[1.血液検体の判定方法]
第1の態様に係る血液検体の判定方法(以下、単に「方法」ともいう)では、まず、被検血漿と正常血漿とを混合して混合血漿を調製する。
本実施形態において、判定の対象となる血液検体である被検血漿は、被験者に由来する血漿であれば特に限定されないが、好ましくは、凝固異常の疑いのある被験者に由来する血漿である。凝固異常の疑いのある被検血漿としては、例えば、通常の凝固検査により凝固時間の延長が認められた血漿、及び、凝固異常の疑いのある者を含む複数の被験者から得た検体群などが挙げられる。血漿としては、血小板除去血漿が特に好ましい。なお、血小板は、遠心分離やフィルター分離など公知の手法により除去できる。
本実施形態において、凝固異常の原因は特に限定されないが、例えば、凝固因子の欠損、凝固因子インヒビターの存在、LAの存在、血液凝固に作用する薬剤の投与などが挙げられる。欠損が疑われる凝固因子は特に限定されないが、例えば、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子などが挙げられる。なお、本明細書では、「凝固因子の欠損」とは、血液において正常な凝固因子が存在しないか又は極めて少ないことを意味する。また、本明細書では、「凝固因子の欠損」には、凝固因子の異常も含まれる。凝固因子の異常としては、例えば、活性の欠如などが挙げられる。
本実施形態において、凝固因子インヒビターは特に限定されないが、例えば、第VIII因子インヒビター、第IX因子インヒビター、第V因子インヒビターなどが挙げられる。血液凝固に作用する薬剤は特に限定されないが、例えば、ヘパリンやワーファリンなどが挙げられる。
正常血漿は、健常者から得た血液から調製した血漿、または市販の正常血漿であればよい。市販の正常血漿としては、例えば、CRYOcheck Pooled Normal Plasma(Precision BioLogic Inc社)などが挙げられる。
本実施形態に係る方法は、クロスミキシングテストの原理に基づいているので、被検血漿と正常血漿とを少なくとも一つの混合比で混合して得た検体(混合血漿)が用いられる。なお、本実施形態において、混合血漿は、測定の対象となる血液検体である。被検血漿と正常血漿との混合比率は、被検血漿の量などに応じて適宜決定すればよい。例えば、混合血漿における被検血漿の比率として、10、20、30、40、50、60、70、80及び90%(v/v)から少なくとも一つを選択できる。これらの中でも、被検血漿の比率が50%(v/v)の混合血漿を調製することが好ましい。なお、混合血漿は、一の被検血漿について一つであってもよいし、複数であってもよい。また、混合は、用手法で行ってもよいし、全自動凝固時間測定装置で行ってもよい。
本実施形態に係る方法では、上記のようにして得られた混合血漿と、凝固時間測定試薬とが混和されてなる測定試料に光を照射し、この測定試料から光量に関する光学的情報を取得する。
本実施形態において、凝固時間測定試薬(以下、単に「試薬」ともいう)は、当該技術において公知の測定原理に基づく凝固時間を測定するための試薬であればよい。例えば、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、希釈プロトロンビン時間(dPT)、希釈活性化部分トロンボプラスチン時間(dAPTT)、カオリン凝固時間(KCT)、希釈ラッセル蛇毒凝固時間(dRVVT)、トロンビン時間(TT)、及び希釈トロンビン時間(dTT)の少なくとも1種を測定するための試薬が挙げられる。これらの中でも、dAPTT測定試薬が好ましい。また、市販の凝固時間測定試薬及び試薬キットを用いてもよい。例えば、APTT測定試薬としては、トロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス社)、トロンボチェックAPTT(シスメックス社)、Actin FSL(シスメックス社)などが知られている。
本実施形態において、測定試料は、用いる試薬の測定原理に応じて公知の手法により、血漿と試薬とを混和して調製すればよい。例えば、血漿と試薬との反応時間は、通常1分以上10分以下であり、好ましくは3分以上5分以下である。温度条件は、通常25℃以上45℃以下であり、好ましくは35℃以上38℃以下である。測定試料の調製は、用手法で行ってもよいし、全自動凝固時間測定装置で行ってもよいが、全自動凝固時間測定装置で行うことが好ましい。全自動凝固時間測定装置としては、例えば、CS-5100(シスメックス社)、CS-2400(シスメックス社)、CS-2000i(シスメックス社)が挙げられる。なお、測定試料は、一の被検血漿について一つであってもよいし、複数であってもよい。
本実施形態において、測定試料に照射する光は、凝固時間の測定に通常用いられる光であればよく、例えば、波長が660 nm近傍、好ましくは660 nmの光が挙げられる。光源は特に限定されないが、例えば、発光ダイオード、ハロゲンランプなどが挙げられる。
上記の光源から測定試料に光を照射することにより、該測定試料から散乱光及び透過光が生じる。本実施形態では、光量に関する光学的情報として、例えば、散乱光量又は透過光量に関する情報が挙げられ、散乱光強度、透過度、吸光度などが好ましい。
本実施形態では、測定条件は特に限定されないが、光の照射と、光量に関する光学的情報の取得は、測定の開始(血漿と試薬の混和時)から凝固反応の終了(フィブリン塊の形成)まで連続的又は断続的に行うことが好ましい。このように、凝固の全過程にわたって連続的又は断続的に測定された光量に関する光学的情報(例えば、散乱光強度、透過度又は吸光度)に基づけば、凝固過程の任意の時点又は時間において、後述の凝固波形の微分に関するパラメータを取得することが可能となる。なお、光の照射と、光量に関する光学的情報の取得は、全自動測定装置により行ってもよい。そのような装置としては、例えば、全自動血液凝固測定装置のCSシリーズ(シスメックス株式会社)などが挙げられる。
従来のクロスミキシングテストでは、混合血漿に占める被検血漿の割合を変化させたとき、混合血漿の凝固時間がどのように変化するかを観察して、被検血漿の凝固異常の原因について判定を行う。それゆえ、従来のクロスミキシングテストでは、判定のために、被検血漿と正常血漿とを種々の比率で混合して複数の測定試料を調製し、これらの凝固時間を取得する必要がある。これに対して、本実施形態に係る方法では、後述のように、一の測定試料から取得した光学的情報に基づいて、被検血漿について判定を行うことができる。
本実施形態では、被検血漿が一つの場合、該被検血漿から調製した混合血漿から、一の測定試料を調製してもよい。なお、一の被検血漿から複数の混合血漿を調製している場合、いずれの混合血漿から一の測定試料を調製するかは特に限定されない。本実施形態では、被検血漿が複数の場合、それぞれの被検血漿から調製した混合血漿から、それぞれの被検血漿に由来する一の測定試料を調製してもよい。すなわち、複数の被検血漿のそれぞれについて、対になる一の測定試料が調製される。なお、複数の被検血漿から調製した混合血漿の間で、被検血漿と正常血漿との混合比率は同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
本実施形態に係る方法では、一の測定試料から取得した光学的情報に基づいて、上記の被検血漿が、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあるかを判定する。なお、本実施形態では、一の被検血漿について測定試料が複数ある場合、いずれか一つの測定試料から取得した光学的情報を判定に用いればよい。
好ましい実施形態では、一の測定試料から取得した光学的情報に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータを少なくとも一つ取得する。本実施形態において、凝固波形は、光量に関する光学的情報(例えば、散乱光量、透過度又は吸光度)の経時的変化を表す波形である。図1を参照して、凝固波形及びその波形解析について説明する。図1の凝固波形(上段のグラフ)において、a点は測定開始点であり、b点はフィブリン析出(凝固の開始)点であり、a-bは凝固時間を表す。c点は凝固の中点であり、d点は凝固の終点であり、e点は測定の終点である。凝固波形を微分(1次微分)すると、凝固速度が算出される(図1の中段のグラフ参照)。なお、凝固波形のc点は1次微分の最大値に当たる。凝固速度を微分(2次微分)すると、凝固加速度が算出される(図1の下段のグラフ参照)。なお、本実施形態に係る方法では、凝固時間及び凝固波形の取得は任意である。
