JP6931915B2 - 生物電気化学システム用電極および生物電気化学システム - Google Patents

生物電気化学システム用電極および生物電気化学システム Download PDF

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Description

本発明は、生物電気化学システム用電極およびその製造方法、ならびに前記生物電気化学システム用電極をアノードとして有する生物電気化学システムに関する。
畜産農家にとって、畜舎から出る廃水の処理は、多大なコストおよび労力を要するため、大きな負担となっている。また、環境への影響を防ぐために、畜産バイオマスの資源化や排水処理基準の厳格化などに対応した新しい廃水処理技術の開発が求められている。有機性廃水の適正な処理および有機性廃水からの資源の回収を実現できる新技術の開発は、畜産分野のみならず食品加工、醸造、都市部における下水処理などの幅広い分野においても必要とされている。
近年、生物電気化学システム(Bioelectrochemical System;BES)と称される新しい技術が注目されている。生物電気化学システムは、電極上の反応を促進させる触媒として生物を利用する装置(バイオリアクター)の総称である。生物電気化学システムの例には、微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell;MFC)や微生物電解セル(Microbial Electrolysis Cell;MEC)、微生物電気化学的または酵素電気化学的な物質の生産、分解または検出を行う装置などが含まれる。微生物燃料電池および微生物電解セルでは、微生物が嫌気性条件下において有機物を酸化還元反応で分解するとともに、そのときに生じた電子をアノード(負極)に渡す役割を担っている。
微生物燃料電池は、嫌気性条件下において微生物が有機物を分解(酸化)することによって生じる余剰の還元力(電子)をアノード(負極)で回収することで発電(エネルギー回収)を行うバイオリアクターである。微生物燃料電池において、有機物の分解により生成された水素イオンは、カソード(正極)側に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノードで回収されて、外部回路を経由してカソードに移動する。カソード表面では、アノード側から移動してきた水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。
微生物燃料電池では外部からのエネルギー投入を必要としないが、微生物電解セルではアノード(負極)とカソード(正極)との間に電圧を印加することを必要とする。微生物電解セルでは、アノードおよびカソードは、電圧印加部(電源やポテンショスタットなど)に接続されており、電圧印加部は、アノードとカソードとの間に電圧を印加する。このように、微生物電解セルでは外部からエネルギーをわずかに投入することが必要である。微生物電解セルにおいて、有機物の分解により生成された水素イオンは、カソード(正極)側に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノードで回収されて、外部回路を経由してカソードに移動する。カソード表面では、水素イオンと電子とが反応することで、水素ガスが生成される。この水素を回収することにより、エネルギーを回収することができる。水素として得られるエネルギーの量は、電圧印加として投入したエネルギーの量よりも大きいため、微生物電解セル全体としては、廃水からエネルギーを回収したことになる。
微生物燃料電池や微生物電解セルなどの生物電気化学システムは、様々な種類の有機性廃水を処理することができる。この処理により廃水中の有機物が分解されるため、生物電気化学システムは、廃水を浄化(有機物を除去)する機能も併せ持っている。このように、生物電気化学システムは、廃水の浄化および廃水からのエネルギー回収を同時に行うことができるため、今後の新技術として期待されている。
生物電気化学システムでは、有機物の分解により生成された電子をアノードに渡す反応を高速化させることが非常に重要であり、この反応の速度が装置全体の処理速度に大きく影響を及ぼす。アノードとしては、通常、グラファイトやカーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンブラシなどの炭素電極が使用される(例えば、非特許文献1,2参照)。また、本発明者らによって、加熱処理されたステンレス鋼または加熱処理されたタングステンをアノードとして使用することも提案されている(特許文献1参照)。
特開2016−126929号公報
K. P. Nevin, et al., "Power output and columbic efficiencies from biofilms of Geobacter sulfurreducens comparable to mixed community microbial fuel cells", Environmental Microbiology, Vol. 10, pp. 2505-2514. Douglas Call, and Bruce E. Logan, "Hydrogen Production in a Single Chamber Microbial Electrolysis Cell Lacking a Membrane", Environ. Sci. Technol., Vol. 42, pp. 3401-3406.
