JP6982817B2 - キラルマイクロファイバーの製造方法及びこれにより製造されるキラルマイクロファイバー - Google Patents

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Description

本発明は、キラルマイクロファイバーの製造方法及びこれにより製造されるキラルマイクロファイバーに関する。
光渦は、位相特異点に由来する角運動量(軌道角運動量)及びドーナツ型強度分布という特徴的な性質をもった光波である。
光渦の代表例としては、例えばラゲールガウスビームを挙げることができる(例えば下記非特許文献1参照)。ラゲールガウスビームは、円筒座標系における波動方程式の固有解であり、回転中心の周りで1波長伝搬するごとに2πの整数倍だけ位相が回転する周期的境界条件を満たす。このため、量子数L(l=1,2,3…)を用いて軌道角運動量の大きさを表すことが可能である。光渦の波面はらせん形状を有しており、この法線方向と光の伝搬方向のベクトル差で与えられる方向に軌道角運動量が働く。
また光渦は、光の放射圧を利用した光マニピュレーション、位相特異点を利用した高解像度顕微鏡、軌道角運動量を積極的に利用した光渦アブレーション加工などに利用することができ、今後の工業的な利用が大きく期待される。
光渦を発振させる公知の技術として、例えば下記特許文献1に記載の装置を例示することができる。
WO2012/169578号公報
L. Allen, M. W. Beijer1bergen, R. J. C. 1preeuw, and J. P. Woerdman, "Orbital angular momentum of light and the tran1formation of Laguerre−Gau11ian la1er mode1," Phy1. Rev. A 45, 8185−8189 (1992)
しかしながら、上記特許文献1、非特許文献1に記載の技術は光渦の発振方法そのものに主眼をおいた技術であり、上記に列挙する光マニピュレーション等を含め、光渦を用いる応用については検討の余地が残る。
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、光渦の新たな応用の可能性を提供することを目的とする。
上記課題について鋭意検討を行っていたところ、本発明者らは、光硬化性組成物に対して光渦レーザーを照射することで、キラルマイクロファイバーを製造することができることを確認した。
すなわち、本発明の一観点に係るキラルマイクロファイバーの製造方法は、光硬化性組成物に対し、光渦レーザーを照射することによって光硬化性組成物を重合させて光硬化樹脂とする。この結果、分岐しかつらせん状に絡み合ったキラルマイクロファイバーを製造することができる。
また、本発明の他の一観点に係るキラルマイクロファイバーは、分岐しかつらせん状に絡み合い、光硬化樹脂によって構成されている。
以上、本発明により、光渦の新たな応用の可能性を提供することができる。なお本発明によって提供されるキラルマイクロファイバーは、具体的には、環境計測用の高感度デバイス、集積回路等のエレクトロニクスデバイス、光デバイス等広く応用が可能である。
実施形態に係る光学システムの概略を示す図である。 実施形態に係る光学システムの応用例における容器近傍の概略図である。 実施例1において作製したキラルマイクロファイバーのCCD像である。 実施例1において作製したキラルマイクロファイバーの形成過程の画像である。 実施例1において作製したキラルマイクロファイバーのSEM画像である。 実施例2において作製したキラルマイクロファイバーのSEM画像である。
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
本キラルマイクロファイバーは、複数に分岐し、かつ、これらがらせん状に絡み合い、光硬化樹脂によって構成されている。
本キラルマイクロファイバーにおいて、光硬化樹脂とは、光硬化性組成物に光を照射することで重合が開始し、この光重合によって硬化した樹脂をいう。
本キラルマイクロファイバーにおいて光硬化樹脂としては、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂等を例示することができる。なお、光硬化性組成物は、これらが重合する前のモノマー又はオリゴマーである。
