自動車、自動二輪車、農業機械または船舶等のレシプロエンジンには、ピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すために、クランク軸が不可欠である。クランク軸は、型鍛造または鋳造によって製造できる。特に、高強度と高剛性がクランク軸に要求される場合、型鍛造によって製造されたクランク軸(以下、「鍛造クランク軸」ともいう)が多用される。
図1A〜図1Cは、一般的な鍛造クランク軸の形状例を示す模式図である。これらの図のうち、図1Aは全体図であり、図1Bは図1AのIB−IB断面図であり、図1Cはピン部の位相を示す図である。図1Bに示す例では、代表的に、一つのクランクアーム部A1と、そのクランクアーム部A1と一体のカウンターウエイト部W1と、そのクランクアーム部A1につながるピン部P1およびジャーナル部J1を示す。
図1A〜図1Cに示す鍛造クランク軸11は、6気筒エンジンに搭載される6気筒−8枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸である。鍛造クランク軸11は、7つのジャーナル部J1〜J7と、6つのピン部P1〜P6と、フロント部Frと、フランジ部Flと、12枚のクランクアーム部(以下、「アーム部」ともいう)A1〜A12とを備える。アーム部A1〜A12は、ジャーナル部J1〜J7とピン部P1〜P6をそれぞれつなぐ。また、12枚のアーム部A1〜A12のうちの一部のアーム部は、カウンターウエイト部(以下、「ウエイト部」ともいう)W1〜W8を一体で備える。具体的には、第1アーム部A1、第2アーム部A2、第5アーム部A5、第6アーム部A6、第7アーム部A7、第8アーム部A8、第11アーム部A11および第12アーム部A12は、それぞれウエイト部W1、W2、W3、W4、W5、W6、W7およびW8を一体で備える。第3アーム部A3、第4アーム部A4、第9アーム部A9および第10アーム部A10は、ウエイト部を備えず、その形状は長円状となる。
鍛造クランク軸11の軸方向の前端にはフロント部Frが設けられ、後端にはフランジ部Flが設けられる。フロント部Frは、先頭の第1ジャーナル部J1につながり、フランジ部Flは、最後尾の第7ジャーナル部J7につながる。
以下では、ジャーナル部J1〜J7、ピン部P1〜P6、アーム部A1〜A12およびウエイト部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」、ウエイト部で「W」とも記す。また、アーム部Aおよびそのアーム部Aと一体のウエイト部Wをまとめて「ウェブ」ともいう。
図1Cに示すように、6つのピン部P1〜P6は、ジャーナル部Jを中心として120°ずつ、ずれて配置される。つまり、第1ピン部P1は第1位置L1、第6ピン部P6は第6位置L6に配置され、第1位置L1と第6位置L6は同位相である。第2ピン部P2は第2位置L2、第5ピン部P5は第5位置L5に配置され、第2位置L2と第5位置L5は同位相である。第3ピン部P3は第3位置L3、第4ピン部P4は第4位置L4に配置され、第3位置L3と第4位置L4は同位相である。第1位置L1、第2位置L2および第3位置L3の互いの位相角は120°である。ジャーナル部、ピン部およびアーム部は、第4ジャーナル部J4(図1A参照)に対して左右対称の形状である。
図1Bに示すように、ウエイト部Wの幅Bwは、アーム部Aの幅Baより大きい。このため、ウエイト部Wは、アーム部中心面(ピン部Pの中心軸とジャーナル部Jの中心軸とを含む面)から大きく張り出す。
このような形状の鍛造クランク軸を製造する際、一般に、出発素材としてビレットが用いられる。ビレットの長手方向に垂直な断面、すなわち横断面は、丸形または角形である。その横断面の面積は、ビレットの全長にわたって一定である。本明細書において、「横断面」は、ビレット若しくは後述する各荒地の長手方向、または鍛造クランク軸の軸方向に垂直な断面を意味する。「縦断面」は、その長手方向またはその軸方向に平行な断面を意味する。また、横断面の面積を単に「断面積」ともいう。鍛造クランク軸は、予備成形工程、型鍛造工程およびバリ抜き工程をその順に経ることによって製造される。また、必要に応じ、バリ抜き工程の後に整形工程を経る。通常、予備成形工程は、ロール成形工程と曲げ打ち工程を含む。型鍛造工程は、荒打ち工程と仕上げ打ち工程を含む。
図2A〜図2Fは、従来の一般的な鍛造クランク軸の製造工程を説明するための模式図である。これらの図のうち、図2Aはビレットを示す。図2Bはロール荒地を示す。図2Cは曲げ荒地を示す。図2Dは荒鍛造材を示す。図2Eは仕上げ鍛造材を示す。図2Fは鍛造クランク軸を示す。なお、図2A〜図2Fは、前記図1A〜図1Cに示す鍛造クランク軸11を製造する場合の一連の工程を示す。
図2A〜図2Fを参照し、鍛造クランク軸11の製造方法を説明する。先ず、図2Aに示すような所定の長さのビレット12を加熱炉によって加熱した後、予備成形工程でロール成形および曲げ打ちをその順に行う。ロール成形では、例えば孔型ロールを用いてビレット12を圧延して絞る。これにより、ビレット12の体積を軸方向に配分し、中間素材であるロール荒地13を得る(図2B参照)。次に、曲げ打ちでは、ロール荒地13を軸方向と垂直な方向から部分的にプレス圧下する。これにより、ロール荒地13の体積を配分し、更なる中間素材である曲げ荒地14を得る(図2C参照)。
