以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本明細書において、各数値範囲の上限値、及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、本明細書において、「〜」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。さらに、本明細書において、長手方向(MD)は、微多孔膜連続成形の機械方向であり、幅方向(TD)は、微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向である。
<微多孔膜>
本発明の一態様は、ポリオレフィン微多孔膜である。ポリオレフィン微多孔膜は、電子伝導性が小さく、イオン伝導性を有し、有機溶媒に対する耐性が高く、かつ孔径の微細なものが好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜は、例えば二次電池などの電気化学デバイスのためのセパレータとして利用されることができる。
ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を含む微多孔膜、ポリオレフィン系の繊維の織物(織布)、ポリオレフィン系の繊維の不織布、紙、並びに、絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、膜への塗工工程における塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚を従来のセパレータより薄くして、電気化学デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜が好ましい。
ポリオレフィン樹脂を含む多孔膜は、その50質量%以上100質量%以下が、ポリオレフィンで形成される。ポリオレフィン微多孔膜が電気化学デバイス用セパレータとして使用されるときのシャットダウン特性の観点から、ポリオレフィン微多孔膜においてポリオレフィンの占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、
その平均膜厚が、3.0μm以上18.0μm未満であり、
その質量を基準として1.0質量%〜20.0質量%のポリプロピレンを含み、
その定長法熱機械分析(TMA)においてMD最大応力とTD最大応力の和が、0.10N/mm2以上1.20N/mm2未満であり、かつ
その膜厚換算透気度が、1.0s/(100cm3・μm)以上10.0s/(100cm3・μm)以下である。
このような特定の微多孔膜が良好な熱冷循環試験結果を与えるメカニズムについては以下のように考えられる。すなわち、高温から低温までの熱履歴が加えられた際には、微多孔膜の内部に特定の応力が発生し得るが、この応力値を適切に調節し、かつポリプロピレンを配合することにより、微多孔膜と電極の界面の剥離を抑制し、電圧を維持することが出来るものと考えられる。
ポリオレフィン微多孔膜の平均膜厚は、3.0μm以上であると、機械的強度を向上させる傾向にあり、18.0μm未満であると、リチウムイオン電池(LIB)などの電気化学デバイスに実装されたときにデバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させることで、デバイス容量を向上させる傾向にある。ポリオレフィン微多孔膜の機械的強度とデバイス容量の向上という観点から、平均膜厚は、5.0μm以上14.0μm未満の範囲内にあることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の平均膜厚は、例えば、その製造プロセスにおいて、ダイリップ間隔、延伸工程における延伸倍率などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
本実施形態では、ポリオレフィン微多孔膜が、その質量を基準として、1.0質量%〜20.0質量%のポリプロピレン(PP)を含むと、熱破膜耐性に優れ、孔径が小さくなる傾向にある。熱破膜耐性と小孔径化をさらに向上させるという観点から、ポリオレフィン微多孔膜のPP含有量は、1.0質量%〜15.0質量%であることが好ましく、1.0質量%〜12.0質量%であることがより好ましい。
PPの粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは200,000以上1,000,000以下、より好ましくは250,000以上900,000以下、さらに好ましくは300,000以上800,000以下である。理論に拘束されることを望まないが、PPのMvが200,000以上であることにより、例えばポリエチレン(PE)との併用時にPE中に均一にPPが分散され、PPの耐熱性を効果的に発現できると推測され、また、ポリオレフィン微多孔膜が300℃近い高温に達したときにも粘度が上がりすぎないため好ましい。PPのMvが1,000,000以下であることにより、膜中の重合体の分子量劣化を抑制し易くなり、また、ポリオレフィン微多孔膜の残留応力を抑制し易くなる。
ポリプロピレンのMvは、ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を測定することで、次式に従って算出することができる。
[η]=1.10×10−4Mv0.80
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリプロピレン(PP)としては、耐熱性と高温での溶融粘度を適度に高めるという観点からホモポリマーであることが好ましい。PPの具体例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等が挙げられる。中でも、アイソタクティックポリプロピレンが好ましい。アイソタクティックポリプロピレンの量は、ポリオレフィン微多孔膜全体のPPの総質量に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、よりさらに好ましくは100質量%(全て)である。
アイソタクティックポリプロピレンが全PPの90質量%以上を占めることにより、短絡時の昇温による微多孔膜の更なる溶融を抑制することができる。また、アイソタクティックポリプロピレンは結晶性が高いため、可塑剤との相分離が進行し易くなり、多孔性が良好で透過性の高い膜が得られる傾向にある。そのため、電気化学デバイスの出力又はサイクル特性に好ましい影響を与えることができる。さらに、ホモPPは非晶部が少ないため、融点以下の熱が掛かったとき又は残留応力によって非晶部が収縮したときにおける熱収縮の増加を抑制することができ、また、短絡初期にセパレータ温度が100℃前後に達したときに非晶部の収縮によって短絡面積が増加するという問題を抑制し易くなる。
ポリオレフィン微多孔膜の30.0質量%以上99.0質量%以下は、ホモPP以外のポリオレフィン、例えば、限定されるものではないが、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られるホモ重合体、共重合体又は多段重合体;エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等をモノマーとして用いて得られる共重合体又は多段重合体等であることができる。
ポリオレフィン微多孔膜が電気化学デバイス用セパレータとして使用されたときのシャットダウン特性の観点から、微多孔膜を構成するポリオレフィンとしては、ポリプロピレンと、ポリエチレン(PE)又はエチレン−プロピレン共重合体との混合物が好ましい。エチレン−プロピレン共重合体の具体例としては、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンラバー等が挙げられる。
特にPEは、融点及び溶融粘度が適した範囲にあることから、加工性とFuse特性の観点で好ましい。PEの具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、高分子量ポリエチレン(HMWPE)、及び超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)等が挙げられる。中でも、電気化学デバイスの熱暴走を初期段階で止めるという観点から、PEの融点は、好ましくは125℃以上140℃以下、より好ましくは130℃以上140℃以下である。
本明細書において、高分子量ポリエチレン(HMWPE)とは、粘度平均分子量(Mv)が100,000以上のポリエチレンを意味する。ポリエチレンのMvは、ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を測定することで、次式にて算出することができる。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
一般に、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)のMvは、1,000,000以上であるため、仮にかかる定義に従えば、本明細書における高分子量ポリエチレン(HMWPE)は、定義上、UHMWPEを包含する。また、かかる定義とは異なる定義に基づいて「超高分子量ポリエチレン」と称さるポリエチレンであっても、Mvが100,000以上である場合には、本実施形態における高分子量ポリエチレンに該当する可能性がある。
本明細書において、高密度ポリエチレン(HDPE)とは、密度0.942g/cm3〜0.970g/cm3のポリエチレンをいう。なお、ポリエチレンの密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
ポリオレフィン微多孔膜は、膜の融点を上昇させて製膜性を向上させたり、耐熱性を向上させたりするという観点から、HDPE及び/又はUHMWPEを含むことが好ましく、HDPEを含むことがより好ましい。同様の観点から、ポリオレフィン微多孔膜中のHDPEとUHMWPEの合計含有量は、ポリオレフィン微多孔膜の質量を基準として、50.0質量%〜99.0質量%であることが好ましく、70.0質量%〜99.0質量%であることがより好ましく、80.0質量%〜99.0質量%であることがさらに好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のPP含有量及びPP以外のポリオレフィンの含有量は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法において、ポリオレフィン樹脂原料の種類及び配合比、ポリオレフィン樹脂組成物の樹脂組成などを調整することにより最適化されることができる。