また、図1は、本ファイバー1を製造するための光学システム1の概略を示す図である。本図で示すように、本光学システム1は、レーザー光B1を発するレーザー光源2と、レーザー光源2が発するレーザー光B1に基づき光渦B2を発する光渦発生部3と、光渦発生部3によって発生した光渦B2を円偏光B3にする1/4波長板4と、集光する集光部5と、光硬化性組成物を保持するための容器6と、を備えている。
本光学システム1において、「光渦」とは、上記のとおり、位相特異点に由来する角運動量(軌道角運動量)及びドーナツ型強度分布という特徴的な性質をもった光波をいう。また、光渦は、螺旋波面に起因した軌道角運動量(l)を有しているが、螺旋の巻き方により右巻・左巻(キラリティー)を簡単に制御できる。軌道角運動量を用いれば、粒子などを公転運動させることが可能である。一方、光波の持つ角運動量にはこの他に、光子の自転運動に相当するスピン角運動量(1)が存在し、本明細書ではこの総和を光波の持つ全角運動量(j)と定義する。
本光学システム1において、レーザー光源2は、上記の通りレーザー光B1を発することができるものである。レーザー光源2については、上記機能を有する限りにおいて限定されるわけではなく、YAGレーザー等の固体レーザー、色素レーザー、He−Neレーザー等のガスレーザー、LDレーザー等の半導体レーザー等を用いることができるがこれに限定されない。ただし、本実施形態においてレーザー光源2から放出される光の波長領域は、照射対象が光重合(光硬化)を起こすことのできる波長範囲であることが好ましい。この波長範囲は材料によって適宜調整可能であるが、紫外領域から可視の領域にあることも好ましく、より具体的には10nm以上800nm以下の範囲にあることが好ましい。
また本光学システム1において、レーザー光源2は、連続波のレーザー光を発する連続発振レーザー光源であることが好ましい。連続波のレーザー光を用いることで、連続的に高分子に光渦を照射し続けることができる。パルス発振レーザー光であってもよいが、この場合は、光重合(光硬化)を維持できるよう繰り返し周波数が十分に高いものであることが好ましい。
また、本光学システム1において、光渦発生部3は、レーザー光源2が発するレーザー光B1に基づき光渦B2を発することができるものであり、この限りにおいて限定されないが、例えば位相板、空間位相変調器、マルチモードエリアファイバー増幅器等を用いることができる。なお、レーザー光源2と、光渦発生部3とを一体にして直接光渦を発生させる構成としてもよい。光渦発生部において発生させる光渦はコヒーレントな光渦であることが特に好ましい。
また本光学システム1において、1/4波長板4は、光渦を円偏光B3にするために用いられるものである。既に光渦発生部3が円偏光となっている場合は省略することも可能である。本光学システム1では、1/4波長板を設けることで、光硬化性組成物を光重合させるとともに、分岐し、更にはらせん状に組み合わされた光硬化樹脂とすることができる。
また本光学システム1において、集光部5は、集光し、光硬化性組成物に効率的に照射するために用いられるものである。集光部5の構造としては、円偏光となった光渦を効率的に照射することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、顕微鏡対物レンズを含んで構成されていることが好ましい。顕微鏡対物レンズでビーム径を所望の径に調整することにより、この径が、キラルマイクロファイバーの径を定めることになる。
また本光学システム1において、容器6は、光硬化性組成物を保持するためのものである。容器6は重合のために入射される光を吸収せず透過させることができる部材を含んで構成されていることが好ましく、光が紫外領域から近赤外の領域にある場合は、この領域の光を透過できる材料であることが好ましい。
また本光学システム1において、容器6に保持される光硬化性組成物は、上記の通り、重合することによってエポキシ樹脂等の光硬化樹脂となるものである。また、光重合は、重合できる限りにおいて限定されるわけではないが、光硬化性組成物を溶媒に溶解した溶液とし、この溶液に光を照射することで行うことが好ましい。またこの場合において溶媒には、上記光硬化性組成物のほか、重合開始剤及び必要に応じて各種添加剤(安定剤、顔料等)を含ませることができる。