続いて、荒打ち工程では、曲げ荒地14を上下に一対の金型を用いて鍛造することにより、荒鍛造材15を得る(図2D参照)。その荒鍛造材15には、鍛造クランク軸(最終製品)のおおよその形状が造形されている。さらに、仕上げ打ち工程では、荒鍛造材15を上下に一対の金型を用いて鍛造することにより、仕上げ鍛造材16を得る(図2E参照)。その仕上げ鍛造材16には、最終製品の鍛造クランク軸と合致する形状が造形されている。これら荒打ちおよび仕上げ打ちのとき、互いに対向する金型の型割面の間から余材が流出し、その余材がバリBとなる。このため、荒鍛造材15および仕上げ鍛造材16の周囲には、いずれも、バリBが大きく付いている。
バリ抜き工程では、例えば、バリ付きの仕上げ鍛造材16を一対の金型によって挟んで保持した状態で、刃物型によってバリBを打ち抜く。これにより、仕上げ鍛造材16からバリBが除去され、バリ無し鍛造材が得られる。そのバリ無し鍛造材は、図2Fに示す鍛造クランク軸11とほぼ同じ形状である。
整形工程では、バリ無し鍛造材の要所を上下から金型で僅かに圧下し、バリ無し鍛造材を最終製品の寸法形状に矯正する。ここで、バリ無し鍛造材の要所は、例えば、ジャーナル部J、ピン部P、フロント部Fr、フランジ部Flなどといった軸部、さらにはアーム部Aおよびウエイト部Wである。こうして、鍛造クランク軸11が製造される。なお、6気筒−8枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸を製造する場合、ピン部の配置角度(120°の位相角)を調整するため、バリ抜き工程の後に、捩り工程が追加されることがある。
図2A〜図2Fに示す製造工程は、前記図1A〜図1Cに示す6気筒−8枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸に限らず、6気筒−12枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸に適用できる。
予備成形工程の主目的は、ビレットの体積を配分することである。予備成形工程でビレットの体積を配分することにより、後工程の型鍛造工程でバリの形成を低減でき、材料歩留りを向上できる。ここで、材料歩留りとは、ビレットの体積に対する鍛造クランク軸(最終製品)の体積の割合(百分率)を意味する。
また、予備成形によって得られる荒地は、後工程の型鍛造工程で鍛造クランク軸に成形される。精密な形状の鍛造クランク軸を得るため、予備成形工程では精密な形状の荒地を成形する必要がある。
鍛造クランク軸の製造に関する技術は、例えば、特開2001−105087号公報(特許文献1)、特開平2−255240号公報(特許文献2)、特開昭62−244545号公報(特許文献3)および特開昭59−45051号公報(特許文献4)に開示される。特許文献1は、一対からなる上型と下型を用いた予備成形方法を開示する。その予備成形方法では、上型と下型とで棒状の被加工物を圧下する際に、被加工物の一部を伸ばすとともに、その一部に連続した部分を軸心に対してオフセットする。これにより、特許文献1では、延ばしと曲げを同時に実施できることから、設備投資を少なくできるとしている。
特許文献2の予備成形方法は、従来の2パスのロール成形に代え、4パスの高速ロール設備を用いる。その予備成形方法では、ロール荒地の断面積が、鍛造クランク軸(最終製品)のウエイト部、アーム部およびジャーナル部の断面積の分布に合わせて決められる。これにより、特許文献2では、材料歩留りを向上できるとしている。
特許文献3の予備成形方法は、転造により、ビレットの軸方向および径方向にビレットの一部の体積を配分する。体積配分されたビレットを型鍛造することによって、鍛造クランク軸が得られる。これにより、特許文献3では、材料歩留りを向上できるとしている。
特許文献4の製造方法では、一対からなる上型と下型とポンチとを用いた1回の型鍛造により、ビレットを鍛造クランク軸に成形する。型鍛造工程では、まず、ビレットのうちのジャーナル部となる領域およびピン部となる領域を別個に稼働するポンチによって圧下する。圧下によりビレットの体積が配分される。その後、上型および下型によって型鍛造が実施される。すなわち、1工程で、予備成形および型鍛造ができる。これにより、特許文献4では、複雑な形状の鍛造クランク軸を単一の設備で効率よく製造できるとしている。
本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、回転中心となる7つのジャーナル部と、ジャーナル部に対して偏心し、かつ、位相角が120°の第1位置、第2位置、第3位置、第4位置、第5位置および第6位置にそれぞれ配置される6つのピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぐ複数のクランクアーム部と、を備える鍛造クランク軸の製造方法である。
本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法は、ビレットから初期荒地を得る第1予備成形工程と、初期荒地から最終荒地を得る第2予備成形工程と、少なくとも1回の型鍛造によって最終荒地を鍛造クランク軸の仕上げ寸法に成形する仕上げ鍛造工程と、を含む。
第1予備成形工程は、一対の第1金型を用い、ビレットのうちの複数のジャーナル部となる部位を、ビレットの軸方向と垂直な方向から圧下することにより、複数のジャーナル部となる部位の断面積を減少させて複数の扁平部を形成する工程と、第1金型による圧下を開始後、第2金型を用い、ビレットの軸方向と垂直な方向を偏心方向にして第1位置に配置される第1ピン部となる部位および第3位置に配置される第3ピン部となる部位を互いに反対方向に偏心させ、第4位置に配置される第4ピン部となる部位を第3ピン部となる部位と同じ方向に偏心させ、第6位置に配置される第6ピン部となる部位を第1ピン部となる部位と同じ方向に偏心させ、第1ピン部となる部位、第3ピン部となる部位、第4ピン部となる部位および第6ピン部となる部位の偏心量を仕上げ寸法の偏心量の(√3)/2と同じかまたはそれよりも小さくする工程とを含む。
