JP7004726B2 - イオン放射線治療計画における散乱のモデル化のためのシステムおよび方法 - Google Patents

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Description

本発明は、放射線治療計画におけるイオンの散乱をモデル化するためのシステムおよび方法に関する。
放射線治療計画の患者への提供は、多くの要因の影響を受け、その重要な要因は、患者自身の生体構造である。患者の身体の構造変異は、粒子の散乱をもたらし、その経路を変化させ、その結果、得られる線量分布に影響を及ぼす。また、イオンが通り抜ける構造体の密度も経路長に影響を及ぼす。
ここでは、本発明は、陽子での使用に関して記載されているが、他のイオンにも適用可能であり、陽子のみに限定されないことは明らかであろう。
原子核における陽子の弾性散乱は、2つの力、すなわち、クーロン力と強い核力との複合作用によって引き起こされる。陽子と原子核との間のクーロン散乱は、それらの電荷間の電磁相互作用によって引き起こされる。核弾性散乱は、強い力による陽子と原子核との直接的な相互作用によって引き起こされる。実際は、2つの力は1つの区別できない相互作用として現れ、原理上は、互いに分離された形で研究され、または測定され得ない。
散乱プロセスが弾性散乱と呼ばれるのは、運動エネルギーが放射物または標的の内部励起エネルギーに変換されないからである。
クーロン力からの散乱は、小さい前方角度においては強い力より優勢になる。大きい角度では、これらは類似の大きさを有する。
組織を通過する陽子は、組織の1センチメートル当たり約何百万もの弾性散乱相互作用を受ける。例えば、放射線治療の放射線量の計算では、弾性散乱相互作用は、通常、いわゆる多重散乱理論に組み込まれる。このような理論では、非常に多くの弾性散乱は、大幅に少ない数の人為的な「多重散乱」相互作用に凝縮される。
患者の組織およびレンジシフタ(使用される場合)内の多重散乱により、ブラッグピーク領域から離れる一次陽子は弱くなり、入射陽子の方向に対して大きな角度で散乱するために二次イオンのハローが発生する。患者内の線量付与を予測することができるように、この現象を十分に詳細にモデル化することが必要である。散乱量は、陽子が辿る組織密度および組成に依存する。散乱は、ブラッグピーク領域の線量を、ときには大幅に、低減する。また、ハローが入射陽子の秘跡から無視できない量のエネルギーを除去するので、照射野サイズおよび照射野形状の複雑な線量変化をもたらす。したがって、イオン治療計画用に設計された任意のコンピュータプログラムは多重散乱を考慮に入れなければならない。
従来の方法は、電子および陽電子の多重散乱をモデル化するための方法である。例えば、従来、一部の放射線治療計画システムでは、電子弾性散乱に多重散乱のGoudsmit-Saunderson(GS)理論が適用されている。陽子線療法では、粒子散乱をモデル化するためのこのような方法は、典型的には、特に、いくつかの角度範囲において、不正確な結果をもたらす。
GS理論は、クーロン力のみによって引き起こされる多重散乱をモデル化する。これには、強い核力によって引き起こされる核弾性散乱は含まれない。
本発明の目的は、イオンベースの放射線治療における陽子および他のイオンの散乱をより正確に反映する陽子多重散乱のための確実なモデルを実現することである。
本発明は、陽子線治療における多重散乱をモデル化するためのコンピュータによる方法を提案する。該方法は、
-クーロン散乱のモデルを使用して、選択されたカットオフ角の上限値を有する第1の角度間隔の散乱角度に対してイオンの多重弾性散乱を決定するステップと、
-選択されたカットオフ角の下限値を有する第2の角度間隔の散乱角度に対してイオンの多重弾性散乱を決定するステップと、
-第1の角度間隔および第2の角度間隔に対して得られた結果それぞれに基づいて、第1の角度間隔の少なくとも一部と第2の角度間隔の少なくとも一部とを含む範囲の角度に対して散乱を決定するステップとを含む。
本発明はさらに、本発明の方法によるイオン散乱のモデル化を含む線量計算方法に関する。
第1の角度間隔における多重弾性散乱は、クーロン多重散乱の任意のモデル、例えば、Goudsmit-SaundersonモデルまたはMoliereモデルを使用して、計算され得る。
第2の角度間隔に置ける散乱角度分布は、データベースからの角度微分断面積に基づいて決定され得る、または適切なモデルによって計算され得る。好ましくは、第2の角度間隔における散乱角度分布は、クーロン多重散乱と強い核力による散乱の両方の作用を含む。