なお、本光学システム1では、上記構成のほか、重合の進捗状況を観測するための観測部7を設けてもよい。観測部7は、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、上記容器6内からの光を拡大させて観測するための対物レンズ71、この対物レンズからの光に基づき像を撮影することのできる撮像装置72と、を有していることが好ましい。なお、撮像装置72の例としては、限定されるわけではないがCCDカメラ等を例示することができ、更にこれにいわゆるパーソナルコンピュータ等の情報処理装置を接続し、画像処理することが好ましい。
また、上記の記載から明らかなように、本光学システム1は、光硬化性組成物の少なくともいずれかに対し、光渦レーザーを照射することによって光硬化性組成物を重合させ、分岐しかつらせん状に絡み合ったキラルマイクロファイバーを製造する方法(以下「本方法」という。)を提供することができる。
また、本法において、上記の通り、光渦発生部3又は1/4波長板4によって円偏光とし、更に、入射する光の全角運動量jを制御することが好ましく、その値は、J=0以外であることが好ましい。J=0の場合はマイクロファイバーではあるがキラル構造を備えていないため、J=±1、2、3、…であることが好ましい。
以上、本光学システム1を用い、本方法を用いることで、本キラルマイクロファイバーを得ることができる。
より具体的に説明すると、従来、既存のいかなる化学的な手法を用いた方法や、ガウスビームレーザーを用いても、光の照射のみでキラルマイクロファイバーの構造を制御しながら創成することが不可能であった。光硬化樹脂に、紫外線光渦を照射するだけで、キラルマイクロファイバーの創成に成功した実験報告例は、これまでに無い。本方法によって初めてキラルマイクロファイバーの創成を実現しただけでなく、光渦の螺旋波面の向きと円偏光の回転方向の制御のみでマイクロファイバーのキラル構造制御に世界で初めて成功した。光波が持つ運動量が光重合反応を介して転写された、全く新しい現象である。しかも、紫外線円偏光光渦の全角運動量jのみの制御でマイクロファイバーのキラリティー構造を100%制御することが可能となる。
通常のレーザー光(ガウスビーム形状)を光硬化性組成物に照射した場合でも、マイクロファイバーは創成可能ではあるが、キラル構造を備えたファイバー創成は不可能である。本方法では、円偏光光渦を照射するだけで、これまで制御不可能であったキラルマイクロファイバーの構造制御に世界で初めて成功したものである。また、キラルマイクロファイバーの創成速度も格段に速く百μmオーダーをわずか1秒以下で作成可能である。
特に、本キラルマイクロファイバーの特に重要な応用分野は、異種材料の接合であると考えられる。らせん状に組み合わせるすなわち捻ることで強度が増し、異種材料接合を容易に行うことができる。さらに、ファイバー型発光素子、光インターコネクション、空間多重不揮発型光メモリなど、環境計測用の高感度デバイス応用や、集積回路などエレクトロニクス分野、光デバイス分野など多彩な分野での応用が大きく期待できる。
(応用例)
ここで、上述の通り、上記光学システム1により、材料接合を行う方法の具体的な応用例について説明する。図2は、本応用例に係る光学システム1の容器6近傍の概略図である。なおこの場合において、一対の材料は異種であるとこの効果はさらに顕著である。
本図で示すように、本光学システム1において、容器6をそれ単体で光硬化性組成物を保持できる部材ではなく、接合対象となる材料の一部を容器6の保持部材とする。なお、この場合において接合対象となる一対の材料の少なくとも一方の一部は、照射する光を十分に透過させることのできる材料であることが好ましい。
本図で示すように、ここでは、一対の材料と容器6の部材を用い、光硬化性組成物を保持する。そして、光照射領域において透明な部材を備える異種材料中から光硬化性組成物に対し光を照射する。すると、この境界近傍に近い光硬化性組成物から重合が開始し、分岐しらせん状に巻かれながら光硬化樹脂が形成され、他方の異種材料に到達することで、一対の材料を接合することができる。そして、接合後、容器6の部材を取り除き、未反応の光硬化性組成物を除去することで、一対の材料と一対の材料を接合するキラルマイクロファイバーを残すことが可能となり、軽量化を図ることができる。
なお、本図で示す例では、一箇所から光渦を照射している例を示しているが、照射する光渦の数は一つであってもよく、二以上の複数であってもよい。またこれらの光渦は近傍に配置することが好ましい。複数箇所から照射することでこれらファイバーを組み合わせる又は結合させることでより強固なファイバーを形成することができ、用途は広く拡大する。なおこの場合において、光渦の偏光状態等のパラメータは同一であってもよいが異なっていてもよい。
