本願で開示する脈拍検出方法は、光学的に検出された脈波信号から被測定者の脈拍を検出する脈拍検出方法であって、前記被測定者の体の動きを表す体動信号の周波数を、位相をシフトさせた前記体動信号と元の前記体動信号との重なり度合いから求め、前記脈波信号の周波数解析結果から前記体動信号の周波数を除去する。
このようにすることで、本願で開示する脈拍検出方法では、ノイズ成分として脈波信号に含まれる被測定者の動作に起因する体動信号の周波数を、体動信号自体から求めることができる。このため、脈波信号の周波数解析結果から体動信号の周波数を除去して被測定者の脈拍を正確に求めることができる。
上記本願で開示する脈拍検出システムにおいて、所定期間の前記体動信号を比較期間として切り取り、前記比較期間の信号の位相を前記体動信号に対してシフトさせながら前記比較期間の前記体動信号と元の前記体動信号との差を求め、前記差が最も小さくなるシフト量から前記体動信号の周波数を求めることが好ましい。このようにすることで、少ないデータ処理量で体動信号の周波数を求めることができる。
また、前記体動信号の位相シフトを、前記体動信号を検知するセンサーのサンプリングフレーム単位で行うことが好ましい。このようにすることで、体動信号の周波数検出を、より簡便に、かつ、迅速に行うことができる。
本願で開示する脈拍検出方法において、前記脈波信号から、脈拍の周波数と体動信号の周波数とが別々に得られるようにフーリエ解析を行うことが好ましい。このようにすることで、被測定者の脈拍と体動信号の周波数とが近接している場合であっても、脈拍と体動信号の周波数とを正確に検出することができる。
この場合において、前記脈波信号に対するフーリエ解析に用いられる窓関数の中心を、前記脈波信号のうなりの節部分にトラッキングすることが好ましい。また、前記脈波信号の上側包絡線と下側包絡線との間隔を求め、前記間隔が所定の閾値以下となる部分を前記脈波信号の節部分として検出することが好ましい。
本願で開示する脈拍検出システムは、被測定者に装着され、光学的に脈波信号を検知する脈波検知部と、前記被測定者の上体に装着され、加速度センサーにより前記被測定者の体動信号を検知する体動検知部とを備え、本願で開示するいずれかの脈拍検出方法を用いて、前記被測定者の脈拍を検出する。
このようにすることで、本願で開示する脈拍検出システムは、簡易なシステム構成でありながら、被測定者の脈拍を正確に検出することができる。
以下、本願で開示する脈拍検出方法とこの検出方法を用いて被測定者の脈拍を検出する脈拍測定システムについて、具体例を示しながら説明する。
(実施の形態)
<脈拍検出システムの全体構成>
図1は、本実施形態で説明する脈拍検出システムの具体的な構成を説明するブロック図である。また、図2は、本実施形態にかかる脈拍検出システムを装着して脈拍を検出する使用状態を示すイメージ図である。
図1、および、図2に示すように、本実施形態で説明する脈拍検出システムは、被測定者の耳たぶに装着されて被測定者の血管の脈動を光学的に検知し、脈波信号を出力する脈波検知部10と、脈波検知部10と接続ケーブル20で接続され被測定者の着衣の襟部分に装着される本体部30とを有している。
脈波検知部10は、光源部11、受光部12、駆動部13を備えている。
光源部11は、一例として赤外光を照射するLEDなどの発光素子により構成されている。そして、バネなどにより付勢されたクリップ機構によって、脈波検知部10が被測定者の耳たぶに装着された際に、発光面が対向して配置される被測定者の皮膚に向かって光を照射する。
受光部12は、CCDやCMOSなどの受光素子により構成され、被測定者の耳たぶを挟んで光源部11に対向して配置され、光源部11からの光を透過光として受光して被測定者の耳たぶ内の血管の脈動を検知する。
駆動部13は、脈波検知部10の動作タイミングを制御し、光源部11の発光のタイミングに同期させて受光部12の出力を被測定者の脈波を示す脈波信号を出力する。
なお、本実施形態の脈拍検出システムの脈波検知部10は、光源部11と受光部12とが被測定者の脈拍を挟んで配置される構成であるが、光源部と受光部とを並べて配置して、光源部からの光の反射光を用いて被測定者の脈波を検知する構成とすることも可能である。
接続ケーブル20は、脈波検知部10で検知された脈波信号を本体部30へ伝達するとともに、脈波検知部10の動作電圧を本体部30から伝達する。
なお、本実施形態の脈拍検出システムでは、脈波検知部10と本体部30とを接続する接続ケーブル20を所定の長さとして、本体部30の装着位置を規定している。本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、脈波検知部10を被測定者の耳たぶにクリップ機構によって挟むようにして取り付けるため、接続ケーブルの長さを所定の範囲内にすることで、脈波検知部10と本体部30との距離が制限されて自ずとその取り付け位置が限定される。例えば、接続ケーブル20の長さを20〜30cm程度とすることで、被測定者は、図2に示すように、脈波検知部10を取り付けた耳(図2では右耳)と同じ右側の襟や、帽子を着用する場合には帽子の右側面部分などに本体部30を装着することとなる。後述するように、本体部30内部には、被測定者の体の動きを検知する体動検知部31が配置されているため、本体部30の装着位置が限られると体動検知部31の配置位置が限定され、被測定者の体全体の動きを検出するために好適な上半身の体幹に近い部分で体動を検知することができる。また、被装着者の着衣の中でも襟部分は、被測定者の動作や風などの外部環境によって大きく動く部分ではないため、被測定者の体全体の動き以外の位置変化を捉えない点においても好ましい。