先行技術で使用されている従来の方法は、2つの力による散乱を2つの別個のプロセスとして扱い、作用を重畳させる方法である。この方法は、クーロン力が優勢である前方角度においては、かなり正確な結果をもたらす。しかしながら、大きな散乱角度においては、力が類似の大きさを有する場合、先行技術の方法は不一致の二重計算をもたらし、このことが誤解を招く結果を生み出すことになる。
この洞察が、多重散乱をモデル化すると同時に二重計算を避ける方法を提案する本発明の出発点である。二重計算を避けるために提案される方法は、0°~180°の全ての角度ではなく特定のカットオフ角以下のクーロン散乱角度を含むことに限定されるように、GS理論を修正する方法である。カットオフ角は、クーロン力の作用が優勢である角度範囲のみが含まれるように選択される。その後、カットオフ角より大きい角度に対して核弾性散乱分布が追加される。核弾性散乱追加は、実験データに基づき得る、または何らかのモデルによって計算され得る角度微分断面積によって規定される。いずれの場合も、カットオフ角を超える核弾性散乱分布に対する入力データは、クーロン力と核力の両方の正味の作用を反映するものである。このようなデータは、文献に掲載されており、広範囲の入射陽子エネルギーにわたる多くの要素に使用可能である。
本発明は、モンテカルロ線量計算エンジンとの関連において最も簡単に使用される。その場合、該方法は、媒体を通過する陽子の経路のシミュレーション時の偏向角度をサンプリングする際に使用される。
要するに、本発明の方法では、GS理論にカットオフ角を適用し、カットオフ角より大きい角度に対して大角度弾性散乱分布を追加することによって、二重計算が避けられる。そのことにより、実際の状況を正確に反映した結果を使用して、基礎となる基本弾性微分断面積から始まる1つの一貫性のある形式化が達成される。
カットオフ角は、好ましくは、核弾性散乱により、クーロン相互作用が優勢でない角度に散乱された大部分の粒子に対してカットオフ角よりも大きい散乱角度が形成されるように選択される。適切なカットオフ角は、2°~10°、例えば5°であることがわかっている。好適な実施形態では、カットオフ角は、1°~15°の間隔、好ましくは、2°~10°の間隔で選択される。
提案されている方法は、治療計画で使用するためにモンテカルロ線量計算アルゴリズムで実施するのが簡単である。さらに、解析ベースの線量計算アルゴリズムの方法を含むことも可能である。
本発明はさらに、コンピュータで実行されたときにコンピュータに上記の方法の任意の実施形態の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を備えるコンピュータプログラム製品に関する。
本発明はさらに、第1のコンピュータデバイスで実行されたときにデバイスに上記の方法の任意の実施形態の方法を実行させるコンピュータ実行可能命令で符号化された非一時的なコンピュータ可読媒体に関する。
本発明はさらに、プロセッサと、データメモリと、上記のコンピュータプログラム製品または非一時的なコンピュータ可読媒体を備えるプログラムメモリとを備えるコンピュータシステムに関する。
例として、添付図面を参照しながら、本発明をより詳細に後述する。
陽子の多重散乱を示す図である。 本発明の方法のフローチャートである。 モンテカルロ線量計算エンジンで実施され得る本発明の一実施形態のフローチャートである。 陽子のGSサンプリングの一例を示す図である。 本発明の散乱計算に使用され得る断面積を表す図である。 本発明の方法が実施され得るコンピュータシステムを示す図である。
図1は、矩形3で示されている水塊を通過する陽子の多重散乱を示す図である。入射角を表す水平方向矢印で示された粒子は全て、同一のエネルギーTpおよび同一の角度θで水中に入る。水は、粒子が破線に沿って水塊3を直進するのではなく入射角の周囲に分散されるように粒子を散乱させる。分散5で示されているように、粒子の角度は近似的にガウス分布を形成する。実際の散乱は、粒子が通過する物質および粒子のエネルギーTpに依存する。
粒子の散乱は、様々な作用によって引き起こされる。陽子のような入射する陽イオンが水中の酸素原子核の近くを通過するときに、陽子と酸素原子核との間に作用する力は、入射イオンを偏向させる。偏向は、主に、比較的小さい角度での偏向である。この作用によって散乱された粒子は、狭い領域内の標的体積にエネルギーを付与する。入射陽イオンのごく一部は、酸素原子核の非常に近くを通過するので、より大きい角度で偏向される。大きい角度で散乱されるイオンは、小さい角度で散乱されるイオンとほぼ同じ距離移動するが、散乱角が大きいのでブラッグピークの外側のどこかに止まる。
