以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。図1は加圧水型原子炉(PWR)の圧力容器を加工するレーザピーニングシステムの概略構成を示す断面図、図2は図1のレーザピーニングシステムのレーザピーニング装置の機構系を示す図、図3は図2の機構系の要部拡大図、図4はレーザピーニングシステムの制御系統の構成を示す図である。なお、以下の実施形態は本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
(第1実施形態)
図1乃至図4に示すように、この第1実施形態のレーザピーニングシステムは、地上支援装置13と、この地上支援装置13から制御を受けて加工対象部位5をレーザピーニング加工する多軸の施工装置としてのレーザピーニング装置1と、水中監視カメラ12と噴流ポンプ装置16と、少なくとも施工条件を満たした施工データを作成し、作成した施工データを地上支援装置13に渡す施工データ作成装置としてのコンピュータ70を備える。
図1に示すように、原子炉圧力容器2と原子炉格納容器7を備える。原子炉圧力容器2には、原子炉圧力容器2は、炉心を構成する燃料集合体(図示略)を収容した状態で内部の圧力を保持する容器である。
なお、図示は省略するが、原子炉圧力容器2の内部には、燃料集合体を囲む炉心シュラウドや、燃料集合体を支持する炉心支持部や、原子炉圧力容器の内部で水流を発生させるためのジェットポンプなどの原子炉内構造物が収容されている。原子炉圧力容器2の下部は、半球形状に湾曲された炉底部3となっている。この炉底部3には、核燃料の連鎖反応を制御する制御棒を案内する制御棒案内管や、制御棒を駆動する制御棒駆動機構等も設けられる。
炉底部3には、炉内計装機器(図示略)を保持するための計装管4(インコアモニタハウジング)が設けられる。また、計装管4は、炉底部3に複数本設けられる。これらの計装管4は、炉底部3から垂直方向に延びる筒状をなす部分である。なお、炉内計装機器は、燃料集合体から発せられる中性子線などを計測する機器である。また、原子炉圧力容器2の製造時において、計装管4は、炉底部3に形成された貫通孔に挿入される。そして、計装管4の周囲が炉底部3に溶接されることで、原子炉圧力容器2と一体的に設けられる構造物となる。本実施形態では、計装管4とその周囲(溶接部)がレーザ光6の照射対象部、つまり施工対象部位5となっている(図2、図3参照)。
施工対象部位5は、加圧水型原子炉(PWR)の圧力容器10の半球形状の炉底部3に設けられた複数の計装管4それぞれの根元であるため、レーザピーニング装置1を配置するスペースに余裕が無い狭隘部となっている。
レーザピーニングを施工する前に、原子炉圧力容器2の上部の蓋(図示略)が取り外される。また、燃料集合体が原子炉圧力容器2の内部から取り出され、核燃料プールに移動される。さらに、他の炉内構造物なども原子炉圧力容器2の内部から取り出される。なお、レーザピーニングは、原子炉圧力容器2の内部および原子炉格納容器7の上部が水8で満たされた状態で行われる。
原子炉格納容器7の上方には、作業者9が作業する作業ブリッジ10が設けられている。なお、図1では、理解を助けるために一部の構成を省略して図示している。
レーザピーニングを施工する際には、作業者9が、作業ブリッジ10から操作ポール11を用いてレーザピーニング装置1を炉底部3まで下すようにしている。この操作ポール11は、長手方向に複数に分割可能である。
そして、作業者9は、分割された操作ポール11を連結しつつ(継ぎ足しながら)、レーザピーニング装置1を炉底部3まで下してゆく。このような操作ポール11を用いることで、水深の深い位置にレーザピーニング装置1を設置する。
また、レーザピーニング装置1の設置状態を監視するための水中監視カメラ12も水中に投入される。なお、この水中監視カメラ12は、水中を遊泳可能な水中ロボットであってもよい。本実施形態では、3台のレーザピーニング装置1を用いて作業を行う。
なお、3台のレーザピーニング装置1は、それぞれ同一構成となっている。また3台以上のレーザピーニング装置1を用いて作業を行ってもよく、1台のレーザピーニング装置1を用いて作業を行ってもよい。
また、作業ブリッジ10の近傍には、レーザピーニング装置1を制御するための地上支援装置13が設置される。この地上支援装置13とレーザピーニング装置1とは、主ケーブル14を介して接続される。また、地上支援装置13と水中監視カメラ12とは、カメラ用ケーブル15を介して接続される。
さらに、原子炉圧力容器2の近傍の原子炉格納容器7の底部には、レーザピーニングの作業時に水中で用いる噴流を発生させるための噴流ポンプ装置16が設置されている。この噴流ポンプ装置16とレーザピーニング装置1とは、水流供給ケーブル17を介して接続される。
レーザピーニング装置1は、原子炉圧力容器2の原子炉内構造物の保全のために、レーザピーニングの施工を行う装置である。なお、レーザピーニングとは、水が接触している金属材料の表面にレーザ光を照射することで発生するプラズマの衝撃波によって、金属材料に圧縮残留応力を付与する技術である。このレーザピーニングを施工することで、金属材料の強度を向上させることができる。
より詳しくは、エネルギーの大きなパルスレーザ光を金属材料の表面に照射すると、金属材料を構成する原子のプラズマが瞬間的に発生する。ここで、プラズマの周囲に水が存在している状態では、プラズマの膨張が妨げられる。そして、このプラズマの反力により衝撃波が発生する。その圧力は、数万気圧になる。この衝撃波が金属材料の中を伝播して、金属材料に圧縮残留応力を付与するようになる。この圧縮残留応力が金属材料に付与されることで、金属材料の応力腐食割れや疲労亀裂などを防ぐ効果がある。つまり、レーザピーニングは、応力腐食割れの原因となる引張残留応力を、圧縮残留応力に変化させることができる。
図2に示すように、レーザピーニング装置1は、レーザ光6を発振するレーザ発振器18と、このレーザ発振器18から発振されたレーザ光6の幅やパワーなどを制御するミラーボックス19と、レーザピーニング装置1に浮力を与えるフロート部20と、これらの部材を収容する筐体21とを備える。
