以下に示す実施形態は、乳癌に関する情報を取得する細胞分析装置に本発明を適用したものである。
細胞分析装置が表示する「治療指標情報」とは、医師等が投薬、手術または経過観察等の治療方針を決定する際の指標となる情報のことである。以下の実施形態では、治療指標情報の一例として、乳癌の予後因子の一つであるHER2遺伝子の数が第1物質の数として計数され、計数値、CEP17の数との比の判定結果が、治療指標情報として取得され表示される。この治療指標情報に基づき、医師等は、HER2遺伝子の増幅具合を確認できる。これにより、たとえば、HER2遺伝子を特異的ターゲットとする分子標的薬剤であるハーセプチン(登録商標)、一般名トラスツズマブを、当該患者の乳癌治療に用いるか否かの投薬方針を判断できる。なお、細胞分析装置が表示するのは上記の治療指標情報に限られない。第1物質である疾患マーカーの計数値や第1物質と第2物質との比等を、疾患マーカーに関連する疾病の進行状況を判断する際の指標となる「治療指標情報」として出力してもよい。
1.実施形態1
図1に示すように、細胞分析装置10は、光源部11と、シャッター12と、1/4波長板13と、ビームエキスパンダ14と、集光レンズ15と、ダイクロイックミラー16と、対物レンズ17と、ステージ18と、撮像部19と、コントローラ20、21と、情報処理装置100と、を備える。撮像部19は、集光レンズ19aと、撮像素子19bを備える。撮像素子19bは、たとえば、CCD、EMCCD、CMOS、scientific CMOSイメージセンサである。
ステージ18には、試料が載せられたスライドガラス22が設置される。試料は、被検細胞を含み、被検細胞の核の中には、第1物質と第2物質を含む。検出対象となる第1物質および第2物質は、たとえば疾患マーカーとなる遺伝子、タンパク質またはペプチド等の生体物質である。具体的には、実施形態1では、被検細胞は病変組織から採取した細胞である。また、第1物質はHER2遺伝子であり、第2物質は17番染色体のセントロメア領域(CEP17)である。HER2遺伝子は乳癌の疾患マーカーである。CEP17は正常細胞においてはHER2遺伝子と同数存在しており、乳癌等に罹患しても増殖をすることはない。このため、CEP17をHER2遺伝子の増幅を測る際の基準となる内部コントロールとして用いている。
試料において、第1物質には第1蛍光色素が結合し、第2物質には第2蛍光色素が結合している。第1蛍光色素は、光源11aからの光が照射されることにより蛍光を生じる活性状態と、光源11aからの光が照射されても蛍光を生じない不活性状態とにスイッチング可能である。第1蛍光色素は、光源11aからの光が照射されると不活性化し、光源11cからの光が照射されると活性化する。以下では、不活性化することを「消光する」という。被検細胞の核は、第3蛍光色素により染色されている。
実施形態1では、光源11cからの光により第1蛍光色素を消光状態から活性化させる。光源11cの光は、第3蛍光色素に蛍光を励起させる場合にも用いられる。このように光源11cからの光を第1蛍光色素の活性化と第3蛍光色素の励起に共用できるため、細胞分析装置10の構成の簡素化が図られ得る。光による作用に代えて、熱や化学薬品等の作用によって第1蛍光色素の活性化が行われても良い。
光源部11は、被検細胞に対し光を照射する。光源部11は、光源11a、11b、11cと、ダイクロイックミラー11d、11eと、を備える。光源11a、11b、11cは、それぞれ、異なる波長の光を出射する。光源部11としては、レーザ光源を用いるのが好ましいが、水銀ランプ、キセノンランプ、LED等を用いてもよい。ダイクロイックミラー11dは、光源11bから出射される光を透過し、光源11aから出射される光を反射する。ダイクロイックミラー11eは、光源11a、11bから出射される光を透過し、光源11cから出射される光を反射する。光源11a、11b、11cからそれぞれ出射される光の光軸は、ダイクロイックミラー11d、11eにより互いに一致させられる。通常、光源部11内の光源は、光源11bから出射される光の波長が一番長く、光源11cから出射される光の波長が一番短くなるよう配置されるのが好ましい。
光源部11は、被検細胞に光を照射して、被検細胞から蛍光を生じさせる。具体的には、光源11a、11b、11cから出射される光は、それぞれ、被検細胞に含まれる第1蛍光色素と、第2蛍光色素と、第3蛍光色素とを励起させて蛍光を生じさせる。
シャッター12は、コントローラ20により駆動され、光源部11から出射された光を通過させる状態と、光源部11から出射された光を遮断する状態とに切り替える。これにより、被検細胞に対する光の照射時間が調整される。1/4波長板13は、光源部11から出射された直線偏光の光を円偏光に変換する。蛍光色素は、所定の偏光方向の光に反応する。よって、励起用の光を円偏光に変換することにより、励起用の光の偏光方向が、蛍光色素が反応する偏光方向に一致し易くなる。これにより、被検細胞に含まれる蛍光色素に効率良く蛍光を励起させることができる。ビームエキスパンダ14は、スライドガラス22上における光の照射領域を広げる。集光レンズ15は、対物レンズ17からスライドガラス22に平行光が照射されるよう光を集光させる。シャッター12と1/4波長板13は、光源11a、11b、11cの直後に配置されても良い。
ダイクロイックミラー16は、光源部11から出射された光を反射し、被検細胞から生じた蛍光を透過する。対物レンズ17は、ダイクロイックミラー16で反射された光を、スライドガラス22に導く。ステージ18は、コントローラ21により駆動され、水平面内で移動する。これにより、スライドガラス22上に広く光が照射される。被検細胞から生じた蛍光は、対物レンズ17を通り、ダイクロイックミラー16を透過する。集光レンズ19aは、蛍光を集光して、撮像素子19bの受光面に導く。撮像素子19bは、蛍光を撮像し、撮像した画像を出力する。
情報処理装置100は、パーソナルコンピュータであり、本体110と、表示部120と、入力部130と、を備える。本体110は、処理部111と、記憶部112と、インターフェース113と、を備える。
処理部111は、たとえばCPUである。記憶部112は、ROM、RAM、ハードディスク等である。処理部111は、記憶部112に記憶されたプログラムに基づいて様々な機能を実行する。処理部111は、撮像素子19bにより得られた画像を処理するとともに、その他の様々な処理を行う。また、処理部111は、インターフェース113を介して、光源部11の光源11a、11b、11cと、撮像素子19bと、コントローラ20、21とを制御する。表示部120は、処理部111による処理結果等を表示するためのディスプレイである。入力部130は、ユーザによる指示の入力を受け付けるためのキーボードとマウスである。