本体部30は、被測定者の体の動きを検知する体動検知部31、被測定者の脈拍を検出する脈拍検出部32、脈波検知部10と本体部10との動作を制御する制御部33、各種のデータを記録可能な記録部34、本体部30と外部機器40との間でのデータ通信を行う送受信部35、脈波検知部10と本体部30とを動作させる電源部36を備えている。
体動検知部31は、被測定者の体の動きを検知するための加速度センサーによって構成され、検出される加速度の大きさを被測定者の体の動きを示す体動信号として出力する。本実施形態で説明する脈拍検出システムでは、体動検知部31としてx軸方向、y軸方向、z軸方向の3つの軸方向の加速度を検出する3次元加速度センサーが用いられ、3軸方向の加速度をそれぞれ検知する各センサーの出力の合成を体動検知部31の出力としている。
被測定者の体動のなかでは、重力方向、すなわち上下方向(鉛直方向)の動きが血管の脈動に大きな影響を与える。このため、体動検知部31が被測定者の上下方向の体の動きを検出できる限りにおいて、体動検知部31に3次元加速度センサーを用いることは必須ではない。しかし、例えば1軸方向(1次元)の加速度センサーで体動検知部31を構成した場合には、非装着者は、加速度センサーの検知軸方向が正しく上下方向となるように装着しなくてはならず煩雑である。これに対し、本実施形態の脈拍検出システムのように、体動検知部31として3次元の加速度センサーを用いれば、3つのセンサーの出力を合成することで加速度センサーの配置方向に関わりなく上下方向の被測定者の体の動きを検出することができるため好ましい。
脈拍検出部32は、脈波検知部10の駆動部13が出力する脈波信号と、体動検知部31が出力する体動信号とに基づいて、被測定者の脈拍を検出する。なお、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおいて、脈波信号と体動信号とに基づいて正確に被測定者の脈拍を検出する脈拍検出方法については、後に詳述する。
制御部33は、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおける脈波検知部10と本体部30に収容された各部材の全体の動作を制御する部分であり、マイクロコンピューター(マイコン)や所定の論理回路などによって実現される。制御部33では、脈波検知部10と体動検知部31の動作タイミングを一致させるための、システムの動作基準となるクロック信号の発信や、システム全体の電源のON/OFF管理、後述する送受信部35を介して行われる外部機器40との間のデータ通信、電源部36の電圧管理なども行う。
記録部34は、制御部33を動作させるプログラムや、送受信部35でのデータ通信のための認証データなどの各種の必要情報が記録される。また、システム構成によっては、取得された脈波信号や体動信号などが一時的に記録される場合もある。このため、記録部34としては、随時記録内容の更新が可能なRAMメモリ素子などが好適に用いられる。
送受信部35は、ブルートゥース(登録商標)などの公知の通信手段を用いて本体部30と外部に配置された外部機器40との間のデータ通信を行う部分であり、送信部と、受信部と、アンテナ素子などを有している。なお、本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、データの送信機能と受信機能との両方を備えた送受信部35を備えた例を示したが、本体部30から外部機器40に対して検出された脈拍データの送信のみを行う、送信部として構成される場合もある。
電源部36は、脈波検知部10と本体部30との動作電源であり、ボタン型電池などの一次電池や、充放電可能な二次電池を用いて構成される。電源部36に二次電池を用いる場合には、本体部30と充電装置とをケーブルで接続する方法の他に、磁気誘導を利用して非接触な状態で電源部36に充電電流を供給する方法が採用できる。
なお、本体部30には、上述した各機能部分の他にも、脈拍検出システムの動作状況や不具合の発生などを使用者に知らせる、ランプ、ブザー、スピーカー、表示デバイスなどの各種の報知手段を備えることができる。また、例えば、被測定者に対して音楽や運動をガイドするリズムを伝える機能を有するなど、脈拍を検出する際に付随させて提供される各種の機能を備えることもできる。
外部機器40は、例えば被測定者の所持するスマートフォンであり、本体部30の送受信部35との間でデータのやりとりを行う。
本実施形態の脈拍検出システムでは、被測定者が襟などに装着する本体部30の内部に被測定者の脈拍を検出する脈拍検出部32が配置されているため、本体部30から外部機器である被測定者のスマートフォン40に自身の現時点の脈拍が送信される。スマートフォン40では、ダウンロードされたアプリケーションソフト(アプリ)によって、受信した被測定者の脈拍数を表示する、測定開始時点からの脈拍数の変化を示す、前日など過去の測定データとの比較を示す、脈拍に異常があり運動を中止すべきとの警告を行う、など、測定された脈拍の数値に基づいて様々な情報を被測定者に提供することができる。