ポリオレフィン微多孔膜の物性又は原料特性の観点から、ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンは、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(分子量分布:Mw/Mn)が1.0以上15.0以下であることが好ましく、3.0以上12.0以下であることがより好ましく、5.0以上9.0以下であることがさらに好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜は、所望により、任意の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン100質量%に対して、20質量%以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下であり、0.01質量%以上であることができる。
<応力の制御>
ポリオレフィン微多孔膜の定長法熱機械分析(TMA)において、MD最大応力とTD最大応力の和が、0.10N/mm2以上1.20N/mm2未満であると、電気化学デバイス用セパレータとして使用されたときに、高温で、例えば、PE融点、130℃〜140℃、又は130℃以上136℃以下で、セパレータの収縮応力を抑制し、高温での絶縁層の収縮による電極のショートを防ぐことができる。
また、ポリオレフィン微多孔膜の定長法TMAにおいて0.10N/mm2≦MD最大応力+TD最大応力<1.20N/mm2であると、熱冷循環試験においても、セパレータの残留応力が小さくなり、急激な温度変化に伴う電気化学デバイスの各部材の膨張収縮に対して掛かる応力が小さくなるため、電気化学デバイスの損傷・破裂を抑えることができる。
ポリオレフィン微多孔膜のTMAの定長法は、TMA装置を定長モードに設定することにより実行されることができ、より詳細には実施例に記載の方法により行われることができる。ポリオレフィン微多孔膜の定長法TMAにおいて測定されるMD最大応力とTD最大応力の和は高温でのセパレータの収縮応力、及び熱冷循環試験におけるセパレータの残留応力を抑制するという観点から、0.3N/mm2〜1.1N/mm2であることが好ましく、0.5N/mm2〜1.0N/mm2であることがより好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のTMA測定において、TD最大応力に対するMD最大応力の比(MD最大応力/TD最大応力)は、好ましくは0.75以上1.50以下、より好ましくは0.80以上1.45以下、更に好ましくは0.85以上1.40以下、より更に好ましくは0.90以上1.35以下である。上記の比率(MDの最大荷重/TDの最大荷重)が0.75以上1.5以下であることにより、異方性による亀裂の発生による短絡面積の増加を抑制し易くなる。
高温時の収縮応力と熱冷循環試験時の残留応力を抑制するという観点からは、MD最大応力は、TD最大応力よりも大きいことが好ましい。同様の観点から、MD最大応力は、好ましくは0.30N/mm2〜0.80N/mm2、より好ましくは0.38N/mm2〜0.70N/mm2であり、そしてTD最大応力は、好ましくは0.20N/mm2〜0.50N/mm2、より好ましくは0.31N/mm2〜0.48N/mm2である。
定長法TMAにおいて測定されるポリオレフィン微多孔膜のMD最大応力、TD最大応力、及びそれらの和は、例えば、限定されるものではないが、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、(i)ポリオレフィン原料として、粘度平均分子量(Mv)1,000,000以上のUHMWPEを使用しないこと;(ii)ポリオレフィン樹脂組成物の成形体を(Tm2onset−8℃)以上の温度で、予熱係数200以上300未満で予熱すること;(iii)成形体を面倍率40倍以上で延伸すること;(iv)成形体を予熱温度より高い温度で延伸すること;(v)成形体を同時二軸延伸することなどにより上記で説明された範囲内に調整されることができる。
本明細書では、「Tm2onset」とは、ポリオレフィン微多孔膜の示差走査熱量(DSC)測定における二回目昇温ピークの立ち上がり温度をいい、そして融点(Tm)とは、ポリオレフィン微多孔の示差走査熱量(DSC)測定における二回目昇温ピークの極大温度をいう。なお、二回目昇温ピークが複数ある場合には、それらのうちで吸熱面積が最大のピークを選ぶこととする。DSCは、ポリオレフィンの融点測定に利用されることができ、より詳細には実施例に記載の方法により行われることができる。
本明細書では、「予熱」は、湿潤(wet)状態の成形体(「原反」と呼ばれる場合もある)の延伸工程において、原反が延伸機炉内に入ってから延伸開始するまでに行われ、そして「予熱係数(min・℃)」=予熱温度×予熱時間である。
ポリオレフィン微多孔膜の粘度平均分子量(Mv)は、300,000以上900,000以下であることが好ましい。微多孔膜のMvが300,000以上900,000以下の範囲内にあると、膜の収縮応力の上昇を抑制し、膜の溶融時の形態保持により絶縁機能を確保し易い。このような観点から、微多孔膜のMvは、より好ましくは350,000〜850,000、さらに好ましくは400,000〜850,000の範囲内にある。
ポリオレフィン微多孔膜のMvは、ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を測定することで、次式にて算出することができる。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
なお、ポリオレフィン微多孔膜中にPPが含有される場合も上式で算出することとする。
熱冷循環試験時に、又は電気化学デバイスに実装された後の電気化学デバイスの膨張収縮時に、電気化学デバイスの各部材に掛かる応力を抑制するという観点から、ポリオレフィン微多孔膜の引張試験において、MD引張弾性率が、3000kgf/cm2以上8000kgf/cm2以下であることが好ましく、3000kgf/cm2以上7000kgf/cm2以下であることがより好ましく、3000kgf/cm2以上6500kgf/cm2以下であることがさらに好ましく、かつ/又はTD引張弾性率が、3000kgf/cm2以上5000kgf/cm2以下であることが好ましく、3000kgf/cm2以上4500kgf/cm2以下であることがより好ましく、3000kgf/cm2以上4000kgf/cm2以下であることがさらに好ましい。
高温時の収縮応力と熱冷循環試験時の残留応力をさらに抑制するという観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の引張試験において、MD引張弾性率は、TD引張弾性率よりも大きいことが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜のMD引張弾性率は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン樹脂組成物の成形体の延伸温度を(Tc+5℃)以上(Tc+15℃)以下の範囲内に制御すること;PP原料と併用されるPE原料の結晶化度を最適化することなどによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。本明細書では、「Tc」とは、結晶化温度をいい、ポリオレフィン微多孔の示差走査熱量(DSC)測定における降温ピークの極大温度をいう。なお、降温ピークが複数ある場合には、それらのうちで発熱面積が最大のピークを選ぶこととする。本実施形態では、原料がPEの場合にはTc≒118℃である。
ポリオレフィン微多孔膜のTD引張弾性率は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン樹脂組成物の成形体の延伸温度を(Tc+5℃)以上(Tc+15℃)以下の範囲内に制御すること;熱固定工程での緩和率を15%以下に設定することなどによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
ポリオレフィン微多孔膜は、高温での収縮応力を抑制し、電気化学デバイスに実装されたときに高温での絶縁層の収縮による電極のショートを防ぐという観点から、0.30N以上5.40N以下の突刺強度を有することが好ましく、そして膜厚1μm当たりの突刺強度(膜厚換算突刺強度)が、0.10N/μm以上0.30N/μm以下であることが好ましく、0.12N/μm以上0.30N/μm以下であることがより好ましく、0.15N/μm以上0.30N/μm以下であることがさらに好ましい。膜厚換算突刺強度と関連して、ポリオレフィン微多孔膜の平均膜厚は、3.0μm以上18.0μm未満であり、5.0μm以上14.0μm未満であることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度及び膜厚換算突刺強度は、定長法TMAにおいて測定される最大応力の制御と同様に上記(i)〜(v)などを含むポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、上記で説明された範囲内に調整されることができる。
<透気度の制御>
ポリオレフィン微多孔膜の膜厚1μm当たりの透気度(膜厚換算透気度)が、1.0s/(100cm3・μm)以上10.0s/(100cm3・μm)以下の範囲内にあると、膜のイオン拡散性が高まり、例えばリチウムイオン蓄電デバイスなどの電気化学デバイスにおけるLiイオン拡散性も高めることにより電気化学デバイスの出力を向上させることができる。
