ここで、ドライブ波形を非ガウス化しつつ、目標振動物理量PSDに合致した振動を供試体に与えたいという要望があった。
また、規定された加速度PSDの要求は満たしつつ、速度、変位、ジャーク等のディメンションの異なる他の運動学的諸量のいずれかを「非ガウス性」にしたいという要望がある。上記特許文献1、2、3、4に示された技術では、このような要請に応えることはできなかった。
例を挙げると、たとえば、人間が運動の変化を感じる感覚は加速度よりもジャークに対する感度の方が高いため乗り心地改善や身体への悪影響を軽減化するため、列車、エレベータ、ローラコースターなどではジャーク量を抑制するような設計が行われている。このような場合、設計にあわせて試験波形に含まれるジャーク量をガウス性から変化させておくことができれば、実際の振動条件により近い実験を、ランダム振動試験として実施できることになる。
また、一般に振動試験装置には基本仕様としての出力しうる最大加振力や最大加速度の他に、最大速度や最大変位などについても仕様上の制限がある。加速度が最大仕様内に収まっていても、速度や変位の信号が一瞬でも最大仕様を超えることがあると、その瞬間に安全装置が働いて試験が中断されてしまうことがあり得る。このような場合、もし速度や変位の最大ピーク値をある値以下に合理的に制御しておくことができれば、当該量の制限を超える振動が起きて試験が停止されてしまう事態を、偶然に左右されることなく確実に避けることができる。
動電式振動発生機では、振動子(アーマチュア)の最大速度はアンプの出力しうる最大電圧によって制約され、最大変位は振動子の可動域に関する機械的寸法によって制約を受けている。もし、アンプの出力しうる最大電圧が足りない場合には目標速度波形の最大ピーク値が制限値以内になるように予めクリッピングしつつ(これにより速度波形は非ガウス性となる。そして、その非ガウス性を保つためには、応答点において観測される応答速度波形が波形そのものとして変化しないような制御をせねばならない。)、この振動運動に対応する加速度波形はPSDの要求を維持することができれば、試験目的を果たしつつ上記問題を解決することができる。
同様に、変位制限が問題となる場合には、試験の要求する加速度PSDを有するガウス性加速度ランダム信号を応答点で実現しつつ、対応する変位信号をピーク値を確実に一定値以内に収めた非ガウス性のランダム信号として再現することができれば、変位制限超過による試験中断のおそれに脅かされることなく振動試験を遂行することができるであろう。
なお、上記と同様に、規定された運動学的諸量へのPSDの要求は満たしつつ、ドライブ信号を「非ガウス性」にしたいという要望もある。
また、振動発生機に載置した供試体を所望の波形を有する振動にて振動させたいという一般的な要請もある。本件発明者は、特許文献4に示すようにこれを実現する装置をすでに発明している。しかし、この装置では、供試体の振動を加速度センサにて検出しているため、振動の加速度波形が予め決めておいた目標とする加速度波形に合致するように制御することしかできなかった。
もちろん、速度波形など他のディメンションの物理量について所望の振動の目標波形を与えるのであれば、速度センサなどを供試体に設けることで実現可能である。しかし、多種類の変位センサを設けることは煩雑であり好ましくなかった。
そこで、加速度センサ(あるいは他のディメンションのセンサ)を用いて加速度PSD制御を行いながら、同時にそれとは異なるディメンションを持つ運動学的諸量の波形制御を行うことのできる振動制御装置が望まれる。
この発明は、上記のいずれかの問題を解決して、試験実施上の様々な付加価値を創造することのできる振動制御装置を提供することを目的とする。
この発明の独立して適用可能ないくつかの特徴を以下に列挙する。なお、この明細書においては、あるディメンションの振動物理量(たとえば加速度)に対して、同じ振動の挙動を記述する異なるディメンションの振動物理量(たとえば、当該加速度に対応する変位、速度、ジャークなど)を、対応振動物理量と呼ぶ。
この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動物理量を検出する振動物理量検出センサと、前記振動物理量検出センサからの応答振動物理量波形をフーリエ変換し、応答振動物理量PSDを得る応答振動スペクトル算出手段と、応答振動物理量PSD、目標振動物理量PSD、応答振動物理量波形、ドライブ波形に基づいて、ドライブPSDを制御するドライブPSD制御手段と、所望の非ガウス特性を実現するように、ドライブPSDから生成したスペクトルデータを逆フーリエ変換して非ガウス化ドライブ波形を算出し、これをドライブ波形とするドライブ波形算出手段とを備えている。
上記発明に対応する実施形態は、図18および段落0165~0178に記載されている。
(1)(2)この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動物理量を検出する振動物理量検出センサと、前記振動物理量検出センサからの応答振動物理量波形をフーリエ変換し、応答振動物理量PSDを得る応答振動スペクトル算出手段と、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDに基づいて、制御用振動物理量PSDに対応する異ディメンションの制御用対応振動物理量PSDを算出する制御用対応物理量PSD算出手段と、所望の非ガウス特性を実現するように、制御用対応振動物理量PSDから生成したスペクトルデータを逆フーリエ変換して非ガウス化制御用対応振動物理量波形を算出し、これを制御用対応振動物理量波形とする制御用対応振動物理量波形算出手段と、振動試験機および供試体を含む系の伝達特性の逆特性を制御特性として、制御用対応振動物理量波形に基づいてドライブ波形を算出するドライブ波形算出手段と、前記ドライブ波形と前記応答振動物理量波形とに基づいて、前記制御特性を修正する制御特性修正手段とを備えている。
したがって、目標振動物理量PSDに合致したガウス性の振動を供試体に与えつつ、対応振動物理量において非ガウス性をもたらすような制御を可能としている。
(3)この発明に係る振動制御装置は、制御用対応物理量PSD算出手段が、応答振動物理量PSDを目標振動物理量PSDと比較し、応答振動物理量PSDが目標振動物理量PSDに等しくなるように制御用振動物理量PSDを算出する制御用振動物理量PSD算出手段と、制御用振動物理量PSDを前記異ディメンションの制御用対応振動物理量PSDに変換する制御用PSD変換手段とを備えている。
したがって、目標振動物理量PSDと応答振動物理量PSDとが合致するように、制御用対応振動物理量PSDを生成することができる。
(4)この発明に係る振動制御装置は、制御用対応物理量PSD算出手段が、応答振動物理量PSDを前記異ディメンションの応答対応振動物理量PSDに変換する応答PSD変換手段と、目標振動物理量PSDを前記異ディメンションの目標対応振動物理量PSDに変換する目標PSD変換手段と、応答対応振動物理量PSDを目標対応振動物理量PSDと比較し、応答対応振動物理量PSDが目標対応振動物理量PSDに等しくなるように制御用対応振動物理量PSDを修正する制御用対応振動物理量PSD修正手段とを備えている。