従来の生物電気化学システムには、電極上での反応速度が遅いという問題があり、実用化のためには電極上での反応速度の向上が必要である。一般的に、生物電気化学システムにおける装置全体の処理速度(微生物燃料電池および微生物電解セルでは出力に関係する)は、微生物からアノードへの電荷移動効率に依存する。前述のとおり、従来の微生物電気化学システムでは、炭素電極がアノードとして使用されていた。また、本発明者らによって、微生物電気化学システムのアノードに好適な電極として、加熱処理されたステンレス鋼および加熱処理されたタングステンも提案されている。しかしながら、装置全体の処理速度を向上させる観点からは、アノードに更なる改善の余地がある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、従来の生物電気化学システムよりも装置全体の処理速度に優れる生物電気化学システム、およびそれに用いられる電極を提供することを目的とする。
本発明者らは、所定のニッケル−鉄合金を加熱処理して得られる電極をアノードとして使用することで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の生物電気化学システム用電極の製造方法に関する。
[1]生物電気化学システムにおいてアノードとして使用される電極の製造方法であって、Niを35.0〜50.0質量%含み、Feを50.0〜65.0%含む合金を、200℃以上であって、かつ前記合金が完全に溶融しないように加熱する工程を含む、生物電気化学システム用電極の製造方法。
[2]前記合金は、Niを42.0〜49.0質量%含み、Feを51.0〜58.0質量%含む、[1]に記載の生物電気化学システム用電極の製造方法。
[3]前記合金は、Niを37.0〜45.0質量%含み、Mnを0.1〜2.0質量%、Feを53.0〜62.9質量%含む、[1]に記載の生物電気化学システム用電極の製造方法。
[4]空気中または酸素存在下において前記合金を火に接触させることで前記合金を加熱する、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の生物電気化学システム用電極の製造方法。
また、本発明は、以下の生物電気化学システム用電極に関する。
[5]生物電気化学システムにおいてアノードとして使用される電極であって、NiおよびFeを含む合金を含み、前記合金の表面をエネルギー分散型X線分光法で分析したときのNi、OおよびFeの各元素の濃度が、Ni:5.0〜15.0質量%、O:18.0〜30.0%、Fe:55.0〜77.0%であり、前記合金の断面において前記表面から5μm以上離れた部分をエネルギー分散型X線分光法で分析したときのNi、OおよびFeの各元素の濃度が、Ni:35.0〜50.0質量%、O:0〜1.0%、Fe:50.0〜65.0%である、生物電気化学システム用電極。
[6]前記生物電気化学システム用電極は、前記合金からなる、[5]に記載の生物電気化学システム用電極。
また、本発明は、以下の生物電気化学システム用電極に関する。
[7]容器と、前記容器内に収容された、有機物および電子供与微生物を含む液体と、前記液体に接触するように配置されたアノードと、前記液体に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記液体と隣接するように配置されたカソードと、を有し、前記アノードは、[5]または[6]に記載の生物電気化学システム用電極である、生物電気化学システム。
[8]前記生物電気化学システムは、微生物燃料電池である、[7]に記載の生物電気化学システム。
[9]前記アノードから前記カソードに電子が流れるように、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加部をさらに有し、前記生物電気化学システムは、微生物電解セルである、[7]に記載の生物電気化学システム。
本発明によれば、従来の生物電気化学システムよりも装置全体の処理速度に優れる生物電気化学システムを提供することができる。たとえば、本発明によれば、従来の生物電気化学システムよりも出力に優れる微生物燃料電池および微生物電解セルを提供することができる。
図1は、実施の形態1に係る微生物燃料電池の構成を示す模式図である。 図2は、実施の形態1の変形例に係る微生物燃料電池の構成を示す模式図である。 図3は、実施の形態2に係る微生物電解セルの構成を示す模式図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[実施の形態1]
実施の形態1では、本発明に係る生物電気化学システムの例として、微生物燃料電池について説明する。
(微生物燃料電池の構成)
図1は、実施の形態1に係る微生物燃料電池100の構成を示す模式図である。図1に示されるように、微生物燃料電池100は、容器110、液体120、アノード(負極)130、膜電極接合体140を有する。液体120は、有機物および電子供与微生物122を含む。膜電極接合体140は、隔膜142およびカソード(正極)144を含む。また、アノード130とカソード144は、外部回路を構成する導線により電気的に接続されている。
