JP6928816B2 - 質量分析計を用いたタンパク質分析のためのタンパク質含有試料の前処理方法 - Google Patents

質量分析計を用いたタンパク質分析のためのタンパク質含有試料の前処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、質量分析計を用いたタンパク質分析のためのタンパク質含有試料の前処理方法に関する。
近年の医学・生命科学分野での研究において、タンパク質を網羅的かつ高感度・高精度に定量分析する技術が求められている。特に質量分析計は多成分を同時に分析することが可能で、近年では感度・精度ともに大きく進歩していることもあり、これらの研究分野では日常的に利用されている(特許文献1)。しかしながら質量分析計を使ったタンパク質の定量分析では、その前処理工程の如何が、検出感度や定量再現性に大きく影響することも珍しくない。また、質量分析計での大規模タンパク質定量測定では、分析時間が長時間に及ぶことから前処理後の分析サンプルの安定性にも注意を払う必要がある。前処理法については、様々な方法や改良法等が報告されている。例えば、特許文献1では、細胞抽出物をTCA沈殿した後、グアニジン塩酸を含むTris緩衝液中でタンパク質変性処理を行い、次いで、還元アルキル化処理を行い、アルキル化剤の不活化処理を行った後、トリプシンによってタンパク質消化(分解)処理を行った。得られた消化物をカラムで脱塩処理後、遠心濃縮して、iTRAQバッファーに再溶解し、安定同位体標識を行い、LC−MS/MS解析に用いる方法が報告されている。また、細胞ライセートを、TCA/アセトン沈殿により精製し、次いで、タンパク質変性剤を含まない緩衝液中で超音波処理を行い、次いで、トリプシンにより37℃で16時間のタンパク質消化処理を行い、次いで、還元アルキル化処理を行い、次いでアルキル化剤の不活化処理後、再度37℃で3時間のタンパク質消化処理を行って完全にタンパク質を消化し、そして、得られた消化物をカラムで脱塩処理し、nano−HPLC/MS/MS分析に用いる方法が報告されている(非特許文献1)。しかし、実用的に、高感度且つ高精度に大規模タンパク質定量測定を行うためには、未だ課題が多い。
特許5468073号
Kim et al. Journal of Proteome Research 2006, 5, 3446-3452 Matsumoto M. et al. Nature Methods 2017, 3, 251-258
例えば、非特許文献2に示された前処理方法では、タンパク質変性剤によってタンパク質を変性し、メタノール/クロロホルム抽出による精製後、タンパク質消化酵素で該変性タンパク質を消化し、還元アルキル化することが示されているが、アルキル化剤の不活化処理工程が必須であり、また、多種類の微量なタンパク質を同時に分析するためには、十分にタンパク質が消化されていないことが問題であると考えた。また、非特許文献1に示された前処理方法でも、2回のタンパク質消化酵素によるタンパク質消化工程の間に、還元アルキル化処理を行っており、完全変性条件でない中での酵素処理時間が長いこと、および非特許文献2同様にアルキル化剤の不活化処理工程が必須である点に、問題があると考えた。
そこで、本発明は、質量分析計を用いて高感度且つ高精度なタンパク質分析を可能とす
る前処理方法、特に、生体試料中の微量なタンパク質を測定するための前処理方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、質量分析計による大規模タンパク質定量分析において、下記の工程(i)〜(iii)を行うことにより、生体試料中の微量なタンパク質を高感度且つ高精度に測定可能な前処理ができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]質量分析計を用いたタンパク質分析のためのタンパク質含有試料の前処理方法であって、
(i)タンパク質含有試料を還元アルキル化処理し、その後、タンパク質含有画分を精製する第1の工程、
(ii)前記第1の工程で得られたタンパク質含有画分を、実質的にタンパク質変性剤を含まない緩衝液中で超音波処理する第2の工程、
(iii)前記第2の工程で得られた超音波処理物を、タンパク質消化酵素で分解処理する第3の工程、
を含む方法。
[2]前記試料が、生体試料である、[1]に記載の方法。
[3]前記第2〜第3の工程が、吸着抑制剤の存在下で行われる、[1]〜[2]のいずれかに記載の方法。
