JP6971461B2 - 蛍光カルシウムセンサー蛋白質 - Google Patents
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Description
G-CaMPsにカルシウムイオンが結合した際の蛍光強度の変化量は、従来の蛋白質性蛍光カルシウムプローブと比較して、より大きい。そのため、G-CaMPsは、カルシウムに対する感度が従来のカルシウムセンサーに比して高いという特長を有している。
以上のような状況から、高輝度な蛍光カルシウムセンサー蛋白質の開発の必要性は高い。
高輝度な緑色蛍光カルシウムセンサー蛋白質は、1)センサー蛋白質の蛍光が細胞の自家蛍光の影響を受けにくく、2)組織の多細胞集団内でセンサー蛋白質を発現する細胞の位置を明るい緑色蛍光を指標として容易に同定でき、かつその細胞機能をモニターすることが可能となる、等の利点があるため生命科学研究分野での利用価値が高く、その開発が強く望まれていた。
発明者らは、これまで緑色蛍光蛋白質EGFPを蛍光素子とする蛍光変化量が大きいカルシウムセンサー蛋白質を開発してきたが、G-CaMP7 [G-CaMP2のRSETタグ部分にHis6→His5; EGFP(aa150-239)部分にM154K, T204V, S206N; EGFP(aa1-145)部分にN106Y, E125V; Calmodulin部分にM36L, N60D, D78Yの変異が導入されている]を作製した際に導入されたアミノ酸変異のうち、いくつかのアミノ酸変異だけをG-CaMP2と同じアミノ酸残基に戻すことを試した結果、偶然にも、G-CaMP7より蛍光輝度が著しく高い蛍光カルシウムセンサー蛋白質G-CaMP7.09を作出することができた。
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の117番目のAsnと338番目のLeuが、各々、異なるアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる蛍光カルシウムセンサー蛋白質。
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列の117番目のAsnがSerに、338番目のLeuがMetに置換されたアミノ酸配列からなる上記(1)に記載の蛍光カルシウムセンサー蛋白質。
(3)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる上記(1)または(2)に記載の蛍光カルシウムセンサー蛋白質。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の蛍光カルシウムセンサー蛋白質をコードする遺伝子。
(5)配列番号4で表される塩基配列からなる上記(4)に記載の遺伝子。
配列番号1で表されるアミノ酸配列の117番目のAsnおよびLeuをいかなるアミノ酸で置換するかは、特に限定はしないが、例えば、117番目のAsnをSerに、338番目のLeuをMetに置換するのが望ましい(配列番号3)。
本発明において蛍光特性とは、蛍光強度、蛍光波長、蛍光強度比、吸光度、吸光波長および輝度などの蛍光特性を指す。本発明の蛍光カルシウムセンサー蛋白質は、従来の蛍光カルシウムセンサー蛋白質として比較して、特に、輝度が高いという特長を有している。ここで、輝度とは、モル吸光係数(ε)と量子収率(φ)の積である。
例えば、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる蛍光カルシウムセンサー蛋白質の場合、該蛋白質をコードする配列番号4で表される遺伝子配列を、適当な発現ベクターに挿入し、常法に基づいて、該蛋白質を発現し、単離精製を行うことで、本発明の蛍光カルシウムセンサー蛋白質を作製することができる。本発明の蛍光カルシウムセンサー蛋白質は、必要に応じて、タグ(例えば、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグおよびGSTタグなど)を融合させて発現させてもよい。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
1−1.蛍光カルシウムセンサー蛋白質(G-CaMP7.09)の調製
1−1−2.G-CaMP7.09の細菌発現用および哺乳動物発現用プラスミドの構築
G-CaMP7.09の細菌発現用プラスミドであるpRSETB-G-CaMP7.09および哺乳動物発現用プラスミドであるpN1-G-CaMP7.09は、特許文献3(特許第5788160号)に記載のpRSETB-G-CaMP7およびpN1-G-CaMP7を後述のように改変することによって構築した。