また、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおける外部機器40としては、上述の被測定者が所持するスマートフォン以外にも、例えば、複数の被測定者が装着している脈拍検出システムからの情報を受信して複数の被測定者の脈拍を管理する管理機器を用いることができる。
例えば、スポーツジムや競技練習場などで本実施形態にかかる脈拍検出システムを装着した複数人の被測定者が同時に所定の運動をする場合には、データ受信装置と得られたデータを一括処理して適宜必要情報を表示する表示部とを備えた管理機器を当該施設に配置して、複数人の被測定者の脈拍数を一元的に管理し、負荷がかかりすぎているメンバーがいないかなどの全体管理を行ったり、複数人の体力データを一括して取得したりすることができる。また、高齢者施設において本実施形態にかかる脈拍検出システムを用いて高齢者の健康管理を行う場合には、外部機器40を被測定者である高齢者の脈拍を監視するシステムの一部とすることもできる。
なお、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおいて、本体部20に外部機器40からのデータを受信する受信機能を備えることは必須の構成ではないが、本体部30において外部機器40からのデータを受信可能とすることで、脈波検知部10と本体部30に対して、脈波信号と体動信号との検知開始や終了、電源のON/OFFを指示するなど、脈拍検出システムの管理を行うことができる。また、必要に応じて本体部20内の記録部34のデータを更新するなどして、脈拍検出システムを常に最新の状態にアップデート可能とすることもできる。
また、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおいて、脈拍検出部22を本体部20内に備えることは必須の構成ではない。脈波検出部をスマートフォンや施設に配置された管理機器などの外部機器40内に配置し、本体部20の送受信部35を介して被測定者から検知された脈波信号と体動信号とを外部機器に送信して、外部機器40内で被測定者の脈拍を検出する構成とすることができる。脈拍検出部を外部機器40内に配置することで、被測定者が装着する本体部20の小型軽量化が実現でき、より、被測定者の負担を少なくして脈拍を検出、管理するシステムを構成することができる。
以上のように、本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、被測定者の脈波信号を光学的に検知する脈拍検知部10と、被測定者の体動信号を検知する体動検知部31を有する本体部30とを有し、脈拍検出部32が脈波信号と体動信号とに基づいて被測定者の脈拍を検出する。特に、本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、後述する脈拍検出方法に基づいて、簡易な構成でありながら、被測定者の脈拍を高精度で検出することができる。
なお、上記実施形態では、被測定者の耳たぶに取り付けられて脈波を検知する脈波検知部10と、被測定者の体の動きを検出する加速度センサーからなる体動検知部31を収容した本体部30とが別々の筐体を有する別部材として構成された例を示した。しかし、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおいて、脈波検知部と体動検知部とを別々の部材として分離して構成することは必須ではない。このため、例えば被測定者の耳たぶに装着する1つの筐体内に、脈波検知部と体動検知部とを備えて被測定者の脈拍を検出するために装着することが必要な部材が1つのみである構成とすることもできる。
ただし、脈波検知部と体動検知部とが一つの筐体内に配置される場合、得られた脈波信号や体動信号を外部機器に送信する送信部や、各部材を動作させるための動作電源も同一の筐体内に配置されることとなるため当該筐体の大きさや重さが大きくなって、被測定者の耳たぶの血管から脈波を検知する場合には、被測定者に強い違和感を与えてしまう恐れがある。このため、図1、図2に示したように、脈波検知部10と体動検知部31その他の構成部材が収容された本体部30とを別々の筐体として構成し、特に、脈波検知部10の小型で軽量なものにすることが、被測定者の負担や違和感を軽減する上で好ましい。
また、上記実施形態では、脈波検知部10と本体部30とが接続ケーブル20で接続された構成を開示しているが、近年のデータ伝送や電力伝送を非接触で行う技術の進展に伴って、脈波検知部10と本体部30とを無線で接続する構成を採用することができる。ただし、脈波検知部10を本体部30と完全に分離された別部材とすると、脈波検知部10内に動作電源や送信機能部を配置しなくてはならないため、脈波検知部10の大きさや重量が増すことになり、耳たぶに脈波検知部10を装着する被測定者に与える違和感が大きくなる恐れがある。また、被測定者による本体部30の装着位置の選択の余地が広がって、被測定者が頭部周辺に本体部を装着しないケースが生じ、被測定者の体動の検知精度が低下する可能性がある。
本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、体動検知部によって得られた被測定者の体の動きを検出して、脈波検知部で得られた脈波信号からノイズ成分として除去される。このとき、脈波検知部で検出された脈波信号に現れる体動のノイズ成分は、被測定者の体幹の上下動に起因するものが大部分を占めることが発明者らにより確認されている。このため、体動検知部が収容された本体部は、被測定者の体の中心部分に配置されることが好ましく、また、着衣などに装着される場合でも被測定者の動作や風などによって大きく動かない部分に配置されることが好ましい。