[4]前記質量分析計を用いたタンパク質分析が、大規模タンパク質定量分析である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記質量分析計を用いたタンパク質分析において、2種またはそれ以上のタンパク質が同時に測定される、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、例えば、試料溶液中のタンパク質を還元アルキル化処理後、精製し、超音波処理によるタンパク質の分散処理および酵素消化を行うため、アルキル化剤の不活化処理を行わないことが可能となった。そのため、前処理方法が簡略化されることにより、作業工程が少ないことでタンパク質のロスを失くすことや作業時間・作業ミス・試薬コストの抑制を達成できる。また、実質的にタンパク質変性剤を含まない緩衝液中で超音波処理と酵素消化を行うことによって、タンパク質の消化不良が改善され、高い検出率を達成できる。更に、酵素処理時間が短縮され、質量分析計を用いたタンパク質分析の高感度化・高精度化だけでなく、前処理方法全体にかかる時間の短縮や作業の容易化やコストの抑制、試料(タンパク質)の劣化の抑制を達成できる。従って、本発明によれば、前処理工程での試料中のタンパク質の損失低減と消化効率が向上することにより、検出感度の向上や定量再現性の向上を達成し、且つ、前処理工程にかかる時間が短くなることにより、作業日数の短縮や試料の安定性の向上を達成することができるため、質量分析計を用いて、簡便に、高感度且つ高精度にタンパク質を分析できる。特に、生体試料中の微量なタンパク質の高感度且つ高精度な分析が可能となるため、大規模タンパク質分析、特に大規模タンパク質定量分析に高い効果がある。
DDA(Data−dependent acquisition)法にて培養細胞由来タンパク質消化物を測定した際の各消化ペプチドのイオン強度を比較した結果を示すグラフ。縦軸:本発明での前処理サンプル(実施例2)、横軸:希釈変性剤溶液中(超音波処理なし)で酵素消化を行い、後に還元アルキル化処理をしたサンプル(比較例)。 MRM(Multiple Reaction Monitoring)法にて培養細胞中のPyruvate kinase muscle (PKM)を測定した際のクロマトグラムを示す図。左)本発明での前処理サンプル(実施例2)、右)希釈変性剤溶液中(超音波処理なし)で酵素消化を行い、後に還元アルキル化処理をしたサンプル(比較例)。 吸着抑制剤としてPEG20000を添加した場合(左:PEG)と、PEG20000を添加していない場合(右:water)の各条件で調製したサンプルを、調製直後にLC−MS/MS測定した結果を示す図。10℃で4日間保管した後再度LC−MS/MS測定し、検出されたタンパク質ピーク強度の低下を検証した。(Relative Intensity=4日後ピーク強度/調製直後ピーク強度として算出)。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
本発明において、分析や測定は、特に断りが無い限り同義であり、定性及び定量の両方を意味する。
本発明の方法は、質量分析計を用いたタンパク質分析におけるタンパク質含有試料の前処理方法である。本発明の方法は、(i)タンパク質含有試料を還元アルキル化処理し、その後、タンパク質含有画分を精製する第1の工程、(ii)前記第1の工程で得られたタンパク質含有画分を、実質的に変性剤を含まない緩衝液中で超音波処理する第2の工程、(iii)前記第2の工程で得られた超音波処理物を、タンパク質消化酵素で分解処理する第3の工程、を含む。
本発明で使用可能な「タンパク質含有試料」とは、タンパク質を含む試料であれば特に限定しない。例えば、生体由来のタンパク質を含む試料でもよいし、人工的に合成したタンパク質を含む試料でもよい。また、本発明で使用可能な「生体試料」とは、生体に由来する成分を含む試料をいう。生体試料としては、例えば、全血、血漿、血清、尿、便、唾液、喀痰、精液、涙、鼻汁;膣、鼻、直腸、咽頭、および尿道のスワブ、排出物、および分泌物、ならびに細胞、組織(例えば、バイオプシー組織試料)等が挙げられる。生体から直接得られたものでもよいし、in vitroで調製されたものでもよい。生体としては、タンパク質を有する生体であれば特に限定せず、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ヒツジ、およびウマ等が挙げられる。
