<概要>
本開示で例示する眼科装置は、前眼部撮影部、固視標呈示部、および制御部を備える。前眼部撮影部は、被検者の左眼および右眼の前眼部画像を撮影する。固視標呈示部は、被検者の左眼および右眼の少なくとも一方に固視標を呈示することで、固視標を注視させる。制御部は、前眼部撮影部によって撮影された前眼部画像を処理することで、被検者の左眼および右眼の眼位を測定する。眼位とは、眼が向く方向である。制御部は、左眼および右眼の少なくとも一方に対する固視標の呈示と非呈示が切り替えられた呈示切替時よりも後のタイミング、および、呈示切替時以前のタイミングを含む少なくとも2つのタイミングにおける左眼および右眼の眼位の測定結果に基づいて、被検者の眼位の状態を示す眼位状態情報を生成する。
本開示で例示する眼科装置によると、固視標の呈示切替前における左眼および右眼の前眼部画像と、呈示切替後における左眼および右眼の前眼部画像に基づいて、被検者の眼位の状態を示す眼位状態情報が生成される。従って、左眼および右眼のうちの一方の前眼部画像に基づいて眼位状態情報が生成される場合に比べて、眼位に関する状態の他覚的な検査がより適切に実行される。例えば、制御部は、左眼および右眼の一方の前眼部画像のみでは得られない眼位状態情報を生成できる場合もある。また、制御部は、左眼および右眼の一方の前眼部画像のみを用いる場合に比べて精度が高い眼位状態情報を生成できる場合もある。
制御部は、左眼および右眼の両方に固視標を呈示している状態から、一方の眼に対する固視標の呈示を非呈示に切り替えた場合に、固視標の呈示を非呈示に切り替えた眼(切替眼)と、切替眼とは反対側の眼(非切替眼)の各々について、呈示切替時の前後における眼位の測定結果のずれ量を生成(算出)してもよい。この場合、被検者の眼位に関する種々の判断が適切に行われる。
例えば、呈示切替時の前後において、非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であり、且つ切替眼の眼位ずれ量が閾値以上である場合には、被検者に斜視があり、且つ斜視が共同性と判断されてもよい。また、呈示切替時の前後において、非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であり、且つ切替眼の眼位ずれ量が閾値未満である場合には、被検者に斜視があり、且つ斜視が非共同性と判断されてもよい。
なお、被検者に斜視がある場合、制御部は、呈示切替時の前後における眼位の測定結果から、眼位の移動方向を検出し、検出した移動方向に基づいて、偏位眼の偏位方向(例えば、外斜視、内斜視、上斜視、下斜視等のいずれか)を示す眼位状態情報を生成してもよい。この場合、偏位眼の偏位方向が容易に把握される。なお、制御部は、斜視が検出された際の検査における非切替眼の眼位の移動方向に基づいて、眼位の偏位方向を検出してもよい。また、斜視が共同性である場合、制御部は、斜視が検出された際の検査における切替眼の眼位の移動方向に基づいて、眼位の偏位方向を検出してもよい。
また、呈示切替時の前後において、非切替眼の眼位ずれ量が閾値未満であり、且つ切替眼の眼位ずれ量が閾値以上である場合には、切替眼に斜位があると判断されてもよい。
制御部は、切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量に基づいて、被検者の斜視の有無、および、斜視が共同性であるか否かの少なくともいずれかを示す眼位状態情報を生成してもよい。この場合、眼科装置によって自動的に生成された眼位状態情報によって、被検者の斜視に関する判断が容易に行われる。
なお、前述したように、制御部は、非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であり、且つ切替眼の眼位ずれ量が閾値以上である場合には、被検者に斜視があり、且つ斜視が共同性と判断してもよい。また、制御部は、非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であり、且つ切替眼の眼位ずれ量が閾値未満である場合には、被検者に斜視があり、且つ斜視が非共同性と判断してもよい。また、制御部は、斜視の有無のみを判断してもよいし、斜視が共同性であるか否かのみを判断してもよい。
制御部は、切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量に基づいて、切替眼の斜位の有無を示す眼位状態情報を生成してもよい。この場合、眼科装置によって自動的に生成された眼位状態情報によって、切替眼の斜位の有無が容易に把握される。なお、前述したように、制御部は、非切替眼の眼位ずれ量が閾値未満であり、且つ切替眼の眼位ずれ量が閾値以上である場合に、切替眼に斜位があると判断してもよい。
なお、制御部は、被検者の斜視の有無等を示す情報、および、切替眼の斜位の有無を示す情報の少なくともいずれかを生成しなくてもよい。例えば、制御部は、呈示切替時の前後における切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量を、表示部に表示させてもよい。この場合、ユーザ(例えば医師等)は、表示された2つの眼位ずれ量を見ることで、斜視の有無、斜視が共同性であるか否か、および切替眼の斜位の有無を適切に判断することができる。また、切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量が、音声等によってユーザに通知されてもよい。
また、制御部は、左眼および右眼の両方に固視標を呈示している状態から、一方の眼に対する固視標の呈示を非呈示に切り替えた場合に、呈示切替時の前後における非切替眼の眼位の測定結果のずれ量を生成(算出)してもよい。つまり、制御部は、切替眼の眼位ずれ量を生成せずに、非切替眼の眼位ずれ量のみを生成してもよい。この場合でも、生成された眼位ずれ量に基づいて、被検者の斜視の有無が適切に判断される。なお、制御部は、非切替眼の眼位ずれ量を表示部に表示させてもよいし、音声等によってユーザに通知してもよい。また、制御部は、非切替眼の眼位ずれ量に基づいて、被検者に斜視があるか否かを示す眼位状態情報を生成してもよい。
また、制御部は、左眼および右眼の両方に固視標を呈示している状態から、一方の眼に対する固視標の呈示を非呈示に切り替えた場合に、呈示切替時の前後における切替眼の眼位の測定結果のずれ量を生成(算出)してもよい。つまり、制御部は、非切替眼の眼位ずれ量を生成せずに、切替眼の眼位ずれ量のみを生成してもよい。例えば、被検者に恒常性斜視が無いことが予め分かっている場合等には、切替眼の眼位ずれ量のみを参照して、切替眼に斜位があるか否かを判断することも可能である。また、被検者に斜視があることが予め分かっている場合等には、切替眼の眼位ずれ量のみを参照して、斜視が共同性および非共同性のいずれであるかを判断することも可能である。なお、制御部は、切替眼の眼位ずれ量を表示部に表示させてもよいし、音声等によってユーザに通知してもよい。また、制御部は、切替眼の眼位ずれ量に基づいて、斜視が共同性および非共同性のいずれであるかを示す眼位状態情報、または、切替眼に斜位があるか否かを示す眼位状態情報を生成してもよい。この場合、制御部は、被検者の斜視の有無を示す情報も参照したうえで眼位状態情報を生成してもよい。
制御部は、左眼および右眼の一方に固視標を呈示している状態から、他方の眼に対する固視標の非呈示を呈示に切り替えた場合に、固視標の非呈示を呈示に切り替えた眼(切替眼)と、切替眼とは反対側の眼(非切替眼)の各々について、呈示切替時の前後における眼位の測定結果のずれ量を生成(算出)してもよい。この場合、被検者の眼位に関する種々の判断が適切に行われる。
例えば、被検者に斜視がある場合、少なくとも非切替眼の眼位ずれ量が閾値未満であれば、斜視が交代性斜視であると判断されてもよい。また、斜視が共同性斜視である場合、呈示切替時の前後における切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量が共に閾値未満でれば、斜視が交代性斜視であると判断されてもよい。逆に、被検者に斜視がある場合、少なくとも非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であれば、斜視が片眼性斜視であると判断されてもよい。また、斜視が共同性斜視である場合、呈示切替時の前後における切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量が共に閾値以上であれば、斜視が片眼性斜視であると判断されてもよい。制御部は、呈示切替時の前後における切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量に基づいて、斜視が交代性斜視および片眼性斜視のいずれであるかを示す眼位状態情報を生成してもよい。
なお、切替眼の眼位ずれ量と非切替眼の眼位ずれ量が共に用いられることで、交代性斜視および片眼性斜視の判断がより適切に行われる。しかし、切替眼および非切替眼のうちの一方の眼位ずれ量に基づいて、交代性斜視および片眼性斜視の判断が行われてもよい。
制御部は、左眼の眼位の測定結果と右眼の眼位の測定結果を比較した相対情報を、眼位状態情報として生成してもよい。この場合、ユーザは、左右の眼位の相対関係を適切に把握することができる。一例として、制御部は、呈示切替時以前と呈示切替時よりも後の、左眼の眼位の測定結果のずれ量と、右眼の眼位の測定結果のずれ量との差を、眼位状態情報として生成してもよい。この場合、ユーザは、左右の眼位の状態を、左右の眼位ずれ量の差に基づいて適切に把握することができる。また、制御部は、他の測定結果を左眼と右眼で比較してもよい。例えば、制御部は、あるタイミング(一例として、呈示切替時から待機時間が経過した以後のタイミング等)における左右の眼位測定結果を比較することで、眼位ずれ量を算出してもよい。
制御部は、少なくとも呈示切替時以後における左眼および右眼の各々の眼位と時間の関係を示す眼位変化グラフのデータを、眼位状態情報として生成してもよい。この場合、固視標の呈示と非呈示を切り替えたことに起因する、左眼および右眼の各々の眼位の時間変化が、眼位変化グラフによって適切に把握される。ユーザは、眼位変化グラフを見ることで、眼位に関する種々の状態(例えば、斜位の有無、斜視の有無、斜視の種類等)を把握することも可能である。
なお、制御部は、眼位変化グラフを表示部に表示させてもよい。この場合、制御部は、検査対象眼の眼位の検査中に連続して眼位を測定し、検査中にリアルタイムで眼位変化グラフを表示部に表示させてもよい。また、制御部は、検査中に連続して撮影された前眼部画像に基づいて、検査後に眼位変化グラフのデータを生成してもよい。