容器110は、微生物燃料電池100の本体部を構成し、液体120を収容する。容器110の素材、形状および大きさは、特に限定されず、用途に応じて適宜設定されうる。本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、隔膜142およびカソード144を含む膜電極接合体140が容器110の壁面の一部を構成している。
液体120は、容器110内に収容されており、燃料となる有機物および電子供与微生物122を含む。通常、液体120は、1種または2種以上の電解質を含有する水溶液である。電解質の種類は、水中で電離可能な物質であれば特に限定されない。電解質の例には、NaHPO/NaHPO、KHPO/KHPO、NaCO/NaHCO、NaCl、KCl、NHClなどが含まれる。また、液体120には、必要に応じて電子メディエータや導電性微粒子などの電子伝達性介在物質をさらに添加してもよい。
液体120中の電子供与微生物122のうち、少なくとも一部の電子供与微生物122は、アノード130に担持されている。すなわち、アノード130は、電子供与微生物122を高密度で保持する担体としても機能する。電子供与微生物122の種類は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。有機廃水や汚泥などを燃料として使用する場合は、外部から電子供与微生物を加えなくとも、それらに生息する電子供与微生物をそのまま利用することができる。たとえば、シュードモナスやジオバクターなどは、土壌や淡水、海水などの自然環境の至るところに生息しているため、有機廃水や汚泥などを燃料とすれば、外部から添加することなく利用できる。
燃料となる有機物の種類は、電子供与微生物122が代謝可能であれば、特に限定されない。燃料となる有機物としては、アルコールや単糖類、多糖類、タンパク質などの有用資源だけでなく、農産業廃棄物や有機廃液、し尿、汚泥、食物残渣などの未利用資源(有機性廃棄物)も使用することができる。燃料となる有機物は、電子供与微生物122の維持および増殖のため、また微生物燃料電池100を連続して稼働させるため、必要に応じて追加される。
アノード130は、少なくともその一部が液体120に接触するように配置される。本実施の形態では、アノード130は、容器110内に固定されている。たとえば、アノード130は、液体120に浸漬されてもよいし、容器110の内壁の一部を構成するように配置されてもよい。アノード130の形状は、特に限定されず、電子供与微生物122の付着性や電子供与微生物122からの電子伝達度などに応じて適宜選択されうる。アノード130の形状の例には、板状やメッシュ状、ブラシ状、棒状、粒状などが含まれる。
本実施の形態に係る微生物燃料電池100は、アノード130(生物電気化学システム用電極)が、200℃以上の加熱処理をされた所定のニッケル−鉄合金を含むことを一つの特徴とする。本発明者らは、所定の濃度でNi(ニッケル元素)およびFe(鉄元素)を含む合金を加熱したものをアノード130として使用することで、その合金をそのまま使用したとき、または他の合金を加熱したものを使用したときと比較して、微生物燃料電池における出力電流密度を顕著に向上させうることを見出した(実施例参照)。出力電流密度が向上する原理は不明であるが、電子供与微生物122からのアノード130への電荷の移動が促進されるためと推察される(原理がこれに限定されるものではない)。
アノード130の素材としては、Niを35.0〜50.0質量%含み、かつFeを50.0〜65.0%含む合金を使用する。このような合金の例には、Niを42.0〜49.0質量%含み、Feを51.0〜58.0質量%含む合金(「45パーマロイ」または「パーマロイB」(JIS C 2531:1999)とも称される)、ならびにNiを37.0〜45.0質量%含み、Mnを0.1〜2.0質量%、Feを53.0〜62.9質量%含む合金(「42アロイ」または「42インバー」とも称される)が含まれる。
合金を加熱する方法は、特に限定されない。たとえば、空気中または酸素存在下において合金を火に接触させることにより加熱してもよいし、電気炉において合金を加熱してもよい。合金の加熱温度および加熱時間は、使用する合金の種類や形状、酸素の供給速度などに応じて適宜設定されうる。たとえば、Niを42.0〜49.0質量%含み、Feを51.0〜58.0質量%含む合金(45パーマロイ)を加熱する場合、合金の最高到達温度が400〜1600℃となるように加熱すればよい。また、Niを37.0〜45.0質量%含み、Mnを0.1〜2.0質量%、Feを53.0〜62.9質量%含む合金(42アロイ)を加熱する場合、合金の最高到達温度が400〜1600℃となるように加熱すればよい。このために、加熱処理側の最高加熱処理温度は、400〜3500℃程度であることが好ましく、550〜1600℃であることがより好ましい。