本発明で測定可能なタンパク質は、特に制限されない。なお、「タンパク質」には、ペプチド、オリゴペプチド、あるいはポリペプチドと呼ばれる態様も包含される。タンパク質の分子量は、タンパク質消化酵素で消化できる限り大きさの上限は無く、下限としては、分析に使用できる大きさであればよく、例えば、好ましくは100Da以上であってよく、より好ましくは500Da以上であってよい。タンパク質は、生体由来のタンパク質であってもよく、生体外由来のタンパク質であってもよい。生体外由来のタンパク質としては、例えば、生体に投与された医薬品に含有されるタンパク質成分やその代謝物等が挙げられる。タンパク質はいずれの局在様式を示すものであってもよく、例えば、膜由来のタンパク質であってもよく、細胞質由来のタンパク質であってもよく、細胞外由来のタンパク質であってもよい。タンパク質は、単独で測定されてもよく、2種またはそれ以上が同時に測定されてもよい。本発明によれば、微量なタンパク質を高感度且つ高精度に測定できることから、1種類のタンパク質を高感度且つ高精度に測定できるだけでなく、複数のタンパク質を同時に測定することができる。例えば、多種類のタンパク質を含有する生体試料を用いて、大規模なタンパク質分析に使用することができる。更に、高感度且つ高精度に、同定だけでなく、定量も行えることから特に好ましい。
本発明の前処理方法について、細胞を試料とした場合を例として以下に説明するが、これは利用可能な態様の一例であり限定解釈されない。
(i)還元アルキル化処理と精製工程
本発明の前処理方法における還元アルキル化工程としては、細胞抽出物に還元アルキル化処理を行い、その後、タンパク質含有画分の精製を行うことが挙げられる。
細胞抽出物は、一般的なタンパク質の分析法で使用可能な公知の方法に従って調製することができる。例えば、細胞を溶解液で可溶化したものが挙げられる。溶解液としては、例えば、尿素や塩酸グアニジンに代表されるカオトロピック試薬やSDS、CHAPS、TritonX−100などの界面活性剤、Tris−HCl等を含んだバッファーを使用することが挙げられる。例えば、培養細胞ペレットに該溶解液を加え、攪拌および超音波処理を施すことで、細胞中成分を可溶化させ目的タンパク質成分を含んだ細胞抽出物とすることができる。
還元アルキル化処理は、還元処理とアルキル化処理を行うこと、好ましくは還元処理後にアルキル化処理を行うことを意味するが、公知の方法に従って行うことができる。還元処理に使用される還元剤はタンパク質含有試料の還元に使用されるものであれば特に限定されないが、TCEP(Tris 2−carboxyethyl)phosphine
hydrochloride)あるいはDTT(Dithiothreitol)などが挙げられる。アルキル化処理に使用されるアルキル化剤はタンパク質含有試料のアルキル化に使用されるものであれば特に限定されないが、2−iodoacetamideなどが挙げられる。
還元アルキル化処理は、例えば、終濃度5mmol/LとなるようにTCEPあるいはDTTなどの還元剤を加え、37℃で30分から数時間還元処理した後、終濃度10mmol/Lとなるように2−iodoacetamide等に代表されるアルキル化剤を加え30分アルキル化処理をすることが挙げられる。
還元アルキル化処理後のタンパク質含有画分の精製は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、アセトン沈殿や、メタノール/クロロホルム抽出、TCA沈殿、およびこれらを組み合わせた手法、あるいは精製カラムに代表される固相抽出法が挙げられる。特に沈殿精製法は、非特異的に多くのタンパク質を沈殿させることが出来るため、タンパク質の酵素消化効率や質量分析計を用いたタンパク質分析に悪影響を与えるアルキル化剤を簡単に除くことができるので好ましい。また、タンパク質をアルキル化後すぐに沈殿として取り出すため、アルキル化剤不活化処理にかかる試薬や時間を省略できるので好ましい。さらに本発明の前処理方法では、最初に細胞抽出液中のタンパク質に還元アルキル化工程を行いタンパク質のジスルフィド結合を切断した完全変性条件とするため、その後の酵素消化における消化効率を最大限に高めることができるので好ましい。還元アルキル化処理の前にタンパク質を事前に精製する必要もなく、少なくとも1回のタンパク質精製を行えば良いため、該タンパク質分析に使用できるタンパク質のロスが抑えられ(タンパク質の高い回収率)、また、作業量が少ないことから作業上のミスが減り、また、分析の再現性を向上することができるので好ましい。
