[多層ポリエステルフィルム]
本発明の塗布フィルムを構成する多層ポリエステルフィルムは、少なくとも3層以上の積層構成である。例えば、3層構成以外にも4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
ポリエステルフィルムに使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。何れにしても本発明でいうポリエステルとは、通常60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート等であるポリエステルが好ましい。
本発明を満足するための具体的手法の1つとして、好ましくは最表層がオリゴマー(環状三量体)含有量が0.5重量%以下であるポリエステルを80重量%以上含有することにより、所望するオリゴマー析出防止効果を得ることが可能となる。オリゴマー含有量が0.5重量%以下であるポリエステルを80重量%以上用いることで、熱処理工程を経た後、ヘーズが大きく上昇し、加工後、光学特性、例えば、視認性の点で光学部材用として好ましいポリエステルフィルムとなる。
本発明において、ポリエステルフィルム中には、通常、チタン化合物、リン化合物より選ばれる少なくとも1種類の化合物を含有するのが、フィルム中のオリゴマー量を低減する上で好ましい。
チタン元素含有量(Ti量)は、好ましくは20ppm以下、より好ましくは2〜10ppmである。前記Tiが20ppmを超える場合、ポリエステルを溶融押出する工程でオリゴマーが副生し、低オリゴマーで且つ高透明性を有するフィルムが得られない場合がある。光学用途において、色調を重視する用途に対応困難になる場合がある。
一方、リン元素含有量(P量)は、好ましくは20ppm以下、より好ましくは5〜15ppmである。前記Pが20ppmを超える場合、ポリエステル製造時にゲル化が発生し、異物となってフィルムの品質を低下させ、例えば、光学的評価を伴う検査工程に対応困難になる場合がある。
本発明においては、前記Ti量および前記P量を同時に満足することにより、ポリエステルフィルム中の含有オリゴマー量低減に対して、顕著な効果を奏することが可能となる。
両最表層(表層A、表層B)には、易滑性付与を主たる目的として、粒子を含有する。粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されている耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
粒子の形状は、特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
粒子の平均粒径は、光学的評価を伴う検査工程に対応可能になる点で、0.1μm〜3.0μmの範囲であることが好ましい。好ましくは、0.1μm〜1.0μmの範囲がよい。平均粒径が0.1μm未満の場合には、フィルム表面が平坦化しすぎて、フィルム巻取り性が低下する場合がある。一方、平均粒径が3.0μmを超える場合には、フィルム中に含まれる粒子の存在により、光学的評価を伴う検査工程において支障を来す場合がある。
さらに、両最表層(表層A、表層B)の粒子含有量は、通常0.001〜3重量%、好ましくは0.01〜2重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、3重量%を超えて添加する場合にはフィルムの透明性が不十分となり、光学的評価を伴う検査工程において支障を来す場合がある。なお、表層Aの粒子含有量と表層Bの粒子含有量は異なっていてもよい。
両最表層(表層A、表層B)に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
なお、ポリエステルフィルム中には上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
本発明では、多層ポリエステルフィルムの中間層には紫外線吸収剤を含有する。その目的は、表面保護フィルムを部材に貼り合わせた状態でレーザー加工(切断、マーキング、トリミング、穴あけなど)する際に、表面保護フィルム由来の異物付着、もしくは部材のバリ発生が極力ないレーザー加工を可能とすることにある。
特にレーザー光の波長が紫外線領域(350nm以下)にある場合、紫外線吸収に伴い、発生する熱エネルギーを効率的に利用したレーザー加工が可能である。また、レーザー照射時に、貼り合わせている部材自体に過剰な熱エネルギーがかかることを表面保護フィルム自身で防止できるため、例えば、熱に敏感な電子回路などの電子部品をレーザー照射による損傷から保護することも可能になる。
使用する紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤および無機系紫外線吸収剤が挙げられるが、透明性およびポリエステルに含有させることが容易である点から、有機系紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
有機系紫外線吸収剤として、サリチル酸系化合物としては、例えば、フェニルサリチレート、p−t−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート等;ベンゾオキサジン系化合物としては、例えば、2,2−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン]が挙げられ、ベンゾトリアゾール系化合物の例としては2,2’−メチレンビス[6−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール];ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−オクトキベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシベンゾフェノン、2,2’ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等;ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’5’−ジt−ブチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール等;天然物系化合物としては、例えば、オリザノール、シアバター、バイカリン等;生体系化合物としては、例えば、角質細胞、メラニン、ウロカニン酸等が挙げられる。これら有機系紫外線吸収剤を1種又は2種類以上併用して用いることができる。
これらの中でも、ベンゾオキサジン系化合物およびベンゾトリアゾール系化合物は、ポリエステルフィルムとの相溶性良好であり、極大吸収が360nm以下でかつ、フィルム中への配合量が比較的少ない量で350nm以下の紫外線領域における紫外線吸収効率が高まる点で好ましい。
紫外線吸収剤をポリエステルフィルムに配合する方法として、紫外線吸収剤を押出機に直接添加する方法、あらかじめ紫外線吸収剤を練り込んだポリエステル樹脂を押出機に添加する方法等を挙げることができ、いずれか一つの方法を採用してもよく、2つの方法を併用してもよい。
紫外線吸収剤の含有量は、多層ポリエステルフィルム全体に対し、総合計量で、好ましくは0.5重量%〜3.0重量%であり、より好ましくは0.7重量%〜2.5重量%である。フィルム中に紫外線吸収剤の含有量が前記上限を超える場合、レーザー光吸収性能としてはすでに飽和状態となっている場合がある。一方、紫外線吸収剤の含有量が前記下限を下回る場合、例えば、レーザー光吸収効率低下に伴い、レーザー照射時間が長くなり、表面保護フィルム由来の異物付着等の不具合を生じやすくなる場合がある。