以下、処理部111により実行される第1処理工程および第2処理工程について説明する。以下では、第1蛍光色素、第2蛍光色素および第3蛍光色素から励起された蛍光の撮像画像を、それぞれ「第1画像」、「第2画像」および「第3画像」という。以下の第1処理工程および第2処理工程の説明において記載する各光の波長、強度および照射時間は、第1蛍光色素、第2蛍光色素および第3蛍光色素がそれぞれ後述の「(3)実験」において用いた色素である場合に適用されるものである。各光の波長、強度および照射時間は、第1蛍光色素、第2蛍光色素および第3蛍光色素が変更されるに伴い、また色素の標識方法や標識密度が変更されるに伴い、適宜変更される。
(1)第1処理工程
まず、図2(a)、(b)を参照し、蛍光色素の結合形態について説明する。第1処理工程において、試料の調製時には第1物質に第1蛍光色素が結合される。図2(a)に示すように、第1蛍光色素は、第1物質に特異的に結合する中間物質を介して第1物質に結合される。試料の調製時には第2物質に第2蛍光色素が結合される。図2(b)に示すように、第2蛍光色素もまた、第2物質に特異的に結合する中間物質を介して第2物質に結合される。試料の調製時には被検細胞の核は、第3蛍光色素によって特異的に染色される。ここで、第1物質または第2物質が遺伝子の場合には、中間物質として核酸プローブを用いることができる。また、第1物質または第2物質がタンパク質の場合には、中間物質としてそのタンパク質に特異的な抗体を用いることができる。なお、蛍光色素を結合する物質は、分析目的に応じてその対象および数を変更しても良い。
図3(a)に模式的に示すように、一つの第1物質には多数の第1蛍光色素が結合する。図3(a)には、第1蛍光色素がそれぞれ結合した2つの第1物質が模式的に示されている。同様に、一つの第2物質にも多数の第2蛍光色素が結合する。上記のように、第1蛍光色素と第2蛍光色素は、所定波長のレーザ光により消光状態と活性状態とをスイッチング可能な蛍光色素である。
初期状態では、図3(a)に模式的に示すように、全ての第1蛍光色素が活性状態にある。図3(a)において、活性状態は黒丸で示される。この状態で、光源11aからの光が所定時間、被検細胞に照射されると、図3(b)に示すように、全ての第1蛍光色素が消光する。図3(b)において、消光状態は白丸で示される。
その後、光源11cからの光が所定時間、被検細胞に照射されると、たとえば図3(c)に示すように、一部の第1蛍光色素が活性化する。光源11cからの光の照射時間を調整することにより、活性化される第1蛍光色素の割合が変化する。再び光源11aからの光が所定時間、被検細胞に照射されると、図3(b)に示すように、全ての第1蛍光色素が消光する。その後、再び光源11cからの光が所定時間、被検細胞に照射されると、たとえば図3(d)に示すように、一部の第1蛍光色素が活性化する。図3(c)、(d)に示すように、各回の活性化処理で活性化される第1蛍光色素の分布は、その都度異なる。
第1処理工程では、第1蛍光色素は、一旦消光させた後、再度活性化させ、その後励起用の光を照射して蛍光を撮像する。したがって、第1画像は、たとえば、図3(c)のように、第1蛍光色素がまばらに蛍光を発する状態で取得される。第2蛍光色素は、消光状態と活性状態にスイッチング可能であるが、第1処理工程では、消光させることなく初期状態のままで撮像される。したがって、第2画像は、図3(a)のように、全ての第2蛍光色素が蛍光を発する状態で取得される。
第1処理工程では、光源11a、11b、11cから出射される光の波長は、それぞれ、640nm、730nm、405nmである。
図4(a)に示すように、ステップS101において、処理部111は、光源11bからの光を被検細胞に20mWで1.5秒照射することにより、第2蛍光色素から蛍光を生じさせ、生じた蛍光を撮像部19により撮像する。処理部111は、光が被検細胞に照射されている間に撮像を繰り返して100枚の第2画像を取得する。なお、ステップS101において100枚の第2画像を取得したが、取得する画像の枚数自体はこれに限られず、たとえば1枚の画像が取得されても良い。
ステップS102において、処理部111は、光源11cからの光を被検細胞に1mWで1.5秒照射することにより、第3蛍光色素から蛍光を生じさせ、生じた蛍光を撮像部19により撮像する。処理部111は、光が被検細胞に照射されている間に撮像を繰り返して100枚の第3画像を取得する。なお、ステップS102において100枚の第3画像を取得したが、取得する画像の枚数自体はこれに限られず、たとえば1枚の画像が取得されても良い。
ステップS103において、処理部111は、光源11aからの光を被検細胞に80mWで照射することにより、第1蛍光色素を消光させる。ステップS104において、処理部111は、光源11cからの光を被検細胞に15mWで0.15秒照射することにより、第1蛍光色素を活性化する。ステップS105において、処理部111は、光源11aからの光を被検細胞に80mWで2秒照射することにより、第1蛍光色素から蛍光を生じさせ、生じた蛍光を撮像部19により撮像する。処理部111は、光が被検細胞に照射されている間に撮像を繰り返して100枚の第1画像を取得する。ステップS105では、ステップS103と同じ光が用いられるため、ステップS105において光が照射される間に、第1蛍光色素が消光する。こうして、第1処理工程の画像取得処理が終了する。なお、ステップS105において100枚の第1画像を取得したが、取得する画像の枚数自体はこれに限られず、たとえば1枚の画像が取得されても良い。
その後、処理部111は、図4(b)に示すステップS111において、第1画像、第2画像および第3画像に基づいて、それぞれ、第1蛍光色素、第2蛍光色素および第3蛍光色素の回折限界画像を作成する。以下、消光および再活性化を介して取得された蛍光色素の回折限界画像のことを、特に「再活性化回折限界画像」という。
図5(a)に示すように、再活性化回折限界画像は、図4(a)のステップS103〜S105に示すように消光と活性化が1回だけ行われることにより取得された画像を平均化することにより作成される。したがって、第1蛍光色素の再活性化回折限界画像は、ステップS105で取得される100枚の第1画像を平均化することにより作成される。
図5(b)に示すように、回折限界画像は、図4(a)のステップS101、S102に示すように消光と活性化が行われることなく取得された画像を平均化することにより作成される。したがって、第2蛍光色素の回折限界画像は、ステップS101で取得される複数の第2画像を平均化することにより作成される。第3蛍光色素の回折限界画像は、ステップS102で取得される複数の第3画像を平均化することにより作成される。
図4(b)に戻り、ステップS112において、処理部111は、ステップS111で取得した3つの画像を重ね合わせて参照画像を作成する。参照画像は、後述する判定結果を表示する画面に表示される。ステップS113において、処理部111は、ステップS111で取得した第3蛍光色素の回折限界画像に基づいて、被検細胞の核の領域を特定する。