本実施形態の脈拍検出システムでは、本体部が脈波検知部と一定範囲内の長さの接続ケーブルで接続されていることで、本体部の配置位置と耳たぶとの距離が制限されて、本体部の装着位置が実質的に図2に示したような着衣の襟部分か被測定者がかぶる帽子の側面に限られる。いずれの場合も、体の中心部分であり、かつ、被服の中でも体の動きとは異なる動きが生じにくい襟部分や、自然と振動を抑える反応により守られている頭部での体の動きが測定されることで、より正確に脈波信号にノイズ成分として加わる体動信号を検知でき、結果として得られる脈拍信号の精度を高めることができる。
<脈拍検出方法>
次に、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおける、取得された脈波信号と体動信号とから、精度よく被測定者の脈拍を検出するためのデータ処理方法である脈拍検出方法について説明する。
本実施形態にかかる脈拍検出方法は、被測定者の血管の脈動に基づく脈波信号から周波数解析を行って被測定者の脈拍(単位bpm)を求めるに当たって、脈波信号に含まれて脈拍を求める上でノイズ成分となる体動信号の周波数を、体動信号自体の位相をシフトさせる処理を行って求めるものである。
また、さらに、本実施形態にかかる脈拍検出方法は、脈波信号と体動信号の周波数が近接している場合に、2つの周波数が干渉することで重なってしまい1つの周波数として表されてしまう状態を回避するデータ処理を行うものである。
[a.体動信号周波数の検出]
図3は、本実施形態に係る脈拍検出システムにおいて得られた、被測定者の脈波信号とその周波数解析結果を示す。図3(a)は、脈波検知部から得られた脈波信号を示す。図3(b)は、脈波信号に対して高速フーリエ変換(FFT:以下単に「フーリエ変換」と称する)処理を行った結果を示す。
図3(a)に示す脈波信号51は、図1、および、図2に示した本実施形態にかかる脈拍検出システムにおいて、被測定者の耳たぶに装着した脈波検知部10から得られた脈波信号であり、縦軸は信号の強さを、横軸は時間を受光部12でのサンプリングフレーム数で示している。なお、このとき、被測定者はトレッドミル(ランニングマシーン)上でランニングを行っていて、体が規則的に上下動する運動を行っている状態での脈波信号である。
図3(b)に示す、脈波信号51に対してフーリエ変換による周波数解析を行った結果のグラフ52では、1分あたりの周波数が約155bpmの第1のピーク53と、約175bpmの第2のピーク54とが現れている。発明者らが解析したところ、第1のピーク53が被測定者の体動に起因して脈波に現れた周波数(約155bpm)であり、第2のピーク54が、被測定者の脈拍の周波数(約174bpm)であることが判明した。
脈波検知部10により得られた脈波信号に対して、フーリエ変換処理を行うことによって、脈波信号に含まれる周波数がピーク値として現れるため、通常は得られた周波数のピーク値が被測定者の脈拍(bpm)を表している。しかし、被測定者が、体が周期的に上下動するような動作をしている場合には、脈波信号に対して被測定者の体動によるノイズ成分が所定の周波数を持った信号として加わっているため、高速フーリエ変換を行った結果にノイズが周波数のピークとして表れてしまう。特に、図3に示す場合のように、被測定者がランニングやバイク(自転車)運動を行っている状態は、体を上下動するペースがほぼ一定であるから体動に起因するノイズの周波数成分の強いピークが生じ、特に、一定のリズムでの運動を行うことを目的とするトレーニングマシンを用いた場合にはこれがさらに顕著となる。
このとき、被測定者の上下動の周波数が脈拍と近い場合には、図3(b)に示すように脈拍に近い周波数のピークが生じるため、解析結果からノイズである体動の周波数を判別してこれを除去して正しい脈拍(bpm)を求める必要がある。
本実施形態にかかる脈拍検出方法では、体動の周波数を、体動信号自体の位相をシフトさせて重なり具合を評価する方法で求めて、これをノイズ成分として脈波信号から得られた周波数のピークより除去することで被測定者の脈拍を検出する。
以下、本実施形態にかかる脈拍検出方法における体動信号の周波数の求め方を説明する。
まず、体動信号から、所定の期間、一例として0フレームから49フレームまでを切り取って比較期間とする。また、本実施形態の脈拍検出システムにおいて、体動検知部31で用いられている加速度センサーのサンプリングレートが50Hzであることに基づいて、2秒間に検知できる体動信号、すなわち、0フレームから99フレームまでの間に得られた体動信号を評価対象とする。
ここで、本実施形態の脈拍検出方法では、検出する体動信号の周波数の範囲を60bpmから300bpmと定め、比較期間を1秒間に相当する50フレーム分とし、比較対象期間を2秒間に相当する100フレーム分とした。
本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、被測定者の襟に装着された本体部30内の3次元加速度センサーである体動検知部31の出力データは、3次元加速度センサーにより検出される3つの軸方向の加速度についての合成値、すなわち、x軸方向の加速度数値(x)とy軸方向の加速度数値(y)とz軸方向の加速度数値(z)の2乗和の平方根g=(x2+y2+z2)1/2を各フレームにおいて求めている。すなわち、フレーム数をiとした場合に、各フレームでの体動信号giは、以下の式(1)として表される。