本実施形態において、凝固波形の微分に関するパラメータは、一の測定試料から取得した光学的情報に基づいて得られる、凝固速度、凝固加速度及び凝固減速度の少なくとも一つを示す値であれば、特に限定されない。ここで、凝固速度を示す値は、凝固波形の一次微分から得ることができる値に相当し、凝固加速度を示す値及び凝固減速度を示す値は、凝固波形の二次微分から得ることができる値に相当する。そのようなパラメータとしては、例えば、|min 1|、|min 2|及びmax 2が挙げられる。|min 1|とは、凝固波形の一次微分の最小値の絶対値であり、最大凝固速度を表す。|min 2|とは、凝固波形の二次微分の最小値の絶対値であり、最大凝固加速度を表す。max 2とは、凝固波形の二次微分の最大値であり、最大凝固減速度を表す。なお、|min 1|、|min 2|及びmax 2という用語自体は、当該技術において公知である。また、凝固波形の微分に関するパラメータは、これらの値を2つ以上組み合わせて得られる値であってもよく、例えば、|min 1|、|min 2|及びmax 2から選択される少なくとも2つの値の和、差、積、比などが挙げられる。
同じ測定試料から凝固時間も取得している場合は、凝固波形の微分に関するパラメータは、凝固波形の一次微分又は二次微分から取得される値と、凝固時間とを組み合わせて得られる値でもよい。そのような値としては、例えば、|min 1|、|min 2|及びmax 2から選択される少なくとも一つの値と凝固時間の値の和、差、積、比などが挙げられる。
本実施形態では、取得したパラメータの値に基づいて、被検血漿が、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあるかを判定できる。判定は、取得したパラメータの値と、そのパラメータに対応する所定の閾値とを比較し、その比較結果に基づいて行うことが好ましい。例えば、|min 1|を取得している場合は|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、|min 2|を取得している場合は|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2を取得している場合はmax 2の値と第3の閾値とを比較して、その比較結果に基づいて判定できる。具体的には、|min 1|、|min 2|及びmax 2のうち、取得している値の少なくとも一つが、その値に対応する所定の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定できる。一方、|min 1|、|min 2|及びmax 2のうち、取得している値の全てが、その値に対応する所定の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定できる。
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれか一つを取得している場合、例えば、以下のようにして判定できる:
・|min 1|の値と第1の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第1の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定する。
・|min 2|の値と第2の閾値とを比較して、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 2|の値が第2の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定する。
・max 2の値と第3の閾値とを比較して、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定する。反対に、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定する。
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれか2つを取得している場合、例えば、以下のようにして判定できる:
・|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、|min 2|の値と第2の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるか、又は、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第1の閾値より小さく、且つ、|min 2|の値が第2の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定する。
・|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、max 2の値と第3の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第1の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定する。
・|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2の値と第3の閾値とを比較して、|min 2|の値が第2の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 2|の値が第2の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定する。
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2の3つを取得している場合、例えば、次のようにして判定できる。|min 1|の値と第1の閾値とを比較し、|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2の値と第3の閾値とを比較して、|min 1|の値が第1の閾値以上であるか、又は、|min 2|の値が第2の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第3の閾値以上であるとき、被検血漿は、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第1の閾値より小さく、且つ、|min 2|の値が第2の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第3の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定する。
本実施形態では、上記の第1、第2及び第3の閾値などの各パラメータに対応する所定の閾値は特に限定されない。例えば、凝固因子欠損検体、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体について、凝固波形の微分に関する種々のパラメータのデータを蓄積することにより、各パラメータに対応する閾値を経験的に設定できる。あるいは、凝固因子欠損検体群と、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する検体群のそれぞれについて、凝固波形の微分に関する種々のパラメータの値を取得し、両群を明確に区別可能な値を所定の閾値として設定してもよい。
別の実施形態においては、混合血漿についての凝固波形の微分に関するパラメータに加えて、被検血漿の凝固時間を取得し、凝固時間の延長が認められる被検血漿について上記の判定を行うことができる。この実施形態では、凝固時間に基づいて、凝固異常の疑いのある被検血漿を選別して判定することができる。以下に、この実施形態(第2の態様)に係る血液検体の判定方法について説明する。
本実施形態に係る方法では、まず、被検血漿と正常血漿とを混合して混合血漿を調製する。被検血漿及び正常血漿は、第1の態様に係る方法について述べたことと同様である。
次いで、本実施形態に係る方法では、被検血漿と凝固時間測定試薬とが混和されてなる第1測定試料、及び、混合血漿と凝固時間測定試薬とが混和されてなる第2測定試料に光を照射し、第1及び第2測定試料のそれぞれから光量に関する光学的情報を取得する。第1測定試料は、混合血漿に代えて被検血漿を用いることを除いて、第1の態様に係る方法の測定試料と同様にして調製できる。本実施形態において、凝固時間測定試薬、第2測定試料の調製、及び光量に関する光学的情報の取得についての詳細は、第1の態様に係る方法について述べたことと同様である。