ステップS114において、処理部111は、第1物質の総数を取得する。具体的には、図5(a)に示すように、処理部111は、ステップS111で取得した第1蛍光色素の再活性化回折限界画像において、ステップS113で取得した被検細胞の核の領域内にある蛍光領域の総面積を算出する。続いて、処理部111は、算出した蛍光領域の総面積を、予め記憶部112に記憶された1個の第1物質に対応する蛍光領域の面積で除算し、除算結果を第1物質の総数とする。なお、第1物質の総数の求め方は、蛍光領域の総面積を単位面積で除算する方法に限られない。たとえば、後述の第2処理工程において用いる図7の手法を100枚の第1画像に適用して第1物質の総数を求めても良い。
図4(b)に戻り、ステップS115において、処理部111は、ステップS114と同様にして、第2物質の総数を取得する。すなわち、処理部111は、ステップS111で取得した第2蛍光色素の回折限界画像において、ステップS113で取得した被検細胞の核の領域内にある蛍光領域の総面積を算出する。続いて、処理部111は、算出した蛍光領域の総面積を、予め記憶部112に記憶された1個の第2物質に対応する蛍光領域の面積で除算し、除算結果を第2物質の総数とする。ステップS114の処理とステップS115の処理とは、順序が逆になるよう入れ替えられても良い。
ステップS116において、処理部111は、第1物質の数の総数と第2物質の数の総数との比、すなわち、“第1物質の数/第2物質の数”を算出する。たとえば、撮像された画像に30個の被検細胞が含まれている場合、処理部111は、30個の被検細胞における第1物質の数の総数を、30個の被検細胞における第2物質の数の総数で除算することにより、比を算出する。こうして、第1処理工程の分析処理が終了する。
ステップS116において、処理部111は、1個の被検細胞における第1物質の数を、1個の被検細胞における第2物質の数で除算することにより、比を算出しても良い。この場合、処理部111は、1個の被検細胞における第1物質の数を、被検細胞ごとに取得した第1物質の数を平均化することにより取得する。また、処理部111は、1個の被検細胞における第2物質の数を、被検細胞ごとに取得した第2物質の数を平均化することにより取得する。
(2)第2処理工程
第1処理工程では、撮像の際に、第1蛍光色素について消光処理と再活性化処理が1回のみ行われたが、第2処理工程では、第1蛍光色素について消光処理、再活性化処理および撮像処理を複数回繰り返して第1画像を取得する。また、第2処理工程では、取得した各第1画像について輝点を抽出し、抽出した輝点を第1物質に対応するグループに分類して第1物質の数を取得する。
なお、第2処理工程は、第1処理工程における画像取得処理および分析処理がなされた後に、これらの処理を引き継いで行われることが想定されている。したがって、第2処理工程において、画像取得処理の開始時には、第1処理工程における撮像処理すなわち図4(a)のステップS105によって、第1蛍光色素が消光された状態にある。第1処理工程を引き継ぐことなく独立して第2処理工程の処理を行う場合は、図6(a)のステップS121の前に、図4(a)のステップS101〜S103が追加され、図6(b)のステップS132の後段に、図4(b)のステップS113が追加され、図6(b)のステップS133の後段に、図4(b)のステップS115が追加される。
図6(a)に示すように、ステップS121において、処理部111は、光源11cからの光を被検細胞に15mWで0.15秒照射することにより、第1蛍光色素を活性化する。ステップS122において、処理部111は、光源11aからの光を被検細胞に80mWで2.25秒照射することにより、第1蛍光色素から蛍光を生じさせ、生じた蛍光を撮像部19により撮像する。処理部111は、光が被検細胞に照射されている間に撮像を繰り返して100枚の第1画像を取得する。ステップS122において光が照射される間に、第1蛍光色素が消光する。
ステップS123において、処理部111は、第1画像の取得が終了したか否かを判定する。処理部111は、ステップS121、S122の処理を所定回数繰り返す。ここでは、ステップS121、S122の処理が29回繰り返される。こうして、処理部111は、図4(a)のステップS105で取得した100枚の第1画像と、ステップS121、S122の処理を29回繰り返して取得した2900枚の第1画像とを合わせて、計3000枚の第1画像を取得する。
図6(b)に示すように、ステップS131において、処理部111は、第1蛍光色素の超解像画像を作成する。
図7に示すように、超解像画像は、図4(a)のステップS103〜S105と図6(a)のステップS121〜S123により取得された第1画像に基づいて作成される。具体的には、各第1画像について、ガウスフィッティングにより蛍光の輝点が抽出される。これにより、2次元平面において、各輝点の座標が取得される。ここで、第1画像上の各蛍光領域について、ガウスフィッティングにより、所定範囲で基準波形とのマッチングが得られた場合は、この範囲に応じた広さの輝点領域が各輝点に割り当てられる。基準波形と1点でマッチングする蛍光領域の輝点については、最低レベルの広さの輝点領域が割り当てられる。こうして得られた各輝点の輝点領域が全ての第1画像について重ね合わせられることにより、超解像画像が作成される。
したがって、第1蛍光色素の超解像画像は、図4(a)のステップS103〜S105と図6(a)のステップS121、S122で取得された3000枚の第1画像から輝点が抽出され、抽出された輝点の輝点領域が重ね合わせられることにより作成される。
図6(b)に戻り、ステップS132において、処理部111は、ステップS131で取得した第1蛍光色素の超解像画像と、図4(b)のステップS111で取得した第2蛍光色素の回折限界画像および第3蛍光色素の回折限界画像とを重ね合わせて参照画像を作成する。参照画像は、後述する判定結果を表示する画面に表示される。
ステップS133において、処理部111は、第1物質の数を取得する。具体的には、図7に示すように、処理部111は、ステップS131の超解像画像の作成時に抽出した輝点を一つの第1物質に対応するグループ毎に分類する。すなわち、処理部111は、まず、3000枚の第1画像から抽出した全ての輝点を座標平面にマッピングする。次に、処理部111は、所定の広さの参照領域で座標平面を走査し、参照領域に含まれる輝点の数を参照する。さらに、処理部111は、参照領域に含まれる輝点の数が閾値よりも多く、且つ、周囲よりも多い参照領域の位置を抽出し、抽出した位置において参照領域に含まれる輝点のグループを第1物質に対応するグループに分類する。なお、第1物質に対応するグループに輝点を分類する方法はこれに限られず、他のクラスタリングの手法によって第1物質に対応するグループに輝点を分類しても良い。