以上、本光学システム1を用い、本方法を用いることで、本キラルマイクロファイバーを得ることができる。
ここで、上記実施形態に係る方法について実際に実現し、その効果を確認した。以下具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例では、上記図1と同様の構成を作製した。具体的には、波長405nmのレーザーをコリメートした後、螺旋型位相板を用いて紫外線光渦へと変換させた。さらに、1/4波長板を使用し、円偏光の回転方向を制御可能とした。
そして、円偏光光渦に変換されたレーザー光を、対物レンズを介して容器として用いたプレパラート内の光硬化樹脂に照射させた。今回の試料には、ノーランド製光硬化樹脂NOA63を使用した。また、キラルマイクロファイバーの創成過程は、観測部としてCCDカメラにてリアルタイムでモニタした。
実際に紫外線円偏光光渦を用いてキラルマイクロファイバーの創成を行った際の、CCD画像を図3に示す。
光硬化樹脂に紫外線円偏光光渦j=±3(l=+2,1=+1)、j=±2(l=+1,1=+1)、j=0(l=0,1=0)、を照射した際の画像をそれぞれ示す。この結果、軌道角運動量lに対応した分岐が生じているのが確認できた。また、全角運動量の符号に応じてキラルマイクロファイバーの巻き方向が制御させていることが可能であった。比較のために、軌道角運動量を持たないガウスビームを照射した場合(j=0(l=0,1=0))では、同じ条件下においてキラルマイクロファイバーの創成は実現できなかった。
以上の結果から、次の二点が大きな成果である。
(1)紫外線円偏光光渦照射のみで、マイクロファイバーのキラリティー構造制御が可能。
(2)軌道角運動量に応じた分岐数をマイクロファイバー化することが可能。
またここで、j=±3(l=+2,1=+1)においてキラルマイクロファイバーの創成過程をリアルタイムでCCDカメラによりリアルタイム計測を行った。動画一コマ毎に差分処理を行った結果を図4に示す。
上記の結果から、光の全角運動量の符号に対応してマイクロファイバーのキラル構造を制御できたことが良くわかる。
また、光硬化樹脂に紫外線円偏光光渦を照射後、アセトン洗浄して取り出したマイクロファイバーの1EM画像を図5(a)に示す。紫外線円偏光光渦を照射した際、長さ100μm以上、直径数μmのキラルマイクロファイバーの創成に成功した。図5(b)は、比較用に軌道角運動量を有しない円偏光ガウスビーム(l=0,1=1)により作成したマイクロファイバーの1EM画像である。
(実施例2)
また次に、上記実施例1と同様ではあるが、入射する光渦を近傍二か所に配置し、この二か所からマイクロファイバーを作製した。この入射した光の照射面及び作製されたマイクロファイバーを図6に示す。なおこの光入射はビームスプリッタを用いて同じ状態の光渦を二つ照射したものである。図中(a)は光渦を正面から見た場合の図であり、(b)は作製されたマイクロファイバーを示す。
本図で示すように、近傍の二か所から光渦を照射することで、これらファイバーを絡ませ又は融合させることでより強固なファイバーを形成することができることを確認した。
以上、本発明の効果を確認することができた。
本発明は、キラルマイクロファイバーの製造方法として産業上の利用可能性がある。キラルマイクロファイバーは、例えば、異種材料接合、ファイバー型発光素子、光インターコネクション、空間多重不揮発型光メモリなど、環境計測用の高感度デバイス応用や、集積回路などエレクトロニクス分野、光デバイス分野など多彩な分野での応用が大きく期待できる。



Claims (5)

  1. 光硬化性組成物に対し、光渦レーザーを、光渦の螺旋波面の向きと円偏光の回転方向の制御を行いながら照射することによって前記光硬化性組成物を重合させることにより分岐しかつらせん状に絡み合ったキラルマイクロファイバーを製造することを特徴とする方法
  2. 前記光硬化性組成物は、溶媒に溶解され少なくとも一部が光透過性の素材により構成された容器に保持されている請求項1記載のキラルマイクロファイバーを製造する方法。
  3. 前記光渦レーザーは、円偏光光渦レーザーである請求項1記載のキラルマイクロファイバーを製造する方法。
  4. 分岐しかつらせん状に絡み合い、光硬化樹脂によって構成されているキラルマイクロファイバー。
  5. 一方の端において、前記分岐した部分が結合してなる部分を有する請求項4記載のキラルマイクロファイバー。

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