また、眼位変化グラフは、例えば、複数の眼位の測定結果を測定タイミング毎にプロットしたグラフであってもよいし、複数の眼位の測定結果に基づいて生成された近似曲線のグラフであってもよい。また、制御部は、眼位変化グラフを表示部に表示させる場合、左眼および右眼の各々の眼位変化グラフを並べて表示させてもよいし、左眼および右眼の各々の眼位の時間変化を示す曲線等を、1つのグラフ中に示してもよい。
固視標呈示部は、呈示する固視標の位置を変更可能であってもよい。被検者に斜視がある場合、制御部は、固視標の位置を変更した際の、固視標に対して偏位している眼の眼位の計測結果の変化量を示す情報を、眼位状態情報として生成してもよい。この場合、生成された変化量に基づいて、斜視が共同性および非共同性のいずれであるかが適切に判断される。
なお、斜視があるか否かの検査が、固視標の位置を変更しつつ複数回行われてもよい。この場合、ユーザは、例えば、斜視が間歇性および恒常性のいずれであるかを判断できる。また、ユーザは、斜視が交代性斜視である場合に、偏位眼が交代する際の眼位を把握できる。
制御部は、固視標の呈示切替時から待機時間が経過した基準タイミング以後の、少なくとも1つの切替後タイミングにおける眼位の測定結果に基づいて、眼位のずれ量を生成してもよい。斜位等がある場合の眼位は、固視標の呈示と非呈示が切り替えられてから徐々に変化した後、時間の経過と共に安定していく傾向がある。従って、固視標の呈示と非呈示が切り替えられた直後の眼位の測定結果が用いられると、生成される眼位のずれ量が不適切な値となり易い。これに対し、待機時間が経過した以後の眼位の測定結果が用いられることで、生成される眼位のずれ量の精度が向上する。なお、待機時間の長さは、固視標の呈示と非呈示が切り替えられてから、眼位の変化が安定するまでに要する時間以上の長さに設定されてもよい。この場合、安定した状態の眼位に基づいて、眼位ずれ量が算出される。眼科装置では、1つまたは複数の待機時間が予め設定されていてもよい。
制御部は、基準タイミングを指定する指示の入力を受け付けると共に、入力された指示に応じて基準タイミングを設定してもよい。この場合、検者は、種々の事情(例えば、自らの経験、被検者眼の状態等)に応じて、基準タイミングを望ましいタイミングに設定できる。
制御部は、複数の切替後タイミングにおける眼位の測定結果に基づいて、呈示切替時よりも後における眼位が安定したタイミングを検出し、検出したタイミングを基準タイミングとして設定してもよい。この場合、適切な基準タイミングが自動的に眼科装置によって設定される。なお、眼位が安定したタイミングを検出するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、制御部は、複数の切替後タイミングにおける眼位の測定結果から、測定結果の揺らぎを検出してもよい。制御部は、検出した揺らぎが閾値以下となったタイミングを、眼位が安定したタイミングとして検出してもよい。測定結果の揺らぎには、例えば、単位時間内における複数の測定結果の標準偏差、単位時間内における複数の測定結果の最大値と最小値の差、変動する測定結果の周波数等の少なくともいずれかを用いてもよい。また、制御部は、複数の切替後タイミングにおける眼位の測定結果から、眼位と時間の関係を示す近似曲線のデータを生成してもよい。制御部は、近似曲線の傾きが閾値以下となったタイミングを、眼位が安定したタイミングとして検出してもよい。
眼科装置は、他覚式測定部を備えていてもよい。他覚式測定部は、被検者眼に測定光を出射し、その反射光を受光することで、被検者眼の光学特性を他覚的に測定する。制御部は、複数の切替後タイミングにおいて測定された被検者眼の光学特性の測定結果に基づいて、呈示切替後における被検者眼の眼位が安定したタイミングを検出し、検出したタイミングを基準タイミングとして設定してもよい。眼位が安定すると、被検者眼の光学特性も安定し易い。従って、被検者眼の光学特性が安定したタイミングを基準タイミングとして設定することで、適切な基準タイミングが自動的に設定される。
なお、眼位が安定したタイミングを光学特性の測定結果に基づいて検出するための具体的な方法も、適宜選択できる。例えば、制御部は、複数の切替後タイミングにおける光学特性の測定結果から、測定結果の揺らぎ(例えば、単位時間内における複数の測定結果の標準偏差、単位時間内における複数の測定結果の最大値と最小値の差、変動する測定結果の周波数等の少なくともいずれか)を検出してもよい。制御部は、検出した揺らぎが閾値以下となったタイミングを、眼位が安定したタイミングとして検出してもよい。また、制御部は、複数の切替後タイミングにおける光学特性の測定結果から、光学特性と時間の関係を示す近似曲線のデータを生成してもよい。制御部は、近似曲線の傾きが閾値以下となったタイミングを、眼位が安定したタイミングとして検出してもよい。
制御部は、基準タイミング以後における複数の切替後タイミングにおいて測定された複数の眼位測定結果から、平均値、最大値と最小値の中間値、または、測定頻度が最も多い最頻値を特定してもよい。制御部は、特定した値と、呈示切替時以前の切替前タイミングにおける眼位測定結果のずれ量を、左眼および右眼の各々の眼位のずれ量として算出してもよい。この場合、眼位の変動の影響がさらに抑制されたうえで、眼位のずれ量が算出される。なお、固視標の呈示切替時以前の切替前タイミングの測定結果についても、複数の眼位測定結果の平均値、中間値、または最頻値が用いられてもよいことは言うまでもない。
制御部は、複数の切替前タイミングにおける複数の眼位測定結果と、複数の切替後タイミングにおける複数の眼位測定結果から、呈示切替時以前において測定された頻度が最も高い第1最頻値と、呈示切替時よりも後において測定された頻度が最も高い第2最頻値を特定してもよい。制御部は、第1最頻値と第2最頻値のずれ量を、眼位のずれ量として算出してもよい。この場合、固視標の呈示切替時以前において安定した状態の眼位と、固視標の呈示切替時よりも後において安定した状態の眼位のずれ量が、適切に算出される。よって、生成(算出)される眼位のずれ量の精度が向上する。
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。一例として、本実施形態では、被検者眼の眼位に関する状態の他覚的検査に加えて、被検者眼の光学特性(例えば屈折力等)の自覚的測定と他覚的測定も実施することが可能な眼科装置1を例示する。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、例えば、眼位に関する状態の他覚的検査のみを実施する眼科装置にも適用できるし、光学特性の自覚的測定および他覚的測定の一方を実施するための構成を備えない眼科装置にも適用できる。また、眼科装置は、被検者の視機能のうち、眼位に関する機能および光学特性以外の視機能の検査も実施できてもよい。
(概略構成)
図1を参照して、本実施形態の眼科装置1の概略構成について説明する。本実施形態の眼科装置1は、筐体2、呈示窓3、タッチパネル(操作部および表示部)4、顎台5、基台6、および撮影光学系100等を備える。筐体2は、内部に各種部材を収納する。例えば、筐体2の内部には、後述する測定部7(左眼用測定部7Lおよび右眼用測定部7R)が設けられている。呈示窓3は、被検者に視標を呈示するために用いられる。例えば、左眼用測定部7Lおよび右眼用測定部7Rから出射される視標光束が、呈示窓3を介して被検者眼に投影される。
タッチパネル4は、画像を表示すると共に、ユーザによって操作される。すなわち、本実施形態では、ユーザ(例えば検者等)が各種指示を入力するために操作する操作部と、画像を表示する表示部(ディスプレイ)が、タッチパネル4によって兼用される。ただし、操作部と表示部が別で設けられてもよいことは言うまでもない。操作部は、入力された操作指示に応じた信号を、後述する制御ユニット70(図2参照)に出力する。操作部には、例えば、マウス、ジョイスティック、キーボード等の少なくともいずれかが用いられてもよい。表示部は、眼科装置1の本体に搭載されていてもよいし、眼科装置1とは別で設けられていてもよい。例えば、眼科装置1に接続されたパーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)のディスプレイに、各種データ(例えば、後述する眼位変化グラフ、眼位ずれ量、斜視の有無、斜位の有無、斜視の種類等)が表示されてもよい。複数の表示部が併用されてもよい。
顎台5には被検者の顎を支持する。顎台5に被検者の顎が乗せられることで、被検者眼と眼科装置1の距離が一定に保たれると共に、被検者の顔の動きが抑制される。顎台5の代わりに、額当てまたは顔当て等が用いられてもよい。基台6には、顎台5と筐体2が固定されている。撮影光学系100は、撮影素子およびレンズ(図示せず)を備えている。撮影光学系100は、被検者の顔を撮影することができる。
(測定部)
図2を参照して、測定部7の構成について説明する。本実施形態では、左眼用測定部7Lの構成と右眼用測定部7Rの構成は略同一である。従って、以下では左眼用測定部7Lについて説明を行い、右眼用測定部7Rの説明は省略する。左眼用測定部7Lは、自覚式測定部25、他覚式測定部10、第1指標投影光学系45、第2指標投影光学系46、および前眼部撮影部50を備える。
(自覚式測定部)
自覚式測定部25は、被検者の応答に応じて被検者眼の光学特性を測定するために用いられる。つまり、自覚式測定部25によって、被検者眼の光学特性が自覚的に測定される。本実施形態では、一例として、被検者眼の光学特性(眼屈折力、コントラスト感度、両眼視機能等)のうち、眼屈折力が自覚式測定部25によって測定される。本実施形態の自覚式測定部25は、投光光学系(視標投光系)30、矯正光学系60、および補正光学系90を備える。
投光光学系30は、視標光束を被検者眼に向けて投影する。本実施形態の投光光学系30は、ディスプレイ31、投光レンズ33、投光レンズ34、反射ミラー36、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14を備える。視標光束は、ディスプレイ31から出射された後、投光レンズ33、投光レンズ34、反射ミラー36、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14の順にそれぞれの光学部材を経由して、被検者眼に投影される。