このとき、合金の最高到達温度および加熱処理温度は、合金が完全に溶融しなければ合金の融点を超える温度であってもよい。また、加熱時間は、使用する加熱機器にもよるが、例えば、1秒〜30分である。具体的には、合金の表面が十分に変色して、合金表面の一部分または表面全体が斑状に電気抵抗が0.01Ω/cm〜数百Ω/cmまたはこれ以上に大きくなるまで加熱することが好ましい。たとえば、溶接用のアセチレンガス(燃焼温度:2000〜3000℃)で合金を加熱する場合、合金の最高到達温度は1400〜1500℃程度であり、加熱時間は数秒程度である。また、都市ガス(燃焼温度:1500〜1900℃)またはLPG(燃焼温度:1700〜1900℃)で合金を加熱処理する場合、合金の最高到達温度は1200〜1400℃程度であり、加熱時間は30秒〜数十分程度である。なお、合金の融点よりも高い燃焼温度を発生させるガスで加熱処理をする場合、合金が完全に溶融してしまうのを防ぐために、形状が変形する前に加熱処理を停止することが好ましい。
このように合金を加熱処理することで、表面近傍における組成が加熱前後で変化する。エネルギー分散型X線分光法(EDS/EDX)により、加熱処理後の合金の表面のNi、OおよびFeの各元素の濃度と、加熱処理後の合金を切断することで露出させた断面において表面から5μm以上離れた部分(内部)のNi、OおよびFeの各元素の濃度とを比較すると、表面では内部に比べてNiが減少し、OおよびFeが増大していることを確認できる。逆に言えば、合金の表面と内部とをエネルギー分散型X線分光法で分析することで、その合金が所定の加熱処理をなされたか否かを確認することができる。加熱処理により表面においてNiが減少し、OおよびFeが増大する原理は定かではないが、加熱処理により合金内部のFeが表面に移動するとともに酸化されていることが推察される(原理がこれに限定されるものではない)。本発明者らは、加熱処理後の合金表面を分析したところ、合金表面に酸化鉄(Fe)が分布していることを確認している。
具体的には、シリコンドリフト検出器(Apollo X;アメテック株式会社)を装着した走査型顕微鏡(SU−70;株式会社日立ハイテクノロジーズ)(SEM−EDX)を用いて、加熱処理された合金の表面をエネルギー分散型X線分光法(加速電圧15kV、倍率1500倍)で分析したときのNi、OおよびFeの各元素の濃度は、Ni:5.0〜15.0質量%、O:18.0〜30.0%、Fe:55.0〜77.0%であるのに対し、加熱処理された合金の内部をエネルギー分散型X線分光法で分析したときのNi、OおよびFeの各元素の濃度は、Ni:35.0〜50.0質量%、O:0〜1.0%、Fe:50.0〜65.0%である。なお、エネルギー分散型X線分光法により合金の表面を分析した場合、合金の表面における各元素の濃度が測定されるわけではなく、表面から5μm程度内部までの範囲内に存在する合金についての、各元素の濃度が測定されることとなる。
アノード130は、加熱処理された合金のみから構成されていてもよいし、他の構成要素を含んでいてもよい。本実施の形態では、アノード130は、加熱処理された合金のみからなる。
膜電極接合体140は、カチオン透過性を有する隔膜142と、ガス透過性を有するカソード144とを含む。隔膜142およびカソード144は、一体化されて膜電極接合体140を構成している。膜電極接合体140は、隔膜142が液体120に接触し、カソード144が外気に接触するように配置される。本実施の形態では、膜電極接合体140は、容器110の内壁の一部を構成するように配置されている。
隔膜142は、カチオンを選択的に透過させうる膜であり、液体120とカソード144との間に配置されている。隔膜142の種類は、カチオンを選択的に透過させることができれば、特に限定されない。隔膜142の例には、プロトン交換膜が含まれる。プロトン交換膜は、プロトン伝導性のイオン交換高分子電解質からなる膜である。プロトン交換膜の素材の例には、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、有機/無機複合化合物が含まれる。パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂は、例えば、スルホ基および/またはカルボキシル基を有するパーフルオロビニルエーテルを基礎とする重合単位と、テトラフルオロエチレンを基礎とする重合単位とを含む共重合体を含む。そのようなフッ素イオン交換樹脂としては、ナフィオン(登録商標)が知られている。また、有機/無機複合化合物は、炭化水素系高分子(例えばポリビニルアルコール)および無機化合物(例えばタングステン酸)が複合化した化合物からなる物質である。これらの素材からなる膜は、市販されている。
カソード(エアカソード)144は、隔膜142を挟んで液体120と隣接するように配置されている。カソード144の素材および形状は、ガス透過性および導電性を両立できれば特に限定されない。カソード144の素材の例には、炭素や金属などが含まれる。カソード144の例には、カーボンペーパーやカーボンクロス、カーボンメッシュ、グラファイト粒子、活性化グラファイト粒子、カーボンフェルト、網状ガラス化カーボン、ステンレス鋼メッシュなどが含まれる。また、これらの表面に、プラチナや活性炭などの酸素還元触媒を担持させてもよい。