したがって、目標振動物理量PSDと応答振動物理量PSDとが合致するように、制御用対応振動物理量PSDを生成することができる。
(5)この発明に係る振動制御装置は、制御用対応振動物理量波形算出手段が、制御用対応物理量PSDから生成した振幅スペクトルデータに一様乱数位相を与えて逆フーリエ変換し、ガウス性制御用対応物理量波形を得るガウス性制御用対応物理量波形算出手段と、前記ガウス性制御対応物理量波形を非ガウス変換特性に基づいて非ガウス波形に変換する非ガウス変換手段と、前記非ガウス変換波形をフーリエ変換して各周波数成分の位相を非ガウス性信号位相として抽出する非ガウス性信号位相抽出手段と、前記制御用対応物理量PSDに前記非ガウス性信号位相を与えて逆フーリエ変換し、前記非ガウス化制御用対応振動物理量波形を算出する波形算出手段とを備えている。
したがって、応答振動物理量波形とドライブ波形に基づいて制御を行って、供試体を制御用対応振動物理量波形に合致するように振動させることができる。
(6)この発明に係る振動制御装置は、制御用対応振動物理量波形算出手段が、制御用対応物理量PSDから生成した振幅スペクトルデータに一様乱数位相を与えて逆フーリエ変換し、ガウス性制御用対応物理量波形を得るガウス性制御用対応物理量波形算出手段と、前記ガウス性制御対応物理量波形を非ガウス変換特性に基づいて変換し、非ガウス化制御用対応振動物理量波形を算出する波形算出手段とを備えている。
したがって、応答振動物理量波形とドライブ波形に基づいて制御を行って、供試体を制御用対応振動物理量波形に合致するように振動させることができる。
(7)この発明に係る振動制御装置は、非ガウス変換特性はZMNL関数であることを特徴としている。
したがって、容易に非ガウス波形を得ることができる。
(8)この発明に係る振動制御装置は、非ガウス性変換特性が、前記ガウス性制御対応物理量波形が所定の限界値を超えないようにピーク値を制限する特性であり、前記ガウス性制御対応物理量波形が前記限界値を超えない場合には、当該ガウス性制御対応物理量波形を非ガウス化制御用対応振動物理量波形として用いることを特徴としている。
したがって、制御用対応物理量波形を限界値内に収めるように制御することができる。
(9)この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形算出手段が、制御用対応振動物理量波形に前記制御特性であるインパルス応答を畳み込み演算してドライブ波形を算出するものであり、前記制御特性修正手段は、前記応答振動物理量波形を変換した応答対応振動物理量波形のスペクトルと前記ドライブ波形のスペクトルとに基づいて、対応振動物理量伝達関数の逆数としての制御特性を算出するものであることを特徴としている。
したがって、応答波形を振動物理量で検出しつつ、ディメンションの異なる対応振動物理量の波形に合致するように供試体を振動させることができる。
(10)この発明に係る振動制御装置は、制御特性修正手段が、前記ドライブ波形と前記応答振動物理量波形に基づいて振動物理量伝達関数を算出する伝達関数算出手段と、前記振動物理量伝達関数を対応振動物理量伝達関数に変換する伝達関数変換手段と、前記対応振動物理量伝達関数の逆数として制御特性を算出する逆伝達関数算出手段とを備えている。
したがって、応答波形を振動物理量で検出しつつ、ディメンションの異なる対応振動物理量の波形に合致するように供試体を振動させることができる。
(11)この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形算出手段が、制御用対応振動物理量波形を非ガウス化制御用振動物理量波形に変換する波形変換手段と、振動試験機および供試体を含む系のインパルス応答を制御特性として、制御用振動物理量波形にインパルス応答を畳み込み演算してドライブ波形を算出する制御手段とを備えている。
したがって、応答波形を振動物理量で検出しつつ、ディメンションの異なる対応振動物理量の波形に合致するように供試体を振動させることができる。
(12)この発明に係る振動制御装置は、振動物理量検出センサは、振動の変位、速度、加速度、ジャークのいずれかを検出するセンサであり、前記振動物理量は、変位、速度、加速度、ジャークのいずれかであることを特徴とする。
したがって、振動の変位、速度、加速度、ジャークについて、いずれかのディメンションでの制御を行うことができる。
(13)(14)この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の加速度を検出する加速度センサと、前記加速度センサからの応答加速度波形をフーリエ変換し、応答加速度PSDを得る応答振動スペクトル算出手段と、応答加速度PSDと目標加速度PSDに基づいて、制御用加速度PSDに対応する制御用変位PSD、制御用速度PSDまたは制御用ジャークPSDを算出する制御用対応物理量PSD算出手段と、制御用変位PSD、制御用速度PSDまたは制御用ジャークPSDから生成した振幅スペクトルデータに一様乱数位相を与えて逆フーリエ変換し、ガウス性制御用変位波形、ガウス性制御用速度波形またはガウス性制御用ジャーク波形を得るガウス性制御用対応物理量波形算出手段と、所定の単位期間の前記ガウス性制御用変位波形、ガウス性制御用速度波形またはガウス性制御用ジャーク波形において、制限値を超えている部分がなければ、当該ガウス性制御用変位波形、ガウス性制御用速度波形またはガウス性制御用ジャーク波形をそのまま制御用変位波形、制御用速度波形または制御用ジャーク波形としてドライブ波形算出手段に与え、制限値を超えている部分があれば、下記の非ガウス変換手段、非ガウス性信号位相抽出手段、波形算出手段によって算出された、非ガウス化制御用変位波形、非ガウス化制御用速度波形または非ガウス化制御用ジャーク波形を制御用変位波形、制御用速度波形または制御用ジャーク波形としてドライブ波形算出手段に与える判断手段と、振動試験機および供試体を含む系の伝達特性の逆特性を制御特性として、前記制御用変位波形、制御用速度波形または制御用ジャーク波形に基づいてドライブ波形を算出するドライブ波形算出手段と、前記ドライブ波形と前記応答加速度波形に基づいて加速度伝達関数を算出する伝達関数算出手段と、前記加速度伝達関数を変位伝達関数、速度伝達関数またはジャーク伝達関数に変換する伝達関数変換手段と、変位伝達関数、速度伝達関数またはジャーク伝達関数の逆数として制御特性を算出する逆伝達関数算出手段とを備えている。
したがって、目標振動物理量PSDに合致したガウス性の振動を供試体に与えつつ、対応振動物理量において非ガウス性をもたらすような制御を可能としている。
(15)(17)この発明に係る振動制御装置は、供試体を振動させるためのドライブ波形および供試体の振動を検出した応答振動物理量波形の第1ディメンションとは異なる第2ディメンションの目標振動物理量波形に合致するように供試体を振動させる振動制御装置であって、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動物理量を検出して応答振動物理量波形を出力する振動物理量検出センサと、振動試験機および供試体を含む系の伝達特性の逆特性である制御特性を用いて、目標振動物理量波形に基づいてドライブ波形を算出するドライブ波形算出手段と、前記応答振動物理量波形と前記ドライブ波形とに基づいて、前記応答振動物理量波形を第2ディメンションに変換した応答第2振動物理量波形のスペクトルと前記ドライブ波形のスペクトルの比である第2ディメンション伝達関数の逆数としての制御特性を修正する制御特性修正手段とを備えている。