多層ポリエステルフィルムは、中間層には紫外線吸収剤を含有する必要がある。好ましくは、中間層に、少なくとも2種類の紫外線吸収剤を含有するのがよい。例えば、2種類の紫外線吸収剤を含有する場合、含有量の多い紫外線吸収剤とその他の紫外線吸収剤の含有比が重量比で好ましくは2:1〜10:1、より好ましくは2:1〜8:1である。最も含有量の多い紫外線外線吸収剤の比が前記上限よりも大きい場合、一方の紫外線吸収剤の濃度が高くなりすぎて、紫外線吸収剤の波長選択性が乏しくなる場合がある。
なお本発明の塗布フィルムを用いた表面保護フィルムが被覆された部材を加工する際に使用するレーザーとしては、固体レーザー、半導体レーザー、液体レーザー、気体レーザーなど、従来から公知のレーザーを用いることができる。その中でもCO2レーザー、YAGレーザーを用いるのがよく、さらに好ましくは、レーザー照射による、表面保護フィルム由来の異物発生防止、あるいはレーザー照射後の製品におけるバリ発生防止の観点から、YAGレーザーを用いるのがよい。
本発明における多層ポリエステルフィルムは、前記レーザー光吸収機能を付与するために、波長350nm以下における光線透過率が10%以下、好ましくは7%以下がよい。波長350nm以下における光線透過率が10%より大きくなると、表面保護フィルム用基材として用いた場合、レーザー光吸収効率が悪く、例えば、レーザー照射時間が長くなり、表面保護フィルム由来の異物が発生しやすくなる場合がある。
多層ポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、用途上、12〜250μmであるのが好ましく、より好ましくは25〜125μmの範囲である。
次に本発明のフィルムを構成するポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。なお、以下の製造例は二軸延伸フィルムの製造例であるが、本発明における多層ポリエステルフィルムは二軸延伸フィルムに限定されず、一軸延伸フィルムや無延伸フィルムであってもよい。
まず、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
また、ポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
さらに上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
[塗布層1]
本発明の塗布フィルムは、前記多層ポリエステルフィルムにおける表層Aの上に塗布層1が設けられている。
塗布フィルムを構成する塗布層1は、表面保護フィルムの構成部材として、帯電防止性を良好とするために、帯電防止剤とバインダーポリマーとを含有することが必要である。なお、塗布層1には、本発明の主旨を損なわない範囲において、その他の成分を含有していても構わない。
塗布層1に含有される帯電防止剤は限定されず、公知の帯電防止剤を選択して使用することができるが、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体であることが好ましい。
ポリチオフェン誘導体としては、例えばチオフェン環の3位と4位の位置に官能基が結合した化合物が例示される。下記(I)の通り3位と4位の炭素原子に酸素原子が結合した化合物が好ましい。
上記(I)において、R
1,R
2はそれぞれ独立に、水素元素、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、もしくは芳香族炭化水素基をあらわし、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基などである。
塗布フィルムの塗布層1において、帯電防止剤として構造式(II)からなるポリチオフェン誘導体を用いてもよい。例えば構造式(II)で、n=1(メチレン基)、n=2(エチレン基)、n=3(プロピレン基)の化合物が好ましい。中でも特に好ましいのは、n=2のエチレン基の化合物、すなわち、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェンである。
塗布層1には、上記ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物、または、上記ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物を含有することが好ましい。
前記ポリ陰イオンとは「遊離酸状態の酸性ポリマー」を指し、高分子カルボン酸、あるいは、高分子スルホン酸などが好ましい。高分子カルボン酸の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸が例示される。高分子スルホン酸の具体例として、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸が例示される。中でも、ポリスチレンスルホン酸が導電性の点で最も好ましい。なお、遊離酸の一部が中和された塩の形をとってもよい。ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体の重合時に、これらポリ陰イオンを用いることにより、本来、水に不溶なポリチオフェン系化合物を水分散あるいは水性化しやすく、かつ、酸としての機能がポリチオフェン系化合物のドーピング剤としての機能も果たすものと考えられる。
また、高分子カルボン酸や高分子スルホン酸は、共重合可能な他のモノマー、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどと共重合した形で用いることもできる。
ポリ陰イオンとして用いられる高分子カルボン酸や高分子スルホン酸の分子量は特に限定されないが、塗剤の安定性や導電性の点で、その重量平均分子量は1000〜1000000が好ましく、より好ましくは5000〜150000である。本発明の特性を阻害しない範囲で、一部リチウム塩やナトリウム塩などのアルカリ塩やアンモニウム塩などを含んでもよい。中和された塩の場合も、非常に強い酸として機能するポリスチレンスルホン酸とアンモニウム塩は、中和後の平衡反応の進行により、酸性側に平衡がずれることが分かっており、これによりドーパントとして作用すると考えられる。
ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体に対して、ポリ陰イオンは、固形分重量比でより過剰に存在させた方が導電性の点で好ましく、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体が1重量部に対し、ポリ陰イオンは1重量部〜5重量部が好ましく、1重量部〜3重量部がより好ましい。上記ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物に関して、例えば、特開平6−295016号公報、特開平7−292081号公報、特開平1−313521号公報、特開2000−6324号公報、ヨーロッパ特許EP602731号、米国特許US5391472号などに記載例があるが、これら以外の方法であってもよい。一例を挙げると、3,4−ジヒドロキシチオフェン−2,5−ジカルボキシエステルのアルカリ金属塩を出発物質として、3,4−エチレンジオキシチオフェンを得たのち、ポリスチレンスルホン酸水溶液にペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸鉄と、先に得た3,4―エチレンジオキシチオフェンを導入し、反応させ、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェンに、ポリスチレンスルホン酸などのポリ陰イオンが複合体化した組成物を得る。
例えば、導電性ポリマー技術の最新動向(株式会社東レリサーチセンター発行、1999年6月1日 第1刷)にも記載例がある。
塗布層1を構成するバインダーポリマーとは、高分子化合物安全性評価フロースキーム(昭和60年11月、化学物質審議会主催)に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が1000以上の高分子化合物で、かつ造膜性を有するものと定義する。