ポリオレフィン微多孔膜の膜厚換算透気度は、膜のイオン拡散性を高めることにより電気化学デバイスの出力をさらに向上させるという観点から、3.0s/(100cm3・μm)以上10.0s/(100cm3・μm)以下であることが好ましく、5.0s/(100cm3・μm)以上8.0s/(100cm3・μm)以下であることがより好ましい。膜厚換算透気度と関連して、ポリオレフィン微多孔膜の平均膜厚は、3.0μm以上18.0μm未満であり、5.0μm以上14.0μm未満であることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜を電気化学デバイス用セパレータとして使用するという観点から、ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、好ましくは30s/100cm3以上、より好ましくは40s/100cm3以上、さらに好ましくは50s/100cm3以上であり、また透気度は、好ましくは500s/100cm3以下、より好ましくは400s/100cm3以下、さらに好ましくは300s/100cm3以下、よりさらに好ましくは200s/100cm3以下、最も好ましくは100s/100cm3以下である。透気度が30s/100cm3以上であることにより、セパレータの自己放電を抑制することができる。透気度が500s/100cm3以下であることにより、電気化学デバイスの出力を担保することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の透気度及び膜厚換算透気度は、例えば、限定されるものではないが、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、熱固定温度を(Tm−7℃)以上(Tm−3℃)以下の範囲内に制御したり、例えばTDの熱固定倍率を1.3倍以上に設定したりすることによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
<応力制御と透気度制御の関係>
上記で説明されたポリオレフィン微多孔膜によれば、電気化学デバイス用セパレータとして使用されるときに、デバイスに掛かる応力を制御して安全性とサイクル特性を向上させるだけでなく、セパレータの透気度を最適化してデバイス出力を向上させることもできることが見出された。
<孔径・曲路率の制御>
本実施形態では、電気化学デバイス用セパレータとして使用されるポリオレフィン微多孔膜の高温時の収縮応力及び残留応力の抑制に加えて、電気化学デバイスのサイクル特性及び出力の向上とを実現するために、ポリオレフィン微多孔膜の孔径及び/又は曲路率の制御が好ましいことが見出された。
細孔径が特定の水準より小さいポリオレフィン微多孔膜を電気化学デバイス用セパレータとして用いることで、電流が一点に集中して流れることによる電気化学デバイスの劣化を抑制し、サイクル特性を向上させることができる。このような観点から、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、0.030μm以上0.075μm以下であることが好ましく、0.030μm以上0.072μm以下であることがより好ましく、0.030μm以上0.070μm以下であることがさらに好ましい。なお、平均孔径が0.030μm以上であると、電気化学デバイスの出力も向上する傾向にある。
ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、押出成形に供されるポリオレフィン樹脂組成物のポリマー含有率(Pc)を30質量%以上40質量%未満の範囲内に制御したり、ポリオレフィン樹脂組成物にPPを含有させたり、5℃<(熱固定温度−延伸温度)<20℃の条件下で熱固定工程を行なったり、熱固定工程時の延伸歪速度を5%〜10%の範囲内に制御したり、熱固定時の延伸温度をTc以上(Tc+10℃)以下の範囲内に制御したり、総延伸倍率を70倍以下に設定したりすることによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
ポリオレフィン微多孔膜の曲路率は、1.0以上2.0以下であることが好ましく、1.0以上1.9以下であることがより好ましい。曲路率が上記の数値範囲内にあるように設計されたポリオレフィン微多孔膜は、電気化学デバイス用セパレータとしてのイオン拡散性、特にリチウム(Li)イオン拡散性を制御して、セパレータの孔径を大きくすることなくデバイスの高出力化を可能にする傾向にある。この傾向は、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径の制御と併用されると、顕著になる。
ポリオレフィン微多孔膜の曲路率は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の製造プロセスにおいて、二軸延伸の面倍率を40倍以上に制御したり、熱固定工程において緩和率を15%以下に、かつ/又は熱固定温度を(Tm−7℃)以上(Tm−3℃)以下の範囲内に制御したりすることによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
<応力制御と孔径・曲路率制御の関係>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、上述のとおりに孔径・曲路率を制御したうえで加熱時の収縮応力を抑制することによって、電気化学デバイス用セパレータの熱収縮の抑制と電気化学デバイスのサイクル特性の向上及び高出力化とを実現し得ることが見出された。
<その他の性質>
ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径は、好ましくは0.01μm以上0.70μm以下、より好ましくは0.02μm以上0.20μm以下、さらに好ましくは0.03μm以上0.15μm以下、よりさらに好ましくは0.04μm以上0.10μm以下、最も好ましくは0.05μm以上0.08μm以下である。平均孔径が0.01μm以上であることにより、良好なイオン電導性を持つため好ましい。平均孔径が0.70μm以下であることにより、良好なサイクル特性を持つため好ましい。平均孔径は、ポリオレフィンの組成比、二軸延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、及び熱固定時の緩和率を制御すること、並びにこれらを組み合わせることにより調整することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の最大孔径は、好ましくは0.02μm以上1.00μm以下、より好ましくは0.03μm以上0.30μm以下、さらに好ましくは0.04μm以上0.20μm以下、よりさらに好ましくは0.05μm以上0.15μm以下、最も好ましくは0.06μm以上0.10μm以下である。最大孔径が0.02μm以上であることにより、良好なイオン電導性を持つため好ましい。最大孔径が1.00μm以下であることにより、電池内副生成物による目詰まり又は自己放電を防止することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の最大孔径と平均孔径の差(最大孔径−平均孔径)は、良好なサイクル特性の観点から、好ましくは0.001μm以上0.3μm以下、より好ましくは0.003μm以上0.1μm以下、さらに好ましくは0.005μm以上0.05μm以下、よりさらに好ましくは0.008μm以上0.03μm以下、最も好ましくは0.01μm以上0.02μm以下である。
ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、好ましくは25%以上95%以下、より好ましくは30%以上65%以下、更に好ましくは35%以上55%以下、最も好ましくは37%以上50%以下である。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、イオン伝導性向上の観点から25%以上であることが好ましく、耐電圧特性の観点から95%以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の気孔率は、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合比率、二軸延伸温度、延伸倍率、熱固定温度、熱固定時の延伸倍率、及び熱固定時の緩和率を制御すること、並びにこれらを組み合わせることによって調整することができる。
ポリオレフィン微多孔膜は、昇温速度15℃/minで測定されるシャットダウン温度が150℃以下であることが好ましい。昇温速度15℃/minで測定されるシャットダウン温度が150℃以下であることにより、電気化学デバイスの短絡時の急激な昇温のときに内部抵抗を瞬時に増大させることで熱暴走を抑制し易くなる。シャットダウン温度は、好ましくは150℃以下、より好ましくは149℃以下、さらに好ましくは148℃以下、より更に好ましくは147℃以下、最も好ましくは146℃以下であり、またシャットダウン温度は、好ましくは135℃以上、より好ましくは137℃以上、さらに好ましくは139℃以上である。シャットダウン温度が135℃以上であることにより、低温での樹脂の溶融・流出による熱暴走を防止し易くなると推測できる。
昇温速度15℃/minで測定されるシャットダウン温度は、例えば、使用するポリオレフィン原料の選定、溶融混錬時の比エネルギー、溶融混錬時のポリマー濃度又は混錬温度、延伸時の歪速度等、各種の製造条件(例えば、下記表1に記載の製膜条件)を制御することにより、上記で説明されたとおりに調整されることができる。
<ポリオレフィン微多孔膜の製造方法>
本発明の別の態様は、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供する。ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、例えば、以下の方法:
(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形した後、必要に応じて延伸した後、孔形成材を抽出することにより多孔化させる方法;
(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;
(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート状に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;
(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法
などが挙げられる。
以下、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法の一例として、上記(1)ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材とを溶融混練してシート状に成形後、孔形成材を抽出する方法を説明する。