ここで、図3(a)〜(d)を参照して説明したように、一つの第1物質には、多数の第1蛍光色素が結合する。また、図3(c)、(d)に示すように、一つの第1物質に結合した第1蛍光色素は、まばらに活性化され、且つ、各回の消光処理および活性化処理によって活性化される第1蛍光色素の分布が異なる。このため、第1物質に対応する輝点は、第1画像ごとに僅かにずれる。しかしながら、上記のように輝点をグループ化することにより、互いに接近する、一つの第1物質に結合した複数の第1蛍光色素に基づく輝点が、一つのグループに分類される。
図6(b)のステップS133において、処理部111は、さらに、座標平面上において、ステップS113で取得した被検細胞の核の領域を特定し、被検細胞の核の領域に含まれるグループの数を計数する。こうして、処理部111は、計数したグループの数を第1物質の数として取得する。ここで、第1画像に複数の被検細胞が含まれる場合、第1物質の数は、たとえば、被検細胞ごとに取得された第1物質の数を平均化することにより取得される。
このように、被検細胞の核の領域が、図4(b)のステップS113において撮像部19により撮像された撮像画像に基づいて特定されるため、ステップS133において被検細胞の核の領域と第1蛍光色素の輝点とを画像上で重ね合わせることができ、被検細胞の核の領域ごとに、第1蛍光色素の輝点を円滑に抽出できる。これにより、第1物質の数を円滑に取得できる。
ステップS134において、処理部111は、ステップS133で取得した第1物質の数と、1個の被検細胞における第2物質の数との比、すなわち、“第1物質の数/第2物質の数”を算出する。1個の被検細胞における第2物質の数は、図4(b)のステップS115で取得した第2物質の数の総数を、被検細胞中の核の数で除算して取得される。こうして、第2処理工程の分析処理が終了する。なお、図6(a)のステップS122で取得される第1画像の数は100に限られず、他の数であっても良い。
以下の説明において、第1処理工程のステップS114、S115で取得した第1物質の総数および第2物質の総数をもとに、核ごとの第1物質の数および第2物質の数を取得する場合には、ステップS134と同様、これら第1物質の総数および第2物質の総数を、被検細胞中の核の数で除算する処理が行われる。
上記のように、第1蛍光色素を消光させる不活性化処理を行った後、活性化処理を行うと、それぞれの第1物質に結合された第1蛍光色素のうち一部のみが活性化される。また、前回の活性化処理によって活性化されなかった第1蛍光色素が、今回の活性化処理によって活性化されることも起こり得る。したがって、不活性化処理、活性化処理および撮像処理を複数回繰り返すことにより、第1蛍光色素を満遍なく発光させつつ、それぞれの第1画像に第1蛍光色素の蛍光を分散させ得る。よって、それぞれの第1画像から、第1蛍光色素に基づく輝点を円滑に抽出できる。そして、抽出した輝点を第1物質に対応するグループに分類することにより、第1物質の数を計数できる。これにより、被検細胞における第1物質の数を精度良く計数できる。
なお、第1処理工程と第2処理工程では、第1蛍光色素を1分子レベルで検出できるように、光源11cから出射される活性化のための光の強度を調整する必要がある。実施形態1の場合、活性化のための光の強度と活性化のための光の露光時間との積に比例して活性化効率は上昇し、活性化効率は所定のレベルで飽和した。活性化効率とは、消光された第1蛍光色素のうち、1回の活性化処理により活性化される第1蛍光色素の割合のことである。第1蛍光色素を精度良く検出するための活性化効率は、20%以下であり、好ましくは10%以下である。活性化効率が所望の値となるよう活性化のための光の強度と活性化のための光の露光時間とが調整されることにより、第1蛍光色素を精度良く検出できるようになる。
このように活性化効率を低く設定する場合、全ての第1蛍光色素を活性化させ検出するためには、消光と活性化を繰り返す回数が多い方が良い。しかしながら、繰り返し回数が多いと測定時間が長くなってしまう。そこで、実施形態1では、測定時間をできるだけ短くするために、第1処理工程と第2処理工程により消光と活性化を繰り返す総回数を30回とした。消光と活性化を繰り返す回数は、30回に限らず、活性化効率と測定時間とを考慮して所望の回数に設定され得る。なお、第1蛍光色素を1分子レベルで検出する必要がない場合、活性化効率は50%以上であっても良い。活性化効率は、被検細胞内の密度によって決められる。
(3)実験
次に、発明者らが行った実験について説明する。なお、この実験では、便宜上、第2蛍光色素として、消光状態と活性状態にスイッチング可能な色素を用いたが、上記のように実施形態1では第1および第2処理工程において第2蛍光色素は消光されないため、スイッチング可能でない蛍光色素を用いても良い。このような第2蛍光色素として、たとえば、Cy2などの蛍光色素が用いられ得る。
<HER2のFISH染色試料の作製>
以下の工程により、実験用の試料を作成した。
ベンタナインフォームDual ISH HER2キット(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)を用いて、HER2 Dual ISH 3-in-1コントロールスライド(Ventana)上のHER2遺伝子増幅陽性のcalu−3、陰性のMCF7細胞の染色を行った。
[FFPE試料の調整工程]
Dry Block Bath THB(アズワン)上で、65℃、20分間コントロールスライドを乾燥させた。75℃で5分間、Ez Prepをスライド上に乗せ脱パラフィンを行った。この操作を5回繰り返した後、Reaction Bufferに浸漬した。Dry Block Bath THBを90℃にし、CC2を滴下し、10分間コンディショニングを行った。スライドが乾燥しないように、CC2は適宜追加した。この操作を3回行った後、Reaction Bufferに4分間浸漬した。この操作を3回繰り返した。スライド上にISH Protease IIを80μL滴下し、カバーガラスを被せ、37℃のインキュベーターに入れた湿潤箱中で16分間酵素処理を行った。
2×SSCに4分間、3回浸漬し洗浄した。HybReadyとHER2 DNAカクテルプローブを混合し、スライドに30μL滴下した後、カバーガラスを被せ、ペーパーボンドで封入した。Dry Block Bath THB上で95℃で20分間熱変性を行った。その後、44℃のDry Block Bath THB上でオーバーナイトでハイブリダイゼーションを行った。62℃の2×SSCに4分間浸漬し洗浄した。この操作を3回繰り返した後、Reaction Bufferに浸漬した。スライド上に1% BSA/Reaction bufferを500μL滴下し、37℃のインキュベーターに入れた湿潤箱中で20分間ブロッキングを行った。Reaction bufferに浸漬し、洗浄した。
[染色工程]