本実施形態では、第1測定試料から取得した光学的情報に基づいて、第1測定試料の凝固時間を取得し、一の第2測定試料から取得した光学的情報に基づいて第2測定試料の凝固波形の微分に関するパラメータの少なくとも一つを取得する。凝固波形の微分に関するパラメータの取得に関する詳細は、第1の態様に係る方法について述べたことと同様である。ここで、第1測定試料の凝固時間(すなわち、被検血漿の凝固時間)を取得する方法自体は、当該技術において公知である。よって、当業者は、用いる凝固時間測定試薬の測定原理に応じて、第1測定試料の凝固時間を適宜取得できる。
本実施形態では、凝固時間の延長が認められた被検血漿について、取得したパラメータの値に基づいて、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあるかを判定できる。なお、判定の手順及び各パラメータに対応する所定の閾値などに関する詳細は、第1の態様に係る方法について述べたことと同様である。
本実施形態において、第1測定試料の凝固時間が延長しているか否かは、取得した凝固時間と、所定の時間とを比較し、比較結果に基づいて決定することが好ましい。例えば、取得した凝固時間が所定の時間よりも長いとき、被検血漿は、凝固時間の延長が認められる血漿であると決定できる。一方、取得した凝固時間が所定の凝固時間以下のとき、被検血漿は、凝固時間の延長が認められない血漿であると決定できる。
所定の時間は、正常血漿の凝固時間が好ましい。正常血漿としては、例えば、健常者に由来する血漿、又は市販の正常血漿などが挙げられる。そのような正常血漿の凝固時間は、被検血漿と同様にして実際に測定した凝固時間であってもよいし、用いる凝固時間測定試薬の測定原理において正常値又は基準値として知られている凝固時間であってもよい。
なお、本実施形態において、凝固時間の延長が認められなかった被検血漿には、凝固異常の疑いはないと考えられる。
上記の第1又は第2の態様に係る方法では、被検血漿が、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定した場合、取得したパラメータの値に基づいて、被検血漿におけるLA又は凝固因子インヒビターについての情報をさらに取得できる。
例えば、|min 1|を取得している場合は|min 1|の値と第4の閾値とを比較し、|min 2|を取得している場合は|min 2|の値と第5の閾値とを比較し、max 2を取得している場合はmax 2の値と第6の閾値とを比較して、その比較結果に基づいて、被検血漿が、LAを含
む血漿の疑いがあるか又は凝固因子インヒビターを含む血漿の疑いがあるかについて判定できる。具体的には、|min 1|、|min 2|及びmax 2のうち、取得している値の少なくとも
一つが、その値に対応する所定の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿の疑いがあると判定できる。反対に、|min 1|、|min 2|及びmax 2のうち、取得している値の全てが、その値に対応する所定の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿の疑いがあると判定できる。
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれか一つを取得している場合、例えば、以下のようにして判定できる:
・|min 1|の値と第4の閾値とを比較して、|min 1|の値が第4の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第4の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあると判定する。
・|min 2|の値と第5の閾値とを比較して、|min 2|の値が第5の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 2|の値が第5の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあると判定する。
・max 2の値と第6の閾値とを比較して、max 2の値が第6の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿である疑いがあると判定する。反対に、max 2の値が第6の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあると判定する。
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれか2つを取得している場合、例えば、以下のようにして判定できる:
・|min 1|の値と第4の閾値とを比較し、|min 2|の値と第5の閾値とを比較して、|min 1|の値が第4の閾値以上であるか、又は、|min 2|の値が第5の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第4の閾値より小さく、且つ、|min 2|の値が第5の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあると判定する。
・|min 1|の値と第4の閾値とを比較し、max 2の値と第6の閾値とを比較して、|min 1|の値が第4の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第6の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第4の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第6の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあると判定する。
・|min 2|の値と第5の閾値とを比較し、max 2の値と第6の閾値とを比較して、|min 2|の値が第5の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第6の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 2|の値が第5の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第6の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあると判定する。
凝固波形の微分に関するパラメータとして、|min 1|、|min 2|及びmax 2の3つを取得している場合、例えば、次のようにして判定できる。|min 1|の値と第4の閾値とを比較し、|min 2|の値と第5の閾値とを比較し、max 2の値と第6の閾値とを比較して、|min 1|の値が第4の閾値以上であるか、又は、|min 2|の値が第5の閾値以上であるか、又は、max 2の値が第6の閾値以上であるとき、被検血漿は、LAを含む血漿である疑いがあると判定する。反対に、|min 1|の値が第4の閾値より小さく、且つ、|min 2|の値が第5の閾値より小さく、且つ、max 2の値が第6の閾値より小さいとき、被検血漿は、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあると判定する。
本実施形態では、上記の第4、第5及び第6の閾値などの各パラメータに対応する所定の閾値は特に限定されない。例えば、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体について、凝固波形の微分に関する種々のパラメータのデータを蓄積することにより、各パラメータに対応するこれらの閾値を経験的に設定できる。あるいは、LA陽性検体群と、凝固因子インヒビター陽性検体群とのそれぞれについて、凝固波形の微分に関する種々のパラメータの値を取得し、両群を明確に区別可能な値を所定の閾値として設定してもよい。
[2.血液検体分析装置、血液検体の判定のための装置及びコンピュータプログラム]
以下に、本実施形態に係る血液検体分析装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態はこの例のみに限定されない。図2に示されるように、血液検体分析装置10は、測定試料の調製及び光学的測定を行う測定装置50と、測定装置50により取得された測定データを分析すると共に測定装置50に指示を与える制御装置40とを備える。測定装置50は、測定試料からの光量に関する光学的情報を取得する測定部20と、測定部20の前方に配置された検体搬送部30とを備える。
