(実施形態)
(1)概要
本実施形態に係る脳波判定システム10の概要について、図1及び図2を参照して説明する。
本実施形態に係る脳波判定システム10は、対象者5の脳波を測定するための脳波測定システムとしての機能を有し、対象者5の頭部52の一部である測定箇所51に配置される電極部11にて採取される脳波を表す脳波情報を取得する。本開示でいう「脳波」(Electroencephalogram:EEG)とは、大脳の神経細胞(群)の発する電気信号(活動電位)を体外に導出し、記録した波形を意味する。本開示においては、特に断りが無い限り、大脳皮質の多数のニューロン群(神経網)の総括的な活動電位を対象として、これを体表に装着した電極部11を用いて記録する頭皮上脳波を「脳波」という。
脳波判定システム10は、電極部11を有するヘッドセット1と、情報処理装置2と、を備えている。ヘッドセット1は、対象者5の頭部52の表面(頭皮)に電極部11を接触させた状態で、対象者5の頭部52に装着される。本開示では、電極部11は、頭部52の表面に塗布されたペースト(電極糊)上に載せられることで、頭部52の表面に接触する。このとき、電極部11は、毛髪をかき分けることにより、毛髪を介さずに頭部52の表面に接触する。もちろん、電極部11は、ペーストを塗布することなく、頭部52の表面に直接、接触してもよい。つまり、本開示では、「電極部11を頭部52の表面に接触させる」とは、電極部11を直接、頭部52の表面に接触させることの他、中間物を介して電極部11を間接的に頭部52の表面に接触させることも含む。中間物は、ペーストに限定されず、例えば導電性を有するゲルであってもよい。ヘッドセット1は、電極部11にて対象者5の脳の活動電位を測定することで対象者5の脳波を測定し、脳波を表す脳波情報を生成する。ヘッドセット1は、例えば、無線通信により、脳波情報を情報処理装置2に送信する。情報処理装置2は、ヘッドセット1から取得した脳波情報に対して、種々の処理を施したり、脳波情報を表示したりする。
本実施形態では、脳波判定システム10が、対象者5のリハビリテーションを支援するためのリハビリテーション支援システム100に用いられる場合について説明する。すなわち、リハビリテーション支援システム100は、本実施形態に係る脳波判定システム10を備えている。リハビリテーション支援システム100は、運動補助装置3と、制御装置4と、を更に備えている。運動補助装置3は、対象者5に機械的な刺激と電気的な刺激との少なくとも一方を加えて、対象者5の運動を補助する装置である。制御装置4は、脳波判定システム10にて取得された脳波情報に基づいて、運動補助装置3を制御する。
このリハビリテーション支援システム100は、例えば、脳卒中等の脳疾患又は事故等によって、身体の一部に運動麻痺又は運動機能の低下等が生じた人を対象者5として、運動療法によるリハビリテーションを支援する。このような対象者5においては、対象者5が自己の意思又は意図に基づいて行う運動である随意運動(voluntary movement)が、不能又はその機能の低下により満足にできないことがある。本開示でいう「運動療法」は、対象者5の身体のうち、このような随意運動の不能部位又は機能の低下が生じた部位(以下、「障害部位」という)を運動させることにより、障害部位について随意運動の機能の回復を図る方法を意味する。
本実施形態では、対象者5の左の手指53(左手指)のリハビリテーションに、リハビリテーション支援システム100が用いられる場合を例示する。つまり、この場合の対象者5においては左手指が障害部位である。ただし、この例に限らず、リハビリテーション支援システム100は、例えば、対象者5の右手指のリハビリテーションに用いられてもよい。
リハビリテーション支援システム100は、対象者5が左の手指53による随意運動を行う際に、対象者5の左手に装着された運動補助装置3にて、対象者5の左手に機械的な刺激と電気的な刺激との少なくとも一方を加えて、随意運動を補助する。これにより、例えば、理学療法士又は作業療法士等の医療スタッフが、対象者5の手指53を持って対象者5の随意運動を補助する場合と同様に、リハビリテーション支援システム100にて、随意運動の補助が可能になる。そのため、リハビリテーション支援システム100によれば、医療スタッフが補助する場合と同様に、対象者5が単独で随意運動を行う場合に比べて効果的な、運動療法によるリハビリテーションを実現可能となる。
ところで、上述のようなリハビリテーションを支援するためには、リハビリテーション支援システム100は、対象者5が随意運動を行おうとする場合に、運動補助装置3にて対象者5の随意運動を補助することが望ましい。リハビリテーション支援システム100は、脳波判定システム10にて測定された対象者5の脳波(脳波情報)に、運動補助装置3を連動させることにより、対象者5が随意運動を行おうとする場合に運動補助装置3での随意運動の補助を実現する。言い換えれば、リハビリテーション支援システム100は、脳活動(脳波)を利用して機械(運動補助装置3)を操作する、ブレイン・マシン・インタフェース(Brain-machine Interface:BMI)の技術を利用して、運動療法によるリハビリテーションを実現する。
対象者5が随意運動を行う際には(つまり、対象者5が随意運動を行う過程で)、脳波に特徴的な変化が生じ得る。つまり、対象者5が随意運動を行おうと企図(想起)した際には、随意運動の対象となる部位に対応する脳領域の活性化が起き得る。このような脳領域の例としては、体性感覚運動皮質が挙げられる。このような脳領域の活性化が起こるタイミングに合わせて、運動補助装置3にて対象者5の随意運動を補助すると、より効果的なリハビリテーションが期待できる。このような脳領域の活性化は、脳波の特徴的な変化として検出され得る。そのため、リハビリテーション支援システム100は、対象者5の脳波にこの特徴的な変化が発生するタイミングに合わせて、運動補助装置3にて対象者5の随意運動の補助を実行する。このような脳波の特徴的な変化は、随意運動が実際に行われなくても、対象者5が随意運動を想起(image)した際(つまり運動企図中)に生じ得る。つまり、このような脳波の特徴的な変化は、随意運動が実際に行われなくても、対象者5が随意運動を行おうと企図(想起)したことによって対応する脳領域が活性化すれば、生じ得る。そのため、随意運動が不能な状態の対象者5についても、リハビリテーション支援システム100による随意運動の補助が可能である。
このような構成のリハビリテーション支援システム100によれば、医療スタッフの負担を軽減しながらも、対象者5においては、効果的な、運動療法によるリハビリテーションを実現可能となる。また、リハビリテーション支援システム100によれば、例えば、対象者5の随意運動の補助を行う医療スタッフの熟練度等の人的要因によって随意運動の補助のタイミングがばらつくことがなく、リハビリテーションの効果のばらつきが低減される。特に、リハビリテーション支援システム100では、脳波に特徴的な変化が生じたタイミング(つまり、脳領域が実際に活性化したタイミング)で、対象者5の随意運動を補助することができる。このように、リハビリテーション支援システム100では、脳活動のタイミングに合わせた訓練が可能となるから、正しい脳活動の学習及び定着への貢献が期待できる。特に、脳波に特徴的な変化が起きたかどうかは、対象者5及び医療スタッフだけでは判別が困難である。したがって、リハビリテーション支援システム100を用いることで、対象者5又は医療スタッフだけでは実現が難しい効果的なリハビリテーションが可能となる。
本実施形態では、対象者5がリハビリテーション支援システム100を利用する際に、理学療法士又は作業療法士等の医療スタッフが対象者5に付き添い、リハビリテーション支援システム100の操作等については医療スタッフが行うことと仮定する。ただし、リハビリテーション支援システム100を利用する対象者5に医療スタッフが付き添うことは必須ではなく、例えば、リハビリテーション支援システム100の操作等を対象者5、又は対象者5の家族等が行ってもよい。
ところで、本実施形態に係る脳波判定システム10は、上述したリハビリテーション支援システム100において、対象者5が随意運動を行う際に生じる(つまり、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る)特徴的な変化を含む脳波である検出対象の脳波を検出するために用いられる。詳しくは「(2)リハビリテーション支援システム」の欄で説明するが、脳波判定システム10は、事象関連脱同期(Event-Related Desynchronization:ERD)が生じることで脳波に生じる特定の周波数帯域の強度変化を、特徴的な変化として検出する。本開示でいう「事象関連脱同期」は、随意運動時(随意運動の想起時を含む)に運動野付近で測定される脳波において、特定の周波数帯域のパワーが減少する現象を意味する。本開示でいう、「随意運動時」は、対象者5が随意運動の企図(想起)をしてから随意運動が成功又は失敗するまでの過程を意味する。「事象関連脱同期」は、この随意運動時に、随意運動の企図(想起)をトリガとして、生じ得る。事象関連脱同期によりパワーが減少する周波数帯域は、主としてα波(一例として8Hz以上13Hz未満の周波数帯域)及びβ波(一例として13Hz以上30Hz未満の周波数帯域)である。
ただし、事象関連脱同期によりパワーが減少する周波数帯域、及びパワーの減少量等は、一律ではなく、例えば、対象者5の属性(年齢及び性別等)、障害部位、障害の状態、及び個人差等によってばらつく。そのため、脳波判定システム10の検出対象となる脳波(対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波)は、一律には定まらず、対象者5によって様々な形態をとり得る。そこで、脳波判定システム10は、脳波情報の解析、つまり検出対象となる脳波の検出に用いる判定条件を複数の条件から選択するように構成されている。判定条件は、各種のパラメータを決定するためのキャリブレーション(calibration)処理を実行することによって決定される。
本実施形態に係る脳波判定システム10は、図3に示すように、取得部211と、検出部213と、を備えている。取得部211は、対象者5の頭部52の一部である測定箇所51に配置される電極部11にて採取される脳波を表す脳波情報を取得する(図2参照)。検出部213は、取得部211で取得された脳波情報が判定条件を満たす場合に、特徴的な変化を含む脳波である検出対象の脳波が生じていると判定する。判定条件は、複数の条件から選択される。複数の条件は、第1種条件と第2種条件とを含む。第1種条件は、脳波情報で表される脳波に含まれる単一の周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。第2種条件は、脳波情報で表される脳波に含まれる互いに異なる複数の周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。上述したように、検出対象となる脳波(対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波)は、一律には定まらず、対象者5によって様々な形態をとり得る。脳波判定システム10では、判定条件が一律ではなく、対象者5によって複数の条件から選択される。そして、複数の条件としては、単一の周波数帯域の成分を利用する第1種条件と異なる複数の周波数帯域を利用する第2種条件とが用意されている。そのため、対象者5に応じて適当な判定条件を用いることが可能になる。したがって、本実施形態の脳波判定システム10によれば、脳波の判定精度を向上できる。