(微生物燃料電池の動作)
次に、本実施の形態に係る微生物燃料電池100の動作について説明する。
図1に示されるように、本実施の形態に係る微生物燃料電池100を稼働させると、容器110内において、電子供与微生物122により有機物(例えば酢酸)が二酸化炭素に分解される際に、水素イオンと電子が生成される。有機物の分解により生成された水素イオンは、隔膜142を透過してカソード144表面に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード130で回収されて、外部回路を経由してカソード144に移動する。また、カソード144は通気性を有するため、カソード144表面には酸素も存在する。このような状況において、カソード144表面では、水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。したがって、容器110内に有機物を供給することで、上記サイクルを維持して、外部回路に電力を連続して供給することができる。
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る微生物燃料電池100は、アノード130として加熱処理をされた所定のニッケル−鉄合金を有しているため、従来の微生物燃料電池よりも出力(アノードの単位面積当たりの電力密度)の点で優れている(実施例参照)。たとえば、燃料として有機廃液を使用した場合、本実施の形態に係る微生物燃料電池100は、有機廃液から電気エネルギーを回収するだけでなく、有機廃液の浄化処理も行うことができる。
なお、本実施の形態では、隔膜142を有する微生物燃料電池100について説明したが、隔膜142は必須の構成要件ではない。すなわち、図2に示すように、カソード144は、液体120に直接接触していてもよい。しかしながら、電池の長期持続性やエネルギーの回収効率などを考慮した場合は、隔膜142が存在することが好ましい。
また、本実施の形態では、エアカソード方式(単槽方式)の微生物燃料電池について説明したが、本発明に係る生物電気化学システムは、二槽方式の微生物燃料電池であってもよい。この場合は、容器110は、隔膜142によりアノード槽とカソード槽とに分けられる。アノード130は、アノード槽内に収容された有機物および電子供与微生物122を含む液体中に浸漬され、カソード144は、カソード槽内に収容された液体中に浸漬される。
[実施の形態2]
実施の形態2では、本発明に係る生物電気化学システムの例として、微生物電解セルについて説明する。
(微生物電解セルの構成)
図3は、実施の形態2に係る微生物電解セル200の構成を示す断面模式図である。図3に示されるように、微生物電解セル200は、容器210、液体220、アノード(負極、作用極)230、カソード(正極、対極)240、参照電極250、ポテンショスタット260、水素回収部270および水素貯蔵部280を有する。アノード230、カソード240および参照電極250は、ポテンショスタット260に電気的に接続されている。液体220は、有機物および電子供与微生物222を含む。
容器210は、微生物電解セル200の本体部を構成し、液体220を収容する。容器110の素材、形状および大きさは、特に限定されず、用途に応じて適宜設定されうる。
液体220は、容器210内に収容されており、エネルギー源となる有機物および電子供与微生物222を含む。液体220は、実施の形態1に係る微生物燃料電池100の液体120と同様のものである。
アノード230は、液体220に接触するように配置される。本実施の形態では、アノード230は、液体220中に浸漬されている。アノード230は、実施の形態1に係る微生物燃料電池100のアノード130と同様のものである。
カソード240は、液体220に接触するように配置される。本実施の形態では、カソード240は、液体220中に浸漬されている。カソード240の素材は、導電性を有し、かつ化学的に安定であれば特に限定されない。また、カソード240の形状は、特に限定されず、水素ガスの回収の容易性などに応じて適宜選択されうる。カソード240の素材の例には、炭素や金属、金属酸化物などが含まれる。カソード240の例には、カーボンクロスやカーボンフェルト、ステンレス鋼メッシュ、プラチナメッシュなどが含まれる。また、これらの表面に、プラチナなどの水素イオン還元触媒を担持させてもよい。
参照電極250は、液体220に接触するように配置される。本実施の形態では、参照電極250は、液体220中に浸漬されている。参照電極250の種類は、特に限定されず、適宜選択されうる。参照電極250の例には、銀−塩化銀電極や標準水素電極、カロメル電極などが含まれる。