そして、評価対象である2秒間100フレーム分の体動信号に対して、比較期間である0フレームから49フレームまでの切り取られた体動信号を順次シフトして、両者の重なり具合を評価する。
図4は、体動信号の周波数を求める方法について説明する図である。図4(a)は、比較期間の信号を評価対象の体動信号に対して10フレームシフトした状態を示す。図4(b)は、比較期間の信号を評価対象の17フレームシフトした状態を示す。
図4(a)に示される、比較対象である100フレーム分の体動信号61に対し、比較期間である切り取られた50フレーム分の体動信号62が10フレームシフトされた状態では、2つの信号波形が重ならず、比較期間62の信号のピークは比較対象の体動信号61のピークのほぼ中間に位置していることがわかる。一方、図4(b)に示される、比較対象の体動信号61に対して比較期間の信号63を17フレーム分シフトした状態では、体動信号61のピークと比較期間の信号63のピークとがほぼ重なり合っていることがわかる。この場合には、体動信号61の周波数成分(ピーク間隔)は約17フレーム分(約0.34秒)であり、1分間あたりの周波数は約176bpmとなる。
本実施形態の脈拍検出システムでは、このように、体動信号を所定の長さで切り取った比較期間を作成し、これを加速度センサーのサンプリングフレームの1フレーム分ずつ時間をずらすことで位相のシフトを行い、各シフト量での比較期間と元の体動信号自体との重なり具合を評価して最も重なり度合いの大きいシフト量に基づいて、体動信号の周波数を求める。
なお、本実施形態の脈拍検出方法では、加速度センサーが1秒間に50フレームを取得するサンプリングレートでデータ検出を行っているため、9フレーム期間までにピークが重なる体動、すなわち、ピッチが0.2秒以下となる周波数での体動は現実的にあり得ないと判断して、体動信号に対するシフトを10フレームシフトした状態(図4(a)に示す状態)からスタートさせてデータ処理量を低減している。このように、位相シフト量として体動信号との比較評価に値しない場合があらかじめわかっている場合は、評価対象から除去することができる。
そして、シフトするフレーム数をiとした場合に、「(10+i)フレーム」から「(59+i)フレーム」までの体動信号の値から、比較期間の0フレームから49フレームまでの値を引いた差の2乗和、以下の式(2)で表される「Si」を配列として保存する。
ここで、上記で求められた「Si」は、シフト量が「i」の場合の比較期間の体動信号と元の体動信号との差の大きさを表すから、この「Si」が最小となる状態が位相をシフトした比較期間の波形と体動信号の波形とが最も重なり合っている状態を示す。
図5に、位相シフトされたフレーム数iに対する「Si」の値の変化を示す。なお、図5の下部には、図5中に示す領域A部分を拡大したものを示している。
図5では、上記式(2)で求められた値「Si」を×印72としてプロットし「Si」の値の推移をグラフ71で表している。本実施形態として例示した場合では、図5に示すように、i=17(フレーム)の「Si」の値(符号73)が最小となる。
なお、図5に示すように、「Si」の値自体が所定の周波数を持って周期的に変化する値である。このため、「Si」の値は複数の極小値を示し、最小値となったシフト量17フレームに対して整数倍のシフト量(図5の場合は2倍の34フレーム:符号74)で「Si」の値が極小となる。また、比較期間のフレーム数50を超えているため、図5には表されていないが、最小値となったシフト量17の3倍に相当する51フレーム付近でも、「Si」の値が小さくなることがわかる。
図5に示す例では、S17<S34であって、「Si」の値の変化における極小値(S17、S34)の内で最も小さいシフト量(17フレーム)の場合に「Si」が最小となったが、加速度センサーでのサンプリングのタイミングによっては、フレームの区切りとの関係もあって、「Si」の値の繰り返しの内の2回目(図5の場合のi=34)または3回目以降の繰り返し部分の極小値で「Si」の値が最小値となることが考えられる。このため、体動信号と比較期間との位相差を求める上では、「Si」の値が最小値となるシフト量「i」をそのまま用いるのではなく、得られた最小値となるシフト量「i」が「Si」の値の複数の極小値の内の最も小さいシフト量であるかを確認する必要がある。
このため、本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、最小値となった「Si」が、「Si」の極小値の内、最も「i」の値が小さいものであるかを検証している。
具体的には、最小値となった「Si」に対して、そのインデックス値i(シフトフレーム数)が10以上であれば、インデックス値iをJ(=2、3、4、5)で割り最小のシフト量の候補値(i/J)として、下記の条件を満たす価の確認を行う。Jの値を大きくしていき、最小のシフト量の候補値(i/J)が10以上の条件下で、以下の式(3)で得られる値が30%未満となる(i/J)を最小のシフト量のインデックスとする。なお、式(3)においてSmaxは、上述の式(2)から得られた「Si」の値の最大値である。