したがって、応答波形を振動物理量で検出しつつ、ディメンションの異なる対応振動物理量の波形に合致するように供試体を振動させることができる。
(16)(18)この発明に係る振動制御装置は、振動物理量検出センサからの応答振動物理量波形をフーリエ変換し、応答振動物理量PSDを得る応答振動スペクトル算出手段と、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDに基づいて、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDが合致するように、制御用振動物理量PSDを算出する制御用物理量PSD算出手段と、制御用振動物理量PSDから生成したスペクトルデータを逆フーリエ変換して制御用振動物理量波形を算出しこれを前記目標振動物理量波形としてドライブ波形算出手段に与える制御用振動物理量波形算出手段とを備えたことを特徴とする。
したがって、振動物理量にて与えられた目標PSDに応答振動物理量PSDが合致するように制御を行い、かつディメンションの異なる対応振動物理量の目標波形に応答波形が合致するように供試体を振動させることを可能とした装置を提供できる。
(19)この発明に係る振動制御装置は、制御特性修正手段が、前記ドライブ波形と前記応答振動物理量波形に基づいて第1ディメンション伝達関数を算出する伝達関数算出手段と、前記第1ディメンション伝達関数を第2ディメンション伝達関数に変換する伝達関数変換手段と、第2ディメンション伝達関数の逆数として制御特性を算出する逆伝達関数算出手段とを備えている。
したがって、応答波形を第1ディメンションの振動物理量で検出しつつ、ディメンションの異なる第2ディメンションの振動物理量の波形に合致するように供試体を振動させることができる。
(20)この発明に係る振動制御装置は、制御特性修正手段が、前記応答振動物理量波形を応答第2振動物理量波形に変換する応答振動物理量波形変換手段と、前記ドライブ波形と前記応答第2振動物理量波形とに基づいて、第2ディメンション伝達関数を算出する伝達関する算出手段と、第2ディメンション伝達関数の逆数として制御特性を算出する逆伝達関数算出手段とを備えている。
したがって、応答波形を第1ディメンションの振動物理量で検出しつつ、ディメンションの異なる第2ディメンションの振動物理量の波形に合致するように供試体を振動させることができる。
(21)(22)この発明に係る振動制御装置は、ドライブ波形に基づいて動作する振動発生機によって振動させられている供試体の振動物理量を検出する振動物理量検出センサと、前記振動物理量検出センサからの応答振動物理量波形をフーリエ変換し、応答振動物理量PSDを得る応答振動スペクトル算出手段と、応答振動物理量PSD、目標振動物理量PSD、応答振動物理量波形、ドライブ波形に基づいて、ドライブPSDを制御するドライブPSD制御手段と、所望の非ガウス特性を実現するように、ドライブPSDから生成したスペクトルデータを逆フーリエ変換して非ガウス化ドライブ波形を算出し、これをドライブ波形とするドライブ波形算出手段とを備えている。
したがって、ドライブ波形を非ガウス化しつつ、目標振動物理量PSDに合致した振動を、供試体4に与えることができる。
「応答振動スペクトル算出手段」は、実施形態においては、ステップS2がこれに対応する。
「制御用振動物理量PSD算出手段」は、実施形態においては、ステップS3がこれに対応する。
「PSD変換手段」は、実施形態においては、ステップS4がこれに対応する。
「ガウス性制御用対応物理量波形算出手段」は、実施形態においては、ステップS5がこれに対応する。
「非ガウス変換手段」は、実施形態においては、ステップS6がこれに対応する。
「位相抽出手段」は、実施形態においては、ステップS7がこれに対応する。
「波形算出手段」は、実施形態においては、ステップS8がこれに対応する。
「ドライブ波形算出手段」は、実施形態においては、ステップS11~S14やステップS51~S54がこれに対応する。
「伝達関数算出手段」は、実施形態においては、ステップS17、S57がこれに対応する。
「伝達関数変換手段」は、実施形態においては、ステップS18、S58がこれに対応する。
「逆伝達関数算出手段」は、実施形態においては、ステップS19、S59がこれに対応する。
「プログラム」とは、CPUにより直接実行可能なプログラムだけでなく、ソース形式のプログラム、圧縮処理がされたプログラム、暗号化されたプログラム等を含む概念である。
1.第1の実施形態
1.1機能構成
図1に、この発明の一実施形態による振動制御装置の機能構成図を示す。この実施形態において、アンプ80、振動発生機2、供試体4、振動物理量検出センサ6は、振動制御装置を構成するものではない。
振動発生機2には、試験対象である供試体4が載置されている。振動発生機2によって振動させられている供試体4の振動は、振動物理量検出センサ6によって検出される。振動物理量検出センサ6としては、変位センサ、速度センサ、加速度センサ、ジャークセンサなどを用いることができる。振動物理量検出センサ6からの応答振動物理量信号(変位信号、速度信号、加速度信号またはジャーク信号など)は、A/D変換器10によってディジタルデータである応答振動物理量波形に変換される。応答振動物理量波形は、振動の特性を、変位、速度、加速度またはジャークなどのディメンションにて表したデータとなる。
応答振動スペクトル算出手段20は、応答振動物理量波形を周波数解析(FFT)し、その応答振動物理量PSDを算出する。制御用対応振動物理量PSD算出手段30は、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDとに基づいて、制御用対応振動物理量PSDを算出する。
この明細書では、あるディメンションの振動物理量に対して、同じ振動の挙動を示す異なるディメンションの振動物理量を、対応振動物理量と呼んでいる。したがって、上述の応答振動物理量PSDと制御用対応振動物理量PSDは、ディメンションが異なるものである。
この実施形態においては、制御用対応振動物理量PSD算出手段30は、制御用振動物理量PSD算出手段32とPSD変換手段34を備えている。制御用振動物理量PSD算出手段32は、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDが合致するように、制御用振動物理量PSDを算出する。これは、目標振動物理量PSDを持つ振動を振動発生機2に与えても、振動発生機2、供試体4を含む系の伝達特性の存在とその非線形的な変動や制御系を設定する際の制御分解能の適否等によって、供試体4は目標振動物理量PSDとは異なる振動をするためである。このため、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDが合致するように、制御用振動物理量PSDを逐次修正して算出するようにしている。