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、上記で説明したとおり、高温での収縮応力と透気度と細孔径と曲路率を抑制するために、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の両方を含むことが好ましいものである。一般に、ポリオレフィン微多孔膜の高温での収縮応力を抑制するためには、セパレータの延伸時に掛ける歪応力を小さくすることが必要である。しかしながら、そのような一般的な延伸条件では、PEラメラが十分に開裂せず、細孔径が小さくならないことが見出された。したがって、上記(1)の方法は、後述される延伸工程の予熱条件により延伸時の歪応力を小さく保つことで高温での収縮応力を抑制しつつ小孔径化を達成するために、延伸工程での予熱温度・予熱係数・延伸倍率、熱固定(HS)工程での延伸温度・緩和率・緩和温度(以下、「熱固定温度」ともいう)などにより孔径・曲路率を制御することを特徴としており、低い収縮応力と制御された孔構造を有するポリオレフィン微多孔膜及びセパレータを提供することができる。また、本実施形態では、予熱の一指標としてTm2onsetを、延伸の一指標としてTcを、熱固定の一指標としてTmをそれぞれ使い分けることが好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法において、先ず、ポリオレフィン樹脂組成物と孔形成材を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、及び必要によりその他の添加剤を押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入することで、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で孔形成材を導入して混練する方法が挙げられる。
孔形成材としては、可塑剤、無機材又はそれらの組み合わせを挙げることができる。
可塑剤としては、特に限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。なお、これらの可塑剤は、抽出後、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。更に、好ましくは、樹脂混練装置に投入する前に、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤、及び可塑剤を、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練する。より好ましくは、事前混練においては、使用される可塑剤の一部分を投入し、残りの可塑剤は、樹脂混練装置に適宜加温しサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸するときに、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
可塑剤の中でも、流動パラフィンは、ポリオレフィン樹脂がポリエチレン又はポリプロピレンの場合に、これらとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤の界面剥離が起こり難く、均一な延伸が実施し易くなる傾向にあるため好ましい。
ポリオレフィン原料と可塑剤を含む組成物中に占めるポリオレフィン原料の質量分率は、樹脂組成物の質量を基準として、好ましくは18質量%以上35質量%未満、より好ましくは20質量%以上33質量%未満、更に好ましくは22質量%以上31質量%未満である。ポリオレフィン原料の質量分率が35質量%未満であると、混錬時のエネルギーが上がり過ぎないため、重合体同士の過度な絡み合いによる分子量の劣化を抑制することができるため、ポリオレフィン微多孔膜の特性を損なうことがない。一方、ポリオレフィン原料の質量分率が18質量%以上であると、溶融混錬時に十分なエネルギーを与えることができ、重合体同士の絡み合いにより均一に混錬されるため、ポリオレフィン原料と可塑剤との混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン分子鎖の絡み合いの解れが起こらず、均一かつ微細な孔構造を形成し易く、強度も増加し易い。
得られるポリオレフィン微多孔膜の熱破膜性及び/又は平均孔径を上記で説明されたとおりに制御するという観点から、ポリオレフィン原料としてPPを使用することが好ましい。また、得られる微多孔膜の耐熱破膜性及び小孔径化の観点から、ポリオレフィン原料として、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)の混合物を用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物に用いられるPPの割合は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは1.0質量%以上20.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以上12.0質量%以下、又は1.0質量%以上10.0質量%以下、よりさらに好ましくは2.0質量%以上8.0質量%以下である。PP割合が1.0質量%以上であることにより、ポリオレフィン微多孔膜が150℃前後の高温に達したときに容易に破膜し辛くなり、電池短絡時の初期に微小なピンホールが生じ難くなる。PP割合が20.0質量%以下であることにより、300℃近い高温に達したときに溶融した樹脂の流動性が大きくなり過ぎず、樹脂の流出又は電極への過度な染み込みによる電極の露出による熱暴走を回避し易くなる。
ポリオレフィン樹脂組成物がPPとPEの両方を含む場合には、PE含有量は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは93質量%以上であり、また99質量%未満であることができる。
また、ポリオレフィン樹脂組成物がPPとPEの両方を含む場合には、PEのMvが、200,000以上950,000以下であることが好ましい。PEとPPの併用時に、PEのMvが200,000以上であると、ポリオレフィン分子の絡み合い効果を十分に発現することができ、微多孔膜の強度を担保することができる。また950,000以下であると、原料同士の溶融粘度差が広がりすぎないため、シート成型時にポリマーが安定して流動するので、外観が良好な微多孔膜が得られる。このような観点から、PEのMvは、より好ましくは250,000〜900,000、さらに好ましくは300,000〜850,000の範囲内にある。また、PEの示差走査熱量計(DSC)から求められる結晶化度は、得られるポリオレフィン微多孔膜のMD及びTD引張弾性率及び融点Tmを上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、50%以上80%未満であることが好ましい。
ポリオレフィン樹脂組成物のポリオレフィン原料として、複数のPE樹脂を混合して用いてよい。複数のPE樹脂を併用する場合、ポリオレフィン樹脂組成物は、Mvが10万以上30万以下のPEとMvが50万以上100万未満のPEを含むことが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜は、Mvが10万以上30万以下のPEを含むことにより、(a)溶融混錬時に粘度が上がり過ぎることなく、ポリオレフィンの分子量劣化を抑制することができ、延伸時に過度な残留応力が残らず、熱収縮が小さくなる傾向にあり、また(b)温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあり、さらに(c)微多孔膜の溶融時に粘性が生じ易くなるため、電気化学デバイスの短絡後の溶融時に適度に電極に適度に侵入してアンカー効果を発現し易くなり、熱収縮を抑えて短絡面積の増加を抑制し易くなると推測される。ポリオレフィン微多孔膜は、Mvが50万以上100万未満のPEを含むことにより、(d)溶融混錬時に応力が大きくなり、樹脂を均一に混錬することが可能になり、また(e)ポリオレフィン微多孔膜が重合体同士の絡み合いを発現するため、高強度となる傾向にあると共に、ポリオレフィン微多孔膜が溶融し300℃近くの高温に達したときに粘度が下がり過ぎることなく、樹脂が流出せずにその場にとどまり易くなるため、熱暴走を抑制し易くなると推測される。
ポリオレフィン原料として用いられるMvが10万以上30万以下のPEの割合は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは25質量%以上75質量%以下、より好ましくは30質量%以上70%質量以下、さらに好ましくは35質量%以上65質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以上60質量%以下である。Mvが10万以上30万以下のPEの割合が25質量%以上であることにより、良好なシャットダウン特性、熱収縮抑制効果、高温に達したときに適度な粘性を持つことによる短絡面積の増加抑制効果を得ることができる傾向にある。Mvが10万以上30万以下のポリエチレンの割合が75質量%以下であることにより、溶融混錬時に重合体同士の絡み合いを発現することができる傾向にあり、また、ポリオレフィン微多孔膜が高温に達したときに溶融した樹脂の流動性が大きくなり過ぎず、樹脂の流出による電極の露出による熱暴走を回避することができる傾向にある。
ポリオレフィン原料として用いられるMvが50万以上100万未満のPEの割合は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは25質量%以上75質量%以下、より好ましくは30質量%以上70%質量以下、さらに好ましくは35質量%以上65質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以上60質量%以下である。Mvが50万以上100万未満のPEの割合が25質量%以上であることにより、ポリオレフィン微多孔膜の高強度化、高温に達したときに樹脂が流出せずに熱暴走を抑制する効果を得ることができる傾向にある。Mvが50万以上100万未満のPEの割合が70質量%以下であることにより、延伸時に過度な残留応力が残らず、熱収縮が小さくなる傾向にあり、また、温度上昇時に孔を閉塞し易く、良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあると同時に、ポリオレフィン微多孔膜が溶融したときに粘性が生じるため、電池の短絡後の溶融時に適度に電極に侵入してアンカー効果を発現し、熱収縮を抑えて短絡面積の増加を抑制し易くなると推測される。