具体的には、図5において、Siがi=34で最小値となった場合、最小のシフト量の候補値(i/2)=17における式(3)の値は1.8%となり条件を満たす。同様に、最小のシフト量の候補値(i/3)=11における式(3)の値は83%となり条件を満たさない。さらに、最小のシフト量の候補値(i/4)=8となり(i/J)が10以上の条件を満たさないため、最小のシフト量のインデックス値は(i/2)=17となる。
このようにして、「Si」の値の最小値を求め、さらに、その求められた最小値の「Si」が、複数の極小値の内最もシフト量「i」が小さいものであることを確認し、必要に応じてシフト量「i」を修正して、位相をシフトした比較期間の波形と体動信号の波形とが最も重なり合っている状態から、体動信号の周波数を求めることができる。
なお、本実施形態にかかる脈波検出システムでは、「Si」の値の極小値の中で最もシフト量が小さなもの、上記した式(3)を用いて判定し確定する方法を示したが、体動信号の周波数を求める方法は、式(3)を用いたものに限られない。例えば、シフト量iが、3つ、もしくは4つ連続する「Si」を比較することで、「Si」の値の極小値を検出し、得られた極小値の中で最もシフト量「i」が小さいものを決定する方法を採用するなど、周期的に変化する数値において、最も小さな極小値を検出する各種の方法によって、体動信号の周波数を表すシフト量「i」を検出することができる。
また、本実施形態の脈拍検出システムでは、体動信号の周波数を求めるに当たって体動信号の位相シフトをフレーム単位で行っている。このようにすることで、三次元加速度センサーから得られる各フレームでの体動信号の数値をそのまま用いてデータ処理が行えるため、データ処理自体が容易となる。ただし、データ取得と繰り返し周波数の算出をフレーム単位とすることで、得られた体動信号の周波数の値がサンプリングフレームの幅以下の精度を有することができないという制限がある。
例えば、本実施形態にかかる脈拍検出方法においても、図5の下部に示した符号Aとして示した領域の拡大図に示されているように、シフト量が17フレームである場合の「Si」の値72bは0とはなっていない。このため、本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、体動信号の周波数を示す最小値のフレーム数「Si」(図5の場合は「17」)72bに対し、1つ少ないフレーム数「Si-1」(フレーム数「16」)72aと1つ大きいフレーム数「Si+1」(フレーム数「18」)72cの3点の重心75を求めることで、1フレームの時間幅よりも小さい範囲で、すなわち、フレーム数の数値として小数点以下の値として、繰り返し周波数を示すフレーム数の値「Si」を求めている。
なお、位相シフトのシフト量をフレーム単位で行うことは必須ではない。例えば、シフト量を、1フレームに相当する時間(本実施形態の脈波検出システムの場合は1/50、すなわち20m秒)の1/2(10m秒)、1/5(4m秒)などとすることで、計算量は増えるが、正確なシフト量がすぐに求められるようなシステムとすることができる。
以上のようにして求めた、最も相関が高くなる体動信号のシフト量に基づいて、被測定者の体の動きを示す体動信号の1分間あたりの繰り返し周波数(BPM)は、下記式(4)によって算出される。
ここで、式(4)における計算結果が60または300となった場合、すなわちフレーム数Tが10または50となった場合は、体動信号のピッチが0.2秒から1秒の間にないため周期的な運動をしていないと判断して体動の周波数を0とする。また、値「Si」の最大値が所定の数字(本実施形態の場合は一例として5)以下の場合は、被測定者の体動自体が小さいため、同様に被測定者が周期的な運動していないと判断して体動の周波数を0とする。
以上説明したように、本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、脈波検知部10により検知される被測定者の脈波に含まれる、繰り返し運動に起因する周波数成分を、体動検知部31で検知された体動信号の一部を切り取ってその位相をシフトし、元の体動信号との重なり具合を評価することによって求める。このようにすることで、例えば従来技術で用いられていたような、所定の運動に対応する周波数を記憶しておいて検知された体動信号の周波数に当てはめて正しい周波数を判定する場合に必要であった記憶手段などの部材が不要となる。また、位相をシフトする信号の期間を比較期間として所定の時間幅で切り取り、比較対象の体動信号の範囲も限定することで、少ない計算量でより正確に体動信号の周波数を求めることができる。
この結果、本実施形態にかかる脈波検出方法によれば、脈拍検出システムの構成を簡素化できシステムを構成するためのコストを低減することができる。また、データ処理量が少ないために高速化が可能となって、リアルタイムで体動信号周波数の算出を行うことができる。そして、脈波信号をフーリエ解析してその繰り返し周波数を算出した際に、被測定者の脈に起因する周波数と、被測定者の体動による周波数とが近接した値として検出された場合でも、体動による周波数を体動信号のみから求めてこれをノイズとして除去することで、被測定者の脈拍を正確に測定することができる。
図6は、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおいて測定された脈拍の正確性を検証した結果を示すグラフである。