ディスプレイ31には、例えば、ランドルト環視標等の検査視標、および、被検者眼を固視させるための固視標(後述する眼位測定時および他覚測定時に用いられる)等が表示される。ディスプレイ31から出射された視標光束は、被検者眼に向けて投影される。つまり、本実施形態のディスプレイ31および投光光学系30は、被検者眼に固視標を呈示する固視標呈示部の一例である。本実施形態の固視標呈示部30,31は、被検者眼に呈示する固視標の位置を変更することができる。詳細には、ディスプレイ31に表示させる固視標の位置が変更されることで、被検者眼に呈示する固視標の位置が変更される。しかし、固視標の位置を変更する方法を変更することも可能である。例えば、固視標の呈示光路中の光学部材(例えば、プリズムまたはスキャナ等)を駆動することで、固視標の位置が変更されてもよい。ディスプレイ31には、例えばLCD等の各種表示機器を使用できる。なお、被検者眼に固視標を呈示するための構成および方法を変更することも可能である。例えば、本実施形態では、被検者の左眼および右眼に別々に固視標の光束が投影される。しかし、眼科装置1は、1つの固視標を左眼および右眼の両方に呈示してもよい。また、眼科装置1は、視標板に設けられた固視標を光路上に位置させることで、被検者眼に固視標を呈示してもよい。固視標の位置を変更する方法も、固視標呈示部の構成に応じて適宜選択することが可能である。
矯正光学系60は、乱視矯正光学系63および駆動機構39を備える。乱視矯正光学系63は、投光レンズ33と投光レンズ34の間に配置されている。本実施形態では、乱視矯正光学系63は、被検者眼の円柱度数および円柱軸等を矯正するために用いられる。例えば、乱視矯正光学系63は、焦点距離が等しい2つの正の円柱レンズ61a,61bを備える。円柱レンズ61a,61bは、回転機構62a,62bの各々によって駆動されることで、光軸L2を中心として独立して回転される。なお、乱視矯正光学系63の構成を変更することも可能である。例えば、矯正レンズが投光光学系30の光路に挿脱されることで、円柱度数等が矯正されてもよい。
駆動機構39は、モータおよびスライド機構を備え、ディスプレイ31を光軸L2の方向に移動させる。例えば、自覚測定時にディスプレイ31が移動されることで、被検者眼に対する視標の呈示位置(呈示距離)が光学的に変えられる。その結果、球面度数が矯正される。また、他覚測定時にディスプレイ31が移動されることで、被検者眼に雲霧が掛けられる。なお、球面度数を矯正するための構成を変更することも可能である。例えば、光路中に光学素子が挿脱されることで球面度数が矯正されてもよい。また、光路中に配置されたレンズが光軸方向に移動されることで、球面度数が矯正されてもよい。
なお、本実施形態では、球面度数、円柱度数、および円柱軸を矯正する矯正光学系60が例示されている。しかし、矯正光学系は、他の光学特性(例えばプリズム値等)を矯正してもよい。プリズム値が矯正されることで、被検者眼が斜位眼であっても視標光束が被検者眼に適切に投影される。
また、本実施形態では、円柱度数および円柱軸を矯正する乱視矯正光学系63と、球面度数を矯正する駆動機構39が別で設けられている。しかし、球面度数、円柱度数、および円柱軸が、同一の構成によって矯正されてもよい。例えば、波面を変調させる光学系によって、球面度数、円柱度数、および円柱軸が矯正されてもよい。また、複数の光学素子(例えば、球面レンズ、円柱レンズ、および分散プリズム等の少なくともいずれか)が同一円周上に配置されたレンズディスクと、レンズディスクを回転させるアクチュエータが、矯正光学系として用いられてもよい。この場合、レンズディスクが回転されて、光軸L2上に位置する光学素子が切り替えられることで、種々の光学特性が矯正される。また、光軸L2上に配置された光学素子(例えば、円柱レンズ、クロスシリンダレンズ、およびロータリープリズム等の少なくともいずれか)が、アクチュエータによって回転されてもよい。
補正光学系90は、対物レンズ14と、後述する偏向ミラー81(図3等参照)の間に配置されている。補正光学系90は、例えば、自覚式測定部25において生じる光学収差を補正するために用いられてもよい。また、補正光学系90は、光学収差における非点収差を補正するために用いられてもよい。本実施形態の補正光学系90は、焦点距離が等しい2つの正の円柱レンズ91a,91bを備える。円柱レンズ91a,91bは、回転機構92a,92bの各々によって駆動されることで、光軸L3を中心として独立して回転される。補正光学系90は、円柱度数と円柱軸を調整することで、非点収差を補正することができる。なお、補正光学系90の構成を変更することも可能である。例えば、補正レンズが光路LEに挿脱されることで、光学収差が補正されてもよい。また、矯正光学系60が補正光学系90を兼用してもよい。この場合、円柱度数と円柱軸に加えて非点収差量が考慮されることで、矯正光学系60が駆動される。
(他覚式測定部)
他覚式測定部10は、被検者眼の光学特性を他覚式に測定するために用いられる。他覚式測定部10は、被検者眼の光学特性として、例えば眼屈折力、眼軸長、および角膜形状等の少なくともいずれかを測定してもよい。一例として、本実施形態では、被検者眼の眼屈折力を測定するための他覚式測定部10を例示して説明を行う。
他覚式測定部10は、投影光学系(投光光学系)10a、受光光学系10b、および補正光学系90を備える。一例として、本実施形態の投影光学系10aは、被検者眼の瞳孔中心部を介して、被検者眼の眼底にスポット状の測定光を投影する。また、本実施形態の受光光学系10bは、眼底から反射された測定光の反射光を、瞳孔周辺部を介してリング状に取り出し、二次元撮影素子22によってリング状の眼底反射像を撮影する。
本実施形態の投影光学系10aは、測定光源11、リレーレンズ12、ホールミラー13、プリズム15、駆動部(モータ)23、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14を備える。プリズム15は、光束偏向部材である。駆動部23は、プリズム15を光軸L1を中心として回転駆動させる。光源11は、被検者眼の眼底と共役な関係となる。ホールミラー13のホール部は、被検者眼の瞳孔と共役な関係となる。プリズム15は、被検者眼の瞳孔と共役となる位置から外れた位置に配置されており、通過する光束を光軸L1に対して偏心させる。なお、光束偏向部材の構成を変更することも可能である。例えば、プリズム15に代えて、光軸L1に対して斜めに配置される平行平面板が、光束偏向部材として用いられてもよい。
ダイクロイックミラー35は、自覚式測定部25の光軸L2と、他覚式測定部10の光軸L1を同軸にする。ビームスプリッタ29は、自覚式測定部25における光束と、他覚式測定部10における光束を反射し、被検者眼に導く。
受光光学系10bは、対物レンズ14、ダイクロイックミラー29、ダイクロイックミラー35、プリズム15、およびホールミラー13を、投影光学系10aとの間で共用する。また、受光光学系10bは、ホールミラー13の反射方向の光路上に、リレーレンズ16、ミラー17、受光絞り18、コリメータレンズ19、レンズレンズ20、および二次元撮影素子22を備える。受光絞り18および二次元撮影素子22は、被検者眼の眼底と共役な関係となる。リングレンズ20は、リング状に形成されたレンズ部と、レンズ部以外の領域に設けられた遮光部を備える。リングレンズ20は、被検者眼の瞳孔と共役な関係となる。二次元撮影素子22からの出力は、制御ユニット70に入力される。
投影光学系10aから出射されて被検者眼の眼底で反射された測定光の反射光は、ダイクロイックミラー29によって反射され、さらにダイクロイックミラー35によって反射されて、受光光学系10bへ導かれる。また、ダイクロイックミラー29は、後述する前眼部撮影光およびアライメント光を透過し、前眼部撮影部50へ導く。
本実施形態では、投影光学系10aの測定光源11と、受光光学系10bの受光絞り18、コリメータレンズ19、リングレンズ20、および二次元撮影素子22は、光軸方向に一体的に移動することができる。一例として、本実施形態では、ディスプレイ31と、投影光学系10aの測定光源11と、受光光学系10bの受光絞り18、コリメータレンズ19、リングレンズ20、および二次元撮影素子22を含む駆動ユニット95が、駆動機構39によって、光軸L1の方向に一体的に移動される。ただし、上記の複数の構成の少なくとも一部が、駆動機構39とは別の構成によって移動されてもよい。駆動ユニット95は、外側のリング光束が各経線方向において二次元撮影素子22上に入射するように、光軸方向に移動される。すなわち、被検者眼の球面屈折誤差(球面屈折力)に応じて、他覚式測定部10の一部が光軸L1方向に移動されることで、球面屈折誤差が補正されて、測定光源11、受光絞り18、および二次元撮影素子22が被検者眼の眼底と共役な関係とされる。駆動ユニット95の移動位置は、ポテンショメータ(図示せず)によって検出される。ホールミラー13およびリングレンズ20は、駆動ユニット95の移動量に関わらず、被検者眼の瞳と一定の倍率で共役となるように配置されている。
本実施形態では、測定光源11から出射された測定光は、リレーレンズ12、ホールミラー13、プリズム15、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14を経て、被検者眼の眼底上にスポット状の点光源像を形成する。この間、ホールミラー13のホール部の瞳投影像(瞳上での投影光束)は、光軸L1を中心として回転するプリズム15によって、高速で偏心回転される。眼底に投影された点光源像は、反射・散乱されて被検者眼から出射される。被検者眼からの出射光は、対物レンズ14によって集光され、ダイクロイックミラー29、ダイクロイックミラー35、プリズム15、ホールミラー13、リレーレンズ16、およびミラー17を介して、受光絞り18の位置に再び集光される。次いで、コリメータレンズ19とリングレンズ20によって、二次元撮影素子22にリング状の像が結像される。
プリズム15は、投影光学系10aと受光光学系10bの共通光路に配置されている。従って、投影光学系10aから出射される投影光(測定光)と、眼底からの反射光は、共にプリズム15を通過する。その結果、眼底からの反射光は、あたかも瞳孔上における投影光と反射光の偏心が無かったかのように逆走査される。また、本実施形態では、他覚式測定部10と自覚式測定部25の間で補正光学系90が共用される。なお、他覚式測定部10で用いられる補正光学系と、自覚式測定部25で用いられる補正光学系が別で設けられてもよいことは言うまでもない。
なお、本実施形態における他覚式測定部10の構成を変更することも可能である。例えば、他覚式測定部は、瞳孔周辺部から眼底にリング状の測定指標を投影し、瞳孔中心部から眼底反射光を取り出し、二次元撮影素子22にリング状の眼底反射像を受光させる構成を備えていてもよい。また、他覚式測定部はシャックハルトマンセンサを備えていてもよいし、スリットを投影する位相差方式の構成を備えていてもよい。
(第1指標投影光学系・第2指標投影光学系)