PSD変換手段34は、このようにして算出された制御用振動物理量PSDを、異なるディメンションの制御用対応振動物理量PSDに変換する。したがって、この実施形態では、検出された振動物理量とは異なるディメンションの対応振動物理量にて制御が行われることになる。
制御用対応振動物理量波形算出手段40は、制御用対応振動物理量PSDに基づいて所望の非ガウス特性を実現するように、制御用対応振動物理量波形を算出する。
この実施形態においては、制御用対応振動物理量波形算出手段40は、ガウス性制御用対応物理量波形算出手段42、非ガウス変換手段44、位相抽出手段46、波形算出手段48を備えている。
ガウス性制御用対応物理量波形算出手段42は、制御用対応振動物理量PSDに一様乱数位相を与えて、ガウス性制御用対応物理量波形を算出する。非ガウス変換手段44は、ガウス性制御用対応物理量波形を所定の非ガウス特性に基づいて非ガウス化して非ガウス波形を算出する。たとえば、ZMNL関数などを用いて制御用対応物理量波形の振幅を変換したり、制御用対応物理量波形の振幅(絶対値)が所定値を超えないように制限する操作(クリッピング)などを行う。
位相抽出手段46は、この非ガウス波形の位相の周波数特性を算出する。波形算出手段48は、制御用対応振動物理量PSDとこの位相とに基づいて、非ガウス化制御用対応振動物理量波形を算出し、これを制御用対応振動物理量波形とする。
したがって、この制御用対応振動物理量波形のとおりに供試体4を振動させることができれば、目標振動物理量PSDを満足しつつ、対応振動物理量が非ガウス化された振動を、供試体4に与えることができる。
ドライブ波形算出手段50は、制御用対応振動物理量波形を、系の伝達関数を考慮した制御特性に基づいて変形し、ドライブ波形を算出する。
制御特性修正手段60は、応答振動物理量波形とドライブ波形に基づいて、上記制御特性を逐次更新する。
この実施形態では、制御特性修正手段60は、伝達関数算出手段62、伝達関数変換手段64、逆伝達関数算出手段66を備えている。伝達関数算出手段62は、応答振動物理量波形とドライブ波形に基づいて、振動物理量伝達関数を算出する。伝達関数変換手段64は、振動物理量伝達関数を対応振動物理量伝達関数に変換する。逆伝達関数算出手段66は、対応振動物理量伝達関数を逆数にし、対応振動物理量逆伝達関数を算出する。
上記のようにして修正された制御特性としての対応振動物理量逆伝達関数は、ドライブ波形算出手段50において、ドライブ波形を算出するために用いられる。
算出されたドライブ波形は、D/A変換器70によってドライブ信号に変換され、アンプ80によって増幅されて振動発生機2に与えられる。
1.2ハードウエア構成
以下では、加速度PSDが目標加速度PSDに合致し、限界値以上の速度が生じない等の条件のもとで、ランダム振動試験を行う場合について説明する。アンプ80の出力電圧に制限がある場合に、速度が限界値を超えないよう制御する要請がある。
図2に、振動制御装置のハードウエア構成を示す。振動発生機2は、供試体4を載置して固定するための振動台(図示せず)を有している。振動発生機2は、この振動台を振動させる。また、この振動を検出するため、供試体4に振動物理量検出センサとしての加速度センサ6が設けられている。
この実施形態では、加速度センサ6を用いて、応答振動物理量として加速度を得るようにしている。しかし、変位センサ、速度センサ、ジャークセンサを用いて、他のディメンションの変位、速度、ジャークを応答振動物理量として得るようにしてもよい。
CPU90には、メモリ92、タッチスクリーン・ディスプレイ94、不揮発性メモリ96、D/A変換器70、A/D変換器10が接続されている。なお、振動発生機2に対する出力は、D/A変換器70、アンプ80を介して、アナログ信号として振動発生機2に与えられる。また、加速度センサ6からの入力は、A/D変換器10を介して、ディジタルデータとして取り込まれる。
不揮発性メモリ96には、オペレーティングシステム97、制御プログラム98が記録されている。制御プログラム96は、オペレーティングシステム64と協働してその機能を発揮するものである。
1.3振動制御処理
図3、図4に、制御プログラム98のフローチャートを示す。以下では、図5Aに示すような目標加速度PSDを有する振動であって、速度振幅の絶対値が制限値を超えないような制限を加えた振動を、供試体4に与える場合の制御について説明する。目標加速度PSDや速度振幅の制限値は、ユーザによってタッチスクリーン・ディスプレイ94などから入力され、不揮発性メモリ96に記録されている。
CPU90は、A/D変換器10を介して、加速度センサ6からの応答加速度波形を所定時間分(1フレームと呼ぶ)取り込む(ステップS1)。さらに、CPU90は、この応答加速度波形をフーリエ変換(FFT)し、応答加速度PSDを算出する(ステップS2)。算出された応答加速度PSDの例を、図5Bに示す。なお、この実施形態では、1フレーム分の応答加速度波形について応答加速度PSDを算出したが、過去の所定フレーム分の応答波形について応答加速度PSDを算出するようにしてもよい。
続いて、CPU90は、応答加速度PSDと目標加速度PSDを比較し、両者が合致するように制御用加速度PSDを修正する(ステップS3)。たとえば、上記応答加速度PSDが得られた時の制御用加速度PSDが図5Cのようであったとする。すなわち、この制御用加速度PSDに基づいて生成した振動にて振動発生機2を動作させた時、図5Bに示す応答加速度PSDが得られたとする。
図5Bに示す応答加速度PSDは、目標加速度PSDと合致していない部分がある。CPU90は、周波数成分(ラインという)ごとに、その大小を比較する。周波数成分ごとに、応答加速度PSDが目標加速度PSDを下回っていれば制御用加速度PSDを大きくし、応答加速度PSDが目標加速度PSDを上回っていれば、制御用加速度PSD(図5C)を小さくする。CPU90は、このような修正を施して、図5Dに示すような新たな制御用加速度PSDを算出する。
次に、CPU90は、生成した制御用加速度PSDを積分し、異なるディメンションの制御用速度PSDに変換する。図6Aに、変換して得られた制御用速度PSDと元の制御用加速度PSDとを比較して示す。制御用速度PSDと元の制御用加速度PSDではディメンションが異なるが、比較のため、同じグラフ画面上に並べて示す。
CPU90は、この制御用速度PSDから速度スペクトルの振幅成分を決め、その各成分に一様乱数位相を与えて逆フーリエ変換(逆FFT)を行い、1フレーム分の制御用速度波形を得る(ステップS5)。一様乱数位相を与えているので、得られた制御用速度波形はガウス性を有している。
次に、CPU90は、このガウス性制御用速度波形を制限値にてクリッピングする(ステップS6)。図6Bに、ステップS5で得られたガウス性制御用速度波形およびクリッピングされた波形を示す。図6Bにおいて、制限値はTHUおよびTHLにて示している。制限値THU、THLを超える部分が平坦にされたクリッピング波形が得られることになる。