Rabbit Anti DNP Antibodyと、Mouse Anti DIG Antibodyとを混合し、スライドに滴下し、カバーガラスを被せ、37℃のインキュベーターに入れた湿潤箱中で20分間反応させた。Reaction Bufferに3分間浸漬し、洗浄した。これを3回行った。AlexaFluor 647 F(ab’)2 fragment of goatanti-rabbit IgG (H+L)(Life Technologies,A-21246)、Alexa Fluor 750 Goat Anti Mouse IgG(H+L) (Life Technologies,A-21037)、Hoechst 33342(Life Technologies, H1399) (100mgをPBS 10mLに希釈して保存)を1%BSA/Reaction bufferで1000倍希釈しスライドに80μL滴下、カバーガラスを被せ、37℃のインキュベーターに入れた湿潤箱中で20分間反応させた。TBSTに3分間浸漬し洗浄した。この操作を3回行った。PBSに3分間浸漬し洗浄した。この操作を3回行った。精製水に浸漬し洗浄した。この操作を2回行った後、37℃のインキュベーターで15分間乾燥させた。
Alexa Fluor 647は、上記第1蛍光色素に対応する。Alexa Fluor 750は、上記第2蛍光色素に対応する。Hoechst 33342は、上記第3蛍光色素に対応する。
[撮像準備工程]
0.04μm FluoSphere Dark Red(life technology, F8789)をPBSで希釈し、スライド上に50μL滴下、カバーガラスを被せ10分間静置した。PBS 500μLで洗い流し、マウントメディウム50μLを滴下後、カバーガラスを被せ、マニキュアで固定した。マウントメディウムの組成は下記の通りである。
1M Tris(pH 7.4) 5μL
1M NaCl 1μL
25% glucose 40μL
2-mercaptoethanol 1μL
5000 U/mL Glucose Oxidase 1μL
1000 μg/mL catalase 1μL
H2O 51μL
<第1処理工程の処理結果>
上記試料に対して、第1処理工程による処理を行った。HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料の場合に、図4(b)のステップS112で作成された参照画像を、図8(a)〜(d)に示す。図8(a)〜(d)において、点線矢印は、第1物質、すなわちHER2遺伝子を示し、太線矢印は、第2物質、すなわちCEP17を示している。
第1処理工程の処理により、図4(b)のステップS116で算出された比は、HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料の場合は6.12であり、HER2遺伝子増幅陰性のMCF7細胞に基づく試料の場合は0.83であった。乳癌ガイドラインでは、比が2.2より大きいと陽性であり、比が1.8より小さいと陰性であり、比が1.8以上2.2以下であると境界としている。したがって、第1処理工程の処理によると、陽性の試料に対して適正に陽性と判断でき、陰性の試料に対して適正に陰性と判定できることが分かる。
<第2処理工程の処理結果>
次に、上記試料に対して、さらに第2処理工程による処理を行った。HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料の場合に、図6(b)のステップS132で作成された参照画像を、図9(a)〜(d)に示す。HER2遺伝子増幅陰性のMCF7細胞に基づく試料の場合に、図6(b)のステップS132で作成された参照画像を、図9(e)〜(g)に示す。図9(a)〜(g)においても、図8(a)〜(d)と同様、点線矢印は、第1物質、すなわちHER2遺伝子を示し、太線矢印は、第2物質、すなわちCEP17を示している。
第2処理工程の処理により、図6(b)のステップS134で算出された比は、HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料の場合は6.42であり、HER2遺伝子増幅陰性のMCF7細胞に基づく試料の場合は1.18であった。したがって、第2処理工程によっても、陽性の試料に対して適正に陽性と判断でき、陰性の試料に対して適正に陰性と判定できることが分かる。
<比較例>
次に、比較例1として、HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料に対して、消光と活性化を行わずに参照画像を取得する処理を行った。比較例1で作成された参照画像を、図10(a)〜(d)に示す。
このとき、算出される比は、HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料の場合は7.48であり、HER2遺伝子増幅陰性のMCF7細胞に基づく試料の場合は1.16であった。したがって、比較例1においても、陽性の試料に対して適正に陽性と判断でき、陰性の試料に対して適正に陰性と判定できることが分かる。
次に、比較例2として、HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料に対して、共焦点レーザ顕微鏡を用いて消光と活性化を行わずに参照画像を取得する処理を行った。比較例2で作成された参照画像を、図10(e)〜(g)に示す。比較例2では、第2物質、すなわちCEP17についての画像は取得されていない。
図8(a)〜(d)に示す第1処理工程による参照画像と、図10(a)〜(g)に示す比較例1、2による参照画像とを比較すると、第1処理工程の方が、HER2遺伝子に対応する輝点が分離されていることが分かる。図8(a)〜(d)に示す第1処理工程による参照画像と、図9(a)〜(d)に示す第2処理工程による参照画像とを比較すると、第2処理工程の方が、HER2遺伝子に対応する輝点がさらに分離されていることが分かる。
図8(a)〜図9(d)の参照画像によれば、HER2遺伝子増幅陽性のcalu−3に基づく試料であっても、第2物質であるCEP17は数が少なく、空間的によく分離されている。このため、CEP17に結合する第2蛍光色素は、消光させた後、再活性化させる工程を踏まずとも、分解能高く、蛍光領域が特定された。よって、このように、消光と再活性化の工程を踏まずとも蛍光領域を特定できる第2物質については、第2蛍光色素を消光させる不活性化処理を行わずに第2画像を取得することで、処理の簡素化が図られ得る。
<その他の検証>
第2処理工程の処理による実験では、図9(b)、(d)の四角で囲まれた領域に示すように、第1蛍光色素に基づく輝点領域が線状に繋がる部分が確認された。発明者らの検証によると、他のHER2遺伝子増幅陽性の被検細胞を第2処理工程の処理により検証した場合も、図9(b)、(d)と同様に、超解像画像において、輝点領域が線状に繋がる部分が確認された。これは、乳癌の進行に伴い第1物質であるHER2遺伝子の増幅が顕著となり、HER2遺伝子間の距離が短くなるために、輝点領域が線状に繋がって表示されたものと考えられる。よって、乳癌においては、さらに、上記比による判定とともに、第1物質の配置に関する情報、すなわち第1物質間の距離に基づいて判定を行うことにより、病状の判断や治療方針の決定を精度良く行えると考えられる。この判定は、乳癌以外の他の疾病においても、同様に適用可能であると考えられる。