ポリオレフィン樹脂組成物は、得られるポリオレフィン微多孔膜の融点上昇による製膜性向上、及び耐熱性の観点から、ポリオレフィン原料として、高密度ポリエチレン(HDPE)及び/又は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含むことが好ましく、HDPEを含むことがより好ましい。同様の観点から、ポリオレフィン樹脂組成物中のHDPEとUHMWPEの合計含有量は、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、50.0質量%〜95.0質量%であることが好ましく、70.0質量%〜95.0質量%であることがより好ましく、80.0質量%〜95.0質量%であることがさらに好ましい。
他方、ポリオレフィン樹脂組成物は、得られるポリオレフィン微多孔膜の収縮応力を上記で説明したとおりに制御するという観点から、ポリオレフィン原料として、Mvが1,000,000以上のUHMWPEを含まないことが好ましい。
したがって、ポリオレフィン微多孔膜の所望の特性、例えば、融点、製膜性、耐熱性、収縮応力などのバランスに応じて、ポリオレフィン原料中のUHMWPEの有無を決定することができる。
ポリオレフィン原料としての低密度ポリエチレン(LDPE)については、ポリオレフィン樹脂組成物中のLDPE含有量が、ポリオレフィン原料の総量を100質量%として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下又は5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下(又は3質量%未満、更には1質量%未満)であり、そして最も好ましくは、ポリオレフィン樹脂組成物はLDPEを含まない。LDPE割合が10質量%以下であることにより、ポリオレフィン微多孔膜が150℃前後の高温に達したときに容易に破膜し辛くなり、300℃近い高温に達したときに溶融した樹脂の流動性が大きくなり過ぎず、樹脂の流出による電極の露出による熱暴走を回避することができる傾向にある。同様の理由からMvが50,000未満の低分子量ポリエチレン(LMWPE)は、本発明における作用効果の発揮を著しく阻害しない範囲内であればポリオレフィン樹脂組成物に含まれてよく、その含有量は例えばLDPEの場合と同様であり、そしてMvが50,000未満のLMWPEは、ポリオレフィン樹脂組成物に含まれないことが好ましい。
ポリオレフィン樹脂多孔膜の物性又は原料特性の観点から、ポリオレフィン原料は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(分子量分布:Mw/Mn)が1.0以上15.0以下であることが好ましく、3.0以上12.0以下であることがより好ましく、5.0以上9.0以下であることがさらに好ましい。
ポリオレフィン樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量%に対して、20質量%以下であることがシャットダウン性能等を向上させる観点から好ましく、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
ポリオレフィン樹脂組成物中のポリマー含有量(PC)は、得られるポリオレフィン微多孔膜の平均孔径を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、ポリオレフィン樹脂組成物の質量を基準として、25質量%以上40質量%未満であることが好ましく、30質量%以上35質量%以下であることが好ましい。本明細書では、PC算出には、ポリオレフィンであるかどうかを問わず、最終的に膜を構成する全ての原料を含めるものとする。
孔形成材とポリオレフィン原料の溶融混錬を行う場合には、ポリオレフィン原料と孔形成材の混錬時の比エネルギーが0.10kW・h/kg以上0.40kW・h/kg以下であることが好ましく、より好ましくは0.12kW・h/kg以上0.35kW・h/kg以下がより好ましく、0.14kW・h/kg以上0.30kW・h/kg以下が更に好ましい。比エネルギーは孔形成材とポリオレフィン原料の溶融混錬時にかかる押出機のスクリューの動力P(kW)を孔形成材とポリオレフィン原料の単位時間当たりの押出量Q(kg/h)で除した値である。押出機のスクリューの動力P(kW)は押出時にスクリューにかかるトルクをT(N・m)、スクリュー回転数をN(rpm)とし、下記式から求めることができる。
P=T×N/9550
比エネルギーが0.10kW・h/kg以上であることにより、重合体同士の絡み合いを促進し、異なるポリオレフィン原料を均一に混錬することで孔径が均一で強度の高いポリオレフィン微多孔膜を得ることができる傾向にある。また、ポリオレフィン微多孔膜が溶融したときに重合体同士の絡み合いにより急激な粘度低下を抑制することができると推測される。比エネルギーが0.40kW・h/kg以下であることにより、過度な混錬による重合体の開裂又は分解による分子量劣化又は酸化劣化を抑制し、ポリオレフィン微多孔膜が溶融し、高温に達したときの粘度低下を抑制し易くなると推測される。
押出機により孔形成材とポリオレフィン原料の溶融混錬を行う場合には、溶融混錬区間の温度(混錬温度)は、溶融混錬時の比エネルギー又はポリオレフィン微多孔膜の膜強度、孔径均一性の観点から好ましくは140℃以上200℃未満、より好ましくは150℃以上190℃未満である。
押出機により孔形成材とポリオレフィン原料の溶融混練を行う場合には、ポリオレフィン原料と孔形成材の単位時間当たりの押出量(すなわち、押出機の吐出量Q:kg/時間)と押出機のスクリュー回転数N(rpm)との比(Q/N、単位:kg/(h・rpm))は、溶融混錬時の比エネルギー又はポリオレフィン微多孔膜の膜強度、孔径均一性の観点から好ましくは2.2以上7.8以下、より好ましくは2.5以上7.5以下、更に好ましくは2.8以上7.2以下、より更に好ましくは3.1以上6.9以下である。
次に、溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、可塑剤等が挙げられる。これらの中でも、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。また、押出した混練物を金属製のロールに接触させるときに、少なくとも一対のロールで挟み込むことは、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるため、より好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押出すときのダイリップ間隔は、200μm以上3,000μm以下であることが好ましく、500μm以上2,500μm以下であることがより好ましい。ダイリップ間隔が200μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジ又は欠点等の膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において、膜破断等のリスクを低減することができる。一方、ダイリップ間隔が3,000μm以下であると、冷却速度が速く、冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
また、シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法により実施することができる。シート状成形体に圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し、最終的に得られる多孔膜の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
(延伸)
シート状成形体又は多孔膜が延伸される延伸工程は、シート状成形体から孔形成材を抽出する工程(孔形成工程)の前に行ってよいし、シート状成形体から孔形成材を抽出した多孔膜に対して行ってもよい。更に、延伸工程は、シート状成形体からの孔形成材の抽出の前と後に行ってもよい。
得られるポリオレフィン微多孔膜の収縮応力、定長法TMAにおいて測定される最大応力、突刺強度、膜厚換算突刺強度などを上記で説明されたとおりに制御するという観点から、延伸工程において予熱を行うことが好ましい。同様の観点から、湿潤状態のシート状成形体を予熱に供することが好ましく、予熱温度は、(Tm2onset−8℃)以上であることが好ましく、120℃〜131℃であることがより好ましく、かつ/又は予熱係数は、200以上300未満であることが好ましい。
延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも用いることができるが、得られる微多孔膜の応力及び/又は突刺強度を上記で説明されたとおりに制御するという観点から、二軸延伸が好ましい。また、得られた多孔膜の熱収縮性の観点から、少なくとも2回の延伸工程を行うことが好ましい。
シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができる。孔径の均一性、延伸の均一性、シャットダウン性の観点からは、同時二軸延伸が好ましい。
本明細書では、同時二軸延伸とは、MD延伸とTD延伸が同時に施される延伸方法をいい、各方向の延伸倍率は異なってもよい。逐次二軸延伸とは、MD及びTDの延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD又はTDに延伸が為されているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている状態とする。
延伸倍率は、一軸延伸又は二軸延伸のいずれについても面倍率で28倍以上100倍未満の範囲であることが好ましく、32倍以上70倍以下の範囲であることがより好ましく、36倍以上50倍以下であることが更に好ましい。面倍率が28倍以上であると、得られるポリオレフィン微多孔膜の強度が高まると共に孔径が小さくなり過ぎないため、サイクル特性に優れる。他方、面倍率が100倍未満であると、残留応力が大きくなり過ぎないため過度な熱収縮を防ぐことができ、破断伸度の低下を防ぐことができ、過度な大孔径化又は孔径の不均一化を防ぐことができる。二軸延伸の場合には、延伸倍率は、得られるポリオレフィン微多孔膜の定長法TMAにより測定される最大応力、膜厚換算突刺強度及び曲路率を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、面倍率で40倍以上であることが好ましく、40倍以上100倍未満の範囲内にあることがより好ましく、41倍以上70倍以下の範囲にあることがさらに好ましく、42倍以上49倍未満の範囲内にあることがよりさらに好ましい。同様の観点から、各軸方向の延伸倍率は、MDに4倍以上10倍未満、TDに4倍以上10倍未満の範囲内にあることが好ましく、MDに5倍以上9倍未満、TDに5倍以上9倍未満の範囲内にあることがより好ましく、MDに5.5倍以上8.5倍未満、TDに5.5倍以上8.5倍未満の範囲内にあることがさらに好ましい。