このように制御用速度波形を制限値にて強引にクリッピングすることにより得られるこのような速度波形にて、供試体4を振動させた時のアンプ80の電圧が限界値を超えてしまうことを防止することができるように思われる。しかし、現実には、クリッピングした箇所には元の波形には含まれていなかった制御帯域外の高周波成分が存在する。したがって、このような波形をその形を保ったまま波形制御することは不可能である。また、そもそも、この波形は、制御用速度PSDからずれたPSDを持つことになってしまう。したがって、図6Bの強引にクリッピングされた制御用速度波形をそのまま用いたのでは、図5Aに示す、目標加速度PSDを達成できないことになる。
そこで、この実施形態では、以下のようにしてこの問題を解決している。CPU90は、図6Bに示すクリッピングされた速度波形をフーリエ変換し、位相の周波数特性を算出する(ステップS7)。次に、CPU90は、図6Aの制御用速度PSDから決まる振幅スペクトルにこのクリッピングした波形の位相情報を与え、逆フーリエ変換(逆FFT)を行い、1フレーム分の非ガウス性制御用速度波形を得る(ステップS8)。この非ガウス性制御用速度波形を、波形制御のための目的波形である制御用速度波形とする。これにより、制御用速度PSDを維持しつつ、波形のピーク値が指定された制限値以内に保たれるようにしている。
なお、上記のようにして得た非ガウス性制御用速度波形が、制限値を超えていないかどうかを判断し、超えていれば当該非ガウス性制御用速度波形についてステップS6~S8を実行し、制限値を超えない非ガウス性制御用速度波形を得るまでこれを繰り返すようにしてもよい。なお、所定回数繰り返しても制限値を超えない非ガウス性制御用速度波形を得ることができない場合には、ステップS5に戻って、1フレーム分のガウス性制御用速度波形を生成するところからやり直してもよい。
また、ステップS6において、1フレーム分のガウス性制御用速度波形が制限値を超えておらずクリッピングを行う必要がなければ、これをそのまま制御用速度波形として用いるようにしてもよい。
図6Cは、このような処理を経て得られた制御用速度PSDを維持しつつ1フレーム中の波形のすべての点が制限値以内に入っている波形の一例である。この波形にはもはや単純なクリッピングの痕はなく、いわばソフトなクリッピング処理がなされている。
以上のようにして制御用速度波形を得ることができると、CPU90は、1フレーム分の制御用速度波形に窓関数を乗じる(ステップS9)。たとえば、図7Aに示すように、1フレームの開始時点と終了時点において「0」、中央時点において最大値をとるような関数を用いる。そして、この関数を一定の幅ずつずらせて重ねると、その合計値が全ての時点において「1」となるような関数が好ましい。
このとき用いる窓関数が持つべき性質については特許文献1に述べられている。また、窓関数を乗じて生成される波束状の波形データをフレームの幅の1/Mずつずらせて重ね合わせて行く処理を行うが、Mの値は用いている窓関数の特性により決まる一定の条件を満たすものでなければならない(特許文献1参照)。このように、窓関数と数値Mの選択には一定の自由があるが、通常はハニング窓関数が使われることが多く、その場合に可能なMの最小値は4である。本明細書でもM=4の場合を例示する。
窓関数を乗じた速度波形をずらせて重ね合わせる操作を続けることにより、離散的なスペクトルを有する1フレームずつの制御用速度波形(疑似ランダム波形)が、整合的につなぎ合わされて連続する制御用速度波形が生成される。この波形データは周期を持たないから真の不規則波形(真ランダム波形)であり、したがって連続的なスペクトルを有するものとなる。また、フレームの開始時点と終了時点において波形が滑らかに「0」に収束するので、接続点において余分な周波数成分がもたらされない。
CPU90は、このようにして窓関数を乗じた制御用速度波形を1/4フレームずらして重ね合わせる(ステップS10)。したがって、ステップS1~S10の処理を繰り返すと、図7B~7Eに示すように、1/4フレームずれた波形が重ね合わされて、図7Fに示すような連続した制御用速度波形を得ることができる。
なお、連続した制御用速度波形の1フレームが、制限値を超えていないかどうかを判断し、超えていれば再度、制御用速度波形を算出し直すようにしてもよい。
続いて、CPU90は、連続した制御用速度波形から1フレーム分を取り出す(ステップS11)。ただし、引き続いて実施するドライブ信号生成過程をそのまま1フレーム単位で実施するとフレームの継ぎ目に不連続な箇所ができる可能性がある。そこで、取り出し開始点を1/2フレームずつずらしながら取り出した波形データにハニング窓を掛けた波形に制御特性としてのインパルス応答を畳み込み演算してドライブ信号波形を作り、それらを再び順に1/2フレームずつずらしながら重ね合わせてつないで行くオーバラップ処理を行うようにしている(ステップS12、S13、S14)。
CPU90は、取り出した1フレーム分の制御用速度波形に、制御特性としてのインパルス応答を畳み込み演算してドライブ信号を生成する(ステップS13)。この実施形態では、制御特性として、振動発生機2、供試体4を含む系の伝達関数の逆特性を用いている。つまり、制御用速度波形にて供試体4を振動させるためには、制御用速度波形に伝達関数の逆特性に対応するインパルス応答を畳み込み演算した波形をドライブ波形として与えることで、これを実現できるからである。なお、制御特性として伝達関数を用いてもよい。
CPU90は、前記の窓関数を乗じて1/2フレームずつずらした状態で重ね合わせるオーバラップ処理を行いながら、このようにして得たドライブ信号をつなぎ合わせていく(ステップS12、S14)。このようにして連続したドライブ波形を得て、これを出力D/A変換器70を介してアンプ80に出力する(ステップS15)。
したがって、アンプ80によって増幅されたドライブ信号が振動発生機2に与えられ、供試体4を振動させることができる。なお、この際、制御用速度波形において制限値を超えないような処理をしているので、対応するアンプ80の最大電圧を超えるおそれがない。
次に、CPU90は、加速度センサ6からの応答加速度波形を取得する(ステップS16)。与えたドライブ波形とこれに対応する応答加速度波形に基づいて、系の加速度伝達関数を算出する(ステップS62)。すなわち、応答加速度信号をFFTして応答加速度スペクトル(位相情報も含む)を算出し、ドライブ波形をFFTしてドライブスペクトル(位相情報も含む)を算出する。両者から、加速度スペクトルとドライブスペクトルの比として加速度伝達関数を算出する。
次に、この加速度伝達関数を積分して速度伝達関数に変換する(ステップS18)。すなわち、速度スペクトルとドライブスペクトルの比としての速度伝達関数に変換する。算出した速度伝達関数の逆数を制御特性として更新する(ステップS19)。この制御特性は、次のドライブ信号生成の際に用いられることになる。
一方、前記応答加速度スペクトルを二乗した量を分析の周波数分解能Δfで割ったものを、ランダム振動試験条件が定める所定の統計的自由度を持つよう平均化を行い、応答加速度PSDを算出する(ステップS2)。この応答加速度PSDを目標加速度PSDと比較し、誤差がゼロに近づくように制御用加速度PSDデータを修正する(ステップS3)。
CPU90は、以上の処理を繰り返し、所望の加速度PSDを有するガウス性加速度振動であって、かつ対応する速度波形においては非ガウス性を有する振動を供試体4に与えることができる。