本発明は、多重散乱の角度制限Goudsmit-Saunderson(GS)理論を陽子のモンテカルロ線量計算に適用することを含む。GS理論では、コンピュータコードにGSを適用するときに使用される事前計算データセットを使用するのが都合がよい。このデータセットは、q2-表面と呼ばれ、相対論的Mott断面積によるクーロン相互作用の結果の散乱を示している。q2-表面は、所定のカットオフ角より小さい散乱角のみが含まれる予備段階で生成される。また、モデル化の間にデータセットの計算を実行することも可能である。
図2は、本発明の方法全体を示すフローチャートである。
ステップS21において、カットオフ角より小さい角度の弾性散乱に対して多重クーロン散乱が計算される。ステップS22において、カットオフ角より大きい角度に対して弾性散乱が計算される。ステップS23において、ステップS21およびステップS22の結果から組み合わされたデータが使用される。
図3は、陽子がエネルギーを全て失って停止するまで伝搬される場合におけるモンテカルロ線量計算コードに本発明を適用することができる方法のフローチャートである。該方法は、陽子を組織内の特定の短い距離だけ陽子を伝搬させるときに適用される。距離は、例えば、3mmの線量ボクセルにわたる距離であり得る。
ステップS31において、角度制限GS理論から多重散乱角がサンプリングされ、それに応じて陽子の方向が偏向される。
ステップS32において、陽子の方向は、ステップS31でサンプリングされた散乱角に従って偏向される。ステップS31およびステップS32は、図2のステップS21に対応する。
ステップS33において、カットオフ角~180°で角度積分された二重微分断面積を使用して、大角度弾性散乱事象の確率が計算される。問題の性質上、この確率は小さくなり、およそ数パーセントになる(確率が大幅に大きい場合、本明細書に記載されている手順は修正される必要がある)。
ステップS34において、ステップS33で計算された確率に基づいて、大角度散乱事象が発生するかどうかが、ランダムサンプリングによって決定される。
ステップS35において、大角度弾性散乱事象が発生する場合に、偏向角度は二重微分断面積からサンプリングされ、ステップS36において、それに応じて陽子の方向が偏向される。例えば、水の場合、大角度の散乱事象は、ENDFデータベース内に示されている陽子-酸素弾性微分断面積からサンプリングされ得る。ステップS33~S36は、図2のステップS22に対応する。
ステップS36において、陽子がエネルギーを全て損失してしまうために媒体に吸収されるか、または組織に継続して通過させるために手順がステップS31に戻る。
カットオフ角は、適用される分野に応じて選択されなければならない。陽子モンテカルロシステムに適用する場合、約5°のカットオフ角が適切であり得る。この角度は、ENDFデータベース内に示されている陽子-原子核弾性断面積に対する最小の角度であるからである。他の用途では、およそ0.1~15°のカットオフ角、特に、2°~7°のカットオフ角が適切であり得る。
図4は、1cmの厚さの水塊における100MeVの陽子に適用されるときの方法を示している。図4では、クーロン力のみが考慮され、核弾性散乱は考慮されていない。横軸は、度単位で偏向角度を示している。縦軸は、特定の角度の確率を対数目盛で示している。曲線C1は、全ての角度に対して制限の無い実際の完全なGS多重散乱角度分布を示している。現実の状況では、これは認識されない。すなわち、この曲線は、方法の精度を示すためにのみここに含まれている。約3°から急激に降下する曲線C2は、縦方向の破線で示された3°のカットオフ角での制限GS角度分布を示している。曲線C3は、欠損マクロMott断面積に従って大角度単一散乱が追加された制限GS曲線を示している。図示されているように、C1曲線およびC3曲線は全ての角度で重複している。
図5は、2つの異なる角度の微分断面積、つまり、クーロン散乱の断面積である、いわゆるMott断面積(実線)と、大角度のデータによる破線とを示している。縦方向の点線は、5°および20°の散乱角度をそれぞれ示している。上述したように、角度範囲全体にわたって、実際の断面積はクーロン力と強い力との複合作用の結果である。小さい角度では、クーロン力が優勢である。大きい角度では、2つの力は同様の強度の力であり、複雑に組み合わさって、標的の原子核の種類および入射陽子のエネルギーに対してウィグル特性を有する破線となる。曲線の大きな角度部分は、核弾性部分と呼ばれる場合もあるが、これは、クーロン力も角度による変化に影響を及ぼすので、必ずしも正確ではないことに留意すべきである。核弾性断面積を表す破線曲線は、5°の散乱角度から始まる。5°未満の角度では、クーロン相互作用が優勢である。大きい散乱角度では、純粋なMott断面積が実際の断面積と一致しないことは明らかである。