第1指標投影光学系45および第2指標投影光学系46は、一例として、補正光学系90と偏向ミラー81(図3等参照)の間に配置される。ただし、第1指標投影光学系45および第2指標投影光学系46を変更することも可能である。第1指標投影光学系45は、光軸L3を中心としてリング状に配置された赤外光源を備える。第1指標投影光学系45は、被検者眼の角膜にアライメント指標を投影するための近赤外光を出射する。第2指標投影光学系46は、第1指標投影光学系45の赤外光源とは異なる位置に配置されたリング状の赤外光源を備える。(図2では、便宜上、第1指標投影光学系45と第2指標投影光学系46におけるリング状の赤外光源の一部(断面部分)のみが図示されている)本実施形態では、第1指標投影光学系45は、被検者眼の角膜に無限遠のアライメント指標を投影する。また、第2指標投影光学系46は、被検者眼の角膜に有限遠のアライメント指標を投影する。なお、第2指標投影光学系46から出射されるアライメント光は、前眼部撮影部50によって被検者眼の前眼部を撮影するための前眼部撮影光としても用いられる。また、第1指標投影光学系45および第2指標投影光学系46の光源は、リング状の光源に限定されず、複数の点状の光源、またはライン状の光源等であってもよい。
(前眼部撮影部)
前眼部撮影部50は、対物レンズ14およびダイクロイックミラー29を、自覚式測定部25および他覚式測定部10との間で共用する。また、前眼部撮影部50は、撮影レンズ51および二次元撮影素子52を備える。二次元撮影素子52は、被検者眼の前眼部と略共役な関係となる位置に配置された撮影面を有する。二次元撮影素子52からの出力は、制御ユニット70に入力される。二次元撮影素子52は、不可視光(本実施形態では近赤外光)を受光することで、被検者眼の前眼部画像を撮影する。また、前眼部撮影部50は、第1指標投影光学系45および第2指標投影光学系46によって被検者眼の角膜に形成されるアライメント指標像も撮影する。アライメント指標像の位置は、制御ユニット70によって検出される。
なお、前眼部撮影部50の構成を変更することも可能である。例えば、本実施形態では、左眼用測定部7Lの前眼部撮影部50で左眼の前眼部が撮影され、右眼用測定部7Rの前眼部撮影部50で右眼の前眼部が撮影される。つまり、被検者の左眼と右眼は別々の前眼部撮影部50で撮影される。しかし、被検者の左眼と右眼が1つの前眼部撮影部によって撮影されてもよい。例えば、前述した撮影光学系100(図1参照)によって、被検者の左眼と右眼が共に撮影されてもよい。
(制御ユニット)
制御ユニット70は、CPU(プロセッサ)71、不揮発性メモリ72、RAM、ROM等を備える。CPU71は、眼科装置1の制御を司る。不揮発性メモリ72は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。不揮発性メモリ72には、例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、着脱可能なUSBメモリ等の少なくともいずれかが用いられてもよい。不揮発性メモリ72には、CPU71によって生成された各種データ(例えば、後述する眼位変化グラフのデータ、眼位ずれ量のデータ、斜位の有無を示すデータ、斜視の有無を示すデータ、斜視の種類を示すデータ等)が記憶される。また、不揮発性メモリ72には、眼科装置1の制御を司るための制御プログラムが記憶されている。RAMは、各種情報を一時的に記憶する。ROMには、各種プログラム、初期値等が記憶されている。なお、本実施形態では、眼科装置1の内部に設けられた1つのCPU71によって、眼科装置1の動作が制御される。しかし、眼科装置1の制御を司る制御部は、眼科装置1とは異なるデバイス(例えばPC等)に設けられていてもよい。また、複数の制御部によって眼科装置1の動作が制御されてもよい。
(眼科装置の内部構成)
図3から図5を参照して、本実施形態の眼科装置1の内部構成について説明する。図3は、本実施形態の眼科装置1の内部を正面方向(図1のA方向)から見た概略構成図である。図4は、本実施形態の眼科装置1の内部を右側面方向(図1のB方向)から見た概略構成図である。図5は、本実施形態の眼科装置1の内部を上方(図1のC方向)から見た概略構成図である。なお、図3では、便宜上、ハーフミラー84(図4および図5参照)の反射を示す光軸の図示が省略されている。図4および図5では、便宜上、左眼用測定手段7Lの光軸のみが図示されている。
本実施形態の眼科装置1は、測定部7(左眼用測定部7L,右眼用測定部7R)、移動部9(左移動部9L,右移動部9R)、偏向ミラー81(左偏向ミラー81L,右偏向ミラー81R)、駆動部82(左駆動部82L,右駆動部82R)、駆動部83(左駆動部83L,右駆動部83R)、ハーフミラー84、および凹面ミラー85を備える。ただし、眼科装置1の構成を変更することも可能である。例えば、上記の構成の一部が省略されていてもよい。
左移動部9Lは、左眼用測定部7Lを左右方向(X方向)に移動させることができる。右移動部9Rは、右眼用測定部7RをX方向に移動させることができる。左眼用測定部7Lおよび右眼用測定部7Rが移動されることで、偏向ミラー81L,81Rとの間の距離が変更され、前後方向(Z方向)における視標光束の呈示位置が変化する。従って、左眼用測定部7Lおよび右眼用測定部7Rを移動させることで、矯正光学系60(図2参照)によって矯正された視標光束の像が被検者眼の眼底に形成されるように調整することができる。
左偏向ミラー81Lは、右眼用測定部7Lの矯正光学系60と、被検者の左眼の間の光路上に配置される。右偏向ミラー81Rは、右眼用測定部7Rの矯正光学系と、被検者の右眼の間の光路上に配置される。左偏向ミラー81Lおよび左偏向ミラー81Rは、被検者眼の瞳共役位置に配置されることが好ましい。左偏向ミラー81Lは、左眼用測定部7Lから出射される光束を反射して左眼ELに導光すると共に、左眼ELで反射された反射光を反射して左眼用測定部7Lに導光する。同様に、右偏向ミラー81Rは、右眼用測定部7Rから出射される光束を反射して右眼ERに導光すると共に、右眼ERで反射された反射光を反射して右眼用測定部7Rに導光する。なお、偏向ミラー81の代わりに、他の偏向部材(例えば、プリズムおよびレンズ等の少なくともいずれか)が用いられてもよい。
左駆動部82Lは左偏向ミラー81Lを駆動し、右駆動部82Rは右偏向ミラー81Rを駆動する。駆動部82は、偏向ミラー81を回転させる。詳細には、本実施形態の駆動部82は、水平方向(X方向)に延びる回転軸を中心として偏向ミラー81を回転させることができ、且つ、鉛直方向(Y方向)に延びる回転軸を中心として偏向ミラー81を回転させることができる。なお、偏向ミラー81の回転軸は1つであってもよい。また、左偏向ミラー81Lおよび右偏向ミラー81Rの各々は、回転軸の方向が異なる複数のミラーを備えていてもよい。偏向ミラー81が回転されることで、像を被検者眼の眼前に形成させるためのみかけの光束を偏向させることができる。その結果、像の形成位置が光学的に補正される。
左駆動部83Lは左偏向ミラー81Lを駆動し、右駆動部83Rは右偏向ミラー81Rを駆動する。駆動部83は、偏向ミラー81をX方向に移動させることができる。左偏向ミラー81Lおよび右偏向ミラー81Rを移動させることで、左偏向ミラー81Lと右偏向ミラー81Rの間の距離が変化する。例えば、CPU71は、被検者の瞳孔間距離に応じて左偏向ミラー81Lと右偏向ミラー81Rの間の距離を変化させることで、左眼用の光路と右眼用の光路の間のX方向における距離を調整することができる。
凹面ミラー85は、矯正光学系60を通過した視標光束を被検者眼に導光し、視標光束の像を被検者眼の眼前に形成する。また、他覚式測定部10から出射されて被検者眼で反射された反射光は、凹面ミラー85によって反射されて、他覚式測定部10の受光光学系10bに導光される。本実施形態では、凹面ミラー85は左眼用測定部7Lと右眼用測定部7Rによって共用される。しかし、左眼用の光路に配置される凹面ミラーと、右眼用の光路に配置される凹面ミラーが別で設けられていてもよい。なお、凹面ミラー85の代わりに、レンズ、平面ミラー等の少なくともいずれかの光学部材が用いられてもよい。また、他覚式測定部10による測定光の反射光が、凹面ミラー85を介さずに受光光学系10Bに導光される構成が用いられてもよい。
以下、自覚式測定部25による自覚測定の光路について説明する。測定部7から出射された視標光束は、偏向ミラー81で反射されてハーフミラー84へ向かい、ハーフミラー84で反射されて凹面ミラー85へ向かう。凹面ミラー85で反射された視標光束は、ハーフミラー84を透過して被検者眼に到達する。凹面ミラー85は、自覚測定に用いられる視標光束を略平行光束として反射させる。従って、被検者眼では、被検者眼からディスプレイ31までの実際の距離よりも遠方に視標像が存在するように見える。視標像は、被検者眼の眼鏡装用位置(例えば、角膜頂点から前方に約12mmの位置)を基準として、被検者眼の眼底上に形成される。被検者は、自然視の状態で視標を見ながら検者に対する応答を行う。被検者が視標を適正に見ることができるまで、矯正光学系60による矯正が行われることで、被検者眼の光学特性が自覚的に測定される。
次いで、他覚式測定部10による他覚測定の光路について説明する。測定部7から出射された測定光は、偏向ミラー81で反射されてハーフミラー84へ向かい、ハーフミラー84で反射されて凹面ミラー85へ向かう。凹面ミラー85で反射された測定光は、ハーフミラー84を透過して被検者眼に到達し、被検者眼の眼底上に像を形成する。このとき、ホールミラー13のホール部の瞳投影像(瞳上での投影光束)は、プリズム15によって偏心回転される。被検者眼の眼底上に形成された像の光は、反射・散乱されて被検者眼から出射され、測定光が通過してきた光路をホールミラー13まで遡る。反射光は、ホールミラー13で反射されて、受光絞り18の開口で再び集光され、コリメータレンズ19によって略平行光束(正視眼の場合)とされる。その後、反射光は、リングレンズ20によってリング状光束として取り出されて、二次元撮影素子22に受光される。二次元撮影素子22によって撮影されたリング像が解析されることで、被検眼の光学特性が他覚的に測定される。
(眼位の測定)
図6を参照して、眼位(被検者眼が向く方向)の測定方法の一例について説明する。本実施形態の眼科装置1は、被検者眼の眼位を測定すると共に、眼位の状態を示す眼位状態情報を生成することができる。なお、本実施形態の眼科装置1は、被検者眼の眼位の測定と、被検者眼の光学特性の他覚的測定を並行して実行することも可能である。また、眼科装置1は、被検者の左眼および右眼の各々の眼位を並行して(例えば同時に)測定することもでき、左眼および右眼のうちの一方の眼位のみを測定することもできる。