測定部20には、蓋20a及び20bと、カバー20cと、電源ボタン20dが設けられている。ユーザは、蓋20aを開けて、試薬テーブル11及び12(図3参照)に設置されている試薬容器103を新たな試薬容器103と交換したり、また、別の試薬容器103を新たに追加したりすることができる。試薬容器103には、収容する試薬の種類と、試薬に付与されたシリアルナンバーからなる試薬IDとを含むバーコードが印刷されたバーコードラベル103aが貼付されている。
ユーザは、蓋20bを開けて、ランプユニット27(図3参照)を交換できる。また、ユーザは、カバー20cを開けて、ピアサ17a(図3参照)を交換できる。検体搬送部30は、検体ラック102に支持された検体容器101を、ピアサ17aによる吸引位置まで搬送する。検体容器101は、ゴム製の蓋101aにより密封されている。
血液検体分析装置10を使用する場合、ユーザは、まず、測定部20の電源ボタン20dを押して測定部20を起動させ、制御装置40の電源ボタン439を押して制御装置40を起動させる。制御装置40が起動すると、表示部41にログオン画面が表示される。ユーザは、ログオン画面にユーザ名及びパスワードを入力して制御装置40にログオンし、血液検体分析装置10の使用を開始する。
測定装置の構成について、以下に説明する。図3に示されるように、測定部20は、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、バーコードリーダ14と、キュベット供給部15と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、緊急検体セット部19と、光ファイバ21と、検出部22と、キュベット移送部23と、加温部24と、廃棄口25と、流体部26と、ランプユニット27とを備えている。
(測定試料調製部)
試薬テーブル11及び12とキュベットテーブル13は、それぞれ、円環形状を有し、回転可能に構成されている。試薬テーブル11及び12は試薬収納部に相当し、ここには試薬容器103が載せ置かれる。試薬テーブル11及び12に載せ置かれた試薬容器103のバーコードは、バーコードリーダ14により読み取られる。バーコードから読み取られた情報(試薬の種類、試薬ID)は、制御装置40に入力され、ハードディスク434(図8参照)に格納される。また、試薬テーブル11及び/又は12には、混合検体の調製のための正常血液検体が収容された試薬容器103が載せ置かれてもよい。
キュベットテーブル13には、キュベット104を支持可能な複数の孔からなる支持部13aが形成されている。ユーザによってキュベット供給部15に投入された新しいキュベット104は、キュベット供給部15により順次移送され、キャッチャ16によりキュベットテーブル13の支持部13aに設置される。
検体分注アーム17と試薬分注アーム18には、それぞれ、上下移動及び回転移動できるようステッピングモータが接続されている。検体分注アーム17の先端には、検体容器101の蓋101aを穿刺できるよう先端が鋭利に形成されたピアサ17aが設置されている。試薬分注アーム18の先端にはピペット18aが設置されている。ピペット18aの先端は、ピアサ17aと異なり平坦に形成されている。また、ピペット18aには、静電容量式の液面検知センサ213(図4参照)が接続されている。
検体搬送部30(図2参照)によって検体容器101が所定位置に搬送されると、ピアサ17aが、検体分注アーム17の回転移動により検体容器101の真上に位置付けられる。そして、検体分注アーム17が下方向に移動され、ピアサ17aが検体容器101の蓋101aを貫通し、検体容器101に収容されている血液検体が、ピアサ17aにより吸引される。緊急を要する血液検体が緊急検体セット部19にセットされている場合、ピアサ17aは、検体搬送部3から供給される検体に割り込んで、緊急を要する血液検体を吸引する。ピアサ17aにより吸引された血液検体は、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に吐出される。
血液検体が吐出されたキュベット104は、キュベット移送部23のキャッチャ23aにより、キュベットテーブル13の支持部13aから、加温部24の支持部24aに移送される。加温部24は、支持部24aに設置されたキュベット104に収容されている血液検体を、所定の温度(例えば37℃)で一定時間加温する。加温部24による血液検体の加温が終了すると、このキュベット104は、キャッチャ23aによって再び把持される。そして、このキュベット104は、キャッチャ23aにより把持されたまま所定位置に位置付けられ、この状態で、ピペット18aにより吸引された試薬がキュベット104内に吐出される。
ピペット18aによる試薬の分注では、まず、試薬テーブル11及び12が回転され、測定項目に対応する試薬を収容する試薬容器103が、ピペット18aによる吸引位置に搬送される。そして、原点位置を検知するためのセンサに基づいて、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられた後、液面検知センサ213によりピペット18aの下端が試薬の液面に接触するまで、ピペット18aが下降される。ピペット18aの下端が試薬の液面に接触すると、必要な量の試薬を吸引できる程度に、さらにピペット18aが下降される。そして、ピペット18aの下降が停止され、ピペット18aにより試薬が吸引される。ピペット18aにより吸引された試薬は、キャッチャ23aによって把持されたキュベット104に吐出される。そして、キャッチャ23aの振動機能により、キュベット104内の血液検体と試薬が攪拌される。これにより、測定試料の調製が行われる。その後、測定試料を収容するキュベット104は、キャッチャ23aにより、検出部22の支持部22aに移送される。
(光学的情報取得部)
ランプユニット27は、検出部22による光学的信号の検出に用いられる複数種類の波長の光を供給する。図5を参照して、ランプユニット27の構成の一例を説明する。ランプユニット27は光源に相当し、ハロゲンランプ27aと、ランプケース27bと、集光レンズ27c~27eと、円盤形状のフィルター部27fと、モータ27gと、光透過型のセンサ27hと、光ファイバカプラ27iとを備える。
ランプユニット27からの光は、光ファイバ21を介して、検出部22に供給される。検出部22には、穴状の支持部22aが複数設けられており、各支持部22aには、キュベット104が挿入可能となっている。各支持部22aには、それぞれ、光ファイバ21の端部が装着され、支持部22aに支持されたキュベット104に光ファイバ21からの光が照射可能となっている。検出部22は、光ファイバ21を介して、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、キュベット104を透過する光(又はキュベット104からの散乱光)の光量を検出する。
図6A~Dを参照して、検出部22に配された複数の支持部22aのうちの一つの構成の例を示すが、他の支持部22aも同様の構成を有する。図6Aを参照して、検出部22には、光ファイバ21の先端が挿入される円形の穴22bが形成される。さらに、検出部22には、穴22bを支持部22aに連通させる円形の連通孔22cが形成されている。穴22bの径は、連通孔22cの径よりも大きい。穴22bの端部には、光ファイバ21からの光を集光するレンズ22dが配置されている。さらに、支持部22a内壁面には、連通孔22cに対向する位置に孔22fが形成される。この孔22fの奥に、光検出器22gが配置されている。光検出器22gは受光部に相当し、受光光量に応じた電気信号を出力する。レンズ22dを透過した光は、連通孔22c、支持部22a及び孔22fを介して、光検出器22gの受光面に集光される。光ファイバ21は、端部が穴22bに挿入された状態で、板ばね22eによって抜け止めされる。
図6Bを参照して、支持部22aにキュベット104が支持されると、レンズ22dによって集光された光は、キュベット104およびキュベット104に収容された試料を透過して、光検出器22gに入射する。試料において血液凝固反応が進むと、試料の濁度が上昇する。これに伴い、試料を透過する光の光量(透過光量)が減少し、光検出器22gの検出信号のレベルが低下する。
図6Cを参照して、散乱光を用いる場合の検出部22の構成を説明する。支持部22aの内側面において、連通孔22cと同じ高さの位置に、孔22hが設けられる。この孔22hの奥に、光検出器22iが配置される。支持部22aにキュベット104が挿入され、光ファイバ21から光が出射されると、キュベット104内の測定試料によって散乱された光が、孔22hを介して光検出器22iに照射される。この例では、光検出器22iからの検出信号は、測定試料による散乱光の強度を示す。また、図6Dに示されるように、測定試料を透過する透過光と、測定試料により散乱される散乱光との両方を検出できるようにしてもよい。
