することができる。しかしながら、特許文献1に開示されている方法は、母材を構成する樹脂ごとにCFRP材を分別する必要がある。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、種々の樹脂から構成された母材を有するCFRP材を分別することなくCFRP材が有する炭素繊維を回収し、かつ、回収された炭素繊維の劣化を抑制可能な炭素繊維回収方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための一態様は、炭素繊維回収方法であって、リン酸を含有する溶解液を用いて、炭素繊維強化プラスチック材の母材を溶解する工程を備え、前記溶解液のリン酸濃度は、100質量%以上であり、前記溶解液は、2質量%以上50質量%以下のトリフルオロメタンスルホン酸を含有し、前記溶解する工程は、前記溶解液の温度が200℃以上300℃以下で行われる。
本発明に係る炭素繊維回収方法は、溶解液のリン酸濃度が、110質量%以上であり、溶解液が2質量%以上50質量%以下のトリフルオロメタンスルホン酸を含有する。さらに、溶解する工程は、溶解液の温度が200℃以上300℃以下で行われる。CFRP材の母材を構成する種々の樹脂は、溶解する工程において溶解される。そのため、種々の樹脂から構成された母材を有するCFRP材を分別することなく、CFRP材が有する炭素繊維を回収することができる。また、炭素繊維が溶解する工程において劣化しにくいため、本発明に係る樹脂溶解方法は、炭素繊維の劣化を抑制しつつ炭素繊維を回収することができる。
本発明によれば、種々の樹脂から構成された母材を有するCFRP材を分別することなくCFRP材が有する炭素繊維を回収し、かつ、回収された炭素繊維の劣化を抑制可能な炭素繊維回収方法を提供することができる。
本実施の形態に係る炭素繊維回収方法を示すフローチャートである。 本実施の形態に係る炭素繊維回収方法を示す模式図である。 リン酸を含有する溶解液を用いてCFRP材の母材を溶解する様子を示す模式図である。 本実施の形態に係る炭素繊維回収方法によって回収された炭素繊維の引張強度を示すグラフである。 本実施の形態に係る炭素繊維回収方法によって回収された炭素繊維のSEM画像である。
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
図1は、本実施の形態に係る炭素繊維回収方法を示すフローチャートである。本実施の形態に係る炭素繊維回収方法は、図1に示すように、少なくとも溶解する工程(ステップS1)を備え、さらに、分離する工程(ステップS2)、洗浄する工程(ステップS3)、及び乾燥する工程(ステップS4)等の各工程を備えていてもよいものである。
本実施の形態に係る炭素繊維回収方法では、まず、溶解する工程(ステップS1)を行う。溶解する工程(ステップS1)では、溶解液3を用いてCFRP材4の母材を溶解する。溶解する工程(ステップS1)は、溶解液3をCFRP材4の母材に接触可能な方法であればどのような方法で行われてもよい。例えば、溶解する工程(ステップS1)において、溶解液3をCFRP材4に繰り返しかけることによってCFRP材4の母材を溶解してもよい。
図2に示す例では、溶解する工程(ステップS1)において、溶解槽2内に溶解液3及びCFRP材4を投入し、溶解液3を用いてCFRP材4の母材を溶解する。溶解槽2内に溶解液3及びCFRP材4を投入すると、CFRP材4の母材と溶解液3とが常に接触することができるため、CFRP材の母材を溶解する効率が良い。そこで、以下、溶解する工程(ステップS1)において溶解槽2内に溶解液3及びCFRP材4を投入する場合について、主に説明を行う。
溶解槽2は、溶解液3によって腐食しない材料を用いて形成される容器である。溶解槽2は、例えば、テフロン製容器(「テフロンは登録商標」)やPFA(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂製容器、石英ガラス製容器である。
溶解液3は、リン酸濃度が100質量%以上である液体である。溶解液3は、2質量%以上50質量%以下のトリフルオロメタンスルホン酸を含有する。溶解液3は、好ましくは5質量%程度のトリフルオロメタンスルホン酸を含有する。溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を5質量%程度とすると、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を例えば50質量%とする場合に比較して、トリフルオロメタンスルホン酸の使用量が少ないため、溶解液3の調整に要するコストを抑制することができる。溶解液3は、リン酸の脱水縮合が部分的に起こっている。したがって、溶解液3は、ピロリン酸(H)等のポリリン酸を含有する。溶解液3が含有するリン酸及びポリリン酸を全てリン酸に換算した質量を、リン酸換算質量とする。溶解液3のリン酸濃度は、溶解液3のリン酸換算質量を溶解液3の実際の質量で除して算出される。また、溶解液3は、リン酸、ポリリン酸、及びトリフルオロメタンスルホン酸に加えて、水を含有していてもよい。