第2予備成形工程では、一対の第3金型を用い、扁平部の幅方向を圧下方向にして複数の扁平部、第1ピン部となる部位、第2位置に配置される第2ピン部となる部位、第3ピン部となる部位、第4ピン部となる部位、第5位置に配置される第5ピン部となる部位および第6ピン部となる部位を圧下する。
最終荒地は、複数のクランクアーム部となる部位の厚みが、仕上げ寸法の厚みと同じである。
本実施形態の製造方法によれば、第1予備成形工程および第2予備成形工程により、軸方向の体積の配分が促進された最終荒地を得ることができる。また、最終荒地は、ジャーナル部となる部位の体積と、ピン部となる部位の体積と、アーム部となる部位の体積とが適切に配分される。そのため、第2予備成形工程においても、鍛造クランク軸の形状に近い形状の最終荒地を得ることができる。そして、仕上げ鍛造工程により、その最終荒地から鍛造クランク軸の形状を造形できる。これらより、材料歩留りを向上させることができる。
また、第1予備成形工程では、ジャーナル部となる部位を圧下する第1金型とは別動の第2金型が第1ピン部となる部位、第3ピン部となる部位、第4ピン部となる部位および第6ピン部となる部位を偏心させる。第1金型が第2金型と一体であれば、第1ピン部となる部位、第3ピン部となる部位、第4ピン部となる部位および第6ピン部となる部位を偏心させる部分が、ジャーナル部となる部位を圧下する部分よりも突出する。そのため、成形が開始されれば、ピン部となる部位のみが偏心され、ビレットが湾曲しやすい。しかし、第2金型が第1金型と別動であれば、第1ピン部となる部位、第3ピン部となる部位、第4ピン部となる部位および第6ピン部となる部位を偏心させる第2金型を、ジャーナル部となる部位を圧下する部分よりも突出させないことができる。そのため、第1ピン部となる部位、第3ピン部となる部位、第4ピン部となる部位および第6ピン部となる部位の偏心中にビレットが湾曲しにくい。これにより、ビレットが、第1金型の所定の位置で圧下されるため、圧下後の初期荒地に欠肉等が生じにくい。
好ましくは、第1予備成形工程では、一対の第1金型による圧下が完了した後、第2金型による第1ピン部となる部位、第3ピン部となる部位、第4ピン部となる部位および第6ピン部となる部位の偏心を開始する。
以下に、本実施形態の鍛造クランク軸の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
1.製造工程例
本実施形態の製造方法が対象とする鍛造クランク軸は、回転中心となる7つのジャーナル部Jと、ジャーナル部Jに対して偏心した6つのピン部Pと、ジャーナル部Jとピン部Pをつなぐ複数のアーム部Aと、を備える。以下では、第1位置L1に配置されるピン部を第1ピン部、第2位置L2に配置されるピン部を第2ピン部、第3位置L3に配置されるピン部を第3ピン部、第4位置L4に配置されるピン部を第4ピン部、第5位置L5に配置されるピン部を第5ピン部、第6位置L6に配置されるピン部を第6ピン部ともいう。例えば、前記図1A〜図1Cに示す6気筒−8枚カウンターウエイトの鍛造クランク軸が製造対象である。
本実施形態の製造方法は、第1予備成形工程と、第2予備成形工程と、仕上げ鍛造工程とを含む。仕上げ鍛造工程の後工程として、バリ抜き工程を追加してもよい。また、必要に応じて、バリ抜き工程の後に、整形工程を追加してもよい。ピン部の配置角度の調整は、仕上げ鍛造工程で行うことができる。あるいは、バリ抜き工程の後に捩り工程を追加し、この捩り工程でピン部の配置角度の調整を行ってもよい。これらの一連の工程は、熱間で実施される。
図3A〜図3Eは、本実施形態の鍛造クランク軸の製造工程例を説明するための模式図である。これらの図のうち、図3Aはビレットを示す。図3Bは初期荒地を示す。図3Cは最終荒地を示す。図3Dは仕上げ鍛造材を示す。図3Eは鍛造クランク軸を示す。なお、図3A〜図3Eは、前記図1A〜図1Cに示す形状の鍛造クランク軸11を製造する場合の一連の工程を示す。図3B〜図3Eの左側の図は、正面図である。図3B〜図3Eの右側の図は、ジャーナル部となる部位(以下、「ジャーナル相当部」ともいう)の中心に対する第1ピン部となる部位PA1の位置、第2ピン部となる部位PA2の位置、第3ピン部となる部位PA3の位置、第4ピン部となる部位PA4の位置、第5ピン部となる部位PA5の位置および第6ピン部となる部位PA6の位置を示す。また、以下では、第1ピン部となる部位を第1ピン相当部、第2ピン部となる部位を第2ピン相当部、第3ピン部となる部位を第3ピン相当部、第4ピン部となる部位を第4ピン相当部、第5ピン部となる部位を第5ピン相当部、第6ピン部となる部位を第6ピン相当部、ともいう。また、図3Bおよび図3Cの右側の図には、最終製品である鍛造クランク軸のピン部の第1位置L1〜第6位置L6を二点鎖線で示す。
第1予備成形工程は、扁平部形成工程と、偏心工程とを含む。扁平部形成工程では、一対の第1金型を用いてビレット22の複数のジャーナル部となる部位を圧下する。その際の圧下方向は、ビレット22の軸方向と垂直な方向である。これにより、ビレット22のうち、7つのジャーナル相当部が押し潰され、それらの部位で断面積が減少する。これに伴って、ビレット22に複数の扁平部23aが形成される。扁平部23aは、ジャーナル相当部の位置に形成される。