(ii)超音波処理工程
本発明の前処理方法における超音波処理工程としては、前記還元アルキル化工程で精製処理されたタンパク質含有画分を、実質的にタンパク質変性剤を含まない緩衝液中で超音波処理することが挙げられる。実質的にタンパク質変性剤を含まないとは、タンパク質変性剤が全く含まれていないか、含まれていたとしてもタンパク質変性に必要な濃度未満であることを意味する。
超音波処理の条件は、タンパク質の沈殿が分散可能な条件であれば良く、当業者であれば公知の情報から適宜設定することができるが、例えば、冷温下(例えば、4〜15℃)
で、超音波破砕機(例えば、Bioruptor (Diagenode社製))で行うことが挙げられる。超音波破砕機の条件は、例えば、300W以上で、5〜600秒、好ましくは10〜400秒、更に好ましくは30〜300秒間超音波処理することが挙げられ、また、5〜30秒の超音波及び5〜30秒のインターバル休止をセットとして、複数回、間欠的に繰り返すことも挙げられる。間欠的に複数回繰り返すことによって、タンパク質への過度なダメージを生じさせ難い状態で、タンパク質の沈殿の分散状況を確認しながら超音波処理することができるので好ましい。
使用可能な緩衝液としては、公知の緩衝液から、適宜その種類と濃度を選択して使用することができるが、例えば、次の酵素処理工程で使用可能な緩衝液が好ましい。例えば、50mmol/L ammonium bicarbonate pH8、50mmol/L Tris pH8、50mmol/L triethylammonium bicarbonate(TEAB) pH8.5等が挙げられる。これらを用いることにより、後の質量分析を用いたタンパク質の分析に使用可能な緩衝液を選択できるので好ましい。タンパク質の分散効果が高く、又、実質的にタンパク質変性剤を含まないことから、次の分解処理工程での酵素消化効率を最大限に高めることで、質量分析計を用いたタンパク質分析において、同時に多種類のタンパク質を高感度且つ高精度に分析することができるので好ましい。
また、緩衝液には、例えば、polyethylene glycol(PEG)や、dimethyl sulfoxide(DMSO)、Acetonitril(ACN)Anionic Acid Labile Surfactant I(AALSI)等の吸着抑制剤を添加することができる。容器へタンパク質の吸着を抑制できることから、長期間保存した試料でも高感度に測定することができるので好ましい。当業者であれば、公知のタンパク質の容器への吸着を抑制する物質を、適宜選択して使用することができる。
(iii)分解処理工程
本発明の前処理方法における分解処理工程としては、前記超音波処理工程で処理された試料を、タンパク質消化酵素による分解処理によって、質量分析計で分析可能なペプチド断片とする。該分解処理は、公知の方法に従って行うことができる。例えば使用する酵素としてはトリプシン、キモトリプシン、Lys−C、Asp−N、Glu−Cなどがあげられ、好ましくはトリプシンおよびLys−Cである。分解インキュベーションの温度条件は、15℃から90℃の条件、好ましくは20℃から50℃の条件、更に好ましくは37℃の条件であり、また、インキュベーションの時間は、30分以上、好ましくは2時間以上、更に好ましくは3時間が挙げられる。
分解処理した試料は、そのまま、あるいは脱塩カラムなど公知のタンパク質精製を追加して質量分析計を用いたタンパク質分析に使用することができる。また、使用するタンパク質分析法に応じて、タンパク質標識を行うことができる。例えば、特許文献1記載のiTRAQやmTRAQ(AB Sciex製)や、TMT(Thermo製)などが挙げられる。前記超音波処理工程と前記分解処理工程の一連の作業で、連続的に各種タンパク質分析に応じた緩衝液を使用することが可能であるため、緩衝液の置換やタンパク質精製等を目的とした工程を失くすことができる。試料のロスを抑制し、また、作業工程を簡略化できることから作業効率が高いので好ましい。
本発明の前処理方法を行った試料は、質量分析計(MS)を用いたタンパク質分析に使用することができる。また、液体クロマトグラフ(LC)装置と質量分析計(MS)を組み合わせたタンパク質分析に使用することもできる。液体クロマトグラフ装置と質量分析計は、互いに直列に接続されていてもよいし、それぞれ独立した装置であってもよい。例