(2)リハビリテーション支援システム
以下、本実施形態に係るリハビリテーション支援システム100について更に詳しく説明する。
リハビリテーション支援システム100は、図1に示すように、脳波判定システム10と、運動補助装置3と、制御装置4と、を備えている。
上述したように、本実施形態では、脳波判定システム10は、ヘッドセット1と、情報処理装置2と、を備えている。
ヘッドセット1は、図2に示すように、対象者5の頭部52に装着される。ヘッドセット1は、電極部11を有している。電極部11は、対象者5の頭部52の一部である測定箇所51に配置される。具体的には、ヘッドセット1は、対象者5の頭部52の表面(頭皮)の一部に設定された測定箇所51に電極部11を接触させた状態で、電極部11にて対象者5の脳波を測定し、脳波を表す脳波情報を生成する。
情報処理装置2は、例えば、パーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムを主構成とする。情報処理装置2は、例えば、無線通信により、ヘッドセット1からの脳波情報を受信し、脳波情報に対する種々の処理を実行する。本実施形態では、対象者5が随意運動を行おうと企図(想起)した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波の検出、及びキャリブレーション処理等は、情報処理装置2にて行われる。
対象者5が随意運動を行おうと企図(想起)した際には、通常、身体の随意運動を行う部位に対応する運動野にて、特徴的な変化を含む脳波が発生する。そこで、脳波判定システム10は、リハビリテーションの対象である障害部位に対応する運動野付近から採取される脳波を測定対象とする。ここで、左手指に対応する運動野は右脳にあり、右手指に対応する運動野は左脳にある。そのため、本実施形態のように対象者5の左の手指53をリハビリテーションの対象とする場合には、対象者5の頭部52の右側に接触させた電極部11にて取得される脳波が、脳波判定システム10での測定対象となる。すなわち、電極部11は、図2に示すように、対象者5の頭部52の右側表面の一部からなる測定箇所51上に配置される。一例として、国際10−20法において電極記号「C4」で表される位置に電極部11が配置される。対象者5の右の手指をリハビリテーションの対象とする場合には、対象者5の頭部52の左側表面の一部からなる測定箇所、一例として、国際10−20法において電極記号「C3」で表される位置に電極部11が配置される。
脳波判定システム10は、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波を検出すると、運動補助装置3を制御するための制御信号を出力する。すなわち、リハビリテーション支援システム100では、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波を脳波判定システム10にて検出することをトリガにして、運動補助装置3を制御するための制御信号が発生する。これにより、リハビリテーション支援システム100では、対象者5の随意運動に合わせて、運動補助装置3にて対象者5の随意運動を補助することが可能である。脳波判定システム10について詳しくは「(3)脳波判定システム」の欄で説明する。
運動補助装置3は、対象者5に機械的な刺激と電気的な刺激との少なくとも一方を加えて、対象者5の運動を補助する装置である。本実施形態では、対象者5の左手指のリハビリテーションにリハビリテーション支援システム100が用いられるので、図1に示すように、運動補助装置3は、対象者5の左手に装着される。
本実施形態では、対象者5の左手指による把持動作及び伸展動作のリハビリテーションに、リハビリテーション支援システム100が用いられる場合を例示する。本開示でいう「把持動作」は、物をつかむ動作のことを意味する。また、本開示でいう「伸展動作」は、第1指(親指)を除く4本の手指53(第2指〜第5指)の伸展により、手を開く動作、つまり把持動作によりつかんでいる状態の「物」を放す動作のことを意味する。つまり、この対象者5においては左手指が障害部位であって、リハビリテーション支援システム100は、左手指による把持動作及び伸展動作という随意運動についてのリハビリテーションに用いられる。ただし、実際には、リハビリテーション支援システム100は、対象者5の把持動作を直接的に補助するのではなく、対象者5の手指の伸展動作を補助することで、間接的に把持動作のリハビリテーションを行う。
そのため、リハビリテーション支援システム100では、対象者5が随意運動として伸展動作を行う際に、対象者5の左手に装着された運動補助装置3が、対象者5の左の手指53に機械的な刺激と電気的な刺激との少なくとも一方を加えて、随意運動を補助する。具体的には、運動補助装置3は、図3に示すように、手指駆動装置31と、電気刺激発生装置32と、を有している。
手指駆動装置31は、第1指(親指)を除く4本の手指53(第2指〜第5指)を保持し、これら4本の手指53に機械的な刺激(外力)を与えることによって、4本の手指53を動かす装置である。手指駆動装置31は、例えば、モータ又はソレノイド等の動力源を含み、動力源で発生した力を4本の手指53に伝えることによって、4本の手指53を動かす。手指駆動装置31では、保持した4本の手指53を、第1指から離れる向きに移動(つまり伸展動作)させる「開動作」と、第1指に近づく向きに移動(つまり把持動作)させる「閉動作」と、の2種類の動作が可能である。手指駆動装置31の開動作により対象者5の伸展動作が補助され、手指駆動装置31の閉動作により対象者5の把持動作が補助される。
電気刺激発生装置32は、対象者5の手指53を動かすための部位に、電気的な刺激を与える装置である。ここで、対象者5の手指53を動かすための部位は、対象者5の手指53の筋肉と神経との少なくとも一方に対応する部位を含む。例えば、対象者5の手指53を動かすための部位は、対象者5の腕の一部である。電気刺激発生装置32は、例えば、対象者5の身体(例えば腕)に貼り付けられるパッドを含む。電気刺激発生装置32は、パッドから対象者5の身体に電気的な刺激(電流)を与えることによって、手指53を動かすための部位へ刺激を与える。
制御装置4は、脳波判定システム10にて取得された脳波情報に基づいて、運動補助装置3を制御する。本実施形態では、制御装置4は、脳波判定システム10の情報処理装置2、及び運動補助装置3に対して電気的に接続されている。制御装置4には、運動補助装置3及び制御装置4の動作用電力を供給するための電源ケーブルが接続されている。制御装置4は、運動補助装置3の手指駆動装置31を駆動するための駆動回路、及び電気刺激発生装置32を駆動するための発振回路を含んでいる。制御装置4は、例えば、有線通信により、情報処理装置2から制御信号を受信する。
制御装置4は、情報処理装置2から第1の制御信号を受信すると、駆動回路にて運動補助装置3の手指駆動装置31を駆動し、手指駆動装置31にて「開動作」が行われるように運動補助装置3を制御する。また、制御装置4は、情報処理装置2から第2の制御信号を受信すると、駆動回路にて運動補助装置3の手指駆動装置31を駆動し、手指駆動装置31にて「閉動作」が行われるように運動補助装置3を制御する。また、制御装置4は、情報処理装置2から第3の制御信号を受信すると、発振回路にて運動補助装置3の電気刺激発生装置32を駆動し、対象者5の身体に電気的な刺激が与えられるように運動補助装置3を制御する。
このように、制御装置4は、脳波判定システム10から出力される制御信号に基づいて、運動補助装置3を制御することによって、脳波判定システム10にて取得された脳波情報に基づいて運動補助装置3を制御することが可能である。また、制御装置4は、制御装置4に備えられた操作スイッチの操作に応じて、手指駆動装置31にて「開動作」及び「閉動作」が行われるように運動補助装置3を制御することもできる。
次に、リハビリテーション支援システム100の使用方法について説明する。本実施形態では、対象者5が、ペグ101(図1参照)を左手指でつかんだ姿勢から、手指53の伸展動作によりペグ101を放す際の随意運動(伸展動作)を、リハビリテーション支援システム100にて補助する場合について説明する。
まず、準備過程として、対象者5は、ヘッドセット1を頭部52に装着し、運動補助装置3を左手に装着する。このとき、ヘッドセット1は、少なくとも電極部11を測定箇所51となる対象者5の頭部52の右側表面の一部に接触させるように、対象者5の頭部52に装着される。運動補助装置3は、少なくとも対象者5の左手の第1指(親指)を除く4本の手指53(第2指〜第5指)を保持し、かつパッドを対象者5の腕に貼り付けた状態で、対象者5に装着される。ヘッドセット1及び運動補助装置3は、リハビリテーション中にずれたり外れたりしないように適宜固定される。準備過程では、運動補助装置3の手指駆動装置31にて対象者5の4本の手指53が保持されることにより、対象者5については、ペグ101を左手指でつかんだ姿勢が維持される。ヘッドセット1及び運動補助装置3を対象者5に装着する作業は、対象者5自身が行ってもよいし、医療スタッフが行ってもよい。
準備が完了し、かつヘッドセット1と情報処理装置2とが通信可能な状態になると、ヘッドセット1にて生成された脳波情報が、情報処理装置2にて取得可能となる。つまり、脳波判定システム10は、情報処理装置2にて、対象者5の頭部52の一部である測定箇所51に配置される電極部11にて採取される脳波を表す脳波情報を取得することができる。詳しくは「(3)脳波判定システム」の欄で説明するが、情報処理装置2は、取得した脳波情報を時系列に沿ってメモリ22(図3参照)に記憶(蓄積)する。さらに、情報処理装置2は、例えば、記憶した脳波情報について時間周波数解析(Time Frequency Analysis)を行うことにより、脳波のパワースペクトルを生成する。脳波判定システム10は、情報処理装置2にて、パワースペクトルのデータを常時監視することにより、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波の検出が可能となる。
ここで、対象者5がリハビリテーションを開始する前に、脳波判定システム10は、検出対象となる脳波の検出に用いる各種のパラメータを決定するためのキャリブレーション処理を実行する。これにより、脳波判定システム10は、事象関連脱同期によりパワーが減少する周波数帯域、及びパワーの減少量等の対象者5ごとのばらつきを加味して、検出対象となる脳波の検出精度(判定精度)の向上を図ることができる。キャリブレーション処理について詳しくは「(3)脳波判定システム」の欄で説明する。
キャリブレーション処理を含む準備過程の完了後、リハビリテーション支援システム100は、対象者5のリハビリテーションを支援する訓練過程を開始する。訓練過程においては、訓練時間中に脳波判定システム10で測定される脳波に基づいて、対象者5のリハビリテーションが支援される。具体的には、訓練時間は安静期間と運動期間とに2分されており、対象者5は、安静期間及び運動期間の各々において、リハビリテーション支援システム100の指示に従ってリハビリテーションを実施する。本実施形態では一例として、訓練時間は「10秒間」であって、訓練時間を2等分した場合の前半の「5秒間」が安静期間、後半の「5秒間」が運動期間であると仮定する。
安静期間においては、対象者5は、身体を安静状態とし、つまり随意運動を行おうと企図(想起)せず、リラックスした状態を維持する。このとき、脳波判定システム10では、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る事象関連脱同期による特徴的な変化を含む脳波は検出されない。