偏心工程では、第1金型による圧下を開始後、第2金型を用い、第1位置に配置される第1ピン部となる部位(第1ピン相当部)および第3位置に配置される第3ピン部となる部位(第3ピン相当部)を互いに反対方向に偏心させる。その際の偏心方向は、ビレット22の軸方向と垂直な方向である。また、第4ピン部となる部位(第4ピン相当部)を第3ピン相当部と同じ方向に偏心させる。第6ピン部となる部位(第6ピン相当部)を第1ピン相当部と同じ方向に偏心させる。第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部の偏心量は、仕上げ寸法の偏心量の(√3)/2と同じかまたはそれよりも小さくする。これにより、体積が配分され、かつ、第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部が偏心した初期荒地が得られる。
第2予備成形工程では、第3金型を用いて初期荒地23を圧下する。その際の圧下方向は、扁平部の幅方向である。すなわち、第2予備成形工程では、第1予備成形工程で得られた初期荒地23を軸方向周りに90°回転させた後、圧下する。これにより、鍛造クランク軸のおおよその形状が造形された最終荒地24が得られる。
最終荒地24において、第1ピン相当部PA1の偏心方向と第3ピン相当部PA3の偏心方向は互いに反対方向である。つまり、第1ピン相当部PA1と第3ピン相当部PA3との位相角は180°である。ジャーナル相当部、ピン相当部およびアーム相当部は、第4ジャーナル相当部に対して左右対称である。したがって、最終荒地24において、第4ピン相当部PA4の偏心方向は第3ピン相当部PA3の偏心方向と同じである。第6ピン相当部PA6の偏心方向は第1ピン相当部PA1の偏心方向と同じである。また、最終荒地24において、アーム相当部の軸方向の厚さt1(図3C参照)は、仕上げ寸法の厚さt0(図3E参照)と同じである。仕上げ寸法の厚さt0とは、鍛造クランク軸(最終製品)のアーム部の軸方向の厚さを意味する。
仕上げ鍛造工程では、型鍛造によって最終荒地24を鍛造クランク軸の仕上げ寸法に成形する。具体的には、上下に一対の金型が用いられる。最終荒地24は、第1ピン相当部PA1、第3ピン相当部PA3、第4ピン相当部PA4および第6ピン相当部PA6が水平面内で並ぶような姿勢で、下型の上に配置される。そして、上型の下降により鍛造が実施される。また、仕上げ鍛造工程では、第2位置に配置される第2ピン部となる部位(第2ピン相当部)および第5位置に配置される第5ピン部となる部位(第5ピン相当部)を偏心させる。鍛造の圧下方向は、第2ピン相当部PA2および第5ピン相当部PA5の偏心方向である。これにより、余材の流出に伴ってバリBが形成され、バリ付きの仕上げ鍛造材25が得られる(図3D参照)。仕上げ鍛造材25には、最終製品の鍛造クランク軸と合致する形状が造形されている。最終荒地24に鍛造クランク軸のおおよその形状が造形されているので、仕上げ鍛造工程において、バリBの形成を最小限に留めることができる。仕上げ鍛造工程は、1回でもよいし、複数回に分けてもよい。
バリ抜き工程では、例えば、バリ付きの仕上げ鍛造材25を一対の金型によって挟んで保持した状態で、刃物型によってバリBを打ち抜く。これにより、仕上げ鍛造材25からバリBが除去される。その結果、鍛造クランク軸11(最終製品)が得られる。
2.第1予備成形工程で用いられる第1金型および第2金型
本実施形態の第1予備成形工程では、ジャーナル相当部の圧下と、第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部の偏心とを実施する。ジャーナル相当部の圧下と、第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部の偏心とは別個の金型によって実施される。
ジャーナル相当部の圧下と、第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部の偏心とを1つの金型で実施すると、以下に示す問題が生じる可能性がある。
図4は、1つの金型で第1予備成形工程を実施する場合を示す縦断面図である。図4を参照して、第1上型41と第1下型42を離間させた状態で、ビレット22は第1下型42上に配置される。上述したように、第1予備成形工程では、第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部を偏心させる。ビレット22の第1ピン相当部および第6ピン相当部を加工する第1下型42の2つのピン加工部42hは、下型ジャーナル加工部42aよりも突出している。したがって、第1下型42に初期荒地23を配置すると、ビレット22は2つのピン加工部42hによって2点で支持される。また、ビレット22の第3ピン相当部および第4ピン相当部を加工する第1上型41の2つのピン加工部41hは、第1下型42の2つのピン加工部42hよりもビレット22の中央側に配置される。この状態で、第1金型40がビレット22を圧下すると、第1下型42の2つのピン加工部42hを支点、第1上型41の2つのピン加工部41hを力点として、ビレット22に荷重が負荷される。これにより、ビレット22に曲げモーメントが作用する。ビレット22に作用する曲げモーメントが過剰に大きければ、ビレット22は湾曲する。ビレット22が湾曲した状態で第1上型41が下死点に到達すると、第1金型40が圧下するビレット22の位置が、予定の位置からずれる。すなわち、ピン加工部がビレット22のウェブ相当部を圧下する等の事態が生じ得る。そのため、圧下後の初期荒地に、欠肉等が生じることがある。これを防止するため、本実施形態の第1予備成形工程では、2つの金型を用いる。