すなわち、G-CaMP7の配列(配列番号1)においてEGFP部分に存在するAsn-117をSerに、カルモジュリン部分のLeu-338をMetにアミノ酸置換されるよう、そのcDNA配列のAsn-117をコードしている5’-AAT-3’を5’-TCC-3’に、Leu-338をコードしている5’-CTG-3’を5’-ATG-3’に、各々、変異させてG-CaMP7.09を構築した。具体的には、pRSETB-G-CaMP7およびpN1-G-CaMP7をSac IおよびCla Iで消化した、各々、3.00kbおよび4.19kbのベクター断片にpN1-G-CaMP5.09(Ohkuraら, PLoS One, 7 e51286 2012)をSac IとCla Iで消化した1.13kbの断片をライゲーションさせて、pRSETB-G-CaMP7.09およびpN1-G-CaMP7.09を作製した。
制限酵素によるDNAの切断はNEB社、Toyobo社もしくはTakara社の制限酵素およびそれらの添付バッファーと添付Bovine Serum Albumin(100×BSA)を用いて行った。反応は、1〜2μgのDNAに添付バッファー(3μl)、添付100xBSA(0.3μl)および各制限酵素(10ニット)を加えて全量を30μlとした中で、37℃で、1〜3時間行った。
まず、アガロースゲル電気泳動後、Safe Imager上で目的のバンドをなるべく小さくなるようにメスで切り出し、GP1バッファーを500μl加えて時々撹拌しながら55℃に放置してゲルを完全に溶解させた。次に、そのDNA溶解液をspin columnにアプライして、約13,200×gで30秒間遠心し、DNAを吸着させた。DNAが吸着したカラムには、GP2バッファーを600μl加えて、約13,200×g、30秒間遠心し、カラムを洗浄した。さらに、約13,200×g、2分間遠心し、カラムに残った液滴を完全に除去した。カラムを新しい回収用マイクロチューブにとりつけ、カラムにGP3バッファーを10〜25μl加えて室温で2分間放置した後、約13,200×g、2分間遠心し、カラムからDNAを溶出し回収した。
ライゲーション反応は、DNA Ligation Kit Ver.2(Takara)を用い、操作は添付のマニュアルに従って行った。詳細には、約25fmolのプラスミドベクターおよび約25〜250fmolのインサートDNAの混合溶液に等量のLigation Mixを添加して混和した後、16℃で30分間反応させた。
まず、5mlの大腸菌培養液を約2,000×g、10分間遠心し、上清をデカンテーションまたはピペッティングで除去して大腸菌の沈殿を得た。この沈殿に、氷冷したRNase入りmP1バッファーを200μl加えて懸濁し、mP2バッファーを200μl加えて室温で2分間放置して、アルカリSDSで菌体を破砕した。その後、mP3バッファーを300μl加えて中和した。菌体破砕液をspin columnに移し、約13,200×g、30秒間遠心してプラスミドをカラムに吸着させた。カラム素通り液は、デカンテーションにて除去した。次に、カラムにmP4バッファーを400μl加えて約13,200×g、30秒間遠心してカラムを洗浄した。カラム素通り液は、デカンテーションにて除去した。また、カラムにmP5バッファーを600μl加えて約13,200×g、30秒間遠心してカラムを洗浄した。カラム素通り液は、デカンテーションにて除去した。さらに、バッファーを加えずに、もう一度約13,200×g、2分間遠心してカラムに残った液滴を完全に除去した。カラムを新しい回収用マイクロチューブにとりつけ、カラムにmP6バッファーを30μl加えて約13,200×g、2分間遠心してカラムからプラスミドを溶出し回収した。
LB液体培地
10g/l Bacto-tryptone(ナカライテスク)、5g/l Bacto-yeast extract(ナカライテスク)、5g/l NaCl(ナカライテスク)、1g/l glucose(Wako Chemicals)。オートクレーブにて滅菌して調製。
LB寒天培地
10g/l Bacto-tryptone(ナカライテスク)、5g/l Bacto-yeast extract(ナカライテスク)、5g/l NaCl(ナカライテスク)、1g/l glucose(Wako Chemicals)、15g/l Agar(ナカライテスク)。オートクレーブにて滅菌後、温度が45℃程度まで下がったところで抗生物質(100μg/ml アンピシリンまたは50μg/ml カナマイシン(Wako Chemicals))を加え、プラスチックディシュに流し込んで調製。