溶解液3は、溶解する工程(ステップS1)を行う前に、溶解液を調整する工程において調整される。溶解液を調整する工程は、例えば、所定量のトリフルオロメタンスルホン酸を添加したポリリン酸溶液を所定濃度に希釈することによって、溶解液3を調整する。溶解液3は、水やリン酸溶液に五酸化二リン(P10)を溶解し、トリフルオロメタンスルホン酸を添加することによって調整されてもよい。溶解液3は、トリフルオロメタンスルホン酸が添加された85質量%リン酸溶液を加熱脱水することによって調整されることが好ましい。また、溶解液3は、85質量%リン酸溶液を加熱脱水した後にトリフルオロメタンスルホン酸を添加して調整されることも好ましい。
85質量%リン酸溶液は、ポリリン酸溶液に比較して、粘度が低い。したがって、溶解液を調整する工程において、85質量%リン酸溶液を加熱脱水して溶解液3を調整すると、ハンドリングが容易である。また、85質量%リン酸溶液は、五酸化二リンに比較して、水との反応性が低い。したがって、溶解液を調整する工程において、85質量%リン酸溶液を加熱脱水して溶解液3を調整すると、調整作業を安全に行うことができる。
CFRP(炭素繊維強化プラスチック)材4は、母材中に炭素繊維5が配置されている。CFRP材4の母材は、種々の樹脂から構成される。CFRP材4の母材を構成する樹脂は、通常ポリマーの形態であり、具体例として、例えば、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、及びナイロン樹脂が挙げられる。CFRP材4の母材を構成する樹脂は、1種単独、又は2種以上の組み合わせである。CFRP材4の形状は、特に限定されない。CFRP材4は、図2に示すように平板状であってもよいし、筒状等であってもよい。
溶解する工程(ステップS1)は、溶解液3の温度が、200℃以上300℃以下で行われ、好ましくは200℃以上250℃以下で行われる。溶解液3の温度を250℃以下とすると、溶解液3の温度が250℃以上の場合に比較して、溶解液3の加熱に要する時間及びエネルギーを抑制することができる。CFRP材4の母材は、200℃以上の溶解液3に接触すると、溶解する。母材が溶解すると、CFRP材が有する炭素繊維5が露出する。炭素繊維5は、溶解液3を含んで見かけの体積が膨張する。
溶解する工程(ステップS1)において溶解槽2に投入される、溶解液3とCFRP材4との体積比は、CFRP材4が溶解液3に接触可能な体積比であれば、特に限定されない。例えば図2に示すようにCFRP材4全体を溶解液3に浸漬する場合、露出した炭素繊維5全体が溶解液3に浸漬していることが好ましい。CFRP材4全体を溶解液3に浸漬する場合、溶解液3の体積をCFRP材4の体積の15倍以上とすることができる。
溶解槽2内において溶解液3を対流させると、CFRP材4の母材を溶解に要する時間を短くすることができる。溶解槽2内において溶解液3を対流させる場合、露出した炭素繊維5に対して十分に対流することができる体積の溶解液3が投入されていることが好ましい。溶解槽2内において溶解液3を対流させる場合、溶解液3とCFRP材4との体積比を、25:1~100:1程度とすることができる。
溶解する工程(ステップS1)において溶解槽2内に溶解液3及びCFRP材4を投入する場合、露出した炭素繊維5は、図2に示すように、溶解液3に浸漬している。そこで、溶解する工程(ステップS1)においてCFRP材4の母材を溶解した後に、分離する工程(ステップS2)を行う。
分離する工程(ステップS2)では、図示しない分離機構を用いて炭素繊維5を溶解液3から分離する。分離機構は、例えば、炭素繊維5をすくうことが可能な大きさの目を有するメッシュ部を備える。分離機構が備えるメッシュ部は、炭素繊維5を通さずに溶解液3を通すことができる。
分離する工程(ステップS2)では、溶解する工程(ステップS1)において母材が溶解されたCFRP材4及び溶解液3を分離機構に通し、図2に示すように、溶解液3と炭素繊維5とを分離する。溶解液3は、溶解する工程(ステップS1)を行う際のように高温であると、室温時に比較して粘度が低下する。したがって、分離する工程(ステップS2)は、溶解液3の温度が高い状態で行うことが好ましい。分離する工程(ステップS2)は、例えば、溶解する工程(ステップS1)を行った直後に行われる。