一方、運動期間においては、対象者5は、手指53の伸展動作、つまり随意運動を行おうと企図(想起)する。このとき、脳波判定システム10では、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る事象関連脱同期による特徴的な変化を含む脳波が検出され得る。本実施形態では脳波の、特徴的な変化を、活性化レベルと閾値とを比較し、活性化レベルが閾値を超えるか否かによって検出する。本開示でいう「活性化レベル」は、特定の周波数帯域のパワー(パワースペクトル)の減少量を表す値である。事象関連脱同期が生じて特定の周波数帯域のパワーが減少することで、活性化レベルが閾値を超えるため、脳波判定システム10は、活性化レベルが閾値を超えることをもって、脳波の特徴的な変化を検出する。
脳波判定システム10では、このような特徴的な変化を含む脳波を検出することをトリガにして、運動補助装置3を制御するための制御信号が発生する。そのため、リハビリテーション支援システム100では、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に、随意運動の対象となる部位に対応する脳領域の活性化が実際に起きたタイミングに合わせて、運動補助装置3にて対象者5の随意運動を補助することが可能である。
訓練過程における脳波判定システム10の動作について詳しくは「(3)脳波判定システム」の欄で説明する。
(3)脳波判定システム
(3.1)構成
以下、本実施形態に係る脳波判定システム10について更に詳しく説明する。
脳波判定システム10は、図3に示すように、対象者5の頭部52に装着されるヘッドセット1と、パーソナルコンピュータ等のコンピュータシステムを主構成とする情報処理装置2と、を備えている。
ヘッドセット1は、電極部11と、信号処理部12と、第1通信部13と、を有している。ヘッドセット1は、例えば、電池駆動式であって、信号処理部12及び第1通信部13等の動作用電力が電池から供給される。
電極部11は、対象者5の脳波(脳波信号)を採取するための電極であって、例えば、銀−塩化銀電極である。電極部11は金、銀、白金等でもよい。電極部11は、第1電極111と、第2電極112と、を有している。本実施形態では、図2に示すように、対象者5の頭部52の表面に設定された測定箇所51は、第1測定箇所511及び第2測定箇所512を含んでいる。第1電極111は、第1測定箇所511に対応する電極であって、第1測定箇所511上に配置される。第2電極112は、第2測定箇所512に対応する電極であって、第2測定箇所512上に配置される。具体的には、第1測定箇所511及び第2測定箇所512は、頭部52の正中中心部と右耳とを結ぶ線上に、正中中心部側(上側)から第1測定箇所511、第2測定箇所512の順に並んで配置されている。
また、本実施形態では、ヘッドセット1は、参照電極113と、アース電極114と、を更に備えている。参照電極113は、第1電極111及び第2電極112の各々で測定される脳波信号の基準電位を測定するための電極である。参照電極113は、頭部52における右耳又は左耳のいずれかの後方位置に配置される。具体的には、参照電極113は、頭部52において第1電極111及び第2電極112が配置されている側の耳の後方位置に配置される。本実施形態では、第1電極111及び第2電極112は、頭部52の右側表面に配置されているので、参照電極113は、右耳の後方位置に配置される。アース電極114は、頭部52における右耳又は左耳のうち参照電極113が配置されていない方の耳の後方位置に配置される。本実施形態では、参照電極113が右耳の後方位置に配置されるので、アース電極114は、左耳の後方位置に配置される。参照電極113及びアース電極114の各々は、ヘッドセット1の本体15に対して電線16(図2参照)にて電気的に接続されており、頭部52の表面(頭皮)に貼り付けられる。なお、参照電極113及びアース電極114を配置する位置は、上述したような耳の後方位置ではなく、耳たぶであってもよい。耳の後方位置及び耳たぶは、頭部において脳活動由来の生体電位の影響を受けにくい場所である。つまり、参照電極113及びアース電極114は、頭部において脳活動由来の生体電位の影響を受けにくい場所に配置されることが好ましい。
信号処理部12は、電極部11、参照電極113及びアース電極114に電気的に接続されており、電極部11から入力される脳波信号(電気信号)に対して信号処理を実行し、脳波情報を生成する。つまり、ヘッドセット1は、電極部11にて対象者5の脳の活動電位を測定することで対象者5の脳波を測定し、信号処理部12にて脳波を表す脳波情報を生成する。信号処理部12は、少なくとも脳波信号を増幅する増幅器、及びA/D変換するA/D変換器を含んでおり、増幅後のディジタル形式の脳波信号を、脳波情報として出力する。
第1通信部13は、情報処理装置2との通信機能を有している。第1通信部13は、少なくとも信号処理部12で生成された脳波情報を情報処理装置2に送信する。本実施形態では、第1通信部13は、情報処理装置2と双方向に通信可能である。第1通信部13の通信方式は、例えば、Bluetooth(登録商標)等に準拠した無線通信である。第1通信部13からは、随時、脳波情報が情報処理装置2に送信されている。
情報処理装置2は、プロセッサ21と、メモリ22と、を含むコンピュータシステムを主構成とする。情報処理装置2は、第2通信部23と、操作部24と、第3通信部25と、表示部26と、を更に有している。
第2通信部23は、ヘッドセット1(第1通信部13)との通信機能を有している。第2通信部23は、少なくとも脳波情報をヘッドセット1から受信する。本実施形態では、第2通信部23は、ヘッドセット1と双方向に通信可能である。第2通信部23は、例えば、一例として、200Hz程度のサンプリング周波数でサンプリングされた脳波情報を、ヘッドセット1から随時受信する。
第3通信部25は、制御装置4との通信機能を有している。第3通信部25は、少なくとも制御信号を制御装置4に送信する。第3通信部25の通信方式は、例えば、USB(Universal Serial Bus)に準拠した有線通信である。
本実施形態では、情報処理装置2は、タッチパネルディスプレイを搭載しており、タッチパネルディスプレイが操作部24及び表示部26として機能する。そのため、情報処理装置2は、表示部26に表示される各画面上でのボタン等のオブジェクトの操作(タップ、スワイプ、ドラッグ等)が操作部24で検出されることをもって、ボタン等のオブジェクトが操作されたことと判断する。つまり、操作部24及び表示部26は、各種の表示に加えて、対象者5又は医療スタッフからの操作入力を受け付けるユーザインタフェースとして機能する。ただし、操作部24は、タッチパネルディスプレイに限らず、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、又はメカニカルなスイッチ等であってもよい。
プロセッサ21は、取得部211、解析部212、検出部213、処理部214、及び入力部215の機能を有している。メモリ22に記録されているプログラムをプロセッサ21が実行することによって、取得部211、解析部212、検出部213、処理部214、及び入力部215の機能が実現される。
取得部211は、対象者5の頭部52の一部である測定箇所51に配置される電極部11にて採取される脳波を表す脳波情報を取得する。すなわち、取得部211は、ヘッドセット1の電極部11にて採取される脳波を表す脳波情報を、第2通信部23を介してヘッドセット1から取得する。ここで、取得部211は、第1電極111にて採取される脳波を表す第1脳波情報及び第2電極112にて採取される脳波を表す第2脳波情報をそれぞれ取得する。つまり、本実施形態では、電極部11が第1電極111及び第2電極112を含んでいるので、取得部211では、第1電極111で採取される脳波情報を第1脳波情報、第2電極112で採取される脳波情報を第2脳波情報として区別する。本実施形態では、取得部211はディジタル形式の脳波情報を取得し、取得した脳波情報をメモリ22に記憶する。このとき、メモリ22には、訓練時間の開始から終了までの間に脳波判定システム10で測定された脳波情報の時系列データが記憶される。
解析部212は、取得部211で取得された脳波情報の解析を行う。解析部212は、メモリ22に記憶されている脳波情報の周波数解析を行い、周波数帯域ごとの信号強度を示すスペクトルデータを生成する。具体的には、解析部212は、メモリ22に記憶されている脳波情報を所定時間分だけ読み出して、例えば、短時間フーリエ変換(short-time Fourier transform:STFT)等の周波数解析を行う。これにより、時間経過に伴って変化する脳波信号について、周波数帯域ごとのパワーが算出される。本開示でいう「パワー」は、周波数帯域ごとの強度(スペクトル強度)の積算値である。
検出部213は、取得部211で取得された脳波情報が判定条件を満たす場合に、特徴的な変化を含む脳波である検出対象の脳波が生じていると判定する。判定条件は、複数の条件から選択される。本実施形態において、複数の条件は、第1〜第4の検出条件を含んでいる。第1検出条件は、互いに異なる第1及び第2周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波を検出する条件である。第2検出条件は、第2周波数帯域ではなく第1周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波を検出する条件である。第3検出条件は、第1周波数帯域ではなく第2周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波を検出する条件である。第4検出条件は、予め選択された2つの周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波を検出する条件である。この場合、複数の条件のいずれかが対象者に適した判定条件となる可能性が高くなる。
第1周波数帯域は、α波の周波数帯域であり、一例としては、8Hz以上13Hz未満の周波数帯域である。第2周波数帯域は、β波の周波数帯域であり、一例としては、13Hz以上30Hz未満の周波数帯域である。本実施形態において、第1検出条件は、α波とβ波との両方を用いる条件であり、第2検出条件は、α波のみを用いる条件であり、第3検出条件は、β波のみを用いる条件である。これにより、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波の判定精度が向上する。
第4検出条件の2つの周波数帯域は、健常者の脳波に基づいて選択されており、例えば、α波の周波数帯域に含まれる第1帯域(例えば8以上10Hz未満)と、β波の周波数帯域に含まれる第2帯域(例えば14Hz以上16Hz未満)とである。第4検出条件の第1帯域及び第2帯域は、対象者5の脳波とは関係なく設定されている。第4検出条件は、デフォルト条件であるといえる。第4検出条件を用いれば、健常者の基準での脳波の判定精度が向上する。本開示でいう、「健常者」とは、脳卒中等の脳疾患又は事故等によって、身体の一部に運動麻痺又は運動機能の低下等が生じていない人をいう。