バインダーポリマーとしては、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体と相溶又は混合分散可能であれば、熱硬化性樹脂であっても、熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;オキセタン樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。
これらバインダーポリマーは、有機溶剤に溶解されていてもよいし、スルホ基やカルボキシル基などの官能基が付与されて水溶液化されていてもよい。また、バインダーポリマーには、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶媒、粘度調整剤等を併用してもよい。
前記バインダーポリマーの中でも、塗布液作製時の混合が容易なことから、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂の中から選択される、いずれか1種類以上が好ましい。中でも、ポリウレタン樹脂が好ましい。
ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを構成成分とする線状ポリエステルと定義する。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6ーナフタレンジカルボン酸、4,4−ジフェニルジカルボン酸、1,4ーシクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ダイマー酸等を例示することができる。これらの成分は二種以上を用いることができる。さらに、これらの成分とともにマレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のような不飽和多塩基酸やp−ヒドロキシ安息香酸、p−(β−ヒドロキシエトキシ)安息香酸等のようなヒドロキシカルボン酸を少割合用いることができる。不飽和多塩基酸成分やヒドロキシカルボン酸成分の割合は通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
また、グリコール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシ)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシ)グリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等を例示することができる。これらは2種以上を用いることができる。
かかるポリオール成分の中でもエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキサイド付加物、1,4−ブタンジオールが好ましく、さらにエチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物やプロピレンオキ
サイド付加物が好ましい。また、前記ポリエステル樹脂には、水性液化を容易にするために若干量の、スルホン酸塩基を有する化合物やカルボン酸塩基を有する化合物を共重合させることが可能であり、その方が好ましい。このスルホン酸塩基を有する化合物としては、例えば5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−アンモニウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−メチルアンモニウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、4−カリウムスルホイソフタル酸、2−カリウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホコハク酸等のスルホン酸アルカリ金属塩系またはスルホン酸アミン塩系化合物等が好ましく挙げられる。
アクリル樹脂としては、アクリル系、メタアクリル系のモノマーに代表されるような、炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体いずれでも差し支えない。また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体である。さらにポリエステル溶液、またはポリエステル分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液、または分散液中で炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれる。
上記炭素−炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、代表的な化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシル基含有モノマー類、およびそれらの塩;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキルフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドまたは(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有ビニル系モノマー類。また、これらと併用して以下に示すような重合性モノマーを共重合することができる。すなわち、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メタクリロイルシリコンマクロマー等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロクロルエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類等が例示される。
アクリル樹脂においてはガラス転移温度(以下、Tgと略記する場合がある。)は40℃以上であるのが好ましく、さらに好ましくは60℃以上がよい。Tgが40℃未満の場合、接着性向上を目的として、塗布層の塗布厚みを厚くした場合、ブロッキングし易くなる等の不具合を生じる場合がある。
ポリウレタン樹脂とはウレタン結合を分子内に有する高分子化合物のことを指す。その中でも、インラインコーティングへの適性を考慮した場合、水分散性または水溶性のウレタン樹脂が好ましい。水分散性または水溶性を付与させるためには、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をウレタン樹脂に導入することが可能である。前記親水性基のなかでも、塗膜物性及び密着性向上の観点から、カルボン酸基またはスルホン酸基が好適に使用される。
ウレタン樹脂の具体的な製造例として、例えば、水酸基とイソシアネートとの反応を利用する方法が挙げられる。原料として用いる水酸基としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)またはそれらの酸無水物と多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)の反応から得られるものが挙げられる。
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えば、ポリ(1,6−ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
ウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
ウレタン樹脂を合成する際には従来から公知の鎖延長剤を使用してもよく、鎖延長剤として、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に限定されるわけではなく、水酸基またはアミノ基を2個有する鎖延長剤が汎用的に用いられる。