眼科装置1は、前眼部撮影部50(図2参照)によって撮影された前眼部画像110(図6参照)に基づいて、被検者眼の眼位を測定する。図6に示す右眼の前眼部画像110には、リング指標像R1、リング指標像R2、および瞳孔Pが表れている。リング指標像R1は、第1指標投影光学系45の赤外光源によって表れる。リング指標像R2は、第2指標投影光学系46の赤外光源によって表れる。図6に示す例では、リング指標像R2は、リング指標像R1よりも内側に位置している。
一例として、本実施形態の眼科装置1のCPU71は、撮影された前眼部画像110に対して画像処理を行うことで、瞳孔Pおよび視標像(例えば、リング指標像R2)の位置を検出する。瞳孔Pの位置の検出は、例えば、輝度値の立ち上がり、立ち下がりを検出し、瞳孔Pのエッジ位置を検出することで実行されてもよい。視標像の位置の検出についても同様である。CPU71は、瞳孔Pの位置に基づいて、瞳孔中心位置PCを検出する。瞳孔中心位置PCは、例えば、略円形の瞳孔Pの中心の位置を求めることで検出されてもよい。また、CPU71は、視標像の位置に基づいて、角膜頂点位置Cを検出する。角膜頂点位置Cは、例えば、リング指標像R2の中心の位置を求めることで検出されてもよい。もちろん、角膜頂点位置Cは、リング指標像R1の位置に基づいて検出されてもよいし、リング指標像R1とリング指標像R2の両方の位置に基づいて検出されてもよい。また、リング状の光源の代わりに複数の点状の光源が用いられている場合等であっても、複数の指標像の中心の位置が求められることで、角膜頂点位置Cが検出される。
本実施形態では、CPU71は、瞳孔中心位置PCと角膜頂点位置Cのずれ量ΔXおよびずれている方向を、被検者眼の眼位として測定する。前眼部撮影部50の撮影光軸に対する被検者眼の視線方向のずれが大きくなる程、ずれ量ΔXは大きくなり易い。従って、ずれ量ΔXを算出することで、眼位が適切に測定される。なお、測定された眼位は絶対的な値ではない場合もあり得る。しかし、この場合でも、眼位が連続して測定されることで、眼位の変化は適切に把握される。
なお、眼位の測定方法を変更することも可能である。例えば、ずれ量ΔXおよびずれている方向の一方のみが、眼位として測定されてもよい。また、瞳孔Pの位置と角膜頂点位置Cの一方のみに基づいて眼位が測定されてもよい。瞳孔中心位置PCの代わりに、瞳孔Pのエッジ位置に基づいて眼位が測定されてもよい。他の情報(例えば、左眼と右眼の瞳孔間距離の情報等)に基づいて眼位が測定されてもよい。また、ずれている方向を考慮した眼位を測定する場合、考慮する方向は、二次元の方向(上下左右方向)であってもよいし、一次元の方向(例えば、上下方向、左右方向、または斜め方向)であってもよい。
(検査対象眼の眼位測定結果に基づく斜位検査)
図7および図8を参照して、左眼および右眼のうちの一方の検査対象眼に対する眼位の測定結果を用いた斜位の検査方法の一例について説明する。本実施形態の眼科装置1は、被検者の斜位検査を行うことができる。以下で例示する斜位検査は、検査対象眼の前眼部画像のみを用いて行われる。しかし、左眼および右眼の両方の前眼部画像を用いて斜位検査を行うことも可能であるが、この内容については後述する。なお、図7および図8は、斜位検査時の固視標31Kの光束の光軸等を模式的に示す図であり、凹面鏡85による固視標31Kの光束の反射等は図に表していない。また、図7および図8は、被検者の左眼ELおよび右眼ERのうち、左眼ELを検査対象眼とした場合の模式図である。
まず、図7に示すように、眼科装置1は、被検者の左眼ELおよび右眼ERの両方に固視標31Kを呈示する。図7に示す状態では、左眼ELの視線および右眼ERの視線は共に固視標31Kの光束の光軸に一致しており、眼位のずれは無い。つまり、図7で例示した被検者には、斜視(少なくとも恒常性斜視)は無い。
次いで、図8に示すように、検査対象眼である左眼ELへの固視標31Kの呈示が停止される(つまり、左眼ELへの固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられる)。左眼ELに外斜位がある場合、固視標31Kの呈示切替時から十分な時間が経過すると、左眼ELの視線は外側を向く。眼科装置1は、検査対象眼である左目ESの眼位の測定結果が変化したことに基づいて、左眼ELに斜位があることを検出することができる。つまり、眼科装置1によると、固視標31Kの呈示切替時以前(図7の状態)に測定された検査対象眼(左眼EL)の眼位と、呈示切替時よりも後(図8の状態)に測定された検査対象眼の眼位に基づいて、検査対象眼の斜位検査が他覚的に実行される。
なお、眼科装置1は、固視標31Kが近方に見えるように固視標31Kを左眼および右眼に呈示した後、検査対象眼への固視標31Kの呈示を停止させることで、近方の斜位検査を行うことも可能である。
また、図7および図8では、検査対象眼に外斜位がある場合について例示した。しかし、内斜位、上斜位、下斜位等の検査も眼科装置1によって他覚的に実行できることは言うまでもない。
また、眼科装置1は、図7および図8に示した眼位検査以外の眼位検査も実行することができる。例えば、眼科装置1は、検査対象眼(左眼ELおよび右眼ERの一方)に対する固視標31Kの呈示状態を、非呈示から呈示に切り替えてもよい。眼科装置1は、固視標31Kの呈示切替時以前(つまり、固視標31Kが呈示されていない間)に測定された検査対象眼の眼位と、呈示切替時よりも後(つまり、固視標31Kの呈示が開始された後)に測定された検査対象眼の眼位に基づいて、眼位状態情報を生成してもよい。また、眼科装置1は、左眼および右眼のうち、固視標31Kの呈示と非呈示を切り替える眼とは反対側の眼を検査対象眼として眼位状態情報を生成してもよい。
(固視標の呈示切替方法)
被検者眼に対する固視標31Kの呈示と非呈示を切り替える方法の一例について説明する。例えば、図8に示す例では、可視光遮断部材(例えばIRフィルタ等)111が被検者眼の眼前(本実施形態では、筐体2の呈示窓3(図1参照)と被検者眼の間)に挿脱されることで、被検者眼への固視標31Kの呈示と非呈示が切り替えられる。可視光遮断部材111は、前眼部撮影部50が前眼部を撮影するための前眼部撮影光(本実施形態では、不可視光である近赤外光)を透過し、且つ、固視標31Kを呈示する可視光を遮断する。この場合、前眼部撮影部50は、固視標31Kの呈示切替時の前後を通じて適切に被検者眼の前眼部を撮影することができる。また、固視標31Kの呈示を停止させる場合には、可視光遮断部材111が被検者眼の眼前に挿入される。従って、呈示停止後に被検者眼が眼科装置1の一部を注視してしまう可能性が低い。よって、固視標31Kの呈示停止後は、被検者眼の固視が適切に解除される。
可視光遮断部材111は、検者等によって手動で被検者眼の眼前に挿脱されてもよい。また、眼科装置1は、可視光遮断部材111を被検者眼と筐体2の間の固視標31Kの呈示光路上で挿脱させる挿脱駆動部を備えていてもよい。挿脱駆動部は、例えば、筐体2または顎台5等に設けられてもよい。CPU71は、挿脱駆動部のアクチュエータ(例えば、モータまたはソレノイド等)の駆動を制御することで、被検者眼に対する固視標31Kの呈示と非呈示を切り替えてもよい。また、可視光遮断部材111の代わりに、可視光の一部のみを透過する半透明部材が用いられてもよい。
なお、固視標31Kの呈示と非呈示を切り替える方法を変更することも可能である。例えば、CPU71は、ディスプレイ31における固視標31Kの表示と消去を切り替えることで、固視標31Kの呈示と非呈示を切り替えてもよい。また、CPU71は、固視標31Kが設けられた視標板をアクチュエータによって駆動することで、固視標の呈示と非呈示を切り替えてもよい。また、CPU71は、固視標31Kの呈示光束を眼科装置の内部で遮断することで、固視標31Kの呈示を停止させてもよい。固視標31Kの呈示光路に設けられた偏光部材によって、呈示と非呈示が切り替えられてもよい。
(固視標の呈示切替時の取得)
本実施形態では、CPU71は、被検者眼に対する固視標の呈示と非呈示が切り替えられた呈示切替時を取得することができる。例えば、CPU71は、呈示切替時を指定するためのユーザからの指示の入力を受け付けることで、呈示切替時を取得してもよい。呈示切替時の指定指示は、操作部(例えばタッチパネル4)が操作されることで入力されてもよいし、音声によって入力されてもよい。例えば、ユーザは、可視光遮断部材111を眼前に手動で挿脱して固視標の呈示と非呈示を切り替える場合、可視光遮断部材111を眼前に挿脱した時点で指定指示を入力してもよい。この場合、CPU71は、指示が入力された時点を呈示切替時として取得してもよい。また、ユーザは、呈示切替時よりも後に指定指示を入力してもよい。
また、CPU71は、前眼部撮影部50によって受光される前眼部撮影光の強度が、可視光遮断部材111または半透明部材等の挿脱によって変化した時点を、前眼部画像110に対する画像処理等によって検出することで、呈示切替時を取得してもよい。CPU71は、撮影光学系100によって撮影された画像に基づいて、可視光遮断部材111が眼前に挿脱された時点(つまり、呈示切替時)を検出してもよい。また、眼科装置1は、可視光遮断部材111または半透明部材等が固視標の呈示光路上に挿脱されたことを検出するセンサを備えていてもよい。この場合、CPU71は、センサによる検出結果に基づいて呈示切替時を取得してもよい。
また、CPU71は、アクチュエータ(例えば、挿脱駆動部のアクチュエータ、または、視標板を駆動するアクチュエータ等)の駆動を制御して固視標の呈示と非呈示を切り替える場合、呈示と非呈示を切り替えるためにアクチュエータを駆動させた時点を、呈示切替時として取得してもよい。また、CPU71は、ディスプレイ31における固視標の表示と消去を制御することで固視標の呈示と非呈示を切り替える場合、固視標の表示と消去を切り替えた時点を、呈示切替時として取得してもよい。
(眼位変化グラフのデータ生成)
図9を参照して、CPU71が生成することが可能な眼位変化グラフのデータについて説明する。本実施形態では、CPU71は、前眼部画像110に基づいて測定された複数のタイミングの眼位測定結果に基づいて、眼位変化グラフのデータを生成することができる。眼位変化グラフのデータは、検査対象眼の眼位の状態を示す眼位状態情報の1つである。CPU71は、一定時間毎(例えば、前眼部画像110の動画の1フレーム毎)のタイミングで断続的に測定された複数の眼位測定結果に基づいて、図9に例示する眼位変化グラフのデータを生成する。なお、眼位を測定する制御部と、測定結果に基づいて眼位変化グラフのデータを生成する制御部は、異なっていてもよい。