ここでは、第1物質間の距離に注目したが、第1物質の種類によっては、病状または増幅の進行に伴って、第1物質間の距離の他、第1物質の位置や大きさ等の分布状況に変化が見られることが想定され得る。よって、さらに、第1物質の分布状況に基づいて判定を行うことにより、病状の判断や治療方針の決定を精度良く行えると考えられる。
(4)実施形態1の表示処理
第1処理工程の処理では、蛍光領域の総面積を蛍光1個の第1物質に対応する蛍光領域の面積で除算して、第1物質の数が取得される。この方法では、第1物質の数が少なく、第1物質間の距離が大きい場合は、再活性化回折限界画像において第1物質ごとの蛍光領域が分離されるため、比較的正しく第1物質の数を取得できる。したがって、第1処理工程の処理によっても、乳癌陰性の判定は適正に行われ得る。
しかしながら、乳癌の進行が進み、第1物質の数が増加すると、再活性化回折限界画像において第1物質ごとの蛍光領域が重なりあうことが起こり得る。このため、第1処理工程の処理では、比に基づく乳癌の判定結果の精度が低下することが起こり得る。これに対し、第2処理工程の処理では、このように第1物質の数が増加した場合でも、第1物質の数を高精度に取得できるため、適正に乳癌の判定が行われ得る。そこで、以下の表示処理では、まず、第1処理工程の処理を行って疾患マーカーの増幅が陰性であるか否かを判定し、陰性でない場合のみ、第2処理工程の処理を行う。
図11に示すように、ステップS141において、処理部111は、図4(a)、(b)に示す第1処理工程の処理を実行する。これにより、処理部111は、図4(b)のステップS116において、第1物質の増幅の有無を示す比を取得する。ステップS142において、処理部111は、図4(b)のステップS116で算出した比に基づいて、疾患マーカーの増幅の判定を行う。具体的には、処理部111は、比が2.2より大きいと陽性と判定し、比が1.8より小さいと陰性と判定し、比が1.8以上2.2以下であると境界と判定する。
続いて、ステップS143において、処理部111は、ステップS142の判定結果が陰性であるか否かを判定する。ステップS142の判定結果が陰性である場合、ステップS144において、処理部111は、第1処理工程で取得した第1物質の増幅の有無を示す比と、ステップS142で取得した判定結果とを、治療指標情報として表示部120に表示する。こうして、表示処理が終了する。この場合、第2処理工程に基づく判定および表示は行われない。他方、ステップS142の判定結果が陽性または境界の場合、処理部111は、ステップS145に処理を進める。
ステップS145において、処理部111は、図6(a)、(b)に示す第2処理工程の処理を実行する。ステップS146において、処理部111は、図6(b)のステップS134で算出した比に基づいて、疾患マーカーの増幅の判定を行う。判定方法は、ステップS142と同様である。上述したように、第2処理工程によれば、第1物質の数が精度良く計数される。したがって、ステップS146では、精度良く計数された第1物質の数に基づいて、分子標的薬の標的分子となる第1物質の増幅の判定がなされる。このため、より精度の高い病状の判定結果が得られ得る。
続いて、ステップS147において、処理部111は、ステップS146の判定結果が陽性であるか否かを判定する。ステップS146の判定結果が陽性である場合、ステップS148において、処理部111は、ステップS146で取得した判定結果を含む治療指標情報を表示部120に表示する。こうして、表示処理が終了する。他方、ステップS146の判定結果が陰性または境界である場合、処理部111は、ステップS149に処理を進める。
ステップS149において、処理部111は、図6(b)のステップS132で作成した参照画像に、第1物質の線状構造があるか否かを判定する。第1物質の線状構造は、図9(b)、(d)の四角で囲まれた領域に示すような構造である。処理部111は、第1物質であるHER2遺伝子間の距離が閾値よりも短いものが所定数連続する場合に、参照画像に第1物質の線状構造があると判定する。
処理部111は、第1物質の線状構造があると判定すると、ステップS150において、ステップS146で取得した判定結果を陽性に変更する。他方、処理部111は、第1物質の線状構造がないと判定すると、ステップS146で取得した判定結果を変更することなく、処理をステップS148に進める。こうして、表示処理が終了する。
ステップS142、S146では、第1物質の数および第2物質の数の比に基づいて乳癌の判定が行われたが、核ごとの第1物質の数を閾値と比較して乳癌の判定が行われても良い。ただし、上記のように病状の進行に伴って第1物質の数と第2物質の数のバランスが変化するような場合は、第1物質の数とともに第2物質の数をも参照して病状の判定を行うことにより、病状の判定精度を高め得る。
上記のように、乳癌では、異常な細胞分裂に伴い、被検細胞の核の中において、第1物質であるHER2遺伝子の数が増加するため、HER2遺伝子の数とCEP17の数のバランスが変化する。よって、上記の処理のように、第1物質の数と第2物質の数の比に基づいて疾患マーカーの増幅の判定を行うことにより、より的確に疾患マーカーの増幅の有無を判定できる。第1物質の数と第2物質の数のバランスを示す値は、比に限られず、たとえば第1物質の数と第2物質の数の差でも良い。
図11のフローチャートでは、第2処理工程による判定結果が陽性で無い場合に処理がステップS149へと進められたが、判定結果に拘わらずステップS149へと処理が進められても良い。また、線状構造がある場合に、陰性または境界であるとの判定結果が陽性に変更されたが、判定結果は変更されず、線状構造があることの表示が判定結果に付記されても良い。
図12(a)、(b)に示すように、表示処理において表示部120に表示される画面200は、結果領域210とコメント領域220を備える。結果領域210は、第1処理工程または第2処理工程の処理によって取得される情報を表示する。具体的には、結果領域210は、被検細胞1つ当たりの第1物質の数と、比と、第1物質に関連する病状の判定結果とを含む治療指標情報と、線状構造の有無を示す他の治療指標情報と、参照画像とを表示する。コメント領域220は、結果領域210の内容についての補足説明を表示する。
図12(a)、(b)に示す画面200は、何れも、第2処理工程の処理が実行された場合のものである。図12(a)では被検細胞に線状構造が存在せず、図12(b)では被検細胞に線状構造が存在する。
