JP7007539B2 - N-アシル化ホモセリンラクトン(ahl)ラクトナーゼ、それを用いた水処理剤及び水処理方法 - Google Patents
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Description
AHL分解酵素は、ラクトン環を開裂するAHLラクトナーゼと、アシル基を切断するアシラーゼに分類される。
公知のAHL分解酵素の多くは、AHL分解菌がその菌体内に産生する菌体内酵素である。その菌体内酵素で分解されるAHLは、AHL分解菌の菌体内に浸透したAHLに限定され、菌体外に存在するAHLは分解されない。
酵素は蛋白質であることから、自然界では、微生物が産生する蛋白質分解酵素によって分解され易く、また、紫外線や熱、あるいは酸化剤等によって失活し易い。産業用途に用いる酵素としては、安定な構造を有するものが要望され、一般には熱に対する安定性(以下、耐熱性)がその指標とされる。
非特許文献3の上記AHLラクトナーゼは、産業用途に用いる酵素としては、耐熱性が不十分である。
さらには、耐熱性酵素として、Thermaerobacter marianensisが産生するAHLラクトナーゼであって、蛋白質の分泌に必要なN末端シグナルペプチド様構造を有さないことから菌体内蛋白質とみられるものが報告されている(非特許文献6)。本菌株は70℃を超える生育環境を必要とするため、通常の水処理プロセスでの利用は困難である。
以上のように、これまでに報告されているAHLラクトナーゼの多くは菌体内酵素であり、産業用途に用いる酵素としては適さない。また、菌体外酵素として報告されているAHLラクトナーゼも、耐熱性の観点から、産業用途に用いる酵素としては適さない。
本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]N-アシル化ホモセリンラクトン(AHL)ラクトナーゼを菌体外に分泌する細菌由来のAHLラクトナーゼであって、50℃、10分間の熱処理後の残存活性が80%以上である熱安定性を有するAHLラクトナーゼ。ここで、「AHLラクトナーゼを菌体外に分泌する細菌由来のAHLラクトナーゼ」には、AHL分解菌が産生し菌体外に分泌したAHLラクトナーゼの他に、AHL分解菌の菌体からAHLラクトナーゼ遺伝子を分離後、発現ベクターに連結して、大腸菌等の宿主に導入し、得られた組換え菌を用いて産生させたAHLラクトナーゼも含まれる。
[2]前記細菌がスフィンゴピクシス属に属する、[1]に記載のAHLラクトナーゼ。
[3]配列番号1に記載のアミノ酸配列との同一性が90%以上のアミノ酸配列を有する、[1]又は[2]のAHLラクトナーゼ。
[4]配列番号2に記載のアミノ酸配列との同一性が90%以上のアミノ酸配列を有する、[1]又は[2]のAHLラクトナーゼ。
[5][1]~[4]の何れかに記載のAHLラクトナーゼ又は当該AHLラクトナーゼを産生するAHL分解菌を含有する水処理剤。
[6][5]に記載の水処理剤を用いる水処理方法。
[7]さらに水処理機器を併用する[6]に記載の水処理方法。
当該AHLラクトナーゼあるいは当該AHLラクトナーゼを産生するAHL分解菌を水処理系内に導入することにより、水処理系内のAHLを常時分解し、バイオフィルムによる障害を防止することができる。
当該AHLラクトナーゼを利用することにより、従前のAHLラクトナーゼやAHL分解菌を用いる場合と比較して、安定的かつ効率的に、水処理系内のAHLを分解することができる。
アミノ酸配列の同一性は、ラクトナーゼ遺伝子の塩基配列から蛋白質の一次構造(アミノ酸配列)を求め、相互比較することで判断することができる。相互比較は、一般的に容易に利用可能な配列比較プログラムの補助によって行うことができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列の間の同一性(%)を計算し得る。
受託番号は、以下の通り。
EG6株:NITE P-02355
FD7株:NITE P-02356
EG6株及びFD7株は、30℃前後の生育環境、好ましくは25~30℃で効率よく増殖させることができる。
本発明のAHLラクトナーゼの作用最適温度は60℃であり、50℃、10分間の熱処理後の残存活性が80%以上である熱安定性を有する。
水処理系に分泌されたAHLラクトナーゼは、水処理系内のAHLを分解してバイオフィルムによる障害を防止する。
EG6株及びFD7株から菌体外に分泌されるAHLラクトナーゼは水処理系内で拡散するため、従来のAHL分解菌がその菌体内に産生する菌体内酵素を利用した処理と比べて、効率の良い処理が可能となる。
従来のAHL分解菌がその菌体内に産生する菌体内酵素は、AHL分解菌の菌体内に蓄積されるため産生量に限界があるが、本発明のAHLラクトナーゼは、菌体内に蓄積されないため、菌体の細胞に負担がかからず、突然変異等の育種により酵素産生量を大きく増加させることも可能である。
AHL量の定量には、HPLCを利用することができる(Applied Environmental Microbiology,76巻、2524-2530頁、2010年)。
具体的には、レポーター細菌を混合したLB寒天培地にAHLを含むペーパーディスクを置くと、AHLに応答してレポーター細菌は紫色色素(ビオラセイン)を生産することから、紫色の強度を指標としてAHLの量を半定量することができる。未反応のAHLが示す紫色色素の強度に対して、AHLラクトナーゼでの処理により色調がどれだけ低下したかを比較評価することで、分解性を半定量することができる。
こうしたレポーター細菌株としては、短鎖AHL(C4~C8:アシル基の鎖長を示す)に応答するCV026株(Microbiology誌、143巻、3703-3711頁、1997年)や長鎖AHL(C8~C18)に応答するVIR07株(FEMS Microbiol. Lett.誌、279巻、124-130頁、2007年.)を利用することができる。
実施例1では、EG6株を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