CPU71は、眼位変化グラフを表示部(例えばタッチパネル4等)に表示させてもよい。また、CPU71は、生成した眼位変化グラフのデータを外部機器に出力してもよいし、データを記憶手段(例えば不揮発性メモリ等)に出力して保存してもよい。CPU71は、眼位の検査中にリアルタイムで眼位変化グラフを表示部に表示させてもよい。また、CPU71は、検査中に連続して撮影された複数の前眼部画像110に基づいて、検査後に眼位変化グラフのデータを生成してもよい。
図9に例示する眼位変化グラフのデータには、片眼に対する複数の眼位測定結果が測定タイミング毎にプロットされた複数の点120のデータが含まれる。また、図9に例示する眼位変化グラフのデータには、プロットされた複数の点120に基づいて生成された近似曲線121のデータも含まれる。しかし、CPU71は、複数の点120のデータ、および近似曲線121のデータの一方のみを生成してもよい。また、他の形式のグラフ(例えば棒グラフ等)のデータが生成されてもよい。
本実施形態では、CPU71は、固視標の呈示切替時以前のタイミングにおける眼位測定結果と、呈示切替時よりも後のタイミングにおける眼位測定結果に基づいて、眼位変化グラフのデータを生成する。換言すると、本実施形態のCPU71は、少なくとも固視標の呈示切替時以後における眼位変化グラフのデータを生成する。従って、固視標の呈示と非呈示の切替に起因する眼位の時間変化が、眼位変化グラフによって適切に把握される。また、斜位検査等の各種検査において検査対象眼の眼位変化グラフのデータが生成される場合には、検者は、検査対象眼の各種診断を、眼位変化グラフによってより適切に行うことができる。
なお、CPU71は、前眼部撮影部50によって撮影された前眼部画像110を処理することで、被検者眼がまばたきを行ったタイミングを検出してもよい。CPU71は、被検者眼がまばたきを行ったタイミングの情報を、眼位変化グラフのデータに含めてもよい。CPU71は、被検者眼がまばたきを行ったタイミングを、眼位変化グラフと共に表示部に表示させてもよい。まばたきが行われた直後の眼位は不安定となり易い。従って、検者は、まばたきが行われたタイミングを把握したうえで眼位変化グラフを見ることで、眼位に関する状態をより適切に把握することができる。
(眼位測定タイミングの前眼部画像の表示)
CPU71は、眼位の測定に用いられた前眼部画像110のデータを記憶手段に記憶させることができる。CPU71は、過去に撮影された前眼部画像110の撮影タイミングを指定する指示の入力を受け付ける。CPU71は、指定された撮影タイミングで撮影された前眼部画像110を、表示部に表示させることができる。よって、ユーザは、所望のタイミングにおける眼位測定結果と、その測定に用いられた前眼部画像110を容易に比較することができる。撮影タイミングの指定指示の入力は、操作部の操作によって行われてもよいし、音声等によって行われてもよい。眼位変化グラフが表示部に表示されている場合、ユーザは、眼位変化グラフ上の所望のタイミングを指定することで、撮影タイミングの指定指示を入力してもよい。この場合、眼位測定結果と前眼部画像110をさらに容易に比較することができる。
(眼位ずれ量の算出)
CPU71は、固視標の呈示切替時以前のタイミング(以下、「切替前タイミング」という)における眼位測定結果と、呈示切替時よりも後のタイミング(以下、「切替後タイミング」という)における眼位測定結果のずれ量を、眼位状態情報として生成(算出)することができる。従って、固視標の呈示および非呈示の切替に起因する眼位ずれ量が、適切に把握される。図9に、算出される眼位ずれ量の一例を示す。なお、眼位ずれ量は、眼位検査中に算出されてもよいし、眼位検査後に算出されてもよい。
(基準タイミング)
図9に示すように、固視標の呈示切替時から待機時間が経過したタイミングを、基準タイミングとする。本実施形態のCPU71は、切替後タイミングのうち、基準タイミング以後の切替後タイミングにおける眼位測定結果に基づいて、眼位ずれ量を算出する。例えば、図9で例示する眼位変化グラフに示すように、斜位等がある場合の眼位は、固視標の呈示切替時から徐々に変化した後、時間の経過と共に安定していく傾向がある。よって、基準タイミング以後の眼位測定結果が用いられることで、算出される眼位ずれ量の精度が向上する。
固視標の呈示切替時から基準タイミングまでの待機時間の長さは、予め設定されていてもよい。この場合、待機時間の長さは、呈示切替時から検査対象眼の眼位が安定するまでに要する時間以上の長さ(例えば「5秒」等)に設定される。その結果、安定した状態の眼位に基づいて眼位ずれ量が算出される。
(ユーザによる基準タイミングの指定)
CPU71は、ユーザによって入力された指示に応じて基準タイミングを設定することができる。従って、ユーザは、種々の事情(例えば、経験、被検者眼の状態等)に応じて、基準タイミングを望ましいタイミングに設定できる。なお、CPU71は、固視標の呈示切替時から基準タイミングまでの待機時間の長さをユーザに指定させることで、基準タイミングをユーザに指定させてもよい。また、眼位検査中には、CPU71は、指示が入力されたタイミングを基準タイミングに設定してもよい。
また、CPU71は、眼位変化グラフ(図9参照)を表示部に表示させた状態で、基準タイミングをユーザに指定させてもよい。この場合、ユーザは、眼位の変化の状態を眼位変化グラフによって把握したうえで、基準タイミングを適切なタイミングに指定することができる。CPU71は、眼位変化グラフ上の所望のタイミングをユーザに指定させることで、基準タイミングを指定させてもよい。
なお、ユーザによって指定されたタイミングを基準タイミングに設定する場合、基準タイミングの設定を禁止する期間が設けられていてもよい。例えば、固視標の呈示切替時から、検査対象眼の眼位が安定するまでに必要な最低の待機時間が経過までの間(例えば、呈示切替時から1秒間)が、基準タイミングの設定を禁止する期間とされてもよい。この場合、不安定な状態の眼位に基づいて眼位ずれ量が算出される可能性が低下する。
(基準タイミングの自動設定)
CPU71は、基準タイミングを自動的に設定することも可能である。以下、基準タイミングを自動的に設定するための方法を例示する。
まず、複数の眼位測定結果に基づいて基準タイミングを設定する方法について説明する。CPU71は、固視標の呈示切替時よりも後の複数のタイミングにおける眼位測定結果に基づいて、呈示切替時よりも後の眼位が安定したタイミング(以下、「眼位安定タイミング」という)を検出することができる。CPU71は、眼位安定タイミングを基準タイミングとして設定することができる。
複数の眼位測定結果から眼位安定タイミングを検出するための具体的な方法も、適宜選択できる。例えば、CPU71は、複数の切替後タイミングにおける眼位測定結果から、測定結果の揺らぎを検出することができる。CPU71は、検出した揺らぎが閾値以下となったタイミングを、眼位安定タイミングとして検出することができる。測定結果の揺らぎには、例えば、単位時間内における複数の測定結果の標準偏差、単位時間内における複数の測定結果の最大値と最小値の差、変動する測定結果の周波数等の少なくともいずれかを採用することができる。なお、CPU71は、眼位測定結果の揺らぎの情報を、眼位状態情報として出力してもよい。また、CPU71は、複数の切替後タイミングにおける眼位測定結果から、眼位と時間の関係を示す近似曲線121(図9参照)のデータを生成することができる。CPU71は、近似曲線121の傾きが閾値以下となったタイミングを、眼位安定タイミングとして検出することができる。
次に、図10を参照して、検査対象眼の光学特性の他覚的測定結果に基づいて基準タイミングを設定する方法について説明する。図10では、同一の時間帯における検査対象眼の眼位変化グラフと光学特性変化グラフが比較されている。光学特性変化グラフとは、他覚式測定部10によって複数のタイミングで他覚的に測定された検査対象眼の光学特性と時間の関係を示すグラフである。一例として、図10では、他覚的に測定された光学特性として、検査対象眼の眼屈折力が用いられている。図10に例示する光学特性変化グラフのデータには、複数の光学特性の測定結果が測定タイミング毎にプロットされた複数の点220のデータが含まれる。また、図10に例示する光学特性変化グラフのデータには、プロットされた複数の点220に基づいて生成された近似曲線221のデータも含まれる。しかし、複数の点220のデータ、および近似曲線221のデータの一方のみが生成されてもよいし、他の形式のグラフのデータが生成されてもよい。CPU71は、光学特性変化グラフのデータを出力してもよいし、光学特性変化グラフを表示部に表示させてもよい。
図10に示すように、検査対象眼の眼位が安定すると、検査対象眼の光学特性も安定し易い傾向がある。従って、検査対象眼の光学特性が安定したタイミングを、眼位安定タイミングとして検出することが可能である。CPU71は、固視標の呈示切替時よりも後の複数のタイミングにおける光学特性の他覚的な測定結果に基づいて、眼位安定タイミングを検出することができる。CPU71は、検出した眼位安定タイミングを基準タイミングとして設定することができる。
複数の光学特性の測定結果から眼位安定タイミングを検出するための具体的な方法も、適宜選択できる。例えば、CPU71は、複数の切替後タイミングにおける光学特性の測定結果から、測定結果の揺らぎを検出することができる。CPU71は、検出した揺らぎが閾値以下となったタイミングを、眼位安定タイミングとして検出することができる。光学特性の測定結果の揺らぎには、眼位測定結果の揺らぎと同様に、標準偏差、最大値と最小値の差、および周波数等の少なくともいずれかを採用することができる。なお、CPU71は、光学特性の測定結果の揺らぎの情報を出力してもよい。また、CPU71は、近似曲線221の傾きが閾値以下となったタイミングを、眼位安定タイミングとして検出してもよい。
なお、CPU71は、眼位安定タイミングを検出した場合、固視標の呈示切替時から眼位安定タイミングまでの時間の情報を出力してもよい。この場合、ユーザは、出力された時間を参照することで、検査対象眼の眼位の状態をより適切に把握することができる。
(複数の眼位測定結果に基づく眼位ずれ量の算出)
CPU71は、基準タイミング以後の複数のタイミングにおける眼位測定結果から、測定結果の平均値、最大値と最小値の中間値、または、測定された頻度が最も多い最頻値を特定することができる。CPU71は、特定した値と、固視標の呈示切替時以前の眼位測定結果のずれ量を算出することができる。この場合、眼位の変動の影響がさらに抑制されたうえで、眼位ずれ量が算出される。
なお、CPU71は、固視標の呈示切替時以前の眼位測定結果についても、複数の眼位測定結果の平均値、中間値、または最頻値を特定してもよい。この場合、固視標の呈示切替時以前における眼位の変動の影響も抑制される。
(測定頻度に基づく眼位ずれ量の算出)