図6は、被測定者がトレッドミルを用いてランニングを行っている際の脈拍の変化を示したグラフであり、符号81で示す太実線が本実施形態にかかる脈拍検出システムで検出された脈拍を、符号82で示す点線が体動信号の周波数をノイズとして除去していない状態の脈波信号の周波数解析結果を示している。また、符号83で示す細実線は、被測定者に装着された心電計により得られた脈拍であり、符号84で示す一点鎖線は、本実施形態の脈拍検出システムにおいて、上述の位相をシフトする方法によって求めた体動信号の周波数を示している。
図6では、特に、測定時間が200秒から300秒の間で、トレッドミルの速度を調整して被測定者が走ることによる上下動のピッチを運動時の実際の脈拍と重なり合うように調整したものであるが、符号81で示す本実施形態にかかる脈拍検出システムによって得られた被測定者の脈拍は、測定期間全体にわたって、心電計により得られた正確な脈拍(符号83)とほぼ同じ値を示しており、本実施形態にかかる脈拍検出システムで、被測定者の脈拍が正確に検出されていることを表している。
[b.周波数の干渉現象への対応]
本願発明の発明者らは、上記本実施形態にかかる脈拍検出システムで被測定者の脈拍を検出している際に、脈波信号のフーリエ解析結果において脈拍の周波数と体動の周波数とが近接している場合に、2つの周波数を示す2つのピークが時々1つのピークとして重なって現れる現象が生じることを確認した。
図7は、発明者らが確認した周波数の干渉現象を示すイメージ図である。
脈波信号をフーリエ解析した結果を経時的に観察していると、図7の左側に示すように、脈拍の周波数を示す第1のピーク91と、体動の周波数を示す第2のピーク92との2つのピークが現れている状態から、ときどき、図7の右側に示すように、2つのピークが重なって1つのピーク93が示される状態となり、その後また、図7の左側に示す2つのピーク91、92が現れる状態となることが繰り返された。
このような現象は、被測定者がトレッドミル上でランニングを行うなど、ほぼ同じ周波数での体の上下動を伴う運動を行っており、また、同じ運動を続けている状態が継続されているため被測定者にかかる負荷も一定であり、脈拍も安定した状態となっていると想定されることから、発明者らは、脈波信号に含まれる脈拍と体動の周波数自体が変化しているのではなく、フーリエ解析を行う過程で本来2つあるべきピークが干渉して一つのピークとして現れる状態が存在すると推定した。その後、さらに解析を進めたところ、上述の干渉現象が起きている状態では、脈波検知部10で検知された脈波信号に、全体的な振幅が変化する大きな「うなり」が生じていることがわかった。
図8は、うなりが生じていない場合とうなりが生じている場合の脈波信号を示す図である。図8(a)は、脈波信号の振幅が変化するうなりが生じていない状態を示す。また、図8(b)は、脈波信号の振幅が変化するうなりが生じている状態を示す。
図8(a)は、被測定者が安静状態にあるときで、脈波信号101は、その振幅がほぼ一定の状態となっている。これに対し、被測定者がトレッドミル上で周期的な上下動を伴う運動している状態を示す図8(b)では、脈波信号102の振幅が変化している。この脈波信号102の振幅の変化は、脈波信号の周期よりも大きな周期で繰り返されていて、図8(b)に符号103で示す点線のように、大きなうなりとなっていることがわかる。
次に、図8(b)に示した、うなりのある信号に対してフーリエ解析を行って検証した。
図9は、うなりのある脈波信号に対してフーリエ解析を行う場合の、脈波信号と窓関数との位相関係を示している。図9(a)は、窓関数の中心がうなりを有する脈波信号のうなりの節部分にある状態を示す。図9(b)は、窓関数の中心がうなりを有する脈波信号のうなりの腹部分にある状態を示す。
図9(a)に示すように、うなりのある脈波信号112に対して、窓信号113の中心をその節の部分、すなわち振幅が小さくなっている部分に位置させた場合、元の脈波信号112と窓関数113との合成波形111は、中央の左右両側に振幅が大きい部分を有し、このような合成波形111の信号をフーリエ解析すると、図7において左側に示したような2つの周波数のピークが検出された。
一方、図9(b)に示すように、うなりのある信号115に対して、窓信号116の中心部分をその腹の部分、すなわち振幅が大きくなっている部分に位置させると、元の脈波信号115と窓関数116との合成波形114は、中央部分に振幅が大きい部分を有し、このような合成波形114の信号をフーリエ解析すると、図7において右側に示したような1つの周波数のピークが検出された。
このことから、被測定者が繰り返しの上下動を伴う運度を行っている場合など、検知された脈波信号にうなりがある場合には、フーリエ解析を行うための窓信号の中心を脈波信号の節部分にトラッキングすべきことがわかった。
以下、本実施形態にかかる脈拍検出システムにおいて、うなりを有する脈波信号に対して、窓関数の中心をうなりの節部分にトラッキングする方法を説明する。
本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、まず、脈波信号の正負の包絡線を求めてその幅を検出することで脈波信号の振幅を規定し、得られた包絡線の幅を関数としてその大きさの変化に基づいて所定の閾値を決定し、包絡線の幅が閾値以下であって、かつ、下に凸の状態である部分を脈波信号の節と判断する。そして、このようにして求められた節に窓関数の中心が位置するようにトラッキングすることで、脈波信号から脈拍を示す周波数と体動を示す周波数とがフーリエ変換によって正しく検出できるようにしている。