実施例2では、FD7株を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例1では、Bacills sp.を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例2では、Solibacillus silvestris.を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例3では、Chryseobacterium sp.を1/5濃度のTBS培地で30℃の条件下24時間培養した。
比較例4では、菌を無添加とした。
培養液は15,000×g 、10分間の遠心分離を行い、菌体と培養上清に分画した。菌体はもとの培養液と等量となるようにPBS緩衝液に懸濁し、超音波破砕によって菌体抽出液を得た。
各画分のAHLラクトナーゼ活性を、レポーター細菌を用いたアッセイにより評価した結果を表1に示す。
前記のように、AHLがAHLラクトナーゼによって分解されるとクロモバクテリウムの色素生産性が低くなり呈色が弱くなる。
比較例1~3では、菌体外のAHLラクトナーゼ活性は殆ど認められず、菌体抽出液にAHLラクトナーゼ活性が認められ、菌体内酵素であることが確認された。
EG6株及びFD7株からAHLラクトナーゼ遺伝子をクローニングし、得られた遺伝子の塩基配列を基に、AHLラクトナーゼの一次構造を決定した。
さらに上記比較例1~3で用いた3種類のAHLラクトナーゼを含めて、一次構造の比較を行った。比較結果を表2に示す。
このように、EG6株由来のAHLラクトナーゼとFD7株由来のAHLラクトナーゼは一次構造が非常に似ていたのに対し、他の3種類のAHLラクトナーゼは、EG6株由来のAHLラクトナーゼ及びFD7株由来のAHLラクトナーゼとの同一性が30%以下と低く、一次構造が大きく異なることが確認された。
AHLラクトナーゼC末端に6個のヒスチジン残基(His-tag)を付加するように設計されたDNAプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により合成したEG6株(実施例1)及びFD7株(実施例2)由来のAHLラクトナーゼ遺伝子を、融合蛋白質発現ベクターpMAL-c2X(ニューイングランドバイオラボ社)に連結し、それぞれ大腸菌DH5αに導入した。得られた培養液より調整した菌体抽出液より、His60 Ni Gravity Column Purification Kit(タカラバイオ社)を用いて、His-tag付加AHLラクトナーゼ蛋白質をSDS-PAGEで単一蛋白質として分取した。
Bacills sp.(比較例1)、Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のラクトナーゼは、AHLラクトナーゼ遺伝子をPCR合成しpMAL-c2Xに連結し、それぞれ大腸菌DH5αに導入した。各培養液より調整した菌体抽出液より、MBPTrapキット(GEヘルスケア社)を用いて、マルトース結合蛋白-AHLラクトナーゼ融合蛋白質をSDS-PAGEで単一蛋白質として分取した。
なお、発現に用いた各遺伝子は全て塩基配列を解読し、元株の染色体由来の遺伝子配列と同一であることを確認して利用した。
得られた酵素水溶液は、50℃若しくは60℃で10分間熱処理した後、急冷した。
熱処理した酵素水溶液は2mMのC8-ホモセリンラクトン(AHLの1種。以下、C8-HSL)と30℃の温度条件で3分間反応させ、残留するC8-HSL濃度をHPLC(Mightysil PR-18GPカラム)で算出し、残存活性を定量した。定量結果を表3に示す。
FD7株(実施例2)由来のAHLラクトナーゼでは、50℃で10分間の熱処理後に80%以上の残存活性が確認された。
Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のAHLラクトナーゼは、何れの温度条件でも残存活性が低く、耐熱性に劣ることが確認された。
Bacills sp.(比較例1)由来のAHLラクトナーゼでは、50℃で10分間の熱処理後に80%以上の残存活性を示し、FD7株同等の耐熱性を有することが示されたが、表1に示したように、Bacills sp.(比較例1)由来のAHLラクトナーゼは、菌体内酵素であるため、水処理系内で使用した場合に水処理系内に拡散させることができず、菌体外酵素を用いた場合のような効率の良い処理を行うことはできない。
EG6株(実施例1)、FD7株(実施例2)、Bacills sp.(比較例1)、Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のAHLラクトナーゼの作用最適温度を求めた。
20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃の各温度条件で、5分間、C8-HSLを分解して、上述の方法でHPLCにより、C8-HSL濃度を求めてAHLラクトナーゼ活性を調べて、AHLラクトナーゼの作用最適温度を評価した。評価結果を表4に示す。
Bacills sp.(比較例1)、Solibacillus silvestris.(比較例2)、Chryseobacterium sp. (比較例3)由来のAHLラクトナーゼの作用最適温度は、それぞれ、40℃、50℃、40℃であり、EG6株(実施例1)、FD7株(実施例2)由来のAHLラクトナーゼは、熱に対して安定な酵素であることが確認された。
Claims (5)
- N-アシル化ホモセリンラクトン(AHL)ラクトナーゼを菌体外に分泌する細菌由来のAHLラクトナーゼであって、50℃、10分間の熱処理後の残存活性が80%以上である熱安定性を有するAHLラクトナーゼであって、
配列番号1又は配列番号2に記載のアミノ酸配列との同一性が90%以上のアミノ酸配列を有する、AHLラクトナーゼ。 - 前記細菌がスフィンゴピクシス属に属する、請求項1に記載のAHLラクトナーゼ。
- 請求項1又は2に記載のAHLラクトナーゼ又は当該AHLラクトナーゼを産生するAHL分解菌を含有する水処理剤。
- 請求項3に記載の水処理剤を用いる水処理方法。
- さらに水処理機器を併用する請求項4に記載の水処理方法。
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