ポテンショスタット260は、アノード230、カソード240および参照電極250に電気的に接続されており、アノード(作用極)230の電極電位を−0.4V(vs.Ag/AgCl)(Ag/AgCl:銀−塩化銀電極)以上、好ましくは−0.2〜2.0V(vs.Ag/AgCl)になるように制御する。電極電位を制御する基準として参照電極250を用い、カソード(対極)240に電子を流すことでアノード(作用極)230の電極電位を一定に保つ。この結果、ポテンショスタット260は、アノード(作用極)230とカソード(対極)240との間に電圧を印加することとなり、有機物の分解で生じる電子は、アノード(作用極)230からポテンショスタット260を介して最終的にカソード240に流れ、カソード240の表面で水素ガス272が発生する。このように、アノード(作用極)230の電極電位は、カソード240の電極電位よりも常に所定の電位差で低い。
水素回収部270は、カソード140の表面で発生した水素ガス272を回収する。水素回収部270の構成は、上記目的を達成することができれば特に限定されない。本実施の形態では、水素回収部270は、液体220中においてカソード240の上部に配置された、漏斗形状の部材である。水素回収部270は、水素貯蔵部280に回収した水素ガスを送り込む。
水素貯蔵部280は、水素回収部270が回収した水素ガスを貯蔵する。水素貯蔵部280の構成は、上記目的を達成することができれば特に限定されない。水素貯蔵部280の例には、ガスホルダーなどが含まれる。
(微生物電解セルの動作)
次に、本実施の形態に係る微生物電解セル200の動作について説明する。
ポテンショスタット260により、アノード(作用極)230の電極電位が常に所定の値(例えば−0.2V(vs.Ag/AgCl))となるように、参照電極250を基準として用いてアノード230とカソード240との間に電圧を印加して微生物電解セル200を稼働させると、容器210内において、電子供与微生物222により有機物(例えば酢酸)が二酸化炭素に分解される際に、水素イオンと電子が生成される。有機物の分解により生成された水素イオンは、カソード240表面に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード230で回収されて、外部回路を経由してカソード240に移動する。このような状況において、カソード240表面では、水素イオンおよび電子が反応することで、水素ガス272が生成される。したがって、容器210内に有機物を供給することで、上記サイクルを維持して、水素ガス272を連続して生成することができる。
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る微生物電解セル200は、アノード230として加熱処理をされた所定のニッケル−鉄合金を有しているため、従来の微生物電解セルよりも出力(電流の生産量および水素ガスの生産量)の点で優れている(実施例参照)。たとえば、燃料として有機廃液を使用した場合、本実施の形態に係る微生物電解セル200は、有機廃液から水素ガスを回収するだけでなく、有機廃液の浄化処理も行うことができる。
なお、本実施の形態では、アノード230とカソード240との間に電圧を印加する電圧印加部としてポテンショスタット260を有する微生物電解セル200について説明したが、電圧印加部としてポテンショスタット260の代わりに電源を配置してもよい。この場合は、電源は、アノード230およびカソード240に電気的に接続され、アノード230からカソード240に電子が流れるように、アノード230とカソード240との間に電圧を印加する。参照電極250は、不要である。
以下、実施例を参照して本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
[実施例1]
本実施例では、実施の形態1の変形例に係るエアカソード方式の微生物燃料電池(図2参照)を作製した。
1.アノードの準備
アノードとして、9種類の合金板(すべて株式会社ニラコ)を準備した。アノードの大きさは、縦50mm、横50mm、厚み0.1mmである。合金の種類は、45パーマロイ、78パーマロイ、42インバー、スーパーインバー、コバール、インコネルX−750、コンスタンタン、アドバンス、ステンレス鋼(SUS304)である。各合金について、加熱処理をしていない板と、加熱処理をした板を準備した。加熱処理は、最高加熱処理温度が1500〜1900℃である都市ガス用コンロを用いて、空気中において合金板を10分間炙ることで行った。各合金板の最高到達温度は、1200〜1400℃程度である。
加熱処理をした各合金板(ステンレス鋼板を除く)について、シリコンドリフト検出器(Apollo X;アメテック株式会社)を装着した走査型電子顕微鏡(SU−70;株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて、合金板の表面と内部の元素濃度をエネルギー分散型X線分光法(加速電圧15kV、倍率1500倍)で分析した。合金板の内部の元素濃度としては、加熱処理をした合金板を切断して露出した断面の中央部(深さ約0.05mmの部分)の元素濃度を分析した。加熱処理後の合金板の分析結果を表1に示す。なお、ステンレス鋼板(SUS304)については、元素濃度の分析をしていないため、元素濃度を示していない。加熱処理後の合金板の内部の元素濃度は、加熱処理前の合金板の表面の元素濃度と、実質的に同じである。