筐体21の上端部には、操作ポール11が接続される接続部22が設けられる。接続部22は、操作ポール11に対して接続と分離とを行える機構を有する。なお、この接続部22を駆動するための接続駆動部(図示せず)を備える。筐体21の側面には、この筐体21の傾きを計る傾斜計24が設けられている。
本実施形態では、レーザ発振器18としてYAGレーザを用いている。なお、YAGレーザとは、イットリウム・アルミニウム・ガーネットの結晶を使って発振させるレーザのことである。また、レーザ光6により発生するプラズマの熱の影響を抑えるために、レーザ光6のパルス幅を10ナノ秒(1億分の1秒)以下としている。
また、レーザピーニング装置1の下端部は、計装管4の上部に連結される連結部25が設けられている。この連結部25は、下方が開口された筒状をなす部分である。また、連結部25は、上方から計装管4に嵌まり込む。
なお、連結部25は、計装管4をクランプするクランプ部26と、このクランプ部26を駆動するための連結駆動部27(図2参照)とを備える。本実施形態では、計装管4に連結部25を嵌めた状態で、クランプ部26により計装管4をクランプすると、連結部25が計装管4に連結される。なお、この設置作業は、作業者9が水中監視カメラ12でレーザピーニング装置1の状態を確認しながら行う。
連結部25は、計装管4に連結された状態で支持される。この状態で操作ポール11を接続部22から分離することができる。なお、レーザピーニング装置1がフロート部20により浮力が与えられることで、計装管4に負荷を与えることなく、レーザピーニング装置1を計装管4に固定することができる。
本実施形態では、傾斜計24でレーザピーニング装置1の傾きを確認しながら連結部25を計装管4に設置する。作業者9は、傾斜計24を確認しながら操作ポール11を用いてレーザピーニング装置1の設置作業を行うので、レーザピーニング装置1の姿勢を保ちつつ、設置できる。また、レーザピーニング装置1を正しく設置できなかった場合は、設置作業をやり直すことができる。
なお、レーザピーニング装置1を計装管4に固定したときに、計装管4の傾き状態が傾斜計24に反映される。ここで、レーザピーニング装置1を計装管4に正確に固定したにも関わらず、傾斜計24が傾きを示している場合には、計装管4が傾いていることになる。この計装管4の傾きが所定の許容範囲を超えている場合には、レーザピーニングの施工作業を中止してもよい。このように、傾斜計24を用いて計装管4の傾きを計ることができるので、作業者9は、レーザピーニングの施工作業を適切に実行可能か否かの判断を行うことができる。
連結部25の上部には、旋回部28が水平方向に旋回可能に設けられている。旋回部28の上方には、筒形の筐体21を支持する支持部29が設けられている。この支持部29の側方には、旋回調節モータ30が設けられている。この旋回調節モータ30を駆動することで、旋回部28が旋回される。なお、前述した筐体21などは、支持部29を介して旋回部28により支持されており、旋回部28とともに水平方向に旋回可能となっている。
なお、旋回調節モータ30を駆動して筐体21が旋回されると、筐体21と一体の導光管31を介して接続された照射ノズル32が連結部25(計装管4)を中心軸(施工中心)として旋回する。照射ノズル32は、施工ツールの一つであり、レーザピーニング装置1の可動する先端部(これを「可動端」と称す)に設けられている。つまり、連結部25と連結された計装管4の周囲のいずれの位置にも照射ノズル32を移動および配置することができる。
この照射ノズル32は、予め定められた面積を有する照射対象点にある施工対象物(ワーク)に対してレーザ光6を照射し、これにより照射対象点にある施工対象物の表面の応力状態の改善や表面改質などの施工を行なうものである。施工対象物表面のある照射対象点(第1の施工対象点)において照射ノズル32による施工が行なわれると、照射ノズル32を別の照射対象点(第2の施工対象点)に移動させて照射ノズル32による次の施工を行ない、このように照射ノズル32の位置を順次変えながら施工を行なうことで、施工対象物の予め定められた範囲の領域(施工領域)の全体の施工を完了させることができる。
支持部29の内部には、導光管31を縦移動させるための縦調節モータ33が収容されている。この縦調節モータ33は、スプライン軸と外筒とから構成されるボールスプラインなどの駆動機構34を介して導光管31に接続されており、導光管31が動作することで、照射ノズル32を縦方向(上下方向)に移動させることができる。
つまり、縦調節モータ33を駆動させることによって、照射ノズル32の上下位置を変更することができ、垂直方向に延びる計装管4に沿って照射ノズル32を移動させることができる。
レーザ発振器18の下部には、ミラーボックス19が設けられている。このミラーボックス19の下部は、出力部41とされ、レーザ光6を出力する。出力部41には、導光管31が接続されている。導光管31は、ミラーボックス19からレーザ光6を下方の照射ノズル32へ導くものであり、筐体21の下部から下方に向かって延びている。
この導光管31は、レーザ光6を平行光の状態で導く管状をなす部材(管状部)である。この導光管31の先端部には、レーザ光6を所定の方向に向かって照射するための照射ノズル32が設けられている。この照射ノズル32は、連結部25の側方近傍に配置されている。
ミラーボックス19から出力されたレーザ光6は、導光管31の内部の空洞を通って照射ノズル32まで導かれる。この光路には、レーザ光6を集光させる集光レンズ42が設けられている。この集光レンズ42は、導光管31に設けられたレンズ配置部43の内部に収容されている。
また、集光レンズ42は、縦方向(上下方向)に移動可能となっている。なお、集光レンズ42を縦移動させるためのレンズ用モータ44がレンズ配置部43の内部に収容されている。このレンズ用モータ44は、ボールスプラインなどの駆動機構45を介して集光レンズ42に接続されている。