以上説明した操作が順に適用されて、非ガウス性ランダム振動制御器が形成される。図8A~Hには、本発明の技術によって従来のランダム振動制御器の機能に新しくもたらされる機能を端的に示した例を掲げる。これは、速度波形のすべてのデータが目標速度PSDから決まる標準偏差値σ(DC成分がないので、RMS値と一致する)で測って±2.7σ相当の値を超えないようにピーク制限した場合のデータである。図8Aは、図6Aの目標加速度PSDデータを元に上述の操作によって生成した目標加速度波形である。+3σに相当するレベルと-3σに相当するレベルとが点線で表示されているが、加速度信号はこれらのレベルの外側の領域にも分布していることから本信号はガウス性であることが窺われる。
一方、図8Bは、上述の操作によって生成した速度の±2.7σ相当レベルでピーク制限をした速度波形である。すべての速度波形データが±3σレベルを示す点線の内側、±2.7σ相当レベル以内の領域に分布していることが見て取れる。この信号は非ガウス性である。
図8Cは、上記の目標加速度波形と目標速度波形をそれぞれヒストグラム分析して振幅確率密度関数(PDF)を求め、ガウス分布の理論的なPDFと一緒に重ね描きしたものである。目標加速度波形のPDFはほぼガウス分布のPDFと一致するが、目標速度波形のPDFはガウス分布からの逸脱があることを明瞭に示している。とくに、±2.7σの外側にはデータ点が存在しないことが、本件の目的である速度ピーク値の制限が達成できていることを如実に示している。
さて、本発明の非ガウス性ランダム制御器では、この目標速度波形が波形として変化しないように、上述した波形制御の手法によって目標速度波形に対するイコライゼーション処理が実施され、ドライブ波形が生成される。ドライブ波形のデータ例を図8Dに掲げる。このドライブ波形がアンプ80に対して出力され、アンプが振動発生機2を駆動して、加振テーブル4上の制御点6に設置した加速度センサにより応答加速度波形として検出される。図8Eに応答加速度波形の例を掲げる。この信号は±3σのレベルの外側の領域にも分布していることから本信号はガウス性であることが窺われる。
一方、図8Fには、速度目標波形を波形制御の手法でイコライズして出来たドライブ波形が被制御系を通過する力学過程を記述する微分方程式系を立て、これを数値積分して得られたものとしての応答速度波形データを掲げる(なお、図8Eの応答加速度波形データもこのようにして計算したものである)。この図に見るように波形制御の思惑はうまく行っていて、すべての応答速度波形データが±3σレベルを示す点線の内側、±2.7σ相当レベル以内の領域に分布していることが見て取れる。この信号は非ガウス性である。
図8Gは、これら応答加速度波形と応答速度波形をヒストグラム分析した結果のPDFを重ね描きしたものである。応答加速度波形のPDFはガウス分布のPDFとほぼ一致するが、応答速度波形のPDFはガウス分布からの逸脱があることを明瞭に見て取れる。とくに、±2.7σ付近の外側にはデータ点が存在しないことから、波形制御がうまく行っていること、そしてその結果本件の目的である速度ピーク値の制限が達成できていることを如実に示している。
最後に図8Hとして、応答加速度PSD(実線)を、目標加速度PSD(点線)および被制御系の特性をイコライズする特性を持つように制御されたドライブ電圧PSD(一点鎖線)と重ね描きした図を示す。このように、応答加速度波形はガウス性を保ちそのPSDは目標加速度PSD(点線)に良い一致を示す一方、図8F、8Gに見るように、応答速度波形はすべてのデータ点が指定制限値以内の領域内に収まる非ガウス性を持ったランダム波として再現されている。
正弦波など波形としての性質が確定論的に定まっている波形においては、その性質を速度で規定しようが加速度で規定しようが、同じ振動をディメンションの異なる運動学的量で見ているだけであって、実体としての振動は同じであることは言うまでもない。しかし、いまここで扱っているランダム振動は確定論的振動ではなく、その波形の形は時間の経過と共に変化し全く同じ波形は決して現れない不規則振動であり確率論的な性質のものである。ランダム振動試験は、当該の実振動環境を生み出すものとしての定常確率過程の存在を仮定し、それを目標加速度PSDで指定するという形で再現すべき振動の規定を実施している。すなわち、振動の加速度振幅スペクトル(と加速度波形のガウス性と)だけが規定されているのであって、ランダム振動は位相における大きな自由度を保持していると言えるだろう。われわれがこの発明で行ったことは、この位相の広大な自由度を利用して、加速度波形としてはガウス性を持つが、例えば速度波形としては2.7σを超えるピーク値は決して出現しないという意味で非ガウス性であるような振動を作り出すということである。このようなことが、不規則波形においては実現可能である。
1.4その他
(1)上記実施形態では、図1に示すように、制御用対応振動物理量PSD算出手段30を、制御用振動物理量PSD算出手段32、PSD変換手段34によって構成している。すなわち、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDとから制御用振動物理量PSDを算出し、これに基づいて制御用対応振動物理量PSDを得るようにしている。
しかし、図9に示すように、変換手段31、変換手段33、制御用応答振動物理量PSD算出手段35によって、制御用対応物理量PSD算出手段30を構成してもよい。目標振動物理量PSDは、変換手段31によって目標対応振動物理量PSDに変換される。応答振動物理量PSDは、変換手段33によって応答対応振動物理量PSDに変換される。
制御用応答振動物理量PSD算出手段35は、目標対応振動物理量PSDと応答対応振動物理量PSDが等しくなるように制御用対応振動物理量PSDを算出する。
(2)上記実施形態では、図1に示すように、制御用対応振動物理量波形に基づき制御特性を考慮してドライブ波形を算出するようにしている。
しかし、図10に示すように、制御用対応振動物理量波形を波形変換手段51によって、微分(積分)して制御用振動物理量波形に変換してもよい。たとえば、制御用速度波形であれば、微分することによって制御用加速度波形を得ることができる。
制御手段53において、このようにして変換して得た制御用振動物理量波形に基づき制御特性を考慮してドライブ波形を得ることができる。
なお、この場合の制御特性は、ドライブ波形と応答物理量波形とに基づいて得られた応答物理量伝達関数の逆数を用いる。したがって、図10に示すように、伝達関数算出手段62と逆伝達関数算出手段66によって制御特性修正手段60を構成する。
(3)上記実施形態では、図1に示すように、ガウス性制御用対応物理量波形算出手段42、非ガウス変換手段44、位相抽出手段46、波形算出手段48によって制御用対応振動物理量波形算出手段40を構成している。すなわち、非ガウス化した制御用対応振動物理量波形の位相情報を抽出し、制御用対応振動物理量PSDとこの位相情報とに基づいて制御用対応振動物理量波形を算出するようにしている。これにより、制御用対応振動物理量PSDを維持しつつ(つまり目標振動物理量PSDを維持しつつ)非ガウス性を導入することを可能にしている。
しかし、目標振動物理量PSDを直接的に正確に維持しなくとも良い場合には、図11に示すように、制御用対応振動物理量PSDを直接制御対象としてPSD制御を実施し、非ガウス変換手段44によって変換した非ガウス性制御用対応振動物理量波形をそのまま制御用対応振動物理量波形として用いてもよい。