シート状成型体又はポリオレフィン微多孔膜の延伸時の温度は、微多孔膜の応力及び/又は突刺強度を上記で説明されたとおりに制御するという観点からは、予熱温度よりも高いことが好ましく、かつ/又は微多孔膜のMD及びTD引張弾性率を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点からは、(Tc+5℃)以上(Tc+15℃)以下の範囲内にあることが好ましい。具体的な延伸温度は、120℃を超えることが好ましく、122℃を超えることがより好ましく、また131℃以下であることが好ましく、129℃以下であることがより好ましい。延伸温度、特に二軸延伸時の温度が120℃を超えることにより、過度な残留応力による熱収縮の増加を抑制することができる。延伸温度、特に二軸延伸時の温度が131℃以下であることにより、ポリオレフィン微多孔膜に十分な強度を与えることができると共に、膜表面の溶融による孔径分布の乱れを防ぎ、電池の充放電を繰り返したときのサイクル性能を担保することができる。
ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮を抑制するために、延伸工程後又はポリオレフィン微多孔膜形成後の熱処理により熱固定工程を行うことが好ましい。
熱固定方法としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気、及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気、及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱固定は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。可塑剤抽出後に熱固定工程を行う場合には、熱固定時の緩和操作は、TDに行うことが好ましい。
より高強度かつ高気孔率なポリオレフィン微多孔膜を得る観点から、熱固定工程中の延伸操作の倍率は、膜のMD及び/又はTDに、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.4倍超えであり、好ましくは2.3倍未満、より好ましくは2.0倍未満である。また、熱固定時にMDとTDの両方に延伸を施す場合には、MDとTDの延伸倍率の積は好ましくは3.5倍未満、より好ましくは3.0倍未満である。熱固定時のMD及び/又はTDの延伸倍率が1.1倍以上であることにより、高気孔率化と低熱収縮化の効果を得ることができ、2.3倍未満であることにより過度な大孔径化又は引張伸度の低下を防ぐことができる。熱処理時のMDとTDの延伸倍率の積が3.5倍未満であることにより、熱収縮の増加を抑制することができる。
熱固定工程中の延伸操作がシート状成形体又は多孔膜の同時二軸又は逐次二軸延伸である場合には、延伸歪速度の絶対値は、好ましくは2%/s以上10%/s未満、より好ましくは3%/sec以上9%/s以下である。理論に拘束されることを望まないが、延伸歪速度が2%/s以上であることにより、シート状成型体中の重合体同士の絡み合いが保持された状態で延伸されるため、ポリオレフィン微多孔膜が高強度で孔径が均一になり、溶融して高温に達しても粘度の低下を抑制することができると推測される。延伸歪速度が10%/s未満であることにより、得られるポリオレフィン微多孔膜の残留応力が低下し、低熱収縮化できる傾向にあるため好ましい。
熱固定工程中の延伸操作における温度は、ポリオレフィン微多孔膜の平均孔径を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、Tc以上(Tc+10℃)以下の範囲内にあることが好ましく、膜のイオン透過性を維持したままTMA応力を抑制し、孔径均一性を保つ観点から、ポリオレフィン微多孔膜のMD及びTD引張弾性率を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、(Tc+5℃)以上(Tc+15℃)以下の範囲内にあることが好ましい。具体的な延伸温度は、例えば、110℃以上140℃以下、又は123℃以上133℃以下の範囲内にあることができる。
熱固定時の緩和操作は、膜のMD及び/又はTDへの縮小操作のことである。所定の条件範囲で緩和操作を行うことにより、溶融後の温度上昇に伴う応力低下を緩やかにすることができ、160℃付近でさえも容易に破膜しないポリオレフィン微多孔膜を得ることができる。
熱固定工程中の緩和温度(熱固定温度)は、膜のTMA応力の抑制と孔径均一性を保つ観点から、123℃以上133℃以下であることが好ましく、129℃以上133℃以下であることがより好ましい。
熱固定工程中の延伸操作における温度と熱固定温度の関係は、得られるポリオレフィン微多孔膜の透気度、平均孔径、及び/又は曲路率を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、次の温度条件(ア)及び(イ)の少なくとも1つを満たすことが好ましい。
(ア)5℃<(熱固定温度−延伸温度)<20℃
(イ)(Tm−7℃)≦熱固定温度≦(Tm−3℃)
緩和率とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことである。なお、MD、TD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。緩和率は、ポリオレフィン微多孔膜のTD引張弾性率及び/又は曲路率を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、15%以下であることが好ましい。緩和率は、熱収縮率の観点から、10%を超えることが好ましい。
緩和操作は、MDとTDの一方又は双方で行なってよい。熱固定工程では、上記で説明された倍率及び歪速度での延伸と緩和を行うことにより、得られるポリオレフィン微多孔膜のMD及び/又はTDの熱収縮を適正な範囲内に制御することができる。
また、ポリオレフィン微多孔膜の透気度を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、熱固定工程の前後を比較したときに、ポリオレフィン微多孔膜の延伸倍率は、1.3倍以上であることが好ましく、TD延伸倍率が1.3倍以上であることがより好ましい。
上記で説明された全ての工程の順序は、本発明の効果を損なわない限り、任意に変更されることができる。全ての工程を行なった後に、ポリオレフィン微多孔膜の総延伸倍率は、平均孔径を上記で説明された数値範囲内に調整するという観点から、70倍以下であることが好ましく、50倍以上70倍以下の範囲内にあることがより好ましい。本明細書では、総延伸倍率とは、延伸工程におけるMD及び/又はTDの延伸倍率と熱固定工程における延伸倍率及び/又は緩和倍率を乗じた値のことをいう。
また、ポリオレフィン微多孔膜の膜厚換算突刺強度を上記で説明された数値範囲内に調整したり、微多孔膜が実装される電気化学デバイスの容量を向上させたりするという観点から、最終的に得られるポリオレフィン微多孔膜の平均膜厚が好ましくは3.0μm以上18.0μm以下の範囲内、より好ましくは5.0μm以上14.0μm未満の範囲内にあるように、全ての工程が行なわれる。
<電気化学デバイス用セパレータ>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイスのためのセパレータとして利用されることができる。ポリオレフィン微多孔膜は、リチウムイオン二次電池に組み込まれることによって、リチウムイオン二次電池の熱暴走を抑制することができる。
<電気化学デバイス>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜を捲回するか、又は複数積層して成る捲回体又は積層体を収納している電気化学デバイスも本発明の一態様である。電気化学デバイスとしては、例えば、非水系電解液電池、非水系電解質電池、非水系リチウムイオン二次電池、非水系ゲル二次電池、非水系固体二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。
本実施形態に係る非水電解質電池は、上述したポリオレフィン微多孔膜を含む非水電解液電池用セパレータと、正極板と、負極板と、非水電解液(非水溶媒とこれに溶解した金属塩を含む。)を備えている。具体的には、例えば、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む正極板と、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な負極板とが、非水電解液電池用セパレータを介して対向するように捲回又は積層され、非水電解液を保液し、容器に収容されている。
正極板について以下に説明する。正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウム等のリチウム複合金属酸化物、リン酸鉄リチウム等のリチウム複合金属リン酸塩等を用いることができる。正極活物質は導電剤及びバインダと混錬され、正極ペーストとしてアルミニウム箔等の正極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて正極板となる。ここで、導電剤としては、正極電位下において安定な金属粉末、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック又は黒鉛材料を用いることができる。また、バインダとしては、正極電位下において安定な材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン、変性アクリルゴム又はポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
負極板について以下に説明する。負極活物質としては、リチウムを吸蔵できる材料を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛、シリサイド、及びチタン合金材料等から成る群から選ばれる少なくとも1種類を用いることができる。また、非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素化合物、錫化合物、又は各種合金材料等を用いることができる。特に、ケイ素(Si)若しくはスズ(Sn)の単体又は合金、化合物、固溶体等の珪素化合物若しくは錫化合物が、電池の容量密度が大きくなる傾向にあるため好ましい。
炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、及び非晶質炭素等が挙げられる。
負極活物質としては、上記材料のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質はバインダと混錬され、負極ペーストとして銅箔等の負極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて負極板となる。ここで、バインダとしては、負極電位下において安定な材料、例えば、PVDF又はスチレン−ブタジエンゴム共重合体等を用いることができる。
非水電解液について以下に説明する。非水電解液は、一般的に、非水溶媒とこれに溶解したリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等の金属塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。
なお、上述した各種パラメータの測定方法については、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定されるものである。
以下、実施例、及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、及び比較例に限定されるものではない。
<TMA測定(熱機械分析:Thermomechanical Analysis)>
ポリオレフィン微多孔膜のTMA測定は、島津製作所TMA50(商標)を使用し、専用プローブとして引張型を用いた。MD(TD)の値を測定する場合は、MD(TD)が15mm、幅3.0mmに切り出したサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットする。初期荷重を0.0049N(0.5gf)とし、定長モードにて30℃より10℃/minの速度にてプローブを250℃まで昇温させた。250℃まで到達する間、1秒間隔で温度と荷重をサンプリングし、最大荷重値を得た。
<引張試験>
引張試験機(島津オートグラフAG−A型)を用いてサンプルのMD及びTD引張試験を行い、引張弾性率は(kgf/cm2)、サンプルの伸び(歪)が1〜4%の間での応力−歪直線の傾きから求めた。測定条件は、温度;23±2℃、湿度:40%、サンプル形状;幅10mm×長さ100mm、チャック間距離;50mm、引張速度;200mm/minである。
<粘度平均分子量(Mv)>
ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。
ポリエチレン、ポリオレフィン微多孔膜については、次式により算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10−4Mv0.80
<ポリオレフィン原料のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)>
・試料の調製
ポリオレフィン原料を秤量し、濃度が1mg/mlになるように溶離液1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB)を加えた。高温溶解器を用いて、160℃で30分静置したのち、160℃で1時間揺動させ、試料がすべて溶解したことを目視で確認した。160℃のまま、0.5μmフィルターでろ過し、ろ液をGPC測定試料とした。
・GPC測定
GPC装置として、Agilent社製のPL−GPC220(商標)を用い、東ソー(株)製のTSKgel GMHHR−H(20) HT(商標)の30cmカラム2本を使用し、上記で調整したGPC測定試料500μlを測定機に注入し、160℃にてGPC測定を行った。
なお、標準物質として市販の分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて検量線を作成し、求められた各試料のポリスチレン換算の分子量分布データを得た。ポリエチレンの場合は、ポリスチレン換算の分子量分布データに0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることにより、ポリエチレン換算の分子量分布データを取得した。ポリプロピレンの場合は、(ポリプロピレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=26.4/41.3)を乗じることにより、ポリプロピレン換算の分子量分布データを取得した。これにより、各試料の重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を得た。
<微多孔膜中のポリプロピレン含有量の測定方法>
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリプロピレンの割合は、赤外分光法(IR)やラマン分光法により求めることができる。例えば、ポリエチレンに対するポリプロピレンの割合を算出するには、IRスペクトルのポリエチレン由来の1473cm−1のピークとポリプロピレン由来の1376cm−1のピークをそれぞれのマーカーバンドとして、ポリプロピレン含有量が既知の試料から作成した検量線に基づいて、ポリプロピレンの割合を算出することができる。
<DSC測定(示差走査熱量測定:Differential Scanning Calorimetric)>
DSCは、島津製作所社製DSC60を使用して測定した。ポリオレフィン樹脂またはポリオレフィン微多孔膜を直径5mmのアルミニウム製オープンサンプルパンに挿填し、クランピングカバーを乗せ、サンプルシーラーによりアルミニウムパン内に固定した。窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で30℃から200℃まで昇温し(1回目昇温)、200℃で5分ホールドした後、降温速度10℃/分で200℃から30℃まで降温した。続いて、30℃において5分間ホールドした後、再度、昇温速度10℃/分で30℃から200℃まで昇温した(2回目昇温)。必要に応じて、降温時の結晶化発熱曲線における極大温度(樹脂サンプルの結晶化温度Tc)、2回目昇温の融解吸熱曲線におけるピークの立ち上がり温度(Tm2onset)及び極大となる温度(樹脂サンプルの融点Tm)などを観察した。また結晶化度は、2回目昇温時のピーク面積から求められる吸熱量ΔHm(J/g)から、次式により求めることができる。
結晶化度(%)=ΔHm/ΔH × 100
ここで、ΔHは完全結晶での融解熱量であり、ポリエチレンの場合ΔH=293J/gとして計算することができる。
<平均孔径(μm)・曲路率>
平均孔径及び曲路率は、気液法によって測定することができる。具体的には、キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きいときはクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。したがって、微多孔膜の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。この場合、微多孔膜の平均孔径d(μm)と曲路率τa(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m3/(m2・秒・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m3/(m2・秒・Pa))、空気の分子速度ν(m/秒)、水の粘度η(Pa・秒)、標準圧力Ps(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求められる。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×106
τa=(d×(ε/100)×ν/(3L×Ps×Rgas))1/2
ここで、Rgasは、透気度(秒)から次式を用いて求めた。
Rgas=0.0001/(透気度×(6.424×10-4)×(0.01276×101325))
また、Rliqは、透水度(cm3/(cm2・秒・Pa))から次式を用いて求めた。
Rliq=透水度/100
なお、透水度は次のように求めた。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめエタノールに浸しておいた微多孔膜をセットし、該膜のエタノールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120秒間の透水量(cm3)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、νは気体定数R(=8.314J/(K・mol))、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10-2kg/mol)から、次式を用いて求めた。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
<平均膜厚(μm)>
微小測厚器(東洋精機製 タイプKBM)を用いて、室温23℃、湿度40%の雰囲気下で10cm×10cm角のサンプルの膜厚を9回に亘って測定し、それらの平均値を算出した。なお、10cm×10cm角のサンプルを確保できない場合には、サンプルの膜厚を5回に亘って測定することとする。測定精度を上げるため、平均膜厚が20μmに満たない場合は、合計20μm以上になるまで膜を重ねて測定を行った。端子径5mmφの端子を用い、44gfの荷重を印加して測定した。
<気孔率(%)>
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/密度)/体積×100
<透気度(秒/100cm3)及び膜厚換算透気度(秒/100cm3/μm)>
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)を用いて温度23℃、湿度40%の雰囲気下でポリオレフィン微多孔膜の透気抵抗度を透気度として測定し、さらに膜厚換算透気度を算出した。
<突刺強度(N)、及び膜厚換算突刺強度(N/μm)>
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、温度23℃、湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(N)を得て、さらに膜厚換算突刺強度(N/μm)を算出した。
