JP2015229018A - 粒子線照射法における線量分布の最適化プログラム、及び装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】体内不均質を有する人体に対して、高精度かつ臨床利用時間内で粒子線スキャニングパターンを最適化する。【解決手段】ターゲットに対して、スキャニング治療に用いられるペンシルビームについて、SMCを用いて、予め体内に入射したときの線量分布(ペンシルビームカーネル)を計算しておく。これにより、体内の線量分布を正確にかつ高速に計算できる。加えて、予め計算しておくことで、繰り返し演算時間の短縮にもつながる。そして、目的とする線量分布となるように、各々のペンシルビームウェイトについて、予め計算しておいたペンシルビームカーネルを用いて、繰り返し演算して最適化することで、各ペンシルビームの強度を求め、スキャニングパターンを決定する。【選択図】図3
Description
本発明は、粒子線照射法における線量分布の最適化プログラム、及び装置に関するものである。
粒子線の照射技術の一つに、細いペンシルビームを3次元的にスキャンして、ターゲットに線量を集中して投与するスキャニング照射法がある。
スキャニング用ペンシルビームを用いて治療が行われるスキャニング照射法では、設定された目標線量をターゲットに対し、一様に照射しかつ周辺の正常組織への線量を極力抑えたスキャニング照射を行う必要がある。
このため、スキャニング照射に先だって、スキャニング照射のためのスキャニングパターン、すなわち各ペンシルビームの照射位置や、照射位置におけるビームウェイトといった照射条件を最適化する処理が行なわれる(非特許文献1)。
T. Inaniwa et al., Medical Physics, 34 (2007) 3302-3311
R. Kohno et al., Physics in Medicine and Biology 48 (2003) 1277-1288
K. Hotta et al., Physics in Medicine and Biology 55 (2010) 3545-3556
R. Kohno et al., Physics in Medicine and Biology 56 (2011) N287-N294
スキャニングパターンの最適化の基礎となる線量計算結果の精度が低い場合、最適化処理によって得られる照射条件の精度は実用に耐えない。すなわち、精度の低い線量計算結果を基にして最適化を行なっても、得られる線量分布は、実際の体内線量分布から大きくかけ離れたものとなってしまう。
また、臨床応用を考える上では、計算時間も重要なファクターである。たとえ高精度な線量計算が実施可能であっても、計算時間が半日〜数日以上かかるような場合には、臨床での応用は極めて困難となる。
従って、スキャニング用ペンシルビームを用いて治療が行われるスキャニング照射法では、高い精度と、小さな演算負荷との両者を兼ね備えた線量分布の最適化処理が求められる。
ターゲットを含めた人体等の照射領域においては、肺などの低密度物質、骨などの高密度物質、腔など様々な物質で構成される。ここで、現在用いられている、体内線量分布を計算している線量計算アルゴリズムとしては、ペンシルビーム線量計算法(Pencil Beam Algorithm、 以下 PBA)が主流であり、大きな体内不均質を有する照射領域に対して、PBAを用いて線量計算を行なった場合、実際の線量分布から大きくかけ離れたものとなってしまうことがわかった。
さらに、スキャニングパターンの最適化では、数千本もの数多くのペンシルビームに対する線量計算に加え、繰り返し演算により各ビームウェイトが決定されることから、演算負荷は大きくなる。
本発明は斯かる実情に鑑みなされたものであり、本発明の目的は粒子線スキャニングパターンを最適化する線量計算アルゴリズム及びその装置を提供することにある。
本発明はCPUを備えたコンピュータによって実行される粒子線照射法における線量分布を最適化する計算アルゴリズムであって、粒子線スキャニング照射のターゲットに設定された照射範囲毎に簡易モンテカルロ法(Simplified Monte Carlo Method、 以下SMC)を用いて線量カーネルを作成する工程と、前記照射範囲毎に前記線量カーネルのビームウェイトを設定する工程と、前記ビームウェイトが最適であるか否かの判定を行う工程、を含むことを特徴とする。