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール、キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類が例示されることを挙げることができる。また、アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2−ブチル−2−エチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン等の脂肪族ジアミン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、イソプロビリチンシクロヘキシル−4,4’−ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
塗布層1中におけるバインダーポリマーの配合比率に関しては、10〜80重量%の範囲、より好ましくは20〜60重量%の範囲である。当該範囲が10重量%未満の場合、ポリエステルフィルムに対する密着性が低下する場合がある。一方、80重量%を超える場合には接着性能が飽和状態になり、それ以上増量しても顕著な効果が得られない場合がある。
塗布層1をポリエステルフィルム上に塗設するため、塗布液中には、塗布性を良好とするために、グリセリン(C1)、ポリグリセリン(C2)、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(C3)の群から選ばれる1種以上の化合物またはその誘導体を含有するのが好ましい。
グリセリン、ポリグリセリンとは、下記一般式(III)で表される化合物である。
上記式(III)で、n=1の化合物がグリセリンであり、nが2以上の化合物はポリグリセリンである。本発明において、上記式(III)のnは、1〜20の範囲が好ましく、より好ましくは2〜20の範囲である。中でも透明性の観点から、ポリグリセリンがより好ましい。
また、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物とは、すなわち、一般式(3)で表されるグリセリンまたはポリグリセリンのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドまたはその誘導体を付加重合した構造を有するものである。
ここで、グリセリンまたはポリグリセリン骨格のヒドロキシル基ごとに、付加されるアルキレンオキサイドまたはその誘導体の構造は異なっていても構わない。また、少なくとも分子中一つのヒドロキシル基に付加されていればよく、全てのヒドロキシル基にアルキレンオキサイドまたはその誘導体が付加されている必要はない。
アルキレンオキサイドまたはその誘導体として好ましいものは、エチレンオキサイド またはプロピレンオキサイド骨格を含んだ構造である。アルキレンオキサイド構造中のアルキル鎖が長くなりすぎると、疎水性が強くなり、塗布液中での均一な分散性が悪化し、塗膜の帯電防止性や透明性が悪化する傾向がある。特に好ましいものはエチレンオキサイドである。
かかるグリセリンまたはポリグリセリンへの、アルキレンオキサイド付加物において、グリセリンまたはポリグリセリン骨格に対するアルキレンオキサイドまたはその誘導体の共重合比率は特に限定されないが、分子量比で、グリセリンまたはポリグリセリン部分を1とした時に、アルキレンオキサイド部分が20以下であることが好ましく、より好ましくは10以下であることが好ましい。グリセリンまたはポリグリセリン骨格に対するアルキレンオキサイドまたはその誘導体の比率が、この範囲より大きい場合には、通常のポリアルキレンオキサイドを用いた場合の特性に近くなり、所望する性能が得られない場合がある。
本発明における化合物に関して、特に好ましい様態としては、ポリグリセリン(C2)および、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(C3)が例示される。ポリグリセリン(C2)としては、上記式(3)の化合物において、nが2〜20のものが特に好ましい。また、グリセリンまたはポリグリセリンへのアルキレンオキサイド付加物(C3)としては、上記式(3)の化合物において、n=2にエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドを付加した構造のものが特に好ましく、また、その付加数は、最終的な化合物(C3)としての重量平均分子量で300〜2000の範囲になるものが特に好ましい。
塗布フィルムを構成する塗布層1中に占めるポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体の重量が0.5mg/m2以上であることが好ましく、さらに好ましくは1mg/m2以上がよい。当該塗布液成分の量が0.5mg/m2以上とすることで、十分な帯電防止性を有することができる。
一方、上限としては特に限定されないが、100mg/m2以下であることが好ましく、さらに好ましくは50mg/m2以下がよい。
また、塗布層1中に占めるポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体の比率は限定されないが、上限に関して、好ましくは重量比率90重量%、さらに好ましくは80重量%、最も好ましくは60重量%である。当該塗布液成分の比率が重量比率90重量%を超える場合には塗膜の透明性が不十分となるがある。一方、下限に関して、好ましくは1重量%、さらに好ましくは2重量%である。当該塗布液成分の重量比率が1重量%未満の場合には帯電防止性能が不十分となる場合がある。
塗布層1中において、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とバインダーポリマーとの比率は、重量比で90/10〜1/99の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは70/30〜1/99、最も好ましくは50/50〜10/90の範囲である。当該範囲を外れる場合、帯電防止性能或いは塗膜の外観が悪化しやすい傾向になる。
本発明で使用する塗布層を形成する塗布液には、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、離型剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種類以上を併用してもよい。また、これら添加剤としては、その構造中に、(ポリ)アルキレンオキサイドや(ポリ)グリセリン、これらの誘導体を含むものを使用すると、得られる塗布層の帯電防止性を阻害せず、より好ましい。
本発明における塗布液は、取扱い上、作業環境上、また塗布液組成物の安定性の面から、水溶液または水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。
本発明における塗布層は、特定の化合物を含有する塗布液をフィルムに塗布することにより設けられ、特に本発明では塗布を多層ポリエステルフィルムの製膜中に行うインラインコーティングにより設けられることが好ましい。
塗布フィルムの塗布層1表面の表面固有抵抗値Rは、1×109Ω以下であるのが好ましい。Rはより好ましくは1×108Ω以下、さらに好ましくは1×107Ω以下である。Rが1×109Ω以下とすることで、表面保護フィルムとして用いる際、塗布フィルムを剥離時に異物を巻き込む等の不具合を抑制することができる。
[塗布層2]
前記多層ポリエステルフィルムの他方の最表層(表層B)の上には、粘着層に対する接着性向上を目的として、塗布層2を設けるのが好ましい。具体的な成分として、塗布層2には、ポリエステル樹脂および架橋剤を含有するのが好ましい。