Figure 0006931915
2.カソードの作製
粒子径30〜40nmの導電性カーボン粉末(Vulcan XC-72;CABOT社)25mg、粒子径2〜3nmのプラチナ粉末(田中貴金属工業株式会社)25mg、イオン伝導性ポリマー溶液(ナフィオン(登録商標)を5質量%含む溶液)0.5mLを混合して、ペーストを作製した。得られたペーストをカーボンペーパー(50mm×50mm)の一方の面上に均一に塗布し、90℃で20分間乾燥させて触媒層を形成した。
3.人工廃水の調製
表2に示される添加物を蒸留水に加えて、人工廃水(電解質溶液)を調製した。
Figure 0006931915
4.微生物燃料電池の作製
電解槽として、容量125mLのアクリル樹脂製の角筒状の容器を準備した。角筒の内部空間の大きさは、50mm×50mm×50mmである。角筒の1つの側壁には、培地などを導入するための貫通孔(導入口)が形成されている。
角筒の一方の開口部に、アノード用内部パッキン(50mm×50mmの貫通孔が形成されている)、アノード、アノード用外部パッキン(貫通孔が形成されていない)およびアノード側カバーを積層し、取り付けボルトを用いて角筒に固定した。このとき、アノードが角筒の内部空間に露出するようにアノードを配置した。アノードとしては、加熱処理をしていない上記8種類の合金板(ステンレス鋼板を除く)および加熱処理をした上記9種類の合金板(ステンレス鋼板を含む)から選択した一つを配置した。
同様に、角筒の他方の開口部に、カソード用内部パッキン(50mm×50mmの貫通孔が形成されている)、カソード、カソード用外部パッキン(50mm×50mmの貫通孔が形成されている)およびカソード側カバー(直径15mmの貫通孔が4つ形成されている)を積層し、取り付けボルトを用いて角筒に固定した。このとき、触媒層が角筒の内部空間側に位置するようにカソードを配置した。
5.微生物燃料電池の出力密度の測定
人工廃水(表2)と、電子供与微生物を含む活性汚泥とを5:1の割合で混合した。得られた混合液(培地)を導入口から電解槽の内部に導入して、30℃で培養を開始した。1週間に1回の頻度で混合液を交換しながら6〜8週間培養した。その後、カソードの単位面積あたりの出力密度を測定した。なお、1種類のアノードについて2〜3つの微生物燃料電池を作製し、それぞれの最大出力密度の平均値で、アノードを評価した。
アノードの種類と、最大出力密度との関係を表3に示す。表3では、最大出力密度の平均値が高いものほど上に位置している。また、加熱処理したステンレス鋼を用いた場合の最大出力密度を1として、相対比も示している。この表に示されるように、アノードとして、加熱処理をした45パーマロイまたは加熱処理をした42インバーを用いた場合は、加熱処理をしていない他の合金または加熱処理をした他の合金を用いた場合の最大出力密度(2〜273mW/m)に比べて顕著に高い最大出力密度(310〜320mW/m)を示した。
なお、ここでは結果を示さないが、電気炉を用いて400℃で10分間以上加熱することで加熱処理をした45パーマロイまたは42インバーを用いた場合も、最大出力密度が高かった。
Figure 0006931915
[実施例2]
本実施例では、実施の形態2に係る微生物電解セル(図3参照)を作製した。
1.電極の準備
実施例1と同様に、アノード(作用極、負極)として、加熱処理をしていない8種類の合金板(ステンレス鋼板を除く)および加熱処理をした9種類の合金板(ステンレス鋼板を含む)を準備した。また、カソード(対極、正極)としてのプラチナ電極(10mm×10mm×0.2mm)、参照電極としての銀−塩化銀電極を準備した。
2.人工廃水の調製
実施例1と同様の組成の人工廃水(電解質溶液)を調製した(表2参照)。
3.微生物電解セルの作製
容器として、容量125mLのアクリル樹脂製の立方体形状の容器を準備した。容器の内部空間の大きさは、50mm×50mm×50mmである。容器内に、アノード、カソード(プラチナ電極)および参照電極(銀−塩化銀電極)を配置した。これらの電極は、ポテンショスタットに接続されている。アノードとしては、加熱処理をしていない上記8種類の合金板(ステンレス鋼板を除く)および加熱処理をした上記9種類の合金板(ステンレス鋼板を含む)から選択した一つを配置した。
4.微生物電解セルの電流値および水素ガスの発生量の測定
人工廃水(表2)と、電子供与微生物を含む活性汚泥とを5:1の割合で混合した。得られた混合液(培地)を導入口から容器の内部に導入して、30℃で培養を開始した。1週間に1回の頻度で混合液を交換しながら6〜8週間培養した。その後、アノードの電位を開放電位から−0.2V(vs.Ag/AgCl)まで1mV/秒の速度で直線的に変化させた場合における、−0.2V(vs.Ag/AgCl)の時点のカソードの単位面積あたりの電流値を測定した。なお、1種類のアノードについて2つの微生物電解セルを作製し、それぞれの電流値の平均値で、アノードを評価した。