このような複数の条件は、第1種〜第3種条件を含んでいる。第1種条件は、脳波情報で表される脳波に含まれる単一の周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。第2種条件は、脳波情報で表される脳波に含まれる互いに異なる複数の周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。第3種条件は、健常者の脳波に基づいて選択された1以上の周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波を検出する条件である。本実施形態の場合、第2検出条件及び第3検出条件が第1種条件に該当し、第1検出条件が第2種条件に該当する。また、第4検出条件は第3種条件に該当する。なお、第3種条件は、選択される周波数帯域の数によって、第1種条件と第2種条件とのいずれかに該当し得る。
検出部213は、取得部211で取得された脳波情報として、解析部212で解析された周波数帯域ごとのパワーを利用する。つまり、検出部213は、解析部212で解析された周波数帯域ごとのパワーに基づいて、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波を検出する。具体的には、検出部213は、特定の周波数帯域のパワーが安静範囲と運動範囲とのいずれにあるかによって、特徴的な変化を含む脳波の有無を判断する。本開示でいう「安静範囲」は、対象者5が、身体を安静状態とし、つまり随意運動を行おうとする企図(想起)を行わず、リラックスした状態を維持しているときの、対象者5の脳波の特定の周波数帯域のパワーがとり得る範囲を意味する。換言すれば、安静範囲は、対象者5が身体を安静状態としているときの対象者5の脳波の第1及び第2周波数帯域の成分がとり得る範囲であるといえる。本開示でいう「運動範囲」は、対象者5が随意運動を行おうと企図した場合に脳波の特定の周波数帯域のパワーがとり得る範囲を意味する。換言すれば、運動範囲は、対象者5が随意運動を行おうと企図した場合に対象者5の脳波の第1及び第2周波数帯域の成分がとり得る範囲であるといえる。そして、検出部213は、特定の周波数帯域のパワーが安静範囲から運動範囲へ遷移したことをもって、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波が発生したと判断する。換言すれば、検出部213は、第1検出条件では、第1及び第2周波数帯域の成分が安静範囲から運動範囲へ遷移したことをもって、検出対象の脳波が生していると判断する。
更に詳しく説明すると、本実施形態では一例として、検出部213は、解析部212で解析された周波数帯域ごとのパワーから、まず特定の周波数帯域のパワーの減少量を表す活性化レベルを算出する。そして、検出部213は、算出された活性化レベルを、メモリ22に記憶されている閾値と比較し、活性化レベルが閾値を超えることをもって、脳波の特徴的な変化が生じたと判断する。すなわち、活性化レベルに対する閾値は、特定の周波数帯域のパワーを表すグラフ(図4参照)において、安静範囲A1と運動範囲A2との境界線(直線Lth1)に相当する値である。そのため、事象関連脱同期が生じて特定の周波数帯域のパワーが減少し、特定の周波数帯域のパワーが安静範囲A1から運動範囲A2へ遷移したときに、活性化レベルが閾値を超えることになる。図4は、第1周波数帯域(α波の周波数帯域)と第2周波数帯域(β波の周波数帯域)との2つの周波数帯域が特定の周波数帯域として選択されている場合(第1検出条件又は第4検出条件が選択された場合)に対応する。図5A及び図5Bは、特定の周波数帯域のパワーを表す数直線を示す。図5Aは、第1周波数帯域(α波の周波数帯域)が特定の周波数帯域として選択されている場合(第2検出条件)に対応する。この場合、活性化レベルに対する閾値は、安静範囲A1と運動範囲A2との境界(点Th1)に相当する。図5Bは、第2周波数帯域(β波の周波数帯域)が特定の周波数帯域として選択されている場合(第3検出条件)に対応する。この場合、活性化レベルに対する閾値は、安静範囲A1と運動範囲A2との境界(点Th2)に相当する。詳しくは「(3.2)キャリブレーション処理」の欄で説明するが、閾値は、キャリブレーション処理にて設定される。
処理部214は、脳波情報の解析に用いるパラメータを決定するためのキャリブレーション処理を実行する。つまり、処理部214では、少なくとも活性化レベルに対する閾値を含む各種のパラメータを決定するためのキャリブレーション処理が実行される。本実施形態において、キャリブレーション処理は、取得部211で取得された脳波情報に基づいて、判定条件を複数の条件から選択する選択処理を含む。つまり、検出部213で利用される判定条件は処理部214によって決定される。そのため、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。処理部214によるキャリブレーション処理は、訓練過程に先駆けて実行される。処理部214は、キャリブレーション処理で決定された各種のパラメータを、メモリ22に記憶する。
入力部215は、取得部211で取得された複数の脳波情報の中からキャリブレーション処理に使用される1以上の脳波情報を指定する指定信号を、操作部24より受け付ける。すなわち、メモリ22は、取得部211が取得した複数の脳波情報を記憶可能である。キャリブレーション処理では、これら複数の脳波情報のうち、指定信号にて指定される1以上の脳波情報が使用される。言い換えれば、入力部215が操作部24より受け付ける指定信号は、メモリ22に記憶されている複数の脳波情報の中から、キャリブレーション処理に使用される1以上の脳波情報を指定するための信号である。
(3.2)キャリブレーション処理
次に、訓練課程に先駆けて準備過程において実行されるキャリブレーション処理時における、脳波判定システム10の動作について詳しく説明する。
(3.2.1)処理の概要
キャリブレーション処理は、リハビリテーション支援システム100の動作モードがキャリブレーションモードであるときに行われる。キャリブレーション処理は、少なくとも活性化レベルに対する閾値を含む、各種のパラメータを決定するための処理である。本実施形態では、キャリブレーション処理は、複数の条件から判定条件を選択する選択処理を含み、判定条件に応じて活性化レベルに対する閾値が決定される。上述したように、事象関連脱同期によりパワーが減少する周波数帯域、及びパワーの減少量等は、例えば、対象者5の属性(年齢及び性別等)、障害部位、障害の状態、及び個人差等によってばらつく。そこで、脳波判定システム10では、検出対象となる脳波の検出精度(判定精度)を高めるために、キャリブレーション処理にて、判定条件及び脳波情報の解析に用いる各種のパラメータを対象者5ごとに決定する。
キャリブレーション処理は、脳波判定システム10にて、訓練課程と同様の手順で実際に対象者5の脳波を測定する測定処理と、測定された脳波に基づいて、この対象者5に合わせた各種のパラメータが決定される算出処理と、を含む。また、上述したように、キャリブレーション処理は、選択処理を含む。
測定処理においては、訓練時間と同様、安静期間と運動期間とに2分されたキャリブレーション時間が設定され、このキャリブレーション時間に、脳波判定システム10にて脳波が測定される。対象者5は、キャリブレーション時間における安静期間及び運動期間の各々において、リハビリテーション支援システム100の指示に従ってリハビリテーションを実施する。本実施形態では一例として、キャリブレーション時間は「10秒間」であって、キャリブレーション時間を2等分した場合の前半の「5秒間」が安静期間、後半の「5秒間」が運動期間であると仮定する。
すなわち、安静期間においては、対象者5は、身体を安静状態とし、つまり随意運動を行おうとする企図(想起)を行わず、リラックスした状態を維持する。一方、運動期間においては、対象者5は、手指53の伸展動作、つまり随意運動を行おうとする企図(想起)を行う。脳波判定システム10は、これら安静期間及び運動期間の両方において、対象者5の脳波を測定する。脳波判定システム10は、キャリブレーション時間(安静期間及び運動期間)中に測定された脳波情報を、レコードとしてメモリ22に記憶する。つまり、本開示でいう「レコード」は、測定処理において、キャリブレーション時間の開始から終了までの間に脳波判定システム10で測定された脳波情報の時系列データである。ただし、測定処理のキャリブレーション時間においては、訓練課程とは異なり、脳波判定システム10は、脳波の特徴的な変化を検出する処理を行わない。
ここで、脳波判定システム10は、キャリブレーション処理において、上述した測定処理を複数回行うことができる。メモリ22は、所定数(一例として「30」)を上限として、複数のレコードを記憶することが可能である。これにより、1ないし複数回の測定処理の終了時点において、メモリ22には、安静期間及び運動期間における対象者5の脳波を表す、1ないし複数のレコードが記憶される。
選択処理では、取得部211で取得された脳波情報に基づいて、判定条件を複数の条件(第1〜第4検出条件)から選択する。以下、選択処理の一例について図6のフローチャートを参照して説明する。なお、図6のフローチャートは一例である。例えばステップS12はステップS11より先に行われてもよいし、同時に行われてもよい。また、ステップS13、S14、及びS17の順番も入れ替え可能である。
選択処理では、まず、脳波情報を取得する(ステップS10)。より詳細には、1ないし複数回の測定処理にてメモリ22に記憶された1ないし複数のレコードを取得する。次に、α波変化率の計算(ステップS11)及びβ波変化率の計算(ステップS12)を行う。
ステップS11では、解析部212で解析された周波数帯域ごとのパワーに基づいて、α波変化率(つまり、第1周波数帯域の成分の変化率)を計算する。例えば、解析部212では、α波の周波数帯域(一例として、8Hz以上13Hz未満)に含まれる複数の範囲ごとに、安静期間のパワーと運動期間のパワーとを求める。ここで、複数の範囲は、α波の周波数帯域を更に区分した周波数帯域である。複数の範囲、例えば、8+n[Hz]を中心とする2[Hz]の範囲である。ここで、nは1以上3以下の値である。処理部214は、複数の範囲ごとに、安静期間のパワーと運動期間のパワーとからα波変化率を算出する。例えば、α波変化率は、(Pa2−Pa1)/Pa1×100[%]で与えられる。ここで、Pa1は安静期間のパワーであり、Pa2は運動期間のパワーである。そして、複数の範囲それぞれのα波変化率のうち絶対値が最も大きい値が、判定条件の決定に使用される。また、複数の範囲のうちα波変化率の絶対値が最大となる範囲が、対象者5のα波の周波数帯域として選択される。
ステップS12では、解析部212で解析された周波数帯域ごとのパワーに基づいて、β波変化率(つまり、第2周波数帯域の成分の変化率)を計算する。例えば、解析部212では、β波の周波数帯域(一例として、13Hz以上30Hz未満)に含まれる複数の範囲ごとに、安静期間のパワーと運動期間のパワーとを求める。ここで、複数の範囲は、β波の周波数帯域を更に区分した周波数帯域である。複数の範囲は、例えば、13+m[Hz]を中心とする2[Hz]の範囲である。ここで、mは1以上15以下の値である。処理部214は、複数の範囲ごとに、安静期間のパワーと運動期間のパワーとからβ波変化率を算出する。例えば、β波変化率は、(Pb2−Pb1)/Pb1×100[%]で与えられる。ここで、Pb1は安静期間のパワーであり、Pb2は運動期間のパワーである。そして、複数の範囲それぞれのβ波変化率のうち絶対値が最も大きい値が、判定条件の決定に使用される。また、複数の範囲のうちβ波変化率の絶対値が最大となる範囲が、対象者5のβ波の周波数帯域として選択される。