図5に示されているケースでは、最大誤差を生じる範囲では、5°~50°の領域で散乱粒子の二重計算が避けられる。もし従来の方法を使用して散乱が計算されるとすれば、二重計算によって引き起こされる誤差は、この範囲では10%~100%になるであろう。
組み合わされた断面積(図示せず)は、5°未満の角度のMott断面積と、5°より大きい角度(この例では、選択されたカットオフ角である)の核弾性断面積とから成る。
図6は、本発明の方法が実施され得るコンピュータシステムの概略図である。コンピュータ31は、プロセッサ33と、データメモリ34と、プログラムメモリ35とを備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段、または任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態のユーザ入力手段37、38も存在する。
評価される治療計画は、データメモリ34から取得される。治療計画は、コンピュータ31内で作成され得る、または当分野で周知の別の記憶手段から受信され得る。
データメモリ34は、典型的には、治療計画に関連する様々なデータを保持する。理解されるように、データメモリ34は概略的に示されているに過ぎない。例えば、治療計画に対して1つのデータメモリ、CTスキャンに対して1つのデータメモリなどというように、各々が1つまたは複数の異なるタイプのデータを保持する複数のデータメモリユニットが存在し得る。プログラムメモリ35は、本発明に従って計画評価を実行するためにプロセッサを制御するように準備されたコンピュータプログラムを保持する。

Claims (7)

  1. イオンベースの放射線治療の計画方法であって、イオン多重散乱をモデル化するステップを含み、
    前記モデル化するための以下のステップ:
    クーロン散乱のモデルを使用して、選択されたカットオフ角上限値する第1の角度範囲の散乱角度に対してイオンの多重弾性散乱を決定するステップaであって前記カットオフ角は、核弾性散乱によりクーロン相互作用が優勢でない角度に散乱された大部分の粒子に対して前記カットオフ角よりも大きい散乱角度が形成されるように、1°~15°の角度範囲で選択される、ステップa;
    第2の角度範囲のクーロン力と核力の両方の正味の作用を反映して、前記選択されたカットオフ角を下限値とする第2の角度範囲の散乱角度に対してイオンの多重弾性散乱を決定する、ステップb;
    前記第1の角度範囲および前記第2の角度範囲に対して得られた結果それぞれに基づいて、前記第1の角度範囲の少なくとも一部と前記第2の角度範囲の少なくとも一部とを含む範囲の角度に対して散乱を決定するステップc、
    を含む、操作をコンピュータ内で実行する、計画方法。
  2. 前記第1の角度範囲における前記多重弾性散乱は、クーロン多重散乱のモデルを使用して実行される、請求項1に記載の計画方法。
  3. 前記第1の角度範囲における前記多重弾性散乱は、Goudsmit-Saundersonモデルに従って決定される、請求項1または請求項2に記載の計画方法。
  4. 前記第2の角度範囲における散乱角度分布は、データベースからの角度微分断面積に基づいて決定される、または適切なモデルによって計算される、請求項1~3のいずれか一項に記載の計画方法。
  5. コンピュータ内で実行されたときに前記コンピュータに請求項1~4のいずれか一項に記載の計画方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を備える、コンピュータプログラム。
  6. 第1のコンピュータデバイスで実行されたときに前記デバイスに請求項1~4のいずれか一項に記載の計画方法を実行させるコンピュータ実行可能命令で符号化された、非一時的なコンピュータ可読媒体。
  7. プロセッサ(33)と、データメモリ(34)と、請求項5に記載のコンピュータプログラムまたは請求項6に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体を備えるプログラムメモリ(35)とを備える、コンピュータシステム。
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