図5は、本実施形態の第1金型および第2金型を示す縦断面図である。図5を参照して、本実施形態の製造装置は、第1金型40と第2金型50とを含む。第1金型40は、第1上型41と、第1下型42とを含む。第2金型50は、2つの第2上型51と、2つの第2下型52とを含む。2つの第2上型51はそれぞれ、第3ピン相当部、第4ピン相当部を偏心させる。2つの第2下型52はそれぞれ、第1ピン相当部、第6ピン相当部を偏心させる。2つの第2上型51および2つの第2下型52は、第1金型40とは独立して昇降できる。ビレット22の圧下前では、2つの第2下型52は下型ジャーナル加工部42aと同じ高さもしくは下方に配置されている。また、2つの第2上型51は上型ジャーナル加工部41aと同じ高さもしくは上方に配置されている。すなわち、2つの第2上型51および2つの第2下型52は上型ジャーナル加工部41aおよび下型ジャーナル加工部42aよりも突出していない。したがって、圧下開始前に、第1下型42にビレット22を配置しても、ビレット22はほぼ水平に保たれる。
また、第1金型40のジャーナル加工部41a、42aによるジャーナル相当部の圧下開始後に、第2金型50による第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部の偏心が開始される。したがって、第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部の偏心中に、ジャーナル加工部41a、42aによってビレット22のジャーナル相当部が圧下されている。換言すれば、ビレット22のジャーナル相当部がジャーナル加工部41a、42aによって拘束されている。
要するに、2つの第2上型51および2つの第2下型52が独立して昇降すること、およびビレット22のジャーナル相当部が第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部に先行して圧下されること、により、第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部の偏心中にビレット22が軸方向に移動しにくい。ビレット22が、第1金型40の所定の位置で圧下されるため、圧下後の初期荒地23に欠肉等が生じにくい。
第1金型40および第2金型50の構成について説明する。第2金型50は、2つの第2上型51および2つの第2下型52を独立して昇降させるために、制御機構を備える。制御機構は、例えばダイクッション、油圧シリンダである。
図5を参照して、制御機構がダイクッション81である場合について説明する。第1下型42はダイクッション81を介してボルスタベース82に支持される。ダイクッション81は緩衝機能を有する。2つの第2上型51および2つの第2下型52はピンベース83を介してボルスタベース82に支持される。第1金型40がビレット22を圧下し始めると、ダイクッション81の緩衝機能により、2つの第2下型52が第1下型42から突出し始め、2つの第2上型51が第1上型41から突出し始める。ジャーナル加工部41a、42aがビレット22のジャーナル相当部に当接した後に、2つの第2下型52および2つの第2上型51がビレット22の第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部と当接するようにダイクッション81は設定される。これにより、ビレット22の第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部が、ジャーナル相当部の圧下開始後に偏心される。
図6は、図5とは異なる本実施形態の第1金型および第2金型を示す縦断面図である。図6を参照して、制御機構が油圧シリンダ84である場合について説明する。油圧シリンダ84は、2つの第2上型51および2つの第2下型52を昇降させることができる。2つの第2上型51および2つの第2下型52は油圧シリンダ84を介してボルスタベース82に支持される。第1金型40がビレット22を圧下し始めると、油圧シリンダ84が作動し、2つの第2下型52が第1下型42から突出し始め、2つの第2上型51が第1上型41から突出し始める。ジャーナル加工部41a、42aがビレット22のジャーナル相当部に当接した後に、2つの第2下型52および2つの第2上型51がビレット22の第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部と当接するように油圧シリンダ84は設定される。これにより、ビレット22の第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部が、ジャーナル相当部の圧下開始後に偏心される。
制御機構がダイクッションまたは油圧シリンダのいずれの場合であっても、2つの第2下型52が第1下型42から突出するタイミング、および2つの第2上型51が第1上型41から突出するタイミングは適宜設定される。すなわち、ビレット22の第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部は、ジャーナル相当部の圧下開始後から圧下完了までの間に偏心されてもよい。第1ピン相当部、第3ピン相当部、第4ピン相当部および第6ピン相当部は、ジャーナル相当部の圧下完了後に偏心されてもよい。
3.第1予備成形工程の加工フロー例
図7A〜図11Bは、第1予備成形工程の加工フロー例を示す模式図である。これらの図のうち、図7Aは扁平部形成工程開始時の状況を示す縦断面図であり、図7Bは扁平部形成工程終了時の状況を示す縦断面図であり、図7Cは偏心工程終了時の状況を示す縦断面図である。第1金型40および第2金型50は、第4ジャーナル相当部を加工する位置に対して左右対称であるため、第1金型40および第2金型50については、その半分の形状について説明する。また、第4ピン相当部の加工は第3ピン相当部と同じであり、第5ピン相当部の加工は第2ピン相当部と同じであり、第6ピン相当部の加工は第1ピン相当部と同じである。したがって、以下では、第4ピン相当部、第5ピン相当部および第6ピン相当部の説明は省略する。