α波変化率の計算(ステップS11)及びβ波変化率の計算(ステップS12)が終了すると、α波変化率が−5%未満であるかどうかが判定される(ステップS13)。α波変化率が−5%未満であれば(S13;Yes)、ステップS14へ進み、α波変化率が−5%以上であれば(S13;No)、ステップS15へ進む。ここで、−5%の値は、α波の周波数帯域に有意な変化があったかどうかを判定するための値(α波判定値)である。α波判定値は−5%に限定されず、変更されてもよい。
ステップS14及びステップS15のいずれにおいても、β波変化率が−5%未満であるかどうかが判定される。ステップS14においてβ波変化率が−5%未満であれば(S14;Yes)、ステップS16へ進み、β波変化率が−5%以上であれば(S14;No)、ステップS17へ進む。一方、ステップS15においてβ波変化率が−5%未満であれば(S15;Yes)、ステップS18へ進み、β波変化率が−5%以上であれば(S15;No)、ステップS19へ進む。ステップS14及びステップS15において、−5%の値は、β波の周波数帯域に有意な変化があったかどうかを判定するための値(β波判定値)である。β波判定値は−5%に限定されず、変更されてもよい。
ステップS16では、第1検出条件が判定条件として選択される。つまり、α波とβ波との両方を用いる条件が選択される。これは、α波の周波数帯域とβ波の周波数帯域との両方に有意な変化が認められたからである。ステップS17では、第2検出条件が判定条件として選択される。つまり、α波のみを用いる条件が選択される。これは、α波の周波数帯域のみに有意な変化が認められたからである。ステップS18では、第3検出条件が判定条件として選択される。つまり、β波のみを用いる条件が選択される。これは、β波の周波数帯域のみに有意な変化が認められたからである。ステップS19では、第4検出条件が判定条件として選択される。つまり、対象者5の脳波とは関係なく健常者の脳波に基づいて周波数帯域が選択されているデフォルト条件が選択される。これは、対象者5の脳波情報においてα波の周波数帯域とβ波の周波数帯域とのいずれにも有意な変化が認められなかったからである。
このように、選択処理では、取得部211で取得された脳波情報に基づいて、複数の条件(第1〜第4検出条件)から、対象者5に適した条件が判定条件として選択される。
算出処理においては、1ないし複数回の測定処理にてメモリ22に記憶された1ないし複数のレコードを用いて、対象者5に合わせた各種のパラメータを決定する。具体的には、脳波判定システム10は、随時、取得部211で取得された脳波情報を解析部212にて解析し、解析部212で解析された周波数帯域ごとのパワーに基づいて、各種のパラメータを決定する。このとき決定されるパラメータには、少なくとも活性化レベルに対する閾値、並びにα波及びβ波の各々の周波数帯域等が含まれている。
以下に、活性化レベルに対する閾値の決定方法について、図4、図5A、図5B、及び図7を参照して簡単に説明する。
図4は、複数(ここでは一例として5つ)のレコードについて、α波及びβ波の2つの周波数帯域に着目した場合(第1検出条件が判定条件として選択された場合)の、安静期間及び運動期間の各々についてのパワーをプロットしたグラフである。図4では、横軸をα波のパワー、縦軸をβ波のパワーとし、安静期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「○」印で示し、運動期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「×」印で示している。図4では、対象者5におけるα波及びβ波の各々の周波数帯域が既に決定された状態を想定している。
すなわち、図4において、α波及びβ波の2つの周波数帯域について、「○」印が存在する範囲が安静範囲A1であって、「×」印が存在する範囲が運動範囲A2に相当する。上述したように、脳波判定システム10は、特定の周波数帯域のパワーが安静範囲から運動範囲へ遷移したことをもって、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波が発生したと判断する。そのため、図4における安静範囲A1と運動範囲A2との境界線(直線Lth1)が、活性化レベルに対する閾値に相当する。
図5Aは、複数(ここでは一例として4つ)のレコードについて、α波の周波数帯域に着目した場合(第2検出条件が判定条件として選択された場合)の、安静期間及び運動期間の各々についてのパワーをプロットした数直線である。図5Aでは、安静期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「○」印で示し、運動期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「×」印で示している。図5Aでは、対象者5におけるα波の周波数帯域が既に決定された状態を想定している。すなわち、図5Aにおいて、α波の周波数帯域について、「○」印が存在する範囲が安静範囲A1であって、「×」印が存在する範囲が運動範囲A2に相当する。そのため、図5Aにおける安静範囲A1と運動範囲A2との境界(点Th1)が、活性化レベルに対する閾値に相当する。
図5Bは、複数(ここでは一例として4つ)のレコードについて、β波の周波数帯域に着目した場合(第3検出条件が判定条件として選択された場合)の、安静期間及び運動期間の各々についてのパワーをプロットした数直線である。図5Bでは、安静期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「○」印で示し、運動期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「×」印で示している。図5Bでは、対象者5におけるβ波の周波数帯域が既に決定された状態を想定している。すなわち、図5Bにおいて、β波の周波数帯域について、「○」印が存在する範囲が安静範囲A1であって、「×」印が存在する範囲が運動範囲A2に相当する。そのため、図5Bにおける安静範囲A1と運動範囲A2との境界(点Th2)が、活性化レベルに対する閾値に相当する。
このように、活性化レベルに対する閾値は、測定処理において測定された1ないし複数のレコードに基づいて決定可能である。
キャリブレーション処理にて決定された各種のパラメータは、メモリ22に記憶される。その後の訓練課程において、リハビリテーション支援システム100は、キャリブレーション処理で決定された各種のパラメータを使用する。
閾値の決定方法は、上述した方法に限らず、例えば、線形判別分析(Linear Discriminant Analysis:LDA)又はサポートベクターマシン(Support Vector Machine:SVM)といった様々な方法を適用可能である。
図7は、図4と同様に、複数(ここでは一例として5つ)のレコードについて、α波及びβ波の2つの周波数帯域に着目した場合(第1検出条件が判定条件として選択された場合)の、安静期間及び運動期間の各々についてのパワーをプロットしたグラフである。図7では、横軸をα波のパワー、縦軸をβ波のパワーとし、安静期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「○」印で示し、運動期間におけるパワーの代表値(例えば、平均値)を「×」印で示している。図7では、対象者5におけるα波及びβ波の各々の周波数帯域が既に決定された状態を想定している。
図7において、α波及びβ波の2つの周波数帯域について、「○」印が存在する範囲が安静範囲A3であって、「×」印が存在する範囲が運動範囲A4に相当する。上述したように、脳波判定システム10は、特定の周波数帯域のパワーが安静範囲から運動範囲へ遷移したことをもって、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波が発生したと判断する。そのため、図7における安静範囲A3と運動範囲A4との境界線(直線Lth2)が、活性化レベルに対する閾値に相当する。
キャリブレーションを実施した場合にキャリブレーション用レコード(「○」印、「×」印)の分布によっては、安静範囲と運動範囲との境界線の傾きが0又は正になる場合がある。図7では、境界線の傾きが正になった場合を示している。α波及びβ波のパワーのプロットが安静範囲A3から運動範囲A4に遷移した場合には、α波及びβ波のパワーはそれぞれ減少している。一方で、運動意図は、α波のパワーが減少し、β波のパワーが増加した際に検出されやすいことが確認されている(図4参照)。これらの点を考慮すると、境界線の傾きが負ではなく0又は正になっている場合には、運動意図の表出と関連する事象関連脱同期(ERD)現象と反する基準が設定されているとも考えることができる。このため、境界線の傾きが0又は正の場合には、健常者で観測される一般的な境界線(デフォルト条件)を設定することが望ましい。
以上の点から、処理部214は、選択処理では、取得部211で取得された脳波情報に含まれる互いに異なる第1及び第2周波数帯域の成分に基づいて、判定条件を複数の条件から選択してよい。特に、処理部214は、選択処理では、第1及び第2周波数帯域の成分に関する安静範囲と運動範囲との境界線の傾きに基づいて、判定条件を複数の条件から選択してよい。より詳細には、処理部214は、境界線の傾きが負であれば(図4の境界線Lth1参照)、第1検出条件を選択するとよい。一方、処理部214は、境界線の傾きが0又は正であれば(図7の境界線Lth2参照)、第3種条件(第4検出条件)を選択するとよい。
(3.2.2)画面の説明
次に、キャリブレーション処理に際して、情報処理装置2の表示部26に表示される画面について、情報処理装置2の表示部26に表示される画面を表す図8〜図10を参照して説明する。図8〜図10の例において、領域を示す一点鎖線及び参照符号は説明のために表記しているに過ぎず、実際には、これらの一点鎖線及び参照符号は表示部26に表示されない。
すなわち、キャリブレーション処理において、まず測定処理中には、情報処理装置2の表示部26に、例えば、図8に示すような、キャリブレーション画面202が表示される。測定処理が終了すると、情報処理装置2の表示部26には、例えば、図9に示すような、選択画面203が表示される。選択画面203では、算出処理に使用されるレコードが選択される。算出処理が終了すると、情報処理装置2の表示部26には、例えば、図10に示すような、キャリブレーション結果画面204が表示される。
キャリブレーション画面202は、図8に示すように、訓練画面200と同様の活性化レベル表示領域G1、脳波表示領域G2、回数表示領域G5、感知状態表示領域G6、機器状態表示領域G7、ステータス表示領域G8及び終了ボタンG9を含んでいる。さらに、キャリブレーション画面202は、訓練画面200と同様の操作ガイド領域G10及びチェックボックスG11に加えて、測定開始ボタンG31、移行ボタンG32及び戻るボタンG33を含んでいる。キャリブレーション画面202の活性化レベル表示領域G1は、基本的には訓練画面200と同じであるが、α波とβ波との各々のグラフが表示される点で、訓練画面200と相違する。また、キャリブレーション画面202の回数表示領域G5は、基本的には訓練画面200と同じであるが、「成功回数」が表示されない点で、訓練画面200と相違する。