CPU71は、固視標の呈示切替時の前後に亘る期間中の複数の眼位測定結果から、呈示切替時以前において測定された頻度が最も高い眼位測定結果である第1最頻値と、呈示切替時よりも後において測定された頻度が最も高い眼位測定結果である第2最頻値を特定してもよい。CPU71は、第1最頻値と第2最頻値のずれ量を、眼位ずれ量として算出してもよい。
図11は、眼位測定結果の値毎の測定頻度を示すヒストグラムの一例である。例えば、検査対象眼に斜位がある場合等には、図11に示すように、固視標の呈示切替時以前の眼位測定結果の最頻値と、呈示切替時よりも後の眼位測定結果の最頻値が別々に表れる。また、図7および図8で例示した斜位検査では、固視標呈示中の検査対象眼(斜位がある眼)の眼位は、呈示停止時よりも後の眼位よりも小さい値となる傾向がある。従って、図7および図8に示す眼位検査を行う場合には、2つの最頻値のうち、眼位が小さい方の最頻値を呈示切替時以前の第1最頻値と判断でき、眼位が大きい方の最頻値を呈示切替時よりも後の第2最頻値と判断できる。CPU71は、第1最頻値と第2最頻値のずれ量を眼位ずれ量として算出することで、眼位の変動の影響が抑制された眼位ずれ量を算出することができる。なお、この場合、CPU71は、前述した基準タイミングを取得しなくても、適切な眼位ずれ量を算出することができる。
CPU71は、複数のタイミングにおける眼位測定結果から、眼位測定結果の値毎の測定頻度を示すヒストグラムのデータを作成してもよい。CPU71は、作成したヒストグラムのデータを出力してもよい。また、CPU71は、ヒストグラムを表示部に表示させてもよい。ヒストグラムを表示部に表示させる場合、CPU71は、眼位ずれ量を算出するために用いられる2つの値(固視標の呈示切替時以前の眼位の値と、呈示切替時よりも後の眼位の値)を、入力された指定指示に基づいて決定してもよい。この場合、ユーザは、ヒストグラムを見ることで、眼位ずれ量を算出するための2つの値を適切に指定することができる。
以上説明したように、本実施形態の眼科装置1は、固視標の呈示切替時よりも後のタイミング、および、呈示切替時以前のタイミングを含む少なくとも2つのタイミングにおける眼位の測定結果に基づいて、眼位状態情報を生成する。従って、固視標の呈示と非呈示の切替に伴う眼位の状態の変化が、他覚的且つ適切に検査される。
(両眼の眼位測定)
本実施形態の眼科装置1は、被検者の左眼の眼位と右眼の眼位を共に測定し、測定結果に基づいて眼位状態情報を生成することも可能である。詳細には、眼科装置1は、左眼および右眼の少なくとも一方に対する固視標の呈示を非呈示を、検査中に切り替える。眼科装置1は、呈示切替時以前のタイミング(切替前タイミング)と、呈示切替時よりも後のタイミング(切替後タイミング)を含む少なくとも2つのタイミングにおいて、左眼の眼位と右眼の眼位を共に測定し、測定結果に基づいて眼位状態情報を生成することができる。この場合、片眼の眼位測定結果のみが用いられる場合に比べて、眼位に関する状態の他覚的な検査がより適切に実行される。以下、具体例を挙げて詳細に説明する。
(片眼への固視標を呈示から非呈示に切り替えた際の両眼の眼位測定)
一例として、本実施形態の眼科装置1は、左眼および右眼の両方(つまり両眼)に固視標31Kを呈示している状態から、左眼および右眼の一方に対する固視標31Kの呈示を非呈示に切り替える。眼科装置1は、固視標31Kの呈示を非呈示に切り替えた方の眼(以下、「切替眼」という)と、切替眼とは反対側の眼(以下、「非切替眼」という)の各々の、切替前タイミングと切替後タイミングの眼位の測定結果のずれ量(眼位ずれ量)を、眼位状態情報として生成(算出)する。この場合、生成された眼位状態情報に基づいて、種々の診断が適切に行われる。以下では、一例として、斜視検査が行われる場合と、斜位検査が行われる場合について説明する。
(両眼の眼位測定による斜視検査)
図12~図14を参照して、本実施形態の眼科装置1において実行可能な斜視検査の一例について説明する。図12は、斜視によって左眼ELが偏位している被検者の両眼に固視標31Kが呈示されている状態の、左眼ELおよび右眼ERの眼位を示す模式図である。まず、CPU71は、被検者の左眼ELおよび右眼ERの両方に固視標31Kを呈示する。しかし、図12に示す状態では、右眼ERの視線frは固視標31Kの呈示光束の光軸に一致するが、斜視によって偏位している左眼ELの視線flは、固視標31Kの呈示光束の光軸に対して外側にずれている。つまり、図12に示す例では、左眼ELが外斜視となっている。
CPU71は、図12に示す状態(つまり、片眼への固視標31Kの呈示を非呈示に切り替える以前の状態)の少なくとも1つタイミングで、左眼ELおよび右眼ERの前眼部画像110を撮影する。一例として、本実施形態では、左眼ELおよび右眼ERの前眼部画像110が、固視標31Kの呈示切替時の前後に亘って断続的に複数回撮影され続ける。
次いで、CPU71は、片眼(図13および図14では右眼ER)に対する固視標31Kの呈示を、非呈示に切り替える。図13および図14は、図12に示す状態から右眼ERへの固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられた際の、斜視の被検者の眼位の変化を示す。なお、図13は、被検者が共同性斜視である場合の例であり、図14は、被検者が非共同性斜視である場合の例である。図13および図14に示すように、右眼ERに対する固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられると、偏位していた左眼ELが回旋し、左眼ELの視線flが固視標31Kの呈示光束の光軸に一致する。
CPU71は、切替眼である右眼ERと、非切替眼である左眼ELの各々の、切替前タイミングと切替後タイミングの眼位の測定結果のずれ量を算出する。図12~図14に示すように、斜視によって非切替眼が偏位していた状態で、切替眼への固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられると、非切替眼の眼位は変化する。従って、CPU71は、算出された非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であるか否かを判断する。閾値は、種々の条件に応じて適宜設定できる(以下の説明における閾値も同様である)。非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上である場合、CPU71は、被検者に斜視があることを示す眼位状態情報を生成する。ユーザは、被検者に斜視があるか否かを、眼位状態情報によって容易に把握することができる。
また、図13に示すように、被検者が共同性斜視である場合には、切替眼への固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられると、切替眼の眼位も、非切替眼の眼位と同様に変化する。従って、CPU71は、非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であり、且つ、切替眼の眼位ずれ量が閾値以上である場合には、被検者が共同性斜視であることを示す眼位状態情報を生成する。
また、図14に示すように、被検者が非共同性斜視である場合には、切替眼への固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられると、非切替眼の眼位は変化するが、切替眼の眼位は変化し難い。従って、CPU71は、非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であり、且つ、切替眼の眼位ずれ量が閾値未満である場合には、被検者が非共同性斜視であることを示す眼位状態情報を生成する。
さらに、CPU71は、切替前タイミングと切替後タイミングの非切替眼の前眼部画像110から、非切替眼の眼位の移動方向を検出する。CPU71は、検出した移動方向に基づいて、偏位眼の偏位方向(例えば、外斜視、内斜視、上斜視、下斜視等のいずれか)を示す眼位状態情報を生成する。図12~図14に示す例では、固視標31Kの呈示が切り替えられることに伴い、偏位眼である左眼ELの眼位は内側へ移動している。従って、被検者が外斜視であることを示す眼位状態情報が生成される。
なお、共同性斜視であるか否かの検査を行わずに、被検者に斜視があるか否かの検査のみを行う場合には、CPU71は、切替眼の眼位ずれ量を生成せずに、非切替眼の眼位ずれ量のみを生成することも可能である。また、被検者に斜視があることが予め分かっている場合等には、CPU71は、非切替眼の眼位ずれ量を生成せずに、切替眼の眼位ずれ量のみを生成してもよい。この場合、切替眼の眼位ずれ量に基づいて、斜視が共同性であるか否かが判断されてもよい。
また、CPU71は、被検者に斜視があるか否かを示す情報、および、共同性斜視であるか否かを示す情報を生成しなくてもよい。例えば、CPU71は、算出した眼位ずれ量を、表示部(例えばタッチパネル4等)に表示させてもよい。また、CPU71は、算出した眼位ずれ量を、音声等によってユーザに通知してもよい。この場合でも、ユーザは、算出された眼位ずれ量に基づいて、斜視の有無、および斜視の種類(例えば、共同性斜視であるか否か)を適切に把握することができる。
また、左眼および右眼の各々の眼位ずれ量の算出方法には、前述した方法と同様の方法を採用できる。例えば、CPU71は、固視標31Kの呈示切替時から待機時間が経過したタイミングを基準タイミングとし、基準タイミング以後における眼位測定結果に基づいて眼位ずれ量を算出してもよい。この場合、基準タイミングは、予め設定されていてもよいし、ユーザによって設定されてもよい。また、CPU71は、複数のタイミングにおける眼位測定結果から、眼位安定タイミングを検出し、検出した眼位安定タイミングを基準タイミングとして設定してもよい。また、CPU71は、被検者眼の光学特性の他覚的測定結果に基づいて基準タイミングを設定してもよい。また、CPU71は、複数のタイミングにおける眼位測定結果から、測定結果の平均値、中間値、または最頻値を特定し、特定した値に基づいて眼位ずれ量を算出してもよい。また、CPU71は、複数の眼位測定結果から第1最頻値と第2最頻値を特定し、第1最頻値と第2最頻値のずれ量を眼位ずれ量として算出してもよい。これらの処理は、前述した処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。また、以下で説明する眼位ずれ量についても、同様の方法で算出できる。
(両眼の眼位測定による斜位検査)
図7および図8を参照して、両眼の眼位ずれ量を用いた斜位検査の方法の一例について説明する。まず、図7に示すように、CPU71は、被検者の左眼ELおよび右眼ERの両方に固視標31Kを呈示する。図7に示す状態では、左眼ELの視線および右眼ERの視線は共に固視標31Kの光束の光軸に一致しており、眼位のずれは無い。