アノードの種類と、電流値との関係を表4に示す。表4では、電流値の平均値が高いものほど上に位置している。また、加熱処理したステンレス鋼を用いた場合の電流値を1として、相対比も示している。この表に示されるように、アノードとして、加熱処理をした45パーマロイまたは加熱処理をした42インバーを用いた場合は、加熱処理をしていない他の合金または加熱処理をした他の合金を用いた場合の電流値(0〜1.54A/m)に比べて顕著に高い最大出力密度(1.88〜2.05A/m)を示した。
なお、ここでは結果を示さないが、電気炉を用いて400℃で10分間以上加熱することで加熱処理をした45パーマロイまたは42インバーを用いた場合も、電流値が高かった。
Figure 0006931915
実施例1では、加熱処理をした所定のニッケル−鉄合金をアノードとして有する本発明に係る微生物燃料電池は、加熱処理をしたステンレス鋼をアノードとして有する比較例に係る微生物燃料電池よりも14〜17%出力が向上していた。微生物燃料電池では、アノードとカソードとの電位差が起電力となるため、微生物燃料電池の出力は、アノードおよびカソードの両方の性能に依存する。前述のとおり、実施例1では、カーボンペーパーにプラチナ粉末のペーストを塗ってカソードを作製した。しかしながら、このペーストの塗布作業は手作業であるため、完全に同一の触媒層を形成することは極めて困難であり、作製されたカソードごとにロット差が生じてしまう。したがって、本発明に係るアノードの性能は、カソードのロット差に起因して低く見えてしまっている可能性がある。
一方、実施例2では、加熱処理をした所定のニッケル−鉄合金をアノードとして有する本発明に係る微生物電解セルは、加熱処理をしたステンレス鋼をアノードとして有する比較例に係る微生物電解セルよりも24〜35%出力が向上していた。微生物電解セルでは、ポテンショスタットによりアノードの電極電位が正確に制御されているため、カソードの影響を受けることなく、アノードの性能に依存して出力(電流および水素の生産)が決まる。したがって、本発明に係るアノードの性能は、実施例1の結果よりも実施例2の結果の方がより正確に示しているといえる。
なお、実施例1および実施例2では、培地の攪拌はしておらず、種菌(発電細菌)も純粋培養に由来するものではなく発電細菌以外を多量に含んでいる活性汚泥を使用した。したがって、例えば培地を常時攪拌したり、純粋培養により得られる発電細菌を種菌として使用したり、より高濃度の基質を使用したりすることで、より出力を向上させられると推定される。
本発明に係る生物電気化学システムは、例えば畜舎における廃水処理や、都市部における下水処理などにおいて有用である。
100 微生物燃料電池
110,210 容器
120,220 液体
122,222 電子供与微生物
130,230 アノード
140 膜電極接合体
142 隔膜
144,240 カソード
200 微生物電解セル
250 参照電極
260 ポテンショスタット(電圧印加部)
270 水素回収部
272 水素ガス
280 水素貯蔵部

Claims (4)

  1. 生物電気化学システムにおいてアノードとして使用される電極であって、
    板状の45パーマロイまたは42インバーからなる合金からなり、
    前記合金の表面をエネルギー分散型X線分光法で分析したときのNi、OおよびFeの各元素の濃度が、Ni:5.0〜15.0質量%、O:18.0〜30.0質量%、Fe:55.0〜77.0質量%であり、
    前記合金の断面において前記表面から5μm以上離れた部分をエネルギー分散型X線分光法で分析したときのNi、OおよびFeの各元素の濃度が、Ni:35.0〜50.0質量%、O:0〜1.0質量%、Fe:50.0〜65.0質量%である、
    生物電気化学システム用電極。
  2. 容器と、
    前記容器内に収容された、有機物および電子供与微生物を含む液体と、
    前記液体に接触するように配置されたアノードと、
    前記液体に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記液体と隣接するように配置されたカソードと、を有し、
    前記アノードは、請求項に記載の生物電気化学システム用電極である、
    生物電気化学システム。
  3. 前記生物電気化学システムは、微生物燃料電池である、請求項に記載の生物電気化学システム。
  4. 前記アノードから前記カソードに電子が流れるように、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加部をさらに有し、
    前記生物電気化学システムは、微生物電解セルである、
    請求項に記載の生物電気化学システム。
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