キャリブレーション画面202の活性化レベル表示領域G1には、α波についての活性化レベルのグラフと、β波についての活性化レベルのグラフとが同時に表示される。ただし、α波のグラフとβ波のグラフとが区別可能なように、α波のグラフとβ波のグラフとでは表示態様(例えば、表示色)が異なる。また、キャリブレーション処理においては、活性化レベルに対する閾値が未設定であるため、活性化レベル表示領域G1には、閾値(設定値)を表す直線L1が表示されず、活性化レベルのグラフの上方の判定マークM1も表示されない。活性化レベルのグラフの背景色は、キャリブレーション時間の前半の安静期間(0〜5秒の期間)と、キャリブレーション時間の後半の運動期間(5〜10秒の期間)と、で異なることが好ましい。
測定開始ボタンG31は、測定処理を開始するためのボタンである。測定開始ボタンG31がタップされることで、脳波判定システム10での脳波の測定が開始する。
移行ボタンG32は、算出処理に移行するためのボタンである。移行ボタンG32がタップされることで、脳波判定システム10は測定処理を終了し、情報処理装置2の表示部26に表示される画面が、キャリブレーション画面202から選択画面203(図9参照)に遷移する。
戻るボタンG33は、脳波判定システム10をキャリブレーション処理の開始前の状態に戻すためのボタンである。戻るボタンG33がタップされることで、脳波判定システム10は、キャリブレーション処理を終了し、キャリブレーション処理の開始前の状態に復帰する。
選択画面203は、図9に示すように、レコード表示領域G41、操作ガイド領域G42、追試行ボタンG43、選択数表示領域G44及び計算ボタンG45を含んでいる。
レコード表示領域G41は、レコードとしてメモリ22に記憶された脳波を表示するための領域である。ここで、レコード表示領域G41における脳波のグラフは、脳波表示領域G2と同様に、横軸を時間(秒)、縦軸を電位として、脳波の時間変化を表す波形を表示する。図9の例では、メモリ22に記憶されている複数(ここでは2つ)のレコードについて、脳波が上下方向に並べて表示されている。さらに、レコード表示領域G41において、各レコードの脳波の右方には、レコードに対応付けてチェックボックスG411が表示されている。チェックボックスG411は、算出処理に用いるレコードを選択するためのアイコンである。チェックボックスG411がタップされることで、対応するレコードが算出処理に用いられる状態と、用いられない状態とが交互に切り替わる。チェックボックスG411の表示がアクティブになっている状態では、対応するレコードが算出処理に用いられる。
ここにおいて、レコード表示領域G41に表示されているレコードの数が多く、一覧表示できない場合には、レコード表示領域G41に表示されているレコードが上下方向へスクロール可能である。その結果、レコード表示領域G41には、レコード表示領域G41に一覧表示可能な数を超えて、多数のレコードを表示可能となる。
このとき、入力部215では、対象者5又は医療スタッフが、チェックボックスG411にて選択したレコードを表す指定信号を、操作部24より受け付けることになる。つまり、対象者5又は医療スタッフが、チェックボックスG411にて算出処理に用いるレコードを選択することにより、取得部211で取得された複数の脳波情報の中からキャリブレーション処理(算出処理)に使用される1以上の脳波情報が指定される。
操作ガイド領域G42は、脳波判定システム10の操作をガイドするテキスト情報を表示するための領域である。図9の例では、「分析に使用する波形を選択してください。2つ以上選択し、”計算”を押すとここに計算結果が表示されます。選択をはずした波形はやり直すことができます。やり直したい場合は”追試行”を押してください。」というテキスト情報が表示されている。操作ガイド領域G42の表示内容は、脳波判定システム10の動作状態に応じて変化する。
追試行ボタンG43は、追試行を開始するためのボタンである。本開示でいう「追試行」は、測定処理を再度行うことによりレコードを追加する処理である。追試行ボタンG43がタップされることで、選択画面203からキャリブレーション画面202に遷移する。
選択数表示領域G44は、選択画面203において選択されたレコード(波形)の数を表示するための領域である。具体的には、レコード表示領域G41に表示されているレコードの数(つまり、メモリ22に記憶されているレコードの数)を分母とし、算出処理に用いるレコードとして選択されているレコードの数を分子として、分数表記でレコード数が表示される。例えば、図9に示すように、レコード表示領域G41に表示されている2つのレコードの全てが選択されている(つまり、チェックボックスG411の表示がアクティブになっている)場合には、選択数表示領域G44には「2/2」と表示される。
計算ボタンG45は、算出処理を開始するためのボタンである。計算ボタンG45がタップされることで、その時点で選択画面203にて選択されているレコードを用いて、脳波判定システム10は算出処理を開始する。
キャリブレーション結果画面204は、図10に示すように、選択画面203と同様のレコード表示領域G41、追試行ボタンG43、選択数表示領域G44及び計算ボタンG45を含んでいる。キャリブレーション結果画面204は、時間周波数マップG51、情報表示領域G52、解析結果表示領域G53及び終了ボタンG54を更に含んでいる。
時間周波数マップG51は、算出処理で使用されたキャリブレーション時間における特定の周波数帯域のパワーの変化の傾向を表すグラフである。時間周波数マップG51では、横軸を時間軸、縦軸を周波数とする2次元マップにおいて、各座標位置のパワーを「色」にて表している。例えば、座標位置のパワーを表す色は、パワーの範囲毎に予め割り当てられている。一例としては、パワーが大きくなるほど、色が明るくなるように、パワーの範囲に色が割り当てられる。つまり、時間周波数マップG51によれば、安静期間から運動期間にかけてパワーの変化が生じる周波数帯域が視覚的に表示される。また、時間周波数マップG51には、算出処理で算出されたα波及びβ波の各々の周波数帯域を示す直線G511,G512が表示されている。直線G511は、α波の周波数帯域(範囲)の下限値及び上限値を表し、直線G512は、β波の周波数帯域(範囲)の下限値及び上限値を表す。
情報表示領域G52は、測定処理に関する情報を表示するための領域である。図10の例では、測定処理の実行回数(分析試行回数)、安静期間(リラックス区間)の時間長さ、及び運動期間(イメージ区間)の時間長さを表すテキスト情報が、情報表示領域G52に表示されている。
解析結果表示領域G53は、算出処理での解析結果を表示するための領域である。図10の例では、α波の周波数帯域(α波周波数範囲)、β波の周波数帯域(β波周波数範囲)、事象関連脱同期による特徴的な変化を含む脳波が生じた割合(正解率)を表すテキスト情報が、解析結果表示領域G53に表示されている。
終了ボタンG54は、キャリブレーション処理を終了するためのボタンである。終了ボタンG54がタップされることで、脳波判定システム10はキャリブレーション処理を終了する。
(3.3)訓練過程
次に、訓練過程における脳波判定システム10の動作について詳しく説明する。
訓練過程においては、リハビリテーション支援システム100の動作モードは、訓練モードである。リハビリテーション支援システム100の動作モードが訓練モードであれば、情報処理装置2の表示部26には、例えば、図11に示すような、訓練画面200が表示される。図11の例において、領域を示す一点鎖線及び参照符号は説明のために表記しているに過ぎず、実際には、これらの一点鎖線及び参照符号は表示部26に表示されない。
訓練画面200は、活性化レベル表示領域G1、脳波表示領域G2、訓練開始ボタンG3、装具操作ボタンG4、回数表示領域G5、感知状態表示領域G6、機器状態表示領域G7、ステータス表示領域G8及び終了ボタンG9を有している。また、訓練画面200は、操作ガイド領域G10、チェックボックスG11、訓練情報出力ボタンG12、履歴ボタンG13及び設定ボタンG14を更に有している。
活性化レベル表示領域G1は、活性化レベルのグラフを表示するための領域である。活性化レベルのグラフは、横軸を時間(秒)、縦軸を活性化レベルとして、活性化レベルの時間変化を表す波形を表示する。活性化レベル表示領域G1において、直線L1は閾値(設定値)を表している。さらに、活性化レベルが閾値を超える期間には、活性化レベルのグラフの上方に帯状の判定マークM1が表示される。また、活性化レベルのグラフの背景色は、訓練時間の前半の安静期間(0〜5秒の期間)と、訓練時間の後半の運動期間(5〜10秒の期間)と、で異なることが好ましい。
脳波表示領域G2は、ヘッドセット1で測定された脳波を表示するための領域である。脳波表示領域G2における脳波は、ヘッドセット1から情報処理装置2に送信される脳波情報に従って、リアルタイムで表示される。脳波のグラフは、横軸を時間(秒)、縦軸を電位として、脳波の時間変化を表す波形を表示する。
訓練開始ボタンG3は、訓練を開始するためのボタンである。訓練開始ボタンG3がタップされることで、リハビリテーション支援システム100による訓練が開始し、脳波判定システム10での脳波の測定が開始する。
装具操作ボタンG4は、運動補助装置3を操作するためのボタンである。装具操作ボタンG4がタップされることで、脳波判定システム10から制御信号が出力され、運動補助装置3の閉動作又は開動作が行われる。ここで、装具操作ボタンG4には、「装具閉」又は「装具開」というようなテキスト情報が表示される。「装具閉」と表示されている状態で装具操作ボタンG4がタップされると、運動補助装置3の閉動作が行われ、「装具開」と表示されている状態で装具操作ボタンG4がタップされると、運動補助装置3の開動作が行われる。
回数表示領域G5は、成功回数及び試行回数を表示するための領域である。本開示でいう「成功回数」は、脳波判定システム10が、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る事象関連脱同期による特徴的な変化を含む脳波を、訓練時間の運動期間内に検出した回数である。本開示でいう「試行回数」は、リハビリテーション支援システム100による訓練が行われた回数である。
感知状態表示領域G6は、脳波の感知状態を表示するための領域である。本実施形態では、脳波判定システム10は、第1電極111及び第2電極112の各々について、対象者5の身体(頭皮)との間のインピーダンス値を測定し、測定されたインピーダンス値に応じて感知状態の良否を判定している。図11の例では、感知状態表示領域G6に、インピーダンス値のテキスト表示と、第1電極111及び第2電極112の各々の感知状態の良否を表すマーカ表示と、がなされている。具体的には、第1電極111及び第2電極112の各々の感知状態の良否によって、例えば、人の頭部を模したイラスト上におけるマーカの色が変化する。
機器状態表示領域G7は、リハビリテーション支援システム100における各機器の状態を表示するための領域である。機器状態表示領域G7では、例えば、情報処理装置2におけるヘッドセット1との接続状態、ヘッドセット1の電池残量等の状態が「○」又は「×」等のアイコンで表示される。
ステータス表示領域G8は、対象者5の識別情報(被験者ID)及び氏名、並びに医療スタッフの識別情報(検者ID)及び氏名等を表示するための領域である。また、ステータス表示領域G8には、「リハビリ対象」、つまりリハビリテーションの対象が「左手」と「右手」とのいずれであるかを示す対象アイコンG81が更に表示される。図11の例では、対象アイコンG81は、リハビリテーションの対象が「左手」であることをテキスト情報にて示している。
終了ボタンG9は、訓練を終了するためのボタンである。終了ボタンG9がタップされることで、リハビリテーション支援システム100による訓練が終了し、脳波判定システム10での脳波の測定が終了する。