図8Aおよび図8Bは、ジャーナル相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図8Aは扁平部形成工程開始時の状況を示し、図8Bは扁平部形成工程終了時の状況を示す。なお、図8Aは、前記図7AのVIIIA−VIIIA断面図であり、図8Bは、前記図7CのVIIIB−VIIIB断面図である。
図9Aおよび図9Bは、アーム相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図9Aは扁平部形成工程開始時の状況を示し、図9Bは扁平部形成工程終了時の状況を示す。なお、図9Aは、前記図7AのIXA−IXA断面図であり、図9Bは、前記図7CのIXB−IXB断面図である。
図10Aおよび図10Bは、第3ピン相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図10Aは偏心工程開始時の状況を示し、図10Bは偏心工程終了時の状況を示す。なお、図10Aは、前記図7AのXA−XA断面図であり、図10Bは、前記図7CのXB−XB断面図である。
図11Aおよび図11Bは、第2ピン相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図11Aは扁平部形成工程開始時の状況を示し、図11Bは扁平部形成工程終了時の状況を示す。なお、図11Aは、前記図7AのXIA−XIA断面図であり、図11Bは、前記図7CのXIB−XIB断面図である。
図10Aおよび図10Bには第2金型50を示し、図8A〜図9B、図11Aおよび図11Bには上下で一対の第1金型40を示す。状況の理解を容易にするため、図8A〜図11Bには、ジャーナル相当部の軸心位置Cを黒塗りの丸印で示す。また、図8B、図9B、図10Bおよび図11Bには、扁平部形成工程開始時の第1上型41、第1下型42、およびビレット22を二点鎖線で併記する。図10Aおよび図10Bには、偏心工程開始時の第2上型51およびビレット22を二点鎖線で併記する。一対の第1金型40は、ビレット22のジャーナル相当部と当接するジャーナル加工部41aおよび42aを備える。
第2金型50の第2上型51は、図10Aに太線で示すように、凹状であり、ビレット22の第3ピン相当部を収容可能である。第2下型52(図5参照)では、第2上型51の上下が反転した構成となる。
ジャーナル加工部は、図8Aに太線に示すように、第1上型41に設けられる上型ジャーナル加工部41a、および、第1下型42に設けられる下型ジャーナル加工部42aからなる。上型ジャーナル加工部41aは、凹状であり、ビレット22のジャーナル相当部を収容可能である。下型ジャーナル加工部42aは、凸部の先端面に設けられる。なお、上型ジャーナル加工部41aおよび下型ジャーナル加工部42aのいずれを凹状とするかは、特に制限はない。つまり、下型ジャーナル加工部42aがビレット22のジャーナル相当部を収容可能な凹状であってもよい。
アーム相当部は、図9Aに示すように、第1上型41と接触しない。そのため、第1予備成形工程ではビレット22のアーム相当部は積極的に加工はされない。ただし、ジャーナル相当部、第1ピン相当部および第3ピン相当部が加工されることに伴い、アーム相当部の断面形状は変化する。
第3ピン相当部を加工する第2上型51は、図10Aに太線で示すように、凹状であり、ビレット22の第3ピン相当部を収容可能である。第1ピン相当部を加工する第2下型52は、第3ピン相当部を加工する第2上型51と上下が反転しただけであるので説明は省略する。
第2ピン相当部は、図11Aに示すように、第1上型41および第1下型42と接触しない。そのため、第1予備成形工程ではビレット22の第2ピン相当部は積極的に加工はされない。ただし、ジャーナル相当部、第1ピン相当部および第3ピン相当部が加工されることに伴い、断面形状は変化する。
第1予備成形工程では、第1上型41を上昇させて第1上型41と第1下型42を離間させた状態で、ビレット22を第1上型41と第1下型42の間に配置する。その際、圧下方向はビレット22の軸方向と垂直な方向である。
この状態から第1上型41を下降させる。すると、図8Aに示すように、ビレット22のジャーナル相当部が第1上型41の上型ジャーナル加工部41aに収容される。
第1上型41をさらに下降させると、上型ジャーナル加工部41aと下型ジャーナル加工部42aとによって閉断面が形成される。この状態で、第1上型41をさらに下降させて下死点に到達させると、図8Bに示すように、上型ジャーナル加工部41aと下型ジャーナル加工部42aとの内部のビレット22のジャーナル相当部が圧下される。このようにしてビレット22のジャーナル相当部が第1金型40によって圧下され、その結果、ジャーナル相当部の断面積が減少し、扁平部23aが形成される。これに伴い、余剰となった材料が軸方向に流動してアーム相当部に流入し、体積の配分が進行する。
扁平部23aの横断面において、圧下方向と垂直な方向の幅Bfは圧下方向の厚さtaよりも大きければよい。例えば、扁平部23aの断面形状は楕円状または長円状である(図8B参照)。
第1金型40による圧下開始後、第2金型50の第2下型52および第2上型51が、第1ピン相当部および第3ピン相当部を偏心させる。第1ピン相当部および第3ピン相当部はともに、第1金型40の圧下方向に沿って偏心する。しかし、第1ピン相当部の偏心方向は第3ピン相当部の偏心方向と反対である。そして、第1ピン相当部および第3ピン相当部の偏心量は、仕上げ寸法の偏心量の(√3)/2と同じかまたはそれよりも小さくなる。一方、第2ピン相当部は偏心しない。