つまり、レンズ用モータ44を駆動させることによって、計装管4の周囲の溶接部(施工対象部位5)から集光レンズ42までの光学的距離を変更することができる。このため、レーザ光6の焦点位置46(照射点)を変更することができる。つまりレンズ用モータ44は、集光レンズ42を移動させる移動部である。
また、前述したレーザ発振器18とミラーボックス19とは、筐体21の内部で横方向(水平方向)に移動可能となっている。さらに、ミラーボックス19に接続された導光管31は、ミラーボックス19とともに横方向(水平方向)に移動可能となっている。
筐体21の内部には、横調節モータ35が収容されている。この横調節モータ35は、ミラーボックス19などを横移動させるためのものであり、ボールスプラインなどの駆動機構36を介してミラーボックス19に接続されている。したがって、導光管31が動作することで、照射ノズル32を横方向(計装管4の径方向)に移動させることができる。
つまり、横調節モータ35を駆動させることによって、照射ノズル32と計装管4との間の距離を変更することができ、照射ノズル32を計装管4に近づけたり遠ざけたりすることができる。
図3に示すように、照射ノズル32は、関節部37を介して導光管31に接続されている。関節部37の内部には、照射ノズル32の傾斜角度に合わせてレーザ光6を導くためにプリズム装置(図示せず)が設けられている。このプリズム装置は、関節部37を中心として下方の照射ノズル32がいずれの方向に揺動されても、レーザ光6を照射ノズル32の先端部に向かって導くようになっている。なお、導光管31の下部開口は、プリズム装置により封止されており、プリズム装置よりも上方に浸水しないようになっている。
この関節部37には、傘歯車38が設けられている。この傘歯車38は、角度調節モータ39の軸歯車40に噛合されている。つまり、角度調節モータ39を駆動させることによって、照射ノズル32の傾斜角度を変化させることができる。関節部37と角度調節モータ39によって、原子炉圧力容器2の炉底部3などの傾斜した部分に計装管4が設置されている場合、この傾斜に応じて照射ノズル32を適切な角度に傾斜させることが可能である。
例えば、原子炉圧力容器2の炉底部3の傾斜の高い側(山側)の計装管4の側面部にレーザピーニングを施工する場合は、照射ノズル32の傾きを水平に近づけることができる。一方、計装管4と炉底部3との境界部分にレーザピーニングを施工する場合は、照射ノズル32の傾きを垂直に近づけることができる。
レーザピーニング装置1は、上記構成の他、図4に示すように、音波検知部48、測定部49、焦点変更部50、照射ノズル32の側方に設けられた確認用カメラ51などを備える。照射ノズル32から計装管4の周囲の溶接部位5などの金属材料にレーザ光6が照射されると、金属材料の表面が振動して超音波が発生する。音波検知部48は、このときの超音波を検知するためのものであり、照射ノズル32の側方に設けられている。
測定部49は、音波検知部48が検知した超音波に基づいて、金属材料(照射対象部)から照射ノズル32までの距離を測定する。焦点変更部50は、測定部49が測定した距離に基づいて、施工対象部位5(溶接部)から集光レンズ42までの光学的距離を変更する制御を行う。
確認用カメラ51の撮影方向は、レーザ光6が照射される方向に向けられている。なお、レーザピーニングが施工された金属材料の表面は、色が変化するので、この色の変化を、確認用カメラ51を用いて目視または検出された輝度などを測定することで、レーザピーニングを実行した後の金属材料の状態を確認することができる。すなわち、レーザピーニングが必要な範囲に施工されたか否かを確認することができる。
また、照射ノズル32には、噴流ポンプ装置16(図1参照)から延びる水流供給ケーブル17が接続されている。水流供給ケーブル17により照射ノズル32の内部に水流が導かれ、照射ノズル32の先端部からレーザ光6とともに水流が噴き出すようになっている。このように、レーザピーニングを行う際に噴流を生じさせる。
なお、レーザ光6を金属材料に照射すると、その照射された部分から微細な気泡やクラッド(剥離膜)が生じる。本実施形態では、レーザ光6の照射部分に発生する気泡などを水流(噴流)により押し流すことで良好なレーザピーニングを行うことができる。
図4に示すように、地上支援装置13は、水中監視カメラ12を制御するための水中監視部55と、レーザピーニング装置1を制御するための主制御部56と、レーザピーニング装置1の接続部22と操作ポール11との接続または分離を遠隔操作で行うための遠隔操作部57と、レーザ発振器18に清浄度の高い空気を供給するための空気供給部58(ドライヤー)と、レーザ発振器18を一定温度以下に保つための冷却水を供給するための冷却水供給部59と、レーザピーニング装置1に電力を供給する電源60とを備える。なお、地上支援装置13には、これらの機器以外の機器が含まれていてもよい。
また、地上支援装置13において、水中監視部55と水中監視カメラ12とはカメラ用ケーブル15で接続される。また、主制御部56とレーザピーニング装置1とは制御信号線61で接続される。また、遠隔操作部57とレーザピーニング装置1とは遠隔操作用信号線62で接続される。
また、空気供給部58とレーザピーニング装置1とは空気供給用ホース63で接続される。また、冷却水供給部59とレーザピーニング装置1とは冷却水供給用ホース64で接続される。また、電源60とレーザピーニング装置1とは電力供給線65で接続される。
なお、地上支援装置13と各レーザピーニング装置1とを接続する主ケーブル14は、制御信号線61と遠隔操作用信号線62と空気供給用ホース63と冷却水供給用ホース64と電力供給線65とを束ねたケーブルとなっている。
また、噴流ポンプ装置16と各レーザピーニング装置1とが水流供給ケーブル17を介して接続される。なお、この水流供給ケーブル17は、各レーザピーニング装置1の照射ノズル32に接続される(図3参照)。なお、特に図示はしないが、噴流ポンプ装置16は、水を吸い込む吸込口と、水を吸い込むためのポンプ部と、吸い込んだ水を浄化するフィルタとを備える。