操作ガイド領域G10は、リハビリテーション支援システム100の操作をガイドするテキスト情報を表示するための領域である。図11の例では、「試行を開始する場合は〔訓練開始〕ボタンを押してください」というテキスト情報が操作ガイド領域G10に表示されている。操作ガイド領域G10の表示内容は、リハビリテーション支援システム100の動作状態に応じて変化する。
チェックボックスG11は、脳波表示領域G2に脳波を表示するか否かを切り替えるためのアイコンである。チェックボックスG11がタップされることで、脳波表示領域G2に脳波が表示される状態と、表示されない状態とが交互に切り替わる。チェックボックスG11の表示がアクティブになっている状態では、脳波表示領域G2に脳波が表示される。
訓練情報出力ボタンG12は、リハビリテーションの結果を含む訓練情報を出力するためのボタンである。訓練情報出力ボタンG12がタップされることで、訓練情報が、所望の態様で出力される。訓練情報の出力の態様としては、例えば、表示、音声出力、プリントアウト(印刷)、非一時的記録媒体への書き込み、及び情報端末への送信等がある。
履歴ボタンG13は、リハビリテーションの結果を含む訓練情報の履歴を参照するためのボタンである。履歴ボタンG13がタップされることで、情報処理装置2の表示部26に表示される画面が、訓練画面200から履歴参照画面に遷移する。履歴参照画面には、少なくとも対象者5が過去に実施したリハビリテーションの結果が表示される。
設定ボタンG14は、リハビリテーション支援システム100の動作モードを、リハビリテーション支援システム100に関する各種の設定を行う設定モードに移行させるためのボタンである。設定ボタンG14がタップされることで、情報処理装置2の表示部26に表示される画面が、訓練画面200から設定画面に遷移する。
訓練過程においては、上述したような訓練画面200が情報処理装置2の表示部26に表示された状態で、対象者5がリハビリテーションを実施する。つまり、訓練開始ボタンG3がタップされることで、リハビリテーション支援システム100による訓練が開始する。
訓練の開始と同時に、訓練時間のカウントが開始して、脳波判定システム10は対象者5の脳波を測定する。そして、訓練時間の前半の安静期間(0〜5秒の期間)には、対象者5は、操作ガイド領域G10の表示、又は医療スタッフの指示に従って、身体を安静状態とする。このとき、活性化レベル及び脳波はリアルタイムで訓練画面200に表示される。ただし、安静期間においては、脳波判定システム10は、活性化レベルと閾値との比較を行わず、事象関連脱同期による特徴的な変化を含む脳波の検出を行わない。
一方、訓練時間の後半の運動期間(5〜10秒の期間)には、対象者5は、操作ガイド領域G10の表示、又は医療スタッフの指示に従って、手指53の伸展動作、つまり随意運動を行おうとする企図(想起)を行う。このとき、活性化レベル及び脳波はリアルタイムで訓練画面200に表示される。さらに、運動期間においては、脳波判定システム10は、活性化レベルと閾値との比較を行い、事象関連脱同期による特徴的な変化を含む脳波を検出する。ここで、事象関連脱同期が生じることにより、活性化レベルが閾値(図11の直線L1参照)を超えると、訓練画面200における活性化レベルのグラフの上方に帯状の判定マークM1が表示される。
脳波判定システム10の判定処理について図12のフローチャートを参照して更に詳しく説明する。まず、取得部211が脳波情報をヘッドセット1から取得する(S20)。そして、検出部213は、処理部214での選択処理の結果に応じて、判定条件を決定し(ステップS21)、判定条件に対応する閾値を取得する(ステップS22)。ここで、脳波判定システム10では、随時、取得部211で取得された脳波情報を解析部212にて解析する。ステップS22の次のステップ23では、脳波判定システム10は、解析部212で解析された周波数帯域ごとのパワーに基づいて、検出部213にて活性化レベルを算出し、活性化レベルと閾値との比較を行う。脳波判定システム10では、事象関連脱同期が生じて特定の周波数帯域のパワーが減少し、特定の周波数帯域のパワーが安静範囲から運動範囲へ遷移したときに、活性化レベルが閾値を超えたと判断される。
ステップS23において、判定条件に応じて、特定の周波数帯域は、単一の周波数帯域(一例として、α波の帯域又はβ波の帯域)、又は、複数の周波数帯域(一例として、α波の帯域及びβ波の帯域)となる。第1検出条件及び第4検出条件のように特定の周波数帯域が2つの周波数帯域である場合には、これら2つの周波数帯域のパワーで規定される座標値が、安静範囲から運動範囲へ遷移した場合、活性化レベルが閾値を超えたと判断される。一方、第2検出条件及び第3検出条件のように特定の周波数帯域が単一の周波数帯域である場合には、単一の周波数帯域のパワーで規定される値が、安静範囲から運動範囲へ遷移した場合、活性化レベルが閾値を超えたと判断される。
活性化レベルが閾値を超えたと判断されると(S23:Yes)、検出部213は、検出対象の脳波が生じていると判断する(ステップS24)。一方、活性化レベルが閾値以下と判断されると(S23:No)、検出部213は、検出対象の脳波が生じていないと判断する(ステップS25)。
また、本実施形態では、脳波判定システム10は、活性化レベルが閾値を超えている状態の継続時間を測定する機能を有している。図11に例示する訓練画面200では、判定マークM1の長さが継続時間の長さに相当する。脳波判定システム10は、活性化レベルが閾値以下の値から、閾値を超える値に立ち上がる(変化する)と、第3の制御信号を制御装置4に送信する。さらに、継続時間が規定時間(例えば、「1秒」)に達すると、脳波判定システム10は、第1の制御信号を制御装置4に送信する。
上記より、活性化レベルが閾値を超えたときに、運動補助装置3の電気刺激発生装置32が駆動され、運動補助装置3にて、対象者5の身体に電気的な刺激が与えられて、対象者5の随意運動(伸展動作)が補助される。さらに、活性化レベルが閾値を超える状態が規定時間継続したときに、運動補助装置3の手指駆動装置31が駆動され、運動補助装置3にて、手指駆動装置31の「開動作」が行われて、対象者5の随意運動(伸展動作)が補助される。
その結果、対象者5が随意運動を行おうと企図(想起)した際に、随意運動の対象となる部位に対応する脳領域の活性化が実際に起きたタイミングに合わせて、運動補助装置3にて対象者5の随意運動(左の手指53の伸展動作)が補助される。このとき、対象者5の筋肉及び感覚神経が活動し、その情報が脳に伝達されることにより、神経の再構築が行われ、リハビリテーションの効果が得られる。したがって、リハビリテーション支援システム100によれば、様々な状態の対象者5について、医療スタッフが補助する場合と同様に、対象者5が単独で随意運動を行う場合に比べて効果的な、運動療法によるリハビリテーションを実現可能となる。
(変形例)
上記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、脳波判定システム10と同様の機能は、脳波判定方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。一態様に係る脳波判定方法は、第1ステップと第2ステップとを含む。第1ステップは、対象者5の頭部52の一部である測定箇所51に配置される電極部11にて採取される脳波を表す脳波情報を取得するステップである。第2ステップは、第1ステップで取得された脳波情報が判定条件を満たす場合に、特徴的な変化を含む脳波である検出対象の脳波が生じていると判定するステップである。判定条件は、複数の条件から選択される。複数の条件は、第1種条件と第2種条件とを含む。第1種条件は、脳波情報で表される脳波に含まれる単一の周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。第2種条件は、脳波情報で表される脳波に含まれる互いに異なる複数の周波数帯域の成分に基づいて検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。一態様に係る(コンピュータ)プログラムは、コンピュータシステムに、上記の脳波判定方法を実行させるためのプログラムである。
以下、上記実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
本開示における脳波判定システム10は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における脳波判定システム10としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。
また、例えば、情報処理装置2の複数の構成要素が、1つの筐体内に集約されていることは脳波判定システム10に必須の構成ではなく、情報処理装置2の複数の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。複数の構成要素が複数の筐体に分散して設けられている場合でも、例えば、インターネット等のネットワークを介して複数の構成要素が接続されることにより、協働して脳波判定システム10を実現することができる。さらに、脳波判定システム10の少なくとも一部の機能は、例えば、サーバ又はクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。反対に、例えば、ヘッドセット1及び情報処理装置2のように、複数の装置に分散されている機能が、脳波判定システム10の一部として、脳波判定システム10の他の構成要素と共に1つの筐体内に集約されていてもよい。
また、電極部11は、対象者5の頭部52の表面(頭皮)に接触する構成に限らず、例えば、脳の表面(脳表)に電極部11が接触するように電極部11が構成されてもよい。
また、リハビリテーション支援システム100は、対象者5の手指のリハビリテーションに限らず、例えば、肩、肘、上腕、腰、下肢、又は上肢等、対象者5の身体の任意の部位のリハビリテーションに用いられてもよい。対象者5が随意運動を行おうと企図(想起)した際に生じ得る脳波の特徴的な変化の仕方は、リハビリテーションの対象部位及び運動内容等によって異なる場合がある。例えば、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に事象関連同期(Event-Related Synchronization:ERS)が生じる場合には、随意運動時に運動野付近で測定される脳波において、特定の周波数帯域のパワーが増加する。この場合、脳波判定システム10では、特定の周波数帯域のパワーが増加することをもって、脳波の特徴的な変化を検出する。また、脳波判定システム10の検出対象の脳波は、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波に限定されない。例えば、検出対象の脳波は、対象者5が所定の情報を得た際に生じる特徴的な変化を含む脳波であってもよい。ここで、所定の情報は、例えば、視覚情報(映像、画像等)と聴覚情報(音声、音楽等)がある。つまり、脳波判定システム10の検出対象の脳波は、特徴的な変化を含む脳波であれば、特にその特徴的な変化の要因は問わない。
また、判定条件の候補となる複数の条件は、少なくとも1つの第1種条件と少なくとも1つの第2種条件とを含んでいればよく、第3種条件は必須ではない。また、上記実施形態では、第2種条件として、2つの異なる周波数帯域(第1周波数帯域及び第2周波数帯域)を利用する条件を例示しているが、異なる周波数帯域の数は3以上であってもよい。また、第1周波数帯域及び第2周波数帯域の組み合わせは、α波の周波数帯域とβ波の周波数帯域との組み合わせに限定されない。これらは、検出対象の脳波に応じて適宜変更され得る。