塗布層2を構成するポリエステル樹脂とは、前記の塗布層1におけるバインダーポリマーとしてのポリエステル樹脂と同様のものを用いることができる。
塗布層2を構成する前記ポリエステル樹脂において、ガラス転移温度(以下、Tgと略記する場合がある。)は40℃以上であるのが好ましく、さらに好ましくは60℃以上がよい。Tgが40℃未満の場合、接着性向上を目的として、塗布層の塗布厚みを厚くした場合、ブロッキングし易くなる等の不具合を生じる場合がある。
塗布層2を構成する架橋剤とは、種々公知の架橋剤が使用でき、例えば、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これらの中でも特に、塗布層上に機能層を設ける用途に用いる場合、耐久密着性向上の観点から、オキサゾリン化合物が好適に用いられる。
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα,β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
オキサゾリン化合物のオキサゾリン基量は、通常0.5〜10mmol/g、好ましくは3〜9mmol/g、より好ましくは5〜8mmol/gの範囲である。上記範囲で使用することで、塗膜の耐久性が向上する。
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン構造を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
イソシアネート系化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。
カルボジイミド系化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
カルボジイミド系化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
これらの架橋剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
架橋剤成分を含有する場合、同時に架橋を促進するための成分、例えば架橋触媒などを併用することができる。
また、塗布層2の形成には、塗布外観の向上や塗布層上に粘着層が形成されたときの密着性向上のために、本発明の主旨を損なわない範囲において、ポリエステル樹脂以外のポリマーを併用することも可能である。
ポリマーの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。これらの中でも、接着性向上の観点から、アクリル樹脂またはウレタン樹脂を使用することが好ましい。
また、各塗布層の形成にはブロッキング、滑り性改良を目的として粒子を併用することも可能である。その平均粒径はフィルムの透明性の観点から好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.2μm以下の範囲である。また、下限は滑り性の更なる向上のために、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、特に好ましくは塗布層の膜厚よりも大きい範囲がよい。使用する粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、有機粒子等が挙げられる。
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、各塗布層の形成には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することも可能である。
塗布フィルムを構成する各塗布層の厚み(乾燥後)としては、通常0.003〜1μmであり、好ましくは0.005〜0.5μm、さらに好ましくは0.01〜0.2μmである。厚みが0.003μmより薄い場合には、フィルムから析出するエステル環状三量体量が十分に少なくならないことがある。また1μmより厚い場合には、塗布層の外観悪化や、ブロッキング性低下などの不具合を生じる場合がある。
また本発明の塗布フィルム全体の厚みは、製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、12〜250μmが好ましく、より好ましくは25〜125μmである。
[塗布方法]
多層ポリエステルフィルムに塗布液を塗布する方法としては、例えば、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、ナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファロールコート、グラビアコート、キスロールコート、キャストコート、スプレイコート、カーテンコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗布方法を用いることができる。
塗布液のフィルムへの塗布性、密着性を改良するため、塗布前に多層ポリエステルフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
インラインコーティングによって、各塗布層を多層ポリエステルフィルム上に設ける場合は、上述の一連の化合物を水溶液または水分散体として、固形分濃度が0.1〜50重量%程度を目安に調整した塗布液を多層ポリエステルフィルム上に塗布する要領にて塗布フィルムを製造するのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
多層ポリエステルフィルム上に各塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては、特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
一方、インラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、70〜280℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
本発明の塗布フィルムのヘーズは2%以下であることが好ましい。さらに好ましくは1%以下、最も好ましくは0.6%以下である。塗布フィルムのヘーズが2%を超える場合は、表面保護フィルムの構成単位として、光学的評価を伴う検査に用いた場合には、支障を来す場合がある。
[表面保護フィルム]
本発明の表面保護フィルムは、少なくとも前記した本発明の塗布フィルムを有していれば足り、本発明の塗布フィルム単独であってもよいが、通常は粘着性を付与するために粘着層を有する構成であることが好ましい。なお、表面保護フィルムとは本発明の塗布フィルムの用途の一態様を云うものであるが、前記した本発明の塗布フィルムに粘着層を設けた層構成自体、本発明の塗布フィルムの一態様である。
[粘着層]
次に本発明における粘着層について、以下に説明する。
表面保護フィルムにおいては、塗布フィルムの少なくとも一方の塗布層上に粘着層を設けるのが好ましい。粘着層は塗布フィルムの片面のみに設けてもよいし、両面に設けてもよいが、片面に設けることが好ましい。片面に設ける場合、塗布層1、塗布層2の何れの面に設けてもよいが、塗布層2上に設けることが好ましい。
本発明における粘着層とは、粘着性を有する材料から構成される層を意味し、本発明における主旨を損なわない範囲において、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等、従来から公知の材料を用いることができる。その中でも、粘着特性の調整範囲が広く、汎用的に用いられている点でアクリル系粘着剤が好ましい。
本発明においては、具体例として、アクリル系粘着剤を使用する場合について、以下に説明する。