図12は、第1ピン相当部および第3ピン相当部の偏心量を示す模式図である。図12は、鍛造クランク軸の軸方向から見た図である。3気筒エンジンの鍛造クランク軸の第1ピン部が配置される第1位置L1と第3ピン部が配置される第3位置L3との位相差は120°である。しかしながら、第1予備成形工程で得られた初期荒地23の第1ピン相当部PA1の位置と第3ピン相当部PA3の位置との位相差は180°である。そのため、第1予備成形工程後に第1ピン相当部を、ジャーナル相当部の軸心位置Cに対してさらに偏心させる。これにより、最終製品である鍛造クランク軸では、第1位置L1と第3位置L3との位相差が120°とされる。
第1ピン部の偏心量(仕上げ寸法)は、第1位置L1の中心とジャーナル部の軸心Cとの距離DLである。したがって、ジャーナル部の軸心位置C、第1ピン相当部PA1の位置の中心、および第1位置L1の中心からなる直角三角形を仮想すると、偏心工程での第1ピン相当部の偏心量DL1は、第1ピン部の偏心量DLの(√3)/2と同じかまたはそれよりも小さい。第1ピン相当部の偏心量DL1が第1ピン部の偏心量DLの(√3)/2よりも大きければ、後の仕上げ鍛造工程で第1ピン相当部を第1位置L1まで偏心させることは困難である。なぜなら、圧下方向(図12の左右方向)と平行ではない方向に沿って第1ピン相当部を第1位置L1まで偏心させなければならないからである。なお、第1ピン相当部の偏心量DL1が第1ピン部の偏心量DLの(√3)/2よりも小さい場合、後の仕上げ鍛造工程を複数回実施する。たとえば、1回目の仕上げ鍛造工程で第1ピン相当部の偏心量DL1を第1ピン部の偏心量DLの(√3)/2まで偏心させる。2回目の仕上げ鍛造工程で第1ピン相当部PA1の位置を第1位置L1まで偏心させる。第3ピン相当部も同様である。
第1金型40による圧下および第2金型50による偏心の終了後、第1上型41および第2上型51を上昇させ、加工済みのビレット22(初期荒地23)を取り出す。
第1予備成形工程によれば、第1ピン相当部および第3ピン相当部をそれぞれ偏心させることができる。また、ジャーナル相当部からアーム相当部に材料を流動させることにより、体積を軸方向に配分できる。その結果、材料歩留りを向上できる。また、アーム部がウエイト部を含む場合、ウエイト部で欠肉が生じるのを抑制できる。さらに、第2金型50の第2上型51および第2下型52が独立して昇降すること、およびビレット22のジャーナル相当部がピン相当部に先行して圧下されること、により、ピン相当部の偏心中にビレットが傾きにくい。これにより、体積配分されたビレットが、第1金型40の所定の位置で圧下されるため、圧下後の最終荒地に欠肉等が生じにくい。
図7Cを参照して、上述の説明では、ビレットの第1ピン相当部が第2下型52によって偏心され、第3ピン相当部が第2上型51によって偏心される場合を説明した。しかしながら、これらの上下は反転してもよい。すなわち、第1ピン相当部が第2上型によって偏心され、第3ピン相当部が第2下型によって偏心されてもよい。
4.第2予備成形工程の加工フロー例
図13A〜図17Bは、第2予備成形工程の加工フロー例を示す模式図である。これらの図のうち、図13Aは圧下開始時の状況を示す縦断面図であり、図13Bは圧下終了時の状況を示す縦断面図である。金型は、第4ジャーナル相当部を加工する位置に対して左右対称であるため、図13Aおよび図13Bでは、金型の半分の形状を示す。
図14Aおよび図14Bは、ジャーナル相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図14Aは圧下開始時の状況を示し、図14Bは圧下終了時の状況を示す。なお、図14Aは、前記図13AのXIVA−XIVA断面図であり、図14Bは、前記図13BのXIVB−XIVB断面図である。
図15Aおよび図15Bは、アーム相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図15Aは圧下開始時の状況を示し、図15Bは圧下終了時の状況を示す。なお、図15Aは、前記図13AのXVA−XVA断面図であり、図15Bは、前記図13BのXVB−XVB断面図である。
図16Aおよび図16Bは、第2ピン相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図16Aは圧下開始時の状況を示し、図16Bは圧下終了時の状況を示す。なお、図16Aは、前記図13AのXVIA−XVIA断面図であり、図16Bは、前記図13BのXVIB−XVIB断面図である。
図17Aおよび図17Bは、第3ピン相当部を示す横断面図である。これらの図のうち、図17Aは圧下開始時の状況を示し、図17Bは圧下終了時の状況を示す。なお、図17Aは、前記図13AのXVIIA−XVIIA断面図であり、図17Bは、前記図13BのXVIIB−XVIIB断面図である。
図14A〜図17Bには、前述の第1予備成形工程で得られた初期荒地23と、上下で一対の第3金型30とを示す。第3金型30は、第3上型31と、第3下型32とを備える。状況の理解を容易にするため、図14A〜図17Bには、ジャーナル相当部の軸心位置Cを黒塗りの丸印で示し、図14B、図15B、図16Bおよび図17Bには、圧下開始時の第3上型31、第3下型32および初期荒地23を二点鎖線で併記する。一対の第3金型30は、ピン相当部と当接するピン加工部、ジャーナル相当部と当接するジャーナル加工部、およびアーム相当部と当接するアーム加工部を備える。