また、判定処理において、α波判定値とβ波判定値は、変更されてもよい。例えば、α波判定値とβ波判定値が小さくなれば、第1検出条件よりも第4検出条件が選択され易くなる。一方、α波判定値とβ波判定値が大きくなれば、第4検出条件よりも第1検出条件が選択され易くなる。そのため、健常者と同じ基準でのリハビリテーションを優先する場合には、α波判定値とβ波判定値を小さくすればよく、対象者5にあった基準でのリハビリテーションを優先する場合には、α波判定値とβ波判定値を大きくすればよい。なお、上記実施形態では、α波変化率及びβ波変化率は負の値であるが、正の値であってもよい。この場合、α波判定値とβ波判定値も正の値を取り得る。
また、リハビリテーション支援システム100は、対象者5に電気的又は機械的(力学的)な刺激を与える構成に限らず、例えば、映像を表示することで、対象者5に視覚的な刺激を与える構成であってもよい。この場合、リハビリテーション支援システム100は、例えば、対象者5が随意運動を行おうと企図した際に、随意運動の対象となる部位に対応する脳領域の活性化が実際に起きたタイミングに合わせて、障害部位が正常に動いているような映像を対象者5に見せる。このようにしても、リハビリテーション支援システム100は、対象者5の随意運動を補助することができる。
また、運動補助装置3と制御装置4とは別体に限らず、例えば、運動補助装置3と制御装置4とが1つの筐体内に収容され一体化されていてもよい。
また、ヘッドセット1と情報処理装置2との間の通信方式は、上記の実施形態では無線通信であるが、この例に限らず、例えば、有線通信であってもよいし、中継器等を介した通信方式であってもよい。制御装置4と情報処理装置2との間の通信方式は、上記の実施形態では有線通信であるが、この例に限らず、例えば、無線通信であってもよいし、中継器等を介した通信方式であってもよい。
また、ヘッドセット1は電池駆動式に限らず、信号処理部12及び第1通信部13等の動作用電力が、例えば、情報処理装置2から供給される構成であってもよい。
また、情報処理装置2は、専用のヘッドセット1から脳波情報を取得する構成に限らず、例えば、汎用の脳波計から脳波情報を取得するように構成されていてもよい。
(まとめ)
以上述べた実施形態及び変形例から明らかなように、第1の態様の脳波判定システム(10)は、取得部(211)と、検出部(213)と、を備える。前記取得部(211)は、対象者(5)の頭部(52)の一部である測定箇所(51)に配置される電極部(11)にて採取される脳波を表す脳波情報を取得するように構成される。前記検出部(213)は、前記取得部(211)で取得された前記脳波情報が判定条件を満たす場合に、特徴的な変化を含む脳波である検出対象の脳波が生じていると判定するように構成される。前記判定条件は、複数の条件から選択される。前記複数の条件は、第1種条件と第2種条件とを含む。前記第1種条件は、前記脳波情報で表される脳波に含まれる単一の周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。前記第2種条件は、前記脳波情報で表される脳波に含まれる互いに異なる複数の周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。第1の態様によれば、脳波の判定精度を向上できる。
第2の態様の脳波判定システム(10)は、第1の態様との組み合わせにより実現され得る。第2の態様では、前記脳波判定システム(10)は、前記取得部(211)で取得された前記脳波情報に基づいて、前記判定条件を前記複数の条件から選択する選択処理を行う処理部(214)を更に備える。第2の態様によれば、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。
第3の態様の脳波判定システム(10)は、第1又は第2の態様との組み合わせにより実現され得る。第3の態様では、前記第2種条件は、互いに異なる第1及び第2周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波を検出する第1検出条件を含む。前記第1種条件は、前記第2周波数帯域ではなく前記第1周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波を検出する第2検出条件と、前記第1周波数帯域ではなく前記第2周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波を検出する第3検出条件と、を含む。第3の態様によれば、複数の条件のいずれかが対象者に適した判定条件となる可能性が高くなる。
第4の態様の脳波判定システム(10)は、第3の態様との組み合わせにより実現され得る。第4の態様では、前記第1周波数帯域は、α波の周波数帯域であり、前記第2周波数帯域は、β波の周波数帯域である。第4の態様によれば、対象者(5)が随意運動を行おうと企図した際に生じ得る特徴的な変化を含む脳波の判定精度が向上する。
第5の態様の脳波判定システム(10)は、第1〜第4の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第5の態様では、前記複数の条件は、更に、健常者の脳波に基づいて選択された1以上の周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波を検出する第3種条件を含む。第5の態様によれば、健常者の基準での脳波の判定精度が向上する。
第6の態様の脳波判定システム(10)は、第2の態様との組み合わせにより実現され得る。第6の態様では、前記処理部(214)は、前記選択処理では、前記取得部(211)で取得された前記脳波情報に含まれる互いに異なる第1及び第2周波数帯域の成分に基づいて、前記判定条件を前記複数の条件から選択する。第6の態様によれば、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。
第7の態様の脳波判定システム(10)は、第6の態様との組み合わせにより実現され得る。第7の態様では、前記処理部(214)は、前記選択処理では、前記第1及び第2周波数帯域の成分に関する安静範囲(A1,A3)と運動範囲(A2,A4)との境界線(Lth1,Lth2)の傾きに基づいて、前記判定条件を前記複数の条件から選択する。第7の態様によれば、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。
第8の態様の脳波判定システム(10)は、第7の態様との組み合わせにより実現され得る。第8の態様では、前記安静範囲(A1,A3)は、前記対象者(5)が身体を安静状態としているときの前記対象者(5)の脳波の前記第1及び第2周波数帯域の成分がとり得る範囲である。第8の態様によれば、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。
第9の態様の脳波判定システム(10)は、第7又は第8の態様との組み合わせにより実現され得る。第9の態様では、前記運動範囲(A2,A4)は、前記対象者(5)が随意運動を行おうと企図した場合に前記対象者(5)の脳波の前記第1及び第2周波数帯域の成分がとり得る範囲である。第9の態様によれば、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。
第10の態様の脳波判定システム(10)は、第7〜第9の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第10の態様では、前記第2種条件は、前記第1及び第2周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波を検出する第1検出条件を含む。前記処理部(214)は、前記境界線(Lth1,Lth2)の傾きが負であれば、前記第1検出条件を選択する。第10の態様によれば、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。
第11の態様の脳波判定システム(10)は、第10の態様との組み合わせにより実現され得る。第11の態様では、前記検出部(213)は、前記第1検出条件では、前記第1及び第2周波数帯域の成分が前記安静範囲(A1,A3)から前記運動範囲(A2,A4)へ遷移したことをもって、前記検出対象の脳波が生していると判断する。第11の態様によれば、脳波の判定精度を向上できる。
第12の態様の脳波判定システム(10)は、第7〜第11の態様のいずれか一つとの組み合わせにより実現され得る。第12の態様では、前記複数の条件は、更に、健常者の脳波に基づいて選択された1以上の周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波を検出する第3種条件を含む。前記処理部(214)は、前記境界線の傾きが0又は正であれば、前記第3種条件を選択する。第12の態様によれば、複数の条件から対象者に応じた判定条件を選択できる。
第13の態様の脳波判定方法は、第1ステップと、第2ステップとを含む。前記第1ステップは、対象者(5)の頭部(52)の一部である測定箇所(51)に配置される電極部(11)にて採取される脳波を表す脳波情報を取得するステップである。前記第2ステップは、前記第1ステップで取得された前記脳波情報が判定条件を満たす場合に、特徴的な変化を含む脳波である検出対象の脳波が生じていると判定するステップである。前記判定条件は、複数の条件から選択される。前記複数の条件は、第1種条件と、第2種条件とを含む。前記第1種条件は、前記脳波情報で表される脳波に含まれる単一の周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。前記第2種条件は、前記脳波情報で表される脳波に含まれる互いに異なる複数の周波数帯域の成分に基づいて前記検出対象の脳波が生じているかどうかを判定する条件である。第13の態様によれば、脳波の判定精度を向上できる。
第14の態様のプログラムは、コンピュータシステムに、第13の態様の脳波判定方法を実行させるためのプログラムである。第14の態様によれば、脳波の判定精度を向上できる。
第15の態様の非一時的記録媒体は、コンピュータシステムに、第13の態様の脳波判定方法を実行させるためのプログラムを記録した、コンピュータシステムで読取可能な非一時的記録媒体である。第15の態様によれば、脳波の判定精度を向上できる。
第16の態様のリハビリテーション支援システム(100)は、第1〜第12の態様のいずれか一つの脳波判定システム(10)と、運動補助装置(3)と、制御装置(4)と、を備える。前記運動補助装置(3)は、前記対象者(5)に機械的な刺激と電気的な刺激との少なくとも一方を加える機能を有する。前記制御装置(4)は、前記検出対象の脳波が生じていると前記脳波判定システム(10)の前記検出部(213)が判定すると前記運動補助装置(3)を制御するように構成される。第16の態様によれば、脳波の判定精度を向上できる。
上記態様に限らず、実施形態に係る脳波判定システム(10)の種々の構成(変形例を含む)は、脳波判定方法、(コンピュータ)プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化可能である。
第2〜第12の態様に係る構成については、脳波判定システム(10)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。