上記のように、検出部22は、ランプユニット27から供給される光をキュベット104に照射し、測定試料からの光学的情報を取得する。取得された光学的情報は、制御装置40に送信される。制御装置40は、光学的情報に基づいて分析を行い、分析結果を表示部41に表示する。
測定終了後、不要となったキュベット104は、キュベットテーブル13により搬送され、キャッチャ16により廃棄口25に廃棄される。なお、測定動作の際に、ピアサ17aとピペット18aは、流体部26から供給される洗浄液などの液体により、適宜洗浄される。
測定装置のハードウェア構成について、以下に説明する。図4に示されるように、測定部20は、制御部200と、ステッピングモータ部211と、ロータリーエンコーダ部212と、液面検知センサ213と、センサ部214と、機構部215と、取得部216と、バーコードリーダ14と、ランプユニット27を含む。
制御部200は、CPU201と、メモリ202と、通信インターフェース203と、I/Oインターフェース204を含んでいる。CPU201は、メモリ202に記憶されているコンピュータプログラムを実行する。メモリ202は、ROM、RAM、ハードディスクなどからなる。また、CPU201は、通信インターフェース203を介して、検体搬送部30を駆動させると共に、制御装置40との間で指示信号及びデータの送受信を行う。また、CPU201は、I/Oインターフェース204を介して、測定部20内の各部を制御すると共に、各部から出力された信号を受信する。
ステッピングモータ部211は、試薬テーブル11及び12と、キュベットテーブル13と、キャッチャ16と、検体分注アーム17と、試薬分注アーム18と、キュベット移送部23を、それぞれ駆動するためのステッピングモータを含んでいる。ロータリーエンコーダ部212は、ステッピングモータ部211に含まれる各ステッピングモータの回転変位量に応じたパルス信号を出力するロータリーエンコーダを含んでいる。
液面検知センサ213は、試薬分注アーム18の先端に設置されたピペット18aに接続されており、ピペット18aの下端が試薬の液面に接触したことを検知する。センサ部214は、ピペット18aの上下方向の位置が原点位置に位置付けられたことを検知するセンサと、電源ボタン20dが押されたことを検知するセンサを含んでいる。機構部215は、キュベット供給部15と、緊急検体セット部19と、加温部24と、流体部26を駆動するための機構と、ピアサ17aとピペット18aによる分注動作が可能となるようピアサ17aとピペット18aに圧力を供給する空圧源を含んでいる。取得部216は、検出部22を含んでいる。
制御装置40の構成について、以下に説明する。図2に示されるように、制御装置40は、表示部41と、入力部42と、コンピュータ本体43とから構成されている。制御装置40は、測定部20から光学的情報を受信する。そして、制御装置40のプロセッサは、光学的情報に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータを算出する。また、制御装置40のプロセッサは、光学的情報に基づいて凝固時間を算出してもよい。そして、制御装置40のプロセッサは、血液検体の判定のためのコンピュータプログラムを実行する。よって、制御装置40は、血液検体の判定のための装置としても機能する。
制御装置40の機能構成について、図7に示されるように、制御装置40は、取得部401と、記憶部402と、算出部403と、判定部404と、出力部405とを備える。取得部401は、測定部20と、ネットワークを介して通信可能に接続されている。出力部405は、表示部41と通信可能に接続されている。
取得部401は、測定部20から送信された光学的情報を取得する。記憶部402は、凝固波形の微分に関する各種パラメータの値を算出するための式、及び判定に必要な所定の閾値などを記憶する。また、記憶部402は、凝固時間を算出するための式及び所定の凝固時間(例えば、凝固時間の基準値又は正常値)を記憶していてもよい。算出部403は、取得部401で取得された情報を用い、記憶部402に記憶された式にしたがって、各種パラメータの値を算出する。判定部404は、算出部403によって算出されたパラメータの値が、記憶部402に記憶された所定の閾値よりも小さいか否かを判定する。出力部405は、判定部404による判定結果を、血液検体についての参考情報として出力する。
図8に示されるように、制御装置40のコンピュータ本体43は、CPU431と、ROM432と、RAM433と、ハードディスク434と、読出装置435と、入出力インターフェース436と、通信インターフェース437と、画像出力インターフェース438と、電源ボタン439とを備える。CPU431、ROM432、RAM433、ハードディスク434、読出装置435、入出力インターフェース436、通信インターフェース437、画像出力インターフェース438及び電源ボタン439は、バス440によって通信可能に接続されている。
CPU431は、ROM432に記憶されているコンピュータプログラム及びRAM433にロードされたコンピュータプログラムを実行する。CPU431がアプリケーションプログラムを実行することにより、上述した各機能ブロックが実現される。これにより、コンピュータシステムが、血液検体を判定するための判定装置としての端末として機能する。
ROM432は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM432には、CPU431によって実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
RAM433は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM433は、ROM432及びハードディスク434に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM433は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU431の作業領域としても利用される。
ハードディスク434は、オペレーティングシステム、CPU431に実行させるためのアプリケーションプログラム(血液検体の判定のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラム、当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータ、及び制御装置40の設定内容がインストールされている。
読出装置435は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVD-ROMドライブなどによって構成されている。読出装置435は、CD、DVDなどの可搬型記録媒体441に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
入出力インターフェース436は、例えば、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェース436には、キーボード、マウスなどの入力部42が接続されている。ユーザは入力部42を介して指示を入力し、入出力インターフェース436は、入力部42を介して入力された信号を受け付ける。
通信インターフェース437は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェースなどである。制御装置40は、通信インターフェース437により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。通信インターフェース437は測定部20に接続されており、CPU431は、通信インターフェース437を介して、測定部20との間で指示信号及びデータの送受信を行う。
画像出力インターフェース438は、LCD、CRTなどで構成される表示部41に接続されている。画像出力インターフェース438は、画像データに応じた映像信号を表示部41に出力し、表示部41は、画像出力インターフェース438から出力された映像信号に基づいて画像を表示する。