また本発明は、粒子線照射法における線量分布の最適化装置であって、粒子線スキャニング照射となるターゲットに設定された照射範囲毎に、SMCを用いて線量カーネルを作成するカーネル作成部と、前記照射範囲毎に前記線量カーネルのビームウェイトを設定するビームウェイト設定部と、前記照射範囲毎に設定されたビームウェイトが最適であるか否かの判定を行う判定部と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、粒子線スキャニングパターンの最適化を、高精度かつ短時間で行なうことが可能となる。
図1には、陽子線照射法における線量分布の最適化装置10が示される。線量分布の最適化装置10は、ハード構成として、CPU11と、RAM12と、ROM13と、外部記憶装置14と、入力装置15、出力装置16と、入出力インタフェース17と、を備える。CPU11はいわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて本制御装置10の各種機能を実現する。RAM12は、ランダム・アクセス・メモリであり、CPU11の作業領域として使用されるメモリである。ROM13は、リード・オンリー・メモリであり、CPU11で実行される基本OSを記憶するためのメモリである。外部記憶装置14は、磁気ディスクを内蔵したハードディスク装置、CDやDVDやBDを収容するディスク装置、不揮発性の半導体フラッシュメモリ装置などで構成されており、CPU12で実行される各種プログラムや演算結果等が保存される。入力装置15は入力キーやキーボード、マウスであり、各種情報を入力する装置である。出力装置16はディスプレイであって、各種動作状態を表示する。入出力インタフェース17は、外部装置から出力されたデータの受信や、外部装置に向けてデータの送信を行う。
線量分布の最適化装置10に保存される線量分布の最適化プログラムがCPU12で実行されると、CPU11は、図2に示すように、ターゲット入力部21と、ペンシルビーム位置照射設定部22と、カーネル作成部23と、評価点設定部24と、ビームウェイト設定部25と、判定部26と、制御部27として機能する。ターゲット入力部21は、スキャニング照射対象であるターゲットや照射を避けたいターゲット周辺の重要臓器に関する情報を、入力装置15から受け付ける。ペンシルビーム位置照射設定部22は、照射装置の照射領域に配されたターゲットに対し、ペンシルビームの照射位置を設定する。カーネル作成部23は、ペンシルビームの照射位置毎に、スポットビームの線量分布(カーネルとも称する)を算出する。評価点設定部24は、ターゲット入力部21にて受け付けられた情報に基づいて、ターゲット及びその重要臓器に対する線量評価点を設定する。ビームウェイト設定部25は、カーネルに対し重みを付けて、ペンシルビームウェイトの線量分布を算出する。判定部26は、各線量評価点に対して、目標となる線量分布の達成度を判定する。制御部27は、各種演算結果を出力装置16へ出力する他、各装置12〜17の制御を行う。
図3は、本発明によるスキャニング照射の最適化計算アルゴリズムのフロー図である。この図に示すように、本発明の計算アルゴリズムはS1〜S6の各ステップからなる。
ステップS1aではスキャニング照射対象であるターゲットと照射を避けたいターゲット周辺の重要臓器をコンピュータに入力する。
ターゲットはがん病巣であり、線量を確実に投与したい領域である。一方、ターゲットの位置によっては、ターゲットの周辺に、脳や脳幹、神経、臓器といったい重要臓器が存在することも多い。これらの重要臓器は、過剰な線量投与を極力避けたい領域である。
次に、ステップS1bでは、ペンシルビーム照射位置を設定する。
ステップS2で、照射範囲に計画された照射位置毎に照射されるスポットビームの線量分布について、SMCを用いて計算する。
SMCは、ブロードビームに対して水中で測定された深部線量分布を線量付与計算に用いることで、治療ビームを良く再現し、かつ簡便に高速に計算可能である。また、SMCにおける陽子の軌道計算には、陽子が進んだ計算ボクセル毎に、陽子のエネルギーと計算ボクセルの水等価厚に応じて多重散乱効果について、正規乱数を使って進行方向を決定する(非特許文献2、3)。この手法を採用するSMCは、PBAでは計算できなかった不均質媒質中の線量予測精度の向上に成功している。
加えて、不均質媒質中の線量予測精度を向上させる計算法としては、他にGEANTやPHITSなどの高エネルギー物理実験で使用される汎用的なフルモンテカルロ法があるが、治療ビームを再現させる困難さと、膨大な計算時間を必要とすることから、数千本のペンシルビームに対する線量計算を実施する必要があるスキャニング最適化において、これらの手法を用いることは臨床利用の観点からは難しい。