TE
10mM Tris-HCl(pH8)、1mM EDTA(Wako Chemicals)
蛍光カルシウムセンサー蛋白質の精製は、この蛋白質がHisタグを有していることを利用して、Hisタグに特異的に結合するNi-NTA agarose(Qiagen)を用い、操作はそのマニュアルに従って行った。詳細には、pRSETB-G-CaMP7.09を大腸菌コンピテントセルKRXに形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB選択培地に植菌し、37℃で一晩培養した。生じたコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含む10mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、37℃にて16時間培養した。得られた培養液10mlを、さらに100μg/mlのアンピシリンを含む200mlの液体培地(LB培地)に植えつぎ、吸光度OD600で0.5〜1となるまで37℃で培養した後、最終濃度が1%になるようにラムノース(プロメガ)を加えて、18〜25℃で4〜5時間さらに培養した。
培養物を3,000回転で15分間遠心して(6200遠心機、Kubota)、大腸菌を回収した。1mlのLB培地で大腸菌を懸濁し、-20℃で30分凍らせた後、室温で30分解凍した。再度、凍結、解凍を繰り返した。氷上で冷やした40mlのsuspension buffer(25mM Tris-HCl(pH8)(Sigma)、1mM 2-メルカプトエタノール(ナカライテスク)、蛋白分解酵素阻害剤(0.1mM PMSF、5μg/ml ロイペプチン(Wako Chemicals))を加え、よく混ぜて大腸菌を懸濁した。大腸菌懸濁液を4℃、100,000×gで15分間遠心し、上清を得た。5M NaClを最終濃度が0.3Mとなるように加え、2mlの50% Ni-NTA agarose(Qiagen;蛋白質結合能5〜10mg/mlレジン)をさらに加えて1時間室温で穏やかに混合して反応させた。反応液を空のカラム(エコノカラム;カラムサイズ 〜20ml(Bio-Rad))に移し、余分の液がカラムから滴下してなくなるのを待った。10mlの洗浄液(50mM NaH2PO4(pH8)(ナカライテスク)、0.3M NaCl、20mM imidazole(ナカライテスク))で2回洗浄した後、3〜4mlの回収液(50mM NaH2PO4(pH8)(ナカライテスク)、0.3M NaCl、250mM imidazole(ナカライテスク))にて溶出し、Hisタグ付きの蛋白質をカラムから回収した。次に、回収した液を透析チューブ(Sankoujunyaku)に入れて125mlまたはそれ以上のKMバッファー(0.1M KCl(ナカライテスク)、20mM MOPS-Tris(pH7.5)(Dojindo))で、4℃にて透析した。KMバッファーは4〜5時間ごとに交換し、液交換を3回以上行った後、透析チューブから蛋白質の溶液を回収した。
まず、10〜200μg/mlとなるように水で希釈した蛋白質の溶液50μlに、Bradford試薬を1ml加えて30分後に595nmの吸光度を測定した。蛋白質の基準濃度は、牛血清アルブミンを基準蛋白質として用いてその濃度を測定して求めた。測定は室温にて行った。
1−2−1.励起・蛍光スペクトルおよびカルシウム結合能の測定
上述のように、精製したG-CaMP7.09蛋白質は、KMバッファーで最終濃度が0.3μMとなるように希釈し、蛍光分光光度計F−2500(Hitachi)を用いて励起・蛍光スペクトルを取得した。励起スペクトルを取得する場合は、350〜510nmで励起し、530nmで蛍光を記録した。蛍光スペクトルを取得する場合は、470nmで励起し490〜550nmで蛍光を記録した。G-CaMP7.09蛋白質のカルシウム結合能は、様々なカルシウム濃度溶液中における蛍光強度を測定して得られた、カルシウム濃度−蛍光強度の容量反応曲線に基づいて算出した。精製したG-CaMP7.09蛋白質はCalcium Calibration Buffer Kit#1(Invitrogen社)のさまざまなカルシウム濃度溶液300μlで、最終濃度が0.3μMとなるように希釈し、蛍光分光光度計F−2500(Hitachi)を用いて470nmで励起し510nmの蛍光を記録した。測定は室温にて行った。