図12(b)に示す画面200では、コメント領域220に線状構造があったことを示すメッセージが表示されている。図12(a)、(b)に示すように、画面200には、判定結果を含む治療指標情報が表示されるため、医師等は、目視により輝点を計数するといったような煩雑な作業を要求されることなく、高精度に病状の診断を行える。医師等は、病状の診断にあたって熟練の技術が求められることがないため、医師による診断のばらつきが抑制される。第1物質の数および第2物質の数の比が結果領域210に表示されるため、医師等は、この比を参照することにより、治療方針を決定できる。なお、表示される治療指標情報は、図12(a)、(b)に示すものに限定されるものではなく、たとえば、第1物質の数の表示が省略され、あるいは、判定結果の表示が省略されても良い。
第1処理工程の判定結果が陰性では無い場合、結果領域210には、第2処理工程で取得された参照画像が表示される。この参照画像は、第1蛍光色素の超解像画像に基づいて作成されているため、第1蛍光色素の輝点の分布状況を示す高精度な画像である。したがって、医師等は、この画像により輝点の分布状況を参照することにより、病状をより詳細に確認できる。
第1処理工程の判定結果が陰性であり第2処理工程の処理がスキップされる場合は、第1処理工程の処理に基づく数値および判定結果と参照画像とが結果領域210に表示され、線状構造の欄はマスクされる。
上記のように、乳癌に罹患していない患者の被検細胞では、HER2遺伝子の数が少なく互いに接近しにくいため、第1処理工程の画像解析によっても、被検細胞におけるHER2遺伝子の数を正しく計数でき、第1物質の増幅が陰性であることを精度良く判定できる。よって、第1処理工程の判定が陰性となった場合に、第2処理工程の処理がスキップされても、判定結果に問題はない。また、この場合に、第2処理工程の処理をスキップすることにより、医師等に迅速に、判定結果を提供できる。第1処理工程の判定が陰性ではない場合は、より精度よくHER2遺伝子の数を計数できる第2処理工程の処理が実行されて判定がなされるため、医師等に精度の高い判定結果を提示できる。
2.実施形態2
実施形態2では、第2蛍光色素についても第1蛍光色素と同様に、消光と活性化が行われる。
図13に示すように、実施形態2では、図4(a)の第1処理工程の処理におけるステップS101の直前にステップS201、202が追加される。これにより、第2物質に結合する第2蛍光色素も、ステップS201で消光された後、ステップS202で活性化されて、ステップS101で蛍光が撮像される。ステップS101の処理により、第2蛍光色素が消光される。この場合、図4(b)のステップS111では、第2物質についても、第1物質と同様に再活性化回折限界画像が取得され、ステップS112において、取得された再活性化回折限界画像が他の画像と重ねられる。これにより、参照画像は、第2物質の蛍光領域が実施形態1に比べて分離される。その結果、図4(b)のステップS115にて取得される第2物質の数の精度が高まる。ステップS201、S202、S101の処理と、ステップS103〜S105の処理とは、順序が逆になるよう入れ替えられても良い。
図14(a)に示すように、実施形態2では、図6(a)の第2処理工程の処理におけるステップS121の前に、ステップS211〜S213が追加される。第2物質に結合する第2蛍光色素も、ステップS211で活性化された後、ステップS212で撮像および消光がなされる処理が、ステップS213で規定される回数繰り返されて、複数の第2画像が取得される。
この場合、図14(b)に示すように、図6(b)のステップS133の後段にステップS221が追加される。ステップS131では、第2物質についても、第1物質と同様に、第2画像に対して輝点が抽出されて超解像画像が取得され、ステップS132において、取得された超解像画像が他の画像と重ねられる。これにより、参照画像において、第2物質の輝点領域の解像度が顕著に高まる。また、ステップS221では、ステップS133における第1物質の数の取得と同様に、第2物質についても、輝点をグループに分類して、第2物質の数が取得される。これにより、第2物質の数の精度が高まる。その結果、ステップS134にて算出される比の精度も高まる。
実施形態2では、第2蛍光色素に対しても消光と活性化が行われるため、実施形態1に比べて、第2物質の分布をより解像度よく表示できる。
病状の進行に伴い被検細胞における第2物質の増幅が顕著となる場合は、2つの第2物質が互いに近接することが起こり得る。この場合、近接する2つの第2物質に結合する全ての第2蛍光色素が同時に蛍光を発すると、各蛍光を分離して撮像することが困難となる。実施形態2では、第2物質に結合する第2蛍光色素についても、消光と再活性化の工程を行って蛍光を撮像するため、病状の進行に伴い第2物質の増幅が顕著となる場合にも、第2蛍光色素に基づく蛍光を分離して撮像できる。これにより、病状の判定精度が高められ得る。
実施形態2のように第2物質について超解像画像が取得される場合、第1物質と同様に、第2物質の配置や第2物質の分布状況を取得しても良い。第2物質の配置は、たとえば第2物質間の距離である。第2物質の種類によっては、病状または増幅の進行に伴って、第2物質間の距離と、第2物質の位置や大きさ等の分布状況とに変化が見られることが想定され得る。よって、さらに、第2物質間の距離や第2物質の分布状況に基づいて、病状の診断や治療方針の決定を精度良く行えると考えられる。
<変更例>
このように、第2蛍光色素についても、消光および活性化させる場合、第1蛍光色素および第2蛍光色素として、励起に用いる光の波長は互いに異なるが活性化に用いる光の波長は共通するスイッチング可能な蛍光色素を用い得る。この変更例では、第1蛍光色素および第2蛍光色素として、このような蛍光色素が用いられる。
この場合、図15(a)に示すように、第1処理工程の処理について、図13のステップS201以降が変更される。ステップS301、S302において、異なる波長の光がそれぞれ被検細胞に照射されて第2蛍光色素および第1蛍光色素が消光され、ステップS303において、所定波長の光が照射されて第2蛍光色素および第1蛍光色素が同時に活性化される。その後、ステップS304、305において、被検細胞に第1蛍光色素および第2蛍光色素を励起する光がそれぞれ照射されて、第1画像と第2画像が取得される。ステップS304、S305の処理により、第1蛍光色素および第2蛍光色素がそれぞれ消光される。
また、図14(a)に示す第2処理工程の処理は、図15(b)に示すように変更される。ステップS311において、所定波長の光が照射されて第2蛍光色素および第1蛍光色素が同時に活性化され、ステップS312、S313において、被検細胞に第1蛍光色素および第2蛍光色素を励起する光がそれぞれ照射されて、第1画像と第2画像が取得される。ステップS312、S313の処理により、第1蛍光色素および第2蛍光色素がそれぞれ消光される。ステップS311〜S313の活性化、撮像および消光の処理が、ステップS314に規定された回数繰り返されて、複数の第1画像および第2画像が取得される。
上記のように、消光された第1蛍光色素および第2蛍光色素の活性化を同一工程にて行うことにより、処理が簡素化され得る。特に、超解像画像の取得のために消光と再活性化が多数繰り返される場合には、第1蛍光色素および第2蛍光色素の活性化を一つの工程にて行うことにより、処理が顕著に簡素化され得る。