次いで、図8に示すように、CPU71は、片眼(図8では左眼EL)に対する固視標31Kの呈示を、非呈示に切り替える。また、CPU71は、切替眼である左眼ELと、非切替眼である右眼ERの各々の、切替前タイミングと切替後タイミングの眼位の測定結果のずれ量を算出する。
図8に示すように、切替眼である左眼ELに斜位がある場合、固視標31Kの呈示切替時から十分な時間が経過すると、切替眼の視線は、固視標31Kの呈示光束の光軸からずれた状態となる。一方で、非切替眼である右眼ERの視線は、固視標31Kの呈示切替後も固視標31Kの光軸と一致したままとなる。従って、CPU71は、切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であり、且つ、非切替眼の眼位ずれ量が閾値未満である場合には、切替眼に斜位があることを示す眼位状態情報を生成する。
なお、CPU71は、切替眼の眼位に移動方向から、斜位の偏位方向を示す眼位状態情報を生成してもよい。また、CPU71は、算出した眼位ずれ量を表示部に表示させてもよいし、音声等によってユーザに通知してもよい。また、被検者に斜視(例えば恒常性斜視)が無いことが予め分かっている場合等には、前述したように、切替眼の眼位ずれ量のみに基づいて、切替眼に斜位があるか否かを判断してもよい。
(片眼への固視標を非呈示から呈示に切り替えた際の両眼の眼位測定)
次に、片眼への固視標を非呈示から呈示に切り替えた際の眼位測定の一例について説明する。本実施形態の眼科装置1は、左眼および右眼の一方に固視標31Kを呈示している状態から、他方の眼に対する固視標31Kの非呈示を呈示に切り替える。眼科装置1は、固視標31Kの非呈示を呈示に切り替えた方の眼(切替眼)と、切替眼とは反対側の眼(非切替眼)の各々の、切替前タイミングと切替後タイミングの眼位の測定結果のずれ量(眼位ずれ量)を、眼位状態情報として生成(算出)することができる。この場合、種々の診断が適切に行われる。以下では、一例として、斜視が片眼性および交代性のいずれであるかの検査が行われる場合について説明する。
(両眼の眼位測定による片眼性斜位・交代性斜位の検査)
図13および図15を参照して、片眼性斜位・交代性斜位の検査の一例について説明する。図15は、図13に示す状態から右眼ERへの固視標31Kの非呈示が呈示に切り替えられた場合の、片眼性斜視の被検者の眼位の変化を示す模式図である。つまり、本実施形態では、図12、図13、図15の順で斜視検査が行われる。ただし、斜視検査の順番等を変更することも可能である。図13に示す状態とした時点で、被検者に斜視があることが既に判明している。また、図12および図13に示す例では、元々は被検者の左眼ELが偏位しており、右眼ERへの固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられたことに伴って、偏位している眼が左眼ELから右眼ERへ切り替わっている。
図15に示すように、CPU71は、右眼ERに対する固視標31Kの非呈示を呈示に切り替える。その結果、固視標31Kが両眼に呈示された状態となる。ここで、図15に示す例は、被検者が片眼性斜視である場合の例である。片眼性斜視の場合、元々偏位していた左眼ELの視線flは回旋して、再び外側に偏位する。また、右眼ERの視線frは、固視標31Kの呈示光束の光軸に一致する。一方で、図示しないが、交代性斜視の場合には、右眼ERに対する固視標31Kの非呈示を呈示に切り替えても、左眼ELの視線flは、固視標31Kの呈示光束の光軸に一致したままとなる。
従って、CPU71は、少なくとも非切替眼(図15では左眼EL)の眼位ずれ量が閾値未満であれば、斜視が交代性斜視であることを示す眼位状態情報を生成する。なお、斜視が共同性斜視(図15参照)であれば、CPU71は、非切替眼の眼位ずれ量と切替眼の眼位ずれ量が共に閾値未満である場合に、斜視が交代性斜視であることを示す眼位状態情報を生成する。また、CPU71は、少なくとも非切替眼の眼位ずれ量が閾値以上であれば、斜視が片眼性斜視であることを示す眼位状態情報を生成する。なお、斜視が共同性斜視であれば、CPU71は、非切替眼の眼位ずれ量と切替眼の眼位ずれ量が共に閾値以上である場合に、斜視が片眼性斜視であることを示す眼位状態情報を生成する。また、CPU71は、非切替眼の眼位の移動方向を考慮することで、片眼性斜位・交代性斜位の検出精度をさらに向上させることも可能である。つまり、非切替眼の眼位の移動方向が、切替眼への固視標31Kの呈示を開始させた場合の移動方向と逆であれば、交代性斜視である可能性がさらに高くなる。
なお、CPU71は、算出した眼位ずれ量を表示部に表示させてもよいし、音声等によってユーザに通知してもよい。この場合でも、ユーザは、片眼性斜位・交代性斜位の判断を、眼位ずれ量に基づいて適切に行うことができる。また、本実施形態では、非切替眼の眼位ずれ量と切替眼の眼位ずれ量が共に用いられることで、片眼性斜位・交代性斜位の判断がより適切に行われる。しかし、非切替眼の眼位ずれ量のみに基づいて、片眼性斜位・交代性斜位の判断が行われてもよい。
(固視標の位置変更)
前述したように、本実施形態の眼科装置1は、被検眼に呈示する固視標31Kの位置を変更することができる。従って、眼科装置1によると、眼位の状態に関する種々の検査を行うことが可能である。
一例として、斜視が共同性および非共同性のいずれであるかの検査を、固視標31Kの位置を変更させることで実行する方法について説明する。図12に示す例では、被検者には斜視があり、左眼ELが固視標31Kの呈示光束に対して外側に偏位している。また、図13に示す例では、右眼ERが外側に偏位している。CPU71は、被検眼に呈示する固視標31Kの位置を変更すると共に、位置を変更する以前、および位置を変更した後の少なくとも2つのタイミングで被検眼の前眼部画像110を撮影する。位置を変更する固視標31Kは、固視されている眼(図12では右眼ER、図13では左眼EL)に呈示する固視標31Kのみでもよいし、両眼に呈示する固視標31Kであってもよい。
CPU71は、固視標31Kに対して偏位している眼(図12では左眼EL、図13では右眼ER)の、固視標31Kの位置を変更する前後における眼位の計測結果の変化量を生成(算出)する。斜視が共同性である場合、固視標31Kの位置を変更すると、固視標31Kに対して偏位している眼の眼位も変化する。従って、CPU71は、算出した変化量が閾値以上である場合に、斜視が共同性であることを示す眼位状態情報を生成する。一方で、CPU71は、算出した変化量が閾値未満である場合に、斜視が非共同性であることを示す眼位状態情報を生成する。その結果、共同性・非共同性の判断が適切に行われる。なお、CPU71は、斜視が共同性であるか否かを示す情報を生成せずに、偏位眼の眼位の変化量のみを出力してもよい。
なお、他の検査において固視標31Kの位置を変更してもよい。例えば、斜視検査では、同一の被検者に対して斜視検査を複数回行うことで、被検者の斜視が間歇性および恒常性のいずれであるかを判断することも可能である。ここで、本実施形態の眼科装置1は、固視標31Kの呈示位置を変更しつつ、前述した斜視検査を複数回実行する。その結果、斜視が間歇性および恒常性のいずれであるかの判断が、より適切に行われる。また、斜視が交代性斜視である場合に、偏位する眼が交代する際の固視標31Kの位置(眼位)が、適切に把握される。
(両眼の眼位変化グラフを表示)
図16に示すように、本実施形態のCPU71は、左眼および右眼の各々の眼位と時間の関係を示す眼位変化グラフのデータを、眼位状態情報として生成することができる。図16に例示する眼位変化グラフは、図12および図14に示す斜視検査(つまり、左眼が偏位していた非共同性斜視の被検者に対する斜視検査)が行われた場合のグラフである。両眼の眼位変化グラフでは、図16に示すように、左眼のグラフと右眼のグラフが別々に並べられていてもよいし、1つのグラフ中に両眼の眼位の時間変化が示されてもよい。ユーザは、両眼の眼位変化グラフを見ることで、眼位に関する種々の状態を把握することができる。例えば、ユーザは、図16に示す眼位変化グラフを見ることで、被検者に非共同性斜視があることを適切に把握することができる。なお、眼位変化グラフのデータの具体的な生成方法等には、前述した方法と同様の方法を採用できる。
また、CPU71は、左眼の眼位の測定結果と右眼の眼位の測定結果を比較した相対情報を、眼位状態情報として生成してもよい。この場合、ユーザは、左右の眼位の相対関係を適切に把握することができる。例えば、CPU71は、左眼の眼位ずれ量と右眼の眼位ずれ量の差を、眼位状態情報として生成することもできる。この場合、ユーザは、左右の眼位の状態を、左右の眼位ずれ量の差に基づいて適切に把握することができる。例えば、図16に示す例では、左眼の眼位ずれ量と右眼の眼位ずれ量の差は大きくなる。この場合、ユーザは、斜視が共同性でなく非共同性であることを、左右の眼位ずれ量の差によって適切に把握することができる。また、CPU71は、あるタイミングにおける左右の眼位測定結果を比較することで、眼位ずれ量を算出してもよい。
なお、本実施形態では、右眼ELに対する固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられた後、右眼ELに対する固視標31Kの呈示が再開される(図12~図15参照)。次いで、十分な時間が経過した後に、左眼ELに対する固視標31Kの呈示が非呈示に切り替えられる。その後、左眼ELに対する固視標31Kの呈示が再開されて、検査が終了する。しかし、検査の順番等を変更してもよい。例えば、左右の順番が逆であってもよい。
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術の少なくとも一部を変更することも可能である。例えば、上記実施形態で生成される眼位変化グラフのデータは、固視標の呈示切替時以前から、呈示切替時よりも後までのデータである。しかし、CPU71は、固視標の呈示の切替に関わらず、眼位変化グラフのデータを作成してもよい。この場合でも、ユーザは、検査対象眼の眼位に関する状態を、眼位変化グラフによって適切に把握することができる。
上記実施形態の眼科装置1では、被検者眼の眼前が開放された状態で種々の測定が行われる。つまり、上記実施形態の眼科装置1では、被検者眼から離間した位置に配置された筐体2内に、矯正光学系60等の構成が内蔵されている。しかし、上記実施形態の構成とは異なる構成の眼科装置にも、上記実施形態で例示された技術の少なくとも一部を適用できる。例えば、眼科装置は、被検者眼の眼前に配置される筐体内に、矯正光学系60等の構成を内蔵していてもよい。また、眼科装置は、被検者眼の前眼部を撮影する構成を備えた眼屈折力測定装置等であってもよい。