図10は、脈波信号のうなりの節を検出する第1のステップを説明するための図である。
脈波信号のうなりの節を検出する最初のステップでは、図10に示すように、脈波信号121の微分値の正負変換点かつ値が正であるものから正(図中上側)のピークを検出して正の包絡線122を求め、脈波信号121の微分値が負から正に変換する変換点かつ値が負であるものから負(図中下側)のピークを検出して負の包絡線123を求める。求めた正の包絡線の値(envPlus)から負の包絡線の値(envMinus)を引くことで、脈波信号の振幅(peak-to-peak)に相当する正の包絡線と負の包絡線との間隔である包絡線の幅の大きさ(Hight(=envPlus−envMinus))124が求まる。
図11に、脈波信号の振幅の変化を示す。
図11に示すように、上記のようにして求めた包絡線の幅の大きさ(Hight)131は、そのデータが取得された時刻(横軸)に対応した脈波信号の振幅の変化を示す関数として扱うことができる。
次に、関数としてとらえた包絡線の幅の大きさ(Hight)に基づいて、脈波信号の節を検出する。
図12は、脈波信号のうなりの節を検出する第2のステップを説明するための図である。
脈波信号のうなりの節を検出する第2のステップでは、まず、検出時刻に関する関数として得られた包絡線の幅の大きさ141について、所定の時間幅の期間142(一例として8秒間)毎における最大値143と最小値144とを求める。
その後、各期間142の最大値143と最小値144との差145を100%としたときに所定の割合146(一例として20%)を規定して、その数値を閾値147として設定する。
包絡線の幅の大きさ141の値が、このようにして求められた閾値147(20%)以下であって、なおかつ包絡線の幅の大きさ141のグラフが下に凸となっている部分(符号148)を検出することで、うなりが生じている脈波信号の節が把握できる。
図13に、うなりを有する状態の脈波信号と、この脈波信号をフーリエ解析するための窓関数との時間軸上の位置関係を示す。
図13に示すように、本実施形態の脈拍検出システムでは、脈波信号151のフーリエ解析を行う上で、全体の幅154が8秒、両端部から2.5秒間ずつをカット155するブラックマン型の窓関数153が用いられる。この窓関数153の中央部分156を脈波信号151の節152にトラッキングすることで、フーリエ解析によって、図7の左側に示したような、2つの周波数ピークが検出される。
図14は、脈波信号の節が中心となるように窓関数を設定した場合の効果を確認した測定結果を示す。
図14において、窓関数の中央部分を、うなりを有する脈波信号の節の部分にトラッキングしてフーリエ解析を行った場合を、符号161の太実線で示す。また、窓関数の中央部分を、うなりを有する脈波信号の節部分にトラッキングしないでフーリエ解析を行った結果を、符号162の破線として表す。
図14から明らかに、窓関数の中央を脈波信号のうなりの節部分にトラッキングしてフーリエ解析を行うことで、波形161に示すように、被測定者の脈拍を安定して検出できることがわかる。
なお、図14において、約240秒から約290秒の区間と320秒から350秒の区間とで、窓関数のトラッキングを行っていない場合のフーリエ解析結果162がトラッキングを行った場合のフーリエ解析結果161よりも低い、または、高い値として検出されている。この部分では、脈波信号のうなりの節部分に位置するようにトラッキングされていない窓関数の中央部分が脈波信号のうなりの腹部分に位置して、図7の右側に示したように脈拍の周波数と体動の周波数との干渉が生じて、フーリエ解析結果の脈拍値が正しい値として算出されなかったことを示している。図14にも示されるとおり、脈拍の周波数が体動の周波数の影響を受ける状態は、フーリエ解析の窓関数の位置によって現れたり現れなかったりする。また、周波数ピークが1山となることによる影響は、脈拍の数値として約5bpm程度であることが確認できた。
以上述べたように、本実施形態にかかる脈拍検出システムでは、フーリエ解析に用いられる窓信号の中央部分を、うなりを有する脈波信号の節にトラッキングすることで、被測定者が、脈拍に近い周波数で規則的な上下動を行っている場合でも、安定して正確な脈拍を検出することができる。
なお、上記実施形態では、脈拍と体動の周波数とが近く2つの周波数が干渉する状態を回避するために、脈波信号のうなりからその節部分を検出して、フーリエ解析を行う際の窓関数の中心をうなりの節部分にトラッキングした例を説明した。この方法以外であっても、例えば、一定区間の平均値から波形のベースラインを求め、ベースラインからの値のばらつきを見ることによってばらつきの小さい部分を節とみなし、窓関数の中心を節と見なす部分にトラッキングすることによって、脈拍の周波数と体動の周波数との干渉を回避して、より正確に被測定者の脈拍を検出することができる。
また、上記実施形態では、被測定者の脈波信号を検出する脈波検知部を耳たぶに装着する例を示したが、脈波検知部の配置場所は耳たぶには限られない。例えば、被測定者の指先や手首など、光学的検知手段によって脈波を検知できる部分に脈波検知部を配置することが可能である。