なお、溶解する工程(ステップS1)において溶解液3をCFRP材4に繰り返しかける場合、露出した炭素繊維5は、溶解液3に浸漬していない。したがって、溶解する工程(ステップS1)において溶解液3をCFRP材4に繰り返しかける場合、分離する工程(ステップS2)を省略することができる。
分離する工程(ステップS2)において溶解液3と炭素繊維5とを分離した後に、洗浄する工程(ステップS3)を行う。洗浄する工程(ステップS3)では、図示しない洗浄液を用いて炭素繊維5を洗浄する。洗浄液は、例えば、水であり、当該水は、苛性ソーダ等のアルカリを含んでいてもよい。
洗浄する工程(ステップS3)において炭素繊維5を洗浄した後に、乾燥する工程(ステップS4)を行う。乾燥する工程(ステップS4)では、洗浄された炭素繊維5を乾燥する。洗浄された炭素繊維5を乾燥する方法は、特に限定されない。洗浄された炭素繊維5は、例えば、オーブンを用いて乾燥される。また、洗浄された炭素繊維5は、自然乾燥されてもよい。
このような構成によって、種々の樹脂から構成された母材を有するCFRP材4を分別することなく、CFRP材4が有する炭素繊維5を回収することができる。
炭素繊維5は、耐酸性に優れているため、溶解液3に接触しても、酸による劣化が起こりにくい。また、本実施の形態に係る炭素繊維回収方法は、熱分解法によってCFRP材4の母材を分解する場合に比較して、炭素繊維5に加わる熱量を抑制することができる。したがって、本実施の形態に係る炭素繊維回収方法は、熱分解法に比較して、熱による炭素繊維5の劣化を抑制することができる。
本実施の形態に係る炭素繊維回収方法は、トリフルオロメタンスルホン酸を含有しない溶解液を用いた炭素繊維回収方法に比較して、低いリン酸濃度で炭素繊維を回収することができる。したがって、溶解液3を調整する工程において加熱脱水等に要する時間を、高いリン酸濃度の溶解液を調整する場合に比較して、短縮することができる。そのため、炭素繊維の回収に要する時間を短縮することができる。
また、分離する工程(ステップS2)において分離された溶解液3には、溶解する工程(ステップS1)において溶解されたCFRP材4の母材の分解物6が溶解している。詳細は後述するが、CFRP材4の母材の分解物6は、水に不溶又は難溶であることがある。そのため、分解する工程(ステップS2)において分離された溶解液3に水を加えると、図2に示すように、CFRP材4の母材の分解物6が析出する場合がある。
析出した分解物6は、例えばメッシュ部を備える分離機構を用いて溶解液3から分離される。分離する工程(ステップS2)後の溶解液3は、加熱脱水されて、再びCFRP材4の溶解に使用されてもよい。
次に、図3を参照して、溶解する工程(ステップS1)におけるCFRP材4の母材の溶解について詳細に説明する。図3は、リン酸を含有する溶解液を用いてCFRP材の母材を溶解する様子を示す模式図である。
CFRP材4の母材は、ビニルエステル樹脂、ナイロン樹脂、及びエポキシ樹脂等の樹脂から構成されるポリマーである。溶解液3は、ピロリン酸等のポリリン酸を含有する。ポリリン酸は、例えば、図3に示すように、脱水反応によって、CFRP材4の母材中の酸素原子を奪い、CFRP材4の母材を溶解する。
エポキシ樹脂及びビニルエステル樹脂は、エステル結合を有する。エステル結合を有する樹脂は、溶解する工程(ステップS1)において、上記の脱水反応に加えてエステル交換反応によって溶解する。エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が溶解液3と接触すると、エステル交換反応によって、カルボン酸やリン酸エステルが生成すると考えられる。
エステル交換反応において生成したカルボン酸やリン酸エステルは、疎水基が大きい場合、水に難溶であることがある。したがって、分離する工程(ステップS2)を行った後に溶解液3に水を加えると、疎水基が大きなカルボン酸やリン酸エステルが分解物6として析出することがある。
トリフルオロメタンスルホン酸は、上記の反応において触媒として働く。したがって、トリフルオロメタンスルホン酸を含有する溶解液3は、トリフルオロメタンスルホン酸を含有しない溶解液に比較して、低いリン酸濃度であっても、ビニルエステル樹脂、ナイロン樹脂、及びエポキシ樹脂等の樹脂を溶解することができる。