アクリル系粘着剤とは、アクリル系モノマーを必須の単量体(モノマー)成分として形成されるアクリル系ポリマーをベースポリマーとして含有する粘着剤を意味する。当該アクリル系ポリマーは、直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよび/または(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルを必須のモノマー成分として(さらに好ましくは、主たるモノマー成分として)形成されることが好ましい。さらに、アクリル系ポリマーは、直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルコキシアルキルエステルを必須のモノマー成分として形成されたアクリル系ポリマーであることが特に好ましい。すなわち、本発明における粘着層は、直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルコキシアルキルエステルを必須のモノマー成分として形成されたアクリル系粘着剤で形成された層であることが特に好ましい。
また、アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分には、さらに、極性基含有単量体、多官能性単量体やその他の共重合性単量体が共重合モノマー成分として含まれていてもよい。
なお、上記の「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および/または「メタクリル」を表し、他も同様である。また、特に限定されないが、ベースポリマーであるアクリル系ポリマーの本発明の粘着層中の含有量は、粘着層の総重量(100重量%)に対して、60重量%以上が好ましく、さらに好ましくは80重量%以上である。
本発明の粘着層には、必要に応じて、架橋剤、架橋促進剤、粘着付与剤(例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂など)、老化防止剤、充填剤、着色剤(顔料や染料など)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、帯電防止剤等を本発明の主旨を損なわない範囲において、必要に応じて用いることができる。
上記架橋剤は、粘着層のベースポリマーを架橋することにより、粘着層のゲル分率をコントロールすることができる。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤などが挙げられ、イソシアネート系架橋剤やエポキシ系架橋剤を好適に用いることできる。また、架橋剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
表面保護フィルムの粘着層厚み(乾燥後)としては、10〜100μm、好ましくは20〜50μmの範囲がよい。粘着層の厚み(乾燥後)が10μm未満の場合、所望する粘着力を得るのが困難な場合がある。一方、粘着層厚み(乾燥後)が100μmをこえる場合には、粘着層の硬化が不十分になり、作業性低下等の不具合を生じる場合がある。
また表面保護フィルム全体の厚みは、粘着性および作業性が十分であれば特に限定されるものではないが、22〜350μmが好ましく、より好ましくは45〜175μmである。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
(1)ポリエステルの極限粘度(dl/g)の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
(2)平均粒径(d50)
島津製作所製遠心沈降式粒度分布測定装置(SA−CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径d50とした。
(3)ポリエステル原料に含有されるエステル環状三量体の測定:
ポリエステル原料を約200mg秤量し、クロロホルム/HFIP(ヘキサフルオロ−2−イソプロパノル)の比率3:2の混合溶媒2mlに溶解させた。溶解後、クロロホルム20mlを追加した後、メタノール10mlを少しずつ加えた。沈殿物を濾過により除去し、さらに、沈殿物をクロロホルム/メタノールの比率2:1の混合溶媒で洗浄し、濾液・洗浄液を回収し、エバポレーターにより濃縮、その後、乾固させた。乾固物をDMF(ジメチルホルムアミド)25mlに溶解後、この溶液を液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製「LC−7A」)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値をクロロホルム/HFIP混合溶媒に溶解させたポリエステル原料量で割って、含有エステル環状三量体量(重量%)とした。DMF中のエステル環状三量体量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた。(絶対検量線法)
標準試料の作成は、あらかじめ分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し作成した。
なお、液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
《測定条件》
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学株式会社製「MCI GEL ODS 1HU」
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
(4)厚み
フィルム小片をエポキシ樹脂にて固定成形した後、ミクロトームで切断し、フィルムの断面を透過型電子顕微鏡写真にて観察した。その断面のうちフィルム表面とほぼ平行に2本、明暗によって界面が観察される。その2本の界面とフィルム表面までの距離を10枚の写真から測定し、その平均値をもって各層の厚みとした。
(5)フィルム中の金属元素およびリン元素量の定量
蛍光X線分析装置((株)島津製作所社製、型式「XRF−1500」)を用いて、下記表1に示す条件下で、フィルムFP法によりフィルム中の元素量を求めた。なお、本方法での検出限界は、通常1ppm程度である。
(6)ヘーズの測定(透明性評価)
試料フィルムをJIS K7136に準じ、株式会社村上色彩技術研究所製ヘーズメーター「HM−150」により、ヘーズを測定した。その後、下記基準により判定を行った。
(判定基準)
A:ヘーズが0.6%以下(特に良好)
B:ヘーズが0.6%を超え1.0%以下(良好)
C:ヘーズが1.0%を超え2.0%以下(問題になる場合あり)
(7)光線透過率の測定
分光光度計(株式会社日立ハイテクフィールディング製U−3310)により、波長350nmでの光線透過率を測定した。その後、下記基準により判定を行った。
(判定基準)
A:光線透過率が7%以下(特に良好)
B:光線透過率が7%を超え10%以下(良好)
C:光線透過率が10%を超える(実用上問題になる場合あり)
(8)表面固有抵抗(R)測定(帯電防止性評価)
下記(8−1)の方法に基づき、試料フィルムの表面における表面固有抵抗を測定した。なお(8−1)の方法では、1×108Ωより高い表面固有抵抗は測定できないため、(8−1)で測定出来なかったサンプルについては(8−2)の方法を用いた。
《測定方法》
(8−1)三菱化学社製低抵抗率計:ロレスタGP MCP−T600を使用し、23℃、50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面固有抵抗値を測定した。
(8−2)日本ヒューレット・パッカード社製高抵抗測定器:HP4339Bおよび測定電極:HP16008Bを使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面固有抵抗値を測定した。
(判定基準)
A:Rが1×107Ω以下(実用可能なレベル。特に良好。)
B:Rが1×107Ωを超え1×108Ω以下(実用可能なレベル)
C:Rが1×108Ωを超え1×109Ω以下(実用上問題になる場合あり)