図4を参照して、測定動作の際、測定部20のCPU201は、検出部22(図3参照)から出力された検出信号をデジタル化したデータ(光学的情報)を、メモリ202に一時格納する。メモリ202の記憶領域は、支持部22a毎にエリア分割される。各エリアには、対応する支持部22aに支持されたキュベット104に対して所定波長の光を照射したときに取得されるデータ(光学的情報)が、順次格納される。こうして、所定の測定時間にわたって順次、データがメモリ202に格納される。測定時間が経過すると、CPU201は、メモリ202に対するデータの格納を中止し、格納したデータを、通信インターフェース203を介して制御装置40に送信する。制御装置40は、受信したデータを処理して解析を行い、解析結果を表示部41に表示する。
測定部20における処理は、主として測定部20のCPU201の制御の下で行われ、制御装置40における処理は、主として制御装置40のCPU431の制御の下で行われる。図9を参照して、測定処理が開始されると、測定部20は、正常血漿が収容された試薬容器103から所定量の正常血漿を吸引して、これを空のキュベット104に分注する。そして、測定部20は、検体搬送部により搬送された検体容器101から所定量の被検血漿を吸引し、これを、正常血漿が入っているキュベット104に分注して攪拌することにより、混合血漿を調製する(ステップS11)。なお、被検血漿についても測定する場合、測定部20は、検体容器101から被検血漿を吸引し、これを、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に分注する。また、正常血漿についても測定する場合、測定部20は、試薬収容部に収容された正常血漿が入った試薬容器103から正常血漿を吸引し、これを、キュベットテーブル13上の空のキュベット104に分注する。
次いで、測定部20は、血漿が分注されたキュベット104を加温部24に移送して、キュベット104内の血漿を所定温度(例えば37℃)に加温し、その後、キュベット104に試薬を添加して、測定試料を調製する(ステップS12)。測定部20は、キュベット104に試薬を添加した時点から時間の計測を開始する。
その後、測定部20は、試薬が添加されたキュベット104を検出部22に移送し、キュベット104に光を照射して測定試料を測定する(ステップS13)。この測定では、波長660 nmの光に基づくデータ(散乱光量又は透過光量)が、測定時間の間、順次、メモリ202に格納される。このとき、データは、試薬添加時点からの経過時間に対応付けられた状態でメモリ202に格納される。そして、測定時間が経過すると、測定部20は、測定を中止し、メモリ202に格納された測定結果(データ)を制御装置40に送信する(ステップS14)。これにより、制御装置40が測定部20から測定結果(データ)を受信すると(ステップS21:YES)、制御装置40は、受信した測定結果に対して分析処理を実行する(ステップS22)。すなわち、制御装置40は、測定試料について、凝固波形の微分に関するパラメータ(|min 1|、|min 2|及びmax 2)の算出と、該パラメータに基づく判定とを行う。なお、制御装置40は、測定試料の凝固時間及び凝固波形も算出してもよい。また、制御装置40は、被検血漿から調製した測定試料の凝固時間に基づいて、被検血漿について、凝固時間の延長が認められるか否かの判定を行ってもよい。分析処理を行った後、制御装置40は、分析結果の表示処理を実行する(ステップS23)。
図10Aを参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを一つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光量に関する光学的情報から、凝固波形の微分に関するパラメータの値として|min 1|の値を取得し、取得した値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、|min 1|に代えて、|min 2|又はmax 2の値を取得して判定を行ってもよい。
まず、ステップS101において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータ(散乱光量又は透過光量)に基づいて、光学的情報(散乱光強度、又は透過度もしくは吸光度)を取得する。次に、ステップS102において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、|min 1|の値を算出する。好ましくは、混合血漿から調製された一の測定試料の光学的情報から、上記パラメータを算出する。なお、凝固時間及び凝固波形は後述の判定の処理には利用されないが、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
ステップS103において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第1の閾値とを用いて、被検血漿が、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあるかを判定する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS104に進行する。ステップS104において、判定部404は、被検血漿が、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。一方、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS105に進行する。ステップS105において、判定部404は、被検血漿が、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、|min 2|の値を用いる場合は|min 2|の値と第2の閾値とを比較し、max 2の値を用いる場合はmax 2の値と第3の閾値とを比較する。
ステップS106において、出力部405は、判定結果を出力し、表示部41に表示させたり、プリンタに印刷させたりする。あるいは、音声で出力してもよい。これにより、判定結果を、被検血漿についての参考情報としてユーザに提供できる。
被検血漿の凝固時間と所定の時間とを比較するステップをさらに含む場合のフローを、図10Bを参照して説明する。ここでは、被検血漿から調製した測定試料(第1測定試料)からの光量に関する光学的情報から凝固時間を取得し、凝固時間が所定の時間より長い場合に、混合血漿から調製した測定試料(第2測定試料)の光量に関する光学的情報から取得した|min 1|の値と、対応する所定の閾値とを比較して被検血漿の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、|min 1|に代えて、|min 2|又はmax 2の値を取得して判定を行ってもよい。
まず、ステップS201において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータに基づいて、第1及び第2測定試料の光学的情報を取得する。次に、ステップS202において、算出部403は、取得部401が取得した第1測定試料の光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固時間を算出するための式にしたがって、被検血漿の凝固時間(Clotting Time:以下、「CT」ともいう)を算出する。また、算出部403は、取得部401が取得した第2測定試料の光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、混合血漿の|min 1|の値を算出する。好ましくは、混合血漿から調製された一の第2測定試料の光学的情報から、上記パラメータを算出する。算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固波形をさらに算出してもよい。
ステップS203において、判定部404は、算出部403で算出されたCTと、所定の時間とを比較する。ここで、所定の時間は、記憶部402に予め記憶された正常血漿の凝固時間であってもよいし、正常血漿について被検血漿と同様に測定して算出された凝固時間であってもよい。ステップS203において、CTが所定の時間よりも長いとき、処理はステップS204に進行する。一方、CTが所定の時間よりも長くないとき(すなわち、CTが所定の時間以下であるとき)、処理はステップS205に進行する。ステップS205において、判定部404は、被検血漿は凝固時間の延長が認められない血漿であるとの判定結果を出力部405に送信する。