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
[実施例1]
<溶解液の作製>
85質量%リン酸溶液及びトリフルオロメタンスルホン酸を、石英ガラスビーカーに入れて混合した。石英ガラスビーカーに入った混合溶液を目標液面高さになるまで加熱脱水し、リン酸濃度が100質量%であり、かつ、トリフルオロメタンスルホン酸を5質量%含有する、溶解液3を作製した。混合溶液の加熱脱水は、電気炉において300℃で行った。混合溶液を加熱脱水する際には、混合溶液が突沸しない程度に徐々に混合溶液の温度を上昇させた。
(溶解実験)
作製した溶解液3を常温まで冷却した後に溶解実験を行った。溶解実験では、常温まで冷却された溶解液3が入った石英ガラスビーカーにテストピースを投入した。実施例1において使用したテストピースは、母材がビニルエステル樹脂、ナイロン樹脂、又はエポキシ樹脂であるCFRP材4であった。実施例1において使用したテストピースの大きさは、長さが約2cm、幅が約1cmであった。次に、室温のオイルバスに溶解液3及びテストピースが投入された石英ガラスビーカーを入れ、オイルバスを220℃まで加熱した。
溶解液3の温度が220℃になった時刻を基準時刻としてテストピースの溶解に要する時間を計測した。炭素繊維がほぐれた状態になるまでCFRP材4の母材が溶解するのに要した時間を、溶解時間とした。基準時刻から数時間ごとにテストピースの溶解状態を観察した。
[実施例2]
実施例2では、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を50質量%とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例1]
比較例1では、溶解液3のリン酸濃度を85質量%とし、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を0質量%とし、溶解温度を150℃とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例2]
比較例2では、溶解液3のリン酸濃度を85質量%とし、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を0質量%とし、溶解温度を200℃とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例3]
比較例3では、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を0質量%とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例4]
比較例4では、溶解液のリン酸濃度を115質量%とし、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を0質量%とし、溶解温度を110℃とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例5]
比較例5では、溶解液のリン酸濃度を115質量%とし、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を0質量%とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例6]
比較例6では、溶解液のリン酸濃度を85質量%とし、溶解温度を150℃とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例7]
比較例7では、溶解液のリン酸濃度を85質量%とし、溶解温度を200℃とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
[比較例8]
比較例8では、溶解温度を190℃とし、それ以外は実施例1と同様にして溶解実験を行った。
実施例1~2及び比較例1~8の溶解実験結果を表1に示す。表1において、丸印(○)は、溶解時間が5時間以下であることを示す。三角印(△)は、溶解時間が5時間よりも長いことを示す。バツ印(×)は、テストピースが不溶であったことを示す。
Figure 0007041084000001
実施例1に示すように、溶解液3のリン酸濃度を100質量%とし、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を5質量%とし、溶解温度を220℃とした場合、ビニルエステル樹脂及びエポキシ樹脂は、それぞれ5時間以内に溶解した。実施例2に示すように、溶解液3のリン酸濃度を100質量%とし、溶解液3が含有するトリフルオロメタンスルホン酸を50質量%とし、溶解温度を220℃とした場合、ビニルエステル樹脂及びエポキシ樹脂は、それぞれ5時間以内に溶解した。