図4に示すように、レーザピーニング装置1は、各部を制御してレーザピーニングを実行するピーニング制御部66と、レーザ発振器18と、ミラーボックス19と、測定部49と、音波検知部48と、傾斜計24と、確認用カメラ51と、接続駆動部23と、焦点変更部50と、レンズ用モータ44と、角度調節モータ39と、横調節モータ35と、縦調節モータ33と、旋回調節モータ30と、連結駆動部27とを備える。
ピーニング制御部66は、前述の各種モータを駆動して照射ノズル32の位置や角度を計装管4の周囲の溶接部5の形状に対応して適宜変更しつつ、レーザピーニングを実行する。ピーニング制御部66は、各モータを制御して照射ノズル32から噴き出される水流54が溶接部(施工部位5)に充分に届く距離になるように照射ノズル32を移動する。
なお、地上支援装置13の主制御部56やレーザピーニング装置1のピーニング制御部66は、プロセッサやメモリなどのハードウエア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。なお、各装置(地上支援装置13やレーザピーニング装置1)は、それぞれの制御部とデータ通信を行うための通信部を有する。
なお、地上支援装置13とレーザピーニング装置1の構成要素についてはいずれに配置してもよい。この例では、レーザピーニング装置1に、ピーニング制御部66と焦点変更部50と測定部49とを設けているが、これら各部を地上支援装置13に設けてもよい。つまり、レーザピーニング装置1の制御の全てを地上支援装置13で行ってもよい。
なお、作業者9は、操作ポール11を用いてレーザピーニング装置1を計装管4に設置した後、操作ポール11をレーザピーニング装置1から分離する。また、操作ポール11の分離作業は、地上支援装置13の遠隔操作部57を用いて行うことができる。
そして、作業者9は、遠隔操作部57を操作することより地上支援装置13の主制御部56にレーザピーニングの開始を指示する。この指示により、主制御部56は各部の制御を開始し、レーザピーニング装置1がレーザピーニングの施工を開始する。
レーザピーニング装置1のピーニング制御部66は、レーザピーニングに必要な制御プログラムやデータベースを予め有しており、予め設定された手順に従ってレーザピーニングを自律的に実行する。
なお、作業者9は、レーザピーニング装置1がレーザピーニングの施工を開始すると、他のレーザピーニング装置1に操作ポール11を接続する。また、操作ポール11の接続作業は、地上支援装置13の遠隔操作部57を用いて行うことができる。そして、この他のレーザピーニング装置1を他の計装管4に設置する作業を行うことができる。
本実施形態では、作業者9が操作ポール11の接続または分離を適宜行うことで、計装管4にレーザピーニング装置1を設置してレーザピーニングを実行しているときに、他の計装管4に他のレーザピーニング装置1を設置する作業を行うことができるので、作業の効率化を図ることができる。
コンピュータ70は、メモリ、ハードディスク装置などの記憶部、CPUなどの制御部、キーボード、マウスなどの入力装置、液晶モニタなどの表示装置との通信インターフェースを備えたコンピュータであり、記憶部には、CAD/CAMやOS(オペレーティングシステム)などのプログラム、施工条件、干渉条件などの判定用の情報、施工対象のワークのCADデータなどが記憶されている。
このコンピュータ70では、CPUが記憶部に記憶されたプログラムを読み出し、読み出したプログラムを実行することで、レーザピーニング装置1がワークを施工するための施工軌跡(施工パス)を描く点や方向、レーザ照射角度、レーザ照射位置、レーザピーニング装置1の姿勢等を含む施工データの作成と、レーザピーニング装置1自体の動作(多軸の関節の動き)を制御する制御データの作成を行い、地上支援装置13に渡す。
コンピュータ70は、機能的には、図4に示すように、記憶部71、軌跡生成部73、算出部73、施工条件判定部75、施工領域分割部76等を有する。コンピュータ70には入力装置91や表示装置92が接続されている。
記憶部71には、CAD/CAMやOS(オペレーティングシステム)などのプログラム、施工条件、干渉条件などの判定用の情報、レーザピーニング装置1や施工対象物であるワーク(計装管4を含む炉底部3)の3次元の形状データであるCADデータ等が記憶されている。
詳細に説明すると、記憶部71は、CADデータ記憶部71a、施工パラメータ記憶部71b、施工領域記憶部71c、施工条件記憶部71d、施工軌跡記憶部71e、などの記憶領域を有する。CADデータ記憶部71aには、施工装置(レーザピーニング装置1)とこの施工装置により施工される3次元形状の施工対象物(ワーク)のCADデータが記憶されている。
施工パラメータ記憶部71bには、入力装置91から入力された施工パラメータ(施工部位の位置、照射ノズル32の施工姿勢、施工速度や施工ピッチ)が記憶されている。施工パラメータは、施工ツールの一例である照射ノズル32が実際に施行を行なう際の位置、姿勢、施工速度や施工ピッチ(施工密度)の値であり、施工時に設定された施工パラメータを目標値として施工ツールの実際の制御が行なわれる。施工領域記憶部71cには、施工パラメータおよびCADデータを基に領域設定部72により設定される施工領域82(図5参照)のデータが記憶される。
施工条件記憶部71dには、入力装置91から入力された施工条件が記憶される。施工条件は、施工ツールの一例である照射ノズル32により施工についての条件であり、例えば照射ノズル32の施工姿勢(施工面に対する照射ノズル32の傾斜角度)、施工予定線としての施工軌跡93(図8参照)の単位長さ当たりの施工点の数などの施工ピッチ(施工密度)等の許容値が記憶される。施工姿勢の許容値は、施工面の法線に対して施工角度が例えば30°〜45°の範囲内にあること、また、施工ピッチ(施工密度)の許容値としては、施工軌跡93に沿った施工点(レーザ光6の照射点)の間隔が例えば3mm〜4mmの範囲内にあること(もしくは、施工点の数が例えば10mm当たり2.5〜3.3個の範囲内にあること)、といった条件で指定される。