えば、液体クロマトグラフ装置と質量分析計を直列につないで構成された、LC−MSシステムを用いることができるLC−MSシステムを用いることにより、液体クロマトグラフィーにより分離された成分を、続けて質量分析することができる。当業者であれば、公知の質量分析計を用いたタンパク質分析から、適宜選択し設計して使用することができる。
本発明で利用可能な質量分析計を用いたタンパク質分析としては、例えば、ペプチドマスフィンガープリンティング法によるタンパク質同定や、MRM(Multiple Reaction Monitoring)法による個別あるいは複数分子の定量分析、ショットガン分析法に代表されるDDA(Data−dependent acquisition)分析、さらにはSWATHに代表されるDIA(Data−independent acquisition)分析などが挙げられる。特にMRM、DDA、DIA等については、試料に含まれる多種類のタンパク質を同時に高感度且つ高精度に測定することが可能となるため好ましい。一般的にMRM、DDA、DIA等は、大規模タンパク質分析法・大規模タンパク質定量分析法としても知られている。
質量分析計は、公知の質量分析計が使用できるが、特にLC装置に直列に接続することが可能なものは簡便に使用できるので好ましい。用いられる質量分析計は、1つであってもよく、2つまたはそれ以上であってもよい。2つまたはそれ以上の質量分析計は、直列に接続して用いることができる。すなわち、LC−MSシステムは、例えば、直列に接続された2つまたはそれ以上の質量分析計を備える、LC−MS/MSやLC−MS/MS/MSであってよい。LC−MS/MSとして、具体的には、例えば、QTRAP6500(AB Sciex社製)が挙げられる。
質量分析計における検出方式としては、例えば、イオントラップ型、四重極型、四重極タンデム型、イオントラップ四重極ハイブリッド型、セクター型、飛行時間型、および四重極飛行時間ハイブリッド型が挙げられる。質量分析計におけるイオン化法としては、エレクトロスプレー法(ESI)、大気圧化学イオン化法(APCI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、高速原子衝撃法(FAB)、光イオン化法(APPI)、および音速イオン化法(SSI)が挙げられる。検出方式やイオン化法は、測定対象のタンパク質の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
タンデム四重極型質量分析計(MS/MS、MS/MS/MSなど)は、マスフィルターとして機能する四重極(Q1)、衝突(コリジョン)セルとして機能する四重極(Q2)、およびマスフィルターとして機能する四重極(Q3)を直列に配置した質量分析計である。タンデム四重極型質量分析計によれば、診断検査に必要な感度を得るため、イオン透過の最適化を行うこともできる。すなわち、Q1およびQ3は、高周波電圧と直流電圧をかけることでマスフィルター(質量分離器)として機能し、電圧および振動数を調節することで、特定の質量範囲にあるイオンだけを通過させることができる。
具体的には、例えば、四重極(Q1)において、イオン化により生じた複数のイオンから、イオンの質量電荷比(m/z)に基づいて、必要とする感度に到達可能な特定の親イオン(プリカーサーイオン)を選択する。次いで、選択された親イオン(プリカーサーイオン)を、コリジョンセル(Q2)内でアルゴン等の不活性ガスと衝突させることで、娘イオン(プロダクトイオン)を生成させる(衝突誘起解離:CID)。次いで、特定の質量電荷比(m/z)を有する娘イオン(プロダクトイオン)を、四重極(Q3)で選択的に検出する。検出されたプロダクトイオンとプリカーサーイオンとの質量の差等から分析対象の構造情報を引き出すことができる。
従って、タンデム四重極型質量分析計を使用する場合、プリカーサーイオンならびにプ
ロダクトイオンの選択を繰り返すことにより、生体試料中に含まれる夾雑物と測定対象のタンパク質を分離しつつ、測定対象のタンパク質を高感度に測定することができる。
また、MS/MS/MSのようなタイプの質量分析計を使用する場合、選択したプロダクトイオンがさらに開裂して生成する二次開裂イオン(セカンドプロダクトイオン)を選択的に検出することにより、測定対象物質をさらに絞り込み、測定感度を向上させることもできる。
質量分析により得られるイオンの検出比率(イオン比)は物質固有の値であるため、標準品の分析により得られたイオン比と生体試料の分析により得られたイオン比を比較して、生体試料に含まれるタンパク質を同定することができる。