D:Rが1×109Ωを超える(実用困難)
(9)塗布層1の耐溶剤性評価
試料フィルムの塗布層1表面にトルエン溶媒をスポイドで1ml滴下した。
その後、自然乾燥させた後の塗布層1表面を目視観察し、下記基準により判定を行った。
(判定基準)
A:トルエン溶剤の滴下跡がなく、耐溶剤性良好。(実用上問題ないレベル)
B:トルエン溶剤の滴下跡が軽微に確認された。(実用上問題になる場合あり)
C:トルエン溶剤の滴下跡が明瞭に確認された。(実用上問題あり)
(10)粘着層との接着性評価
試料フィルムの塗布層2の表面に、ベーカー式アプリケータを用いて下記粘着剤組成からなるアクリル系粘着剤を塗布した。この時、塗布量(乾燥前)は2milとした。続いて熱風式循環炉で150℃、3分間熱処理することによって、塗布層2の表面に粘着層を設けた。粘着層を設けた試料フィルムは、未処理のPETフィルム(厚さ188μm)と重さ2kgのゴムローラーで貼り合わせた。続いて貼り合わせた積層体を50mm×300mmにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、未処理のPETフィルムと粘着層との界面について180°剥離を行い、下記基準により判定を行った。
《粘着剤組成》
主剤:AT352(サイデン化学製) 100重量部
硬化剤:AL(サイデン化学製) 0.25重量部
添加剤:X−301−375SK(サイデン化学製) 0.25重量部
添加剤:X−301−352S(サイデン化学製) 0.4重量部
トルエン:40重量部
(判定基準)
A:粘着層と未処理PETフィルムとの界面で剥離する。(実用上問題ないレベル)
B:粘着層と塗布層2を設ける側のフィルム最表面との界面で剥離する。(実用上問題あり)
(11)表面保護フィルムの視認性評価(1)
(オリゴマー封止性の実用特性代用評価)
実施例、比較例の各表面保護フィルムをあらかじめ5cm角に切り出した後、フロートガラス板(サイズ:7cm角、厚み2mm、JIS R 3202に準拠)と粘着層とを貼りあわせた状態で、熱風式循環炉(TABAI製:型式PVH−210)内にて、180℃、10分間熱処理した。その後、貼りあわせたままの状態で、粘着層の観察を表面保護フィルム側から行い、下記基準により判定を行った。
(判定基準)
A:表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態で、粘着層の検査が可能。熱処理後も表面保護フィルムの透明性が非常に高く、検査が特に容易(実用上問題ないレベル)
B:表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態で、粘着層の検査が可能。表面保護フィルムのヘーズがオリゴマー析出などによってわずかに悪化するものの、検査が容易(実用上問題ないレベル)
C:表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態で、粘着層の検査が可能であるが、まれに若干検査が困難になる場合がある。(実用上問題になる場合あり)
D:熱処理によって表面保護フィルムのヘーズが悪化したため、表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態では粘着層の検査が困難(実用上問題あり)
(12)表面保護フィルムの視認性評価(2)
(光学的評価を伴う検査容易性の実用特性代用評価)
実施例および比較例で得られた、各表面保護フィルムを偏光板に貼り合わせ、表面保護フィルム上に別の偏光板を置き、当該偏光板を回転させながら最も視野が暗くなるようにする。その後、前記積層体構成(上部偏光板/表面保護フィルム(粘着層)/下部偏光板)のままで、光学顕微鏡(透過光)を用いて、上部偏光板側から表面保護フィルムを観察し、その際の観察状態を下記基準により判定を行った。
(判定基準)
A:表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態で、偏光板の検査が可能。暗くても視認性が非常に高く、検査が特に容易。(実用上問題ないレベル)
B:表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態で、偏光板の検査が可能。暗くても視認性があり、検査が容易。(実用上問題ないレベル)
C:表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態で、偏光板の検査が可能であるが、若干検査が困難になる場合がある。(実用上問題になる場合あり)
D:表面保護フィルムを貼りあわせたままの状態で、偏光板の検査をすることが困難。(実用上問題あり)
(13)レーザー加工性(実用特性代用評価)
実施例および比較例において製造した表面保護フィルムを用いて、粘着層面をガラスパネル(厚み:0.33mm)と貼り合わせた状態で、ガラスパネル側から、YAGレーザー(エネルギー密度:600mJ/cm2、周波数:20Hz)を照射し、ガラスパネルを60mm×130mmサイズに切断し、切断面を光学顕微鏡により観察し、下記基準により判定を行った。
(判定基準)
A:表面保護フィルム由来の異物付着がない、またはバリの発生が全くない。(実用上問題ないレベル)
B:表面保護フィルム由来の異物が極微量付着しているが、バリの発生はない。(実用上問題にならないレベル)
C:表面保護フィルム由来の異物が極微量付着し、且つ、バリの発生が確認される。(実用上問題になる場合あり)
D:表面保護フィルム由来の異物が明瞭に付着している、且つ、バリの発生が確認される。(実用上問題あり)
(14)総合評価(実用特性代用評価)
実施例および比較例において製造した表面保護フィルムを用いて、前記(6)〜(13)の評価を行い、下記基準により総合評価を行った。
(判定基準)
A:各評価全てがA判定。(実用上問題ないレベル。特に良好)
B:少なくともB判定が1つあり、その他は全てA判定。(実用上問題ないレベル)
C:少なくともC判定が1つあり、D判定は無い。(実用上問題になる場合あり)
D:少なくともD判定が1つある。(実用上問題あり)。
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩0.09重量部を反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドフォスフェート0.04重量部を添加した後、三酸化アンチモン0.04重量部を加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度が0.63dl/gに相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させた。得られたポリエステル(A)の極限粘度は0.63dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.97重量%であった。
<ポリエステル(B)の製造方法>
ポリエステル(A)を、あらかじめ160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、極限粘度が0.75dl/g、エステル環状三量体の含有量が0.46重量%のポリエステル(B)を得た。
<ポリエステル(C)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エチルアシッドフォスフェートを生成ポリエステルに対して30ppm、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を生成ポリエステルに対して100ppmとなるように混合し、窒素雰囲気下、260℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、テトラブチルチタネートを生成ポリエステルに対して50ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.3kPaまで減圧し、さらに80分、溶融重縮合させ、極限粘度が0.61dl/g、エステル環状三量体の含有量が1.02重量%のポリエステル(C)を得た。