すなわち、施工条件記憶部71dには、照射ノズル32が動作して施工領域90(図8参照)に施工軌跡93を描きながら施工する際に所望の効果を得るための条件である施工条件が記憶されている。施工軌跡記憶部71eには、軌跡生成部により生成されて施工条件を満たした施工軌跡のデータが記憶される。本実施形態においては、施工条件として、施工ツールの一例である照射ノズル32の施工姿勢と施工密度を例示したが、施工条件は、これらの少なくともいずれか一方でもよく、またこれらの条件とは異なる別の条件としても構わない。
領域設定部72は、設定された施工パラメータ(施工部位の位置、照射ノズル32の施工姿勢、施工ピッチ)とCADデータとを基に、レーザピーニング装置1が施工するワークの表面(施工部位)の施工領域82を施工領域記憶部71cに設定する。すなわち、領域設定部72は、施工パラメータおよびCADデータを基に施工領域82を設定し、施工領域記憶部71cに記憶する。
軌跡生成部73は、予め施工領域記憶部71cに設定された施工領域82または分割後の領域82a、82bに対して、CADデータ記憶部71aに記憶されたCADデータを基に、レーザピーニング装置1の可動端に設けた照射ノズル32がその領域を施工(走査)する施工軌跡93(図8参照)を生成する。
本実施形態で例示する施工領域82は、図3に示したように傾斜する炉底部3に計装管4が溶接された部位である。すなわち、施工領域82は、計装管4の中心軸(図5および図7の基準軸81)を中心とした円をこの中心軸に沿って炉底部3に投影した部分であり、中心軸と炉底部3との交点を施工中心とする形状を有している。
このように、施工領域82の形状が施工中心を用いて定義できる形状である場合(円形や楕円形のほか、施工中心からの距離rと角度θを用いた極座標系で表現可能な形状の場合)には、算出部74は施工領域82を形成する施工中心に近い内周側の線83と外周側の線84どうしの間隔が最短の第1距離(領域幅の狭い部分の長さ)と最長の第2距離(領域幅の広い部分の長さ)を算出する。
施工条件判定部75は、施工軌跡93を描く照射ノズル32の動作(施工)が施工条件記憶部71dの施工条件を満足するか否かを判定する。施工条件の一つに例えば施工ピッチ(施工密度)があるが、この条件で判定する場合、施工条件判定部75は、算出部74により算出された第1距離の間隔と第2距離の間隔を通過する施工軌跡93の一筆書きで往復する横線(周方向の線)の本数が施工条件の施工ピッチの条件を満たすか否かを判定する。
施工条件判定部75による判定の結果、施工軌跡93を描く照射ノズル32の動作(施工)が施工条件を満足すると判定された場合、軌跡生成部73により生成された施工軌跡93(のデータ)が施工軌跡記憶部71eに記憶される。
一方、施工条件判定部75による判定の結果、施工軌跡93を描く照射ノズル32の動作(施工)が施工条件を満足しないと判定された場合、施工領域分割部76は、施工条件の上記施工ピッチ等の条件を満たすように施工領域82を径方向に分割し、分割した領域を照射ノズル32の新たな施工領域(例えば、分割後の領域82a、82b)として施工領域記憶部71cに記憶させる。
より具体的には、施工領域分割部76は、施工領域82の、施工ピッチの条件を満たさない位置(例えば第1距離が施工条件を満たさない位置、つまり領域幅が規定の施工ピッチでは線が通らない狭くなる位置)に分割曲線87(図5参照)を配置し、その分割曲線87を境にして施工領域82を複数の領域(例えば領域82a、82b等)に分割する。
施工条件を満たす方法としては、施工領域82を分割する以外に、例えば施工パラメータを順に変更(例えば施工軌跡93を描く際の施工領域幅内に往復する線の本数を1本ずつ少なくする、または施工速度を上下させる)等の方法が考えられる。
また、施工条件に例えば照射ノズル32の姿勢変化率の許容値(閾値)が設定されており、施工軌跡93を描く際の姿勢変化率が施工条件にある姿勢変化率の許容値に収まらず、施工条件を満たさない場合は、施工条件を満たすように施工領域分割部76が施工領域82を分割してもよく、また、領域設定部72か施工領域分割部76が照射ノズル32の姿勢の設定を変更してもよい。つまり照射ノズル32の姿勢の設定である照射ノズル32の姿勢の角度の施工パラメータを例えば数度ずつ順に変更してもよい。
なお、施工領域分割部76は、施工領域82を設定する領域設定部72と一体的に設けても構わず、単一のソフトウエアやプログラムによりCPUなどの制御部により動作させるような構成としてもよい。
以下、図5乃至図8を参照してこの第1実施形態のレーザピーニングシステムの動作を説明する。図5は圧力容器10の炉底部3の計装管4の固定部分(溶接部)を円柱状に切り出した一部分を示す図である。
ここでは、レーザピーニングシステムにおいて、施工領域が3次元曲面となる立体(3次元形状)のワーク(湾曲した炉底部3)に対して、ワークの応力改善のために行うレーザピーニング加工の例(施工例)について説明する。
湾曲した面の炉底部3に対してレーザピーニングを行う場合は、照射ノズル32から照射するレーザ光6の照射点における大きさを表すスポット径とパルスレーザ周波数と、照射ノズル32の移動速度と送り量との関係から定義したレーザ照射密度を予め施工条件として記憶部71に記憶しておくものとする。
そして、このレーザ照射密度を施工条件として、設定した範囲内に収まるように施工領域全体を走査する施工を行う。
走査の仕方には様々な方法があるが、連続したレーザ照射施工動作を1パスとし、次のパスは領域の端部において一定量もしくは設定した量だけ送り、これを繰り返すことで施工領域全体をカバーする方法がある。
以降、加圧水型原子炉(PWR)圧力容器の炉底部にある中性子計装筒(BMI)管台の溶接部にレーザピーニング施工を行うレーザピーニング装置1用の施工データ(および施工制御データ)を作成する例を説明する。
図5は半球形状の原子炉圧力容器10を計装管4の1本の周囲で切り出した一部分を示している。図6はコンピュータ70による施工データ作成動作を示すフローチャートである。施工データ作成動作における各ステップの機能は、施工データ作成プログラムとしてコンピュータ70に実装されている。