また、Q1および/またはQ3において、2種またはそれ以上のイオンを別チャンネルで選択して通過させることにより、生体試料中に含まれる2種またはそれ以上のタンパク質をまとめて分析することができる。具体的には、例えば、コリジョンセル(Q2)内で生成した2種またはそれ以上のプロダクトイオンをQ3にて別チャンネルで選択的に検出することにより、イオン化の際に同一の質量電荷比(m/z)のプリカーサーイオンを生成する2種またはそれ以上のタンパク質をまとめて分析することができる。
質量分析の結果に基づき、測定対象のタンパク質を定量することができる。タンパク質の定量は、常法により行うことができる。具体的には、例えば、検出された測定対象のタンパク質のピーク面積値を濃度既知の内部標準物質のピーク面積値で除したピーク面積比に基づいて、測定対象のタンパク質を定量することができる。
LC装置、質量分析計、それらに備わる各種要素は、上記例示した分析条件を参照して、測定対象のタンパク質の種類や夾雑物の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、下記実施例は本発明について具体的な認識を得る一助としてのみ挙げたものであり、これによって本発明の範囲が何ら制限されるものではない。
実施例1:本発明の前処理法によるタンパク質大規模測定手順
特に断りのない限り、以下の手順によって、以降の実施例を実施した。
1.2×10個の培養細胞凍結ペレットに溶解液(7M Urea,2% SDS, 100mM Tris-HCl pH8.8)200μLを加え、攪拌する。
2.超音波(10℃、10分)処理し、固形成分を可溶化させる。
3.200μLの冷水を添加し、攪拌する。
4.超音波(10℃、10分)処理する。
5.遠心分離(4℃ 15000G 5分)し、不溶化物を除去する。
6.BCAアッセイにより粗タンパク質濃度を測定する。
7.粗タンパク質100μg分を分注する。
8.還元剤(200mM TCEP)を5μL添加後、37℃で30分インキュベーションする。
9.アルキル化剤(400mM 2-Iodoacetamide)を5μL添加後、遮光して室温で30分インキュベーションする。
10.氷冷したアセトン1000μLを添加し、攪拌する。
11.−30℃で30分静置する。
12.遠心分離(4℃ 15000G 5分)する。
13.上澄を除去し、氷冷90%アセトンで沈殿を洗浄する。
14.遠心分離(4℃ 15000G 5分)する。
15.上澄を除去し、氷冷90%アセトンで沈殿を洗浄する。
16.遠心分離(4℃ 15000G 5分)する。
17.上澄を除去し、100μLの50mM triethylammonium bicarbonate, 0.001% polyethylene glycol 20000溶液を添加する。
18.超音波(10℃、30秒超音波及び30秒インターバル休止のセットを5回)処理する。
19.1μLのLysCあるいはTrypsin溶液(1mg/mL)を加え、37℃で3時間インキュベーションする。
20.1μLのTrypsin溶液(1mg/mL)を加え、37℃で3時間インキュベーションする。
21.BCAアッセイにて消化ペプチド濃度を測定する。
22.LC−MS/MS測定により各タンパク質定量値を算出する。
この前処理法により、アルキル化試薬の不活化剤が不要となり、これら試薬の除去のための精製や脱塩処理が不要となるため、時間的、コスト的に有利となり、データ再現性の向上も可能となった。また還元アルキル化後タンパク質を変性剤なしで吸着抑制剤添加環境で消化することで、消化効率の改善とタンパク質検出率および感度の向上も可能となった。
実施例2:消化効率の向上
実施例2及び比較例は、実施例1の方法中、工程21と工程22の間に、LC−MS/MSによるDDAまたはDIA分析、あるいはmTRAQラベルに代表される同位体標識を行い、MRM分析を実施した。
一般的にタンパク質の酵素消化では、タンパク質精製後に尿素や塩酸グアニジン、界面活性剤などに代表されるタンパク質変性剤を含む溶液中で再溶解させ、これを希釈することによって消化酵素の活性を落とさない条件下で酵素消化することが多い。しかし実際には溶液を希釈しても残存する変性剤が消化酵素の活性に少なからず影響し、消化不良が生じるとの知見を得た。また、酵素消化時にはタンパク質のジスルフィド結合を切断し、アルキル化処理をした完全変性条件での消化が望ましいと考えた。