ステップS204において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第1の閾値と比較する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS206に進行する。一方、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS207に進行する。なお、ステップ206及び207については、それぞれ上記のステップ104及び105について述べたことと同様である。そして、判定部404は、判定結果を出力部405に送信する。ステップS208については、上記のステップ106について述べたことと同様である。
図10Cを参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを2つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光量に関する光学的情報から、|min 1|及び|min 2|の値を取得し、取得した値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、|min 1|及び|min 2|のいずれか一方に代えて、max 2の値を取得して判定を行ってもよい。また、この例においては、被検血漿の凝固時間と所定の時間とを比較する工程をさらに含み、凝固時間が所定の時間より長い場合に、取得したパラメータの値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行ってもよい。また、凝固時間が所定の時間以下である場合に、被検血漿は凝固時間の延長が認められない検体であるとの判定結果を出力してもよい。
まず、ステップS301において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータに基づいて、光学的情報を取得する。次に、ステップS302において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、|min 1|及び|min 2|の値を算出する。算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
ステップS303において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第1の閾値とを比較する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS304に進行する。ステップS304において、判定部404は、算出部403で算出された|min 2|の値と、記憶部402に記憶された第2の閾値と比較する。ここで、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さいとき、処理はステップS305に進行する。ステップS305において、判定部404は、被検血漿が、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。
一方、ステップS303において、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS306に進行する。また、ステップS304において、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき)、処理はステップS306に進行する。ステップS306において、判定部404は、被検血漿が、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、本実施形態においては、ステップS303とステップS304との処理は順番を任意に入れ替えることができる。ステップS307については、上記のステップ106について述べたことと同様である。
図10Dを参照して、凝固波形の微分に関するパラメータを3つ用いる場合の処理のフローを説明する。ここでは、測定試料からの光量に関する光学的情報から、|min 1|、|min 2|及びmax 2の値を取得し、取得した値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、被検血漿の凝固時間と所定の時間とを比較する工程をさらに含み、凝固時間が所定の時間より長い場合に、取得したパラメータの値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行ってもよい。また、凝固時間が所定の時間以下である場合に、被検血漿は凝固時間の延長が認められない検体であるとの判定結果を出力してもよい。
まず、ステップS401において、制御装置40の取得部401は、測定部20から受信したデータに基づいて、光学的情報を取得する。次に、ステップS402において、算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から、記憶部402に記憶された凝固波形の微分に関するパラメータを算出するための式にしたがって、|min 1|、|min 2|及びmax 2の値を算出する。算出部403は、取得部401が取得した光学的情報から凝固時間及び凝固波形をさらに算出してもよい。
ステップS403において、判定部404は、算出部403で算出された|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第1の閾値とを比較する。ここで、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS404に進行する。ステップS404において、判定部404は、算出部403で算出された|min 2|の値と、記憶部402に記憶された第2の閾値と比較する。ここで、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さいとき、処理はステップS405に進行する。ステップS405において、判定部404は、算出部403で算出されたmax 2の値と、記憶部402に記憶された第3の閾値と比較する。ここで、max 2の値が第3の閾値よりも小さいとき、処理はステップS406に進行する。ステップS406において、判定部404は、被検血漿が、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。
一方、ステップS403において、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第1の閾値以上であるとき)、処理はステップS407に進行する。また、ステップS404において、|min 2|の値が第2の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 2|の値が第2の閾値以上であるとき)、処理はステップS407に進行する。また、ステップS405において、max 2の値が第3の閾値よりも小さくないとき(すなわち、max 2の値が第3の閾値以上であるとき)、処理はステップS407に進行する。ステップS407において、判定部404は、被検血漿が、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、本実施形態においては、ステップS403と、ステップS404と、ステップS405との処理は順番を任意に入れ替えることができる。ステップS408については、上記のステップ106について述べたことと同様である。
図10Eを参照して、被検血漿が、凝固因子の欠損以外の凝固異常の原因を有する血漿である疑いがあると判定されたときに、取得したパラメータの値に基づいて、被検血漿が、LAを含む血漿の疑いがあるか、又は凝固因子インヒビターを含む血漿の疑いがあるかをさらに判定する処理のフローを説明する。ここでは、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、さらに、|min 1|の値と第4の閾値とを比較して、比較結果に基づいて、被検血漿が、LAを含む血漿の疑いがあるか、又は凝固因子インヒビターを含む血漿の疑いがあるかを判定する場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されるものではない。この例においては、|min 1|に代えて、|min 2|又はmax 2の値を取得して判定を行ってもよい。また、複数のパラメータを用いて、血液検体の判定を行ってもよい。さらに、被検血漿の凝固時間と所定の時間とを比較する工程をさらに含み、凝固時間が所定の時間より長い場合に、取得したパラメータの値と、対応する所定の閾値とを比較して血液検体の判定を行ってもよい。また、凝固時間が所定の時間以下である場合に、被検血漿は凝固時間の延長が認められない検体であるとの判定結果を出力してもよい。