図5において、計装管4は、原子炉圧力容器10の炉底部3に溶接されており、計装管4を中心とした溶接部(施工対象部位5)を含む周辺領域がレーザピーングの施工領域82である。
以下、図6のフローチャートを参照してこのレーザピーニングシステムにおけるコンピュータ70の動作を各ステップの順に説明する。
(施工領域設定ステップS101)
施工領域設定ステップS101では、施工領域を設定する。
この場合、同一中心で半径が異なる二つの円83、84を計装管4の上方から原子炉圧力容器10に投影する。内側の円83を施工領域82の内円(領域内側の輪郭線)といい、外側の円84を施工領域82の外円(領域外外側の輪郭線)という。この2つの円83、84の間の範囲を施工領域82として設定する。
(施工軌跡生成ステップS102)
この施工軌跡生成ステップS102では、施工領域設定ステップS101で設定した施工範囲82に多軸の施工装置の先端ツールである照射ノズル32にてレーザを照射するための施工軌跡を生成する。施工軌跡は、具体的にはレーザ照射点の位置情報の他、レーザ照射点におけるレーザ照射角度を決めるための照射ノズル32の姿勢情報を含めたデータ列が考えられる。
CAMの軌跡生成機能では、施工開始位置を表す始端境界線と施工終了位置を表す終端境界線を選択し、二つの境界線の端点を結んだ施工領域を指定した走査数で、分割した領域毎に施工軌跡82を生成する。
図5の例の場合、軌跡生成部73は、計装管4を中心軸として、放射方向(径方向)に引いた線(立体的には曲線)を始端境界線85とし、終端境界線も始端境界線85を選択した場合に、施工領域82全体の施工軌跡を生成する。
(施工条件の判定ステップS103)
次の施工条件の判定ステップS103では、施工軌跡生成ステップS102で生成された施工軌跡82に対して施工条件を判定する。レーザピーニングの場合、施工条件の一つとしてレーザ照射密度がある。レーザ照射密度は、パルスレーザの場合は、単位面積当たりのレーザ照射数で定義されるため、施工装置を一定速度で走査する場合には、隣り合う施工軌跡間距離によってレーザ照射密度が決まる。レーザピーニングの場合のレーザ照射密度は許容範囲が下限値と上限値で決められるため、施工軌跡間距離の下限値と上限値を満たせば施工条件を満足することになる。
施工軌跡生成ステップS102では、CAMの機能で施工領域82内の走査数を設定するため、計装管4を中心軸とした施工領域の内側の輪郭を描く円83(内周の線)と施工領域の外側の輪郭を描く円84(外周の線)を結ぶ径方向の曲線が最大長さとなる位置で施工軌跡間距離が最大となり、径方向の曲線が最小長さとなる位置で施工軌跡間距離が最小となる。
したがって、施工条件の判定ステップS103では、施工領域82内において計装管4を中心軸とした径方向の線86を始端境界線85から終端境界線まで走査した際の最大値と最小値からレーザ照射密度の施工条件判定を行うことができる。
図5の例では、施工領域内で径方向曲線長さが最も長い位置を始端境界線85として選択しており、この始端境界線85を施工軌跡間距離の上限値すなわちレーザ照射密度の下限値となるように走査数(分割数)を決定する。
始端境界線85を開始位置として、計装管4を上方から見て判定用曲線である線86を時計回り(矢印aの方向)に移動していった場合、施工条件判定部74は、線86の長さが施工軌跡間距離の下限値、すなわちレーザ照射密度の上限値となる位置が存在するかを判定する。
計装管4を中心軸として時計回りに移動した線86が一回りして元の始端境界線85の位置まで戻ってきた場合に、施工領域82の全範囲においてレーザ照射密度の条件(施工条件)を満足する施工軌跡のデータが得られるので、その得られた施工軌跡のデータを用いて、一括で施工軌跡(のデータ)を施工軌跡記憶部71eに記憶する。
一方、判定用の曲線である線86の長さが途中で施工軌跡間距離の下限値となった場合には、次の施工領域分割ステップS105の処理を行う。
(施工領域分割ステップS105)
施工領域分割ステップS105では、図5の例における線86の長さが施工軌跡間距離の下限値となった位置に分割曲線87を設定し、設定した分割曲線87を境に始端境界線85と分割曲線87の間の領域82aを施工領域82から分離(分割)し、残りの領域82bを新たに施工領域として再設定する。再設定した施工領域82bの開始点を分割曲線87の位置とし、この位置に新たな始端境界線85を再設定し、残りの領域82bに対して施工条件の判定ステップS103以降を繰り返すこととなる。
図5の例の場合、分割曲線87の位置を新たな始端境界線85とした場合に判定用曲線である線86は、ここを開始位置とした場合に時計回りにさらに短くなっていくことがわかっているため、始端境界線85を施工軌跡間距離の上限値として残りの領域82bに対する走査数(走査線の本数)を減らす等して決定し、施工条件の判定ステップS103から施工領域分割ステップS105を繰り返す。
上記の処理を施工領域82の全領域に対して実施した結果、当初の施工領域82に対して施工条件を満たすように分割する。
図5の例では、施工領域設定ステップS101において、分割した領域82a、82bそれぞれに対して走査数を例えば1本減らす等のパラメータ変更を行うことで、以前と異なる走査数を新たに設定し、最終的に施工軌跡生成ステップS102において、それぞれの施工領域に対する施工軌跡を生成する。
そして、最終的に、施工条件を満たした施工軌跡(のデータ)が施工軌跡記憶部71eに記憶される(ステップS106)。
以上、実施の形態を説明してきたが、判定用曲線である線86は、始端境界線85から順に走査する必要はなく、施工領域82が円を投影した場合等、ある程度施工領域形状が既知であれば、線86の長さが最短となる個所および最長となる個所が想定できるため、その位置での施工軌跡間距離が最短および最長となるように分割曲線87を設定することも可能である。