(4)上記実施形態では、図1に示すように、伝達関数算出手段62、伝達関数変換手段64、逆伝達関数算出手段66によって制御特性修正手段60を構成している。
しかし、制御特性修正手段60の部分を、図16に示すように、変換手段61、伝達関数算出手段62、逆伝達関数算出手段66にて構成するようにしてもよい。応答物理量波形を、変換手段61によって応答対応物理量波形に変換する。伝達関数算出手段62は、ドライブ波形と応答対応物理量波形に基づいて、対応物理量伝達関数を算出する。逆伝達関数算出手段66は、これを逆数にして制御特性とする。
(5)上記実施形態では、非ガウス変換手段44における非ガウス化の一例として、クリッピングを行う場合を例として説明した。しかし、図12に例を示すようなZMNL関数を用い、ガウス性制御用対応振動物理量波形の振幅を変換して非ガウス化波形を算出するようにしてもよい。
また、目的とする非ガウス特性(クルトシスやスキューネスなど)を与え、これに合致するような非ガウス性波形を生成するようにしてもよい。
(6)上記実施形態では、制御用速度波形を非ガウス化(クリッピングなど)する場合について説明した。しかし、制御用変位波形を非ガウス化(クリッピングなど)する場合にも同様に適用することができる。
たとえば、クリッピングにより制御用変位波形の最大値を制限することにより、振動発生機2の最大変位を超えないように振動試験を行うことが可能となる。なお、ステップS4において、制御用加速度PSDを2回積分することにより、制御用変位PSDを得て、これに基づいて制御用変位波形を得ることができる。
同様に、制御用加速度PSDを微分すれば、制御用ジャークPSDを得ることができ、これに基づいて制御用ジャーク波形を得ることができる。したがって、ジャーク波形をクリッピングするような制御を行うことが可能である。
さらに、上記では、応答振動物理量として応答加速度波形を得るようにしている。しかし、応答速度波形、応答変位波形、応答ジャーク波形など他のディメンションの応答波形を得るようにしてもよい。
(7)上記実施形態では、目標PSDとして目標加速度PSDが与えられる場合について説明した。しかし、その他のディメンションの振動物理量が目標PSDとして与えられる場合にも同様に適用することができる。
(8)上記実施形態では、ステップS10、ステップS11において、1/4フレーム、1/2フレームずつずらして重ね合わせるようにしている。しかし、1/Mフレームずつずらして重ね合わせるようにしてもよい。
(9)上記実施形態では、制御用速度波形に基づいてドライブ波形を算出し、応答加速度波形とドライブ波形とに基づいて速度波形伝達関数(ドライブ波形のスペクトルと応答速度波形のスペクトルとの比)を算出しその逆数を制御特性としている。
伝達関数として何を用いるかは、応答振動物理量波形としていずれのディメンションの振動物理量を検出するか、制御用振動対応物理量波形としていずれのディメンションの振動物理量を用いるかによって変わってくる。
たとえば、制御用変位波形に基づいてドライブ波形を算出し、センサ6によって応答加速度波形を得る場合であれば、応答加速度波形とドライブ波形とに基づいて変位波形伝達関数(応答変位波形のスペクトルの、ドライブ波形のスペクトルに対する比)を算出しその逆数を制御特性とすればよい。応答加速度PSDから応答変位PSDへの変換は、2回積分を行えばよい(ただし、PSDは振幅スペクトルの2乗量であることを考慮せねばならない)。
なお、同一の振動についての「変位」「速度」「加速度」「ジャーク」は、図13に示すように、積分演算または微分演算を行うことによって、互いに変換することができる。したがって、センサ6によって検出する応答振動物理量と制御用対応振動物理量のディメンションが異なっていても、変換を行って適切な制御特性を得ることが可能である。
(10)上記実施形態では、振動発生機2により一方向に加振するための振動制御装置について説明した。しかし、複数方向に加振する多軸振動制御装置についても同様に適用することができる。
(11)上記実施形態では、目標振動物理量PSDと異なるディメンションの制御用対応振動物理量PSDを生成して制御を行っている。しかし、目標振動物理量PSDと同じディメンションの制御用振動物理量PSDを生成して制御してもよい。この場合、PSD変換手段34は不要である。
(12)上記各変形例は、その本質に反しない限り、互いに組み合わせ、また他の実施形態にも適用可能である。
2.第2の実施形態
2.1機能構成
図14に、この発明の他の実施形態による振動制御装置の機能ブロック図を示す。この実施形態においては、与えられた目標波形に合致して供試体4が振動するように制御を行うものである。ただし、供試体4に取り付けられたセンサ6の検出する振動物理量のディメンションとは異なるディメンションにて、目標波形が与えられている。すなわち、応答振動物理量波形とは異なるディメンションにて、目標対応振動物理量波形が与えられている。
ドライブ波形算出手段50は、与えられた目標対応振動物理量波形に基づいて、系の伝達関数の逆数である制御特性を用いてドライブ波形を算出する。このドライブ波形は、D/A変換器70、アンプ80を介して、振動発生機2に与えられる。
振動発生機2には、試験対象である供試体4が載置されている。振動発生機2によって振動させられている供試体4の振動は、振動物理量検出センサ6によって検出される。振動物理量検出センサ6としては、変位センサ、速度センサ、加速度センサ、ジャークセンサなどを用いることができる。振動物理量検出センサ6からの応答振動物理量信号(変位信号、速度信号、加速度信号またはジャーク信号など)は、A/D変換器10によってディジタルデータである応答振動物理量波形に変換される。応答振動物理量波形は、振動の特性を、変位、速度、加速度またはジャークなどのディメンションにて表したデータとなる。
制御特性修正手段60の伝達関数算出手段62は、応答振動物理量波形とドライブ波形に基づいて、振動物理量波形伝達関数を算出する。すなわち、応答振動物理量波形のスペクトル(位相情報を含む)を算出し、ドライブ波形のスペクトル(位相情報を含む)を算出し、両者の比を振動物理量波形伝達関数として算出する。
伝達関数変換手段64は、これを微分(または積分)して、目標波形の振動物理量のディメンションと同じディメンションに変換し、対応振動物理量伝達関数を得る。逆伝達関数算出手段66は、この逆数を算出してドライブ波形算出のための制御特性とする。
以上のようにして、センサ6のディメンションと異なるディメンションの目標波形が与えられた場合であっても、その目標波形に合致するように供試体を振動させるように制御することができる。
2.2ハードウエア構成
ハードウエア構成は、図2と同様である。
2.3振動制御処理
図15に、制御プログラム98(図2参照)のフローチャートを示す。ここでは、振動物理量検出センサ6が速度センサであり、目標振動物理量波形として目標ジャーク波形が与えられる場合を例として説明する。
CPU90は、目標ジャーク波形から1フレーム分を取り出す(ステップS51)。ただし、1/2フレームずつずらしながら取り出すようにしている。