これに対して、SMCでは、線量付与と飛跡のみを計算する方法であり、実測値を用いる線量計算アルゴリズムであることから、計算精度の向上を図りながら、再現性と計算時間にも優れ、臨床利用時間内での利用が可能である。
さらに、並列計算可能なGPGPU(General−purpose computing on graphics processing units)を適用することで、より高速にかつ安価に線量計算を行うことができる(非特許文献4)。例えば、前立腺症例では、散乱体照射法に対して1分以内の計算時間を達成していることから、臨床利用時間内でのスキャニング最適化時の線量計算にSMCを適用することは有用である。
ステップS3において線量評価点が設定される。
ステップS4で、目標となる線量(Pi)を達成するために、数1で示すコストファンクションを最小にするようにするように、評価点iでの目標線量と計算線量(Di(w))の差の2乗を算出し、各ペンシルビームウェイト(w)を最適化する。なお、重み(gi)は、PiとDi(w)の二乗差がコストファンクションに寄与する割合を決めるパラメータである。Nは線量評価点の総数である。
ステップS5で、各線量評価点(i)に対して、目標となる線量分布の達成度を判定する。達成度の判定は、コストファンクションが目標値以内か否かによって行う。コストファンクションが目標値以内でない場合には、S4に戻って、重み(gi)の調整、及び、最適化計算を行う。こうして、コストファンクションが目標値以内となるまで、重み(gi)の調整、及び、最適化計算を繰り返し行い、高精度な線量分布を考慮した最適化を実現できる。
目標となる線量分布が達成されたら、ステップS6で、スキャニング照射最適化計算は終了となる。
本発明に係る計算アルゴリズムの有用性を示すべく、次のような検討を行った。
図4〜図12に頭頸部に適用した実施例を示す。目標とする線量分布はターゲットであるがん病巣(計画標的体積Planning Target Volume、以下PTV)には十分な線量を投与し、眼球1や脳幹2などの周辺重要臓器の正常組織は耐容線量以下にする必要がある。
図4はステップ1でターゲットに設定された照射範囲3と、ステップ2で設定された照射位置4を示す。照射位置は、例えば、ビームのスキャン方向に4.68 mm、その直交面内方向○には、7.02 mmの位置毎に設定される。
図5には、ターゲットに設定された線量評価点5を示す。線量評価点は、例えば、PTV全体と重要臓器の境界面は、2.34mm間隔で、PTV周辺と重要臓器内は、4.68 mm間隔で、設定される。
図6Aに従来のPBAによって算出されたペンシルビームカーネルを用いて最適化された照射条件(ビームウェイト)下において、PBAにより線量計算された等線量分布を示し、
図6BにはSMCにより線量計算された等線量分布を示す。
図6BにはSMCにより線量計算された等線量分布を示す。
ターゲット領域(PTV)に対して図6Aでは95%以上の十分な線量が投与されると予測されている。しかしながら、体内不均質の効果を高精度に計算可能なSMCを用いて計算すると、図6Bに示すようにターゲット内右下部の線量が大きく欠落し、かつ、左下部では、ターゲットを通過し、ターゲット後方の重要臓器にまで陽子線が突き抜けていることがわかる。
図6AのPBAと図6BのSMCによる等線量分布の違いを明確にするために、図7に両者による等線量分布の差分を示す。
線量計算法の違いによる線量差は、線量を確実に投与したいターゲット領域や線量を極力抑えたい前頭葉近くにおいて最大70%のところもあり、照射するべきターゲットの4分の1の領域では、40%以上の線量差が見られた。ここで、5%の線量差があると臨床への影響が見られるとの報告もあることから、計算精度が臨床効果に大きな影響を与えることになると考えられる。
図8Aに、PBAによって算出されたペンシルビームカーネルを用いて、PBAで最適化されたスキャニングパターンの線量容積ヒストグラム(Dose Volume Histogram 、以下DVH)示し、図8BにSMCで最適化されたスキャニングパターンのDVHを示す。いずれも横軸が線量、縦軸が容積を表す。
PTV領域に対しては、PTVの容積の95%を包含する線量(D95)は、図8Aでは96.2%と、臨床要求を満足する90%以上の線量が投与されると計算されているが、図8Bでは、49.1%であり、治療として臨床的に受け入れることができない。また、重要臓器である脳幹に対して付与される最大線量は、PTVに65 GyE処方されるとして、PBAでは1 GyEしか入らないと計算されているが、SMCでは、30 GyEもの線量が入ると予想された。このような計算精度の問題は、治癒及び重要臓器の放射線障害等の臨床成績に大きく影響を与えうる。