また、比較例3に示すように、ナイロン樹脂は、実施例1又は実施例2の溶解条件において溶解液3がトリフルオロメタンスルホン酸を含有しない場合であっても、5時間以内に溶解した。したがって、実施例1及び実施例2の溶解条件において、ナイロン樹脂は5時間以内に溶解すると考えられる。このことから、本実施の形態に係る炭素繊維の回収方法は、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、又はナイロン樹脂から構成された母材を有するCFRP材4を分別することなく炭素繊維5を回収可能であることが確認された。
比較例1~5の溶解条件では、溶解液3がトリフルオロメタンスルホン酸を含有していない。比較例1~4に示すように、溶解液3がトリフルオロメタンスルホン酸を含有しない場合、溶解液3のリン酸濃度が100質量%以下、又は、溶解温度が200℃以下、であると、ビニルエステル樹脂が不溶であった。また、比較例5に示すように、溶解液3がトリフルオロメタンスルホン酸を含有しない場合、溶解液3のリン酸濃度を115質量%、かつ、溶解温度を220℃、とすると、ビニルエステル樹脂が5時間以内に溶解した。
このことから、本実施の形態に係る炭素繊維回収方法は、トリフルオロメタンスルホン酸を含有しない溶解液を使用する方法に比較して、溶解液3のリン酸濃度を低くしても、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、又はナイロン樹脂から構成された母材を有するCFRP材4を分別することなく炭素繊維5を回収可能であることが確認された。
比較例6~8の溶解条件では、溶解液3がトリフルオロメタンスルホン酸を5質量%含有しているが、溶解液3のリン酸濃度が100質量%以下、又は、溶解温度が200℃以下である。比較例6~8に示すように、溶解液3のリン酸濃度が100質量%以下、又は、溶解温度が200℃以下である場合、溶解液3がトリフルオロメタンスルホン酸を5質量%含有していても、ビニルエステル樹脂の分解に5時間以上要する。
実施例1~2及び比較例1~8の溶解実験結果から、溶解液3の温度が200℃以上、かつ、溶解液3のリン酸濃度が10質量%以上、かつ、溶解液3が2質量%以上50質量%以下のトリフルオロメタンスルホン酸を含有している場合、種々の樹脂から構成されたCFRP材4の母材を分別することなく溶解可能であることが確認された。
(引張強度測定)
次に、実施例1において回収された炭素繊維5の引張強度を測定した。測定結果を図4に示す。なお、参考例1は、CFRP材4を形成する前の炭素繊維5である。図4に示すように、実施例1において回収された炭素繊維5の引張強度は、CFRP材4を形成する前の炭素繊維5と同程度であった。このことから、本実施の形態に係る炭素繊維回収方法は、炭素繊維5の劣化を抑制しつつ炭素繊維5を回収可能であることが確認された。
(SEM観察)
次に、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて実施例1において回収された炭素繊維5を観察した。観察結果を図5に示す。図5に示すように、実施例1において回収された炭素繊維5には、樹脂の残渣がほとんど観察されなかった。このことから、本実施の形態に係る炭素繊維回収方法は、樹脂の残渣を抑制しつつ炭素繊維5を回収することができることが確認された。
以上で説明した本実施の形態に係る発明により、種々の樹脂から構成された母材を有するCFRP材を分別することなくCFRP材が有する炭素繊維を回収し、かつ、回収された炭素繊維の劣化を抑制可能な炭素繊維回収方法を提供することができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
2 溶解槽
3 溶解液
4 CFRP材
41 モノマー
5 炭素繊維
6 分解物

Claims (1)

  1. リン酸を含有する溶解液を用いて、炭素繊維強化プラスチック材の母材を溶解する工程を備え、
    前記溶解液のリン酸濃度は、100質量%以上であり、
    前記溶解液は、2質量%以上50質量%以下のトリフルオロメタンスルホン酸を含有し、
    前記溶解する工程は、前記溶解液の温度が200℃以上300℃以下で行われる、
    炭素繊維回収方法。
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