CPU90は、取り出した1フレーム分の目標ジャーク波形に、ハニング窓関数を掛けた波形データに、制御特性であるインパルス応答を畳み込み演算してドライブ信号を生成する(ステップS52、S53)。この実施形態では、制御特性として、振動発生機2、供試体4を含む系の伝達関数の逆特性を用いている。目標ジャーク波形にて供試体4を振動させるためには、制御用速度波形に伝達関数の逆特性に対応するインパルス応答を畳み込み演算した波形をドライブ波形として与えることで、これを実現できるからである。
CPU90は、このようにして窓関数を乗じて1/2フレームずつずらした状態で得た1フレーム分のドライブ信号を、ふたたび1/2フレームずつずらした状態で重ね合わせる(オーバラップ処理、ステップS52、S54)。このようにして連続したドライブ波形を得て、これを出力D/A変換器70を介してアンプ80に出力する(ステップS55)。
したがって、アンプ80によって増幅されたドライブ信号が振動発生機2に与えられ、供試体4を振動させることができる。
次に、CPU90は、加速度センサ6からの応答速度波形を取得する(ステップS56)。与えたドライブ波形とこれに対応する応答速度波形に基づいて、系の速度伝達関数を算出する(ステップS57)。すなわち、応答速度信号をFFTして速度スペクトル(位相情報も含む)を算出し、ドライブ波形をFFTしてドライブスペクトル(位相情報も含む)を算出する。両者から、速度スペクトルとドライブスペクトルの比として速度伝達関数を算出する。
次に、この速度伝達関数をそのまま周波数領域で2回微分してジャーク伝達関数に変換する(ステップS58)。すなわち、ジャーク・スペクトルとドライブ・スペクトルの比としてのジャーク伝達関数に変換する。算出したジャーク伝達関数の逆数を制御特性として更新する(ステップS59)。この制御特性は、次のドライブ信号生成の際に用いられることになる。
CPU90は、以上の処理を繰り返し、与えられた目標ジャーク波形の特性を有する振動にて供試体4を振動させることができる。
2.4その他
(1)上記実施形態では、図14に示すように、伝達関数算出手段62、伝達関数変換手段64、逆伝達関数算出手段66によって制御特性修正手段60を構成している。
しかし、図16に示すように、変換手段61、伝達関数算出手段62、逆伝達関数算出手段66にて構成するようにしてもよい。応答物理量波形を、変換手段61によって応答対応物理量波形に変換する。伝達関数算出手段62は、ドライブ波形と応答対応物理量波形に基づいて、対応物理量伝達関数を算出する。逆伝達関数算出手段66は、これを逆数にして制御特性とする。
(2)上記実施形態における波形制御(目標波形のとおりに供試体を振動させる制御)は、PSD制御の制御ループの中に用いることもできる。たとえば、図17に示すように、目標振動物理量PSDのディメンションと異なるディメンションにて波形制御を行うことが可能となる。なお、図17においては、図1と異なり、非ガウス化の制御を行っていない。
(3)図18に、他の実施形態による機能ブロック図を示す。この実施形態では、ドライブ波形を非ガウス性(ピーク値を制限するなど)にする処理を行っている。
この実施形態においては、与えられた目標振動物理量PSDに合致して供試体4が振動するように制御を行うものである。供試体4に取り付けられたセンサ6の検出する振動物理量のディメンションと同じディメンションにて、目標PSDが与えられている。
振動発生機2には、試験対象である供試体4が載置されている。振動発生機2によって振動させられている供試体4の振動は、振動物理量検出センサ6によって検出される。振動物理量検出センサ6としては、変位センサ、速度センサ、加速度センサ、ジャークセンサなどを用いることができる。振動物理量検出センサ6からの応答振動物理量信号(変位信号、速度信号、加速度信号またはジャーク信号など)は、A/D変換器10によってディジタルデータである応答振動物理量波形に変換される。応答振動物理量波形は、振動の特性を、変位、速度、加速度またはジャークなどのディメンションにて表したデータとなる。
応答振動スペクトル算出手段20は、応答振動物理量波形を周波数解析(FFT)し、その応答振動物理量PSDを算出する。ドライブPSD制御手段31は、応答振動物理量PSD、目標振動物理量PSD、応答振動物理量波形、ドライブ波形に基づいて、ドライブPSDを算出する。
この実施形態においては、ドライブPSD制御手段31は、制御用振動物理量PSD算出手段30、ドライブPSD算出手段33、伝達特性算出手段35を備えている。制御用振動物理量PSD算出手段30は、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDが合致するように、制御用振動物理量PSDを算出する。これは、目標振動物理量PSDを持つ振動を振動発生機2に与えても、振動発生機2、供試体4を含む系の伝達特性に非線形的な特性が含まれている場合やそもそも制御分解能不足である場合、また実測PSDデータに含まれる統計的ばらつきなど諸般の理由によって、供試体4は目標振動物理量PSDのものとは異なる振動をするためである。このため、応答振動物理量PSDと目標振動物理量PSDが合致するように、制御用振動物理量PSDを逐次修正して算出するようにしている。
伝達特性算出手段35は、応答振動物理量波形とドライブ波形とに基づいて、系の伝達特性H(伝達関数)を算出する。ドライブPSD算出手段33は、制御用振動物理量PSDに基づいて、伝達特性Hを考慮して、ドライブPSDを算出する。すなわち、制御用振動物理量PSDに、1/H2を乗じることでドライブPSDを得る。
ドライブ波形算出手段90は、このドライブPSDに基づいて、非ガウス性のドライブ波形を生成する。
この実施形態では、ドライブ波形算出手段90は、ガウス性ドライブ波形算出手段92、非ガウス変換手段94、位相抽出手段96、波形算出手段98を備えている。
ガウス性ドライブ波形算出手段92は、ドライブPSDに一様乱数位相を与えて、ガウス性ドライブ波形を算出する。非ガウス変換手段94は、ガウス性ドライブ波形を所定の非ガウス特性に基づいて非ガウス化して非ガウス波形を算出する。たとえば、ZMNL関数などを用いてドライブ波形の振幅を変換したり、ドライブ波形の振幅(絶対値)が所定値を超えないように制限する(クリッピング)などを行う。
位相抽出手段96は、この非ガウス波形の位相の周波数特性を算出する。波形算出手段98は、ドライブPSDとこの位相とに基づいて、非ガウス化ドライブ波形を算出し、これをドライブ波形とする。
したがって、ドライブ波形を非ガウス化しつつ、目標振動物理量PSDに合致した振動を、供試体4に与えることができる。
なお、上記では、制御用振動物理量PSDを算出し、これに基づいてドライブPSDを算出するようにしている。しかし、目標振動物理量PSD、応答振動物理量PSD、伝達関数に基づいて、直接的にドライブPSDを算出するようにしてもよい。
また、ドライブ波形算出手段90において、その処理内容は制御用対応振動物理量波形算出手段40と同じである。したがって、制御用対応振動物理量波形算出手段40に関する変形例を適用することができる。
(4)上記各変形例は、その本質に反しない限り、互いに組み合わせ、また他の実施形態にも適用可能である。