線量計算法の違いを説明するために、1本のスキャニング用ペンシビームが照射領域に入射したときの線量分布に関するPBAとSMCの比較をする。
骨や腔、繊維組織や脂肪組織などの軟部組織で構成されている領域に陽子線が照射される場合、PBAでは、ビーム中心軸上の物質だけを考慮して、線量付与や散乱効果を計算するモデルであるため、ビーム中心軸以外の物質については、全く考慮されず、図9Aに示すように、ビーム中心軸に対して左右対称な等線量分布として計算される。
一方、図9BのSMCの結果が示すように、実際の陽子線は、ビーム中心軸外を通過した陽子線は、ビーム中心軸外での通過物質により、陽子の振る舞い、すなわち、線量付与や陽子の軌道、は大きく影響を受ける。例えば、ビーム中心軸外の腔を通過した陽子は後方に抜け、ビーム軸中心軸外の骨を通過した陽子であれば、そこで線量を落として止まったり、大きな散乱を受けて、進行方向を大きく変えるなど、陽子の振る舞いは複雑となる。まとめると、各陽子が通過した物質毎に線量付与や多重散乱などの相互作用が異なるが、それらの相互作用の結果が合算されて、図9Bに示すような歪んだ等線量分布となる。
図10に、本発明の計算アルゴリズム、すなわち、SMCによって算出されたペンシルビームカーネルを用いて最適化された照射条件(ビームウェイト)下において、SMCにより線量計算された等線量分布を示す。
図11は、PBAを用いたスキャニング最適化パターン(図6B)と本発明のSMCを用いたスキャニング最適化パターン(図10)の等線量分布の差分を示す。
図12は、図10に対するDVHを示す。
図6Bでは、ターゲットであるPTV領域への線量不足やターゲット後方への線量付与が見られたが、SMCを用いた最適化した図10では、PTV領域に対して十分な線量が投与されていることがわかる。
同様にそれぞれのDVHを比較すると、D95の値が49.1%(図8B)から94.8%(図12)に大きく改善し、臨床的にも満足できる十分な線量を投与できることがわかる。
このように、最適化に用いられる線量計算法により、図11に示すように40%程度の線量差を生じる可能性があり、臨床成績に大きく影響を与えることから、スキャニングパターンの最適化に使われるペンシルビームに対する線量計算には、高精度な線量計算法を用いるべきである。
今回発明したSMCを用いた最適化方法は、臨床応用可能な時間内で線量計算できることから、精度だけでなく、運用面からも有用である。
本発明により、患者に優しい粒子線がん治療の高精度化に大きく貢献するものであり、結果として、益々粒子線がん治療の普及が進むことが予想される。これは、市場の拡大を意味するので、粒子線治療装置メーカーを技術面からも支えることにつながり、産業的にも有用性が高い。
Claims (4)
- CPUを備えたコンピュータによって実行される粒子線照射法における線量分布の最適化プログラムであって、粒子線スキャニング照射となるターゲットに設定された照射範囲毎に、SMCを用いて線量カーネルを作成するカーネル作成部と、前記照射範囲毎に前記線量カーネルのビームウェイトを設定するビームウェイト設定部と、前記照射範囲毎に設定されたビームウェイトが最適であるか否かの判定を行う判定部と、を備えることを特徴とする粒子線照射法における線量分布の最適化プログラム。
- 前記ビームウェイト設定部は、SMCを用いて、前記照射範囲毎に前記線量カーネルのビームウェイトを設定することを特徴とする請求項1記載の粒子線照射法における線量分布の最適化プログラム。
- 粒子線照射法における線量分布の最適化装置であって、粒子線スキャニング照射となるターゲットに設定された照射範囲毎に、SMCを用いて線量カーネルを作成するカーネル作成部と、前記照射範囲毎に前記線量カーネルのビームウェイトを設定するビームウェイト設定部と、前記照射範囲毎に設定されたビームウェイトが最適であるか否かの判定を行う判定部と、を備えることを特徴とする粒子線照射法における線量分布の最適化装置。
- 前記ビームウェイト設定部は、SMCを用いて、前記照射範囲毎に前記線量カーネルのビームウェイトを設定することを特徴とする請求項3記載の粒子線照射法における線量分布の最適化装置。
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