また、上述した例では、施工条件の判定ステップS103において、判定に用いた施工条件をレーザ照射密度とし、施工軌跡間距離を判定に用いたが、照射ノズル32の姿勢で決まるレーザ照射角度を施工条件に含めてもよい。この場合、図7に示すように、計装管4の中心軸を基準軸81として、この基準軸81に対してある一定角度傾けた照射ノズル32の姿勢32aを設定して施工軌跡生成ステップS102にて始端境界線85から時計回り(矢印aの方向)に施工軌跡を生成する。
レーザピーニングの場合、レーザ照射角度に上限値、下限値の範囲があり、傾斜面である炉底部3と照射ノズル32のなす角度(レーザ照射角度)の許容範囲を施工条件判定ステップS103において施工条件として設定しておき、この角度の許容範囲の施工条件を満たさなくなる個所に分割曲線87を配置し、その分割曲線87を境にして施工領域を領域82a、82bに分割し、領域82aの範囲では、照射ノズル32を姿勢32aで設定して施工軌跡を作成し、残りの領域82bでは、照射ノズル32の姿勢をより傾斜させた例えば図7の照射ノズル32の姿勢32bで施工を行うことで、最終的に施工対象の施工領域全体に対して施工条件を満たした施工軌跡を生成することができる。
また、上記施工条件の判定ステップS103において、レーザピーニング装置1の端部の照射ノズル32と施工対象物(計装管4や炉底部3の面)との干渉の有無を判定するステップを追加してもよい。この場合、施工領域分割部76は、照射ノズル32がワークと干渉する位置で施工領域82を領域82a、82bなどに分割し、照射ノズル32がワークと干渉しない姿勢でまず領域82aを施工した後、照射ノズル32を残りの領域82bの施工開始点に移動し、照射ノズル32がワークと干渉しない姿勢で領域82bに対して改めて施工軌跡93を生成する。
なお、上記実施形態は、レーザピーニングシステムを一例として説明したが、本発明は、レーザピーニングに限らず原子炉内構造物の補修のためのレーザ溶接装置やき裂検査のための渦電流検査装置などのセンシングツールの走査にも適用可能である。
レーザ溶接装置でのレーザ溶接の場合は施工条件の判定ステップS103において照射密度ではなく、レーザ照射角度やレーザ照射ノズルの姿勢変化率を施工条件として施工領域を分割することが考えられる。姿勢変化率とは、複数の点からなるレーザ照射パスのうち一つ前の点と一つ後の点でレーザ照射ノズルの姿勢(角度)がどの程度変化したかを示す値である。
渦電流検査装置の場合には、渦電流を検出するセンサ部を施工対象部位に垂直に押し当てるようにセンサ部の姿勢を施工条件として設定し、装置が干渉する場合は施工領域を分割し、センサ部の垂直軸回りの自由度を用いて干渉を回避できる姿勢を求めて施工領域全体の施工軌跡を生成する。
(第2実施形態)
この第2実施形態では、第1実施形態の動作と同じように図6のフローチャートに従い処理を行うが、施工領域82の形状が円もしくは楕円を投影した3次元形状以外の形状(施工中心からの距離rと角度θを用いた極座標系で表現できないような形状)の場合に対応できるようにしたものである。
第1実施形態では、施工条件判定ステップS103において、計装管4を中心軸とした径方向の判定用曲線である境界線86に対して施工条件を基に判定し施工領域82を分割したが、施工領域82の形状によっては判定境界線86の取り方が困難な場合がある。その場合でも施工軌跡間距離を算出する方法を、図8に示す3次元曲面の一部を施工領域90とする場合を例として説明する。
はじめに、施工軌跡生成ステップS102において、生成された施工軌跡93の各線に対して始端境界線85を開始点として等間隔点92を設定する。このとき、等間隔点92の間隔は施工条件のうち施工ピッチ(施工密度)の許容値の範囲内とすることが好ましく、施工パラメータの施工ピッチ(施工密度)の値に対して予め定めた範囲内に設定することがより好ましい。少なくとも、等間隔点92の間隔は施工ピッチの許容値のうちの上限値以下とし、施工ピッチの許容値の上限値を上回らないように設定する。この処理は施工軌跡生成ステップS102で行うものとする。
続く施工条件判定ステップS103では、施工軌跡93上に設定されたすべての等間隔点92について、各等間隔点92を取り囲むように隣接する等間隔点92のうち、施工軌跡93上の前後にある等間隔点92以外の等間隔点92に対する最短距離を算出する。
すなわち、これにより、各等間隔点92に対して、この等間隔点92を取り囲む施工軌跡93上の別の等間隔点92までの距離のうちの最短距離を求めることができる。なお、最短距離を算出する際に対象となる各等間隔点92に対し施工軌跡93上の前後にある等間隔点92を除くのは、等間隔点92の間隔を施工ピッチ(施工密度)の許容値のうちの上限値以下となるように設定していることによるものであり、等間隔点92の間隔を施工ピッチ(施工密度)に比較して十分に小さい値に設定した場合に、各等間隔点92に対し施工軌跡93上の前後に配置される等間隔点92までの距離が最短距離にならないようにするためである。
等間隔点92の間隔を、施工ピッチ(施工密度)の許容値の範囲内であり施工パラメータとして定められた実際の施工ピッチ(施工密度)に対して予め定めた範囲に設定する場合などには、最短距離を算出する際に対象となる各等間隔点92に対し施工軌跡93上の前後にある等間隔点92も含めた隣接する等間隔点92までの距離のうち最短のものを求めるように構成しても構わない。
この処理により各等間隔点92に対して施工領域90内において隣接する等間隔点92までの最短距離が得られるので、施工軌跡間距離の上限値、下限値の判定を行い、条件を満たさない場合にその点を含む境界線を分割線87として設定することができる。
このようにこの第2実施形態によれば、施工領域90の形状が施工中心からの距離rと角度θを用いた極座標系で表現できないような複雑な形状の場合であっても対応でき、施工データ作成装置としてコンピュータ70の汎用性を高めることができる。
(第3実施形態)
次に、図9、図10を参照して第3実施形態を説明する。なお、この第3実施形態において第1実施形態と同じ構成には同一の符号を付しその説明は省略する。すなわちこの第3実施形態は、第1実施形態の構成にさらに以下の構成を有する。
図9に示すように、コンピュータ70は、制御データ生成部77と干渉判定部78とを有し、記憶部71には、制御データ記憶部71fと干渉条件記憶部71gとを備える。