ジャーナル加工部は、図14Aに太線で示すように、第3上型31に設けられる上型ジャーナル加工部31a、および、第3下型32に設けられる下型ジャーナル加工部32aからなる。上型ジャーナル加工部31aおよび下型ジャーナル加工部32aは、凹状であり、初期荒地23のジャーナル相当部を収容可能である。
アーム加工部は、図15Aに太線で示すように、第3上型31に設けられる上型アーム加工部31c、および、第3下型32に設けられる下型アーム加工部32cからなる。アーム加工部の横断面形状は、図15Aに太線で示すように、上型アーム加工部31cおよび下型アーム加工部32cは全体として凹状である。
鍛造クランク軸のアーム部がウエイト部を含む場合、下型アーム加工部32cは、ウエイト部となる部位(ウエイト相当部)と当接するウエイト加工部32eを有する。ウエイト加工部32eは凹状の下型アーム加工部32cのピン相当部の偏心方向と反対側の端部に位置する。ウエイト加工部32eの開口幅Bpは、ピン相当部の偏心方向と反対方向に向かって広くなる。例えば図15Aに示すように、ウエイト加工部32eは、圧下方向の両側面がいずれも傾斜面である。
第2予備成形工程では、アーム相当部の軸方向の厚さt1を仕上げ寸法の厚さt0と同じにする(図3Cおよび図3E参照)。このため、上型アーム加工部31cおよび下型アーム加工部32cの軸方向の長さは、アーム部の仕上げ寸法の厚さと同じである。
第2ピン相当部を加工するピン加工部は、図16Aに太線で示すように、第3上型31に設けられる上型ピン加工部31f、および、第3下型32に設けられる下型ピン加工部32fからなる。上型ピン加工部31fおよび下型ピン加工部32fは、凹状であり、初期荒地23の第3ピン相当部を収容可能である。
第3ピン相当部と当接するピン加工部は、第3ピン相当部に対応する位置に設けられる。第3ピン相当部と当接する第3金型30のピン加工部は、図17Aに太線で示すように、第3上型31に設けられる上型ピン加工部31b、および、第3下型32に設けられる下型ピン加工部32bからなる。上型ピン加工部31bおよび下型ピン加工部32bは、凹状であり、初期荒地23の第3ピン相当部を収容可能である。
第2予備成形工程では、第3上型31を上昇させて第3上型31と第3下型32を離間させた状態で、初期荒地23を第3上型31と第3下型32の間に配置する。その際、扁平部23aの幅方向(楕円の場合は長径方向)が圧下方向となるように、初期荒地23は、第1予備成形工程の終了時における状態から軸回りに90°回転した姿勢で配置される。この状態から第3上型31を下降させると、図16Aに示すように、初期荒地23のうちの第2ピン相当部が凹状の上型ピン加工部31fに収容される。第1および第3ピン相当部も同様である。また、図14Aに示すように、ジャーナル相当部は、凹状の上型ジャーナル加工部31aに収容される。第3上型31をさらに下降させると、第3金型30により初期荒地23が圧下される。このため、第1〜第3ピン相当部およびジャーナル相当部の断面積が減少する。
第3金型30による圧下の終了後、第3上型31を上昇させ、加工済みの初期荒地23(最終荒地24)を取り出す。
このような加工フロー例を採用すれば、ピン相当部およびジャーナル相当部を圧下してピン相当部およびジャーナル相当部の断面積が減少するのに伴い、ピン相当部およびジャーナル相当部の材料が、初期荒地23の軸方向に移動する。これにより、材料がピン相当部とジャーナル相当部との間のアーム相当部に流入する。その結果、体積が軸方向に配分された最終荒地24を得ることができる。
また、第3上型31を下降させる過程で、凹状の上型ピン加工部31fの開口が、下型ピン加工部32fで塞がれ、上型ピン加工部31fおよび下型ピン加工部32fによって閉断面が形成される(図16Aおよび図16B参照)。また、凹状の上型ジャーナル加工部31aの開口が、下型ジャーナル加工部32aで塞がれ、上型ジャーナル加工部31aおよび下型ジャーナル加工部32aによって閉断面が形成される(図14Aおよび図14B参照)。これにより、第3上型31と第3下型32の間にバリが形成されることがない。したがって、材料歩留りを向上できるとともに、体積の軸方向の配分を促進できる。
第2予備成形工程では、ジャーナル加工部によってジャーナル相当部を部分圧下することにより、バリの形成を防止してもよい。また、ピン加工部によってピン相当部を部分圧下することにより、バリの形成を防止してもよい。
第2予備成形工程では、体積の軸方向の配分を促進する観点から、アーム相当部を第3金型30によって圧下しなくてよい。
5.好ましい態様等
第1予備成形工程によって第1および第3ピン相当部を偏心させる量、すなわち、初期荒地23の第1および第3ピン相当部の偏心量Eb(mm)は、仕上げ寸法の偏心量E0(mm)の(√3)/2と同じかまたはそれよりも小さくすることが好ましい。上記の実施形態では、第1および第3ピン相当部の偏心量Ebが仕上げ寸法の偏心量E0の(√3)/2と同じである場合を示す。ただし、ピン部用彫刻部への材料の充満性を確保する観点から、初期荒地23の第1および第3ピン相当部の偏心量Ebは、仕上げ寸法の偏心量E0に対する比(Eb/((√3)/2×E0))で、(1.0−Dp/2/((√3)/2×E0))以上とするのが好ましい。ここでDpは、仕上げ寸法のピン部の直径(鍛造クランク軸のピン部の直径)を意味する。同様の観点から、初期荒地23の第1および第3ピン相当部の断面積Spb(mm2)は、鍛造クランク軸のピン部の断面積Sp0(mm2)に対する比((Spb)/Sp0)で、0.7以上1.5以下とするのが好ましく、より好ましくは0.75以上1.1以下とするのが好ましい。
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることは言うまでもない。