炭酸ガス培養器を用いて、培地(DMEM(Gibco)、10% Fetal Bovine Serum(Gibco)、1×ペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco))にて、HeLa細胞を37℃で培養し、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて培養細胞にpN1-G-CaMP7.09のプラスミドを導入した。導入操作は添付の説明書に従って行った。まず、血清を含まないDMEM 50μlでプラスミド0.8μgを希釈した。次に、2μlのLipofectamine 2000と血清を含まないDMEM 50μlに加え、室温で5分間放置した。その後、両希釈液を混合して室温で20分間放置した。この混合液の10μlを96穴培養シャーレ中の培養細胞に投与してプラスミドを導入した。HeLa細胞は、37℃で1〜3日間培養した。Neuro2A細胞は、プラスミドを導入した4時間後に5μM レチノイン酸(Wako)を含む培地(DMEM(Gibco)、2% Fetal Bovine Serum(Gibco)、1× ペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco))に培地交換し、その後、37℃で1〜3日間培養した。
蛍光測定には、イメージングサイトメーターINCell Analyzer 2200(GEヘルスケア)を用いて行った。対物レンズは20×を用いた。プラスミドを導入した細胞をHBSバッファー(107mM NaCl、6mM KCl、1.2mM MgSO4(ナカライテスク)、2mM CaCl2、1.2mM KH2PO4(ナカライテスク)、11.5mM glucose、20mM HEPES(Dojindo)(pH7.4))に浸してイメージングサイトメーターにセットし、HeLa細胞の場合には最終濃度として100μM ATP(Sigma)を、Neuro2A細胞の場合には最終濃度として100mM KCl(ナカライテスク)を細胞外に投与して細胞を刺激し、その際に起こる細胞内カルシウム濃度変化を蛍光強度変化として検出した。測定は30℃にて行った。
2−1.G-CaMP7.09の光学特性の評価
精製したカルシウムセンサー蛋白質を用いてG-CaMP7.09の光学特性の評価を行った。
Ca2+存在下でのモル吸光係数(ε)および量子収率(φ)に関して、G-CaMP7.09はε=39700 M-1cm-1、φ=0.50、EGFPはε=56000 M-1cm-1、φ=0.60であったことから、G-CaMP7.09の1分子当りの蛍光輝度(εとφの積)はEGFPの60%程度であることが分かった(表1)。また、従来のセンサー蛋白質G-CaMP7と比較して、G-CaMP7.09はCa2+非存在下では4.4倍明るく、Ca2+存在下では2.3倍明るいことが見出された(表1および図1)。
培養細胞であるHeLa(図2A〜C)およびNeuro2A(図2D〜F)に、G-CaMP7およびG-CaMP7.09を発現させてセンサー蛋白質の性能評価を行った。G-CaMP7.09は、いずれの細胞種においても、G-CaMP7より相当に明るいベース蛍光を示した(図2AおよびD)。また、細胞内Ca2+上昇を誘発させる薬物の投与により生じる蛍光経時変化を観測したところ(図2BおよびE)、G-CaMP7.09の最大蛍光輝度はG-CaMP7のそれより3倍程度高かった(図2CおよびF)。
以上のように、G-CaMP7.09は蛍光輝度が非常に高い。そのため、G-CaMP7.09を細胞内で発現させた場合、その明るい蛍光を指標として、組織の多細胞集団内で注目する細胞の位置を容易に同定でき、また、その細胞機能をモニターすることが可能となる。
精製したカルシウムセンサー蛋白質を用いて、Ca2+滴定実験を行った。G-CaMP7.09のCa2+に対する解離定数(Kd)およびHill係数は 、G-CaMP7のそれと同程度の値を示した(表2)。
このことから、G-CaMP7.09はG-CaMP7と同様に生体内のさまざまな細胞でCa2+応答を検出可能であると考えられる。
Claims (4)
- 配列番号1で表されるアミノ酸配列の117番目のAsnがSerに、338番目のLeuがMetに置換されたアミノ酸配列からなる蛍光カルシウムセンサー蛋白質。
- 配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる請求項1に記載の蛍光カルシウムセンサー蛋白質。
- 請求項1または2に記載の蛍光カルシウムセンサー蛋白質をコードする遺伝子。
- 配列番号4で表される塩基配列からなる請求項3に記載の遺伝子。
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