干渉条件記憶部71gには、施工ツールが移動しつつ施工予定線を描く際に施工ツールが施工対象物と干渉しないように施工対象物と施工ツールとの距離を含む干渉条件が記憶されている。制御データ生成部77は、施工軌跡記憶部71eに記憶された施工軌跡93のデータと施工パラメータ、CADデータを用いて、レーザピーニング装置1の動作を制御する制御データを生成する制御データ生成する。
制御データ生成部77は、施工装置が、例えばレーザピーニング装置1などのように回転関節および/または直動関節を有する複数の軸を駆動する多軸施工装置である場合、軌跡生成部73により生成された施工軌跡93を基に、複数の軸の動作を制御するデータを生成する。本発明は、上記レーザピーニング装置1の他、例えば渦電流探傷装置およびレーザ溶接装置などの多軸施工装置のティーチングにも適用できる。
干渉判定部78は、施工ツールが施工予定線を描く中で干渉条件記憶部71gに記憶されている干渉条件を満たすか否かを判定する。より具体的には、干渉判定部78は、例えば3次元シミュレータなどであり、制御データにより動作するレーザピーニング装置1の動作のシミュレーションを行い、干渉条件記憶部71gの干渉条件を基にレーザピーニング装置1がワークに干渉するか否かの判定を行い、干渉がない場合に制御データを制御データ記憶部71fに記憶する。
続いて、図10のフローチャートを参照して第3実施形態の動作を説明する。この第3実施形態では、ステップS106の処理までは、第1実施形態と同じように処理を行うためその手順の説明は省略する。
この第3実施形態は、図10に示すように、生成された施工軌跡93のデータを用いて、レーザピーニング装置1の動作を制御する制御データを生成する制御データ生成ステップS107と、その制御データを用いて照射ノズル32を含むレーザピーニング装置1全体と施工対象物(ワーク)との干渉判定を行う干渉判定ステップS108、S109とをさらに有する。
(制御データ生成ステップS107)
制御データ生成ステップS107では、レーザ照射点の位置情報の他、レーザ照射点における照射ノズル32の姿勢情報を含めたデータ列をインプット情報として、レーザピーニング装置1の照射ノズル32がその位置及び姿勢となるためのレーザピーニング装置1の各軸(ジョイント)の値を算出する処理を行う。この制御データ生成ステップS107の処理の結果、レーザピーニング装置1の制御データが得られる。
(干渉判定ステップS108、S107)
干渉判定ステップS108では、ワークおよびレーザピーニング装置1の3次元形状データを表示装置92に表示し、例えば3次元シミュレーションを行い、ワークとレーザピーニング装置1全体との干渉(接触や近接など)を判定する。干渉の判定は、3次元シミュレーションによるワークとレーザピーニング装置1との動的な当たりチェックだけでなく、ワークとレーザピーニング装置1のCADデータから互いの形状(外形)を重ね合わせて行う静的な判定であってもよい。
すなわち、制御データ生成ステップS107で生成された制御データを基に3次元シミュレータ内のレーザピーニング装置1をシミュレーション動作させることでワークとの干渉を判定する。
この干渉判定の結果、干渉すると判定、つまりレーザピーニング装置1とワークとの干渉箇所が明らかとなった場合には(ステップS109のYes)、処理を施工軌跡生成ステップS102に戻し、照射ノズル32の施工開始姿勢を施工条件範囲内で変更するなどしてレーザピーニング装置1が干渉しないよう施工パラメータのレーザピーニング装置1姿勢のパラメータを調整し、ステップ103以下の手順を再度実行する。
このようにこの第3実施形態によれば、上記第1実施形態の効果に加えて、制御データ生成部77および干渉判定部78を備えることで、ワークと動くレーザピーニング装置1全体との干渉判定を行うことで、施工時にワークと干渉しない、より確かなレーザピーニング装置1の施工制御データを生成することができる。
以上説明したように少なくとも一つの実施形態によれば、レーザピーニング装置1の動作を制御するデータを作成する上で、CADデータ上の干渉判定だけでなく、CAM機能により、予め設定した施工領域82をレーザピーニング装置1の可動部先端の照射ノズル32が動く施工軌跡を描き、その照射ノズル32の動きが施工条件を満たすか否かを判定し、施工条件を満たさない場合は施工領域82を分割し分割した新たな領域で施工データを生成するので、これまで長い期間と労力が必要であった3次元形状のワークに対するティーチング作業を短期間でかつ労力を要せずに実施することができる。
さらに、施工条件を満たした領域をレーザピーニング装置1が施工する際に、照射ノズル32だけでなくレーザピーニング装置1全体がワークに干渉するか否かの干渉判定を行うので、より確実な施工データを生成することができる。
また、上記実施形態によれば、レーザピーニング装置1等の施工装置を新規設計する際にも、作成した施工制御データを基にして施工条件を満足する施工装置を設計できるようになり、施工装置の設計段階で、施工が正常にできるかどうかといった施工の成立性を事前に確認することができる。
本発明の実施形態をいくつか説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
また上記実施形態に示したCAD/CAM用のコンピュータ70の各構成要素を、汎用のコンピュータのハードディスク装置などのストレージにインストールしたプログラムで実現してもよく、また上記プログラムを、コンピュータ読取可能な電子媒体:electronic mediaに記憶しておき、プログラムを電子媒体からコンピュータに読み取らせることで本発明の機能をコンピュータが実現するようにしてもよい。電子媒体としては、例えばCD−ROM等の記録媒体やフラッシュメモリ、リムーバブルメディア:Removable media等が含まれる。さらに、ネットワークを介して接続した異なるコンピュータに構成要素を分散して記憶し、各構成要素を機能させたコンピュータ間で通信することで実現してもよい。