3.実施形態3
実施形態3では、実施形態1と比較して、光学系の一部が変更され、処理部111によって撮像部19の光軸方向における輝点の位置が取得される。
図16(a)に示すように、細胞分析装置10において、撮像部19に、ビームエキスパンダ19cと位相板19dが追加されている。試料から生じた蛍光は、ビームエキスパンダ19cと、位相板19dと、集光レンズ19aとを順に透過した後、撮像素子19bにより撮像される。
位相板19dは、フーリエ面に配置され、撮像素子19bの受光面に2点の焦点が現れるように点像分布関数を変調する作用を有する。1つの蛍光色素から生じた蛍光は、位相板19dの作用により、撮像素子19bの受光面上で2つの焦点に結像される。このとき、2つの焦点は、図16(b)に示すように、撮像部19の光軸方向における蛍光の発光点の位置に応じて受光面上で回転する。つまり、2つの焦点を結ぶ直線と、基準となる直線とがなす角が、光軸方向における蛍光の発光点の位置に応じて、撮像素子19bの受光面上において変化する。
たとえば、スライドガラス22において撮像部19の光軸方向に異なる2つの位置にある蛍光色素から生じた蛍光は、それぞれ位相板19dにより2つに分割され、撮像素子19bの受光面上に照射される。このとき、受光面上における2つの焦点を結ぶ直線は、たとえば、図16(b)に示すように、一方の蛍光色素については基準線と+θ1の角をなし、もう一方の蛍光色素については基準面と+θ2の角をなす。したがって、2つの焦点を結ぶ直線が、基準線に対してなす角を取得すれば、光軸方向における蛍光色素の位置を取得できる。
具体的には、処理部111は、第2処理工程と同様、消光と活性化を繰り返して取得した第1画像について、ガウスフィッティングを行って輝点を抽出し、さらに、抽出した輝点の輝度を取得する。次に、処理部111は、輝度が同程度で且つ距離が所定の範囲以内にある2つの輝点をペアリングする。続いて、処理部111は、ペアリングした2つの輝点を、予め記憶部112に記憶された2つの輝点のテンプレートとフィッティングさせ、ある精度以上でフィッティングできた2つの輝点を、1つの蛍光色素から生じた蛍光が位相板19dにより分割されたものであると判定する。
続いて、処理部111は、受光面上のペアとなる2つの輝点の中点を蛍光色素の撮像アングルにおける2次元平面上の位置とする。処理部111は、上述したようにペアとなる2つの輝点を結ぶ直線と、基準線とのなす角に基づいて、撮像部19の光軸方向における蛍光色素の位置を決定する。こうして、処理部111は、2次元平面上の位置と、光軸方向における位置とに基づいて、複数の蛍光色素の座標点を3次元座標軸において特定し、特定した座標点を全ての第1画像について重ね合わせることにより、3次元超解像画像を作成する。
さらに、処理部111は、特定した座標点を、第1物質に対応するグループに分類して被検細胞における第1物質の数を取得する。座標点のグループ化は、たとえば、所定の参照空間を3次元座標空間において走査させ、この参照空間内に含まれる座標点の数が閾値より多く、且つ、周囲よりも輝点の数が多い参照空間の位置を抽出し、抽出した位置において参照空間に含まれる輝点のグループを第1物質に対応するグループに分類する。
続いて、処理部111は、被検細胞の3次元空間における核の範囲を取得する。具体的には、処理部111は、対物レンズ17を撮像部19の光軸方向に変位させて、光軸方向の異なる複数のフォーカス位置において画像を取得する。このとき、第3蛍光色素に基づく蛍光が検出される領域は核に対応し、第3蛍光色素に基づく蛍光が検出されない領域は、核以外、すなわち細胞質に対応する。処理部111は、取得した複数の画像ごとに、蛍光が検出された領域から核の輪郭を取得する。そして、処理部111は、各フォーカス位置とその位置の核の輪郭とに基づいて、3次元空間における核の範囲を取得する。なお、第3蛍光色素としては、上述したHoechst 33342のほかに、7-AAD、DAPI、SYTOX系蛍光色素、SYTO系蛍光色素、ヨウ化プロピジウム等が挙げられる。そして、処理部111は、被検細胞の核の範囲に含まれるグループの数を、第1物質の数として取得する。
たとえば、3次元超解像画像は、図17(a)、(b)のように取得される。各図において、X−Y平面が撮像アングルにおける2次元平面であり、Z軸方向が撮像部19の光軸方向である。図17(a)、(b)は、それぞれ、乳癌の判定結果が陰性および陽性であった試料について実際に3次元超解像画像を取得したものである。図17(a)、(b)の3次元超解像画像をZ軸方向およびY軸方向に参照すると、図17(c)、(d)に示すような画像が得られる。
3次元超解像画像が作成される場合、表示処理において、図18に示すような画面300が表示部120に表示される。画面300は、図12(a)、(b)に示す画面200と同様、結果領域310とコメント領域320を備える。結果領域310は、3次元超解像画像をZ軸方向およびY軸方向に参照した場合の画像を表示している。結果領域310は、図17(a)、(b)に示すような3次元超解像画像を表示しても良い。
実施形態3によれば、第1蛍光色素について、撮影アングルにおける2次元平面上の位置とともに、撮像部19の光軸方向における位置を特定可能な3次元超解像画像が取得されるため、2次元平面上では重なる輝点についても、分離して抽出できる。よって、第1物質の数をさらに正しく計数でき、医師等に、より精度の高い判定結果を提示できる。また、医師等は、3次元超解像画像を参照することにより、光軸方向における第1物質の分布をも把握でき、病状の判断や治療方針の決定をより的確に行える。
3次元超解像画像に基づいて、第1物質間の距離や第1物質の分布状況を取得しても良い。3次元超解像画像によれば、第1物質間の距離や第1物質の分布状況をより正確に把握することができるため、病状の判断や治療方針の決定をより的確に行える。また、第2物質についても3次元超解像画像を取得し、取得した3次元超解像画像に基づいて、第2物質間の距離や第2物質の分布状況を取得しても良い。この場合も、第2物質間の距離や第2物質の分布状況をより正確に把握することができるため、病状の判断や治療方針の決定をより的確に行える。
なお、実施形態1〜3では、治療対象となる疾病を乳癌とし、治療方針の判断指標となる第1物質をHER2としたが、これに限らず、他の疾病を治療対象とし、治療方針の判断指標となる第1物質を、対象となる疾病に合わせて他の物質としても良い。また、第2物質についても、対象となる疾病に合わせて他の物質としても良い。第1物質が他の物質とされる場合、上記実施形態とは異なり、第1物質が病状により正常時から減少することも想定され得る。実施形態1〜3の手法は、適宜、第1物質の減少の検出にも用いられ得るため、HER2を対象とする場合と同様、第1物質の減少を精度良く検出できる。また、病状により第2物質が増減する場合も、同様に実施形態1〜3の手法を適用可能である。