≪実施例1≫
<ポリオレフィン微多孔膜の製造>
ポリオレフィン微多孔膜を、以下の手順で作製した。樹脂原料の組成は、1種類目のポリエチレン(PE1)として粘度平均分子量30万のホモポリエチレン(Mw/Mn=9.0,融点Tm=136.0℃,Tm2onset=130.0℃)15質量部、2種類目のポリエチレン(PE2)として粘度平均分子量70万のホモポリエチレン(Mw/Mn=11.0,融点Tm=136.0℃,Tm2onset=130.0℃)15質量部、及びポリプロピレン(PP)として粘度平均分子量40万のアイソタクティックポリプロピレン2質量部であった。前記樹脂組成に、酸化防止剤として、0.3質量部のテトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンを混合した。得られた各混合物を、二軸押出機にフィーダーを介して投入した。更に可塑剤として流動パラフィン(37.78℃における動粘度75.90cSt)を、樹脂原料+流動パラフィンの合計を100質量部として、流動パラフィンが68質量部となるようにサイドフィードで押出機に注入し、混錬温度が160℃、Q/Nが3.5kg/(h・rpm)、比エネルギーが0.21kWh/kgとなる条件で混練し、押出機先端に設置したTダイから押出した。押出後、直ちに30℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、厚さ1300μmのシートを成形した。このシートを予熱温度123℃及び予熱係数217分・℃の条件下で予熱した。さらに、このシートを同時二軸延伸機において温度124℃で延伸倍率(MD×TD)7×6.4倍及び面倍率44.8倍に延伸した。次に、得られた延伸シートを塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した。その後、シートを乾燥し、テンター延伸機により温度123℃及び歪速度7%/秒の条件下でTDに1.5倍延伸した。その後、この延伸シートを温度130℃及び緩和率12%の条件下でTDに緩和する熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
≪実施例2〜10(但し、実施例6,7は参考例である)、及び比較例1〜7≫
実施例1の製造方法に準じて表1に記載した製膜条件下で実施例2〜10、及び比較例1〜7のポリオレフィン微多孔膜を作製した。なお、原料組成について、1種類目のポリエチレンをPE1、2種類目のポリエチレンをPE2、ポリプロピレンをPPとして表示した。なお、PE1、PE2及びPPの表示は便宜的なものであり、本発明における原料の投入順序がPE1、PE2及びPPの順に限定される趣旨ではない。
≪実施例11≫
実施例10の製膜条件で微多孔膜を作製後、下記手順により薄膜化した。
繰出機を用いて、得られた単層型微多孔膜前駆体シートのロール2つから、それぞれ前駆体シートを繰り出し、1つのMD延伸機に2枚を重ねた状態でセットして積層多孔膜を形成し、縦方向に126℃の温度で1.5倍に延伸した。続いて、積層多孔膜がTD延伸機にセットされ、133℃の温度でTD方向に1.7倍延伸し、熱固定した。熱固定後の積層多孔膜の厚みは、6.0μmであった。その後、巻取機を用いて、熱固定後の積層多孔膜をロールとして巻き取った。
積層多孔膜のロールを剥離スリッタにセットして、積層多孔膜を2つのポリオレフィン微多孔膜に分けた。剥離後の1つの微多孔膜の物性を表1に記載した。
<二次電池の作製>
以下の手順a〜cにより、正極、負極、及び非水電解液を調整した。
(a.正極の作製)
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm3)を90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%、及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm3、数平均粒子径48nm)を3.8質量%、並びにバインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)(密度1.75g/cm3)を4.2質量%の比率で混合し、これらをN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗布し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。このときの正極活物質塗布量は109g/m2であった。
(b.負極の作製)
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm3、数平均粒子径12.7μm)を87.6質量%、及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を9.7質量%、並びにバインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)、及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。このときの負極活物質塗布量は52g/m2であった。
(c.非水電解液の調製)
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
(d.電池作製)
上記a〜cで得られた正極、負極、及び非水電解液、並びに実施例1〜10及び比較例1〜6で得られたセパレータを使用して、電流値1A(0.3C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間定電流定電圧(CCCV)充電したサイズ100mm×60mm、容量3Ahのラミネート型二次電池を作製した。
<サイクル試験>
以下の手順でサイクル特性の評価を行った。
(1)前処理
上記簡易電池を、1/3Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を8時間行い、その後1/3Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。次に、1Cの電流値で電圧4.2Vまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧充電を3時間行い、更に1Cの電流で3.0Vの終止電圧まで放電を行った。最後に1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電をした後、4.2Vの定電圧充電を3時間行った。なお、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表す。
(2)サイクル試験
上記前処理を行った電池を、温度25℃の条件下で、放電電流1Cで放電終止電圧3Vまで放電を行った後、充電電流1Cで充電終止電圧4.2Vまで充電を行った。これを1サイクルとして充放電を繰り返した。そして、初期容量(第1回目のサイクルにおける容量)に対する200サイクル後の容量保持率を用いて、以下の基準でサイクル特性を評価した。
(3)サイクル特性の評価基準
A(著しく良好):90%以上100%以下の容量保持率
B(良好) :85%以上90%未満の容量保持率
C(許容) :80%以上85%未満の容量保持率
D(不良) :80%未満の容量保持率
<オーブン試験>
上記ニ次電池を用いて、充電後のニ次電池を室温から120℃まで5℃/分で昇温させ、その状態で30分保持した。その後、ニ次電池を30℃/分でさらに150℃まで昇温させ、発火までの時間を計測し、下記基準により評価した。また、試験中、ポリオレフィン微多孔膜が破膜した場合には、その温度をオーブン破膜温度として記録した。
A(著しく良好):150℃保持で45分以上発火しなかったもの。
B(良好):150℃保持で30分以上45分未満で発火したもの。
C(許容):150℃保持で15分以上30分未満で発火したもの。
D(不良):150℃保持で15分未満で発火したもの、又は150℃に達する前に発火したもの。
<熱冷循環試験>
上記二次電池を用いて、充電後の二次電池の雰囲気を室温から75±2℃まで昇温し、その状態で6時間保持した。その後−40±2℃まで降温し、その状態を6時間保持した。以上の昇降温を1サイクルとし、10サイクル後の開回路電圧(OCV)を測定し、下記基準により評価した。
A(著しく良好):10サイクル後のOCVが試験直後の電圧の97%以上のもの。
B(良好):10サイクル後のOCVが試験直後の電圧の95%以上97%未満のもの。
C(許容):10サイクル後のOCVが試験直後の電圧の90%以上95%未満のもの。
D(不良):10サイクル後のOCVが試験直後の電圧の90%未満のもの。
<出力試験>
(1)1C容量測定(mAh)
上記二次電池を25℃雰囲気下、1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を1.1Aから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行った。次に1.1A(1.0C)の電流値で電池電圧2.0Vまで放電し、1C放電容量を得た。
(2)出力測定(W/kg)
上記(1)で初期容量を測定した電池を1Cの電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を絞り始めるという方法で、合計3時間の充電を行い、SOC100%とする。10分休止後、0.3Cの電流値でSOC50%まで放電し、1時間休止する。その後、(ア)0.5Cで10秒間放電、1分休止、0.5Cで10秒間充電、1分休止、(イ)1Cで10秒間放電、1分休止、1Cで10秒間充電、1分休止、(ウ)2Cで10秒間放電、1分休止、2Cで10秒間充電、1分休止、(エ)3Cで10秒間放電、1分休止、3Cで10秒間充電、1分休止、(オ)5Cで10秒間放電、1分休止、5Cで10秒間充電、1分休止という作業を行う。
上記(ア)〜(オ)における10秒間放電後の電池電圧をそれぞれ計測し、それぞれの電圧を電流値に対してプロットする。最小二乗法による近似直線が放電下限電圧(V)と交差する電流値を(I)とし、電池質量(Wt)で除した値を次式より出力とした。
出力(P)=(V×I)/Wt
実施例1〜11、及び比較例1〜7で得られたポリオレフィン微多孔膜を上記の評価方法に従って評価した。実施例1〜11、及び比較例1〜7で得られた微多孔膜の製膜条件、特性、及びそれらを二次電池に組み込んだときの評価結果を表1〜3に示す。