図10Eに示されるステップ501~504については、図10Aのステップ101~104について述べたことと同様である。ステップ503において、|min 1|の値が第1の閾値よりも小さいとき、処理はステップS505に進行する。ステップS505において、判定部404は、|min 1|の値と、記憶部402に記憶された第4の閾値とを用いて、被検血漿が、LAを含む血漿である疑いがあるか又は凝固因子インヒビターを含む血漿の疑いがあるかを判定する。ここで、|min 1|の値が第4の閾値よりも小さくないとき(すなわち、|min 1|の値が第4の閾値以上であるとき)、処理はステップS506に進行する。ステップS506において、判定部404は、被検血漿が、LAを含む血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。一方、|min 1|の値が第4の閾値よりも小さいとき、処理はステップS507に進行する。ステップS507において、判定部404は、被検血漿が、凝固因子インヒビターを含む血漿である疑いがあるとの判定結果を出力部405に送信する。なお、|min 2|の値を用いる場合は|min 2|の値と第5の閾値とを比較し、max 2の値を用いる場合はmax 2の値と第6の閾値とを比較する。ステップS508については、上記のステップ106について述べたことと同様である。
分析結果を表示する画面の一例として、図11を参照して、プロトロンビン時間測定試薬を用いて混合血漿の凝固過程を分析した結果を表示する画面について説明する。画面D1は、検体番号を表示する領域D11と、測定項目名を表示する領域D12と、詳細画面を表示させるためのボタンD13と、測定日時を表示するための領域D14と、測定結果を表示する領域D15と、解析情報を表示する領域D16と、凝固波形及びそれを微分したグラフを表示する領域D17を含む。
領域D15には、測定項目と測定値が表示される。領域D15において、「PT sec」は、プロトロンビン時間である。領域D15には、プロトロンビン時間(PT sec)の他、プロトロンビン時間を所定のパラメータ値に変換した値(PT %、PT R、PT INR)が表示されてもよい。
領域D16には、解析項目と参考情報が表示される。領域D16において、「Index」は、判定に用いた凝固波形の微分に関するパラメータの値である。「Cutoff(参考)」は、判定に用いたパラメータ値に対応する所定の閾値である。「判定(参考)」は、血液検体分析装置による判定結果であり、被検血漿が、凝固因子を欠損した血漿である疑いがあることを示す。なお、疾患の診断は、この判定結果だけでなく、他の検査結果などの情報も考慮して行われることが望ましい。よって、本実施形態に係る血液検体分析装置による判定結果及び所定の閾値が参考情報であることを示すために、「(参考)」と表示している。図11では、判定結果を「凝固因子欠損の疑い」という文字で表示しているが、フラグなどの記号や図形標識で表示してもよい。あるいは、判定結果を音声で出力してもよい。
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1
凝固波形の微分に関するパラメータに基づいて、凝固因子欠損検体、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体を鑑別することが可能であるか否かを検討した。
(1)試薬
凝固時間測定試薬として、APTT試薬のトロンボチェックAPTT-SLA(シスメックス株式会社)及びトロンボチェック20 mM塩化カルシウム液(シスメックス株式会社)を用いた。また、正常血漿として、クロスミキシングテスト用正常血漿のCRYOcheck Pooled Normal Plasma(Precision BioLogic Inc社)を用い、精度管理用コントロール試料として、コアグトロールIX及びコアグトロールIIX(シスメックス株式会社)を用いた。
(2)被検血漿
被検血漿として、第V因子欠損患者の血漿(3例)、第VIII因子欠損患者の血漿(4例)、LA陽性患者の血漿(8例)及び凝固第VIII因子インヒビター陽性患者の血漿(5例)を用いた。
(3)測定
試料の調製及び測定には、全自動血液凝固測定装置CS-2400(シスメックス株式会社)を用いた。上記の各被検血漿と正常血漿とを5:5の割合で混合して、被検血漿の比率が50%(v/v)の混合血漿を合計で50μLとなるように反応キュベットに分注し、37℃で1分間加温した。ここに、予め37℃で加温した上記のAPTT試薬(50μL)を添加して、37℃で3分間反応させた。そして、20 mM塩化カルシウム液(50μL)を混合して、透過度を420秒間連続的に測定した。また、正常血漿についても同様に測定した。
(4)解析結果
得られた透過度の経時的変化に基づいて、凝固波形の微分に関するパラメータとして|min 1|、|min 2|及びmax 2を算出した。正常血漿の|min 1|、|min 2|及びmax 2の値に対する各被検血漿の|min 1|、|min 2|及びmax 2の割合(%)を算出し、グラフにプロットした。得られたグラフを図12A~Cに示す。
図12A~Cに示されるように、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれについても、凝固因子欠損検体群の方が、LA陽性検体群及び凝固因子インヒビター陽性検体群よりも高いことがわかる。|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれについても、凝固因子欠損検体群の最低値と、LA陽性検体群及び凝固因子インヒビター陽性検体群の最高値との間には隔たりが認められたことから、各パラメータについて、凝固因子欠損検体と、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体とを切り分ける閾値の設定が可能であることが示唆される。さらに、|min 1|、|min 2|及びmax 2のいずれについても、LA陽性検体群の方が、凝固因子インヒビター陽性検体群よりも高いことがわかる。これらのことから、凝固波形の微分に関するパラメータに基づいて、凝固因子欠損検体、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体を定量的に鑑別できることが示された。これらのパラメータは定量的指標であるので、熟練者でなくても検体の明確な判定が可能と考えられる。
比較例: クロスミキシングテストによる検体の判定
この比較例では、凝固因子欠損検体、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体のそれぞれについて、クロスミキシングテストを行い、得られたグラフパターンから凝固異常の原因を鑑別することを試みた。
(1)試薬及び検体
この参考例で用いた試薬、被検血漿、正常血漿及び精度管理用コントロール試料は、実施例1と同じである。
(2)測定
即時型のグラフパターンを得るために、正常血漿と被検血漿とを9:1、8:2、5:5、2:8、及び1:9の各比率で混合して混合血漿を得た。そして、正常血漿、被検血漿及び調製した各混合血漿の凝固時間を測定した。なお、血漿の混合、測定試料の調製及び凝固時間の測定はCS-2400(シスメックス株式会社)により行った。また、遅延型のグラフパターンを得るために、測定では、正常血漿と被検血漿とを用手法により上記の比率で混合して混合血漿を得た。そして、正常血漿、被検血漿及び調製した各混合血漿を37℃で2時間インキュベートした。その後、測定試料の調製及び凝固時間の測定をCS-2400(シスメックス株式会社)により行った。各測定試料について得られた凝固時間を、正常血漿と被検血漿との混合比率をX軸とし、凝固時間をY軸とするグラフにプロットした。
(3)解析結果
凝固因子欠損検体、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体のそれぞれについて、即時型及び遅延型のグラフパターンを図13A~Cに示した。図13A~Cに示されるように、凝固因子欠損検体は、即時型と遅延型とのグラフパターンの変化に基づいて、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体と鑑別可能であることがわかる。しかし、グラフパターンの変化に基づく鑑別は、定量性に乏しく、実験操作も煩雑である。図13B及びCに示されるように、LA陽性検体及び凝固因子インヒビター陽性検体のグラフパターンの変化は類似していた。よって、グラフパターンの変化による両者の鑑別は定性的評価にならざるを得ず、熟練者でない場合は判定が困難であることがわかる。