HeLa細胞を使用し、実施例1の方法に従い、調製したタンパク質消化物をDDA分析およびMRM分析し、還元アルキル化後、タンパク質変性剤なし条件化での消化効率の効果について検証した。
比較例として、非特許文献2の手法、即ち、実施例1の8,9を20の後に実施し、17の代わりに875mM 塩酸グアニジン, 62.5mM triethylammonium bicarbonatey溶液で再溶解し酵素消化を行った。なお、塩酸グアニジンを入れた場合、タンパク質は可溶化するので、超音波工程18を実施していない。
結果を図1に示す。DDA分析にて各前処理産物をそれぞれ三回測定した場合の比較では、本発明を適用することにより、酵素消化不良(missed cleaved)を含むペプチドの検出強度が減少し、完全消化(Complete digested)ペプチドの検出強度が増加した。この結果から本発明の前処理により消化不良を改善できることが示された。
MRM法による比較では、変性剤中消化サンプル(右)では目的タンパク質の検出は出来なかったが、図2に示すように、本発明前処理によりPKM由来の明瞭なピークが観察され、タンパク質の同定と定量をすることが可能となった。
DDA法、MRM法の結果ともに、最初に還元アルキル化を行い完全変性条件としたタンパク質に対し、変性剤を含まないバッファー中で酵素消化を行うことによって、消化効率が向上したためと考えられる。
実施例3:吸着抑制剤添加
一般的にLC−MS/MSなど、質量分析を用いたタンパク質分析では、通常のELISAなどの抗原抗体反応を使用した分析法に比べ、測定に時間がかかることが多い。そのためサンプル前処理を行ってから分析までの間にサンプルを入れているバイアル壁面への吸着が起こり、分析結果に影響を及ぼす場合がある。また前処理時にもマイクロチューブなど樹脂面への吸着が生じることが想定される。ここでは実施例1に従い、超音波処理工程から吸着抑制剤としてPEG20000を添加することによって、その吸着抑制効果の検証を行った。そのため、PEG20000を添加しない条件下で前処理したものを準備した。両サンプルとも調製直後の試料をLC−MS/MS測定し、10℃で4日間保管した後、再度測定することで調製直後からのタンパク質検出強度の変化量を調べた。
検出されたタンパク質をRetention time(LC保持時間)毎に分類し、分子の疎水性度と吸着ロス率に関してみたところ、図3に示すように、PEG20000なし(water)での前処理サンプルでは特に疎水性度が高い分子群(Retention Time 25min以降)において大幅なロスが生じているが、PEG20000添加前処理(PEG)ではほとんど影響がなかった。したがって、前処理過程からPEG20000を添加することによりタンパク質の吸着ロスを軽減し、検出感度や定量再現性向上を達成することが可能となった。
本発明によれば、実用的に、大規模タンパク質定量測定を行うことが可能となり、疾患に関連するタンパク質の網羅解析やその解析に基づく医薬品開発等に使用することができる。

Claims (5)

  1. 質量分析計を用いたタンパク質分析のためのタンパク質含有試料の前処理方法であって、
    (i)タンパク質含有試料を還元アルキル化処理し、その後、タンパク質含有画分を精製する第1の工程、
    (ii)前記第1の工程で得られたタンパク質含有画分を、実質的にタンパク質変性剤を含まない緩衝液中で超音波処理する第2の工程、
    (iii)前記第2の工程で得られた超音波処理物を、タンパク質消化酵素で分解処理する第3の工程、
    を含む方法。
  2. 前記試料が、生体試料である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記第2〜第3の工程が、吸着抑制剤の存在下で行われる、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
  4. 前記質量分析計を用いたタンパク質分析が、大規模タンパク質定量分析である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記質量分析計を用いたタンパク質分析において、2種またはそれ以上のタンパク質が同時に測定される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
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