<ポリエステル(D)の製造方法>
ポリエステル(C)をあらかじめ160℃で予備結晶化させた後、温度210℃の窒素雰囲気下で固相重合し、極限粘度が0.71dl/g、エステル環状三量体の含有量が0.50重量%のポリエステル(D)を得た。
<ポリエステル(E)の製造方法>
ポリエステル(C)100重量部に対して、平均粒子径(d50)が2.3μmのシリカ粒子を0.3重量部添加して溶融混練をする以外は、ポリエステル(D)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(E)を得た。得られたポリエステル(E)は、極限粘度が0.72dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.50重量%であった。
<ポリエステル(F)の製造方法>
ポリエステル(C)100重量部に対して、平均粒子径(d50)が0.3μmの酸化アルミニウム粒子を1.5重量部添加して溶融混練をする以外は、ポリエステル(D)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(F)を得た。得られたポリエステル(F)は、極限粘度が0.72dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.50重量%であった。
<ポリエステル(G)の製造方法>
ポリエステル(C)100重量部に対して、紫外線吸収剤として2,2−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン]を10重量%濃度となるように添加して溶融混練をする以外は、ポリエステル(D)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(G)を得た。得られたポリエステル(G)は、極限粘度が0.72dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.52重量%であった。
<ポリエステル(H)の製造方法>
ポリエステル(C)100重量部に対して、紫外線吸収剤として2,2’−メチレンビス[6−(ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール]を10重量%濃度となるように添加して溶融混練をする以外は、ポリエステル(D)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(H)を得た。得られたポリエステル(H)は、極限粘度が0.72dl/g、エステル環状三量体の含有量は0.52重量%であった。
(ポリエステルフィルムF1の製造)
ポリエステルB、Eをそれぞれ90重量%、10重量%の割合でブレンドした原料を表層A,Bの原料とし、ポリエステルC,G,Hをそれぞれ50重量%、25重量%、25重量%の割合でブレンドした原料を中間層の原料として、2台のベント付き押出機に供給し、290℃で溶融押出した後、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して厚み約1500μmの無定形フィルムを得た。このフィルムを85℃で縦方向に3.4倍延伸した。その後、表層Aの上に下記塗布層1を、表層Bの上に塗布層2を、塗布厚み(乾燥後)が0.04g/m2になるようにそれぞれ塗布した後、フィルムをテンターに導き、100℃で横方向に4.0倍延伸し、230℃で熱処理した後に、横方向に2%の弛緩処理を行い、厚み75μm(厚み構成比=6μm/63μm/6μm)のポリエステルフィルムF1を得た。
《塗布層組成》
塗布層1、塗布層2で用いた原料を以下に示す。また、塗布層1、塗布層2の配合割合は表2及び表3に示す。
(A1):ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸からなる混合物(スタルク株式会社製、BaytronPAG)
(B1):ポリウレタン樹脂
テレフタル酸664重量部、イソフタル酸631重量部、1,4−ブタンジオール472重量部、ネオペンチルグリコール447重量部から成るポリエステルポリオールを得た。次いで、得られたポリエステルポリオールに、アジピン酸321重量部、ジメチロールプロピオン酸268重量部を加え、ペンダントカルボキシル基含有ポリエステルポリオールAを得た。更に、前記ポリエステルポリオールA1880重量部にヘキサメチレンジイソシアネート160重量部を加えてポリウレタン樹脂水性塗料を得た。
(B2):下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)テレフタル酸/イソフタル酸/5−スルホイソフタル酸ナトリウム//(ジオール成分)エチレングリコール/1,4−ブタンジオール/ジエチレングリコール=56/40/4//70/20/10(mol%)
(B3):下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(重量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
(C1):前記式(III)でn=1であるグリセリン
(C2):前記式(III)でn=2であるポリグリセリン
(C3):前記式(III)でn=2であるポリグリセリン骨格への、ポリプロピレンオキサイド付加物。平均分子量750
(D1):エポキシ化合物:ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
(D2):オキサゾリン化合物であるエポクロス(株式会社日本触媒製、オキサゾリン基量7.7mmol/g)
(E1):平均粒径65nmのシリカゾル
(ポリエステルフィルムF2〜ポリエステルフィルムF26の製造)
ポリエステルフィルムF1の製造方法において、ポリエステルフィルムの種類、塗布層の種類が表4〜7に示す通りに異なる以外はポリエステルフィルムF1と同様にして製造し、各ポリエステルフィルムを得た。
実施例1:
ポリエステルフィルムF1の一方の塗布層の表面に下記粘着層組成物から構成される粘着層を厚み(乾燥後)が25μmなるように塗布し、100℃、5分間乾燥させて表面保護フィルムを得た。
(粘着層組成物)
常法により、酢酸エチル中でブチルアクリレート(100重量部)、アクリル酸6重量部)を共重合して重量平均分子量60万(ポリスチレン換算)のアクリル系共重合体の溶液(固形分30重量%)を得た。アクリル系共重合体100重量部(固形分)に対し、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、0.2重量部、エポキシ系架橋剤であるテトラッドC(三菱ガス化学社製)6重量部を添加し粘着層組成物を得た。
実施例2〜実施例6:
ポリエステルフィルムの種類、塗布液の組成を表4の通りに変更する以外は、実施例1と同様にして製造し、表面保護フィルムを得た。
実施例7:
粘着層の種類をシリコーン粘着剤(東レダウ・コーニング社製、SD4580)に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、表面保護フィルムを得た。
実施例8〜実施例27:
ポリエステルフィルムの種類、塗布液の組成を表4〜6の通りに変更する以外は、実施例1と同様にして製造し、表面保護フィルムを得た。
比較例1〜比較例4:
ポリエステルフィルムの種類、塗布液組成を表7の通りに変更する以外は、実施例1と同様にして製造し、表面保護フィルムを得た。
比較例5:
従来技術として併記した。なお、レーザー加工評価においては表面保護フィルム自体にレーザー光吸収機能がないためか、切断面には表面保護フィルム由来の異物が極微量付着していた。
上記実施例および比較例で得られた表面保護フィルムの特性を下記表4〜7に示す。